説明

薄膜製造装置および薄膜太陽電池の製造方法

【課題】高周波印加電力に大電力が印加された場合でも、高周波印加電極や基板電極、反応室壁などの気相と接する装置表面の温度上昇を抑制し、高精度での温度制御を可能とする薄膜製造装置を得ること。
【解決手段】基板電極12、および基板電極12に対向して設けられる高周波印加電極13を内部に有する成膜室11と、高周波印加電極13に高周波電力を供給する高周波電源15と、を備える薄膜製造装置10において、ガスと接する部位の構成部材に設けられる配管22,32と、配管22,32に所定の温度の冷媒を循環させるチラー21,31と、を有し、異なる温度の冷媒ごとに設けられる複数の冷却系統20,30と、高周波電源15による高周波印加電極13への電力の供給のオン/オフによる構成部材への入熱量の変化に応じて、構成部材の温度が所定の温度となるように各冷却系統20,30の冷媒の流量制御を行う流量制御部16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜製造装置および薄膜太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムは、21世紀の地球環境を化石エネルギの燃焼によるCO2ガスの増加から守るクリーンエネルギとして期待されており、その生産量は世界中で爆発的に増加している。このため、世界中でシリコンウェハが不足するという事態が発生している。そこで、近年では、シリコンウェハの供給量に律速されない光電変換層(半導体層)が薄膜からなる薄膜太陽電池の生産量が急速に伸びつつある。
【0003】
薄膜太陽電池では、透光性絶縁基板上に透明導電材料からなる表面導電層、p−i−n構造のアモルファスシリコン膜やp−i−n構造の微結晶シリコン膜などの半導体層またはこれらの半導体層の積層膜などからなる光電変換層、およびAgなどの裏面電極層が順に積層された構造となる。
【0004】
半導体層の成膜には化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:以下、CVD法という)が一般的に用いられており、CVD法においては成膜される半導体層の膜質の制御には装置の温度制御が重要である。そのため基板を載置する基板電極、高周波が印加される高周波印加電極、および成膜室壁面はその表面温度を一定に保つため、定温度に保たれた冷媒を循環させることで温度を制御することが一般的に行われている。
【0005】
また、基板温度の高精度な制御方法としては、基板電極と基板間に供給する冷却ガス系統を複数設け、設定範囲ごとに熱伝達係数の異なる複数の冷却ガスの中から1つの冷却ガスまたは冷却ガスの組み合わせを選択して供給することで、広い温度範囲での温度制御性を向上させる方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−203849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年では、薄膜太陽電池の製造コスト低減のため、生産スループットの向上が必要とされ、半導体層の高速での成膜が求められている。そのため、高密度プラズマを利用した高速成膜技術が使用されるようになっているが、高密度プラズマを生成するためには、10kWを超えるような高周波電力が高周波印加電極に投入される。このような大電力の高周波を印加して高密度のプラズマを生成すると、高周波電力および生成されたプラズマからの入熱によってCVD装置を構成する基板電極、高周波印加電極および成膜室壁面は加熱される。また、高周波電力は成膜時とクリーニング時には投入されるが、待機時には投入されないので、入熱量が高周波電力のオン/オフによって急激に変化する。
【0008】
このような高密度プラズマを生成するCVD装置においては、特許文献1に記載の温度制御方法などを用いても、大きな入熱や急峻な入熱量の変化に十分に対応することができない。つまり、特許文献1に記載の技術では、基板電極、高周波印加電極および成膜室壁面の温度を高精度で制御することが困難であるという問題点があった。そして、高周波印加電極の温度変動が成膜される半導体層の膜質低下を引き起こし、ひいては薄膜太陽電池の特性を悪化させる原因となっていた。
【0009】
