説明

荷電粒子線装置

【課題】
本発明は電子検出器に関し、任意のエネルギーをもつ信号電子を選択的に弁別し検出することを目的とする装置である。任意のエネルギーをもつ信号電子を弁別し選択することで、そのエネルギー特有の情報を反映した像を得ることができる。
【解決手段】
信号検出器として、信号電子の入射位置の特定できる検出器を用いる。荷電粒子線の照射位置ごとに、信号電子が信号検出器に入射する入射位置の分布を取得する。入射位置の分布は、信号電子のエネルギー分布に対応する。信号電子のエネルギー分布像を取得しているので、画像処理等により考慮すべき信号電子のエネルギーを任意に変えることができる。信号電子のエネルギー領域により得られる情報が異なることから、エネルギー領域を任意に選択することで、試料の様々な特性情報を取得することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置に関し、特に試料から発生した任意のエネルギーを持つ信号電子を選択的に弁別して検出するのに好適な荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡に代表される荷電粒子線装置では、荷電粒子線を試料に照射し、照射位置から放出される二次電子や反射電子等を検出する。
【0003】
二次電子を検出して形成された二次電子像は、主に試料表面形状コントラストを有する。
【0004】
反射電子を検出して形成された反射電子像は、表面形状コントラストのほかに組成コントラストが含まれる。
【0005】
従来の走査電子顕微鏡では、二次電子や反射電子を弁別して検出するのに、複数の検出器や電極を用いたエネルギーフィルタにより電子の軌道を偏向し弁別して検出していた。
【0006】
特許文献1には、一次電子線を挟んで対向し、その間に電界を形成する電極と、電界の一次電子線に対する偏向作用に対向する偏向作用を生じる磁界を形成する磁極(直交電磁界(EXB)装置)を用いて、二次電子と反射電子を異なる角度に偏向し、二次電子と反射電子を分離して検出する電子線装置が開示されている。
【0007】
特許文献2には、エネルギーフィルタリングする電界を形成する多孔電極を用いて、二次電子や反射電子をエネルギー弁別して検出する電子線装置が開示されている。
【0008】
特許文献3には、反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極を用いて、反射電子または二次電子を高効率に検出する電子線装置が開示されている。
【0009】
これらの文献に開示された技術によれば、エネルギーの違いから、二次電子と反射電子を異なる軌道に分離、あるいは併せて検出することが可能になる。
【0010】
【特許文献1】特開平10−61897号公報
【特許文献2】特願2001−573514号公報
【特許文献3】特願2000−572892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の文献に開示された技術によれば、信号電子を検出する際は、電子のエネルギーの違いから、二次電子と反射電子を異なる軌道に分離、あるいは併せて検出する。しかし、複数の検出器や電極を用いて二次電子や反射電子を弁別し検出しているため、弁別するためのエネルギーのしきい値は検出器や電極の構造により決定されていた。そのため、任意のエネルギー範囲を変更しようとしても、範囲の制約があるなどの問題があった。
【0012】
また、従来の検出器では、二次電子と反射電子の分離検出など、エネルギー差の大きな信号電子の分別は行っていた。しかし、二次電子自体,反射電子自体が有するエネルギー分布については考慮されていなかった。二次電子,反射電子はそれぞれ一括して検出しており、二次電子内のエネルギー分布、反射電子内のエネルギー分布を取得することは行われていなかった。
【0013】
本発明の目的は、検出器の配置や電極の構造が簡潔で、任意のエネルギー範囲の電子を選択的に弁別して検出する電子線装置の提供にある。また、信号電子のエネルギー分布から、試料の特性を把握することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
信号検出器として、信号電子の入射位置の特定できる検出器を用いる。荷電粒子線の照射位置ごとに、信号電子が信号検出器に入射する入射位置の分布を取得する。入射位置の分布は、信号電子のエネルギー分布に対応する。
【0015】
