説明

蒸気ボイラ装置の運転方法

【目的】復水をボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、ボイラ給水への薬剤添加に依らずに蒸気ボイラおよび復水経路の両方の腐食を抑制する。
【構成】蒸気ボイラ20へボイラ給水を供給する給水タンク40には、補給経路50を通じてボイラ給水となる補給水が供給される。補給経路50は、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いて補給水をろ過処理するためのろ過処理装置55と、脱酸素装置56とを有している。給水タンク40へ供給される補給水は、蒸気ボイラ20の腐食を促進する塩化物イオン等の成分および復水経路30の腐食を促進する炭酸ガスの発生原因となる炭酸塩等のアルカリ成分がろ過処理装置55において除去され、また、蒸気ボイラ20の腐食を促進する溶存酸素が脱酸素装置56において除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気ボイラ装置の運転方法、特に、補給水をボイラ給水として給水タンクに貯留し、当該給水タンクからボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を負荷装置において利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を給水タンクへ回収して再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気ボイラへ給水タンクからボイラ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を負荷装置において利用すると共に、当該蒸気が凝縮して得られる復水を負荷装置から延びる復水経路を通じて給水タンクへ回収してボイラ給水として再利用する蒸気ボイラ装置が知られている。このような蒸気ボイラ装置は、給水タンクへ回収する復水のために、ボイラ給水として用いる補給水量を削減することができ、蒸気ボイラの経済的な運転が可能になる。
【0003】
ところで、上述の蒸気ボイラ装置における蒸気ボイラは、例えば貫流ボイラの場合、ボイラ給水を加熱して蒸気を生成するための多数の伝熱管を備えている。この伝熱管は、炭素鋼などの非不動態化金属を用いて形成されているため、ボイラ給水に含まれる塩化物イオンや硫酸イオン等のイオンおよび溶存酸素の影響により腐食が生じやすい。この腐食は、伝熱管の寿命を短縮し、蒸気ボイラ装置の継続的で安定な運転を妨げる原因となる。また、上述の蒸気ボイラ装置において、復水を給水タンクへ回収するための復水経路は、伝熱管と同様に非不動態化金属を用いて形成されていることが多く、ボイラ給水中に含まれる炭酸塩成分の分解により発生する炭酸ガスの影響を受け、腐食が生じやすい。この腐食は、復水の円滑な回収を妨げる孔空きを復水経路に引き起こす場合があり、また、ボイラ給水において不純物成分となる鉄イオンやその他の金属イオンを復水中に溶出させる可能性がある。
【0004】
そこで、蒸気ボイラ装置の運転では、一般に、蒸気ボイラの腐食を抑制するための薬剤と、復水経路の腐食を抑制するための薬剤とをボイラ給水に対して添加し、蒸気ボイラおよび復水経路における腐食の進行を抑制している(例えば、特許文献1、2参照)
【0005】
【特許文献1】特開2003−120904公報
【特許文献2】特開2004−19970公報
【0006】
しかし、ボイラ給水に対する薬剤の添加は、蒸気ボイラ装置の運転コストを高める原因となる。また、蒸気ボイラは、蒸気の生成に従ってボイラ水の濃縮が進むため、適時、薬剤濃度管理等の観点からボイラ水の一部を排水し、新たなボイラ給水によりボイラ水を希釈する必要がある。この場合、排水するボイラ水は、薬剤による環境汚染を引き起こす可能性があるため、薬剤の分解や分離等の適切な排水処理を施す必要がある。
【0007】
本発明の目的は、復水をボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、ボイラ給水への薬剤添加に依らずに蒸気ボイラおよび復水経路の両方の腐食を抑制することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、補給水をボイラ給水として給水タンクに貯留し、当該給水タンクからボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を負荷装置において利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を負荷装置から延びる復水経路を通じて給水タンクへ回収して再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法に関するものである。この運転方法では、補給水を、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いてろ過処理しかつ脱酸素処理してから給水タンクに貯留する。
