説明

薄膜超電導線の接続方法及びその接続構造体

【課題】実用機器に用いられる薄膜超電導線の接続部に要求される諸特性を損なわず、マンホール内などの現場環境でも簡易に接続ができる接続方法および接続構造体を提供する。
【解決手段】接続しようとする接続端近傍の安定化金属層の一部を剥がした、基板(1)上方に超電導層(1)と金属保護層(1)と安定化金属層が形成されている少なくとも2つの第1の薄膜超電導線、および、基板(2)上方に超電導層(2)と金属保護層(2)が形成されている少なくとも1つの第2の薄膜超電導線を調製し、前記第1の薄膜超電導線の前記接続端部を対向配置し、前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)と、前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層を剥がして露出した前記金属保護層(1)とを対向配置し、前記第1の薄膜超電導線の前記金属保護層(1)と前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)とを接続する、薄膜超電導線の接続方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導電力ケーブル、超電導マグネット、超電導エネルギー貯蔵装置、超電導変圧器、超電導限流器、MRI装置などの超電導機器に用いられる薄膜超電導線の接続方法及びその接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導機器で用いられる薄膜超電導線は、ハステロイやNi合金などの金属基板上に、酸化セリウムなどの中間層が形成され、その上に超電導状態で電流を流す酸化物超電導層が、更に水などが酸化物超電導層と反応して性能を劣化する現象を防ぐための遮水機能を持つ金属保護層と、超電導層に過大電流が流れたときに超電導層が焼損することを防ぐために電流をバイパスする金属安定化層が形成されている。
【0003】
この薄膜超電導線同士を接続させる方法のひとつの例としては、特許文献1に示されるように、テープ状の基材上に銀が添加された酸化物超電導層上に安定化銀層が形成されている複数本の酸化物超電導体の安定化銀層側の表面を対向させ、半田を介してこれら安定化銀層同士を接続する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2にある接続方法では、接続する2本の薄膜超電導線の端部で、その端部の酸化物超電導層を除去して基板の一部を露出させ、各酸化物超電導体の露出した基材同士を突き合わせて接合し、この基材の接合部分上と露出部分上と各酸化物超電導層上にまたがるようにして各酸化物超電導層を接続するための接続用酸化物超電導層を形成し、更に、酸化物超電導層上と接続用酸化物超電導層上に表面保護層を形成する方法が提案されている。
【0005】
更に、特許文献3の方法では、基材上に超電導薄膜が形成された2本の超電導板状体の超電導薄膜表面の一部が互いに接触するように対面で接触させ、接触した双方の超電導薄膜の結晶方位がほぼ一致するように位置調整した後、超電導薄膜が接触している部分に続く薄膜面に、前記超電導薄膜と同種の超電導薄膜を堆積させる接続方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−133067号公報
【特許文献2】特開2001−319750号公報
【特許文献3】特開2005−63695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、銀層が非常に薄いために、接続された 2本の超電導線に引張り応力や曲げ応力が加わると、銀層と超電導層の間で剥離が起きたり、銀層が切れたりし、機械的に弱い問題があった。また、線材の臨界電流に近い電流が流れると、2本の線材間の接続抵抗によって発熱し、接続部から超電導破壊を起こして、接続部が焼損する問題があった。
【0008】
特許文献2では、機械的な強度は十分にあるものの、接続用酸化物超電導層をCVD法により形成するため、結晶方位を揃えた酸化物超電導層を形成するためには、CVD法を始めとして、高価で大型の成膜装置が必要となる。また、例えば超電導ケーブルの接続の用にマンホール等の現場で接続を行う際には、設備を狭い空間に持ち込む必要があり、成膜時間も数時間と長い時間を必要とするため、さらに数百本の接続を行うには1000時間近い時間が必要となるため、ひとつのケーブル接続をするには非現実的な方法である。
【0009】
