説明

蒸気弁および蒸気タービン

【課題】バイパス弁体への局部的な異物の衝突を防ぎ、蒸気流量制御を正確に行うことのできる蒸気弁を提供する。
【解決手段】弁座8と、この弁座8に当接可能に設けられた主弁体14と、この主弁体14内に摺動自在に内蔵され、弁の全開位置で主弁体14から突出する環状壁部16を有し、この環状壁部16に蒸気を流入させる複数の蒸気導入孔17が形成され、蒸気導入孔17から流入した蒸気を導く流路18を内部に有するバイパス弁体15とを備えた蒸気弁において、蒸気通路22を有し、主弁体14から突出した環状壁部16を囲繞するフローガイド21を主弁体14に取り付け、蒸気通路22からフローガイド21の内周へ流入した蒸気が環状壁部16の外周とフローガイド21の内周の間の空間を旋回して流れ、環状壁部16の全周からバイパス弁体15の内部に流入するようにした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントに設備される蒸気タービンの蒸気導入配管上に設けられる蒸気弁および蒸気弁を備えた蒸気タービンに関し、特にバイパス弁を有する主蒸気止め弁で構成した蒸気弁および蒸気弁を備えた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや原子力発電プラントに設備される蒸気タービンは、図5に示すように蒸気発生器で発生した蒸気を主蒸気止め弁1および蒸気加減弁2を経て高圧タービン3に供給する構成になっている。このような蒸気タービンでは、起動時にボイラー等の蒸気発生器で発生した超高温、超高圧の蒸気を部分的に高圧タービン3に供給すると、その段落の金属に異常に高い熱応力が発生し、それに伴う熱変形などが生じ、亀裂や破損の原因となる。
【0003】
したがって蒸気タービンの運転では、この過酷な熱応力の発生を抑えるため、起動時か
ら初負荷までの間、蒸気加減弁2を全開にして、主蒸気止め弁1で蒸気流量を制御する、いわゆる全周噴射運転が行われ、暖機運転が行われている。このため、主蒸気止め弁1には、蒸気流量を制御するための構造が採用されている。
【0004】
図6は従来の主蒸気止め弁の構造を示す断面図である。すなわち主蒸気止め弁1は、弁室4を画成する弁箱5と弁蓋6によって圧力容器部分が構成され、弁箱5の内側にはじゃま板7と弁座8が突設され、弁室4にはストレーナ9と弁体10が設けられている。弁体10は弁棒11に接続され、油筒12から供給される油圧によって駆動される。蒸気発生器からの蒸気Sは入口Iから流入し、ストレーナ9と弁座8部を通過し、出口Oから加減弁へ流出する。
【0005】
図7は従来の弁体の構造を示す断面図である。すなわち主蒸気止め弁の弁体10は、円筒状を成す主体弁14と、この主体弁14の内側に摺動自在に設けられて上端が主弁体14の上部から突出し下端が弁棒11に結合されたバイパス弁体15とを備えている。
【0006】
バイパス弁体15の主弁体14の上端から突出した部分には環状壁部16が形成され、その上端は閉塞されている。環状壁部16には蒸気流れ方向に対して平行な複数の蒸気導入孔17が多段に形成されている。また、バイパス弁体15の中心部には蒸気流路18が形成され下部には蒸気流出孔19が形成されている。このバイパス弁体15は主弁体14内に内蔵される関係から、弁棒11によってバイパス弁体15を蒸気流に抗して押し上げることによって弁の開度調整を行うように構成されている。
【0007】
このように主蒸気止め弁の弁体10は主弁体14の内部にバイパス弁体15を内蔵し、蒸気タービンの起動時には蒸気加減弁を全開にするとともに、主弁体14を弁座8に当接させて全閉にし、バイパス弁体15のみを作動させて蒸気流量の制御を行う。図7は主蒸気止め弁の弁体10の主弁体14が弁座8に当接して閉じた状態で、かつバイパス弁体15が弁棒11によって主弁体14内の最上部まで押し上げられ、バイパス弁体15の環状壁部16に形成された蒸気導入孔17部分が主弁体14の上端から全て突出し、バイパス弁体15が全開した状態を示している。
【0008】
このように構成された主蒸気止め弁において、蒸気Sの流れはバイパス弁体15の多数の蒸気導入孔17にかなりの流速で流入し、この蒸気導入孔17を通った蒸気は、反対側の蒸気導入孔17を通って流れ込んでくる蒸気と環状壁部16内の空間で互いに衝突し、ここで蒸気のもつ速度エネルギーは低減され、低流速になる。
【0009】
低流速になった蒸気流は、バイパス弁体15内の蒸気流路18を通過して一旦圧力を回復し、バイパス弁体15の下流側に形成された複数の蒸気流出孔19を通って主蒸気止め弁1を出、さらに下流側の蒸気加減弁や蒸気タービンのノズルや羽根に向かって流れていく。
【0010】
このように、蒸気導入孔17を通ってバイパス弁体15内に流れ込んできた蒸気流は、ここで速度エネルギーを低減されて低流速となるため、蒸気中に含まれる微量のドレンや酸化物がバイパス弁体15の内部に衝突してもバイパス弁体15に浸食作用を及ぼすことがない。
【0011】
