説明

薬剤を製造するためのミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマーの使用

【課題】ラセミ混合物形態のミルナシプランの投与に関連する心血管障害の危険性を制限しながら、鬱病、双極性障害、精神分裂症、全般性不安、不機嫌および衰弱状態、ストレス関連疾患、パニック発作、恐怖症、行動障害、反抗性障害、心的外傷後ストレス障害、免疫系の低下、疲労および随伴疼痛症候群、線維筋痛、自閉症、注意欠陥多動障害、摂食障害、肥満、精神病性障害、アパシー、片頭痛、疼痛、過敏性大腸症候群、心筋梗塞または高血圧症における不安性抑鬱症候群、神経変性疾患および関連不安性抑鬱症候群(アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病)、尿失禁等から選択される障害または症状を治療または予防するための薬剤の提供。
【解決手段】ミルナシプラン(Z(±)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド)の(1S,2R)エナンチオマーまたはその薬学上許容される塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、ミルナシプラン(milnacipran)および/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、空間配置(1S,2R)のエナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物、の使用であって、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な障害を、心血管障害ならびに/または器官および/もしくは組織毒性の危険性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用に関する。より詳しくは、本発明のエナンチオマー混合物は、鬱病、慢性疲労症候群および尿失禁を治療することを目的とするものである。
【0002】
ミルナシプラン(Z(±)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド)(PIERRE FABRE MEDICAMENT Research Centre(Castres, France)で合成された分子)は、TN−912、ダルシプラン、ミナルシプラン、ミダルシプランまたはミダリプランとも呼ばれ、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害剤であることが知られている。ミルナシプランおよびその合成方法は、米国特許第4,478,836号に記載されている。ミルナシプランに関するその他の情報は、Merck Index,第12版に、No.6281として記載されている。
【0003】
セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害剤とは、セロトニンおよびノルアドレナリン両方の再取り込みを選択的に阻害する、よく知られている抗鬱薬群に相当する。一例として、ベンラファクシンおよびデュロキセチンもセロトニンおよびノルアドレナリンの二重阻害剤である。ミルナシプランによるノルアドレナリン再取り込み阻害とセロトニン再取り込み阻害との比率が約2:1であることが研究により示されている(Moret et al., 1985 Neuropharmacology 24(12): 1211-1219; Palmier et al., 1989, Eur J Clin Pharmacol 37: 235-238)。
【0004】
米国特許第4,478,836号は、中枢神経系の障害、特に、鬱病の治療のためのミルナシプランの使用を記載している。特許出願WO01/26623は、疲労、痛みを伴う症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛、および過敏性大腸症候群の治療などの適応における、フェニルアラニンおよびチロシンと組み合わせたミルナシプランの使用を記載している。特許出願WO01/62236は、鬱病をはじめとする多数の適応症における、ミルナシプランを1種類または数種類の抗ムスカリン作用薬と組み合わせて含有する組成物を記載している。出願WO97/35574は、鬱病およびその種々の形態、ならびに抗鬱薬が使用される障害を治療するために、同時に、別々に、あるいは時間をずらして使用する組合せ製品としての、ミルナシプランおよびイダゾキサンを含有する医薬組成物を記載している。ミルナシプランは尿失禁の治療にも使用される(FR2759290)。
【0005】
ミルナシプラン分子は、2個の不斉炭素を有しており、これらにより2つの異なる空間配置(1S,2R)および(1R,2S)が存在している。これらの空間配置は重ね合わせることができないことから、ミルナシプラン分子には光学異性が存在する。
【0006】
従って、塩酸ミルナシプランは、2つの光学活性エナンチオマー:右旋性エナンチオマー、すなわち、Z−(1S,2R)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド塩酸塩および左旋性エナンチオマー、Z−(1R,2S)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド塩酸塩として存在する。ミルナシプランの塩酸塩(別名F2207)は、現在、セロトニン作動性ノルアドレナリン作動性抗鬱薬として、ラセミ混合物形態で市販されている(IXEL, PIERRE FABRE MEDICAMENT, France)。F2695およびF2696はそれぞれ、塩酸ミルナシプラン(F2207)の右旋性(1S,2R)および左旋性(1R,2S)エナンチオマーを示している:
【化1】

【0007】
これらの2つのエナンチオマーは、文献に記載されている手順を用いて分割し、単離することができる(Bonnaud et al., 1985, Journal of Chromatography, Vol. 318 : 398- 403 ; Shuto et al., Tetrahedron letters, 1996 Vol. 37 : 641-644 ; Grard et al., 2000,Electrophoresis 2000 21 : 3028-3034 ;Doyle and Hu, 2001, Advanced Synthesis and Catalysis, Vol. 343 : 299-302)。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、エナンチオマー選択的アッセイ法を用いて、ラセミ化合物およびミルナシプランの2つのエナンチオマーについてのヒト薬物動態研究を行った。こうして、彼らは、in vivoではエナンチオマーのラセミ化が起こらないことを立証した。
【0009】
さらに、ラセミ化合物を分割したが、2つのエナンチオマーの薬理学的特性および毒物学的特性の解析を、遠隔測定法による心血管測定、またはin vitroにおける予測薬理毒物学についてのゲノム解析などの現在利用可能な最新の方法を用いて行わなかった。
【0010】
どんな活性物質でもそうであるが、抗鬱薬はこれらの薬剤の薬理学的特性、ならびに投薬量、患者の個体差(遺伝子多型、器官機能不全、性、年齢)または薬物相互作用に本質的に由来する有害事象または特定の毒作用を引き起こす可能性がある。よって、抗鬱薬は、中毒の原因として、催眠薬および精神安定薬に続いて3番目に多い製品群である(Nores et al., 1987 Therapie 42: 555-558)。抗鬱薬を過剰投与する危険性は、死に至ることもあるため、深刻である。抗鬱薬による急性中毒の原因では、子供の誤飲(特定の抗鬱薬が遺尿症の治療に用いられることからもそう言える)、自殺行為、医師による過量投与事故、高齢患者における薬の併用、年齢に伴う生理学的変化および薬物動態変化(心不全、肝および/または腎不全など)ならびに代謝の衰え(本来遺伝的なものであるか、薬物によるものかには関わらない)(酵素阻害)が挙げられよう。従って、治療される患者の中では、子供に続いて、高齢者が2番目に潜在的に危険な状態にある集団である。高齢者は腎および/または肝クリアランスの低下に関連して血漿濃度が高く、中毒の危険性がより深刻なものとなる(Meadoer-Woodruff et al., 1988 J. Clim. Psychopharmacol. 8: 28-32)。
【0011】
ミルナシプランでの治療期間中に観察された副作用(一般には良性である)は、通常、治療の最初の1週間または最初の2週間以内に起こり、その後、鬱症状の改善とともに減少する。単一薬物療法においてまたは他の向精神薬との併用において最も報告の多い有害事象は、めまい、過剰発汗、不安、顔面紅潮および排尿障害である。それほど報告は多くはない有害事象であるが、悪心、嘔吐、口渇、便秘、振戦、心悸亢進、心的動揺および皮膚発疹もある。さらに、心血管疾患の病歴のある患者または心臓病の治療を同時に受けている患者では、ミルナシプランにより心血管有害事象(高血圧症、低血圧症、起立性低血圧症、心悸亢進)の発生率が増加し得ることが分かっている。ラセミ混合物のミルナシプランは心拍数を高める可能性が高いため、高血圧である患者または心臓病を有する患者では、それゆえ、医学的な監督指導を強化することが推奨される。単一薬物療法においてミルナシプランを用いて観察される過剰投与(800mg〜1gの用量にて)のまれなケースでは、観察される主な症状が嘔吐、呼吸障害および頻脈であることもある(The Vidal Dictionary 78th edition, 2002)。ミルナシプランによって時折生じるもう1つの有害事象として、肝毒性を反映するトランスアミナーゼ値の上昇がある。
【0012】
ミルナシプランによる治療期間中または治療後に一定数の有害な臨床症状を発現する可能性がある、潜在的に危険な状態にある集団が、子供、高齢者、肝および/または腎不全を有する患者、器官および/または組織毒性、特に、肝および/または腎毒性を引き起こす治療を受けている患者、心臓病の治療または心血管副作用を引き起こす治療を受けている患者、心血管疾患の病歴のある患者および/または、特に、心調律異常、血圧異常(低血圧または高血圧患者)に関する心血管障害を有する患者ならびに心臓病に罹患している患者である。
【0013】
本発明者らは、小さなものであるが、ミルナシプランにより治療される患者の健康にとって危険である、起こり得る副作用の発生をいっそう高い程度で予防しようと努め、そこで、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込みの選択的阻害活性に本質的に関与するミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマーでは、驚くべきことに、そして予想外にも、そのラセミ混合物よりも生じる心血管状態の副作用が少なく、器官および/または組織毒性、特に、肝毒性も低いことを発見した。特に、本発明者らは、イヌにおいて、ミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマーの投与によって起こる心拍数および血圧、特に、弛緩期血圧の上昇がラセミ混合物の投与によって起こり得るものよりも少ないことを見出した。さらに、本発明者らは、ラット一次肝細胞を用いた実験モデルにおいて、塩酸ミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマー(F2695)が塩酸ミルナシプランの(1R,2S)エナンチオマー(F2696)よりも優れたゲノム毒性プロフィールを有していることを発見した。本発明者らはまた、(1R,2S)エナンチオマー(F2696)が、その相対肝毒性で知られる、向精神薬参照製品として使用されるクロミプラミンで得られるゲノム毒性プロフィールに類似したプロフィールを有していることも立証した。
【0014】
したがって、本発明の対象は、ミルナシプランのエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高い混合物、好ましくは、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの使用であって、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)取り込みの二重阻害によって治療可能な障害または症状を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/または器官および/もしくは組織毒性の危険性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用である。
【発明の具体的説明】
【0015】
「心血管障害」(cardiovascular disturbance)とは、単独でまたは他の活性物質と組み合わせて投与される薬剤の有害な心血管副作用を指す語であると理解される。
【0016】
本発明において、「副作用」とは、薬剤を投与する領域以外の領域における薬剤の予測可能な活性であり、それが薬剤の使用を制限する場合には厄介であるかまたは望ましくない活性を意味する語であると理解される。
【0017】
「毒性」とは、器官または組織、特に、ミルナシプランの代謝に関与する器官または組織、特に、ミルナシプランの肝臓および/または腎臓代謝に対して、より詳しくは、肝臓におけるミルナシプランの初回通過時に、有害な影響を及ぼす薬剤の特性を意味する語であると理解される。優先的には、器官毒性が心毒性であり、かつ、前記組織毒性が肝および/または腎毒性である。
【0018】
本発明において、「心血管障害の危険性を制限しながら」または「毒性の危険性を制限しながら」とは、薬剤の投与後に患者においてこれらの危険性が有意に高まらないようにするという事実を意味する句であると理解される。
【0019】
本発明において、「ミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマー」とは、ミルナシプラン、ならびにその薬学上許容される塩の(1S,2R)エナンチオマーを示す語である。優先的には、これが塩酸ミルナシプラン(F2695)の(1S,2R)エナンチオマーである。「ミルナシプランの(1R,2S)エナンチオマー」とは、ミルナシプラン、ならびにその薬学上許容される塩、例えば、塩酸塩(F2696)の(1R,2S)エナンチオマーを示す。「ラセミ混合物」とは、ミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマーとミルナシプランの(1R,2S)エナンチオマーの重量50:50混合物、ならびにそれらの薬学上許容される塩の(1S,2R)エナンチオマーと(1R,2S)エナンチオマーの重量50:50混合物を示す。
【0020】
本発明において、「(1S,2R)エナンチオマー含量の高いミルナシプランのエナンチオマー混合物」とは、(1S,2R)エナンチオマー対(1R,2S)エナンチオマーの質量/質量比が1:1より大きい、ミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマーと(1R,2S)エナンチオマーとの混合物を意味する。(1S,2R)エナンチオマー含量の高いミルナシプランのエナンチオマー混合物において、(1S,2R)エナンチオマー対(1R,2S)エナンチオマーの質量/質量比は、有利には、55:45以上、より有利には、60:40より大きく、さらに有利には、65:35より大きく、さらに有利には、70:30より大きく、さらに有利には、75:25より大きく、さらに有利には、80:20より大きい。特に有利なモードで作製された、(1S,2R)エナンチオマー対(1R,2S)エナンチオマーの質量/質量比は、82:18より大きく、より有利には、84:16より大きく、さらに有利には、86:14より大きく、さらに有利には、88:12より大きく、さらに有利には、90:10より大きい。好ましいモードで作製された、(1S,2R)エナンチオマー対(1R,2S)エナンチオマーの質量/質量比は、91:9より大きく、より好ましくは、92:8より大きく、さらに好ましくは、93:7より大きく、さらに好ましくは、94:6より大きく、さらに好ましくは、95:5より大きく、さらに好ましくは、96:4より大きく、さらに好ましくは、97:3より大きく、さらに好ましくは、98:2より大きく、さらに好ましくは、99:1より大きく、さらに好ましくは、99.5:0.5より大きい。(1S,2R)エナンチオマー含量の高いミルナシプランのエナンチオマー混合物が実質的に純粋である、すなわち、およそ100重量%(1S,2R)エナンチオマーを含有するものであることが特に好ましい。
【0021】
代謝産物の使用もまた、本発明の範囲に入り、優先的には、in vivoにて活性のあるミルナシプランの代謝産物、およびそれらの薬学上許容される塩の使用が含まれる、例えば:
Z−(±)フェニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパン−カルボン酸の塩酸塩(F1567):
【化2】

