説明

薬剤容器の連続殺菌処理システム

【課題】個々の薬剤容器の加熱・殺菌の状況を個別に検出しそれをリアルタイムに把握して十分な加熱・殺菌が行われていない容器に薬剤が充填されることを防止することができる連続殺菌システムを提供する。
【解決手段】多数の薬剤容器1を連続的に搬送する搬送装置の上に容器の中の少なくとも一つ又は複数個とそれぞれ少なくとも数cm以下の距離を介して隣り合うように配置された温度測定装置2であって、先端が容器の中に挿入される棒状の温度検出部3と、検出された温度データを自らの識別データと共に所定時間毎に受信装置に無線送信する無線送信部と、無線送信部を熱から保護する断熱部材から成る断熱ケース5とを備えた温度測定装置と、加熱殺菌装置6の外部に配置された受信装置7であって、温度データと識別データを受信して記録装置に送信するための受信装置と、温度データ及び識別データを表示・記録するための記録装置10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアル瓶やアンプルなどの薬剤容器を連続的に殺菌処理するためのシステム及びこれに使用するのに適した温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薬品メーカーなどでは、バイアル瓶やアンプルなどの薬剤容器を薬剤を充填する前に殺菌するための薬剤容器の連続殺菌システムが利用されている。このような従来の薬剤容器の連続殺菌システムに関しては、例えば、アンプルを連続的に搬送する搬送装置の途中にハロゲンヒーターを備えて、このハロゲンヒーターによる加熱の様子を温度センサで検出して搬送装置による搬送速度にフィードバックすることが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−362516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記特許文献1が提案する薬剤容器の連続殺菌システムにおいては、前記温度センサはハロゲンヒーターの近傍に配置されているだけなので、個々の薬剤容器の加熱状況を個別に検出してそれを搬送装置の制御などに反映させることはできない。すなわち、前記ハロゲンヒーターなどの熱源は正常に作動していても個々の薬剤容器によっては他の薬剤容器の影になって十分に加熱されないものが存在する可能性があるが、前記の特許文献1のシステムにおいては、このような個々の薬剤容器の状況を把握することはできない。
【0004】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、個々の薬剤容器の加熱・殺菌状況を個別に検出して略リアルタイムに把握・記録し、それを搬送装置の制御などに略リアルタイムに反映し、以って十分な加熱・殺菌が行われていない薬剤容器に薬剤が充填されることを防止することができる、薬剤容器の連続殺菌システムを提供することを目的とする。
【0005】
また、本発明は、加熱温度を測定した個々の薬剤容器について、その測定時における加熱殺菌エリア内での位置をも求めて前記測定温度と共に記録することができる薬剤容器の連続殺菌システムを提供することを目的とする。
【0006】
さらに、本発明は、このような薬剤容器の連続殺菌システムに使用するのに適した温度測定装置であって、前記温度測定装置に備えられた無線送信部を駆動するためのバッテリを不要にしてそのサイズを大幅に小型化することができる温度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による薬剤容器の連続殺菌処理システムは、多数の薬剤容器を後述の薬剤充填装置の場所まで連続的に搬送するための搬送装置と、略箱状のカバーに覆われた加熱殺菌装置であって、前記搬送装置により搬送されて来た薬剤容器を受け入れるための搬入口と、前記搬入口から搬入されて来た搬送中の薬剤容器を乾燥環境下で加熱殺菌するための加熱部と、前記加熱殺菌された薬剤容器を後述の薬剤充填装置の方に排出するための排出口とを備えた加熱殺菌装置と、前記加熱殺菌装置から排出された薬剤容器の中に薬剤を充填するための薬剤充填装置と、前記搬送装置の上に前記多数の薬剤容器の中の少なくとも一つ又は複数個とそれぞれ少なくとも数cm以下の距離を介して隣り合うように配置された温度測定装置であって、その先端が前記隣り合う薬剤容器の中に挿入される棒状の温度検出部と、この温度検出部により検出された温