説明

蓄電装置の作製方法

【課題】コバルト酸リチウムが分解されて分解生成物が生成されることを抑制すること、コバルト酸リチウム中の酸素が集電体と反応することを抑制すること、充放電容量が大きい蓄電装置を得る。
【解決手段】コバルト酸リチウムを含むターゲットと、Arを含むスパッタガスを用いたスパッタリング法により、正極集電体上にコバルト酸リチウム層を形成する際に、コバルト酸リチウムの結晶をc軸配向させつつ、かつ酸化コバルトが生成されない温度で、当該正極集電体を加熱する蓄電装置の作製に関する。また当該正極集電体の加熱温度は、400℃以上600℃未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明の一態様は、蓄電装置の作製方法に関する。
【0002】
なお、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタなど、蓄電装置の開発が行われている。
【0004】
それに伴い、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、リチウムを安定して供給できる材料の開発が続けられている。
【0005】
例えば、リチウム供給源として、コバルト酸リチウム(LiCoO)等リチウム(Li)及びコバルト(Co)を含む化合物などが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−295514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、正極活物質として、パルスレーザーデポジション法で形成したコバルト酸リチウム(LiCoO)が用いられている。特許文献1にて形成されたコバルト酸リチウムは、基板を600℃に加熱しながらエピタキシャル成長した単結晶薄膜である。
【0008】
コバルト酸リチウムが形成される基板が高温で加熱されると、コバルト酸リチウムが分解され、分解生成物が生成される。コバルト酸リチウムよりも分解生成物が多くなると、蓄電装置の充放電容量が小さくなるという恐れが生じる。
【0009】
また正極集電体にチタンを用い、集電体上に高温でコバルト酸リチウムを形成した場合、コバルト酸リチウム中の酸素が正極集電体中のチタンと反応し、酸化チタンとなってしまう。正極集電体中のチタンが酸化され、酸化チタンなってしまうと、正極集電体の抵抗が高くなってしまうという恐れがある。またコバルト酸リチウムから酸素が失われると、コバルト酸リチウムに結晶欠陥が生じる恐れや、コバルト酸リチウムの結晶構造が変化する恐れが生じる。
【0010】
以上を鑑みて、開示される発明の一様態は、コバルト酸リチウムが分解されて分解生成物が生成されることを抑制することを課題の一とする。
【0011】
また開示される発明の一様態は、コバルト酸リチウム中の酸素が集電体と反応することを抑制することを課題の一とする。
【0012】
また開示される発明の一様態は、充放電容量が大きい蓄電装置を得ることを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示される発明の一様態では、正極集電体上に正極活物質層を形成する工程において、当該集電体を400℃以上600℃未満で加熱しながら、当該正極活物質層としてコバルト酸リチウム層を成膜する。これにより、当該集電体表面に垂直方向にc軸配向した結晶性コバルト酸リチウム層を形成することができる。
【0014】
正極集電体を400℃以上600℃未満という低温で加熱しながらコバルト酸リチウム層を成膜するため、コバルト酸リチウムが分解されるのを抑制することができる。コバルト酸リチウムが分解されるのを抑制するので、分解生成物は生成されない。
【0015】
また正極集電体を400℃以上600℃未満という低温で加熱しながらコバルト酸リチウム層を成膜することにより、コバルト酸リチウム中の酸素と集電体が反応するのを抑制することができる。これにより、集電体の抵抗が高くなることが抑制できる。またコバルト酸リチウムに結晶欠陥が生じること、及びコバルト酸リチウムの結晶構造が変化することを抑制できる。
【0016】
開示される発明の一様態は、コバルト酸リチウムを含むターゲットと、Ar含むスパッタガスを用いたスパッタリング法により、正極集電体上にコバルト酸リチウム層を形成する際に、コバルト酸リチウムの結晶をc軸配向させつつ、かつ酸化コバルトが生成されない温度で、当該正極集電体を加熱し、当該正極集電体の加熱温度は、400℃以上600℃未満であることを特徴とする蓄電装置の作製方法に関する。
【0017】
開示される発明の一様態において、当該正極集電体の材料は、チタン、ステンレス、白金、アルミニウムのいずれか一であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
開示される発明の一様態により、コバルト酸リチウムが分解されて分解生成物が生成されることを抑制することができる。
【0019】
また開示される発明の一様態により、コバルト酸リチウム中の酸素が集電体と反応することを抑制することができる。
【0020】
