説明

蒸気発生装置

【課題】多数の蒸気発生流路へ水を供給する蒸気発生ラインにおける水の逆流を防止する。
【解決手段】多数の蒸気発生流路を有する蒸気発生装置2中で水を加熱する蒸気発生方法であって、水をそれぞれの水供給ライン7を通して各蒸気発生流路に所定の速度で供給する一方、水供給ラインに圧力降下を発生させて、上記の多数の蒸気発生ラインにおける逆流を防止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気発生方法と、その方法に適した蒸気発生装置システムに関する。また、本発明は、上記の蒸気発生方法と上記の蒸気発生装置システムの燃料電池システムの内部及び外部への適用を提供するものであり、その燃料電池システムでは、上記の蒸気発生方法に基づいてあるいは上記の蒸気発生装置システムを用いて蒸気を発生させる。
【0002】
本発明を燃料電池システムを参照して記載及び図示するが、これらは本発明の適用例として好ましいものである。しかしながら、本発明の基本原理は、より広く適用できるものであり、それ故本発明は燃料電池システム以外にも適用が可能である。
【背景技術】
【0003】
最もクリーンな反応形態として、燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を発生させ、副生物として水を蒸気の形で生成する。しかしながら、天然ガス又は高級(C2+)炭化水素が一般に水素源として使用され、空気が酸素源として使用されている。
【0004】
燃料電池に供給する前に、燃料改質器を用いて炭化水素燃料をより少なくなるようにあるいはより大量に処理するのが一般的である。例えば、プロトン交換膜(PEM)型の燃料電池では、燃料電池に供給する水素リッチなガス流を製造するために、炭化水素燃料が水(蒸気)との反応により実質的に完全に改質されることが意図されている。一方、固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムでは、炭化水素(通常メタン)の改質を実行するために、燃料電池自身の内部(燃料電池のアノード面上)で触媒を用いることが可能である。いわゆる内部改質は、燃料電池内で起きる発熱的な発電反応と吸熱的な改質反応とをバランスさせることにより効率的に運転することが可能であるという利点を有している。
【0005】
しかしながら、この場合、燃料電池へ供給される燃料組成と電池内部での内部改質の程度とを制御して、燃料電池が過度に冷えすぎないように注意する必要がある。実際には、内部改質を行うように燃料電池を設計する場合、燃料電池に供給される燃料は、電池の運転特性に基づき必要とされる燃料の炭化水素量を調整すべく、燃料改質器内で前処理されている。ここで、燃料改質器は、通常、蒸気プレリホーマーと呼ばれている。
【0006】
炭化水素の改質は蒸気の存在下で行われ、改質器に向かうガス流中におけるカーボンに対する蒸気の比率は、改質反応における最も重要な変数の一つである。また、燃料電池に向かう燃料ガス流中の蒸気の存在は、内部改質を実行する触媒上にカーボンが堆積するのを防止する。そのため、蒸気/カーボン比を正確に制御することは重要な問題である。
【0007】
蒸気と処理される燃料とを適切な流量/圧力で供給することは、燃料改質器を有効且つ効率的に運転するためにも重要である。炭化水素の流量が一定でないと燃料利用率が変化し、それによりシステムの燃料電池スタックに悪影響を与える。炭化水素燃料を連行するのにベンチュリ管(排出装置)を用いる場合、ベンチュリ管への蒸気流量の変化は、直ぐに燃料の取り込み速度を変化させる。天然ガスが例えばブロアにより供給される場合、蒸気流量の変化は、システムの背圧を変化させ、それによりシステムへの燃料ガス流の流量を変化させる。
【0008】
常に、従来のシステムでは、蒸気は蒸気発生装置から加圧されて改質器に供給されている。必要な蒸気流量は通常の産業基準と比べると非常に低く(通常、2kWの燃料電池システムで最大で約1kg/時間である。)、これに対応するため、蒸気発生装置は通常、水が供給されそして加熱される多数の小さなボアチューブから構成されている。この方法による蒸気発生は、一般にフローボイリングと呼ばれている。
【0009】