分子量:277.7
特徴:白色結晶
融点:230℃
プレートクロマトグラフィー:媒体:シリカ
溶媒:ブタノール/エタノール/水(6/2/2)
顕色剤:紫外線およびニンヒドリン
Rf:0.6
(±)フェニル−3 メチレン−3−4 ピロリドン−3(F1612):
【化3】

分子量:173.2
特徴:白色結晶
融点:70℃
プレートクロマトグラフィー:媒体:シリカ
溶媒:ベンゼン/ジオキサン/エタノール(90/25/4)
顕色剤:紫外線およびヨウ素
Rf:0.46
Z(±)−(パラ−ヒドロキシフェニル)−1−ジエチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパンの塩酸塩(F2782):
【化4】

分子量:298.82
特徴:白色結晶
融点:250℃
プレートクロマトグラフィー:媒体:シリカ
溶媒:ブタノール/エタノール/水(6/2/2)
顕色剤:紫外線およびヨウ素−ニンヒドリン
Rf:0.42
Z(±)−フェニル−1−エチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパンのシュウ酸塩(F2800):
【化5】

分子量:308.33
特徴:白色結晶
融点:150℃
プレートクロマトグラフィー:媒体:シリカ
溶媒:CHCl/メタノール/NHOH(90/9/1)
顕色剤:紫外線およびニンヒドリン
Rf:0.40
Z(±)−フェニル−1−アミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパンの塩酸塩(F2941)
【化6】