特許文献3では、接続部に超電導薄膜を堆積させる方法として、RFスパッタリング法が行われているが、RFスパッタリング法を実施する場合、真空チャンバーに接続部を入れて真空状態にしてスパッタリングする必要があり、更に高価で大型の設備を準備する必要がある。また、その成膜には特許文献2のCVDと同様に時間がかかり、現場で簡易に接続できるような技術ではない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、実用機器に用いられる薄膜超電導線の接続部に要求される諸特性を損なわず、マンホール内などの現場環境でも簡易に接続ができる接続方法および接続構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明である薄膜超電導線の接続方法の第1の態様は、 接続しようとする接続端近傍の安定化金属層の一部を剥がした、基板(1)上方に超電導層(1)と金属保護層(1)と安定化金属層が形成されている少なくとも2つの第1の薄膜超電導線、および、基板(2)上方に超電導層(2)と金属保護層(2)が形成されている少なくとも1つの第2の薄膜超電導線を調製し、
前記第1の薄膜超電導線の前記接続端部を対向配置し、
前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)と、前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層を剥がして露出した前記金属保護層(1)とを対向配置し、
前記第1の薄膜超電導線の前記金属保護層(1)と前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)とを接続する、薄膜超電導線の接続方法である。
【0012】
なお、それぞれの薄膜超電導線においては基板と超電導層の間に中間層を設けてもよい。この態様によれば、超電導層に過大電流が流れたときに超電導層が焼損することを防ぐために電流をバイパスする金属安定化層が接続されていることにより、接続部の強度を維持しつつ、臨界電流を越える電流が流れた場合にも線材が焼損せず、安定した電流を流すことができる薄膜超電導線を可能とする。
【0013】
第1の発明である薄膜超電導線の接続方法の第2の態様は、
前記第1の薄膜超電導線を調製する際に前記金属保護層(1)と前記安定化金属層の貼り合わせに用いられる第1の低融点金属の融点と同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属を用いて、前記金属保護層(1)と前記金属保護層(2)が接続されることを特徴とする薄膜超電導線の接続方法である。
この態様によれば、薄膜超電導線を形成する金属保護層と安定化金属層間の電気的および機械的接続を保持しつつ、接続部の電気的および機械的接続を確実に行うことができる。
【0014】
第1の発明である薄膜超電導線の接続方法の第3の態様は、
接続される少なくとも2つの前記第1の薄膜超電導線のそれぞれの前記安定化金属層(1)が接合部を介して接続され、前記安定化金属層は前記第2の低融点金属を用いて接続されることを特徴とする薄膜超電導線の接続方法である。
この態様によれば、薄膜超電導線を形成する金属保護層と安定化金属層間と、接続部の電気的および機械的接続を保持しつつ、接続部の電気的および機械的接続を確実に行うことができる。
【0015】
第1の発明である薄膜超電導線の接続方法の第4の態様は、
少なくとも2つの前記安定化金属層が、良導性金属テープによって少なくとも2箇所の接合部を介して接合されていることを特徴とする薄膜超電導線の接続方法である。
なお、良導性金属テープとして、前記安定化金属層と同じテープを用いてもよい。
【0016】
この態様によれば、接続端近傍の安定化金属層を剥がす長さを短くすることが出来、作業を楽に行うことができる。また、安定化金属層の厚さが異なる2つの薄膜超電導線を接続する場合には、接続部における安定化金属層の厚さが均一ではなく、薄い安定化金属層と厚い安定化金属層ができてしまう。このとき、安定化金属層を流れる電流は薄い安定化金属層によって臨界電流を越える電流が制約され、厚い安定化金属層を有する薄膜超電導線から見ると安定化が過少となってしまう。そこで、厚い安定化金属層で接続部を覆うと、接続部の特性を制約することないことから、接続部に適した厚さのテープを使用することができる。
【0017】
第1の発明である薄膜超電導線の接続方法の第5の態様は、
前記第2の薄膜超電導線の基板(2)に、非磁性体または極低磁性体を用いることを特徴とする薄膜超電導線の接続方法である。
この態様によれば、第2の薄膜超電導線部分の交流損失を低減することができる。
【0018】
第2の発明の薄膜超電導線の接続構造体の第1の態様は、
接続端近傍の安定化金属層の一部が剥がされた、基板(1)上方に超電導層(1)と金属保護層(1)と安定化金属層が形成されている少なくとも2つの第1の薄膜超電導線と、
基板(2)上方に超電導層(2)と金属保護層(2)が形成されている少なくとも1つの第2の薄膜超電導線と、
