説明

茶から香気成分を回収する方法

茶原料から揮発性香気化合物を回収する方法が開示される。本方法は、水または水蒸気を接触させた茶原料から、0.5〜1.4絶対バールの圧力で香気成分を含んだ蒸気を発生させる工程、および、その後、香気凝縮物を回収するため、香気成分を含んだ蒸気を凝縮する工程を含む。本方法は、茶原料の単位乾燥質量あたりの、発生した香気凝縮物の質量が2よりも大きく、前記香気成分を含んだ蒸気は、1質量%以下の液体混入物を含むように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶の加工処理に関わる。特に、茶からの揮発性香気化合物の回収に関わる。
【背景技術】
【0002】
本明細書中における先行技術のいかなる議論も、そのような先行技術が広く知られているか、または当該分野における共通一般の知識の一部を形成すると認めるものであるとみなされるべきではない。
【0003】
香りは、茶における主要な官能特性のパラメータである。茶の香りは消費者の茶の選択に大きな影響を与え、茶の商業的価値となっている。それゆえ、茶の香りを改善することは、研究において継続中の主題である。
【0004】
大量の揮発性香気化合物が加工処理中に失われることが知られている。様々な方法、例えば水蒸気蒸留、溶媒抽出、超臨界二酸化炭素抽出などが、茶の加工処理中の揮発性香気化合物を回収するために用いられており、時として茶製品に戻し添加される。
【0005】
高温にさらされることで風味が落ち、香気品質の低下を引き起こすと考えられているため、低温、真空下で水蒸気蒸留が行われている(米国特許第4130669号、1998年、Procter & Gamble)。真空下での操作は高コストで複雑となる。
【0006】
従来の真空蒸留による香気成分の回収方法に関する問題点の1つは、揮発性香気化合物の劣化および/または貯蔵寿命または安定性の低減である。
【0007】
香気凝縮物は、通常は蒸留、吸着-脱着または膜ベースの分離による濃縮のさらなる工程にさらされる。品質の低下および/または汚染の問題なしに従来の水蒸気蒸留の方法によってさらに香気凝縮物をさらに濃縮することは、比較的難しい。それゆえ、香気凝縮物はすぐに加工処理の同じ場所で茶に戻し添加する必要があり、したがって操作の柔軟性が低下する。
【0008】
さらに、知られている方法では、味の特徴を変えずに様々なタイプの茶の香気凝縮物を戻し添加するような柔軟性がなかった。
【0009】
揮発性香気化合物を回収するため、可溶性の茶固形物および茶葉から回収した香気成分を、抽出中に蒸気を凝縮するところで、同時に抽出する方法が知られている。一般的には抽出時間は比較的短く、した茶原料の乾燥質量に対する香気成分の凝縮した蒸気量の比は、比較的小さい。そのような方法では、一般的に低い香気成分の収率しか得られない。
【0010】
米国特許第3997685号(Procter & Gamble、1976年)には、原料の乾燥質量に対する凝縮した総蒸気量の質量比が比較的大きい方法が開示されている。しかし、多くの凝縮した総蒸気量の留分は、基質原料(前記特許中では風味濃縮物と呼称)中の非揮発性の茶固形物を含んでいる。乾燥した茶原料に対する凝縮した香気蒸気量の比は比較的小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4130669号
【特許文献2】米国特許第3997685号
【特許文献3】米国特許第6132727号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Lever、Analytical Biochemistry 47、273-279ページ、1972年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先行技術の制限の観点からすると、本発明の目的の1つは、少なくとも1つの欠点を改善すること、または有用な代替案を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、比較的高い収率の、揮発性香気化合物の回収方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の1つの目的は、知られている方法よりも、比較的により安定な揮発性香気化合物を生じる方法を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的の1つは、比較的に費用効率の高い揮発性香気化合物の回収方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の1つの目的は、回収された香気成分が加えられた茶製品が、消費者に受け入れられる官能特性を持つような、揮発性香気化合物の回収方法を提供することである。
