説明

薄膜の製造方法及び電子放出素子の製造方法

【課題】電子放出素子の製造方法において、基板上に、薄膜の形成成分を含む液体を付与し、乾燥して薄膜前駆体とし、この薄膜前駆体を加熱処理して薄膜を形成するに際し、得られる薄膜の周縁部分の形状及び厚さを整えることができる薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】基板1上にインクジェット法により導電性薄膜の形成成分を含む液体を付与する。乾燥処理を行い、導電性薄膜前駆体17’が形成される。この導電性薄膜前駆体に吸湿させ膨潤させることにより整形され導電性薄膜前駆体17となる。この後加熱し有機成分を除去し導電性膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子放出素子、有機EL素子などにおける薄膜状構成部材や薄膜状カラーフィルターなどの製造に用いることができる薄膜の製造方法及びこれを用いた電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子放出素子の製造方法として、例えば特許文献1に示されるように、インクジェット法を利用した方法が知られている。
【0003】
即ち、基板上の対向する素子電極間に、インクジェット法を用いて、導電性薄膜の形成成分を含む液滴を付与し、乾燥させて導電性薄膜前駆体とする。その後、この導電性薄膜前駆体に加熱処理(焼成処理)を施して、素子電極間に跨る導電性薄膜を形成する工程を有する製造方法が知られている。この導電性薄膜形成後は、素子電極間に、フォーミングと称される通電処理を施すことで、導電性薄膜に電子放出部である亀裂を形成する。亀裂形成後に素子電極間に電圧を印加すると、亀裂又は亀裂付近から電子を放出させることができる。通常、フォーミング後に活性化処理や安定化処理を施して、表面伝導型電子放出素子を得ることができる。
【0004】
また、例えば特許文献2に示されるように、上記液滴付与からの導電性薄膜の製造を伴う電子放出素子の製造方法において、液滴の付与を湿度が70%以下に保持された雰囲気下にて行うことが知られている。これにより、液滴のにじみによる液滴の径のばらつきを抑制し、得られる導電性薄膜の均一性、再現性の向上を図ることができるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−69334号公報
【特許文献2】特開平10−3851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基板上に付与された液滴は、表面張力によって中央部が盛り上がり、周縁部に向かって薄くなる断面形状をなす。この液滴から得られる導電性薄膜の断面形状も、周縁部が薄くなった形状となり、通電処理によって電子放出部となる亀裂を形成する際に、周縁部の極薄領域では亀裂が形成されにくい問題がある。つまり、亀裂が導電性薄膜を完全に横断して形成されず、亀裂の端縁にこの亀裂が形成されない領域が残されやすい問題がある。この亀裂が形成されない領域は、電子放出に寄与しない無効な漏れ電流(リーク電流)を増大させることになる。このリーク電流の増大は、このような電子放出素子を用いて画像表示装置を構成した場合に、駆動回路への負荷を増大させ、電圧降下による画像欠陥の原因となる。
【0007】
特許文献2の技術は、液滴の形状を整えて、均一な形状の導電性薄膜を再現性よく得られるようにするものではあるが、主に平面形状を整えるものであり、上記液滴から得られる導電性薄膜の断面形状を整えるものではない。従って、上記導電性薄膜の周縁部の極薄領域では亀裂が形成されにくいという問題を根本的には解決することができない。
【0008】
また、上記周縁の極薄領域は、電子放出素子における導電性薄膜以外の薄膜においても、微視的な形状のバラツキを生じさせているものであって、種々の問題を引き起こす可能性がある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、基板上に、薄膜の形成成分を含む液滴を付与し、乾燥後、加熱処理をして、前記基板上に薄膜を形成するに際し、得られる薄膜の周縁部分の形状及び厚さを整えることができるようにすることを目的とする。また、本発明は、併せて、リーク電流の少ない電子放出素子を容易に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的のために、本発明は、基板上に、薄膜の形成成分を含む液体を付与し、乾燥して薄膜前駆体とし、該薄膜前駆体を加熱処理して薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記加熱処理を、薄膜前駆体に吸湿させた後に行うことを特徴とする薄膜の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、基板上に、導電性薄膜の形成成分を含む液体を付与し、乾燥して導電性薄膜前駆体とし、該導電性薄膜前駆体を加熱処理して導電性薄膜を形成し、該導電性薄膜に電子放出部を形成する電子放出素子の製造方法であって、前記加熱処理を、前記導電性薄膜前駆体に吸湿させた後に行うことを特徴とする電子放出素子の製造方法を提供するものでもある。
