説明

薄型シート状磁性体およびその使用方法

【課題】 薄型シート状磁性体において、薄型化と取り扱いの容易さを同時に達成すること。
【解決手段】 樹脂製の極薄シート基材9、粘着剤12、剥離フィルム10、フェライト膜8および両面テープ粘着体13からなる薄型シート状磁性体であって、フェライト膜8は、粘着剤12を介して剥離フィルム10を接着された樹脂製の極薄シート基材9の上に成膜され、かつフェライト膜8の表面に両面テープ粘着体13が設けられた薄型シート状磁性体である。また、両面テープ粘着体13を介して対象物に貼り付けた後、剥離フィルム10およびこれに隣接する粘着剤12が取り除かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、磁気ヘッド、磁気光学素子、マイクロ波素子、磁歪素子、インダクタ、および高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体などに広く応用されている薄型シート状磁性体およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型シート状磁性体の従来の技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に示されているように、フェライトめっき法によりフェライト膜を支持体上に形成してなる電磁雑音抑制体がある。この支持体としては、非特許文献1に記載のように例えばポリイミドのような樹脂シートを用いて薄さと柔軟性を特長とするものがある。これを用いて、電子機器の内部等に両面テープや粘着剤を介して接着して用いる方法が容易に予測される。
【0003】
【特許文献1】特開2004−111477号公報
【特許文献2】特開2004−107107号公報
【非特許文献1】バスタフェリックス(R):フェライトめっき薄膜を用いたGHz伝導ノイズ抑制体、日本応用磁気学会誌、28巻、4号、pp.516、2004年.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、このような樹脂シートは薄いもの、例えば10μm程度かそれよりも薄いものを用いるとその腰強さの低下と薄さのために取り扱いが困難であり、工業化の際には生産効率を低下させる欠点があった。また、厚いもの例えば50μmや100μmの厚さのものを用いると、取り扱いは容易になるが柔軟性が劣化し、また極めて狭いスペースに設置することができなくなる欠点があった。
【0005】
この状況にあって、本発明の課題は、シート状磁性体の薄型化と取り扱いの容易さを同時に達成した薄型シート状磁性体およびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討の結果、(1)樹脂製のシート基材、粘着剤、剥離フィルム、磁性薄膜、シート状粘着体を用いた薄型シート状磁性体であって、前記磁性薄膜は、粘着剤を介して剥離フィルムを接着された樹脂製シート基材上に成膜され、かつ前記磁性薄膜表面はシート状粘着体により覆われていることを特徴とする薄型シート状磁性体を用い、あるいは(2)樹脂製のシート基材、磁性薄膜、シート状粘着体からなる薄型シート状磁性体であって、前記磁性薄膜は樹脂製シート基材上に成膜され、かつ前記磁性薄膜表面はシート状粘着体により覆われていることを特徴とする薄型シート状磁性体を用い、前記薄型シート状磁性体を両面テープ、粘着剤などのシート状粘着体を介して対象物に貼り付けた後、前記剥離フィルムおよび剥離フィルムに隣接する粘着剤を取り除くことにより、あるいは前記樹脂製シート基材を取り除くことにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
上記解決手段およびその作用について詳しく説明する。樹脂製のシート基材、粘着剤、剥離フィルム、磁性薄膜、シート状粘着体を用いた薄型シート状磁性体において、剥離フィルム(裏打ち材)の効果によりシート基材は非常に薄いものを用いても腰強さが増し、取り扱いが容易になる。しかも前記薄型シート状磁性体をシート状粘着体を介して対象物に貼り付けた後、前記裏打ち材および裏打ち材に隣接する粘着剤を取り除くことにより、シート基材、磁性薄膜およびシート状粘着体のみからなる薄型シート状磁性体となり、それぞれの厚さを例えば4μm、3μm、10μmとすればトータル17μmの超薄型の薄型シート状磁性体となる。
【0008】