信号電子のエネルギー分布像を取得しているので、画像処理等により考慮すべき信号電子のエネルギーを任意に変えることができる。信号電子のエネルギー領域により得られる情報が異なることから、エネルギー領域を任意に選択することで、試料の様々な特性情報を取得することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、任意のエネルギー範囲の信号電子を選択的に弁別することができる。また、信号電子のエネルギー分布に基づいて、試料の詳細な特性を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施例では、走査電子顕微鏡を用いて説明を行うが、本発明は他の荷電粒子線装置にも適用することが可能である。
【0018】
図1は本発明の実施例の概略図である。陰極1と第一陽極2に印加される電圧V1によって陰極1から放出された一次電子線3は第二陰極4に印加される電圧Vaccにより加速されて、後段の電磁レンズ系に進行する。加速電圧VaccおよびV1は、高電圧制御回路30で制御されている。一次電子線3は第一集束レンズ制御回路32で制御された第一集束レンズ5で集束される。ここで一次電子線3は対物レンズ絞り6で電子線の試料照射電流が制限されるが、電子線の中心を対物レンズ絞り6の孔中心へ通過させるために、図示しない電子線中心軸調整用アライナーと、対物レンズ絞り6上で電子線を走査するための電子線中心調整用偏向器が設けられている。さらに一次電子線3は第二集束レンズ制御回路33で制御される第二集束レンズ9で再び集束され、対物レンズ制御回路35によって制御される対物レンズ10によって試料11に細く絞られ、さらに偏向制御回路34が接続された上段偏向コイル12および下段偏向コイル13で試料11上を二次元的に走査される。
【0019】
試料11の一次電子線照射点からは、0eVより大きく、一次電子のエネルギー以下のエネルギーを持つ信号電子14が放出される。信号電子14は対物レンズ上部に配置された偏向器15によって一次電子線3に軸ずれを起こすことなく検出器16に検出され、増幅器17で増幅される。
【0020】
検出器16はCCDコントローラ36によって制御される。これを含めた各種制御回路30〜37は、装置全体を制御するコンピュータ44によって制御される。増幅された電子の信号は表示装置38の画面に試料の拡大像として表示される。コンピュータ44には、他にも表示装置38と、表示装置38上に表示された観察画面を画像情報として取得するための画像取得手段39と、画像処理手段40と、これら観察画像に対して種々の計算をするための計算手段41と、観察画像や計算結果を保存するための内部メモリ42と、観察条件などを入力するための入力手段43が接続されている。なお、表示装置は、検出した電子の検出場所を表示することもできる。
【0021】
図2は、一次電子を試料に照射したときに放出される電子のエネルギーと電子の数の関係を表した図である。放出される電子は、エネルギーにより、二次電子(SE)や反射電子(BSE),オージェ電子(AE),非弾性散乱した電子,弾性散乱した電子と呼ばれる。
【0022】
図3は、偏向器15に入射した二次電子のエネルギーと偏向角の関係である。偏向器15は、特許文献1に説明される装置である。
【0023】
偏向器15内では、低いエネルギーをもつ二次電子は広角度に偏向され、エネルギーが高くなるにつれ偏向角は小さくなる。本実施例においては、信号電子が二次電子の場合を説明したが、信号電子は反射電子,オージェ電子,非弾性散乱電子,弾性散乱電子などの負の電荷をもつ粒子であればよく、直交電磁界(EXB)装置内で粒子の持つエネルギーによって偏向角度が異なる。この関係は特に二次電子に限定するものではない。また、本実施例では、直行電磁界(EXB)装置を用いた場合について説明するが、エネルギーの異なる信号電子が異なる検出位置で検出されればよく、この条件が満たされれば、他の偏向器を用いることもできるし、偏向器を用いなくても良い。
【0024】
図7は、検出器16の一実施形態であるCCDを用いた検出器の構造の概略図である。
【0025】
検出器16の前面にはCCD52が取り付けられている。また、CCD52には加速電極51を介してシンチレータ50が固定されている。電子が加速電極51に侵入すると、電子は検出器への到達位置を保存しつつ加速され、シンチレータ50に衝突して、発光パターンが生じる。このパターンをCCD52により検出する。
【0026】
CCDを配置した検出器16の大きさは、異なるエネルギーを持つ信号電子が異なる角度に偏向しても取り込める大きさであれば良く、3mm以上の大きさであれば特に大きさは限定しない。CCD52の画像の画素数は、異なるエネルギーを持つ信号電子を分別でき、画像の取り込みが行える画素数であれば特に限定するものではない。
【0027】
CCDの取り込み可能な画像の画素数は横1500〜1700,縦1000〜1200程度である。
【0028】