【0018】
さらに、本発明の他の1つの目的は、揮発性香気化合物を地理的位置間を輸送することが可能であり、茶加工処理に柔軟性をもたらす、比較的高濃度の揮発性香気化合物の回収方法を提供することである。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、茶原料の単位質量あたりの香気成分を含んだ凝縮蒸気の質量を増やし、凝縮物中の非揮発性茶固形物の混入物(entrainment)を低減することで、品質を落とすことなく、比較的高い収率で揮発性香気化合物を得ることを可能にした。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、茶原料から揮発性香気化合物を回収する方法であって、以下の工程:
a)水または水蒸気を接触させた茶原料から、0.5〜1.4絶対バール(bar absolute)の圧力で香気成分を含んだ蒸気を発生させる工程;および
b)香気凝縮物を回収するため、香気成分を含んだ蒸気を凝縮する工程;
を含み、茶原料の単位乾燥質量あたりの香気凝縮物の質量が2よりも大きく、前記香気成分を含んだ蒸気は、1質量%以下の液体混入物を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0021】
他の一態様として、本発明の方法によって得られる揮発性香気化合物が提供される。
【0022】
さらに他の一態様として、本発明の方法によって調整された揮発性香気化合物を含む茶組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
茶原料
本発明の方法において使われ得る茶原料は、チャノキ(Camellia sinensis var. sinensis)および/またはアッサムチャ(Camellia sinensis var. assamica)、あるいはこれらの植物から得られる誘導体、から得られるすべての原料を含む。
【0024】
前記茶原料は新鮮な茶葉、緑茶、黒茶、茶繊維またはこれらの混合物から選択され得る。使用済みの茶葉、つまり可溶性固体を抽出する最初の工程にさらされた茶葉、も同様に使用され得る。
【0025】
工程(a)
工程(a)は、水または水蒸気を接触させた茶原料から、0.5〜1.4、より好ましくは0.7〜1.4、および最も好ましくは0.7〜1.0絶対バール(bar absolute)の圧力で香気成分を含んだ蒸気を発生させる工程を含む。
【0026】
工程(a)は好ましくは以下:
(i)茶原料に水を加え、得られた混合物を蒸発させる工程;または
(ii)蒸留条件下で茶原料を水蒸気と接触させる工程
の1つによって行われる。
【0027】
<工程(i)の好ましい実施形態>
水は、茶原料の単位乾燥質量あたり、好ましくは10〜50、より好ましくは10〜30、および最も好ましくは15〜25の量で茶原料に加えられる。
【0028】
得られる混合物は、好ましくは70〜110℃、より好ましくは80〜105℃、および最も好ましくは90〜100℃の温度で、好ましくは蒸発に処せられる。
【0029】
茶原料は、好ましくは回分式または半回分式で蒸発に処せられる。蒸発は任意の好適な蒸発装置で行われてもよい。熱移動は直接的または間接的でもよい。間接的な加熱は、前記混合物への接触なしで、熱媒によって行われる。間接的な加熱は様々な装置、例えば被覆された容器、または内部もしくは外部の加熱コイルを備えた容器などで行われ得る。熱媒は好ましくは水、蒸気、または熱流体である。直接的な加熱は混合物への上記の注入によって行うことができる。加熱は電気的な方法、例えばオーム加熱または電気抵抗発熱体などによって行われてもよい。
【0030】
蒸発中、茶原料の乾燥質量に対する水の質量比は、好ましくは10〜50、より好ましくは10〜30、および最も好ましくは15〜25に維持される。前記質量比は、蒸発した水を補充することで維持される。水は、定期的にまたは連続的に補充してよい。