また開示される発明の一様態により、充放電容量が大きい蓄電装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】蓄電装置の断面図。
【図2】XRD測定の結果を示す図。
【図3】XRD測定の結果を示す図。
【図4】TEMによる観察結果を示す写真。
【図5】容量及び充放電電圧との関係を示す図。
【図6】XRD測定の結果を示す図。
【図7】容量及び充放電電圧との関係を示す図。
【図8】XRD測定の結果を示す図。
【図9】蓄電装置の断面図。
【図10】電子線回折測定の結果を示す図。
【図11】容量及び充放電電圧との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本明細書に開示された発明の実施の態様について、図面を参照して説明する。但し、本明細書に開示された発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本明細書に開示された発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に示す図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0023】
なお、図面等において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、説明を分かりやすくするために、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0024】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの序数は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、数的に限定するものではないことを付記する。
【0025】
[実施の形態1]
本実施の形態では、本発明の一態様である蓄電装置及びその作製方法について説明する。
【0026】
本実施の形態の蓄電装置について図1を用いて説明する。ここでは、蓄電装置として、二次電池の断面構造について、以下に説明する。
【0027】
二次電池として、リチウム含有金属酸化物を用いたリチウムイオン電池は、容量が高く、安全性が高い。ここでは、二次電池の代表例であるリチウムイオン電池の構造について、説明する。
【0028】
図1は、蓄電装置100の断面図である。
【0029】
蓄電装置100は、負極101と、正極111と、負極101及び正極111で挟持された電解質121とで構成される。また、負極101は、負極集電体102及び負極活物質層103とで構成されてもよい。正極111は、正極集電体112及び正極活物質層113で構成されてもよい。また、電解質121はセパレータに保持されている。当該セパレータは、負極活物質層103及び正極活物質層113と接する。
【0030】
負極集電体102及び正極集電体112はそれぞれ異なる外部端子と接続する。また、負極101、電解質121を含むセパレータ、及び正極111は、図示しない外装部材で覆われている。
【0031】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指す。塗布法により正極及び負極等の電極を作製する場合には、表面に炭素層が形成された活物質と共に、導電助剤やバインダ、溶媒等の他の材料を混合したものを活物質層として集電体上に形成することがある。この場合、活物質と活物質層は区別される。
【0032】
正極集電体112上に正極活物質層113を形成することにより、正極111を形成する。また負極集電体102上に負極活物質層103を形成することにより、負極101を形成する。後述のように、負極活物質層103が負極集電体102として充分な導電性を有している場合は、負極活物質層103単体を負極101としてもよい。正極活物質層113及び負極活物質層103との間に、電解質121を挟持させることにより、蓄電装置100を作製する。
【0033】
なお、上述のように電解質121はセパレータに保持されていてもよいし、後述のようにセパレータが必要ない場合は、電解質121自体を正極111及び負極101との間、より具体的には正極活物質層113及び負極活物質層103との間に配置する。
【0034】
本実施の形態に示す蓄電装置100に含まれる正極111について説明する。
【0035】
正極集電体112は、チタン、ステンレス、白金、アルミニウム、銅等の導電性の高い材料を用いることができる。また、当該導電性の高い材料を積層したものを用いてもよい。また、正極集電体112は、箔状、板状、膜状等の形状を適宜用いることができる。本実施の形態では、正極集電体112として、膜厚100μmのチタン膜又はステンレス膜を用いる。
【0036】
正極活物質層113として、コバルト酸リチウム(LiCoO)層を用いる。当該コバルト酸リチウム(LiCoO)層は、正極集電体112を400℃以上600℃未満の温度で加熱しながら、スパッタ法にて形成される。当該スパッタ法では、コバルト酸リチウムをターゲットとし、正極集電体112として用いるチタン膜又はステンレス膜上に、コバルト酸リチウム層を膜厚100nm以上100μm以下で成膜する。