前記第1の薄膜超電導線および前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層が接続して形成される接続部と
前記第2の薄膜超電導線の前記接続部と反対側の外表面を覆う部材によって形成される接合部とを備え、
前記第1の薄膜超電導線の前記接続端部が対向配置され、前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)と、前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層を剥がして露出した前記金属保護層(1)とが対向配置され、前記第1の薄膜超電導線および前記第2の薄膜超電導線が、前記接続部を介して接続され、前記第2の薄膜超電導線の前記外表面を覆う部材が少なくとも1箇所の前記接合部を介して接続されている、薄膜超電導線の接続構造体である。
【0019】
この態様によれば、超電導層に過大電流が流れたときに超電導層が焼損することを防ぐために電流をバイパスする金属安定化層が接続されていることにより、接続部の強度を維持しつつ、臨界電流を越える電流が流れた場合にも線材が焼損せず、安定した電流を流すことができる。
【0020】
第2の発明の薄膜超電導線の接続構造体の第2の態様は、
前記第2の薄膜超電導線の前記外表面を覆う部材が前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層からなっており、前記安定化金属層同士が直接接続されていることを特徴とする請求項6に記載の薄膜超電導線の接続構造体である。
この態様によれば、部品点数を増やすことなく接続を行うことができる。
【0021】
第2の発明の薄膜超電導線の接続構造体の第3の態様は、
前記第2の薄膜超電導線の前記外表面を覆う部材が良導性金属テープからなっており、前記良導性金属テープと前記安定化金属層とが接続されていることを特徴とする薄膜超電導線の接続構造体である。
【0022】
この態様によれば、接続端近傍の安定化金属層を剥がす長さを短くすることが出来、作業を楽に行うことができる。また、安定化金属層の厚さが異なる2つの薄膜超電導線を接続する場合には、接続部における安定化金属層の厚さが均一ではなく、薄い安定化金属層と厚い安定化金属層ができてしまう。このとき、安定化金属層を流れる電流は薄い安定化金属層によって臨界電流を越える電流が制約され、厚い安定化金属層を有する薄膜超電導線から見ると安定化が過少となってしまう。そこで、厚い安定化金属層で接続部を覆うと、接続部の特性を制約することないことから、接続部に適した厚さのテープを使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、薄膜超電導線を形成する金属保護層と安定化金属層間の電気的および機械的接続を保持しつつ、接続部の電気的および機械的接続を確実に行うことができる。更に、すでに薄膜超電導線に形成された安定化金属層を接続部に用いることで、線材の臨界電流まで安定に電流を流すことができ、かつ簡易に接続を行うことができる。また、薄く形成された金属保護層を対面として接続部を形成することにより、低い接続抵抗のまま接続を行うことができるため、安定に電流を流すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0025】
図1は本発明の薄膜超電導線の接続の第1の実施形態を説明する工程の模式図である。図1(a)は、第1の薄膜超電導線10の長手方向における端部の安定化金属層15を剥がす工程、図1(b)は、2本の第1の薄膜超電導線10の間に第2の薄膜超電導線20を接続する工程、図1(c)は、第1の薄膜超電導線10の安定化金属層15同士を接合する工程、の模式図である。
【0026】
基板(1)11上に、中間層(1)12、超電導層(1)13、金属保護層(1)14、安定化金属層15が順に形成されている第1の薄膜超電導線10と、基板(2)21上に、中間層(2)22、超電導層(2)23、金属保護層(2)24が順に形成されている第2の薄膜超電導線20を調製する。このとき、中間層(1)12、中間層(2)22は、基板(1)11、基板(2)21の種類によっては形成されてなくてもよい。例えば、基板(1)11、基板(2)21がNi合金などからなる場合には、超電導層(1)13、超電導層(2)23へNiが拡散するのを防ぐために、中間層(1)12、中間層(2)22が必要となるが、基板(1)11、基板(2)21がAg合金などからなる場合には、中間層(1)12、中間層(2)22は形成されていなくてもよい。
【0027】