【0009】
この運転方法において、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いて補給水をろ過処理すると、補給水は、蒸気ボイラ側の腐食を進行させる塩化物イオンや硫酸イオンなどのイオン成分、および、復水経路側の腐食を進行させる炭酸ガスの発生原因となる各種の炭酸塩のようなアルカリ成分などが除去される。また、この補給水は、脱酸素処理により、蒸気ボイラ側の腐食を進行させる溶存酸素が除去される。この結果、給水タンクに貯留された、この補給水によるボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して蒸気ボイラ装置を運転すると、ボイラ給水に対して蒸気ボイラおよび復水経路のそれぞれの腐食を抑制するための薬剤を添加しなくても、蒸気ボイラおよび復水経路の両方の腐食を効果的に抑制することができる。
【0010】
この運転方法では、例えば、給水タンクから蒸気ボイラへ供給するボイラ給水をさらに脱酸素処理する。このようにすると、給水タンクへ回収される復水に混入している可能性がある溶存酸素をボイラ給水から除去することができるため、蒸気ボイラの腐食をより効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の蒸気ボイラ装置は、負荷装置へ蒸気を供給するためのものであり、ボイラ給水を加熱して蒸気を生成する蒸気ボイラと、蒸気ボイラへボイラ給水を供給するための給水経路を有する、ボイラ給水を貯留するための給水タンクと、ボイラ給水として用いる補給水を給水タンクへ供給するための補給経路と、負荷装置において利用された蒸気が凝縮して得られる復水を給水タンクへ回収するための復水経路とを備えている。補給経路は、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いて補給水をろ過処理するためのろ過処理装置と、ろ過処理装置においてろ過処理された補給水から溶存酸素を除去するための脱酸素装置とを有している。
【0012】
この蒸気ボイラ装置において、補給経路から供給される補給水は、給水タンクに貯留される。給水タンクに貯留された補給水は、ボイラ給水として給水経路を通じて蒸気ボイラへ供給され、そこで加熱されて蒸気になる。この蒸気は、負荷装置へ供給されて利用される。負荷装置において利用された蒸気は、凝縮して復水を生成し、この復水は、復水経路を通じて給水タンクへ回収される。給水タンクへ回収された復水は、ボイラ給水と混合され、再利用される。
【0013】
ここで、給水タンクに貯留される補給水は、ろ過処理装置において、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つによりろ過処理されたものであるため、蒸気ボイラ側の腐食を進行させる塩化物イオンや硫酸イオンなどのイオン成分、および、復水経路側の腐食を進行させる炭酸ガスの発生原因となる各種の炭酸塩のようなアルカリ成分が予め除去される。また、ろ過処理装置において処理された補給水は、蒸気ボイラ側の腐食を進行させる溶存酸素が脱酸素装置により除去される。したがって、このような補給水によるボイラ給水は、蒸気ボイラおよび復水経路のそれぞれの腐食を抑制するための薬剤を添加しなくても、蒸気ボイラおよび復水経路の両方の腐食を効果的に抑制することができる。
【0014】
この蒸気ボイラ装置は、例えば、給水経路が、ボイラ給水から溶存酸素を除去するための脱酸素装置をさらに備えている。この場合、給水タンクへ回収される復水に混入している可能性がある溶存酸素をボイラ給水から除去することができるため、蒸気ボイラの腐食をより効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る蒸気ボイラ装置の運転方法は、蒸気ボイラへボイラ給水を供給する給水タンクに貯留する補給水を、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いてろ過処理しかつ脱酸素処理しているため、ボイラ給水への薬剤添加に依らずに蒸気ボイラおよび復水経路の両方の腐食を抑制することができる。