この発明は、上記に鑑みてなされたもので、高周波印加電力に大電力が印加された場合でも、高周波印加電極や基板電極、反応室壁などの気相と接する装置表面の温度上昇を抑制し、高精度での温度制御を可能とする薄膜製造装置および薄膜太陽電池の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明にかかる薄膜製造装置は、基板を保持する基板電極、および前記基板電極に対向して設けられる高周波印加電極を内部に有する成膜室と、前記高周波印加電極に高周波電力を供給する高周波電源と、を備え、前記成膜室内にガスを導入して前記高周波電源からの高周波電力によって前記基板電極と前記高周波印加電極との間にプラズマを生成して前記基板に被膜を形成する薄膜製造装置において、前記ガスと接する部位の構成部材に設けられる配管と、前記配管に所定の温度の前記冷媒を循環させる冷媒循環手段と、を有し、異なる温度の冷媒ごとに設けられる複数の冷却系統と、前記高周波電源による前記高周波印加電極への電力の供給のオン/オフによる前記構成部材への入熱量の変化に応じて、前記構成部材の温度が所定の温度となるように前記各冷却系統の前記冷媒の流量制御を行う流量制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、温度の異なる冷媒を薄膜製造装置の構成部材に循環させる複数の冷却系統と、構成部材への入熱量に応じて各冷却系統での冷媒の流量を制御する流量制御手段と、を備えるようにしたので、大電力の高周波電力印加にともなう大きな入熱や急峻な入熱量の変化にも、構成部材の温度を所定の温度に保つことができる。その結果、高品質の薄膜を高い再現性で成膜することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1による薄膜製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、この発明の実施の形態1による薄膜製造時の高周波電力の印加と冷媒の流量制御の一例を示すタイムチャートである。
【図3】図3は、この発明の実施の形態2による薄膜製造装置の構成を模式的に示す図である。
【図4】図4は、この発明の実施の形態2による薄膜製造時の高周波電力の印加と冷媒の流量制御の一例を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、この発明の実施の形態3による薄膜製造装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、この発明の実施の形態にかかる薄膜製造装置および薄膜太陽電池の製造方法を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による薄膜製造装置の構成を模式的に示す図である。この薄膜製造装置10は、成膜室11(チャンバ)内に薄膜太陽電池用基板などの基板100を保持するとともに電極としての機能も有する基板電極12と、基板電極12の基板載置側の面から所定の距離をおいて設けられる高周波印加電極13と、を備える。また、図示していないが、成膜室11にはガス供給部が設けられ、基板100上に形成する薄膜の原料ガスなどが成膜室11内に供給されるようになっている。
【0015】
高周波印加電極13には、高周波印加電極13の温度を計測する温度センサ14と、高周波印加電極13に高周波電力を印加する高周波電源15が設けられている。また、高周波電源15内には冷却用配管が複数系統設けられている。この図1の例では、第1の温度の第1冷媒を循環させる第1冷却系統20と、第1の温度に比して低い第2の温度の第2冷媒を循環させる第2冷却系統30と、が設けられている。第1冷却系統20は、第1配管22と、第1冷媒を第1配管22内に循環させる第1チラー21と、を有する。第1チラー21では、第1冷媒が第1の温度となるように温度制御が行われる。また、第2冷却系統30は、第2配管32と、第2冷媒を第2配管32内に循環させる第2チラー31と、を有する。第2チラー31では、第2冷媒が第2の温度となるように温度制御が行われる。
【0016】
また、薄膜製造装置10は、温度センサ14と第1および第2チラー21,31とに接続される流量制御部16を備える。流量制御部16は、高周波印加電極13に設けられた温度センサ14からの出力に基づいて、高周波印加電極13が所定の温度となるように、第1チラー21から送出される第1冷媒と第2チラー31から送出される第2冷媒の流量を連動して制御する。たとえば、高周波印加電極13の温度を1℃上昇または下降させるのに必要な第1冷媒の流量と第2冷媒の流量を予め求めておき、温度センサ14から得られる温度と高周波印加電極13を維持する温度との差から、第1冷却系統20の流量と第2冷却系統30の流量を算出し、その結果に基づいて第1チラー21と第2チラー31を制御する。
【0017】