【0031】
<工程(ii)の好ましい実施形態>
茶原料は、場合によって水で湿っていてもよい。湿らせるために使われる、茶原料の単位乾燥質量あたりの水の量は、好ましくは0〜5、より好ましくは1〜4、および最も好ましくは2〜4である。
【0032】
前記茶原料は、湿っていても乾燥しても、その後、蒸留条件下で水蒸気に接触させる。混合物と接触させる水蒸気の量は、茶原料の単位乾燥質量あたり、好ましくは3〜15、より好ましくは3〜10、および最も好ましくは3〜8である。
【0033】
前記水蒸気の温度は、好ましくは70〜110℃、より好ましくは80〜105℃、および最も好ましくは90〜100℃である。
【0034】
充填層のような任意の好適な装置を使用することができる。前記茶原料が、好ましくは、多孔質の板またはメッシュで支持され、充填剤として作用する一方で、水蒸気は上方向もしくは下方向に充填層を通り抜ける。水蒸気は上向流または下向流の形態でもよいが、水蒸気が茶原料の充填層を通って垂直に上方向に流れることが特に好ましい。上向流の形態において、実質的に液体混入物を低減することができる。
【0035】
液体混入物
蒸発は、好ましくは、香気成分を含んだ蒸気中の液体混入物が低減されるような方法で行われる。
【0036】
本発明者らは、香気成分を含んだ蒸気中の液体混入物が、品質の低下に関連する茶固形物を含む香気凝縮物の原因となることを見出した。それゆえ、本発明の方法は香気成分を含んだ蒸気内の液体混入物を低減するために実施される。
【0037】
したがって、香気成分を含んだ蒸気は1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、および最も好ましくは0.1質量%以下の液体混入物を含む。特に好ましくは、香気成分を含んだ蒸気は、実質的に液体混入物を含まない。香気成分を含んだ蒸気中の液体混入物を低減する、または避けることは、香気凝縮物の品質の低下に関連する香気凝縮物中の固体の含有量の低減につながる。
【0038】
本明細書中で使われている「液体混入物」は、香気成分を含んだ蒸気と一緒に運ばれる液相を意味する。前記液体混入物は、液滴、ミスト、泡の形態であってもよい。したがって、前記香気凝縮物は、液体混入物が凝縮前に分離されていなければ、液体混入物と香気成分を含んだ蒸気の凝縮物を含むことになる。
【0039】
前記液体混入物が、これが液体形態であることから水溶性茶固形物を含む一方で、前記蒸気は溶解固形物を含まない。したがって、水溶性の茶固形物が香気凝縮物中に存在することは、液体混入物を示している。香気凝縮物中の溶解固形物の量を測定するためには、ブリックス計(Brix meter)を使用することができる。以下の式(1)を用いることで、ブリックス測定から液体混入物は容易に算出することができる。
【0040】
液体混入物量(%w/w)=B・W/T・X (1)
【0041】
ここで、Bは凝縮物のブリックス値(つまり、可溶性固形物の%w/w)、Tは工程1(a)における茶原料の乾燥質量(グラム)、Xは乾燥茶原料の単位質量あたりの水溶性茶固形物の割合、およびWは工程1(a)で乾燥茶原料に接触した液体の水の質量(グラム)である。例えば、もし100gの乾燥質量を持ち、乾燥質量の30%が水溶性(つまり、X=0.3)である茶葉を、2000gの水と接触させて、凝縮すると0.15%のブリックス値を有する凝縮物が回収される、香気成分を含んだ蒸気が発生するならば、香気成分を含んだ蒸気中の液体混入物の量は10%である。
【0042】
好ましくは、工程(a)の前または間に、起泡防止剤(antifoam agent)が加えられる。その結果発泡が減少することで、香気を含んだ蒸気中にある液体混入物の低減を助けると考えられる。
【0043】
好ましくは、機械的な消泡機(defoamer)が、工程(a)の間に使用される。工程(i)では、機械的な消泡機が茶原料と水の混合物を蒸発させる間に用いられる。機械的な消泡機は、液面上で泡を壊す、回転する攪拌機の形態であってもよい。代わりにまたは加えて、機械的な消泡機は、液面上に配置される平板状超音波振動子の形態であってもよい。
【0044】
機械的な消泡機で発泡が減少することで、香気を含んだ蒸気中にある液体混入物の低減を助けると考えられる。
