説明

蓄電素子用電極体、及びこれを含む非水系リチウム型蓄電素子

【課題】新規蓄電素子用電極体及び該電極を含む非水系リチウム型蓄電素子の提供。
【解決手段】本願発明に係る前記蓄電素子用電極体は、金属箔からなる集電体と、該集電体の片面又は両面に形成された電極層とからなり、該電極層はカーボンとポリフッ化ビニリデンとを含有し、ここで該カーボンは、20m/g以上3000m/g以下の比表面積を有し、該電極層に対する重量平均分子量Mw28万以上200万以下であるポリフッ化ビニリデンの割合は、28万≦Mw≦50万であるものに関して10重量%以上20重量%以下、50万<Mw≦150万であるものに関して3重量%以上20重量%以下、そして150万<Mw≦200万であるものに関して3重量%以上15重量%以下の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子用電極体、及びこれを含む非水系リチウム型蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全および省資源を目指したエネルギーの有効利用の観点から、深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システムなどが注目を集めている。
これらの蓄電システムの有力候補として、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの開発が精力的に進められている。
これら蓄電素子の性能を大きく左右するのが電極体である。電極体は、集電体と該集電体上に形成され活物質を含む電極層からなるが、特に、出力特性を向上させるための内部抵抗の低減や、耐久性を向上させるためには、電極層の組成は非常に重要である。電極層の強度を持たせるためにはバインダーの添加が必要になるが、高性能を発現させるためには、内部抵抗の低減等の観点から、添加するバインダーの種類と添加量を検討する必要がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極層に含有されるバインダー技術としては各種の材料が提案されているが、その中に高分子量のポリフッ化ビニリデンを用いた報告がある(以下、特許文献1、特許文献2を参照のこと)。特許文献1では、リチウムイオン二次電池の正極として、活物質としてLi含有酸化物粒子を用いた電極層に分子量50万以上のポリフッ化ビニリデンを1.0〜2.1重量%含有させた正極が提案されている。また、特許文献2では、リチウムイオン二次電池の負極として、活物質として黒鉛を用いた電極層に分子量50万以上のポリフッ化ビニリデンを3〜7重量%含有させた負極が提案されている。これらの例からもわかるように、活物質の種類によって効果を奏するバインダーの種類や含有量は異なるものである。
【0004】
また、電気二重層キャパシタの電極層に含有されるバインダー技術としても各種の材料が提案されているが、その中にポリフッ化ビニリデンを用いた報告がある(以下、特許文献3を参照のこと)。特許文献3では、電気二重層キャパシタの電極として、活物質として活性炭を用いた電極層にポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィンビニルエーテル共重合ポリマー又はテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合ポリマーなどのフッ素ポリマーを5〜25重量%含有させた電極が提案されているが、ポリフッ化ビニリデンの分子量については記載はない。
【0005】
近年、電気二重層キャパシタと同等の耐久性を有しながらエネルギー密度と出力密度の両者が電気二重層キャパシタよりも高い蓄電素子として、電解液にリチウム塩を含む非水系電解液を用い、耐電圧を向上させた非水系リチウム型蓄電素子も提案されている(以下、特許文献4を参照のこと)。特許文献4では、非水系リチウム型蓄電素子の正極として、活物質として活性炭を用いた電極層にポリフッ化ビニリデンを含有させた電極、負極として、活物質としてリチウムイオンを吸蔵放出する複合炭素材料にポリフッ化ビニリデンを含有させた電極が提案されているが、ポリフッ化ビニリデンの分子量については記載はない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−260475号公報
【特許文献2】特開2001−250557号公報
【特許文献3】特開平8−55761号公報
【特許文献4】特開2003−346801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した電気二重層キャパシタの電極、及び非水系リチウム型蓄電素子の電極においては、高比表面積のカーボンが活物質として使用されているので、多量のバインダーを用いないと電極の強度を高めることはできない。しかしながら、バインダー量を多くすると、該高比表面積のカーボンの細孔をバインダーで埋めてしまうことになって、エネルギー密度と出力密度をともに低下させてしまう。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高比表面積のカーボンを活物質に用いた蓄電素子用電極体、及び非水系リチウム型蓄電素子において、高強度を保ちつつ、高エネルギー密度及び高出力密度の両者を発現できる蓄電素子用電極体、及び非水系リチウム型蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、高比表面積のカーボンを活物質に用いた蓄電素子用電極体において、電極層のバインダーとして特定の高分子量ポリフッ化ビニリデンを用いることで、その添加量を少なくして、かつ電極の強度を高めることができることを予想外に発見した。その結果、従来の分子量のポリフッ化ビニリデンにおいては電極の強度を高めるためには多量の添加が必要となり、電極層の空隙率の低下から性能が低下してしまうという問題があったが、本発明においては、特定の理論に拘束されるものではないが、例えば、電極層の嵩密度が向上するという効果により、性能低下を抑えることが達成されている。すなわち、本願発明者らは、電極層のバインダーとして特定の高分子量ポリフッ化ビニリデンを用いることで、その添加量を少なくして、かつ電極の強度を高めることによって、高強度と高性能とを兼ね備えた蓄電素子用電極体が実際に作製できることを確認し、本願発明を完成するに至った。
具体的には、本願発明は、以下の[1]〜[5]である:
【0010】
[1]金属箔からなる集電体と、該集電体の片面又は両面に形成された電極層とからなる蓄電素子用電極体であって、該電極層は、カーボンとポリフッ化ビニリデンとを含有し、ここで該カーボンは、BET法に従って測定されるとき20m/g以上3000m/g以下の比表面積を有し、該ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量Mwは、28万以上200万以下であり、該電極層に対する該ポリフッ化ビニリデンの割合は、28万≦Mw≦50万であるポリフッ化ビニリデンに関して10重量%以上20重量%以下、50万<Mw≦150万であるポリフッ化ビニリデンに関して3重量%以上20重量%以下、そして150万<Mw≦200万であるポリフッ化ビニリデンに関して3重量%以上15重量%以下の範囲であることを特徴とする前記蓄電素子用電極体。
【0011】
[2]前記カーボンは、BET法により測定されるとき、20m/g以上1000m/g以下の比表面積を有し、そして難黒鉛性カーボン、易黒鉛性カーボン、及び活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料からなる群から選択される、前記[1]記載の蓄電素子用電極体。
【0012】
[3]前記カーボンは、BET法により測定されるとき、1500m/g以上2500m/g以下の比表面積を有する活性炭である、前記[1]記載の蓄電素子用電極体。
【0013】
[4]負極集電体に負極活物質層を設けた負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及びセパレータを積層してなる電極積層体、並びに非水系電解液を外装体に収納してなり、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵放出する材料、正極活物質に多孔質炭素材料、非水系電解液にリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系リチウム型蓄電素子であって、該負極電極体として、前記[1]又は[2]のいずれかに記載の蓄電素子用電極体を用いることを特徴とする前記非水系リチウム型蓄電素子。
【0014】
[5]負極集電体に負極活物質層を設けた負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及びセパレータを積層してなる電極積層体、並びに非水系電解液を外装体に収納してなり、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵放出する材料、正極活物質に多孔質炭素材料、非水系電解液にリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系リチウム型蓄電素子であって、該正極電極体として、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の蓄電素子用電極体を用いることを特徴とする前記非水系リチウム型蓄電素子。
【発明の効果】
【0015】
本願発明により、高比表面積のカーボンを活物質に用いた蓄電素子用電極体、及び非水系リチウム型蓄電素子において、高強度を保ちつつ、高エネルギー密度及び高出力密度を発現できる蓄電素子用電極体、及び非水系リチウム型蓄電素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明に係る蓄電素子用電極体について、詳細に説明する。
本願発明に係る蓄電素子用電極体は、金属箔からなる集電体と、該集電体の片面又は両面に形成された電極層とからなる蓄電素子用電極体であって、該電極層は、カーボンとポリフッ化ビニリデンとを含有し、ここで該カーボンは、BET法に従って測定されるとき20m/g以上3000m/g以下の比表面積を有し、該ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量Mwは、28万以上200万以下であり、該電極層に対する該ポリフッ化ビニリデンの割合は、28万≦Mw≦50万であるポリフッ化ビニリデンに関して10重量%以上20重量%以下、50万<Mw≦150万であるポリフッ化ビニリデンに関して3重量%以上20重量%以下、そして150万<Mw≦200万であるポリフッ化ビニリデンに関して3重量%以上15重量%以下の範囲であることを特徴とする。
【0017】
本発明における電極層の活物質であるカーボンは、BET法による比表面積が20m/g以上3000m/g以下のものであれば特に制限はなく、例えば、活性炭、難黒鉛性カーボンや易黒鉛性カーボンといった炭素質材料;活性炭の表面に炭素質材料を被着された複合多孔性材料;ポリアセン系物質などのアモルファス炭素質材料;ケッチェンブラックやアセチレンブラックといったカーボンブラック;カーボンナノチューブ;フラーレン;カーボンナノフォーン;繊維状炭素質材料などが挙げられる。
【0018】
本発明の電極体を非水系リチウム型蓄電素子の正極電極体に用いる場合、正極活物質となるカーボン種には高比表面積である活性炭が好ましく、BET法による比表面積は1500m/g以上3000m/g以下が好ましい。比表面積が1500m/g未満の場合には、十分なエネルギー密度が得られず、一方、比表面積が3000m/gを超える場合には、バインダーを多量に入れないと十分な電極の強度を保てず体積当りの性能が低下する。正極電極体として用いる活性炭のより好ましい比表面積は、1500m/g以上2500m/g以下である。
【0019】
尚、正極活物質には、蓄電素子のエネルギー密度を向上させるという観点から、上記カーボン種に加えて、リチウムイオン二次電池の正極活物質として公知のリチウムイオンを吸蔵放出する金属酸化物、例えば、コバルト酸リチウムを添加することも好ましい。
【0020】
本願発明に係る電極体を非水系リチウム型蓄電素子の負極電極体に用いる場合、負極活物質となるカーボン種としては、高比表面積であることに加えてリチウムイオンを吸蔵放出することにより体積が変化する材料を使用することになる。従って、その吸蔵放出機能が優れているといった観点から、好ましくは難黒鉛性カーボン、易黒鉛性カーボン、又は活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料である。特に、高エネルギー密度及び高出力密度を発現するためには、上記複合多孔性材料が更に好ましい。BET法による比表面積は、20m/g以上1000m/g以下が好ましい。なぜなら、比表面積が1000m/gを超える場合には、高出力密度を発現することが困難になるからである。