この方法による蒸気製造は一般に便利であるが、圧力やガス流の変動(又はパルス)が起きやすく、度々、蒸気発生に使用される配管に逆流を発生させることがある。これらの現象は、蒸気発生用に、ミニ流路(mini-channels)(直径200μm〜3mm)やマイクロ流路(micro-channels)(直径200μm未満)を用いる場合によく報告されている。ミニ流路の場合、蒸気が発生に伴う振動特性や逆流の発生は、重要な要素である泡の核形成に伴う種々の機構によるものと信じられている。特に、ミニ流路におけるフローボイリングでは、スリーフローパターン、すなわち、孤立したバブルフロー(isolated bubble flow)、閉じ込められたバブルフロー(confined bubble flow)、そして環状スラグフロー(annular-slug flow)が一般的であると信じられている(S.G.Kandlikar, 「ミニ流路及びマイクロ流路におけるフローボイリングについての基本的な問題」,Experimental Thermal and Fluid Science 26(2002), pp389-407、を参照)。マイクロ流路におけるフローボイリングの発生機構はあまりわかっていないが、表面張力の効果が重要であると考えられている(上記のS.G.Kandlikarの論文を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S.G.Kandlikar, Fundamental issues related to flow boiling in mini-channels and micro-channels, Experimental Thermal and Fluid Science 26(2002), pp389-407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
圧力変動と逆流の起きる原因に関係なく、ガス流にこれらの現象が発生すると、燃料電池システムに問題が発生する。燃料を取り込むのに使用される蒸気ベンチュリ管での上記の非定常的な燃料の取り込みに加え、蒸気生成に伴う圧力パルスが燃料電池システム全体に拡がり、その結果として逆に部材に影響を与える場合がある。例えば、蒸気発生に伴う圧力パルスは、燃料電池システムのはるか下流にある、燃料電池の(アノード)排ガスを燃焼するのに使用されるバーナーでも観測され、パルスはバーナーの定常動作に悪影響を与える。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明は、多数の蒸気発生流路を有する蒸気発生装置中で水を加熱する蒸気発生方法であって、水を各水供給ラインを通して各蒸気発生流路に所定の速度で供給する一方、水供給ラインに圧力降下を発生させて、上記の多数の蒸気発生ラインにおける逆流を防止するようにした蒸気発生方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、流路に供給される水のフローボイリングにより、蒸気発生装置の多数の流路で蒸気が発生する。これにより、通常、圧力や流量の変動が発生するが、この変動には水の供給方向に対する逆流も含まれる。一般に、これにより蒸気発生装置への水の供給が邪魔され、蒸気生成量が変動する。一の蒸気発生流路における逆流は、隣接する流路における蒸気生成にも影響を与える(流路が互いに物理的に分離されていない場合)。本発明によれば、所定の方法で水を蒸気発生装置に供給することにより、逆流を最小限に抑制する、あるいは全体的に防止することができる。
【0014】
詳しくは、本発明によれば、各蒸気発生流路にはそれぞれの水供給ラインを通して水が供給され、これらの水供給ラインは、その長さ(入口から出口までの)に沿って所定の圧力降下が発生するように設計されている。この圧力降下が十分に大きければ(蒸気発生装置の圧力降下に比べて)、蒸気発生流路における逆流は最小限に抑制され、そして防止することも可能である。本発明では、水供給ラインの圧力降下は、ラインの入口と出口との間の圧力差をいう。同様に、蒸気発生装置の圧力降下は、発生装置の入口と出口との間の圧力差をいう。さらに詳しくは、水供給ラインの圧力降下(ΔP供給)と蒸気発生装置の圧力降下(ΔP発生器)の比率、すなわち、ΔP供給:ΔP発生器を特定の値にすることにより、逆流を低減する効果を得ることができる。この比率が低すぎると、各水供給ラインにおける圧力降下は、蒸気発生流路における逆流を防止するには十分ではない。全体的な基準としては、逆流を最小限に抑制するあるいは防止するためには、ΔP供給:ΔP発生器の比率は、1:2〜1:5、より好ましくは約1:3である。
【0015】
蒸気発生装置と各水供給ラインの圧力降下は、これら部品の構造/配置に依存する。典型的には、各水供給ラインに必要な圧力降下は、用いる蒸気発生装置の構造(そして圧力降下特性)に基づいて決定される。そのため、水供給ラインの構造が蒸気発生装置の選択を左右するというよりも、むしろ蒸気発生装置の選択が水供給ラインの構造を左右する(必要な圧力降下を確保するために)。これらの部品の圧力降下と、流量による圧力降下の変化は、適切に配置された圧力変換器を用いて測定することができ、当業者はその使用方法を熟知している。本発明に用いる特定の部品の知られた挙動に基づいて圧力降下を計算することが可能である。例えば、毛細管の大きさに基づいて、毛細管配管の圧力降下を計算することができる。最適な特性を確保するには、もちろん調整が必要である。
