説明

蓄熱マイクロカプセル

【課題】水溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルにおいて、より高い密封性を実現し、内包物の漏洩を抑制することのできる蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】この蓄熱マイクロカプセルは、糖類、糖アルコール類、無機塩類、及び無機塩水和物類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の水溶性蓄熱材からなる芯物質と、前記芯物質を被覆する第一カプセル壁と、前記第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性の蓄熱材を内包する蓄熱マイクロカプセルに関し、特に、内包した水溶性蓄熱材の漏洩を抑制することのできる蓄熱マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材と熱媒体との熱交換手段としては、直接接触による方法が最も効率が良い。しかしながら、蓄熱材と熱媒体とが物理的、化学的に相互作用する場合が多いため、間接接触を行わざるを得ないのが現状である。
【0003】
この間接接触による熱交換手段として、蓄熱材をカプセル化し、カプセル膜を介して熱媒体と熱交換する方法が挙げられる。この方法は、蓄熱材の単位体積当たりの表面積が大きくなるため非常に有効であり、伝熱促進をより有効ならしめるために、カプセルのマイクロ化が種々検討されている。例えば、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特許文献1参照)、蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(特許文献2参照)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(特許文献3参照)等の蓄熱マイクロカプセルの製造方法が開示されている。
【0004】
これらの特許文献で開示されている蓄熱材を内包したマイクロカプセル(以下、蓄熱マイクロカプセルと称する)では、カプセル壁材として、界面重合法やin−Situ法等の手法で得られるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタンの他、尿素ホルマリン樹脂やメラミン樹脂等のアミノプラスト樹脂等の有機高分子が用いられている。また、蓄熱材としては、相変化により蓄熱又は放熱する潜熱蓄熱物質が用いられており、具体的には、n−パラフィン、iso−パラフィン、脂肪酸、高級アルコール、ポリマー等の水不溶性蓄熱材が多く用いられている。
【0005】
ところで、蓄熱材が蓄熱できる熱量(蓄熱量)は、蓄熱材の融解潜熱量(ΔH)でほぼ決定され、水不溶性蓄熱材の蓄熱量は、120〜240kJ/kgと小さい(図15参照)。そこで、単位量あたりの蓄熱量を増大させるために、融解潜熱量の大きい(ΔH=160〜350kJ/kg)物質、具体的には糖類、糖アルコール類、無機塩類、無機塩水和物類等の水溶性蓄熱材を内包する蓄熱マイクロカプセルが検討されている。例えば、蓄熱材封入マイクロカプセルの製造方法(特許文献4参照)、マイクロカプセル化蓄熱材の製造方法(特許文献5参照)、蓄熱材用マイクロカプセル(特許文献6参照)等が開示されている。そして、このような蓄熱マイクロカプセルは、繊維材やシート材の保温剤として用いられたり、流体中に混合して熱輸送媒体として利用される。
【0006】
しかしながら、蓄熱マイクロカプセルは粉状を呈していることから、そのままの状態では利用し難い。また、十分な蓄熱効果も得難いため、熱輸送媒体としての利用は不向きであった。そこで、蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散し、スラリーとして用いる方法が検討されている(例えば特許文献7、8参照)。
【0007】
一方、二重壁を有する蓄熱マイクロカプセル、及び複合壁を有する蓄熱マイクロカプセルの製造も従来より検討されている。例えば、マイクロカプセルへの浸透性を利用して二重壁を形成する含水マイクロカプセルの製造方法(特許文献9参照)、内壁膜と外壁膜とを有する複合壁マイクロカプセルの製造方法(特許文献10参照)、芯物質の周囲にケイ酸カルシウムからなるカプセル壁を形成した蓄熱用マイクロカプセルの製造方法(特許文献11参照)、芯物質の周囲にポリメタクリル酸メチル及び芳香族ポリアミドからなる二重膜構造を形成した蓄熱用マイクロカプセルの製造方法(特許文献12参照)、及び、カプセル膜の界面にポリビニルアルコールを存在させた蓄熱マイクロカプセル粉体の製造方法(特許文献13参照)等が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−1452号公報
【特許文献2】特開昭62−45680号公報
【特許文献3】特開昭62−149334号公報
【特許文献4】特開昭62−225241号公報
【特許文献5】特開昭61−192785号公報
【特許文献6】特開平08−259932号公報
【特許文献7】特開2007−119715号公報
【特許文献8】特開2006−63314号公報
【特許文献9】特開平02−258052号公報
【特許文献10】特開平06−238158号公報
【特許文献11】特開平07−26251号公報
【特許文献12】特開平07−213890号公報