また、樹脂製のシート基材、磁性薄膜、シート状粘着剤からなる薄型シート状磁性体において、磁性薄膜表面をコーティングするシート状粘着体を介して対象物に貼り付けた後、前記樹脂製シート基材を取り除くことにより、磁性薄膜およびシート状粘着体のみからなる薄型シート状磁性体となり、それぞれの厚さを例えば3μm、10μmとすればトータル13μmの超薄型の薄型シート状磁性体となる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、薄型シート状磁性体の薄型化と取り扱いの容易さを同時に達成できる。したがって、例えば携帯電子機器の小型化、低コスト化に寄与すると考えられる。このとき用いる磁性薄膜をフェライト膜とすることによりノイズ抑制体として優れた効果を得ることができる。また、用途に応じて最適な磁気特性を有する磁性体を選択することで取り扱いが容易な薄型シート状磁性体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明に係る磁性薄膜の成膜に用いたフェライトめっき膜製造装置の概略を図1に示す。4はフェライト膜を形成する基体であり、回転台3の上に設置される。5、6はめっきに必要な液を貯蔵するためのタンクである。タンク5、6に貯蔵された溶液は、ガス導入口7から出る窒素ガスとともにノズル1、2を介して基体4に供給される。その際、例えば、ノズル1を介して基体4に溶液が供給された後、供給された溶液が回転による遠心力で除去され、ノズル2を介して基体4に供給された溶液が、回転による遠心力で除去されることを繰り返す。
【0011】
このような磁性薄膜の製膜工程を経て、樹脂製のシート基材、粘着剤、剥離フィルム、磁性薄膜およびシート状粘着体からなる薄型シート状磁性体を作製する。そうすると、剥離フィルム(裏打ち材)の効果によりシート基材は非常に薄いものを用いても腰強さが増し、取り扱いが容易になる。しかも前記薄型シート状磁性体を粘着剤を介して対象物に貼り付けた後、前記裏打ち材および裏打ち材に隣接する粘着剤を取り除くことにより、シート基材、磁性薄膜およびシート状粘着体のみからなる薄型シート状磁性体を得る。そのシート状粘着体としては、磁性薄膜表面にコーティングにより粘着剤の層を形成してもよく、両面テープのような粘着手段を用いてもよい。
【0012】
また、樹脂製のシート基材上に磁性薄膜を製膜し、この磁性薄膜表面にシート状粘着体を形成し、このシート状粘着体を介して対象物に貼り付けた後、樹脂製シート基材を取り除くことにより、磁性薄膜および粘着剤のみからなる薄型シート状磁性体を得る。そのとき対象物に接着するためのシート状粘着体としては、磁性薄膜表面にコーティングにより粘着剤の層を形成してもよく、両面テープのような粘着手段を用いてもよい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0014】
(実施例1)
図2に、本実施例1の薄型シート状磁性体の作製および使用の方法を示す。図2(a)〜図2(e)はその手順を示す模式図である。まず、厚さ約4μmのアラミド製極薄シート基材9に粘着剤12を介してPET(ポリエチレンテレフタレート)製剥離フィルム10を図2(a)に示すように貼り付け、成膜用の基体とした。次に図1に示す様な装置の回転板3の上に図2(a)の基体を設置し150rpmで回転させながら脱酸素イオン交換水を供給しながら90℃まで加熱した。ついで、装置内にN2ガスを導入し脱酸素雰囲気を形成した。反応液として脱酸素イオン交換水中にFeCl2・4H2O、NiCl2・6H2O、ZnCl2、CoCl2・6H2Oをそれぞれ所望の量溶かし、脱酸素イオン交換水中にNaNO2とCH3COONH4をそれぞれ溶かした酸化液と前記反応液をノズルによりそれぞれ30ml/minの流量で約180分供給した。
【0015】
その後、取り出した基体には、図2(b)のフェライト膜8のように、黒色膜が形成されており、Ni,Zn,Fe,Oからなるフェライトであることを確認した。SEM(走査型電子顕微鏡)を用いた組織観察の結果、膜厚が均一である組織が形成されていた。次に、PET製のセパレータ11を有する両面テープ粘着体13(両面テープ粘着体の厚さ10μm)を図2(c)に示すように貼り付けた。なお、両面テープ粘着体13のフェライト膜との付着力は粘着剤12のアラミド製極薄シート基材9との付着力よりも強くなるように調整した。次に、セパレータ11を剥がし、両面テープ粘着体13を介して線路長70mm、特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップライン上に貼り付けた。図2(d)のようである。その後、図2(e)のように粘着剤12と剥離フィルム10を取り除いた。なお、両面テープ粘着体13のマイクロストリップライン14との付着力は粘着剤12のアラミド製極薄シート基材9との付着力よりも強くなるように調整した。