分子量:226.74
特徴:白色結晶
融点:245℃
プレートクロマトグラフィー:媒体:シリカ
溶媒:CHCl/メタノール/NHOH(80/18/2)
顕色剤:紫外線およびニンヒドリン
Rf:0.30
【0022】
これらの代謝産物は、ミルナシプランがそうであるとおり、2個の不斉炭素を有しており、これらにより2つの異なる空間配置(1S,2R)および(1R,2S)が存在している。これらの空間配置は重ね合わせることができないことから、これらの代謝産物にも光学異性が存在する。エナンチオマー混合物におけるミルナシプラン代謝産物の2つのエナンチオマーの割合は、ミルナシプランのエナンチオマーに関して以上で記載したとおりである。
【0023】
よって、本発明は、鬱病、疼痛、線維筋痛および尿失禁などの本願にて記載した障害の治療における薬剤としてのそれらの使用に加えて、これらの活性代謝産物、それらのエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩も包含する。本発明の代謝産物は、ラセミ化合物形態であるか、または、優先的には、最も活性の高い(1S,2R)エナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物形態である。好ましくは、使用される活性代謝産物はF2695エナンチオマー由来のものであり、活性代謝産物の(1S,2R)エナンチオマーである。より好ましくは、これがZ−(パラ−ヒドロキシフェニル)−1−ジエチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパン(F2782)の(1S,2R)エナンチオマーの塩酸塩である。「活性代謝産物」とは、in vitroまたはin vivoでのミルナシプランの代謝によって生じる、セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害する能力を有する誘導体を示す語であると理解される;優先的には、これらがF2782、F2941、F2800、F1612およびF1567である。
【0024】
よって、本発明の対象は、ミルナシプランの少なくとも1つの代謝産物のエナンチオマー(優先的には、F2782、F2941、F2800、F1612およびF1567の中から選択される)、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、優先的には(1S,2R)エナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物、の使用であって、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な障害または症状を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/または器官および/もしくは組織毒性、特に、心、肝および/もしくは腎毒性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用である。
【0025】
(1S,2R)エナンチオマー含量の高いミルナシプランのエナンチオマー(優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマー)および、優先的には、(1S,2R)エナンチオマー含量の高い少なくとも1つのその代謝産物(好ましくは、F2782、F2941、F2800、F1612およびF1567の中から選択される)のエナンチオマーの混合物の使用であって、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な障害または症状を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/または器官および/もしくは組織毒性、特に、心、肝および腎毒性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用もまた、本発明の範囲に入る。
【0026】
「薬学上許容される塩」とは、活性物質の有効性および特性を保持し、かつ、副作用を引き起こさない全ての塩を示す。優先的には、これらが無機酸または有機酸の薬学上許容される塩である。一例として、これらに限定されるものではないが、塩酸塩および臭素水和物などのハロゲン水和物、フマル酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、ならびにそれらの水和物が挙げられる。
【0027】
本発明において、「エナンチオマー混合物」とは、ミルナシプランのエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高い混合物および/またはミルナシプランの少なくとも1つの代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、優先的には、(1S,2R)エナンチオマー含量の高い混合物を意味する語である。
【0028】
本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーは、治療および/または予防目的に関わらず、このような治療を必要としているあらゆるタイプの患者に投与される。治療目的では、その目標は治療すべき症状および/または1以上の関連した症状を根絶することまたは改善することである。予防目的では、その目標は治療すべき症状および/または1以上の関連した症状の発現を予防することである。それにもかかわらず、本発明のエナンチオマー混合物は、ラセミ体ミルナシプランによる治療期間中または治療後に特定の有害な臨床症状を発現する可能性のある、潜在的に危険な状態にある患者集団に特に適応する。これらの集団は、主として、子供、高齢者、肝および/または腎不全を有する患者、肝臓および/もしくは腎臓ならびに/または組織毒性を引き起こす治療を受けている患者、心臓病の治療を受けている患者、心血管副作用を引き起こす治療を受けている患者、心血管疾患(例えば、心筋梗塞)の病歴のある患者および/または心血管障害を有する患者、例えば、心調律異常(頻脈、徐脈、心悸亢進)のある患者、血圧異常のある患者(低血圧または高血圧患者)もしくは心臓病に罹患している患者である。
【0029】
それらの症状として心調律異常があり、それらに罹患している潜在的に危険な状態にある患者の治療において本発明が特にうまく適応する数多くの障害または症状のうち、心拍リズムの加速に相当する頻脈(心拍数が1分間当たり80〜100回である場合、頻脈は中等度であり、それが100回を超える場合は重度である)、心悸亢進、期外収縮(散発性、頻発性または心筋梗塞中)、心房細動、粗動および心房急速収縮、徐脈、心不全、ならびに心筋梗塞が挙げられる。
【0030】
それらの症状として血圧異常があり、それらに罹患している潜在的に危険な状態にある患者の治療において本発明が特にうまく適応する数多くの障害または症状のうち、動脈性高血圧症、悪性動脈性高血圧症、肺動脈性高血圧症、門脈圧亢進症、発作性本態性高血圧症、低血圧症、起立性低血圧症および頭蓋内圧亢進症が挙げられる。
【0031】
有利には、本発明のエナンチオマー混合物の投与によって、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの投与によってその危険性が制限される心血管障害は以下のとおりである:
【0032】
− 弛緩期および/または収縮期血圧の上昇(水銀ミリメートル(mmHg)で測定);より詳しくは、これが弛緩期血圧の上昇である、および/または、
− 心調律異常、特に、患者の心拍数の上昇。
【0033】
収縮期血圧は血圧の最大値であり、血圧測定時に上腕動脈で最初の心音が聞こえたときの瞬間に相当する。収縮期は、心腔が収縮して血液を送り出す心臓周期の期間である。弛緩期血圧は血圧の最小値であり、血圧測定時に血圧計の加圧帯をすぼませるときに上腕動脈で心音が聞こえなくなることに相当する。拡張期は、心腔に血液が満たされる心臓周期の期間である。収縮期および/または弛緩期血圧の上昇は、全身動脈性高血圧症(およびその異型)の特徴である血圧の上昇を意味する、全身動脈性高血圧症の症状としては以下がある:頭痛、疲労、軽度の感覚障害(例えば、めまい、耳鳴り、心悸亢進、鼻血、錯乱もしくは傾眠)、痙攣、しびれまたは手足の刺痛。全身動脈性高血圧症(およびその異型)は、重度の、実際には致命的な合併症:脳血管障害、左心室不全、腎不全、虚血性心疾患(心筋梗塞、苦悶およびそれらの異型)を引き起こす可能性がある。現行の指針によれば、患者の弛緩期血圧が90mmHgを超えており、かつその患者の収縮期血圧が140mmHgを超えている場合、その患者は動脈性高血圧症を有していると考えられる。
【0034】
本発明のエナンチオマー混合物の投与によってその危険性が制限される毒性は、有利には、器官毒性、特に、心毒性、ならびに/または組織毒性、特に、肝および/または腎毒性である。組織毒性は、黄疸の出現によるか、または実験マーカーによって分かる。
【0035】
動物、特に、このような治療を必要とする家庭のペット類または繁殖動物の治療用獣医薬における本発明のエナンチオマー混合物の使用もまた本発明の範囲に入る。
【0036】
エナンチオマー混合物は、特に、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害剤としてのそれらの薬理学的特性から、後述する多くの障害および症状(症候群)を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/あるいは器官ならびに/または組織毒性、特に、心、肝および/もしくは腎毒性を制限しながら、予防的および/または治癒的治療を行うことを目的とする薬剤の製造において特に有用である。
【0037】
これらの障害または症状のうち、"The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-IV (DSM-IV), 1995 American Psychiatric Association"にて定義されているように、中枢神経系の障害が挙げられる。一例として、これらに限定されるものではないが、以下の障害および症状が挙げられる:
鬱病、特に、深い抑鬱状態、難治性鬱病、高齢者の鬱病、心因性鬱病、インターフェロン治療により誘発される鬱病、抑鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱症状、全般的な健康状態に関連する鬱症状、向精神薬に関連する鬱症状、双極性障害、精神分裂症、全般性不安、不機嫌および衰弱状態、ストレス関連疾患、パニック発作、恐怖症、特に、広場恐怖症、強迫性障害、行動障害、反抗性障害、心的外傷後ストレス障害、免疫系の低下、疲労および随伴疼痛症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛、ならびにその他の身体機能障害、自閉症、全般的な健康状態による注意欠陥障害、注意欠陥多動障害、摂食障害、神経性過食症、神経性食欲不振、肥満、精神病性障害、アパシー、片頭痛、疼痛、特に、慢性疼痛、過敏性大腸症候群、心血管疾患、特に、心筋梗塞または高血圧症における不安性抑鬱症候群、神経変性疾患および関連不安性抑鬱症候群(アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病)、尿失禁、特に、ストレスおよび遺尿に関連する尿失禁、薬物嗜癖、特に、タバコ(特に、ニコチン)、アルコール、麻薬、薬物、これらの中毒状態から脱するのに使用される鎮痛薬への不安性依存症。
【0038】
より詳しくは、本発明の対象は、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの使用であって、鬱病または抑鬱状態を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/あるいは器官ならびに/または組織毒性、特に、肝および/もしくは腎毒性を制限しながら、治療または予防することを目的とする薬剤を製造するための使用に関する。本発明において、「鬱病」とは、一方では、悲観、苦悶感、希死または自殺観念、精神的抑圧などの気分障害からなる心理学的側面を、もう一方では、運動の欠如、特に、運動活動の低下、食欲障害、便秘、睡眠障害および体重管理障害からなる身体的側面を有する一連の症状を指す語であると理解される。それゆえ、鬱病は、苦しい気分の変容と精神および運動活動の減少とが組み合わさった病理的精神状態と言える。「抑鬱状態」とは、倦怠感、疲労傾向、落胆および不安を伴うこともある悲観傾向として発現する神経心理学的緊張の低下を特徴とする精神状態を指す語であると理解される。
【0039】
さらに、本発明の対象は、より詳しくは、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの使用であって、線維筋痛および/または慢性疲労症候群を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/あるいは器官ならびに/または組織毒性、特に、肝および/もしくは腎毒性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用に関する。線維筋痛症候群は、主として、関節および関節周囲線維組織に影響を及ぼす朝のこわばりによる痛みおよび灼熱痛、ならびに深い疲労感を特徴とする慢性症候群である。線維筋痛は一連の症状を含む。最も多く見られる症状は、体力の回復がみられない睡眠、頭痛、消化障害、抑鬱状態、筋痙攣、顔面痛、しびれなどである。慢性疲労症候群は、疲労困憊または疲労状態を特徴とするものである。最も一般的な症状は、衰弱状態、痙攣および/または筋肉痛、過度の睡眠要求、発熱、アンギナ(angina)、記憶喪失および/または集中力の欠如、不眠症、鬱病である。
【0040】
さらに、本発明の対象は、より詳しくは、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの使用であって、疼痛、特に、慢性疼痛を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/あるいは器官ならびに/または組織毒性、特に、肝および/もしくは腎毒性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用に関する。疼痛は種々の障害および/または創傷に関連する。それが急性の場合も慢性の場合もある。疫学研究により、慢性疼痛状態と不安および鬱病との関係が立証されている。このように、慢性疼痛に苦しんでいる患者は情緒障害を発現する可能性があり、鬱病を引き起こしたり、より悪い事例では自殺未遂を起こしたりする。患者が6ヶ月より長い期間苦しみを訴えている場合、その患者は慢性疼痛状態にあると考えられる。慢性疼痛の異型のうち、一例として、これらに限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:線維筋痛に伴い、および/または線維組織、筋肉、腱、靭帯およびその他の部位に生じる疼痛、過敏性大腸症候群における腹痛および下痢、ならびに腰痛。
【0041】
さらに、本発明の対象は、より詳しくは、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの使用であって、尿失禁、特に、ストレスおよび遺尿に関連する尿失禁を、心血管障害の危険性を制限しながら、かつ/あるいは器官ならびに/または組織毒性、特に、肝および/もしくは腎毒性を制限しながら、予防または治療することを目的とする薬剤を製造するための使用に関する。
【0042】
上記障害の予防上および治療上の処置は、動物、好ましくは、ヒトに、治療上有効な量の本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーを単独でまたは少なくとも1つの他の活性物質と組み合わせて投与することにより果たされる。これは、ほとんどの場合、ヒトに関するものであるが、その処置は、動物、特に、繁殖動物(家畜、齧歯類、家禽、魚など)および食用家畜(イヌ、ネコ、ウサギ、ウマなど)にも適応する。
【0043】
ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物は、これまでに記載したように、有利には、上記障害の治療において、少なくとも1つの他の活性化合物を受けている患者に、同時に、別々に、または時間をずらして投与される。
【0044】
優先的には、本発明の対象は、薬剤として使用するために:
鬱病、特に、深い抑鬱状態、難治性鬱病、高齢者の鬱病、心因性鬱病、インターフェロン治療により誘発される鬱病、抑鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱症状、全般的な健康状態に関連する鬱症状、向精神薬に関連する鬱症状の治療または予防において、同時に、別々に、または時間をずらして使用する組合せ製品として、
a)ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物、ならびに
b)向精神薬、特に、抗鬱薬および抗ムスカリン作用薬の中から選択される少なくとも1つの活性化合物
も含む。
【0045】
「向精神薬」とは、精神活動を変えることが可能であり、かつその作用が本質的に中枢神経系および精神状態に影響を及ぼす天然起源または人工起源の物質を示す語であると理解される。向精神薬は3つの群に分類される:1)精神安定薬(催眠薬、神経弛緩薬および抗不安薬)、2)精神刺激薬(抗鬱薬および精神強壮薬)ならびに3)精神異常発現薬(幻覚誘発薬)。
【0046】
優先的には、前記向精神薬が抗鬱薬である。一例として、これらに限定されるものではないが、抗鬱薬は、(i)イプロニアジド、パルギリン、セレギンなどのモノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI)、(ii)スマトリプタン、アドレナリンおよびノルアドレナリン(αおよびβ交感神経刺激薬)などの5HT1D−作動薬、(iii)イミプラミン、クロミプラミンなどの三環系抗鬱薬、(iv)フルオキセチンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、(v)例えば、タンダミン、フルパロキサン、ミルタザピンなどの選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(vi)ベンラファクシンおよびデュロキセチンなどのセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬の中から選択される。一例として、これらに限定されるものではないが、抗ムスカリン作用薬はトルテロジン、プロピベリン、オキシブチニン、トロスピウム、ダリフェナシン、テミベリン、イプラトロピウムの中から選択される。
【0047】
好ましくは、本発明の対象はまた、薬剤として使用するために:
セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な症状または障害の治療または予防において、同時に、別々に、または時間をずらして使用する組合せ製品として、
a)ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高い前記エナンチオマー混合物、ならびに
b)器官毒性を引き起こす活性化合物、ならびに組織毒性、特に、肝および/または腎毒性を引き起こす活性化合物の中から選択される少なくとも1つの他の活性物質(あるいは肝または腎不全の治療を目的とする1以上の活性物質を含む)
も含む。
【0048】
好ましくは、本発明の対象はまた、薬剤として使用するために:
セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な症状または障害の治療または予防において、同時に、別々に、または時間をずらして使用する組合せ製品として、
a)ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高い前記エナンチオマー混合物、ならびに
b)心血管副作用を引き起こす活性化合物または心臓病を治療するために与えられる化合物の中から選択される少なくとも1つの他の活性物質
も含む。
【0049】
有利には、起こる心血管副作用は以上で記載したものであり、より詳しくは、動脈性高血圧症、低血圧症、心調律異常(頻脈、徐脈、心悸亢進)である。
【0050】
本発明の対象はまた、以上で記載した関連製品を含む医薬組成物も含む。
【0051】
本発明においては、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーは、有利には、その方法に限定されるものではないが、経口経路、経鼻経路、経皮、直腸、腸または非経口経路を介して、筋肉、皮下または静脈注射により、以上で記載したとおり単独でまたは他の活性物質と組み合わせて投与される。
【0052】
単独で投与する場合、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマー自体を投与してもよいし、あるいはエナンチオマーまたはそれらの薬学上許容される塩の前記混合物を1種類または数種類の媒質、薬学上許容される賦形剤および/もしくは希釈剤、特に、バイオアベイラビリティを高めるためのものと組み合わせたかまたは混合した医薬組成物として投与してもよい。
【0053】
本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なミルナシプランの(1S,2R)F2695エナンチオマーを他の活性物質と組み合わせて投与する場合、前記混合物と他の活性物質を混合物として調剤してもよいし、あるいは個別に、同じまたは異なる形状に調剤してもよい。それらは同じまたは異なる経路を介して投与され得る。
【0054】
本発明の医薬組成物は、当業者には周知の従来の方法により、賦形剤、補助剤、および、例えば、防腐剤、安定剤、湿潤剤または乳化剤などの添加剤をはじめとする1種類以上の生理学上許容される媒質を用いて調剤し得る。調剤方法は、所望の投与経路に応じて選択される。
【0055】
注射による投与においては、有利には、水溶液、特に、ハンクス溶液、リンガー溶液または生理食塩水などの生理学上許容される緩衝溶液を使用する。経皮投与または経粘膜投与においては、有利には、粘膜を通過させるのに適した浸透剤を使用する。このような浸透剤は、当業者にはよく知られている。経口投与においては、有利には、本発明の医薬組成物を当業者には公知の好適な医薬媒質を含有する混合物として単回投与または複数回投与様式で投与する。好適な単回投与様式としては、特に、錠剤、場合によって、分割錠、カプセル剤、散剤、顆粒剤、経口液剤または懸濁液剤、およびエアゾール剤が挙げられる。好適な複数回投与様式としては、特に、内服滴剤、エマルション剤およびシロップ剤が挙げられる。
【0056】
錠剤の調製において、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーを、薬学上許容されるビヒクル、例えば、特に、ポリビニルピロリドン、カルボポールガル、ポリエチレングリコール、ゼラチン、タルク、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、アラビアガムまたはそれらの類似物とともに調剤する。一例として、錠剤は以下の賦形剤:リン酸水素カルシウム二水和物、カルメロースカルシウム、ポビドンK30、無水コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、タルクを含有している。錠剤をさらに、嚥下または保存を容易にするために、コーティングしてもよい、すなわち、サッカロースなどの種々の物質の層で被覆してもよい。コーティング剤はさらに、錠剤を、例えば、それらの用量強度に関して識別し、特徴付けるために、色素または着色剤も含有していてもよい。錠剤はまた、活性物質の放出速度を変えることを目的とした、程度の差はあるが、複合した製剤として与えてもよい。前記錠剤の活性物質の放出は、所望の吸収に応じて、迅速、持続または遅延放出である。よって、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーは、特許EP939626で記載されている方法に従って得られる持続放出用医薬製剤に調製し得る。この医薬製剤は、多数の小型顆粒を含有する多粒子形態で与えられ、in vitroにて特定の放出プロフィールを有する。
【0057】
本発明のエナンチオマー混合物の放出は、インプラントを使用することによるか、または経皮送達、特に、皮下もしくは筋肉内送達により(筋肉注射によるか、あるいは経皮パッチにより)遅延させ、および/または制御し得る。そのため、前記混合物を、特に、好適な疎水性または高分子物質およびイオン交換樹脂を用いて調剤する。
【0058】
患者に投与する本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーの量は、治療すべき症状、所望効果、特に、治療または予防効果、患者の健康状態および年齢、特に、患者の心血管疾患の病歴、治療状況ならびに薬剤の投与方法に応じて異なる。ヒト患者における有効な治療的または予防的使用のために投与されるべき量は、ヒトにおける鬱病の治療期間中に、例えば、ミルナシプランのラセミ混合物を用いて得られる当業者には公知の動物モデルまたはデータに基づいて決定される。
【0059】
上記の障害、特に、鬱病、抑鬱状態、線維筋痛、慢性疲労症候群、疼痛の治療的および/または予防的処置においては、本発明の薬剤を、有利には、1回以上の摂取により1日当たり0.01mg〜10mg/kg体重用量で、より有利には、1回以上の摂取により1日当たり0.05mg〜5mg/kg体重用量で、さらに有利には、1回以上の摂取により1日当たり0.1mg〜1mg/kg体重用量で投与する。特に有利には、前記医薬品の上記で定義したような用量での投与を、1日2回の、優先的には、カプセル剤での服用にする。一例として、本発明のエナンチオマー混合物、優先的には、実質的に純粋なF2695エナンチオマーは、有利には、1カプセル当たり約6.75mgの活性物質、12.5mg/カプセル、25mg/カプセル、50mg/カプセルを含有するカプセル剤として投与する。
【0060】
本発明のその他の特徴、目的および利点は次の実施例で明らかになるであろう。本発明はこれらの特定の実施例に限定されるものではなく、これらの実施例は一例として示したものであり、以下の図面と比較しながら読む必要がある:
【実施例】
【0061】
実施例1ミルナシプランおよびそのエナンチオマーについての薬物動態研究
塩酸ミルナシプラン(F2207)およびそのエナンチオマー(F2695およびF2696)についての薬物動態研究を、種々の動物種およびヒトで行った。
動物において、ラセミ化合物の投与後または単一エナンチオマーの投与後に各エナンチオマーの薬物動態を調査した。F2695およびF2696エナンチオマーの血漿濃度は調べた動物種(サルおよびラット)においてはほぼ同じである。
【0062】
ヒトにおける薬物動態研究は、12人の健康な被験体で、ラセミ化合物または2つのエナンチオマーのうち一方だけを投与することにより行った。各エナンチオマーの薬物動態プロフィールは、別々に投与するか、ラセミ化合物として投与するかには関係ないことが示され、エナンチオマー間には相互作用がないことが示唆された(表1)。
【0063】
【表1】