【0012】
尚、本発明において吸湿させるとは、空気中に含まれている、水や有機化合物を吸収させることである。また、上記有機化合物としては、薄膜の形成成分を含む液体に用いられた有機溶剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体を乾燥させた薄膜前駆体に、吸湿させるだけで、得られる薄膜周縁に生じやすい極薄領域を大幅に減少させることができる。従って、微視的にも形状の整った薄膜を得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明を有機EL素子における有機発光薄膜やカラーフィルターにおける光透過薄膜の形成に用いると、得られる薄膜間での形状ばらつきが大幅に低減されて、当該薄膜間での発光特性や光透過特性のばらつきを大幅に低減させることができる。
【0015】
また、本発明を電子放出素子の電子放出薄膜の形成に用いると、得られる薄膜間での形状ばらつきが大幅に低減されて、当該薄膜間での電子放出特性のばらつきを大幅に低減させることができる。
【0016】
また、上述のような電子放出部の形成に通電処理を伴う電子放出素子の導電性薄膜の形成に用いると、得られる導電性薄膜周縁に生じやすい極薄領域を大幅に減少させることができる。そして、これに起因する亀裂が形成されない領域の発生を防止することができるので、リーク電流が少ない電子放出素子を得ることができる。従って、本発明で得られる電子放出素子を画像表示装置に用いると、駆動回路への負荷が少なく、電圧降下による画像欠陥を生じにくい画像表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、表面伝導型電子放出素子の製造における導電性薄膜の形成に用いる場合を例に本発明を説明する。
【0018】
図1は、本発明によって製造することができる表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式図で、図1(a)は平面図、図1(b)は(a)におけるA−A’断面図である。
【0019】
上記図1(a),(b)において、1は基板、2及び3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部(亀裂)である。
【0020】
基板1としては、石英ガラス、Naなどの不純物含有量を低減させたガラス、青板ガラス、青板ガラスにスパッタ法などによりSiO2を積層した積層板、アルミナなどのセラミックス板などを用いることができる。
【0021】
基板1上に設けられる素子電極2,3の材料としては、一般的な導電性材料が用いられる。例えば、Ni、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pdなどの金属あるいはそれらの合金、Pd、As、Ag、Au、RuO2、Pd−Agなどの金属が挙げられる。また、金属酸化物とガラスなどから構成される印刷導体や、In23−SnO2などの透明導電体、ポリシリコンなどの半導体材料などから適宜選択することもできる。
【0022】
素子電極2,3の間隔、素子電極2,3の長さ、導電性薄膜4の形状などは、得られる電子放出素子の用途などに応じて適宜設計される。
【0023】
素子電極2,3の間隔は、好ましくは数千オングストロームから数百μmであり、より好ましくは素子電極2,3間に印加する電圧などを考慮して1μmから100μmの範囲である。また、素子電極2,3の長さは、好ましくは電極の抵抗値、電子放出特性を考慮して、数μmから数百μmの範囲である。さらに、素子電極2,3の膜厚は、好ましくは数百オングストロームから数μm、より好ましくは100Åから1μmの範囲である。
【0024】
なお、図1においては、基板1上に素子電極2,3、導電性薄膜4の順に順次積層したものとなっているが、基板1上に導電性薄膜4、素子電極2,3の順に積層したものとすることもできる。
【0025】