【0016】
本発明の蒸気ボイラ装置は、蒸気ボイラへボイラ給水を供給する給水タンクに対して補給水を供給するための補給経路が、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いて補給水をろ過処理するためのろ過処理装置と、ろ過処理装置においてろ過処理された補給水から溶存酸素を除去するための脱酸素装置とを有しているため、ボイラ給水への薬剤添加に依らずに蒸気ボイラおよび復水経路の両方の腐食を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係る蒸気ボイラ装置を説明する。図1において、蒸気ボイラ装置1は、熱交換器、蒸気釜、リボイラ若しくはオートクレーブ等の蒸気使用設備である負荷装置2に対して蒸気を供給するためのものであり、給水装置10、蒸気ボイラ20および復水経路30を主に備えている。
【0018】
給水装置10は、蒸気ボイラ20へボイラ給水を供給するためのものであり、ボイラ給水を貯留するための給水タンク40と、ボイラ給水として用いる補給水を給水タンクへ供給するための補給経路50とを主に備えている。給水タンク40は、その底部から蒸気ボイラ20へ延びる給水経路41を有している。給水経路41は、蒸気ボイラ20に連絡しており、給水タンク40内に貯留されたボイラ給水を蒸気ボイラ20へ送り出すための給水ポンプ42を有している。
【0019】
補給経路50は、注水路51を有している。この注水路51は、水道水、工業用水若しくは地下水等の水源から供給される原水が貯留されている原水タンク(図示せず)から給水タンク40へ補給水を供給するためのものであり、給水タンク40へ向けて前処理装置52、軟水化装置53、予備ろ過装置54、ろ過処理装置55および脱酸素装置56をこの順に有している。
【0020】
前処理装置52は、原水タンクからの補給水中に溶存している次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を吸着可能な活性炭が充填されたろ過装置であり、原水から次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を除去するためのものである。軟水化装置53は、前処理装置52において処理された補給水をナトリウム型陽イオン交換樹脂により処理し、補給水に含まれる硬度分、すなわち、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをナトリウムイオンに置換して軟化水へ変換するためのものである。
【0021】
予備ろ過装置54は、軟水化装置53で軟水化された補給水中に混入している懸濁物質やゴミ等の固形物を除去するためのものであり、固形物をろ過して分離するためのワインドフイルタ、プリーツフイルタ若しくはメッシュフイルタ等のろ過材(図示せず)を備えている。
【0022】
ろ過処理装置55は、予備ろ過装置54において処理された補給水に含まれる各種の溶解成分、すなわち、各種のイオンや低分子量物質を除去するためのものであり、溶解成分をろ過して分離するためのろ過膜(図示せず)を備えている。ここで用いられるろ過膜は、ナノろ過膜である。ナノろ過膜は、一般にNF(Nanofiltration)膜と呼称されている、ポリアミド系やポリエーテル系等の合成高分子を用いて形成されたものであり、AMST(Association of Membrance Separation Technology)規格のAMST−002において、「操作圧力1.5MPaで使用され、除去率90%以上を示す分離対象物質の分子量範囲が200〜1,000を示し、試験液の塩化ナトリウム濃度が500〜2,000mg/リットルで、操作圧力が0.3〜1.5MPaの評価条件の下で塩化ナトリウム除去率が5%以上、93%未満の膜」と定義されているものである。因みに、ナノろ過膜は、各社から市販されており、容易に入手することができる。
【0023】
ろ過処理装置55において、ナノろ過膜は、各種の形状、例えば平膜型、中空糸膜型、管状型およびノモリス型などの形状で用いられる。
【0024】
脱酸素装置56は、ろ過処理装置55において処理された補給水中の溶存酸素を除去するためのものであり、通常、分離膜を用いて溶存酸素を除去する形式のもの、処理水を減圧環境下において溶存酸素を除去する形式のもの、若しくは、処理水を加熱して溶存酸素を除去する形式のものなどの公知の各種の形式のものが用いられる。
