説明

蒸気タービンのシール構造及び蒸気タービン

【課題】
軸方向に位置ずれしても、蒸気の漏れ流量が変動しない、また、シール性能の高い蒸気タービンのシール構造を提供することを課題とする。
【解決手段】
蒸気タービン2の静翼2c(固定部)とロータ2a(回転部)の間に設けられる間隙における蒸気の漏れ流量を抑制するためのラビリンスシール装置3cにおいて、ラビリンスシール装置3cに備わるシール静止体3c1に設置するフィン3c2と、ロータ2aに設置するフィン2a1の一方あるいは両方をらせん形状とする。このらせん形状を、ロータ2aの回転により、蒸気を低圧側から高圧側へ流入させる方向に作用するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の蒸気発生器が発生する蒸気でタービン(蒸気タービン)を回転して発電する発電プラントの場合、蒸気タービンは蒸気の流れの上流側から、高圧タービン,中圧タービン、及び低圧タービンが備わり、低圧タービンを回転させた蒸気は、排気室を経由して復水器に導入され、復水器で凝縮されて給水となり蒸気発生器に還流する。このような発電プラントを構成する蒸気タービンは、ケーシングの内側に固定される静翼が、ロータと一体に回転する動翼間に配置され、動翼と静翼とからなる段落が形成される。
【0003】
そして、ケーシングの内部に導入された蒸気は、蒸気タービンのケーシングの内部を流れ、静翼と、ケーシングに回転自在に保持されるロータに固定される動翼との間を交互に通りながら膨張し、ロータを回転させる。そして、ロータの最も下流に備わる動翼、すなわち最終段の動翼を通過した蒸気は、ケーシングの外に排気されるように構成される。
【0004】
このような蒸気タービンにおいては、蒸気が動翼を回転することでロータを回転することから、蒸気を効率よく使用するために、例えば静翼とロータなど、回転部と固定部との間に設けられるシール部からの蒸気の漏れをできるだけ少なくするため、シール部の間隙を小さくすることが求められる。
【0005】
また、蒸気タービンにおいては、回転部と固定部との熱伸び差により軸方向の相対位置変位(以下、位置ずれと称す)が大きくなる部分が生じるが、そのような場所では、回転部と固定部の両方に櫛歯状のフィンを設置するダブルストリップ型シールが採用されることが多い。
【0006】
このダブルストリップ型シールは軸方向の位置ずれにより、蒸気の漏れ流量に変動が生じる。対向するフィンとフィンとの間隙(以下、フィン間隙と称す)が最小ならば、漏れ流量は小さいが、軸方向の位置ずれにより対向するフィン間隙が大きくなり、漏れ流量が一気に増大する。対向するフィン間隙が一定であれば、漏れ流量は一定である。
【0007】
このような漏れ流量の変動に関する問題に対応するため、従来、回転部や固定部に設置するフィンの配置を工夫したものとして、例えば、特許文献1に開示された技術がある。特許文献1に開示される技術によると、隣り合うフィン間の間隔(ピッチ。以下、フィン間隔と称す)とフィン間隙(クリアランス)との比を、フィン間隔/フィン間隙=6と、かなり小間隔でフィンを配列している。
【0008】
【特許文献1】特許3364111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載される技術によっても、漏れ流量の変動は起こり得るものと思われる。特に、漏れ流量を小さくしようとフィン間隙を小さくする場合、フィン間隔をかなり小さくする必要があるが、加工上,コスト上の限界がある。なかでも、回転部や固定部に溝を掘りフィンを埋め込むシール構造では、強度上、あまり小間隔にはできない。
【0010】
また、小間隔でフィンを配列すると、シール部を流れる蒸気が吹抜けを起こしてしまい、シール性能が低下する可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、軸方向に位置ずれしても、漏れ流量の変動を効果的に抑制することができ、また、シール性能の高い、蒸気タービンのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、固定部または回転部に設置されるシール部に、回転部の回転により、固定部と回転部の間の蒸気に対して、蒸気を低圧側から高圧側へ流入させる方向に作用するように形成されたらせん形状のフィンを設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、らせん形状のフィンを用いているので、軸方向に位置ずれしても、ロータ軸回りを考慮すれば、対向するフィンとの相対位置関係が変わらないということでき、その結果、らせん形状フィンと対向するフィンとの間の流路面積が変わらないので、軸方向の位置ずれに起因する漏れ流量の変動がない蒸気タービンのシール構造を提供することができる。