説明

薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置

【課題】 透明導電性酸化膜が形成された薄膜太陽電池用ガラス基板の低抵抗化処理を施す際に、効率的かつ低コストで低抵抗化処理を実施できる熱処理装置を提供する。
【解決手段】 透明導電性酸化膜が形成された薄膜太陽電池用ガラス基板を熱処理して透明導電性酸化膜を低抵抗化する装置であって、基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃まで加熱するゾーン(12)、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以上に加熱するゾーン(13)、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以下まで冷却するゾーン(14)、および基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃以下まで冷却するゾーン(15)を連続的に設けた熱処理炉(10)を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透明導電性酸化膜が形成された薄膜太陽電池用ガラス基板を熱処理して透明導電性酸化膜を低抵抗化するための熱処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】薄膜太陽電池は、ガラス基板上に透明導電性酸化膜、光電変換半導体層および裏面金属電極を順次形成した構造を有する。ガラス基板上に形成される透明導電性酸化膜としては、例えばフッ素ドープSnO2膜が用いられる。
【0003】この透明導電性酸化膜は低抵抗であることが好ましいので、低抵抗化のための熱処理が行われている。従来、低抵抗化処理としては、フッ素ドープSnO2膜が形成された基板を酸素分圧が100Torr以下の非酸化性雰囲気において150℃以上に加熱する方法が用いられてきた。このように非酸化性雰囲気で熱処理することにより、SnO2膜から一部の酸素原子が除去されて酸素不足の状態になり、粒界近傍でのキャリア濃度の増大によりホール移動度が増大するため、SnO2膜が低抵抗化すると考えられている。なお、低抵抗化に最適な加熱温度は325〜350℃程度であることがわかっている。
【0004】しかし、従来の方法に従いバッチ式の熱処理炉を用いて透明導電性酸化膜の低抵抗化処理を行った場合、基板を耐熱性の低い樹脂などで構成された通常の搬送治具で搬送できるように、高温に加熱された基板を100℃以下の温度まで冷却するのにかかる時間が待ち時間となるため、基板の処理効率が低下するという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、透明導電性酸化膜が形成された薄膜太陽電池用ガラス基板の低抵抗化処理を施す際に、効率的かつ低コストで低抵抗化処理を実施できる熱処理装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置は、透明導電性酸化膜が形成された薄膜太陽電池用ガラス基板を熱処理して透明導電性酸化膜を低抵抗化する装置であって、基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃まで加熱するゾーン、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以上に加熱するゾーン、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以下まで冷却するゾーン、および基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃以下まで冷却するゾーンを連続的に設けた熱処理炉を具備したことを特徴とする。
【0007】本発明の熱処理装置では、基板は搬送機構によりそれぞれのゾーンへ順次搬送される。この際、基板を10枚以上保持したホルダーが順次それぞれのゾーンを移動することにより基板がそれぞれのゾーンへ順次搬送されるようにすることが好ましい。
【0008】本発明の熱処理装置では、基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃まで加熱するゾーンと、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以上に加熱するゾーンでの熱処理により、透明導電性酸化膜を確実に低抵抗化することができる。また、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以下まで冷却するゾーンと、基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃以下まで冷却するゾーンで基板を100℃以下の温度まで冷却して、基板を耐熱性の低い樹脂などで構成された通常の搬送治具で搬送できるようにする。
【0009】本発明の熱処理装置では、区画された各ゾーンにおいてそれぞれ所定の基板の処理が同時に行われ、処理された基板は後段のゾーンへ順次搬送されて連続的に処理が行われるので、基板の処理効率が高い。また、熱処理温度が高いゾーンでのみ、酸素分圧が非常に低い雰囲気を使用するので、非酸化性ガス(窒素など)の使用量の削減に効果がある。また、室温と高温熱処理ゾーンとの間にこれらの中間の温度のゾーンを設けているので、加熱コストの削減に効果がある。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明に係る薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置の一例を図1および図2を参照して説明する。
【0011】図1に本発明に係る熱処理装置10の平面図を一部破断して示す。この熱処理装置10はローラーハース式の連続熱処理炉であり、入口パージ室11、昇温ゾーン12、均熱ゾーン13、第1冷却ゾーン14、第2冷却ゾーン15、および出口パージ室16に連続的に区画されている。入口パージ室11の入口には入口扉17aが設けられ、各ゾーンの中間には中間仕切扉17bが設けられ、出口パージ室16の出口には出口扉17cが設けられている。図2に断面で示すように、熱処理装置10の下部にはハースローラー18が設けられ、その上を多数の透明導電性酸化膜付きのガラス基板1を収納したカセット2が順次搬送される。カセット2には基板1が例えば40枚または80枚収納される。各ゾーンの上部にはファン19が設けられ、熱風が循環されるようになっている。炉内雰囲気の酸素分圧の調整は、N2ガスの導入により行われる。また、加熱が行われるゾーンの上部にはシースヒーター20が、冷却が行われるゾーンの上部には冷却水が流されるフィンチューブ式の熱交換器21がそれぞれ設けられている。各ゾーンの温度は図示しない温度計によりモニターされる。熱処理装置10の外側には、リターン搬送機構22が設けられ、基板収納用カセットを循環するようになっている。
