説明

薄膜の形成方法

【目的】 強誘電性薄膜の配向性を制御できる薄膜形成方法を提供する。
【構成】 白金薄膜14上にBaTiO3 ,SrTiO3 ,BaO,SrO,CeO2 及びMgOの化合物の群の中から選ばれた1種類の化合物又は2つ以上の化合物で配向性制御層16を形成する。その後、該配向性制御層16上にPbZrx Ti1-x 3 層(PZT層)18又はPb1-y Lay (Zr,Ti)O3 層(PLZT層)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、半導体素子に用いる薄膜の形成方法、特にダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)或いは不揮発性メモリに用いられるキャパシタ絶縁膜用強誘電性薄膜の形成に適用して好適な薄膜形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、半導体素子のキャパシタ絶縁膜に用いられる強誘電性薄膜は、誘電率が大きいこと、又強誘電性薄膜に電界を印加することによって不揮発性の残留分極を生じることなどの特性が要求されている。このため、前者の特性を用いてDRAM用セルのキャパシタ面積を微細にすることができ、又後者の特徴を用いて不揮発性メモリに応用できることが期待されている。
【0003】強誘電性薄膜の材料として、近年、PbZrx Ti1-x 3 (PZT)が注目されている。このPZTと電極材料との組み合わせについて様々検討されているがPZT材料は、これが一般に使用されている電極材料例えば金(Au)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)等と反応して共晶を作り易いので、これら材料と組み合わせて使用するのは避けている。このため、現在のところ、PZTと反応しないで使用可能な材料として白金(Pt)が知られており、この白金がPZTと組み合わせて用いられている。また、強誘電性薄膜をDRAMや不揮発性メモリのセルキャパシタ用絶縁膜として用いる場合、微細領域に設けられた白金電極上にPZT膜を形成している。このPZTの薄膜形成方法としては、従来、CVD法、スパッタ法及びゾルゲル法が種々検討されており、この内CVD法がPZT薄膜の電気特性に優れ、微細領域にステップカバレージがよく形成できるという報告がある(MATERIALS RESERCH SOCIETYSYMPOSIUM PROCEEDINGS VOL243、1992、「FERROELECTRIS PbZrx Ti1-x 3 THIN FILMS GROWN BY ORGANOMETALLIC CHEMICAL VAPOR DEPOSITION」、G.J.M.Dormans,M.de Keijser andP.J.van Veldhovn、PP203〜211:以下文献Iという)。
【0004】しかしながら、CVD法を用いて白金薄膜上に形成されたPZT膜には、文献Iの図2の(a)〜(c)のX線ロッキング回折曲線(XRDパタン)(P206参照)に対応する図5の(A)〜(C)からも判断できるように、多数の異なる配向性を有する結晶面が生じている。この図5の(A)〜(C)から理解できるように白金薄膜の(111)面に形成されたPZT膜の配向は、PZTの(111)面の回折ピーク強度が見られず(100)又は(001)及び(101)又は(110)の回折ピーク強度と高次の回折ピーク強度とが混在した状態で現れている。
【0005】この発明の出願人等もCVD法を用いて白金薄膜上にPZT層(但し、亜鉛の組成がx=0として、PbTiO3 層を用いた。)を形成して、PZT層の結晶配向性をX線回折法を用いて調べた。この結果を図4の(I)の曲線に示す。図4の(I)の横軸はX線の反射角(角度)及び縦軸は回折強度(任意の単位)である。この(I)の曲線から理解できるように、PZT層には、PbTiO3 の(111)面dの他にPbTiO3 の(100)面a、(200)面f、(110)面b及び(101)面cが混在していることが観測された。但し、(111)面eは、Siの回折強度である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、一般に強誘電性薄膜の膜厚方向の残留分極の大きさは、薄膜の配向性によって決定されるため、配向性を所定の方向へ揃えるように制御する必要がある。この点、文献Iの白金薄膜上にCVD法によって形成されたPZT膜の結晶配向性は不揃いであり、従って残留分極の大きさを制御できないという問題があった。また、この出願に係わる発明者等が行った追試実験からも文献Iと同様に配向性が不揃いの結果が得られている。
