説明

薄膜太陽電池の成膜検査装置及び方法

【課題】多接合太陽電池における成膜検査方法を提供。
【解決手段】太陽電池を仮想分割ユニットがマトリクス状に並んだものと想定し、3つのプローブ5a,5b,5cを行方向の3つの前記ユニットの電極103に当接させ、前記ユニットの単独セル特性を測定し、且つ、両端の2つのプローブによって、互いに行方向に接続された2つの前記ユニットの連結セル特性を測定し、光源7として、少なくともn個の利用波長の光を照射する光源ユニットを備え、且つ、n個の光源ユニットの任意のものの発光強度を調節可能にされているものを用い、測定部5により、スキャンしながら行う単独セル測定と連結セル測定を、光源中の複数の光源ユニットの任意のものの発光強度が調節された複数の状態で発光層分離型測定として複数回行い、さらに、判定装置によって、複数の発光層分離型測定によって得られる単独セル特性と連結セル特性とに基づいて、成膜状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の成膜検査装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりとともに、各種の太陽電池が市場に流通している。この中で、化合物系太陽電池やアモルファス太陽電池などの薄膜太陽電池は、使用するシリコンの量が少なくてすみ、比較的安価な太陽電池として、その市場性が注目されている。
【0003】
薄膜太陽電池等の太陽電池モジュールの製造段階において、最終モジュール化するステップの前に、薄膜太陽電池等の構成要素としての各種の膜の成膜状態を適正に評価し、成膜の均一性の程度を判定できれば、最終的に効率良く薄膜太陽電池モジュールを生産でき、これが製造コストの削減にもつながる。特許文献1には、こうした薄膜太陽電池の自動品質管理試験装置が開示されている。ここに開示の測定方法は、太陽電池モジュールを構成する個々のセルの出力を、移動可能なプローブによって測定し、測定値と予め決めた所定値とを比較して、測定対象セルに欠陥があるか否かを判定するというものである。
【0004】
また、特許文献2、3に示されるように薄膜太陽電池の中に複数の発電層(セル)を積み重ねた状態に接合した多接合太陽電池がある。このような多接合太陽電池の出力を測定するため、複数の発電層に対応するそれぞれ異なる複数の発光波長の光源で照射を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,554,346号
【特許文献2】特開2010−238906号
【特許文献3】特開2011−009358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の測定方法では、光源の位置が固定であり、各セルの放射照度にむらが発生している。このため、この測定方法では、各セルに欠陥があるか否かを精度よく判定することはできない。
【0007】
また、一般に、薄膜太陽電池は、成膜状態により、電気的特性が変化する。したがって、セル同士を接合したときに、各セルの成膜状態が異なると、セルの接合に起因する発電量の損失が生じてしまう。特許文献1では、この損失の測定についてはなんら触れていない。
【0008】
さらに、特許文献2,3においては、複数の波長の光源を用いるようにしたことから、多接合太陽電池の特性を有る程度は把握可能である。しかしながら、これらに記載の技術によっても多接合太陽電池の特性を必ずしも十分に把握できない。それは、多接合太陽電池の特性を十分に把握するには、従来測定されている以上の各種の伝達性能や多接合に関する各種の性能の測定が必要だからである。つまり、各発光層の個別のデータも必要と考えられる。
【0009】
本発明の課題は、上記のような問題点に鑑み、多接合太陽電池としての太陽電池モジュールにおける成膜検査をより的確に実施できる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の薄膜太陽電池の成膜検査装置は、
列方向にある長さを持つ複数の多接合セルを行方向に順次直列に接続した太陽電池の成膜検査装置であって、前記多接合セルは発光層としてのn個のセル単位を電極を挟んで接合したものとして構成されており、前記n個の前記セル単位はそれぞれ利用波長の異なるものとして構成されており、
前記各多接合セルを列方向の所定長さ毎に仮想的に分割された複数の仮想分割ユニットからなるものとみなすことにより、前記太陽電池を前記複数の仮想分割ユニットがマトリクス状に並んだものとみなして測定を行う測定部であって、前記仮想分割ユニットをスキャンする、少なくとも3つのプローブを有し、前記スキャンにあたり、前記3つのプローブを、行方向に並ぶ3つの前記仮想分割ユニットの電極に当接させて、隣り合う2つの前記プローブを1組とした計2組によって、それぞれ、前記仮想分割ユニットの単体発電素子の性能としての第1の電流電圧特性を取得する単独セル測定を行い、且つ、両端の2つの前記プローブによって、互いに行方向に接続された2つの前記仮想分割ユニットの合成発電素子の性能としての第2の電流電圧特性を取得する連結セル測定を行う、測定部と、
前記仮想分割ユニットを照射する光源であって、少なくとも前記n個の前記利用波長を照射する前記n個の光源ユニットを備え、前記n個の前記光源ユニットの任意のものの発光強度を調節可能に構成されている、光源と、
前記測定部と前記光源とを互いの位置関係を固定したまま且つ同期して二次元方向に移動させる移動機構と、
を備え、
前記測定部は、前記スキャンしながら行う前記単独セル測定と前記連結セル測定は、前記光源中の複数の前記光源ユニットの任意のものの発光強度が調節された複数の状態で発光層分離型測定として複数回行われるものとして構成され、
さらに、前記単独セル測定と前記連結セル測定のそれぞれにおいて行われる、複数の前記発光層分離型測定によって得られる前記第1の電流電圧特性と前記第2の電流電圧特性とに基づいて、前記太陽電池の成膜状態を判定する、判定装置を、備える
ことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の薄膜太陽電池の成膜検査方法は、
列方向にある長さを持つ複数の多接合セルを行方向に順次直列に接続した太陽電池の成膜検査方法であって、
前記多接合セルは発光層としてのn個のセル単位を電極を挟んで接合したものとして構成されており、前記n個の前記セル単位はそれぞれ利用波長の異なるものとして構成されており、