また、本発明によれば、らせん形状を、回転部の回転により、固定部と回転部の間の蒸気に対して、蒸気を低圧側から高圧側へ流入させる方向に作用するように形成しているので、シール性能の高い蒸気タービンのシール構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明が適用される蒸気タービンを備える発電プラントの一例を示す概略系統図である。図1に示すように、発電プラント1は、ボイラ10と、蒸気タービン2(高圧タービン12,中圧タービン14、及び低圧タービン16),発電機18,復水器20などを備えている。そして、低圧タービン16のロータ2aは発電機18の駆動軸22に連結され、蒸気タービン2の回転によって発電機18が駆動され発電される構成である。
【0016】
ボイラ10は蒸気発生器であって、配管26を介して高圧タービン12の入口側に接続されている。高圧タービン12の出口側は配管28を介してボイラ10に収納された再熱器24に接続される。再熱器24は配管30を介して中圧タービン14の入口側に接続され、中圧タービン14の出口側は配管32を介して低圧タービン16の入口側に接続されている。
【0017】
配管26と配管30には調節弁Bが備えられ、それぞれ、高圧タービン12及び中圧タービン14に流入する蒸気Stの量を制御するための制御弁として機能する。これらの調節弁Bは、制御装置54によって制御され、高圧タービン12及び中圧タービン14に流入する蒸気Stの量が制御される。
【0018】
ボイラ10で発生した蒸気Stは、高圧タービン12,中圧タービン14を介して低圧タービン16に流入し、低圧タービン16に備わるロータ2aを回転させる。ロータ2aを回転して低圧タービン16から排気された蒸気Stは、復水器20で凝縮されて水(給水)となった後、給水加熱器21に送り込まれて、給水加熱器21で加熱され、更に他の給水加熱器(図示省略)や高圧給水ポンプ(図示省略)などを経由して蒸気発生器であるボイラ10に再度導入される。
【0019】
図2(a)は、蒸気タービンの一部構成図、図2(b)は、図2(a)のX部拡大図であり本発明の一実施例であるシール構造を示す図である。
【0020】
図2(a)に示すように、蒸気タービン2は、ロータ2aに動翼2bが設けられ、一方、ケーシング2dに支持されたノズルダイヤフラム外輪3bに静翼2cが支持され、静翼2cの内周側にノズルダイヤフラム内輪3aが設けられている。動翼2bと静翼2cとで段落が形成される。ここで、ロー2a及び動翼2bが回転部であり、静翼2c,ケーシング2d,ノズルダイヤフラム内輪3a及びノズルダイヤフラム外輪3bが固定部である。ロータ2aとノズルダイヤフラム内輪3aの間に本発明のラビリンスシール装置が設けられている。本実施形態のラビリンスシール装置3cでは、図2(b)示すように、ロータ2aには平板状のフィン2a1が環状に複数設置され、ノズルダイヤフラム内輪3aに支持されたシール静止体3c1にはらせん形状のフィン3c2が設置されている。
【0021】
フィン2a1とフィン3c2とは、互いに交差しており、この交差位置を基準として検討する。ここから軸方向に位置ずれが生じ、交差位置が、らせん形状のフィン3c2のロータ2a軸回りに180°回転した位置に変わったと仮定する。その位置を基準にし、フィン2a1とフィン3c2とを、ロータ2a軸回りに、180°戻してみれば、フィン2a1とフィン3c2との相対位置は、位置ずれ前と変わらない。従って、フィン2a1とフィン3c2との間の流路面積が変わらない。同様にして、位置ずれで交差位置が任意の位置に変わっても、フィン2a1とフィン3c2との相対位置は変わらない。従って、本実施例のシール構造では、フィン2a1とフィン3c2との間の流路面積も変わらず、一定である。よって、本実施例のシール構造では、軸方向の位置ずれが生じても、漏れ流量の変動がない。
【0022】
