説明

蒸留系

トレイ表面に位置決めされ、少なくとも50体積%の開放空間、好ましくは少なくとも70体積%の開放空間を有する弾性成分と密接に関連した粒子状材料を収容した多孔質容器の充填材を有するトレイを収容した蒸留塔の稼働において、充填材の無いトレイと比較して改良されたHETPが得られる。充填材は触媒粒子状材料を含んでよく、蒸留は反応生成物の反応及び蒸留を含んでよい。粒子状材料は不活性としてよく、蒸留は、反応無しで蒸留混合物中の諸成分を分離するための従来のタイプの蒸留としてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同時に蒸留または化学反応を実行し、分別蒸留によって反応物及び生成物を分離する系に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒反応を実行する方法は、開発され、広く工業化されており、ここでは、反応混合物の諸成分を分別蒸留によって同時に分離可能である。幾つかの系が提案されており、1つの工業的に成功した系は、触媒を接触蒸留構造として使用している。このような系は、本発明と共通に譲渡された米国特許第4,215,011号、同第4,232,177号、同第4,242,530号、同第4,250,052号、同第4,302,356号、同第4,307,254号、同第4,336,407号、同第4,439,350号、同第4,443,559号及び同第4,482,775号において様々に説明されている。
【0003】
簡潔に述べると、これらにおいて説明されている工業的触媒構造は、ベルトに沿って間隔を置いた複数のポケットを有し、粒子状触媒材料を収容した布ベルトを含む。触媒充填ポケットを有する布ベルトを、間隔保持材料の例えば編成ステンレス鋼ワイヤメッシュの周りに巻いてらせんにし、こうした“ベール”を蒸留塔中に装填する。加えて、米国特許第4,302,356号、同第4,443,559号及び同第4,250,052号は、この使用のための様々な触媒構造を開示している。
【0004】
粒子状触媒を標準的な蒸留トレイ表面に置くことも提案された。例えば、米国特許第4,215,011号及び英国特許第GB 2,096,603号及び同第2、096、604号を参照されたい。米国特許第4,439,350号は、蒸留トレイ表面でトレイ表面の液体内部に互いから間隔を置いて離された触媒の閉じた多孔質容器を保持し、支持するクリップを開示している。米国特許第3,634,534号におけるように、標準的な蒸留塔のダウンカマー中の触媒の配置が提案された。米国特許第4,471,154号におけるように、トレイ表面の触媒の流動化も提案された。このような流動床の幾つかの欠陥は、Chemiker Zeitung/Chemische Apparatur, vol. 90, no. 13, July 1966及び米国特許第4,215,011号において認識されている。Quang, et alは米国特許第4,847,430号において、また、Nocca, et alは米国特許第4,847,431号において、触媒装填トレイの周りにガスバイパスを有し、蒸留塔の交互トレイ表面に粒子状触媒を装填することを開示している。触媒を固定床中に分散させ、支持するための固体ガラスビーズの使用は、特にパイロットプラント及びベンチスケール反応器において長く使用されてきた。例えば、ガラスビーズをベンチスケール反応器蒸留塔中に分散体及び支持体として使用した米国特許第4,918,244号を参照されたい。これまでのところ、最も工業的に成功した配置のうちの1つは、ガラス繊維布ベルトに沿って配置された閉じたポケット中に粒子状触媒を置くというものであり、これは米国特許第4,215,011号において開示されている。
【0005】
改良によって解決しようと試みられた主要な問題は、塔を通る圧力低下を低減すること、及び、反応物と触媒との十分な接触を提供し同時に分別蒸留のための良好な蒸気液体接触に対処することである。多くの有用な触媒は微粒子状粉末の形態であり、このことは蒸留成分として直接に使用する妨げとなる。より大きな押出ペレットでさえも蒸留構造として十分には役立たない。従って、布ベルト、ケージ及び支持トレイの使用が、主な開発の推進力である。より大きな触媒構造が提案されたが、多くの触媒材料の多孔性要件は、その構造健全性(structural integrity)を制限してしまう。多くの触媒は外側界面活性のみに依拠し、より大きな構造の場合に強度を有するかもしれず、気相反応の例えば無水マレイン酸製造の場合にのみ有用である。米国特許第4,443,559号及び同第5,266,546号は両方とも、蒸留塔反応器中に支持するためのシーブトレイ(網目板)と同様のトレイの表面に置いてよい接触蒸留構造を開示している。
【0006】
本発明は、こうした構造及び接触蒸留に関するが、また一般に蒸留に関する。本系の使用によってより大きな塔効率を従来の蒸留トレイの場合に得られることは、本発明の利点である。本発明を示唆するような従来技術は周知ではなく、実際に、従来の知識は、本発明は非生産的であると思われると示唆すると思われる。本発明の予想外の恩典は、本明細書における開示から明らかになろう。