導電性薄膜4は、後述する本発明の方法によって製造される導電性を有する薄膜である。この導電性薄膜4を構成する材料としては、例えば、Pd、Pt、Ru、Ag、Au、Ti、In、Cu、Cr、Fe、Zn、Sn、Ta、W、Pbなどの金属、PdO、SnO2、In23、PbO、Sb23などの金属酸化物を挙げることができる。また、HfB2、ZrB2、LaB6、CeB6、YB4、GdB4などの金属硼化物、TiN、ZrN、GfNなどの金属窒化物、TiC、ZrC、GfC、TaC、SiC、WCなどの金属炭化物、Si、Geなどの半導体、カーボンなどを用いることもできる。
【0026】
電子放出部5は、導電性薄膜4の一部に形成された高抵抗の亀裂であり、導電性薄膜4の膜厚、膜質、材料、通電フォーミングなどの製法に依存して形成される。電子放出部5の内部には、1000Å以下の粒径の導電性微粒子が含まれることもある。この導電性微粒子は、導電性薄膜4を構成する材料の元素の一部、あるいは全ての元素と同様の元素を含有するものとなる。また、電子放出部5及びその近傍の導電性薄膜4には、炭素又は炭素化合物が含まれることもある。
【0027】
次に、上記表面伝導型電子放出素子における導電性薄膜4の製造方法を図2及び図3に基づいて説明する。
【0028】
図2は、導電性薄膜の形成成分を含む液体をインクジェット法により基板上へ付与する液体付与機構の説明図、図3は基板上に付与した液体を乾燥した導電性薄膜前駆体に吸湿させる吸収装置の説明図である。
【0029】
図2において、6は、吐出ノズル7を備えた吐出ヘッド、8は基板1を載置する基板ステージ、9は制御コンピュータ、10はインクジェット制御・駆動機構、11は位置検出機構、12は基板1上の液体付与位置を示す。
【0030】
まず、基板1を、洗剤、純水、有機溶剤により十分に洗浄した後、真空蒸着法、スパッタ法などにより、素子電極材料を基板1上に堆積し、例えばフォトリソグラフィー技術により、該基板1上に図1の素子電極2,3を形成する。素子電極2,3を形成した基板1を基板ステージ8の所定の位置に載置し、基板1の上方の吐出ヘッド6の吐出ノズル7から基板1上の液体付与位置12へ、導電性薄膜4の構成材料を含む液体を吐出し、基板1上に付着させる。液体の付与は、基板1表面での液体の拡散や流れを防止するため、基板1の表面に撥水処理を施した後に行うことが好ましい。
【0031】
上記基板1に付与する液体としては、例えば、水や有機溶剤に前述の導電性薄膜4の構成成分である金属などを溶解又は分散した液体が挙げられる。また、導電性薄膜4の構成成分である金属などを含む有機金属の溶液なども使用できる。
【0032】
具体的には、例えば、水75重量%、イソプロピルアルコール25重量%の溶媒に有機パラジウム錯体を溶解させた溶液が挙げられる。
【0033】
また、図2に示される液体付与機構は、図示しない環境管理装置により所定温度、所定湿度又は所定の有機溶媒蒸気圧の環境下に保持されていることが好ましい。
【0034】
液体を付与する装置としては、インクジェット方式の装置が好ましい。
【0035】
インクジェットの方式には、ピエゾ方式や加熱発泡(バブルジェット(登録商標))方式などが含まれる。前記ピエゾ方式とは、インクジェットの一方式であって、圧電体に電圧を印加した時の変形力を利用して、液体小滴の形成と射出を行う方式である。また、前記バブルジェット(登録商標)方式とは、同じくインクジェットの一方式であって、液体を小空間で加熱した際の突沸の力を利用して、液体小滴の形成と射出を行う方式である。
【0036】
前述のように、基板ステージ8上の基板1の上方の吐出ヘッド6に設けられた吐出ノズル7から、前記溶液又は分散液が液滴として吐出され、基板1上に付着される。その際に、吐出ヘッド6は、インクジェット制御・駆動機構10により、基板ステージ8に設けられた位置検出機構11及びステージ駆動機構(不図示)と連動して、吐出ヘッド6(吐出ノズル7)と基板1が所定の位置関係となった時に液滴を吐出する。これらの一連の制御は制御コンピュータ9によって行われる。これによって、基板1上に予め定められた液滴付与位置12に液滴を付着させることができる。なお、液滴を放出する吐出ノズル7は、1つでも複数でも可能である。
【0037】
上記のようにして基板1に液体を付与した後、この液体は乾燥処理され、基板1上に導電性薄膜前駆体が形成される。
【0038】
次に、上記導電性薄膜前駆体が形成された基板1は、図3に示される吸収装置のチャンバー13内に入れられる。このチャンバー13内において、導電性薄膜前駆体が、気化した水又は気化した有機化合物の雰囲気中に曝され、導電性薄膜前駆体に、空気中の水又は有機化合物が吸収される。
【0039】
チャンバー13は、気密性が確保されればどのような材質でも構わないが、水又は有機化合物を取り扱うため、錆の発生のおそれが極めて少なく、かつ、十分な強度を確保しやすいステンレスが好ましい。14は、基板搬入口であり、不図示の搬送機構により基板1をチャンバー13内に搬入するための開口である。また、15は基板搬出口であり、不図示の搬送機構により基板1をチャンバー13外に搬出するための開口である。チャンバー13には、内部の温度、湿度をモニターし、所定の値に保つための環境制御機構16が備えられている。
