説明

蒸気タービンの暖機方法

本発明は、高圧タービン(2)と中圧タービン(3)および/又は低圧タービン(4)を有する蒸気タービン(1)の暖機方法に関する。本発明に基づく方法は、高圧タービン(2)に低温始動後に比較的高い導電率の蒸気が供給され、この過程中に中圧タービン(3)ないし低圧タービン(4)が閉じられたままにされることにより特徴づけられる。導電率が所定の値を下回るや否や、中圧タービン(3)ないし低圧タービン(4)にも蒸気が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンが高圧タービンと中圧タービンおよび/又は低圧タービンを有し、高圧タービンの入口が生蒸気供給管を介して蒸気発生器に流体技術的に接続され、高圧タービンと中圧タービンとの間に蒸気弁が配置され、高圧タービンと生蒸気供給管と蒸気発生器が同時に加熱される、蒸気タービンの暖機方法に関する。
【0002】
蒸気タービン設備により発電するために設計された発電所においては、実際の電力需要に関係して、個々の蒸気タービンあるいは複数の蒸気タービンを停止することおよび必要に応じて運転再開することが必要である。この場合、その都度の蒸気タービン設備の迅速な始動が非常に重要である。これは特に長い停止時間に対して当てはまり、特に、低温始動時および例えば週末停止後における暖機始動時に当てはまる。従来技術では、始動過程中にまず、蒸気温度および蒸気圧力を高めるために、蒸気発生器が立ち上げられ、ないしは加熱される。蒸気に対して所定の始動温度および所定の始動圧力並びに所定の始動品質が存在するや否や、蒸気タービンの始動運転が開始される。そのために、特に生蒸気供給管が多かれ少なかれ大きく開かれる。その場合、蒸気の始動温度と始動圧力と始動品質に対する値は、蒸気タービンの始動後に蒸気タービンにおける無負荷運転あるいは低負荷運転が実現できるように定められている。この場合、汚れ蒸気による蒸気タービンの損傷を防止するために、蒸気は所定の範囲内の値になければならない導電率を有する。
【0003】
そのために、蒸気タービン設備の始動時、蒸気の導電率は常時検出され、蒸気が或る導電率限界値を下回ったときにはじめて、その蒸気を蒸気タービンに入れることができる。
【0004】
蒸気の始動温度と始動圧力と始動品質に対する値は、蒸気タービンの始動後に蒸気タービンにおける無負荷運転あるいは低負荷運転が実現できるように定められている。それらのパラメータは本来の始動運転開始までに安定して存在しなければならない。この場合、発電所の形式、ボイラの構造形式あるいは発電所の規模に応じて、一般に、その始動運転開始まで約1〜3時間費やされる。低温の機械状態からの始動時、高温蒸気の供給によって、発生する熱応力による大きな材料負荷が一般に生ずる。今日において代表的には、熱応力の測定技術的監視が行われる。蒸気タービン設備ないしこの蒸気タービン設備が装備された発電設備の経済性を満足させるために、かかる蒸気タービン設備に対する始動時間を短くすることが非常に重要である。
【0005】
始動運転は、通常、蒸気の特に純度とpH値に関する所定の始動品質が存在するときにだけ開始される。好適には予熱運転も、蒸気が所定の予熱品質を有するときだけしか開始できず、その場合、始動品質は予熱品質より厳しい。高い蒸気品質を得る経費は非常に高価である。
【0006】
本発明において蒸気タービンとは、複数の部分タービンを有する蒸気タービンを意味する。この場合、各タービンは例えば温度と圧力のような異なった蒸気パラメータに対して設計される。これに関して、高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンが知られている。高圧タービンには、通常、620℃までの温度を有する過熱蒸気(uberhitzter Dampf)が流入する。また、この過熱蒸気は300バールまでの圧力を有する。過熱蒸気(uberhitzter Dampf)は(Heisdampf)とも呼ばれる。飽和蒸気が溶液残渣あるいは復水から分離され、等圧のまま加熱されたとき、蒸気は未飽和状態となる。
【0007】
溶液残渣や復水の上位の蒸気は、この平衡温度において最大量の分子を含んでいる。この蒸気は飽和蒸気(Sattdampf)、乾燥蒸気あるいは(gesattigter Dampf)と呼ばれる。
【0008】
これに対して、中圧タービンは、膨張済み蒸気が高圧タービンから再熱器に達し、その再熱器において蒸気温度が高められ、続いて中圧タービンに流入するように形成されている。中圧タービンの入口蒸気温度は約600℃であり、約80バールの圧力を有する。中圧タービンから流出する蒸気は、最終的に低圧タービンに導かれる。
