説明

蓄熱槽用断熱パネルおよびそれを用いた蓄熱槽の構築方法

【課題】断熱層を備えた地下蓄熱槽において、何らかの事情により断熱層の付け替えが必要となった場合に、その付け替え作業を容易にかつ少ない施工工数で行うことを可能とする。
【解決手段】断熱板11を備えた蓄熱槽用断熱パネル10を、互いの端面同士を突き合わせた状態で並列に配置されてなる2枚以上の断熱板11a,11bと、その上に積層した防水性を備えた連結シート12とで形成する。改修時に、既存のマンホールなどの狭い開口部23から、折り込んで幅を狭くした蓄熱槽用断熱パネル10を槽内に搬入し、そこで開いた姿勢として、蓄熱槽20内のコンクリート躯体21の内壁面に貼り付ける。防水シート12が交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分12bを備える場合には、各蓄熱槽用断熱パネルの接合部の止水性も容易に確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱槽用断熱パネルおよびそれを用いた蓄熱槽の構築方法に関し、特に、既存の地下蓄熱槽のコンクリート躯体の内壁面に、後施工で蓄熱槽用断熱パネルを設置する作業を容易化することのできる蓄熱槽用断熱パネルと、それを用いた断熱層を備えた蓄熱槽の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の省エネルギーシステムとして、地下に蓄熱槽を設け、夜間の安価な電力を利用して槽内に温水あるいは冷水を生成、貯留し、それを昼間に建物内に循環させることにより、当該建物の冷暖房に要するトータルコストを低減するようにした冷暖房システムが普及している。そのようなシステムで使用される蓄熱槽を構築するに当たっては、通常、最初に箱形をなすコンクリート躯体を造り、その後、その内壁面に断熱材を貼り付けあるいは吹き付けて断熱層を形成し、さらにその上に防水シート等による防水層を形成するようにしている(特許文献1、2、3等参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−60759号公報
【特許文献2】特開平5−42989号公報
【特許文献3】特開平10−115022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄熱槽を新規に構築する場合には、箱形をなすコンクリート躯体の上方は広い開放空間となっているのが普通であり、施工時に、断熱層や防水層を形成するための資材等をコンクリート躯体内である施工空間に搬入するのに格別の問題はない。断熱層や防水層の形成後、上方開放部には天井施工が行われ閉じられると共に、マンホールのような開口部を一部に形成して、清掃等、蓄熱槽内のメンテナンス時に、作業者が槽内に入り込みかつ用具を搬出入できるようにされる。
【0005】
上記のような蓄熱槽において、構築後に、断熱層や防水層を付け替えることが必要となる場合がある。例えば、省エネルギーに対する要請が設計当時より高いものとなり、それに応えるべく、既存の断熱材をより高い断熱性を持つ断熱材に置き換えるような場合、あるいは、ウレタンの吹き付け施工により形成した断熱層を板状の発泡樹脂成形体に貼り替えるような場合、さらには、大地震等、予期しない外力によりコンクリート躯体に亀裂が生じ、コンクリート躯体の補修工事が必要となった場合、等である。いずれにおいても、断熱層等の付け替え作業に当たっては、最初に、既存の断熱層や防水層を槽内から除去する作業が必要となる。この作業は、マンホール等の開口部から作業者が機材と共に槽内に入り込み、既存の断熱層や防水層を適宜の大きさに破壊し、廃材を開口部から取り出せばよく、容易に行うことができる。
【0006】
その後、断熱層を形成する蓄熱槽用断熱パネル等の機材を槽内に搬入することとなるが、メンテナンス用に設けてあるマンホールのような開口部は、通常、直径が600mm程度の大きさであり、それ以上の横幅のある蓄熱槽用断熱パネルを槽内に搬入することはできない。そのために、付け替え時に、従来使用されている大きさの蓄熱槽用断熱パネル(通常、910mm×1820mm)をそのまま使用することができず、当該パネルを幅600mm以下に裁断分割してから槽内に搬入することが必要となり、結果として、パネルの個数も結果として多くなるので、槽内でのパネル貼り付け作業が煩雑化する。