説明

荷電粒子ビーム装置およびその運転方法

【課題】
荷電粒子ビームの損失を低減した荷電粒子ビーム装置とその運転方法を提供する。
【解決手段】
照射される荷電粒子ビームのエネルギー等の患者情報に基づき予め、演算装置131で各層の深さに応じて照射に適したビームエネルギーEiを求める。制御装置132は、周回する荷電粒子ビームをビームエネルギーEiまで加速するために、偏向電磁石146,4極電磁石145に電流を供給するように、高周波加速空胴147に電力を供給するように、加速器用電源装置165を制御する。本発明によれば、荷電粒子ビームの損失を少なくして、均一な照射野を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを癌治療や患部の診断に利用する荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の荷電粒子ビーム装置は、実公平5−40479号公報に記載されている。この従来技術を図17を用いて説明する。
【0003】
図17において、荷電粒子ビーム82はz方向に進む。x方向走査電磁石80,y方向走査電磁石81に、位相差が90°の正弦波電流を流すと、それぞれの電磁石に発生する磁場によって、荷電粒子ビームは円形に走査される。円形に走査される荷電粒子ビームを散乱体83に当てると荷電粒子ビームの径は増大されるので、照射領域での線量分布は図3(a)のようになる。2rにわたる領域では照射線量は均一になるが、2rより外側になるほど照射線量は減少して不均一である。従って、不均一な照射領域をコリメータでカットし、照射線量の均一な照射領域のみを患部へ照射していた。
【0004】
また、特開平7−275381号公報は、患部の形状に合わせて電磁石を制御することにより、照射範囲を任意の形状に成形することを記載する。
【0005】
【特許文献1】実公平5−40479号公報
【特許文献2】特開平7−275381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術では、不均一な照射領域をコリメータでカットしているので、荷電粒子ビームの損失が多い。また、広い照射野を得るためには、ビーム径を増加させる散乱体83を厚くしなくてはならず、荷電粒子ビームエネルギーの損失が大きくなる問題がある。
【0007】
本発明の目的は、荷電粒子ビームの損失を低減した荷電粒子ビーム装置とその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の特徴は、散乱体が荷電粒子ビームの径を拡大し、出射切り替え手段が荷電粒子ビームの出射および停止を切り替え、電磁石が荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定し、制御装置が荷電粒子ビームを停止中に電磁石を制御して照射位置または照射範囲を変更させることにある。
【0009】
この特徴によれば、出射切り替え手段が荷電粒子ビームの出射を停止している間に、制御装置が照射位置または照射範囲を変更させて荷電粒子ビーム照射対象に照射するので、照射対象には照射位置または照射範囲ごとに荷電粒子ビームが照射され、照射対象の全域を覆うように散乱体で拡大された荷電粒子ビームを拡大する場合に比べて、照射対象の回りにできる不均一な照射領域を小さくでき、荷電粒子ビームの損失を低減できる。また、散乱体を用いない場合に比べて、ビーム径が大きいので照射位置または照射範囲の変更回数が少なく、制御が簡単である。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、制御装置が拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて照射位置または照射範囲を変更することにあり、散乱体で拡大された荷電粒子ビームの照射線量は照射位置を中心として径方向にほぼガウス分布であるので、荷電粒子ビームが重なって照射線量が均一な照射領域をつくることができ、照射対象に均一に荷電粒子ビームを照射できる。
【0011】
本発明の他の特徴は、目標照射量設定装置が照射対象の照射領域における目標照射量を定め、照射量測定装置が各照射領域における荷電粒子ビームの照射量を測定し、出射切り替え手段が目標照射量と照射量測定装置で測定された照射量とに基づいて荷電粒子ビームの出射および停止を切り替えることにある。
【0012】
この特徴によれば、照射領域の照射量が目標照射量に達するまで出射切り替え手段が照射を継続させるので、荷電粒子ビームの強度が時間的に変化した場合でも、照射対象にビームの密度を一様に照射できる。
【0013】
また、出射切り替え手段が、荷電粒子加速器を周回する前記荷電粒子ビームのベータトロン振動の周波数を含む高周波電磁界を前記荷電粒子ビームに加える高周波印加装置であれば、荷電粒子加速器を周回する荷電粒子ビームのベータトロン振動が共鳴状態であるときに、印加される高周波電磁界により荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅が増加して共鳴の安定限界を超え、荷電粒子ビームは荷電粒子加速器から出射される。このとき、荷電粒子ビームは一定に出射されるので、一様なビームの密度で荷電粒子ビームを照射対象に照射できる。
【0014】
本発明の他の特徴は、エネルギー変化手段が荷電粒子ビームのエネルギーを変化させることにあり、照射停止中に荷電粒子ビームのエネルギーを変化させて、照射対象の照射領域を変更することができる。
【0015】
本発明の他の特徴は、荷電粒子加速器が荷電粒子ビームの出射および停止を切り替える出射切り替え手段を有し、荷電粒子ビーム輸送系が荷電粒子ビームの輸送および停止を切り替える輸送切り替え装置とを有し、照射装置は、荷電粒子ビームを拡大する散乱体と、荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定する電磁石と、拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて照射位置または照射範囲を変更する制御装置を備えることにある。
【0016】
