説明

荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法

【課題】多重描画する場合の描画時間の低減を図る荷電粒子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】描画装置100は、パターン形成されるチップ領域を複数の小領域に仮想分割する分割部50と、チップ領域が仮想分割された複数の小領域の少なくとも一部に他とは異なる多重度が設定されるように、小領域毎に当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定する多重度算出/設定部64と、小領域毎に、荷電粒子ビームを用いて、設定された多重度で当該小領域内のパターンを描画する描画部150と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に係り、例えば、電子ビームを用いて多重描画する際の描画方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図7は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0004】
かかる電子ビーム描画では、描画パターンを複数回重ねて描画を行う多重描画方式が一般に採用されている。多重描画方式では、チップ領域が仮想分割されたストライプ領域の領域間の境界などでのパターンのつなぎ精度の向上や、描画時のヒーティング(帯電)効果の軽減に効果がある。そのため、従来、描画対象となるチップ毎に描画の重ね回数(多重度)を設定して、設定された多重度で描画が行われる。
【0005】
また、電子ビーム描画では、近接効果等による寸法変動を照射量の増減で補正することが行われている。よって、描画される位置によって照射量が異なる場合が多い。そのため、最大の照射量でも上述したヒーティング(帯電)効果を軽減ができ、つなぎ精度が満足するように、チップ毎に多重度が予め決められて描画装置に入力されている。
【0006】
試料の1つとなるマスク上には、複数のチップのパターンを描画することが一般的に行なわれており、また、チップによって描画条件が異なっている場合も多い。例えば、あるチップは1回描画(多重度=1)で描画される。また、他のあるチップは多重描画(例えば多重度=2)で描画される(例えば、特許文献1参照)。従来、電子ビーム描画装置では、複数のチップのパターンをマスク上に描画する際、ある範囲内にレイアウトされる描画条件が同一のチップ同士をまとめて描画グループを構成し、描画グループ毎に描画していた。これにより、1つの描画グループ内を描画している間は同じ描画条件(多重度)で描画されることになる。
【0007】
多重度が大きくなるとその分描画時間が長くかかることになる。昨今のパターンの微細化に伴い、描画時間の短縮化が望まれている。そのため、かかる多重描画を行なう際の描画時間も短縮化することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−274036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、描画時間の短縮化が望まれている中、多重描画を行なう際でもかかる問題点を解決することが望ましい。しかし、従来、かかる問題を十分に解決するための手法が確立されていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、多重描画する場合の描画時間の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
パターン形成されるチップ領域を複数の小領域に仮想分割する分割部と、
チップ領域が仮想分割された複数の小領域の少なくとも一部に他とは異なる多重度が設定されるように、小領域毎に当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定する設定部と、
小領域毎に、荷電粒子ビームを用いて、設定された多重度で当該小領域内のパターンを描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
かかる構成により、1つのチップ内で多重度の異なる領域を設定できる。よって、従来のように一律に同じ多重度にしないので、多重度の低い領域では、描画回数が減る分の描画時間を短縮できる。
【0013】
また、照射量が定義される照射量マップを演算する照射量マップ演算部をさらに備え、
設定部は、照射量マップに定義された各照射量を用いて、当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定するように構成すると好適である。
【0014】
また、照射量マップに定義された各照射量が閾値よりも大きいかどうかを判定する判定部をさらに備え、
設定部は、描画1回当たりの照射量が前記閾値より大きくならないように多重度を設定するように構成すると好適である。