【0016】
基本的に、各水供給ラインにおいて圧力降下を発生させるためには、適切に配置されたスロットルバルブを用いるか、別の適切な流量制御装置を用いて行うことができる。公知のスロットルバルブを用いることができる。しかしながら、スロットルバルブによる圧力降下は流量の二乗に比例するため、低流量では必要な圧力降下を得ることが困難であることに留意する必要がある。
【0017】
しかしながら、各水供給ラインの圧力降下は流量と直線的な比例関係にあることが好ましい。この場合、蒸気発生装置の流量低下は向上する。これは、低流量では、圧力降下が流量の二乗に比例するスロットルバルブのような装置を用いなければ観測されないような圧力降下よりも、水供給ラインの圧力降下がさらに大きくなるからである。蒸気発生装置の圧力降下も、流量と直線的な比例関係にあることが好ましい。この場合、ΔP供給:ΔP発生器の比率は、この比率が最初の場所で適切に適用されれば、流量の変動に関係なく実質的に一定であり、蒸気発生装置の運転パラメータの領域では逆流を防ぐことができる。
【0018】
本発明は、蒸気が流路内で発生した時に圧力や流量の変動が発生する、あらゆる内径を有する蒸気発生流路に適用することができる。蒸気発生流路の内径は通常5mm以下である。流路には、内径が200μm〜3mmのミニ流路及び/又は内径が200μm未満であるマイクロ流路を用いることができる。これらの流路の正確な形状は、以下に説明するように、蒸気発生装置の構造により変化する。
【0019】
内径が約5mmまでの蒸気発生流路の場合、各水供給ラインに圧力降下を発生させるには、蒸気発生流路よりも(かなり)小さな内径を有する水供給ラインを通して各蒸気発生流路(の入口)へ水を供給することにより可能となる。これを行うには、毛細管配管を用いて各蒸気発生流路に水を供給することが好ましい。説明したように、このようにして毛細管配管を用いると、圧力降下が流量に直線的に比例するので(低レイノルズ数)、特に有利である。毛細管は、圧力降下が流量の二乗に比例する他の流量制御装置に比べ、低流量で大きな圧力降下を示すという有利な効果を有する。
【0020】
用いる毛細管配管の大きさ(長さ及び内径)は、各水供給ラインに必要な圧力降下に依存し、また蒸気発生装置の運転に伴う圧力降下にも依存する。当業者であれば、毛細管配管の大きさが、そのような配管中の液体流動に伴う圧力降下に対しどの程度の影響を与えるかを理解するであろう。
【0021】
本発明では、蒸気発生における変動を最小限に抑制するため、水を一定流量(しかし調整可能な状態で)で各水供給ラインに供給することが重要である。本発明では、流量制御バルブを用いることによりこれを行う。典型的には、単一のバルブが、各水供給ライン及び全ての水供給ラインへの水の合併流(combined flow of water)を制御する。通常、バルブは各水供給ラインがそこから分岐する主供給ラインに設けられている。各水供給ライン間では、供給圧力に差がないことが好ましい。流量制御バルブは水を安定的に供給するが、蒸気発生装置の蒸気発生流路で逆流による背圧が発生しないことが重要である。水供給ラインに圧力降下を発生させるのは、水を安定的に供給することを目的としている。
【0022】
温度変化により水供給ラインの圧力降下は影響を受けるので、蒸気発生装置の運転中は、蒸気発生装置への水供給ラインは実質的に一定温度に保つことが好ましい。この目的のため、水供給ラインを下流の蒸気発生装置から断熱することが好ましい。このことは、各水供給ラインの出口と各蒸気発生流路の入口との間に適切な絶縁性コネクターを設けたり、及び/又は適切に配置された断熱材料を用いることにより対応することができる。
【0023】
本発明で用いる蒸気発生装置は多数の蒸気発生流路を有している。流路の数は、蒸気発生装置全体の構造や、蒸気が発生した時の圧力変動を解消する本発明により得られる望ましい効果に依存している。基本的に、蒸気発生装置は2個の蒸気発生流路を有するが、多数の流路は発生した蒸気による圧力変動を解消するのに有効であるので、2個より多い流路を用いることもできる。蒸気発生装置は、一般に、少なくとも3個、好ましくは少なくとも5個、さらに好ましくは少なくとも10個の蒸気発生流路を有することができる。例えば必要な流量等の他の要素として、許容される最大圧力降下やコストが、本発明の実施する場合に用いる蒸気発生装置の構造に影響を与える。蒸気発生流路には、先に説明したミニ流路及び/又はマイクロ流路を用いることができる。
【0024】
