説明

薄膜付シートの製造装置及び薄膜付シートの製造方法、並びにこれらに用いられる円筒状ロール

【課題】シートの一方に第1の薄膜を形成した後、他方の面にも第2の薄膜を形成する場合に、50[nm]以上の比較的厚い金属薄膜や金属酸化物薄膜であっても高速で熱負けなく、製造できる薄膜付シートの製造装置ならびに薄膜付シートの製造方法の提供。
【解決手段】減圧雰囲気下において、一方の表面に第1の薄膜13が形成されているシート1を円筒状ロールの表面3に接触させ、前記円筒状ロールの回転運動に伴って搬送されている前記シート上に、蒸発源7から前記シートに向けて金属蒸気10を飛来させ、前記シート上に連続的に第2の薄膜14を形成する薄膜付シートの製造方法であって、該円筒状ロールの表面に体積抵抗が10〜1011Ωcmの範囲内である絶縁体層20を被覆したものを用い、前記第1の薄膜が形成されている面と前記円筒状ロールとの間に100〜400Vの範囲内の電圧を印加して、前記シートの他方の表面に第2の薄膜を形成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜付シートの製造装置及び薄膜付シートの製造方法、並びにこれらに用い
られる円筒状ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックフィルムに例示されるシート上に薄膜を形成することにより、
フィルムコンデンサや磁気記録テープ、包装用フィルム等の素材となる金属蒸着フィルム
が製造されている。この製造には、例えば真空槽内で巻状物のプラスチックフィルムを巻
き出し、薄膜形成した後に再び巻き取る巻取式蒸着装置(例えば非特許文献1)が用いら
れる。
【0003】
その概要を図7−1、図7−2を用いて説明する。図7−1、図7−2はプラスチック
フィルムなどのシート上に連続的に薄膜を形成する薄膜形成装置の構成要素を示した図で
ある。なお、この図7−1、図7−2は主要部のみを示し、構造物を収納する真空チャン
バや中間ロールは省略してある。図7−1において、長尺のシート1は、原反ロール体2
から繰り出され、シートの走行方向に沿って回転する円筒状の金属製キャンの表面である
シート案内面3に中間ローラ4、5によって決まる所要の巻き付け角で、巻付点33から
剥離点32まで巻き付いた状態で搬送され、その後中間ローラ5を介して巻き取られ、巻
取ロール体6を形成する。シート1がシート案内面3上に搬送される際に、走行方向マス
ク部材11bで制限される成膜開始点30から成膜終了点31の間の領域において、坩堝
7(蒸発源)の中にある蒸着材料8より蒸発した蒸気10がシート1上に付着し、シート
1上に第1の薄膜13が形成される。こうして巻き取られた巻取ロール体6を、その後、
図7−2において原反ロール体2にセットし、第1の薄膜13が成膜された面がシート案
内面3と接するように搬送し、反対面に第2の薄膜14を形成することにより、シート1
の両面に薄膜を形成した薄膜付シートを得ることができる。なお蒸発には、例えば誘導加
熱や抵抗加熱の原理を利用して蒸着材料を加熱する方式や、電子ビームを蒸着材料に照射
して加熱する方式がある。またシート案内面3は主にシート1をシワなく搬送する役目と
、シート1が受けた熱負荷を効率よく逃がす役目を持つ。このため例えば公知の熱媒体の
循環による温度制御により、所要の温度に制御される。また特に円筒に限らず、ベルト体
の上にシートを搬送する方式も見られる。
【0004】
また、図8は、図7−2の右手から見た装置の概要構成図である。このように第2の薄
膜14とシート案内面3との間に電位差を設ける場合、図8に示すように、幅方向マスク
部材11aの開口部12の幅は、第2の薄膜14とシート案内面3が電気的に短絡しない
ように、通常、少なくともシート幅よりも小さく設定する。
【0005】
このような巻取式蒸着装置を使って、シートの一方の面に第1の薄膜を形成した後、さ
らにシートの他方の面にも第2の薄膜を形成する方法が知られている。例えば、特許文献
1には、プラスチックフィルムの両面に金属薄膜を形成する方法が開示されている。また
、特許文献2には、プラスチックフィルムの両面に金属酸化物や水酸化物の薄膜を形成す
ることが開示されている。このようにシートの両面に薄膜を形成する場合、特に1面目に
第1の薄膜を成膜した後の反対面に第2の薄膜を成膜する場合に、シートが熱負けを起こ
す現象が顕著となる。熱負けとは、シート案内面3上のシート1が受ける熱負荷によりシ
ート1の温度が過度に上昇した部位が大きい場合や、シート1とシート案内面3が接触し
ていない部分がある場合に、シート1が熱変形を起こしてしまう現象である。なおシート
1が受ける主な熱負荷とは、この場合蒸発源7等から受ける輻射熱や、蒸着された第2の
薄膜14から受ける凝固熱が挙げられる。
【0006】
まだどちらの面にも薄膜が形成されていないシートの片面に導電性の第1の薄膜を形成
する場合には、蒸着時にシート1の受けた熱を効率よくシート案内面3に逃がすため、図
7−1に示すようにシート1上に形成した第1の薄膜13に接触した中間ローラ5を介し
て、直流電源15により第1の薄膜13とシート案内面3の間に電位差を与え、第1の薄
膜13とシート案内面3との間に働く静電気力でシート1をシート案内面3に強く貼り付
かせる技術(例えば特許文献3)が用いられる。
【0007】
しかしながら、シート1の一方に第1の薄膜13を形成した後、さらにシート1の他方
の面にも第2の薄膜14を形成する場合に、第2の薄膜14とシート案内面3の間に電位
差を与えても、第1の薄膜13とシート案内面3とが電気的に同電位となるため、シート
1とシート案内面3との間に静電気力は作用せず、そのためシート1とシート案内面3と
の密着が不充分となり、熱負けを起こす場合がある。特に膜厚50[nm]以上の第2の
薄膜を成膜する場合は、シートに与える熱負荷が大きく、熱負けが発生しやすい。なお、
このようにシート1がシート案内面3と十分に密着しないで起こる熱負けの代表的な形態
として、シート搬送方向に延びるシワ状の変形が挙げられる。本発明者らはこの発生原因
を次のように考えている。すなわち、シート1が蒸着の際に受ける熱負荷によりシート1
に熱膨張や熱収縮の応力が発生するが、シート搬送方向については搬送のための張力が作
用しておりこれが変形の抑制力となる一方、シート幅方向についてはシート1がシート案
内面3に密着していなければ特に抑制力が弱いため、シートがシート案内面上を僅かずつ
滑りながら変形を起こすが、この際、シート搬送方向において熱負荷を受ける領域と受け
ない領域との間で起こるシートの歪みがしわを発生させ、そのしわ部分がシート案内面3
と接触していないため熱伝導が不充分となり、局所的にしわの形状で熱変形する、という
ものである。シート1とシート案内面3との間に密着力が作用すれば、これがシート幅方
向の変形の抑制力となり、シワ状の熱負けも発生しないと考えられる。
【0008】
その熱負けの対策として、例えば特許文献1では、シート案内面の周面にアルミナなど
の絶縁体層を形成させた円筒状キャンの周面に沿ってシートを走行させ、かつ金属薄膜と
円筒状キャンとの間に電位差を設けることにより、シート案内面と薄膜が同電位になるこ
とを防ぎ、シートとシート案内面との間に静電気力を発生させる方法が開示されている。
この静電気力によりシートとシート案内面とに密着力が発生し、絶縁体層なしの金属表面
のシート案内面に比べ、高速下での両面蒸着が可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−092467号公報
【特許文献2】特開2007−157244号公報
【特許文献3】特開昭59−147023号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】伊保内賢他著、「ポリマーフィルムと機能性膜」、技報堂出版、1991年4月発行、p198〜203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者らの知見によると、特許文献1に記載されているような製造方
法では、まだ薄膜が形成されていないシート1の表面に、同じ薄膜材料を同じ膜厚で、絶
縁体層なしの金属表面のシート案内面を使って成膜するときに達成可能な速度よりも、ま
だ劣る速度であった。
【0012】
さらにまた、本発明者らの知見によると、特許文献2に記載されている酸化金属薄膜を
両面に蒸着する場合には、上記のような従来のシート案内面の周面に絶縁体層を設ける方
法では、酸化金属薄膜は金属薄膜よりも電気抵抗が高い膜であるため、電流が流れにくく
、シート案内面とシートとの間に作用する静電気力が弱くなり、シートが熱負けしやすく
なる場合があった。
【0013】
また、本発明者らの知見によると、前述のような従来の製造方法では、シート案内面3
の周面に形成した絶縁体層の特性が、蒸着膜の品質に大きな影響を与えていた。その一つ
に絶縁体層での熱伝導率の低下が挙げられる。例えば特許文献1では、絶縁体層としてア
ルミナを被覆しているが、セラミックであるアルミナは金属よりも熱伝導率が低いため、
蒸着によりフィルムが受ける熱をシート案内面に逃がしにくくなる。その他に、シートと
シート案内面との間に作用させる静電気力が絶縁体層の特性に依存する点が挙げられる。
静電気力に影響する絶縁体層の特性は、主に誘電率と被覆厚みである。円筒状キャンの表
面に被覆できる絶縁体層としては、シート案内面として要求される、表面の平滑性や表面
硬度、均一な膜厚で円筒加工できる、等の特性を満たす材料として、溶射法によるアルミ
ナやジルコニアなどのセラミックス材料に限られてきた。このような材料選択の制限の中
で、シート1とシート案内面3との熱伝導性や密着性を高めるには、絶縁体層をできるだ
け薄くする方が有利であるため、絶縁体層の厚みが200[μm]より薄い範囲で使用さ
れてきた。しかしながら、まだ薄膜が形成されていないシート1の表面に、同じ薄膜材料
を同じ膜厚で、絶縁体層なしの金属表面のシート案内面を使って成膜するときに達成可能
な速度に比べて遅い速度で熱負けが発生するため、それ以上の高速化が困難であった。こ
の原因としては、特にこの種のシート案内面の周面の絶縁体に採用される、溶射法により
形成したアルミナなどのセラミック皮膜では、皮膜の厚みを200[μm]より薄くする
と、溶射膜厚のムラや膜質のムラが無視できなくなり、部分的に密着力の低い箇所ができ
、部分的に熱負けが発生する不具合が発生する場合があるためである。膜厚のムラについ
ては、一般的に直径400[mm]以上を有する円筒状シート案内面には真円度の誤差が
10〜20[μm]程度含まれるので、絶縁体層の膜厚のムラも10〜20[μm]程度
は存在することになり、絶縁体層の膜厚が薄くなるほど、膜厚に対する膜厚ムラの比率は
大きくなる。電圧を印加したときに発生する静電気力は、膜厚が薄い部分ほど強くなるの
で、膜厚のムラにより密着力のムラが発生し、部分的な熱負けに至る。一方膜質のムラに
ついては、主に溶射時にできる緻密さ(ボイド)の差に依存する。ボイドが多い部分は誘
電率が小さくなり、電圧を印加したときに誘導される電荷量が少なくなる。そのためその
部分は密着力が弱くなり部分的な熱負けに至る。一方、この溶射皮膜のムラが目立たなく
なるように皮膜の厚みを200[μm]以上にすると熱伝導性が不足し、シート1が熱負
けしやすくなる場合があった。そのため、絶縁体層の厚みを100[μm]程度に薄くし
て、この部分的な熱負けが発生しない速度範囲で蒸着しているのが現状であった。例えば
、5[μm]の厚みのポリエチレンテレフタレートフィルムにアルミニウム薄膜を蒸着す
る場合、表裏とも未蒸着のフィルムに第1の薄膜を蒸着するときは成膜レート600〜7
00[nm/秒]の速度での蒸着は可能である。しかしながら、第2の薄膜を蒸着する場
合において、金属表面のシート案内面を使用する場合は、成膜レート200[nm/秒]
程度の速度で熱負けが発生したり、また特許文献1に記載されているような絶縁体層を設
けたシート案内面を使用する場合は、400[nm/秒]程度の速度で熱負けが発生して
いた。このように第1の薄膜を蒸着する場合と同等の速度で成膜できず、第2の薄膜を成
膜時には生産性を落とさざるを得なかった。
【0014】
また、酸化金属薄膜のような化合物薄膜で、表面抵抗が金属薄膜よりも高いが10
10Ω/□の範囲内で導電性を示す化合物薄膜を両面に蒸着する場合には、上記のよう
な従来のシート案内面の周面に絶縁体層を設ける方法では、シート案内面とシートとの間
に密着力を発生するものの、10Ω/□より小さい表面抵抗を示す金属薄膜に比べ、そ
の密着力は弱くなり、金属薄膜を両面に蒸着する場合に比べ、シートが熱負けしやすくな
る場合があった。例えば、膜厚50[nm]で表面抵抗が10Ω/□程度になるように