【0037】
本実施の形態において、スパッタ装置としてキャノンアネルバ株式会社 スパッタリング装置EB1000を用い、周波数13.56MHz、電力30W、圧力0.5Pa、アルゴン(Ar)流量10sccm、基板(正極集電体112)及びターゲット間距離75mm、基板回転速度5rpmで成膜した。なお正極集電体112の温度として、正極集電体112を加熱するヒーターの温度を測定した。
【0038】
正極集電体112を400℃以上600℃未満の温度で加熱しながら、スパッタ法にてコバルト酸リチウム層を成膜すると、当該コバルト酸リチウム層は、c軸配向した結晶性コバルト酸リチウム層となる。
【0039】
図2に、正極集電体112として厚み100μmのチタン箔を用い、正極集電体112を300℃、400℃、及び500℃で加熱しながら、正極活物質層113であるコバルト酸リチウム層を100nmの厚さで成膜した場合の、X線回折計(X−ray diffractometer(XRD))による測定結果を示す。図2において、丸(○)はコバルト酸リチウム由来のピーク、三角(△)はチタン由来のピークを示している。
【0040】
図2において、正極集電体112を400℃及び500℃で加熱しながら成膜したコバルト酸リチウム層には、(003)面のピーク及び(006)面のピークが見られる。(003)面のピーク及び(006)面のピークが見られることは、コバルト酸リチウム層が正極集電体112表面に対して垂直方向にc軸配向をしていることを示している。
【0041】
一方、正極集電体112を300℃で加熱しながら成膜したコバルト酸リチウム層には、(003)面のピークも見られない。すなわち、正極集電体112を300℃で加熱しながら成膜したコバルト酸リチウム層では、正極集電体112表面に対してc軸配向をしていないことを示している。
【0042】
図3に、正極集電体112としてステンレス(SUS316L)を用いた場合のXRDによる測定結果を示す。
【0043】
図3では、正極集電体112として膜厚100μmのステンレス膜を用い、正極集電体112を500℃で加熱しながら、正極活物質層113としてコバルト酸リチウム層を膜厚300nmで成膜した。
【0044】
図3に、コバルト酸リチウム層をXRDにて測定した結果を示す。図3において、丸(○)はコバルト酸リチウム由来のピーク、四角(□)はステンレスに含まれる鉄(Fe)又はクロム(Cr)由来のピークを示している。
【0045】
図3に示されるように、正極集電体112がステンレス膜であっても、コバルト酸リチウム層には、(003)面のピーク及び(006)面のピークが観測された。上述のように、(003)面のピーク及び(006)面のピークが見られることは、コバルト酸リチウム層が正極集電体112表面に対して垂直方向にc軸配向をしていることを示している。
【0046】
以上XRD測定により、正極集電体112を400℃及び500℃で加熱しながら成膜したコバルト酸リチウム層は、正極集電体112表面に対して垂直方向にc軸配向した結晶性コバルト酸リチウム層であることが示された。また図2では、コバルト酸リチウムの分解生成物のピークは検出されていない。よって、正極集電体112を400℃及び500℃で加熱しながら成膜したコバルト酸リチウム層は、加熱によって分解されず、分解生成物が生成されないことが示された。さらに、図2ではチタン由来のピークは検出されたが、酸化チタン由来のピークは検出されていない。よって正極集電体112として用いたチタン膜とコバルト酸リチウム層は反応していない。
【0047】
図6に、成膜時は加熱を行わずに成膜し、成膜後に高温(600℃)で加熱した際のコバルト酸リチウムのXRD測定の結果を示す。
【0048】
正極集電体112として膜厚100μmのチタン膜を用い、正極集電体112を加熱せずに、正極活物質層113としてコバルト酸リチウム層を膜厚100nmで成膜した。コバルト酸リチウム層を成膜後、窒素及びアルゴン雰囲気中で600℃にて20時間加熱した場合のXRD測定結果を図6(A)に示し、真空雰囲気中で600℃にて60時間加熱した場合のXRD測定結果を図6(B)に示す。図6において、丸(○)はコバルト酸リチウム由来のピーク、三角(△)はチタン由来のピーク、バツ(×)は酸化チタン(TiO)由来のピークを示している。
【0049】
図6(A)では、コバルト酸リチウムの(012)面のピーク及び(113)面のピークが検出された。(012)面のピーク及び(113)面のピークが検出されたことは、当該コバルト酸リチウムがc軸配向していないことを示している。
【0050】
また図6(B)では、コバルト酸リチウムの(012)面のピーク及び(104)面のピークが検出された。(012)面のピーク及び(104)面のピークが検出されたことは、当該コバルト酸リチウムがc軸配向していないことを示している。
【0051】
図6(A)及び図6(B)の強度(Intensity)0付近を拡大した図を、それぞれ図8(A)及び図8(B)に示す。なお図8(A)及び図8(B)において、菱形(◇)は酸化コバルト(Co)由来のピークを示す。
