説明

薄板部材の接合方法

【課題】材質が相違するうえに厚さの薄い二種類の板部材を適確に接合することが可能な薄板部材の接合方法を提供する。
【解決手段】二種類の薄板部材における接合する部分に相互に係合可能な係合部分を形成し、これら2個の係合部分を係合させたのち、係合部分にショットを所定の条件で投射して2個の係合部分のうち少なくとも一方を塑性流動させ、これにより係合部分における相互の隙間を充填することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材質が相違する二種類の薄板部材を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の方法のひとつとして、金属板材の接合しようとする端部の端面を、板厚方向に、被圧延材の板厚の1/2以上の長さの振幅で1往復以内の相対すべり摺動させ、かつ前記相対すべり摺動後に、接合面に前記圧延材の温度および耐力に応じた押圧力を加えて接合するようにしたものがある。
【特許文献1】特開平8−155504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このように構成された従来の板部材の接合方法では、板部材は材質が同一の金属であるうえに、ある程度の厚さが必要であり、しかも、板部材を板厚方向に相対すべり摺動させるための大型で高価な装置が必要であるなどの問題があった。
【0004】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、材質が相違するうえに厚さの薄い二種類の板部材を適確に接合することが可能な薄板部材の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解消するために本発明における薄板部材の接合方法は、材質が相違する二種類の薄板部材を接合する方法であって、前記二種類の薄板部材における接合する部分に相互に係合可能な係合部分を形成し、これら2個の係合部分を係合させたのち、係合部分にショットを所定の条件で投射して前記2個の係合部分のうち少なくとも一方を塑性流動させ、これにより前記係合部分における相互の隙間を充填することを特徴とする。
【0006】
本発明においては、例えば、材質が相違する二種類の薄板部材A、Bの係合部分を、図1に示すように、スプラインの断面形状に類似した凹部と、キーの断面形状に類似した凸部とによって構成した後、これら凹・凸部を相互に係合させ、続いて、この係合した凹・凸部の表面にショットを投射すると、凹・凸部の表面には表面層の塑性変形が生じる。そのため、各薄板部分の凸部表面層ではX−Y平面での伸展が生じるが、隣接する相手材の凹凸部との接触部で拘束を受けることになる。この伸展で生じる力の中で、y方向の接触面(ab間、cd間、ef間)に垂直に作用するx方向の力(薄板Aの凸部:p、薄板Bの凸部:q)によって両薄板部材が接する。これにより、二種類の薄板部材A、Bは相互に接合することとなる。
【0007】
なお、本発明において、係合部分とは、一方が略蟻溝の断面形状に類似した凹部と他方がその挿入物の断面形状に類似した凸部とで、または/および、一方がスプラインの断面形状に類似した凹部と他方がキーの断面形状に類似した凸部とによって構成され、相互に係合可能なものをいう。そして、前記凹部における前記凸部の外側面と相対応する内側面を、図2(a)に示すように奥広がりのテーパ状に、または図2(b)に示すようにノッチ状に形成することにより、接合状態をより強固なものにすることができる。
【0008】
またなお、本発明においては、例えば、アルミニウム薄板に対する、鋼薄板、銅薄板等の他の金属薄板や、ガラス板あるいは硬質の合成樹脂薄板等の非金属薄板のように、材質が全く相違するうえに硬さも異なる二種類の薄板部材の接合でもよい。
またなお、本発明においては、二種類の薄板部材のうち少なくとも一方が、延性または/および展性を有していれば、所望の作用効果を得ることができる。
またなお、本発明においては、二種類の薄板部材の厚さが0.1〜2.0mmであるのが望ましい。
【0009】
またなお、本発明においては、平均粒径0.05〜2.00mmの鉄鋼製のショットを投射圧力0.4〜0.8MPaで係合部分に投射することが望ましく、これ以外のショット粒径および投射圧力では所望の作用効果を得ることができない。
またなお、本発明においては、係合部分にショットを投射するに当たり、この係合部分の近傍部分以外の部分をマスキングすることにより、ショットピーニングによる薄板部材の変形を防ぐことができる。
またなお、本発明においては、前記薄板部材としては立体物を構成するものであっても同様の作用効果が得られる。そして、この立体物としては、例えば、球体、ラグビーボール状体、立方体、あるいは、薄肉筒体、薄肉管などがある。
【発明の効果】
【0010】
上記の説明からも明らかなように本発明は、材質が相違する二種類の薄板部材を接合する方法であって、前記二種類の薄板部材における接合する部分に相互に係合可能な係合部分を形成し、これら2個の係合部分を係合させたのち、係合部分にショットを所定の条件で投射して前記2個の係合部分のうち少なくとも一方を塑性流動させ、これにより前記係合部分における相互の隙間を充填するから、材質が相違する二種類の薄板部材を容易にして適確に接合することが可能になるなどの優れた実用的効果を奏する。
【実施例1】
【0011】
厚さ1.0mm、幅40〜50mmのステンレス鋼薄板と厚さ1.0、幅40〜50mmの純アルミニウム薄板の接合部分を、図1に示したように、キー溝の断面形状に類似した凹部と、キーの断面形状に類似した凸部とに切削によって形成し、これら凹・凸部を係合させたのち、凹・凸部に投射圧力0.6MPa、投射時間60秒で平均粒径0.1mmの鉄鋼製ショットを投射して凹・凸部を塑性流動させ、これにより凹・凸部の相互の隙間を充填してステンレス鋼薄板部材とアルミニウム薄板部材を接合する。そして、こうして接合した薄板部材の引張り強さを引張り試験機(インストロン社製、50kN容量)により測定したところ、引張り強さは0.8kg/mm2であった。
【実施例2】
【0012】