前記各多接合セルを列方向の所定長さ毎に仮想的に分割された複数の仮想分割ユニットからなるものとみなすことにより、前記太陽電池を前記複数の仮想分割ユニットがマトリクス状に並んだものと想定し、
測定部における3つのプローブを行方向に並ぶ3つの前記仮想分割ユニットの電極に当接させ、且つ、3つの前記プローブのうちの隣り合う2つの前記プローブを1組とした計2組を光源で照射した状態において、前記2組のそれぞれによって、前記仮想分割ユニットの単体発電素子の性能としての第1の電流電圧特性を取得する単独セル測定を行い、且つ、両端の2つの前記プローブによって、互いに行方向に接続された2つの前記仮想分割ユニットの合成発電素子の性能としての第2の電流電圧特性を取得する連結セル測定を行い、
前記光源として、少なくとも前記n個の前記利用波長の光を照射する前記n個の光源ユニットを備え、且つ、前記n個の前記光源ユニットの任意のものの発光強度を調節可能に構成されているものを用い、
移動機構により、前記測定部と前記光源とを互いの位置関係を固定したまま且つ同期して二次元方向に移動させ、
前記測定部により、前記スキャンしながら行う前記単独セル測定と前記連結セル測定を、前記光源中の前記複数の光源ユニットの任意のものの発光強度が調節された複数の状態で発光層分離型測定として複数回行い、
さらに、判定装置によって、前記単独セル測定と前記連結セル測定のそれぞれにおいて行われる、複数の前記発光層分離型測定によって得られる前記第1の電流電圧特性と前記第2の電流電圧特性とに基づいて、前記太陽電池モジュールの成膜状態を判定する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多接合太陽電池としての薄膜太陽電池の薄膜の生成状態を、多接合した複数の発電層をひとまとまりの1つの発電層として且つ多接合した複数の発電層のそれぞれを個別の発電層として、位置毎の発電性能と位置毎の伝達性能の両面の視点から検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を説明する図であって、(a)検査対象としてのある多接合薄膜太陽電池モジュールの斜視図、(b)スキャン例を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態における1つの測定状態における測定部(プローブ)と光源との位置関係を示す斜視図であり、(a1)太陽電池モジュールが薄膜シリコン系太陽電池モジュールである場合、(a2)その一部の拡大図、(b)太陽電池モジュールがカルコパイライト系化合物太陽電池モジュールである場合の図である。
【図3A】本発明の実施形態で用いる光源のスペクトル分布とそれらの光源を用いた場合に得たデータを可視化した図を示し、(a)光源の標準状態のスペクトル図、(b1)−(b4)実際の測定に使用する光源のスペクトル強度を示す図、(c1)−(c4)得られたデータを可視化した分布図である。
【図3】本発明のある実施形態〔図2(a1)〕における測定時の等価回路図を示す。
【図4】本発明の実施形態において、太陽電池モジュールが受光面と電極が反対側にある場合の、測定部と光源とを同期して駆動する装置の例を示す斜視説明図である。
【図5】(a)は前記装置の異なる例を示す斜視図であり、(b)、(c)はそれぞれプローブが下がった状態と上がった状態の側面説明図である。
【図6】本発明の実施形態において、太陽電池モジュールが受光面と電極が同じ側にある場合の、測定部と光源とを同期して駆動する装置の例を示す斜視説明図である。
【図7】(a)は仮想分割ユニット自体の発電性能を、(b)は仮想分割ユニット間の伝達性能をそれぞれ画像として表した例を示す。
【図8】本発明の検査の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の実施形態における用語を以下のように定義する。
【0015】
本発明の実施形態において、後述する仮想分割ユニットの1つを単独で、あるいは2つの隣り合う仮想分割ユニットを一体として測定するが、前者を単独セル測定、後者を連結セル測定ということとする。また、各仮想分割ユニットは例えば3つの発光層(セル単位)を含むが、3つの発光層を1つの発光層と合成的に考えて行う測定を発光層合成型測定(第1の測定)といい、3つの発光層を3つ別々の発光層と考えて行う測定を発光層分離型測定(第2の測定)ということとする。加えて、前記第1の測定及び前記第2の測定のそれぞれにおいて、前記単独セル測定と前記連結セル測定が行われることとなる。
【0016】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の基本的な考え方について説明する。
【0017】
本発明では、測定対象とする太陽電池モジュールとして多接合太陽電池を用いている。太陽電池モジュールとして、例えば、発光層としての3つのセル(セル単位)を縦方向に多接合した多接合太陽電池を想定する。これらの3つの発光層の利用波長(対応スペクトル)λA、λB、λCは全て異なっている。この多接合太陽電池においては、前記3つの発光層としてのセル(セル単位)はそれぞれが個別の電池であり且つ直列接続された1つの電池と見ることができる。個別の電池と見て行う測定が前述の第2の測定(発光層分離型測定)であり、1つの電池とみて行う測定が前述の第1の測定(発光層合成型測定)である。
【0018】
より詳しくは、3つのセル(セル単位)を多接合したとはいえ、3つのセル(セル単位)が接合されて1つのセル(多接合セル)を作っていると考えて、非多接合太陽電池と同様にこの多接合太陽電池を把握し、各種の特性のデータを測定することも必要である。加えて、本来3つのセル(セル単位)の多接合太陽電池であることから、それらの3つのセル(セル単位)のそれぞれについて各種の特性のデータを測定したり、あるいは、3つのセル(セル単位)のうちのいずれのセル(セル単位)が前記多接合セルの出力特性等に大きな影響を与えているかを測定したりすることも必要である。
【0019】
このような思想に基づいて、本発明では、多接合太陽電池を、大きく分けて2種類の方向から測定するようにしている。つまり、前記多接合セルを1つのセルとして測定する第1の測定(発光層合成型測定)を行うほか、多接合セルを構成する複数のセル(セル単位)(例えば、3つのセル単位)のそれぞれが多接合セルに対してどのような影響を与えているかを知得するための第2の測定(発光層合成型測定)を行うようにしている。