この特徴によれば、出射切り替え手段が荷電粒子加速器を周回する荷電粒子ビームを照射装置へ出射し、かつ、輸送切り替え装置が荷電粒子ビームを照射装置へ輸送すれば、荷電粒子ビームは照射装置において照射対象に照射される。出射切り替え手段が荷電粒子加速器から照射装置への荷電粒子ビームの出射を停止、または、輸送切り替え装置が荷電粒子ビームを停止すれば、荷電粒子ビームの照射対象への照射も停止される。照射の切り替えが2つの切り替え手段によって行われるから、より安全性が高い。また、出射切り替え手段もしくは輸送切り替え装置がビームの出射を停止し、制御装置が散乱体で拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて次の照射位置または照射範囲を変更し、それぞれの位置で等しい線量を照射すると、散乱体で拡大された荷電粒子ビームの照射線量は照射位置を中心として径方向にほぼガウス分布であるので、荷電粒子ビームが重なって照射線量が均一な照射領域をつくることができ、照射対象に均一に荷電粒子ビームを照射できる。また、均一な照射領域の周りにできる不均一な照射領域を小さくできるので、荷電粒子ビームの損失を低減できる。また、散乱体を用いない場合に比べて、ビーム径が大きいので照射位置または照射範囲の変更回数が少なく、制御が簡単である。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、患者の動きを検出する動き検出手段を備え、制御装置が、動き検出で検出された患者の動きに基づいて、出射切り替え手段を制御することにあり、患者の呼吸,咳等に起因する体の動きを検知して、患部がほぼ静止している時に荷電粒子ビームを照射し、照射対象を精度良く照射することができる。
【0018】
また、荷電粒子ビームによる癌治療では、照射対象の深さによって照射する荷電粒子ビームのエネルギーを変える必要がある。この場合、荷電粒子加速器を周回する荷電粒子ビームのエネルギーを加速段階で変更するか、照射装置の荷電粒子ビームが通過する所にグラファイトなどの板上の物質を置いて、出射された荷電粒子ビームのエネルギーを変えて照射する。
【0019】
上記目的を達成する本発明の特徴は、散乱体が荷電粒子ビームの径を拡大し、ビーム出射手段が荷電粒子加速器から荷電粒子ビームを出射し、電磁石が荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定し、制御装置が荷電粒子加速器の入射運転,加速運転、または減速運転中に電磁石を制御して照射位置または照射範囲を変更させることにある。
【0020】
この特徴によれば、ビーム出射手段が荷電粒子ビームを出射した後、荷電粒子加速器が減速運転,ビーム入射運転、または加速運転していてビームが出射されていない間に、制御装置が照射位置または照射範囲を変更させて荷電粒子ビーム照射対象に照射するので、照射対象には照射位置または照射範囲ごとに荷電粒子ビームが照射され、照射対象の全域を覆うように散乱体で拡大された荷電粒子ビームを拡大する場合に比べて、照射対象の回りにできる不均一な照射領域を小さくでき、荷電粒子ビームの損失を低減できる。また、散乱体を用いない場合に比べて、ビーム径が大きいので照射位置または照射範囲の変更回数が少なく、制御が簡単である。
【0021】
上記目的を達成する本発明の特徴は、散乱体が荷電粒子ビームの径を拡大し、キッカー電磁石が荷電粒子ビームを周回軌道から出射軌道に移動させ、電磁石が荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定し、制御装置が拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて荷電粒子加速器の入射運転,加速運転、または減速運転中に電磁石を制御して照射位置または照射範囲を変更することにある。
【0022】
この特徴によれば、キッカー電磁石が荷電粒子ビームを周回軌道から出射軌道に移動させて出射した後、荷電粒子加速器が減速運転,ビーム入射運転、または加速運転していてビームが出射されていない間に、制御装置が拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて照射位置または照射範囲を変更させて荷電粒子ビーム照射対象に照射するので、照射対象には照射位置または照射範囲ごとに荷電粒子ビームが照射され、照射対象の全域を覆うように散乱体で拡大された荷電粒子ビームを拡大する場合に比べて、照射対象の回りにできる不均一な照射領域を小さくでき、荷電粒子ビームの損失を低減できる。また、散乱体を用いない場合に比べて、ビーム径が大きいので照射位置または照射範囲の変更回数が少なく、制御が簡単である。また、散乱体で拡大された荷電粒子ビームの照射線量は照射位置を中心として径方向にほぼガウス分布であるので、荷電粒子ビームが重なって照射線量が均一な照射領域をつくることができ、照射対象に均一に荷電粒子ビームを照射できる。
【0023】
また、キッカー電磁石が励磁されると直ちに荷電粒子ビームは出射され、キッカー電磁石が励磁される時間はビームが周回軌道を1周する程度の時間であるから、加速器を周回する荷電粒子はこの時間ですべて出射される。その後、荷電粒子加速器が減速運転,ビーム入射運転、または加速運転している間に、照射位置または照射範囲が変更されるから、ビームが周回軌道を1周する程度の短い時間に出射されるビームを連続して利用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、照射対象には照射位置または照射範囲ごとに荷電粒子ビームが照射されるので、照射対象の全域を覆うように散乱体で拡大された荷電粒子ビームを拡大する場合に比べて、照射対象の回りにできる不均一な照射領域を小さくでき、荷電粒子ビームの損失を低減できる。また、散乱体を用いない場合に比べて、ビーム径が大きいので照射位置または照射範囲の変更回数が少なく、制御が簡単である。
【0025】
また、散乱体で拡大された荷電粒子ビームの照射線量は照射位置を中心として径方向にほぼガウス分布であるので、荷電粒子ビームが重なって照射線量が均一な照射領域をつくることができ、照射対象に均一に荷電粒子ビームを照射できる。
【0026】