【0052】
図8(A)及び図8(B)に示されるように、600℃にてコバルト酸リチウムを加熱すると、コバルト酸リチウムが分解され、分解生成物である酸化コバルトが生成される。このように、分解生成物が生成され、コバルト酸リチウムよりも分解生成物が多くなると、充放電容量が小さくなってしまう恐れがある。実際に充放電容量の測定を行った結果については後述する。
【0053】
さらに図6(A)及び図6(B)の両方において、酸化チタン(TiO)由来のピークが検出されている。上述のように、酸化チタンは、コバルト酸リチウム中の酸素が集電体のチタンと反応して形成されたものである。このように集電体のチタンが酸化チタンになってしまうと、集電体の抵抗が高くなってしまう。また、コバルト酸リチウムから酸素が引き抜かれるので、コバルト酸リチウムに結晶欠陥が生じる、あるいはコバルト酸リチウムの結晶構造が変化してしまう。
【0054】
よって図6により、高温(600℃)で加熱されたコバルト酸リチウムは、分解されて分解生成物が生成される、c軸配向しない、及び集電体であるチタンと反応することが示された。
【0055】
図10に、正極集電体112として、膜厚100μmのチタン(Ti)膜を用い、正極集電体112を500℃で加熱しながら、正極活物質層113としてコバルト酸リチウム(LiCoO)層をスパッタ法にて厚さ300nm成膜した正極111の電子線回折で観察した結果を示す。
【0056】
図10に示すように、電子線回折スポットの帰属および入射方位の同定を行った。(000)スポットを基点に平行四辺形を形作る3つの回折スポットの位置関係から[0001]方向から観察した際に得られる回折スポットの位置関係と一致した。これにより、本実施の形態のコバルト酸リチウム層がc軸配向していることが証明された。
【0057】
図4に、図10と同様に形成した正極111の透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察した結果を示す。
【0058】
図4には、チタン(Ti)膜表面に対して垂直方向に伸びたコバルト酸リチウム(LiCoO)の柱状結晶粒が観察できる。
【0059】
以上本実施の形態により、コバルト酸リチウムが分解されて分解生成物が生成されることを抑制することができる。
【0060】
また、本実施の形態では、コバルト酸リチウム中の酸素が集電体と反応することを抑制することができる。
【0061】
次に、本実施の形態に示す蓄電装置100に含まれる負極101について説明する。
【0062】
負極集電体102は、銅、ステンレス、鉄、ニッケル等の導電性の高い材料を用いることができる。また、負極集電体102は、箔状、板状、膜状等の形状を適宜用いることができる。
【0063】
負極活物質層103には、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料を用いる。代表的には、リチウム、アルミニウム、黒鉛、シリコン、錫、ゲルマニウムなどが用いられる。負極活物質層103が、負極集電体102として機能するに充分な導電性を有している場合は、負極活物質層103が負極集電体102を兼ねてもよい。すなわち、負極活物質層103が、負極集電体102として機能するに充分な導電性を有している場合は、負極活物質層103を単体で負極101として用いてもよい。
【0064】
なお、黒鉛と比較すると、ゲルマニウム、シリコン、リチウム、アルミニウムの理論リチウム吸蔵容量が大きい。吸蔵容量が大きいと小面積でも十分に充放電が可能であり、負極として機能するため、コストの節減及び二次電池の小型化につながる。ただし、シリコンなどはリチウム吸蔵により体積が4倍程度まで増えるために、材料自身が脆くなる事に十分に気をつける必要がある。
【0065】
なお、負極活物質層103としてリチウムではない材料を用いた場合、負極活物質層103にリチウムをプレドープしてもよい。リチウムのプレドープ方法としては、スパッタリング法により負極活物質層103表面上にリチウム層を形成してもよい。または、負極活物質層103の表面上にリチウム箔を設けることで、負極活物質層103にリチウムをプレドープすることができる。なお本明細書では、負極活物質層にリチウムをプレドープしたものも負極活物質層と呼ぶ。
【0066】
負極活物質層103の厚さは、100nm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。
【0067】
なお、負極活物質層103には、バインダ、導電助剤を有してもよい。さらに負極活物質層103表面に、電解質121との接触性を改善するための層を設けてもよい。
【0068】
なお、上記のバインダとしては、多糖類、熱可塑性樹脂またはゴム弾性を有するポリマーなどが挙げられる。例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。その他、ポリイミドや、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキシドなどを用いてもよい。
【0069】
