説明

苗移植機

【課題】本発明の課題は、畔際近くの苗植付作業に際し、1株分の苗を植え付けた後、機体が発進するように構成することにより、操作性の向上並びに作業能率の向上を図る。
【解決手段】本発明は、機体の前後進制御を司る前後進操作手段(24)と苗植付部の昇降制御を司る植付昇降操作手段(28U,28D)を備え、植付昇降操作手段(28U,28D)により苗植付部を苗植付位置まで下げにし、前後進操作手段(24)により機体を前進域に操作すると、苗植付部の駆動により1株分の苗を植え付けた後、機体が発進するよう制御可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圃場に苗を植え付ける苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示された技術は、枕地で機体後部を畔際に最も近づけて、変速レバーを機体を前進させない状態で苗植付部のみを駆動させる操作領域にし、別の操作装置を操作して植付クラッチを「入」にすると、機体は停止したままで苗植付部へ動力が伝達されて植付作業が開始されるものであり、そして、作業者は後方をみて畔際に苗を1株分植え付けた時に、前記変速レバーによって苗植付部を駆動させながら機体を前進させる操作領域に切り替えて機体を前進させると、そのまま通常の植付作業が行えるようになっている。
【特許文献1】特開2005−198519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術のものでは、作業者が畔際に1株分の苗を植え付けたことを見届けてから、変速レバーの再操作によって機体を前進させなければならず、操作が煩わしくなる問題があった。
【0004】
本発明の課題は、畔際近くの苗植付作業に際し、1株分の苗を植え付けた後、機体が発進するように構成することにより、操作性の向上並びに作業能率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、機体の前後進制御を司る前後進操作手段(24)と苗植付部(10)の昇降制御を司る植付昇降操作手段(28U,28D)を備え、植付昇降操作手段(28U,28D)により苗植付部(10)を苗植付位置まで下降させ、前後進操作手段(24)により機体を前進域に操作すると、苗植付部(10)の駆動により1株分の苗を植え付けた後、機体が発進するよう制御する制御装置を設けた苗移植機とする。
【0006】
枕地で苗植付部(10)の後部を畔際に最も近づけた状態で、植付昇降操作手段(28U,28D)の操作で苗植付部を苗植付位置まで下降させ、前後進操作手段(24)の操作で機体を前進域に操作すると、植付当初は機体は停止したままで苗植付部のみ動力が伝達されて1株分の苗が植え付けられる。そして、この1株分の苗植付後は、1株苗植付検出結果に基づき、走行クラッチの「入」作動により機体が発進し、走行しながらの植付作業が開始される。
【0007】
請求項2記載の本発明は、前記植付昇降操作手段(28U,28D)の操作で苗植付部(10)を苗植付位置まで下降させると、苗植付位置検出手段(31)の検出結果に基づき、植付クラッチ(16)を入りにし苗植付部(10)の駆動により1株分の苗を植え付ける構成とした請求項1記載の苗移植機とする。
【0008】
苗植付部(10)を下げ操作すると、苗植付位置検出手段(31)の検出結果に基づき、植付クラッチ作動手段(22)を介して苗植付部(10)への植付クラッチ(16)が自動的に「入」となり、苗植付伝動軸(15)の所定回転により1株分の苗が植え付けられる。従って、苗植付部を植付位置まで下降操作するだけで、直ちに苗植付伝動軸の所定回転により1株分の苗を植え付けるので、機体を前進域に操作してから発進するまでの待ち時間がなくなり、作業が迅速に行え能率が向上する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の本発明によれば、機体後進後、苗植付部を下げにし、機体を前進域に操作するだけの簡単な操作で、苗植付部の駆動により1株分の苗を植え付けた後、機体が発進し、通常の走行しながらの植付作業を開始することができ、畔際の植え付けを可能にしながら操作性の向上並びに作業能率の向上を図ることができるものとなった。
【0010】
