説明

荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法

【課題】リカバー処理に掛かる時間を短縮することでスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法を提供する。
【解決手段】移動可能なステージ61上に載置される試料にパターンを描画する描画部2と、荷電粒子ビームの偏向を制御する偏向制御部32と、ステージの移動を制御するステージ制御部36と、両者に対する制御を行う制御計算機31、から構成される制御部3と、を備え、偏向制御部32は、描画データを格納するバッファメモリ32bと、バッファメモリ32bから転送される描画データを格納するFIFO32cと、FIFO32cへの描画データの転送量を判断した結果、バッファメモリ32bへの描画データの格納が設定量に足りない場合に、ステージ制御部36に対してステージ61の停止を指示するとともに、ステージ61を前記試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行う判定部32dとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、マスク(レチクル)と称される原画パターンを使用したパターンの転写が行われる。この際、高精度なレチクルを製造するために、優れた解像度を備える電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
レチクルに電子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画装置の一方式として、例えば以下のような可変成形方式を挙げることができる。すなわち、ここでは図示しないが、この可変成形方式は、第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形された電子ビームによって可動ステージに載置された試料上に図形パターンが描画される。
【0004】
このような荷電粒子ビーム描画装置を利用した描画処理に関して、様々な場面におけるスループットの向上がなされている。例えば、上述した可変成形方式も円形の電子ビームを利用するよりも露光回数を大幅に少なくすることができるためスループットの向上に資するものである。
【0005】
この他、例えば、マスク(以下、適宜「試料」と表わす)上の描画パターンを短冊状の「フレーム領域」に分割するとともに、さらに「サブフィールド領域」と呼ばれる小領域に分割し、当該サブフィールド領域内の必要な部分のみ可変成形ビームを偏向して描画する方法も採用される。この方法では、試料が載置されるステージを連続して移動させることにより描画処理のスループットを向上させる。但し、この方法を採用する場合、荷電粒子ビームのサブフィールド領域への位置決めや描画には主偏向器や副偏向器が利用されるが、それぞれのデータ処理時間が増加する傾向にある。以下の特許文献1には、特に主偏向器のデータ処理時間を短縮する発明が開示されている。
【0006】
また、特許文献1に記載の発明では、i−1番目のサブフィールド領域内におけるパターンの描画が終了した後に、i番目のサブフィールド領域内に荷電粒子ビームが位置決めされるように主偏向器の制御が行われる。但し、換言すれば、可動ステージが移動して主偏向器により荷電粒子ビームを最大限に偏向することによってi番目のサブフィールド領域内に荷電粒子ビームを位置決めすることができる状態になるまで主偏向器の制御ができないことになる。以下の特許文献2では、上述した状態よりも前の段階で主偏向器の制御を開始することでスループットの向上を果たす発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−16608号公報
【特許文献2】特開2010−177490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、或いは、特許文献2に記載の発明では、以下の点に配慮されていない。
【0009】
すなわち、描画処理が行われるに際しては、上述したようなサブフィールド領域等、試料上描画が可能な領域が設定される(以下、この領域を「描画対象領域」、或いは、適宜「窓枠」と表わす)。また、試料に対する所望の位置に荷電粒子ビームを照射(ショット)するためには、描画データのショット座標と試料が載置されるステージの座標との差分が描画対象領域内に含まれていることが必要である。従って、ショット座標とステージ座標との差分が描画対象領域外となってしまうと描画処理を行うことができず、この場合には、移動するステージを一旦停止させた上で描画対象領域内となる位置まで戻すというリカバー処理が必要となる。
【0010】
図14は、従来のリカバー処理についての説明図である。(a)から(e)まで時系列に並んでいる。(a)ないし(e)それぞれ説明図の構成は基本的に同じである。(a)を例に挙げると、まず横長の「ストライプm」が設けられている。このストライプm上が描画の対象となる領域である。「ストライプm」には、斜線が引かれた領域Xと、何も塗りつぶされていない領域Yとに分けられる。領域Xは、既に描画処理が終了した領域であり、領域Yはこれから描画処理が行われる領域である。従って、領域Xと領域Yとの境界は、次に描画処理が行われる(ショットが打たれる)位置である、といえる。
【0011】
また、領域Xと領域Yとの境界には黒く四角く囲われた領域が設けられており、この領域が描画対象領域Zである。ちなみに、ストライプmは、図14の矢印に示すように図面上右から左へと移動する。従って、描画対象領域Zは相対的に左から右へと移動することになる。
【0012】
一方、「ストライプm」の上部には、描画データWを示すバーが示されている。この描画データWは、荷電粒子ビーム描画装置の制御計算機において生成され、偏向制御部へと転送される。図14においては、偏向制御部へと転送された後の描画データを示している。この描画データWを示すバーは制御計算機において生成され、偏向制御部へと転送されるに伴い左側を始点として右へと伸びていく。また、ストライプmの全てに対して描画処理が完了する際には、描画データWを示すバーもストライプmの右側端部まで伸びることになる。図14(a)には、正常に描画処理が行われる場合を示しているが、描画処理中は、描画対象領域Z内に描画データWを用いてショットがされることで試料にパターンが描画されることになる。描画対象領域Z内に示されている矩形Vは、描画データWを用いてショットされた領域である。
【0013】
ここで、ショットが行われて描画対象領域Z内に矩形Vが描画されるには、描画データWが十分に準備されている必要がある。ここで「描画データWが十分に準備されている」とは、図14(a)に示すように領域X及び領域Yとの境界よりも描画データWを示すバーが右側へ伸びている状態を示す。上述したように、領域Xと領域Yとの境界は次にショットが打たれる位置を示していることから、この位置を超えてまだ描画処理が行われていない領域Y側へと描画データWを示すバーが伸びていれば、描画対象領域Zにショットを打つために必要な描画データWが準備されていることになる。
【0014】
そのため、図14の(b)に示すように、領域Xと領域Yとの境界と、描画データWを示すバーの一端が同じ位置にある状態では、描画データWが準備されていないことになるため、ショットを打つことができなくなってしまう。この時点で描画処理は一時停止してしまう。但し、描画データWが準備できておらず連続してショットが打てないだけであって、ストライプmを移動させるステージまでが停止するわけではない。従って、図14(c)に示すように、描画データWが十分に準備されていないがために描画処理は一時停止されるものの、ストライプmは止まることなく移動を続けるため、描画対象領域Zも領域Xと領域Yとの境界から次第に離れてしまう。