図7のような信号電子検出器11の構成をとることにより、大きさは横40mm,縦30mm程度、厚みは5〜10mm程度となり、実装可能となった。従来のCCD素子を用いた検出器では、CCD素子の大きさが6μm程度であったため、シンチレータから発生した光が複数のCCD検出素子に亘って光が入射してしまうことから、光をレンズによって集束させる必要があった。そのため、シンチレータで発生した光を、シンチレータとCCD素子の間に配置したレンズにより集束させてからCCD素子に入射させており、CCDを用いた従来の検出器は大型で、実装することができなかった。
【0029】
本発明では、CCDの検出素子の大きさを従来より大きな20μm、シンチレータ50から放出した光をレンズで集束させることなく検出する構造とした。
【0030】
また、シンチレータの厚みは、CCD検出素子の大きさとの関係で決まる。シンチレータが厚すぎると、シンチレータ内で広がった光が複数のCCD検出素子に亘って入射してしまい、入射位置の精度が落ちるためである。CCD検出素子は、10ビット以上のものを用いた。
【0031】
検出器の配置は、従来の二次電子検出器と同じ位置に配置されているが、エネルギーの異なる信号電子が異なる検出位置で検出されるような検出器の配置であれば配置場所は限定されない。
【0032】
上記のような検出器で、検出器上で集計する領域を選択することで、像を構成する電子の任意のエネルギー範囲を選択できるため、これらの電子の持つ情報を選択することができ、組成コントラスト像,凹凸コントラスト像など、検出した電子の特徴を反映した像を得ることができる。
【0033】
例えば、二次電子のエネルギー領域を選択すれば試料表面の凹凸情報が得られる。高角度で散乱した反射電子は試料の組成情報、低角度で反射した反射電子は、試料の結晶方位の情報が得られる。二次電子よりエネルギーの高いオージェ電子のエネルギー領域を選択すれば、試料表面の組成情報を得ることができる。非弾性散乱した電子は試料表面の原子結合状態に依存したエネルギーを失っており、表面のバンド構造情報を持っている。
【0034】
以下、複数の実施例について説明する。
【実施例1】
【0035】
上記説明した装置構成で、帯電試料の観察に本発明を適用した場合の例について説明する。
【0036】
図4は、帯電試料101の表面近傍の断面図である。帯電試料101には、負に帯電した部位102と正に帯電した部位103があり、帯電により等電位線100で表される電界が生じる。負に帯電した部位102から発生した二次電子104と正に帯電した部位103から発生した二次電子106は、それぞれ電界から力を受ける。
【0037】
図5は、図4で説明した二次電子104,105,106のエネルギーとその数の関係である。負に帯電した部位102から発生した二次電子104は電界から力を受けエネルギーが高くなり、二次電子104のもつエネルギー分布は高い方に移動する。正に帯電した部位103から発生した二次電子106は電界から力を受けエネルギーが低くなり、二次電子106のもつエネルギー分布は低い方に移動する。
【0038】
図6は、試料から放出された二次電子の軌道を表している。二次電子のエネルギーは数十eVであり、偏向器15に1V/mm程度の電界を掛け、一次電子線が偏向されない磁場を作ったとき、図3で示された二次電子104,105,106は偏向器(本実施例では直交電磁界(EXB)装置を用いた。)15で偏向され、図3の関係から二次電子104は検出器16の上部、二次電子105は検出器16の中心、二次電子106は検出器16の下部に衝突する。なお、本実施例では信号電子として二次電子を用いたが、それ以外の電子でも可能である。
【0039】
図8は、偏向器15から検出器16を見たときの、図6で説明した二次電子104,105,106がシンチレータに作る発光パターンである。シンチレータ上方向が検出器上方向である。エネルギーの高い二次電子104は発光パターン200を形成し、シンチレータの上部が光る。エネルギーの低い二次電子105は発光パターン201を形成し、シンチレータの中心が光る。さらにエネルギーの低い二次電子106は発光パターン202を形成し、シンチレータの下部が光る。
【0040】
図9は、検出した電子信号により形成された試料像である。像206はシンチレータの上部203に衝突した電子信号により形成された像である。シンチレータ上部にはエネルギーの高い二次電子が検出される。エネルギーの高い二次電子で形成された像は、マイナスに帯電した部分が明るくなり、その他は暗くなる。
【0041】
同様に、像207はシンチレータの中心204に衝突した電子信号により形成された像である。シンチレータ中心にはエネルギーの低い二次電子が検出される。エネルギーの低い二次電子で形成された像は、帯電していない部分が明るくなり、その他は暗くなる。