請求項2に記載の本発明によれば、請求項1記載の発明効果を奏するものでありながら、苗植付部を植付位置まで下降操作するだけで、直ちに苗植付部の所定回転により1株分の苗を植え付けるので、機体を前進域に操作してから機体が発進するまでの待ち時間がなくなり、作業が迅速に能率よく行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、苗移植機の一例として施肥装置を装備した乗用型田植機を示すものであり、この車体1の略中央に駆動源であるエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケ−ス2内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪4及び後輪5とに伝えるようにしている。エンジンEの上方に運転席6が設置され、運転席6の前方には、各種操作機構を内蔵するフロントカバー3や前輪4,4を操舵するステアリングハンドル7が装備され、更に、車体1の後部には苗植付部10が昇降リンク機構9を介して装着され、この苗植付部10と車体1との間には苗植付部を上下に昇降する油圧昇降シリンダ11が装備されている。
【0012】
苗植付部10は、本例では4条植の構成で、植付条数分に仕切られた苗載せ面に土付きのマット状苗が載置される苗載タンク12と、苗載タンク上の苗を圃場に植え付ける植付条数分の植付装置13と、圃場面上を滑走して整地するフロート14等からなり、前記油圧昇降シリンダ11の伸縮によって昇降させ、非作業位置に上昇したり、対地作業位置(対地植付位置)に下降したりすることができる。また、苗植付部10への動力伝達は、前記エンジンEから植付伝動軸15を介して行われ、この植付伝動軸15の伝動を入り切りする植付クラッチ16を介して行われる。
【0013】
エンジンEの回転動力は、ベルト伝動装置17及びHST(油圧式無段変速装置)18を介してミッションケース2内のミッション装置に伝達される。ミッションケース内に伝達された回転動力は、該ケース内のミッション装置により変速された後,走行動力と外部取出動力とに分岐して取り出される。そして、走行動力は、一部が走行クラッチ19を介して前輪ファイナルケース20に伝達されて前輪4,4を駆動すると共に、残りが前記走行クラッチ19を介して左右後輪伝動軸21a,21a及び後輪ギヤケース21内に伝達されて後輪5,5を駆動する構成としている。なお、前記外部取出動力は、前記植付クラッチ16を介して植付伝動軸15から苗植付部10へ伝動され、また、施肥装置68にも伝達されるように連動されている。
【0014】
植付クラッチ16は、植付クラッチモータ22の作動によって入り切りされ、走行クラッチ19は、走行クラッチモータ23の作動によって入り切りされるようになっている。
HST18は、運転席6の右側に設置される変速レバー24によって変速操作される。この変速レバー24を中立位置から前側へ操作することによって前進高速状態とし、中立位置から後側へ操作することによって後進高速状態とし、変速レバー24の傾斜角度に応じて変速操作モータ26の作動によりトラニオン軸を駆動して、前後進速度を増減速制御することができる。
【0015】
変速レバー24のグリップ部には、苗植付部10を昇降制御する上昇操作スイッチ28Uと下降操作スイッチ28Dとが設けられ、操縦者は、この上昇操作スイッチ28U又は下降操作スイッチ28Dを操作することにより、制御部29の植付部昇降手段にて昇降用電磁油圧バルブ30を切り替えて油圧昇降シリンダ11を伸縮し、苗植付部を車体に対して上下に昇降制御する構成としている。センタフロート14cには、苗植付部が圃場の苗植付面に接地するまで下降したことを検出する苗植付位置検出手段としてフロートセンサ31が設けられている。また、植付クラッチ16と苗植付部10との間における植付伝動軸15の途中部には、植付伝動軸の回転位置を検出する植付伝動軸回転位置センサ32が設けられている。
【0016】
変速レバー24の操作位置を検出する変速レバーセンサ25の出力、下降操作スイッチ28DのON操作の出力、苗植付部の下げ操作によって苗植付部が苗植付位置まで下降したことによる位置検出用フロートセンサ31の出力、植付伝動軸の所定の回転位置を検出する植付回転位置センサ32の出力が制御部29に入力されるようになっており、そして、制御部29の出力側に設けられた変速操作モータ26、走行クラッチモータ23、昇降用電磁油圧バルブ30、植付クラッチモータ22が制御部への入力に対応して作動し、図5(a),(b)のフローチャート図で示すように制御される。