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、既存の蓄熱槽を改修することが必要となったときに、新たな断熱層を構成するための蓄熱槽用断熱パネルを槽内に容易に搬入することができ、かつ施工工数も削減することのできる蓄熱槽用断熱パネルと、それを用いた蓄熱槽の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による蓄熱槽用断熱パネルは、折り込み可能な蓄熱槽用断熱パネルであって、基本的に、互いの端面同士を突き合わせた状態で並列に配置されてなる2枚以上の断熱板と、少なくとも各突き合わせ部の一方の面側に貼り付けられた連結シートとを備え、各断熱板を平板状に開いた姿勢と、隣接する断熱板を突き合わせ部で折り込んだ姿勢とを選択的に取れるようになっており、折り込んだ姿勢では蓄熱槽に形成されているマンホールなどの狭い開口部を通過できる大きさとなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による蓄熱槽の構築方法は、上記の蓄熱槽用断熱パネルを折り込んだ姿勢として蓄熱槽のマンホールなどの狭い開口部を通過させて既存の蓄熱槽内に搬入し、搬入後に当該蓄熱槽内において各断熱板を平板状に開いた姿勢とし、その姿勢の蓄熱槽用断熱パネルを蓄熱槽内のコンクリート躯体の内壁面に設置することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、蓄熱槽用断熱パネルは折り込み可能であり、折り込んだ状態では横幅が狭くなる。そのために、既存の蓄熱槽に付設しているマンホールなどの狭い開口部から容易に槽内に搬入することができる。搬入後は折り込まれた姿勢から開いた姿勢とすることで、1枚のパネルとして従来から使用される板状断熱材の寸法と同等以上のパネル寸法が確保されるので、蓄熱槽用断熱パネルの貼り付け工数の増加を防ぐことができる。
【0011】
連結シートは、並列に対向して配置している2枚の断熱板を折り込み可能な状態で一体化できるものであればよく、対向部に貼り付けた粘着テープのようなものであってよい。しかし、蓄熱槽の場合、形成した断熱層の上に防水層を形成することが必要であり、連結シートが単に連結機能のみを備えるものの場合には、蓄熱槽用断熱パネルを蓄熱槽内のコンクリート躯体の内壁面に設置した後に、別途防水層を成形する作業が必要となる。それを回避するために、連結シートとして、断熱板の全表面を少なくとも覆うことのできる大きさの防水性を備えたシートを用い、それを適宜の接着剤を用いて断熱板の表面に貼り付けた形態の蓄熱槽用断熱パネルを用いることは好ましく、これにより、断熱層と防水層とを同時施工することが可能となる。
【0012】
上記の場合に、連結シートとして、断熱板の全表面に加え、断熱板の交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分を備えた大きさの防水性を備えたシートを用いることもできる。この場合には、シートの前記外側に延出する部分でもって、隣接する蓄熱槽用断熱パネル同士の接合部を覆うことができ、接合部の止水性、防水性を確実なものにすることができる。また、各断熱板は、コンクリートに対してビス止めなどの手段で固定されることがあるが、この場合、打ち込んだビスの頭部を前記連結シートの外側に延出する部分で覆うことが可能であり、ビス止め部に別途止水施工を行うことを省略できる利点もある。
【0013】
本発明において、断熱板の素材樹脂としては、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等が好ましく用いられ、その密度は10〜150kg/m3 、より好ましくは20〜100kg/m3 である。連結シートとして防水性を備えたシートを用いる場合に、そのようなシートとしては、合成樹脂系シートやゴム系シート等を挙げることができる。合成樹脂系シートとしては、ポリオレフィン系樹脂シート、ポリエチレン系樹脂シート、ポリプロピレン系樹脂シート、塩化ビニル系樹脂シート、EVA系樹脂シート等、ゴム系シートとしては加硫ゴム系シート、非加硫ゴム系シート等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、断熱層を備えた地下蓄熱槽において、何らかの事情により断熱層の付け替えが必要となった場合に、その付け替え作業を容易にかつ少ない施工工数で行うことが可能となる。また、本発明によれば、蓄熱槽を新規に構築する場合でも、箱型をなすコンクリート躯体の天井施工を行った後に、マンホールなどの狭い開口部から蓄熱槽用断熱パネルを搬入し、容易にかつ少ない施工工数で断熱層施工を行うことが可能なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1aは本発明による蓄熱槽用断熱パネルの一実施の形態をその開いた姿勢で示す斜視図であり、図1bは図1aのb−b線に沿う断面図である。図2は図1に示す蓄熱槽用断熱パネルを折り込んだ姿勢で示している図3は図1,図2に示す蓄熱槽用断熱パネルを用いて断熱層を備えた地下蓄熱槽を構築する状態を説明するための概略断面図である。図4と図5は蓄熱槽用断熱パネルの他の実施の形態を示している。