【0045】
<液体混入物分離機>
好ましくは、香気を含んだ蒸気を、香気を含んだ蒸気から液体混入物を分離するために、液体混入物分離機を通過させる。
【0046】
前記液体混入物分離機は、蒸発機の一部であってもよい。液体混入物は、大きなヘッドスペース、または蒸気スペースを備えた蒸発機を用いることで低減され得る。実際には、蒸発機の全体積に対する作業体積の比を小さくすることで実現できる。乾燥機の全体積に対する作業体積の比は、好ましくは0.7未満、さらに好ましくは0.6未満、および最も好ましくは0.5未満である。
【0047】
前記液体混入物分離機は、別の装置でもあり得る。特に、液体混入物分離機は、好ましくはスペーサカラム(spacer column)、衝突分離装置、バッフルプレート(baffle plates)、サイクロンセパレーター、充填層コレクター(packed bed collector)、ワイヤーメッシュコレクター(wire mesh collector)、またはこれらの組合せから選択される。スペーサカラムとは、蒸気-液体混合物が垂直に上方に流れる、長い垂直のチューブまたはパイプである。
【0048】
工程(b)
工程(a)で得られる香気を含んだ蒸気は、香気凝縮物を回収するために凝縮される。
【0049】
香気を含んだ蒸気は、茶原料に接触させた水/水蒸気から生じる水蒸気を含んでおり、それゆえ茶原料の単位乾燥質量あたりの香気凝縮物の質量は、出発茶原料より大きい。事実、茶原料の単位乾燥質量あたりの香気凝縮物の質量は、好ましくは2より大きく、より好ましくは3より大きく、および最も好ましくは5より大きい。
【0050】
茶原料の単位乾燥質量あたりの香気凝縮物の質量は、好ましくは最大で10である。
【0051】
前記香気凝縮物は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、および最も好ましくは0.01質量%以下の固形分を含む。ここで用いる用語「固形分」は、液体蒸発による凝縮物の乾燥後の、蒸発しなかった固体の残留物を意味する。前記乾燥は、一般的には100℃の温度で24時間行われる。
【0052】
凝縮物の回収速度、または1時間あたりに茶原料の単位乾燥質量あたりに回収された凝縮物の質量は、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.2〜4、および最も好ましくは0.5〜2である。
【0053】
香気を含んだ蒸気を凝縮する工程は、任意の好適な装置で行うことができる。好適な装置の例には、これに制限されるものではないが、シェルアンドチューブ(shell and tube)または二重パイプ式の熱交換器が含まれる。前記熱交換器は、好ましくは垂直に取り付けられる。
【0054】
前記香気を含んだ蒸気は、好ましくはチューブ側にあり、一方、冷却液はシェル側またはアニュラス側にある。
【0055】
茶原料の前処理
好ましい態様によると、本方法は、好ましくは工程(a)の前に茶原料の酵素前処理の工程を含む。前記方法は、好ましくは工程(a)の前に、セルラーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、β-グルコシダーゼ、プリメベロシダーゼ、またはこれらの混合物から選択される酵素を含む水性媒体内で茶原料を培養する工程を含む。特に好ましくは、前記酵素はペクチナーゼ、β-グルコシダーゼ、プリメベロシダーゼ、またはこれらの混合物から選択される。
【0056】
用語セルラーゼは、主としてセルロース分解(またはセルロースの加水分解)に触媒作用を及ぼす菌類、細菌、および原生動物によって作られる酵素の種類を示す。しかし、植物や動物のようなほかのタイプの生物によって作られるセルラーゼも存在する。構造的および機構的に異なった数種類のセルラーゼが知られている。この酵素グループのEC番号は、EC 3.2.1.4である。この種類のいくつか商業的に利用可能な酵素は、CELLULASE AP(登録商標)(Amano Enzyme社)およびVISCOFERM(登録商標)(Novozyme)を含む。
【0057】
