説明

薬剤用の可溶化剤としての生分解性トリブロックコポリマー類およびそれらの使用方法

有効な濃度で、薬剤、特に、疎水性薬剤を、親水性環境にて可溶化して、水性薬剤溶液からもたらされる非経口、特に、静脈内投与およびその他のルートについて適切な温度で溶液を形成する生分解性ABAタイプまたはBABタイプのトリブロックコポリマー類が開示されている。これらコポリマー類は、生分解性ポリエステルを含む生分解性疎水性Aポリマーブロック約50.1〜65重量%と;ポリエチレングリコール(PEG)を含む生分解性親水性Bポリマーブロック約35〜49.9重量%と;を含み、トリブロックコポリマーは、重量平均分子量約1500〜3099ドルトンを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高重量パーセンテージ(少なくとも50パーセント)の疎水性ブロックと低分子量(1500〜3099ドルトン)とを有する生分解性トリブロックコポリマー類;および、疎水性薬剤を親水性環境にて可溶化するためのそれらの使用に関する。本発明のトリブロックコポリマー類は、生のままの形で高粘度液体として存在し、水性環境にて体温で溶液を形成し、非経口供給、特に、静脈内(I.V.)供給について適している。したがって、本発明のトリブロックコポリマー類は、実質的に水に不溶性である薬剤についての可溶化剤として、または、薬剤の水溶性の増加を必要とする薬剤についての可溶化剤として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの重要な薬剤、特に疎水性薬剤は、水溶性が限られている。このような薬剤の十分に期待される治療効果を達成するために、薬剤の可溶化された形を患者に投与することが通常必要とされる。最近、多くのペプチド/蛋白質薬剤が、種々の治療用途について有効であるが、組み換えDNAおよびその他の技術における進歩を通して市販入手可能となっている。多くのペプチド薬剤は、慣用的な液体担体にて溶解性および/または安定性が限られており、したがって、配合および投与することが難しい。
【0003】
薬剤を可溶化するための多数の方法が開発され、それらの大部分は、溶剤または補助溶剤、界面活性剤、錯生成剤(例えば、シクロデキストリン類またはニコチンアミド)の使用;または、複雑な薬剤担体(例えば、リポソーム)の使用に基づいている。上記方法の各々は、1つ以上の固有の欠点を有する。例えば、疎水性薬剤を可溶化するための慣用的な界面活性剤およびシクロデキストリン類の使用は、一度患者に投与されるかあるいは水性環境にて希釈された時の界面活性剤およびシクロデキストリンの毒性および/または可溶化された薬剤の沈殿に関する欠点を有する。
【0004】
両親媒性ブロックコポリマー類は、薬剤、特に疎水性薬剤を水性環境に可溶化しうる潜在的に有効な薬剤担体である。例えば、界面活性剤様の特性を有する両親媒性ブロックコポリマー類についての多くの研究が報告されており、コポリマーの個々の性質および特性により安定化されるブロックコポリマー類に疎水性薬剤を組み込む試みが特に注目されている。例えば、EP No 0 397 307 A2(また、EP No.0 583 955 A2およびEP No.0 552 802 A2)は、親水性成分としてポリ(エチレンオキシド)を、疎水性成分としてポリ(アミノ酸類)を含有し、治療活性な作用物質をポリマーの疎水性成分に供給結合させるABタイプの両親媒性ジブロックコポリマーの高分子ミセルを開示している。この高分子ミセルは、疎水性薬剤を投与する手段として提供されるが、それは、官能基をブロックコポリマーに導入し、薬剤を高分子担体に共有結合カップリングさせる必要がある点で不利益である。
【0005】
U.S.特許No.4,745,160は、親水性成分としてポリエチレングリコールを、疎水性成分としてポリ(D-、L-およびD,L-乳酸類)を有する水不溶性の薬学的または獣医学的に許容可能な両親媒性、非架橋直鎖、分岐またはグラフトコポリマーを開示している。ブロックコポリマーは、疎水性薬剤について有効な分散または懸濁剤であるが、ブロックコポリマーは、水に不溶性であり、分子量5,000以上を有する。さらに、親水性成分は、ブロックコポリマーの重量に基づき少なくとも50重量%であり、疎水性成分の分子量は、5,000以下である。製造プロセスにて、水混和性および減圧凍結乾燥有機溶剤が使用される。ポリマー、薬剤および有機溶剤の混合物が水と混合される時、沈殿が形成され、ついで、混合物は、直接、減圧凍結乾燥されて、粒子を形成する。したがって、この粒子が水に分散される時、それは、微細粒子を含有するコロイド状懸濁液を形成し、親水性成分と疎水性成分とが混合される。
【0006】
U.S.特許No.5,543,158は、本質的に、ポリ(アルキレングリコール)と生分解性のポリマー、ポリ(乳酸)とからなるブロックコポリマーから形成されるナノ粒子またはミクロ粒子を開示している。ナノ粒子またはミクロ粒子にて、コポリマーの生分解性部分は、ナノ粒子またはミクロ粒子の心にあり、ポリ(アルキレングリコール)部分は、ナノ粒子またはミクロ粒子の表面上に、網内系によるナノ粒子またはミクロ粒子の取り込みを減少させるのに十分な有効量存在する。この特許にて、ブロックコポリマーの分子量は、高く、コポリマーは、水に不溶性である。ナノ粒子は、ブロックコポリマーと薬剤とを有機溶剤に溶解させ、音波処理または攪拌によって油中水のエマルジョンを形成させ、ついで、薬剤を含有する沈殿したナノ粒子を収集することによって製造される。それは、疎水性薬剤の可溶化を生じさせない。この特許にて製造されるナノ粒子は、水に分散された固体粒子である。