度データを自らの識別データと共に所定時間毎に略リアルタイムに後述の受信装置に無線送信する無線送信部と、この無線送信部を前記加熱殺菌装置内の熱から保護するための断熱素材から成る断熱ケースとを備えた温度測定装置と、前記加熱殺菌装置の外部に配置された受信装置であって、前記温度測定装置の無線送信部からの前記温度データ及び前記識別データを受信して後述の記録装置に送信するための受信装置と、前記受信装置からの前記温度データ及び前記識別データを表示・記録するための記録装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明による薬剤容器の連続殺菌処理システムにおいては、前記加熱殺菌装置は、前記加熱部により加熱された薬剤容器を冷却するための冷却部をも備えている、ことが望ましい。
【0009】
また、本発明による薬剤容器の連続殺菌処理システムにおいては、さらに、前記受信装置から受信した温度データが所定の温度よりも低いとき、前記搬送装置を停止するための制御装置をも備えている、ことが望ましい。
【0010】
また、本発明による薬剤容器の連続殺菌処理システムにおいては、さらに、前記受信装置から受信した温度データが所定の温度よりも低いとき、所定のアラームを発生するためのアラーム発生装置をも備えている、ことが望ましい。
【0011】
また、本発明による薬剤容器の連続殺菌処理システムにおいては、前記受信装置は、前記加熱殺菌装置の外部で且つ前記加熱殺菌装置の近傍の位置に少なくとも3個以上備えられており、前記少なくとも3個以上の受信装置は、前記温度測定手段からの所定の信号を電波又は超音波で受信したときの電波又は超音波の受信時の強度又は送信から受信までの電波又は超音波の到達時間を検出し、その強度又は到達時間を示すデータを前記温度データ及び識別データと共に前記記録装置に送信するものであり、前記少なくとも3個以上の受信装置からの前記の強度又は到達時間を示すデータに基づいて各温度測定装置の前記加熱殺菌装置内の位置を求めるための位置算出部が前記記録装置に内蔵又は接続されている、ことが望ましい。
【0012】
さらに、本発明による薬剤容器の連続殺菌処理システムに使用される温度測定装置は、前記加熱殺菌装置の加熱部により加熱される前記断熱ケースの外側又はその近傍の高温側と前記断熱ケースの内側(前記断熱素材の内部又はその前記無線送信部側)の低温側との間の温度差からゼーベック効果により電力を発生させる熱電素子(熱発電素子)を備え、前記無線送信部は、前記熱電素子により発電された電力により前記温度データを無線送信するものである、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、多数の薬剤容器を連続的に搬送しながら、加熱殺菌装置による加熱殺菌の様子を個々の薬剤容器毎に測定し、その測定結果を加熱殺菌装置の外部にある記録装置に略リアルタイムに無線送信して表示・記録することができるので、個々の薬剤容器の加熱殺菌の不良を略リアルタイムに把握・記録して、個々の薬剤容器の加熱殺菌の不良の発生をより確実に減少させることができ、十分に加熱殺菌されていない薬剤容器に薬剤が充填されてしまうことを防止することができる。
すなわち、前記の特許文献1の連続殺菌システムでは、搬送ラインの近傍に設けた温度センサにより「搬送ライン上の全体的な加熱温度」を測定するだけなので、本発明のように搬送ライン上の「個々の薬剤容器の加熱温度」を測定することはできない。一般に、搬送ライン上の薬剤容器を殺菌するときは、ヒーターや熱風の排出部との位置関係などによりある薬剤容器は殺菌に十分な温度まで加熱されているが他の薬剤容器は殺菌に十分な温度まで加熱されていないという事態がしばしば起こり得る。前記の特許文献1の発明では、このような事態に対処することができない。これに対して、本発明では、搬送ライン上の一つ又は複数の薬剤容器と隣り合うように配置した温度測定装置により、個々の薬剤容器の加熱温度を測定してその測定温度を略リアルタイムに外部に無線送信しているので、搬送ライン上の個々の薬剤容器が殺菌に十分な温度まで加熱されているかどうかを細かく把握することができ、前記のような事態にも有効に対処できる。
【0014】
また、本発明によれば、前記受信装置から受信した温度データが所定の温度よりも低いときは、前記制御装置により前記搬送装置を略リアルタイムに停止できるので、個々の薬剤容器の殺菌不良をより確実に防止できるようになる。
【0015】