調整した酸化アルミニウム薄膜をポリエステルフィルムの両面に成膜する場合において、
第2の薄膜を成膜する際の成膜レートは、絶縁体層を設けたシート案内面を使用する場合
においても、350[nm/秒]が限界であった。
【0015】
以上説明したように従来技術では、シートの一方に第1の薄膜を形成した後、さらにシ
ートの他方の面にも第2の薄膜を形成する場合や導電性を示す化合物薄膜を形成する場合
に、特にシートの第1の薄膜の成膜で達成可能な高速下で、第2の薄膜を熱負けなく成膜
することは困難であった。
【0016】
そこで本発明者らは、上記のような従来技術の問題点に鑑み、部分的な熱負けの原因で
ある絶縁体層の膜厚のムラや膜質のムラが無害化できる絶縁体層の特性を鋭意検討した結
果、特に厚い薄膜であっても高速で第2の薄膜を形成する薄膜付シートの製造装置および
薄膜付シートの製造方法、並びにこれらに用いられる円筒状ロールを提供することを目的
とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の構成を特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、減圧雰囲気下において、一方の表面に第1の薄膜が形成されているシ
ートを円筒状ロールの表面に接触させ、前記円筒状ロールの回転運動に伴って搬送されて
いる前記シートの他方の表面上に、蒸発材料を溶融させた蒸発源から前記シートに向けて
金属蒸気を飛来させ、前記シート上に連続的に第2の薄膜を形成する薄膜付シートの製造
方法であって、前記円筒状ロールとして該円筒状ロールの表面に体積抵抗が10〜10
11Ωcmの範囲内である絶縁体層を被覆したものを用い、前記第1の薄膜が形成されて
いる面と前記円筒状ロールとの間に100〜400Vの範囲内の電圧を印加して、前記シ
ートの他方の表面に第2の薄膜を形成する薄膜付シートの製造方法が提供される。ここで
、「体積抵抗が10〜1011Ωcmの範囲内」とは、具体的には、1×10〜1×
1011Ωcmの範囲を示している。
【0019】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記円筒状ロールとして、該円筒状ロールの表
面に被覆された前記絶縁体層の厚みが40〜200μmの範囲内にあるものを用いる薄膜
付シートの製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記シートの厚みが10μm以下であり、前記
シートの搬送速度が100m/分以上である薄膜付シートの製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記第1の薄膜が金属化合物薄膜であり、前記
金属化合物薄膜の表面抵抗が10〜10Ω/□の範囲内である薄膜付シートの製造方
法が提供される。
【0022】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記金属化合物薄膜が酸化アルミニウムであり
、成膜レートが600nm/秒以上である薄膜付シートの製造方法が提供される。
【0023】
また、本発明の別の形態によれば、減圧室と、該減圧室内に、シートと接触しながら前
記シートを搬送する円筒状ロールを有し、前記円筒状ロールの回転運動に伴って前記シー
トを搬送する搬送手段と、前記円筒状ロール上の前記シートに向かって金属蒸気を飛散さ
せる蒸発源と、前記シートと前記円筒状ロールとの間に電位差を発生させる電位差発生手
段とを備え、搬送される前記シートに連続的に薄膜を形成する薄膜付シートの製造装置で
あって、前記円筒状ロールは、円筒状の金属胴体部の周面に絶縁体層を被覆して構成され
たものであり、前記絶縁体層の体積抵抗が10〜1011Ωcmの範囲内である薄膜付
シートの製造装置が提供される。
【0024】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記絶縁体層のシートと接触する領域における
任意の2点の体積抵抗をR1、R2(R1≦R2)としたとき、以下の式を満たす薄膜付
シートの製造装置が提供される。
【0025】
1≦R2/R1≦2
【0026】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記絶縁体層の厚みが40〜200μmの範囲
内である薄膜付シートの製造装置が提供される。
【0027】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記シートが前記円筒状ロールの直前および直
後のガイドロールと前記円筒状ロールとの間のシート搬送距離がいずれも200mm以内
であり、かつ前記シートが前記ガイドロールと接する面が、前記円筒状ロールと接する面
の逆面である薄膜付シートの製造装置が提供される。
【0028】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記電位差発生手段において、前記シートと前
記円筒状ロールとの間に流れる電流を50mA以下に制限する電流抑制回路が含まれる薄
膜付シートの製造装置が提供される。
【0029】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記絶縁体層が、酸化アルミニウムを主成分と
し、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウムか
ら選ばれる少なくとも一つを混合した材料から構成する薄膜付シートの製造装置が提供さ
れる。
【0030】
ここで、本発明において適用されるシートとして、代表的なものには、プラスチックフ
ィルムや紙等のシートがある。特にプラスチックフィルムは本発明において好適に用いら
れる。プラスチックフィルムの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリ
オレフィン類や、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルフ
ァイド、アラミド、ナイロンなどの高分子プラスチックフィルムが例示できる。また、プ
ラスチックフィルムは単層でもよく、また2層以上の積層体フィルムでもよい。
【0031】
本発明において、薄膜の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーテ
ィング法、CVD法が挙げられる。中でも真空蒸着法は、成膜レートが数百[nm/秒]の
高速成膜が可能であり、好適である。真空蒸着法の蒸発源においては、材料を加熱する方
法として、誘導加熱方式の他、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式などあるが、いずれで
も適用可能である。特に電子ビーム加熱方式は、シート幅方向において蒸発量に制御しや
すいため、幅方向に均一な金属酸化物薄膜を得る方法として最も適した方式である。
【0032】
本発明において「蒸発源」とは、薄膜の材料となる金属材料を溶融させる容積部分を指
す。この蒸発源の周囲に金属材料を収容する容器、断熱材、材料供給装置、加熱用ヒータ
などが配置されるが、この蒸発源を加熱する方式により、適宜好適なものが選択されるも
のであり、特に限定するものではない。
【0033】
本発明において「成膜レート」とは、シート成膜領域において、シート表面に金属酸化
物が堆積していく速度のことを指し、具体的にはシートの搬送速度をv[m/秒]、シー
ト表面に堆積した金属酸化物薄膜の膜厚をd[nm]、シート成膜領域のシート搬送方向
の長さをL[m]としたときに、次式で表される値のことを指す。
【0034】
(成膜レート)[nm/秒]=(v×d)/L (1)
【0035】
本発明において「シート案内面」とは、シート上に薄膜を形成する際に、シートの薄膜
形成面とは反対の面に接触しながらシートを搬送する薄膜形成装置の構成要素をいう。こ
の「シート案内面」は主にシートをシワなく搬送する役目と、シートが受けた熱を効率よ
く逃がす役目を持つ。代表的なものとしては、後述する図1−1に示すように円筒形状の
もので、軸を中心に回転しながらシートを搬送するものがある。また特に円筒形状に限ら
ず、ベルト体の上にシートを搬送する方式のものも知られているが、本発明においてはい
ずれのものでも有効である。
【0036】
本発明においては、金属材料を蒸発させて金属の薄膜を設けたり、またはその金属蒸気
雰囲気に酸素や窒素を導入して金属化合物の薄膜を設けるが、その金属材料としては、目
的の特性が得られれば特に問わないが、アルミニウムおよび/または銅を主体とする材料
が、融点も低温であり、安価な材料であるため好適に用いられる。また酸化アルミ膜、酸
化銅膜はその特性上、ガスバリア性、剛性、熱膨張特性、生産性などが良好であり好まし
く用いられる。その他の材料としては、Zn、Sn、Si、Ni、Ag、Au、Co、C
r、Fe、Mn、Mg、In、Pt、Ta、Ti、Zrなどの金属も挙げられる。または
これらの合金材料もある。また金属化合物薄膜としてAlO、AlN、AlF、Si
、SiC、SiN、CaF、CoO、CeO、CrO、HfO、ITO、
MgO、MgF、NbO、SnO、TaO、TiO、TiN、WO、YO
、YF、ZnO、ZnS、ZrOなどが挙げられるが、薄膜付シートの用途によって
適宜選択されるものであり、本発明の適用を限定するものではない。
【0037】
また、本発明の好ましい形態によれば、内部に媒体を循環する構造を備えた円筒状金属
ロールの表面に、酸化アルミニウムと酸化チタンとが混在した絶縁体層を備え、前記絶縁
体層の表面に長尺のシートを接触させながら回転運動に伴って搬送する円筒状ロールであ
って、前記絶縁体層は、体積抵抗が10〜1011Ωcm、厚みが40〜200μm、
並びにチタン元素濃度が2.2〜4.0at%である円筒状ロールが提供される。
【0038】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記表面の任意位置における絶縁体層の膜厚1
00μmあたりの絶縁破壊電圧が500V/100μm以上である円筒状ロールが提供さ
れる。
【0039】
また、本発明の好ましい形態によれば、自身の円周方向と垂直に交わる前記絶縁体層の
任意の断面において、10μmを1辺とする正方形格子で区切った各領域におけるチタン
元素濃度の標準偏差が7.5%未満であり、かつ変動係数が2.0未満である円筒状ロー
ルが提供される。
【0040】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記絶縁体層表面の面粗さRaが0.01〜0
.1μmであり、かつ前記金属ロール表面の面粗さRaが1〜3μmの範囲内である円筒
状ロールが提供される。
【0041】
また、本発明の別の形態によれば、減圧室と、該減圧室内に、シートと接触しながら前
記シートを搬送する円筒状ロールを有し、前記円筒状ロールの回転運動に伴って前記シー
トを搬送する搬送手段と、前記円筒状ロール上の前記シートに向かって金属蒸気を飛散さ
せる蒸発源と、前記シートと前記円筒状ロールとの間に電位差を発生させる電位差発生手
段とを備え、搬送される前記シートに連続的に薄膜を形成する薄膜付シートの製造装置で
あって、前記円筒状ロールが上述したようないずれかの円筒状ロールである薄膜付シート
の製造装置が提供される。
【0042】
また、本発明の別の形態によれば、減圧雰囲気下において、一方の表面に第1の薄膜が
形成されているシートを円筒状ロールの表面に接触させ、前記円筒状ロールの回転運動に
伴って搬送されている前記シートの他方の表面上に、蒸発材料を溶融させた蒸発源から前
記シートに向けて金属蒸気を飛来させ、前記シート上に連続的に第2の薄膜を形成する薄
膜付シートの製造方法であって、前記円筒状ロールとして上述したようないずれかの円筒
状ロールを用い、前記第1の薄膜が形成されている面と前記円筒状ロールとの間に100
〜400Vの範囲内の電圧を印加して、前記シートの他方の表面に第2の薄膜を形成する
薄膜付シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、後述の実施例と比較例との対比からも明らかなように、シートの一方
に第1の薄膜を形成した後、さらにシートの他方の面にも第2の薄膜を形成する場合に、
50[nm]以上の比較的厚い金属薄膜や金属酸化物薄膜であっても高速で、熱負けさせ
ることなく薄膜付シートを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1−1】図1−1は、本発明の製造装置の一実施態様を示す巻取式真空蒸着装置の概略構成図である。
【図1−2】図1−2は、図1−1の金属蒸気が飛来している部位を拡大した概略断面図である。
