説明

薄片状物質及び製法

【課題】本発明は、簡単かつ効率的に、薄片径の揃った、また、表面が平坦な薄片状物質を得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】有機金属化合物を含み微粒子を分散させた塗布液を表面粗さRaが60〜200nmである基材上に塗布し、該基材を乾燥することで、基材上に前記微粒子を含む有機金属化合物由来の薄膜体を形成し、前記乾燥工程中、及び/または、乾燥工程後に、前記薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として前記薄膜体にクラックを生じせしめた後に、前記基材から薄膜体を剥離すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料、インキ、化粧料、プラスチック、フィルム等に粒子として含有される薄片状物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属化合物を含む溶液を出発原料とし、これを基材に塗布し、乾燥させて薄膜化し、その後、それを基材から剥離、焼成して、薄片状物質を得る方法が知られている。例えば、特許文献1、2では、シリコンアルコキシドを含む溶液から薄片状物質が得られている。
【0003】
上記の製法で得られた薄片状物質は、適切な大きさに加工された後、塗料、インキ、化粧料、プラスチック、フィルム等に粒子として含有される。また必要によっては薄片状物質の表面に他の材料が被覆される。例えば、表面がニッケル合金や鉄合金等の金属で被覆された薄片状物質(フレーク状物質)を含有する塗料は、強い光輝感(キラキラ感)のある塗装面を形成することができるとされている(例えば、特許文献3、4)。
【0004】
当該薄片状物質は、薄片の大きさ(以降「薄片径」と記載する)や、薄片径と厚みの比を制御されることにより、薄片状物質を分散してなる物品に、独特の光輝感を付与せしめる。
【0005】
基材から剥離した薄片状物質の薄片径を制御するには、薄片状物質の粉砕・分級をすることが必要である。しかし、薄片状物質は脆く割れやすい性質であり、かつ基材から剥離した状態では薄片径が揃っていないため、適切な粉砕・分級の条件の範囲が狭く、制御が難しい。また、粉砕工程において微粉が発生し、該微粉の存在により薄片状物質を分散してなる物品の光輝性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平9−110452号公報
【特許文献2】特許第2982352号
【特許文献3】特開平5−001248号公報
【特許文献4】特開平5−179174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薄片状物質を分散してなる物品の光輝感は、薄片状物質表面に被覆される他の材料により影響を受けるだけなく、当該薄片状物質の薄片径や表面が平坦であることなどの形状によっても影響を受ける。特に、薄片状物質を分散してなる物品に高い光輝感を得られるようにするためには、薄片径が揃っていることが好ましい。また、表面が平坦であることが好ましい。本発明は、簡単かつ効率的に、薄片径の揃った、また、表面が平坦な薄片状物質を得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における薄片状物質の製造方法では、有機金属化合物を含み微粒子を分散させた塗布液を表面粗さRaが60〜200nmである基材上に塗布し、該基材を乾燥することで、基材上に前記微粒子を含む有機金属化合物由来の薄膜体を形成し、前記乾燥工程中、及び/または、乾燥工程後に、前記薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として前記薄膜体にクラックを生じせしめた後に、前記基材から薄膜体を剥離することを特徴とする。
【0008】
前記微粒子またはその近傍を起点としてクラックが発生することにより、前記薄膜体を基材から剥離しやすくなり、さらに剥離した時点で著しく薄片径が揃った、また、表面が平坦な薄片状物質が得られる。
【0009】
前記基材の表面粗さRaが60〜200nmであることにより、微粒子またはその近傍を起点としてクラックが発生した後で、前記薄膜体が該基材表面に密着せず、剥離しやすい。したがって、前記薄膜体を回収する際に、前記基材から該薄膜体を物理的に剥がし取る必要がないため、著しく薄片径が揃った、また、表面が平坦な薄片状物質を得ることができる。Raが60nm未満であると、前記薄膜体が必要以上に均一となり、クラックが発生しない、またはクラックが発生しても非常に細かいものとなり、薄片状物質の回収が困難になるといった問題が生じる。Raが200nmよりも大きいと、基材の凸凹が薄膜体に転写されるため、得られる薄片状物質の平坦性が悪くなり、好ましくない。
【0010】
前記微粒子は、平均粒径が1〜100nmであることが好ましい。微粒子の平均粒径が1nm未満の場合、該微粒子またはその近傍を起点としてクラックが発生しない、または発生し難くなり、得られる薄片状物質の薄片径がばらつきやすくなるため好ましくない。一方、微粒子の平均粒径が100nmより大きいと、薄片状物質が脆くなりやすいため、微粉が発生しやすくなり、その結果、薄片径がばらつきやすくなるため好ましくない。前記微粒子の平均粒径は10〜80nmであるとより好ましい。
【0011】