また、本発明によれば、前記受信装置から受信した温度データが所定の温度よりも低いときは、前記アラーム発生装置により所定のアラームを略リアルタイムに発生することができるので、個々の薬剤容器の殺菌不良をより確実に防止できるようになる。
【0016】
また、本発明によれば、加熱殺菌時の個々の薬剤容器の温度データと共に、その薬剤容器の前記加熱殺菌装置の加熱殺菌エリア内における位置データをも一緒に前記記録装置に記録・表示することができるので、例えば個々の薬剤容器の加熱不足(殺菌不良)が発生したときでも、その加熱不足が発生した薬剤容器は加熱エリア内のどの場所にあったものかを直ちに知ることができ、加熱不足(殺菌不良)の発生の原因究明や対策に役立てることができる。
【0017】
さらに、本発明の温度測定装置においては、前記加熱殺菌装置による熱を受ける高温側とこの熱をほとんど受けない低温側との間の温度差からゼーベック効果により電力を発生させる熱電素子を備え、この熱電素子により発電された電力により前記温度データを無線送信するようにしている。よって、本発明の温度測定装置では、測定した温度データを無線送信するためにバッテリを内蔵する必要が無くなり、温度測定装置のサイズを大幅に小型化することができる。特に、前記の薬剤容器の連続加熱殺菌工程は数時間以上(場合により数日間以上)に及ぶことがあるので、この工程において必要な電力をバッテリのみでまかなう場合は大型のバッテリが必要となり装置が大型化してしまうという問題があった。これに対して、本発明のように熱電素子を利用する場合は、前記加熱殺菌装置が薬剤容器を加熱殺菌するときの熱(例えば300℃以上の高温)を利用して電力を発生させられるので、薬剤容器の連続殺菌処理システム全体のエネルギーの利用効率を高めることができ、前記温度測定装置のサイズを大幅に小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例1について述べるような形態である。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の実施例1による薬剤容器の連続殺菌システムを説明するための概略図である。図1において、1はベルトコンベアなどの搬送装置(図示せず)により薬剤充填装置(図示せず)の場所まで所定速度で搬送されるバイアル瓶、2はこのバイアル瓶1の近傍に配置されて前記搬送装置により前記バイアル瓶1と一緒に搬送される温度測定機、3はこの温度測定機2に備えられた棒状の温度センサでその先端部が前記バイアル瓶1の内部に挿入される温度センサ、4は前記温度測定機2に内蔵された無線送信部の一部を構成するアンテナ、である。前記アンテナ4を含む無線送信部は、前記温度センサ3が検出した前記バイアル瓶1内の温度と自らの識別データを、所定時間毎に(例えば1秒毎に)後述の受信機7に向けて無線で送信する。
【0020】
前記温度測定機2は、外側のケース5の内側に断熱材が貼られており、その内部には前記無線送信部などが内蔵されている。本実施例1では、前記温度測定機2の外側のケース5が金属製であるため前記アンテナ4をケースの外部に露出させているが、前記ケース5を例えばプラスチック製にすれば、前記アンテナ4を前記ケース5の内部に備えることもできる。
【0021】
また、図1において、6は前記搬送装置の途中に配置された乾燥滅菌機である。この乾燥滅菌機6は、周囲を箱状に覆うためのケース(カバー)6aと、前記搬送装置が入って来るために前記ケース6aに形成された搬入口6bと、前記搬送装置を排出するために前記ケース6aに形成された排出口6cと、ハロゲンヒーター(図示せず)などにより形成される熱風により前記バイアル瓶1を加熱殺菌する加熱部(図示せず)と、前記加熱殺菌されたバイアル瓶1を冷風を供給することにより冷却するための冷却部(図示せず)と、を備えている。
【0022】
また、図1において、7は前記乾燥滅菌機6の外部の近傍の位置に設置された受信機である。この受信機7は、前記乾燥滅菌機6内で加熱殺菌中のバイアル瓶1の測定温度を示すデータを各温度測定機2の識別データと共に前記無線送信部のアンテナ4から無線で略リアルタイムに受信するためのものである。
【0023】
また、図1において、8は前記受信機7から通信ケーブル9を介して伝送された前記各バイアル瓶1の測定温度データと前記各温度測定機2の識別データとを略リアルタイムに表示部8aに表示すると共に互いに関連付けて記録するためのバリテータ、10は前記バリテータ8からの前記記録データをイーサネット(登録商標)(登録商標)用ケーブル11を介して略リアルタイムに受信してデータベースに記録し表示するための管理コンピュータである。
