説明

蒸着装置、及び金属蒸着物の製造方法

【課題】対象物の所望の領域に簡単に金属膜を成膜することができる蒸着装置を提供する。
【解決手段】蒸着装置1に、金属を収納する金属収納器と、金属収納器に収納された金属を加熱して金属蒸気を発生させるヒータと、金属蒸気を送出する送出口9において開口するとともに金属蒸気を送出口9まで誘導する中空部を形成され、中空部に面する内表面部が金属蒸気の蒸着を抑制する蒸着抑制材により形成された蒸気誘導器4とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置、及び金属蒸着物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子等のオプトエレクトロニクスデバイスには金属電極ないし金属配線が必須である。これらの金属電極及び金属配線を作製する技術の一つとして、金属蒸着がある。
金属蒸着は、何らかの対象物に金属を蒸着させて対象物の表面に金属膜を成膜する技術である。従来使用されていた金属蒸着の原理を簡単に説明すると、以下のとおりである。
【0003】
図8は従来の蒸着装置の一例の概要を模式的に示す断面図である。図8に模式的に示すように、この蒸着装置100は、密閉された中空部101を内部に形成された容器102と、中空部101内に設けられた蒸着ボート103と、蒸着ボート103を加熱するヒータ104とを備えている。
【0004】
前記の蒸着装置100の使用時には、容器102に設けられた扉(図示せず)から蒸着ボート103に粉末状又は塊状の金属105を入れるとともに、中空部101の所定の位置に対象物106を設置する。その後、真空ポンプなどにより内部を高真空状態にし、ヒータ104により金属皿103を加熱して金属105を気化させる。気化した金属は対象物106の表面に蒸着するので、対象物106の表面には金属膜107が成膜されるのである。
【0005】
ところで、従来の蒸着装置による金属蒸着では、基本的には対象物の全面に金属膜が成膜される。このため、対象物の所定の領域に金属膜を成膜しようとすれば、蒸着マスク法、エッチング法、リソグラフィー法等の技術が用いられてきた(非特許文献1)。
【0006】
【非特許文献1】日本学術振興会 薄膜第131委員会 編 「薄膜ハンドブック」 第2版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
対象物の所望の領域に金属膜を成膜しようとする場合、蒸着マスク法では、所定の形状に穴が開いたメタルマスク等を使用して金属を蒸着することで、その形状の金属パターンを得ていた。しかし、この場合にはマスクの穴以外の部分に利用されない金属が付着していた。
さらに、エッチング法では、対象物の全体に金属膜を成膜し、その後不要な領域の金属膜を除去して所望の領域にだけ金属膜を成膜していた。しかし、この場合には除去した金属膜の分だけ金属が無駄となる。また、除去した金属膜を回収して再利用する場合でも、再利用に手間を要し、コストアップの要因となっていた。
【0008】
また、例えばリソグラフィー法では、所望のパターンと相補的なネガ像パターンであるマクスを用いていた。しかし、この場合にはマスクの形成工程及び除去工程を行う分だけ工程の数が多くなり、操作が煩雑であった。また、レジスト等のマスクの形成材料、マスクを除去するための除去液など、多くの試薬を用いることになるため、製造コストが大きくなっていた。さらに、試薬の使用は環境面からも抑制すべきと考えられる。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、対象物の所望の領域に簡単に金属膜を成膜することができる蒸着装置、並びに、当該蒸着装置を用いた金属蒸着物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、金属蒸気の蒸着を抑制する蒸着抑制材により内面を形成された蒸気誘導器に送出口を設け、この送出口から対象物に金属蒸気を送出することにより、対象物の所望の領域に選択的に金属膜を成膜できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、対象物に金属を蒸着させる蒸着装置であって、前記金属を収納する金属収納器と、該金属収納器に収納された金属を加熱して金属蒸気を発生させるヒータと、前記金属蒸気を送出する送出口において開口するとともに前記金属蒸気を前記送出口まで誘導する中空部を形成され、前記中空部に面する内表面部が前記金属蒸気の蒸着を抑制する蒸着抑制材により形成された蒸気誘導器とを備えることを特徴とする、蒸着装置に存する(請求項1)。
【0012】
このとき、本発明の蒸着装置は、前記対象物を前記送出口に対向する位置に保持する対象物保持部と、前記送出口と前記対象物保持部との相対位置を変化させる相対移動部とを備えることが好ましい(請求項2)。
【0013】
また、該蒸着抑制材のガラス転移温度は20℃以下であることが好ましい(請求項3)。
【0014】
本発明の別の要旨は、本発明の蒸着装置を用いて対象物の所望の領域に金属が蒸着された金属蒸着物を製造する金属蒸着物の製造方法であって、前記金属収納器に金属を収納し、前記ヒータにより前記金属を加熱して金属蒸気を発生させ、前記送出口から前記対象物の所望の領域に前記金属蒸気を送出して対象物の所望の領域に金属を蒸着させることを特徴とする、金属蒸着物の製造方法に存する(請求項4)。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蒸着装置、及び、金属蒸着物の製造方法によれば、対象物の所望の領域に簡単に金属膜を成膜できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0017】