【0015】
描画データWがショットに必要な十分な量準備できると、領域Xと領域Yとの境界と、描画データWを示すバーの一端が同じ位置にある状態から図14(d)の破線に示すように、領域Xと領域Yとの境界よりも右側にバーの一端が位置することになる。この状態になればストライプm上にショットが可能となり、描画処理の準備が整ったといい得る。そこで、この段階でステージを停止させる。
【0016】
但し、描画対象領域Zはステージの移動に伴って移動してしまっているので、描画対象領域Zを領域Xと領域Yとの境界まで戻す必要がある。この処理がリカバー処理であり、この処理が行われた後に改めて描画処理が開始される。
【0017】
リカバー処理によって描画対象領域Zが戻される距離が図14(d)及び(e)に示すリカバー距離となる。リカバー距離は、ステージの移動速度と描画データWの準備速度とに依存するが、描画データWが準備できた時点でステージを停止させるため、換言すれば準備が整うまで描画対象領域は移動し続けることから、どうしてもリカバー距離は長くなる傾向がある。このリカバー距離が長くなると、リカバー処理に掛かる時間も長くなるため、描画処理全体のスループットも低下することになる。
【0018】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、リカバー処理に掛かる時間を短縮することでスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の実施の形態に係る特徴は、荷電粒子ビーム描画装置において、荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、荷電粒子ビームの偏向を制御する偏向制御部と、ステージの移動を制御するステージ制御部と、偏向制御部とステージ制御部に対する制御を行う制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、偏向制御部は、制御計算機において生成される描画データを格納するバッファメモリと、バッファメモリから転送される描画データを格納するFIFOと、FIFOへの描画データの転送量を判断した結果、FIFOへの描画データの転送量が試料に描画を行う上で不足すると判断されるのはバッファメモリへの描画データの格納が設定量に足りないからである場合に、ステージ制御部に対してステージの停止を指示するとともに、制御計算機を介してステージを前記試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行う判断部とを備える。
【0020】
また、荷電粒子ビーム描画装置において、判断部は、バッファメモリへ格納される描画データの量を判定する際、描画データの量が設定量以上格納されている場合、或いは、試料の終端に描画対象領域がありこれ以上の描画対象領域がない場合には、バッファメモリに描画データが十分な量格納されていると判断し、描画処理を継続する判断を行うことが望ましい。
【0021】
また、荷電粒子ビーム描画装置において、偏向制御部は、さらに、時間を計測する計時部と、描画対象領域が描画可能な終端領域にまで到達する到達時間の値を算出する演算部とを備えることが望ましい。
【0022】
本発明の実施の形態に係る特徴は、描画方法において、荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画するに当たり、FIFOにバッファメモリから転送される描画データの量を判断するステップと、FIFOに格納される描画データの転送量を判断した結果、FIFOへの描画データの転送量が試料に描画を行う上で不足すると判断される場合に、バッファメモリへの描画データの格納が設定量に足りているかを判断するステップと、バッファメモリへの描画データの格納が設定量に足りない場合に、ステージ制御部に対してステージの停止を指示するステップと、制御計算機を介してステージを試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行うステップとを備える。
【0023】
本発明の実施の形態に係る特徴は、描画方法において、荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画するに当たり、FIFOにバッファメモリから転送される描画データの量を判断するステップと、計時部において時間の計測を開始するステップと、FIFOに格納される描画データの転送量を判断した結果、FIFOへの描画データの転送量が試料に描画を行う上で不足すると判断される場合に、バッファメモリへの描画データの格納が設定量に足りているかを判断するステップと、バッファメモリへの描画データの格納が設定量に足りない場合に、演算部が試料の描画対象領域が描画可能な終端領域にまで到達する到達時間の値を算出するステップと、時間が到達時間よりも大きな値であると判断される場合に、ステージ制御部に対してステージの停止を指示するステップと、制御計算機を介してステージを試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行うステップとを備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、リカバー処理に掛かる時間を短縮することでスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における描画データの階層構造の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における偏向制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態における描画処理の流れを制御計算機について示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態における描画処理の流れを制御計算機について示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における描画処理の流れを偏向制御部について示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施の形態における描画処理の流れを偏向制御部について示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における描画処理の流れをステージ制御部について示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態における窓枠判定についての説明図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態におけるリカバー処理についての説明図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態における偏向制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態における描画処理の流れを偏向制御部について示すフローチャートである。
【図13】本発明の第2の実施の形態におけるリカバー処理についての説明図である。