【発明の開示】
【0007】
驚くべきことに、複数のトレイを収容した蒸留塔の稼働において、少なくとも50体積%の開放空間、好ましくは少なくとも70体積%の開放空間で構成された弾性成分と密接に関連した粒子状材料を収容した多孔質容器を含み、トレイ表面に位置決めされた充填材は、該充填材の無い前記トレイ未満の理論段相当高さ(HETP)を提供することが見い出された。充填材は触媒粒子状材料を含んでよく、蒸留は反応生成物の反応及び蒸留を含んでよい。粒子状材料は不活性としてよく、蒸留は、反応無しで蒸留混合物中の諸成分を分離するための従来のタイプの蒸留としてよい。
【0008】
トレイは、従来のトレイ(またはこの修正)、例えばシーブトレイ及びバブルトレイ(bubble tray)のいずれでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本充填材は、トレイ同士の間の全空間にまたはより低いHETPの利益を得るような領域のみに充填してよい。充填トレイは、非充填トレイよりも低い容量を有してよい。非充填トレイ(従来の蒸留において使用される)に対する制限は液体同伴であるが、ダウンカマー容量が、本充填トレイの場合の容量に対する制限であるようである。水力学的計算は、ダウンカマーバックアップが恐らく充填トレイに課すと思われるスループットの制限を示す。ダウンカマー中の等価透明液体レベル(equivalent clear liquid level)は、次の通り、蒸気流圧力低下と釣り合いを取らなければならない。
dc−hda=h+2h
[式中、hdc=ダウンカマーの等価透明液体中の泡の先端(head of froth)。
【0010】
da=ダウンカマーバッフル下の液体流の場合の圧力損失。
=1つのトレイを通る流れの場合の圧力損失。
=充填材を通る二相流の場合の圧力損失。]
この関係において、先端は透明液体または等価水として表すことができ、hの値は全トレイ圧力低下の測定から得られる。
【0011】
触媒床において、約50体積%の自由空間は、稼働可能な精留を得るために十分であることが観察された。
布、スクリーンワイヤまたはポリマーメッシュ等の多孔質容器中に封入することによって、粒子状材料を用いてよい。容器を製造するために使用する材料は、反応物と蒸留または反応/蒸留系の条件とに対して不活性でなければならない。布は、この要件を満たす任意の材料の例えば木綿、ガラス繊維、ポリエステル、ナイロン及びその他同様なものとしてよい。スクリーンワイヤは、アルミニウム、鋼、ステンレス鋼、及びその他同様なものとしてよい。ポリマーメッシュは、ナイロン、テフロン(登録商標)、またはその他同様なものとしてよい。容器を製造するために使用する材料1インチ当りのメッシュまたは糸は、粒子状材料が容器中に保持され、開口を通過しないようなものである。約0.15mmのサイズの粒子または粉末を使用してよく、直径約1/4インチまでの粒子を容器中に用いてよい。
【0012】
触媒粒子を保持するために用いる容器は、上記の共通に譲渡された特許において開示されているポケットのような任意の形状を有してよいか、または、容器は、単一の円柱、球、ドーナツ形、立方体、管若しくはその他同様なものとしてよい。
【0013】
固体粒子状材料(不活性のまたは触媒的)を収容した各容器は、粒子状成分を含む。各粒子状成分は、少なくとも70体積%の開放空間〜約95体積%までの開放空間で構成される間隔保持成分と密接に関連している。この成分は、剛性若しくは弾性またはこれらの組合せとしてよい。触媒成分及び間隔保持成分の組合せは、接触蒸留構造を形成する。1つの適切なこのような材料は、開口メッシュ編成ステンレスワイヤであり、一般にデミスタワイヤまたは膨張アルミニウムとして周知である。他の弾性成分は、ナイロン、テフロン(登録商標)及びその他同様なものの同様の開口メッシュ編成ポリマーフィラメントとしてよい。上記に説明したように、触媒成分と密接に関連した間隔保持成分は、様々な触媒成分を互いから間隔を置いて離すように働くことのみが必要である。従って、間隔保持成分は実際には、触媒成分がランダムであるが実質的に一様に分布する実質的に開放された空間のマトリックスを提供する。
【0014】
剛性または非弾性間隔保持成分は、米国特許第5,730,843号(これを、本明細書においてその全体を引用する)において開示されており、ここで、少なくとも2つの実質的に垂直の同一の格子で構成される剛性のフレーム、格子を間隔を置いて離し、保持する複数の実質的に水平の剛性の部材、及び前記格子に取り付けて、管同士の間に複数の流体通路を形成する複数の実質的に水平の流体透過性の好ましくはワイヤメッシュの管が存在し、好ましくはワイヤメッシュ管の少なくとも一部分は粒子状材料を含む。
【0015】
容器は、使用環境中で不活性の布または他の多孔質材料としてよい。木綿またはリネンが有用であるが、ガラス繊維布または“テフロン”(登録商標)布がワイヤメッシュとして好ましい。粒子状材料は粉末としてよいが、一般には例えば0.25〜1mmであり、1/4インチまでのより大きな粒子も使用される。