【0020】
また、本発明の実施形態は、前記第1の測定(発光層合成型測定)及び第2の測定(発光層分離型測定)に共通して、後述するように、測定部による測定と光源による照光が同じ位置関係で行われること、同じ光で照射しつつ太陽電池モジュールの同じ面積を評価できること、さらに光源によるいわゆる光のユニフォミティの問題が排除できること等の利点を有するものである。これを達成するため、本発明の実施形態では、測定部のスキャンによって太陽電池モジュールの全面をカバーするようにしている。
【0021】
さらに、本発明の実施形態においては、多接合太陽電池を測定対象としていることから、光源として複数のセル(セル単位)に対応した数の複数の波長の光源を用いるようにしている。このことも本発明の特徴である。そして、前記第1測定(合併測定)と前記第2の測定(発光層分離型測定)のそれぞれにおいて、前記複数の光源の強度(光量)を全て一定以上としての測定(発光層合成型測定)と、各光源の強度を調節して行う測定(発光層分離型測定)を行う。
【0022】
より詳しくは、実際に第2の測定(発光層分離型測定)を行うには次のようにする。即ち、多接合太陽電池、例えば3つの発光層を備える場合にあって、そのうちの1つの発電層を測定しようする。この時に、測定対象とする1つの発光層のみを発電させようとしても、残りの2つの発光層がボトルネックとなり、測定対象の発光層を的確に測定できない。つまり、残りの2つの発光層がボトルネックとなり、測定対象の1つの発光層において、光量に対する出力のリニアリティが失われる。そこで、3つの発光層を飽和した出力状態としておき、その後測定対象とする1つの発光層に対する利用波長の光のみの光量を下げ、その前後の差分から性能の評価を行う。
【0023】
(A)第1の測定(発光層合成型測定)について
図1(a)は測定対象としての多接合太陽電池としての多接合太陽電池モジュール1を示す。この第1の測定(発光層合成型測定)においては、光源7から、前記3つの波長λA、λB、λCの光をそれぞれ同じ強度で照射する〔図3A(a)参照〕。つまり、光源7は3つの光源A、B、Cを備え、各光源A、B、Cからそれぞれ波長λA、λB、λCの光を同じ強度で照射させる。なお、これらの波長λA、λB、λCのピークは、セル単位102A、102B、103Cの受光感度のピークに合わせて選ばれるのは当然である。
【0024】
多接合太陽電池モジュール1としては各種のものがあるが、図1(a)は太陽電池モジュールの片面に受光面が、もう一方の面に電極がある場合のものを示す。
【0025】
この多接合太陽電池モジュール1は、図1(a)中Y方向(列方向)にある長さの複数のセル(多接合セル)2〔2(A0),2(A1),・・・,2(Ax)〕を有する。前記複数のセル(多接合セル)2は、図中X方向(行方向)に並んでおり、X方向(行方向)に隣り合うもの同士が順次接続(接合)されて、電気的に直列接続された状態にある。後述するように、前記各セル(多接合セル)2は、Y方向(列方向)に所定の長さ毎に仮想的に分割されて、複数の仮想分割ユニット3,3,・・・とされている。
【0026】
図2(a1)は多接合太陽電池モジュール1の構造の詳細の一例を示す。即ち、図2(a1)から分かるように、多接合太陽電池モジュール1を構成するY方向に長いセル(多接合セル)2〔2(A0),2(A1),・・・〕のそれぞれは、共通のガラスの基板100上に積層されたITO膜101、セル層102、電極103を備える。このセル層102は、図2(a2)から分かるように、前記セル単位としてのトップセル102A、中間セル102B、ボトムセル102Cの3つのセル単位を有し、これらのセル単位の間に第1透明電極102aと第2透明電極102bを有する。トップセル102A、中間セル102B、ボトムセル102Cはそれぞれいわゆる利用波長の異なるものである。つまり、トップセル102Aは波長λA、中間セル102Bは波長λB、ボトムセル102Cは波長λCをそれぞれ利用波長としている〔図3A(a)参照〕。
【0027】
図2(a2)に、前記多接合セル2を構成する前記3つのセル単位(トップセル102A、中間セル102B、ボトムセル102C)と前記2つの透明電極(第1透明電極102a、第2透明電極102b)の積層関係が示される。これらの構成要素(トップセル102A、中間セル102B、ボトムセル102C、第1透明電極102a、第2透明電極102b)はY方向(列方向)に走る帯状のものとして構成されている。多接合セル2におけるその他の構造については追って詳しく述べる。
【0028】
さらに、図1(a)において、X方向(行方向)に隣り合うセル(多接合セル)2,2同士の電極103とITO膜101とは電気的に順次接続(接合)されている。この接続により、場合によっては、電気的特性への影響として、セル間伝達性能の低下(セル間接合損失)が考えられる。このセル間接合損失はまさに本発明の実施形態で測定対象としている。つまり、本発明の実施形態においては、接続された2つのセル(多接合セル2)(詳しくは、後述するように、接続された2つの仮想分割ユニット)の合成発電素子としての発電性能を測定対象としている。また、当然、本発明の実施形態においては、多接合セル2(詳しくは、後述するように、1つの仮想分割ユニット)の単体発電素子としての発電性能も測定可能としている。後述するように、セル(多接合セル)2間の接合損失は、単体発電素子としての発電性能と合成発電素子としての発電性能との差分により求められる。
【0029】