【0007】この発明は、上述した問題点に鑑み行われたものであり、この発明の目的は、強誘電性薄膜の配向性を制御できる薄膜形成方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】この目的の達成を図るため、この発明によれば、白金(Pt)薄膜上にPbZrx Ti1-x 3 層(PZT層)又はPb1-y Lay (Zr, Ti)O3 層(PLZT層)を形成する薄膜形成方法において、前記白金薄膜上にBaTiO3 、SrTiO3 、BaO、SrO、CeO2 及びMgOの化合物の群の中から選ばれた1種類の化合物又は2つ以上の化合物で配向性制御層を形成する工程と、前記配向性制御層上に前記PZT層又は前記PLZT層を形成する工程とを含むことを特徴とする。この発明ではPbZrx Ti1-x 3 層のx組成比率を0≦x<0.95とし、また、Pb1-y Lay (Zr, Ti)O3 層のyの組成比率はZr/Tiの比を1:1として、yは0<y<0.12としてある。このx及びyの組成範囲内でPZT層及びPLZT層は強誘電性を有する薄膜となる。また、PZT層の組成がx=0のときも強誘電性を有する薄膜となる。
【0009】
【作用】上述したこの発明の構成によれば、白金薄膜上にBaTiO3 、SrTiO3、BaO、SrO、CeO2 及びMgOの化合物の群の中から選ばれた1種類の化合物又は2つ以上の化合物で配向性制御層を形成する。この出願に係わる発明者等は、PbZrx Ti1-x 3 (PZTと略称する。)と同様な酸化物であり、かつ格子定数もPZTに近い化合物を種々検討した結果、BaTiO3 の化合物を白金薄膜上に形成すると白金薄膜の結晶配向をそのまま配向性制御層に受け継いで形成できることを実験的に確認した。この結果よりBaTiO3 の化合物と同様な酸化物であって、しかも格子定数も近い値を有するSrTiO3 、BaO、SrO、CeO2 及びMgOの化合物も同様に白金薄膜の配向性制御層として用いて好適であると考えられる。その後、配向性制御層上にPZT層又はPLZT層を形成する。このためPZT層又はPLZT層の結晶配向は、配向制御層の配向性をそのまま反映させることができるため、PZT層又はPLZT層の結晶配向の制御が容易になる。
【0010】
【実施例】以下、各図面を参照してこの発明の薄膜の形成方法につき説明する。尚、図1〜図3は、この発明が理解できる程度に各構成成分の形状、大きさ、及び配置を概略的に示してあるにすぎない。先ず、この発明の薄膜形成方法のとき用いるCVD装置の概略構成を図2及び図3を参照して説明する。
【0011】この発明に用いるCVD装置は、反応炉部分21、排気系統部分31及び供給ガス系統部分43を具えている。更に、反応炉部分21及び排気系統部分31は、反応室20、真空計22、RFコイル24、RF電源26、液体窒素トラップ28、真空ポンプ30、ストップバルブ32及び34、ニードルバルブ36、熱電対38、試料台39及びガス供給口41を具えている。そして、ストップバルブ32及び34、ニードルバルブ36、液体窒素トラップ28及び真空ポンプ30は排気管37に接続してある。また、試料台39上に試料40を搭載する(図2)。
【0012】一方、供給ガス系統部分43は、ニードルバルブ42、44、48、52及び56、ストップバルブ46、50、54、58、60及び62、バブラ64、66、68を具えている。そして、ニードルバルブ42、44、48、52及び56とストップバルブ46、50、54、58、60及び62とは供給ガス管70に接続されている。なお、この実施例では、バブラ64、66及び68の原料をそれぞれTi(DPM)2 (O−iC3 7 2 ガス、Pb(DPM)2 ガス及びBa(DPM)2 ガスとする。
【0013】次に、図1の(A)〜(C)、図2及び図3R>3を参照してこの発明の薄膜形成方法につき説明する。
【0014】試料10としてシリコンウエハーを用いる。このシリコンウエハー10上に熱酸化法によって例えば1000A°(A°の記号はオングストロームを表す)のSiO2 膜12を形成する。更に、SiO2 膜12上にマグネトロンスパッタ法を用いて約700A°程度の白金(Pt)薄膜14を形成する(図1の(A))。尚、ここでは、Siウエハー10とSiO2 膜12を総称して試料13と称する。
【0015】図1の(A)の構造体(試料とも称する。)を反応室20に搬入し、試料台39上に搭載する。次に、真空ポンプ30を用いてバルブ34を開き、液体窒素トラップ28を介して反応室20内を真空に排気する。その後、RFコイルに24にRF電源26から電力を供給して試料台39を誘導加熱する。このとき、RF電力を、試料13(または40)の温度が700℃になるように調節する。また、バブラ64、66及び68と反応室20に至る供給ガス管70を予め250℃に加熱しておく。これは、各バブラから供給される原料ガスがガス管内で析出するのを防止するためである。