【0007】
現在では、厳格に調節されるコンプライアンス要件、例えば、生体適合性および低毒性ゆえに、明確に定義された分解経路と分解生成物の安全性を有する、ペプチドおよび蛋白質薬剤を含め、薬剤の供給を制御するために使用することのできる数種の合成または天然高分子材料が存在する。利用可能な毒性学および臨床的なデータに関して最も広く研究され、改善された生分解性ポリマーは、脂肪族ポリ(α-ヒドロキシ酸類)、例えば、ポリ(D-,L-またはD,L-乳酸)(PLA)およびポリ(グリコール酸)(PGA)ならびにそれらのコポリマー類(PLGA)である。これらポリマーは、市販入手可能であり、現在、生体再吸収可能な縫合糸(bioresorbable sutures)として使用されている。ロイプロイドアセテート、Lupron Depot TM の放出を制御するためのFDA-承認された系は、また、PLGAコポリマー類に基づく。Lupron DepotTMは、注射可能な微細球からなり、これは、前立腺癌の治療のために長期間(例えば、約30〜120日)にわたり、ロイプロイドアセテートを放出する。使用のこの歴史に基づき、PLGAコポリマー類は、生分解性の担体を使用し、非経口制御された放出薬剤供給系の早期設計にて選択された物質である。
【0008】
成功が限られていても、これらPLA、PGAおよびPLGAポリマー類は、それらの物理化学的特性および付随する製造方法に伴う薬剤担体としての問題を提示する。親水性巨大分子、例えば、ポリペプチド類は、ポリラクチド類の疎水性マトリックスまたは膜を介して容易に拡散することができない。PLAおよびPLGAを使用する薬剤負荷および装置の製造は、毒性の有機溶剤または高温を使用する必要が多い。また、投与される固体剤形のジオメトリーは、組織の刺激および損傷を機械的に誘発しかねない。
【0009】
U.S.特許6,004,573;6,117,949および6,201,072は、薬剤、特に、疎水性の薬剤についての可溶化剤として疎水性ブロックの高い重量パーセンテージ(例えば、少なくとも50重量パーセント)を有する低分子量生分解性のトリブロックコポリマー類を開示している。これらの特許は、逆熱ゲル化特性を有し、上記した多くの問題を含まない高分子供給系を開示している。これらの特許は、サーマルゲル(thermal gels)を形成し、高重量パーセンテージ(少なくとも50重量パーセント)の疎水性ブロックを有し、ポリ(エチレンオキシド)に共有結合しているある種の両親媒性生分解性トリブロックコポリマー類が、薬剤を、特に、疎水性薬剤を可溶化するのに非常に有効であることを示している。トリブロックコポリマー類および水の生ずる組成物は、トリブロックコポリマー類の作用によって溶解された薬剤を生じ、それによって、均一かつ正確な投与量の効能および促進投与を高め、それによって、多くの場合に、薬剤の治療効果を高める。親水性および疎水性ブロックの分子量、組成および相対比を制御すると、このような可溶化効果を最適化することができる。しかし、これら特許に開示されているブロックコポリマー類は、逆熱ゲル化特性を有し、ゾル/ゲル転移温度は、概して、少なくとも35〜42℃であるI.V.供給目的用に必要とされる温度より低い。
【0010】
発明の概要
本発明は、薬剤、大きく注目すべきは、疎水性薬剤を親水性環境にて可溶化しうる生分解性高分子組成物を提供する。本組成物は、静脈内供給およびまた薬剤溶液の投与が所望されるいずれかのその他のルートによる薬剤の供給に適したこのような薬剤の易流動性溶液を調製するのに使用することができる。
【0011】
本発明は、また、親水性環境にて可溶化される疎水性薬剤を含め、薬剤を効率的に可溶化するための方法;および、このような薬剤を静脈内(I.V.)供給によって動物に効率的に投与するための方法も提供する。しかし、いずれのその他の手段、例えば、非経口、眼内、局所、吸入、経皮、膣内、頬、経粘膜、経尿道、直腸、鼻、経口(oral)、経口(peroral)、肺動脈または耳;および、有効である手段も、また、本発明で利用することができる。
【0012】
本発明の可溶化剤は、重量平均分子量1500〜3099を有する生分解性のABAタイプまたはBABタイプのトリブロックコポリマーを含み、生分解性のポリエステルを含む疎水性Aポリマーブロック50.1〜65重量%からなり;ポリエチレングリコール(PEG)からなる親水性Bポリマーブロック35〜49.9重量%からなるが、ただし、前記高分子組成物は、水性液体と混合する時、ポリマー溶液を形成し、易流動性液体のままである。
【0013】
好ましくは、生分解性ポリエステルは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸;および、それらのコポリマー類からなる群より選択されるモノマー類から合成される。さらに好ましくは、生分解性ポリエステルは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ε-ヒドロキシヘキサン酸;および、それらのコポリマー類からなる群より選択されるモノマー類から合成される。最も好ましくは、生分解性ポリエステルは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸;および、それらのコポリマー類からなる群より選択されるモノマー類から合成される。
【0014】
ポリエチレングリコール(PEG)は、また、場合によっては、トリブロックコポリマーに組み込まれる時、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)またはポリ(オキシエチレン)とも称され、これらの用語は、本発明の目的に対し、互換的に使用することができる。
