説明

薄膜塗工装置

【課題】膜厚が50nm〜200nm程度の薄膜を均一に塗工することを可能とする薄膜塗工装置の提供を目的とする。
【解決手段】搬送されてくるウェブ状の被塗工基材の表面に塗工液の塗膜を塗工するための塗工ロールを具備すると共に、この塗工ロールによって塗工された塗膜の表面部分に当接しながら被塗工基材の走行方向に対して逆の方向にリバース回転し、塗膜の表面を均しながら余剰の塗工液を除去し、薄膜化するためのリバースロールとを少なくとも具備することを特徴とする薄膜塗工装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば膜厚が50nm〜200nm程度の薄膜を均一に塗工することを可能とする薄膜塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗工基材上に塗工液の塗膜を形成するための塗工方法としては、グラビア方式、ロッドコート方式、リバースロールコート方式、リバースグラビア方式などが挙げられる。
【0003】
グラビア方式に係る塗工方法は、グラビアロールの各セル内に充填されている塗工液を被塗工基材上に転移させる方法であるため、セルパターンが塗工面に残ってしまうという欠点を有している。この問題は塗工液の濃度や粘度の調整によるレベリング性の改善だけでは解消せず、均一な塗膜や平滑な塗工面を得ることが難しい。また、薄い塗膜を塗工する場合にはスムージングも困難なため良好な塗工面を得ることはより難しい。
【0004】
グラビア方式に係る塗工方法においては、塗工量はグラビアロールに設けられているセルのセル容積で決まる。例えば、非常に細かい250L/インチ程度のセルを有するグラビアロールを用いた塗工では、ウェット時の塗工量で数μm程度である。
【0005】
塗工液の固形分を下げれば、ウェット時の塗布量が数μmであってもドライ時の塗工量はこれよりも少なくなり、多少は薄い塗膜とすることができるが、固形分を下げるために塗工液に過剰の溶媒を追加すると、塗工適正を悪くし、塗工状態の悪化を招くことになり、薄膜化には限界がある。因みに、塗工液の固形分を下げすぎるとゆず肌や局所的な乾燥速度の差によるムラなどを発生させることになる。
【0006】
また、ロッドコート方式に係る塗工方法は、塗工ロールにより転移された塗工液をワイヤバーで掻き落とす方式の塗工方法であり、簡単な構造の塗工装置での塗工が可能であるが、塗工液の粘度が高い場合、薄膜を得ることが難かしく、塗工方向に沿った縦筋が発生しやすいという欠点を有している。
【0007】
また、リバースロールコート方式に係る塗工方法は平滑な塗工面が得やすい方法ではあるが、調整に熟練を有すること、微妙な粘度変化で膜厚が変化してしまうこと、筋がでやすいこと、薄膜を得るのが困難であることなどの欠点を有している。
【0008】
さらに、リバースグラビア方式に係る塗工方法は、塗工液が泳ぎやすい、横段が出やすい、被塗工基材に皺が入りやすいなどの欠点を一般的に有するが、グラビアロールが小径の場合は極めて良好な塗工面が得られる場合がある。この場合、小径のグラビアロールとしては直径が20φ〜50φ程度のものが用いられるが、バックアップロールのないキスコート方式にするとさらに良好な塗工面が得られる(例えば、特許文献1参照。)。しかしこの塗工方法も、薄膜を得ることが難かしい。
【特許文献1】実公平2−7663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、係る従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、膜厚が50nm〜200nm程度の薄膜でも、セルパターンや泳ぎ、スジ、段ムラなどの塗工欠陥を生じさせることなく、均一の膜厚で塗工できるようにした薄膜塗工装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような課題を達成するためになされ、請求項1に記載の発明は、搬送されてくるウェブ状の被塗工基材の表面に塗工液の塗膜を塗工するための塗工ロールを具備すると共に、この塗工ロールによって塗工された塗膜の表面部分に当接しながら被塗工基材の走行方向に対して逆の方向にリバース回転し、塗膜の表面部分を均しながら余剰の塗工液を除去して塗膜を薄膜化するためのリバースロールとを少なくとも具備することを特徴とする薄膜塗工装置である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の薄膜塗工装置において、前記リバースロールにはドクター装置が装備されていると共に、このドクター装置によって除去された余剰の塗工液を回収するための回収パンが配置されていることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の薄膜塗工装置において、前記リバースロールは、その回転数が調節可能となっていることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜塗工装置において、前記リバースロールは、塗膜が塗工される個所からの距離が調節可能な状態で取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のような構成のものであるので、塗膜の塗工方式に限定されることなく、精密塗工が可能となる。従って、50nm〜200nm程度の薄膜でも、セルパターン、泳ぎ、スジ、段ムラなどを発生させることなく、均一な厚さで塗工することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1には、本発明の薄膜塗工装置の概略の断面構成が示してある。この薄膜塗工装置は、大略的には塗工液からなる塗膜を被塗工基材1上に塗工するための塗膜塗工部とこの塗膜塗工部で塗工された塗膜の表面を均しながら余剰の塗工液を除去し、塗膜を薄膜化するための薄膜形成部とからなっている。
【0016】