第1の薄膜超電導線10の安定化金属層15は基板(1)11、中間層(1)12、超電導層(1)13、金属保護層(1)14の長さよりも長く形成され、端部16の断面部分である端面17よりも外に伸びている。第1の薄膜超電導線10の安定化金属層15を図1(a)のように剥がす。この安定化金属層15を剥がす長さは、図1(c)に示すように、長手方向長さDの第2の薄膜超電導線20を覆い、安定化金属層15同士が接合できる長さがあればよい。このとき、第2の薄膜超電導20の長さDは、好ましくは20mm≦D≦300mm、より好ましくは30mm≦D≦100mmである。安定化金属層15を剥がす方法としては、安定化金属層15と金属保護層(1)14の間が安定化金属層15の融点および金属保護層(1)14の融点よりも低い融点を有している第1の低融点金属Aによって貼り合わせられている場合には、熱を加えて低融点金属Aを溶かす方法を用いるとよい。
【0028】
次に、少なくとも2本の第1の薄膜超電導線10の端面17同士を対向させて上面に安定化金属層15が来るように配置する。更に、図1(b)のように、第1の薄膜超電導線10の金属保護層(1)14と第2の薄膜超電導線20の金属保護層(2)24が対面となるように、第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20を接続させ、第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20が接触している接続部18を形成する。この接続部18の接続方法は、安定化金属層15と金属保護層(1)14の貼り合わせに第1の低融点金属Aが用いられている場合には、第1の低融点金属Aと同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属Bを用いて接続を行うとよい。接続部18の長さ方向の距離mは、長くすると接続抵抗が小さくなる傾向があり、30mm以上で好ましい小さな接続抵抗となるが、50mm以上では接続抵抗が小さくなる傾向は小さくなり、100mm以上ではほとんど変わらないことがわかった。このことから、接続部18の距離mは30〜100mmが好ましく、より好ましくは30〜50mmである。
【0029】
そして、図1(c)に示すように安定化金属層15と第2の薄膜超電導線20の基板(2)21を接合させ、更に安定化金属層15同士を接合させて、接合部19を形成する。安定化金属層15と基板(2)21の接合方法と接合部19の接合方法は、接続部18の接続方法と同様に、第1の低融点金属Aと同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属Bを用いて接合を行うとよい。このとき、基板(2)21上に接合された安定化金属層15の長手方向長さL1は、第2の薄膜超電導線20の長さDとの関係で表したD/2≦L1≦Dの範囲内である。好ましくは、D/2よりも50mm以上長いとよい。また、図1においては、第1の薄膜超電導線10間に隙間距離nを設けているが、n=0として、隙間を空けなくてもよい。
【0030】
図2は本発明の薄膜超電導線の接続の第2の実施形態を説明する工程の模式図である。図2(a)は、第1の薄膜超電導線10の長手方向における端部16の安定化金属層15を剥がす工程の模式図である。図2(b)は、2本の第1の薄膜超電導線10の間に第2の薄膜超電導線20を接続する工程の模式図である。図2(c)は、良導性金属テープ25によって第2の薄膜超電導線20の基板(2)21を跨いで安定化金属層15間を接合させる工程の模式図である。
【0031】
第1の実施形態と同様の構成を備えた第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20を調製する。第1の薄膜超電導線10の安定化金属層15は図2(a)のように、基板(1)11、中間層(1)12、超電導層(1)13、金属保護層(1)14の長さよりも短く形成され、端部16から露出長さL2だけ安定化金属層15が剥がされ、金属保護層(1)14が露出している。金属保護層(1)14を露出する方法としては、安定化金属層15と金属保護層(1)14の間が安定化金属層15の融点および金属保護層(1)14の融点よりも低い融点を有している第1の低融点金属Aによって貼り合わせられている場合には、熱を加えて低融点金属Aを溶かす方法を用いるとよい。このとき、L2の長さはm≦L2≦m+50mmであることが望ましい。
【0032】