【0064】
これらの結果は、調べた種において、F2695またはF2696エナンチオマーの生体内変換が検出されなかったことを示している。
【0065】
実施例2ミルナシプランおよびそのエナンチオマーについての生化学研究
塩酸ミルナシプラン(F2207)の2つのエナンチオマー(F2695およびF2696)を、ラット脳におけるノルアドレナリンおよびセロトニンの取り込み、ならびにパロキセチン(paroxetine)結合についてin vitroにて調査した。
【0066】
2.1.材料および方法
2.1.1.ラット視床下部のホモジネート(P)によるノルアドレナリン取り込み
P2の調製
200〜300gの雄Sprague-Dawleyラットを気絶させ、断頭し、視床下部を手早く摘出した。2つの視床下部を4mlのスクロース0.32M中、Potter Sにて、800rpmで16回往復することでホモジナイズした後、1000gにて10分間遠心分離し、細胞残屑を除去する。上清を10000gにて20分間遠心分離し、このようにして得られたPを4mlのスクロース0.32M中に回収し、Dounceにてホモジナイズする。
【0067】
取り込み
H−(1)−NA:13Ci/mmol(Amersham)を使用する。
使用する30分前にO/CO(95%/5%)の混合物で事前酸素処理したリン酸バッファー(1リットル当たり8gのNaCl、1.21gのKHPOおよび0.34gのKHPOを含有)中に取り込みを行う。
【0068】
37℃の水浴に入れた5mlプラスチック試験管内に以下のものを導入する:
100μlのバッファーまたは阻害剤、
700μlのバッファー(25μMのパルギリン含有)、
100μlのP
温度が平衡状態に達したら、100μlのH−NA、最終濃度50nMの添加により反応を開始する。
【0069】
正確に10分後、2.5mlの冷却バッファーを添加し、GF/Fフィルターで濾過することにより反応を停止させる。その後、試験管を2.5mlの冷却バッファーで1回すすぎ、フィルターを1回すすぐ。次いで、そのフィルターをBeckmanミニバイアルに導入し、3mlのInstagel(Packard)液体シンチレーターを添加した後、Tricarb Packard液体シンチレーションカウンターで放射能を測定する。
【0070】
非特異的な取り込み(NS)をDMI10−5Mの存在として測定する。
阻害率は、式:
{(全取り込み−NS)−(阻害剤の存在下での取り込み−NS)}/(全取り込み−NS)
を用いて算出する。
IC50は、阻害剤濃度の対数に対する阻害率の平均曲線(4回のアッセイ)のグラフから決定する。
【0071】
2.1.2.セロトニン取り込み
方法は、Gray and Whittaker(1962, J. Anat., 96: 79-97)のものに従って構築した。脳組織をスクロース溶液中でホモジナイズした後には、シナプス前末端は軸索から分かれ、閉鎖し、細胞下分画により得られるシナプトソームを形成している。
【0072】
重量180〜200gの雄Sprague-Dawley(Janvier)ラットを使用した。動物を犠牲にした後、視床下部を摘出し、重量を測り、0.32Mスクロース中、Dounceにて0℃でホモジナイズした。
【0073】
このホモジネートを1000gにて10分間遠心分離した(2400rpm−Hettich, Rotenta)。上清を回収し、10000gにて20分間遠心分離した(8000rpm−Beckam, 型J2−21 M:ローター J14)。残渣(P画分と呼ぶ)をスクロース中、濃度50mg/mlに回収した。
【0074】
以下のものを37℃にて5分間インキュベートした:
・ 350μlの30分前に事前酸素処理した冷却バッファー(NaCl 136mM、KHPO 2.4mM、KHPO 6.9mM、pH 7.2)、
・ 50μlの膜(最終的には5mg/ml)、
・ 非特異的な取り込み用の50μlのシタロプラム(最終的には10−5M)、
・ 50μlのH−5−HT(最終的には50nM)(NEN, France, 28.4Ci/mmol)。
【0075】
インキュベーションを開始して正確に5分後、(2.5mlの冷却バッファーで希釈調製した後、3回2.5mlですすいだ)Whatman GF/Fフィルターでの真空濾過により反応を停止させた。
フィルターで収集した放射能を、Emulsifier-Safe(Packard)を用いる液体シンチレーションにより測定した(Packard Tricarb 4640)。
IC50は、阻害率を製品濃度の対数に対するグラフに置き換えて決定した(6濃度2試験)。
【0076】
2.1.3.パロキセチン結合
重量180〜200gの雄Sprague-Dawleyラット(Janvier)を使用した。数匹のラットの視床下部を集め、5mlの冷却バッファー(50mM Tris−HCl、120mM NaCl、5mM KCl、pH 7.5)中、Dounceにてホモジナイズし、そのホモジネートを30000gにて10分間遠心分離した(27000rpm−Beckman. L5−50E、ローター T40)。得られた残渣を5mlのバッファー中に回収し、同じ条件下で再び遠心分離した。新しい残渣を同じバッファー中に回収し、最後に、Dounceにて組織濃度10mg/mlに再びホモジナイズした。膜懸濁液(100μl)を濃度(最終)0.1nMの3H−パロキセチン(NEN, France, 28.6Ci/mmol)とともにに、最終量1ml中、20℃にて2時間インキュベートした。インキュベーションの2時間後、30分前に0.05%ポリエチレンイミン溶液で前処理した(4mlの冷却バッファーで希釈調製した後、その試験管を2回4mlですすいだ)Whatman GF/Fフィルターでの真空濾過により反応を停止させた。放射能を、シンチレーション液としてEmulsifier-Safe(Packard)を用いる液体シンチレーション分光測定(Packard、Tricarb 4640)により測定した。
【0077】
特異的H−パロキセチン結合を、全結合と10μMのフルオキセチンの存在下で残存するものの相違として定義した。
IC50は、阻害率を製品濃度の対数に対するグラフに置き換えて決定した(6濃度2試験)。
【0078】
2.1.4.使用製品
F2207:バッチ番号10−CTN3 Key P118
F2695:バッチ番号PL−I−205
F2696:バッチ番号PL−I−204C。
【0079】
2.2.結果
F2207およびその2つのエナンチオマーのノルアドレナリンおよびセロトニン取り込みならびにパロキセチン結合への影響を、F2207、F2695およびF2696の濃度(M)を横座標に、対する阻害率(%)を縦座標にしたグラフで示す(データは示していない)。2回調べた、各製品濃度に対する阻害率の値は、4回の独立試験の平均結果である。
【0080】
これらの曲線に基づいて3製品のIC50値を決定し、それらを表2に示している。
【0081】
【表2】