【0009】
高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンへの分割は、当該技術分野においては一義的には行われない。即ち、例えば温度と圧力のような蒸気パラメータは、高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンとの間における唯一の区別基準として利用されるのではない。
【0010】
高圧タービンから流出して中圧タービンに流入する蒸気を再熱する蒸気タービンの運転方法は既に知られている。その再熱によって、蒸気タービンの高圧タービンで既に仕事を終えた蒸気の温度は再び高められ、これによって、蒸気が低圧タービンに達する前に、有用落差が増大される。これにより、蒸気タービン設備の効率が高められる。
【0011】
蒸気タービン発電所あるいはガス・蒸気複合発電所の他の利点は、再熱によってタービンの最終段における蒸気最終湿り(湿り度)が減少され、これによって、流体技術的品質および寿命が改善されることにある。
【0012】
蒸気タービンにおいて、蒸気が機械内における膨張時に湿り過ぎたときに、再熱が利用される。蒸気は複数のタービン段の貫流後に再熱器に導かれ、その後であらためてタービンに導入される。非常に高い圧力差がある場合に、最終段で過大な蒸気湿りとならないようにするために、多重再熱が利用される。
【0013】
本発明の課題は、冷えた蒸気タービンの暖機を速めることにある。
【0014】
この課題は、蒸気タービンが高圧タービンと中圧タービンおよび/又は低圧タービンを有し、高圧タービンの入口が生蒸気供給管を介して蒸気発生器に流体技術的に接続され、高圧タービンと中圧タービンとの間に蒸気弁が配置され、高圧タービンと生蒸気供給管と蒸気発生器が同時に加熱される蒸気タービンの暖機方法において、次の手順a)〜f)、即ち、
a)高圧タービンの出口側背圧を高める、
b)蒸気発生器で発生された蒸気の導電率が許容値を下回るや否や、高圧タービ ンの入口の上流に配置された弁を開く、
c)高圧タービンと中圧タービンとの間に配置された蒸気弁を閉じる、
d)高圧タービンの回転数を制御して定格回転数より低い値にする、
e)蒸気発生器で発生された蒸気の導電率が許容値より小さい限界値を下回るや 否や、背圧を低下する、
f)蒸気弁の開放によって、蒸気発生器で発生されその導電率が限界値より小さ い蒸気で中圧および/又は低圧タービンを加熱する、
手順a)〜f)を有していることによって解決される。
【0015】
本発明は、高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンとを有する蒸気タービンに十分良好な品質の蒸気を同時に供給する必要がないと思われるという観点から出発している。即ち、本発明の観点は、本発明に基づく運転手順が考慮されることによって、例えば十分良好でない導電率のような品質の蒸気を高圧タービンに供給できるということにある。低温始動後に蒸気タービンの暖機が生蒸気供給管における相応した圧力形成により開始される。その生蒸気供給管は、通常、蒸気発生器と同時に予熱される。蒸気発生器はボイラとも呼ばれる。蒸気弁の最初の開放は、蒸気の導電率と蒸気の再熱と蒸気の絶対温度に関連して行われる。この場合、蒸気は或る品質を有していなければならない。不十分な品質の蒸気は、攻撃性不純物によって大きな腐食負荷を生じさせ、この腐食負荷は、例えば蒸気の初期の湿りの領域において翼材料の交番曲げ強度に不利に作用する。もっとも、不十分な蒸気品質の問題は、低圧タービンにおける最終段で特に高い最大負荷が生ずるので、低圧タービンで問題となる。高圧タービンには低圧タービンに比べて、低圧タービンに供給される蒸気より悪い導電率を有する蒸気を供給することができる。
【0016】
蒸気タービン全体の暖機は、従来技術では、蒸気の十分満足できる導電率が測定された時にはじめて開始される。これに対して、本発明では、中圧タービンおよび/又は低圧タービンが閉じられた状態で、高圧タービンを生蒸気供給管および蒸気発生器と共に予熱することを提案する。
【0017】
高圧タービンには蒸気の導電率について比較的低い要求が課せられるので、高い導電率ではやくも蒸気の供給が開始できる。そのために、中圧タービンの上流に配置された蒸気弁は閉じられる。高圧タービンの出口に背圧が発生されるようにするために、その背圧は許容値の枠内でほぼ任意に上げることができる。これによって、高い復水熱による暖機が行われる。
【0018】