【0024】
前記管理コンピュータ10は、前記搬送装置を駆動するためのモータ(駆動部)を制御するための制御装置12に接続されている。前記管理コンピュータ10には、前記バリテータ8から送信された測定温度データを予め記憶している基準データと比較し、測定温度データが基準データよりも低いときは、前記制御装置12に所定の信号を送信し、前記制御装置12を介して前記搬送装置の搬送動作を停止させるためのプログラムが記録されている。
【0025】
また、前記管理コンピュータ10は、所定の警報音を発生させるアラーム発生装置13と接続されている。前記管理コンピュータ10には、前記バリテータ8からの測定温度データを予め記憶している基準データと比較し、測定温度データが基準データよりも低いときは、前記アラーム発生装置13に所定の信号を送信し、前記アラーム発生装置13から所定の警報音を発生させるためのプログラムが記録されている。
【0026】
次に、本実施例1の動作を説明する。多数のバイアル瓶1を搬送装置に載せ、それらの中の一部の複数のバイアル瓶1を選択して、それぞれの近傍(例えば数mm〜数cmの距離内)の直ぐ横の位置に前記温度測定機2を載置し、前記温度測定機2の温度センサ3の先端部を各バイアル瓶1の中に挿入する。その後、搬送装置を駆動して、前記バイアル瓶1を搬送し、その途中で、前記ケース6aの搬入口6bから、前記バイアル瓶1を前記乾燥滅菌機6の中に導入する。
【0027】
前記乾燥滅菌機6は、前記導入された前記バイアル瓶1に対してヒーターなどから構成される加熱部から熱風を供給して前記バイアル瓶1を乾燥させながら例えば300℃以上に加熱し、この加熱を数分間以上継続することにより殺菌する。この加熱・殺菌時における前記バイアル瓶1の加熱温度は、前記温度測定機2の温度センサ3により測定される。この測定された温度データはその測定した温度測定機2の識別データと共に前記無線送信部のアンテナ4から前記受信機7に無線送信される。
【0028】
前記受信機7に受信された前記測定温度データ及び識別データは、略リアルタイムに前記バリテータ8に送信されて、そこで略リアルタイムに表示部8aに表示されると共に記録される。また、前記バリテータ8は、前記測定温度データ及び識別データを、イーサネット(登録商標)(登録商標)を介して前記管理コンピュータ10に送信する。前記管理コンピュータ10は、前記の受信した測定温度データと予め記憶した基準データとを比較して、前記測定温度データが基準データよりも低いときは、前記制御装置12に所定の信号を送信して前記搬送装置の搬送動作を停止させると共に、前記アラーム発生装置13に所定の信号を送信して所定の警報音を出力させる。
【0029】
前記乾燥滅菌機6内を搬送される前記バイアル瓶1は、前記加熱部による加熱・殺菌エリアを通過すると、次の冷却エリアを通過する。この冷却エリアでは、冷凍機などから成る冷却部から冷風が供給されることにより前記の加熱されたバイアル瓶1を冷却する。この冷却されたバイアル瓶1は、前記搬送に伴って、前記ケース6aの排出口6cから前記乾燥滅菌機6の外に排出される。この排出されたバイアル瓶1は、次の薬剤充填装置(図示せず)に移動して、そこで所定の薬剤を充填される。
【0030】
以上のように、本実施例1によれば、搬送装置で搬送される多数のバイアル瓶1の一部(全部でもよい)にそれぞれ温度測定機2を設置しておき、前記乾燥滅菌機6による加熱・殺菌時の各バイアル瓶1の温度を測定し、その測定データを略リアルタイムに外部に無線で送信して記録・表示するようにしている。よって、本実施例1によれば、前記乾燥滅菌機6による加熱・殺菌時に一部のバイアル瓶1が他のバイアル瓶1の影になっしたりして十分な殺菌が行われなかったときでも、そのことを正確に記録することができ、また、そのことを直ちに認識して適切な処置を採ることができる。
【0031】