【図14】従来のリカバー処理についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の実施の形態においては、荷電粒子ビームの一例として電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0028】
荷電粒子ビーム描画装置1は、試料に所定のパターンを描画する装置であり、特に可変成形型の描画装置の一例である。図1に示すように、荷電粒子ビーム描画装置1は、大きく描画部2と制御部3を備えている。描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備えている。
【0029】
電子鏡筒4内には、電子銃41と、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、位置偏向器50とが配置されている。照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、位置偏向器50とは、電子銃41から照射される電子ビームBの光路に沿って順に配置されている。
【0030】
描画室6の中には、ステージ61が配置される。ステージ61上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料が配置されることになるが、ここでは図示を省略している。ステージ61上には、試料が配置される位置とは異なる位置にファラデーカップ62が配置される。
【0031】
ブランキング偏向器43は、例えば、2極、或いは、4極等の複数の電極によって構成される。また、成形偏向器47、位置偏向器50は、例えば、4極、或いは、8極等の複数の電極によって構成される。図1では、成形偏向器47、位置偏向器50、それぞれの偏向器ごとに1つのDACアンプしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプが接続される。なお、DACアンプにいう「DAC」は、「Digital to Analog Converter」の頭文字である。
【0032】
制御部3は、制御計算機31と、偏向制御部32と、ブランキングアンプ33と、偏向アンプ(DACアンプ)34,35と、ステージ制御部36と、メモリ37と、磁気ディスク装置等の記憶装置38と、及び荷電粒子ビーム描画装置1と外部とを接続するための外部インターフェイス(I/F)回路39とを備えている。制御計算機31、偏向制御部32、ステージ制御部36、メモリ37、記憶装置38、及び外部I/F回路39は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御部32、ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0033】
ブランキングアンプ33は、ブランキング偏向器43に接続される。また、DACアンプ34は、成形偏向器47に接続される。DACアンプ35は、位置偏向器50に接続される。ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35に対しては、偏向制御部32から、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。デジタル信号が入力されたブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、それぞれのデジタル信号をアナログ電圧信号に変換し、増幅させて偏向電圧として接続された各偏向器に出力する。このようにして、各偏向器には、それぞれ接続されるDACアンプから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。
【0034】
なお、荷電粒子ビーム描画装置1には、上述したように電子ビームを取り囲むように成形偏向器47、位置偏向器50が4極、或いは、8極設けられており、電子ビームを挟んで各々一対(4極の場合は2対、8極の場合は4対)配置されている。そして成形偏向器47、位置偏向器50ごとにそれぞれDACアンプが接続されている。但し、図1には成形偏向器47、位置偏向器50に接続されているDACアンプそれぞれ1つずつのみを示し、その他のDACアンプを示していない。
【0035】
ステージ制御部36は、ステージ61と制御計算機31とに接続し、ステージ61の動きを検出するとともに制御している。
【0036】
制御計算機31内には、データ処理部31aと、設定部31bと、演算部31cと、判断部31dの各部が設けられている。データ処理部31aと、設定部31bと、演算部31cと、判断部31dは、プログラムといったソフトウェアで構成されても良く、ハードウェアで構成されても良い。また、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせで構成されても良い。データ処理部31aと、設定部31bと、演算部31cと、判断部31dとが、上述したようにソフトウェアを含んで構成される場合、制御計算機31に入力される入力データ、或いは、演算された結果は、都度メモリ37に記憶される。
【0037】
なお、図1に示す本発明の実施の形態における荷電粒子ビーム描画装置1には、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示している。従って、その他の構成、例えば、各レンズを制御する制御回路等が付加されていても良い。また、ここでは電子ビームの位置偏向に1段の偏向器を用いるが、これに限られるものではなく、例えば、主副2段の多段偏向器によって位置偏向を行うようにされていても良い。
【0038】
荷電粒子ビーム描画装置1は、以下のように動作して対象へ描画を行う。電子銃41(放出部)から放出された電子ビームBは、ブランキング偏向器43内を通過する際、ブランキング偏向器43によってONの状態にされている場合に電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過するように制御される。一方、OFFの状態では、電子ビームB全体がブランキングアパーチャ44で遮蔽されるように偏向される(図1において破線で示している)。ブランキングアンプ33からの偏向電圧がOFFからONとなり、その後再度OFFになるまでにブランキングアパーチャ44を通過した電子ビームBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0039】
かかる電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する偏向電圧がブランキングアンプ33から出力される。そしてブランキング偏向器43は、ブランキングアンプ33から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビームBの向きを制御して、電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する。
【0040】
以上のようにブランキング偏向器43とブランキングアパーチャ44とを通過することによって生成された各ショットの電子ビームBは、照明レンズ42により矩形、例えば、長方形の孔を持つ第1の成形アパーチャ45全体を照明する。ここで電子ビームBをまず矩形、例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ45を通過した第1のアパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ46により第2の成形アパーチャ48上に投影される。第1の成形アパーチャ45を通過した電子ビームBの向きを制御するための偏向電圧がDACアンプ34から印加された成形偏向器47によって、かかる第2の成形アパーチャ48上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。