【0021】
本発明におけるポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFとも記載する)の重量平均分子量(以下、Mwとも記載する)は、以下に述べる測定方法より得られた値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)、データ処理:GPC−8020(東ソー社製))を用い、カラムにはShodexKF−606M+ShodexKF−601、溶離液には0.6ml/minのジメチルホルムアミド(5mmol−LiBr)を用いて測定し、標準試薬であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)を基準として換算する。
【0022】
本発明におけるPVdFの役割は、電極層内のカーボン種の接着、集電体との接着を担っており、総じて電極層の強度を発現することにある。本発明の電極体で使用されるカーボンは、リチウムイオン二次電池の正極活物質や負極活物質と比べて高比表面積であるため、多量のバインダーを用いないと電極の強度を高めることはできない。しかしながら、一概にバインダー量を多くすることは、該カーボンの細孔をバインダーで埋めて、エネルギー密度と出力密度のいずれをも低下させてしまうことになる。
【0023】
かかる状況下、本願発明者らは、PVdFのMwを向上させることで、その添加量を少なくしても電極の強度が十分となる範囲があることを予想外に発見した。従来、高比表面積のカーボン電極又は中比表面積であってもリチウムイオンの吸蔵放出によって体積が変化しうるカーボン電極の強度を高めようとすると、バインダーを多量に添加する必要性が生じ、電極層の空隙率の低下から性能が低下することを許容せざるを得なかった。しかしながら、上記の発見に基づき、本発明においては、その原理は定かではないが、例えば、電極層の嵩密度が向上することにより、性能低下を抑えることができ、その結果、高強度と高性能とを兼ね備えた蓄電素子用電極体を作製できることが確認できた。
【0024】
PVdFのMwに関しては、200万より大きくなると、そのポリマー鎖が長くなり過ぎることにより、PVdFが非常に硬くなり、ハンドリング性が悪く実用的でない。例えば、電極層を形成する方法の1つとして、活物質とバインダーと溶媒からなるスラリーを作製し、集電体上に塗工し、乾燥する方法があるが、その際、PVdFが非常に硬い状態であると、該スラリーの粘度は非常に高くなり、電極層の形成が困難になる。また、PVdFのMwが28万より小さくなると、バインダーの効果を発現させるために、その添加量を多くせざるを得ず、カーボンの細孔をバインダーで埋めてしまい、エネルギー密度と出力密度のいずれをも低下させてしまうことになる。
【0025】
電極層に含有されるPVdFの割合に関しては、20重量%より大きくなると、カーボンの細孔をバインダーで埋めてしまうことで、イオンの出入りが遅くなり、エネルギー密度と出力密度のいずれをも低下させてしまう。また、3重量%より小さくなると、カーボンを十分な強度で集電体に固着させることができなくなり、電極層と集電体間の接触抵抗が大きくなり、十分な出力密度が得られなかったり、電極加工中に剥れることで素子が作製できなかったり、こぼれたカーボンが素子の内部短絡の原因になったりするため好ましくない。
【0026】
以上のような理由により、本発明で使用するPVdFのMwは、28万以上200万以下の高分子量ポリフッ化ビニリデンであり、電極層に対するPVdFの割合を、28万≦Mw≦50万のPVdFに関して10重量%以上20重量%以下、50万<Mw≦150万のPVdFに関して3重量%以上20重量%以下、そして150万<Mw≦200万のPVdFに関して3重量%以上15重量%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、電極層に対する28万≦Mw≦50万のPVdFは10重量%以上15重量%以下、50万<Mw≦150万のPVdFは5重量%以上12重量%以下、150万<Mw≦200万のPVdFは3重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0027】
電極層には、活物質とバインダー以外に必要に応じ、適宜導電性フィラーを添加してもよい。導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラックなどが挙げられる。その添加量は、活物質に対して、0〜30重量%が好ましく、1〜20重量%が更に好ましい。導電性フィラーは、高出力密度の観点からは、混合したほうが好ましいが、30重量%より多いと、電極層に占める活物質量の割合が下がり、体積当たりの出力密度が低下するので好ましくない。
【0028】
本発明における金属箔からなる集電体は、その材質は、蓄電素子にした際、溶出や反応などの劣化が生じない金属箔であれば特に制限はなく、例えば、銅箔、アルミニウム箔などが挙げられる。
【0029】
集電体の形状は、通常の箔でもよいし、貫通孔を有する箔でも構わない。その厚みは、特に制限はないが、1〜100μmが好ましい。厚みが1μmより小さいと、電極体の形状や強度を十分に保持できず、一方、厚みが100μmより大きいと、蓄電素子として重量及び体積が大きくなり過ぎ、重量及び体積当たりの性能が劣ってしまい好ましくない。
【0030】
尚、本発明における集電体上に形成される電極層は、電極層を集電体の上面(片面)のみに形成してもよいし、上下面(両面)に形成しても構わない。
また、本発明の電極層には、本願発明に係る電極体の性能を阻害せず又は向上させることができるものであれば、比表面積が20m/g以上3000m/g以下であるカーボン、PVdF、必要に応じて添加した導電性フィラー以外の物質が含有されていても構わない。
【0031】
例えば、本発明で規定する比表面積から外れるカーボン、例えば、グラファイト、金属酸化物、導電性高分子、増粘剤などの1種以上が挙げられる。その混合割合は、本願発明に係る電極体としての性能を十分に発揮させるために、比表面積が20m/g以上3000m/g以下であるカーボンとPVdFは、電極層全体に対し、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上であることができる。
