説明

茶色系着色液

【課題】 ポリフェノールを主体とする茶色系着色液の保存安定性を向上させ、保存安定性に優れた茶色系着色液を提供する。
【解決手段】 ポリフェノールを主体とする茶色着色料の液体型製剤に、アスコルビン酸またはエリソルビン酸の類縁体である酸化防止剤と多価アルコール類を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般食品、健康食品、特定保健用食品、食品用包材、医薬品、化粧品、動物用飼料、ペットフード、釣り餌などの着色用途に使用可能な水溶性の茶色系着色製剤に関し、詳しくは、ポリフェノールを主剤とする水溶性の茶色系着色液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の茶色系着色液に主に含有されるポリフェノールは、植物界に広く分布し、茶、コーヒーやリンゴなどの果樹類や樹木の樹皮にも多く含まれるが、チョコレートの原料であるカカオ豆の殻、柿の果実、東南アジアで食用とされるタマリンドの豆の殻にはポリフェノールが多く、これらから抽出・精製されたポリフェノールを利用して茶色の着色料が製造され、様々な分野で使用されている。
【0003】
この種の茶色系着色液の成分は、フラボングループに属するカテキンやアントシアニンなどが複雑に重合し複雑な構造をしているものと推定されている。また、これらの色素成分は空気中の酸素により更に酸化反応を受け、重合化が進行しやすいという問題を含んでいる。このため、茶色系着色製剤の多くの製剤は、デキストリン等の賦型剤を加えてスプレードライして粉末化し、安定化させている。また、一部に、色素濃度を下げて液状にしたものも存在するが、沈殿物の発生やゲル化(固形化)、ネックリング(液体表面部分に浮遊物が溜まった状態)等の色素成分の凝集による品質の低下を起こす恐れがあり、特に、低温時においてその傾向が強く、まして高濃度化を望むことは不可能である。
【0004】
ところで、植物ポリフェノールにアスコルビン酸を配合して安定化させる方法が提案されている。この方法に関しては、これまでに下記のような種々の提案がなされている。
【0005】
(1)ポリフェノール類の抽出方法および該方法の行程で得られるポリフェノール金属塩(例えば、特許文献1参照)、(2)茶ポリフェノールを主剤とする水溶液型の化粧水・皮膚塗布剤および浴用剤(例えば、特許文献2参照)、(3)医用ポリフェノール溶液(例えば、特許文献3参照)などがある。
【特許文献1】特開2002−97187号公報
【特許文献2】特開2005−139147号公報
【特許文献3】特開2006−188436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜3に記載のいずれもポリフェノール類の持つ抗酸化能、抗菌能、消臭能を生体に対して直接に効果を期待して開発されたものであり、また、茶飲料中に含まれるポリフェノール安定化のためにアスコルビン酸を添加する事例が記載されているが、いずれも本発明が対象とする茶色系着色液の用途に関するものではない。
【0007】
従来の一般的なポリフェノールを主体とする水溶性の茶色系着色液は不安定であり、経時的にゲル化や沈殿、ネックリングを起こす可能性があり、特に低温保管時や冬季輸送時等においてこれらの問題を起こしやすい傾向がある。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、従来の上記した問題点を解決し、長期にわたり安定して優れた水溶性を備えた茶色系着色液を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明に係る茶色系着色液は、ポリフェノールを主体とする茶色着色料の液体型製剤に、アスコルビン酸またはエリソルビン酸の類縁体である酸化防止剤と多価アルコール類を配合することを特徴としている。
【0010】
このようにすれば、ポリフェノールを主体とする水溶性の茶色系着色製剤は、本来、経時的にゲル化や沈殿、ネックリングを起こす可能性があるが、酸化防止剤により、ゲル化や沈殿ならびにネックリングが防止され、茶色系着色製剤の安定化が図られる。また、茶色系着色製剤の水分活性が高い状態では腐敗の危険性があるが、多価アルコールによりその危険性が回避され、経時的安定性の向上が図られる。また、着色製剤液の粘度が高められるので、ネックリングや沈殿物等の発生を遅らせられる。この結果、保存安定性に優れる。
【0011】
請求項2に記載のように、前記茶色系着色液は、カカオ色素、タマリンド色素、もしくはカキ色素からなる水溶液製剤で、それらの色素含有量は0.01〜50.0質量%で、好ましくは2.0〜20.0質量%であることが好ましい。
【0012】
請求項3に記載のように、前記酸化防止剤は天然または合成の酸化防止剤で、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等およびその他のアスコルビン酸塩類、アスコルビン酸グルコシド、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムのうちから選択することができ、これらの酸化防止剤の添加量は、0.01〜10.0質量%、好ましくは0.1〜5.0質量%が好ましい。
【0013】
請求項4に記載のように、前記多価アルコールの添加量を、10〜90質量%、好ましくは20〜60質量%にするのが好ましい。
【0014】
ここで、使用可能な多価アルコールは、食品、医薬品、化粧品等の原料として使用されるものであればよい。例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、グルコース、ソルビトール、マルトース、マルチトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、フラクトース、トレハロース、オリゴ糖、還元澱粉加水分解物、還元麦芽糖水飴などがある。また、同様の目的でデンプン、加工デンプン、デキストリン等を用いることも可能である。さらに、腐敗防止のためにエタノールなどの低級アルコール類を配合することができる。
【発明の効果】
【0015】
上記したように本発明の水溶性茶色系着色製剤は、上記の構成を備えるから、下記のような優れた効果がある。
【0016】
ゲル化や沈殿ならびにネックリングが防止され、茶色系着色製剤の安定化が図られ、また、茶色系着色製剤の水分活性が高い状態では腐敗の危険性があるが、その危険性が回避され、経時的安定性の向上が図られる。また、着色製剤液の粘度が高められるので、ネックリングや沈殿物等の発生を遅らせられ、保存安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る水溶性茶色系着色製剤の実施の形態について詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