[1.第一実施形態]
図1及び図2は、本発明の第一実施形態としての蒸着装置の概要を示すもので、図1はその模式的な斜視図であり、図2はその模式的な断面図である。
図1,2に示すように、本実施形態の蒸着装置1は、金属収納器としての蒸着ボート2及びヒータ3を収納した蒸気誘導器4と、対象物保持部としての可動テーブル5と、相対移動部としてのアクチュエータ6とを備えている。
【0018】
蒸着ボート2は金属7を収納する器である。蒸着ボート2に収納された金属7がヒータ3によって加熱されることにより気化して金属蒸気が発生するようになっている。
蒸着ボート2の数に制限はなく、1個を単独で設けてもよく、2個以上を設けてもよい。2個以上の蒸着ボート2を設ける場合、それらの蒸着ボート2には、同一の金属を収納するようにしてもよく、異なる金属を収納するようにしてもよい。
【0019】
ヒータ3としては、蒸着ボート2に収納された金属7を加熱して金属蒸気を発生させることができるものであれば、任意の加熱装置を用いることができる。ここでは、図示しない電源から電力を供給されて発熱する抵抗加熱器をヒータ3として用いているものとして説明するが、ヒータ3はこれに限定されるものではない。
【0020】
蒸気誘導器4は内部に中空部8を形成された容器であり、中空部8内に前記の蒸着ボート2及びヒータ3が設けられている。
蒸気誘導器4の形状及び大きさは、内部に蒸着ボート2及びヒータ3を収納できる限り任意である。ここでは、天井部がドーム状に形成された、蒸着ボート2及びヒータ3を収納するのに適した大きさの容器を蒸気誘導器4として用いているものとする。
また、蒸気誘導器4には中空部8にものを出し入れするための扉(図示省略)が設けられていて、この扉を介して蒸着ボート2に金属7を入れるようになっている。
【0021】
蒸気誘導器4には中空部8が開口した送出口9が形成され、送出口9は中空部8と外部とを連通している。使用の際、扉等は閉められるために送出口9以外では中空部8は開口しないので、蒸着ボート2から発生した金属蒸気は中空部8内を送出口9まで誘導されて、送出口9から対象物に向けて送出されるようになっている。
【0022】
送出口9の形状に制限はない。通常は送出口9の形状と同様の平面形状となるように金属膜が形成されるため、金属膜を形成しようとする所定の領域の形状に応じて送出口9の形状を設定すればよい。
【0023】
また、送出口9の大きさは、金属膜を形成しようとする所望の領域の大きさに合わせて設定すればよい。送出口9をより小さく形成するほど、対象物において金属膜が形成される範囲を小さくすることができる。通常、送出口9は直径1μm以上1mm以下の円形の孔として形成されるが、長方形など任意の形でも良い。
さらに、送出口9の数も任意であり、複数の送出口9を形成してもよいが、通常は一つの蒸気誘導器4について1つ形成する。
【0024】
蒸気誘導器4の材質は、金属蒸気が透過しないものであれば任意である。ただし、中空部8に面する内表面部10は蒸着抑制材により形成する。蒸着抑制材とは、金属蒸気の蒸着を抑制するものであり、例えば、特開2007−188854号公報に記載のものを用いることができる。なお、その詳細は後述する。内表面部10が蒸着抑制材により形成されていることにより、送出口9の周辺に金属が蒸着して送出口9が閉塞することを防止できるようになっている。この場合、蒸着抑制材により蒸気誘導器4全体を形成するようにしてもよいが、通常は、蒸気誘導器4の内面に蒸着抑制材の層を成膜することにより内表面部10を蒸着抑制材で形成する。この場合、蒸着抑制材の層の厚みは金属の蒸着を防止できる限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは2nm以上であり、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下である。この膜厚が薄いほど、微細な送出口に対応できるが、送出口が大きければその限りではない。
なお、蒸着ボート2及びヒータ3は、その表面部を蒸着抑制材で形成しなくても、通常は当該蒸着ボート2及びヒータ3に金属が蒸着することはない。これらの当該蒸着ボート2及びヒータ3は金属が気化する程度に高温になるためである。
【0025】
可動テーブル5は移動可能に設けられたテーブルであり、対象物を送出口9に対向する位置に保持する手段である。可動テーブル5が対象物を保持する具体的な手段に制限は無いが、ここでは、可動テーブル5の図中下側に図示しない把持具が設けられ、当該把持具が対象物を把持することで、対象物は送出口9に対向する位置に着脱可能に保持されるようになっているものとする。
【0026】
可動テーブル5と送出口9との距離は、可動テーブル5に対象物を取り付けた場合に、対象物と送出口9との距離が短くなるように形成することが好ましい。対象物と送出口9との距離が長すぎると、送出口9から送出された金属蒸気が対象物に到着するまでに拡散して蒸着の効率が低下する可能性があるためである。送出口9と対象物との距離の具体的な値は金属膜の寸法に応じて任意に設定できるが、作製しようとする金属パターン(金属膜の平面形状)の解像度に対応して、通常1μm以上、通常10mm以下である。微細な金属パターンを形成するには、それに相当する送出口の大きさと距離を設定することが好ましい。
【0027】