【0015】
疎水性Aブロックにて、ラクテート含量は、約20〜100モル%であり、好ましくは、約50〜100モル%である。グリコレート含量は、約0〜80モル%であり、好ましくは、約0〜50モル%である。
【0016】
本発明の生分解性両親媒性トリブロックコポリマー類は、薬剤、特に、疎水性薬剤を、水に可溶化して、易流動性溶液を形成するのに非常に有効である。これは、均一かつ正確な投与量の投与を促進し、多くの場合、非経口、特に、静脈内投与される時に、薬剤の治療効果を高める。本発明の目的に対し、溶液として可溶化された薬剤の記載は、薬剤の50℃までの温度でゲル化しない可溶化媒体溶液を含む。可溶化された薬剤および薬剤溶液は、本発明の組成物のあらゆる易流動性形を含む。あらゆる形が、薬剤の投与を促進し、治療効果を高める。このような治療効果は、コポリマー分子量;組成;および、親水性および疎水性ブロックの相対比;薬剤対コポリマーの比;ならびに、最終投与される剤形での薬剤およびコポリマーの両濃度を制御することによって最適化することができる。本発明のさらなる利点は、種々の実施態様についての以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、本明細書にて開示する個々の構成、プロセス工程および材料に限定されるものではなく、このようなものとして、構成、プロセス工程および材料は、幾分変化させることができる。本明細書にて使用する用語は、個々の実施態様を説明する目的のみに使用し、本発明の範囲は、特許請求の範囲の請求項およびその等価体によってのみ限定されるであろうゆえ、何等、本発明を限定する意図はない。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲にて、単数形“a”、“an”および“the”は、コンテキストが明瞭に限定しない限り、複数の指示物をも含む。かくして、例えば、“1つの薬剤”を供給するための組成物は、2つ以上の薬剤の指示物をも含む。本発明を説明し、特許請求するのに、以降に記載する定義に従い、以下の用語を使用する:
“有効量”は、所望される局所または全身効果を生ずる薬剤または薬学的に許容可能な作用物質の量を意味する。
【0019】
“ポリマー溶液”、“水性溶液”等は、このような溶液に含有される生分解性のブロックコポリマーに関して使用する時、有効な濃度(a functional concentration)でその中に含有されるこのようなブロックコポリマーを有する水基体の溶液を意味する。ポリマー溶液とは、本発明のコポリマー類および水を含むあらゆる易流動性形の組成物を含む。ポリマー溶液は、生理学的に適切な温度、すなわち、35〜42℃で、非経口、特に、静脈内投与について許容可能な形に薬剤を可溶化する作用をする。
【0020】
“水性溶液”は、添加剤なしの水;または、添加剤または賦形剤、例えば、緩衝塩類、等張調節のための塩類、抗酸化剤、保存剤、薬剤安定剤等を含有する水溶液を包含する。
“薬剤溶液”、“可溶化された薬剤”および“溶解された薬剤”およびその他の全ての同様な用語は、ポリマー溶液中の薬剤を意味し、薬剤は、可溶化され、多くの場合、静脈内ルートによる投与を含め、投与に適切な温度で易流動性である。可溶化された薬剤および薬剤溶液は、本発明の両親媒性トリブロックコポリマー類、水および薬剤を含むあらゆる形の易流動性組成物を含む。薬剤の溶解および溶解性を高めると、薬剤の投与にておよび付随して薬剤の治療効果を高める利点を導く。
【0021】
“非経口”とは、消化管を介する以外の手段、例えば、筋肉内、腹腔内(intraperitoneal)、腹腔内(intra-abdominal)、皮下、くも膜下、ろく膜内、静脈内および動脈内の手段による投与を意味する。
【0022】
“静脈内”とは、静脈への投与を意味する。
“生分解性”とは、ブロックコポリマーが体内で化学的または酵素により破壊または分解されて、非毒性の成分を形成することを意味する。分解の速度は、薬剤放出の速度と同一または異なってもよい。
【0023】
“薬剤”とは、生物活性を有し、かつ、治療目的に適合するかまたは使用されるいずれの有機または無機化合物または物質をも意味する。
“疎水性の薬剤”とは、水への溶解度100mg/mL未満を有するいずれの薬学的にも有益な作用物質を意味する。
【0024】
“ペプチド”、“ポリペプチド”、“オリゴペプチド”および“蛋白質”は、ペプチドまたは蛋白質薬剤を称する時、互換的に使用され、特に断らない限り、いずれの具体的な分子量、ペプチド連鎖または長さ、生物活性または治療学的使用の領域にも限定されない。
【0025】
“PLGA”とは、乳酸とグリコール酸との縮合共重合からまたはラクトドとグリコリドとの開環重合により誘導されるコポリマーを意味する。乳酸およびラクテートという用語は、互換的に使用され;グリコール酸およびグリコレートも、また、互換的に使用される。
【0026】
“PLA”は、乳酸の重合からまたはラクチドの開環重合によって誘導されるポリマーを意味する。
“生分解性ポリエステル類”は、生分解性のポリエステル類を称し、これらは、好ましくは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸;および、それらのコポリマー類からなる群より選択されるモノマー類から合成される。
【0027】