【図2】図2は、図1−1の右手から見た装置の概要構成図である。
【図3】図3は、本発明の製造装置の一実施態様を示す巻取式真空蒸着装置の概略構成図である。
【図4】図4は、本発明の製造装置の一実施態様を示す巻取式真空蒸着装置の概略構成図である。
【図5】図5は、本発明の絶縁体層の抵抗を測定する方法を示す概略構成図である。
【図6】図6は、本発明の製造装置の一実施態様を示す巻取式真空蒸着装置の概略構成図である。
【図7−1】図7−1は、従来の巻取式真空蒸着装置の一例を用いて第1の薄膜を成膜する方法を示した概略構成図である。
【図7−2】図7−2は、従来の巻取式真空蒸着装置の一例を用いて第2の薄膜を成膜する方法を示した概略構成図である。
【図8】図8は、図7−2の右手から見た装置の概略構成図である。
【図9】図9は、従来の巻取式真空蒸着装置の一例を示した概略構成図である。
【図10】図10は、実施例2の絶縁体層断面の画像である。
【図11】図11は、実施例3の絶縁体層断面の画像である。
【図12】図12は、実施例4の絶縁体層断面の画像である。
【図13】図13は、比較例3の絶縁体層断面の画像である。
【図14】図14は、比較例4の絶縁体層断面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の最良の実施形態の例を巻取式蒸着装置に適用した場合を例にとって、図
面を参照しながら説明する。
【0046】
図1−1、図1−2はともに、本発明の製造装置の一実施態様を示す巻取式蒸着装置の
概略断面図であり、図1−1は主要部のみを示し、構造物を収納する真空チャンバや中間
ロールは省略してある。また図1−2は、図1−1の金属蒸気が飛来している部位を拡大
し、各構成要素の配置等、位置関係をわかりやすく説明した概略断面図である。さらに、
この図1−1、図1−2とともに、酸素ノズルなどの詳細部は省き、真空チャンバや真空
ポンプを記載した全体概略図を図3に示す。なお、従来例と同一または同等の機能を有す
る構成要素には同一番号を付け、詳細な説明を省略する。
【0047】
図1−1に示す巻取式蒸着装置には、シート1と接触しながらシート1を搬送するシー
ト案内面3を有し、表面に絶縁体層20を形成したシート案内面3の運動に伴ってシート
1を搬送する円筒状ロール等の搬送手段と、シート案内面3上のシート1に向かって金属
蒸気を飛散させる坩堝7(蒸発源)とが設けられている。このような装置において、既に
一方の面に第1の薄膜13を形成済みであるシート1は、原反ロール体2から連続的に繰
り出され、シートの走行方向に沿って回転する円筒状の金属製キャンに絶縁体層20を設
けた表面であるシート案内面3に中間ローラ4、5によって決まる所要の巻き付け角で、
巻付点33から剥離点32まで巻き付いた状態で搬送され、その後中間ローラ5を介して
巻き取られ、巻取ロール6を形成する。このとき、坩堝7の中にある金属の蒸着材料8を
蒸発させる。これにより、シート1がシート案内面3上に搬送される際に、走行方向マス
ク部材11bで制限される成膜開始点30から成膜終了点31の間の領域において、坩堝
7の中にある蒸着材料8より蒸発した蒸気10がシート1のまだ薄膜を形成されていない
面に付着し、シート1上に第2の薄膜14が形成される。
【0048】
また、金属酸化物薄膜を形成する場合には、図1−1に示すように、金属蒸気と酸化反
応させるために酸素を導入する酸素ノズル17が設けられている。酸素ノズルは、複数個
の穴がシート幅方向に配列され構成されるとともに、シート搬送方向に関して坩堝7の上
流側および下流側に配置されている。また、各酸素ノズル17は、坩堝7とシート案内面
3との間の領域に向けて酸素を導入している。このとき、坩堝7の中にある金属の蒸着材
料8を蒸発させると同時に、シート搬送方向に関して坩堝7の上流側および下流側に設け
た酸素ノズル17より酸素を導入する。これにより、第2の薄膜14は、酸素ノズル17
より金属蒸気雰囲気10に導入された酸素により、金属酸化物となる。すなわち、シート
1の表面には金属酸化物の第2の薄膜14が形成される。
【0049】
さらに薄膜の形成について図1−2に基づいて詳しく説明すると、薄膜形成にあたって
は、坩堝7の中に金属材料8を入れ、図示しない加熱方法で加熱して、金属材料8を溶融
状態とする。さらに加熱すると溶融した金属材料8の湯面から金属蒸気10が蒸発しはじ
める。こうして蒸発させた金属の蒸気10がシート案内面3に沿わせたシート1に向けて
飛来する。こうして飛来した金属蒸気がシート表面に堆積し、第2の薄膜14が形成され
る。このとき、既にシート1の裏面に形成されている第1の薄膜13とシート案内面3と
の間に、直流電源15と電流制限抵抗16とにより電圧を印加することにより、シート案
内面3表面の絶縁体層20を挟んで正および負の電荷が誘導され、シート1とシート案内
面3との間に静電気力が発生し密着力として作用する。
【0050】
また、図2は、図1−1の右手から見た装置の概要構成図である。このように第1の薄
膜13とシート案内面3との間に電圧を印加する。図8の場合とは異なり、絶縁体層20
を挟んでシート案内面3と第1の薄膜13との間に電圧を印加するので、シート案内面3
にまで蒸気10が付着しても第1の薄膜13とシート案内面3が電気的に短絡することは
なく、シート1の全幅に第2の薄膜14が形成されるように、幅方向マスク11aの幅を
シート幅よりも大きく設定してもよい。但し、シート案内面に付着する蒸着物質が、シー
ト1の端部に損傷を与えたりする不具合がある等の場合は、この限りではない。
【0051】
なお金属を溶融して蒸発する方法としては、例えば誘導加熱や抵抗加熱の原理を利用し
て蒸着材料を加熱する方式や、電子ビームを蒸着材料に照射して加熱する方式がある。す
なわち、減圧下での高周波誘導加熱法、抵抗加熱法、電子ビーム法、レーザアブレーショ
ン法などが挙げられる。金属酸化物膜の厚膜化のためには、高周波誘導加熱法、電子ビー
ム法が好ましく用いられ、高融点材料、例えば1500[℃]以上の融点材料であれば電
子ビーム法が好ましく用いられる。
【0052】
また、シート案内面3は主にシート1をシワなく搬送する役目と、シート1が受けた熱
負荷を効率よく逃がす役目を持つ。このため例えば公知の熱媒体の循環による温度制御に
より、所要の温度に制御する。具体的には、エチレングリコールやシリコーンオイルなど
の冷媒を利用して、たとえば−20[℃]程度に冷却する。また特に円筒に限らず、ベル
ト体の上にシートを搬送する方式も適用できる。
【0053】
このような本発明と特許文献1に記載された円筒状のシート案内面の周面に絶縁体層を
被覆して第2の薄膜を成膜する方法との大きな相違点は、本発明においては、図1−1に
おいて、円筒状のシート案内面3の周面に設けた絶縁体層20の体積抵抗が10〜10
11[Ωcm]の範囲内であるものからなり、既に成膜済みの第1の薄膜13とシート案
内面3との間に電圧を印加することにより、絶縁体層20を挟んでシート1とシート案内
面3との間に密着力を作用させる点である。
【0054】
なお直流電源15の極性は、図1−1に示されるように接続するとは限らず、逆極性で
もよいし、場合によっては極性の切り換えが可能な電源を用いてもよい。
【0055】
絶縁体層20の体積抵抗が10〜1011[Ωcm]の範囲内であることが好ましい
。従来技術では、シート案内面3の周面の絶縁に採用される絶縁体層20には、溶射法に
より形成したアルミナなどのセラミック皮膜が使用されているが、このアルミナでは体積
抵抗が1012[Ωcm]以上あり、これに300[V]以上の電圧を印加するとシート
1とシート案内面3との間に静電気力が作用するが、その力は比較的弱く、熱負けしない
ように十分な密着力を得るには500[V]以上の電圧を印加する必要があった。図3に
示すような巻取式の真空蒸着機の場合、真空チャンバ内の圧力は10〜10−3[Pa
]に保たれるのが一般的だが、この圧力下で500[V]程度の電圧を印加すると、真空
チャンバ内で不必要な放電を起こす場合があり、このような放電が起こると電圧を安定に
印加できない不具合が発生することがあった。絶縁体層20の厚みを200[μm]より
薄くすると、溶射膜厚のムラや膜質のムラが無視できなくなり、部分的に熱伝導性の低い
箇所ができ、部分的に熱負けが発生する場合があった。また絶縁体層20の厚みを200
[μm]以上にすると熱伝導性が不足し、シート1が熱負けしやすくなる場合があった。
そこで本発明のように絶縁体層20の体積抵抗を10〜1011[Ωcm]の範囲内に
なるように皮膜材料を選定すると、印加電圧が400[V]以下でも十分な密着力を発現
することが分かった。この密着力は、発明者らの知見によれば、従来の静電気力とは異な
る、ジャンセン・ラーベック力と呼ばれる力で、従来の静電気力とこのジャンセン・ラー
ベック力とを合わせた力が密着力として作用するものである。このジャンセン・ラーベッ
ク力は、従来、異なる産業分野であるが半導体やガラス基板の成膜工程の静電チャック技
術等に応用されている。このような体積抵抗を有する絶縁体層20の厚みを200[μm
]以下にしても、密着力が大きいことから、熱負けも発生しにくくなる。さらに、このジ
ャンセン・ラーベック力は、絶縁体層20の内部にも電荷が誘導され、その内部の電荷に
よっても静電引力が発生する、という原理であり、従来の静電気力とは異なり絶縁体層2
0の膜厚や誘電率の依存は小さく、主に絶縁体層20の体積抵抗に大きく依存する。その
ため、絶縁体層20の膜厚のムラが要因となる密着力のムラは起きにくく、部分的な熱負
けも発生しにくい利点がある。また、従来技術のアルミナやジルコニアの絶縁体層に比べ
て体積抵抗が低くなることにより、絶縁体層20の熱伝導も良くなることから、この点で
熱負けが発生しにくくなる利点もある。さらに、絶縁体層20の体積抵抗を10〜10
10[Ωcm]の範囲内になるように絶縁体層の材料を選定することにより、印加電圧3
00[V]以下でも十分な密着力が得られるので、さらに好ましい。このように本発明者
らは、ジャンセン・ラーベック力を発生させる材料を絶縁体層に選定することにより、本
発明の課題であるプラスチックフィルムの部分的な熱負けの抑制に特に有効であることを
見出した。
【0056】
しかしながらジャンセン・ラーベック力を本発明の巻取式真空蒸着装置に適用するには
いくつかの課題があった。本発明のように巻取式真空蒸着装置での密着力の作用は、主に
半導体成膜プロセスやガラス成膜プロセス等の静電チャックと比べ、搬送するシートが柔
軟性を持つ点、長尺のシートに対して連続的に密着力を作用させる点、高速で搬送される
シートに対して速やかに密着力を発現させる必要がある点が異なる。半導体成膜プロセス
やガラス成膜プロセスでは、ワークであるシリコンウェハやガラス基板と静電チャックと
は、印加電圧のオン/オフによりワークの脱着を行うが、本発明のように巻取式真空蒸着
装置では、シート案内面3と第1の薄膜13との間に電圧を印加した状態のまま、シート
の巻付点33でシートを密着させ、シートの剥離点32でシート1をシート案内面から剥
離させる。この剥離は、シート1に作用する張力によりシート案内面から剥離する。発明
者らの鋭意検討の結果、シート1が巻き付いた後に速やかに密着力を作用させ、かつスム
ーズにシート1をシート案内面3から剥離するには、比較的低い電圧で密着力が作用する
、絶縁体層20の体積抵抗が10〜1010[Ωcm]の範囲が好適であることを見出
した。この体積抵抗の絶縁体層20を適用することにより、シート案内面3の回転数が比
較的速い場合、例えば円筒状のシート案内面3が50[rpm]以上で回転する場合や、
シート1を100[m/分]以上の速度で搬送する場合においても、シート1をシート案
内面3に密着した状態で搬送することができ、熱負けや剥離時のシワ等の不具合を抑制す
るのに効果的である。さらに図1−1のシート案内面3の表面において、シート1が剥離
する点32からシートが巻き付き始める点33との間はシートが密着していないが、この
間は絶縁体層20の内部の電荷がシート案内面3側に漏洩してしまう。そして、巻付点3
3でシート1と密着し始めて第1の薄膜13とシート案内面3との間に印加された電圧に
より再び絶縁体層20の内部の電荷が誘導される。そのため巻付点33での密着力は比較
的弱く、巻付点33から成膜開始点30までシート1が搬送される間に、シート1とシー
ト案内面3との間の密着力は徐々に増加する。このことから、シート1から巻付点33よ
り下流で充分な密着力を発現させたり、剥離点32より下流で絶縁体層20の電荷が過剰
に漏洩させないためには、剥離点32から巻付点33までのシート案内面3の周方向の距
離はできるだけ短くし、剥離点32の下流でシート案内面3がシート1と接触していない
時間をできるだけ短くする方がよく、巻付点33から成膜開始点30間での周方向距離は