前記塗布液中の微粒子の含有量は0.01〜5質量%が好ましい。0.01質量%未満であると、該微粒子またはその近傍を起点として発生するクラックが、前記薄膜体において均質に発生し難くなり、得られる薄片状物質の薄片径がばらつきやすくなるため好ましくない。一方、5質量%より多いと、得られる薄片状物質が脆くなりやすいため、微粉が発生しやすくなり、その結果、薄片径がばらつきやすくなったり、基材からの薄膜体の剥離性が悪くなったりする傾向があるため好ましくない。前記微粒子の塗布液中の含有量は0.02〜1質量%であるとより好ましく、0.02〜0.5質量%であるとさらに好ましい。
【0012】
前記有機金属化合物は、金属アルコキシド、金属アセトナート、金属カルボキシド、金属アシレート、金属キレート、及びそれらが加水分解したもの、並びにそれらが一部縮合したものからなる群から選ばれる少なくとも一つからなることが好ましい。また、加水分解、縮合を行うものであれば他の化合物を用いることも可能である。
【0013】
前記微粒子またはその近傍を起点としてクラックが発生することにより、前記薄膜体中の応力緩和が促進され、反りが小さい平坦な薄片状物質が得られる。
【0014】
薄片状物質の表面が平坦であると、例えば塗料に含有させて用いた場合、より効率的に薄片状物質で被塗装表面を被覆することができる。平坦な薄片状物質と平坦でない(ひずみが大きい)薄片状物質を同じ量(質量)用いて被塗装表面を被覆する場合、平坦な薄片状物質の方がより広い面積を被覆することができるためである。従って、薄片状物質の平坦度の値は小さいことが好ましく、該平坦度が0.5μm以下、より好ましくは0.4μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下が好ましい。0.5μm超では、前記の被覆の効率の面で不利であり、また、薄片状物質の表面の凹凸により、該薄片状物質に金属等を被覆した場合に被覆面が凹凸になり、高い光輝感を得にくくなったり、被覆に用いる金属等の原料の使用量が多くなったりするため好ましくない。また、前記の薄片状物質の平坦度が小さいと、入射した光が乱反射しにくくなるので、例えば、該薄片状物質に赤外線反射率の高い物質を被覆すると、赤外線反射性優れた塗料を得ることができる。
【0015】
前記平坦度の値は小さいことが好ましいが、薄片状物質の表面に被覆層を形成する際、アンカー効果による当該被覆層の薄片状物質への付着力向上を考慮すると、平坦度の下限は0.05μmとしてもよい。尚、本発明では、平坦度は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて薄片状物質の断面の任意の箇所において、薄片状物質の断面に沿うように10μmのスケールバーを接して、スケールバーと薄片状物質の表面の凹凸によるひずみの最大値で表した。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単かつ効率的に薄片径の揃った薄片状物質の製造ができるようになるため、薄片状物質の薄片径を揃えるための後工程(粉砕や分級など)が必要なくなる、あるいは、該後工程の工数を低減することが出来る。また、平坦な薄片状物質を得ることができ、薄片状物質を分散してなる物品の光輝感や反射特性を改善する上で好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の薄片状物質の好適な製造方法は、
有機金属化合物を含み微粒子を分散させた塗布液を調製する工程、
塗布液を表面粗さRaが60〜200nmである基材上に塗布する工程、
基材を乾燥する工程、
基材から薄膜体を剥離する工程
を有する。
【0018】
有機金属化合物を含み微粒子を分散させた塗布液を用いることにより、基材の乾燥工程中、及び/または、乾燥工程後に、前記微粒子を含む有機金属化合物由来の薄膜体中のクラックの発生を制御することができる。
【0019】
前記有機金属化合物は乾燥により収縮するものである一方、前記微粒子は乾燥によりほとんど収縮しないものであるため、両者を含んで形成された前記薄膜体の乾燥工程では、収縮率の違いにより微粒子またはその近傍に応力が集中し、基材の乾燥工程中、及び/または、乾燥工程後に、該部分を起点として前記薄膜体にクラックを発生させることができる。
【0020】
さらに、前記微粒子を均一に分散させた塗布液を用いることで、該微粒子を薄膜体中に均一に存在させることができるため、該薄膜体において一定の間隔で起点を有するクラックを発生させることができる。
【0021】
前記微粒子は、平均粒径が1〜100nmであれば特に限定はされないが、シリカ、チタニア、ジルコニア等の酸化物微粒子やポリスチレン、ポリエチレン等の有機物微粒子が好ましい。得られた薄片状物質を焼結させる場合には、溶液中の有機金属化合物から得られる薄片状物質と同じ組成の微粒子、または焼結により十分蒸発する微粒子が好ましいが、使用する目的によってはその限りではない。また、焼結の際に前記薄片状物質内で有機金属化合物由来の成分と反応するような微粒子を用いることにより、焼結で薄片状物質の組成を変化させることも可能である。
【0022】
また、前記微粒子は、分散性を高めるため表面処理をされていても良い。例えばシリカ微粒子やポリスチレン微粒子の官能基修飾が考えられる。また、前記微粒子はコロイド状の液体として前記塗布液に混合されても良い。例えばシリカゾルやチタニアゾル等が挙げられる。また、前記微粒子を均一に分散させるために前記塗布液中に、界面活性剤などを添加しても良い。例えばポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0023】