本発明は、ABAタイプまたはBABタイプのブロックコポリマーの発見に基づき、ここで、Aブロックは、生分解性ポリエステルを含む比較的疎水性のポリマーブロックであり、Bブロックは、ポリエチレングリコール(PEG)を含む比較的親水性のポリマーブロックである。ブロックコポリマーは、疎水性含量約50.1〜65重量%と;総ブロックコポリマー重量平均分子量約1500〜3099とを有し、これは、水溶性であり、薬剤、好ましくは、疎水性薬剤の水への溶解度を高めることができ、薬剤溶液を形成する。薬剤が水性環境にてコポリマーによって可溶化される組成物を含むことも、なお、薬剤の所望される投与量がこの高められた溶解性の状態さえも上回り、薬剤の最終的な配合物が懸濁液または分散液の目視外観を有し、合計薬剤負荷の一部が溶解され、合計薬剤負荷の一部が懸濁または分散されるのを含むのも本発明の範囲内である。ブロックコポリマー中のこのような高い疎水性含量では、このようなブロックコポリマーが水溶性であるとは予想されない。本発明のコポリマーが疎水性薬剤の水溶性を有意に増加させうることは、また、予想だにしえなかった発見でもある。したがって、本発明の生分解性トリブロックコポリマー類は、薬剤供給のための可溶化剤として使用することができ、疎水性薬剤、特に、投与する時、疎水性生分解性ポリマーブロックが、インビボでの簡単な加水分解によって非毒性の小さな分子に分解する。薬剤は、ヒトまたはいずれかのその他の温血動物に、本発明の生分解性トリブロックコポリマー類との水性溶液として、はるかにより効率的に供給することができ、かくして、均一かつ正確な投与量の投与を促進し、これは、ついで、多くの場合、薬剤の治療効果を高めることができる。
【0028】
本発明の基礎は、疎水性Aブロックセグメントと親水性Bブロックセグメントとを有するブロックコポリマーの利用である。概して、ブロックコポリマーは、ABAタイプまたはBABタイプのトリブロックコポリマーであろう。しかし、ブロックコポリマーは、また、繰り返しBAまたはAB単位を有して、A(BA)nコポリマー類(式中、nは、2〜5の整数である)を生成するマルチブロックコポリマーであってもよい。
【0029】
ABAタイプおよびBABタイプのトリブロックコポリマー類の両方とも、U.S.特許6,004,573および6,117,949に開示されている反応スキームに従い、開環重合または縮合重合によって合成することができ、これらの特許は、参考とすることによって本明細書に完全に組み込む。
【0030】
本発明にて開示する有用性を有するPEGおよびPLGAを含むブロックコポリマー類のサブセットは、表1にて要約した判定基準に合致し、すなわち、水に暴露する時に、所望される溶解を示すブロックコポリマーを生ずる示した範囲内の組成物構成を有する。分子量パラメータを開示する目的に対し、全ての報告する分子量の値は、1H-NMRまたはGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析技術による測定値に基づく。報告する重量平均分子量および数平均分子量は、それぞれ、GPCおよび1H-NMRによって決定した。報告するラクチド/グリコリドの比は、1H-NMRデータから計算した。GPC分析は、RI検出および溶離液としてクロロホルムを使用して、PEG標準で検量されたStyragel HR-3カラムまたはPhenogelの組み合わせで行った。1H-NMRスペクトルは、Bruker 200 MHz機器で、CDCl3にて測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
生分解性の疎水性Aポリマーブロックは、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ε-ヒドロキシヘキサン酸、γ-ブチロラクトン、γ-ヒドロキシ酪酸、δ-バレロラクトン、δ-ヒドロキシバレリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸;および、それらのコポリマー類からなる群より選択されるモノマー類から合成されるポリエステルを含む。親水性Bブロックセグメントは、好ましくは、重量平均分子量約600〜1500を有するポリエチレングリコール(PEG)である。
【0033】
ABAタイプおよびBABタイプのトリブロックコポリマー類の両方とも、開環重合または縮合重合によって合成することができる。例えば、Bブロックは、エステルまたはウレタン結合等によってAブロックにカップリングすることができる。縮合重合および開環重合法は、カップリング剤、例えば、イソシアネート類の存在で、二官能性疎水性Aブロックのいずれかの末端への一官能性親水性Bブロックのカップリングのようにして利用することができる。さらに、カップリング反応は、賦活剤、例えば、カルボニルジイミダゾール、無水コハク酸、N-ヒドロキシスクシンイミドおよびp-ニトロフェニルクロロホルメート等による官能基の活性化に従う。
【0034】
親水性Bブロックは、適当な分子量を有するPEGまたは誘導されたPEGから形成される。PEGは、そのユニークな生体適合性、非毒性、親水性、可溶化特性;および、患者の体からの迅速なクリアランスゆえに、親水性水溶性ブロックとして選択した。
【0035】
疎水性Aブロックは、それらの生分解性、生体適合性および可溶化特性ゆえに利用される。これら疎水性生分解性ポリエステルAブロックのインビトロおよびインビボ分解は、十分に理解されており、分解生成物は、容易に代謝されるかおよび/または患者の体から除かれる。
【0036】