導電助剤としては、その材料自身が電子導電体であり、蓄電装置内で他の物質と化学変化を起こさないものであればよい。例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、VGCF(登録商標)などの炭素系材料、銅、ニッケル、アルミニウムもしくは銀などの金属材料またはこれらの混合物の粉末や繊維などがそれに該当する。導電助剤とは、活物質間の導電性を助ける物質であり、離れている活物質の間に充填され、活物質同士の導通をとる材料である。
【0070】
本実施の形態の負極活物質層103は、上述のリチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料を負極集電体102上にスパッタ法等で膜として形成してもよい。さらに、上述のように、当該リチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料で形成された膜に、リチウムをプレドープしてもよい。
【0071】
あるいは、上述のリチウムイオンの吸蔵放出が可能な材料、バインダ、導電助剤、及び有機溶剤を混合してスラリーを形成し、当該スラリーを負極集電体102上に形成し、乾燥、及び焼成を行うことにより、本実施の形態の負極活物質層103を形成してもよい。このようにして本実施の形態の負極活物質層103を形成した場合にも、スラリー形成、乾燥、及び焼成後、リチウムをプレドープしてもよい。
【0072】
次に、本実施の形態に示す蓄電装置100に含まれる電解質121について説明する。
【0073】
電解質121の溶質は、キャリアイオンであるリチウムイオンを移送可能で、且つリチウムイオンが安定に存在する材料を適宜用いる。
【0074】
電解質121の溶質の代表例としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、Li(CSON等のリチウム塩が挙げられる。
【0075】
また、電解質121の溶媒としては、リチウムイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質121の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。
【0076】
電解質121の溶媒が粘性の低い液体である場合は、電解質121を後述するセパレータに含有させ、当該セパレータを正極111及び負極101との間、より具体的には、負極活物質層103及び正極活物質層113と接するように配置する。
【0077】
また、電解質121の溶媒の代わりにゲルを用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、リチウムイオン二次電池の薄型化及び軽量化が可能である。ゲルの代表例としては、シリコンゲル、アクリルのゲル、アクリロニトリルのゲル、ポリエチレンオキサイドのゲル、ポリプロピレンオキサイドのゲル、フッ素系ポリマーのゲル等がある。
【0078】
このように電解質121の溶媒の代わりにゲルを用いた場合、必ずしもセパレータを設ける必要はない。セパレータ設置の有無は、当該ゲルに応じて決定すればよい。セパレータを設けない場合は、電解質121自体をセパレータの代わりに正極111及び負極101との間、より具体的には、負極活物質層103及び正極活物質層113と接するように配置する。
【0079】
また、電解質121として、LiPO等の固体電解質を用いることができる。このような固体電解質を電解質121として用いた場合にも、電解質121自体を正極111及び負極101との間に配置することができる。
【0080】
セパレータは、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータの代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0081】
以下に、上記で述べた蓄電装置の充放電特性について、図5を用いて説明する。
【0082】
本実施の形態の蓄電装置では、正極集電体112として膜厚100μmのチタン膜を用い、正極集電体112を300℃、400℃、及び500℃で加熱しながら、正極活物質層113であるコバルト酸リチウム層を膜厚100nmで成膜した正極111を用いた。なお当該コバルト酸リチウム層のXRD測定の結果は図2に示されている。
【0083】
本実施の形態の蓄電装置の充放電測定は、(株)東洋システム 充放電試験装置 TOSCAT−3100を用いて行われた。測定電圧は、2.5V〜4.2Vの範囲に設定した。充電時には所定の電流値で充電を行い、当該電流値にて所定の電圧(本実施の形態では4.2V)に達した後は、当該所定の電圧で充電を維持した定電流定電圧(CCCV)測定を行った。また放電時には、所定の電流値で充電を行う定電流(CC)測定を行った。
【0084】
定電流の電流値は1μA、定電圧に固定した後は電流値が0.1μAになったときに測定を終了した。また、充電と放電の休止時間は2時間とした。また本充放電測定は、定電流充放電を3回行った後に行われた。
【0085】