【0025】
蒸気ボイラ20は、貫流ボイラであり、図2に示すように、給水経路41から供給されるボイラ給水を貯留可能な環状の貯留部21、貯留部21から起立する多数の伝熱管22(図2では二本のみ示している)、伝熱管22の上端部に設けられた環状のヘッダ23、ヘッダ23から負荷装置2へ延びる蒸気供給路24およびバーナーなどの燃焼装置25を主に備えている。燃焼装置25は、ヘッダ23側から貯留部21方向へ燃焼ガスを放射し、伝熱管22を加熱可能である。
【0026】
伝熱管22は、非不動態化金属を用いて形成されている。非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、非不動態化金属の範疇に属する。
【0027】
復水経路30は、負荷装置2から給水タンク40へ延びており、スチームトラップ31を有している。スチームトラップ31は、蒸気と水とを分離するためのものである。復水経路30の先端部は、通常、給水タンク40内に貯留されたボイラ給水に対して空気を巻き込まないようにするため、ボイラ給水内に配置されているのが好ましく、給水タンク40の底部近傍に配置されているのが特に好ましい。
【0028】
次に、上述の蒸気ボイラ装置1の運転方法について説明する。
蒸気ボイラ装置1を運転する場合は、原水タンクから注水路51を通じて給水タンク40へ補給水を供給し、この補給水をボイラ給水として給水タンク40に貯留する。
【0029】
この際、原水タンクからの補給水は、先ず、前処理装置52および軟水化装置53においてこの順に処理される。すなわち、補給水は、上述の酸化剤が前処理装置52の活性炭により吸着除去され、軟水化装置53において硬度分が除去された軟化水になる。因みに、軟水化装置53において用いられるナトリウム型陽イオン交換樹脂は、酸化剤の影響により劣化してイオン交換能が低下しやすいが、この実施の形態において軟水化装置53において軟水化される補給水は、前処理装置52において酸化剤が除去されているため、ナトリウム型陽イオン交換樹脂を劣化させにくい。したがって、軟水化装置53は、長期間に渡って安定的に補給水を軟水化することができる。
【0030】
軟水化装置53において軟化水となった補給水は、次に、予備ろ過装置54でのろ過処理により懸濁物質やゴミ等の固形物が除去された後、ろ過処理装置55においてさらにろ過処理される。ろ過処理装置55において、予備ろ過装置54からの補給水は、ナノろ過膜によりろ過される。これにより、補給水に含まれる、伝熱管22等の蒸気ボイラ20の腐食原因となる成分が除去され、また、復水経路30の腐食原因となる成分の一部が除去される。ここで、蒸気ボイラ20の腐食原因となる成分は、主に、塩化物イオン(Cl)および硫酸イオン(SO2−)である。また、復水経路30の腐食原因となる成分は、補給水中の塩類が軟水化装置53での軟水化によりナトリウム塩となったもの、例えば、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ成分である。これらのアルカリ成分は、蒸気ボイラ20での加熱により分解し、炭酸ガスを生成するため、復水経路30に対する腐食原因となり得る。なお、以下の説明において、蒸気ボイラ20の腐食原因となる成分および復水経路30の腐食原因となる成分を総称し、「腐食促進成分」と云う場合がある。
【0031】
一方、軟水化装置53からの補給水に含まれる、原水に由来のシリカは、大半(通常は40%以上)がナノろ過膜を通過する。
【0032】
因みに、予備ろ過装置54からの補給水は前処理装置52において酸化剤が除去されており、しかも、予備ろ過装置54において固形物が除去されているため、ろ過処理装置55のナノろ過膜は、酸化による劣化が生じにくく、目詰まりを起こしにくい。したがって、ろ過処理装置55は、長期間に渡って安定的に、上述のような各種の成分を補給水から除去することができる。
【0033】
ろ過処理装置55においてろ過処理された補給水は、次に、脱酸素装置56において脱酸素処理される。これにより、補給水は、蒸気ボイラ20において伝熱管22等の腐食を促進する溶存酸素が除去される。
【0034】
以上の結果、給水タンク40には、補給経路50の各装置において処理された補給水、すなわち、脱酸素処理されかつ腐食促進成分が除去された軟化水がボイラ給水として貯留されることになる。このボイラ給水は、ろ過処理装置55のナノろ過膜を透過したシリカを含む。