アクチュエータ6は、水平方向に設けられたレール(図示省略)に沿って、直交するx軸方向及びy軸方向に可動テーブル5を移動させるものである。アクチュエータ6の動作は制御部11により制御されていて、制御部11に制御されたアクチュエータ6が可動テーブル5をx軸方向及びy軸方向に移動させることにより、送出口9と可動テーブル5との相対位置を変化させて、対象物の位置決めができるようになっている。
【0028】
制御部11は、アクチュエータ6の動作を制御して対象物の位置決めをするもので、ハードウェア的にはCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ、更にはインターフェース部からなる電子計算機により構成されている。そして、制御部11の機能は、当該電子計算機が発揮するようになっている。
【0029】
さらに、上述した蒸気誘導器4、可動テーブル5及びアクチュエータ6はいずれも真空チャンバ12(図においては破線で示す。)内に設置されている。真空チャンバ12には真空ポンプ13が接続されていて、使用時には当該真空ポンプ13により真空チャンバ12内は減圧される。真空チャンバ12内の具体的な減圧程度は通常1×10−6Torr程度である。
【0030】
本実施形態の蒸着装置1は以上のように構成されているので、使用時には、金属7を蒸着させる対象物を用意し、当該対象物を可動テーブル5に取り付ける。対象物に制限は無く、任意の材料、任意の形状、任意の大きさのものを用いることができる。ここでは、平板状の基板14を対象物の例に挙げて説明をする。可動テーブル5への取り付け時には、金属膜15を成膜しようとする面を送出口9に対向するように向きを決めて、基板14を可動テーブル5の把持具で把持させることにより、基板14を可動テーブル5に保持させる。
【0031】
一方で、蒸着させたい金属7を用意する。金属7の種類は任意であるが、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、カリウム、リチウムなどが挙げられる。また、これらの金属7は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。2種以上の金属7を用いる場合、同一の蒸着ボート2に2種以上の金属7を収納してもよく、金属7毎に別の蒸着ボート2に収納してもよく、これらを組み合わせてもよい。また、収納される金属7の状態は任意であり、例えば粉末状であってもよく塊状であってもよい。
金属7を用意した後、蒸気誘導器4に設けられた扉(図示省略)から蒸着ボート2に収納し、扉を閉める。
【0032】
その後、真空ポンプ13により真空チャンバ12内を減圧し、高真空状態にする。
そして、ヒータ3により金属7を加熱して金属蒸気を発生させる一方で、制御部11がアクチュエータ6を移動させて基板14の位置決めを行う。このときの位置決めは、送出口9に対向する位置(通常は正面)に基板14の所望の領域がくるように行う。
発生した金属蒸気は中空部8を通って送出口9から基板14の所望の領域に送出される。送出された金属蒸気は、基板14の所望の領域に蒸着する。これにより、基板14の所望の領域に金属膜15が形成される。
【0033】
また、基板14の別の領域にも金属膜15を形成したい場合は、制御部11はアクチュエータ6を制御して可動テーブル5を移動させる。これにより、基板14は別の領域に金属蒸気が蒸着できるように位置決めがなされ、当該領域に金属膜15が形成される。なお、前記の可動テーブル5の移動は、送出口9からの金属蒸気の送出が停止している状態で行ってもよいが、制御を簡単にする観点から、通常は金属蒸気の送出を継続している状態で移動させる。これにより、いわばペン先に相当する送出口9から基板14にむかって金属蒸気を吹きつけ、結果として万年筆で文字を書くが如く、所望の領域に金属膜15を形成できる。
【0034】
以上のようにして、基板14の所望の領域に金属が蒸着された金属蒸着物を簡単に製造することができる。
従来の蒸着装置においては、金属蒸気の発生源(本発明の金属収納器に相当)と対象物とが同一容器内に収納されていた。このため、発生した金属蒸気は対象物及び容器内面に任意に蒸着し、所望の領域にのみ蒸着させることができなかった。このため、従来はマスキング法及びレジスト法などの技術を採用していたのであるが、これらの方法は、金属の無駄の発生、試薬の使用、工程の複雑化などによる高コスト化が課題であった。
これに対し、本実施形態の蒸着装置1によれば、マスクの形成及び除去、並びに不要な金属膜の除去などの工程を行うことなく、単に金属蒸気を吹き付けるだけで、恰もペンで文字を書くようにして基板14の所望の領域に選択的に金属膜15を形成できるため、操作が簡単であり、低コストでの金属蒸着物の製造を実現できる。
このように本発明は金属蒸着に係る技術分野において非常に有用であり、例えば、基板14に金属膜15で配線を形成する場合においては、所望の領域の形状を配線の回路形状に合わせておけば、レジスト法及びリソグラフィー法よりも簡単かつ低コストで配線の形成を行うことができる。
【0035】
ところで、本発明の蒸着装置及び金属蒸着物の製造方法は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施できる。
例えば、対象物保持部は、基板14を送出口9に対向する位置に保持できるものであれば、可動テーブル5以外のものを用いてもよい。
【0036】
さらに、例えば、上記実施形態において、送出口9に、金属蒸気の送出を制御するシャッター(図示せず)を設けてもよい。この際、制御部11が当該シャッターの開閉を制御できるようにすれば、より多様な形状の金属膜15を成膜できるようになる。なお、シャッターの表面も蒸着抑制材で形成することが好ましい。送出口9の閉塞を防止するためである。