【0042】
像208はシンチレータの下部205に衝突した電子信号により形成された像である。パターン下部にはエネルギーのさらに低い二次電子が検出される。エネルギーのさらに低い二次電子で形成された像は、正に帯電した部分が明るくなり、その他は暗くなる。
【0043】
このような構成によれば、これまで区別できなかった電子も区別して検出することができ、試料の帯電部位の情報を得ることができる。
【0044】
また、偏向器15を上述の条件(1V/mm程度の電界を掛け、一次電子線が偏向されない磁場を作る)に設定した場合、シンチレータの上部に衝突する信号電子は負に帯電した領域から放出される電子であり、この電子によるコントラストを黒とする。シンチレータの中心に衝突する電子は帯電していない領域から放出される電子であり、この電子によるコントラストを灰色とする。シンチレータの下部に衝突する電子は正に帯電した領域から放出される電子であり、この電子によるコントラストを白とする。このように、シンチレータのパターンの領域を帯電電圧に対応させ、像のコントラストをシンチレータの領域に対応させることで、帯電電圧を像のコントラストに対応させることができ、帯電コントラスト像209を得ることができる。このような構成によれば、これまで帯電電圧に対応させ区別できなかった電子も区別して検出することができ、試料の帯電コントラスト像を得ることができる。
【0045】
なお、選択するエネルギー領域は、予め数値として決めておいたり、分布像を見た上で決定することができる。このエネルギー領域の選択手法は、以下の実施例でも同様に適用できる。
【実施例2】
【0046】
本実施例では重金属の微粒子を内包する基材試料の極表面の構造観察に本発明を適用した場合の例について説明する。
【0047】
図10は、重金属の微粒子を内包する基材試料300の表面近傍の側面透視図である。重金属微粒子301は試料300の表面にある。重金属微粒子302は試料300の内部にある。重金属微粒子303は試料300の表面から重金属微粒子302よりさらに深い位置にある。
【0048】
図11は、重金属の微粒子を内包する基材試料300の表面の上観図である。
【0049】
図12は、図10で説明した信号電子304,305,306のエネルギーとその数の関係である。試料表面にある重金属微粒子301から発生した信号電子304は全て試料上部に放出される。従って、信号電子304は、二次電子のエネルギーと電子の数の関係307に示す灰色のエネルギー分布をもつ。
【0050】
試料表面にある重金属微粒子302から発生した信号電子305は試料表面から放出される前に試料原子と衝突を繰り返すうちにエネルギーを失い、エネルギーの低いものは試料上部に放出されない。従って、信号電子305は、二次電子のエネルギーと電子の数の関係308に示す灰色のエネルギー分布をもつ。
【0051】
試料表面にある重金属微粒子303から発生した信号電子306は試料表面から放出される前に試料原子と衝突を繰り返すうちにエネルギーを失い、エネルギーの高いもののみ試料上部に放出される。従って、信号電子306は、二次電子のエネルギーと電子の数の関係309に示す灰色のエネルギー分布をもつ。
【0052】
図13は、偏向器15から検出器16を見たときの、図10で説明した信号電子304,305,306がシンチレータに作る発光パターンである。シンチレータ上方向が検出器上方向である。信号電子304は発光パターン310を形成し、シンチレータは全体的に発光する。エネルギーの低い電子の割合が少ない信号電子305は発光パターン311を形成し、中心から上部が発光する。エネルギーの高い電子の割合が多い信号電子306は発光パターン312を形成し、上部が発光する。
【0053】
従って、重金属の粒子の深さにより、シンチレータの発光パターンが変わり、試料表面の重金属微粒子301に一次電子線を照射している時に発光パターン310が見られる。試料内部の重金属微粒子302に一次電子線を照射している時に発光パターン311が見られる。試料表面から重金属微粒子302より深い位置にある重金属微粒子303に一次電子線を照射している時に発光パターン312が見られる。
【0054】
図14は、検出した電子信号により形成された像である。信号電子316は従来の検出器で検出した場合の像である。
【0055】
信号電子317はシンチレータの下部315の出力総計によって形成された像である。シンチレータの下部には、エネルギーの低い電子が衝突するので、試料の内部で発生した二次電子は試料表面から放出せず、試料表面で発生した二次電子が検出される。すなわち、信号電子317は試料表面にある重金属の微粒子の情報が含まれている。