例えば図1(a1)に示すように、Y方向(列方向)に沿ってある長さを有する前記各セル(多接合セル)2は、Y方向(列方向)に沿って点線で示す所定長さ毎に、仮想的に分割され、複数の仮想分割ユニット3とされる。例えば、セル2(A0)を、複数の仮想分割ユニット3〔3(A0,B1),3(A0,B2),3(A0,B3),・・・,3(A0,By)〕に仮想的に分割している。他のセル(多接合セル)2〔2(A1)−2(Ax)〕もこれと同様にY方向(列方向)に沿って所定長さ毎に仮想的に分割される。このような仮想的な分割によって、薄膜シリコン系太陽電池モジュール1においては、図1(a1)からわかるように、複数の仮想分割ユニット3〔3(A0,B1)―3(Ax,By)〕・・・がマトリクス状に並ぶこととなる。つまり、仮想分割ユニット3,3,・・・がy行×(x+1)列のマトリクス状に並んでいると考えられる。ここで本発明の実施形態では、先にも簡単に述べたように、前記各仮想分割ユニット3を、それ自体がそれぞれ発電可能な、単体発電素子(多接合単体発電素子)として機能すると考えている。また、行方向に並ぶ2つの仮想分割ユニット3,3は合成されて合成発電素子(多接合合成発電素子)として機能すると考えている。よって、本発明の実施形態においては、前記複数の仮想分割ユニット3をそれぞれ単体発電素子と仮想して、後述するように、測定を実施する。また、X方向(行方向)に並ぶ複数(例えば2つ)の仮想分割ユニット3を、合成発電素子として測定を実施する。さらに、X方向に並ぶ例えば2つの仮想分割ユニット3,3の接合損失を測定する。これらの測定に当たっては、測定対象とする2つの仮想分割ユニット3,3を光源によって照射するのは当然である。
【0030】
本発明の実施形態においては、上記したところから分かるように、仮想分割ユニット3の単体の単体発電性能だけでなく、X方向(行方向)に並ぶ仮想分割ユニット3,3の合成した合成発電性能、さらにはいわゆるセル間接合損失をも測定の対象としている。これを達成するため、図2(a1)から分かるように、測定部5を3つのプローブ5a,5b,5cを備えるものとしている。
【0031】
図2(a1)は前記測定部5の具体的な構造と実際の測定状態を示している。即ち、測定部5における3つのプローブ5a、5b、5cを、図2(a1)に示すように、X方向(行方向)に並ぶ3つの仮想分割ユニット3(A0,B1),3(A1,B1),3(A2,B1)における上部の電極103,103,103に当接させている。このときの等価回路は図3に示される。この等価回路からもわかるように、仮想分割ユニット3(A1,B1),3(A2,B1)が測定対象としての発電素子となる。
【0032】
この時、図2(a1)および図3からわかるように、3つのプローブ5a,5b,5cのうちのプローブ5a,5bによって仮想分割ユニット3(A1,B1)の電流−電圧特性(IV特性)に対応する第1の電流電圧特性(単体発電性能)IVaを測定(単独セル測定)し、プローブ5b,5cによって仮想分割ユニット3(A2,B1)の電流電圧特性IVbを測定(単独セル測定)する。また、プローブ5a,5cによって直列接続された仮想分割ユニット3(A1,B1),3(A2,B1)の電流−電圧特性(IV特性)に対応する第2の電流電圧特性(合成発電性能)IVcを測定(連結セル測定)する。
【0033】
このようにして測定した第1の電流電圧特性IVa、IVbにより各仮想分割ユニット3の単体としての第1の電流電圧特性(単体発電性能)が得られ、電流電圧特性IVcから隣り合う2つの仮想分割ユニット3,3の接合した第2の電流電圧特性(合成発電性能)が得られる。
【0034】
つまり、本発明の実施形態では、3つの電流電圧特性(IV特性)を測定するようにしたので、個別のセル(仮想分割ユニット)のIV特性を測定でき、さらに行方向に隣り合うセル同士(仮想分割ユニット同士)の伝達特性を測定することができる。
【0035】
測定した電流電圧特性IVa、IVbから、各仮想分割ユニット3の例えば、短絡電流Isc、解放電圧Voc、最大出力Pmax、変換効率FF、直列抵抗Rs等を得ることができる。また、電流電圧特性IVa、IVb、IVcから隣り合う2つの仮想分割ユニット3,3のセル間接合損失を電流電圧特性(IVa+IVb)−IVcから求めることができる。
【0036】
より詳しくは、仮想分割ユニット3(A1,B1)の最大出力PmaxAと、仮想分割ユニット3(A2,B1)の最大出力PmaxBと、これら2つの最大出力PmaxCについて着目する。今、PmaxA≒PmaxBであれば、この2点間の最大出力PmaxCは、PmaxA+PmaxBとほぼ同じになり、いわゆる2つのセルのバランスが良く、セル間の伝達性能は良いと言える。一方、例えば、PmaxA>PmaxBである場合、PmaxCはPmaxA+PmaxBとはならない。これは、出力が低いPmaxBがボトルネックとなり、PmaxAの最大出力動作電流ipmがPmaxBと同等値まで抑えられているからである。PmaxAとPmaxBが等しくならないのは、成膜状態の不均一に起因するものと考えられる。PmaxAとPmaxBが等しくならない場合は、上述したように、PmaxAとPmaxBのうち出力が低い方の電流しか各セルに流れなくなり、これがすなわち、セルの接合に起因する発電量の損失になる。よって、本発明の実施形態によれば、太陽電池の発電効率に大きく影響するセル間伝達性能を任意の位置で測定可能となり、太陽電池モジュール全体での成膜状態を良好に判定することができる。
【0037】
このような電流電圧特性IVa、IVb、IVcの測定時には、先にも簡単に述べたが、図2(a1)からわかるように、光源7で、2つの仮想分割ユニット3(A1,B1),3(A2,B1)を下方から均等に照射する。ここで、この光源7が、図3A(a)に示す3つの波長λA、λB、λCを均等に含む光源であるのは先に説明した通りである。図2(a)では、太陽電池モジュール1として受光面と電極が別の面にあるものを用いているので、前記光源7と前記測定部5で太陽電池モジュール1を挟むようにしている。なお、追って詳述するが、太陽電池モジュール1として、受光面と電極が同一の面にあるカルコパイライト系化合物(CIS,CIGS)太陽電池モジュールを用いた場合には、プローブ(測定部5A)と光源を同じ側に位置させなければならないのは当然である。
【0038】
前記のような電流電圧特性の測定を、プローブ5a,5b,5cで太陽電池モジュール1をスキャンさせて、その全面における仮想分割ユニット3について行う。この際、本発明の実施形態では、図2(a1)から分かるように、測定部5と光源7を、太陽電池モジュール1に対して測定部5と光源7の相対的な位置関係を固定させた状態で且つ同期して移動して、測定位置が変わっても、測定対象としての2つの仮想分割ユニット3,3を同じ照度で照射するようにしている。このように、測定対象としての2つの仮想分割ユニット3、3を同じ照度で照射しながら、太陽電池モジュール1の全面をいわゆるスキャンする。このスキャンの仕方としては各種のものを採用することができる。第1態様のスキャンについて図1(b)を参照しながら説明すれば、先頭行B1において、3つのプローブ5a,5b,5cを座標位置T(A0−A2,B1)から矢印ARxfに沿って行方向に移動させ座標位置T(Ax-2−Ax,B1)までスキャンする。この後、3つのプローブ5a,5b,5cを座標位置T(A0−A2,B2)として上記と同様のスキャンを行う。これを繰り返し、3つのプローブ5a,5b,5cが最終の座標位置(Ax-2−Ax,By)までスキャンする。