【0016】次に、バルブ58及び62を開き、予め一定温度に加熱したバブラ64、68の原料ガスを、ニードルバルブ48、56によって流量調整されたアルゴン(Ar)ガスとともに反応室20に供給する。このとき、ニードルバルブ44及び42を流量調節して酸素ガス及び希釈用Arガスを同時に反応室20に供給し、白金薄膜14上に配向性制御層16を形成する(図1の(B))。この実施例では、配向性制御層16をBaTiO3 の化合物とする。このときBaTiO3 の化合物の成膜条件を以下の通りとする。
【0017】バブラ温度Ba(DPM)2 ガスの温度210℃Ti(DPM)2 (O−iC3 7 2 ガスの温度110℃Arガスの送り出し流量Ba(DPM)2 ガスのとき約600sccmTi(DPM)2 (O−iC3 7 2 ガスのとき約100sccmBaTiO3 層の成膜速度160A°/分(この実施例では、2分間の成膜時間とする。)
酸素ガス流量100sccm(ニードルバルブ44から供給する)
希釈用Arガス流量1300sccm(ニードルバルブ42から供給する)
上述したBaTiO3 の化合物の配向性制御層16(以下、BaTiO3 層という)の膜厚を例えば320A°とする。ただし、BaTiO3 層16の膜厚を好ましくは320A°以上とするのが良い。
【0018】次に、バブラ68のバルブ62を閉じてBa(DPM)2 ガスの供給を停止する。続いて、バルブ60を開いてニードルバルブ52でArガスの流量を調節してバブラ66のPb(DPM)2 ガスを反応室20中に供給する。このときBaTiO3 層16上にPZT層18を形成する(図1の(C))。ただし、この実施例では、PbZrx Ti1 -x3 (PZT)のxの組成をx=0として、PbTiO3 について実験を行った。また、この実施例では、x=0のときのPbTiO3 層もPZT層と称する。このときのPZTの成膜条件は、以下の通りとする。
【0019】バブラ温度Pb(DPM)2 ガスの温度120℃Ti(DPM)2 (O−iC3 7 2 ガスの温度110℃Arガスの送り出し流量Pb(DPM)2 ガスのとき約200sccmTi(DPM)2 (O−iC3 7 2 ガスのとき約100sccmPZT層の成膜速度160A°/分酸素ガス流量100sccm(ニードルバルブ44から供給する)
希釈用Arガス流量1300sccm(ニードルバルブ42から供給する)
上述したPZT層の成膜条件によって、BaTiO3 層16上にPZT層18を形成することができる。このPZT層18の膜厚を約4800A°とする。
【0020】図4は、図1の(A)〜(C)の工程を経て形成された各薄膜層とX線回折ロッキング(XRD)曲線の関係を示している。図4中、横軸に反射角2θの角度を取り、縦軸に回折強度(任意の単位)を取って表している。
【0021】図4の(I)曲線は、既に説明したように従来の方法で白金薄膜上にPZT層(この実施例ではPbTiO3 層(膜厚4800A°))を形成したときの試料のX線回折曲線である(ただし、(I)曲線は従来例の確認のために行った。)。
【0022】上述した説明からも明らかなように、PbTiO3 /Ptの場合、Ptの(111)面e及びPbTiO3 の(111)面dの他にPbTiO3 の(100)面a及び(200)面fあるいは(110)面b、(101)面cが現れている。
【0023】図4の(II)曲線は、白金薄膜上にBaTiO3 層(膜厚4800A°)を形成したときの試料のX線回折ロッキング曲線である。BaTiO3 /Ptの場合、Ptの(111)面hとBaTiO3 の(111)面gの回折ピーク以外はほとんど観測されないことがわかった。
【0024】図4の(III)曲線は、この発明の実施例で形成された白金薄膜上にBaTiO3 層を形成し、更にPbTiO3 層を形成したときの試料のX線回折ロッキング曲線である。PbTiO3 /BaTiO3 /Ptの場合、PbTiO3 の(111)面iとPtの(111)面jが現れているがその他の面はまったく現れていないことがわかる。
【0025】また、PbTiO3 の(111)面iのピーク曲線は、半値巾が4.4度と小さく、Ptの半値巾に比べて大きいもののPtの配向性を受け継いで強い配向性を示していることがわかった。
【0026】Pt薄膜上にPbTiO3 層を形成したとき、なぜPt薄膜の配向性を受け継ぐ膜が形成されず、BaTiO3 層の場合、Pt薄膜の配向性を受け継ぐのかは物理的に解明されていないがPbを含んだ酸化物の特有な現象であると考えられる。