つぎに、このような構造の薄膜製造装置10での薄膜製造方法について説明する。図2は、この発明の実施の形態1による薄膜製造時の高周波電力の印加と冷媒の流量制御の一例を示すタイムチャートである。薄膜製造装置10内に、既に透明導電性材料からなる第1電極層を形成した基板100を搬送し、基板電極12上に載置した後、成膜室11内を図示しない真空ポンプで所定の真空度になるまで排気する。このとき、高周波印加電極13の温度がT1となるように、より高温の第1冷媒を流量a2で第1配管22内を循環させ、より低温の第2冷媒を流量b1で第2配管32内を循環させる。ここまでが待機状態である。
【0018】
そして、所定の真空度になった後の時間t1で、図示しないガス供給部から原料ガスを成膜室11内に供給するとともに、高周波電源15から高周波印加電極13に出力P1の高周波電力を供給し、光電変換層の成膜を開始する。ここでは、プラズマ密度を高くするように高い電力の高周波が高周波印加電極13に供給されるので、高周波印加電極13への入熱量が増大する。つまり、高周波印加電極13の温度センサ14によって出力される温度が上昇する。流量制御部16は、高周波印加電極13に設定された設定温度と温度センサ14で検出された温度との差から、高周波印加電極13を設定温度とするために必要な第1冷媒と第2冷媒の流量を算出し、その結果に基づいて第1チラー21と第2チラー31とを制御する。この場合には、温度上昇に対応して、温度の高い第1冷媒の流量を減少させ、温度の低い第2冷媒の流量を増大させるように、第1チラー21と第2チラー31を制御する。その後、しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、第1冷媒を流量a1で第1配管22内を循環させ、第2冷媒を流量b2で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する状態となっている。そして、基板100上に所定の膜厚の光電変換層が成膜される時刻t2までこの状態が続く。
【0019】
時刻t2で成膜処理が終了すると、高周波電源15は、高周波印加電極13への電力の供給を停止し、待機状態へと移行する。これによって、高周波印加電極13への入熱量が減少し、高周波印加電極13の温度が低下する。この低下を温度センサ14が検知し、流量制御部16は、高周波印加電極13を所定の温度に保つように第1チラー21と第2チラー31を制御する。この場合には、温度低下に対応して、温度の高い第1冷媒の流量を増加させ、温度の低い第2冷媒の流量を減少させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する。しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、第1冷媒を流量a2で第1配管22内を循環させ、第2冷媒を流量b1で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する状態となっている。そして、この間に基板100を成膜室11の外部に搬送する。
【0020】
その後、所定の時間待機状態にした後、時刻t3で薄膜製造装置10内をクリーニングする。クリーニングは、成膜時に成膜室11内壁に付着した堆積物を除去するために行う。そのため、三フッ化窒素(NF3)や不活性ガスなどのクリーニングガスを図示しないガス供給部から成膜室11内に供給するとともに、高周波電源15から高周波印加電極13に出力P2の高周波電力を供給し、クリーニングを開始する。このとき高周波印加電極13に供給される電力は、成膜時の電力よりも大きいので、成膜時よりも高周波印加電極13への入熱量が大きく、高周波印加電極13の温度が上昇する。そこで、流量制御部16は、この温度上昇に対応して、高周波印加電極13の設定温度が所定の温度となるように、温度の高い第1冷媒の流量を減少させ、温度の低い第2冷媒の流量を増大させるように、第1チラー21と第2チラー31を制御する。しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、第1冷媒を流量a1で第1配管22内を循環させ、第2冷媒を流量b3で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御している状態となっている。そして、所定の時間が経過するまで、すなわち時刻t4までこの状態が続く。
【0021】
その後、時刻t4になりクリーニング処理が終了すると、高周波電源15は、高周波印加電極13への電力の供給を停止し、待機状態へと移行する。これによって、高周波印加電極13への入熱量が減少し、高周波印加電極13の温度が低下する。この低下を温度センサ14が検知し、流量制御部16は、高周波印加電極13の温度を一定に保つように第1チラー21と第2チラー31を制御する。待機状態が安定すると、流量制御部16は、温度の高い第1冷媒を流量a2で第1配管22内を循環させ、温度の低い第2冷媒を流量b1で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する。そして、この間に基板100を成膜室11の内部に搬送し、基板電極12上に載置し、上記した処理が繰り返し行われる。