【0016】
充填材表面効率は高い。重要なのは、液体は布壁を通って流れる(そうするように強いられる)ようであることであり、これは、従来の向流において得られると思われるものよりも触媒粒子の良好な浸透を提供できる。
【0017】
図2を参照すると、シーブトレイ12及びダウンカマー14を有する部分的な塔10が示される。各トレイの間に、充填材16、粒子容器20及びデミスタワイヤ18が含まれる。充填材16は、トレイへのダウンカマーの下に配置されるが、開口したままになるように充填材16が表面に置かれるトレイからのダウンカマーから離れる。この具体例においては、空間の最後の数インチにデミスタワイヤを充填する。
【実施例】
【0018】
24psiaで18インチの間隔を置いた6つのシーブトレイを有する塔を使用して、全還流下でのシクロヘキサン/n−ヘプタン混合物の分離に関して図1のデータを得た。多重連結または連続管形構造をデミスタワイヤ等のワイヤメッシュスクリーンの上に置くことで充填材を形成する。管は、粒子状触媒材料を充填された可撓性で半剛性のワイヤメッシュ管状要素を含み、管形構造は長手方向1〜20インチ毎に締め具を有して、スクリーンワイヤのソーセージ状の鎖のように見える多重連結を形成する。充填材は、米国特許第5,432,890号において説明されているものであり、各トレイの間に広げて充填され、管類の各層の間にはデミスタワイヤを有し、デミスタワイヤ及び触媒の密接して設置された管の交互層を提供する。トレイ同士の間の全空間をこのようにして充填し、少なくともデミスタワイヤは上のトレイに至る。ダウンカマー上の空間は開放したままにして、充填材から液体が離れることを可能にする。充填トレイの精留係数は、シーブトレイ単独のものと実質的に同じである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】充填材の無い同じトレイ塔と比較した、本充填トレイ塔の場合の改良されたHETPをインチ単位で示すグラフである。
【図2】充填材を所定の位置に有する蒸留の部分区画の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトレイを収容した蒸留塔の稼働において、間隔保持成分と密接に関連した粒子状材料を収容した多孔質容器を含む充填材を、該充填材の無い前記トレイ未満の理論段相当高さ(HETP)を提供する量で、前記トレイ表面に位置決めすることを含み、弾性成分である前記間隔保持成分は少なくとも50体積%の開放空間で構成される、改良。
【請求項2】
前記開放空間は少なくとも70体積%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子状材料は触媒粒子状材料を含み、蒸留は反応生成物の反応及び蒸留を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子状材料は不活性材料を含み、前記蒸留は、反応が無く、蒸留混合物中の分離成分のためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記粒子状材料は触媒粒子状材料を含み、前記蒸留は反応無しで前記蒸留混合物中の諸成分を分離するためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記間隔保持成分は弾性である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記間隔保持成分は剛性である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記トレイはシーブトレイを含む、請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記トレイはバブルトレイを含む、請求項1、2、3、4、5、6または7に記載の方法。
【請求項10】
前記塔はn−ヘプタンからシクロヘキサンを分離するために稼働される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記HETPは28インチ未満である、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−506227(P2006−506227A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555296(P2004−555296)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/029108
【国際公開番号】WO2004/047941
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(599003073)キャタリティック・ディスティレイション・テクノロジーズ (28)
【Fターム(参考)】