また、照射領域の照射量が目標照射量に達するまで出射切り替え手段が照射を継続させるので、荷電粒子ビームの強度が時間的に変化した場合でも、照射対象にビームの密度を一様に照射できる。
【0027】
また、出射切り替え手段が荷電粒子ビームに高周波電磁界を印加することにより、荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅が増加して共鳴の安定限界を超え、荷電粒子ビームが荷電粒子加速器から出射されるので、荷電粒子ビームは一定に出射されて、一様なビームの密度で荷電粒子ビームを照射対象に照射できる。
【0028】
また、照射の切り替えが、出射切り替え手段と輸送切り替え装置の2つの切り替え手段によって行われるから、より安全性が高い。
【0029】
また、患者の呼吸,咳等に起因する体の動きを検知して、患部がほぼ静止している時に荷電粒子ビームを照射できるので、照射対象を精度良く照射することができる。
【0030】
また、キッカー電磁石が励磁されると直ちに荷電粒子ビームは出射され、ビームが周回軌道を1周する程度の時間に、加速器を周回する荷電粒子はすべて出射されて、その後、照射位置または照射範囲が変更されるので、ビームが周回軌道を1周する程度の短い時間に出射されるビームを連続して利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を用いて、本発明に係る荷電粒子ビーム装置およびその運転方法の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0032】
本発明の第1の実施例の荷電粒子ビーム装置を図1を用いて説明する。本実施例の荷電粒子ビーム装置は、前段加速器98,シンクロトロン型の加速器100,回転照射装置
110および制御装置群140から主に構成される。低エネルギーのイオンが前段加速器98から加速器100に入射され、加速器100において加速された後、治療室101の回転照射装置110に出射されて、イオンビームが治療に用いられる。
【0033】
加速器100を構成する主な機器について説明する。加速器100は、加速器100を周回する荷電粒子ビームに高周波電磁界を印加して荷電粒子ビームのベータトロン振動を増加し、共鳴の安定限界を超えさせ、荷電粒子ビームのベータトロン振動を共鳴状態にして荷電粒子ビームを加速器から出射する加速器である。
【0034】
加速器100は、周回する荷電粒子ビームを曲げる偏向電磁石146,周回する荷電粒子ビームにエネルギーを与える高周波加速空胴147,周回する荷電粒子ビームに磁界を印加してベータトロン振動を共鳴状態にする4極電磁石145や多極電磁石11、および周回する荷電粒子ビームに高周波を印加してベータトロン振動を増加する出射用高周波印加装置120を備えている。また、偏向電磁石146,4極電磁石145、および多極電磁石11に電流を、そして、高周波加速空胴147に電力を供給する加速器用電源装置
165と、出射用高周波印加装置120に電力を供給する出射用高周波電源166を備える。
【0035】
加速器100から出射されて、輸送系171で治療室101に輸送されたビームは回転照射装置110で患者に照射される。
【0036】
回転照射装置110を説明する。回転照射装置110は、加速器100から出射された出射ビームを照射対象まで輸送するための4極電磁石150および偏向電磁石151、および4極電磁石150および偏向電磁石151に電流を供給する電源装置170を備える。
【0037】
さらに、回転照射装置110は、照射ノズル111を備える。照射ノズル111には、照射位置をx方向およびy方向に動かすための電磁石220,221を備える。ここで、x方向は偏向電磁石151の偏向面に平行な方向、y方向は偏向電磁石151の偏向面に垂直な方向である。電磁石220,221には電流を供給する電源装置160が接続されている。電磁石220,221の下流には、ビーム径を増加させるための散乱体300を設置する。また、散乱体300のさらに下流には、ビームの照射線量分布を測定する線量モニタ301を設置している。また、患部の周囲の正常組織を傷めないように、照射対象である患者の直前には、コリメータ225を設置する。
【0038】
図2(b)に散乱体300で拡大されたビーム強度分布302を示す。散乱体で広げられたビームは、ほぼガウス分布をしている。従って、加速器からビームの出射を停止した状態で、図2(b)に示すように散乱体300で拡大されたビームの径の半分程度ずらし、それぞれの位置で等しい線量を照射すると、それらの重畳により、ビームの照射中心位置以外の場所でも概略等しい照射線量303になる。従って、予め、治療計画で定めた照射線量を照射したことを線量モニタ301で確認した後、加速器からのビームを停止し、照射位置を移動して、加速器からビームを出射する手順を繰り返していくことにより患部を均一に照射できる。
【0039】
一方、照射線量が不均一であるのは、2rの外側の領域である。しかし、照射線量が均一な照射領域2rを円形に荷電粒子ビームを走査して実現する場合に比べると、不均一な領域は小さい。従って、荷電粒子ビームの損失を少なくできる。また、散乱体300で広げられたビームの径は、円形に荷電粒子ビームを走査する場合に比べて小さいから、散乱体300の厚さも薄くできる。従って、荷電粒子ビームのエネルギー損失も低減できる。
【0040】
図3に体内の深さとイオンビームの照射線量の関係の例を示す。図3の照射線量のピークをブラッグピークと呼ぶ。ブラッグピークの位置は、ビームエネルギーにより変化する。そこで、照射ノズル111では、図4に示すようにビームのエネルギーとエネルギー幅を調整するためのレンジシフタ222とリッジフィルタ223及び患部の深さ方向形状に従ってエネルギーを変化させる患者ボーラス224を設置する。リッジフィルタ223は、図4のx方向に、山と谷が繰り返す構造にする。この山の部分を通過した粒子は、エネルギーの減少が大きく、谷の部分を通過した粒子は、エネルギーの減少が少なく、山の部分の高さと谷の部分の高さに応じたエネルギー分布を持たせることができる。本実施例では、荷電粒子ビームのエネルギー幅が、患部の厚さが最も大きい位置に一致するリッジフィルタを使用する。