【0027】上述した実施例から理解できるように、Pt薄膜上に予めBaTiO3 の化合物で配向性制御層を形成し、その後PZT層を形成することによってPt薄膜の配向性を受け継いだPZT層を形成できることがわかった。
【0028】また、この実施例で配向性制御層としてBaTiO3 、SrTiO3 等の化合物を選択した理由については、以下の通りである。■PZTと同じ酸化物であること。■PZTに格子定数が比較的近い化合物であること。なお、PZT及び代表的な化合物の格子定数を表1に示す。表1では、PZT層の格子定数はx組成の比例配分によって変化するため、PbTiO3 とPbZrO3 の化合物の格子定数を表示してある。従って、PZTの格子定数は、PbTiO3 とPbZrO3 の化合物の格子定数に近い値となることが予想される。
【0029】
【表1】


【0030】また、この実施例では、配向性制御層にBaTiO3 を用いたが、何等この材料に限定されるものではなく、例えばチタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化セレン(CeO2 )及び酸化マグネシウム(MgO)の化合物についてもBaTiO3 の場合と同様な結果が得られることが期待できる。
【0031】また、この実施例では、配向性制御層にBaTiO3 層を一層にして用いたが、上述したいずれかの化合物で、しかも格子定数が近い値であるので、二種類以上の上述した化合物で配向性制御層を形成して用いても良い。
【0032】また、この実施例では、配向性制御層上にPZT層を用いた例につき説明したがPZT層の代わりにPLZT層を用いてもPZT層と同様な配向性制御が可能である。
【0033】また、この発明の実施例では、Pt薄膜上に形成する配向性制御層及びPZT層の形成の際、CVD法を用いたがなんらこの方法に限定されず、スパッタ法、IB蒸着法、スピンコート法及びレーザアブレーション法のいずれの方法をもちいて薄膜を形成しても良い。
【0034】
【発明の効果】上述した説明からも明らかなように、この発明の薄膜の形成方法によれば、白金薄膜上に配向性制御層を形成してあるので、この配向性制御層上に形成されるPZT層又はPLZT層の結晶配向を一定の方向に揃えることができる。従って、PZT層又はPLZT層の結晶配向を容易に制御できるので、残留分極の大きさを制御することができる。従って、この実施例で形成された強誘電性薄膜をダイナマミックランダムアクセスメモリ(DRAM)或いは不揮発性メモリのキャパシタ絶縁膜用として用いた場合、優れた電気的特性を発揮することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)〜(C)は、この発明の薄膜形成方法を説明するための工程図である。
【図2】この発明の形成時に用いる薄膜形成装置の反応室及び排気系統を説明するために供する装置構成図である。
【図3】この発明の形成時に用いる薄膜形成装置のガス供給系統を説明するために供する装置構成図である。
【図4】(I)曲線は、従来のPbTiO3 /PtのX線回折ロッキング曲線であり、(II)曲線は、この発明の薄膜形成過程の途中で形成されるBaTiO3 /PtのX線回折ロッキング曲線、(III)曲線は、この発明の実施例のPbTiO3 /BaTiO3 /PtのX線回折ロッキング曲線である。
【図5】(A)〜(C)は、従来のPZT/Pt構造のPZT層の組成を変化させたときのX線回折ロッキング曲線図である。
【符号の説明】
10:シリコンウエハー
12:SiO2
13:試料
14:Pt薄膜
16:配向性制御層
18:PZT層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 白金(Pt)薄膜上にPbZrx Ti1-x 3 層(PZT層)又はPb1-y Lay (Zr, Ti)O3 層(PLZT層)を形成する薄膜形成方法において、前記白金薄膜上にBaTiO3 、SrTiO3 、BaO、SrO、CeO2 及びMgOの化合物の群の中から選ばれた1種類の化合物又は2つ以上の化合物で配向性制御層を形成する工程と、前記配向性制御層上に前記PZT層又は前記PLZT層を形成する工程とを含むことを特徴とする薄膜の形成方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開平7−142600
【公開日】平成7年(1995)6月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−283723
【出願日】平成5年(1993)11月12日
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)