できるだけ長くし、成膜開始点30の上流でシート1がシート案内面3と接触している時
間をできるだけ長くする方がよい。本発明者らの知見によれば、具体的には、剥離点32
から巻付点33までのシート案内面3がシート1と接触していない時間を0.2[秒]以
内にすること、または剥離点32から巻付点33までのシート1がシート案内面3と接触
している時間を0.05秒以上にすることが好ましい。これをシート案内面3表面の周方
向の距離に換算すると、シート1の搬送速度をv[m/分]とした場合、巻付点33から
成膜開始点30までの周方向距離は0.05×v/60[m]以上が好ましく、また剥離
点32から巻付点33までの周方向距離は0.2×v/60[m]以下が好ましい。この
いずれの条件も満たさない場合、成膜領域でシート1とシート案内面3との密着力が十分
作用せず、シートが熱負けする場合がある。
【0057】
本発明において適用されるシート1として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエス
テルなどの高分子プラスチックフィルムを例示したが、特にシート1の厚みが10[μm
]以下のプラスチックフィルムは、比較的厚みが薄く熱容量が小さいことや、柔軟である
ことから、蒸着時の熱負荷で熱負けしやすい。
【0058】
また、シート1の厚みが10[μm]以下の場合、その柔軟性のため、シート案内面3
と第1の薄膜13との密着力によりシート案内面3に容易に巻き付きやすくなる。特に剥
離点32では、シート1がシート案内面3に密着したまま剥離できず、巻き付いてしまう
トラブルが起きやすい。このような不具合を防ぐために、図4に示すように、シート案内
面3上の剥離点32および巻付点33の近傍において、シート1が空中を搬送する距離が
短くなるように、シート剥離ローラ21およびシート送りローラ22を設けることが好ま
しい。このシート剥離ローラ21およびシート送りローラ22は、シート案内面3の近傍
に設置し、剥離点32および巻付点33の位置の変動を抑制する効果があるが、この効果
をより発揮させるために、このシート剥離ローラ21とシート案内面1との間、およびシ
ート送りローラ22とシート案内面1との間におけるシート1が空中を搬送されるシート
走行方向の長さを200[mm]以内とすることが好ましい。200[mm]より大きい
と、剥離点32が下流側にずれた場合でも、シート1のシート案内面3に対する剥離の角
度の変化が小さく、シートの張力が伝わりにくいため、シート1がシート案内面に巻き付
きやすくなる場合がある。さらにこのシート剥離ローラ21およびシート送りローラ22
へのシート1の巻き付き角を45[°]以上とすることが好ましい。巻き付き角が45[
°]より小さいと、シート1がシート剥離ローラ21およびシート送りローラ22上で滑
ってしまい、シート1にシワが発生してしまう恐れがある。また、このシート剥離ローラ
21およびシート送りローラ22にはシート1が巻き付かないように、電気的に絶縁させ
ることでシート1との間に密着力を作用させないようにすることが好ましい。この他、シ
ート1がシート案内面3に巻き付かないようにする対策として、シート案内面3の上流側
および下流側に、シート1の張力を調整可能な駆動ロールを設けることが好ましい。この
駆動ロールにより、巻付点33の上流側や剥離点32の下流側のシート1の張力を、シー
ト案内面3へのシート1の巻き付きが発生しない程度に適宜張力を調整することが好まし
い。
【0059】
また、シート案内面3と第1の薄膜13との間に電圧を印加した状態のままシートの密
着や剥離をさせる際に、特にシート1が柔軟である場合に巻付点33や剥離点32でシー
トがばたつく場合がある。このばたつきの際に、シート案内面3と第1の薄膜13との間
に電圧を印加する電気回路に急峻な電流の変化が起きるが、この電流変化を制限すること
によりシート1のばたつきを軽減できる場合がある。図1−1では第1の薄膜13とシー
ト案内面3との間に、直流電源15と直列に電流制限抵抗16を挿入している。本発明者
らの知見によれば、この回路に流れる電流を50[mA]以下に、さらに好ましくは10
[mA]以下に制限するように電流制限抵抗16の抵抗値を選定することが、シート1の
ばたつきを抑制するのに有効であった。
【0060】
また、本発明の課題である熱負けとは、プラスチックフィルム等のシート1が蒸着時の
熱負荷により溶けたり変形したりする現象のことを指すが、特にシート案内面3上でシー
ト1が熱負荷を受けて膨張や収縮をする変形や、その変形に伴うシワ発生のことを指す。
この熱負けの発生を抑えるには、シート1が熱負荷を受けた際に、シート1をシート案内
面3に密着させることにより、シート1を冷却すると共にシート1がシート案内面3上を
滑ろうとする動きを抑制することが最も有効な対策となる。
【0061】
このためのシート1とシート案内面3との密着力は、熱負荷によってシート1が熱負け
を起こさない十分な密着力であると同時に、シート1がシート案内面3から剥離する際に
、しわ等を伴わない程度に強すぎない範囲が必要となる。この密着力は絶縁体層20の体
積抵抗と印加電圧に依存するが、本発明のような円筒状のシート案内面3のように、比較
的広い接触面積において柔軟なシート1とシート案内面を密着させたまま搬送しようとす
る場合、シート案内面3上で密着力のムラがあると、シート1がシート案内面3から剥離
する際に剥離点32の位置が幅方向でずれてしまい、シート1がばたついたりシート1に
シワができる懸念がある。第1の薄膜13とシート案内面に印加する電圧は一律であるた
め、その密着力は主に絶縁体層20の体積抵抗に依存する。この体積抵抗がシート案内面
の周方向や幅方向において2倍よりも大きい違いがあると、密着力も2倍程度変わる場合
があり、前述のシートのばたつきやシワを発生させる恐れがあるため、シート案内面3の
周面に被覆する絶縁体層20のシート1と接触する領域における任意の2点の体積抵抗を
R1、R2(R1≦R2)としたとき、以下の式を満たすことが好ましい。
【0062】
1≦R2/R1≦2 (2)
【0063】
絶縁体層20の任意の点の体積抵抗の測定方法の概略を図5に示す。この図5に示すよ
うに、絶縁体層20の表面の測定したい部位に導電性の測定電極61を接触させ、抵抗測
定用直流電源62により電圧を印加することによって測定電極61とシート案内面3との
間に流れた電流を微小電流計63により測定する。この流れた電流をI[A]、測定用電
極とシート案内面との間に印加した電圧をV[V]測定用電極と絶縁体層との接触面積を
S[cm]、絶縁体層の厚みをt[cm]とすると、体積抵抗Rは次式(3)で求めら
れる。
【0064】
R=(V/I)×(S/t) [Ωcm] (3)
【0065】
また、シート1が熱負荷を受けたときにシート1を冷却することが必要となってくる。
一般的にシート案内面3の内部には冷却のための媒体が循環されている構造になっており
、その媒体を所望の温度に制御することで、シート1の冷却能力を調整しているが、絶縁
体層20での熱伝達が不足すれば、シート1が熱負けしやすくなる場合がある。そこで、
絶縁体層20に使用する材料の熱伝導率はできるだけ高い方がよく、また絶縁体層20の
厚みはできるだけ薄い方がよい。絶縁体層20の熱伝導率としては2[W/m・K]以上
が好ましい。また、絶縁体層20の厚み40〜200[μm]の範囲内であることが好ま
しい。40[μm]より薄い場合は、厚みのムラが目立つようになり、前述の抵抗ムラに
なる場合がある。あるいは電圧を印加する場合に絶縁体層20で絶縁破壊を起こし、絶縁
体層20に穴が空く恐れがある。絶縁体層20の厚みが200[μm]より厚い場合は、
熱伝達が不十分となりシート1が熱負けを起こす場合がある。
【0066】
前記絶縁体層20の材料としては、材料固有の熱伝導率や、被覆膜厚均一化のための加
工性の点からアルミナ(酸化アルミニウム)やジルコニア(酸化ジルコニウム)が好まし
い。特にアルミナを溶射法により形成することにより、比較的安価に前記特性を満足する
絶縁体層20が得られることから好ましい。しかしながらアルミナでは、体積抵抗が10
12〜1014[Ωcm]となり、本発明の10〜1011[Ωcm]の範囲内である
体積抵抗、さらに好ましくは10〜1010[Ωcm]の範囲の体積抵抗を得ることが
難しい。そこでアルミナを主成分とし、体積抵抗の比較的低い、マグネシア(酸化マグネ
シウム)、シリカ(酸化ケイ素)、クロミア(酸化クロム)、酸化カルシウムから選ばれ
る少なくとも一つを混合した材料から絶縁体層20を構成することが好ましい。また、体
積抵抗の比較的低いチタニア(酸化チタン)は溶射すると半導電性を示す材料であるため
、アルミナとチタニアを造粒した材料を溶射した皮膜は、皮膜の体積抵抗を10〜10
11[Ωcm]の範囲内に調整しやすく好適な材料である。例えばこのように混合あるい
は造粒した材料を溶射法により金属ロールからなるシート案内面3の周面に絶縁体層20
を形成することにより、本発明の体積抵抗の絶縁体層20を、(2)式で示される均一性
でシート案内面3の周面に形成することができる。
【0067】
また、蒸着する第1の薄膜13の材料としては、第1の薄膜13とシート案内面3との
間に電圧を印加して作用する両者間の密着力を利用するため、導電性または半導電性を示
す材料が好ましく、先に例示したようにアルミニウムや銅などの金属材料や、酸化アルミ
ニウムなどに代表される金属化合物が好適である。なおここで言う酸化アルミニウムとは
、前述の絶縁体層の材料として例示したアルミナとは異なり、任意の酸化度で酸素とアル
ミニウムが合成した化合物薄膜のことを指す。第1の薄膜13とシート案内面3との間に
、直流電源15により電圧を印加して作用する両者間の密着力を利用するには、第1の薄
膜13の表面抵抗が10[Ω/□]以下の範囲であることが好ましい。特に従来技術で
は、金属薄膜よりもシート案内面3に密着させるのが困難であった表面抵抗が10〜1
[Ω/□]の範囲内である半導電性の第1の薄膜13においても、前述のジャンセン
・ラーベック力はこのような半導電性の対象物に対しても密着力を作用させる効果があり
、本発明の絶縁体層20を設けることにより、シート案内面3と第1の薄膜13との間に
従来技術よりも強い密着力を作用する。そのため、このような半導電性の材料を両面に蒸
着する場合に特に有効となる。なお、第1の薄膜13の表面抵抗が10[Ω/□]より
大きい場合には密着力が弱くなり、シートに作用する張力や熱変形で作用するシート内の
応力が勝り、シートをシート案内面に密着させたまま搬送することが困難な場合が生じて
くる。
【0068】
このような半導電性の材料としては、金属蒸気雰囲気に酸素を導入してシート1の両面
に金属酸化物の第2の薄膜14および第1の薄膜13を設けるプロセスが、比較的成膜レ
ートが高く、蒸着時の熱負荷により熱負けしやすいプロセスであるため、高速化を目的と
して本発明を適用する用途として好適である。特に金属酸化物が酸化アルミニウムの場合
、工業的に高速の蒸着技術が確立されていることから、本発明の好適な対象である。酸化
アルミニウム薄膜を蒸着する場合、蒸着されていないシートの一方の表面に表面抵抗が1
〜10[Ω/□]の範囲内である第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着する場合は、
従来技術において成膜レートが600[nm/秒]以上とすることは可能であった。しか
しながら、さらにシートの他方の面にも第2の酸化アルミニウム薄膜14を形成する場合
に、600[nm/秒]以上とすることは従来技術では熱負けが発生しやすく困難であっ
たが、本発明の絶縁体層20を被覆したシート案内面3を使用し、シート案内面3と第1
の薄膜13との間に電圧を印加することにより、シート1とシート案内面3に密着力が作
用し、600[nm/秒]以上の成膜レートにおいても熱負けが発生しにくくなる。
【0069】
また薄膜が堆積する速度のパラメータとして、シートの搬送速度[m/分]と薄膜の膜
厚[nm]をかけた、ダイナミックレート[nm・m/分]というパラメータが用いられ
る場合があるが、酸化アルミニウム薄膜を成膜する場合、このダイナミックレートにおい
ては12000[nm・m/分]以上が本発明に好適な成膜条件となる。
【0070】
なお、シート案内面3と第1の薄膜13との間に印加する電圧は100[V]以上、4
00[V]以下が好ましい。印加電圧が100[V]より小さいと密着力が不充分となる
可能性があり、また400[V]より大きい場合には電圧を印加しているシート案内面3
や中間ローラ(巻取側)5、第1の薄膜13の周囲で火花放電やグロー放電などの異常放
電を発生する可能性がある。また剥離点32の近傍でシート案内面3と第1の薄膜13と