前記有機金属化合物は、加水分解、縮合を行うものであれば特に限定はされないが、金属アルコキシド、金属アセトナート、金属カルボキシド、金属アシレート、金属キレートなどは前記薄膜体の成膜がしやすいため好ましい。具体的には、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、タンタル、リン、ホウ素などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、アセチルアセトナート、エチルアセトアセテート、酢酸塩等が、単体あるいは混合体として用いられる。また、チタン、亜鉛、ジルコニウム、タンタルの金属アルコキシド、金属アセトナート、金属カルボキシド、金属アシレート、金属キレートのうち1種以上を前記有機金属化合物として用いて得られた薄片状物質は、屈折率が高くなり、より優れた光輝感を付与し、さらに紫外線吸収特性を持たせることができるため好適である。
【0024】
また、前記塗布液は溶媒を含有しても良い。該溶媒は、前記有機金属化合物を溶解するものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類やアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類及びこれらの混合系が好ましい。
【0025】
前記塗布液の調製時に、前記有機金属化合物の加水分解を行う場合、塗布液中に水を添加する必要がある。水の添加量は前記有機金属化合物1モルに対して5〜100モルが好ましい。
【0026】
また、前記有機金属化合物の加水分解、及び縮合反応を促進するために、前記塗布液に触媒を添加しても良い。該触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や酢酸、蟻酸、フタル酸、コハク酸、クエン酸等の有機酸が好ましい。
【0027】
前記有機金属化合物を含み微粒子を分散させた塗布液を調製する工程では、有機金属化合物や微粒子などを同時に混合しても良いし、有機金属化合物をあらかじめ加水分解、または部分的に縮合させてから微粒子などと混合しても良い。
【0028】
本発明で用いる基材は、基材表面の表面粗さRaが60〜200nmであるもので、加熱温度に耐えられる材質であればよく、また、剛直な基材でもフレキシブルなフィルム状やシート状の基材でもよい。具体的には自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラス、ステンレス鋼ならびにアルミニウム板、ニッケル板等の金属基板、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、塩化ビニル等の樹脂基板ならびに樹脂フィルムやシート等を用いることができる。
【0029】
前記塗布液の基材への塗布手段としては、スピンコート、ディップコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知手段を採用できる。
【0030】
前記基材を乾燥する工程では、約20℃の室温で放置又は800℃までの加熱で乾燥させ、基材上に薄膜体を形成する。該基材の乾燥工程中、及び/または、乾燥工程後に、微粒子またはその近傍を起点として前記薄膜体にクラックが発生する。
【0031】
前記薄膜体は乾燥中に収縮することで剥離している部分があるが、薄片状物質を得るために基材からの該薄膜体の剥離を促す方法として、基材に振動を与えたり、基材に気体を吹きかけたり、吸引したり、前記乾燥後に急冷したりして剥離させた後に収集してもよい。前記方法により剥離された剥離物、すなわちクラックが発生した薄膜体は、薄片径が揃った薄片状物質として回収される。
【0032】
本発明で得られる薄片状物質の厚さは、塗布液中の固形分濃度や塗布条件で調整可能であり、薄片状物質の薄片径は、塗布液中の微粒子の平均粒径や含有量によって調整可能である。
【0033】
また、薄片状物質は薄片径が揃っているほどより優れた光輝感を付与することができるため、該薄片径のばらつき、すなわち標準偏差が小さいほど好ましい。標準偏差を薄片径の平均値で割ったものを変動係数とし、変動係数は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、さらに該値を限りなく0に近づけることが理想的である。
【0034】
また、薄片状物質は平坦であるほどより優れた光輝感を付与することができるため、剥離の際に生じる該物質の反りが小さいほど好ましい。
【0035】
また、前記薄片状物質表面に金属を被覆することができる。被覆する金属としては、銀、金、銅、白金、ニッケル、コバルト、クロム等を用いることができる。中でも、銀は、金属の中で最も反射率が高く、より優れた光輝感を付与できるため好適である。さらに金属で被覆された薄片状物質は、反射率が高くなり、それを含有する塗料に赤外線反射性等の反射特性を持たせることができる。被覆の方法としては、一般的に知られている方法であればどのような方法を用いてもよく、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法または無電解メッキ法のように析出させる金属を含む溶液に薄片状物質を浸漬させた後に還元剤を混合して薄片状物質表面に金属を析出させる方法など、公知の方法を利用することができる。
【0036】
また、前記析出させる金属を含む溶液には、基材への塗布時の表面張力を調整するために界面活性剤を添加することが好ましい。該界面活性剤としては、一般的な陰イオン系および非イオン系の界面活性剤を利用できる。例えばフッ素系の界面活性剤やポリエーテル変性オルガノシロキサン等が考えられる。
