説明

蓄光蛍光ランプ、蓄光蛍光体材料及びその製造方法

【課題】蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制することができ、蓄光蛍光体の劣化及び水銀の消費を抑制し、電力供給停止後において発光管から放出される光束量の維持を図り、優れた耐久性を有する蓄光蛍光ランプを提供する。
【解決手段】水銀及び希ガスを封入した発光管と、該発光管内壁に設けられ、蓄光蛍光体及び通電時に発光する3波長蛍光体を含有する蛍光体層と、1対の電極とを有する蓄光蛍光ランプにおいて、蓄光蛍光体が金属酸化物で被覆された蓄光蛍光体材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給停止後、蛍光を発光する蓄光蛍光ランプ、これに用いる蓄光蛍光体材料及びその製造方法に関し、より詳しくは、蓄光蛍光体の劣化を抑制し、発光管から放出される光束量の維持を図り、耐久性を向上させた蓄光蛍光ランプ、これに用いる蓄光蛍光体材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光蛍光ランプは、通電を遮断した後も、長時間発光を続ける蓄光性を有する蓄光蛍光体を利用した蛍光ランプである。電力供給が絶たれた後も明るさを保っていることから、例えば、大型店舗や劇場あるいは地下街のような人が多く集まる空間における、一般照明兼停電時の避難経路表示等に好適であり、高い発光強度を有する蓄光蛍光体の開発が望まれている。
【0003】
蛍光ランプは、内部に希ガスと水銀とを気密に保持したガラス管の両端部付近に設けられる電極に電圧を印加して、希ガスを電離させ、電離した希ガスを電極に衝突させて二次電子を放出させグロー放電を生起させ、これにより励起された水銀が、253.7nmの紫外線を放射する。この紫外線を受けたガラス管の内壁面に設けられる蛍光体が可視光を発光する。蓄光性を有する蛍光体は、水銀原子が放射する紫外線により発光するのであるが、紫外線から得たエネルギーを蓄積して、紫外線放出が停止した後も発光を続ける。蓄光蛍光ランプにおいては、外部から電力を供給している間は、主として、紫外線による励起を受けて即時に発光する蛍光体の発光により明るく光り、電力供給が停止した後、つまり放電が止まって水銀原子から放出される紫外線がなくなった後でも、蓄光蛍光体の作用により、発光を続けることができる。
【0004】
しかしながら、蓄光蛍光体は、水銀蒸気と比較的容易に反応するため、水銀等による劣化を受け易く蛍光の発光量を低減させると共に、反応生成物がガラスバルブに付着し黒褐色に着色させて可視光の透過率を低下させることにより、蛍光ランプの輝度を低下させる。また、他面、水銀が消費され、蛍光ランプの寿命を短縮させる等の問題を惹起させる。
【0005】
この種の蓄光蛍光体ランプとしては、ホウ素やリン酸を含有する蛍光体を用いることにより、ガラスバルブへの被着強度を改善して、発光層の膜落が抑制される残光形蛍光ランプ(特許文献1)や、アルカリ金属を含まない超微粒子の金属酸化物を発光層が含有することにより、ガラスバルブから析出されるソーダ成分や水銀との接触による残光蛍光体自身の劣化が抑制される残光形蛍光ランプ(特許文献2)や、金属酸化物が混入された蓄光蛍光体を有することにより、蛍光体膜のピンホールの発生を抑制できる残光形蛍光ランプ(特許文献3)が報告されている。
【0006】
しかしながら、これらの残光蛍光ランプは、残光時間の短縮を抑制し通電時の輝度の向上を図り、また、蛍光体膜においてピンホールの発生を抑制することができるものの、水銀と蓄光蛍光体との反応による蓄光蛍光体の劣化や、水銀の消費を抑制できる点において充分ではなく、電力供給停止後において発光の輝度の低下を抑制し長寿命化を図ることができる蓄光蛍光ランプが要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−111227
【特許文献2】特開平11−144683
【特許文献3】特開2005−272597