尚、湿度とは、水または有機化合物の、ある温度でチャンバー中に含まれる、蒸気の圧力(蒸気分圧)を、その温度の飽和蒸気圧で割ったものである。
【0040】
上記基板搬入口14からチャンバー16内に基板1を搬入し、基板1上の導電性薄膜前駆体を、チャンバー16内の所定の湿度下に曝し、導電性薄膜前駆体に吸湿させる。
【0041】
次に、導電性薄膜前駆体に吸湿させることによる縁部整形作用と全体整形作用について図4及び図5で説明する。
【0042】
図4は、導電性薄膜前駆体に吸湿させることによる縁部整形作用の説明図である。図4(a)は、基板上に付与した液体を乾燥させただけの導電性薄膜前駆体の断面形状の説明図である。図4(b)は、基板上に付与した液体を乾燥させ、更に水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に比して低い雰囲気下で吸湿させた導電性薄膜前駆体の断面形状の説明図である。また、図5は、導電性薄膜前駆体に吸湿させることによる全体整形作用の説明図である。図5(a)は、基板上に付与した液体を乾燥させただけの導電性薄膜前駆体の断面形状例の説明図である。図5(b)は、基板上に付与した液体を乾燥させ、更に水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に近い雰囲気下で吸湿させた導電性薄膜前駆体の断面形状の説明図である。
【0043】
まず、図4(a)に示されるように、基板1上の液体を乾燥させると、液体内の溶媒又は分散媒が蒸発し、固形分等が残留して導電性薄膜前駆体17’が形成される。この導電性薄膜前駆体17’の周縁部は、溶媒又は分散媒が蒸発して乾燥する過程で、なだらかな裾を引くことになる。
【0044】
図4(a)の破線円内に、導電性薄膜前駆体17’の縁部の拡大形状の模式図を示す。Laは、膜厚T以下の薄い領域の長さを示す。表面伝導型電子放出素子においては、かかる極薄領域は、フォーミング処理による亀裂形成工程においても亀裂が形成されないことにより、漏れ電流を生じさせる原因となる。
【0045】
一方、図4(a)の導電性薄膜前駆体17’に、水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に比して低い雰囲気下で吸湿させると、図4(b)に示されるような導電性薄膜前駆体17の断面形状に変化し、特に縁部の形状を改善させる効果が得られる。図4(b)の破線円内に、吸湿させた導電性薄膜前駆体17の縁部の拡大形状の模式図を示す。Lbは、膜厚T以下の薄い領域の長さを示す。図4(a)と(b)から明らかなように、導電性薄膜前駆体17’に吸湿させた導電性薄膜前駆体17とすると、La>Lbとなり、薄い領域の長さを短くすることができる。これは、導電性薄膜前駆体17’が、吸湿することで膨潤し、これに伴って断面形状が整形されることによるものと考えられる。
【0046】
導電性薄膜前駆体17’に吸収させる気化成分としては、導電性薄膜前駆体17’が吸収することで膨潤可能なものであればどのようなものでもよいが、通常、水(水蒸気)が用いられる。また、水の他に、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの有機化合物である。有機化合物が用いられる場合には、特に、薄膜の形成成分を含む液体に用いられた有機溶剤を使用することが好ましい。
【0047】
導電性薄膜前駆体17’を曝す雰囲気における、水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に比してある程度低い場合、暴露前の導電性薄膜前駆体17’の形状をおおむね維持しつつ、導電性薄膜前駆体17’の周縁部のみの形状を変化させることが可能である。また、導電性薄膜前駆体17’を曝す雰囲気における、水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に近づくにつれ、導電性薄膜前駆体17’の形状は、全体的に整形され、複数の導電性薄膜前駆体17’間の形状を均一化させることが可能である。
【0048】
更に図5によって本発明の全体整形作用を説明する。
【0049】
