説明

葛花処理物を含有する固形物

【課題】 葛花処理物(特に葛花乾燥物および葛花抽出物の乾燥物)を含有する固形物の潮解を防止して、容易に利用し得る葛花処理物を含有する固形物(例えば、粉体、錠剤、顆粒のような造粒物など)を提供すること。
【解決手段】 本発明の葛花固形物は、葛花処理物と、糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖とを含有する。すなわち、葛花処理物と、糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖とを組み合わせることによって、葛花処理物が潮解することを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葛花処理物と糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖(以下、「特定の糖類」という場合がある)とを含有する葛花固形物に関する。さらに、本発明は、葛花処理物を含有する固形物の潮解防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
葛は、マメ科の大形蔓性の植物であり、その根から採取される葛澱粉は、古くから和菓子の原料として用いられている。その根および花は、それぞれ葛根および葛花と称し、解熱薬、鎮痛薬、鎮痙薬、発汗などの症状に対する薬などの漢方薬の原料として用いられている。特に、葛花は、他のマメ科植物とは異なり、肝障害改善作用、二日酔い予防作用、尿窒素代謝改善作用など様々な作用を有することが明らかとなってきている(特許文献1〜3)。
【0003】
このように、葛花は、乾燥物自体または抽出物の乾燥粉末を漢方薬の原料などとして用いられている。しかし、葛花乾燥物および葛花抽出物の乾燥粉末は、潮解性を有する。したがって、葛花には、有用と思われる様々な成分が含まれているにもかかわらず、固形物(粉体、顆粒など)としてこれらの葛花乾燥物を利用することは困難であり、利用形態が飲料などの液状物に制限される。
【特許文献1】特許第3454718号公報
【特許文献2】特公平8−32632号公報
【特許文献3】特開昭64−68318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、葛花処理物(特に、葛花乾燥物および葛花抽出物の乾燥物)が潮解するのを防止して、葛花処理物を含有する固形物、例えば、造粒物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、葛花処理物の潮解を防止する方策について検討したところ、葛花処理物と特定の糖類とを併用することにより、葛花処理物の潮解が防止され、保存安定性に優れた固形物が得られることを見出した。
【0006】
本発明は、葛花処理物と、糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖とを含有する、葛花固形物を提供する。
【0007】
さらに、本発明は、葛花処理物を含有する固形物の潮解防止方法を提供し、該方法は、該固形物に、糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖を添加する工程を包含する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、葛花処理物を含む固形物の潮解を防止することができる。その結果、優れた保存安定性を有するため、容易に利用し得る葛花処理物を含有する固形物(例えば、粉体、錠剤、顆粒のような造粒物など)が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(葛花処理物)
葛の花部である葛花は、フラボノイド、サポニン、およびトリプトファン配糖体を含有している。本明細書において、「葛花」とは、蕾から全開した花までの段階で採取した花をいう。本発明においては、特に、蕾を用いることが好ましい。
【0010】
本明細書において、「葛花処理物」とは、葛花に乾燥処理、粉砕処理、および抽出処理のうちの少なくとも1種の処理を施して得られるものをいう。
【0011】
本明細書において、特に「葛花乾燥物」と記載する場合は、葛花を乾燥して得られた物、葛花を乾燥後破砕して得られた乾燥粉末などをいい、以下の葛花抽出物を含まない。
【0012】
本明細書において、特に「葛花抽出物」と記載する場合は、葛花の搾汁、葛花から抽出された抽出液、これらの搾汁または抽出液を濃縮した濃縮液、これらの搾汁または抽出液を乾燥して得られる乾燥粉末(抽出物粉末)などをいう。
【0013】
以下、葛花処理物である葛花乾燥物、葛花粉末(乾燥粉末および抽出物粉末)、および葛花抽出物の調製方法について説明する。
【0014】
葛花乾燥物は、葛花、好ましくは蕾の段階の葛花を、日干し、熱風乾燥などの方法により乾燥することにより得られる。好ましくは、水分含有量が、10質量%またはそれ以下となるまで乾燥される。
【0015】
葛花粉末(乾燥粉末)は、上記葛花乾燥物を粉砕して得られる。粉末化は、当業者が通常用いる方法、例えば、ボールミル、ハンマーミル、ローラーミルなどを用いて行う。
【0016】
あるいは、葛花粉末(乾燥粉末)は、採取した葛花を、マスコロイダー、スライサー、コミトロールなどを用いて破砕して葛花破砕物を得、この葛花破砕物を乾燥することによって得られる。
【0017】
葛花抽出物は、例えば、葛花、葛花破砕物、葛花乾燥物、または葛花粉末(乾燥粉末)、好ましくは葛花乾燥粉末などの葛花乾燥物に溶媒を添加し、必要に応じて加温して、抽出を行い、遠心分離または濾過により抽出液を回収することによって得られる。
【0018】
葛花抽出物を得るために用い得る溶媒としては、水、有機溶媒、含水有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどが挙げられる。これらの中で好ましくは極性有機溶媒、より好ましくはエタノール、n−ブタノール、メタノール、アセトン、プロピレングリコール、および酢酸エチルであり、最も好ましくはエタノールである。