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制することができ、蓄光蛍光体の劣化及び水銀の消費を抑制し、電力供給停止後において発光管から放出される蛍光の光束量の維持を図り、優れた耐久性を有する蓄光蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、蓄光蛍光ランプの使用に伴い、水銀との反応を抑制できる蓄光蛍光体材料について検討を行った。その結果、蓄光蛍光体表面に水銀との接触を抑制できる被覆を形成することにより、蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制することができることの知見を得た。かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、水銀及び希ガスを封入した発光管と、該発光管内壁に設けられ、蓄光蛍光体及び通電時に発光する3波長蛍光体を含有する蛍光体層と、1対の電極とを有する蓄光蛍光ランプにおいて、蓄光蛍光体が金属酸化物で被覆された蓄光蛍光体材料であることを特徴とする蓄光蛍光ランプに関する。
【0011】
また、本発明は、 式(1)
MAl24 (1)
(式中、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素を示す。)で表される化合物を母結晶とし、Eu、Dy及びNdの少なくとも一つを付活剤に用いた蓄光蛍光体及び、Y22Sを母結晶とし、Eu、Mg及びTiの少なくとも一つを付活剤に用いた蓄光蛍光体から選ばれるいずれか1種又は2種以上を含む蓄光蛍光体が金属酸化物で被覆されたことを特徴とする蓄光蛍光体材料に関する。
【0012】
更に、本発明は、上記蓄光蛍光体材料の製造方法であって、蓄光蛍光体を10質量%以上30質量%以下の範囲で、金属酸化物を1質量%以上5質量%以下の範囲で含有する分散液を調製し、該分散液を急速加熱により分散媒を除去することを特徴とする蓄光蛍光体材料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蓄光蛍光ランプは、蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制することができ、蓄光蛍光体の劣化及び水銀の消費を抑制し、電力供給停止後において発光管から放出される光束量の維持を図り、優れた耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の蓄光蛍光ランプを適用した一例の熱陰極蛍光ランプを示す概略構成図(a)及び部分断面図(b)である。
【図2】本発明の蓄光蛍光ランプを適用した他の例の冷陰極蛍光ランプを示す概略断面図を示す図である。
【図3】本発明の蓄光蛍光ランプを適用した他の例の外部電極型蛍光ランプの側面図(a)及び概略断面図(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蓄光蛍光ランプは、水銀及び希ガスを封入した発光管と、該発光管内壁に設けられ、蓄光蛍光体及び通電時に発光する3波長蛍光体を含有する蛍光体層と、1対の電極とを有する蓄光蛍光ランプにおいて、蓄光蛍光体が金属酸化物で被覆された蓄光蛍光体材料であることを特徴とする。
【0016】
本発明の蛍光ランプに用いる発光管としては、可視光を透過する材質のものであればいずれのものであってもよい。石英ガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、その他、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス等を挙げることができる。
【0017】
上記発光管の形状としては直管型、湾曲型、環形、バルブ型等いずれであってもよく、また、その管径もいずれであってもよく、熱陰極蛍光ランプであれば、例えば、10〜40mm等を挙げることができ、液晶表示装置用の冷陰極蛍光ランプであれば、例えば、1.0〜10.0mm等を挙げることができる。発光管の肉厚としては、蛍光ランプの種類に応じて選択すればよく、具体的には、熱陰極蛍光ランプであれば、例えば、1.0±0.1mmを挙げることができ、液晶表示装置用の冷陰極蛍光ランプであれば、例えば、0.2〜0.5mm等を挙げることができる。
【0018】