3化合物はこれら3種類の薬理学的アッセイにおいて活性を示したが、以下の相違があった:
【0082】
ノルアドレナリン取り込みにおいて
F2695はF2207より2倍活性が高かった。
F2695はF2696より25倍活性が高かった。
セロトニン取り込みにおいて
F2695はF2207より3倍活性が高かった。
F2695はF2696より12倍活性が高かった。
パロキセチン結合において
F2695はF2207より2倍活性が高かった。
F2695はF2696より10倍活性が高かった。
【0083】
三化合物はこれらの薬理学的アッセイにおいて活性を示したが、(1R,2S)形(F2696)とラセミ化合物(F2207)の活性はより低かった。(1S,2R)形ミルナシプラン(F2695)はF2207より2〜3倍活性が高かった。
【0084】
実施例3覚醒イヌにおける経口経路によるラセミ型塩酸ミルナシプラン(F2207)とその活性ある(1S,2R)エナンチオマー(F2695)の心拍数および血圧に対する活性の比較
3.1.緒論
以上のことから、F2207およびF2695のa)経口経路により単回投与した後の心拍数(n=28 イヌ)への影響、ならびにb)イヌにおいて経口経路により5日間連続投与した後の収縮期および弛緩期血圧(n=6 イヌ)への影響を調べるために調査を設計した。
【0085】
この調査は、心拍数および血圧パラメーターについてのデータを遠隔測定法により収集可能にするインプラント(Data Sciences International)が埋め込まれた雌動物において、F2207およびF2695の同等に薬学上有効な量にて実施した。各調査では、動物を3処置群に割り当てた:
− 脱イオン水で処置する群1(対照)、
− F2207で20mg/kg/日の用量にて処置する群2、
− F2695で10mg/kg/日の用量にて処置する群3。
【0086】
3.2.方法
同時に埋め込まれる動物が少数であること(最大8)、使用する装置の記録レーン数(8レーン)をかんがみて、かつ、同質的な処置群を構成するために、4調査により総括的評価を行った。各調査は、3シリーズに分け(3製品各々での各動物の処置)、プローブの再初期設定を含むウォッシュアウト期間によって区切りをつけた。各シリーズ自体は2段階で実施する:
− 全ての動物を封じ込めおよび胃挿管による経口処置に適合させるためにそれらを脱イオン水で処置する第1段階、
− 動物が各処置を受ける第2段階(心拍数については単回投与、調査番号894/926/935/936;血圧については5日間連続投与、調査番号894)。
【0087】
試験全体計画を以下の表に記載する:
【0088】
【表3】