【0041】
第2の成形アパーチャ48を通過した電子ビームBの照射位置を制御するための偏向電圧がDACアンプ35から位置偏向器50に対して出力される。第2の成形アパーチャ48を通過し第2のアパーチャ像とされた電子ビームBは、対物レンズ49により焦点を合わせられ、ステージ制御部36によって制御され連続的に移動するステージ61に載置された試料の所望する位置に照射される。
【0042】
図2は、本発明の実施の形態における試料上の描画可能領域Aの階層構造の一例を示す説明図である。試料上の描画可能領域Aは、内部構成単位ごとに複数の層からなる階層構造が採用されている。例えば、本発明の実施の形態における試料上の描画可能領域Aは、チップA1の層、チップA1の領域をある方向に向かって短冊状に仮想分割したストライプA2の層、ストライプA2を分割したブロックA3の層、少なくとも1つ以上の図形で構成されるセルA4の層、セルA4内に配置されセルA4を構成する図形(パターン)A5の層とから構成される。また、1つの試料の描画可能領域に対して複数のチップA1がレイアウトされていることもある。
【0043】
なお、ストライプA2については、描画面と平行する方向であればいずれの方向に分割されていても良い。例えば、図2に示す方向に分割されている場合、ステージ61の移動方向は、図2の矢印に示されるように、隣接するストライプA2同士では、描画開始領域と描画終了領域とが互いに隣接する形となる。このようにステージ61が動くようにステージ制御部36によって制御されることで、1つのストライプの描画終了領域に到達した後、その位置からステージ61を大きく移動させることなく次の新たな描画対象であるストライプへと移り描画処理を開始させることができる。従って、スループットの向上を図ることができる。
【0044】
図3は、本発明の第1の実施の形態における偏向制御部32の内部構成を示すブロック図である。偏向制御部32は、受信部32aと、バッファメモリ32bと、FIFO32cと、判定部32dと、送信部32eとから構成される。バッファメモリ32bは、制御計算機31内において生成される描画データを制御計算機31から受領し、一旦保管(格納)する。
【0045】
バッファメモリ32bに送られた描画データは、次にFIFO32cに転送される。「FIFO」とは、ここでは記憶部の一種であり、「First In,First Out」の略である。すなわち、バッファメモリ32bから転送されて最初に格納された描画データから順に取り出して描画処理を行うものである。FIFO32cから送信される描画データは、例えば、DACアンプ34,35へと送られ、電子ビームBが偏向されて試料に描画パターンが描画される。
【0046】
判定部32dは、FIFO32cに描画処理を行うに足りる描画データがバッファメモリ32bから転送されて格納されているか否かを判断し、或いは、ステージ61の位置と描画対象領域との位置関係から、リカバー処理を行うか否かの判断等を行う。また、試料への電子ビームBのショット指示も出す。
【0047】
図4ないし図8は、本発明の第1の実施の形態における描画処理の流れについて示すフローチャートである。特に、図4及び図5は、制御計算機31における流れを、図6及び図7は、偏向制御部32における流れを、図8は、ステージ制御部36における流れを示している。また、フローチャートの中では、制御計算機を「SGS」と、偏向制御部を「DEF」と、ステージ制御部を「MAC」と略して表わす。なお、以下では、まず、新たなストライプに対して描画処理が開始される状態について説明する。
【0048】
試料への描画処理が開始されるに当たって、まず制御計算機31内の、例えば設定部31bにおいてリカバーステータスが「0」に設定される(図4のST1)。この「リカバーステータス」とは、後述するステージ速度の減衰処理、或いは、リカバー処理を行うか否かの判断に利用される。「リカバー処理」とは、上述したように、ショットを打つに際して描画対象領域が適切な位置にないため、移動するステージを一旦停止させた上でショット位置が描画対象領域内となる位置まで戻す処理のことである。リカバーステータスの「0」との設定は、リカバー処理、或いは、ステージ速度の減衰処理のいずれも不要であるとの意味である。描画処理が開始される時点では、各部とも適切に制御されているため上述した処理を実行することは不要だからである。
【0049】
なお、本発明の実施の形態においては、リカバーステータスが「i」に設定される場合は減衰処理を表わし、リカバーステータスが「j」に設定される場合はリカバー処理を表わすこととしているが、いずれもどのように設定されることとしても良い。
【0050】
リカバーステータスが「0」に設定された後、制御計算機31から描画処理の開始指示が偏向制御部32に対して出される(ST2)。偏向制御部32においては、当該指示が出されるまで待機状態となっている(図6のST21)。
【0051】
制御計算機31内で生成される描画データは、適宜偏向制御部32へと送信されている。偏向制御部32の判定部32dは、制御計算機31から描画処理の開始指示を受けたことを基に、バッファメモリ32b内に描画データがどの程度格納されたか確認する(ST22)。なお、図6のフローチャートにおいては、バッファメモリを「BM」と省略して表わしている。また、バッファメモリ32b内に格納された描画データは、適宜FIFO32cへと転送される。
【0052】
ここで判定部32dは、バッファメモリ32bにどのくらいの描画データが格納されたかを判定する基準として、「設定量以上、若しくは、ストライプエンド」という基準を用いて判定する。ここで「設定量」とは、任意に設定することのできる(描画)データ量であるが、少なくともストライプに対してショットを打つことのできる量以上である必要がある。これは、最低限ショットを打つことができる程度に描画データがバッファメモリ32bに格納されていなければ、バッファメモリ32bからFIFO32cへと描画データを転送するといった、ショットを打つために描画データを準備しているうち(描画処理の最初のショットを打つ前)にステージが必要以上に移動してしまい、結果ショットを打つことなくリカバー処理に移行せざるを得ない状況が作出されてしまうことを回避するためである。
【0053】
「ストライプエンド」であるか否か、という基準は、描画対象領域が対象となるストライプの終端(ストライプエンド)である場合には、描画データが設定量バッファメモリ32b内に格納されていなくても描画が可能である場合があることから設けられる基準である。従って、描画データが設定量以上バッファメモリ32b内に格納されていなくてもストライプエンドである場合には、そのことをもって描画処理が行われる。
【0054】
判定部32dがバッファメモリ32b内に「設定量以上、若しくは、ストライプエンド」の描画データが格納されたと判定した場合には(ST22のYES)、描画処理が開始される(ST23)。具体的には、例えば、DACアンプ34,35に対して偏向電圧を印加し、電子ビームBの制御を開始する、といったことである。併せて、描画処理を開始した旨の報告を、制御計算機31に対して行う(ST24)。
【0055】
制御計算機31は、偏向制御部32から描画処理開始報告がなされるまではそのまま待機状態にある(図4のST3参照)。偏向制御部32からの報告を受領した制御計算機31は(ST3のYES)、ステージ制御部36に対してステージ61の移動を開始するよう指示する(ST4)。