上記発光管内に封入される希ガスは、電極に始動電圧が印加されると発光管内に存在する電子、あるいは、エミッタから放出される電子により電離され、これらが電極に衝突し、2次電子を放出させる機能を有する。希ガスとしては、キセノン、アルゴンやネオン等を用いることができる。発光管に封入する希ガスの量としては、例えば、蓄光蛍光ランプの点灯時の発光管内における圧力が、熱陰極蛍光ランプであれば、1.5〜3.0torr付近、冷陰極蛍光ランプであれば、30〜100torr等となるような量を挙げることができる。
【0019】
上記発光管内に封入される水銀は、上記電離した希ガスにより生成される2次電子により生じるグロー放電により励起され、253.7nmを含む紫外線を発生する。発光管に封入する水銀の量としては、例えば、蓄光蛍光ランプの点灯時のガラス管内における水銀の蒸気圧が例えば、1〜10Pa等となるような量を挙げることができる。
【0020】
上記発光管内壁には蛍光体層が設けられる。蛍光体層は、蓄光蛍光体及び通電時に発光する3波長蛍光体を含有し、これら双方を含有する1層構造であってもよいが、蓄光蛍光体を含有する蓄光蛍光体層と、通電時に発光する3波長蛍光体を含有する3波長蛍光体層とを有する2層構造であることが好ましい。2層構造の場合は、蓄光蛍光体層は発光管上に設けられ、その上層に3波長蛍光体層が設けられることが、水銀と蓄光蛍光体との反応を抑制することができ、蓄光蛍光体の劣化を抑制できることから、好ましい。
【0021】
上記蓄光蛍光体は、水銀原子から放射される253.7nm等の紫外線を励起光として可視光を発光するものであり、励起光の照射時に限らず、励起光の照射が停止された後においても、蛍光を発光するものである。
【0022】
上記蓄光蛍光体としては、式(1)
MAl24 (1)
(式中、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素を示す。)で表される化合物を母結晶とし、Eu、Dy及びNdの少なくとも一つを付活剤に用いたものを用いることができる。
【0023】
または、Y22Sを母結晶とし、Eu、Mg及びTiの少なくとも一つを付活剤に用いたものを用いることができる。
【0024】
上記蓄光蛍光体はいずれか1種又は2種以上を含むものであってもよい。
【0025】
これらの蓄光蛍光体は水銀から放射される253.7nmの紫外線を励起エネルギーとし、紫外線の照射が停止した後においても長期に亘って青緑色の蛍光を継続して発光するものである。
【0026】
かかる蓄光蛍光体は、金属酸化物で被覆された蓄光蛍光体材料として用いる。蓄光蛍光体材料における蓄光蛍光体の被覆を形成する金属酸化物としては、具体的には、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化イットリウム等を挙げることができるが、これらのうち、酸化マグネシウムは、後述する蓄光蛍光体と共に安定した分散液を形成することができ、蓄光蛍光体表面に厚さが一定の被覆を与えることができ、得られる蓄光蛍光体材料において、蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制する効果に優れることから、特に好ましい。金属酸化物の被覆の厚さは0.02〜0.2μmであることが好ましい。被覆の厚さが0.02μm以上であれば、蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制することができ、0.2μm以下であれば、被覆の剥離を抑制することができ、また、被覆表面を滑らかに形成することができる。
【0027】
蓄光蛍光体材料を形成する蓄光蛍光体の平均粒子径としては、4〜32μmであることが好ましい。蓄光蛍光体の平均粒子径はより好ましくは5〜20μmであり、更に好ましくは5〜15μmである。また、被覆を形成する金属酸化物の平均粒子径は、10nm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは20〜80nm、更に好ましくは30〜70nmである。
【0028】