驚くべきことに、疎水性ポリエステルAブロックの合計重量パーセンテージは、親水性のPEG Bブロックのそれと比較して、高く、例えば、約50.1〜65重量%であり、なお、生ずるトリブロックコポリマーは、その望ましい水溶性を保持する。このような大きい比率の疎水性成分を含むブロックコポリマーが、水溶性であるのみならず、また、疎水性薬剤の水溶性を大きく高めることは、予想しえなかった発見である。この望ましい溶解性の特性は、全トリブロックコポリマーの総重量平均分子量を約1500〜3099に維持することによって可能となると考えられる。かくして、薬剤、特に、疎水性薬剤の水溶性を高めうる水溶性生分解性のブロックコポリマーは、親水性Bブロックがコポリマーの約35〜49.9重量%を構成し、疎水性のAブロックは、コポリマーの約50.1〜65重量%を構成する。
【0037】
ブロックコポリマーが溶解性であり、薬剤の水溶性を高めうる水性溶液、すなわち、“ポリマー溶液”の濃度は、有効な濃度と考えることができる。一般的に言うと、1%ほどの低さから約50重量%までのブロックコポリマー濃度を有するポリマー溶液は、使用することができ、なお、有効である。しかし、約5〜40重量%の範囲のブロックコポリマー濃度を有するポリマー溶液が好ましく、約10〜30重量%の範囲の濃度が最も好ましい。
【0038】
本発明のブロックコポリマー類によって可溶化または分散されうる薬剤は、いずれの生物活性物質であってもよく;特に、水性または親水性環境にて溶解性または分散性が限定される生物活性物質;または、溶解性または分散性を高める必要のあるいずれかの生物活性物質であってもよい。本発明の範囲を限定するものではないが、適した薬剤としては、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics 9thEditionと題する書籍またはThe Merck Index 12th Editionと題する書籍に示された薬剤が挙げられ、両書籍とも、以下のカテゴリーの薬剤を含め、数多くのタイプの治療用途に適した薬剤を列挙している:接合および神経-効果接合部にて作用する薬剤;中枢神経系に作用する薬剤;炎症性応答に影響を及ぼす薬剤;体液の組成に影響を及ぼす薬剤;直腸の機能および電解質代謝に影響を及ぼす薬剤;心臓血管薬;胃腸管機能に影響を及ぼす薬剤;子宮運動性に影響を及ぼす薬剤;寄生虫感染に対する化学療法剤;微生物疾患に対する化学療法剤;抗腫瘍剤;免疫抑制剤;血液および血液形成器官に影響を及ぼす薬剤;ホルモン類およびホルモンアンタゴニスト;皮膚作用剤;重金属アンタゴニスト;ビタミン類および栄養剤;ワクチン類;オリゴヌクレオチドおよび遺伝子治療剤。本発明にて使用するのに適した薬剤の例としては、テストステロン、テストステロンエナンテート、テストステロンシピオネート、メチルテストステロン、アンフォテリシンB、ニフェジピン、グリセオフルビン、パクリタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、インドメタシン、イブプロフェンおよびシクロスポリンAが挙げられる。
【0039】
上記カテゴリーの1つ以上の薬剤に本発明のブロックコポリマー類を組み込むかまたは可溶化しての水性溶液の形成は、薬剤を水性コポリマー混合物に単に加えるか、または、薬剤に生のままのコポリマーを混合し、その後、それを水と合わせて、溶液を形成することにより実現する。
【0040】
生分解性コポリマー類およびペプチド/蛋白質薬剤および/またはその他のタイプの薬剤の混合物は、水性薬剤供給液として調製することができる。この水性薬剤供給液は、ついで、非経口、好ましくは、静脈内に投与される。このような配合物は、また、その他の投与手段、例えば、患者への、眼内、膣内、経尿道、直腸、鼻、経口(oral)、経口(peroral)、頬、肺または動脈内投与により、例えば、局所、経皮、経粘膜、吸入または腔内へのインサーションにもまた適している。換言すれば、非経口、例えば、静脈内投与に適した溶液は、また、いずれかのその他の機能性手段によって投与することができる。しかし、その他の手段による供給に適した配合物全てが静脈内供給されうるものではない。あるいは、多くの水性溶液は、i.v.バッグまたはその他の手段にてさらに希釈して、患者に投与することができ、薬剤は、長期間沈殿することがない。この系は、物質の生体適合性により、最小の毒性および最小の機械的な刺激を取り囲む組織に生じさせ、Aブロックは、個々の時間間隔内に、加水分解または生物分解されて、対応するモノマー類、例えば、乳酸、グリール酸となるであろう。
【0041】
本発明の組成物の別個の利点は、ブロックコポリマーの多くの薬剤物質の溶解性を高める能力にある。疎水性Aブロックと親水性Bブロックとの組み合わせは、ブロックコポリマーを両親媒性とする。これは、疎水性または水溶性の乏しい薬剤、例えば、シクロスポリンAおよびパクリタキセルの可溶化に、特に有益である。驚くべきことは、ブロックコポリマーの大半の成分が疎水性Aブロック含量であるので、全てとなるまではいかないが、大部分の薬剤の薬剤可溶化の程度である。しかし、既に考察したように、疎水性ポリマーブロックが主成分であってさえ、ブロックコポリマーは、水溶性であり、ブロックコポリマーの存在で、薬剤溶解性の増加が存在することが見出された。
【0042】
本発明の組成物のもう1つの利点は、多くの薬剤物質の化学的な安定性を増加するブロックコポリマーの能力にある。薬剤の分解についての種々の機構は、薬剤の化学的不安定性を導き、薬剤がブロックコポリマーの存在中にある時、抑制されることが観測された。例えば、パクリタキセルおよびシクロスポリンAは、本発明の水性ポリマー組成物にて、有機補助溶剤の存在におけるこれらと同薬剤のある種の水性溶液と比較して、実質的に安定化される。パクリタキセルおよびシクロスポリンAに及ぼすこの安定化効果は、しかし、多くのその他の薬剤物質により達成されうる効果の例である。
【0043】