【0039】
このスキャンは、いわゆる一筆書きのような第2態様のスキャンも行うこともできる。即ち、座標位置T(A0−A2,B1)から座標位置T(Ax-2−Ax,B1)に達したら、座標位置(Ax-2−Ax,B2)に移動し、矢印ARxrに沿って逆向きに移動し座標位置(A0−A2,B2)までスキャンする。以後このスキャン動作を繰り返す。このようなスキャンの際は光源7を測定部5Aと追随して移動させるのは当然である。
【0040】
このように、本発明の実施形態においては、前記スキャンにあたり、測定部5のみを移動させるのではなく、測定部5と光源7とを、相対的な位置を保ったまま、同時に移動させる。つまり、測定部5と光源7とを、太陽電池モジュール1を挟んだ状態で、相対的位置を固定させたまま同期して移動させる。これにより、スキャンにより測定部5の測定位置が変わっても、光源7は測定対象としての2つの仮想分割ユニット3,3を、継続的に同じ照度で照射することになる。これにより、スキャンにより測定位置が変わっても、測定部5による2つの仮想分割ユニット3,3の測定を、照射むらのない状態で、適正に行うことができる。
【0041】
なお、図1(a)に示されるように、本発明の実施形態では、測定部5のプローブ5a,5b,5cを3つとし、これらをXY方向に動かして測定するようにしている。このため、例えば太陽電池モジュール1のB1行の仮想分割ユニット3(A2,B1)についてみると、この仮想分割ユニット3(A2,B1)自体は2回単独発電性能が測定されることとなる。よって、2回の測定値を用いてより適切な値として単独発電性能を得ることができる。例えば、2回の測定値の平均値を採る、ある値を上回った/下回った測定値を捨てて残りの測定値を用いる等の任意の対応を採ることが出来る。
【0042】
測定部5と光源7とを相対的な位置を保ったまま同期して移動させるために各種の構成を採用することができる。それらの例を図4、図5を参照しながら説明する。これらの例は、先にも述べたように、太陽電池モジュール1として、図2(a1)のような受光面と電極がそれぞれ別の面にある太陽電池モジュールを用いた場合の例である。これらの図4、図5においては、測定対象としての太陽電池モジュール1は測定部と光源との間に挟まれるが、ここではその太陽電池モジュールの図示を省略している。また、測定部5と光源7はブロックとして簡略化して表している。
【0043】
先ず、図4の装置について説明する。この装置における上移動機構11はZ方向(上下方向)に移動可能に構成されている。この上移動機構11は、X方向(行方向)に対向する一対の上支持部11a,11aと、これらを連結する上連結部11bを備える。上連結部11bは図4から分かるように、上支持部11aに対してY方向(列方向)に移動可能に取り付けられている。この上連結部11bに対して前記測定部5がX方向に移動可能に取り付けられている。これにより、測定部5は、X,Y,Z軸に沿って移動可能とされている。なお、プローブ5a,5b,5cは図示していないが、上移動機構11の上下によりプローブ5a,5b,5cが太陽電池モジュールに接離する。プローブ5a,5b,5cの太陽電池モジュールへの当接時の衝撃を和らげるため、降下速度と接触圧力を適宜のものに設定しておくのが望ましい。
【0044】
下移動機構13はこれとほぼ同様に構成されている。即ち、下移動機構13もZ方向(上下方向)に移動可能に構成することができる。この下移動機構13は、X方向に対向する一対の下支持部13a,13aと、これらを連結する下連結部13bを備える。下連結部13bは図4から分かるように、下支持部13aに対してY方向に移動可能に取り付けられている。この下連結部13bに対して前記光源7がX方向に移動可能に取り付けられている。これにより、光源7は、少なくともX,Y軸に沿って移動可能とされている。
【0045】
このように、測定部5と光源7とは、X−Y平面においては、位置関係を固定したままで且つ同期して動くように構成されている。つまり、測定部5と光源7とは、X−Y平面において、相対的な位置を保ったまま移動する。これにより、測定対象とする、例えば2つの仮想分割ユニット3,3は、スキャンにより測定位置が変わっても、常に同じように照射される。
【0046】
次に、図5(a)の装置について説明する。この装置も図4の装置と同様に、測定部5と光源7が相対的位置を固定したままで同期してX方向(行方向)及びY方向(列方向)に移動可能とされている。即ち、この装置は、移動機構15を備える。この移動機構15により、測定部5と光源7は、互いの相対的な位置を保ったまま少なくともX方向(行方向)及びY方向(列方向)に沿って同期して移動可能とされている。この移動機構15は、Y方向に走る基本支持部15Aと、ほぼX方向に走る移動支持部15Bとを備える。移動支持部15Bは基本支持部15Aに対してY方向に移動可能に取り付けられている。移動支持部15Bは、上取付部15aと下取付部15bとそれらを一体化する連結部15cとを備える。上取付部15aに測定部5が取り付けられ、下取付部15bに光源7が取り付けられている。図5(b)、(c)からわかるように、測定部5におけるプローブ5a,5b,5cは、測定、移動を行うため、各種の駆動機構によって、太陽電池モジュール1に対してプローブ5a,5b,5cが当接、離反可能に構成されている。この駆動機構としては例えばアクチュエータとばねとを備える駆動機構を採用することができる。
【0047】
先にも述べたように、このようなスキャンを行い各測定位置毎に第1の電流電圧特性IVa、IVb、IVcを得る。これらの測定値から、演算装置により各仮想分割ユニットの各種の単一発電性能を求める。また、演算装置により、第2の電流電圧特性(IVa+IVb)−IVcから合成発電性能(セル間接合効率)を求める。これらのデータに基づき、太陽電池の特性の測定が可能である。つまり、前記各仮想分割ユニットの電流電圧特性(単一発電性能)から短絡電流Isc等の各種特性を求めることができ、且つ、2つの仮想分割ユニット3,3の電流電圧特性(合成発電性能)から伝達性能を求めることができる。
【0048】