本発明の主要な観点は、一方では、比較的高い導電率の蒸気が高圧タービンを暖機するために入れられること、他方では、高圧タービンの出口における背圧が暖機過程の始めに高められ、続く定格回転数への加速前に再び低下されることにある。この蒸気はまず高圧タービンを通って流れる。高圧タービンの出口における蒸気圧力が高められる。これは例えば、高圧タービンと中圧タービンとの間に配置された部分閉鎖可能あるいは全閉可能なフラッパ(蝶形弁)あるいは弁で達成できる。高圧タービンの厚肉構造部品への蒸気の熱伝達は、その蒸気圧力の増大によって向上される。貫流する蒸気は出口で滞留し、これにより、高圧タービンの迅速な暖機が行われる。これによって、蒸気の飽和温度が高い値に変移される。したがって、a)手順とc)手順を入れ替えることができる。
【0019】
飽和時(復水時)には約5000W/(m2K)の熱伝達係数が得られるが、過熱状態(対流)では約150W/(m2K)の熱伝達係数しか得られない。これによって、暖機過程中における高圧タービンの構造部品への入熱量が増大される。
【0020】
本発明に基づく方法によれば、蒸気タービンの暖機を約1〜3時間早く開始できる。他の利点は、大きな飽和温度による入熱が高圧タービンの構造部品の速い暖機を生じさせることにある。これによって、低温始動時におけるタービンブロックの始動時間が約1〜1.5時間だけ短縮される。
【0021】
有利な実施態様において、蒸気の導電率に対する許容値は0.5〜5μS/cmである。
【0022】
経験から、この値範囲が許容値に対して特に適していることが確認されている。
【0023】
他の有利な実施態様において、手順d)において、ロータの回転数が100〜1000rpmに制御される。上記によって、蒸気の通流が回避され、少ない蒸気質量流量で既に暖機できる。この場合、回転数は蒸気弁の閉鎖時より低い。
【0024】
以下図を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。なお同一符号が付された構成要素は同一機能を有する。
【0025】
図1に、高圧タービン2と中圧タービン3と双流形低圧タービン4とを有する蒸気タービン1が概略的に示されている。高圧タービン2は少なくとも2つの生蒸気供給管5を有し、その1本の生蒸気供給管5に複数の弁6が配置されている。これらの弁6は生蒸気供給管5を流れる蒸気の流量を調整するために形成されている。生蒸気は蒸気発生器あるいはボイラ(図示せず)で発生される。蒸気発生器で発生された蒸気は、生蒸気供給管5および弁6を介して高圧タービン2に達し、そこで膨張し、続いて、高圧タービン2の出口7から流出する。膨張済み蒸気は排気管8を介して再熱器(図示せず)に達し、そこで高温に加熱され、続いて、少なくとも1つの中圧蒸気供給管9を介して中圧タービン3に流入する。その蒸気は中圧タービン3において膨張し低温となり、中圧タービン3の出口10から流出し、配管11を介して低圧タービン4に流入する。その蒸気は低圧タービン4においてさらに膨張する。その蒸気温度はさらに低下し、最終的に、排気管12を介して蒸気タービンから出て、復水器(図示せず)に導かれる。上述した蒸気の流れは蒸気タービン1の所定の運転状況において行われる。48時間以上の運転停止後、蒸気タービン1は冷えた状態にある。蒸気タービン1における軸および他の厚肉構造部品は、高温の生蒸気の流入ないしこれによる負荷の前に、構造部品における許容できない応力の発生を防止するために、制御して予熱されねばならない。弁6の最初の開放は、蒸気の導電率、過熱および例えば蒸気の圧力pと温度Tのような絶対値に左右される。
【0026】
蒸気タービン1の暖機運転は以下に述べるように行われる。蒸気タービン1は高圧タービン2と中圧タービン3および/又は低圧タービン4を有している。高圧タービン2と中圧タービン3との間に少なくとも1個のHD・MD(高圧・中圧)弁14が配置されている。高圧タービン2と生蒸気供給管5と蒸気発生器とは同時に加熱される。第1手順において、高圧タービン出口7の背圧が高められる。これは、高圧タービン2と中圧タービン3との間に配置された蒸気弁14の閉鎖によって行われる。次の手順において、蒸気発生器で発生された蒸気の導電率が許容値を下回るや否や、高圧タービン2の入口13における弁6が開かれる。この許容値は0.5〜5μS/cm(ここでSはシーメンス)の値とする。この場合、蒸気発生器で発生された蒸気の導電率は常時測定され、制御所で把握され、評価される。
【0027】
次の手順において、高圧タービン2のロータの回転数が定格回転数より低い値に調整される。高圧タービン2の暖機に対するロータの回転数値が100〜1000rpmであることが最も望ましいことが確認されている。
【0028】