【0016】
図1に示すように本発明による蓄熱槽用断熱パネル10は、適宜厚さの矩形状の断熱板11とその一方の表面側に貼り付けられた連結シート12とからなる。この例において、断熱板11は、発泡ポリスチレン板である2枚の断熱板11a、11bが互いの端面同士を突き合わせた状態で並列に配置されて構成されており、全体として910mm×1820mmの大きさである。連結シート12はポリプロピレン系樹脂シートのような防水性を備えたシートであり、断熱板11の全表面を覆う部分12aと、断熱板11の交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分12bとを備える。外側に延出する部分12bの幅に特に制限はないが、10cm〜20cm程度であれば、充分に所期の目的を達成することができる。上記の構成であり、蓄熱槽用断熱パネル10は、図1に示す開いた姿勢と、図2に示す2枚の断熱板11a、11bが重なった折り込んだ姿勢とを選択的に取ることができ、折り込んだ姿勢では横幅がほぼ1/2と幅の狭いものとなる。
【0017】
上記の蓄熱槽用断熱パネルを用いて蓄熱槽を構築する方法を説明する。図3に示すように、既存の地下蓄熱槽20は、4周の側壁と底部とからなる箱形のコンクリート躯体部21とその天部を閉鎖する天井部22とを有し、天井部22の一部に、メンテナンス時等に使用するための直径が600mm程度の比較的入口幅の狭いマンホールのような開口部23が形成されるのが普通である。
【0018】
何からの事情により、既存の蓄熱槽20の内壁面に形成されている断熱層を取り壊し、新たに断熱板を貼り付けて断熱層を再形成することが必要になった場合、作業者は、開口部23から必要な機材と共に蓄熱槽20内に入り込み、既存の防水層や断熱層を取り壊し、開口部23から搬出する。その後、コンクリート内壁面等の整備を行い、新たに貼り付けるべき蓄熱槽用断熱パネル10等の機材を断熱層20内に運び込む。その際、蓄熱槽用断熱パネル10を図2に示すように折り込んだ姿勢とすることにより、蓄熱槽用断熱パネル10の横幅は狭いものとなるので、既存の開口部23から支障なく槽内に搬入することができる。
【0019】
作業者は、折り込んで姿勢で槽内に搬入した蓄熱槽用断熱パネル10を、槽内で開いた姿勢とし、所要に位置決めしながら、蓄熱槽20内のコンクリート躯体の内壁面に貼り付ける。それにより、断熱層の付け替えと防水層の付け替えとを少ない工数でもって同時に完了することができる。その際、隣接して蓄熱槽用断熱パネル10同士を貼り付けた後、防水性を備えたシート(連結シート)12の前記外側に延出する部分12bをその接合部に展開して、上から覆うようにする。それにより、接合部の止水性、防水性も確保される。また、貼り付けに際し、ビス31等により断熱板11をコンクリート壁に打ち付け固定する場合があるが、その場合にも、ビス頭を防水シート12の外側に延出する部分12bで覆うことができるので、その部分に対して特別の止水加工を行うことも省略できる。
【0020】
上記の蓄熱槽用断熱パネル10では、断熱板11を2枚の断熱板11a、11bで構成し、連結シート12として断熱板11の全表面を覆う部分12aとその交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分12bとを備えた防水性シートを用いるようにしたが、本発明による蓄熱槽用断熱パネルはこれに限らず他に多くの形態が存在する。
【0021】
図4に示す蓄熱槽用断熱パネル10Aは、3枚の小幅な断熱板11a〜11cを互いの端面同士を突き合わせた状態で並列に配置することにより、断熱板11としており、また、防水シート12は断熱板11の全表面を覆うことのできる大きさであって、前記した「交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分」を有しない。この場合でも、図4aに示す開いた姿勢と、図4bあるいは図4cに示す折り込んだ姿勢とを選択的に取ることができ、折り込んだ姿勢では、開いた姿勢のときよりも幅の狭いものとなっている。