【0022】
以上のようにして、光電変換層が形成される。この後、光電変換層が形成された基板100上には、スパッタ法やCVD法などの成膜法によって、Alなどの金属膜を含む第2電極層を形成して、薄膜光電変換装置が完成する。
【0023】
この実施の形態1では、温度の異なる冷媒を薄膜製造装置10の構成部材に循環させる複数の冷却系統と、その構成部材の温度を計測する温度センサ14を設け、高周波電力のオン/オフによる構成部材の温度変化を検出して、各冷却系統での冷媒の流量を制御した。これによって、プラズマ密度を高くするために大電力が供給された場合でも、薄膜製造装置10の気相と接する部位の温度上昇を抑制し、構成部材の温度を高精度で制御することができる。つまり、大電力の高周波電力印加にともなう大きな入熱や急峻な入熱量の変化に十分に対応することができる。その結果、高品質の半導体層を高い再現性で成膜することができ、結果として薄膜太陽電池の特性を向上させることができるとともに、高効率の薄膜太陽電池を安定的に製造することができるという効果を有する。
【0024】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2による薄膜製造装置の構成を模式的に示す図である。この薄膜製造装置10Aは、実施の形態1の薄膜製造装置10で、高周波印加電極13に温度センサ14を設けずに、高周波電源15の出力を制御するとともに、高周波電源15の出力制御情報を流量制御部16に伝達する装置制御部17を備える構成となっている。
【0025】
また、流量制御部16は、装置制御部17から高周波電源15の出力制御情報を取得して、出力制御情報から高周波印加電極13への入熱量を事前に予測し、第1チラー21と第2チラー31とを制御する。たとえば高周波電源15の単位出力変化による高周波印加電極13の温度の変化量と、高周波印加電極13の温度を一定に保つのに必要な第1冷媒の流量と第2冷媒の流量と、を予め求めておき、装置制御部17から得られる高周波電源15の出力制御情報を用いて、出力変化による入熱量の変化から高周波印加電極13の温度を一定に保つ第1冷媒の流量と第2冷媒の流量を算出し、その結果に基づいて第1チラー21と第2チラー31を制御する。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
【0026】
つぎに、このような構造の薄膜製造装置10Aでの薄膜製造方法について説明する。図4は、この発明の実施の形態2による薄膜製造時の高周波電力の印加と冷媒の流量制御の一例を示すタイムチャートである。薄膜製造装置10A内に、既に透明導電性材料からなる第1電極層を形成した基板100を搬送し、基板電極12上に載置した後、成膜室11内を図示しない真空ポンプで所定の真空度になるまで排気する。このとき、高周波印加電極13の温度がT1となるように、より高温の第1冷媒を流量a2で第1配管22内を循環させ、より低温の第2冷媒を流量b1で第2配管32内を循環させる。ここまでが待機状態である。
【0027】
そして、所定の真空度になった時間t1で、図示しないガス供給手段から原料ガスを成膜室11内に供給するとともに、装置制御部17は、高周波電源15から高周波印加電極13に出力P1の高周波電力を供給するように指示を与えるとともに、高周波電源15に与えた高周波印加電極13に供給する出力P1の値を含む出力制御情報を流量制御部16に伝達する。
【0028】
高周波電源15は、装置制御部17からの指示に基づいて、高周波印加電極13に出力P1の高周波電力を印加し、光電変換層の成膜を開始する。また、流量制御部16は、出力制御情報から高周波印加電極13に供給される出力P1に基づいて高周波印加電極13への入熱量の増加を予測し、その予測に基づいて高周波印加電極13の温度を所定の温度とするための第1冷媒の流量と第2冷媒の流量を算出する。そして、その算出結果に基づいて、第1チラー21と第2チラー31の流量制御を行う。ここでは温度の高い第1冷媒の流量を減少させ、温度の低い第2冷媒の流量を増加させる指示を出す。しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、第1冷媒を流量a1で第1配管22内を循環させ、第2冷媒を流量b2で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する状態となっている。そして、基板100上に所定の膜厚の光電変換層が成膜される時刻t2までこの状態が続く。