図3(a)は、図2(b)における部材である、ロータ2aとフィン2a1の機能説明図である。図2(b)において、蒸気Stが左より流入し、ロータ2aの回転方向をRtとすると、フィン2a1の回転により、フィン2a1近傍の蒸気Stは、図3(a)のように、回転方向Rtと同じ向きに旋回しながら拡がる。これをわかりやすく示したのが図3(b),(c)である。図3(b)は図3(a)を左方からみた図、図3(c)はロータ2aの軸と直角方向からみた図である。図3(c)に示したように、フィン2a1近傍の蒸気Stは、遠心力により外へ噴出される。また、図3(b)に示したように、フィン2a1の回転により、蒸気Stは旋回する。
【0023】
従って、図4のように、シール静止体3c1のフィン3c2を右ネジのらせん形状にすると、ロータ2aの回転でフィン2a1により生じた蒸気の旋回は、らせん形状のフィン3c2間において、フィン3c2に沿って流れ、左方、即ち、上流側へ押し戻される蒸気Stの流れとなる。これによって、フィン2a1とフィン3c2との間の漏れ流量は低減され、シール性能が高くなる。
【0024】
図5にフィン取り付けの一実施例を示す。図5(a)には、ロータ2aに形成した溝2a3にU型で環状のフィン2a1をロータ軸と直角に埋め込んだ実施形態、図5(b)には、シール静止体3c1に形成した左ネジのらせん形状の溝3c3にU型でらせん形状のフィン3c2を埋め込んだ実施形態を示す。このようにして、図2(b)に示すシール構造を構成している。
【0025】
本実施形態によれば、軸方向の位置ずれが生じても、漏れ流量の変動がない効果を奏する。また、フィン2a1が遠心および旋回流を形成し、らせん形状のフィン3c2と共に上流側に押し戻す蒸気の流れを誘起するので、漏れ流量が少なくシール性能を高める効果を奏する。
【0026】
図6に他の実施形態を示す。本実施形態では、ロータ2aおよびシール静止体3c1に各々らせん形状のフィン2a1およびらせん形状のフィン3c2を設置した例を示す。フィン2a1が左ネジの方向に、フィン3c2が右ネジの方向にねじれて、互いに交差している。軸方向の位置ずれが生じても、図2(b)で示したように、ロータ2a軸回りの角度を変えてみれば、フィン2a1とフィン3c2との間の流路面積は一定であり、漏れ流量に変動がない。
【0027】
また、図6におけるシール静止体3c1に設置された右ネジの方向にねじれたらせん形状のフィン3c2による漏れ流量の低減効果は図3,図4で説明したように同様に得られる。ここでは、ロータ2aに設置した左ネジのらせん形状であるフィン2a1による漏れ流量の低減効果を説明する。ロータ2aが回転方向Rtの向きに回転すると、左ネジのらせん形状であるフィン2a1間の蒸気Stの流れは回転方向Rtと反対向きに押し流される。即ち、蒸気Stは軸流ポンプ効果により上流側へ流される。よって、フィン2a1とフィン3c2によって漏れ流量は大幅に低減され、シール性能が高くなる。
【0028】
図7に図6におけるフィンの取り付けの実施例を示す。図7(a)には、ロータ2aにくさび型のフィン2a1を左ネジのらせん形状に設置し、図7(b)には、シール静止体3c1にくさび型のフィン3c2を右ネジのらせん形状に設置した実施形態を示す。また、図7(c)および(d)には、それぞれU型でらせん形状のフィン2a1,3c2を用いた例を示す。このようにして、図6に示すシール構造を構成することができる。
【0029】
本実施形態によれば、軸方向の位置ずれが生じても、漏れ流量が変動しない効果を奏する。また、遠心および旋回流効果と軸流ポンプ効果を有するので、大幅に漏れ流量が低減し、シール性能が大幅に高くなる効果がある。
【0030】
図8に他の実施形態を示す。本実施形態では、ロータ2aにらせん形状のフィン2a1、シール静止体3c1に平板状のフィン3c2を設置した例を示す。図8(b)に示すように、平板状のフィン3c2はシール静止体3c1の内周に環状に複数設置されている。本実施形態では、フィン2a1が左ネジの方向にねじれて、フィン3c2と交差している。
【0031】
従って、軸方向の位置ずれが生じても、図2(b)で示したように、ロータ2a軸回りの角度を変えてみれば、フィン2a1とフィン3c2との間の流路面積は一定であり、漏れ流量に変動がない。
【0032】
また、図6で示したようにロータ2aが回転するので、左ネジのらせん形状であるフィン2a1間の蒸気Stは、軸流ポンプ効果により、上流側へ流される。よって、漏れ流量の大幅な低減効果を有し、シール性能が高くなる。
【0033】
本実施形態によれば、軸方向の位置ずれが生じても、漏れ流量が変動しない効果を奏する。また、軸流ポンプ効果を有するので、大幅な漏れ流量の低減効果を奏する。よって、シール性能が大幅に高くなる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の蒸気タービンのシール構造が適用される蒸気タービンを備える発電プラントの概略系統図である。