実施例1
ココアブラウンTRSP(B)H(タマリンド色素・色素濃度400(10%E)ヤヱガキ醗酵技研(株)製)15.0g、L-アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株))1.0g、エスイー57(還元澱粉加水分解物70% 日研化学(株)製)50.0g、精製水 24.0g、エタノール 10.0g を混合し、50〜60℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて50〜60℃で8000rpm/min、5分間の混合処理を行った。
【0020】
これを密封したプラスチック容器に入れて5℃と37℃における安定性試験を1週間行ったところ、5℃、37℃いずれもゲル化もネックリングも沈殿も生じず、12ヶ月後も安定していた。(表1、表2)
実施例2
ココアブラウンTRSP(B)H(タマリンド色素・色素濃度400(10%E)ヤヱガキ醗酵技研(株)製)15.0g、エリソルビン酸(扶桑化学工業(株))1.0g、エスイー57(還元澱粉加水分解物70% 日研化学(株)製)50.0g、精製水 24.0g、エタノール 10.0g を混合し、50〜60℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて50〜60℃で8000rpm/min、5分間の混合処理を行った。
【0021】
これを密封したプラスチック容器に入れて5℃と37℃における安定性試験を1週間行ったところ、5℃、37℃いずれもゲル化もネックリングも沈殿も生じず、12ヶ月後も安定していた。(表1、表2)
実施例3
ココアブラウンTRSP(B)H(タマリンド色素・色素濃度400(10%E)ヤヱガキ醗酵技研(株)製)15.0g、L-アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株))1.0g、ソルビトールF(D-ソルビトール60% 日研化学(株)製)50.0g、精製水 24.0g、エタノール 10.0g を混合し、50〜60℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて50〜60℃で8000rpm/min、5分間の混合処理を行った。
【0022】
これを密封したプラスチック容器に入れて5℃と37℃における安定性試験を1週間行ったところ、5℃、37℃いずれもゲル化もネックリングも沈殿も生じず、12ヶ月後も安定していた。(表1、表2)
比較例1
ココアブラウンTRSP(B)H(タマリンド色素・色素濃度400(10%E)ヤヱガキ醗酵技研(株)製)15.0g、精製水 75.0g、およびエタノール 10.0gを混合し、この混合液を50〜60℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて50〜60℃で8000rpm/min、5分間の混合処理を行った。
【0023】
これを密封したプラスチック容器に入れて5℃と37℃における安定性試験を1週間行ったところ、5℃ではゲル化し、37℃ではネックリングを生じていた。 1ヶ月後には共にゲル化していた。(表1、表2)
比較例2
ココアブラウンTRSP(B)H(タマリンド色素・色素濃度400(10%E)ヤヱガキ醗酵技研(株)製)15.0g、L-アスコルビン酸(扶桑化学工業(株))1.0g、 精製水 74.0gおよびエタノール 10.0gを混合し、これらの混合液を50〜60℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて、温度を50〜60℃に保って8000rpm/minで5分間撹拌し、混合溶解処理を行った。
【0024】
このようにして混合撹拌した水溶性の茶色着色製剤を密封したプラスチック容器に入れて、温度5℃と温度37℃とにそれぞれ保って安定性試験を1週間行ったところ、5℃、37℃いずれもゲル化を生じ無かったが、L-アスコルビン酸によるpH低下の影響で不溶化したと思われるネックリングをわずかに生じていた。保管温度5℃では1ヶ月でゲル化、37℃では3ヶ月後にゲル化していた。(表1、表2)
比較例3
ココアブラウンTRSP(B)H(タマリンド色素・色素濃度400(10%E)ヤヱガキ醗酵技研(株)製)15.0g、L-アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株))1.0g、 精製水 74.0g、エタノール 10.0g を混合し、50〜60℃に昇温後、エクセルオートホモジナイザーDX((株)日本精機製作所製)を用いて50〜60℃で8000rpm/min、5分間の混合処理を行った。
【0025】
これを密封したプラスチック容器に入れて5℃と37℃における安定性試験を1週間行ったところ、5℃、37℃いずれもゲル化もネックリングも沈殿も生じ無かった。1ヶ月後、37℃においてわずかに沈殿物が生じて、3ヶ月後では共にゲル化していた。(表1、表2)
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールを主体とする茶色着色料の液体型製剤に、アスコルビン酸またはエリソルビン酸の類縁体である酸化防止剤と多価アルコール類とを配合することを特徴とする茶色系着色液。
【請求項2】
前記茶色系着色液は、カカオ色素、タマリンド色素、もしくはカキ色素からなる水溶液製剤で、それらの色素含有量は0.01〜50.0質量%、好ましくは2.0〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の茶色系着色液。
【請求項3】
前記酸化防止剤は天然または合成の酸化防止剤で、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムおよびその他のアスコルビン酸塩類、アスコルビン酸グルコシド、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムのうちから選択されるもので、その酸化防止剤の添加量は、0.01〜10.0質量%、好ましくは0.1〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の茶色系着色液。
【請求項4】
前記多価アルコールの添加量は、10〜90質量%、好ましくは20〜60質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の茶色系着色液。

【公開番号】特開2009−108291(P2009−108291A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21118(P2008−21118)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】