図5(a)に示されるように、液体を乾燥させると、中央部が盛り上がった図中左側の形状の導電性薄膜前駆体17’となったり、中央部が凹んだ図中右側の形状の導電性薄膜前駆体17’となったりする場合がある。これらの導電性薄膜前駆体17’を、水や有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に近い雰囲気に曝すと、図5(b)に示されるように、両者ともに頂面がやや平坦に近い同様の形状に整形される。従って、乾燥と共に形状にバラツキを生じた図5(a)の導電性薄膜前駆遺体17’の断面形状を、図5(b)に示される導電性薄膜前駆体17のように揃えることができる。
【0050】
なお、本発明において、水又は有機化合物は、その飽和蒸気圧に対する蒸気分圧の百分率を20%〜99%の範囲として使用することが好ましい。また、吸湿により縁部又は全体が整形された導電性薄膜前駆体17の形状は、基板を図3のチャンバー13から取りだし、吸収された水又は有機化合物が気散した後も維持される。
【0051】
上述のようにして導電性薄膜前駆体17とした後は、加熱処理し、導電性薄膜前駆体17に含まれる有機成分を除去し、図1で説明した導電性薄膜4を生成させる。そして、この導電性薄膜4に、フォーミングにより電子放出部5(図1参照)を形成する。
【0052】
ところで、本発明の方法により得られる導電性薄膜4は、導電性薄膜前駆体17の断面形状が反映されたものとなることから、前記La>Lbの関係が反映され、電子放出部5である亀裂が形成されにくい領域の長さが小さくなるので、リーク電流の発生を最小限に抑えることが可能となる。
【0053】
フォーミング後は、必要に応じて、有機ガス存在下で素子電極2,3間に電圧を印加し、電子放出部5及び/又はその付近に炭素を付着させる活性化処理や、高真空下で素子電極2,3間に駆動電圧よりも高い電圧を印加する安定化処理を施す。これらにより、所望の電子放出特性を有する表面伝導型電子放出素子を再現性良く製造することができる。
【実施例】
【0054】
実施例1
図6に示されるようなマトリクス状配線(列方向配線18と行方向配線19)及び素子電極2,3を形成した基板1を製造した。製造手順を、図6、図2及び図3を参照しつつ説明する。
【0055】
(1)絶縁性の基板1としてガラス基板を用い、有機溶剤により充分に洗浄後、120℃で乾燥させた。この基板1上に、Pt膜により、電極幅500μm、電極間ギャップ20μmの一対の素子電極2,3を、240列、720行として計172800組を行列状に形成し、各素子電極2,3に各々配線を接続した。この配線としては、列方向配線18と行方向配線19とを層間絶縁層20を介して交差配置したマトリクス配線を採用した。
【0056】
(2)前記基板1をアルカリ洗浄液にて洗浄後、シラン系撥水処理剤を用いて、表面処理を行った。
【0057】
(3)その後、前記基板1を、温度25℃、湿度45%に設定された恒温湿チャンバー内に置かれた図2の基板ステージ8上に吸着させ、液体付与位置12の位置合せなどを行った。
【0058】
(4)吐出ヘッド6に、導電性薄膜4を生成させるための成分を含有した溶液をインクとして注入した。溶液としては、有機パラジウム含有溶液を使用した。
【0059】
(5)基板ステージ8を+X方向にスキャンニングさせながら、位置検出機構11及びインクジェット制御・駆動機構10により、吐出ノズル6に設計上の吐出タイミングで吐出信号を送って液体を吐出させた。これにより、基板1の素子電極2,3間に、有機パラジウム含有溶液を付与した。
【0060】
(6)液体を基板1上で常温乾燥させ、導電性薄膜前駆体17’を得た。この導電性薄膜前駆体17’を形成した基板1を、温度25℃、湿度65%の雰囲気に設定した、図3に示すチャンバー13内に搬入し、5分後に25℃、湿度45%雰囲気下に戻した。
【0061】
(7)その後、基板1を350℃で30分間加熱し、酸化パラジウム膜による導電性薄膜4を得た。
【0062】
(8)素子電極2,3の間に電圧を印加し、導電性薄膜4に対し、フォーミングを行って電子放出部を形成し、更に・活性化を行うことにより、電子放出効率の高い電子放出部5とした。
【0063】
上記のようにして製造した電子放出素子のリーク電流の評価を行ったところ、駆動電圧印加時の電流値Ifと、駆動電圧の1/2の電圧を印加した時の電流値Ithとの比(If/Ith)が1500/1であった。これに対し、上記(6)の処理を行わずに作成した電子放出素子では、前記If/Ithが150/1であり、本実施例によりリーク電流は1/10に改善された。こうして作製された電子源基板に、フェースプレート及び支持枠等を組み合わせて表示パネルを作製し、更に、駆動回路を接続して画像形成装置を作製したところ、画像形成装置を歩留まりよく得ることができた。
【0064】
実施例2
実施例1と基本的な手法は同様であるが、本実施例では、実施例1における(6)のチャンバー13内を温度25℃、湿度80%とした。その他は実施例1と同様とした。