【0029】
時刻t2で成膜処理が終了すると、装置制御部17は、高周波電源15から高周波印加電極13への高周波電力の供給を停止する指示を与えるとともに、高周波電源15に与えた高周波印加電極13への出力停止を含む出力制御情報を流量制御部16に伝達する。
【0030】
高周波電源15は、装置制御部17からの指示に基づいて、高周波印加電極13への電力の供給を停止し、待機状態へと移行する。また、流量制御部16は、出力制御情報から高周波印加電極13への出力の供給停止に基づいて高周波印加電極13への入熱量の減少を予測し、その予測に基づいて高周波印加電極13の温度を所定の温度とするための第1冷媒の流量と第2冷媒の流量を算出する。そして、その算出結果に基づいて、第1チラー21と第2チラー31に第1冷媒と第2冷媒の流量制御を行う。ここでは第1冷媒の流量を増加させ、第2冷媒の流量を減少させる指示を出す。しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、温度の高い第1冷媒を流量a2で第1配管22内を循環させ、温度の低い第2冷媒を流量b1で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する状態となっている。そして、この間に基板100を成膜室11の外部に搬送する。
【0031】
その後、所定の時間待機状態にした後、実施の形態1と同様に時刻t3で装置内をクリーニングする。たとえば不活性ガスなどのクリーニングガスを図示しないガス供給部から成膜室11内に供給し、装置制御部17は、高周波電源15から高周波印加電極13に出力P2の高周波電力を供給するように指示を与えるとともに、高周波電源15に与えた高周波印加電極13に供給する出力P2の値を含む出力制御情報を流量制御部16に伝達する。
【0032】
高周波電源15は、装置制御部17からの指示に基づいて、高周波印加電極13に出力P2の高周波電力を印加し、クリーニングを開始する。また、流量制御部16は、出力制御情報から高周波印加電極13に供給される出力P2に基づいて高周波印加電極13への入熱量の増加を予測し、その予測に基づいて高周波印加電極13の温度を所定の温度とするための第1冷媒の流量と第2冷媒の流量を算出する。そして、その算出結果に基づいて、第1チラー21と第2チラー31の流量制御を行う。ここでは温度の高い第1冷媒の流量を減少させ、温度の低い第2冷媒の流量を増加させる指示を出す。しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、第1冷媒を流量a1で第1配管22内を循環させ、第2冷媒を流量b2で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する状態となっている。そして、所定の時間が経過するまで、すなわち時刻t4までこの状態が続く。
【0033】
その後、時刻t4になりクリーニング処理が終了すると、装置制御部17は、高周波電源15から高周波印加電極13への高周波電力の供給を停止する指示を与えるとともに、高周波電源15に与えた高周波印加電極13への出力停止を含む出力制御情報を流量制御部16に伝達する。
【0034】
高周波電源15は、装置制御部17からの指示に基づいて、高周波印加電極13への電力の供給を停止し、待機状態へと移行する。また、流量制御部16は、出力制御情報から高周波印加電極13への出力の供給停止に基づいて高周波印加電極13への入熱量の減少を予測し、その予測に基づいて高周波印加電極13の温度を所定の温度とするための第1冷媒の流量と第2冷媒の流量を算出する。そして、その算出結果に基づいて、第1チラー21と第2チラー31の流量制御を行う。ここでは温度の高い第1冷媒の流量を増加させ、温度の低い第2冷媒の流量を減少させる指示を出す。しばらくして状態が安定した後には、流量制御部16は、第1冷媒を流量a2で第1配管22内を循環させ、第2冷媒を流量b1で第2配管32内を循環させるように、第1チラー21と第2チラー31とを制御する状態となっている。そして、この間に基板100を成膜室11の内部に搬送し、基板電極12上に載置し、上記した処理が繰り返し行われる。
【0035】
以上のようにして、光電変換層が形成される。この後、光電変換層が形成された基板100上には、スパッタ法やCVD法などの成膜法によって、Alなどの金属膜を含む第2電極層を形成して、薄膜光電変換装置が完成する。
【0036】