【0037】
また、例えば、可動テーブル5(ひいては基板14)と送出口9との相対位置を変化させることができるのであれば、相対移動部は上述した構成に限定されるものではない。したがって、上記実施形態では相対移動部が可動テーブル5の位置を移動させるように構成したが、送出口9の位置(ひいては、蒸気誘導器4の位置)を移動させるようにしてもよく、基板14及び送出口9の両方の位置を移動させるようにしてもよい。
【0038】
[2.第二実施形態]
図3及び図4は、本発明の第二実施形態としての蒸着装置の概要を示すもので、図3はその模式的な斜視図であり、図4はその模式的な断面図である。なお、図3,4において、図1,2と同様の部分は、図1,2と同様の符号で示す。
図3,4に示すように、本実施形態の蒸着装置1’は、金属収納器としての蒸着ボート2及びヒータ3を収納した蒸気誘導器16と、対象物保持部としての可動テーブル5と、相対移動部としてのアクチュエータ6とを備えている。
【0039】
蒸着ボート2、ヒータ3、制御部11、真空チャンバ12及び真空ポンプ13は、第一実施形態と同様に構成されている。
【0040】
蒸気誘導器16は基部17と誘導管18とを備えて形成された容器である。ここで、基部17は第一実施形態における蒸気誘導器4と同様の構成を有しており、その送出口9に相当する接続口19に誘導管18が接続された構成を有している。
【0041】
誘導管18は、その内部に一端から他端まで連通する中空部(以下、「誘導路」ということがある)20を形成された筒状部材であり、その一端に開口した開口部(以下「取込口」ということがある)は基部17の接続口19に接続され、他端には誘導路20が外部に開口した送出口21が形成されている。したがって、接続口19から誘導路20に進入した金属蒸気は、誘導路20内を送出口21まで誘導されて、送出口21から対象物に向けて送出されるようになっている。なお、取込口は接続口19と実質的に同様の部位を示しているので、接続口19と同様に符号19で示す。
【0042】
誘導管18の材質は、金属蒸気が透過しないものであれば任意である。ただし、誘導路20の内面に金属が蒸着することを防止するため、誘導路20に面する内表面部22は蒸着抑制材により形成する。内表面部22が蒸着抑制材により形成されていることにより、送出口21の周辺に金属が蒸着して送出口21が閉塞することを防止できるようになっている。なお、基部17と同様、蒸着抑制材により誘導管18全体を形成するようにしてもよいが、通常は、誘導管18の内面に蒸着抑制材の層を成膜することにより内表面部22を蒸着抑制材で形成する。
【0043】
誘導管18の外形、断面形状などの形状に制限はない。誘導管18を設ける利点の一つとして、基部17内で発生した金属蒸気を所望の位置に誘導できることがある。この利点を有効に活用する観点から、誘導管18の形状は所望の形状に任意に形成すればよい。例えば、本実施形態では鉛直方向から水平方向に屈曲する屈曲形状としたが、直線状、鋭角又は鈍角に屈折する屈折状などに形成するようにしてもよい。さらに、送出口21の位置調整を容易にするためには、誘導管18の壁部を蛇腹状に形成し、設置作業を簡単にできるようにしてもよい。
【0044】
ただし、誘導管18の送出口21側の端部は、その内径が端に近づくに従って次第に縮径するように形成することが好ましい。基部17内で発生した金属蒸気を誘導路20に効率的に取り込む観点からは接続口19近傍の誘導路20の径はある程度大きく形成することが好ましい一方で、送出口21の径が大きすぎると送出される金属蒸気が拡散しやすくなる。しかし、上記のように縮径させることで効率的に蒸着を実現できるからである。
【0045】
また、誘導管18、誘導路20、送出口21の数は任意であり、それぞれ複数設けることも可能であるが、通常はいずれも1つずつ設ける。
【0046】
可動テーブル5は、鉛直方向に平行に設けられて、その図中右側に対象物を把持するための把持具(図示せず)が設けられているほかは、第一実施形態と同様である。
また、アクチュエータ6は、鉛直方向に設けられたレール(図示省略)に沿って、直交するy軸方向及びz軸方向に可動テーブル5を移動させることができるようになっているほかは、第一実施形態と同様である。
【0047】
本実施形態の蒸着装置1’は以上のように構成されているので、使用時には、金属7を蒸着させる対象物を用意し、当該対象物を可動テーブル5に取り付ける。ここでは、第一実施形態と同様、平板状の基板14を対象物の例に挙げて説明をする。
一方で、蒸着させたい金属7を用意し、基部17に設けられた扉(図示省略)から蒸着ボート2に収納し、扉を閉める。
その後、真空ポンプ13により真空チャンバ12内を減圧し、真空状態にする。
そして、第一実施形態と同様に、ヒータ3により金属7を加熱して金属蒸気を発生させる一方で、制御部11がアクチュエータ6を移動させて基板14の位置決めを行う。
【0048】
発生した金属蒸気は、中空部8を通って接続口19から誘導路20に進入し、誘導路20内を送出口21まで誘導され、送出口21から基板14へ向けて送出される。送出された金属蒸気は、基板14の所望の領域に送られ、当該所望の領域に蒸着する。これにより、基板14の所望の領域に金属膜15が形成される。
また、基板14の別の領域にも金属膜15を形成したい場合は、第一実施形態と同様に、制御部11がアクチュエータ6を制御することで可動テーブル5を移動させて位置決めをするようにすればよい。