【0015】
また、多重度がそれぞれ設定される複数の小領域として、荷電粒子ビームが照射される複数のショット領域と、少なくとも1つのショット領域で構成される複数のサブフィールド領域と、1つが複数のサブフィールド領域で構成される複数のストライプ領域と、のうちの1つが用いられると好適である。
【0016】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、
パターン形成されるチップ領域を複数の小領域に仮想分割する工程と、
チップ領域が仮想分割された複数の小領域の少なくとも一部に他とは異なる多重度が設定されるように、小領域毎に当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定する工程と、
小領域毎に、荷電粒子ビームを用いて、設定された多重度で当該小領域内のパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、チップを多重描画する場合でも描画時間の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図3】実施の形態1におけるストライプレイヤと描画手順とを説明するための概念図である。
【図4】実施の形態1におけるSFレイヤと描画手順とを説明するための概念図である。
【図5】実施の形態1におけるショットレイヤと描画手順とを説明するための概念図である。
【図6】実施の形態1における判定領域メッシュの一例を示す図である。
【図7】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0020】
上述したように、従来、描画されるチップでは、一律に同じ多重度が設定されてきた。しかし、ヒーティング効果削減のためには、照射量の大きい領域のみ描画多重度を上げればよい。そこで、以下、実施の形態では、描画されるチップ内において、異なる多重度の領域を設定する。これにより、多重度の低い領域では、描画回数が減る分の描画時間を短縮できる。
【0021】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスクが含まれる。また、試料101には、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0022】
制御部160は、制御計算機ユニット110、メモリ111、制御回路120、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。制御計算機ユニット110、メモリ111、制御回路120、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0023】
制御計算機ユニット110内には、分割部50、パターン密度算出部52、照射量密度算出部54、照射量算出部56、多重度設定部60、及び描画データ処理部66が配置されている。多重度設定部60には、判定部58、多重度算出部62、及び多重度算出/設定部64が配置されている。分割部50、パターン密度算出部52、照射量密度算出部54、照射量算出部56、多重度設定部60、及び描画データ処理部66は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。同様に、判定部58、多重度算出部62、及び多重度算出/設定部64は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。分割部50、パターン密度算出部52、照射量密度算出部54、照射量算出部56、多重度設定部60、及び描画データ処理部66、並びに判定部58、多重度算出部62、及び多重度算出/設定部64に入出力される情報および演算中の情報はメモリ111にその都度格納される。特に、描画データ処理部66は、データ処理量が膨大となり得るため、図示しない複数のCPUと複数のメモリ等で構成されると好適である。
【0024】
記憶装置140には、レイアウトデータ(描画データ)となるチップデータが装置外部から入力され、格納される。チップは複数の図形パターンにより構成される。
【0025】
記憶装置142には、実施の形態1における多重度設定に必要な情報が装置外部から入力され、格納される。例えば、ストライプ間、サブフィールド(SF)間、或いは、ショット間の必要なつなぎ精度を維持するために必要な多重度Nを示す多重度情報が格納される。さらに、必要な多重度の判定に必要な照射量しきい値Aが格納される。さらに、必要な多重度の判定を行う判定領域を示す判定領域情報が格納される。さらに、多重度を可変に設定する際の単位領域となる多重度可変領域を示す多重度可変領域情報が格納される。さらに、描画1回あたりの照射量が照射量しきい値Aより大きくならない範囲で、多重度情報に定義された多重度よりも低い多重度に減らすことを許可するか不許可にするかを示す可否フラグが格納される。