【0056】
ステージ制御部36は、制御計算機31からのステージ移動開始指示があるまでは待機状態にある(図8のST61)。制御計算機31からのステージ移動開始指示を受けてステージ制御部36は、ステージ61の移動を開始する(ST62)。なお、制御計算機31からのステージ移動開始指示には、例えば、ステージ61の移動方向や移動速度等の各種パラメータが含まれている。ステージ制御部36はこのパラメータに従ってステージ61を移動させる。
【0057】
ステージ制御部36は、適宜ステージ61の位置(座標)に関する情報を制御計算機31に、或いは、直接偏向制御部32に対して送信する。また、ステージ制御部36は、特にステージ61の停止指示がなければ、そのままパラメータに従ってステージ61を移動させ続ける(ST63のNO)。
【0058】
制御計算機31がステージ制御部36に対して指示している間に、偏向制御部32は、さらにFIFO32c内に描画データが格納されたか否かを判定する(図6のST25)。FIFO32cには、上述したようにDACアンプ34,35等に印加される電圧の基となる描画データが格納されている。そのため、ここでも判定部32dは、「設定量以上、若しくは、ストライプエンド」の描画データが格納されたか否かを基準に判定する。
【0059】
判定部32dは、FIFO32c内に「設定量以上、若しくは、ストライプエンド」の基準を満たすだけの描画データが格納されたと判定した場合には(ST25のYES)、次に窓枠判定を行う(ST26)。「窓枠判定」とは、打たれるショットが描画対象領域(窓枠)に含まれているか否か、という判定である。
【0060】
図9は、本発明の実施の形態における窓枠判定についての説明図である。図9には、描画対象領域としての窓枠Rが矩形状に示されている。この窓枠R内にショットが打たれる位置(ショット位置)Sが示されている。ショット位置Sの座標(x座標)は、ショット座標とステージ座標との差分で表わされる(以下、ショット位置Sの座標を「基準座標」と表わす)。また、ストライプは載置されるステージ61の移動方向である矢印Mの方向に移動する。従って、相対的に窓枠R(ショット位置S)は、ストライプのx座標を示している数直線Nに示される「XMIN」から「XMAX」の方向に移動することになる。ここで「X」は、特に窓枠Rのx座標を示している。また、図9には、ストライプ上の領域を領域(q)、領域(p)、領域(o)の3つに分けて示している。領域(p)は窓枠Rの領域を示している。
【0061】
判定部32dは、窓枠判定を行うに際し、窓枠Rの座標X(「XMIN」と「XMAX」)、及びショット位置Sを示すショット座標及びステージ座標の各パラメータを制御計算機31、或いは、ステージ制御部36から入手、または、計算によって求めておく。そして、ショット位置Sの基準座標が窓枠(描画対象領域)RのX座標の最大値(XMAX)よりも大きい値を示す場合には((ショット座標−ステージ座標(基準座標))>XMAX)、ショット位置Sは領域(o)に位置することから、窓枠Rの外にあると判定する。この場合には、ショットを打たず、そのまま待機していれば、ステージ61が矢印M方向に移動することでショット位置Sが窓枠R内に入ってくることになる(ST27のYES)。従って、時間をおいて改めて窓枠判定を行う。
【0062】
次に、基準座標が窓枠RのX座標の最大値(XMAX)よりも大きい値ではない場合(基準座標が窓枠RのX座標の最大値(XMAX)以下の値である場合)(ST27のNO)には、基準座標がX座標の最小値(XMIN)よりも小さい値であるか否かを判定する(ST28)。もし基準座標がX座標の最小値(XMIN)よりも小さい値ではない場合(ST28のNO)、ショット位置Sは領域(p)に位置することから、判定部32dはショット位置Sが窓枠Rの中にあると判定する。なお、基準座標がX座標の最小値(XMIN)よりも小さな値である場合((ショット座標−ステージ座標(基準座標))<XMIN)(ST28のYES)については後述する。
【0063】
ショット位置Sが窓枠R内にあることが判定できた場合には、電子ビームを照射する(ショットを打つ)(ST29)。このように窓枠判定を行うことで、描画対象領域に確実にショットを打つことが可能となる。ショットを打った後、判定部32dはさらに窓枠(描画対象領域)Rがストライプの終端(ストライプエンド)まで到達したか否かを判定し(ST30)、まだ到達していない場合には(ST30のNO)、ステップST25に戻ってFIFO32c内に描画データが格納されたか否かを確認して、上述したショットまでの流れを繰り返す。
【0064】
一方、判定部32dが、ステージ61が移動して窓枠(描画対象領域)Rがストライプの終端(ストライプエンド)まで到達したと判定した場合には、まずステージ制御部36に対してステージの停止指示を出す(ST31)。ステージ制御部36では、当該指示を受領し(図8のST63のYES参照)、ステージの移動を停止する(ST64)。
【0065】
さらに偏向制御部32は描画処理を停止するとともに(図7のST32)、制御計算機31に対してステージ61を停止させた時点でのショット座標及びリカバーステータスの情報を送信する(ST33)。上述した描画処理の流れは、特に不都合があってステージ61が停止するということがなく、順調に描画処理がなされた場合を示している。従って、ここでは描画処理の流れの中で処理開始時に「0」と設定されたリカバーステータスも変更されることなく「0」のまま制御計算機31へと送信される。
【0066】
偏向制御部32からショット座標及びリカバーステータスの情報を受信した制御計算機31は、描画処理が停止したか否かを確認する(ST5)。偏向制御部32から描画処理の停止に基づくショット座標及びリカバーステータスの情報の送信が行われるまでは、描画処理を停止させることなく継続する(ST5のNO)。一方、描画処理が停止した場合(偏向制御部32からショット座標及びリカバーステータスの情報を受信した)には、描画処理停止に伴う、対応を取ることになる。
【0067】
制御計算機31では、例えば、判断部31dにおいて、偏向制御部32から送信されたリカバーステータスが「0」であるか否かが判断される(ST6)。リカバーステータスが「0」である場合には、特に不都合がなく描画処理が終了することになるので、描画処理が終了する(図5のST7)。
【0068】
以上で描画処理が順調に行われた(リカバーステータスが「0」である)場合について説明した。次に、リカバーステータスが「0」から変更される場合、すなわち、描画処理に関して何らかの不都合が生じた場合について説明する。
【0069】
まずリカバー処理が行われる場合について説明する。制御計算機31においてリカバーステータスが「0」に設定された後、偏向制御部32において描画処理が開始されるとともに、ステージ制御部36によってステージ61が移動を開始するまでは上述した通りである(図4のST1ないしST4、図6のST21ないしST24、図8のST61及びST62)。
【0070】
次に、偏向制御部32においてFIFO32c内への描画データの格納が「所定量以上、若しくは、ストライプエンド」であるか否かが判定される(図6のST25参照)。判定部32dによってFIFO32c内に「設定量以上、若しくは、ストライプエンド」の基準を満たすだけの描画データが格納されていないと判定された場合には(ST25のNO)、判定部32dは、再度バッファメモリ32b内に描画データが「所定量以上、若しくは、ストライプエンド」の基準に照らして十分な量格納されているか否かを判定する(ST34)。もしこの時点でバッファメモリ32b内に上述した基準を満たす量の描画データが格納されている場合には(ST34のYES)、判定部32dによるFIFO32c内に格納される描画データの量を確認の上、窓枠判定等が行われる。