【0049】
以上のようにして、基板14の所望の領域に金属が蒸着された金属蒸着物を簡単に製造することができる。即ち、本実施形態の蒸着装置1’によれば、マスクの形成及び除去、並びに不要な金属膜の除去などの工程を行うことなく、単に金属蒸気を吹き付けるだけで、恰もペンで文字を書くようにして基板14の所望の領域に選択的に金属膜15を形成できるため、操作が簡単であり、低コストでの金属蒸着物の製造を実現できる。
【0050】
また、本実施形態の蒸着装置1’では、蒸着装置1’自体の設計の自由度を高めることができる。なぜならば、誘導管18を設けたことにより、基部17と基板14とを近接させる必要が無いため、基部17の設置位置を限定されないからである。
【0051】
ところで、本発明の蒸着装置及び金属蒸着物の製造方法は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施できる。
例えば、第一実施形態と同様に変更して実施することができる。また、第一実施形態の構成と組み合わせて実施することもできる。
さらに、第一実施形態と同様、金属蒸気の送出を制御するシャッター(図示せず)を設けてもよい。この際、シャッターを設ける位置は、送出口21だけでなく、接続口19でもよく、誘導路20内のいずれかの位置であってもよい。
【0052】
また、例えば、少なくとも送出口21を真空チャンバ12内に配設すれば、基部17は真空チャンバ12の外部に配置してもよい。基部17を真空チャンバ12の外部に配置しても、蒸着ボート2から生じた金属蒸気は誘導路20を通って基板14に対向する位置まで誘導される。したがって、同一の真空チャンバ12内に金属蒸気の発生源(蒸着ボート2)と基板14を設置しなくてもよいので、真空チャンバ12を小型化でき、真空ポンプ13への負荷を低減することが可能である。
【0053】
さらに、例えば、誘導管18に分岐を設けるようにしてもよい。これにより、一度に複数の領域に金属膜15を形成することが可能である。
【0054】
また、蒸着ボート2から生じる金属蒸気を誘導管18により誘導できるのであれば、基部17は必ずしも設けなくてもよい。例えば、図5に模式的に示すように、誘導管18の取込口19と蒸着ボート2とを近接させると共に、当該取込口19を蒸着ボート2の全体を覆う程度に大きく形成すれば、基部17内に蒸着ボート2を収納しなくても、発生した金属蒸気は誘導路20内を誘導されて送出口21から基板14に送出させることができる。この場合、誘導管18自体が蒸気誘導器として機能し、取込口19から取り込んだ金属蒸気を誘導路20が送出口21まで誘導することになる。
【0055】
[4.蒸着抑制材]
蒸着抑制材は、金属蒸気の蒸着を抑制する材料である。通常、金属蒸気は任意の物体表面に蒸着するが、当該物体の表面部を蒸着抑制材で形成することにより、当該表面部には金属蒸気が蒸着しなくなる。蒸着抑制材の種類に制限は無く、蒸着しようとする金属の種類に応じて適切なものを選択すればよい。
【0056】
本発明に係る蒸着抑制材が金属蒸気の蒸着を抑制するメカニズムは、以下のとおりである。
金属蒸気が物体表面に到達した場合、当該金属蒸気が物体表面に蒸着するか否かは、物体表面に到達した金属原子と物体表面との相互の分子運動の様態に基づいて制御されるものである。詳しくは、
(1)物体表面への金属原子の付着及び堆積が進行し、結果として金属膜が成膜される、
或いは、
(2)物体表面に金属原子が付着及び堆積されることなく散逸し、結果として金属膜が成膜されない
ことにより、金属の成膜性が制御される。
【0057】
即ち、金属膜が成膜される物体表面の状態が堅ければ、この表面に衝突して比較的大きなエネルギーを失った金属原子は余剰のエネルギーで物体表面上において動き回る。物体表面に衝突した金属原子が、物体表面上を動き回るようになる頻度と、後続してくる金属原子に接触する頻度とは、拮抗すると考えられる。そして、物体表面に衝突した金属原子は物体表面で後続の金属原子と接触して結合し、塊を形成することにより、物体表面上で運動エネルギーを殆ど失って安定化し、この結果として物体の表面での金属の堆積、成膜が進行する。
【0058】
これに対して、物体表面が極端に軟らかいと、物体表面に到達した金属原子は物体との衝突でエネルギーを多少失うものの、その失うエネルギーは少なく、依然として高レベルのエネルギーを有し、このため活発に動き回る。後続の金属原子も同様に活発な状態であるため、金属原子同士の衝突の頻度にかかわらず、高いエネルギーを有する金属原子同士の接触で金属塊が形成される可能性は、上述の物体表面が堅い場合に比べて少ないと予想される。そして、この結果として、金属の成膜が進行しない。
【0059】
物体表面が軟らかいか堅いかを、このように分子運動の状態として考えると、物体表面の分子運動が活発であるかそうでないかにつながる。つまり、金属原子からみたときの物体表面での熱運動のレベルの大小が問題となる。物体表面が軟らかい場合、バルクの状態も含めて、物体の表面で金属原子が活発に動いており、物体表面の金属原子は、その活発さゆえに、互いに接触して結合することは殆どない。一方、物体表面が堅い場合は、金属原子は物体表面で安定に定着し、近傍の後続金属原子との間でクラスターを形成し、更に安定化される。
【0060】
このような金属原子の付着し易さ、堆積し易さを左右する物体表面の堅さや軟らかさ(以下、この物性を「物体の動的構造」と称す。)を決定する要素としては、例えば、物体を形成する材料のガラス転移温度(Tg)、表面の形態などがある。また、同じ材料であっても温度を変化させることにより、この動的構造の様態が変化することから、物体を形成する材料のガラス転移温度、表面の形態の他、物体表面の温度等によっても物体の動的構造を制御して金属の付着性ないし成膜性の制御、即ち、金属蒸気が蒸着するか否かの制御が可能になると考えられる。