【0056】
信号電子318はシンチレータの中心314の出力総計によって形成された像である。シンチレータ中心には、エネルギーの高い二次電子が衝突するので、試料内部で発生した二次電子が検出される。すなわち、信号電子318は試料内部にある重金属の微粒子の情報が含まれている。
【0057】
信号電子319はシンチレータの上部の出力総計によって電子信号により形成された像である。シンチレータ上部には、エネルギーの高い二次電子が衝突するので、試料表面から深い位置で発生した二次電子が検出される。すなわち、信号電子319は試料表面から重金属微粒子302よりさらに深い位置にある重金属の微粒子の情報が含まれている。
【0058】
このような構成によれば、試料内で深さの違いによってコントラストが違う像を得ることができ、対象元素の試料内での深さを把握することができる。
【実施例3】
【0059】
本実施例では凹凸のある試料の表面の構造観察に本発明を適用した場合の例について説明する。
【0060】
図15は、凹凸のある試料400の表面近傍の断面図である。一次電子が試料に照射されると一次電子照射位置から信号電子が発生する。二次電子の発生方向は一般にcos則に従い、試料表面に対し垂直方向の速度をもつ二次電子の割合が多い。すなわち、左に傾斜した部分から発生した信号電子402は、傾斜のない部分から発生した電子の方向に対し左方向の速度をもつ割合が高い。また、右に傾斜した部分から発生した信号電子404は、傾斜のない部分から発生した電子の方向に対し右方向の速度をもつ割合が高い。
【0061】
図16は、偏向器15から検出器16を見たときの、図15で説明した信号電子401,402,403,404,405がシンチレータに作る発光パターンである。パターン上方向が検出器上方向である。左方向の速度をもつ割合の高い信号電子402は発光パターン406を形成し、左側が発光する。左右方向の速度を持つ割合の低い信号電子401,403,405は発光パターン407を形成し、中心が発光する。右方向の速度を持つ割合の高い信号電子404は発光パターン408を形成し、右側が発光する。
【0062】
図17は、検出した電子信号により形成された像である。像412はシンチレータの左側409に衝突した信号電子により形成された像である。像413はシンチレータの中心410に衝突した電子信号により形成された像である。像414はシンチレータの右側411に衝突した電子信号により形成された像である。このような構成によれば、さらに細かい試料の凹凸傾斜方向のコントラスト像やステレオスコープ像を得ることができる。
【実施例4】
【0063】
本実施例では金属合金試料の極表面の構造観察に本発明を適用した場合の例について説明する。
【0064】
図18は、金属合金試料499である。金属合金試料499には、Au500,Nb501,Mo502が混在している。
【0065】
図19は、試料から放出されたオージェ電子の軌道を表している。オージェ電子のエネルギーは数百eVであり、偏向器15に50V/mm程度の電界を掛け、一次電子が偏向されない磁場を作った時、図17で示されたAu,Mo,Nbから放出されたオージェ電子503,504,505は偏向器15で偏向され、電子503は検出器16の上部、電子504は検出器16の中心、電子505は検出器16の下部に衝突する。
【0066】
図20は、偏向器15から検出器16を見たときの、オージェ電子503,504,505が作るシンチレータに生じる発光パターンである。パターン上方向が検出器上方向である。Auのオージェ電子503は発光パターン506を形成し、シンチレータの上部が発光する。Moのオージェ電子504は発光パターン507を形成し、シンチレータの中心が発光する。Nbのオージェ電子505は発光パターン508を形成し、シンチレータの下部が発光する。
【0067】
図21は、検出した電子信号により形成される像である。像509は一次電子を照射したとき、検出される二次電子により形成される像である。像510は、シンチレータの上部550に衝突した電子信号により形成された像である。像511はシンチレータの中心551に衝突した電子信号により形成された像である。像512はシンチレータの下部552に衝突した電子信号により形成された像である。このような構成によれば、注目している元素が試料のどこに存在しているか組成情報のコントラストとして得ることができる。
【0068】