上記のようなバイパス弁体15は、複数の蒸気導入孔17が形成されていることから多孔式主蒸気止め弁と呼ばれ、浸食作用による破損問題を解決する構造として下記の特許文献1,2に開示されている。
【特許文献1】特公昭61−57442号公報
【特許文献2】特開2006−46331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
火力発電プラントや原子力発電プラントでは、ボイラー等の蒸気発生器のチューブや蒸気タービンまでの蒸気配管に酸化物が生成され、起動時に蒸気中に含まれて主蒸気止め弁のバイパス弁体15まで飛来する。特に老朽化したプラントでは、酸化物の生成量はプラントの運転時間とともに増加し建設年代の古いものほど多い。
【0013】
図8は、図6に示した主蒸気止め弁の水平断面を示す。すなわち、弁箱5の入口Iから流入した蒸気Sは、ストレーナ9の外周を流れ、入口Iと反対側のじゃま板7部分まで回り込む。同時に、流入した蒸気Sに含まれる酸化物は重量物であるため、その多くは流れの慣性力により入口Iと反対側のじゃま板7部分まで回り込んでくる。
【0014】
その結果、じゃま板7部分からストレーナ9を通過してストレーナ9内部に侵入し、バイパス弁体15の環状壁部16の外周に直接衝突することになる。衝突は図8の線Aに示す範囲が特に顕著である。
【0015】
従って、バイパス弁体15の環状壁部16の外周面が図8の線Aに示すような範囲の方向性を持って局部的に浸蝕作用を受け、蒸気導入孔17の形状が変る。そのためバイパス弁体15が本来の蒸気流量制御の機能を果さなくなる問題がある。
【0016】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであって、バイパス弁体への局部的な異物の衝突を防ぎ、蒸気流量制御を正確に行うことのできる蒸気弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明の蒸気弁は、弁座と、この弁座に当接可能に設けられた主弁体と、この主弁体内に摺動自在に内蔵され、弁の全開位置で前記主弁体から突出する環状壁部を有し、この環状壁部に蒸気を流入させる複数の蒸気導入孔が形成され、前記蒸気導入孔から流入した蒸気を導く流路を内部に有するバイパス弁体とを備えた蒸気弁において、蒸気通路を有し、前記主弁体から突出した前記環状壁部を囲繞するフローガイドを前記主弁体に取り付け、前記蒸気通路から前記フローガイドの内周へ流入した蒸気が前記環状壁部の外周と前記フローガイドの内周の間の空間を旋回して流れ、前記環状壁部の全周から前記バイパス弁体の内部に流入するようにした構成とする。
【0018】
また本発明の蒸気弁は、前記主弁体から突出した前記環状壁部を囲繞するフローガイドを前記主弁体に取り付け、前記バイパス弁体の外側と前記フローガイドの間に前記蒸気導入孔へ蒸気を導く円筒形の蒸気通路を設けた構成とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、バイパス弁体への局部的な異物の衝突を防ぐことのできる蒸気弁および蒸気弁を備えた蒸気タービンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の第1、第2の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態の蒸気弁に備えられる弁体の縦断面を示し、従来構造を示す図7と同じ部分には同じ符号を付してある。
【0021】
本実施の形態における弁体20は、バイパス弁体15の頭部を囲むフローガイド21を主弁体14の上端面にボルト24で取り付けた構成である。バイパス弁体15の頭部外周とフローガイド21内周の間には環状のすきまが形成されており、フローガイド21の側面には複数の蒸気通路22が形成されている。横断面図である図2に示すように、蒸気通路22はバイパス弁体15の中心線に対して傾斜しており、その傾斜角度は環状壁部16の外径の接線方向に一致している。
【0022】
本実施の形態の蒸気弁においては、ストレーナ9を通過してストレーナ9内部に流入した蒸気Sは、まずフローガイド21に衝突し、バイパス弁体15の環状壁部16に直接衝突することがない。フローガイド21の蒸気通路22を通過した蒸気Sは、蒸気通路22の傾斜角度によりバイパス弁体15の外周とフローガイド21の内周の間の空間を旋回して流れて整流され、蒸気導入孔17が形成されたバイパス弁体15の環状壁部16全周からバイパス弁体15の内部に均等に流入する。このため、蒸気に含まれる酸化物もバイパス弁体15の外周とフローガイド21の内周の間の空間を旋回して流れて均等に分散するため、バイパス弁体15の環状壁部16が方向性を持って局部的に浸食されることがない。
【0023】
図3は本実施の形態の変形例を示したもので、フローガイド21の蒸気通路22は、フローガイド21外面から内面に向かって徐々に断面積が狭まり、フローガイド21内面端では噴口(ノズル)形状となっている。
【0024】