次の手順において、蒸気発生器で発生された蒸気の導電率が0.2〜0.5μS/cmの限界値を下回るや否や、高圧タービン出口7における背圧が低下される。その背圧の低下は蒸気弁14の開放によって行われる。
【0029】
定格回転数は、交流電源系統が運転される系統周波数(50Hz又は60Hz)に応じて、3000rpmないし3600rpmである。原子力発電所の蒸気タービン設備に対しては、定格回転数は1500rpmである。いずれの場合も、手順d)においてロータの回転数が明らかに定格回転数より低いこと、即ち、定格回転数の数分の一であることが重要である。
【0030】
次の手順において、中圧タービン3および/又は低圧タービン4の暖機が、高圧タービン2と中圧タービン3との間に配置された蒸気弁の開放によって、蒸気発生器で発生されその導電率が限界値以下にある蒸気により行われる。
【0031】
図2に蒸気タービンの異なった実施例が示されている。その蒸気タービン1′は高圧タービン2′とコンパクトユニットとして形成された中低圧複合タービン3′とを有している。中低圧複合タービンはEタービンとも呼ばれる。図1に示された蒸気タービンの実施例との相違点は、図2に示された蒸気タービン1′が移送管11を有していないことにある。この場合、図2に示された蒸気タービンの運転機能は、図1に示された蒸気タービンの運転機能とほぼ一致している。相違点は図1における蒸気タービン1が2つの部分タービンを有し、その一方が中圧タービン3であり、他方が低圧タービン4である点にある。これに対して、図2に示された部分タービン3′は、一つの車室内に中圧タービン並びに低圧タービンを有している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンとを有する蒸気タービンの概略構成図。
【図2】高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンとを有する蒸気タービンの異なった実施例の概略構成図。
【符号の説明】
【0033】
1 蒸気タービン
1′ 蒸気タービン
2 高圧タービン
3 中圧タービン
4 低圧タービン
6 弁
14 蒸気弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービン(1)が高圧タービン(2)と中圧タービン(3)および/又は低圧タービン(4)を有し、高圧タービン(2)の入口が生蒸気供給管(5)を介して蒸気発生器に流体技術的に接続され、高圧タービン(2)と中圧タービン(3)との間に蒸気弁(14)が配置され、高圧タービン(2)と生蒸気供給管(5)と蒸気発生器が同時に加熱される蒸気タービン(1)の暖機方法において、次の手順a)〜f)、即ち、
a)高圧タービン(2)の出口側背圧を高める、
b)蒸気発生器で発生された蒸気の導電率が許容値を下回るや否や、高圧タービ ン(2)の入口(13)の上流に配置された弁(6)を開く、
c)高圧タービン(2)と中圧タービン(3)との間に配置された蒸気弁(14 )を閉じる、
d)高圧タービン(2)の回転数を制御して定格回転数より低い値にする、
e)蒸気発生器で発生された蒸気の導電率が許容値より小さい限界値を下回るや 否や、背圧を低下する、
f)蒸気弁(14)の開放によって、蒸気発生器で発生されその導電率が限界値 より小さい蒸気で中圧および/又は低圧タービン(3、4)を加熱する、
手順a)〜f)を有していることを特徴とする蒸気タービン(1)の暖機方法。
【請求項2】
手順b)における許容値が0.5〜5μS/cmの値であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
手順d)におけるロータの回転数値が定格回転数の数分の一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ロータの回転数値が100〜1000rpmであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
手順e)における限界値が0.2〜0.5μS/cmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−511809(P2009−511809A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534976(P2008−534976)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066794
【国際公開番号】WO2007/042397
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】