【0026】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、位置偏向用には、主偏向器208と副偏向器209の主副2段の偏向器を用いているが、1段の偏向器によって位置偏向を行なう場合であってもよい。
【0027】
図2は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図2において、実施の形態1における描画方法は、メッシュ分割工程(S102)と、パターン密度算出工程(S104)と、照射量密度算出工程(S106)と、照射量算出工程(照射量マップ作成工程)(S106)と、多重度設定工程(S108)と、ショットデータ生成工程(S116)と、描画工程(S118)といった一連の工程を実施する。多重度設定工程(S108)は、その内部工程として、判定工程(S110)と、判定領域多重度算出工程(S112)と、可変領域多重度算出/設定工程(S114)といった一連の工程を実施する。
【0028】
図3は、実施の形態1におけるストライプレイヤと描画手順とを説明するための概念図である。図3では、多重度可変領域として、例えば、ストライプ領域20を設定した場合を示している。描画装置100では、試料101の描画領域が短冊状の複数のストライプ領域20に仮想分割される。図3では、例えば、チップ領域10で示す1つのチップが試料101上に描画される場合を示している。もちろん、複数のチップが試料101上に描画される場合であっても構わない。かかるストライプ領域20の幅は、主偏向器208で偏向可能な幅で分割される。試料101に描画する場合には、XYステージ105を例えばx方向に連続移動させる。このように連続移動させながら、1つのストライプ領域20上を電子ビーム200が照射する。XYステージ105のX方向の移動は、連続移動とし、同時に主偏向器208で電子ビーム200のショット位置もステージ移動に追従させる。また、連続移動させることで描画時間を短縮させることができる。そして、1つのストライプ領域20を描画し終わったら、XYステージ105をy方向にステップ送りしてx方向(今度は逆向き)に次のストライプ領域20の描画動作を行なう。各ストライプ領域20の描画動作を蛇行させるように進めることでXYステージ105の移動時間を短縮することができる。
【0029】
ここで、図3の例では、例えば、下から第2番目のストライプ領域20だけ、多重度N=2(2回描画)が必要で、他のストライプ領域20では多重度N=1(1回描画)で良い場合を示している。かかる場合、実施の形態1では、1層目のストライプレイヤL1として、すべてのストライプ領域20を描画する。そして、2層目のストライプレイヤL2では、下から第2番目のストライプ領域22だけ描画する。このように、描画条件が同じチップ内或いは描画条件が同じ描画グループ内であっても、一部のストライプ領域だけ局所的に必要に応じて多重度を増減させることで、低い多重度に設定される領域の描画回数を減らすことができる。従来、1つでも多重度N=2(2回描画)が必要な領域があればすべてのストライプ領域20について多重度N=2(2回描画)で描画していたが、実施の形態1のように不要な領域について多重度を減らし、逆に必要な領域について多重度を増やすことで、ストライプ間でのつなぎ精度を保ち、かつヒーティング効果削減を達成できつつ描画時間を短縮できる。描画順序は、1層目のすべてのストライプ領域20を描画した後で、2層目のストライプ領域22を描画しても良いし、下から順にストライプ領域20を描画していき、下から第2番目のストライプ領域20について1層目分の描画の後、続けて2層目分の描画を行なっても良い。
【0030】
図4は、実施の形態1におけるSFレイヤと描画手順とを説明するための概念図である。図4では、多重度可変領域として、例えば、SF領域30を設定した場合を示している。各ストライプ領域20は、例えば正方形のメッシュ状の複数の小領域(SF:サブフィールド)に仮想分割される。かかるSF領域30のサイズは、副偏向器209で偏向可能なサイズとなる。分割される偏向領域としては、SFが最小の偏向領域となる。
【0031】
ここで、図4の例では、例えば、1列目の下から第3,4番目のSF領域30だけ、多重度N=2(2回描画)が必要で、他のSF領域30では多重度N=1(1回描画)で良い場合を示している。かかる場合、実施の形態1では、1層目のSFレイヤL1として、すべてのSF領域30を描画する。そして、2層目のSFレイヤL2では、1列目の下から第3,4番目のSF領域32だけ描画する。このように、描画条件が同じチップ内或いは描画条件が同じ描画グループ内であっても、一部のSF領域だけ局所的に必要に応じて多重度を増減させることで、低い多重度に設定される領域の描画回数を減らすことができる。従来、1つでも多重度N=2(2回描画)が必要な領域があればすべてのSF領域30について多重度N=2(2回描画)で描画していたが、実施の形態1のように不要な領域について多重度を減らし、逆に必要な領域について多重度を増やすことで、SF間のつなぎ精度を保ち、かつヒーティング効果削減を達成できつつ描画時間を短縮できる。描画順序は、左側の列から右の列に向かって順に描画され、各列では例えば下から上に向かって順に描画される。図4の例では、1列目の下側のSFから上側に向かって(y方向に向かって)順に描画され、1列目の1層目の描画(図4では1〜6の順)が終了した後に、1列目の2層目の描画(図4では7,8の順)がおこなわれる。そして、1列目が終了後、2列目のSFを同様に順に描画していく。