【0017】
植付クラッチモータ「入」状態で、変速レバーセンサ値「後進」の場合は、植付クラッチ「切」状態で苗植付部を上昇させた状態で機体を後進させる。そして、枕地などでは後部の苗植付部10が畔際に最も近づいた状態位置まで機体を後進させた後、下降操作スイッチ28Dの下げ操作で苗植付部をなえ植付位置まで下降させ、フロートセンサ31の植付位置検出により植付クラッチモータ22の出力で植付クラッチ16を「入」状態とする。そこで、変速レバー24の操作位置が中立、つまり、変速レバーセンサ25によるレバーセンサ値が中立の場合には、走行クラッチモータ23の出力により走行クラッチ19を「切」にする。そして、植付伝動軸15の一定回転により1株分の苗植え付けが完了するまで植付伝動軸回転位置センサ32が変速操作モータ26を所定の前進域に補足出力する。このように機体が停止した状態での1株分の苗植付後は、変速レバー24の前進域の操作で、走行クラッチ19の「入」作動により機体が発進し、走行しながらの植付作業を行うことができる。
【0018】
次に図6〜図7に示す実施例について説明すると、畔クラッチ爪50のスプロケット51の位置をシャフト52の中間部位にずらし、畔クラッチ入りの状態で若干オフセットさせた状態におき、畔クラッチ切り状態では同等にオフセットさせる構成としている。現行(従来)では畔クラッチ切り状態(図6のb参照)でオフセットが大きく、スプロケットが軸端に付いているため、シャフトとの接触面が少なくてオフセット量が大きく、チエン53に対設するチエン張り用板バネの荷重も増大するため、シャフトとのかじりの大きな要因となっている。本例では、スプロケットの位置をクラッチ入り状態でオフセットしておくと、クラッチ切りの状態(図7のb参照)でもシャフトとの接触面を広くできることと、チエンが張られることによる板バネ荷重が増大することもなくなって、シャフトの焼き付きを防止することができる。
【0019】
図8に示すように、ロータリ式植付杆を伝動チエンで駆動する構成のものにおいて、この伝動チエン55の弛み側に対設するチエン張り用板バネ54は、波型に構成してあり、この波型山部のピッチ間の距離がリンク56に対し同位相にならないように配置構成している。つまり、この波板バネの二つの山部54a,34bのうち、一つの山部54aはリンク56の対応部に位置させ、他の一つの山部54bはリンクとリンクとの連結部(連結ピン57)に対応位置させる構成としている。従来構成では、ごく低速時にチエンリンクの外周形状によりロータリ植付杆の回転がゴツゴツしてスムースな回転が期待できないものであったが、波板バネをリンクの対応部とリンクとリンクとの連結部とに対応位置させることによって植付杆の回転がスムースに行える。
【0020】
図1に示すように、整地フロート14の前側に枕地等の荒れた圃場面を代掻き整地する整地ロータ58を設けたものにおいて、図9に示す実施例では、整地ロータ58を駆動する駆動ケース59の前方に麦ワラ等のワラ屑巻き込みを防止する舟型レーキ60を設けている。この舟型レーキ60は、前部をV字状の舟型形状とし、前方のワラ屑を左右に分流しながら整地ロータ58部に導くように構成している。また、レーキ底面は水平状にして整地性の向上を図るようにしている。なお、図中、61はロータ駆動用入力軸、62はロータ駆動用出力軸を示す。
【0021】
また、図10及び図11に示す実施例では、駆動ケース59の下方に二股レーキ63を配置し、前方のワラ屑を左右側方に向けて除去するように構成している。二股レーキ63は、基部(上端)が取付ステー65に取り付けられた上下方向に弾性変位可能な弾性支持杆64の先端(下端)に固着され、弾性支持杆の途中部が前記取付ステー66に設けられた複数段の横溝X1,X2,X3に係止保持されるようになっている。上段の横溝X1は二股レーキの収納位置とし、中断及び下段の横溝X2,X3は上下位置の調節範囲であり、特に下段の横溝X3には上下方向の縦溝Yを設けることによってレーキの圃場面に対する順応性を高めるようにしている。レーキ収納時には、これを上方に持ち上げると、先端の二股接地部63aがロータ駆動用入力軸61を下から跨ぐように上昇することになり、高い位置での収納が可能となる。