【0071】
一方、この時点においてもバッファメモリ32b内に上述した基準を満たす量の描画データが格納されていない場合には(ST34のNO)、判定部32dはこれまで「0」と設定されていたリカバーステータスを「j」と設定する(ST35)。
【0072】
このリカバーステータスの設定は、バッファメモリ32bへ格納される描画データの量を判定して行われるものであり、ステージ61がどの位置にあるかは考慮されない。従って、この描画データが準備されない状態であってもステージ61は移動を継続している。但し、上述したように、描画データの準備が十分に整ってからステージ61を停止させる措置を講じたのではリカバー距離が長くなってしまい、結果としてリカバー処理に時間がかかりスループットの低下を招来することになる。
【0073】
そこで、本発明の実施の形態においては、リカバー処理が必要でありリカバーステータスが「j」と設定されると、バッファメモリ32b内に十分に描画データが格納されることを待たず、すぐにステージ停止指示がステージ制御部36に対して出される(図7のST31)。この場合、当然窓枠判定やショットは行われない。この指示を受けてステージ制御部36はステージ61を停止させる(図8のST64)。また、偏向制御部32は、描画処理を停止するとともに(ST32)、制御計算機31に対してショット座標及びリカバーステータスを送信する(ST33)。
【0074】
偏向制御部32からショット座標及びリカバーステータスを受領した制御計算機31は、描画処理の停止及びリカバーステータスの確認を行う(図4のST5及びST6)。ここでは、リカバーステータスは「0」ではなく「j」と設定されていることから(ST6のNO)、次に減衰処理の判定がなされる(ST8)。減衰処理自体については後述するが、リカバー処理が行われる際に設定されるリカバーステータスと減衰処理が行われる際に設定されるリカバーステータスとは相違する(上述したように本発明の実施の形態においては、前者の場合を「j」、後者の場合を「i」と設定する)。
【0075】
ここでは、減衰処理ではなくリカバー処理が行われるため、その判定はNOとされ(ST8のNO)、リカバー処理が行われることを確認の上(ST9)、減衰処理をスキップしてリカバー処理が行われる(図5のST10)。リカバー処理の開始とともに、制御計算機31では、ステージ制御部36から現時点(停止時点)でのステージ61の座標(ステージ座標)に関する情報を入手し(ST11)、ショット座標、描画対象領域の座標、及びステージ座標のそれぞれを確認する(ST12)。この確認を行うことで、リカバー距離が算出でき、どの程度描画対象領域(窓枠)を戻せばよいのかが把握できる。
【0076】
その上で、制御計算機31はステージ制御部36に対してステージ移動指示を出す(ST13)。この指示を受領したステージ制御部36は、所定の位置(改めて描画処理が必要となる位置)までステージ61を戻す(図8のST61ないしST64)。制御計算機31では、ステージ61の移動を逐次判断し、ステージ61が所定の位置まで移動したと判断した場合には(ST14のYES)、リカバー処理を終了させる(ST15)。
【0077】
以上説明したリカバー処理の流れについて、別途説明図を用いてさらに説明する。図10は、本発明の第1の実施の形態におけるリカバー処理についての説明図である。なお、基本的な説明図の構成は上述した図14と同様であることから、以下においては同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0078】
図10は(a)から(e)まで時系列に並んでおり、(a)ないし(e)それぞれ説明図の構成は基本的に同じである。構成について(a)を例に挙げると、まず横長の「ストライプn」が設けられている。このストライプn上が描画が可能な領域である。「ストライプn」には、斜線が引かれた領域Xと、何も塗りつぶされていない領域Yとに分けられる。領域Xは、既に描画処理が終了した領域であり、領域Yはこれから描画処理が行われる領域である。従って、領域Xと領域Yとの境界は、次に描画処理が行われるショット位置である、といえる。このような領域Xと領域Yとの境界には黒く四角く囲われた領域が設けられており、この領域が描画対象領域Zである。また、ストライプnの上部には、描画データWを示すバーが示されている。
【0079】
ところで図10(a)に示されているように、描画処理中は、描画対象領域Z内に描画データWを用いてショットがされることで試料にパターンが描画されることになる。描画対象領域Z内に示されている矩形Vは、描画データWを用いてショットされた領域である。ここで、ショットが行われて描画対象領域Z内に矩形Vが描画されるには、描画データWが十分に準備されている必要がある。図10(a)はこの状態を示しており、領域X及び領域Yとの境界よりも描画データWを示すバーが右側へ伸びている。
【0080】
一方で、図10の(b)に示すように、領域Xと領域Yとの境界と、描画データWを示すバーの一端が同じ位置にある状態では、描画データWが十分に準備されていないことになるため、ショットを打つことができなくなり、この時点で描画処理は一時停止してしまう。
【0081】
この状態を図6の偏向制御部32の処理の流れを示すフローチャートで示すならば、判定部32dが再度バッファメモリ32b内に描画データWが基準に沿って格納されているかを確認し(ST34)、ショットを打つには不十分な量しか格納されていないと確認した場合に(ST34のNO)、リカバーステータスを「j」と設定し(ST35)、描画処理を停止する(ST32)、というところに該当する。
【0082】
また、描画処理が停止される前に、ステージ制御部36に対してステージの移動を停止する指示を出す(ST31)。上述した通り、判定部32dがバッファメモリ32b内に格納されている描画データWの量が所定量よりも不足していると判定した時点でステージ61を止めるようにしているため、判定から実際のステージ61の停止まで若干のタイムロスがあるものの、従来に比べれば格段に短い時間でステージ61を停止させることができる。
【0083】
図10(c)は、判定部32dがバッファメモリ32b内にショットを打つには不十分な量しか格納されていないと確認し、リカバーステータスを「j」と設定している間のステージ61の動きを示している。この段階では上述したように、ショットは行われていないにも拘わらずステージ61は移動を継続している。従って、描画対象領域Zも図10(c)に示すように移動している。
【0084】
但し、その直後にステージ制御部36に対してステージの停止指示が出され、描画対象領域(窓枠)Zは停止する。この停止位置からリカバー処理によって適切な位置まで移動させる必要のある距離がリカバー距離であるが、図14に示す従来のリカバー距離に比べてその距離は確実に短くなっている。
【0085】
すなわち、本発明の実施の形態において説明した流れでリカバー処理を行うことで、従来に比して格段にリカバー処理に掛かる時間が短縮され、工程全体のスループットが向上する。リカバー処理によって描画対象領域(窓枠)Zを適切な位置に戻した後、改めて描画処理が開始される(図10(e))。
【0086】
次に減衰処理について説明する。減衰処理とは、描画処理においてある領域ごとの描画予測時間から事前に設定されたステージの速度分布(等速、可変速、いずれの場合も含む)が、実際に適当であるステージ速度分布よりも大きい場合、すなわち、適切に描画を行うにはステージの移動が早い場合に、そのステージ速度分布を一律に小さくする(遅くする)処理である。