【0089】
種々の処置の心拍数への影響は、単回投与後、4調査により解析した。この解析は以下の13のデータ収集時間に関するものである:
− 単回投与前、
− 単回処置後6時間にわたって30分おき。
【0090】
種々の処置の血圧への影響は、D5、D29およびD33(各シリーズの処置の最終有効日)に、定常状態にて、調査番号894により解析した。この解析は以下のデータ収集時間に関する:
− 処置前、
− 処置後6時間にわたって30分おき。
【0091】
3.3.結果
3.3.1. 心拍数(4調査統合)に関しては、個々の回数の変化について、処置前の値に対する処置試験後の12回の値各々について、ならびに各記録時間における絶対心拍数値についてテューキー検定を実施した。
【0092】
脱イオン水を受けた対照動物との比較により、以下の観察がなされた:
#変化値について統計分析を行った場合には(図1):
− F2207(20mg/kg)の単回投与後最初の1/2時間からの心拍数の有意な上昇、処置後最大5.5時間持続的に上昇(処置後の時点0.5および5.5時間−p≦0.01−ならびに時点5.0時間−p≦0.05−を除いて、全収集時間についてp≦0.001)、
− F2695の投与後の心拍数の上昇がF2207の投与後に得られたものよりも小さいこと。さらに、投与から1および4時間の時点でのこのF2207とF2695との効果の差は有意であり(p<0.05)、F2695に有利であること、
− F2695を受けた場合の心拍数の上昇はF2207を受けた場合よりも持続時間が短い(1.0〜4.5時間)(処置後最大5.5時間持続する)こと。
【0093】
#絶対心拍数値について統計分析を行った場合には、この同じ調査により以下のことが示される(図2):
− F2207(20mg/kg)の単回投与後最初の1時間からの心拍数の有意な上昇、処置後最大5.5時間持続的に上昇(処置後の時点3.5時間−p≦0.01を除いて、1.0〜4.5時間の全収集時間についてp≦0.001;ならびに収集時間 処置後5.5時間についてp≦0.01)、
− F2695の投与後の心拍数の上昇がF2207の投与後に得られたものよりも小さいこと。さらに、投与から1および4時間の時点でのこのF2207とF2695との効果の差は有意であり(p<0.05)、F2695に有利であること、
− F2695を受けた場合の心拍数の上昇はF2207を受けた場合よりも持続時間が短い(1.0〜4.5時間)(処置後最大5.5時間持続する)こと。
【0094】
3.3.2. 血圧に関しては(連続投与についての1調査)、弛緩期血圧の平均値(図3および表4)、ならびに収縮期血圧の平均値(図4および表5)を、各イヌについて、さらに、連続5日間の投与後の最終処置後6時間について算出した。これらの平均血圧値を、ANOVA、続いて、テューキー検定(ANOVAによりこのような検定が可能となった場合(データは示していない))により解析した。
【0095】
以下のことが観察された:
− 脱イオン水による処置に対し、F2207(20mg/kg/日)またはF2695(10mg/kg/日)の5日間連続投与後においての弛緩期血圧の有意な上昇(p≦0.001)、
− F2207(20mg/kg/日)の5日間連続投与後の平均弛緩期血圧値とF2695(10mg/kg/日)の連続投与後の平均弛緩期血圧値において有意な差(p≦0.05)、
− 収縮期血圧に対して有意な影響を及ぼさないこと;従って、注目すべきはF2695の5日間連続投与後のsBP値が脱イオン水による処置後のsBP値に近いことである。
【0096】
各弛緩期および収縮期血圧データを、それぞれ、表4および5に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
3.4.結論
遠隔測定装置が埋め込まれた覚醒イヌにおける経口投与による一連の4調査において実施した本評価の試験条件下では:
単回投与の場合、対照群(n=28)に対して、心拍数の上昇が明らかに有意であり、20mg/kg/日の用量のF2207では持続していた;同等に薬理学的に有効な用量10mg/kg/日のF2695では、その上昇が統計上および臨床上少なく、より一時的なものであった。
【0100】
・ F2695、10mg/kg/日の用量では、5日間連続投与した後の定常状態にて、最終処置後6時間にわたる平均収縮期血圧において統計的に有意な変化は起こらなかった。
【0101】
・ 5日間連続投与した後の定常状態にて、最終処置後6時間にわたる平均弛緩期血圧において、活性F2695エナンチオマー(98±2mmHg)と同等に薬学上有効な用量のF2207ラセミ化合物(110±4mmHg)との間に統計的に有意な差が認められた。
【0102】
これらの差異によって、活性F2695エナンチオマーの心血管忍容性がより高いことがはっきりと示される。
【0103】
実施例4in vitroにおける予測毒性についてのゲノム試験
4.1.材料および方法
F2695およびF2696化合物、ラセミ化合物分子F2207のエナンチオマー、ならびにクロミプラミン、参照製品、(調査ではC218と符号化した)を本調査で評価した。最終試験に使用する3種類の濃度を選択するために、まず、2つのエナンチオマー、F2695およびF2696を初代ラット肝細胞での予備細胞毒性試験(MTTアッセイ)により評価した。
【0104】
初代ラット肝細胞培養物の処置後、RNAを抽出して、標識相補的DNAプローブを作製し、次いで、それらを細胞ストレスに特異的な、選択的スプライシングによる682断片を含有するメンブレンとハイブリダイズさせた。処置細胞のハイブリダイゼーションプロフィールを非処置細胞のものと比較することにより、各製品についての毒性指数を得た。
【0105】
4.1.1.調査の目的および目標
Safe-Hitは、予測毒性薬理学についてのゲノム試験であり、製品をそれらの毒性の最適評価に基づいて比較し、順位付けすることが可能な、感度が高く、厳格で、信頼性があり、迅速かつ確実な試験である。
【0106】
Safe-Hitは、対照条件と比べて、単離、ひいては、特定の生物学的状態より生じるスプライシング事象のクローニングを可能にする技術、EXONHIT(DATAS(商標):Differential Analysis of Transcripts with Alternative Splicing)の特性を利用するものである。これにより、生物学的条件に応じて示差的に発現されるmRNAアイソフォームの単離が可能になる。
【0107】
Safe-Hitでは、以下の基本的工程(各製品に対して2回、系統的に実施する)によって決定される毒性指数に従って、1化学系統内の分子を順位付けすることが可能となる:
− 種々の製品を、予備細胞毒性試験(MTTアッセイ)により推定した3種類の異なる濃度で用いての細胞系統の処置:80%細胞生存に相当する参照濃度、可能であれば、10倍高い濃度および10倍低い濃度、
− 全RNAとその対応する放射性同位元素標識cDNAプローブの調製、
− cDNAプローブのハイブリダイゼーション:WTp53の過剰発現(p53はこの方法論の進行から選択される最も遍在する細胞ストレスの「メディエーター」である)により誘導される遺伝子スプライシングの変化に対応する682種類の独立クローンを含有するSafe-Hitマクロアレイ、
− 毒性指数の取得および決定。
【0108】
4.1.2.細胞
調査(細胞毒性についての予備MTTアッセイおよび本試験)に使用する細胞は、標準条件下で培養した、Sprague-Dawleyラットの凍結保存肝細胞初代培養物(バッチ Hep 184005およびHep 184006−Biopredic)である。
【0109】
4.1.2.1 培養培地
− 融解培地: 100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび0.6Mのグルコースを添加したグルタマックス1含有Leibovitz 15培地(バッチ MIL 210009−Biopredic)、
− 播種培地: 100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、4μg/mlのウシインスリンおよび10%v/vウシ胎児血清を添加したグルタマックス1含有ウィリアムズE培地(バッチ MIL 260005)−Biopredic)、
− インキュベーション培地: 100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、4μg/mlのウシインスリンおよび50μMのヘミコハク酸ヒドロコルチゾンを添加したグルタマックス1含有ウィリアムズE培地(バッチ MIL 260009〜260007−Biopredic)。
【0110】
4.1.2.2 培養条件
37℃、CO雰囲気(5%)、相対湿度(95%)。
【0111】
4.1.2.3 培養方法
【表6】

【0112】
4.1.3.細胞毒性試験
細胞毒性試験(MTTアッセイ)は、ミトコンドリアの活性を示す細胞呼吸の完全性を明示する比色反応を利用して生細胞を検出する試験である。水溶性のMTT(臭化3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウム)は、生細胞のミトコンドリア内酵素の影響下での分解により紫色の不溶性ホルマザンに変化する。ホルマザンを有機溶媒に可溶化し、得られた溶液を分光光度法により測定する。吸光度測定値は生存細胞数に比例する。
【0113】
細胞を、5種類の異なる濃度(0−1−10−25−50および100μM)の試験製品と16時間接触させる。
このように曝露させた後、MTT溶液(初代肝細胞のインキュベーション培地中0.5mg/ml)を3時間添加する。ホルマザン結晶を可溶化した後、マルチウェルプレートを分光光度計により500nmにて読み取り、細胞生存率を決定する。
【0114】
4.1.4 本ゲノム薬物毒性試験
本調査は、試験間の一貫性を高め、得られた結果の正当性を立証するために、各製品に曝露した播種培養物を用いて2回実施する。
【0115】
4.1.4.1 細胞播種および処置
細胞を播種し、予備MTTアッセイに基づいて選択される3種類の濃度の各製品とともに16時間培養する;2つの対照(非処置細胞および溶媒単独)を一連のものに加える。
【0116】
4.1.4.2 全RNA抽出およびアッセイ
処置後、RNAを抽出し、以下のように解析する:
− 細胞の収集および遠心分離、
− 抽出、製造業者のプロトコールに従い、調製済フェノール試薬(トリゾール−バッチ 1106266および1121067−Invitrogen)を用いて実施、
− RNAの水への可溶化、
− 分光光度法によるRNAアッセイ(260、280および300nmにて光学密度を測定)、
− Agilentの使用によるRNAの質の検証。
【0117】
4.1.4.3 cDNAプローブの調製
cDNAプローブを放射性逆転写(α dATP33P−Amersham)により調製する。プローブが確実に放射能を有するように放射性cDNAを定量する(インスタントイメージャー−Packard)。
【0118】
4.1.4.4 Safe-Hitメンブレンとのハイブリダイゼーション
682種のDATASクローン(選択的スプライシングによるパターン)をQ-Pix装置(GENETIX)を用いてプレカットナイロン(Q-BIOgene)で作製されたSafe-Hitメンブレン上に置く(2組)。DNAプローブをメンブレンと一晩ハイブリダイズさせ、メンブレンを洗浄する。
【0119】
4.1.4.5.cDNAの調製
− マトリックス: 5μgの全RNA(各処置系列に関して、そして、各濃度に関して)、
− プライマー: ラットでの第1回および第2回ハイブリダイゼーションに関して、100ngのオリゴ−dTVオリゴヌクレオチド(バッチ 12.00,Invitrogen)、
− 主要混合物:
10μlの第1鎖5×プレミアバッファー(バッチ 1131226−Invitrogen)
1μlのdCTP+dGTP+dTTP 20mM(バッチ 1105201−Invitrogen)
1μMのATP 120μM(バッチ 1105201−Invitrogen)
5μlのジチオスレイトール(DTT) 0.1M(バッチ 133609−Invitrogen)
1μlのOut 40U RNアーゼ(バッチ 1113345−Invitrogen)
5μlの33pdATP 3 000Ci/mmol 10mCi/μl(バッチ B0239−Amersham)
4μlのスーパースクリプト II(バッチ 1137806−Invitrogen)
1μlのグリコーゲン(バッチ 1129328−Invitrogen)
【0120】
手順:
RNAとオリゴ−dTVを70℃にて10分間インキュベートし、その後、氷上に置く。27μlのマスターミックスを添加し、43℃にて1時間、次いで、50℃にて15分間インキュベートする。20μlの水の後、20μlのEDTA 50mM、次いで、4μlのNaOH 10Nを添加する。65℃にて20分間インキュベートし、その後、氷上に置く。
【0121】
定量:インスタントイメージャー,Packard:1μlの反応混合物、
8μlの酢酸、100μlのイソプロパノールおよび1μlのグリコーゲン(20μg/μl)を添加する。−20℃にて20分間インキュベートし、4℃にて、13000rpmにて20分間遠心分離する。200μlの水で懸濁液として再構成する、定量:インスタントイメージャー,Packard:1μlの反応混合物。
【0122】
培地およびバッファー:
【0123】
【表7】