【0016】
図2(e)の状態で両面テープ粘着体、フェライト膜、アラミド製シートからなる薄型シート状磁性体に皺はほとんど見られず、両面テープ粘着体とマイクロストリップラインの間には空隙はほとんど見られなかった。なお、図2(d)、図2(e)に見られるマイクロストリップライン基板上の中央部の四角は、信号ラインを表示するために生じた便宜的なものである。このマイクロストリップライン両端をネットワークアナライザに接続し、S21を測定した。
【0017】
(実施例2)
図3は、本実施例2の薄型シート状磁性体の作製および使用の方法を示し、図3(a)〜図3(e)はその手順を示す模式図である。厚さ約25μmのPET製シート基材15を成膜用の基体とした。次に図1に示す様な装置の回転板の上に図3(a)の基体を設置し150rpmで回転させながら脱酸素イオン交換水を供給しながら90℃まで加熱した。ついで、装置内にN2ガスを導入し脱酸素雰囲気を形成した。反応液として脱酸素イオン交換水中にFeCl2・4H2O、NiCl2・6H2O、ZnCl2、CoCl2・6H2Oをそれぞれ所望の量溶かし、脱酸素イオン交換水中にNaNO2とCH3COONH4をそれぞれ溶かした酸化液と前記反応液をノズルによりそれぞれ30ml/minの流量で約180分供給した。
【0018】
その後、取り出した基体には、図3(b)のフェライト膜8のように、黒色膜が形成されており、Ni,Zn,Fe,Oからなるフェライトであることを確認した。SEMを用いた組織観察の結果、膜厚が均一である組織が形成されていた。次に、PET製のセパレータ11を有する両面テープ粘着体13(両面テープ粘着体の厚さ10μm)を図3(c)に示すように貼り付けた。なお、両面テープ粘着体13のフェライト膜との付着力はPET製シート基材15のフェライト膜8との付着力よりも強くなるように調整した。なお、両面テープ粘着体13は、フィルムの両面に形成された粘着剤からなるものでも、網目状もしくは布状のシートを内包するように形成されたシート状粘着体であってもよい。
【0019】
次に、セパレータ11を剥がし、両面テープ粘着体13を介して線路長70mm、特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップライン上に貼り付け[図3(d)]た。その後、図3(e)のようにPET製シート基材15を取り除いた。なお、両面テープ粘着体13のマイクロストリップライン14との付着力はPET製シート基材15のフェライトとの付着力よりも強くなるように調整した。図3(e)の状態で両面テープ、フェライト膜からなる薄型シート状磁性体に皺はほとんど見られず、両面テープとマイクロストリップラインの間には空隙はほとんど見られなかった。マイクロストリップライン両端をネットワークアナライザに接続し、S21を測定した。
【0020】
(比較例)
図4は、比較例の薄型シート状磁性体の作製および使用の方法を示し、図4(a)〜図4(d)はその手順を示す模式図である。まず、厚さ約4μmのアラミド製極薄シート基材9を成膜用の基体とした。図1に示す様な装置の回転板の上に基体を設置し150rpmで回転させながら脱酸素イオン交換水を供給しながら90℃まで加熱した。ついで、装置内にN2ガスを導入し脱酸素雰囲気を形成した。反応液として脱酸素イオン交換水中にFeCl2・4H2O、NiCl2・6H2O、ZnCl2、CoCl2・6H2Oをそれぞれ所望の量溶かし、脱酸素イオン交換水中にNaNO2とCH3COONH4をそれぞれ溶かした酸化液と前記反応液をノズルによりそれぞれ30ml/minの流量で約180分供給した。
【0021】
その後、取り出した基体には、図4(b)のフェライト膜8のように、黒色膜が形成されており、Ni,Zn,Fe,Oからなるフェライトであることを確認した。SEMを用いた組織観察の結果、膜厚が均一である組織が形成されていた。次に、PET製のセパレータ11を有する両面テープ粘着体13(両面テープ粘着体の厚さ10μm)を図4(c)に示すように貼り付けた。次に、セパレータ11を剥がし、両面テープ粘着体13を介して線路長70mm、特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップライン上に貼り付け(図4(d))た。図4(d)の状態で両面テープ粘着体、フェライト膜、アラミド製シートからなる薄型シート状磁性体には皺が多く見られ、両面テープとマイクロストリップラインの間には空隙が多く見られた。マイクロストリップライン両端をネットワークアナライザに接続し、S21を測定した。