【0032】
本発明の電極層の厚みは、通常、30〜200μm程度が好ましく、30μm未満であると、蓄電素子全体に対する活物質量の割合が少なくなり、エネルギー密度が低下し、一方、200μmより大きくなると、電極内部の抵抗が大きくなり、出力密度が低下してしまう。
【0033】
電極体を製造する手法としては、公知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の電極製造技術により製造することが可能であり、電極体は、例えば、カーボンとPVdFと、必要があればその他の物質を、有機溶剤によりスラリー状にし、集電体である金属上に塗着し、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより得られる。
【0034】
成型された正極電極体、及び負極電極体は、セパレータを介して積層または捲廻積層され、缶又はラミネートフィルムから形成された外装体に挿入される。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜、ポリプロピレン製の微多孔膜、又は電気二重層コンデンサで用いられるセルロース製の不織紙などを用いることができる。セパレータの厚みは10μm以上50μm以下が好ましく、10μm未満の厚みでは、内部のマイクロショートによる自己放電が大きくなるため好ましくなく、一方、50μmより厚いと、蓄電素子のエネルギー密度が減少するだけでなく、出力特性も低下するため好ましくない。
【0035】
本願発明に係る蓄電素子に用いられる非水系電解液の溶媒としては、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)に代表される環状炭酸エステル、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(MEC)に代表される鎖状炭酸エステル、γ−ブチロラクトン(γBL)などのラクトン類、又はこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0036】
これら溶媒に溶解する電解質はリチウム塩である必要があり、好ましいリチウム塩を例示すれば、LiBF、LiPF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SOH)、又はこれらの混合塩をあげることができる。非水系電解液中の電解質濃度は、0.5〜2.0mol/Lの範囲が好ましく、0.5mol/L未満では陰イオンが不足して蓄電素子の容量が低下し、一方、2.0mol/Lを超えると未溶解の塩が該電解液中に析出したり、該電解液の粘度が高くなり過ぎたりすることによって、逆に伝導度が低下して出力特性が低下する。
【0037】
本願発明に係る電極体を、非水系リチウム型蓄電素子の負極電極に用いる場合には、予めリチウムイオンをドープしておくことができる。ドープする方法としては、公知の方法、例えば、電極層にリチウム金属箔を積層した状態で電極体を組み立てて非水系電解液に入れる方法を使用することができる。リチウムイオンを負極にドープしておくことにより、蓄電素子の容量や作動電圧を制御することが可能になる。なお、本願発明に係る電極体における電極層に含まれるPVdFの割合を算出する場合は、リチウムイオンを吸蔵していない状態の値で定めるものとする。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
<負極電極体の作製>
市販の活性炭(BET法による比表面積が1955m/g)150gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、石炭系ピッチ300gを入れたステンレス製バットの上に置き、電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置して、熱反応を行った。熱処理は窒素雰囲気下で、670℃まで4時間で昇温し、同温度で4時間保持し、次いで自然冷却により60℃まで冷却した後、炉から取り出した。得られた複合多孔性材料のBET比表面積は255m/gであった。
【0040】
次いで、得られた複合多孔性材料83.4g、アセチレンブラック8.30g、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)(Mw=100万)8.30gを、N−メチルピロリドン(NMP)を混合してスラリーにした。次いで、得られたスラリーを厚さ15μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥し、プレスして、電極層の厚さが60μmである負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、8.3重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
【0041】
<正極電極体の作製>
次に、市販の活性炭(BET法による比表面積が2094m/g)82.4g、ケッチェンブラック6.3g、PVdF(Mw=28万)8.3g、ポリビニルピロリドン(PVP)3.0gを、NMPを混合としてスラリーにした。次いで、得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥し、プレスして、電極層の厚さが55μmの正極電極体を得た。
【0042】
得られた負極電極体、及び正極電極体の間に、セルロース系セパレータ(厚み30μm)を積層して非水系リチウム型蓄電素子を組立てた。エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを1:4重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度でLiN(SOを溶解した溶液を、電解液として使用した。
【0043】
作製した蓄電素子を1mAの電流で4.0Vまで充電し、その後4.0Vの定電圧を印加する定電流定電圧充電を2時間行った。次いで、1mAの定電流で2.0Vまで放電した。放電容量は、0.410mAhであった。次に同様の充電を行い250mAで2.0Vまで放電したところ、0.262mAhの容量が得られた。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比(以下「出力特性」ともいう。)は0.640であった。