酵素の中の活性セルラーゼ含量は、カルボキシメチルセルロース(CMC)に対する酵素活性として測定され、当該分野における標準的な習慣でCMCUと短縮される、カルボキシメチルセルロース単位で表現される。用語CMCUは、標準条件下で基質としてカルボキシメチルセルロースおよびセルロース酵素を使用して、1分間あたりに生成したグルコースのピコモルを示す。CMCUの推算手順は、Leverによって記載されている(Analytical Biochemistry 47、273-279ページ、1972年)。
【0058】
セルラーゼの活性は、茶原料の乾燥質量1kgあたり、好ましくは105〜107、より好ましくは5×105〜5×106、およびさらに好ましくは5×105〜2×106CMCUである。
【0059】
用語ペクチナーゼは、植物の細胞壁の中に見つけることができる多糖類基質であるペクチンを分解する酵素を示す。ペクチナーゼは黒色アスペルギルスのような菌類から抽出され得る。この種類のいくつかの商業的に利用可能な酵素は、VISCOZYME(登録商標)(Novezyme)およびEXTRACTASE(登録商標)(Advanced Enzyme Technologies)を含む。
【0060】
ペクチナーゼ酵素の活性は、一般にAJDUと短縮されるリンゴ果汁脱ペクチナーゼ単位(Apple Juice Depectinase Units)で測定される。これはpH3.5、45℃で未精製のリンゴ果汁基質を脱ペクチナーゼするのに必要な時間に基づいている。終点はイソプロピルアルコール沈殿によって決められる。その後、活性は、米国Solvay Enzymesの手順番号400.16(1992年5月22日付)によって、均一の強さを定義されたリンゴ果汁基質を用いて、未知のサンプルの脱ペクチナーゼ時間を、既知の活性を持った標準ペクチナーゼと相関をとることによって決定される。詳細は、参照することにより本明細書に援用される米国特許第6132727号(Rohde et al、2000年)に記載されている。
【0061】
ペクチナーゼの活性は、茶原料の乾燥質量1kgあたり、好ましくは104〜107、より好ましくは0.5×105〜5×106、および最も好ましくは0.5×105〜2×106AJDUである。
【0062】
茶原料は、場合によって、水性媒体を茶原料に加える前に水で湿っていてもよい。
【0063】
培養工程中の、水の質量の茶原料の乾燥質量に対する比は、好ましくは2:1〜12:1、より好ましくは2:1〜8:1、および最も好ましくは3:1〜6:1である。
【0064】
前記培養工程は好ましくは5〜200分間、より好ましくは15〜150分間、および最も好ましくは30〜90分間である。
【0065】
前記培養工程は、好ましくは5〜70℃、より好ましくは15℃〜60℃、および最も好ましくは25℃〜60℃の温度で行われる。
【0066】
培養工程中、好ましくは、茶原料には攪拌を施す。攪拌は、断続的であるか、または培養の間を通してでもよい。攪拌は、例えば、回転アームを付けた羽根車によるか、または容器を回転させて、内容物の回転により攪拌を達成することによってもよい。
【0067】
香気凝縮物の濃度
好ましい態様によると、工程(b)の終点で得られる香気凝縮物はさらに濃縮してもよい。前記香気凝縮物の濃縮は、蒸留、吸着-脱着、および/または膜分離法、例えばパーベーパレイションおよび/または逆浸透、によって行われうる。
【0068】
<蒸留>
香気凝縮物は、好ましくは凝縮物から香気成分を濃縮するために蒸留に処せられる。当然のことながら、0.1質量%未満の固形物を含む香気凝縮物は、香気品質の低下を起こすことなく、比較的高い温度で蒸留することができる。
【0069】
<吸着-脱着>
吸着-脱着においては、香気凝縮物を、吸着剤、例えば活性炭、ゼオライト、またはポリスチレンジビニルベンゼン樹脂と接触させて、選択的に香気成分を吸着させる一方で、比較的に香気成分を含まない水が除去される。続いて、濃縮された香気成分を回収するために、蒸気、熱水、有機溶剤または二酸化炭素のような超臨界流体を、香気成分を含んだ吸着剤に接触させる。当然のことながら、0.1質量%未満の固形物を含む香気凝縮物は、吸着剤および/または脱着のために使用した媒体の混入を起こすことなく、濃縮物を得ることができる。
【0070】
<膜分離>
パーベーパレイションまたは逆浸透が香気成分の濃縮のために使用され得る。当然のことながら、0.1質量%未満の固形物を含む香気凝縮物は、実質的に膜の付着物を低減させる一方で香気成分を濃縮することができる。