このような蓄光蛍光体材料を形成するには、上記粒子径を有する蓄光蛍光体と、平均粒子径数十nmの金属酸化物とを分散媒に分散させて分散液を調製し、この分散液から分散媒を急速に除去する方法によることができる。かかる分散液は、エタノール等の揮発性の分散媒を用いて調製することが好ましい。分散液中の蓄光蛍光体の含有量は10〜30質量%、好ましくは20〜30質量%、金属酸化物の含有量は1〜5質量%、好ましくは1〜2質量%とすることができる。分散液から分散媒を急速に除去する方法としては、短時間の高温加熱によることが好ましく、分散媒の沸点より、例えば、50〜70℃程度高温で加熱し、数秒間で分散媒を完全に除去する方法が好ましい。具体的には、分散媒としてエタノールを使用した場合、130〜150℃の加熱により、数秒間でエタノールを完全に除去することが好ましい。このような高速加熱で瞬時に分散媒を除去することにより、蓄光蛍光体の表面に金属酸化物の被覆が形成された蓄光蛍光体材料を得ることができる。
【0029】
蓄光蛍光体材料の金属酸化物の被覆は、走査電子顕微鏡の観察により、求めることができる。
【0030】
また、蛍光体層に含有される3波長蛍光体は、水銀から放射される253.7nmの紫外線や、この紫外線により励起される他の蛍光体から発光される蛍光によって励起され、蛍光を発光し、紫外線の照射が停止されると蛍光の発光を停止する蛍光体である。3波長蛍光体は、青色発光蛍光体、赤色発光蛍光体、緑色発光蛍光体等1種の蛍光体を用いてもよいが、これらを組み合わせ、複数色の蛍光を演色して所望の色調、例えば、白色光を発光するような組み合わせであることが好ましい。
【0031】
3波長蛍光体として、具体的には、赤色光を発光するY23:Eu、3.5MgO・0.5MgF・GeO2:Mn、緑色光を発光するLaPO4:Ce,Tb、青色光を発光するBaMg2Al1627:Eu、(Mn)5(PO43Cl:Eu、(Sr,Ca,Ba)5(PO43Cl:Eu等から選択して、演色に優れた白色光が得られるように組み合わせて用いることができる。その他、3波長蛍光体として、例えば、YVO4:Eu、LaPO4:Ce,Tb、(Ba,Eu)MgAl1017、(Ba,Sr,Eu)(Mg,Mn)Al1017、Sr10(PO46l2:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46l2:Eu等も用いることができ、これらの組み合わせにより、水銀から放射される253.7nmの紫外線により励起され、所望の色調の可視光を発光させることができる。
【0032】
更に、3波長蛍光体として、ランプ内に放電が形成されないときに、上記蓄光蛍光体から発光される蛍光を励起光として蛍光を発光する蛍光体を用いることが好ましい。水銀からの紫外線及び蓄光蛍光体からの青緑色光を励起光として赤色光を発光する蛍光体として、例えば、Ca3(La1-X,EuX2212(0<X<1)、LiLa1-XEuXNb27(0<X<1)や、ハロリン酸カルシウムCa10(PO46FCl:Sb,Mnを用いることができる。ハロリン酸カルシウムは蛍光体からの蛍光を拡散し発光管から均一に発光させる作用を有し、拡散剤の使用を不要とし、拡散剤の劣化による照度の低下や外観品質の低下を抑制し、輝度の向上を図ることができる。
【0033】
上記3波長蛍光体の一次粒子の粒度分布は、3〜5μmであることが好ましい。蛍光体の一次粒子径が大きい程、発光効率がよいが、平均粒子径が過大になると、粒子密度が低下し、発光強度が低下することになる。
【0034】
上記蓄光蛍光体材料の使用量としては、蓄光蛍光体として1cm2当たり3mg〜5mgであり、3波長蛍光体としては、1cm2当たり3mg〜7mgであることが、蛍光ランプにおいて、適度な発光強度が得られることから、好ましい。
【0035】
上記蓄光蛍光体材料を含有する蓄光蛍光体層は、更に、蓄光蛍光体材料の粒子径より小さい一次粒子径を有する金属酸化物等を含有していてもよい。蓄光蛍光体材料の間隙を粒子径の小さい金属酸化物によって充填することにより、蓄光蛍光体材料の間隙へ水銀が進入するのを抑制し、蛍光体層にピンポールが形成されたり、剥離が生じるのを抑制することができる。金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム等を用いることができる。
【0036】