【0019】
抽出方法としては、加熱還流などの加温抽出法、超臨界抽出法などが挙げられる。これらの抽出方法において、必要に応じて加圧して加温を行ってもよい。加温する場合、葛花に添加した溶媒が揮発するのを防ぐ必要がある。加温する場合、抽出温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、好ましくは130℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0020】
抽出時間は、抽出原料から十分に可溶性成分が抽出される時間であればよく、抽出温度などに応じて適宜設定すればよい。好ましくは30分〜48時間である。例えば、抽出温度が50℃未満の場合は、好ましくは6時間〜48時間であり、50℃以上の場合は、好ましくは30分〜24時間である。
【0021】
得られた抽出液は、必要に応じて、減圧濃縮、凍結乾燥などの方法により濃縮または乾燥して、液状、ペースト状、または粉末(抽出物粉末)としてもよい。
【0022】
(糖アルコールおよび二糖以上の糖(特定の糖類))
本明細書において、「糖アルコール」とは、糖分子のカルボニル基を還元して得られる多価アルコールを広くいう。本発明に用いられる糖アルコールとしては、エリスリトール、ペンチトール、ヘキシトール、キシリトール、ソルビトール、還元パラチノース、マルチトール(還元麦芽糖)、ラクチトール、マンニトールなどが挙げられる。
【0023】
本発明に用いられる二糖以上の糖としては、二糖、オリゴ糖、および多糖が挙げられる。二糖としては、例えば、トレハロース、スクロースなどのトレハロース型二糖(両構成単糖の還元基をもつ炭素原子がエーテル結合している二糖)およびマルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトースなどマルトース型二糖(第1の構成単糖の還元基をもつ炭素原子と第2の単糖の還元基をもたない炭素原子との間でエーテル結合している二糖)が挙げられる。オリゴ糖としては、例えば、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、パラチノース、マルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖などが挙げられる。多糖としては、例えば、1種類の構成糖からなるホモ多糖、2種類以上の構成糖からなるヘテロ多糖、中性多糖、酸性多糖、グリコサミノグリカン、デキストリン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、セルロースなどが挙げられる。
【0024】
これらの特定の糖類は、鎖状構造(マルトース、アミロース、セルロースなど)、分岐構造(アミロペクチンなど)、および環状構造(例えばシクロデキストリンなど)を有する。本発明においては、特定の糖類の構造は限定されず、特に、鎖状構造および分岐構造を有する特定の糖類が好ましい。さらに、本発明においては、水溶性の特定の糖類を用いることが好ましい。
【0025】
(その他の添加剤)
本発明の葛花固形物は、必要に応じて、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、他の食品原料、調味料、医薬品原料などの添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(A、B、B、B、B12、ナイアシン、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなど)、キチン・キトサン、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド類、これらの誘導体など)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなど)、キサンチン誘導体(カフェインなど)、脂肪酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、ケタラン、これらの塩など)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩など)、リン脂質およびその誘導体(ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)などが挙げられる。
【0026】
(葛花固形物)
本発明の葛花固形物は、上記葛花処理物および上記特定の糖類を含有し、必要に応じて、添加剤などを含有する。
【0027】
本発明の葛花固形物中に、葛花処理物は、乾燥質量換算で、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%の割合で含有される。
【0028】
本発明に用いられる特定の糖類は、葛花処理物の潮解を防止または抑制する効果の観点から、葛花処理物1質量部に対して、好ましくは0.3〜4質量部、より好ましくは0.4〜3質量部とするのがよい。
【0029】
本発明の葛花固形物が造粒物の場合、造粒物の造粒法としては、一般に用いられている造粒法を用いればよい。このような造粒法としては、例えば、転動造粒法、混合撹拌造粒法、押出し造粒法、流動層造粒法、乳化造粒法、流動造粒スプレードライヤを用いた造粒法、コーティング造粒法、圧縮造粒法、破砕造粒法などが挙げられる。本発明の葛花固形物には、これら方法で得られる造粒物のほかに、粉末、錠剤なども含まれる。
【0030】
本発明の葛花固形物は、特定の糖類を含まない葛花固形物に比べて、潮解が防止されるため、保存安定性に優れる。したがって、本発明の葛花固形物は、食品などとして容易に摂取することが可能となり、葛花に含まれる成分を効率よく摂取し得る。本発明の葛花固形物を摂取することによって、肝障害改善、美肌、アルコール代謝向上、二日酔い防止などの効果が期待できる。
【0031】
(潮解防止方法)
本発明の潮解防止方法は、葛花処理物を含有する固形物に、上記特定の糖類を添加して、葛花処理物の潮解を防止する方法である。