【0044】
<実施例2>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 87.3g、アセチレンブラック8.7g、及びPVdF(Mw=100万)4.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、4重量%であった。
【0045】
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.405mAh、250mA定電流での放電容量は0.247mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.610であった。
【0046】
<実施例3>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 77.3g、アセチレンブラック7.7g、及びPVdF(Mw=100万)15.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、15重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.404mAh、250mA定電流での放電容量は0.242mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.600であった。
【0047】
<実施例4>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 72.8g、アセチレンブラック7.2g、及びPVdF(Mw=100万)20.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、20重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.401mAh、250mA定電流での放電容量は0.231mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.576であった。
【0048】
<実施例5>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 77.3g、アセチレンブラック7.7g、及びPVdF(Mw=28万)15.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、15重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.403mAh、250mA定電流での放電容量は0.233mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.578であった。
【0049】
<実施例6>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 81.9g、アセチレンブラック8.1g、及びPVdF(Mw=200万)10.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、10重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.400mAh、250mA定電流での放電容量は0.225mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.563であった。
【0050】
<実施例7>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 83.4g、アセチレンブラック8.3g、及びPVdF(Mw=100万)8.3gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、8.3重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
【0051】
<正極電極体の作製>
実施例1において、正極電極層を形成するためのスラリーの組成を、活性炭80.8g、ケッチェンブラック6.2g、PVdF(Mw=100万)10.0g、ポリビニルピロリドン(PVP)3.0gを、NMPと混合としてスラリーにした以外は同様にして、正極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、10.0重量%であった。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.415mAh、250mA定電流での放電容量は0.282mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.680であった。
【0052】
<比較例1>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 89.1g、アセチレンブラック8.9g、及びPVdF(Mw=100万)2.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、2重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から剥離してしまい、十分な強度を発電できず、蓄電素子の作製及び評価ができなかった。
【0053】
<比較例2>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 68.2g、アセチレンブラック6.8g、及びPVdF(Mw=100万)25.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、25重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.380mAh、250mA定電流での放電容量は0.182mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.479であった。
【0054】
<比較例3>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 83.4g、アセチレンブラック8.3g、及びPVdF(Mw=28万)8.3gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、8.3重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から剥離してしまい、十分な強度を発電できず、蓄電素子の作製及び評価ができなかった。