【0037】
得られた薄片状物質を焼結させることにより、薄片状物質の強度を高める場合、焼結方法に特に制限はない。焼結温度および時間は、薄片状物質が強固になる条件が望ましく、通常は300〜1200℃で5分間〜3時間加熱する。使用する目的によっては、乾燥後の焼結を行わなくてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
[薄片状物質の薄片径の評価]
本発明において得られた薄片状物質は、厚みが非常に薄くほぼ均一であることを鑑みて、該物質の厚み方向と垂直な面に対する光学顕微鏡写真から面積を測定し、その二乗根として薄片径を定義した。該物質100枚を測定することで、薄片径の平均値とその標準偏差、変動係数を得た。
【0040】
[薄片状物質の平坦度の評価]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて薄片状物質の断面の任意の箇所において、薄片状物質の断面に沿うように10μmのスケールバーを接して、スケールバーと薄片状物質の表面の凹凸によるひずみの最大値で表した。
【0041】
実施例1
市販のシリコンテトラエトキシド100mlに、100mlのエタノール、1規定の硝酸50mlを加え、市販のコロイダルシリカ(スノーテックスO、シリカ含有量20質量%、平均粒径14nm、日産化学製)を1ml添加した。溶液中の微粒子の含有量は0.1質量%である。上記溶液を室温で12時間攪拌し、塗布液とした。該塗布液に基材として表面粗さRaが80nmであるステンレス基板を浸漬し、30cm/minの速度で引き上げた、大気中に放置して乾燥した後、45℃の乾燥炉に該基板を入れたところ、乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。該剥離物を吸引回収して得た薄片状物質の薄片径を光学顕微鏡で調べたところ、薄片径の平均値は50μm、標準偏差は10μm、変動係数は0.2であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.2μmであった。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2
塗布液中の微粒子を、市販のポリスチレン微粒子(エスタポールK007、ポリスチレン含有量10質量%、平均粒径50nm、メルク社製)とし、溶液中の微粒子の含有量を0.04質量%とした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は60μm、標準偏差は10μm、変動係数は0.17であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.3μmであった。結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
基材として表面粗さRaが150nmであるステンレス基板を用いた以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は40μm、標準偏差は10μm、変動係数は0.25であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.4μmであった。結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
塗布液中の微粒子の平均粒径を、70nmとした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は80μm、標準偏差は20μm、変動係数は0.25であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.3μmであった。結果を表1に示す。
【0046】
実施例5
塗布液中の微粒子の含有量を、0.05質量%とした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は60μm、標準偏差は10μm、変動係数は0.17であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.4μmであった。結果を表1に示す。
【0047】
実施例6
塗布液中の微粒子の含有量を、4質量%とした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は40μm、標準偏差は20μm、変動係数は0.5であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.2μmであった。結果を表1に示す。
【0048】
実施例7
塗布中の微粒子の平均粒径を、5nmとした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は50μm、標準偏差は20μm、変動係数は0.4であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.3μmであった。結果を表1に示す。
【0049】
実施例8
塗布液中の微粒子の平均粒径を、90nmとした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は60μm、標準偏差は30μm、変動係数は0.5であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.3μmであった。結果を表1に示す。
【0050】
実施例9