【特許文献13】特開2006−274086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蓄熱マイクロカプセルの利用性向上の観点から、上述した従来の蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散してスラリーとした場合にあっては、蓄熱マイクロカプセルの壁材に高い密封性が要求される。特に、水溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散してスラリーとする場合には、パラフィン等を内包した蓄熱マイクロカプセルに比して、高い密封性が要求される。しかしながら、上述した従来の蓄熱マイクロカプセルでは、その要求を満足することができず、内包物の漏洩が起こり易かった(図16参照)。例えば、水不溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散してスラリーを形成した場合には、蓄熱材の残存率はほぼ100%であるのに対して(図16(A)参照)、水溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散してスラリーを形成した場合には、蓄熱材の残存率がほぼ0%であった(図16(B)参照)。
【0009】
従って、本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルにおいて、より高い密封性を実現し、内包物の漏洩を抑制することのできる蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性蓄熱材を芯物質とし、この芯物質を被覆する第一カプセル壁と、この第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁とを有する蓄熱マイクロカプセルによれば、従来に比して高い密封性を実現でき、且つ水系溶媒に分散してスラリーとした場合であっても水溶性蓄熱材の漏洩を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 糖類、糖アルコール類、無機塩類、及び無機塩水和物類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の水溶性蓄熱材からなる芯物質と、前記芯物質を被覆する第一カプセル壁と、前記第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁と、を有することを特徴とする蓄熱マイクロカプセル。
【0012】
(1)の蓄熱マイクロカプセルは、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性蓄熱材で構成される芯物質を有するため、単位量当たりの大きな蓄熱量を備える。このため、(1)の蓄熱マイクロカプセルは、少量であっても優れた蓄熱性能を発揮する。また、芯物質を被覆するカプセル壁が、第一カプセル壁と、その第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁とからなる。即ち、カプセル壁を二重壁構造としたものであり、第一カプセル壁の表面に微小な孔や欠陥が生じた場合であっても、ポリマー材からなる第二カプセル壁により、これらの孔や欠陥を塞ぐことができる。このため、従来の蓄熱マイクロカプセルに比して、内包する蓄熱材の漏洩を効果的に抑制することができる。また、第二カプセル壁によって第一カプセル壁を補強することができるため、蓄熱マイクロカプセルの堅牢性を向上させることができる。
【0013】
(2) 前記第一カプセル壁は、無機化合物及び有機高分子化合物の複合材からなることを特徴とする(1)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0014】
(2)の蓄熱マイクロカプセルは、第一カプセル壁が無機化合物及び有機高分子化合物の複合材で形成されたものである。第一カプセル壁を無機化合物及び有機高分子化合物の複合材で形成することにより、第一カプセル壁と第二カプセル壁との密着性が向上し、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【0015】
(3) 前記無機化合物は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸スズ、及びケイ酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする(2)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0016】
(3)の蓄熱マイクロカプセルでは、複合壁からなる第一カプセル壁の形成にケイ酸塩が利用される。このため、界面重合を利用して第一カプセル壁を形成できることから、蓄熱マイクロカプセルの生産性をより高めることができる。また、蓄熱マイクロカプセルの耐熱性及び堅牢性を向上させることができる。
【0017】
(4) 前記有機高分子化合物は、ポリアミド樹脂であることを特徴とする(2)又は(3)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0018】
(4)の蓄熱マイクロカプセルでは、複合壁からなる第一カプセル壁の形成にポリアミド樹脂が利用される。このため、蓄熱マイクロカプセルの耐熱性及び堅牢性をさらに向上させることができる。また、第一カプセル壁と、ポリマー材からなる第二カプセル壁との密着性を向上させることができる。
【0019】