【0032】
図5は、実施の形態1におけるショットレイヤと描画手順とを説明するための概念図である。図5では、多重度可変領域として、例えば、図形パターン40等で示すショット領域を設定した場合を示している。各SF領域30内では、副偏向器209で各図形位置に所望の形状およびサイズに可変成形された電子ビーム200がショットされる。図5の例では、正方形の図形パターン40と長方形の図形パターン41をショットする場合を示しいている。
【0033】
ここで、図5の例では、例えば、図形パターン40だけ、多重度N=2(2回描画)が必要で、他の図形パターン41では多重度N=1(1回描画)で良い場合を示している。かかる場合、実施の形態1では、1層目のショットレイヤL1として、すべての図形パターン40,41を描画する。そして、2層目のショットレイヤL2では、図形パターン40の位置に図形パターン42だけ描画する。このように、描画条件が同じチップ内或いは描画条件が同じ描画グループ内であっても、一部のショットだけ局所的に必要に応じて多重度を増減させることで、低い多重度に設定されるショット領域の描画回数を減らすことができる。従来、1つでも多重度N=2(2回描画)が必要な領域があればすべてのショットについて多重度N=2(2回描画)で描画していたが、実施の形態1のように不要な領域について多重度を減らし、逆に必要な領域について多重度を増やすことで、例えばショット間のつなぎ精度を保ち、かつヒーティング効果削減を達成できつつ描画時間を短縮できる。描画順序は、特に指定はないが、例えば、図形パターン40を描画後に、続けて図形パターン41を描画し、その後、図形パターン42を描画する。
【0034】
以下、チップ内でかかる領域によって異なる多重度を設定する方法を工程に沿って説明する。
【0035】
メッシュ分割工程(S102)として、分割部50は、記憶装置142から判定領域情報を読み出し、かかる判定領域情報に定義されたサイズで、パターン形成されるチップ領域を複数のメッシュ領域(小領域:判定領域)に仮想分割する。また、分割部50は、記憶装置142から多重度可変領域情報を読み出し、かかる多重度可変領域に定義されたサイズで、パターン形成されるチップ領域を複数のメッシュ領域(小領域:多重度可変領域)に仮想分割する。多重度可変領域は、上述した電子ビーム200が照射される図形パターン40等で示す複数のショット領域と、少なくとも1つのショット領域で構成される複数のSF領域と、1つが複数のSF領域30で構成される複数のストライプ領域20と、のうちの少なくとも1つが用いられる。すなわち、多重度可変領域は、SF領域30とストライプ領域20との組み合わせであってもよい。後述するように、多重度可変領域毎に多重度が改めて設定されることになる。
【0036】
図6は、実施の形態1における判定領域メッシュの一例を示す図である。メッシュ状に分割された判定領域12のサイズは、例えば、SFと同じサイズであってもよいし、SFよりも大きい或いは小さいサイズであってもよい。例えば、10μmのサイズのメッシュ領域に分割する。
【0037】
パターン密度算出工程(S104)として、パターン密度算出部52は、記憶装置140からチップデータを読み出し、所定のサイズの近接効果メッシュ毎に、メッシュ領域内のパターンの近接効果密度を算出する。ここで、近接効果密度U(x)は、近接効果メッシュ内のパターン面積密度ρ(x)に分布関数g(x)を近接効果の影響範囲以上の範囲で畳み込み積分した値で定義される。近接効果メッシュは、近接効果の影響範囲の例えば1/10程度のサイズが好適であり、例えば、1μm程度のサイズが好適である。xは位置を示すベクトルとする。
【0038】
照射量密度算出工程(S106)として、照射量密度算出部54は、単位面積あたりの照射量(照射量密度)を算出する。ここでは、近接効果、かぶり、或いはローディング効果といった要素に起因した寸法変動分を照射量で補正する。よって、かかる寸法変動分が補正された照射量を算出する。例えば、近接効果を補正した照射量密度D(x,U)は、基準照射量Dbaseと、近接効果補正係数η(x)に依存した近接効果補正照射量Dp(η(x),U(x))を用いて、以下の式(1)で求めることができる。
(1) D(x,U)=Dbase・Dp(η(x),U(x))
【0039】
照射量算出工程(照射量マップ作成工程)(S106)として、照射量算出部56は、各判定領域12内の照射量を算出する。ここでは、各判定領域12内に配置される図形パターン面積に照射量密度D(x,U)を乗じることで算出できる。そして、照射量算出部56は、判定領域12を単位領域として、判定領域12毎に、照射量が定義される照射量マップを演算し、作成する。照射量算出部56は、照射量マップ演算部の一例となる。