【0035】
給水タンク40に補給水が貯留された状態で給水ポンプ42を作動させると、給水タンク40に貯留された補給水、すなわちボイラ給水は、給水経路41を通じて蒸気ボイラ20へ供給される。蒸気ボイラ20へ供給されたボイラ給水は、貯留部21においてボイラ水として貯留される。このボイラ水は、各伝熱管22を通じて燃焼装置25により加熱されながら各伝熱管22内を上昇し、徐々に蒸気になる。そして、各伝熱管22内において生成した蒸気は、ヘッダ23において集められ、蒸気供給路24を通じて負荷装置2へ供給される。
【0036】
負荷装置2へ供給された蒸気は、負荷装置2を通過して復水経路30へ流れ、そこで潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ31において蒸気と水とが分離されて高温の復水になる。このようにして生成した復水は、復水経路30を通じて給水タンク40へ回収されて給水タンク40に貯留された補給水と混合され、ボイラ給水として再利用される。ここで、給水タンク40に貯留された補給水は高温の復水により加熱されるので、蒸気ボイラ20は、ボイラ給水の加熱負担が軽減される。したがって、蒸気ボイラ装置1は、蒸気ボイラ20を稼動するための燃料コストを抑制することができ、経済的に運転することができる。
【0037】
上述のような蒸気ボイラ1の動作において、蒸気ボイラ20内でボイラ水として貯留されるボイラ給水は、伝熱管22の内面等に接触する。一般に、非不動態化金属からなる伝熱管22等は、ボイラ水の影響を受けて腐食が進行しやすいが、この実施の形態では、ボイラ給水において塩化物イオンや硫酸イオン等のイオン成分および溶存酸素が除去されているため、蒸気ボイラ20は、伝熱管22等の腐食が起こりにくい。また、ボイラ給水に含まれるシリカは、蒸気ボイラ20の貯留部21や伝熱管22の内部表面に皮膜を形成するため、蒸気ボイラ20に対する腐食抑制作用を高めることができる。さらに、ボイラ水は、既述のようなアルカリ成分が除去されているため、加熱時に炭酸ガスを発生させにくい。このため、この蒸気ボイラ装置1では、炭酸ガスの影響による復水経路30の腐食も併せて抑制される。すなわち、この実施の形態の蒸気ボイラ装置1は、ボイラ給水中の腐食抑制成分および溶存酸素を除去することができるため、ボイラ給水への薬剤添加に依らずに蒸気ボイラ20および復水経路30の両方の腐食を抑制することができる。
【0038】
因みに、この蒸気ボイラ装置1において、蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水は、軟化水であるため、伝熱管22に対してスケールを付着させにくい。
【0039】
変形例
(1)上述の実施の形態では、ろ過処理装置55においてナノろ過膜を用いたが、このナノろ過膜は逆浸透膜に変更することもできる。逆浸透膜は、一般にRO(Reverse Osmosis)膜と呼称されている、ポリアミド等の合成高分子を用いて形成されたものであり、AMST規格のAMST−002において、「塩化ナトリウム濃度が500〜2,000mg/リットルで操作圧力が0.5〜3.0MPaの評価条件の下での塩化ナトリウムの除去率が93%以上の膜」と定義されており、ナノろ過膜とは区別されている。因みに、逆浸透膜は、各社から市販されており、容易に入手することができる。
【0040】
逆浸透膜は、ナノろ過膜と同様に各種の形状で用いられる。すなわち、逆浸透膜は、平膜型、中空糸膜型、管状型およびノモリス型などの各種の形状で用いられる。
【0041】
ろ過処理装置55において用いられる逆浸透膜は、ナノろ過膜と同じく、補給水に含まれる腐食促進成分を除去することができるため、蒸気ボイラ装置1において、蒸気ボイラ20の伝熱管22や復水経路30の腐食を効果的に抑制することができる。特に、逆浸透膜は、補給水中に含まれる、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなど、すなわち、炭酸ガスの発生原因となるアルカリ成分の除去能がナノろ過膜よりも優れているため、蒸気ボイラ20において炭酸ガスが発生するのをより効果的に防止することができ、復水経路30の腐食をより効果的に抑制することができる。
【0042】