また、偏向器15を上述の条件(50V/mm程度の電界を掛け、一次電子線が偏向されない磁場を作る)に設定した場合、シンチレータの上部に衝突する信号電子はAuのエネルギーを持ったオージェ電子であり、この電子によるコントラストを白とする。シンチレータの中心に衝突する電子はMoのエネルギーを持ったオージェ電子であり、この電子によるコントラストを灰色とする。シンチレータの下部に衝突する電子はNbのエネルギーを持ったオージェ電子であり、この電子によるコントラストを黒とする。このように、シンチレータのパターンの領域をオージェ電子のエネルギーに対応させ、像のコントラストをシンチレータの領域に対応させることで、組成のコントラストに対応させることができ、組成像513を得ることができる。
【0069】
当実施例においては、試料としてAu,Mo,Nbを含む金属合金の観察例を説明したが、オージェ電子を放出する元素であれば、試料は特に限定するものではない。このような構成によれば、オージェ電子を用いることで試料の組成情報のコントラスト像を得ることができる。
【実施例5】
【0070】
本実施例では、偏向器にチャージアップ部位が生じた時に本発明を適用した場合の例について説明する。
【0071】
図22は、偏向器15周辺部を陰極1側から試料11を見たときの方向から見たときの上観図である。偏向器15にはチャージしている部分600がある。このとき信号電子は、チャージしている部分から力を受け軌道が曲がり、シンチレータの縁に衝突、または、シンチレータから外れてしまうことがある。
【0072】
図23は、偏向器15から検出器16を見たときの、信号電子が作るシンチレータ上のパターンである。パターン上方向が検出器上方向、パターン左方向が図1の検出器紙面の手前から奥方向である。パターン601は、チャージした部分600が作る電界によって信号電子が偏向された場合のシンチレータ上のパターンである。この場合、信号電子はシンチレータの中心ではなく、シンチレータの縁に衝突する。従来の検出器では、このような場合は信号電子を取りこぼしており、信号電子が偏向された原因追求が困難であったが、CCDを配置した検出器を用いることで信号電子の偏向量が測定でき、問題となるチャージの部分を容易に推測することができる。
【0073】
偏向器にチャージアップがあるかは、例えば、帯電のない平らな試料に電子線を照射して検出された二次電子の分布の中心が、検出器の中心に来るように事前に設定しておくことで達成される。偏向器にチャージアップがあれば、同様の試料を用いた場合、二次電子の分布の中心が検出器の中心に来ないので、それによりチャージアップをしていることが分かる。なお、分布像を見ることにより、偏向器のどの部分が帯電しているか把握することができる。
【0074】
また、信号電子の軌道に影響を与える要因として、装置の幾何構造上のズレや装置内の磁場があげられるが、検出器16を信号電子が偏向される原因追求の手段として使用することで、これらの信号電子の軌道に影響を与える要因の予測が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】発明を実施するための最良の形態で説明する全体構成図。
【図2】放出電子のエネルギーと電子の数の関係を表した図。
【図3】二次電子の偏向角を説明する図。
【図4】帯電試料の表面近傍の断面図。
【図5】図3の二次電子のエネルギーと電子の数の関係を表した図。
【図6】二次電子の軌道を説明する図。
【図7】検出器の構造の概略図を表す図。
【図8】電子が作るシンチレータの発光パターンを説明する図。
【図9】検出した電子信号により形成された像を説明する図。
【図10】重金属の微粒子を内包する基材試料の側面透視図。
【図11】重金属の微粒子を内包する基材試料の上観図。
【図12】図10で説明した電子のエネルギーと電子の数の関係を説明する図。
【図13】電子が作るシンチレータの発光パターンを説明する図。
【図14】検出した電子信号により形成された像を説明する図。
【図15】凹凸のある試料の断面図。
【図16】電子が作るシンチレータのパターンを説明する図。
【図17】検出した電子信号により形成された像を説明する図。
【図18】金属合金試料を説明する図。
【図19】オージェ電子の軌道を説明する図。
【図20】電子が作るシンチレータの発光パターンを説明する図。
【図21】検出した電子信号により形成された像を説明する図。
【図22】偏向器15周辺部を説明する図。
【図23】電子が作るシンチレータの発光パターンを説明する図。
【符号の説明】
【0076】
1 陰極
2 第一陽極
3 一次電子線
4 第二陰極
5 第一集束レンズ
6 対物レンズ絞り
7 電子線中心軸調整用アライナー
8 電子線中心調整用偏向器
9 第二集束レンズ
10 対物レンズ
11 試料
12 上段偏向コイル
13 下段偏向コイル
14,304,305,306,316,317,318,319,401,402,403,404,405 信号電子
15 偏向器
16 検出器
17 増幅器