また、上述した説明では、構成部材(高周波印加電極13)が定温度となるように温度制御を行っているが、装置制御部17からの信号によって待機、成膜、クリーニングのそれぞれの状態で異なる温度で制御するようにしてもよい。たとえば、クリーニング時においては、第1チラー21の流量を増加させることで高周波印加電極13の温度を積極的に高温にして、付着した膜の反応を促進することによってクリーニング速度を高めるようにしてもよい。このようにすることで、クリーニング時間を短縮することができる。また、成膜時においては、各チラー21,31に流す冷媒の流量を連続的に変化させて温度を変えることで、成膜される膜の膜質を膜厚方向で制御することも可能である。
【0037】
この実施の形態2では、装置制御部17から高周波電源15に指示する出力を含む出力指示情報を流量制御部16に伝達し、出力指示情報に基づいて高周波印加電極13への入熱量を事前に予測することによって、各チラーの流量を調整するようにしたので、実施の形態1に比して高速に温度制御することが可能になるという効果を有する。
【0038】
実施の形態3.
図5は、この発明の実施の形態3による薄膜製造装置の構成を模式的に示す図である。この薄膜製造装置10Bは、実施の形態2の薄膜製造装置10Aで、高周波印加電極13にさらに温度センサ14を備える構成となっている。
【0039】
また、流量制御部16は、装置制御部17から高周波電源15の出力制御情報を取得して、出力制御情報から高周波印加電極13への入熱量を事前に予測し、第1冷媒と第2冷媒とを制御するとともに、高周波印加電極13に設けられた温度センサ14からの出力に基づいて、高周波印加電極13が所定の温度となるように、第1チラー21から送出する冷媒と第2チラー31から送出する冷媒の流量を連動して制御する。つまり、出力制御情報から高周波印加電極13への入熱量を事前に予測して、第1チラー21と第2チラー31とを制御しながら、実際の高周波印加電極13の温度を監視して、設定温度からのずれが生じている場合に設定温度となるように第1チラー21と第2チラー31とを制御するようにしている。
【0040】
なお、実施の形態1,2と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。また、この実施の形態3による薄膜製造装置10Bにおける薄膜製造方法は、実施の形態1,2で説明したものと同様であるので、その説明を省略する。
【0041】
この実施の形態3によれば、装置制御部17からの出力制御情報から高周波印加電極13への入熱量を事前に予測して各チラー21,31の流量を調整するだけでなく、温度センサ14からの情報も合わせて各チラー21,31の流量を調整するようにしたので、高速かつより高精度で温度を制御することができるという効果を有する。
【0042】
なお、上述した説明では、高周波印加電極13に温度の異なる2つの冷却系統20,30を設けた場合を示したが、温度の異なる3つ以上の冷却系統を設けるようにしてもよい。また、上述した説明では、高周波印加電極13にのみ複数の冷却系統20,30を設け、それぞれの冷却系統20,30の流量制御を行う場合を説明したが、基板電極12や成膜室11内壁についても同様に温度センサ14と冷媒の温度が異なる複数の冷却系統とを設け、同様の方式によって温度制御を行ってもよい。さらに、温度制御を行う部材(高周波印加電極13、基板電極12および/または成膜室11内壁)を複数の領域に分割し、それぞれの領域に温度センサ14と冷媒の温度が異なる複数の冷却系統とを設け、分割した領域ごとに温度制御を行ってもよい。また、上述した説明では、各冷却系統20,30の冷媒は各チラー21,31によって恒温制御しているが、流量と合わせて各冷媒の温度を変動させて制御させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、この発明にかかる薄膜製造装置は、高密度プラズマを生成させて成膜を行う薄膜太陽電池の製造に有用である。
【符号の説明】
【0044】
10,10A,10B 薄膜製造装置
11 成膜室
12 基板電極
13 高周波印加電極
14 温度センサ
15 高周波電源
16 流量制御部
17 装置制御部
20,30 冷却系統
21,31 チラー
22,32 配管
100 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板電極、および前記基板電極に対向して設けられる高周波印加電極を内部に有する成膜室と、
前記高周波印加電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
を備え、前記成膜室内にガスを導入して前記高周波電源からの高周波電力によって前記基板電極と前記高周波印加電極との間にプラズマを生成して前記基板に被膜を形成する薄膜製造装置において、