【0087】
減衰処理が必要な場合は、基準座標が窓枠RのX座標の最小値(XMIN)よりも小さな値である場合((ショット座標−ステージ座標(基準座標))<XMIN)(ST28のYES)である。このとき、ショット位置Sは(q)に位置することから、判定部32dによってショット位置Sは窓枠Rの外にあると判定されることになる(図9参照)。このように判定された場合には、判定部32dはリカバーステータスを「i」に設定した上で(ST36)、ステージ制御部36に対してステージ61の停止を指示するとともに(ST31)、描画処理を停止し、制御計算機31に対してショット座標及びリカバーステータス「i」を通知する(ST32、ST33)。
【0088】
偏向制御部32からショット座標及びリカバーステータス「i」の情報を受領した制御計算機31では、描画処理が停止されたことを確認し(ST5)、その上でさらにリカバーステータスを確認する(ST6)。ここではリカバーステータスは「i」と設定されていることから、リカバーステータスは「0」ではない(ST6NO)。そして、設定されたリカバーステータス「i」は減衰処理を行うことを示すものであることから、減衰処理判定を経て(ST8のYES)、ステージ速度の減衰処理が行われる(ST16)。
【0089】
減衰処理は、上述したように、予め設定されたステージ61の速度分布を一律に遅くするものである。従って、処理後の新たなステージ速度分布を基に、改めて制御計算機31からステージ制御部36に対してステージの移動開始指示が出される(ST9のNO、ST4)。
【0090】
以上説明した通り、描画に必要な描画データの準備が整わないと判定された時点で描画処理を停止するとともにステージを停止させてリカバー処理を開始することで、描画処理の流れの中におけるリカバー処理に掛かる時間を短縮することでスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法を提供することができる。
【0091】
(第2の実施の形態)
次に本発明における第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態において、上述の第1の実施の形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、同一の構成要素の説明は重複するので省略する。
【0092】
第2の実施の形態では、描画処理のさらなるスループットの向上を図る方法を説明する。図11は、本発明の第2の実施の形態における偏向制御部32Aの内部構成を示すブロック図である。第2の実施の形態における偏向制御部32Aは、第1の実施の形態において説明した偏向制御部32にさらに計時部32f及びタイムアウト値演算部32gを追加した構成となる。これら計時部32f及びタイムアウト値演算部32gの働きについては、第2の実施の形態における描画処理の流れを説明する際に併せて説明する。
【0093】
図12は、本発明の第2の実施の形態における描画処理の流れを偏向制御部32Aについて示すフローチャートである。図12は、描画処理開始指示の受領の有無から始まり、特に判定部32dがFIFO32c内の描画データの量を判断する部分を中心に示しており、第1の実施の形態における図6に該当する。
【0094】
また、図13は、本発明の第2の実施の形態におけるリカバー処理についての説明図である。なお、基本的な説明図の構成は上述した図10と同様であることから、以下においては同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0095】
制御計算機31からの描画処理開始指示を受けて描画処理を開始し制御計算機31への開始報告を行うまではこれまで説明した通りである(ST21ないしST24)。また、特にリカバー処理等を必要とせず窓枠判定を行いショットを行うまでの流れ(ST26ないしST29)や減衰処理を行うためにリカバーステータスを「i」と設定する流れ(ST36)もこれまで説明した通りである。
【0096】
第2の実施の形態においては、判定部32dがFIFO32cへの描画データの格納を判定し(ST25)、FIFO32c内に基準(所定量以上、若しくは、ストライプエンド)を満たす描画データが格納されていないと判断した場合(ST25のNO)の対応が第1の実施の形態において説明した内容と相違する。すなわち、第2の実施の形態では、ショットを打つには描画データが不足するため一時描画処理が停止する状態となるが描画対象領域は移動し続ける状態において、描画対象領域がリカバー処理が必要となる程移動してしまう前に描画データが充足される場合の対応について示すものである。以下、図13の説明図も利用しつつ説明する。
【0097】
判定部32dがFIFO32c内に基準を満たす描画データが格納されていないと判断した場合(ST25のNO)、まず、計時部32fに対して経過時間tの計測を指示する(ST51)。この状態を図13を利用して説明すると、描画処理に必要な描画データWが十分に準備されていない場合には、図13(b)に示されているように、領域Xと領域Yとの境界と、描画データWを示すバーの一端が同じ位置にある状態では、描画データWが準備されていないことになるため、ショットを打つことができなくなり、この時点で描画処理は一時停止してしまう。但し、このような状態でも描画対象領域Zは移動し続ける。領域X内の描画対象領域Zの移動方向後端を基準に見てみると、図13(b)と(c)とでは一点鎖線で示すように、(b)に示される描画対象領域Zよりも(c)に示される描画対象領域Zの方が進んでいる。
【0098】
なお、図13(a)は、これまで説明した通り、正常な描画処理の状態を示すものである。すなわち、ストライプnに対して描画処理が行われる際、描画対象領域Z内の実際に描画処理がなされる領域に必要とされる描画データWよりも多くの(先の)描画データが準備されている場合には、問題なく描画処理が進行する。
【0099】
判定部32dは、経過時間tの計時を開始を計時部32fに対して指示するとともに、バッファメモリ32b内へ描画データが「所定量以上、若しくは、ストライプエンド」という条件を満たすように格納されているか否かを確認する(ST52)。この時点で描画に必要な十分な描画データが準備されている場合には(ST52のYES)、窓枠判定、ショットと描画処理が進行する。
【0100】
一方、描画データが未だ十分にバッファメモリ32bに格納されていない場合には(ST52のNO)、次にタイムアウト値演算部32gに対して「タイムアウト値」の算出を指示する。タイムアウト値演算部32gは、ショット座標からステージ座標及び描画対象領域の移動方向後端の座標であるXMINを減じ、その値をステージ速度で除することでタイムアウト値を算出する(すなわち、基準座標から描画対象領域ZのX座標であるXMINを引いてステージ速度で除する)。なお、ここで挙げたタイムアウト値の演算式は、ステージ61が等速に移動する場合の式であり、可変速に移動する場合には、ここには示さないが、別の演算式を利用して算出される。
【0101】
次に判定部32dは、算出されたタイムアウト値を経過時間tと比較する(ST54)。つまりタイムアウト値は、描画対象領域が、描画データの準備が間に合わず描画処理が一時的に停止した状態となってから描画データの準備が整って描画可能な状態となるまでの時間ということができる。換言すれば、タイムアウト値は、描画対象領域Zがステージ61の移動に伴って移動していく中で、ショット可能な領域である領域Xと領域Yとの境界が描画対象領域Zの移動方向終端領域まで到達する時間を示す値であるといえる。