本発明の生分解性トリブロックコポリマー類は、薬剤についての、特に、疎水性薬剤についての可溶化剤として作用する。1つの可能な構成にて、溶解させた薬剤を含有するブロックコポリマーの溶液を含む剤形が体に投与される。薬剤/トリブロックコポリマー溶液は、長期間の貯蔵のために凍結乾燥することができ、凍結乾燥した生分解性高分子薬剤組成物は、水またはもう1つの優れた水性液体を使用することによって、その本来の溶液に戻すことができる。
【0044】
いかに大量の薬剤を本発明の生分解性および水溶性トリブロックコポリマーに溶解させうるかの唯一の制限は、官能価のみであり、すなわち、薬剤:コポリマーの比が薬剤が沈殿するまで、もしくは、水を加える時、沈殿するまで、または、コポリマーの特性が許容不能な程度まで悪影響を及ぼすまで、あるいは、系の特性が系の投与を許容不能に困難とするような程度悪影響を及ぼすまで増加させうることができる。一般的に言えば、溶解が所望される大部分の例にて、薬剤は、約10-6〜約100重量%のコポリマーを構成し、約0.001重量%〜25重量%の範囲が最も一般的であると予想される。例えば、100重量%のコポリマーにて存在する薬剤とは、薬剤およびコポリマーが等しい量(すなわち、等しい重量)存在することを意味する。一般的に言えば、薬剤分散液が所望される大部分の例にて、薬剤:コポリマー比の上方範囲は、溶解について上記した範囲を実質的に上回ることができる。薬剤負荷のこれらの範囲は、例であり、本発明にて利用することのできる大部分の薬剤を包含するであろう。しかし、このような範囲は、本発明を、有効および効率的であるこの範囲外の薬剤負荷に限定するものではない。
【0045】
本発明は、かくして、薬剤、好ましくは、疎水性薬剤について生分解性の高分子可溶化剤を提供する。本発明の生分解性高分子可溶化剤で形成される薬剤溶液は、所望される物理的安定性、治療効能および毒性を立証している。
【0046】
本発明の好ましい実施態様を例示するために、50.1〜65重量%の疎水性Aブロック(生分解性ポリエステル類)と;35〜49.9重量%の親水性Bブロック(ポリエチレングリコール“PEG”)とからなる種々の低分子量ABAタイプまたはBABタイプのブロックコポリマー類の合成を完了させた。目的は、重量平均分子量約1500〜3099を有するABAまたはBABトリブロックコポリマー類を製造することであった。各Aブロックが、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリドまたはグリコール酸からなる群より選択されるモノマー類から合成される生分解性のポリエステルからなる場合、Aブロックの組成は、約20〜100モル%ラクテートと;0〜80モル%グリコレートである。
【0047】
以下は、本発明の好ましい実施態様を示す実施例であるが、単に典型的な例であることを意図するものである。
【実施例】
【0048】
実施例
実施例1
開環共重合によるABAタイプのトリブロックコポリマーPLGA-PEG-PLGAの合成
PEG(Mw=1000;100g)を減圧(1mmHg)下100℃で5時間乾燥させた。D,L-ラクチド(86.72グラム)とグリコリド(23.28グラム)とをフラスコに加え、130℃まで加熱すると、均質な溶液を与えた。40mgの錫(II)オクトエートを反応混合物に添加することによって、重合を開始した。反応物を155℃に50時間維持した後、反応を停止させ、フラスコを室温まで冷却した。未反応のラクチドおよびグリコリドを130℃で2時間減圧蒸留することによって除去した。未精製のコポリマー残渣は、高粘度の液体であった。それを水に溶解させることによって、コポリマーを2回精製すると、25%溶液を与え、その溶液を室温で一晩攪拌し、続いて、溶液温度を70℃まで上昇させると、ポリマーを沈殿した。上澄み液をフラスコからデカンテーションした。残りの水を凍結乾燥によって、除去した。生ずるPLGA-PEG-PLGAコポリマーは、GPCにより測定して、重量平均分子量(Mw)2324を有した。GPCは、2つのPhenogelカラム(300×7.8)上、500Å、直列に連結した混合床で行った。移動相は、テトラヒドロフランであった。PEG標準で検量した。検出は、屈折率によった。また、生ずるコポリマーは、水性液体と混合する時、ポリマー溶液を形成し、50℃までの温度にて易流動性の液体として残った。
【0049】
実施例2
実施例1にて概説した基本的な処理法に従い、PEG(Mw=600,1000または1450)を種々のラクチドおよび/またはグリコリド含量とともに使用して、他のトリブロックコポリマー類を合成した。これらトリブロックコポリマー類の特性は、以下の表に列挙する:
【0050】
【表2】

【0051】
上記表に列挙したブロックコポリマー類は、全て、薬剤、特に、疎水性薬剤の溶解性を高める特性を有することを強調する。したがって、PLGA-PEG-PLGAおよびPLA-PEG-PLAトリブロックコポリマーの両方とも、調製し、その結果は、本実施例にてまとめて示す。コポリマー類は、水性液体と混合する時、ポリマー溶液を形成し、易流動性の液体として残った。
【0052】
実施例3
実施例1のABAトリブロックコポリマーの水性溶液の溶解性を高める特性を本実施例にて示す。23重量%のコポリマーを含有するポリマー溶液を水にて調製し、その溶液にパクリタキセルを加え、混合物をほぼ20分間攪拌した。ついで、0.2μmのフィルターを介して、混合物を濾過すると、透明な溶液を与え、これをパクリタキセル含量、したがって、水溶性について分析した。パクリタキセルの水溶性は、純水中ほぼ5μg/mlからトリブロックコポリマーの23重量%水性溶液中25mg/mlより大まで高められた。パクリタキセルの溶解性は、少なくとも5000倍だけ増加した。ABAトリブロック共重合組成物は、水性液体と混合する時、パクリタキセルを含有するポリマー溶液を形成し、易流動性の液体として残った。