の間でも異常放電が発生する場合もある。異常放電が発生すると、印加した電圧が一時的
に低下し、密着力が不充分となり、部分的な熱負けを発生させる恐れがある。そのため、
連続的に搬送されるシート1とシート案内面3とを安定に密着させておくためにも、印加
電圧は400[V]以下、さらに好ましくは300[V]以下が好ましい。さらに絶縁体
層20の厚みが100[μm]より薄い場合には、シート案内面3と第1の薄膜13との
間に400[V]よりも大きな電圧を印加すると、両者に挟まれた絶縁体層20が絶縁破
壊を起こし、絶縁体層20の一部に穴が空く場合がある。絶縁体層20に穴が空くと、そ
の箇所に接触する第1の薄膜13とシート案内面3との間に局所的に電流が流れ、薄膜1
3にも放電傷などのダメージが残る場合がある。このような不具合を避けるためにも、絶
縁体層20の厚みが100[μm]より薄い場合の印加電圧は、絶縁体層20の厚み10
0μmあたりの印加電圧として400V/100μm以下、さらに好ましくは300V/
100μm以下が好ましい。例えば絶縁体層20の厚みが50[μm]の場合の印加電圧
は200[V]以下、さらに好ましくは150[V]以下が好ましい。
【0071】
上述した搬送手段を構成する円筒状ロールは、次のような絶縁体層20を備えることが
好ましい。すなわち、絶縁体層20は、アルミナ(酸化アルミニウム)とチタニア(酸化
チタン)とが混在したもので、体積抵抗が10〜1011Ωcm、厚みが40〜200
μmであり、更にチタン元素濃度が2.2〜4.0at%である。このようにチタン元素
濃度が2.2〜4.0at%であることにより、後述するようにチタン元素を比較的均一
に分散させることが可能になる。
【0072】
かかるアルミナとチタニアが混在した絶縁体層20の材料は、任意の粉末を適当な大き
さの粒子に凝集させて焼成し、分級した造粒粉から形成されている。このような造粒粉か
ら形成しているので、違う材料の粉体を混合した混合粉に比べ、均一に材料が分散し、絶
縁破壊に有利になる。このような絶縁体層20は、次のようなプラズマ溶射方法で行われ
る。すなわち、加工範囲(円筒状金属ロール胴部)にブラスト処理を行った後、プラズマ
溶射方法で施工する。膜厚が薄く数百Vの電圧に耐え得るためには、ムラがなくある程度
均一な膜圧で溶射加工する必要がある。そのためには回転台を用いて円筒状金属ロールを
ある一定の回転数(例えば20RPM)で回転させ、溶射ガンを、角度が円筒状金属ロー
ル胴部に対して直交する位置に取り付け、円筒状金属ロールの軸方向に一定速度(例えば
1.5mm/sec)でトラバースする。また、粉末供給量が一定になるように重力落下
式ホッパーを用いる。
【0073】
上記溶射工程の後、皮膜厚みが所定の膜厚にし、かつ表面を平滑にするために、円筒研
削を行う。砥石には、硬度の大きい1mm以下の粒径を持つ砥粒をボンドで固めて円盤状
にしたものを使用し、これを回転させ工作物表面に接触させて研削する。本発明の円筒状
ロールの研削には、円筒状ロールを軸心で固定し、円筒状ロールと砥石とを回転させなが
ら接触させて研削するが、砥石の周速は円筒状ロールの相対速度に比べて格段に速く設定
し、削り代も数μm程度と微小に設定することで、加工後の表面粗さを小さくすることが
可能となる。
【0074】
また、絶縁体層20の膜厚100μmあたりの絶縁破壊電圧が500V/100μm以
上であることが好ましい。これにより、絶縁破壊を起こさない安定した印加電圧条件で、
上述したジャンセン・ラーベック力を良好に発揮することができる。
【0075】
更に、円筒状ロールは、自身の円周方向と垂直に交わる絶縁体層20の任意の断面にお
いて、10μmを1辺とする正方形格子で区切った各領域におけるチタン元素濃度の標準
偏差が7.5%未満であり、かつ変動係数が2.0未満であることが好ましい。これによ
り、チタン元素を絶縁体層20内で比較的均一に分散させることができ、絶縁破壊電圧を
上述した数値以上にすることができるとともに、シート1を良好に冷却することも可能で
ある。
【0076】
また更に、絶縁体層20の表面や金属ロールの表面に鏡面加工を施すことが好ましく、
絶縁体層20の表面の面粗さRaが0.01〜0.1μmであり、かつ溶射加工前の金属
ロール表面の面粗さRaが1〜3μmの範囲内であることが好ましい。絶縁体層20の表
面の面粗さRaを0.01μmより小さく円筒研削をするには加工コストがかかる。また
0.1μmより大きいと、シート1との接触面積が十分確保できなくなり、局所的な熱負
けを発生させてしまう場合がある。また溶射加工前の金属ロール表面の面粗さRaが3μ
mより大きい場合は、溶射皮膜の厚みムラが大きくなり、局所的な絶縁破壊を起こしやす
くなる。また1μmより小さい場合は溶射皮膜と金属ロールとの接着強度が弱くなり、膜
剥がれを起こす場合がある。
【0077】
さらに図6には、本発明の絶縁体層を被覆したシート案内面を含む、巻取式両面蒸着装
置の一実施態様の概略断面図を示している。なお図6には主要部のみを示し、構造物を収
納する真空チャンバや中間ロールは省略してある。なお、図1−1と同一または同等の機
能を有する構成要素には同一番号を付け、詳細な説明を省略する。図6に示す巻取式両面
蒸着装置には、シート1と接触しながらシート1を搬送するシート案内面3や、シート案
内面3上のシート1に向かって金属蒸気を飛散させる坩堝7(蒸発源)が2式ずつ設けら
れている。このような装置において、まだ蒸着されていないシート1は、原反ロール体2
から連続的に繰り出され、絶縁体層を設けていない金属表面であるシート案内面3に巻き
付いた状態で搬送され、その途中で、坩堝7より蒸発した金属蒸気10と酸素ノズル17
から導入された酸素により、シート1表面に第1の金属酸化物薄膜13が形成される。そ
の後中間ローラを介して、絶縁体層20を表面に被覆された二つ目のシート案内面3に搬
送され、シート1の他方の面に第2の金属酸化物薄膜14が形成され、こうして両面に第
1の薄膜13および第2の薄膜14が蒸着されたシート1が、巻取ロール体6に巻き取ら
れる。このような両面蒸着装置の方が1つのプロセスで両面に蒸着できる利点があるが、
従来技術では、特にシート1の厚みが薄い場合や第2の薄膜14の厚みが厚い場合に第2
の薄膜の蒸着時で熱負けが発生しやすいため、第2の薄膜の蒸着で熱負けが発生しない程
度の遅い速度で蒸着することとなり、却って効率が悪い場合があった。そこで本発明の絶
縁体層20を周面に被覆したシート案内面3を第2の薄膜の蒸着に適用した図6の製造装
置により、両面蒸着装置の利点を生かせる場合がある。
【0078】
また以上のように説明した本発明の絶縁体層20を被覆したシート案内面3を、シート
1の両面に金属酸化物薄膜形成に適用することにより、例えば磁気テープ用のベースフィ
ルムに使用可能な、強度や寸法安定性を持つシートを得ることができる。
【実施例】
【0079】
本実施例で用いた測定法および熱負けの検出方法を下記に示す。
【0080】
(1)薄膜の厚み
下記条件にて断面観察を行い、得られた合計9点の厚み[nm]の平均値を算出し、金
属酸化物薄膜の厚み[nm]とした。
測定装置:透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA型 日立製
測定条件:加速電圧100[kV]
測定倍率:20万倍
試料調整:超薄膜切片法
観察面 :TD−ZD断面
測定回数:1視野につき3点、3視野を測定した。
【0081】
(2)薄膜の表面抵抗値
表面抵抗値の範囲によって、測定可能な装置が異なるため、まずi)の方法で測定を行
い、表面抵抗値が低すぎて測定不可能なサンプルをii)の方法で測定した。5回の測定
結果の平均値を本発明における表面抵抗値とした。
i)高抵抗率測定JIS−C2151(1990)に準拠し、下記測定装置を用いて測定
する。
測定装置:デジタル超高抵抗/微小電流計R8340 アドバンテスト(株)製
印加電圧:100[V]
印加時間:10秒間
測定単位:Ω
測定環境:温度23℃湿度65%RH
測定回数:5回測定する。
ii)低抵抗率測定
JIS−K7194(1994)に準拠し、下記測定装置を用いて測定する。
測定装置:ロレスターEP MCP−T360 三菱化学製
測定環境:温度23℃湿度65%RH
測定回数:5回測定する。
【0082】
(3)薄膜付シートの全光線透過率
スガ試験機株式会社製の”ヘーズコンピュータHZ−1”装置にて、サンプルをセット
して、全光線透過率を測定した。5回の測定を行い、その平均値を本発明における全光線
透過率とした。
【0083】
(4)シート案内面上の絶縁体層の体積抵抗
図5に示す方法で、下記条件で測定電極61、測定用直流電源62の条件を設定し、前
述の式(3)により、絶縁体層の周方向10点、軸方向5点の計50点の体積抵抗の分布
を測定した。測定用直流電源62および微小電流計63には、KEITHLEY社製エレ
クトロメータ6517Aを使用した。
・ 測定電極:厚み15[μm]のアルミニウム箔を3[cm]×3[cm]の正方形に
切り出して、絶縁体層の周面に密着するように、ビニルテープで固定した。
・ 印加電圧:500V(500Vで後述(8)の絶縁破壊現象が見られる場合は、絶縁
破壊が起きないところまで電圧を下げて、体積抵抗を測定する。)
【0084】
(5)シート案内面上の絶縁体層の被覆厚み
外側マイクロメータにより、絶縁体層を被覆する前のシート案内面の直径を円周方向に
2カ所、軸方向3カ所の計6カ所の直径を測定する。絶縁体層を被覆した後、同じ位置6
カ所の直径を測定し、被覆前後の直径の増分の平均から、絶縁体層の被覆厚みを求めた。
【0085】
なお、以下に説明する実施例と比較例とでは、図3および図9に示す巻取式真空蒸着装
置を使って、シート案内面の表面に本発明の絶縁体層を被覆して蒸着した場合(実施例1
〜実施例4)、絶縁体層を被覆しないで蒸着した場合(比較例1)、従来技術の絶縁体層
を被覆して蒸着した場合(比較例2)、絶縁体層がアルミナとチタニアの粉体を混合した
混合粉から形成されたもので、当該絶縁体層の体積抵抗、チタン元素濃度、チタン元素濃
度の変動係数が本願の範囲から逸脱する場合(比較例3)、絶縁体層の体積抵抗、チタン
元素濃度、チタン元素濃度の標準偏差及び変動係数が本願の範囲から逸脱する場合(比較
例4)において、第2の酸化アルミニウム薄膜を蒸着した事例を比較している。
【0086】
(6)熱負けの検出方法
蒸着を完了したシートが平面光源の前を通過するように数[m/分]の速度で走行させ
、シートを通過する平面光源の光を観察しながらシートの色ムラやシワを目視で観察する
。シートは100[m]の長さ分を観察する。周囲に対して局所的に色の濃い部分(透過
率の低い部分)や薄い部分(透過率の高い部分)を切り出す。切り出したシート片を静か
に机上に置き、色の濃い部分や薄い部分を起点としたシワ状のシート変形があれば、熱負
けと判断する。
【0087】
(7)絶縁体層のチタン元素の分散の測定等
SEM−EDX法(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)により、溶射皮
膜の断面の面分析を行い、チタン元素分布のみを抽出した断面写真を撮影した。試料には
、溶射皮膜を被覆したサンプルを湿式切断機で適切なサイズに切断し、エポキシ樹脂にて
樹脂包埋後、観察面が鏡面となるように湿式研磨したものを使用する。SEMには日本電
子社製JSM5600Vを使用し、またEDXにはオックスフォードインストゥルメンツ
社製INCAEnergyを使用した。この写真ではチタン元素部分が白く映り、それ以
外の元素は暗く映っている。この写真のうち、円周方向250μmの絶縁体層領域の画像
を抜き出し、グレースケールモードで保存した。このときの画像の円周方向250μmは
220画像分に相当した。この画像を画像処理ソフトMatrox Inspector Ver.2.2で読み
とり、この画像を2階調化しモノクロ画像を得る(図11及び図12参照、図11は[実
施例2]、図12は[比較例3])。この時、2階調化した後の画像の白色部分(チタン
元素)の比率が先のEDX法で検出したチタン元素比率と同じになるように2階調化の閾
値を設定する。この画像の端部から10μm×10μmの領域を抽出し、同様に白画像領
域の比率を算出した。この作業を絶縁体層画像の全てに亘って行った。この白色画像比率
の平均[%]、標準偏差[%]及び標準偏差を平均値で割った変動係数を算出した。この
標準偏差及び変動係数は、絶縁体層内に存在するチタン元素の分散度合いを示すパラメー
タであり、この値が小さいと、チタン元素が絶縁体層内に比較的均一に存在していること
を意味する。
【0088】
(8)絶縁体層の絶縁破壊電圧
図5に示す方法で、下記条件で測定電極61を固定し、測定用直流電源62の条件を設