本発明の一態様として、多数の蒸気発生流路は個々に分離した配管(マイクロ流路及び/又はミニ流路となる)の形態をとる。典型的には、配管群は同軸的に配置されている。この配置によれば、単一の熱源で全ての蒸気発生流路に熱を供給することができる。また、この配置は、製造及び/又は設置の観点からも有利である。
【0025】
本態様では、典型的には、蒸気発生流路の長さと内径との比率は、250:1〜750:1であり、例えば約500:1である。コスト(及び包装)の観点から、この比率をできるだけ小さくすることが有利である。技術的には、使用する場合の理想的な比率は、システムが許容可能な最大圧力降下、蒸気発生装置への熱流量、最大許容圧力、流量変動等の蒸気発生装置に要求される特性に依存する。
【0026】
別の態様では、蒸気発生流路として、積層体を形成するように一体的に結合されたプレート群又はシート群の表面を用いることもできる。この場合、プレート群又はシート群の少なくとも1枚の(主)表面をエッチングしたり、彫ったり又は機械加工し、その表面と別のプレート又はシートの相補的な(主)表面とを接触させることにより、積層体の内部でその長さ方向(又はその幅方向)に延在する蒸気発生流路を形成することができる。ここで、積層体は、積層体の1個のエッジ又は複数のエッジ、好ましくは2個のエッジに設けられた、流路の入口と出口とを有している。燃料電池に適用する場合、積層体はコンパクトである必要がある。例えば、大きさが10〜15cm×5〜10cm×1〜2mmである(耐熱性鋼の)プレート又はシートで積層体を形成することができる。典型的には、流路は、ミニ及びマイクロ流路について前に説明した大きさを有する。このタイプの積層体の製造方法は公知である。
【0027】
積層体の場合、蒸気発生流路は種々の構造をとることができる。最も簡単な構造は、積層体の内部を端から端に延びる多数の平行(直線の)な蒸気発生流路である。もちろん他の構造も可能であり、蒸気発生流路の構造は、蒸気発生時の蒸気発生装置内の圧力変動を最小限に抑制するのに寄与するものである。
【0028】
本発明の一態様として、蒸気発生装置をスタック構造に配置した多数の積層体で構成することもできる。蒸気発生装置は、高温のガス流を用いて加熱することができる。そのようなスタックにおいては、隣接する積層構造体は、熱伝導のために高温ガスがスタック内を流通可能なように取り付けられたフィン付きのプレート又はシートによりスタック内で互いに分離されている。燃料電池からの排気ガス又は燃料電池からの燃焼ガスからの排熱をその加熱に使用することができる。
【0029】
用いる蒸気発生装置の構造に関係なく、多数の蒸気発生流路における個々の流路は同じであっても異なっていても良い。圧力パルスの低減値がすべての流路について同じでない方が有効である。また、蒸気発生装置を使用した時に、異なる流路に対し異なる熱効果を与えることも有効である。
【0030】
多数の蒸気発生流路を用いると、個々の流路に起因する圧力パルスが平均化され、全体の圧力変動が低下すると考えられる。理論に縛られないで考えると、多数の蒸気発生流路を用いた場合、一の流路の出口における蒸気圧の谷とピークが、別の流路の出口における蒸気圧のそれぞれの谷又はピークと同期することは起こりにくいと考えられる。したがって、一の蒸気発生流路に起因する圧力変動は、別の蒸気発生流路に起因する蒸気変動を緩和したり打ち消したりすることができると考えられる。
【0031】
本発明の一態様として、蒸気発生装置は、蒸気受容器の中に蒸気を供給する(各蒸気発生流路から)。その蒸気受容器は、そこから延在する蒸気出口を有しており、蒸気出口は蒸気受容器の中に供給される蒸気圧の変動を打ち消すあるいは平衡させるように蒸気出口で一定の蒸気圧を与えるように取り付けられている。本発明のこの態様では、蒸気受容器を用いることにより圧力変動に起因する潜在的な悪影響を最小限に抑制でき、好ましくは防止できる。ここで、蒸気受容器は、各蒸気受容流路から受容器へ供給される蒸気の圧力パルスを打ち消すように配置されており、それにより、受容器の蒸気出口では、圧力パルスを減少させ、そして好ましくは圧力パルスを消滅させることができる。
【0032】
本発明のこの態様で用いる蒸気受容器の構造は、蒸気発生装置の蒸気出力における圧力変動を低減するのに大きく影響すると考えられる。特に、受容器の大きさ及び/又は構造により蒸気発生流路から受容器へ供給される蒸気の圧力変動を調整できるので、蒸気出口での蒸気圧を一定及び安定にすることができる。この点に関し、蒸気出口の位置も重要である。受容器からの蒸気出口は、蒸気流路が蒸気受容器へ蒸気を供給する場所からかなり離れた場所にある。本願では、「離れた」という用語は、蒸気の受容器への供給に起因するあらゆる圧力変動が問題にならない程度である場所に設けられた蒸気受容器から蒸気出口が延在していることを意味している。