また、本実施例1では、前記乾燥滅菌機6による加熱・殺菌時にヒーターの一部の故障や一部のバイアル瓶1が他のバイアル瓶1の影になるなどの原因で十分な殺菌が行われなかったときは、前記管理コンピュータ10が前記制御装置12を制御して、直ちに前記搬送装置の搬送動作を停止するようにしているので、十分な殺菌が行われなかったバイアル瓶1に薬剤が充填されてしまうことを防ぐことができる。また、本実施例1では、前記乾燥滅菌機6による加熱・殺菌時にヒーターの一部の故障や一部のバイアル瓶1が他のバイアル瓶1の影になるなどの原因で十分な殺菌が行われなかったときは、前記管理コンピュータ10により、直ちに前記アラーム発生装置13から警報音が発生させるようにしているので、工場内の作業者が直ちに適正な処置を採って、十分な殺菌が行われなかったバイアル瓶1に薬剤が充填されてしまうことを防ぐことができる。
【実施例2】
【0032】
次に本発明の実施例2による薬剤容器の連続殺菌処理システムを説明する。本実施例2による連続殺菌処理システムは、前記の実施例1と基本的構成は同様である。異なる点は次のとおりである。
【0033】
前記の実施例1では、前記温度測定機2は、測定対象のバイアル瓶1の温度データと共に自らの識別データをも前記受信機7に送信するので、前記バリテータ8又は前記管理コンピュータ10は、前記乾燥滅菌機6による加熱・殺菌時に一部のバイアル瓶1がヒータの一部の故障や他のバイアル瓶1の影になるなどの原因で十分な加熱・殺菌が行われなかったとき、どのバイアル瓶1が十分な加熱・殺菌が行われなかったかを認識することができる。しかし、前記実施例1では、その十分な加熱・殺菌が行われなかったバイアル瓶1が測定時に前記乾燥滅菌機6の加熱殺菌エリアの中のどの位置にあったかを認識することはできなかった。本実施例2では、次のような構成を採用することにより、前記乾燥滅菌機6による加熱・殺菌時にヒーターの一部の故障や一部のバイアル瓶1が他のバイアル瓶1の影になるなどの原因で十分な殺菌が行われなかったとき、どのバイアル瓶1が十分な殺菌が行われなかったかだけでなく、その十分な殺菌が行われなかったバイアル瓶1が測定時に前記乾燥滅菌機6の加熱殺菌エリアの中のどの位置にあったかをも認識できるようにした。
【0034】
図2は本実施例2の乾燥滅菌機6及びこの乾燥滅菌機6の略箱状ケース(カバー)6aの上部外壁の4隅にそれぞれ設置された受信機7a,7b,7c,7dを示す図である。図2において、21は搬送装置を構成するコンベアベルトである。このコンベアベルト21の上には多数のバイアル瓶1が載置されている。このコンベアベルト21上の多数のバイアル瓶1の中の一部のバイアル瓶1の隣の位置に温度測定機2が配置され、温度測定機2の温度センサ3がバイアル瓶1の中に挿入されている(図1と同様)。また、前記乾燥滅菌機6の略箱状ケース6aの上部の4隅の外壁面にそれぞれ受信機7a,7b,7c,7dが配置されている。
【0035】
本実施例2では、前記各温度測定機2から所定時間毎に測定温度データ及び各温度測定機2の識別データが無線で発信されたとき、その信号を前記各受信機7a,7b,7c,7dの全てが受信する。このとき、前記各受信機7a,7b,7c,7dは、前記温度測定機2から発信される電波(例えば指向性の強いマイクロ波)の受信時の強度を検出する。そして前記各受信機7a,7b,7c,7dは、この検出した受信電波の強度を示すデータを、前記温度データ及び識別データと共に前記バリテータ8に送信する。前記バリテータ8は、前記温度データ、識別データ、及び受信電波の強度データを受信して表示・記録すると共に、それのデータを前記管理コンピュータ10に送信する。
【0036】
前記管理コンピュータ10は、前記バリテータ8から送信されてきた前記温度データ、識別データ、及び受信電波の強度データに基づいて、各温度測定機2の測定対象である各バイアル瓶1の温度、識別データをデータベースに記録しディスプレイに表示すると共に、温度測定時における前記乾燥滅菌機6内の位置を求めて、この位置データをも前記データベースに記録しディスプレイに表示する。
【0037】
すなわち、例えば、図2の乾燥滅菌機6内を搬送されている(移動中の)温度測定機2aから測定対象であるバイアル瓶1aの測定温度データと自らの識別データがマイクロ波で送信されると、そのマイクロ波の指向性や各温度測定機2と各受信機7a,7b,7c,7dとの間の距離の違いにより、各受信機7a,7b,7c,7dが受信するマイクロ波(図2の符号A1,A2,A3,A4で示す破線を参照)の強度はそれぞれ異なる。前記管理コンピュータ10は、この受信電波の強度の違いに基づいて、前記測定対象のバイアル瓶1の温度測定時における乾燥滅菌機6内の位置を求めるようにしている。
【0038】