【0061】
本発明に係る蒸着抑制材は、このように物体表面の動的構造と成膜される金属原子のクラスター形成性との精妙なバランスにより、金属蒸気の蒸着性を制御する。この蒸着性の制御には、その蒸着操作、金属及び蒸着抑制材料の選定においてパラメータが存在する。即ち、これらパラメータを適切に選別することにより、金属蒸気の蒸着を確実に抑制できるのである。これらのパラメータのうち代表的なものとしては、蒸着抑制材、蒸着金属、及び両者の適合性、並びに温度などが挙げられる。
【0062】
前記の観点から、本発明の蒸着装置の使用時の温度と比較して、蒸着抑制材のガラス転移温度は所定の程度だけ低温であることが好ましい。蒸着抑制材の具体的なガラス転移温度は蒸着時の温度により変動するため一様ではないが、常温(25℃)において蒸着を行うのであれば、通常20℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−50℃以下である。なお、下限は任意であるが、通常−200℃以上である。
【0063】
また、蒸着抑制材は、その使用時に液体であることが好ましい。蒸着抑制材が液体であっても、その膜厚を適切に(通常は薄く)設定すれば蒸気誘導器の表面を安定して覆うことが可能である。ただし、蒸着抑制材の膜の安定性を担保するためには、使用時に条件おける当該蒸着抑制材の蒸気圧が10−4Torr以下であることが好ましい。蒸気圧が高いと蒸着抑制材の蒸気分子により金属原子が散乱されたり、金属膜の形成の際に蒸着抑制材の分子を金属膜が取り込んだりする可能性があるためである。
【0064】
蒸着抑制材の例を挙げると、例えば、1,2−ジアリールエテン(以下「DAE」ということがある)、アゾベンゼン、スピロピラン、スピロオキサジンスピロナフトオキサジン、フルギドなどが挙げられる。中でも、DAEが好ましい。DAEとしては、例えば、入江らの総説、「有機フォトクロミスムの化学」、学会出版センター、1996や、特開2005−082507号公報に掲載された化合物を用いることができる。
【0065】
その中でも特に好適な例としては、下記式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【0066】
【化1】

【0067】
式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。
及びRの例を挙げると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基などが挙げられる。中でも環境光による退色を生じないアルコキシ基であることが好ましく、特にメトキシ基が好ましい。
【0068】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、置換基を有していても良いフェニルエチニル基、又は下記式(A)で表される置換フェニル基を示す。
【化2】

(式(A)中、Rは、置換基を有していても良いアルコキシ基、置換基を有していても良いアラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアルキルチオ基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有しても良いフェノキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有していても良いアルキルアミノ基、又は置換基を有していても良いアリールアミノ基を示す。
、R、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。但し、R〜R11として後述する各基のうち、隣接する基同士が結合し、置換基を有していても良い環を形成していても良い。)
【0069】
なかでも、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有しても良いナフチル基、置換基を有しても良いフェニルエチニル基、又は前記一般式(A)で示される置換フェニル基が好ましい。
【0070】
式(A)において、Rは、置換基を有していても良いアルコキシ基、置換基を有していても良いアラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアルキルチオ基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有しても良いフェノキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有していても良いアルキルアミノ基、又は置換基を有していても良いアリールアミノ基を示す。Rの例を挙げると、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の、炭素数1〜10のアルコキシ基;ベンジルオキシ基、α−フェネチルオキシ基、β−フェネチルオキシ基等の、炭素数1〜7のアラルキルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の、炭素数1〜10のアルキルチオ基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の、炭素数1〜10のアルキル基;フェノキシ基;フェニル基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖部分を有するアルキルアミノ基;フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等のアリールアミノ基;メチルフェニルアミノ基などのアルキルアリールアミノ基;などが挙げられる。