【0065】
得られた電子放出素子の均一性の評価を導電性薄膜4の電気抵抗で評価したところ、全素子の変動係数は3.0%であった。これに対して、本実施例におけるチャンバー13内での吸湿処理を行わずに作成した電子放出素子群の変動係数は10.0%であり、高湿度雰囲気の暴露処理による均一性は約3.3倍向上した。こうして作製された電子源基板に、フェースプレート及び支持枠などを組み合わせて表示パネルを作製し、更に、駆動回路を接続して画像形成装置を作製したところ、均一性が良好な画像形成装置を歩留まりよく得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明によって製造することができる表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式図で、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A’断面図である。
【図2】導電性薄膜の形成成分を含む液体をインクジェット法により基板上へ付与する液体付与機構の説明図である。
【図3】基板上に付与した液体を乾燥した導電性薄膜前駆体に吸湿させる吸収装置の説明図である。
【図4】導電性薄膜前駆体に吸湿させることによる縁部整形作用の説明図である。(a)は、基板上に付与した液体を乾燥させただけの導電性薄膜前駆体の断面形状の説明図である。(b)は、基板上に付与した液体を乾燥させ、更に水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に比して低い雰囲気下で吸湿させた導電性薄膜前駆体の断面形状の説明図である。
【図5】導電性薄膜前駆体に吸湿させることによる全体整形作用の説明図である。(a)は、基板上に付与した液体を乾燥させただけの導電性薄膜前駆体の断面形状例の説明図である。(b)は、基板上に付与した液体を乾燥させ、更に水又は有機化合物の蒸気分圧がその飽和蒸気圧に近い雰囲気下で吸湿させた導電性薄膜前駆体の断面形状の説明図である。
【図6】実施例で製造した電子源基板の模式的平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 基板
2,3 素子電極
4 導電性薄膜
5 電子放出部(亀裂)
6 吐出ヘッド
7 吐出ノズル
8 基板ステージ
9 制御コンピュータ
10 インクジェット制御・駆動機構
11 位置検出機構
12 液体付与位置
13 チャンバー
14 基板搬入口
15 基板搬出口
16 環境調整機構
17’ 導電性薄膜前駆体(湿気又は気化有機溶剤吸収前)
17 導電性薄膜前駆体(湿気又は気化有機溶剤吸収後)
18 列方向配線
19 行方向配線
20 層間絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、薄膜の形成成分を含む液体を付与し、乾燥して薄膜前駆体とし、該薄膜前駆体を加熱処理して薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、
前記加熱処理を、薄膜前駆体に吸湿させた後に行うことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜前駆体を、前記吸湿により膨潤させることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記液体の付与を、インクジェット法により行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
基板上に、導電性薄膜の形成成分を含む液体を付与し、乾燥して導電性薄膜前駆体とし、該導電性薄膜前駆体を加熱処理して導電性薄膜を形成し、該導電性薄膜に電子放出部を形成する電子放出素子の製造方法であって、
前記加熱処理を、前記導電性薄膜前駆体に吸湿させた後に行うことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記導電性薄膜前駆体を、前記吸湿により膨潤させることを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記液体の付与を、インクジェット法により行うことを特徴とする請求項4または5に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−157516(P2007−157516A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351575(P2005−351575)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】