以上のように、本実施例2によれば、測定対象となったバイアル瓶1の温度と測定時の乾燥滅菌機6内の位置をも把握することができるので、例えば一部のバイアル瓶1について十分な殺菌が行われなかった場合に、十分な殺菌が行われなかったバイアル瓶1だけでなく、十分な殺菌が行われなかったときの乾燥滅菌機6内での当該バイアル瓶1の位置も分かるので、十分な殺菌が行えなかった原因の究明や対策をより的確に行えるようになる。なお、本実施例2では、前記温度測定機2,2aから前記マイクロ波と共に超音波信号を送信するようにし、前記各受信機7a,7b,7c,7dによりこの超音波信号の受信時の強度を検出して、前記管理コンピュータ10がこの検出した強度に基づいて前記位置を検出するようにしてもよい。
【0039】
なお、以上では、前記各温度測定機2からの電波を受信する各受信機7a,7b,7c,7dが受信した受信電波(又は受信超音波)の強度に基づいて測定対象である各バイアル瓶1の位置を検出するようにしたが、本実施例2では、前記各温度測定機2から発信された電波又は超音波を各受信機7a,7b,7c,7dが受信したときの電波又は超音波の発信から受信までの到達時間に基づいて測定対象である各バイアル瓶1の位置を検出することも可能である。この場合は、前記各温度測定機2,2aは、測定した温度データと自らの識別データを電波で発信すると共に発信時の時刻データを電波及び超音波の信号により送信する。すなわち、前記各温度測定機2は、測定対象のバイアル瓶1の内部の温度を測定すると直ちにその温度データと識別データを無線で発信するが、そのときの時刻データも一緒に発信する(さらに、このとき、同時に所定の超音波の信号も発信する)。この発信された各データ(前記超音波の信号も含む)は、前記の各受信機7a,7b,7c,7dによって受信されるが、その発信から受信までの前記電波又は超音波の到達時間は、前記各温度測定機2と各受信機7a,7b,7c,7dとの間の距離によってそれぞれ異なる(図2の符号A1,A2,A3,A4参照)。したがって、これらの各受信機7a,7b,7c,7dによって受信されるまでの前記到達時間のデータを前記バリテータ8を介して前記管理コンピュータ10に送信することにより、前記管理コンピュータ10は、測定対象である各バイアル瓶1について、その温度データと共にその測定時における乾燥滅菌機6内の位置データをも求めてそれを表示・記録することができる。
【0040】
また、本実施例2で使用する測定対象の位置をも求めることができるシステム(温度センサが検出した温度データを無線で受信する3つ以上の受信機、及び3つ以上の受信機が受信した電波の強度や電波の到達時間に基づいて測定対象の位置を求めるプログラムなどを含むシステム)は、本実施例2が適用される薬剤容器の連続殺菌処理システムだけでなく、様々なシステムにも応用可能である。図3はこのようなシステムの一例を示すものであって、食品加工用又は薬品製造用に使用される、凍結乾燥機・オートクレープ又は保存冷蔵庫の温度管理を行うためのシステム(あるいは注射針やメスなどの医療用具の蒸気加熱殺菌の温度管理を行うためのシステムでもよい)を示すものである。図3において、31は食品加工用又は薬品製造用の凍結乾燥機・オートクレープ又は保存冷蔵庫などの略箱状の断熱ケース(あるいは、注射針やメスなどの医療用具を蒸気加熱殺菌するための断熱ケース)、32は前記断熱ケース31内の所定の複数箇所に食品などに付着された状態で配置された無線機付き温度センサ、33は前記断熱ケース31の外壁の各面(例えば6つの面の全て)にそれぞれ配置された受信機である(図3では、前記受信機33は一つのみを図示して他の5つは図示を省略している)。図3に示す食品加工用又は薬品製造用の凍結乾燥機・オートクレープ又は保存冷蔵庫の温度管理用システムにおいては、前記各温度センサ32は、それぞれが各場所に配置された各食品・各薬品又はその場所(空間)の温度を測定し、所定時間毎にその測定温度データ(及び発信時の時刻データ)を無線で発信する。これの各データは、前記の6つの各受信機により受信され、バリテータ8を介して管理コンピュータ10に送信される。前記管理コンピュータ10は、前記各データに基づいて、前記各温度センサ32の位置を求めて、この位置データと前記測定温度データとを共に表示しデータベースに記録する。すなわち、前記管理コンピュータ10は、前記各温度測定機32からの測定温度データが前記各受信機33により受信されるときの受信電波の強度の違い(又は前記時刻データから判明する電波の到達時間の違い)に基づいて各温度測定機32が存在する前記断熱ケース31内の位置を求め、それを表示・記録する。このように、図3に示すシステムにおいては、前記断熱ケース31内の複数箇所に配置した各温度測定機32からの電波を各受信機33で受信するときの受信電波の強度の違い又は到達時間の違いに基づいて、前記管理コンピュータ10が各測定対象の温度だけでなく前記断熱ケース内の温度測定時における位置をも把握することができるので、食品加工用又は薬品製造用の凍結乾燥機・オートクレープ又は保存冷蔵庫の温度管理をより細かく適正に行うことができるようになる。