【0055】
<比較例4>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 68.2g、アセチレンブラック6.8g、及びPVdF(Mw=28万)25.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、25重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.405mAh、250mA定電流での放電容量は0.211mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.521であった。
【0056】
<比較例5>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 86.4g、アセチレンブラック8.6g、及びPVdF(Mw=220万)5.0gに変更し、以下同様により負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、5重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から全く剥離せず、十分な強度を発現した。
以降、実施例1と同様に、蓄電素子の評価を行った結果、1mA定電流での放電容量は0.370mAh、250mA定電流での放電容量は0.174mAhであった。すなわち、1mAでの放電容量に対する250mAでの放電容量の比は0.470であった。
【0057】
<比較例6>
<負極電極体の作製>
実施例1において、負極電極層を形成するためのスラリーの組成を、複合多孔性材料 81.9g、アセチレンブラック8.1g、及びPVdF(Mw=15万)10.0gに変更した以外は同様にして、負極電極体を得た。この電極層に含有されるPVdFの割合は、10重量%であった。
この電極体に、複合多孔性材料単位重量あたり760mAh/gに相当するリチウムイオンを、リチウム金属を用いて電気化学的にドーピングした。その際、電極層は集電体から剥離してしまい、十分な強度を発電できず、蓄電素子の作製及び評価ができなかった。
以上の結果を以下の表1に纏めた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1により、本願発明に係る蓄電素子用電極体及び該電極体を含む蓄電素子は、高強度を保ちつつ、高エネルギー密度及び高出力特性の両者を発現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明に係る蓄電素子用電極体を用いた蓄電素子は、自動車において、内燃機関又は燃料電池、モーター、及び蓄電素子を組み合わせたハイブリット駆動システムの分野や瞬間電力ピークのアシスト用途などで好適に利用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる集電体と、該集電体の片面又は両面に形成された電極層とからなる蓄電素子用電極体であって、該電極層は、カーボンとポリフッ化ビニリデンとを含有し、ここで該カーボンは、BET法に従って測定されるとき20m/g以上3000m/g以下の比表面積を有し、該ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量Mwは、28万以上200万以下であり、該電極層に対する該ポリフッ化ビニリデンの割合は、28万≦Mw≦50万であるポリフッ化ビニリデンに関して10重量%以上20重量%以下、50万<Mw≦150万であるポリフッ化ビニリデンに関して3重量%以上20重量%以下、そして150万<Mw≦200万であるポリフッ化ビニリデンに関して3重量%以上15重量%以下の範囲であることを特徴とする前記蓄電素子用電極体。
【請求項2】
前記カーボンは、BET法により測定されるとき、20m/g以上1000m/g以下の比表面積を有し、そして難黒鉛性カーボン、易黒鉛性カーボン、及び活性炭の表面に炭素質材料を被着させた複合多孔性材料からなる群から選択される、請求項1記載の蓄電素子用電極体。
【請求項3】
前記カーボンは、BET法により測定されるとき、1500m/g以上2500m/g以下の比表面積を有する活性炭である、請求項1記載の蓄電素子用電極体。
【請求項4】
負極集電体に負極活物質層を設けた負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及びセパレータを積層してなる電極積層体、並びに非水系電解液を外装体に収納してなり、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵放出する材料、正極活物質に多孔質炭素材料、非水系電解液にリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系リチウム型蓄電素子であって、該負極電極体として、請求項1又は2のいずれか1項に記載の蓄電素子用電極体を用いることを特徴とする前記非水系リチウム型蓄電素子。
【請求項5】
負極集電体に負極活物質層を設けた負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及びセパレータを積層してなる電極積層体、並びに非水系電解液を外装体に収納してなり、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵放出する材料、正極活物質に多孔質炭素材料、非水系電解液にリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系リチウム型蓄電素子であって、該正極電極体として、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電素子用電極体を用いることを特徴とする前記非水系リチウム型蓄電素子。

【公開番号】特開2010−118216(P2010−118216A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289820(P2008−289820)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】