次に、少なくとも2本の第1の薄膜超電導線10の端面17同士を対向させて上面に安定化金属層15が来るように配置する。更に、図2(b)のように、第1の薄膜超電導線10の金属保護層(1)14と第2の薄膜超電導線20の金属保護層(2)24が対面となるように、第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20を接続させ、第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20が接触している接続部18を形成する。この接続部18の接合方法は、安定化金属層15と金属保護層(1)14の接合に第1の低融点金属Aが用いられている場合には、第1の低融点金属Aと同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属Bを用いて接続を行うとよい。接続部18の長さ方向の距離mは、長くすると接続抵抗が小さくなる傾向があり、30mm以上で好ましい小さな接続抵抗となるが、50mm以上では接続抵抗が小さくなる傾向は小さくなり、100mm以上ではほとんど変わらないことがわかった。このことから、接続部18の距離mは30〜100mmが好ましく、より好ましくは30〜50mmである。なお、露出長さL2は、接続部18の距離mよりも長ければよい。
【0033】
そして、図2(c)に示すように良導性金属テープ25を第2の薄膜超電導線20の基板(2)21を跨いで安定化金属層15間を接合させる。良導性金属テープ25と第2の薄膜超電導線20の基板(2)21とを接合させ、更に各々の安定化金属層15を接合させ、接合部19を2箇所形成する。安定化金属層15と基板(2)21の接合方法と接合部19の接合方法は、接続部18の接続方法と同様に、第1の低融点金属Aと同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属Bを用いて接合を行うとよい。このとき、良導性金属テープ25は安定化金属層15と同様のテープであってもよい。図2においては、第1の薄膜超電導線10間に隙間距離nを設けているが、n=0として、隙間を空けなくてもよい。
【0034】
図3は、本発明の薄膜超電導線の接続構造の実施形態を説明する模式図である。図3(a)は図1に示した薄膜超電導線の接続方法において、n=0とした場合に形成された薄膜超電導線の接続構造の模式図である。図3(b)は図2に示した薄膜超電導線の接続方法において、n=0とした場合に形成された薄膜超電導線の接続構造の模式図である。図3(c)は図1に示した薄膜超電導線の接続方法において、接合部19を第2の薄膜超電導線20上ではなく、第1の薄膜超電導線10上に形成した場合の薄膜超電導線の接続構造の模式図である。同様に図3(d)は図1に示した薄膜超電導線の接続方法において、接合部19を第2の薄膜超電導線20上ではなく、第1の薄膜超電導線10上に形成し、n=0とした場合に形成された薄膜超電導線の接続構造の模式図である。図3(c)および図3(d)に示す薄膜超電導線の接続方法によると、安定化金属層15の接合が1箇所でよく、一方の安定化金属層15は一度金属保護層(1)14から剥がした後に再度接合などを行う必要がなく、作業がより簡易となる。更に、接合部19を第2の薄膜超電導線20上ではなく、第1の薄膜超電導線10上に形成するので、薄膜超電導線の接続部分の厚さを薄くすることができる。
【0035】
図1および図2では、第1の薄膜超電導線10間に隙間距離nを設けているが、この場合、特に超電導電力ケーブルで使用される薄膜超電導線の接続時に適している。図4は一般的な超電導ケーブルの概略構造である。超電導ケーブル31の中心にあるケーブルコアは、金属製(例えば銅製)フォーマ32の周りにテープ状の薄膜超電導線33をらせん状に巻き付けて、その上に電気絶縁層34(材質は紙若しくは半合成紙)、次いで保護層35(例えば、導電性の紙あるいは銅の編組線からなる)から形成される。このケーブルコアは可撓性のある金属製(例えば、ステンレス製またはアルミニウム製)二重断熱管、即ち、内管36と外管38及び内管36と外管38の間に配置された断熱材37からなる二重断熱管の中に収納されている。このように、超電導電力ケーブルのような構造では、金属製フォーマ32の周りに薄膜超電導線33を巻きつけている。そのため、ケーブル接続の際に金属性フォーマ32間を溶接等で接続する際に、薄膜超電導線33間に隙間距離nがなく、接続部直上に薄膜超電導線33が存在してしまうと、金属製フォーマ32間の溶接による熱の影響によって薄膜超電導線33の性能が落ちてしまう。
【0036】
しかし、図1(c)、図2(c)および図3(d)のように、第1の薄膜超電導線10間に隙間距離nを設けておけば、金属製フォーマ32間の溶接を終えた後に、第2の薄膜超電導線20を新たに接続させることによって、金属製フォーマ32間の溶接などによる熱の影響を受けず、第1の薄膜超電導線10および第2の薄膜超電導線20の性能を落とすことなく、超電導ケーブル31内のケーブルコア接続が可能となる。このように、溶接などによる熱の影響を受けないためには、隙間距離nの距離は好ましくは200mm〜600mmであればよい。
【0037】