このようにして求めた単一発電性能、合成発電性能を演算処理装置で配列化する。画像処理装置により配列化に基づいて演算を行い、いわゆるセル(仮想分割ユニット)自体の発電性能と、セル間(仮想分割ユニット間)の伝達性能をそれぞれ画像として表示する。
【0049】
図7は画像表示の例を示し、(a)はセル(仮想分割ユニット)自体の発電性能を示し、(b)はセル間(仮想分割ユニット間)の伝達性能を示す。図7(a)、(b)において、各小ウィンドウの表示の仕方が異なるのは、各仮想分割ユニット自体の単一発電特性が異なること、及び、仮想分割ユニット間の合成電流電圧特性が異なることをイメージ的に表すものである。従って、小ウィンドウの数が、つまり、行の数が、図7(a)におけるよりも(b)の小ウィンドウの数が1つだけ少ないのは当然である。
【0050】
以上の説明は、太陽電池モジュール1として受光面と電極が反対の面にある場合について行った。これに対し、太陽電池モジュール1としてカルコパイライト系化合物太陽電池モジュールのように、受光面と電極が同じ面側にある場合について説明する。この場合も以上の説明と基本的な考え方は同様である。しかしながら、カルコパイライト系化合物太陽電池モジュールは、電極が受光面側に存在することに起因して、薄膜シリコン系太陽電池モジュール1の場合と以下の点において異なる。
【0051】
即ち、図2(b)から分かるように、カルコパイライト系化合物太陽電池モジュールの場合は、図2(a1)の場合と異なり、測定部と光源を同じ側に設ける必要がある。このため、具体的な測定の装置の構造が異なってくる。
【0052】
図2(b)は、カルコパイライト系化合物太陽電池モジュールの場合の測定状態の一例を示す断面説明図である。この図2(b)において、カルコパイライト系化合物太陽電池モジュールにおける1つのセル2(A1)について着目する。このセル2(A1)は、共通の基板100上に形成された下部電極110、光吸収層(CIGS)111,バッファ層112,透明電極113,上部電極114を備える。透明電極114がX方向に隣り合うセル2(A2)の下部電極110に接続されている。
【0053】
図2(b)においては、測定部5Aと光源7Aは同じ側に位置する。測定部5Aのプローブ5a,5b,5cがそれぞれセル2(A1)、2(A2)、2(A3)の上部電極114に当接される。光源7は少なくともセル2(A1)、2(A2)における2つの仮想分割ユニットの光吸収層111を均等に照射する。且つ、先の実施形態の時と同様に、測定部5Aと光源7Aが太陽電池モジュール1についてのスキャンにより移動した場合にあっても、これらは同じ位置を保ったまま同期して移動することから、均等に新たな2つのセル2の仮想分割ユニットを照射する。
【0054】
図6は、図2(b)の測定部5Aと光源7Aを駆動する装置の一例を示す。この装置は、先に述べた図4、図5の装置と、先にも述べたように、測定部5Aと光源7Aが同じ側にある点において相違する。実際には、この装置は例えば天地を反転した状態で使用される。反転したこの装置の下方に、カルコパイライト系化合物太陽電池モジュールが、上方に受光面及び端子面を位置させた状態で、設置される。
【0055】
この装置は、図6に示すように、移動機構21がY方向に走る一対の支持部21a、21aを備える。これらの支持部21a、21a間に連結部21bがY方向に移動可能に設けられている。この連結部21bには、測定部5Aと光源7Aが、X方向に沿って移動可能に取り付けられている。この測定部5Aはいわゆる枠状に構成されている。この測定部5Aは、図2の測定部5と同様に3つのプローブ5a、5b、5cを備えるものであるが、図示は省略している。この枠状の測定部5Aの内側の隙間に光源7Aが設けられている。これにより、カルコパイライト系化合物太陽電池モジュールの各仮想分割ユニットの受光面に向けて光を照射し、これにより発電された電気信号が測定部5Aによって単一発電性能、合成発電性能として測定される。
【0056】
次に、本発明の実施形態の測定手順の一例を図8を参照しながら説明する。
【0057】
この手順におけるスキャンは、先に図1(b)を参照しながら説明した第1のスキャン態様の手順を採用している。
【0058】
先ず、測定部5をスタート位置〔3(A1,B1),3(A2,B1),3(A3,B1)〕に移動させる(S1)。
【0059】
先ず、そのスタート位置で、単体電流電圧特性IVa、IVb、IVcを測定する(S2)。
【0060】
このスタート位置での測定結果を演算処理装置で配列化して配列データを得る(S3)。
【0061】
さらに、これらの測定結果から演算処理装置で合成電流電圧特性(IVa+IVb)−IVcを求め配列化して配列データを得る(S4)。
【0062】
以上の処理を全ての列(縦列)B2−Byまで繰り返す(S5,S6,S1−S4)。
【0063】
次いで、測定部5を、行(横列)B1において、座標を図1(a)中右へ1つずらし、座標〔3(A1,B1),3(A2,B1),3(A3,B1)〕へ移動し、上記の処理を繰り返す(S7−S9、S2−S6)。
【0064】
つまり、ステップS2−S9はいわゆるデータ取りのステップと言える。
【0065】
このようにして、太陽電池モジュールの全ての仮想分割ユニット3,3,・・・についての測定が終わったら、上記配列データから図7(a)、(b)に示すように画像表示を行う(S10)。
【0066】
次いで、配列データと不良値を比較する(S11)。
【0067】
比較の結果を予め決めた基準値に基づいて判断して、製品としての合否(OK,NG)を決め(S12)、OK表示とNG表示を行い(S13,S14)、測定を終了する。
【0068】
(B)第2の測定(発光層分離型測定)について
上記の(A)第1の測定(発光層合成型測定)においては、セル(多接合セル)2は複数の発光層(セル単位102A、102B、102C)が多接合されたものであるが、そのセル(多接合セル)2を1つのセル(多接合セル)とみなして、各種の測定を行った。これに対し、この第2の測定(発光層分離型測定)においては、セル(多接合セル)2を複数のセル(セル単位102A、102B、102C)が接合されているがそれぞれが個別の発光層として機能しているものとみて、複数のセル(セル単位102A、102B、102C)中のいずれのセル(セル単位102A、102B、102C)がセル(多接合セル)2の特性に対して影響を与えているかを知得すべく個別の測定を行う。
【0069】