【0022】
上記整地ロータは、畔際での機体旋回時に乱した圃場面(枕地)に作用させて代掻き整地するものであるが、枕地以外の圃場面では整地状態にあるため、整地ロータを必要とせず、上方に持ち上げて非作動状態に収納しておくことが望ましい。ところが、従来では整地ロータが収納されているか非かはオペレータに知らせる手段がなく、誤った操作をしたまま植付作業を開始してしまう問題がある。そこで、整地ロータの収納を検知するスイッチを設け、整地ロータの収納が確認できれば植付クラッチが入るようにし、ロータの収納が確認できない場合はブザー等でオペレータに知らせ、又は植付クラッチが入らないようにすることで、上記のような誤操作を未然に防止することができて便利である。
【0023】
乗用田植機のリヤステップ67上に装備された施肥装置68において、図2及び図13に示すように、上部に施肥ホッパ69を備えた施肥装置68が運転席6を挟む左右両側に配置された形態のものでは、運転席の背部には所定の空間が存在するため、この運転席の後方空間を利用して運転席背凭れ部6aの上端と略同じ高さの肥料補給ガイド杆70を設けることができる。この肥料補給ガイド杆70は、リヤステップ67から上方に立設してあると共に、途中部が側面視で略くの字状に屈曲形成され、基部がボルト・ナット71及びバネ座板72を介して横軸73回りで前後に起伏回動可能に締付固定されている。肥料補給時には、肥料補給ガイド杆を前方に倒して運転席の背凭れ部に接当させた状態にして保持し、ガイド杆上面と背凭れ部上面とにわたって肥料袋を載置することによって左右の施肥ホッパ内へ容易に補給案内することができる。肥料補給以外はガイド杆を後方へ起立状に押し戻すことによってリヤステップ上の空間を肥料置き場として確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】田植機の側面図
【図2】同上平面図
【図3】田植機各部の伝動経路図
【図4】制御ブロック回路図
【図5】制御フローチャート
【図6】畔クラッチ装置の従来例
【図7】畔クラッチ装置の本案例
【図8】チエン張り装置の要部側面図
【図9】ワラ巻き込み防止手段を備えた整地ロータ要部の斜視図
【図10】別手段のワラ巻き込み防止手段を備えた整地ロータ要部の斜視図
【図11】同上要部の斜視図
【図12】運転席と肥料補給ガイド杆との関係側面図
【図13】運転席と施肥装置との配置関係を示す要部の平面図
【符号の説明】
【0025】
1 車体
10 苗植付部
15 植付伝動軸
16 植付クラッチ
18 HST
19 走行クラッチ
22 植付クラッチモータ
23 走行クラッチモータ
24 変速レバー
25 変速レバーセンサ
26 変速操作モータ
28U 上昇操作スイッチ
28D 下降操作スイッチ
30 昇降用電磁油圧バルブ
31 フロートセンサ
32 植付回転軸位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の前後進制御を司る前後進操作手段(24)と苗植付部(10)の昇降制御を司る植付昇降操作手段(28U,28D)を備え、植付昇降操作手段(28U,28D)により苗植付部(10)を苗植付位置まで下降させ、前後進操作手段(24)により機体を前進域に操作すると、苗植付部(10)の駆動により1株分の苗を植え付けた後、機体が発進するよう制御する制御装置を設けた苗移植機。
【請求項2】
前記植付昇降操作手段(28U,28D)の操作で苗植付部(10)を苗植付位置まで下降させると、苗植付位置検出手段(31)の検出結果に基づき、植付クラッチ(16)を入りにし苗植付部(10)の駆動により1株分の苗を植え付ける構成とした請求項1記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−148377(P2010−148377A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327732(P2008−327732)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】