【0053】
実施例4
シクロスポリンAは、水に非常に不溶性(溶解度は、純水中ほぼ4μg/mlである)であるもう1つの疎水性薬剤である。かくして、実施例1に記載した方法によって製造したポリマー600mgとシクロスポリンA(4mg)とを2mlの水とともに混合すると、透明な溶液を与え、未溶解の粒子は、存在しなかった。シクロスポリンAの水溶性にて少なくとも400倍の増加があった。ABAトリブロック共重合組成物は、水性液体と混合する時、シクロスポリンAを含有するポリマー溶液を形成し、易流動性の液体として残った。
【0054】
実施例5
本実施例は、疎水性薬剤ニフェジピンおよびグリセオフルビンに及ぼす本発明のトリブロックコポリマー類の溶解性を高める効果を示す。ニフェドリンおよびグリセオフルビンの水溶性は、それぞれ、6μg/mLおよび10μg/mLであった。
【0055】
実施例2のトリブロックコポリマー類を使用した。生のポリマーと薬剤とを混合し、緩やかに(ca.50℃)加熱して、薬剤を完全に溶解させた。水を混合物に加えると、トリブロックコポリマー類の23重量%水性溶液を与えた。溶液を30分間放置してから、(0.2μm気孔サイズフィルターで)濾過した。ニフェドリンおよびグリセオフルビンの本発明の種々のトリブロックコポリマー溶液への溶解性は、以下の表に示すように測定された:
【0056】
【表3】

【0057】
結果は、本発明の種々のトリブロックコポリマー類がグリセオフルビンとニフェドリンとの溶解性を、それぞれ、ほぼ100倍および1000倍に増加させることを示す。トリブロック共重合組成物は、水性溶液と混合する時、ニフェドリンまたはブリセオフルビンを含有するポリマー溶液を形成し、易流動性の液体として残った。
【0058】
実施例6
本実施例は、疎水性薬剤アンフォテリシンBについて本発明のトリブロックコポリマー類の溶解性を高める効果を示す。
【0059】
実施例2のトリブロックコポリマー(エントリー番号2)を使用した。薬剤は、(水中23重量%のコポリマーの)コポリマー溶液と混合した。混合物を30分間放置してから濾過した。純水中アンフォトテリシンBの報告する水溶性は、3μg/mLである。本発明の水性トリブロックコポリマー溶液中アンフォトテリシンBの溶解性は、150μg/mLであった。本発明は、アンフォトテリシンBの溶解性を50倍増加させた。共重合された組成物は、水性液体と混合する時、アンフォテリシンBを含有するポリマー溶液を形成し、易流動性液体として残った。
【0060】
実施例7
ヘキシルジイソシアネートを使用し、2つのメトキシ-PEG-PLGAジブロックをカップリングさせることによって、いずれの端のPEG BブロックもMw750を有し、Aブロックが種々のラクチドおよび/またはグリコリド含量を有する組み合わせ分子量約1500を有するBABタイプのトリブロックコポリマー類を合成した。ジブロックは、エステルまたはウレタン結合あるいはエステルおよびウレタン結合の組み合わせを介してカップリングさせることができるけれども、本実施例のコポリマー類は、ウレタン結合を含有した。これらトリブロックコポリマー類の特性は、以下の表に列挙する。
【0061】
【表4】

【0062】
上記表に列挙したPEG-PLGA-PEGトリブロックコポリマー類の全て、すなわち、BABタイプのトリブロックコポリマーは、官能価を高める溶解性を示す。共重合組成物は、水性液体と混合する時、薬剤を含有するポリマー溶液を形成し、易流動性液体として残る。
【0063】
実施例8
本実施例は、疎水性薬剤パクリタキセルについて本発明のトリブロックコポリマー類の水性安定性を高める効果を示す。実施例2のトリブロックコポリマー(エントリー番号2)を使用した。パクリタキセルは、アセトニトリル、アセトニトリル:水(50:50v/v)またはトリブロックコポリマーに溶解させ、40℃で7日間インキュベートした。7日目のパクリタキセル濃度は、トリブロックコポリマー、アセトニトリルおよびアセトニトリル:水(50:50)の溶液について、0日目と比較して、それぞれ、8.5、4および90%減少した。本発明のトリブロックコポリマー類は、水性系のパクリタキセルの安定性を10倍増加させた。
【0064】
【表5】

【0065】
実施例9
本実施例は、実施例3および4のそれぞれから希釈に際して可溶化された疎水性薬剤パクリタキセルおよびシクロスポリンAの沈殿を防止するための本発明のトリブロックコポリマー類の高める効果を示す。実施例2のトリブロックコポリマー(エントリー番号2)を使用した。実施例3および4からのパクリタキセルおよびシクロスポリンA溶液の調製に続き、各溶液の一部を水で、10倍、100倍および1000倍に希釈した。全ての希釈溶液について、薬剤は、24時間より長く溶液中に残り、すなわち、沈殿を示さなかった。
【0066】