つまり、前記第1の測定(発光層合成型測定)では、図3A(a)からわかるように、光源7から全ての波長λA、λB、λCの光を同じ強度で照射して、前記(A)に記載の測定を行った。これに対し、この第2の測定(発光層分離型測定)では波長λA、λB、λCのうちの1つの強度を下げて照射し、その都度前記(A)に記載の測定と同様に測定を行う。つまり、図3A(b4)は前記(A)で用いた光源A、B、Cからの光の強度を示す。図3A(b1)、(b2)、(b3)はそれぞれ光源A、B、Cのうちの1つからの照射光を下げた状態を示している。このような3種類の光源を用いて前記(A)と同様の測定を行う。これにより、図3A(b4)の光源に加えて、都合4種類の光源での前記(A)と同様の測定が行われることとなる。このようにして得られた各種のデータを用いることにより、3つのセル単位102A、102B、102Cのうちのどれが、多接合セル2の出力に影響を与えているか、つまり成膜の状態等を把握可能である。
【0070】
また、前記各種の光源〔図3A(b1)、(b2)、(b3)〕での測定結果を可視化、例えば分布図のように可視化することにより、視覚的に太陽電池モジュール1の状態を容易に把握可能とすることもできる。例えば、先に説明した図7(a)、(b)のような分布図とすることもできる。可視化はこれに限らず公知の種々の態様で行うことができる。
【0071】
その態様の1例を以下に説明する。
【0072】
3つの光源〔図3A(b1)、(b2)、(b3)〕のそれぞれを用いた場合においても、図1(a)に示すような、3つの電流電圧特性IVa、IVb、IVcを得ることができるが、ここでは説明を簡単にするため、電流電圧特性IVa、IVbを得て、それらのデータを処理することにより、3つのセル単位102A、102B、102Cの個別的な影響を知得する場合について説明する。
【0073】
光源〔図3A(b4)〕を用いて、電流電圧特性IV4を得る。つまり、図7(a)に相当する分布図〔図3A(c4)〕を得る。この電流電圧特性IV4を平均化して平均電流電圧特性IV4’を得る。
【0074】
これとは別に、光源〔図3A(b1)、(b2)、(b3)〕を用いて図7(a)に相当する電流電圧特性IV1,IV2、IV3を得る。
【0075】
この後、IV4’−IV1、IV4’−IV2、IV4’−IV3なる演算を行ってデータを得る。この演算結果としてのデータを可視化して分布図〔図3A(c1)、(c2)、(c3)〕を得る。
【0076】
これらの分布図〔図3A(c1)、(c2)、(c3)〕から3つのセル単位102A、102B、102Cの影響を知得することができる。
【0077】
電流電圧特性IV1,IV2、IV3の処理の仕方や可視化は上記以外の方式を採用できるのは当然である。また、電流電圧特性IVcを用いて各種の処理、可視化を行うことができるのも当然である。
【0078】
例えば、上記のようにして得た各種のデータを次のようにして解析することもできる。
【0079】
太陽電池においては、光量と短絡電流Iscが比例の関係にあるのは広く知られている。一方、解放電圧Vocは、一定の光量以上にあっては、飽和傾向を示す。
【0080】
そこで、下記の式から解析を行うこともできる。
【0081】
Pmax=Ipm×Vpm
Vpm=Voc−(Rsh×Ipm)
Ipm=減光前のIsc×減光率
ここで、Pmax:最大出力、Ipm:最大電流、Vpm:最大電圧、Rsh:並列抵抗である。
【0082】
つまり、例えば、上記の式から算出した値から測定値を導いて直接的な値に代えて、評価することもできる。また、例えば、光量の変化を2つ、あるいは3つとして、その際に得られるデータから、評価することもできる。
【0083】
以上の実施形態では、光源7として、波長λA、λB、λCの光源のうち、任意の1つの波長の光源の光を低減するようにしたが、その低減させる率を種々変えて測定を行うこともできる。
【0084】
また、以上の実施形態では、光源7として、波長λA、λB、λCの光源のうち、任意の1つの波長の光源の光量を低減するようにしたが、任意の2つの波長の光の強度を低減するようにすることもできる。例えば、n個の波長の光を用いる光源を使用している場合は、n個のうち(n―1)個以下の光の波長の光の強度を低減させることもできる。
【0085】
以上には、仮想分割ユニットの単体としての測定(単独セル測定)について述べたが、隣り合う2つの仮想分割ユニットを1つのユニットとしての測定(連結セル単測定)も、上記と同様の思想で行うことができる。
【0086】
また、以上には、接合した発光層が3つの場合について説明したが、発光層が4つ以上の場合にも上記と同様の技術的な思想で、各発光層毎の影響を測定することができる。
【符号の説明】
【0087】
2 セル
3 仮想分割ユニット
5 測定部
5a−5c プローブ
7 光源
13 移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列方向にある長さを持つ複数の多接合セルを行方向に順次直列に接続した太陽電池の成膜検査装置であって、前記多接合セルは発光層としてのn個のセル単位を電極を挟んで接合したものとして構成されており、前記n個の前記セル単位はそれぞれ利用波長の異なるものとして構成されており、
前記各多接合セルを列方向の所定長さ毎に仮想的に分割された複数の仮想分割ユニットからなるものとみなすことにより、前記太陽電池を前記複数の仮想分割ユニットがマトリクス状に並んだものとみなして測定を行う測定部であって、前記仮想分割ユニットをスキャンする、少なくとも3つのプローブを有し、前記スキャンにあたり、前記3つのプローブを、行方向に並ぶ3つの前記仮想分割ユニットの電極に当接させて、隣り合う2つの前記プローブを1組とした計2組によって、それぞれ、前記仮想分割ユニットの単体発電素子の性能としての第1の電流電圧特性を取得する単独セル測定を行い、且つ、両端の2つの前記プローブによって、互いに行方向に接続された2つの前記仮想分割ユニットの合成発電素子の性能としての第2の電流電圧特性を取得する連結セル測定を行う、測定部と、
前記仮想分割ユニットを照射する光源であって、少なくとも前記n個の前記利用波長を照射する前記n個の光源ユニットを備え、前記n個の前記光源ユニットの任意のものの発光強度を調節可能に構成されている、光源と、
前記測定部と前記光源とを互いの位置関係を固定したまま且つ同期して二次元方向に移動させる移動機構と、