【0102】
タイムアウト値と経過時間tとを比較した結果、経過時間tよりもタイムアウト値の方が大きい場合には、判定部32dが再度バッファメモリ32b内への描画データの格納について判定してもまだ描画対象領域がその移動速度からリカバー処理が必要なほど移動してしまわないと判断できる(ST54のYES)。そこで判定部32dは、再度バッファメモリ32b内への描画データの格納について判定を行う(ST52)。その結果、描画処理が可能なほどバッファメモリ32b内に描画データが格納されていると判定できた場合には(S52のYES)、描画処理が継続される。
【0103】
図13(d)は上述した状態を示している。すなわち、図13(c)で描画データWの準備が整わず、一方で描画対象領域Zは移動を継続している状態から、(d)において示すように、描画対象領域Zがショット可能な領域から外れてしまう前に描画データWの準備が整い、ショット可能とされる状態へと移行している。
【0104】
図13(c)及び(d)に示す破線は、(c)におけるショットが可能な領域Xと領域Yとの境界を示している。(c)では、描画対象領域Zの略中央にあり、描画データWの準備が整いさえすればショット可能である。但し、描画データWの準備を行っている間も描画対象領域Zは移動を続けている。
【0105】
一方、図13(d)に示すように、ショット可能な領域Xと領域Yとの境界が描画対象領域Zから外れてしまう前に描画データWの準備が整い、ショットが可能な領域Xと領域Yとの境界も移動している。その結果、描画対象領域Zから外れることなくショットが可能である。
【0106】
このように描画対象領域Zが移動してショット可能な領域から外れてしまう前に描画データの準備が整う可能性がある場合には(この可能性はタイムアウト値と経過時間tとの比較で判定する)、リカバー処理へ遷移することなく継続して描画処理を行うことが可能となる。
【0107】
一方、タイムアウト値が経過時間t以下である場合には(ST54のNO)、描画対象領域の移動速度に描画データの準備が間に合わないということになるので、この場合には判定部32dがリカバーステータスを「j」と設定し、リカバー処理を行うように対応する(図7のST31以下参照)。
【0108】
以上説明した通り、タイムアウト値を利用して描画データの準備が整わない場合であっても、描画対象領域の移動を考慮しつつショットが可能か否か最後まで判定するようにすることで、無用なリカバー処理を行わずに済ますことが可能となる。このような処理を行うことで描画処理に掛かる時間を短縮することが可能となり、ひいてはスループットの向上を図ることが可能となる。
【0109】
そして、第1の実施の形態において説明した通り、描画に必要な描画データの準備が整わないと判定された時点で描画処理を停止するとともにステージを停止させてリカバー処理を開始することで、描画処理の流れの中におけるリカバー処理に掛かる時間を短縮することでスループットの向上を図ることのできる荷電粒子ビーム描画装置及び描画方法を提供することができる、いう効果を奏することも当然である。
【0110】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
3 制御部
31 制御計算機
32 偏向制御部
32a 受信部
32b バッファメモリ
32c FIFO
32d 判定部
32e 送信部
36 ステージ制御部
61 ステージ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画する描画部と、
前記荷電粒子ビームの偏向を制御する偏向制御部と、前記ステージの移動を制御するステージ制御部と、前記偏向制御部と前記ステージ制御部に対する制御を行う制御計算機と、から構成される制御部と、を備え、
前記偏向制御部は、
前記制御計算機において生成される描画データを格納するバッファメモリと、
前記バッファメモリから転送される前記描画データを格納するFIFOと、
前記FIFOへの前記描画データの転送量を判断した結果、前記FIFOへの前記描画データの転送量が前記試料に描画を行う上で不足すると判断されるのは前記バッファメモリへの前記描画データの格納が設定量に足りないからである場合に、前記ステージ制御部に対して前記ステージの停止を指示するとともに、前記制御計算機を介して前記ステージを前記試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行う判断部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記判断部は、前記バッファメモリへ格納される前記描画データの量を判定する際、前記描画データの量が設定量以上格納されている場合、或いは、前記試料の終端に描画対象領域がありこれ以上の前記描画対象領域がない場合には、前記バッファメモリに前記描画データが十分な量格納されていると判断し、描画処理を継続する判断を行うことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記偏向制御部は、さらに、
時間を計測する計時部と、
前記描画対象領域が描画可能な終端領域にまで到達する到達時間の値を算出する演算部と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画するに当たり、FIFOにバッファメモリから転送される描画データの量を判断するステップと、
前記FIFOに格納される前記描画データの転送量を判断した結果、前記FIFOへの前記描画データの転送量が前記試料に描画を行う上で不足すると判断される場合に、前記バッファメモリへの前記描画データの格納が設定量に足りているかを判断するステップと、
前記バッファメモリへの前記描画データの格納が設定量に足りない場合に、ステージ制御部に対して前記ステージの停止を指示するステップと、
制御計算機を介して前記ステージを前記試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行うステップと、
を備えることを特徴とする描画方法。
【請求項5】
荷電粒子ビームを用いて移動可能なステージ上に載置される試料にパターンを描画するに当たり、FIFOにバッファメモリから転送される描画データの量を判断するステップと、
計時部において時間の計測を開始するステップと、
前記FIFOに格納される前記描画データの転送量を判断した結果、前記FIFOへの前記描画データの転送量が前記試料に描画を行う上で不足すると判断される場合に、前記バッファメモリへの前記描画データの格納が設定量に足りているかを判断するステップと、
前記バッファメモリへの前記描画データの格納が設定量に足りない場合に、演算部が前記試料の描画対象領域が描画可能な終端領域にまで到達する到達時間の値を算出するステップと、
前記時間が前記到達時間よりも大きな値であると判断される場合に、ステージ制御部に対して前記ステージの停止を指示するステップと、
制御計算機を介して前記ステージを前記試料に対する描画の対象とされる位置にまで戻すリカバー処理を行うステップと、
を備えることを特徴とする描画方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−243842(P2012−243842A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110251(P2011−110251)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】