【0040】
多重度設定工程(S108)として、多重度設定部60は、チップ領域10が仮想分割された複数の多重度可変領域(小領域)の少なくとも一部に他とは異なる多重度が設定されるように、多重度可変領域毎に当該多重度可変領域内のパターンを描画するための多重度を設定する。また、多重度設定部60は、照射量マップに定義された各照射量を用いて、当該多重度可変領域内のパターンを描画するための多重度を設定する。特に、描画1回当たりの照射量が照射量しきい値A(閾値)より大きくならないように各多重度可変領域の多重度を設定する。具体的には、以下のように動作する。
【0041】
判定工程(S108)として、判定部58は、記憶装置142から照射量しきい値Aを読み出し、判定領域12毎に、照射量マップに定義された当該判定領域12の照射量Dが照射量しきい値A(閾値)よりも大きいかどうかを判定する。
【0042】
判定領域多重度算出工程(S112)として、多重度算出部62は、判定領域12毎に、描画1回あたりの照射量が照射量しきい値Aより大きくならない範囲での多重度N’(但し、N’>1)を算出する。判定工程(S108)でD>Aの場合、多重度算出部62は、まず、描画1回あたりの照射量が照射量しきい値Aより大きくならない範囲での最小多重度となる多重度N’を算出する。判定工程(S108)でD>Aではない場合、多重度算出部62は、多重度N’=1と算出する。
【0043】
可変領域多重度算出/設定工程(S114)として、多重度算出/設定部64は、記憶装置142から多重度可変領域情報を読み出し、多重度可変領域情報に示された多重度可変領域毎に、多重度可変領域内に位置する、或いは多重度可変領域と重なる判定領域で算出された多重度N’の最大値N”を算出する。そして、多重度算出/設定部64は、記憶装置142から多重度情報を読み出し、多重度最大値N”と多重度情報が示す多重度Nを比較する。多重度最大値N”が多重度Nより小さい場合、多重度算出/設定部64は、記憶装置142から可否フラグを読み出し、可否フラグに基づいて多重度を低くしてよい場合には当該多重度可変領域の多重度をN”と設定する。可否フラグにより、若しくはフラグが定義されておらず多重度を低くすることが許可されていない場合には当該多重度可変領域の多重度をNと設定する。また、多重度最大値N”が多重度Nより小さくない場合、多重度算出/設定部64は、当該多重度可変領域の多重度をN”と設定する。
【0044】
以上のように構成することで、多重度最大値N”が多重度Nより小さい場合で可否フラグに基づいて多重度を低くしてよい場合には、当該多重度可変領域の多重度を入力された多重度Nよりも低くできる。その結果、低くした多重度可変領域の描画回数が減るので描画時間を短縮できる。逆に、判定工程(S108)でD>Aの場合で多重度最大値N”が多重度Nより小さくない場合、局所的に多重度を増やすことができ、ヒーティング効果による寸法変動を抑制できる。
【0045】
ショットデータ生成工程(S116)として、描画データ処理部66は、チップデータを記憶装置140から読み出し、複数段の変換処理を行なって、ストライプ領域毎にショットデータを作成し、記憶装置144に格納する。そして、ショットデータは、多重度可変領域毎に可変に設定された多重度に沿って生成される。すなわち、多重度可変領域がストライプ領域であれば、ストライプレイヤが多層になる。多重度可変領域がSF領域であれば、SFレイヤが多層になる。多重度可変領域がショット領域であれば、ショットレイヤが多層になる。
【0046】
そして、描画工程(S118)として、制御回路120は、設定された多重度で構成されたショットデータを記憶装置144から読み出し、描画部150を制御して、電子ビーム200を用いて、設定された多重度で各多重度可変領域内のパターンを描画する。描画部150は、具体的には以下のように動作する。
【0047】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料101の所望する位置に照射される。図1では、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いた場合を示している。かかる場合には、主偏向器208でストライプ領域を仮想分割した小領域となるサブフィールド(SF)の基準位置にステージ移動に追従しながら電子ビーム200を偏向し、副偏向器209でSF内の各照射位置にかかるビームを偏向すればよい。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、チップを多重描画する場合でも描画時間の低減を図ることができる。
【0049】