(2)ろ過処理装置55は、図3に示すように、ナノろ過膜55aと逆浸透膜55bの両方を備えていてもよい。この場合、ろ過処理装置55は、補給水をナノろ過膜55aでろ過処理した後に逆浸透膜55bでろ過処理するよう設定するのが好ましい。このようなろ過処理装置55は、補給水中の腐食促進成分をナノろ過膜55aおよび逆浸透膜55bの二段階で除去することになり、腐食促進成分の除去能率が高まるため、蒸気ボイラ装置1において、蒸気ボイラ20の伝熱管22や復水経路30の腐食をさらに効果的に抑制することができる。
【0043】
(3)上述の各実施の形態において、給水経路41は、図4に示すように、補助脱酸素装置43をさらに備えていてもよい。給水タンク40に貯留されたボイラ給水は、復水経路30からの復水に伴って空気が混入したり、ボイラ水にアルカリ成分が混入しているときは、その分解により生成した炭酸ガスが再溶解したりする可能性があるが、補助脱酸素装置43を設けると、このようにしてボイラ給水中に混入した溶存酸素や炭酸ガスを除去することができるため、蒸気ボイラ20において、伝熱管22等の腐食をより効果的に抑制することができ、また、復水経路30の腐食もより効果的に抑制することができる。
【0044】
因みに、補助脱酸素装置43は、処理水を減圧環境下において溶存酸素を除去する形式のもの、若しくは、処理水を加熱して溶存酸素を除去する形式のものなどの、分離膜を用いない形式のものが好ましい。分離膜を用いた脱酸素装置は、復水により加熱された高温のボイラ給水により容易に劣化し、脱酸素能力が低下しやすいためである。
【0045】
(4)上述の各実施の形態では、蒸気ボイラ20として貫流ボイラを用いているが、蒸気ボイラ20として他の形態のものを用いた場合も本発明を同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の一形態に係る蒸気ボイラ装置の概略図。
【図2】前記蒸気ボイラ装置において用いられる蒸気ボイラの一部断面概略図。
【図3】他の形態の蒸気ボイラ装置において用いられるろ過処理装置の概略図。
【図4】他の形態の蒸気ボイラ装置において用いられる給水経路の概略図。
【符号の説明】
【0047】
1 蒸気ボイラ装置
2 負荷装置
20 蒸気ボイラ
30 復水経路
40 給水タンク
41 給水経路
43 補助脱酸素装置
50 補給経路
55 ろ過処理装置
56 脱酸素装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給水をボイラ給水として給水タンクに貯留し、前記給水タンクから前記ボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を負荷装置において利用するとともに、前記蒸気が凝縮して得られる復水を前記負荷装置から延びる復水経路を通じて前記給水タンクへ回収して再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法であって、
前記補給水を、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いてろ過処理しかつ脱酸素処理してから前記給水タンクに貯留する、
蒸気ボイラ装置の運転方法。
【請求項2】
前記給水タンクから前記蒸気ボイラへ供給する前記ボイラ給水をさらに脱酸素処理する、請求項1に記載の蒸気ボイラ装置の運転方法。
【請求項3】
負荷装置へ蒸気を供給する蒸気ボイラ装置であって、
ボイラ給水を加熱して前記蒸気を生成する蒸気ボイラと、
前記蒸気ボイラへ前記ボイラ給水を供給するための給水経路を有する、前記ボイラ給水を貯留するための給水タンクと、
前記ボイラ給水として用いる補給水を前記給水タンクへ供給するための補給経路と、
前記負荷装置において利用された前記蒸気が凝縮して得られる復水を前記給水タンクへ回収するための復水経路とを備え、
前記補給経路は、ナノろ過膜および逆浸透膜のうちの少なくとも一つを用いて前記補給水をろ過処理するためのろ過処理装置と、前記ろ過処理装置においてろ過処理された前記補給水から溶存酸素を除去するための脱酸素装置とを有している、
蒸気ボイラ装置。
【請求項4】
前記給水経路が、前記ボイラ給水から溶存酸素を除去するための脱酸素装置をさらに備えている、請求項3に記載の蒸気ボイラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−121941(P2008−121941A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304603(P2006−304603)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】