上記発光管内には上記水銀原子から紫外線を放射させるための放電を発生させる手段として1対の電極が設けられる。かかる電極としては、熱陰極、冷陰極、外部電極等いずれであってもよい。電極としては、例えば、バリウム、カルシウム、ストロンチウム等の酸化物等のエミッタ物質を塗布したタングステンコイル等からなる電極を挙げることができる。電極間に電圧が印加されると、エミッタから放出される電子により希ガスを電離させ、この希ガスのイオンが電極に衝突してグロー放電を生起させ、水銀を励起して紫外線を放出させる。冷陰極としては、例えば、ニッケル、モリブデン、タングステン等により成形されたカップ状の電極を開口を対向させて、発光管両端部に配置させたものを挙げることができる。また、外部電極としては、アルミニウム、鉄、ニッケルやその合金等の箔を用い、発光管の両末端部近傍の外周面に、金属粒子等を混合したシリコン樹脂等の導電性粘着剤や半田等を介して設けることができる。これらの電極の近傍には、冷陰極や外部電極の場合、放電を促進させるための電子放出物質として酸化セシウム等のセシウム含有物質を設けることもできる。
【0037】
また、本発明の蓄光蛍光ランプは、ラピッドスタート形放電ランプとして用いる場合、発光管内壁面上に導電性層を設けることもできる。
【0038】
このような蓄光蛍光ランプを製造する方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。発光管内壁面上に、蓄光蛍光体層を形成する。蓄光蛍光体層は上記蓄光蛍光体材料を分散した分散液を調製する。分散媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン等を、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。分散媒中に含有される蓄光蛍光体材料の含有量は分散液の比重が1.05〜1.8となるような範囲が好ましい。分散液には必要に応じて上記金属酸化物や、その他、蓄光蛍光体材料の機能を阻害しない範囲において、分散剤、エチルセルロースや硝化綿等の粘度調整剤、結着剤等の添加剤を含有させることができる。
【0039】
上記分散液を塗布、浸漬、噴射等の方法により発光管内壁に塗工し、乾燥して蓄光蛍光体層を設ける。乾燥は、自然乾燥であってもよいが、25〜90℃、1〜30分で加熱して行うことができる。
【0040】
この蓄光蛍光体層上に、赤色蛍光を発光する赤色蛍光体、緑色蛍光を発光する緑色蛍光体、青色蛍光を発光する青色蛍光体を適宜選択し、上記蓄光蛍光体層を形成するのと同様の方法により3波長蛍光体層を形成する。
【0041】
また、蓄光蛍光体材料と3波長蛍光体を含有する蛍光体層を作製する方法としては、蓄光蛍光体材料と、3波長蛍光体をそれぞれ分散させた分散液を調製した後、これらを混合して蛍光体層形成用塗工液を調製し、上記と同様に塗布膜を形成し、乾燥する方法によることができる。
【0042】
その後、発光管の両端を、リード線を接続した電極を配置してステムや、ガラスビーズ等で封止した後、希ガス及び水銀を封入する。外部電極を有する蛍光ランプの場合は、ガラス管を封止した後、ガラス管外部に導電性接着剤等で電極を接着し、希ガス及び水銀を封入する。
【0043】
本発明の蓄光蛍光ランプにおいては、金属酸化物の被覆を有する蓄光蛍光体を用いるため、水銀と蓄光蛍光体との反応を抑制し、蓄光蛍光ランプの、発光強度の低下を抑制し、長寿命化、耐久性の向上を図ることができる。
【0044】
本発明の蓄光蛍光ランプを熱陰極蛍光ランプに適用した一例を、図1に示す。図1(a)は概略構成図、(b)は(a)中に図示するBの部分断面図である。図1に示す熱陰極蛍光ランプ10は、発光管であるガラス管1を有する。ガラス管1は、例えば、15〜38mmの外径を有するものを使用することができる。ガラス管1の内壁面に、そのほぼ全長に亘って、蓄光蛍光体を含有する蓄光蛍光体層2、3波長蛍光体層3が順次積層される。
【0045】
ガラス管1の両端部は、電極6が設けられたステム5により閉塞され、ガラス管の内部空間には、希ガス及び水銀が所定量導入され、内部圧力は大気圧の数十分の一程度に減圧されている。また、ガラス管1の両端部外側には、ステム5に接続された口金7が設けられている。