30 高電圧制御回路
31 アライナー制御回路
32 第一集束レンズ制御回路
33 第二集束レンズ制御回路
34 偏向制御回路
35 対物レンズ制御回路
36 CCDコントローラ
37 試料微動制御回路
38 表示装置
39 画像取得手段
40 画像処理手段
41 計算手段
42 内部メモリ
43 入力手段
44 コンピュータ
50 シンチレータ
51 加速電極
52 CCD
100 等電位線
101 帯電試料
102 負に帯電した部位
103 正に帯電した部位
104,105,106 二次電子
200,201,202,310,311,312,406,407,408,506,507,508 シンチレータの発光パターン
203,313,550 シンチレータの上部
204,314,410,551 シンチレータの中心
205,315,552 シンチレータの下部
206,207,208,412,413,414 二次電子像
209 帯電コントラスト像
300 重金属の微粒子を内包する基材試料
301,302,303 重金属微粒子
307,308,309 電子のエネルギーと電子の数の関係図
400 凹凸のある試料
409 シンチレータの左側
411 シンチレータの右側
500 Au
501 Nb
502 Mo
503,504,505 オージェ電子
509,510,511,512 オージェ電子像
513 組成像
600 チャージした部分
601 シンチレータのパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源と、
荷電粒子源から放出された一次荷電粒子線を試料上で走査する偏向器と、
荷電粒子源から放出された一次荷電粒子線を集束する対物レンズと、
一次荷電粒子線の照射により試料から発生する信号電子を検出する検出器と、
前記検出器からの検出信号を記憶するメモリと、
前記検出信号を処理する制御装置と、
を有する荷電粒子線装置において、
前記検出器は、検出素子が平面状に配列しており、
試料上の各照射位置ごとに、当該照射位置から放出される信号電子の分布情報を前記検出器で検出し、
前記メモリは、前記照射位置と当該照射位置から放出される信号電子の分布情報を対応して記憶し、
前記制御装置は、記憶された各照射位置ごとの信号電子の分布情報に基づいて、各照射位置ごとの画素値を算出し、
さらに、前記算出した画素値を各照射位置に対応させて画像を作成することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、検出器がCCDであることを特徴とする請求項1記載の走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、検出した電子の検出場所を表示する表示装置を備えていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの二次電子の分布情報を比較し、
当該比較した分布情報に基づいて試料の帯電の情報を取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの二次電子の分布情報を比較し、
当該比較した分布情報に基づいて、試料に含有される元素の試料表面からの深さ情報を取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの信号電子の分布情報を比較し、
当該比較した分布情報に基づいて試料の形状の情報を取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとのオージェ電子の分布情報を比較し、
当該比較した分布情報に基づいて、試料に含有される元素を特定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
荷電粒子源と、
荷電粒子源から放出された一次荷電粒子線を試料上で走査する偏向器と、
荷電粒子源から放出された一次荷電粒子線を集束する対物レンズと、
一次荷電粒子線の照射により試料から発生する信号電子を検出する検出器と、
前記検出器からの検出信号を記憶するメモリと、
前記検出信号を処理する制御装置と、
を有する荷電粒子線装置において、
前記検出器は、検出素子が平面状に配列しており、
前記信号電子を前記検出器の方向に偏向する偏向器を有し、
試料上の各照射位置ごとに、当該照射位置から放出される信号電子の分布情報を前記検出器で検出し、
前記メモリは、前記照射位置と当該照射位置から放出される信号電子の分布情報を対応して記憶し、
前記制御装置は、記憶された各照射位置ごとの信号電子の分布情報に基づいて、各照射位置ごとの画素値を算出し、