【0012】基板の搬送は以下のようにして行われる。供給コンベア23上を基板を収納したカセットが搬送されてくると、基板搬送ロボット24が作動してリターン搬送機構22上の入口側に待機しているカセットに基板を移し替える。基板を収納したカセットは、スケジュールされた所定の時間毎にリターン搬送機構22から熱処理炉10の入口パージ室11に入れられ、順次各ゾーンでの処理が行われ、出口パージ室16から出口側のリターン搬送機構22上へ出される。出口側のリターン搬送機構22をカセットが搬送されてくると、基板搬送ロボット25が作動して払い出しコンベア26上に待機しているカセットに基板を移し替える。
【0013】この熱処理装置による透明導電性酸化膜の低抵抗化処理を、図3に示す熱処理装置の温度プロファイルを参照しながら説明する。
【0014】昇温ゾーン、均熱ゾーン、第1冷却ゾーンおよび第2冷却ゾーンの各ゾーンでの基板の滞留時間はたとえば48分に設定されている。各ゾーンは基本的に一定雰囲気、一定温度に設定される。
【0015】昇温ゾーンでは、基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気(たとえば酸素分圧10Torr以下、残留O2濃度1%以下)で100℃まで加熱する。
【0016】均熱ゾーンでは、N2を供給量を増やして酸素分圧が10Torr以下(たとえば酸素分圧0.2Torr以下、残留O2濃度200ppm以下)の雰囲気にする。そして、最初の18分間で基板を最高温度の350℃まで昇温し、残りの30分間は350℃に保持する。このように非常に酸素が少ない非酸化性雰囲気中で200℃以上に加熱することにより、透明導電性酸化膜を確実に低抵抗化することができる。
【0017】なお、加熱ゾーンでの処理中に雰囲気を変更することにより、基板上に付着している有機物を酸化して消失させることもできる。
【0018】第1冷却ゾーンでは、酸素分圧が10Torr以下の雰囲気のままで、基板を200℃以下にまで冷却する。
【0019】第2冷却ゾーンでは、酸素分圧が100Torr以下の雰囲気に戻し、100℃以下の温度まで冷却する。さらに、図3の例では熱処理装置全体を通過した後に基板を35℃まで冷却する。
【0020】このように本発明の熱処理装置では、区画された各ゾーンにおいてそれぞれ所定の基板の処理が同時に行われ、処理された基板は後段のゾーンへ順次搬送されて連続的に処理が行われる。すなわち、基板の冷却中にも、その前の昇温ゾーンおよび均熱ゾーンで後続のカセットに収納された基板の加熱処理が行われているので、基板の処理効率が高い。また、熱処理温度が高いゾーンでのみ、酸素分圧が非常に低い雰囲気を使用するので、非酸化性ガス(窒素など)の使用量の削減に効果がある。また、室温と高温熱処理ゾーンとの間にこれらの中間の温度のゾーンを設けているので、加熱コストの削減に効果がある。
【0021】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置を用いれば、半導体層の特性劣化の原因となる高温下での基板上への有機物の固着を防止しながら、効率的かつ低コストで透明導電性酸化膜の低抵抗処理を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置を一部破断して示す平面図。
【図2】本発明に係る薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置の断面図。
【図3】本発明に係る薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置中の温度プロファイルを示す図。
【符号の説明】
1…基板
2…カセット
10…熱処理装置
11…入口パージ室
12…昇温ゾーン
13…均熱ゾーン
14…第1冷却ゾーン
15…第2冷却ゾーン
16…出口パージ室
17…扉
18…ハースローラー
19…ファン
20…シースヒーター
21…熱交換器
22…リターン搬送機構
23…供給コンベア
24、25…基板搬送ロボット
26…払出しコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明導電性酸化膜が形成された薄膜太陽電池用ガラス基板を熱処理して透明導電性酸化膜を低抵抗化する装置であって、基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃まで加熱するゾーン、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以上に加熱するゾーン、基板を酸素分圧が10Torr以下の雰囲気で200℃以下まで冷却するゾーン、および基板を酸素分圧が100Torr以下の雰囲気で100℃以下まで冷却するゾーンを連続的に設けた熱処理炉を具備したことを特徴とする薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置。
【請求項2】 基板をそれぞれのゾーンへ順次搬送する機構を具備したことを特徴とする請求項1記載の薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置。
【請求項3】 基板を10枚以上保持したホルダーが順次それぞれのゾーンを移動することにより基板がそれぞれのゾーンへ順次搬送されることを特徴とする請求項1または2記載の薄膜太陽電池用ガラス基板の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−53310(P2001−53310A)
【公開日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−228522
【出願日】平成11年8月12日(1999.8.12)
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)
【Fターム(参考)】