【0033】
蒸気受容室は、蒸気発生流路の全体積よりも数オーダーの規模で大きい(例えば、少なくとも25倍、好ましくは少なくとも100倍)内容積を持つことが好ましい。このことは、蒸気が蒸気受容流路から受容器に供給される時に発生する振動特性を吸収及び平衡化に寄与する。蒸気受容室の有効容積は、多数の蒸気発生流路を用いる場合には小さくすることができ、逆も同じである。これは、多数の蒸気発生流路を用いると、圧力パルスの低下が大きくなるため、さらに圧力パルスを低下させるために蒸気受容室の有効容積を大きくする必要がないためである。蒸気受容室に必要な有効容積は、実験により決定し最適化することができる。受容器の容積は、従来のボイラーシステムから予想される通常のヘッダー又はエンドスペースよりははるかに大きい。
【0034】
蒸気発生流路と蒸気受容容器の内表面は平坦できれいであることが好ましい。また、蒸気受容容器の内表面は、角張った又は鋭い角部を有するよりは丸い方が好ましい。圧力変動を吸収するために、特別に設計された内表面を有する蒸気受容容器を用いることができる。また、これにより蒸気受容容器の容積を低減することができる。
【0035】
蒸気受容流路(の出口)は、好ましくは受容器の壁の一部となる流路受容プレートにより、蒸気受容容器に通常取り付けられている。内部の蒸気が接触する内表面上では、全ての継ぎ目は、耐圧で平坦である。
【0036】
使用時には、蒸気発生流路に熱が供給され、水が流路に吸い上げられた時には、水は蒸発して蒸気となる。熱は種々の方法で流路に供給することができる。例えば、流路群が同軸である場合、流路群を加熱可能なブロック材料を貫通させて延在させる。あるいは、ホットパイプ又は電気ヒーター等の加熱部品の周りに流路を巻き付けたり、バーナーに直接曝したり又はバーナーケースの周りに巻き付けたりすることもできる。加熱空気を用いて蒸気発生装置を加熱することもでき、その場合、熱伝導を促進するために、空気流に密接するように蒸気発生装置を取り付ける。熱源と流路とを、熱損失を最小限とするように配置することが好ましい。水は、加圧して流路に供給する。析出と腐食の問題を防ぐために、純水を用いるべきである。
【0037】
固体酸化物燃料電池システムに用いる蒸気発生装置では、蒸気は基本的には、圧力は約1から約5バール、例えば約3バールで、温度は約600℃で蒸気受容器に供給される。蒸気供給速度は、通常約1kg/時間まで、例えば約500g/時間が必要であり、蒸気発生装置はそれに合わせて設計され、そして運転される。この値は、蒸気発生装置の運転に使用される水の量としてはかなり少ないものである。蒸気発生速度は、1以上の流路に供給される水の供給速度を変化することにより調整するが、すべての流路への水の供給速度を一度に変化させることが好ましい。蒸気発生装置の運転特性は、用途に応じて変化する。そのため、別の用途では、圧力や温度の条件は今まで説明したものとは異なる。
【0038】
蒸気発生装置の部品は、運転時の条件と同様の高温及び高圧に耐え得る材料で作製する必要がある。本発明を実施するに用いるこれらの材料について、当業者は熟知している。
【0039】
本発明は、また本発明の方法を実施するのに適した蒸気発生装置を提供するものであり、その蒸気発生装置は、多数の蒸気発生流路と、その各蒸気発生流路と連通しその蒸気発生流路に水を供給する水供給ラインを有し、その各水供給ラインは、蒸気発生装置の運転中に多数の蒸気発生流路での逆流を防止するために各水供給ラインを横切る圧力降下を発生させる手段を有している。
【0040】
蒸気発生装置の多数の態様については、本発明の方法についての前述の説明から明らかであろう。各水供給ラインを横切る圧力降下は、毛細管配管を用いて発生させることができる。上流側の流量制御バルブを用いて各水供給ラインへ水を供給することにより、一定の流量(しかし調整可能である)を確保することができる。
【0041】
蒸気発生装置は、蒸気発生装置の蒸気発生流路からの蒸気を受けとるために取り付けられた蒸気受容器も備えており、蒸気圧パルスの変動を解消するのに用いることができる。この点についての態様も既に説明した。
【0042】
本発明は、説明した本発明の方法に基づいて蒸気を発生させる燃料電池システムも提供する。本発明は、さらに、説明した本発明の蒸気発生システムを含む燃料電池システムも提供する。燃料電池システムは、燃料電池のアノードに供給する燃料流を生成させるために、一般的に炭化水素燃料の燃料処理に蒸気を用いる。一態様では、蒸気はベンチュリ管に供給されるが、そのベンチュリ管は、ベンチュリ管を通過する蒸気流量に基づいて炭化水素燃料を連行するのに用いられる。燃料電池は固体酸化物燃料電池(SOFC)が好ましい。
【0043】