(5) 前記第二カプセル壁は、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、及びアクリル樹脂よりなる群から選ばれる一種又は二種以上のポリマー材からなることを特徴とする(1)から(4)いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0020】
(4)の蓄熱マイクロカプセルでは、第二カプセル壁の形成に、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、及びアクリル樹脂よりなる群から選ばれる一種又は二種以上のポリマー材が用いられる。これらのポリマー材により形成された第二カプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセルによれば、さらに高い耐熱性及び堅牢性を実現できる。また、これらのポリマー材であれば、第一カプセル壁の表面上における界面重合により第二カプセル壁を形成することが可能であり、蓄熱マイクロカプセルの生産性をより高めることができる。
【0021】
(6) (1)から(5)いずれか記載の蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒中に分散してなることを特徴とするスラリー。
【0022】
(1)から(5)の蓄熱マイクロカプセルによれば、芯物質である水溶性蓄熱材の漏洩を抑制できることから、水やアルコール等の水系溶媒に分散させてスラリーとして利用できる。このため、各種電気機器及び輸送機械等の加熱及び冷却を行う熱輸送流体として、好ましく用いることができる。
【0023】
(7) ポリカルボン酸、酢酸ビニル、マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、及び脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の分散剤をさらに含有することを特徴とする(6)記載のスラリー。
【0024】
(1)から(5)の蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒中に分散してなるスラリーに、ポリカルボン酸、酢酸ビニル、マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、及び脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の分散剤を含有させることにより、分散安定性を向上させることができる。ひいては、スラリー中での蓄熱マイクロカプセルの凝集を抑制でき、安定した蓄熱性能を得ることができる。
【0025】
(8) 水溶性蓄熱材からなる芯物質と、前記芯物質を被覆する第一カプセル壁と、前記第一カプセル壁を被覆する第二カプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、前記水溶性蓄熱材を、ケイ酸イオン及びポリアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、前記水相と、炭化水素系溶媒を主成分とする油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、前記W/O分散系と、Caイオン、Mgイオン、Znイオン、Snイオン、及びFeイオンよりなる群から選ばれる一種又は二種以上の無機イオンを含有してなる無機イオン溶液とを混合して加熱攪拌しながら、ジカルボン酸ハロゲン化物を含有する炭化水素系溶液を滴下することにより、前記水溶性蓄熱材を内包し且つポリアミド樹脂とケイ酸塩とが複合化して形成された第一カプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセル前駆体を得る工程と、前記蓄熱マイクロカプセル前駆体と、モノマーを含有してなるモノマー溶液とを混合して攪拌することにより、前記第一カプセル壁の表面にポリマー材からなる第二カプセル壁を形成する工程と、を含むことを特徴とする蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【0026】
(8)の蓄熱マイクロカプセルの製造方法によれば、水溶性蓄熱材で構成される芯物質を被覆するカプセル壁として、二重壁構造を採用した蓄熱マイクロカプセルを製造することができる。より詳しくは、水溶性蓄熱材からなる芯物質を被覆する複合壁からなる第一カプセル壁と、この第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルを製造することができる。このため、単位量当たりの大きな蓄熱量を備えるとともに、高い密封性を有し、内包された水溶性蓄熱材の漏洩を抑制できる蓄熱マイクロカプセルを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、単位量当たりの大きな蓄熱量を備えるとともに、高い密封性を有し、内包された水溶性蓄熱材の漏洩を抑制できる蓄熱マイクロカプセル、及びその製造方法を提供できる。また、このような蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒中に分散安定化することにより、利用に際して扱い易いスラリーを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0029】
<水溶性蓄熱材>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの芯物質を構成する水溶性蓄熱材は、相変化に伴う潜熱を利用して蓄熱又は放熱を行うものである。具体的には、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる一種又は二種以上が用いられる。