【0041】
演算装置131は、制御装置132が患部への荷電粒子ビームの照射を制御するために必要なデータを求める装置である。
【0042】
制御装置132は、前段加速器98から加速器100への荷電粒子ビームの出射,加速器100を周回する荷電粒子ビームの加速,加速器100から回転照射装置110への荷電粒子ビームの出射および回転照射装置110における荷電粒子ビームの輸送を制御するための装置である。加速器100から回転照射装置110へ出射された荷電粒子ビームは照射対象に照射されるので、加速器100からの出射を制御することは、患部への荷電粒子ビームの照射を制御することになる。
【0043】
まず、演算装置131の役割について説明し、次に制御装置132による荷電粒子ビーム装置の運転方法を説明する。
【0044】
演算装置131は、オペレーターから患部の形状,深さ,必要な照射線量R等の患部情報と散乱体300の厚さや材料等の情報を入力される。演算装置131は、入力された患部情報と散乱体情報に基づいて、ビーム径,照射領域,ビームの水平方向の照射点,電磁石220,221に供給される電流の大きさ,患部に照射される荷電粒子ビームのエネルギー,必要な線量などを演算して求める。水平方向の照射点の間隔は、散乱体300で拡大されたビームの径の半分程度以下にすることが望ましい。
【0045】
演算装置131を図5に示す。演算装置131の照射領域形成部133は、入力された患部情報に基づいて、図6に示すように、患部を深さ方向の複数の層Li(i=1,2…N)に分割する。エネルギー計算部134は、それぞれの層の深さに応じて照射に適したビームエネルギーEiを求める。
【0046】
照射領域形成部133は、さらに、各層Liの形状に応じて、荷電粒子ビームを照射する複数の照射領域Ai,j(i=1,2…N,j=1,2…M),照射領域Ai,j の中心点
Pi,j 、およびその座標(xij,yij)を定める。荷電粒子ビームの強度は空間的にガウス分布をしているので、演算装置131は、荷電粒子ビームの径に基づいて、照射領域
Ai,j と隣接する照射領域とが重なって均一な照射線量の領域を作るように、各照射領域Ai,j の中心点Pi,j を定める。各中心点Pi,j は、ビーム径の半分程度離れているようにする。
【0047】
照射線量計算部135は、必要な照射線量Rに基づいて各中心点Pi,j の目標照射線量Rijを求める。
【0048】
電磁石電流計算136は、中心点Pi,j と荷電粒子ビームの中心と合わせるために、電磁石220,221に供給される電流IXij,IYijを定める。
【0049】
演算装置131は、各層LiにおけるビームエネルギーEi,各照射領域Ai,j ,中心点Pi,j ,中心点Pi,j の座標(xij,yij),目標照射線量Rij,電流IXij,IYijを制御装置132に出力する。
【0050】
本実施例の荷電粒子ビーム装置の運転方法を図7に示す。
【0051】
(1)制御装置132は、加速器100から回転照射装置110に出射される荷電粒子ビームを照射対象である患部まで輸送するために、4極電磁石150および偏向電磁石
151に電流を供給するように、電源装置170を制御する。
【0052】
(2)制御装置132は、前段加速器98が荷電粒子ビームを出射するように、前段加速器98を制御する。
【0053】
(3)制御装置132は、周回する荷電粒子ビームをエネルギーEiまで加速するために、偏向電磁石146,4極電磁石145に電流を供給するように、そして、高周波加速空胴147に電力を供給するように、加速器用電源装置165を制御する。
【0054】
(4)周回する荷電粒子ビームがエネルギーEiまで加速されたら、制御装置132は、周回する荷電粒子ビームのベータトロン振動を共鳴状態にするために、4極電磁石145、および多極電磁石11に電流を供給するように、加速器用電源装置165を制御する。
【0055】
4極電磁石145、および多極電磁石11に電流が供給されると、出射のための共鳴の安定限界が発生し、安定限界の外側に移動した周回荷電粒子ビームは、ベータトロン振動が共鳴状態になる。
【0056】
(5)制御装置132は、荷電粒子ビームの中心と中心点Pi,j とを合わせるために、電磁石220,221に電流IXij,IYijを供給するように、電源装置160を制御する。
【0057】
(6)制御装置132は、目標照射線量Rijと線量モニタ301で測定された中心点
Pi,j の照射線量を比較する。
【0058】
(7)中心点Pi,j の照射線量が目標照射線量Rijに達していない場合は、制御装置
132は、加速器100から回転照射装置110に出射を開始するために、出射用高周波印加装置120に電力を供給するように、出射用高周波電源166を制御する。
【0059】
出射用高周波印加装置120に電力が供給されると、周回する荷電粒子ビームに高周波電磁界が印加され、周回する荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅が増加する。ベータトロン振動振幅が増加して、ベータトロン振動の共鳴の安定限界を超えると荷電粒子ビームは、加速器100から回転照射装置110へ出射される。回転照射装置110において、荷電粒子ビームは照射領域Ai,j に照射される。
【0060】
(8)制御装置132は、目標照射線量Rijと線量モニタ301で測定された中心点
Pi,j の照射線量を比較する。中心点Pi,j の照射線量が目標照射線量Rijに達していない場合は出射を続ける。
【0061】
(9)制御装置132は、中心点Pi,j の照射線量が目標照射線量Rijに達していれば出射を停止するように、出射用高周波電源166を制御する。そして次の照射領域
Ai,j+1 の中心点Pi,j+1 に荷電粒子ビームの中心を合わせるように電源装置160を制御する。
【0062】
(10)照射領域Ai,j の照射から照射領域Ai,j+1 の照射へ移る際に、加速器100を周回しているビームを利用できる場合は、(5)からの運転を行い、ビーム量,出射時間が不足する場合は、荷電粒子ビームを補給するために(2)からの運転を行う。
【0063】