塗膜形成部は、塗工液を貯めておくための塗工液パン6と、この塗工液パン6中の塗工液の所定量をその表面部分に一時的に供給し、それを搬送されてくる被塗工基材1の表面に転移させて塗膜を塗工するための塗工ロール2(グラビア塗工ロール)と、塗工ロール2の表面部分に所定量の塗工液を供給するためのドクター装置8と、搬送されてくる被塗工基材1を塗工ロール2との間に挟持しながら塗工ロール2表面に一時的に供給されている塗工液を被塗工基材1の表面に転移させるための圧胴3とを少なくとも具備している。
【0017】
一方、薄膜形成部は、上述した構成の塗膜形成部で塗工された塗膜の表面部分に当接しながら被塗工基材1の走行方向に対して逆の方向にリバース回転し、塗膜の表面部分を均しながら余剰の塗工液を除去し、均一な薄膜とするためのリバースロール4と、塗膜の表面から除された余剰塗工液をリバースロール4から掻き落とすためのドクター装置7と、このドクター装置7により掻き落とされた余剰塗工液を回収・貯蔵するための回収パン5とを少なくとも具備している。
【0018】
図示の薄膜形成部においては、回収パン5に排出口9が設けられており、塗工液を回収して、再利用できるようになっている。また、塗膜形成部における塗工機構は、図示の例ではグラビア方式のものが示してあるが、本発明の薄膜塗工装置の塗膜形成部における塗工機構はこれに限定されるものではなく、ロッドコート方式、リバースロールコート方式
、リバースグラビア方式などの塗工方式に係る塗工機構が任意に選択可能である。
【0019】
リバース回転するリバースロール4はその回転数が調節可能となっていている。リバースロール4の回転数を高めれば、より多くの塗工液を塗膜側から除去することが可能で、回転数を下げれば、除去量を少なくすることができる。必要とされる塗工液の除去量に応じてリバースロールの回転数を調整すればよい。
【0020】
このリバースロール4は、塗膜形成部からの距離が変えられる可動式の構造となっていて、使用される塗工液に合わせて塗膜形成部における塗膜形成個所からの距離が適宜調節可能な状態で取り付けられている。塗工液に溶媒が添加されている場合は、溶媒の種類によって乾燥が速いものと、逆に遅いものがある。乾燥が速いものは、リバースロールに到達する前に塗膜が皮膜化してしまうため、薄膜化に必要な塗工液の除去ができなくなってしまう。このようにならないように、塗膜形成部に接近した位置にリバースロール4を移動させ、塗膜が皮膜化する前に必要量の塗工液が除去できるようにする。
【0021】
以下、図示の薄膜塗工装置を用いた薄膜の塗工方法を簡単に説明する。
【0022】
搬送されてきた被塗工基材1は、塗膜形成部の塗工ロール2(グラビアロール)と圧胴3とで挟持されながら移動し、その間にグラビアロール2のセル内に充填されている、例えば低固形分の塗工液が被塗工基材1の表面に転移され、塗膜が塗工される。所定膜厚の塗膜が塗工された被塗工基材1は、薄膜形成部へとさらに搬送される。薄膜形成部では、塗膜の表面部分にリバース回転するリバースロール4が当接された状態でセットされ、リバースロール4により余剰の塗工液が除去され、塗膜の薄膜化がなされる。
【0023】
リバースロール4にはバックアップロールはなくキスタッチである。被塗工基材に対する圧力は、被塗工基材1の張力(テンション)によってまかなわれている。従って、被塗工基材1にカールなどのクセがあっても基材全面にわたって均一に接触するため、ムラなく余剰の塗工液を除去することが可能である。その結果、被塗工基材1上の塗膜は薄膜化され、面状態が良好で均一な厚さの薄膜が得られる。
【0024】
リバースロール4としては、表面が平滑なロールを用いることができる。ただし、表面がサンドブラスト処理により粗面化されていても良い。
【0025】
また、リバースロール4の回転数は可変となっている。回転数を高めれば、より多くの塗工液を塗膜側から除去することが可能で、回転数を下げれば、除去量を少なくすることができる。
【0026】
さらに、リバースロール4は、前述したように、塗膜形成部からの距離が変えられる、可動式の構造となっていて、塗工液の種類に対応して設置位置を調節できるようになっている。
【0027】
塗膜側からリバースロール側に掻き取られた余剰の塗工液はドクター装置7によって掻き取られ、受けパン5に回収され、再利用に供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の薄膜塗工装置の概略の断面構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1…被塗工基材
2…塗工ロール
3…圧胴
4…リバースロール
5…回収パン
6…塗工液パン
7…ドクター装置
8…ドクター装置
9…排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されてくるウェブ状の被塗工基材の表面に塗工液の塗膜を塗工するための塗工ロールを具備すると共に、この塗工ロールによって塗工された塗膜の表面部分に当接しながら被塗工基材の走行方向に対して逆の方向にリバース回転し、塗膜の表面部分を均しながら余剰の塗工液を除去して塗膜を薄膜化するためのリバースロールとを少なくとも具備することを特徴とする薄膜塗工装置。
【請求項2】
前記リバースロールにはドクター装置が装備されていると共に、このドクター装置によって除去された余剰の塗工液を回収するための回収パンが配置されていることを特徴とする請求項1記載の薄膜塗工装置。
【請求項3】
前記リバースロールは、その回転数が調節可能となっていることを特徴とする請求項1または2記載の薄膜塗工装置。
【請求項4】
前記リバースロールは、塗膜が塗工される個所からの距離が調節可能な状態で取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜塗工装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−119429(P2009−119429A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298942(P2007−298942)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】