【0030】
また、蓄熱マイクロカプセルの熱伝導性や比重を調節する目的、及び、過冷却を防止する目的で、カーボン、金属粉、アルコール等が添加されたものであってもよい。
【0031】
<第一カプセル壁>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルにおいて、芯物質を被覆する第一カプセル壁は、無機化合物及び有機高分子化合物の複合材から形成されたものであることが好ましい。第一カプセル壁を無機化合物及び有機高分子化合物の複合材で形成することにより、第一カプセル壁と第二カプセル壁との密着性が向上し、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【0032】
無機化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸スズ及びケイ酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上のケイ酸塩が用いられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。界面重合を利用して第一カプセル壁を形成できることから、蓄熱マイクロカプセルの生産性をより高めることができる。また、蓄熱マイクロカプセルの耐熱性及び堅牢性を向上させることができる。
【0033】
有機高分子化合物としては、ポリアミド樹脂が好ましく用いられる。第一カプセル壁の形成にポリアミド樹脂を利用することにより、蓄熱マイクロカプセルの耐熱性及び堅牢性をさらに向上させることができる。また、第一カプセル壁と、ポリマー材からなる第二カプセル壁との密着性を向上させることができる。
【0034】
<第二カプセル壁>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルにおいて、第一カプセル壁を被覆する第二カプセル壁は、ポリマー材からなるものである。このように、カプセル壁に二重壁構造を採用することにより、第一カプセル壁の表面に微小な孔や欠陥が生じた場合であっても、ポリマー材からなる第二カプセル壁によってこれらの孔や欠陥を塞ぐことができる。このため、従来の蓄熱マイクロカプセルに比して、内包する水溶性蓄熱材の漏洩を効果的に抑制することができる。また、第二カプセル壁によって第一カプセル壁を補強することができるため、蓄熱マイクロカプセルの堅牢性を向上させることができる。
【0035】
第二カプセル壁を形成するのに好ましいポリマー材としては、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、及びアクリル樹脂よりなる群から選ばれる一種又は二種以上が好ましく用いられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0036】
<蓄熱マイクロカプセルの製造方法>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を、図1に示すフローに沿って説明する。なお、この製造方法では、第一カプセル壁で複合材を構成する無機化合物としてはケイ酸塩を用い、その原料としてケイ酸イオンを含有する水溶液及び無機イオン溶液を用い、それら原料の一例としてケイ酸ナトリウム水溶液及び塩化カルシウム水溶液を用いる。同じく複合材を構成する有機高分子化合物としてはポリアミド樹脂を用い、その原料としてポリアミン及びジカルボン酸ハロゲン化物を用い、それら原料の一例としてジエチレントリアミン(DETA)及び二塩化フタロイル(PDC)を用いる。また、第二カプセル壁を構成するポリマー材としてはポリウレアを用い、その原料としてトルエン−2,4−ジイソシアネートを用いる。ここで「ポリアミン」は、アミノ基(−NH)又はイミノ基(=NH)を2つ以上有する脂肪族化合物の総称を指す。
【0037】
[工程(1)]
先ず、ケイ酸ナトリウム水溶液中に、エリスリトールに代表される水溶性蓄熱材と、ジエチレントリアミン(DETA)を含有する水溶液を添加して混合し、水相を作製する。
【0038】
[工程(2)]
工程(1)で作製した水相に、ケロシン等の炭化水素系溶媒を主成分とする油相を混合した後、ホモジナイザー等の攪拌機により加熱攪拌して微粒子を生成し、W/O分散系を作製する。このとき、油相には、和光純薬社製「Span80」に代表されるようなソルビタンモノオレエート等の分散剤を添加することにより、W/O分散系の分散安定性を向上することができる。また、W/O分散系を調製する際の加熱温度は、芯物質として使用する水溶性蓄熱材の種類により適宜設定される。
【0039】
[工程(3)]
工程(2)のW/O分散系とは別に、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に、塩化カルシウム水溶液、及び、リン酸ジ(2エチルヘキシル)(D2EHPA)に代表されるリン酸エステル系界面活性剤、若しくは酸性モノホスホン酸モノエステル系の界面活性剤を添加して混合し、インペラー等により室温下で攪拌を行い、無機イオン溶液を作製する。ここで、無機イオン溶液としては、上述のCaイオンのみならず、Mgイオン、Znイオン、Snイオン、及びFeイオンよりなる群から選ばれる一種又は二種以上の無機イオンを含有してなる溶液が用いられる。これらの無機イオンは、一種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0040】