また本実施の形態の蓄電装置では、負極活物質層103として金属リチウム(Li)膜を用いた。金属リチウム(Li)膜は集電体としても機能するため、負極101としては当該金属リチウム(Li)膜のみを用いた。また電解質121の溶質としてLiPF、電解質121の溶媒としてエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを用いる。また電解質121を含有するセパレータとして、ポリプロピレンを用いた。
【0086】
図5(A)、図5(B)、図5(C)にそれぞれ、上述の加熱温度が300℃、400℃、及び500℃の時の容量及び充放電電圧の関係を示す。またそれぞれの加熱温度における最大放電容量は、98.7mAh/g、94mAh/g、70.2mAh/gであった。
【0087】
また放電曲線において、図5(B)では放電電圧3.6V〜3.7Vに、図5(C)では放電電圧3.5V〜3.6Vに波形の変位点が見られる。一方、図5(A)では変位点は観察されなかった。これは、図5(A)(300℃)と、図5(B)(400℃)及び図5(C)(500℃)では、異なる充放電反応が起こっているためである。
【0088】
図7(A)及び図7(B)にそれぞれ、図6(A)及び図6(B)で用いたコバルト酸リチウム層を正極活物質層113として用いた蓄電装置の容量及び充放電電圧の関係を示す。また図7(A)及び図7(B)で用いた蓄電装置の最大放電容量は、それぞれ9.6mAh/g及び12mAh/gであった。
【0089】
図11に、正極集電体112である膜厚100μmのチタン膜を600℃で加熱しながら、正極活物質層113であるコバルト酸リチウム層を膜厚100nmで成膜した正極111を用いた蓄電装置の容量及び充放電電圧の関係を示す。図11において、最大放電容量は、47mAh/gであった。
【0090】
図11に示されるように、600℃で加熱しながら成膜したコバルト酸リチウム層を正極集電体112として用いた蓄電装置は、充放電容量、特に放電容量が小さいことが示された。その充放電容量は低温(400℃以上600℃未満、より具体的には400℃(図5(B))及び500℃(図5(C)))よりも小さい。また、図7(A)及び図7(B)に示されるように、成膜後に高温(600℃)で加熱されたコバルト酸リチウム層を正極活物質層113として用いた蓄電装置は、充放電容量が低温(400℃以上600℃未満、より具体的には400℃(図5(B))及び500℃(図5(C)))よりも小さい。このように、高温(600℃)で成膜されたコバルト酸リチウム層、又は高温(600℃)で加熱されたコバルト酸リチウム層を正極活物質層113として用いた蓄電装置の充放電容量が、低温(400℃以上600℃未満、より具体的には400℃及び500℃)で加熱されたコバルト酸リチウム層を正極活物質層113として用いた蓄電装置の充放電容量よりも小さい理由は、コバルト酸リチウム層が分解されて、分解生成物、例えば酸化コバルトが生成されたからである。
【0091】
よって、本実施の形態で述べたように、低温(400℃以上600℃未満、より具体的には400℃及び500℃)で加熱成膜されたコバルト酸リチウム層を正極活物質層113として用いることにより、充放電容量の大きい蓄電装置を得ることができる。
【0092】
以上本実施の形態により、コバルト酸リチウムが分解されて分解生成物が生成されることを抑制することが可能である。
【0093】
また本実施の形態により、コバルト酸リチウム中の酸素が集電体と反応することを抑制することが可能である。
【0094】
また本実施の形態により、充放電容量が大きい蓄電装置を得ることができる。
【0095】
[実施の形態2]
本実施の形態では、実施の形態1とは異なる構造を有する蓄電装置について説明する。
【0096】
図9(A)に示す蓄電装置は、基板201、基板201上に正極集電体202及び負極集電体204を有している。基板201及び正極集電体202上には正極活物質層203が形成されている。また正極集電体202と接し正極活物質層203を覆って、固体電解質層206が形成されている。また固体電解質層206と負極集電体204に接して、負極活物質層205が形成されている。固体電解質層206及び負極活物質層205を覆い、正極集電体202及び負極集電体204に接して、保護膜207が形成されている。
【0097】
図9(B)に示す蓄電装置は、基板211、基板211上に固体電解質層216、固体電解質層216と接して正極活物質層213及び負極活物質層215が形成されている。正極活物質層213上に設けられ、固体電解質層216に接して正極集電体212、負極活物質層215上に設けられ、固体電解質層216に接して負極集電体214が形成されている。固体電解質層216を覆って、保護膜217が形成されている。
【0098】
図9(C)に示す蓄電装置は、正極集電体221上に、正極活物質層222が形成されている。正極活物質層222を覆って固体電解質層225が形成されている。固体電解質層225上に、負極活物質層224及び負極集電体223が形成されている。正極集電体221上に、固体電解質層225及び負極活物質層224を覆い、負極集電体223に接して、保護膜226が形成されている。
【0099】