また、図3(a)、(b)および(d)のように隙間距離n=0として第1の薄膜超電導線10間の隙間を要さない場合は、超電導電力ケーブルのような金属でできたフォーマの外周に第1の薄膜超電導線10を巻きつける用途ではなく、薄膜超電導線10単体のみの接続の際に有効である。例としては、超電導マグネットのように、超電導線を用いたコイルの接続時などである。このような場合には、第1の薄膜超電導線10の端面17同士を対面で接する状態にし、端面17同士の接合も行い、更に第2の薄膜超電導線20に関しても接合を行うことによって、低い接続抵抗でかつ線材並みに強固な機械強度を有した接続構造を実現することができる。このとき、端面17同士の接合方法としては、接続部18の接続方法と同様に、第1の低融点金属Aと同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属Bを用いて接合を行うとよい。
以下に、この発明の薄膜超電導線の接続方法を実施例によって更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0038】
接続する第1の薄膜超電導線10としては、ハステロイ(登録商標:以下同様)(ニッケル−鉄合金)を圧延して、幅10mm、厚さ0.1mmにした基板(1)11の上に、イオンビームアシストスパッタリング法によりYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の中間層(1)12を0.5μm形成し、さらにその上にプラズマレーザー堆積法でYBCO(イットリウム−バリウム−銅−酸素)酸化物を1μm積層して超電導層(1)13を形成した。超電導層(1)13の劣化防止のために超電導層(1)13の上には、5μmの銀を真空蒸着法でつけ金属保護層(1)14を形成し、さらにその上に、低融点金属Aで厚さ0.1mmの銅テープを接合して銅からなる安定化金属層15を形成して第1の薄膜超電導線10を製作した。この第1の薄膜超電導線10を、液体窒素に入れて臨界電流を測定したところ200Aであり、さらに過電流に対する耐性として700Aの電流を2秒間流したが、焼損や臨界電流の低下などの劣化が全くなかった。また、この超電導線の引っ張り試験を室温で行ったところ、1000MPaで線材が破断した。
【0039】
最初に薄膜超電導線の接続手順として、接続する2本の第1の薄膜超電導線10の端部16を、2本の第1の薄膜超電導線10がつき合わされる位置となる中心点よりそれぞれ50mm長く切断する。それぞれの第1の薄膜超電導線10は、安定化金属層15をハンダゴテで熱を加えて安定化金属層15と金属保護層(1)14のあいだの低融点金属Aを溶かして剥がし、端部16より100mmの位置まで基板(1)11、中間層(1)12、超電導層(1)13、金属保護層(1)14からなる超電導線側と安定化金属層15側に分離する。分離した後の基板(1)11、中間層(1)12、超電導層(1)13、金属保護層(1)14からなる超電導線側の部分を端部16から30mmの部分で切断することで、2本の第1の薄膜超電導線10の端部16が、基板(2)21上に接合された安定化金属層15の長手方向長さL1のほぼ中心位置とすることができる。
【0040】
このとき、L1は端部16より100mmの位置まで基板(1)11、中間層(1)12、超電導層(1)13、金属保護層(1)14からなる超電導線側と安定化金属層15側に分離したときの、安定化金属層15の長さとほぼ等しい。そして、2本の第1の薄膜超電導線10の端面17同士が接触する状態で対向配置させた。次に基板(2)21、中間層(2)22、超電導層(2)23、金属保護層(2)24からなる長さD=100mmの第2の薄膜超電導線20を準備する。これは、先に超電導機器に巻きつけた第1の薄膜超電導線10を長めに準備して、その端の部分から100mmの箇所を切断して、さらにその第1の薄膜超電導線10の安定化金属層15を剥がした状態のものを使用することも可能である。
【0041】
第2の薄膜超電導線20の金属保護層(2)24と接続する第1の薄膜超電導線10の金属保護層(1)14をそれぞれ50mm重なるように配置して、ビスマスと錫を主とした融点が150℃以下の低融点金属Bをハンダとして用いて接続し、接続部18を形成する。なお、第2の薄膜超電導線20の基板(2)21の超電導層(2)23がついていない裏側については、接続部18の形成後または事前に、基板(2)21の裏側表面の酸化層を化学的または機械的に除去するか、事前にスパッタリング等によりハンダが乗りやすい銀層を形成してハンダが乗るようにしておく必要がある。第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20が接続部18で接続されている状態で、先に剥離させておいた安定化金属層15を元に戻すことで、両者の安定化金属層15は長さとしてL1が第2の薄膜超電導線20の長さDとほぼ等しい100mmを有しているため、両者の安定化金属層15同士は約100mm重なった状態、つまり接合部19の長さはと約100mmとなり、剥がした安定化金属層15と第2の薄膜超電導線20の基板間、更に2本の薄膜超電導線10の安定化金属層15で重なりあう部分である接合部19を全て低融点金属Bからなるハンダで隙間無く接合して、薄膜超電導線10の接続とする。