また、W/O分散系及び無機イオン溶液とは別に、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に、二塩化フタロイル(PDC)に代表されるようなジカルボン酸ハロゲン化物を添加して混合することにより、ジカルボン酸ハロゲン化物を含有する炭化水素系溶液を作製する。この溶液についても、和光純薬社製「Span80」に代表されるようなソルビタンモノオレエート等の分散剤を添加することにより、ジカルボン酸ハロゲン化物の炭化水素系溶媒への分散安定性を向上することができる。
【0041】
続いて、工程(2)で得られたW/O分散系をインペラ等により室温下で攪拌しながら、無機イオン溶液を添加して混合する。その後、この混合溶液を加熱攪拌しつつ、ジカルボン酸ハロゲン化物を含有する炭化水素系溶液を徐々に滴下し、界面におけるケイ酸カルシウムの合成反応及びポリアミド樹脂の合成反応を開始させ、進行させる。これらの合成反応の様子を模式的に図2〜図4に示す。図2に示すように、油相中に含まれるCaイオン11が、水相中に含まれるケイ酸イオン12と反応し、ケイ酸カルシウム15が合成される(図3参照)。それとともに、油相中に含まれる二塩化フタロイル13が、水相中に含まれるジエチレントリアミン14と反応し、ポリアミド樹脂16が形成され、ケイ酸カルシウム15とポリアミド樹脂16とが複合化され、第一カプセル壁2が形成される(図4参照)。
【0042】
[工程(4)]
工程(3)で第一カプセル壁2を形成した蓄熱マイクロカプセル前駆体に対して、エタノール等により解乳化して洗浄を行う。そして、洗浄した蓄熱マイクロカプセル前駆体をモノマー溶液に混合する。ここでモノマー溶液は、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に、ポリマー材の原料となるモノマーとして、例えばトルエン−2,4−ジイソシアネートを混合することにより作製する。
【0043】
蓄熱マイクロカプセル前駆体を混合したモノマー溶液を室温下で攪拌し、蓄熱マイクロカプセル前駆体の表面においてポリウレアの合成反応を開始させ、進行させる。この合成反応の様子を模式的に図5〜図6に示す。図5に示すように、モノマー溶液中に含まれるトルエン−2,4−ジイソシアネート17が、ポリアミド樹脂16の表面に含まれるアミド基と反応し、ポリウレアが合成され、第二カプセル壁3が形成される(図6参照)。
【0044】
最後に、エタノール等の両性溶媒を用いて解乳化して洗浄を行うことにより、エリスリトール微粒子からなる芯物質を被覆する、ポリアミド樹脂とケイ酸カルシウムとが複合化した複合壁からなる第一カプセル壁2と、この第一カプセル壁2を被覆するポリウレアからなる第二カプセル壁3と、を有する二重壁構造を採用した蓄熱マイクロカプセル1を製造することができる。
【0045】
<蓄熱マイクロカプセルを用いたスラリー>
この製造方法により得られた蓄熱マイクロカプセルは、水系溶媒中に分散させてスラリーとして用いることができる。スラリーとして用いることで、蓄熱マイクロカプセルの取扱いをより容易にするとともに、蓄熱マイクロカプセルによる蓄熱効果を充分に得ることができるため、各種電気機器及び輸送機械等の加熱及び冷却を行う熱輸送流体として、好ましく用いることができる。
【0046】
水系溶媒中に分散させてスラリーを形成する際には、ポリカルボン酸、酢酸ビニル、マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の分散剤をさらに含有させることが好ましい。分散剤を含有させることにより、水系溶媒中への蓄熱マイクロカプセルの分散安定性を向上させることができる。ひいては、スラリー中での蓄熱マイクロカプセルの凝集を抑制でき、安定した蓄熱性能を得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
図1に示すフローに沿って蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、NaSiO(ケイ酸ナトリウム:関東化学社製)3kmol/m水溶液10ml中に、エリスリトール(東京化成社製)10gと、DETA(Alfa Aesar社製)0.5gと、を混合して水相(W相)を作製した。
【0049】
ケロシン(和光純薬社製)120mlに、分散剤としてソルビタンモノオレエート(「Span80」和光純薬社製)1.6gを添加して混合して油相(O相)を作製した。
【0050】
作製した水相と油相とを混合した後、ホモジナイザーにより液温60℃下にて攪拌速度3000rpmで10分間攪拌し、W/O分散系を作製した。
【0051】
ケロシン(和光純薬社製)450mlに、D2EHPA(関東化学社製)50gと、CaCl(塩化カルシウム:関東化学社製)2kmol/m水溶液500mlを混合した。次いで、スターラーにて室温下で24時間攪拌を行った後に、分液漏斗を用いて水相を除去し、無機イオン溶液を作製した。
【0052】
また、ケロシン(和光純薬社製)30mlに、二塩化フタロイル(1.0g和光純薬社製)1.0gと、分散剤「Span80」(和光純薬社製)0.5gを混合し、ジカルボン酸ハロゲン化物を含有する炭化水素系溶液を作製した。
【0053】
作製したW/O分散系に、無機イオン溶液50mlを混合した。そして、インペラにて60℃にて200rpmで2時間攪拌を行った後で、150rpmで攪拌しながらジカルボン酸ハロゲン化物を含有する炭化水素系溶液を0.5ml/minの速度で添加し、24時間攪拌を継続して界面反応を行い、水溶性蓄熱材を内包する第一カプセル壁の形成を行った。第一カプセル壁の形成された蓄熱マイクロカプセル前駆体は、濾紙(ADVANTEC製;5C 100CIRCLES)を用いたろ過により、W/O分散系から取り出した。