定し、絶縁体層の周方向10点、軸方向5点の計50点における絶縁体層の流れる電流を
測定した。測定用直流電流62及び微小電流計63には、KEITHLEY社製エレクト
ロメータ6517Aを使用した。各測定個所で電圧を100Vずつ上げていき、電流測定
表示が1mA以上流れた場合、あるいは「Overflow」と表示された場合に、その
個所は絶縁性が維持できておらず、絶縁破壊していると判断した。
・測定電極:厚み15[μm]のアルミニウム箔を3[cm]×3[cm]の正方形に切
り出して、絶縁体層の周面に密着するように、ビニルテープで固定した。
・印加電圧:100V〜500V(100V刻みで増大させる)
・ 測定個所:周方向に4個所、軸方向に5個所で合計20個所
【0089】
(9)溶射前の金属ロール、および溶射後の円筒状ロールの表面粗さ
接触式面粗度計を用い、JIS B0633(2001)で規定される基準長さ、評価
長さで、ブラスト処理した後の溶射加工前の金属ロールの表面粗さ、および溶射加工し円
筒研削加工した後の円筒状ロールの表面粗さを測定した。測定器には東京精密社製小型表
面粗さ形状測定機サーフコム130Aを使用し、円筒状ロールの周方向に4箇所、軸方向
に3箇所、合計12箇所を測定した。
【0090】
[実施例1]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真空蒸着
装置を用いて他方の面にも酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で蒸着した。な
お、図9は従来技術の絶縁体層を被覆していない金属製のシート案内面と第1の薄膜13
との間に電圧を印加する蒸着方法を示した概略図である。
【0091】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0092】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0093】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0094】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナとクロミアの混合物
・被覆膜厚:102[μm]
・体積抵抗:2.6×10〜3.3×10[Ωcm]
【0095】
(金属酸化物薄膜の形成)
既に一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着済みのフィルムロールを図3の原反
ロール体2にセットし、中間ローラ4、シート案内面3、中間ローラ5にフィルムを沿わ
せて、巻取ロール体6にフィルム端部を貼り付けセットした。装置にはシート搬送方向に
150[mm]、シート幅方向に1500[mm]の容積部分をもつアルミナ製の坩堝7
が、坩堝7の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8
としてアルミニウムを20[kg]セットした。その後、蒸着機の巻取室41aおよび成
膜室41bを減圧し、成膜室41bの真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。そ
の後、シャッター部材51を閉じた状態で電子銃加熱方式で坩堝7内のアルミニウムを溶
かした。投入した電力は75[kW]であった。アルミニウム材料が全て溶融したことを
確認した後、電子銃の電力量を微調整し約65[kW]にした。原反ロール体2の張力を
140[N]、巻取ロール体6の張力を140[N]に設定し、シート案内面3と中間ロ
ーラ4、5の速度設定により150[m/分]の速度でフィルムの搬送を開始した。その
後シャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸着を行った。この状態で成膜室41
bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その後、ルツボのシート搬送方向に関す
る上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入量を増やし28[l/分]とした。
酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.5×10−2[Pa]となった。この状
態で11000[m]分のフィルム巻取搬送を搬送速度150[m/分]で行い第2の酸
化アルミニウム薄膜を形成した。その後、シャッター部材51を閉側にして酸素導入を止
め、蒸発源加熱用の電子銃への電力供給を切った。そして搬送速度を5[m/分]まで下
げ巻取室41aおよび成膜室41bの放圧を行った。
【0096】
こうして成膜した第2の酸化アルミニウム薄膜のシート幅方向の平均膜厚は95[nm
]、表面抵抗値は2.7×10[Ω/□]であった。また成膜後のフィルムにシワ状の
熱負けは見られなかった。なおこのときの成膜レートを前述の各条件から計算すると、6
80[nm/秒]となる。
【0097】
[実施例2]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真空蒸着
装置を用いて他方の面にも酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で蒸着した。な
お、図9は従来技術の絶縁体層を被覆していない金属製のシート案内面と第1の薄膜13
との間に電圧を印加する蒸着方法を示した概略図である。
【0098】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0099】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0100】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0101】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナとチタニアの造粒粉材料(チタニアの比率:10.1wt%

・被覆膜厚:102[μm]
・体積抵抗:2.8×10〜3.6×10[Ωcm]
・チタン元素濃度(SEM−EDX法):3.6at%
・チタン元素濃度の標準偏差(図10参照):6.5
・チタン元素濃度の変動係数:1.8
・絶縁破壊電圧:500V以上
・表面粗さ(Ra):0.07μm
・溶射前の金属ロール表面粗さ(Ra):2.3μm
【0102】
(金属酸化物薄膜の形成)
既に一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着済みのフィルムロールを図3の原反
ロール体2にセットし、中間ローラ4、シート案内面3、中間ローラ5にフィルムを沿わ
せて、巻取ロール体6にフィルム端部を貼り付けセットした。装置にはシート搬送方向に
150[mm]、シート幅方向に1500[mm]の容積部分をもつアルミナ製の坩堝7
が、坩堝7の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8
としてアルミニウムを20[kg]セットした。その後、蒸着機の巻取室41aおよび成
膜室41bを減圧し、成膜室41bの真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。そ
の後、シャッター部材51を閉じた状態で電子銃加熱方式で坩堝7内のアルミニウムを溶
かした。投入した電力は75[kW]であった。アルミニウム材料が全て溶融したことを
確認した後、電子銃の電力量を微調整し約65[kW]にした。原反ロール体2の張力を
140[N]、巻取ロール体6の張力を140[N]に設定し、シート案内面3と中間ロ
ーラ4、5の速度設定により150[m/分]の速度でフィルムの搬送を開始した。その
後シャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸着を行った。この状態で成膜室41
bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その後、ルツボのシート搬送方向に関す
る上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入量を増やし28[l/分]とした。
酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.5×10−2[Pa]となった。この状
態で11000[m]分のフィルム巻取搬送を搬送速度150[m/分]で行い第2の酸
化アルミニウム薄膜を形成した。その後、シャッター部材51を閉側にして酸素導入を止
め、蒸発源加熱用の電子銃への電力供給を切った。そして搬送速度を5[m/分]まで下
げ巻取室41aおよび成膜室41bの放圧を行った。
こうして成膜した第2の酸化アルミニウム薄膜のシート幅方向の平均膜厚は93[nm]
、表面抵抗値は2.4×10[Ω/□]であった。また成膜後のフィルムにシワ状の熱
負けは見られなかった。なおこのときの成膜レートを前述の各条件から計算すると、66
4[nm/秒]となる。
【0103】
[実施例3]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真空蒸着
装置を用いて他方の面にも酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で蒸着した。な
お、図9は従来技術の絶縁体層を被覆していない金属製のシート案内面と第1の薄膜13
との間に電圧を印加する蒸着方法を示した概略図である。
【0104】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0105】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0106】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0107】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナとチタニアの造粒粉材料(チタニアの比率:8.7wt%)
・被覆膜厚:48[μm]
・体積抵抗:6.8×1010〜9.5×1010[Ωcm]
・チタン元素濃度(SEM−EDX法):2.5at%
・チタン元素濃度の標準偏差(図11参照):4.4
・チタン元素濃度の変動係数:1.8
・絶縁破壊電圧:500V以上
・表面粗さ(Ra):0.07μm
・溶射前の金属ロール表面粗さ(Ra):2.5μm
【0108】
(金属酸化物薄膜の形成)
既に一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着済みのフィルムロールを図3の原反
ロール体2にセットし、中間ローラ4、シート案内面3、中間ローラ5にフィルムを沿わ
せて、巻取ロール体6にフィルム端部を貼り付けセットした。装置にはシート搬送方向に
150[mm]、シート幅方向に1500[mm]の容積部分をもつアルミナ製の坩堝7
が、坩堝7の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8
としてアルミニウムを20[kg]セットした。その後、蒸着機の巻取室41aおよび成
膜室41bを減圧し、成膜室41bの真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。そ
の後、シャッター部材51を閉じた状態で電子銃加熱方式で坩堝7内のアルミニウムを溶
かした。投入した電力は75[kW]であった。アルミニウム材料が全て溶融したことを
確認した後、電子銃の電力量を微調整し約65[kW]にした。原反ロール体2の張力を
140[N]、巻取ロール体6の張力を140[N]に設定し、シート案内面3と中間ロ
ーラ4、5の速度設定により150[m/分]の速度でフィルムの搬送を開始した。その
後シャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸着を行った。この状態で成膜室41
bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その後、ルツボのシート搬送方向に関す
る上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入量を増やし28[l/分]とした。
酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.5×10−2[Pa]となった。この状
態で11000[m]分のフィルム巻取搬送を搬送速度150[m/分]で行い第2の酸