【0124】
プレハイブリダイゼーション:
5mlのプレハイブリダイゼーションバッファーをハイブリダイゼーションチューブに等分し、
対応する量のサケ精子DNAを最終濃度100μg/mlまで添加し、
メンブレンを5×SSCに浸漬し、
メンブレンをハイブリダイゼーションチューブに入れ、65℃にて2時間プレハイブリダイズする。
【0125】
ハイブリダイゼーション:
プレハイブリダイゼーションバッファーを除去し、10〜20mlの5×SSCで洗い流し、
5×SSCを除去し、5mlのバッファー+サケ精子DNAに取り替え、
RTプローブを95℃にて5分間変性させた後、氷上に1分間置き、
チューブ内で再構成した後、適当量の変性RTプローブを回収するために遠心分離し(100000〜200000cpm/ml)、55℃にて一晩インキュベートする。
【0126】
洗浄:
メンブレンを10〜20mlの洗浄バッファー1で洗い流し、
そのバッファーを除去し、それを50mlの洗浄バッファー2に取り替え、
35℃にて30分間インキュベートした後、バッファー4で洗浄しながら除去し、置き換え、55℃にて30分間インキュベートし、その後、最終洗浄バッファーを捨て、
メンブレンをチューブから取り出し、それらをカセット上に置き、取得を3時間継続する。
【0127】
4.1.4.6 画像の取得および解析
メンブレンをスクリーン(FX イメージングスクリーンK−Bio-rad)上に3時間置く。その後、パーソナルモレキュラーイメージャー FX(Bio-rad)を用いてフィルムを読み取る。画像は、Safe-Hitリーダーソフトウェア(COSE)を使用して解析する。
【0128】
4.1.4.7 毒性指数の算出
全データを、種々のメンブレンを正規化し、任意濃度の特定化合物に関し、非処置の対照の結果と比べて、アップレギュレートおよびダウンレギュレートされた遺伝子数の合計に相当する毒性指数を算出する自動計算プログラムに移す。次いで、2つのSafe-Hit解析結果を比較し、組み合わせて、種々の試験化合物の潜在毒性を評価する。ユーザーによって変更可能な2パラメーターが毒性指数の算出に関係する:
バックグラウンド閾値(BT)により、バックグラウンドノイズに近く、かつ、重要な遺伝子発現に帰することのない弱いシグナルを除く。従って、これにより検出閾値が決定される;
誘導係数(IF)は、対照サンプルに対する、アップレギュレートまたはダウンレギュレートされるであろうクローンの増倍率として決定される。適切な結果を得るためのこのパラメーターの値は、通常、2以下である。段階的に上昇するIF値はさらに強くアップレギュレートまたはダウンレギュレートされるクローンを選択する値である。
【0129】
毒性指数の算出方法は、参照プロフィール(R:非処置細胞)を試験プロフィール(E)と比較することにより作成されたものであり、以下の工程を踏む(方法の図式的概観に関する図5を参照):
− 得られた全ての値のlog値への変換、
− 二重アッセイでの各平均log値の算出(MiRおよびMiE)、
− 全てのシグナルについてのMiR−MiE(=D)に関するマトリックスの作成、
− MiEからDの隣接した14個の値の中央値を引くことによる各MiE値の正規化(=NMiE)、
− 正規化値の参照値との比較(C=NMiE−MiR)、
− Cの指数変換(=F)、
− Fのユーザーによって選択された誘導係数との比較:
− F>IFの場合には、その遺伝子がアップレギュレートされていると考えられ、
− 1/IF<F<IFの場合には、その遺伝子には変化がないと考えられ、
− F<1/IFの場合には、その遺伝子ダウンレギュレートされていると考えられる。
【0130】
4.2.MTTアッセイの結果
これらのアッセイを16時間曝露した初代ラット肝細胞について3回実施した。
クロミプラミン(C218と記す)では、細胞を16時間曝露した後に細胞生存が認められなかったため、100μMにて著しい毒性が示された。逆に、25μMでは毒性は認められなかった。50μMでの80%を超える細胞生存は、ゲノム薬物毒性研究と完全に一致している。F2695およびF2696化合物は、このアッセイにおいて、100μMの濃度でさえも細胞毒性がないことが示される。
【0131】
ゲノム薬物毒性評価を行うため、同じ化合物について3種類の濃度を使用する: 80%細胞生存を得ることが可能な濃度(C)、ならびに(C)×10および(C)/10に相当する濃度。
実施するアッセイにおけるF2695およびF2696の評点獲得能力を比較するため、各試験で同じ濃度を使用した:1μM、10μMおよび100μM。クロミプラミンについては、1μM、10μMおよび50μMの濃度を使用した。図6a、6bおよび6cを参照。
【0132】
4.3 ラット一次肝細胞についての結果
毒性指数(IT)を上記のように決定した。シグナルがバックグラウンド閾値(BT)より2倍高かったクローンだけを考慮に入れ、対照と比べて変化したことが認められるクローンだけを2つの独立した試験で検討した。2つの独立した解析を非処置の対照に対する2つの分化水準(誘導係数−IF)を用いて行った:
− 非処置の対照に対する係数少なくとも1.7。 1.7倍のこの係数は最小値であり、2つの非処置の対照との比較では指数が得られない。
− 非処置の対照に対する係数少なくとも2。 2倍のこの係数では、最も強いシグナルが考慮される。
【0133】
4.3.1.非処置の対照に対する誘導係数1.7(表6)
【表8】

【0134】
【表9】

【0135】
以下の毒性指数を得た:
【表10】

【0136】
よって、以下の順位付けを示すことができる、毒性最大〜最小:C218(クロミプラミン)>F2696>>>F2695。
【0137】
参照分子であるクロミプラミン(本調査ではC218と表示)では、調べた濃度に対応してサイン数が増加することが示された:濃度1、10および50μM(予備細胞毒性試験で定義した最大濃度)において、それぞれ、9、15および28サイン。論理的に推察できるとおり、低濃度および中濃度において生じた全てのサインはより高い濃度においても認められる。
【0138】
F2695では、濃度1および10μMにおいて、本調査で調べた可能性ある682のストレスサインがいずれも現れなかった。最大濃度100μMにおいては、たった2つのサインしか検出されなかった。そのうちの1つのサインはC218に共通したものであるが、それが何を意味するのかは分からなかった。
【0139】
F2696では、調べた濃度に対応してサイン数が増加することが示された:濃度1、10および100μMにおいて、それぞれ、2、5および22サイン。低濃度および中濃度において生じたサインの全てがより高い濃度においても検出された。22サインではF2695と共有されるものはなかった。逆に、低濃度および中濃度において現れたサイン(低濃度にて現れた2サインを含む5サイン)は、低用量1μMで始めた場合にクロミプラミンで検出された9サインに含まれる5サインに共通していた。高濃度100μMにおいては、F2696の26サインのうちの10サインが、50μMのクロミプラミンで確認された28サイン中でも検出された。
【0140】
定性的観点から、F2696およびクロミプラミンのミトコンドリア転写産物、特に、Cox1およびシトクロムbに及ぼす影響について強く主張すべきである。これらのサインはF2695では現れない(G05/G09/I01位置)。
【0141】
4.3.2.非処置の対照に対する誘導係数2(表7)
【表11】