【0042】
この接続構造を有する薄膜超電導線の特性の評価を行った。その結果、電流を流して1μV/cmの電圧が発生する電流は、元の線材(薄膜超電導線10)の臨界電流となる200Aに対して2A低い198Aであり、薄膜超電導線10とそん色ない通電特性を持っていた。また、接続抵抗を測定したところ0.1μΩと非常に小さく抑えることができた。さらに、液体窒素温度で700A 2秒の短時間過電流を流したが、接続構造部分で大きな発熱も無く線材は焼損することなく過大電流に耐えることができた。その後線材を室温まで戻して、引張り試験を行ったが、引張り試験の結果、1120MPaで接続構造部分から離れた部分で、破断してしまい接続構造部分自身はなんら機械的な変形や亀裂など生じないことが確認された。
【実施例2】
【0043】
接続する第1の薄膜超電導線10としては、基板(1)11としてNi−5%W合金(ニッケル−5%タングステン合金)を使用した。この基板(1)11は、実施例1のハステロイと異なり、磁性を持つ材料であり交流電流を通電すると、交流損失が磁性の影響でハステロイの3倍程度大きくなることが観測されている。また、機械的にも弱く約300MPaで破断してしまう。この基板(1)11上に、電子ビーム法でCeO(酸化セリア)からなる中間層(1)12を1.0μm形成し、さらにその上にCVD法(化学蒸着堆積法)でYBCO酸化物を1μm積層して超電導層(1)13を形成した。この方法は、先のハステロイの基板(1)11上にIBAD−PLDで中間層(1)12/超電導層(1)13を形成する方式に比べて高速にすることができ、薄膜超電導線のコストダウンになる製造方法である。この第1の薄膜超電導線10を用いた接続を行った。
【0044】
2本の第1の薄膜超電導線10は、実施例2ではそれぞれの端部16が200mmはなれた位置に配置してある。まず、最外層の金属安定化層15を端部16より50mmずつ剥がして切り取り、金属保護層(1)14を露出した状態にした。次に、接続用の第2の薄膜超電導線20を準備するが、ここでは非磁性のハステロイからなる基板(2)21を用い、臨界電流も第1の薄膜超電導線10に比べて高く、長さ260mmの薄膜超電導線を準備した。この第2の薄膜超電導線20の金属保護層(2)24と接続する第1の薄膜超電導線10の金属保護層(1)14をそれぞれ30mmずつ重なるように配置して、ビスマスと錫を主とした融点が150℃以下の低融点金属Bを用いたハンダ接続を行った。次に、400mmの厚さ0.1mm、幅が第1、第2の薄膜超電導線と同じ銅からなる良導性金属テープ25を用意して、第1の薄膜超電導線10の安定化金属層15にそれぞれ接合部19として50mmずつ重なるようにして、400mm全長にわたりハンダで第1、第2の薄膜超電導線10,20に貼り合わせた。
【0045】
この接続構造部分を有する薄膜超電導線を実施例1の接続構造を有する薄膜超電導線と同様に特性の評価を行った結果、電流を流して1μV/cmの電圧が発生する電流は、元の線材(薄膜超電導線10)の臨界電流の98%であり、接続抵抗も0.1μΩとなった。液体窒素温度で700A 2秒の短時間過電流も耐え、引張り試験の結果、実施例1と同様に接続構造部分以外の部分で先に破断してしまい、薄膜超電導線自身よりも接続構造部分のほうが機械的に強固であることが確認された。また、薄膜超電導線の交流損失を測定したところ、接続構造部分の交流損失は、基板が非磁性であることから、Ni−5%Wの基板の薄膜超電導線材より交流損失が1/3と低く抑えることができた。
【0046】
なお、第1の薄膜超電導線10と第2の薄膜超電導線20の超電導材料の組成は、RE−バリウム−銅−酸素(RE は、 Y, Nd, Sm, Eu, Gd, Dy, Ho, Er, Ybから選ばれる1種の原子)からなる化合物を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の薄膜超電導線の接続方法の第1の実施形態を説明する工程の模式図である。
【図2】本発明の薄膜超電導線の接続方法の第2の実施形態を説明する工程の模式図である。
【図3】本発明の薄膜超電導線の接続構造の実施形態を説明する模式図である。
【図4】一般的な超電導ケーブルの概略構造を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0048】
10 第1の薄膜超電導線
11 基板(1)
12 中間層(1)