【0046】
本発明の蛍光ランプを冷極蛍光ランプに適用した一例を、図2に示す。図2の概略断面図に示す冷陰極蛍光ランプ21は、発光管であるガラス管22を有し、その両端はビードガラス23で気密に封止されている。ガラス管22は、例えば、1.5〜6.0mm、好ましくは1.5〜5.0mmの外径を有するものを使用することができる。ガラス管22の内壁面には、そのほぼ全長に亘って、順次蓄光蛍光体層24aと、3波長蛍光体層24bが設けられる。ガラス管22の内部空間25には、希ガス及び水銀が所定量導入され、内部圧力は大気圧の数十分の一程度に減圧されている。ガラス管22の両端部近傍には、それぞれ、例えば、外径0.7〜3.5mm、厚さ0.05〜1.0mmのカップ状電極27が、開口部20が相互に対向するように配置されている。各リード線29が、その一端が電極27の底面部に溶接され、他端がビードガラス23を貫通してガラス管22の外部に引き出されて、設けられる。
【0047】
また、本発明の蛍光ランプを外部電極蛍光ランプに適用した一例を、図3に示す。図3(a)の側面図、(b)の概略断面図に示す外部電極蛍光ランプ31は、両端が封止された発光管であるガラス管32を有する。ガラス管32の外径は、1.5〜6.0mmの範囲内、好ましくは1.5〜5.0mmの範囲内を挙げることができる。ガラス管32の内壁面には、そのほぼ全長に亘って、蓄光蛍光体層33aが設けられ、更に、蓄光蛍光体層上に、3波長蛍光体層33bが設けられている。ガラス管32の内部空間には、希ガス及び水銀が所定量導入され、内部圧力は大気圧の数十分の一程度に減圧されている。ガラス管32の両末端部の外周面には、外部電極34が設けられる。外部電極34はアルミニウム、ニッケル等の金属箔を、シリコン樹脂に金属粉体を混合した導電性粘着剤等によりガラス管32外面に接着して設けることができ、ガラス管32の末端全体を被覆して設けることもできる。外部電極の長手方向の長さL1としては、例えば、10〜35mmを挙げることができる。外部電極には図示しないリード線が接続され、リード線を介して電極に電圧が印加可能となっている。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の蓄光蛍光ランプを詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
[実施例1]
蓄光蛍光体として、平均粒径10μmのSr4Al1425:Eu,Dyを1質量%、平均粒子径70μmの酸化マグネシウム1質量%を含有するエタノール液を調製した。このエタノール液を140℃で5〜10秒間加熱し、エタノールを除去し、粉末状の蓄光蛍光体材料を得た。この蓄光蛍光体材料をSEMで検出したところ、厚さ0.1μmの酸化マグネシウムの被覆が形成されていた。
【0049】
得られた蓄光蛍光体材料30質量%の酢酸ブチル液を調製した。得られた酢酸ブチル液を、管径27.5mmのガラスバルブの電極に該当する部分を除いた内壁面に浸漬塗布し、約40〜60℃、20分乾燥し、約20〜30μm厚さの蓄光蛍光体層を作成した。得られた蓄光蛍光体層上に、キシレンを分散媒として3波長蛍光体のキシレン分散液を用いた他は蓄光蛍光体層と同様に、厚さ20μmの3波長蛍光体層を形成した。
【0050】
ガラス管の両端部を電極が設けられたステムにより閉塞し、ガラス管の内部空間に、希ガスを280Pa水銀を5mg導入した。また、ガラス管の両端部のステムに口金を設け、図1に示す熱陰極蛍光ランプを作製した。
【0051】
得られた蛍光ランプに交流電圧を印加して点灯させ、光束量を以下の測定方法により測定した。
【0052】
1.8球形光束計(ネムテック社製)を用い、クーゲル内の温度を25±1℃、室内の湿度50±10%の下で測定した。完成したランプを20分以上予熱点灯させた後、測定対象とした。光束量の測定はクーゲル内に設置して3分間電圧を印加して点灯させた後、電圧印加を停止して行った。
【0053】
点灯後100時間後の光束量を100として、点灯直後、点灯後1000時間後の光束率を換算した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2〜4]