前記ガスと接する部位の構成部材に設けられる配管と、前記配管に所定の温度の前記冷媒を循環させる冷媒循環手段と、を有し、異なる温度の冷媒ごとに設けられる複数の冷却系統と、
前記高周波電源による前記高周波印加電極への電力の供給のオン/オフによる前記構成部材への入熱量の変化に応じて、前記構成部材の温度が所定の温度となるように前記各冷却系統の前記冷媒の流量制御を行う流量制御手段と、
を備えることを特徴とする薄膜製造装置。
【請求項2】
前記ガスと接する部位の構成部材の温度を計測する温度計測手段をさらに備え、
前記流量制御手段は、前記温度計測手段によって計測された温度と前記所定の温度との差に応じて、前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造装置。
【請求項3】
前記高周波電源の出力を制御するとともに、前記高周波電源への高周波電力の出力制御情報を前記流量制御手段に伝達する装置制御手段をさらに備え、
前記流量制御手段は、前記出力制御情報から前記構成部材への入熱量を予測し、前記入熱量に基づいて前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造装置。
【請求項4】
前記高周波電源の出力を制御するとともに、前記高周波電源への高周波電力の出力制御情報を前記流量制御手段に伝達する装置制御手段をさらに備え、
前記流量制御手段は、前記出力制御情報から前記構成部材への入熱量を予測し、前記入熱量に基づいて前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行い、前記温度計測手段によって計測された温度と前記所定の温度との間に差がある場合にはその差に応じて、前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の薄膜製造装置。
【請求項5】
前記構成部材は、前記基板電極、前記高周波印加電極または前記成膜室の内壁であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の薄膜製造装置。
【請求項6】
基板を保持する基板電極、および前記基板電極に対向して設けられる高周波印加電極を内部に有する成膜室と、
前記高周波印加電極に高周波電力を供給する高周波電源と、
ガスが接する部位の構成部材に設けられる配管と、前記配管に所定の温度の前記冷媒を循環させる冷媒循環手段と、を有し、異なる温度の冷媒ごとに設けられる複数の冷却系統と、
を備える薄膜製造装置を用いた薄膜太陽電池の製造方法であって、
前記成膜室内の前記基板電極上に、第1電極層が形成された基板を搬送する第1工程と、
前記成膜室内に原料ガスを供給し、前記高周波電源から前記高周波印加電極に高周波電力を供給し、前記基板上に半導体層を含む光電変換層を形成する第2工程と、
前記成膜室内への原料ガスの供給を停止する第3工程と、
前記成膜室内から前記基板を搬出する第4工程と、
前記基板上に第2電極層を形成する第5工程と、
を含み、
前記第2および第3工程では、前記高周波印加電極への入熱量の変化に応じて、前記構成部材の温度が所定の温度となるように前記各冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記第2および第3工程では、前記構成部材の温度を計測する温度計測手段によって計測された温度と前記所定の温度との差に応じて、前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記第2および第3工程では、前記高周波電源への高周波電力の出力制御情報から前記構成部材への入熱量を予測し、前記入熱量に基づいて前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記第2および第3工程では、前記高周波電源への高周波電力の出力制御情報から前記構成部材への入熱量を予測し、前記入熱量に基づいて前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行い、前記構成部材の温度を計測する温度計測手段によって計測された温度と前記所定の温度との間に差がある場合にはその差に応じて、前記複数の冷却系統の前記冷媒の流量制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117089(P2012−117089A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265501(P2010−265501)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】