【0071】
香気成分の戻し添加(add-back)
回収した香気凝縮物、またはさらに濃縮した香気凝縮物は、香気を強めるために茶製品に加えることができる。香気凝縮物は、茶葉製品、インスタント茶製品または即席飲料製品にスプレーしてもよい。茶葉およびインスタント茶では、最終製品を安定化させるため、香気成分を戻し添加した後に、水蒸気成分を取り除くための乾燥工程があってもよい。
【0072】
乾燥工程は、例えば、茶葉のための流動層乾燥機、棚段式乾燥機、真空乾燥機および/または凍結乾燥機ならびにインスタント茶のためのスプレー乾燥機、薄膜乾燥機および/または凍結乾燥機のような装置を使用して行われ得る。
【実施例】
【0073】
ここで、本発明を実施例を用いて説明する。本実施例は例示のみを目的とし、本発明のいかなる方法も限定することを意図するものではない。
【0074】
実施例1
含水率8%の109.8gの高地産スリランカ茶の粉々になってブロークン・ミックス・ファニング(broken mixed fannings)を丸底フラスコの中に入れた。2000mlの水を加えた。得られた混合物は、茶原料の乾燥質量単位あたりの約20の質量の水でスラリーにされた。スラリーを1バールの絶対圧力で、液体の沸騰を誘起するように加熱した。香気成分を含んだ蒸気は、凝縮器を通過する前に、液体混入物分離機を通過した。前記液体混入物分離機は、1メートルの長さの垂直カラムであって、香気成分を含んだ蒸気は垂直に上方に向かって流入し、液体混入物の滴があったとしても、壁に凝縮および蒸発機に戻るようになっており、したがって、液体混入物が凝縮器に到達することを防いだ。蒸気の生成速度は約100g/時間に保たれた。前記香気成分を含んだ凝縮物は、25℃で冷却設備上で作動する凝縮器を通過することで凝縮された。全体で600mlの凝縮物が6時間後に集められた。
【0075】
香気成分の量、質および安定性の評価
香気凝縮物中の全有機炭素はShimadzu TOC analyzer-500Aを用いて測定した。全有機炭素値が高いことは、香気凝縮物中の香気化合物濃度が高いことを示し、それゆえ、香気成分の量が多いことを示す。
【0076】
香気凝縮物中の固形物量は、以下に示す質量測定法で測定した。50mlの香気凝縮物の質量を測り、24時間100℃のオーブンで乾燥した。香気凝縮物中の固形物の質量%を計算するために、固形物の残留物を計量した。
【0077】
色は香気凝縮物の品質を示す。無色の香気凝縮物は様々なタイプの茶に混合または戻し添加され得る。さらに、無色の香気凝縮物は、香気凝縮物を比較的容易に濃縮できるような、固形物の不在を示す。薄茶色または任意の他の色の香気凝縮物は、香気凝縮物の品質に有害な影響を与え得る固形物の存在を示している。
【0078】
香気凝縮物の安定性は、以下のように測定された:茶の香気成分の重要な化合物であるフェニルアセトアルデヒドがマーカー化合物として使われた。凝縮後すぐに、t=0(初期)の香気凝縮物中のフェニルアセトアルデヒド量をガスクロマトグラフィーによって測定した。前記香気凝縮物は25℃に48時間保ち、フェニルアルデヒドの最終量を測定した(t=48時間)。フェニルアセトアルデヒド初期量に対する最終量の比は、香気成分の安定性の度合いであり、比の値が小さいことはより不安定な香気成分であることを表し、比の値が大きいことはより安定な香気成分であることを示す。
【0079】
実施例1-A
実施例1-Aの方法は、凝縮物が15分間集められたこと以外は、実施例1の方法と同様であった。
【0080】
実施例1-B
比較例1-Bの方法は、香気成分を含んだ蒸気を、液体混入物分離機を使わずに、直接蒸発機から凝縮器まで通過させたこと以外は、実施例1の方法と全ての点で同様であった。物質収支から、香気成分を含んだ蒸気は、1質量%より多い液体混入物を含むことが実証された。香気凝縮物中の水溶性固形物は、0.15質量%であった。
【0081】
実施例1-C
比較例1-Cの方法は、蒸発が0.18絶対バールの圧力で行われたこと以外は、実施例1の方法と全ての点で同様であった。
【0082】
実施例2-茶原料の酵素前処理の影響