塗布液中の微粒子の含有量を、0.015質量%とした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は70μm、標準偏差は30μm、変動係数は0.43であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.2μmであった。結果を表1に示す。
【0051】
実施例10
塗布中の微粒子の平均粒径を、100nmとした以外は実施例2と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質の薄片径の平均値は80μm、標準偏差は30μm、変動係数は0.38であった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.4μmであった。結果を表1に示す。
【0052】
比較例1
塗布液中に微粒子を添加しないこと以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中及び乾燥工程後に薄膜体にクラック及び剥離は発生しなかった。刷毛を用いて薄膜体をステンレス基板から剥離して薄片状物質を得た。該薄片状物質の薄片径を調べたところ、薄片径の平均値は100μm、標準偏差は80μm、変動係数は0.8であり、薄片径のばらつきが大きかった。また、得られた薄片状物質の平坦度は0.8μmであり反りが大きかった。結果を表1に示す。
【0053】
比較例2
基材として表面粗さRaが20nmであるステンレス基板を用いた以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生したが、クラックサイズが非常に小さく、強固にステンレス基板に付着しており、剥離することはできなかった。結果を表1に示す。
【0054】
比較例3
基材として表面粗さRaが300nmであるステンレス基板を用いた以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。薄片径の平均値が50μm、標準偏差が10μm、変動係数が0.2の薄片状物質が得られたが、該薄片状物質の平坦度は0.7μmであり、平坦性が悪かった。結果を表1に示す。
【0055】
比較例4
塗布液中の微粒子の平均粒径を、120nmとした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質は脆く、回収時に破砕されて微粉が発生し易かった。その結果、薄片状物質の薄片径の平均値は150μm、標準偏差は100μm、変動係数は0.67であり、薄片径のばらつきが大きかった。結果を表1に示す。
【0056】
比較例5
塗布液中の微粒子の含有量を、0.005質量%とした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体にクラックが発生したが、クラックの発生は不均一であり、さらにクラックサイズが非常に小さく、強固にステンレス基板に付着しており、剥離することはできなかった。結果を表1に示す。
【0057】
比較例6
塗布液中の微粒子の含有量を、10質量%とした以外は実施例1と同条件とした。乾燥工程中に薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として該薄膜体に均一にクラックが発生するとともに、該薄膜体の剥離が起こった。得られた薄片状物質は脆く、回収時に破砕されて微粉が発生し易かった。その結果、薄片状物質の薄片径の平均値は30μm、標準偏差は20μm、変動係数は0.67であり、薄片径のばらつきが大きかった。結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を含み微粒子を分散させた塗布液を表面粗さRaが60〜200nmである基材上に塗布し、該基材を乾燥することで、基材上に前記微粒子を含む有機金属化合物由来の薄膜体を形成し、前記乾燥工程中、及び/または、乾燥工程後に、前記薄膜体中の微粒子またはその近傍を起点として前記薄膜体にクラックを生じせしめた後に、前記基材から薄膜体を剥離することを特徴とする薄片状物質の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子の平均粒径が1〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の薄片状物質の製造方法。
【請求項3】
前記塗布液中の微粒子の含有量が0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄片状物質の製造方法。
【請求項4】
前記有機金属化合物が、金属アルコキシド、金属アセトナート、金属カルボキシド、金属アシレート、金属キレート、及びそれらが加水分解したもの、並びにそれらが一部縮合したものからなる群から選ばれる少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薄片状物質の製造方法。
【請求項5】
表面の平坦度が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の薄片状物質の製造方法によって得られる薄片状物質。

【公開番号】特開2011−178649(P2011−178649A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193547(P2010−193547)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】