化アルミニウム薄膜を形成した。その後、シャッター部材51を閉側にして酸素導入を止
め、蒸発源加熱用の電子銃への電力供給を切った。そして搬送速度を5[m/分]まで下
げ巻取室41aおよび成膜室41bの放圧を行った。こうして成膜した第2の酸化アルミ
ニウム薄膜のシート幅方向の平均膜厚は97[nm]、表面抵抗値は2.7×10[Ω
/□]であった。また成膜後のフィルムにシワ状の熱負けは見られなかった。なおこのと
きの成膜レートを前述の各条件から計算すると、693[nm/秒]となる。
【0109】
[実施例4]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真空蒸着
装置を用いて他方の面にも酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で蒸着した。な
お、図9は従来技術の絶縁体層を被覆していない金属製のシート案内面と第1の薄膜13
との間に電圧を印加する蒸着方法を示した概略図である。
【0110】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0111】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0112】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0113】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナとチタニアの造粒粉材料(チタニアの比率:14.0wt%

・被覆膜厚:178[μm]
・体積抵抗:3.8×10〜7.1×10[Ωcm]
・チタン元素濃度(SEM−EDX法):3.9at%
・チタン元素濃度の標準偏差(図12参照):5.3
・チタン元素濃度の変動係数:1.4
・絶縁破壊電圧:500V以上
・表面粗さ(Ra):0.07μm
・溶射前の金属ロール表面粗さ(Ra):2.6μm
【0114】
(金属酸化物薄膜の形成)
既に一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着済みのフィルムロールを図3の原反
ロール体2にセットし、中間ローラ4、シート案内面3、中間ローラ5にフィルムを沿わ
せて、巻取ロール体6にフィルム端部を貼り付けセットした。装置にはシート搬送方向に
150[mm]、シート幅方向に1500[mm]の容積部分をもつアルミナ製の坩堝7
が、坩堝7の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8
としてアルミニウムを20[kg]セットした。その後、蒸着機の巻取室41aおよび成
膜室41bを減圧し、成膜室41bの真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。そ
の後、シャッター部材51を閉じた状態で電子銃加熱方式で坩堝7内のアルミニウムを溶
かした。投入した電力は75[kW]であった。アルミニウム材料が全て溶融したことを
確認した後、電子銃の電力量を微調整し約65[kW]にした。原反ロール体2の張力を
140[N]、巻取ロール体6の張力を140[N]に設定し、シート案内面3と中間ロ
ーラ4、5の速度設定により150[m/分]の速度でフィルムの搬送を開始した。その
後シャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸着を行った。この状態で成膜室41
bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その後、ルツボのシート搬送方向に関す
る上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入量を増やし28[l/分]とした。
酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.5×10−2[Pa]となった。この状
態で11000[m]分のフィルム巻取搬送を搬送速度150[m/分]で行い第2の酸
化アルミニウム薄膜を形成した。その後、シャッター部材51を閉側にして酸素導入を止
め、蒸発源加熱用の電子銃への電力供給を切った。そして搬送速度を5[m/分]まで下
げ巻取室41aおよび成膜室41bの放圧を行った。こうして成膜した第2の酸化アルミ
ニウム薄膜のシート幅方向の平均膜厚は92[nm]、表面抵抗値は2.2×10[Ω
/□]であった。また成膜後のフィルムにシワ状の熱負けは見られなかった。なおこのと
きの成膜レートを前述の各条件から計算すると、657[nm/秒]となる。
【0115】
[比較例1]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後同じく図9に示す巻
取式真空蒸着装置を用いて他方の面にも第2の酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着
条件で蒸着した。
【0116】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0117】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0118】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・表面にはハードクロムメッキ処理
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0119】
(金属酸化物薄膜の形成)
既に一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着済みのフィルムロールを図9の原反
ロール体2にセットし、中間ローラ4、シート案内面3、中間ローラ5にフィルムを沿わ
せて、巻取ロール体6にフィルム端部を貼り付けセットした。装置にはシート搬送方向に
150[mm]、シート幅方向に1500[mm]の容積部分をもつアルミナ製の坩堝7
が、坩堝7の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8
としてアルミニウムを20[kg]セットした。その後、蒸着機の巻取室41aおよび成
膜室41bを減圧し、成膜室41bの真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。そ
の後、シャッター部材51を閉じた状態で電子銃加熱方式で坩堝7内のアルミニウムを溶
かした。投入した電力は75[kW]であった。アルミニウム材料が全て溶融したことを
確認した後、電子銃の電力量を微調整し約65[kW]にした。原反ロール体2の張力を
140[N]、巻取ロール体6の張力を140[N]に設定し、シート案内面3と中間ロ
ーラ4、5の速度設定により150[m/分]の速度でフィルムの搬送を開始した。その
後シャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸着を行った。この状態で成膜室41
bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その後、ルツボのシート搬送方向に関す
る上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入量を増やし28[l/分]とした。
酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.5×10−2[Pa]となった。この状
態で蒸着後のフィルムの搬送状態を図示していない覗き窓で観察すると、フィルムの全幅
において顕著なシワ状の熱負けが観測されたためシャッター部材51を閉側にして一旦蒸
着を終了した。その後、電子銃の電力量を調整し約45[kW]にし、シートの搬送速度
を70[m/分]に設定した後、再びシャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸
着を行った。この状態で成膜室41bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その
後、ルツボのシート搬送方向に関する上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入
量を増やし8[l/分]とした。酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.2×1
−2[Pa]となった。10000[m]分のフィルム巻取搬送を搬送速度70[m/
分]で行い第2の酸化アルミニウム薄膜を形成した。その後、シャッター部材51を閉側
にして酸素導入を止め、蒸発源加熱用の電子銃への電力供給を切った。そして搬送速度を
5[m/分]まで下げ巻取室41aおよび成膜室41bの放圧を行った。
【0120】
こうして成膜した第2の酸化アルミニウム薄膜のシート幅方向の平均膜厚は75[nm
]、表面抵抗値は3.3×10[Ω/□]であった。また成膜後のフィルムには、弱い
シワ状の熱負けが見られた。なおこのときの成膜レートを前述の各条件から計算すると、
180[nm/秒]となる。
【0121】
[比較例2]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真
空蒸着装置を用いて他方の面にも第2の酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で
蒸着した。
【0122】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0123】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0124】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:400[V]
【0125】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナ
・被覆膜厚:110[μm]
・体積抵抗:5.9×1012〜2.1×1013[Ωcm]
・絶縁破壊電圧:500V以上
・表面粗さ(Ra):0.09μm
・溶射前の金属ロール表面粗さ(Ra):5.4μm
【0126】
(金属酸化物薄膜の形成)
既に一方の面に第1の酸化アルミニウム薄膜を蒸着済みのフィルムロールを図3の原反
ロール体2にセットし、中間ローラ4、シート案内面3、中間ローラ5にフィルムを沿わ
せて、巻取ロール体6にフィルム端部を貼り付けセットした。装置にはシート搬送方向に
150[mm]、シート幅方向に1500[mm]の容積部分をもつアルミナ製の坩堝7
が、坩堝7の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8
としてアルミニウムを20[kg]セットした。その後、蒸着機の巻取室41aおよび成
膜室41bを減圧し、成膜室41bの真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。そ
の後、シャッター部材51を閉じた状態で電子銃加熱方式で坩堝7内のアルミニウムを溶
かした。投入した電力は75[kW]であった。アルミニウム材料が全て溶融したことを
確認した後、電子銃の電力量を微調整し約65[kW]にした。原反ロール体2の張力を
140[N]、巻取ロール体6の張力を140[N]に設定し、シート案内面3と中間ロ
ーラ4、5の速度設定により150[m/分]の速度でフィルムの搬送を開始した。その
後シャッター部材51を開側にして、アルミニウム蒸着を行った。この状態で成膜室41
bの圧力は2.0×10−2[Pa]であった。その後、ルツボのシート搬送方向に関す
る上流側および下流側の酸素ノズル17から酸素導入量を増やし28[l/分]とした。
酸素を導入するに従い成膜室41bの圧力は2.5×10−2[Pa]となった。この状
態で蒸着後のフィルムにはやや弱いがシワ状の熱負けが観測されたため、シャッター部材
51を開側にしたまま、電子銃の電力量を調整し約53[kW]にし、シートの搬送速度
を110[m/分]に設定し、酸素導入量を18[l/分]としたところ、熱負けが観測
されなくなった。この状態で成膜室41bの圧力は2.3×10−2[Pa]であった。
この状態で10000[m]分のフィルム巻取搬送を搬送速度100[m/分]で行い第
2の酸化アルミニウム薄膜を形成した。
【0127】
こうして成膜した第2の酸化アルミニウム薄膜のシート幅方向の平均膜厚は75[nm
]、表面抵抗値は4.0×10[Ω/□]であった。また成膜後のフィルムの長手方向
には、シート案内面の円周と同じ周期で部分的に熱負けが見られた。なおこのときの成膜