【0041】
また、前記の実施例2で使用する測定対象の位置をも求めることができるシステム(温度センサが検出した温度データを無線で受信する3つ以上の受信機、及び3つ以上の受信機が受信した電波の強度や電波の到達時間に基づいて測定対象の位置を求めるプログラムなどを含むシステム)は、図3に示すシステムだけでなく、図4に示すシステムにも同様に採用することができる。図4に示すシステムは、図3に示すシステムと基本的構成は同様である。異なる点は、図4では、図3で説明したバリテータ8に代えて、前記各受信機33からの測定温度データを受信して略リアルタイムに表示するためのマイコン・ボード34及び表示器35と、前記測定温度データを記録紙に記録するための汎用記録計36とが備えられていることである。このこと以外については図4の構成及び作用効果は図3と同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0042】
次に本発明の実施例3による薬剤容器の連続殺菌処理システムを説明する。本実施例3による連続殺菌処理システムは、前記の実施例1と基本的構成は同様である。異なる点は前記システムに使用される温度測定機2の構成である。前記の実施例1では、温度測定機2は、かなり大型のバッテリを内蔵し、このバッテリからの電力により前記温度センサ3で検出した温度データを無線送信部から無線で送信していた。これに対して、本実施例3の温度測定機2では、前記バッテリに代えて、図5に示すような熱電素子を内蔵するようにしている。図5において、41はビスマステルル合金などから成る半導体素子、42は前記半導体41と対の関係となるように配置された前記半導体41とは異なる種類の半導体素子、43は前記各半導体素子41,42の高温側端部であって図1の温度測定機2の断熱ケース5の外側に配置された高温側端部、44,45は前記各半導体素子41,42の低温側端部であって前記断熱ケース5の内側(無線送信部の近い側)に配置された低温側端部、46は前記端部44と45との間に接続された電源回路であって前記高温側端部43と前記低温側端部44,45との間の温度差により発生する電力を一時的に蓄電するためのキャパシタなどから成る電源回路である。このような熱電素子は、既に腕時計の電源などで実用化されている(例えばセイコー社の「サーミック」など)が、腕時計の場合は体温と外気との温度差が比較的小さいため得られる電力が小さいという問題がある。これに対して、本実施例3の熱電素子では、前記高温側端部43には前記乾燥滅菌機6により約300℃以上の熱が例えば数時間・数日間以上の長期間継続して加えられるので、前記温度測定機2(特にその中の無線送信部)の駆動のために十分な電力を効率的に長期間継続的・連続的に発生させることができる。
【0043】
以上のように、本実施例3では、前記温度測定機2にバッテリに代えて熱電素子を内蔵し、前記乾燥滅菌機6からの熱を利用して前記熱電素子が発生した電力により測定温度データなどの無線送信を行うようにしている。よって、本実施例3では、かなり大型のバッテリを内蔵した本実施例1の温度測定機2と比較して、前記温度測定機2のサイズを大幅に小型化することができる。
【0044】
なお、前記の実施例3による薬剤容器の連続殺菌処理システムの中で使用された熱電素子を内蔵した温度測定機2は、本実施例3が適用される薬剤容器の連続殺菌処理システムの中だけでなく、様々なシステムの中で使用可能である。例えば、前記実施例2に関して説明した図3や図4に示す食品加工用又は薬品製造用に使用される、凍結乾燥機・オートクレープ又は保存冷蔵庫の温度管理を行うためのシステムあるいは注射針やメスなどの医療用具の蒸気加熱殺菌の温度管理を行うためのシステム(実施例3のシステムと同様に熱源を使用するシステム)の中でも同様に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1による薬剤容器の連続殺菌システムを示す概略ブロック図。