(11)層Liの全ての照射領域Ai,jで、照射線量が目標値に達したら、次の層Li+1について、(1)からの運転を行い、層Liの場合と同様に全ての照射領域Ai+1,j を照射する。
【0064】
患部の全ての層Liを照射したら、荷電粒子ビーム装置の運転を終了する。
【0065】
実施例によれば、患部の層LIを均一な照射線量で照射できる。患部の層LIの境界の外側にできる不均一な照射領域をコリメータ225で切り取るので、患部の形状に合った荷電粒子ビームの照射を行うことができる。また、切り取られる領域は、従来の円形に荷電粒子ビームを走査する場合に比べて小さいので、少ないビーム損失で治療照射を行える。また、荷電粒子ビームの照射位置設定を2台の電磁石で行っているが、患者ベッド112を移動できる構造とし、制御装置132から制御して照射位置を設定するようにしてもよい。
【0066】
また、散乱体300を使用しないと、照射される荷電粒子ビームの径は小さいので、均一な照射強度分布を得るためには照射位置間隔を極めて小さくとる必要が生じ、治療計画及び照射制御が極めて複雑になる。本実施例では、散乱体300の使用により、荷電粒子ビームは、概略ガウス分布になるとともに、ビーム径を適切な大きさに増加できるため、照射位置間隔を極めて小さくとることなく、均一な照射線量分布を実現できる。
【0067】
以上述べたように、本実施例の荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームの損失を低減して、均一な照射野を形成することができる。
【0068】
また、本実施例によれば、照射目標が複雑な形状をしている場合にも、精度よく患部を照射できる。また、照射線量が目標に達するまで照射を継続するため、ビーム強度が時間的に変化した場合でも、患部にビームの密度を一様に照射できる。
【0069】
本実施例では、加速器にシンクロトロンを使用したが、図8に示すように、加速器にサイクロトロン172を使用することもできる。サイクロトロン172からのビームの出射,停止は、制御装置132からの信号により偏向器175用の偏向器電源174を制御し、イオン源173からの荷電粒子ビームの供給と停止により行う。
【実施例2】
【0070】
次に、本発明の第2の実施例を説明する。本実施例の機器構成は、第1の実施例と同様である。ただし、本実施例では、患部の各層Liの照射領域をx方向には分割せず、図9に示すように、y方向にのみ分割する。すなわち、照射領域Ai,j はx方向に広い。照射領域Ai,j を照射するときは、電磁石220がつくる磁場の強度を変化させて、荷電粒子ビームをx方向に走査して照射する。
【0071】
演算装置131は、荷電粒子ビームの径に基づいて、照射領域Ai,j と隣接する照射領域とが重なって均一な照射線量の領域を作るように、各照射領域Ai,j の中心点Pi,j を定める。各中心点Pi,j は、ビーム径の半分程度離れているようにする。
【0072】
そして、演算装置131は、各照射領域Ai,j のx方向の広がりに基づいて、電磁石
220の磁場強度を変化させる大きさΔIXijを求める。そして、実施例1の場合と同様に、各層LiにおけるビームエネルギーEi,各照射領域Ai,jとその中心点Pi,j(xij,yij),目標照射線量Rij,電流IXij,IYijを求め、これらとΔIXij を制御装置132に出力する。
【0073】
本実施例の荷電粒子ビーム装置の運転方法を図10に示す。(7)以外は第1の実施例と同じである。
【0074】
(7)で、制御装置132は、加速器100から回転照射装置110に出射を開始するために、出射用高周波印加装置120に電力を供給するように、出射用高周波電源166を制御するとともに、荷電粒子ビームをx方向に走査して照射するために電磁石220の電流IXij がΔIXij の範囲で変化するように、電源装置160を制御する。
【0075】
本実施例では、照射領域Ai,j を照射するときに、電磁石220がつくる磁場の強度を変化させて、荷電粒子ビームをx方向に走査して照射するが、電磁石221がつくる磁場の強度を変化させて、荷電粒子ビームをy方向に走査して照射するようにしてもよい。
【0076】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果が得られるとともに、y方向(またはx方向)のみで荷電粒子ビームの出射と停止の切り替えが行われるので、第1の実施例よりも照射時間を短縮できる。
【実施例3】
【0077】
次に、本発明の第3の実施例を説明する。本実施例では、図1と同じ構成の荷電粒子ビーム装置を用いるが、照射ノズル111の構成とその制御装置132が異なる。図11に本実施例の照射ノズル111を示す。
【0078】
本実施例では、散乱体300を、第1の実施例よりも薄くする。散乱体300で拡大された荷電粒子ビームの径は、第1の実施例の場合に比べて小さくなるので、照射領域
Ai,j の数は増加する。一方、ビームの径の広がりは小さいので、実施例1で使用した患者コリメータを使用しない。また、同様に、実施例1に比べてビーム径が小さくなるため、第1の実施例で使用したリッジフィルタ及びボーラスを使用しない。
【0079】
また、第1の実施例では、加速器100において荷電粒子ビームのエネルギーをEiにしているが、本実施例では、制御装置132が加速器100からのビーム出射を停止中にレンジシフタ222の厚さを変更することによって、荷電粒子ビームのエネルギーをEiにする。
【0080】
本実施例の荷電粒子ビーム装置の運転方法を図12に示す。(3)および(4)以外は第1の実施例と同じである。
【0081】
(3)制御装置132は、各層のビームエネルギーEiよりも大きい定格エネルギーEまで周回する荷電粒子ビームを加速するために、偏向電磁石146,4極電磁石145に電流を供給するように、そして、高周波加速空胴147に電力を供給するように、加速器用電源装置165を制御する。そして、定格エネルギーEをビームをエネルギーEiまで低減するように、レンジシフタ222の厚さを調整する。
【0082】
(4)周回する荷電粒子ビームがエネルギーEまで加速されたら、制御装置132は、周回する荷電粒子ビームのベータトロン振動を共鳴状態にするために、4極電磁石145、および多極電磁石11に電流を供給するように、加速器用電源装置165を制御する。