【0054】
ケロシン(和光純薬社製)100mlに、トルエン−2,4−ジイソシアネート(和光純薬製)0.9gを混合してモノマー溶液を作製し、W/O分散系から取り出した蓄熱マイクロカプセル前駆体をこのモノマー溶液に混合した。これを室温にて150rpmで攪拌し、蓄熱マイクロカプセル前駆体の表面にポリウレアからなる第二カプセル壁を形成した。第二カプセル壁の形成された蓄熱マイクロカプセル前駆体は、濾紙(ADVANTEC製;5C 100CIRCLES)を用いたろ過によってモノマー溶液から取り出し、エタノール洗浄及び乾燥を行って、蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0055】
<比較例1>
比較例として、図13に示すフローに沿って蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、NaSiO(ケイ酸ナトリウム:関東化学社製)3kmol/m水溶液10ml中に、エリスリトール(東京化成社製)10gを混合して水相(W相)を作製した。
【0056】
ケロシン(和光純薬社製)120mlに、分散剤としてソルビタンモノオレエート(「Span80」和光純薬社製)1.6gを添加して混合して油相(O相)を作製した。
【0057】
作製した水相と油相とを混合した後、ホモジナイザーにより液温60℃下にて攪拌速度3000rpmで10分間攪拌し、W/O分散系を作製した。
【0058】
ケロシン(和光純薬社製)450mlに、D2EHPA(関東化学社製)50gと、CaCl(塩化カルシウム:関東化学社製)2kmol/m水溶液500mlを混合した。次いで、スターラーにて室温下で24時間攪拌を行った後に、分液漏斗を用いて水相を除去し、無機イオン溶液を作製した。
【0059】
作製したW/O分散系に、無機イオン溶液50mlを混合した。そして、インペラにて60℃にて200rpmで24時間攪拌を行って界面反応を行い、水溶性蓄熱材を内包する第一カプセル壁の形成を行った。第一カプセル壁の形成後、濾紙(ADVANTEC製;5C 100CIRCLES)を用いたろ過により、W/O分散系から蓄熱マイクロカプセルを取り出し、エタノール洗浄及び乾燥を行って蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0060】
<密封性の評価>
実施例1及び比較例1により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、密封性の評価を行った。
【0061】
実施例1及び比較例1により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、示差走査熱量測定装置(DSC:Seiko Instruments社製SSC/5200)を用いて水溶性蓄熱材の融解熱量を各々測定した。このときの融解熱量を溶液分散前の蓄熱量とした。
【0062】
一方で、イオン交換水50mlに、実施例1及び比較例1により得られた蓄熱マイクロカプセル500mgを各々分散させて、スターラーにて300rpmで60分間攪拌を行ってスラリーを形成させた。攪拌後のスラリーから、濾紙(ADVANTEC製;5C 100CIRCLES)を用いたろ過によって蓄熱マイクロカプセルを取り出し、濾紙上の蓄熱マイクロカプセルを100℃の恒温槽にて30分間乾燥させた。乾燥した蓄熱マイクロカプセルの融解熱量を、示唆熱走査熱量測定装(DSC:Seiko Instruments社製SSC/5200)を用いて各々測定した。このときの融解熱量を溶液分散後の蓄熱量とした。
【0063】
そして、蓄熱材残存率(%)=溶液分散後の蓄熱量[J/g] / 溶液分散前の蓄熱量[J/g]として、蓄熱マイクロカプセルの密封性を評価した。このときの密封性を評価した結果について図14に示す。
【0064】
その結果、実施例1により得られた蓄熱マイクロカプセルでは、溶液分散前の蓄熱量(a)が172.27[J/g]、溶液分散後の蓄熱量(b)が146.95[J/g]となり、蓄熱材残存率(b/a)は85.3%に上った。そのため、実施例1により得られた蓄熱マイクロカプセルは、水溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルについて内包された水溶性蓄熱材の漏洩を抑制し、高い密封性を実現することができた(図14(A)参照)。
【0065】
一方で、比較例1により得られた蓄熱マイクロカプセルでは、溶液分散前の蓄熱量(a)が187.6[J/g]、溶液分散後の蓄熱量(b)が0.0[J/g]となり、蓄熱材残存率は(b/a)0.0%となり、蓄熱マイクロカプセルからほぼ全ての水溶性蓄熱材が、スラリーの溶剤中に漏洩してしまった(図14(B)参照)。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例のフロー図である。
【図2】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を説明するための図面である。
【図3】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を説明するための図面である。
【図4】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を説明するための図面である。