【0071】
また、Rの例として上記した各基は、いずれも置換基を有していてもよい。この置換基としては、前記式(I)で表される化合物の性能を損なわない限り特に制限はないが、好ましくは、Rの例として前述した基及びハロゲン原子が挙げられる。
【0072】
としては前述した基の中でも、電子供与性であるアルコキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アルキル基、フェノキシ基、アルキルアミノ基およびアリールアミノ基が好ましく、これらはいずれも置換されていても良い。Rは、さらに好ましくはアルコキシ基、アルキル基、置換基を有していても良いフェノキシ基、ジアルキルアミノ基又はジアリールアミノ基であり、特に好ましくはアルコキシ基である。
【0073】
式(A)において、R、R、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。この任意の置換基は、前記式(I)で表される化合物の性能を損なわない限り特に制限はないが、例えばRの例として前述した各基などが挙げられる。
なお、R〜R11の各基のうち、隣接する基同士、つまりRとR、RとR、RとR10、R10とR11がそれぞれ結合して、環を形成しても良い。また、この環は置換基を有していても良い。このような環を形成した場合、前記式(A)で表される置換フェニル基としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0074】
【化3】

【0075】
また、上記例では記載を省略したが、R〜R11のうち隣接する基同士が結合してなる環は、前記式(I)で表される化合物の特性を損なわない限り、任意の置換基を有していても良い。この置換基としては、例えば(環を形成しない場合の)R〜R11として前述した各基が挙げられる。
【0076】
、R、R10及びR11についても、前記式(A)のp−位の置換基であるRと同様に、比較的電子供与性の基であることが好ましい。このため、R、R、R10及びR11に相当する任意の置換基として好ましいものも、Rにおける好ましい基と同様の基、及びこれらが結合して形成する環が挙げられる。
特に、R及びR11としては水素原子が好ましく、R及びR10としては、水素原子、アルコキシ基又はアルキル基が好ましい。
【0077】
式(1)中、R及びRが、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、又は置換基を有していても良いフェニルエチニル基を表す場合、この置換基としては、前記式(I)で表される化合物の特性を損なわない限り、任意の置換基が挙げられる。置換基の具体例としては、Rの例として挙げたものと同様の基が挙げられる。中でも、Rと同様に電子供与性の基が好ましいが、より好ましくはアルコキシ基、アルキル基、又はジアルキルアミノ基である。
【0078】
なかでも、R及びRが、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、又は置換基を有していても良いフェニルエチニル基を表す場合、中でも好ましくは、これらが無置換の場合である。
さらに、R及び/又はRが置換基を有していても良いナフチル基を示す場合、このナフチル基としては2−ナフチル基が特に好ましい。
また、R及びRとしては、熱安定性及び繰り返し耐久性の点からは、置換基を有していても良いナフチル基又は前記式(A)で表される置換フェニル基が好ましい。
【0079】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。中でも、あまり嵩高い基ではない方が好ましいため、特に水素原子又はメチル基が好ましい。
【0080】
式(1)中、RとR、RとR、RとRはそれぞれ同一でも異なっても良いが、同一の方が好ましい。
【0081】
前記式(I)で示される化合物の、好ましい例としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化4】

【0082】
【化5】

【0083】
【化6】

【0084】
【化7】

【0085】
【化8】

【0086】
【化9】

【0087】
【化10】

【0088】
【化11】

【0089】
【化12】

【0090】
また、蒸着抑制材のうち商品化されているものの例を挙げると、真空オイルが挙げられる。ここで真空オイルとは、真空中での蒸気圧が低いオイル及びグリースが挙げられる。このうち、使用時の真空チャンバ内の圧力以下の蒸気圧を有する真空オイルが好ましい。具体的な商品名を挙げると、SMR−100(ULVAC社製)、HIVAC−G(信越シリコン社製)、Apiezon H(Apiezon社製)などが挙げられる。
【0091】
なお、蒸着抑制材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