本発明のさらに別の一態様として、蒸気発生装置が提供され、その蒸気発生装置は、蒸気受容器と、その蒸気受容器と連通し、その蒸気受容器の中に蒸気を供給するために取り付けられた多数の蒸気発生流路と、その蒸気受容器から延在する蒸気出口とを備えており、その蒸気受容器は、その多数の蒸気発生流路からその受容器に供給される蒸気の圧力変動を平衡させるように取り付けられており、それにより蒸気出口での一定した蒸気圧力を確保する。
【0044】
本発明のこの態様については、前述の説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一態様に係る蒸気発生システムを示す模式図である。
【図2】本発明の実施に有用な蒸気発生スタックの一例を示す模式分解図である。
【図3】本発明の別の蒸気発生システムの態様を示す機械製図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、蒸気発生装置(2)を備えた蒸気発生システム(1)の一例を示す模式図である。蒸気発生装置は、2つの積層蒸気発生ユニット(3)を備えており、そのユニットは、ユニットを横切ってその内部に延在する多数の蒸気発生流路(不図示)を備えている。各ユニットは、各蒸気発生流路に水を供給する入口(4)と蒸気出口(5)を有している。蒸気発生装置は、出口(6)を有しており、それを通して各ユニットで発生した蒸気を供給する。説明したように、発生した蒸気の圧力変動を解消させることが望ましい場合には、出口(6)から蒸気受容器(不図示)へ蒸気を供給する。また、蒸気発器の単一の出口からではなく、各蒸気発生流路から、蒸気受容器に直接蒸気を供給することもできる。これによれば、蒸気発生における変動に基づく影響を平均化できるという利点を有する。
【0047】
生成蒸気(すなわち、蒸気発生装置の出力)が安定かつ一定の流量である場合には、蒸気受容器を用いることは重要ではない。この場合、蒸気発生装置の出力は、燃料電池システムの下流側の部品に直接使用される。
【0048】
ユニット(3)は、スタック形状で用いられている(図2を参照)。
【0049】
水は、各水供給ライン(7)を通して各蒸気発生流路に供給されるが、各水供給ラインは、水供給ライン(7)に圧力降下を発生させる毛細管(8)を有している。この圧力降下は、蒸気発生装置(2)全体の圧力降下よりもかなり大きくする必要がある。それは、蒸気発生装置(2)を運転している時の水供給ラインにおける逆流を防止する必要があるからである。
【0050】
また、水供給ライン(7)は供給部(9)からの水を受取るが、この供給部からの水は、主供給ライン(11)に設けた流量制御バルブ(10)を用いて一定流量に制御されている。個々の水供給ライン(7)は、この主供給ライン(11)からの分岐である。各水供給ライン(7)を流れる水の流量は一定であることが重要である。
【0051】
図2は、本発明の実施に好適な蒸気発生スタック(12)の一例を示す分解図である。スタック(12)は、高温耐熱鋼板(13)を有しており、その鋼板の主面はエッチングされ又は彫られ又は機械加工されて、多数の蒸気発生流路(A)が設けられている。各蒸気発生流路の入口(14)は、プレート(13)の端部(E)に設けられている。蒸気発生流路の出口(詳細は不図示)も、プレート(13)の端部に設けられている。各蒸気発生流路の入口(14)と出口は、プレート(13)の同じ又は異なる端部に設けることもできる。適切な鑞付け材料の箔(15)を用いて別のプレート(16)の主面をプレート(13)に結合することもできる。このプレート(16)の相補的な主面は平坦である。それにより、積層体(13,16)を得ることができ、蒸気発生流路がその積層体の内部を横切って延在している。一旦積層体(13,16)が形成されると、鑞付け材料は蒸気発生流路の邪魔をすることはない。
【0052】
スタック(12)は波形形状のプレートからなる熱伝導部材(17)を有しており、その部品の端部には側面部材(18)が結合しており、そしてその上面と下面は、結合に適した材料からなる箔を用いて隣接するプレート(19)と結合している。熱伝導部材(17)は空気がスタックを通過可能なように設計されており、それによりプレート(13)を含む積層体への熱伝導を可能としている。別のエンドプレート(21)が、適切な鑞付け材料の箔(22)を用いてスタック(12)の上端と下端に結合されている。これらのエンドプレートは、スタックの構造に剛直性を付与する。
【0053】
スタックの製造に用いる材料は、目的と必要な条件、例えば、発生する蒸気の温度やスタックを加熱するのに用いるガス流の温度や組成等に応じて選択することができる。典型的には、高温合金を蒸気発生装置(13,16)や熱伝導部材(17)の製造に用いることができ、例えば、名称がインコネルである合金を用いることができる。蒸気発生装置(13,16)はインコネル600で製造することができ、熱伝導部材はインコネル625で製造することができる。