を備え、
前記測定部は、前記スキャンしながら行う前記単独セル測定と前記連結セル測定は、前記光源中の複数の前記光源ユニットの任意のものの発光強度が調節された複数の状態で発光層分離型測定として複数回行われるものとして構成され、
さらに、前記単独セル測定と前記連結セル測定のそれぞれにおいて行われる、複数の前記発光層分離型測定によって得られる前記第1の電流電圧特性と前記第2の電流電圧特性とに基づいて、前記太陽電池の成膜状態を判定する、判定装置を、備える
ことを特徴とする太陽電池の成膜検査装置。
【請求項2】
前記n個の前記光源ユニットのうちの非測定対象とする前記セル単位に対応する前記光源ユニットの光量を飽和出力状態とし、測定対象とする前記セル単位に対応する前記光源ユニットの光量を非飽和出力状態とする、ことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池の電気特性測定装置。
【請求項3】
前記2組のそれぞれで得た前記第1の電流電圧特性と、前記合成発電素子についての前記第2の電流電圧特性とから、前記セルを行方向に接続したことによる行方向に隣り合う2つの仮想分割ユニットのセル間接合損失を演算する演算処理装置をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池の成膜検査装置。
【請求項4】
前記単独セル測定と前記連結セル測定において前記発光層分離型測定を行うたびに得られる前記第1の電流電圧特性及び第2の電流電圧特性をそれぞれ配列化する演算処理装置と、
配列にしたがって画像処理を行って、前記仮想分割ユニット毎の発電性能と、接続された前記仮想分割ユニット間の伝達性能を、それぞれ画像として表示する、画像処理装置と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の太陽電池の成膜検査装置。
【請求項5】
前記光源と前記測定部とを太陽電池モジュールの対向する面側に配置したことを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載の太陽電池の成膜検査装置。
【請求項6】
前記光源と前記測定部とを太陽電池モジュールの同一の面側に配置したことを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載の太陽電池の成膜検査装置。
【請求項7】
列方向にある長さを持つ複数の多接合セルを行方向に順次直列に接続した太陽電池の成膜検査方法であって、
前記多接合セルは発光層としてのn個のセル単位を電極を挟んで接合したものとして構成されており、前記n個の前記セル単位はそれぞれ利用波長の異なるものとして構成されており、
前記各多接合セルを列方向の所定長さ毎に仮想的に分割された複数の仮想分割ユニットからなるものとみなすことにより、前記太陽電池を前記複数の仮想分割ユニットがマトリクス状に並んだものと想定し、
測定部における3つのプローブを行方向に並ぶ3つの前記仮想分割ユニットの電極に当接させ、且つ、3つの前記プローブのうちの隣り合う2つの前記プローブを1組とした計2組を光源で照射した状態において、前記2組のそれぞれによって、前記仮想分割ユニットの単体発電素子の性能としての第1の電流電圧特性を取得する単独セル測定を行い、且つ、両端の2つの前記プローブによって、互いに行方向に接続された2つの前記仮想分割ユニットの合成発電素子の性能としての第2の電流電圧特性を取得する連結セル測定を行い、
前記光源として、少なくとも前記n個の前記利用波長の光を照射する前記n個の光源ユニットを備え、且つ、前記n個の前記光源ユニットの任意のものの発光強度を調節可能に構成されているものを用い、
移動機構により、前記測定部と前記光源とを互いの位置関係を固定したまま且つ同期して二次元方向に移動させ、
前記測定部により、前記スキャンしながら行う前記単独セル測定と前記連結セル測定を、前記光源中の前記複数の光源ユニットの任意のものの発光強度が調節された複数の状態で発光層分離型測定として複数回行い、
さらに、判定装置によって、前記単独セル測定と前記連結セル測定のそれぞれにおいて行われる、複数の前記発光層分離型測定によって得られる前記第1の電流電圧特性と前記第2の電流電圧特性とに基づいて、前記太陽電池モジュールの成膜状態を判定する、
ことを特徴とする太陽電池の成膜検査方法。
【請求項8】
前記n個の前記光源ユニットのうちの非測定対象とする前記セル単位に対応する前記光源ユニットの光量を飽和出力状態とし、測定対象とする前記セル単位に対応する前記光源ユニットの光量を非飽和出力状態とする、ことを特徴とする請求項7に記載の太陽電池の電気特性測定方法。
【請求項9】
前記2組のそれぞれについての前記第1の電流電圧特性と、前記合成発電素子についての前記第2の電流電圧特性とから、前記セルを行方向に接続したことによる行方向に隣り合う2つの仮想分割ユニットのセル間接合損失を演算する、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の太陽電池の成膜検査方法。
【請求項10】
前記単独セル測定と前記連結セル測定とにおいて行われる前記発光層分離型測定を行なうたびに得られる前記第1の電流電圧特性及び第2の電流電圧特性をそれぞれ配列化する演算を行い、配列にしたがって画像処理を行って、前記仮想分割ユニット毎の発電性能と、接続された前記仮想分割ユニット間の伝達性能を、それぞれ画像として表示する、ことを特徴とする請求項7乃至9の1つに記載の太陽電池の成膜検査方法。
【請求項11】
前記光源と前記測定部とは、前記太陽電池の対向する面側に配置されることを特徴とする請求項7乃至10の1つに記載の太陽電池の成膜検査方法。
【請求項12】
前記光源と前記測定部とは、前記太陽電池の同一の面側に配置されることを特徴とする請求項7乃至10の1つに記載の太陽電池の成膜検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−84814(P2013−84814A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224291(P2011−224291)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(595013427)株式会社エヌ・ピー・シー (54)
【Fターム(参考)】