また、蒸着抑制材により蒸気誘導器の表面部を形成する場合、当該蒸着抑制材は、本発明の効果を著しく損なわない限り添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例を挙げると、ポリスチレン、MEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−p−フェニレンビニレン)等のポリマーなどが挙げられる。これらのポリマーは膜性向上のためのバインダーとして機能するため、蒸気誘導器の内面に蒸着抑制材の層を成膜する場合に好適である。なお添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0093】
蒸気誘導器の内面に蒸着抑制材の層を成膜することにより、蒸気誘導器の内表面部を蒸着抑制材により形成されるようにする場合、蒸着抑制材の成膜方法に制限はない。成膜方法の例を挙げると、蒸着法等のドライプロセス;キャスト法、スピンコート法、インクジェット法やその他の印刷法などのウェットプロセス、などにより成膜できる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0095】
図6に本実施例で用いた蒸着装置の構成を模式的に示す。270°に曲げた中空のガラス管23を用意し、その内壁を真空オイル(ULVAC社製のSMR-100)でコーティングし、これを蒸気誘導器とした。
このガラス管23を真空度10−5Torrの真空槽(図示せず)中に設置し、下部の取込口24からMg蒸気を導入した。Mg蒸気は金属収納器であるMoボート25を利用して、抵抗加熱器(図示せず)をヒータに用いて昇華させた。ガラス管23中に導入された金属Mg蒸気は曲がったガラス管23内を内壁に付着することなく輸送され、もう一方の送出口26に達し、対象物であるガラス基板27に金属膜が蒸着された。
【0096】
得られたガラス基板と、使用したガラス管の図面代用写真を図7に示す。ここでは、ガラス基板の星型の領域以外の部分に予め真空オイルを塗布し、星型の領域だけでガラスが露出するように処理を施していたため、図7に示すように、当該ガラスの露出領域に金属膜としてMg膜が形成された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は金属蒸着を使用する任意の分野において使用できるが、中でも、金属細線、金属電極、微細配線など、光デバイス、電気デバイス及び電子デバイスの製造分野に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第一実施形態としての蒸着装置の概要を示す模式的な斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態としての蒸着装置の概要を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の第二実施形態としての蒸着装置の概要を示す模式的な斜視図である。
【図4】本発明の第二実施形態としての蒸着装置の概要を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明のその他の実施形態としての蒸着装置の概要を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明の実施例で用いた蒸着装置の構成を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施例で得られたガラス基板と使用したガラス管を示す図面代用写真である。
【図8】従来の蒸着装置の一例の概要を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1,1’ 蒸着装置
2 蒸着ボート
3 ヒータ
4,16 蒸気誘導器
5 可動テーブル
6 アクチュエータ
7 金属
8 中空部
9,21,26 送出口
10,22 内表面部
11 制御部
12 真空チャンバ
13 真空ポンプ
14 基板
15 金属膜
17 基部
18 誘導管
19,24 接続口(取込口)
20 中空部(誘導路)
23 ガラス管
25 Moボート
27 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に金属を蒸着させる蒸着装置であって、
前記金属を収納する金属収納器と、
該金属収納器に収納された金属を加熱して金属蒸気を発生させるヒータと、
前記金属蒸気を送出する送出口において開口するとともに前記金属蒸気を前記送出口まで誘導する中空部を形成され、前記中空部に面する内表面部が前記金属蒸気の蒸着を抑制する蒸着抑制材により形成された蒸気誘導器とを備える
ことを特徴とする、蒸着装置。
【請求項2】
前記対象物を前記送出口に対向する位置に保持する対象物保持部と、
前記送出口と前記対象物保持部との相対位置を変化させる相対移動部とを備える
ことを特徴とする、請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
該蒸着抑制材のガラス転移温度が20℃以下である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の蒸着装置を用いて、対象物の所望の領域に金属が蒸着された金属蒸着物を製造する金属蒸着物の製造方法であって、
前記金属収納器に金属を収納し、前記ヒータにより前記金属を加熱して金属蒸気を発生させ、前記送出口から前記対象物の所望の領域に前記金属蒸気を送出して対象物の所望の領域に金属を蒸着させる
ことを特徴とする、金属蒸着物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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