【図5】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を説明するための図面である。
【図6】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を説明するための図面である。
【図7】比較例の蓄熱マイクロカプセルの製造工程のフロー図である。
【図8】実施例及び比較例の蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散させたときの蓄熱材残存量を示す図である。
【図9】潜熱蓄熱物質の種類と融点−融解熱の関係を示す図である。
【図10】水不溶性蓄熱材及び水溶性蓄熱材を内包した蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒に分散させたときの蓄熱材残存量を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 蓄熱マイクロカプセル
2 第一カプセル壁
3 第二カプセル壁
11 Caイオン
12 ケイ酸イオン
13 二塩化フタロイル
14 ジエチレントリアミン
15 ケイ酸カルシウム
16 ポリアミド樹脂
17 トルエン−2,4−ジイソシアネート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類、糖アルコール類、無機塩類、及び無機塩水和物類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の水溶性蓄熱材からなる芯物質と、
前記芯物質を被覆する第一カプセル壁と、
前記第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁と、を有することを特徴とする蓄熱マイクロカプセル。
【請求項2】
前記第一カプセル壁は、無機化合物及び有機高分子化合物の複合材からなることを特徴とする請求項1記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項3】
前記無機化合物は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸スズ、及びケイ酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項2記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項4】
前記有機高分子化合物は、ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項2又は3記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項5】
前記第二カプセル壁は、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、及びアクリル樹脂よりなる群から選ばれる一種又は二種以上のポリマー材からなることを特徴とする請求項1から4いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項6】
請求項1から5いずれか記載の蓄熱マイクロカプセルを水系溶媒中に分散してなることを特徴とするスラリー。
【請求項7】
ポリカルボン酸、酢酸ビニル、マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、及び脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の分散剤をさらに含有することを特徴とする請求項6記載のスラリー。
【請求項8】
水溶性蓄熱材からなる芯物質と、前記芯物質を被覆する第一カプセル壁と、前記第一カプセル壁を被覆する第二カプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、
前記水溶性蓄熱材を、ケイ酸イオン及びポリアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、
前記水相と、炭化水素系溶媒を主成分とする油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、
前記W/O分散系と、Caイオン、Mgイオン、Znイオン、Snイオン、及びFeイオンよりなる群から選ばれる一種又は二種以上の無機イオンを含有してなる無機イオン溶液とを混合して加熱攪拌しながら、ジカルボン酸ハロゲン化物を含有する炭化水素系溶液を滴下することにより、前記水溶性蓄熱材を内包し且つポリアミド樹脂とケイ酸塩とが複合化して形成された第一カプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセル前駆体を得る工程と、
前記蓄熱マイクロカプセル前駆体と、モノマーを含有してなるモノマー溶液とを混合して攪拌することにより、前記第一カプセル壁の表面にポリマー材からなる第二カプセル壁を形成する工程と、を含むことを特徴とする蓄熱マイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−108167(P2009−108167A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280814(P2007−280814)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】