【0022】
図5に示す蓄熱槽用断熱パネル10Bは、図3に示した小幅な断熱板11cを、断熱板の厚さとほぼ同じ幅である第1部分11c1と残りの第2部分11c2とに分割している点で、図4に示した蓄熱槽用断熱パネル10Aと相違している。この構成とすることにより、図5bに折り込んだ姿勢を示すように、蓄熱槽用断熱パネル10Aと比較してより扁平な姿勢として全体を折り込むことが可能となり、運搬時等の省スペース化に寄与することができる。
【0023】
図示しないが、図4と図5に示す蓄熱槽用断熱パネル10A,Bにおいても、図1に示した断熱パネル10のように、連結シート12として「交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分」を備えたものを用いることもできる。また、いずれの蓄熱槽用断熱パネルにおいても、連結シート12として、防水性を備えたシートに代えて、粘着テープのような部材を各断熱板の接合部近傍に貼り付け、それを連結シートとして用いることもできる。この場合には、後施工で防水層を形成することが必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による蓄熱槽用断熱パネルの一実施の形態を示す図であり、図1aは開いた姿勢を示す斜視図、図1bは図1aのb−b線に沿う断面図。
【図2】図1に示す蓄熱槽用断熱パネルを折り込んだ姿勢で示す斜視図。
【図3】図1および図2に示す蓄熱槽用断熱パネルを用いて断熱層を備えた地下蓄熱槽を構築する状態を説明するための概略断面図。
【図4】蓄熱槽用断熱パネルの他の実施の形態を示す図であり、図4aは開いた姿勢を示す斜視図、図4bと図4cは折り込んだ姿勢の2つの形態を示す斜視図。
【図5】蓄熱槽用断熱パネルのさらに他の実施の形態を示す図であり、図5aは開いた姿勢を示す斜視図、図5bは折り込んだ姿勢を示す斜視図。
【符号の説明】
【0025】
10,10A,10B…蓄熱槽用断熱パネル、11…断熱板、12…連結シート(防水性を備えたシート)、12b…断熱板の交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分、20…地下蓄熱槽、21…コンクリート躯体部、22…天井部、23…比較的入口幅の狭いマンホールのような開口部、31…ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱槽用断熱パネルであって、互いの端面同士を突き合わせた状態で並列に配置されてなる2枚以上の断熱板と、少なくとも各突き合わせ部の一方の面側に貼り付けられた連結シートとを備え、各断熱板を平板状に開いた姿勢と、隣接する断熱板を突き合わせ部で折り込んだ姿勢とを選択的に取れるようになっており、折り込んだ姿勢では蓄熱槽に形成されているマンホールなどの狭い開口部を通過できる大きさとなることを特徴とする折り込み可能な蓄熱槽用断熱パネル。
【請求項2】
連結シートは、断熱板の全表面を少なくとも覆うことのできる大きさの防水性を備えたシートであることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱槽用断熱パネル。
【請求項3】
連結シートは、断熱板の全表面に加え、交叉する2辺側からさらに外側に延出する部分を備えた大きさの防水性を備えたシートであることを特徴とする請求項2に記載の蓄熱槽用断熱パネル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の蓄熱槽用断熱パネルを折り込んだ姿勢として蓄熱槽のマンホールなどの狭い開口部を通過させて蓄熱槽内に搬入し、搬入後に蓄熱槽内において各断熱板を平板状に開いた姿勢とし、その姿勢の蓄熱槽用断熱パネルを蓄熱槽内のコンクリート躯体の内壁面に設置することを特徴とする蓄熱槽の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−118154(P2006−118154A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305117(P2004−305117)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【出願人】(504391950)株式会社エイ・アール・センター (1)
【Fターム(参考)】