【0083】
以上述べたように、本実施例の荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームの損失を少なくして、均一な照射野を形成することができる。また、患者毎のコリメータやボーラスを使用しないで患部を精度良く照射できる。
【0084】
本実施例では、レンジシフタの厚さを一定にして照射深さ一定の状態で照射位置設定用の電磁石220,221の強度を繰り返し変更して照射し、ある深さの層を照射した後レンジシフタの厚さを変えて同様の手順を繰り返しているが、荷電粒子ビームの進行方向に平行に仮想的な層の分割を行い、電磁石220,221の強度を一定にした状態で、照射,停止その後レンジシフタの厚さを変更して照射手順を行い、ある層の照射を終えた後、電磁石220,221の強度を変更する方法でも同様の照射治療を行える。
【実施例4】
【0085】
次に、本発明の第4の実施例を説明する。本実施例の機器構成を図13に示す。機器構成が第1の実施例と異なる点は、患者の体の動きを検出する動き検出器250を設けている点と、荷電粒子ビームを照射装置へ輸送するビーム輸送系171に、荷電粒子ビームの輸送と停止を切り替える切り替え電磁石177とその電源176を設けていることで、その他の構成は、第1の実施例1と同一である。ただし、電源176は、故障して電流が流れないときは、ビームが患者に照射されないようにしておき、電流が正常に加えられたときのみ照射されるようにしておく。
【0086】
動き検出器250は、体表面に設置した歪み検出装置でも良いし、あるいは、カメラで患者の動きを検出する装置でも良い。この動き検出器250からの信号により、患者の体の動きを検出し、体の動きが少ない時のみ、患者へビームを照射する信号を出射用高周波電源166とビーム輸送系の切り替え電磁石177の電源176に送る。前記信号がビーム照射可である時のみ、出射用高周波電源166から荷電粒子ビームに高周波を加え、さらに、電源176からビーム輸送系の切り替え電磁石177に電流を加えて荷電粒子ビームが回転照射装置110へ供給されるようにする。この時の運転方法を図14に示す。運転方法の(7)および(9)以外は第1の実施例と同じである。
【0087】
(7)では、中心点Pi,j の照射線量が目標照射線量Rijに達せず、かつ、動き検出器250からの信号で、患者が静止していると判断される場合は、制御装置132は、加速器100から回転照射装置110に出射を開始するために、出射用高周波印加装置120に電力を供給するように、出射用高周波電源166を制御し、同時に、荷電粒子ビーム輸送系の切り替え電磁石177に電源176から電流を加える。ただし、動き検出器250からの信号で、患者が静止していないと判断される場合は、出射用高周波電源166と荷電粒子ビーム輸送系の切り替え電磁石177の電源を制御して、荷電粒子ビームの回転照射装置110への供給を停止する。
【0088】
(9)では、制御装置132は、中心点Pi,j の照射線量が目標照射線量Rijに達していれば、出射を停止するように、出射用高周波電源166を制御するとともに、ビーム輸送系の切り替え電磁石177の電流を止めて、荷電粒子ビームの回転照射装置110への供給を停止する。そして次の照射領域Ai,j+1 の中心点Pi,j+1 に荷電粒子ビームの中心を合わせるように電源装置160を制御する。
【0089】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果が得られるとともに、照射も切り替えが2つの切り替え手段によって行われるから、より安全性が高い。また、患部がほぼ静止している時に荷電粒子ビームを照射するので、照射対象を精度良く照射することができる。
【実施例5】
【0090】
次に、本発明の第5の実施例を説明する。本実施例の機器構成を図15に示す。機器構成が第1の実施例と異なる点は、加速器からのビーム出射にキッカー電磁石121を使う点である。患部の領域分けは実施例1と同様に図6のように行う。
【0091】
キッカー電磁石121はキッカー電磁石の電源167からパルス励磁される。制御装置132からの信号により電源167からキッカー電磁石121にパルス電流を供給されると、キッカー電磁石121はビームが周回軌道を1周する程度の時間励磁されて、周回する荷電粒子ビームに磁場を与える。周回する荷電粒子ビームは、キッカー電磁石121から磁場を与えられると直ちに周回軌道から離れて輸送系171へ出射される。ビームが周回軌道を1周する程度の時間、ビームに磁場を与えるので、加速器を周回する荷電粒子はこの時間ですべて出射される。従って、キッカー電磁石121を1回パルス励磁すると、ビーム出射は終了する。本実施例は、ビームが周回軌道を1周する程度の短い時間に出射されるビームを、連続して利用する場合に適している。
【0092】
本実施例での運転方法を図16に示す。(1)で、制御装置132からの信号により、エネルギーEiの荷電粒子ビームを輸送できるように回転照射装置110の電磁石の励磁量を設定した後、(2)から(5)で、前段加速器98からの加速器100へのビーム入射,周回する荷電粒子ビームの加速、およびキッカー電磁石121を励磁しての出射を繰り返す。(6)で各部分領域Ai,j について所定線量に達していないと判断される場合は、さらにビームの入射,加速、および出射を繰り返す。そして、(6)で部分領域Ai,j について所定線量を照射した後、制御装置132からの信号により、(4)でビーム照射位置設定用電磁石220,221の電流IXij,IYijを変化させ、照射位置を変更する。そして、(7)で層Liの照射を終了したと判断される場合は、(8)で照射層を変えて全ての層を終了するまで、ビームの入射,加速,出射を繰り返す。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1の実施例である荷電粒子ビーム装置を示す図。
【図2】散乱体で拡大されたビーム強度分布302を示す図。
【図3】体内の深さとイオンビームの照射線量の関係の例を示す図。
【図4】実施例1の照射ノズル111を示す図。
【図5】演算装置131を示す図。
【図6】第1の実施例の患部の領域分けを示す図。