【図2】本発明の実施例2による薬剤容器の連続殺菌システムを説明するための乾燥滅菌機、温度測定機、及び受信機などを示す図。
【図3】本実施例2の中で使用されている各温度測定機の位置を測定するための装置を利用可能な他のシステムの一例を示す図。
【図4】本実施例2の中で使用されている各温度測定機の位置を測定するための装置を利用可能な他のシステムの一例を示す図。
【図5】本発明の実施例3による薬剤容器の連続殺菌システムの中で使用される温度測定機の電源となる熱電素子を説明するための図。
【符号の説明】
【0046】
1,1a バイアル瓶
2,2a 温度測定機
3,32 温度センサ
4 アンテナ
5,31 断熱ケース
6 乾燥滅菌機
6a 略箱状ケース
6b 搬入口
6c 排出口
7,7a,7b,7c,7d 受信機
8 バリテータ
8a 表示部
9 通信ケーブル
10 管理コンピュータ
11 イーサネット(登録商標)(登録商標)用ケーブル
12 制御装置
13 アラーム発生装置
21 コンベアベルト
33 受信機
34 マイコン・ボード
35 表示器
36 汎用記録計
41,42 半導体素子
43 高温側端部
44,45 低温側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアル瓶やアンプルなどの薬剤容器を連続的に加熱殺菌処理するためのシステムであって、
多数の薬剤容器を後述の薬剤充填装置の場所まで連続的に搬送するための搬送装置と、
略箱状のカバーを備えた加熱殺菌装置であって、前記搬送装置により搬送されて来た薬剤容器を受け入れるための搬入口と、前記搬入口から搬入されて来た搬送中の薬剤容器を乾燥環境下で加熱殺菌するための加熱部と、前記加熱殺菌された薬剤容器を後述の薬剤充填装置の方に排出するための排出口とを備えた加熱殺菌装置と、
前記加熱殺菌装置から排出された薬剤容器の中に薬剤を充填するための薬剤充填装置と、
前記搬送装置の上に前記多数の薬剤容器の中の少なくとも一つ又は複数個とそれぞれ少なくとも数cm以下の距離を介して隣り合うように配置された温度測定装置であって、その先端が前記隣り合う薬剤容器の中に挿入される略棒状の温度検出部と、この温度検出部により検出された温度データを自らの識別データと共に所定時間毎に略リアルタイムに後述の受信装置に無線送信する無線送信部と、この無線送信部を前記加熱殺菌装置内の熱から保護するための断熱素材を含む断熱ケースとを備えた温度測定装置と、
前記加熱殺菌装置の外部に配置された受信装置であって、前記温度測定装置の無線送信部からの前記温度データ及び前記識別データを受信して後述の記録装置に送信するための受信装置と、
前記受信装置からの前記温度データ及び前記識別データを表示・記録するための記録装置と、
を備えたことを特徴とする薬剤容器の連続殺菌処理システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記加熱殺菌装置は、前記加熱部により加熱された薬剤容器を冷却するための冷却部をも備えている、ことを特徴とする薬剤容器の連続殺菌処理システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記受信装置から受信した温度データが所定の温度よりも低いとき、前記搬送装置を停止するための制御装置をも備えた、ことを特徴とする薬剤容器の連続殺菌処理システム。
【請求項4】
請求項1,2又は3において、
前記受信装置から受信した温度データが所定の温度よりも低いとき、所定のアラームを発生するためのアラーム発生装置をも備えた、ことを特徴とする薬剤容器の連続殺菌処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−240736(P2006−240736A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183334(P2005−183334)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【分割の表示】特願2005−58362(P2005−58362)の分割
【原出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(505078962)アドバンセンス有限会社 (3)
【Fターム(参考)】