13 超電導層(1)
14 金属保護層(1)
15 安定化金属層
16 端部
17 端面
18 接続部
19 接合部
20 第2の薄膜超電導線
21 基板(2)
22 中間層(2)
23 超電導層(2)
24 金属保護層(2)
25 良導性金属テープ
31 超電導ケーブル
32 フォーマ
33 薄膜超電導線
34 電気絶縁層
35 保護層
36 内管
37 断熱材
38 外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続しようとする接続端近傍の安定化金属層の一部を剥がした、基板(1)上方に超電導層(1)と金属保護層(1)と安定化金属層が形成されている少なくとも2つの第1の薄膜超電導線、および、基板(2)上方に超電導層(2)と金属保護層(2)が形成されている少なくとも1つの第2の薄膜超電導線を調製し、
前記第1の薄膜超電導線の前記接続端部を対向配置し、
前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)と、前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層を剥がして露出した前記金属保護層(1)とを対向配置し、
前記第1の薄膜超電導線の前記金属保護層(1)と前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)とを接続する、薄膜超電導線の接続方法。
【請求項2】
前記第1の薄膜超電導線を調製する際に前記金属保護層(1)と前記安定化金属層の貼り合わせに用いられる第1の低融点金属の融点と同等もしくは低い温度の融点を有する第2の低融点金属を用いて、前記金属保護層(1)と前記金属保護層(2)が接続されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜超電導線の接続方法。
【請求項3】
接続される少なくとも2つの前記第1の薄膜超電導線のそれぞれの前記安定化金属層(1)が接合部を介して接続され、前記安定化金属層は前記第2の低融点金属を用いて接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜超電導線の接続方法。
【請求項4】
少なくとも2つの前記安定化金属層が、良導性金属テープによって接合部を介して接合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜超電導線の接続方法。
【請求項5】
前記第2の薄膜超電導線の基板(2)に、非磁性体または極低磁性体を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄膜超電導線の接続方法。
【請求項6】
接続端近傍の安定化金属層の一部が剥がされた、基板(1)上方に超電導層(1)と金属保護層(1)と安定化金属層が形成されている少なくとも2つの第1の薄膜超電導線と、
基板(2)上方に超電導層(2)と金属保護層(2)が形成されている少なくとも1つの第2の薄膜超電導線と、
前記第1の薄膜超電導線および前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層が接続して形成される接続部と
前記第2の薄膜超電導線の前記接続部と反対側の外表面を覆う部材によって形成される接合部とを備え、
前記第1の薄膜超電導線の前記接続端部が対向配置され、前記第2の薄膜超電導線の前記金属保護層(2)と、前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層を剥がして露出した前記金属保護層(1)とが対向配置され、前記第1の薄膜超電導線および前記第2の薄膜超電導線が、前記接続部を介して接続され、前記第2の薄膜超電導線の前記外表面を覆う部材が前記接合部を介して接続されている、薄膜超電導線の接続構造体。
【請求項7】
前記第2の薄膜超電導線の前記外表面を覆う部材が前記第1の薄膜超電導線の前記安定化金属層からなっており、前記安定化金属層同士が接続されていることを特徴とする請求項6に記載の薄膜超電導線の接続構造体。
【請求項8】
前記第2の薄膜超電導線の前記外表面を覆う部材が良導性金属テープからなっており、前記良導性金属テープと前記安定化金属層とが接続されていることを特徴とする請求項6に記載の薄膜超電導線の接続構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−234957(P2008−234957A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71919(P2007−71919)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】