上記説明は、当業者であれば、薬剤供給分野における疎水性薬剤の溶解性を高め、生分解性および生体適合性可溶化剤として使用することのできるABAタイプ(例えば、PLGA-PEG-PLGAおよびPLA-PEG-PLA)またはBABタイプ(例えば、PEG-PLGA-PEGおよびPEG-PLA-PEG)トリブロックコポリマー類を製造可能とするであろう。数種の疎水性薬剤の高い溶解性は、本実施例にて、本発明のトリブロックコポリマー類の官能価を示すために実施例にて示すが、これらの説明は、本発明の生分解性ブロックコポリマーによってその溶解性を高めることのできる全ての薬剤について論じ尽くすことを意図するものではない。確かに、治療剤の種々のカテゴリーからの数多くのその他薬剤は、本発明にて所望されるように、トリブロックコポリマー類と水性溶液を形成するのに十分に適している。製造することができ、薬剤の溶解性を高める特性を示す全てのブロックコポリマーを示すわけではない。しかし、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更をなしうることは、当業者であれば、即座に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を親水性環境にて可溶化する能力を改良された生分解性高分子組成物であって、
i) 生分解性のポリエステルを含む生分解性の疎水性Aポリマーブロック50.1〜65重量%と;
ii) ポリエチレングリコール(PEG)を含む親水性Bポリマーブロック35〜49.9重量%と;
を含み、ブロックコポリマーが重量平均分子量1500〜3099ドルトンを有するが;
ただし、前記高分子組成物が、水性ポリマー溶液として形成される時、体温にて易流動性の液体である、生分解性のABAまたはBABコポリマーを含む生分解性高分子組成物。
【請求項2】
さらに、有効量の薬剤を含む、請求項1に記載の生分解性高分子組成物。
【請求項3】
薬剤を親水性環境にて可溶化しうる薬剤供給ビヒクルとしての生分解性ポリマー溶液であって、請求項1に記載の有効な濃度の生分解性高分子組成物と水性溶液とを含み、前記高分子溶液が体温にて易流動性の液体である生分解性高分子溶液。
【請求項4】
請求項3に記載の生分解性ポリマー溶液に可溶化された有効量の薬剤を含む生分解性高分子組成物。
【請求項5】
さらに、賦形剤、添加剤、緩衝剤、浸透圧調節剤、抗酸化剤、保存剤、薬剤安定化剤またはそれらの等価体を含む、請求項2または請求項4に記載の生分解性高分子組成物。
【請求項6】
前記コポリマーの有効な濃度が、約1〜50重量%の前記ポリマー溶液である、請求項3に記載の生分解性高分子溶液。
【請求項7】
薬剤含量が、合計トリブロックコポリマー重量の10-6〜100%である、請求項2または請求項4に記載の生分解性高分子組成物。
【請求項8】
疎水性Aポリマーブロックの生分解性ポリエステルが、D,L-ラクチド、D-ラクチド、L-ラクチド、D,L-乳酸、D-乳酸、L-乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε-カプロラクトン、ε-ヒドロキシヘキサン酸およびそれらのコポリマーからなる群より選択されるモノマー類から合成される、請求項2または4の1項に記載の生分解性高分子組成物。
【請求項9】
A-ブロックが、約20〜100モル%のラクチドまたは乳酸と、約0〜80モル%のグリコリドまたはグリコール酸とを含む、請求項2または4の1項に記載の生分解性高分子組成物。
【請求項10】
薬剤の溶解性を高めるための方法であって、
1)
i) 生分解性ポリエステルを含む生分解性疎水性Aポリマーブロック50.1〜65重量%と;
ii) ポリエチレングリコール(PEG)を含む親水性Bポリマーブロック35〜49.9重量%と;
を含み、ブロックコポリマーが重量平均分子量1500〜3099ドルトンを有する有効な濃度の生分解性ABAまたはBABブロックコポリマーを含む高分子組成物を用意し;
2) 高分子組成物を薬剤と混合し;
3) 薬剤含有高分子組成物を水性溶液と混合して、体温にて易流動性の液体のままである薬剤溶液を得る;
各工程を含む方法。
【請求項11】
薬剤の溶解性を高めるための方法であって、
1)
i) 生分解性のポリエステルを含む生分解性の疎水性Aポリマーブロック50.1〜65重量%と;
ii) ポリエチレングリコール(PEG)を含む親水性Bポリマーブロック35〜49.9重量%と;
を含み、ブロックコポリマーが重量平均分子量1500〜3099ドルトンを有する有効な濃度の生分解性ABAまたはBABブロックコポリマーを含む高分子組成物を用意し;
2) 前記組成物を水性溶液と混合して、体温にて易流動性の液体のままである高分子溶液を形成し;
3) 前記ポリマー溶液を薬剤と混合して、薬剤溶液を形成する;
各工程を含む方法。
【請求項12】
薬剤の溶解性を高めるための方法であって、
1)
i) 生分解性のポリエステルを含む生分解性の疎水性Aポリマーブロック50.1〜65重量%と;
ii) ポリエチレングリコール(PEG)を含む親水性Bポリマーブロック35〜49.9重量%と;
を含み、ブロックコポリマーが重量平均分子量1500〜3099ドルトンを有する有効な濃度の生分解性ABAまたはBABブロックコポリマーを含む高分子組成物を用意し;
2) 薬剤を水性溶液と混合して、薬剤-水性溶液混合物を形成し;
3) 前記ポリマー組成物を前記薬剤-水性溶液混合物と混合して、体温にて易流動性のままである薬剤高分子溶液を形成する;
各工程を含む方法。

【公表番号】特表2007−513970(P2007−513970A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544046(P2006−544046)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/041515
【国際公開番号】WO2005/058279
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(502169973)マクロメド・インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】