【0022】
図5は、本発明の実施例1のノイズ抑制効果を示す図、図6は本発明の実施例2のノイズ抑制効果を示す図、そして、図7は比較例のノイズ抑制効果を示す図である。
【0023】
図5および図6に示すように、実施例1、2によればS21はGHz帯域で急激に低下し、10GHzで約7dBの減衰が見られ、GHz帯域の電磁ノイズを効果的に吸収していることを示している。一方、図7に示すように、比較例によれば10GHzにおいて4dB程度の減衰しか示さず、実施例に比べて大きくノイズ吸収効果が低下している。この原因は、実施例では薄型シート状磁性体に皺はほとんど見られず、両面テープとマイクロストリップラインの間には空隙はほとんど見られなかったのに対して、比較例では薄型シート状磁性体には皺が多く見られ、両面テープとマイクロストリップラインの間に空隙が多く見られたためと考えられる。
【0024】
ところで、上記実施例および比較例では樹脂性のシート基材上にフェライト薄膜を製膜した場合を説明したが、シート基材上に例えば金属の軟磁性膜を製膜した場合にも本発明の薄型シート状磁性体の積層構造および使用方法が有用であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例および比較例で用いたフェライト膜製造装置の概略図。
【図2】本発明の実施例1の薄型シート状磁性体の作製および使用の方法を示し、図2(a)〜図2(e)はその手順を示す模式図。
【図3】本発明の実施例2の薄型シート状磁性体の作製および使用の方法を示し、図3(a)〜図3(e)はその手順を示す模式図。
【図4】比較例の薄型シート状磁性体の作製および使用の方法を示し、図4(a)〜図4(d)はその手順を示す模式図。
【図5】本発明の実施例1のノイズ抑制効果を示す図。
【図6】本発明の実施例2のノイズ抑制効果を示す図。
【図7】比較例のノイズ抑制効果を示す図。
【符号の説明】
【0026】
1,2 ノズル
3 回転台
4 基体
5,6 タンク
7 ガス導入口
8 フェライト膜
9 極薄シート基材
10 剥離フィルム
11 セパレータ
12 粘着剤
13 両面テープ粘着体
14 マイクロストリップライン
15 シート基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のシート基材、粘着剤、剥離フィルム、磁性薄膜およびシート状粘着体からなる薄型シート状磁性体であって、前記磁性薄膜は、粘着剤を介して剥離フィルムを接着された樹脂製のシート基材上に成膜され、かつ前記磁性薄膜の表面にシート状粘着体が設けられたことを特徴とする薄型シート状磁性体。
【請求項2】
前記シート状粘着体は前記磁性薄膜の表面への別の粘着剤のコーティングにより形成されたことを特徴とする請求項1記載の薄型シート状磁性体。
【請求項3】
請求項1または2記載の薄型シート状磁性体の使用方法であって、前記薄型シート状磁性体を、前記シート状粘着体を介して対象物に貼り付けた後、前記剥離フィルムおよびこれに隣接する粘着剤を取り除くことを特徴とする薄型シート状磁性体の使用方法。
【請求項4】
樹脂性のシート基材、磁性薄膜およびシート状粘着体からなる薄型シート状磁性体であって、前記磁性薄膜は樹脂製シート基材上に成膜され、前記磁性薄膜の表面にシート状粘着体が設けられたことを特徴とする薄型シート状磁性体。
【請求項5】
請求項4記載の薄型シート状磁性体の使用方法であって、前記薄型シート状磁性体を、前記シート状粘着体を介して対象物に貼り付けた後、前記シート基材を取り除くことを特徴とする薄型シート状磁性体の使用方法。
【請求項6】
前記磁性薄膜はフェライト薄膜であることを特徴とする請求項1、2または4記載の薄型シート状磁性体。
【請求項7】
前記磁性薄膜はフェライト薄膜であることを特徴とする請求項3または5記載の薄型シート状磁性体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−165701(P2007−165701A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361791(P2005−361791)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】