ここで、上述した例では、描画処理を開始後に多重度の計算を行なったがこれに限るものではない。実際の描画データ処理では、照射量密度算出の際、例えば、近接効果補正用に細かいメッシュ領域単位で計算をおこなう。すなわち、近接効果計算に近接効果の影響範囲の例えば1/10程度のサイズのメッシュを用いるため近接効果が補正された照射量密度算出に時間がかかる。そこで、描画処理を開始する前に予めもっと粗いメッシュサイズで照射量密度を算出し、かかる照射量密度を用いた照射量マップから多重度を設定してもよい。そして、予め、設定された多重度のストライプレイヤ数やSFレイヤ数を調整しておいてもよい。或いは、両者を組み合わせてもよい。組み合わせることで、描画処理を開始する前に予め低精度の多重度を求めておき、描画処理の開始後に変更が必要な領域のみ多重度の再設定を行うことができる。その結果、多重度設定を高精度に行うことができる。
【0050】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述した例では、照射量密度に照射面積を乗じた照射量と照射量しきい値Aとの比較により多重度を算出していたが、これに限るものではない。例えば、照射量密度と照射量密度しきい値との比較により多重度を算出してもよい。或いは、パターン面積密度とパターン面積密度しきい値との比較により多重度を算出してもよい。
【0051】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0052】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0053】
10 チップ領域
12 判定領域
20,22 ストライプ領域
30,32 SF領域
40,41,42 図形パターン
50 分割部
52 パターン密度算出部
54 照射量密度算出部
56 照射量算出部
58 判定部
60 多重度設定部
62 多重度算出部
64 多重度算出/設定部
66 描画データ処理部
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機ユニット
111 メモリ
120 制御回路
140,142,144 記憶装置
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203,410 第1のアパーチャ
204 投影レンズ
205 偏向器
206,420 第2のアパーチャ
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
330 電子線
411 開口
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン形成されるチップ領域を複数の小領域に仮想分割する分割部と、
前記チップ領域が仮想分割された前記複数の小領域の少なくとも一部に他とは異なる多重度が設定されるように、前記小領域毎に当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定する設定部と、
前記小領域毎に、荷電粒子ビームを用いて、設定された多重度で当該小領域内のパターンを描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
照射量が定義される照射量マップを演算する照射量マップ演算部をさらに備え、
前記設定部は、前記照射量マップに定義された各照射量を用いて、当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記照射量マップに定義された各照射量が閾値よりも大きいかどうかを判定する判定部をさらに備え、
前記設定部は、描画1回当たりの照射量が前記閾値より大きくならないように前記多重度を設定することを特徴とする請求項2記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記多重度がそれぞれ設定される前記複数の小領域として、荷電粒子ビームが照射される複数のショット領域と、少なくとも1つのショット領域で構成される複数のサブフィールド領域と、1つが複数のサブフィールド領域で構成される複数のストライプ領域と、のうちの少なくとも1つが用いられることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
パターン形成されるチップ領域を複数の小領域に仮想分割する工程と、
前記チップ領域が仮想分割された前記複数の小領域の少なくとも一部に他とは異なる多重度が設定されるように、前記小領域毎に当該小領域内のパターンを描画するための多重度を設定する工程と、
前記小領域毎に、荷電粒子ビームを用いて、設定された多重度で当該小領域内のパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−15244(P2012−15244A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148841(P2010−148841)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】