エタノール液中の酸化マグネシウムを表1に示す含有量に変更した他は、実施例1と同様に熱陰極蛍光ランプを作製し、光束量の測定を行い、光束率を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例]
酸化マグネシウムを用いない他は実施例1と同様に熱陰極蛍光ランプを作製し、光束量の測定を行い、光束率を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
結果より、酸化マグネシウムの含有量が1〜5質量%の分散液を用いた場合、長時間点灯に対し、蓄光蛍光体の劣化が抑制され、光束量の維持を図ることができ、蓄光蛍光ランプの耐久性を向上させることができ、10質量%のとき、1000時間経過後の光束維持率は、酸化マグネシウム被覆を設けない比較例と略同等の値であった。
【符号の説明】
【0058】
1、22、32 ガラス管(発光管)
2、24a、33a 蓄光蛍光体層
3、24b、33b 3波長蛍光体層
6 電極
10 熱陰極蛍光ランプ
21 冷陰極蛍光ランプ
27 カップ状電極(電極)
31 外部電極蛍光ランプ
34 外部電極(電極)
【0059】
本発明の蓄光蛍光ランプは、蓄光蛍光体と水銀との反応を抑制することができ、蓄光蛍光体の劣化及び水銀の消費を抑制し、発光管から放出される光束量の維持を図り、優れた耐久性を有することから、大型店舗や劇場、地下街等の避難経路表示に好適であり、緊急非常時の蛍光ランプとして利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀及び希ガスを封入した発光管と、該発光管内壁に設けられ、蓄光蛍光体及び通電時に発光する3波長蛍光体を含有する蛍光体層と、1対の電極とを有する蓄光蛍光ランプにおいて、蓄光蛍光体が金属酸化物で被覆された蓄光蛍光体材料であることを特徴とする蓄光蛍光ランプ。
【請求項2】
金属酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の蓄光蛍光ランプ。
【請求項3】
蓄光蛍光体が、式(1)
MAl24 (1)
(式中、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素を示す。)で表される化合物を母結晶とし、Eu、Dy及びNdの少なくとも一つを付活剤に用いた蓄光蛍光体及び、Y22Sを母結晶とし、Eu、Mg及びTiの少なくとも一つを付活剤に用いた蓄光蛍光体から選ばれるいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の蓄光蛍光ランプ。
【請求項4】
蛍光体層が、蓄光蛍光体を含有する蓄光蛍光体層と、通電時に発光する蛍光体を含有する3波長蛍光体層とを有することを特徴とする蓄光蛍光ランプ。
【請求項5】
式(1)
MAl24 (1)
(式中、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の金属元素を示す。)で表される化合物を母結晶とし、Eu、Dy及びNdの少なくとも一つを付活剤に用いた蓄光蛍光体及び、Y22Sを母結晶とし、Eu、Mg及びTiの少なくとも一つを付活剤に用いた蓄光蛍光体から選ばれるいずれか1種又は2種以上を含む蓄光蛍光体が金属酸化物で被覆されたことを特徴とする蓄光蛍光体材料。
【請求項6】
金属酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項5記載の蓄光蛍光体材料。
【請求項7】
請求項6又は7記載の蓄光蛍光体材料の製造方法であって、蓄光蛍光体を10質量%以上30質量%以下の範囲で含有し、金属酸化物を1質量%以上5質量%以下の範囲で含有する分散液を調製し、該分散液から分散媒を急速に除去することを特徴とする蓄光蛍光体材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−16897(P2011−16897A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161781(P2009−161781)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】