厚さ1.0mm、幅40〜50mmの純アルミニウム薄板と厚さ1.0、幅40〜50mmの純銅薄板の接合部分を、実施例1と同様にして凹部と凸部とに形成し、これら凹・凸部を係合させたのち、凹・凸部に投射圧力0.6MPa、投射時間60秒で平均粒径0.1mmの鉄鋼製ショットを投射して凹・凸状部を塑性流動させ、これにより凹・凸状部における相互の隙間を充填して純アルミニウム薄板と純銅薄板を接合する。そして、接合した薄板部材の引っ張り強さを引張り試験機により測定したところ、引張り強さは1.1kg/mm2であった。
【実施例3】
【0013】
厚さ1.0mm、幅40〜50mmの軟鋼薄板と厚さ1.0、幅40〜50mmの純アルミニウム薄板の接合部分を、実施例1と同様にして凹部と凸部とに形成し、これら凹・凸部を係合させたのち、凹・凸部に投射圧力0.6MPa、投射時間30〜180秒で平均粒径0.1mmの鉄鋼製ショットを投射して凹・凸部を塑性流動させ、これにより凹・凸部の相互の隙間を充填して軟鋼薄板と純アルミニウム薄板を接合する。そして、接合した薄板部材の引っ張り強さを引張り試験機により測定したところ、引張り強さは1.0kg/mm2であった。
【実施例4】
【0014】
実施例1において、凹部における凸部の外側面と相対応する内側面を、図2に示したように、奥広がりのテーパ状(a)およびノッチ状(b)にそれぞれ形成し、これら凹・凸部を係合させたのち、凹・凸部に投射圧力0.6MPa、投射時間60秒で平均粒径0.1mmの鉄鋼製ショットを投射して凹・凸部を塑性流動させ接合する。そして、接合した薄板部材の引っ張り強さを引張り試験機により測定したところ、より大きい引張り強さを得ることができた。
【実施例5】
【0015】
厚さ2.0mm、幅40〜50mmのアクリル樹脂薄板と厚さ2.0、幅40〜50mmの純アルミニウム薄板の接合部分を、実施例1と同様にして凹部と凸部とに形成し、これら凹部と凸部を係合させたのち、特に純アルミニウム薄板の凹・凸部に投射圧力0.6MPa、投射時間60秒で平均粒径0.1mmの鉄鋼製ショットを投射して純アルミニウム薄板の凹・凸部を塑性流動させ、これにより凹・凸部の相互の隙間を充填してアクリル樹脂薄板と純アルミニウム薄板を接合する。そして、接合した薄板部材の引っ張り強さを引張り試験機により測定したところ、引張り強さは0.4kg/mm2であった。
【実施例6】
【0016】
直径30mm、肉厚1.0mmであるステンレス円管と純アルミニウム円管の接合部分を、実施例1と同様にして凹部と凸部とに形成し、これら凹・凸部を係合させたのち、凹・凸部に投射圧力0.6MPa、投射時間60秒で平均粒径0.1mmの鉄鋼製ショットを投射して凹・凸部を塑性流動させ、これにより凹・凸部の相互の隙間を充填してステンレス円管と純アルミニウム円管を接合する。そして、接合した薄板部材の引っ張り強さを引張り試験機により測定したところ、引張り強さは0.8kg/mm2であった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明における2種類の薄板材料の接合の原理について、一つの実施例を説明するための説明図である。
【図2】本発明における2種類の薄板材料の接合の原理について、他の実施例をを説明するための説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材質が相違する二種類の薄板部材を接合する方法であって、
前記二種類の薄板部材における接合する部分に相互に係合可能な係合部分を形成し、
これら2個の係合部分を係合させたのち、係合部分にショットを所定の条件で投射して前記2個の係合部分のうち少なくとも一方を塑性流動させ、
これにより前記係合部分における相互の隙間を充填することを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の薄板部材の接合方法において、
前記係合部分は、一方が略蟻溝の断面形状に類似した凹部と他方がその挿入物の断面形状に類似した凸部とで、または/および、一方がスプラインの断面形状に類似した凹部と他方がキーの断面形状に類似した凸部とで構成したことを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項3】
請求項2に記載の薄板部材の接合方法において、
前記凹部における前記凸部の外側面と相対応する内側面を、奥広がりのテーパ状またはノッチ状に形成したことを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の薄板部材の接合方法において、
前記二種類の薄板部材は硬さが相違することを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の薄板部材の接合方法において、
前記二種類の薄板部材のうち少なくとも一方が延性または/および展性を有していることを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の薄板部材の接合方法において、
前記二種類の薄板部材の厚さが0.1〜2.0mmであることを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の薄板部材の接合方法において、
粒径0.05〜2.00mmのショットを投射圧力0.4〜0.8MPaで前記係合部分に投射することを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の薄板部材の接合方法において、
前記係合部分にショットを投射するに当たり、この係合部分の近傍部分以外の部分をマスキングすることを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の薄板部材の接合方法において、
前記薄板部材は、立体物を構成するものであることを特徴とする薄板部材の接合方法。
【請求項10】
請求項9に記載の薄板部材の接合方法において、
前記立体物は、薄肉筒体または薄肉管であることを特徴とする薄板部材の接合方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−55493(P2008−55493A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238525(P2006−238525)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(505086299)
【Fターム(参考)】