【0032】
上記特定の糖類を、葛花処理物を含有する固形物に添加すれば、葛花処理物の潮解が防止されるので、固形物の保存安定性が向上する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、この範囲に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1:造粒物の製造)
葛花抽出物(抽出物粉末:太田胃散社製)75質量部、水15質量部、エタノール5質量部、および還元麦芽糖5質量部を捏和して混練物を得た。次いで、押出し造粒装置(スクリュー型押出造粒機:不二パウダル株式会社製)を用いて、得られた混練物を押出し成形した。押出造粒機の孔径は7mmとして、押出された成形物を10mm程度の長さとなるようにカッターでカットした。次いで、棚式乾燥機を用いて、カットされた成形物を65℃で15時間乾燥させ、造粒物を調製した。造粒物の水分量は、3質量%以下であった。
【0035】
(実施例2:造粒物の製造)
還元麦芽糖の代わりにトレハロース5質量部を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の手順で造粒物を調製した。
【0036】
(比較例1)
還元麦芽糖を用いなかったこと以外は、上記実施例1と同様の手順で造粒物を調製した。
【0037】
(実施例3:潮解性の検証)
実施例1、2、および比較例1で調製した造粒物の潮解性を検証するために、各造粒物を恒温恒湿器内(40℃、相対湿度75%)で24時間保存した。
【0038】
実施例1および2の造粒物は、多少水分を吸収していたものの、比較的良好な状態であった。一方、比較例1の造粒物は、潮解しただけではなく、はげしく変色していた。したがって、実施例1および2の造粒物は、潮解が防止されたことが分かった。
【0039】
(実施例4:顆粒の製造および保存安定性の検証)
葛花抽出物(抽出物粉末:太田胃散社製)、結晶セルロース、還元麦芽糖、トレハロース、イソマルトオリゴ糖、および果糖を用いて、表1に記載の配合量で混合粉末を調製した。次いで、それぞれ得られた粉末を用いて流動層造粒を行い、顆粒1〜4を調製した。
【0040】
次いで、顆粒1〜4を、それぞれ3gずつアルミパウチに分包し、それぞれ6包準備した。6包のうち3包を50℃、湿度75%で2週間保管した(条件1とする)。そして、残りの3包を4℃の冷暗室で2週間保管した(条件2とする)。2週間後、それぞれのアルミパウチに分包された顆粒の状態を観察し、以下の基準で判定を行った。結果を表1に示す。表1中の点数は、条件1の各顆粒包についての合計点である。なお、条件2では、いずれの顆粒においても吸水および変色は見られなかった。
【0041】
<判定基準>
条件2と条件1とを比較しても、変化は見られない : 2点
条件2に対し、条件1は吸水のみ見られる(変色はない) : 1点
条件2に対し、条件1は吸水および変色が見られる : 0点
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、葛花処理物と特定の糖類とを含有する顆粒1〜3は、葛花処理物と単糖とを含有する顆粒4と比べて、条件1および2のそれぞれで保管した後の状態を比較すると、変化が少ないため、優れた保存安定性を示した。すなわち、葛花処理物と特定の糖類とを組み合わせることによって、保存安定性に優れた葛花固形物(顆粒)が得られることが分かった。
【0044】
(実施例5:錠剤の製造および保存安定性の検証)
実施例1で用いた葛花抽出物、結晶セルロース、ショ糖エステル、麦芽糖、エリスリトール、パラチノース、フラクトオリゴ糖、および果糖とブドウ糖との混合物を用いて、表2に記載の配合量で錠剤1〜5を調製した。
【0045】
次いで、錠剤1〜5を、それぞれ3錠ずつアルミパウチに分包し、それぞれ6包準備した。次いで、実施例4と同様に、6包のうち3包を50℃、湿度75%で2週間保管した(条件1)。そして、残りの3包を4℃の冷暗室で2週間保管した(条件2)。2週間後、各錠剤について、1錠ずつ実施例4と同様の基準で判定を行った。結果を表2に示す。表2中の点数は、条件1の各錠剤についての合計点である。なお、条件2では、いずれの錠剤においても吸水および変色は見られなかった。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、錠剤においても、葛花処理物と特定の糖類とを含有する錠剤1〜4は、葛花処理物と単糖の混合物(果糖とブドウ糖との混合物)とを用いた錠剤5よりも、優れた保存安定性を示した。すなわち、葛花処理物と特定の糖類とを組み合わせることによって、保存安定性に優れた葛花固形物(錠剤)が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、葛花処理物と特定の糖類とを含有する葛花固形物は、潮解せず優れた保存安定性を有するため、食品などに容易に利用することができる。さらに、本発明の葛花固形物は、肝障害改善、美肌、アルコール代謝向上、二日酔い防止などの効果が期待できるため、食品分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
葛花処理物と、糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖とを含有する、葛花固形物。
【請求項2】
葛花処理物を含有する固形物の潮解防止方法であって、
該固形物に、糖アルコールおよび二糖以上の糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖を添加する工程を包含する、方法。

【公開番号】特開2006−111616(P2006−111616A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263930(P2005−263930)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】