【0142】
【表12】

【0143】
以下の毒性指数を得た:
【表13】

【0144】
これらのパラメーターに従って、以下の順位付けを提示することができる、毒性最大〜最小:C218(クロミプラミン)>F2696>>>>>F2695。
係数2にて過剰発現および過少発現したクローンに関し、F2695では、100μMの濃度でさえ、いかなるサインも現れなかった。
【0145】
誘導係数1.7を用いた前述の解析では現れた、1μMのF2696での弱いサインが消失しているという事実により、サイン発現に及ぼす濃度の影響が確認された。
【0146】
定性的観点から、F2696およびクロミプラミンのCox1およびシトクロムbに及ぼす影響についても確認した(G05/G09/I01位置)。
F2207の薬理学的に有効なエナンチオマーであるF2695は、この試験において重大な影響を及ぼすものではなかったが、クロミプラミンは正の対照とする参照製品として使用される。
【0147】
逆に、F2207の薬理学的に不活性なエナンチオマーであるF2696は、クロミプラミンのものと定量的にも定性的にも近いサインプロフィールを示したが、F2695に共通したサインは全く示していない。
こうしたあらゆる点が、この実験モデルにおいて、F2696よりも安全係数が極めて有意に良好である、活性F2695エナンチオマーについての優れた毒性ゲノムプロフィールを示す証拠となる。
【0148】
4.4 結論
ラット肝細胞初代培養物を用いて、F2207のエナンチオマーであるF2695およびF2696分子(濃度10、50および100μMにて)、ならびにC218(クロミプラミン、濃度1、10および50μMにて)で実施したゲノム薬物毒性調査では、濃度依存性ストレスサインと毒性指数を得た。これらの調査により、MTTアッセイのような古典的細胞生死判別アッセイにおいていかなる毒性も引き起こさない処置条件(濃度、処置期間)下でストレスサインを明示するゲノム薬物毒性試験の性能が確認される。
【0149】
この調査ではいくつかの重要な事実が明らかにされる:
− 初代ラット肝細胞モデルでは、F2207の薬理学的に有効なエナンチオマーであるF2695だけが有意な毒性指数を与えなかった;
− F2207の不活性エナンチオマーであるF2696と参照向精神薬製品であるクロミプラミンは顕著な指数を与え、非常に類似したまたは共通のストレスサインが認められた。この系では、正の対照となる参照分子のクロミプラミンでは、最小濃度で始めた場合に、最大数のストレスサイン、有意な指数がもたらされることが観察された。この件に関し、興味深いことには、クロミプラミンによって、ヒトにおいて、頻脈、起立性低血圧症、心伝導系または心調律異常、例外的に、肝炎などの一定数の有害事象が引き起こされ得る。クロミプラミンを誤って過量投与した場合には、失神、血液異常および重篤な心血管症状が認められることもある。
【0150】
興味深いことには、一般的な生理病理学的機構を推測することなく、F2696はクロミプラミンのものと非常に類似したまたは共通のストレスサインを示しており、以上で記載した心血管障害などの有害事象もまた引き起こすのである。
【0151】
よって、観察されたサインが抗鬱薬プロフィール、またはより広くは向精神薬プロフィールとも無関係であることを示唆するのは当然であるが、それらのサインは、まさに「ストレスのサイン」であると考えるべきである(F2696は、特に、タンパク質合成に関連する遺伝子や翻訳開始因子の発現の低下を引き起こす)。こうしたあらゆる点が、この実験モデルにおいて、F2696よりも安全係数が極めて有意に良好である、活性F2695エナンチオマーについての優れた毒性ゲノムプロフィールを示す証拠となる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】単回投与後の心拍数の変化(Δ値)。***:p≦0.001 対脱イオン水** :p≦0.01 対脱イオン水 * :p≦0.05 対脱イオン水 Δ :p≦0.05 対F2207
【図2】単回投与後の心拍数の変化(絶対値)。***:p≦0.001 対脱イオン水** :p≦0.01 対脱イオン水 * :p≦0.05 対脱イオン水 Δ :p≦0.05 対F2207
【図3】種々の処置の弛緩期血圧平均値への影響(連続5日間の処置後の最終摂取後6時間にわたる平均値)。
【図4】種々の処置の収縮期血圧平均値への影響(連続5日間の処置後の最終摂取後6時間にわたる平均値)。
【図5】毒性指数算出方法の模式図。毒性指数はアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた遺伝子全ての総数である(ユーザーによって定義された誘導係数に関する)。
【図6】ラット一次肝細胞でのMTTアッセイ。濃度はμMで示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管障害の危険性を制限しながら、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害により、症状または障害を治療または予防することを目的とする薬剤の製造のための、ミルナシプラン(Z(±)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド)および/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量が高い混合物、の使用。
【請求項2】
心血管障害が血圧の上昇および/または心拍数の上昇である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
血圧の上昇が弛緩期血圧の上昇である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
器官および/または組織毒性の危険性も制限する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
器官毒性が心毒性であり、かつ、組織毒性が肝および/または腎毒性である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ミルナシプランの(1S,2R)エナンチオマーが、Z−(1S,2R)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド(F2695)の塩酸塩である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
代謝産物が、
Z−フェニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパンカルボン酸(F1567)の塩酸塩、
フェニル−3 メチレン−3−4−ピロリドン−3(F1612)、
Z−(パラ−ヒドロキシフェニル)−1−ジエチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパン(F2782)の塩酸塩、
Z−フェニル−1−エチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパンのシュウ酸(F2800)、および
Z−フェニル−1−アミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパン(F2941)の塩酸塩
から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
代謝産物が、Z−(パラ−ヒドロキシフェニル)−1−ジエチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパン(F2782)の塩酸塩である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
混合物中の(1S,2R)エナンチオマー対(1R,2S)エナンチオマーの質量/質量比が、95:5((1S,2R):(1R,2S))より大きく、好ましくは、99:1((1S,2R):(1R,2S))より大きく、いっそう好ましくは、99.5:0.5((1S,2R):(1R,2S))より大きい、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
エナンチオマー混合物がZ−(1S,2R)−2−(アミノメチル)−N,N−ジエチル−1−フェニルシクロプロパンカルボキサミド(F2695)の実質的に純粋な塩酸塩である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
エナンチオマー混合物が、Z−(パラ−ヒドロキシフェニル)−1−ジエチルアミノカルボニル−1−アミノメチル−2−シクロプロパン(F2782)の実質的に純粋な混合物である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
薬剤が、鬱病、特に、深い抑鬱状態、難治性鬱病、高齢者の鬱病、心因性鬱病、インターフェロン治療により誘発される鬱病、抑鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱症状、全般的な健康状態に関連する鬱症状、向精神薬に関連する鬱症状、双極性障害、精神分裂症、全般性不安、不機嫌および衰弱状態、ストレス関連疾患、パニック発作、恐怖症、特に、広場恐怖症、強迫性障害、行動障害、反抗性障害、心的外傷後ストレス障害、免疫系の低下、疲労および随伴疼痛症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛、ならびにその他の身体機能障害、自閉症、全般的な健康状態による注意欠陥障害、注意欠陥多動障害、摂食障害、神経性過食症、神経性食欲不振、肥満、精神病性障害、アパシー、片頭痛、疼痛、特に、慢性疼痛、過敏性大腸症候群、心血管疾患、特に、心筋梗塞または高血圧症における不安性抑鬱症候群、神経変性疾患および関連不安性抑鬱症候群(アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病)、尿失禁、特に、ストレスおよび遺尿に関連する尿失禁、薬物嗜癖、特に、タバコ(特に、ニコチン)、アルコール、麻薬、薬物、これらの中毒状態から脱するのに使用される鎮痛薬への不安性依存症から選択される障害または症状を治療または予防することを意図したものである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
障害が、鬱病、特に、深い抑鬱状態、難治性鬱病、高齢者の鬱病、心因性鬱病、インターフェロン治療により誘発される鬱病、抑鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱症状、全般的な健康状態に関連する鬱症状、向精神薬に関連する鬱病から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
障害が、疲労および随伴疼痛症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛、ならびにその他の身体機能障害から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
障害が、尿失禁、特に、ストレスおよび遺尿に関連する尿失禁から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
症状が、タバコ、ニコチン、アルコール、麻薬、薬物および/またはこれらの中毒状態から脱するのに使用される鎮痛薬への不安性依存症を含む薬物嗜癖から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
子供、高齢者、肝および/または腎不全を有する患者、肝臓もしくは腎臓および/または組織毒性を引き起こす治療を受けている患者、心臓病の治療を受けている患者、心血管副作用を引き起こす治療を受けている患者、心血管疾患の病歴のある患者および/または心血管障害に罹患している患者から選択される患者による、請求項1〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
心血管疾患および/または心血管障害の病歴が、心筋梗塞、心調律異常(頻脈、徐脈、心悸亢進)、血圧異常(低血圧または高血圧患者)および心臓病の中から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
薬剤が、鬱病、特に、深い抑鬱状態、難治性鬱病、高齢者の鬱病、心因性鬱病、インターフェロン治療により誘発される鬱病、抑鬱状態、躁鬱症候群、季節性鬱症状、全般的な健康状態に関連する鬱症状、向精神薬に関連する鬱症状の治療または予防のために、同時に、別々に、あるいは時間をずらして使用する組合せ製品として、
a)ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量が高いエナンチオマー混合物、ならびに
b)向精神薬、特に、抗鬱薬および抗ムスカリン作用薬から選択される少なくとも1つの活性化合物
を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
薬剤が、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な症状または障害の治療または予防のために、同時に、別々に、あるいは時間をずらして使用する組合せ製品として、
a)ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物、および
b)器官毒性を引き起こす活性化合物、ならびに細胞毒性、特に、肝および/または腎毒性を引き起こす活性化合物の中から選択される少なくとも1つの他の活性物質
を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
薬剤が、セロトニン(5−HT)およびノルアドレナリン(NA)再取り込みの二重阻害によって治療可能な症状または障害の治療または予防のために、同時に、別々に、あるいは時間をずらして使用する組合せ製品として、
a)ミルナシプランおよび/または少なくとも1つのその代謝産物のエナンチオマー、ならびにそれらの薬学上許容される塩の、(1S,2R)エナンチオマー含量の高いエナンチオマー混合物、および
b)心血管副作用を引き起こす活性化合物の中から選択される少なくとも1つの他の活性物質
を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90143(P2010−90143A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276792(P2009−276792)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【分割の表示】特願2006−502149(P2006−502149)の分割
【原出願日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】