レートを前述の各条件から計算すると、360[nm/秒]となる。
【0128】
[比較例3]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真空蒸着
装置を用いて他方の面にも酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で蒸着した。
【0129】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0130】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0131】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0132】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナとチタニアの混合粉材料(チタニアの比率:5.2wt%)
・被覆膜厚:105[μm]
・体積抵抗:8.5×1011〜2.5×1012[Ωcm]
・チタン元素濃度(SEM−EDX法):2.1at%
・チタン元素濃度の標準偏差(図13参照):5.2
・チタン元素濃度の変動係数:2.5
・絶縁破壊電圧:200V以下
・表面粗さ(Ra):0.07μm
・溶射前の金属ロール表面粗さ(Ra):2.6μm
【0133】
(金属酸化物薄膜の形成)
200V以下で絶縁破壊が見られたため、金属酸化物薄膜の形成には至らなかった。
【0134】
[比較例4]
シートとして、厚さ5[μm]、幅1100[mm]のポリエチレンテレフタレートフ
ィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)に、図9に示す巻取式真空蒸着装置を用い、まず
フィルムの一方の面に酸化アルミニウム薄膜を蒸着し、その後図3に示す巻取式真空蒸着
装置を用いて他方の面にも酸化アルミニウム薄膜を、以下に示す蒸着条件で蒸着した。
【0135】
(第1の酸化アルミニウム薄膜)
・薄膜材料:酸化アルミニウム膜
・膜厚:60[nm]
・光線透過率:25[%]
・表面抵抗:2.3×10[Ω/□]
【0136】
(第2の酸化アルミニウム薄膜の蒸着条件)
・蒸発源の容器:アルミナ製ルツボ
・蒸発源加熱方式:電子銃による加熱
・蒸発材料 :アルミニウム
・蒸発源のルツボとシート案内面との最短距離:450[mm]
・フィルム搬送方向のマスク開口長:350[mm]
・フィルム幅方向のマスク開口長:1000[mm]
・酸素ノズル:図3に示す位置に、Φ2[mm]の穴が20[mm]ピッチの等間隔でシ
ート幅方向に配列したノズルを、蒸発源に対しシート搬送方向の上流および下流側に各1
式を設置した。
【0137】
(シート案内面条件)
図3に示すように円筒形のシート案内面を使用した。このシート案内面の内部には、シ
ート案内面の表面の温度を調整するための媒体が循環され、装置外部の冷媒循環装置から
一定温度の媒体が導入されている。各条件は以下の通り。
・円筒形シート案内面の直径:1000[mm]
・シート案内面内部に流す媒体温度:−20[℃]
・シート案内面と薄膜との間の印加電圧:200[V]
・シート案内面と薄膜との間の電流制限抵抗:100[kΩ]
【0138】
(絶縁体層条件)
上記シート案内面の周面に下記条件の絶縁体層をプラズマ溶射法にて被覆した。
・絶縁体層の材料:アルミナとチタニアの造粒粉材料(チタニアの比率:16wt%)
・被覆膜厚:210[μm]
・体積抵抗:2.5×10〜4.9×10[Ωcm]
・チタン元素濃度(SEM−EDX法):4.2at%
・チタン元素濃度の標準偏差(図14参照):9.6
・チタン元素濃度の変動係数:2.3
・絶縁破壊電圧:200V以下
・表面粗さ(Ra):0.07μm
・溶射前の金属ロール表面粗さ(Ra):1.5μm
【0139】
(金属酸化物薄膜の形成)
100V以下で絶縁破壊が見られたため、金属酸化物薄膜の形成には至らなかった。
【0140】
以上に説明したように、膜厚75〜95[nm]の第2の酸化アルミニウム薄膜を成膜
する蒸着において、実施例1では搬送速度150[m/分]においてもフィルムに部分的
な熱負けは発生せず蒸着できた。一方、比較例1ではシワ状の熱負けが発生したため、速
度を70[m/分]に下げたが、それでも弱いシワ状の熱負けが発生した。また比較例2
では、搬送速度100[m/分]において蒸着できたものの、成膜後のフィルムに部分的
な熱負けが発生した。
【0141】
また、実施例2〜4、および比較例3〜4の結果、アルミナとチタニアが混在した溶射
皮膜において、溶射材料(造粒粉の選択)およびチタニアの濃度の適正化により、絶縁破
壊せず、密着力が十分に発揮する条件を見いだした。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、プラスチックフィルムの両面に薄膜を形成する真空蒸着に非常に好適である
が、紙や金属箔等のウェブの真空蒸着などにも応用でき、その応用範囲が、これらに限ら
れるものではない。
【符号の説明】
【0143】
1 シート
2 原反ロール体
3 シート案内面
4 中間ローラ(巻出側)
5 中間ローラ(巻取側)
6 巻取ロール体
7 坩堝(蒸発源)
8 蒸着材料
10 蒸気
11a 幅方向マスク
11b 走行方向マスク
12 開口部
13 第1の薄膜
14 第2の薄膜
15 直流電源
16 電流制限抵抗
17 酸素ノズル
18 酸素供給配管
20 絶縁体層
21 シート剥離ローラ
22 シート送りローラ
24 隔壁
25 シート搬送方向
26 シートの成膜領域
30 成膜開始点
31 成膜終了点
32 剥離点
33 巻付点
41 減圧室
41a 巻取室
41b 成膜室
42 真空ポンプ
42a 巻取室用真空ポンプ
42b 成膜室用真空ポンプ
43 バルブ
44 ガスボンベ
45 減圧弁
46 ガス流量調整器
51 シャッタ部材
61 測定用電極
62 抵抗測定用直流電源
63 微小電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下において、一方の表面に第1の薄膜が形成されているシートを円筒状ロー
ルの表面に接触させ、前記円筒状ロールの回転運動に伴って搬送されている前記シートの
他方の表面上に、蒸発材料を溶融させた蒸発源から前記シートに向けて金属蒸気を飛来さ
せ、前記シート上に連続的に第2の薄膜を形成する薄膜付シートの製造方法であって、前
記円筒状ロールとして該円筒状ロールの表面に体積抵抗が10〜1011Ωcmの範囲
内である絶縁体層を被覆したものを用い、前記第1の薄膜が形成されている面と前記円筒
状ロールとの間に100〜400Vの範囲内の電圧を印加して、前記シートの他方の表面
に第2の薄膜を形成することを特徴とする薄膜付シートの製造方法。
【請求項2】
前記円筒状ロールとして、該円筒状ロールの表面に被覆された前記絶縁体層の厚みが4
0〜200μmの範囲内にあるものを用いることを特徴とする請求項1に記載の薄膜付シ
ートの製造方法。
【請求項3】
前記シートの厚みが10μm以下であり、前記シートの搬送速度が100m/分以上で
あることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄膜付シートの製造方法。
【請求項4】
前記第1の薄膜が金属化合物薄膜であり、前記金属化合物薄膜の表面抵抗が10〜1
Ω/□の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の薄膜付
シートの製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物薄膜が酸化アルミニウムであり、成膜レートが600nm/秒以上であ
ることを特徴とする請求項4に記載の薄膜付シートの製造方法。
【請求項6】
減圧室と、該減圧室内に、シートと接触しながら前記シートを搬送する円筒状ロールを
有し、前記円筒状ロールの回転運動に伴って前記シートを搬送する搬送手段と、前記円筒
状ロール上の前記シートに向かって金属蒸気を飛散させる蒸発源と、前記シートと前記円
筒状ロールとの間に電位差を発生させる電位差発生手段とを備え、搬送される前記シート
に連続的に薄膜を形成する薄膜付シートの製造装置であって、前記円筒状ロールは、円筒
状の金属胴体部の周面に絶縁体層を被覆して構成されたものであり、前記絶縁体層の体積
抵抗が10〜1011Ωcmの範囲内であることを特徴とする薄膜付シートの製造装置

【請求項7】
前記絶縁体層のシートと接触する領域における任意の2点の体積抵抗をR1、R2(R
1≦R2)としたとき、以下の式を満たすことを特徴とする請求項6に記載の薄膜付シー
トの製造装置。
1≦R2/R1≦2
【請求項8】
前記絶縁体層の厚みが40〜200μmの範囲内であることを特徴とする請求項6また
は請求項7に記載の薄膜付シートの製造装置。
【請求項9】
前記シートが前記円筒状ロールの直前および直後のガイドロールと前記円筒状ロールと
の間のシート搬送距離がいずれも200mm以内であり、かつ前記シートが前記ガイドロ
ールと接する面が、前記円筒状ロールと接する面の逆面であることを特徴とする請求項6
〜8のいずれか一つに記載の薄膜付シートの製造装置。
【請求項10】
前記電位差発生手段において、前記シートと前記円筒状ロールとの間に流れる電流を5
0mA以下に制限する電流抑制回路が含まれることを特徴とする請求項6〜9のいずれか
一つに記載の薄膜付シートの製造装置。
【請求項11】
前記絶縁体層が、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸
化クロム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも一つを混合した材
料から構成することを特徴とする請求項6〜10のいずれか一つに記載の薄膜付シートの
製造装置。
【請求項12】
内部に媒体を循環する構造を備えた円筒状金属ロールの表面に、酸化アルミニウムと酸
化チタンとが混在した絶縁体層を備え、前記絶縁体層の表面に長尺のシートを接触させな
がら回転運動に伴って搬送する円筒状ロールであって、
前記絶縁体層は、体積抵抗が10〜1011Ωcm、厚みが40〜200μm、並び
にチタン元素濃度が2.2〜4.0at%であることを特徴とする円筒状ロール。
【請求項13】
前記表面の任意位置における絶縁体層の膜厚100μmあたりの絶縁破壊電圧が500
V/100μm以上であることを特徴とする請求項12に記載の円筒状ロール。
【請求項14】
自身の円周方向と垂直に交わる前記絶縁体層の任意の断面において、10μmを1辺と
する正方形格子で区切った各領域におけるチタン元素濃度の標準偏差が7.5%未満であ
り、かつ変動係数が2.0未満であることを特徴とする請求項12または請求項13に記
載の円筒状ロール。
【請求項15】
前記絶縁体層表面の面粗さRaが0.01〜0.1μmであり、かつ前記金属ロール表
面の面粗さRaが1〜3μmの範囲内であることを特徴とする請求項12〜14のいずれ
か一つに記載の円筒状ロール。
【請求項16】
減圧室と、該減圧室内に、シートと接触しながら前記シートを搬送する円筒状ロールを
有し、前記円筒状ロールの回転運動に伴って前記シートを搬送する搬送手段と、前記円筒
状ロール上の前記シートに向かって金属蒸気を飛散させる蒸発源と、前記シートと前記円
筒状ロールとの間に電位差を発生させる電位差発生手段とを備え、搬送される前記シート
に連続的に薄膜を形成する薄膜付シートの製造装置であって、前記円筒状ロールが請求項
12〜15のいずれかに記載の円筒状ロールであることを特徴とする薄膜付シートの製造
装置。
【請求項17】
減圧雰囲気下において、一方の表面に第1の薄膜が形成されているシートを円筒状ロー
ルの表面に接触させ、前記円筒状ロールの回転運動に伴って搬送されている前記シートの
他方の表面上に、蒸発材料を溶融させた蒸発源から前記シートに向けて金属蒸気を飛来さ
せ、前記シート上に連続的に第2の薄膜を形成する薄膜付シートの製造方法であって、前
記円筒状ロールとして請求項12〜15のいずれかに記載の円筒状ロールを用い、前記第
1の薄膜が形成されている面と前記円筒状ロールとの間に100〜400Vの範囲内の電
圧を印加して、前記シートの他方の表面に第2の薄膜を形成することを特徴とする薄膜付
シートの製造方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−242217(P2010−242217A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55133(P2010−55133)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】