【図2】本発明の一実施例を示す図、(a)は蒸気タービンの一部構成図、(b)は図2の(a)のX部拡大図であるシール構造を示す図である。
【図3】図2(b)に示すシール構造における平板状のフィンによる旋回流発生の説明図である。
【図4】図2(b)に示すシール構造おけるらせん形状のフィンの機能説明図である。
【図5】図2(b)に示すシール構造におけるロータおよびシール静止体にフィンが備わる形態を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態であるシール構造の構成図である。
【図7】図6に示すシール構造におけるロータおよびシール静止体にフィンが備わる形態を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態であるシール構造の構成図である。
【符号の説明】
【0035】
2 蒸気タービン
2a ロータ(回転部)
2a1,3c2 フィン
2b 動翼(回転部)
2c 静翼(固定部)
2d ケーシング(固定部)
3c ラビリンスシール装置
3c1 シール静止体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンのロータ及び前記ロータと一体に回転する部材からなる回転部と、前記回転部を内包するケーシング及び前記ケーシングに固定される部材からなる固定部との間に設けられた蒸気タービンのシール構造であって、
前記シール構造は、前記固定部と前記回転部の両方またはいずれか一方に、前記回転部の回転により、前記固定部と前記回転部の間の蒸気に対して、蒸気を低圧側から高圧側へ流入させる方向に作用するように形成されたらせん形状のフィンを設置して構成したことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項2】
請求項1において、前記蒸気の上流側に向かって、前記ロータの回転が右ネジ回りの場合、前記固定部に設置するフィンを右ネジのらせん形状のフィンとし、前記回転部に設置するフィンを左ネジのらせん形状のフィンまたは複数の環状のフィンとしたことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項3】
請求項1において、前記蒸気の上流側に向かって、前記ロータの回転が右ネジ回りの場合、前記回転部に設置するフィンを左ネジのらせん形状のフィンとしたことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項4】
請求項1において、前記蒸気の上流側に向かって、前記ロータの回転が左ネジ回りの場合、前記固定部に設置するフィンを左ネジのらせん形状のフィンとし、前記回転部に設置するフィンを右ネジのらせん形状のフィンまたは複数の環状のフィンとしたことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項5】
請求項1において、前記蒸気の上流側に向かって、前記ロータの回転が左ネジ回りの場合、前記回転部に設置するフィンを右ネジのらせん形状のフィンとしたことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項6】
ロータと、該ロータに設けられた動翼と、前記ロータ及び前記動翼を内包するケーシングと、前記ケーシングにノズルダイヤフラム外輪を介して保持された静翼とを有する蒸気タービンであって、
前記静翼のロータ側に設けられたノズルダイヤフラム内輪と前記ロータとの間に設けられたシール構造は、前記内輪側に設けられたフィンと、前記ロータ側に設けられたフィンとからなり、
前記内輪側フィンシール又は前記ロータ側に設けられたフィンの少なくとも一方をらせん形状に配置したフィンとし、
前記らせん形状のフィンを、前記ロータの回転により、蒸気を低圧側から高圧側へ流入させる方向に作用するようにらせんさせて形成したことを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−106779(P2010−106779A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280678(P2008−280678)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】