【図7】第1の実施例の運転の手順を示すフローチャートを示す図。
【図8】サイクロトロン172を使用した荷電粒子ビーム装置を示す図。
【図9】第2の実施例の患部の領域分けを示す図。
【図10】第2の実施例の運転の手順を示すフローチャートを示す図。
【図11】第3の実施例の照射ノズル111を示す図。
【図12】第3の実施例の運転の手順を示すフローチャートを示す図。
【図13】第4の実施例の荷電粒子ビーム装置を示す図。
【図14】第4の実施例の荷電粒子ビーム装置の運転方法を示す図。
【図15】第5の実施例の荷電粒子ビーム装置を示す図。
【図16】第5の実施例の運転の手順を示すフローチャートを示す図。
【図17】従来の荷電粒子ビーム装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0094】
11…多極電磁石、80…x方向走査電磁石、81…y方向走査電磁石、82…荷電粒子ビーム、83,300…散乱体、98…前段加速器、100…加速器、101…治療室、110…回転照射装置、111…照射ノズル、112…患者ベッド、120…出射用高周波印加装置、121…キッカー電磁石、131…演算装置、132…制御装置、145,150…4極電磁石、146,151…偏向電磁石、147…高周波加速空胴、160,170…電源装置、165…加速器用電源装置、167,176…電源、166…出射用高周波電源、171…ビーム輸送系、172…サイクロトロン、173…イオン源、
174…偏向器電源、175…偏向器、178…切り替え電磁石、220,221…電磁石、222…レンジシフタ、223…リッジフィルタ、224…患者ボーラス、225…コリメータ、250…動き検出器、301…線量モニタ、302…拡大されたビーム強度分布、303…照射線量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子加速器を備え、前記荷電粒子加速器によって供給される荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム装置において、
荷電粒子ビームの径を拡大する散乱体と、
前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替える出射切り替え手段と、
前記荷電粒子ビームの照射位置を設定する電磁石と、
前記荷電粒子ビームを停止中に前記電磁石を制御して前記照射位置を変更させる制御装置とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記制御装置は拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて前記照射位置を変更することを特徴とする請求項1の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
荷電粒子加速器を備え、前記荷電粒子加速器によって供給される荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム装置において、
荷電粒子ビームの径を拡大する散乱体と、
前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替える出射切り替え手段と、
前記荷電粒子ビームの照射位置を設定する電磁石と、
前記荷電粒子ビームを出射中に前記電磁石の磁場強度、もしくは、前記電磁石の磁場強度の変化範囲を略一定とし、前記荷電粒子ビーム出射を停止中に前記磁場強度および前記磁場強度の変化範囲を変更する制御装置とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記制御装置は前記拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて前記磁場強度または前記変化範囲を変更することを特徴とする請求項3の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記照射対象上の照射領域における目標照射量を定める目標照射量設定手段と、前記照射領域における荷電粒子ビームの照射量を測定するビーム量測定手段とを備え、前記出射切り替え手段は、前記目標照射量と前記照射量測定手段で測定された照射量との比較に基づいて前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替えることを特徴とする請求項1の荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記出射切り替え手段は、ベータトロン振動の周波数を含む高周波電磁界を前記荷電粒子ビームに加える高周波印加装置であることを特徴とする請求項1の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
前記荷電粒子ビームのエネルギーを変化させるエネルギー変化手段を有することを特徴とする請求項1の荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
前記エネルギー変化手段は、前記荷電粒子ビームが前記荷電粒子加速器と前記照射対象との間に設けられたことを特徴とする請求項5の荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
荷電粒子加速器と、前記荷電粒子加速器から供給される荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備える荷電粒子ビーム装置において、
前記荷電粒子加速器は、前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替える出射切り替え装置を有し、
前記照射装置は、前記荷電粒子ビームの径を拡大する散乱体と、
前記照射対象に設定された複数の照射領域のうちの1つに前記荷電粒子ビームを照射するために前記荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定する電磁石と、