【0054】
図3は、本発明の別の蒸気発生装置の機械製図である。その蒸気発生装置は、定格約1kWの燃料電池システムに好適である。図のA部分は長さ方向の外観であり、BとC部分は端部の外観である。図によれば、蒸気発生装置(23)は、内部がU字型接続部材(25)により接続された2つの円筒容器(24a,24b)からなる蒸気受容器(24)を備えている。この構造は、一体として同じ内容積を有するコンパクトな容器であり、同じ内径を有する長い容器を提供する。2つの互いに連結された容器(24a,24b)を用いることは、部材の占めるスペースが大きな問題となる燃料電池用途では非常に有用である。もちろん、容器の目的に応じて他の構造も可能である。典型的な大きさ(mm)を図に示した。蒸気受容器(24)の全容積は、約855cmであり、これは1kW出力の固体酸化物燃料電池に適したものである。
【0055】
蒸気発生装置(23)は、多数の蒸気発生流路(26)も有している。図に示した態様では5個の流路があり、それらは同軸に平行かつその周囲にまとめられている。流路は、アロイ600の配管で作製され、内径が約1.5〜1.7mm、壁厚が0.7〜0.9mmである。図に示した態様では、流路の長さは典型的には890mmである。図示してはいないが、各流路(26)に連結された毛細管(内径170μm)が流路に水を供給する。連結するには、例えば、適切な(縮小)継手や鑞付けを用いることができる。適した毛細管配管の市販品を入手することもできる。
【0056】
蒸気受容器(24)は、その容器(24)から延在する蒸気出口(27)も有しており、その出口は蒸気発生流路(26)が蒸気受容器(24)の中に入る場所からは離れた場所にある。
【0057】
蒸気受容器(24)はアロイ600で作製され、蒸気発生流路(26)、接続部材(25)そして蒸気出口(27)を受け容れ可能に取り付けられたエンドキャップを溶接することにより製造される。これらの部材は溶接により接合することができる。溶接する前に、すべての部材を超音波洗浄するか及び/又は適切な洗浄剤で洗浄する。すべての溶接及び溶接作業は、AS1554.1−1991GPに基づいて行い、溶接は認定された作業者が行う。溶接時にはアルゴンガスによるパージを行う。すべての内表面が平坦で、バリがなく、引っ掻きもなく、溶接時のはねもないことが重要である。
【0058】
使用時、水を加圧して、毛細管を通過させて蒸気発生流路(26)に供給する。流路(26)を加熱するのに用いる熱を供給するバーナー管(不図示)の周囲に流路を配置する。これにより水を過熱することができるので、蒸気を加圧下で(約3〜4バールで700℃)、蒸気受容器(24)の中に流すことができる。各流路(4)で発生した蒸気はパルス状に流れて蒸気受容器(24)の中に入る。しかしながら、容器(24)の中ではこれらのパルスは互いに打ち消し合って、蒸気出口(27)では一定の蒸気圧を有する。これにより、蒸気出口(27)を介して一定流量の蒸気を得ることができる。これは、システム内の圧力についての高速データ記録により確認することができる。
【0059】
本発明の蒸気発生装置は、安定かつ一定の蒸気を発生させる必要のあるすべてのシステムに用いることができる。本発明の蒸気発生装置は、従来蒸気をフローボイリングにより製造していた用途や、圧力変動や逆流の問題が認められていた用途に用いることができる。本発明の蒸気発生装置は、必要とされる蒸気流量が小さく、例えば最大で約1kg/時間であるような燃料電池システムに好適である。これは定格約1KWの燃料電池システムを意味する。これにより、本発明は、燃料電池システムにおける蒸気発生装置の使用やその蒸気発生装置を含む燃料電池システムに適用することも可能である。
【0060】
燃料電池システムにおいて、本発明の蒸気発生装置を用いて、種々のシステム及び部品に蒸気を提供することができる。例えば、燃料電池の燃料源として用いる高級炭化水素を処理するのに用いる蒸気プレリホーマーへ蒸気を供給するのに、その蒸気発生装置を用いることができる。この場合、蒸気改質は約550℃よりも低い温度で行うことができる。蒸気発生装置は、プレリホーマーに送る前に、その出力物を強く冷却又は加熱する必要がないように蒸気発生装置を運転することが好ましい。
【0061】
本発明の別の態様では、発生した蒸気は、燃料/ガス流混合物を製造するために気体状燃料(炭化水素)を連行するのに用いるベンチュリ管(エゼクター又はジェットポンプ)へ蒸気を供給するのに用いることができる。この混合物を、蒸気改質器又は下流側の燃料電池に供給することができる。ここで、出願人の国際特許出願PCT/2005/001107(WO2006/010212)を参考にすることができ、出典明示により本明細書の一部となる。