さらに、前記算出した画素値を各照射位置に対応させて画像を作成することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8において、検出器がCCDであることを特徴とする請求項1記載の走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項8において、検出した電子の検出場所を表示する表示装置を備えていることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項8の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの二次電子の分布情報を比較し、
各照射位置ごとの二次電子の分布を比較し、当該比較した分布情報に基づいて試料の帯電の情報を取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項8の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの二次電子の分布情報を比較し、
各照射位置ごとの二次電子の分布を比較し、当該比較した分布情報に基づいて、試料に含有される元素の試料表面からの深さ情報を取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項8の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの信号電子の分布情報を比較し、
各照射位置ごとの信号電子の分布を比較し、当該比較した分布情報に基づいて試料の形状の情報を取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項8の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとのオージェ電子の分布情報を比較し、
各照射位置ごとのオージェ電子の分布を比較し、当該比較した分布情報に基づいて、試料に含有される元素を特定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
荷電粒子源と、
荷電粒子源から放出された一次荷電粒子線を集束する対物レンズと、
一次荷電粒子線の照射により試料から発生する信号電子を検出する検出器と、
前記検出器からの検出信号を記憶するメモリと、
前記検出信号を処理する制御装置と、
を有する荷電粒子線装置において、
前記検出器は、検出素子が平面状に配列しており、
前記信号電子を前記検出器の方向に偏向する偏向器を有し、
当該一次荷電粒子線の照射位置から放出される信号電子の分布情報を前記検出器で検出し、
当該検出された分布情報に基づいて、前記偏向器の帯電の有無を判定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
荷電粒子源から放出された一次荷電粒子線を試料上に走査するステップと、
一次荷電粒子線の照射により試料から発生する信号電子を検出するステップと、
検出された信号電子の検出位置の分布情報に基づいて、各照射位置ごとの画素値を算出するステップと、
前記算出した画素値を各照射位置に対応させて画像を作成するステップと
からなる試料像作成方法。
【請求項17】
請求項1の試料像形成方法において、
各照射位置ごとの二次電子の分布情報を比較し、当該比較した分布情報に基づいて試料の帯電の情報を表す試料像を形成することを特徴とする試料像作成方法。
【請求項18】
請求項17の荷電粒子線装置において、
各照射位置ごとの二次電子の分布情報を比較し、当該比較した分布情報に基づいて、試料に含有される元素の試料表面からの深さ情報を表す試料像を形成することを特徴とする試料像作成方法。
【請求項19】
請求項17の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとの信号電子の分布情報を比較し、
当該比較した分布情報に基づいて試料の形状を表す試料像を形成することを特徴とする試料像作成方法。
【請求項20】
請求項17の荷電粒子線装置において、
前記制御装置は、各照射位置ごとのオージェ電子の分布情報を比較し、
当該比較した分布情報に基づいて、試料に含有される元素を表す試料像を形成することを特徴とする試料像作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−135072(P2010−135072A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306952(P2008−306952)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】