異なる照射領域に荷電粒子ビームを照射するために前記荷電粒子ビームを停止中に前記電磁石を制御して前記照射位置または照射範囲を変更させる制御装置とを備え、前記制御装置は前記拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて前記照射位置または照射範囲を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
荷電粒子加速器と、前記荷電粒子加速器から供給される荷電粒子ビームを前記照射対象に照射する照射装置と、前記荷電粒子加速器から出射した荷電粒子ビームを前記照射装置へ輸送する荷電粒子ビーム輸送系を備える荷電粒子ビーム装置において、
前記荷電粒子加速器は、前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替える出射切り替え手段を有し、前記荷電粒子ビーム輸送系は、ビームの輸送および停止を切り替える輸送切り替え装置を有し、前記照射装置は、前記荷電粒子ビームの径を拡大する散乱体と、前記照射対象に設定された複数の照射領域のうちの1つに前記荷電粒子ビームを照射するために前記荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定する電磁石と、該拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて前記照射位置または照射範囲を異なる照射領域に荷電粒子ビームを照射するために前記荷電粒子ビームを停止中に変更する制御装置とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
患者の動きを検出する動き検出手段を備え、前記制御装置は、前記動き検出で検出された患者の動きに基づいて、前記出射切り替え手段を制御するものであることを特徴とする請求項1または請求項5の荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
荷電粒子加速器から供給された荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム装置の運転方法において、
前記荷電粒子ビームの径を拡大するステップと、
前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替えるステップと、
前記荷電粒子ビームを停止中に照射位置または照射範囲を変更するステップとを有することを特徴とする荷電粒子ビーム装置の運転方法。
【請求項13】
前記照射位置または照射範囲を拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて設定するステップとを有することを特徴とする請求項12の荷電粒子ビーム装置の運転方法。
【請求項14】
前記荷電粒子ビームの出射および停止を切り替えるステップは、ベータトロン振動の周波数を含む高周波電磁界を荷電粒子ビームに印加するステップを含むことを特徴とする請求項12の荷電粒子ビーム装置の運転方法。
【請求項15】
荷電粒子加速器を備え、前記荷電粒子加速器によって供給される荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム装置において、
荷電粒子ビームの径を拡大する散乱体と、
前記荷電粒子ビームを出射するビーム出射手段と、
前記荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定する電磁石と、
前記荷電粒子加速器の入射運転,加速運転、または減速運転中に前記電磁石を制御して前記照射位置または照射範囲を変更させる制御装置とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
前記制御装置は拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて前記照射位置を変更することを特徴とする請求項15の荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
荷電粒子加速器と、前記荷電粒子加速器から供給される荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置とを備える荷電粒子ビーム装置において、
前記荷電粒子加速器は、前記荷電粒子ビームを周回軌道から出射軌道に移動させるキッカー電磁石を有し、
前記照射装置は、前記荷電粒子ビームの径を拡大する散乱体と、
前記照射対象に設定された複数の照射領域のうちの1つに前記荷電粒子ビームを照射するために前記荷電粒子ビームの照射位置または照射範囲を設定する電磁石と、異なる照射領域に荷電粒子ビームを照射するために前記荷電粒子加速器の入射運転,加速運転、または減速運転中に前記電磁石を制御して前記照射位置または照射範囲を変更させる制御装置とを備え、前記制御装置は前記拡大された荷電粒子ビームの径に基づいて前記照射位置または照射範囲を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
荷電粒子加速器から供給された荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム装置の運転方法において、
前記荷電粒子ビームの径を拡大するステップと、
前記荷電粒子加速器の入射運転,加速運転、または減速運転中に、照射位置または照射範囲を変更するステップとを有することを特徴とする荷電粒子ビーム装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−26422(P2006−26422A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229000(P2005−229000)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【分割の表示】特願2003−123119(P2003−123119)の分割
【原出願日】平成9年8月25日(1997.8.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】