図9(A)の基板201及び図9(B)の基板211は、例えばガラス基板、石英基板、マイカ基板を用いる。
【0100】
図9(A)の正極集電体202、図9(B)の正極集電体212、図9(C)の正極集電体221は、実施の形態1の正極集電体112と同様である。
【0101】
また図9(A)の正極活物質層203、図9(B)の正極活物質層213、図9(C)の正極活物質層222は、実施の形態1の正極活物質層113と同様である。
【0102】
図9(A)の負極集電体204、図9(B)の負極集電体214、図9(C)の負極集電体223は、実施の形態1の負極集電体102と同様である。
【0103】
図9(A)の負極活物質層205、図9(B)の負極活物質層215、図9(C)の負極活物質層224の材料として、TiO、LiTi12、Nb、NbTiO、WO、MoO、シリコン及びシリコン合金、ゲルマニウム及びゲルマニウム合金、スズ及びスズ合金、金属リチウムを用いる事ができる(上記xは正の実数である)。これらの材料を用い、PVD法(スパッタ、蒸着)、PLD法(パルスレーザー)、AD法(エアロゾルデポジション)によって、膜状の当該負極活物質層を形成する。
【0104】
図9(A)の負極活物質層205、図9(B)の負極活物質層215、図9(C)の負極活物質層224の厚さは、100nm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。
【0105】
また図9(A)の負極活物質層205、図9(B)の負極活物質層215、図9(C)の負極活物質層224の材料として、金属リチウム以外の材料を用いる場合、リチウムをプレドープしてもよい。例えば、蒸着法を用いて上述の負極活物質層を形成する場合、蒸着源として上述の材料及びリチウムを用いて上述の負極活物質層にリチウムをプレドープすればよい。なお本明細書では、負極活物質層にリチウムをプレドープしたものも負極活物質層と呼ぶ。
【0106】
なお当該負極活物質層の表面に、固体電解質層との接触性を改善するための層を設けてもよい。
【0107】
図9(A)の固体電解質層206、図9(B)の固体電解質層216、図9(C)の固体電解質層225の材料として、LiPO、LiPO4−x、Li1.3Al0.3Ti1.712、Li0.35La0.55TiO、Li14ZnGe16、LiBaLaTa12、LiLaZr12などの酸化物材料、LiPS、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiSiO、Li3.25Ge0.250.75などの硫化物材料を用いる事ができる(上記x、yは正の実数である)。
【0108】
これらの材料を用い、蒸着法、PVD法(スパッタ、蒸着)、PLD法(パルスレーザー)、AD法(エアロゾルデポジション)によって、当該固体電解質層を形成する。なお当該固体電解質層の形状は、膜状、ペレット状、板状であればよい。
【0109】
図9(A)の保護膜207、図9(B)の保護膜217、図9(C)の保護膜226として、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、フッ素系樹脂、DLC(Diamond Like Carbon)を用いることができる。
【0110】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
101 負極
102 負極集電体
103 負極活物質層
111 正極
112 正極集電体
113 正極活物質層
121 電解質
201 基板
202 正極集電体
203 正極活物質層
204 負極集電体
205 負極活物質層
206 固体電解質層
207 保護膜
211 基板
212 正極集電体
213 正極活物質層
214 負極集電体
215 負極活物質層
216 固体電解質層
217 保護膜
221 正極集電体
222 正極活物質層
223 負極集電体
224 負極活物質層
225 固体電解質層
226 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト酸リチウムをターゲットとし、Arをスパッタガスとして用い、スパッタリング法により正極集電体上にコバルト酸リチウム層を形成する際に、
コバルト酸リチウムの結晶をc軸配向させつつ、かつ酸化コバルトが生成されない温度で、前記正極集電体を加熱し、
前記正極集電体の加熱温度は、400℃以上600℃未満であることを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記正極集電体の材料は、チタン、ステンレス、白金、アルミニウムのいずれか一であることを特徴とする蓄電装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−230889(P2012−230889A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89322(P2012−89322)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】