【0062】
本明細書では、文脈において必要がなければ、「有する」という用語や、「含む」や「備える」等の変形は、示された要素又は工程あるいは示された要素群又は工程群を含むことを意味するものであり、他の要素又は工程あるいは他の要素群又は工程群を排除するものではない。
【0063】
本明細書における先行技術についての言及は、それらがオーストラリア又はそれ以外の国における公知技術の一部を構成するものであることの自認あるいは示唆を示すものでもなく、またそのように見なすべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の蒸気発生流路を有する蒸気発生装置中で水を加熱する蒸気発生方法であって、水をそれぞれの水供給ラインを通して各蒸気発生流路に所定の速度で供給する一方、水供給ラインに圧力降下を発生させて、上記の多数の蒸気発生ラインにおける逆流を防止するようにした蒸気発生方法。
【請求項2】
上記の水供給ラインの圧力降下が、流速と直線的な比例関係にある請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記の蒸気発生装置の圧力降下が、流速と直線的な比例関係にある請求項1記載の方法。
【請求項4】
水供給ラインの圧力降下(ΔP供給)の蒸気発生装置の圧力降下(ΔP発生器)に対する比率が、1:2〜1:5である請求項1記載の方法。
【請求項5】
毛細管を通過させて各蒸気発生流路に水を供給することにより各水供給ラインに圧力降下を発生させる請求項1記載の方法。
【請求項6】
流量制御バルブを用いて一定流量で各水供給ラインに水を供給する請求項1記載の方法。
【請求項7】
単一のバルブにより、それぞれの及びすべての水供給ラインへの水の流量を制御する請求項6記載の方法。
【請求項8】
蒸気発生装置が蒸気受容器へ蒸気を供給し、該蒸気受容器は、該蒸気受容器から延在する蒸気出口を有しており、該蒸気出口を蒸気受容器へ供給される蒸気の圧力の変動を打ち消すあるいは平衡にするように取り付けて、該蒸気出口で一定の蒸気圧が得られるようにした請求項1記載の方法。
【請求項9】
多数の蒸気発生流路からなる蒸気発生装置と、
各蒸気発生流路と連通し蒸気発生流路に水を供給する水供給ラインとを有し、
各水供給ラインに、各水供給ラインに圧力降下を発生させる手段を設けて、蒸気発生装置の運転時に上記の多数の蒸気発生流路における逆流を防止するようにした、蒸気発生システム。
【請求項10】
毛細管を用いて、各水供給ラインに圧力降下を発生させるようにした請求項9記載のシステム。
【請求項11】
蒸気発生装置が蒸気受容器へ蒸気を供給し、該蒸気受容器は、該蒸気受容器から延在する蒸気出口を有しており、該蒸気出口を蒸気受容器へ供給される蒸気の圧力の変動を打ち消すあるいは平衡にするように取り付けて、該蒸気出口で一定の蒸気圧が得られるようにした請求項9記載のシステム。
【請求項12】
蒸気受容器と、
該蒸気受容器と連通し、該蒸気受容器へ蒸気を供給するように取り付けられた多数の蒸気発生流路と、
該蒸気受容器から延在する蒸気出口とを有し、
該蒸気受容器には、該蒸気受容器に供給される蒸気の圧力の変動を平衡にするように上記の多数の蒸気発生流路は取り付けられており、それにより該蒸気出口で一定の蒸気圧が得られるようにした、蒸気発生装置。
【請求項13】
請求項1記載の方法により蒸気を発生させる燃料電池システム。
【請求項14】
請求項9記載の蒸気発生システム又は請求項12記載の蒸気発生装置を有する燃料電池システム。
【請求項15】
燃料電池システムにおいて蒸気を発生させるための、請求項9記載の蒸気発生システム又は請求項12記載の蒸気発生装置の利用。
【請求項16】
発生した蒸気を、燃料/ガス流混合物を製造するために気体燃料を連行するのに使用されるベンチュリ管に供給する、請求項15記載の利用。
【請求項17】
上記燃料/ガス流混合物を蒸気改質器又は燃料電池に供給する請求項16記載の利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−50297(P2013−50297A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−226790(P2012−226790)
【出願日】平成24年10月12日(2012.10.12)
【分割の表示】特願2008−521746(P2008−521746)の分割
【原出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(500101988)セラミック・フューエル・セルズ・リミテッド (12)
【Fターム(参考)】