実施例1の茶原料を、工程(a)の前にペクチナーゼ酵素で前処理した。茶原料はペクチナーゼ(Advanced Enzyme Technologies、インド、より入手)を含む可溶性媒体で湿らされた。茶原料の乾燥質量1kgあたりのペクチナーゼの活性は、106AJDU(Apple Juice Depectinase Units)であった。湿らせた茶原料は55℃で60分間培養された。培養された茶原料はその後、実施例1に記載された全ての工程を通った。
【0083】
結果を表1および表2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
本発明の方法(実施例1)が、高収率(472mg/kg 茶原料の乾燥質量)で、品質および安定性のよい香気凝縮物を提供することは明らかである。
【0087】
比較例1-Aの方法において、得られた香気成分の量は、実施例1の方法で得られた量と比較すると、著しく少ないことが分かった。
【0088】
比較例1-Bの方法において、得られた香気凝縮物の量は比較的多かったが、得られた香気凝縮物の色が薄茶色であったように、品質が受け入れられるものではなかった。さらに、フェニルアセトアルデヒドの分解によって示されたように、香気凝縮物は比較的不安定であった。
【0089】
比較例1-Cの方法において、香気凝縮物中の全有機炭素量が、実施例1の方法で得られた香気凝縮物中の量より、著しく少ないことが分かった。
【0090】
実施例2の方法において、酵素前処理の方法は、品質および安定性の特性を低下させることなく、さらに著しく収率を上げた香気凝縮物を提供する方法であることが明らかである。
【0091】
当然のことながら、本発明の方法は、比較的費用効率の高い方法で、安定性を低下させることなく、比較的高い収率の揮発性香気化合物を、香気凝縮物中に比較的に高い濃度で提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶原料から揮発性香気化合物を回収する方法であって、以下:
a)水または水蒸気を接触させた茶原料から、0.5〜1.4絶対バールの圧力で香気成分を含んだ蒸気を発生させる工程、および;
b)香気凝縮物を回収するため、香気成分を含んだ蒸気を凝縮する工程;
を含み、茶原料の単位乾燥質量あたりの香気凝縮物の質量が2よりも大きく、前記香気成分を含んだ蒸気は、1質量%以下の液体混入物を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記香気凝縮物が0.1質量%以下の固形物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記香気成分を含んだ蒸気を、工程(b)の前に、液体混入物を香気を含んだ蒸気から分離するために、液体混入物分離機を通過させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の前または間に、茶原料に起泡防止剤が加えられる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)の間に機械的な消泡機が使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
茶原料の単位乾燥質量あたりの、1時間あたりに発生する香気凝縮物の質量が0.1〜10である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の前に、セルラーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、β-グルコシダーゼ、プリメベロシダーゼ、またはこれらの混合物から選択される酵素を含む水性媒体内で茶原料を培養する工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法によって得られる揮発性香気化合物の混合物。
【請求項9】
請求項8に記載の揮発性香気化合物の混合物を含む茶組成物。

【公表番号】特表2011−508034(P2011−508034A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540095(P2010−540095)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067355
【国際公開番号】WO2009/083420
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】