この変形例によれば、蒸気通路22からフローガイド21内に噴出する蒸気は流速が速いので、バイパス弁体15の外周とフローガイド21の内周の間の空間に蒸気の旋回流Rを確実に形成することが出来る。
【0025】
なお、上述した本実施の形態およびその変形例では、フローガイド21に蒸気通路22を傾斜させて設けることにより、バイパス弁15の外周とフローガイド21との間に形成した空間部に蒸気を旋回させるようにしたが、本発明は必ずしもこのような構成を採用する必要はなく、バイパス弁に対して局部的に異物の衝突が避けられる構成であればよい。例えば、フローガイド21に放射状の蒸気通路22を設けることにより、蒸気が旋回しないように構成しても良い。
【0026】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の蒸気弁は、図4に示すように、主弁体14の上端面にバイパス弁体15の頭部を囲む円筒形のフローガイド21を取り付け、バイパス弁体15の頭部とフローガイド21の間に円筒形の蒸気通路23を形成した構成である。
【0027】
本実施の形態の蒸気弁においては、蒸気に含まれる酸化物は蒸気通路22で拡散するためバイパス弁体15の環状壁部16が局部的に浸食されることがない。なお、フローガイド21の内周面または、バイパス弁頭部外周面の双方または一方にらせん溝を設けた構成にすると、環状壁部16の外周で蒸気の旋回流が形成されて更によい効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態の蒸気弁に備えられる弁体を示す縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の蒸気弁の横断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の変形例の蒸気弁の横断面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態の蒸気弁に備えられる弁体を示す縦断面図。
【図5】蒸気タービン装置を示す系統図。
【図6】従来の蒸気弁を示す縦断面図。
【図7】従来の蒸気弁に備えられる弁体を示す縦断面図。
【図8】従来の蒸気弁の横断面図。
【符号の説明】
【0029】
1…主蒸気止め弁、2…蒸気加減弁、3…高圧タービン、4…弁室、5…弁箱、6…弁蓋、7…じゃま板、8…弁座、9…ストレーナ、10…弁体、11…弁棒、12…油筒、14…主弁体、15…バイパス弁体、16…環状壁部、17…蒸気導入孔、18…蒸気流路、19…蒸気流出孔、20…弁体、21…フローガイド、22,23…蒸気通路、24…ボルト、I…蒸気入口、O…蒸気出口、R…旋回流、S…蒸気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座と、この弁座に当接可能に設けられた主弁体と、この主弁体内に摺動自在に内蔵され、弁の全開位置で前記主弁体から突出する環状壁部を有し、この環状壁部に蒸気を流入させる複数の蒸気導入孔が形成され、前記蒸気導入孔から流入した蒸気を導く流路を内部に有するバイパス弁体とを備えた蒸気弁において、蒸気通路を有し、前記主弁体から突出した前記環状壁部を囲繞するフローガイドを前記主弁体に取り付け、前記蒸気通路から前記フローガイドの内周へ流入した蒸気が前記環状壁部の外周と前記フローガイドの内周の間の空間を旋回して流れ、前記環状壁部の全周から前記バイパス弁体の内部に流入するようにしたことを特徴とする蒸気弁。
【請求項2】
前記蒸気通路は前記環状壁部の接線方向に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の蒸気弁。
【請求項3】
前記蒸気通路は、前記フローガイドの外面から内面に向かって徐々に断面積が小さくなっていることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸気弁。
【請求項4】
弁座と、この弁座に当接可能に設けられた主弁体と、この主弁体内に摺動自在に内蔵され、弁の全開位置で前記主弁体から突出する環状壁部を有し、この環状壁部に蒸気を流入させる複数の蒸気導入孔が形成され、前記蒸気導入孔から流入した蒸気を導く流路を内部に有するバイパス弁体とを備えた蒸気弁において、前記主弁体から突出した前記環状壁部を囲繞するフローガイドを前記主弁体に取り付け、前記バイパス弁体の外側と前記フローガイドの間に前記蒸気導入孔へ蒸気を導く円筒形の蒸気通路を設けたことを特徴とする蒸気弁。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蒸気弁を備えた蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−101516(P2008−101516A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283752(P2006−283752)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】