説明

薬剤誘発下痢の予測のためのバイオマーカー

本発明は、対象によるある種の遺伝子の遺伝子発現、対象によるDiego血液型の発現または血液学的アッセイの結果に基づいた、下痢の予測のためのバイオマーカーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、インビトロでの組織サンプルの解析的試験、およびより特に薬剤誘発下痢の予測のためのバイオマーカーとしての遺伝子発現プロファイルまたは血液学プロファイルの解析に関する。
【0002】
関連技術
エポチロンB(EPO906)は、現在多くの形態の固形腫瘍に対する単剤両方として試験されている。エポチロンBの機構は、細胞毒のタキサンファミリーと類似している。エポチロンBは、微小管重合の促進に働き、それは細胞周期の有糸分裂の阻止をもたらし、最終的にアポトーシス細胞死に至る。Rothermel J et al., Semin. Oncol. 30(3 Suppl 6): 51-5(June 2003)。エポチロンBのタキサンクラスの抗増殖増殖剤を超える利点は、エポチロンBが薬剤感受性細胞ならびにP−グリコプロテインを過剰発現する多剤耐性細胞に対して等しく細胞毒性であることである。
【0003】
骨髄抑制は今日まで観察されておらず、エポチロンB誘発下痢は、用量を制限する毒性である。Rothermel J et al., Semin. Oncol. 30(3 Suppl 6): 51-5(June 2003)。薬剤誘発下痢はエポチロンBに独特のものではない。下痢は、CPT−11およびパクリタキセルのような細胞周期の阻害を標的とする様々な抗癌剤で報告されている。Trifan OC et al., Cancer Res. 62(20): 5778-84(2002); Mavroudis D et al., Oncology 62(3): 216-22(2002)。
【0004】
個々の患者におけるエポチロンB抗癌治療の安全性および効果を、該患者が薬剤誘発下痢を経験するかを予測することにより、および個々の患者に対して適切な治療をターゲッティングすることにより、増加させる必要性が本分野で存在する。
【0005】
発明の概要
本発明は、処置すべき対象に存在するバイオマーカーの解析に基づいて、薬剤誘発下痢を発症する危険性のある対象を決定する方法を提供する。一つの態様において、本発明は、微小管安定化剤での処置中に下痢を経験する気炎性のある患者の同定のための遺伝子解析の使用を提供する。特定の態様において、該治療は、固形腫瘍の処置のためのエポチロンBの投与を含む。下痢の予測は、処置すべき対象からの遺伝子発現プロファイルの決定を含む。他の態様において、本発明は、これらの患者のための最適処置戦略を決定するための葆法を提供する。本予測は、故に、医師が(1)薬剤の用量を変える、(2)付加的なまたは別の併用投薬を提供する、または(3)その患者にその薬剤を処方しないように選択することのいずれかを行うことを助けることにより、患者に対してより安全な処置レジメンの手段を提供するであろう。
【0006】
本発明はまた、処置すべき対象がDiego血液型を有するか否かの決定に基づいた薬剤誘発下痢を発症する危険性のある対象を決定する方法を提供する。
【0007】
本発明はまた、薬剤摂取前に下痢を予測するための臨床アッセイ、キットおよび試薬を提供する。一つの態様において、キットは、ある遺伝子の遺伝子発現を決定するための試薬を含み、ここで、遺伝子の発現プロファイルが、対象が下痢を経験する危険性のバイオマーカーである。一つの態様において、増加した危険性の指標である遺伝子発現パターンは、インターフェロン調節因子5(IRF5;配列番号1)の遺伝子の正常より高い発現である。一つの態様において、増加した危険性の指標である遺伝子発現パターンは、細胞分裂周期34(CDC34;配列番号2);BCL2/アデノウイルスE1B 19kDa相互作用タンパク質3様(BNIP3L;配列番号3);チューブリン、ベータ(配列番号4);2,3−ビスホスホグリセラートムターゼ(BPGM;配列番号5);アミノレブリネート、デルタ−、シンターゼ2(ALAS2;配列番号6);セレン結合タンパク質1(SELENBP1;配列番号7);および溶質担体ファミリー4、アニオン・エクスチェンジャー、メンバー1(赤血球膜タンパク質バンド3、Diego血液グループ)(SLC4A1;配列番号8)から選択される1種またはそれ以上の遺伝子の正常より低い発現である。本発明はまた、薬剤摂取前もしくは薬剤治療中のいずれかに、患者の薬剤誘発下痢を経験する危険性を同定するための、mRNAまたは血液学(ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベル)の使用、およびこれらの患者のための最適処置戦略を決定するための方法に関する。
【0008】
図面の簡単な記載
図1は、1回用量のエポチロンB後に対象が下痢を経験したか否かに基づく、臨床薬理遺伝学(CPG)同意対象についてのヘマトクリット(HCT)およびレベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全CPG対象、P=0.0013;(B)女性CPG対象、P=0.012;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【0009】
図2は、1回用量のエポチロンB後に対象が下痢を経験したか否かに基づく、CPG同意対象についてのヘモグロビン(HGB)およびレベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全CPG対象、P=0.0015;(B)女性CPG対象、P=0.023;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【0010】
図3は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、エポチロンB処置後の全対象のヘマトクリット(HCT)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全対象、P=0.045;(B)女性対象、P=0.322;(C)男性対象、P=0.040。
【0011】
図4は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、エポチロンB処置後の全対象のヘモグロビン(HGB)を示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全対象、P=0.046;(B)女性対象、P=0.292;(C)男性対象、P=0.042。
【0012】
図5は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、CPG同意対象の基線のヘマトクリット(HCT)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全CPG対象、P=0.0002;(B)女性CPG対象、P=0.003;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【0013】
図6は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、CPG同意対象の基線のヘモグロビン(HGB)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全CPG対象、P<0.0001;(B)女性CPG対象、P=0.0004;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【0014】
図7は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、全対象の基線のヘマトクリット(HCT)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全対象、P=0.079;(B)女性対象、P=0.317;(C)男性対象、P=0.118。
【0015】
図8は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、全対象の基線のヘモグロビン(HGB)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全対象、P=0.072;(B)女性対象、P=0.254;(C)男性対象、P=0.092。
【0016】
好ましい態様の記載
本発明は、患者が薬剤処置中に下痢を経験するか否かを、実際の薬剤摂取前にまたは処置の進行中のいずれかに決定するための方法を有利に提供する。
【0017】
11種の遺伝子群が、その各々の基線サンプルと試験サンプルを比較したとき、発現レベルに統計学的有意差があるとして同定された。加えて、8種の遺伝子群が、下痢を経験していない対象と、いずれかのグレードの下痢を経験した者の間で比較したとき、統計学的有意差があるとして同定された。これらの遺伝子は、エポチロンBを進行した固形腫瘍を有する成人患者に周に1回投与して行われた、第1相、用量設定臨床試験の後に同定された。臨床薬理遺伝学的(CPG)解析は、エポチロンB誘発下痢の発生についてのバイオマーカー候補を同定した。該解析はまたエポチロンB誘発下痢の発生と関係するゲノムベースの因子(例えばmRNA発現プロファイル)を同定した。
【0018】
本明細書で使用する遺伝子発現プロファイルは、上昇または低下した遺伝子発現が、基線遺伝子発現に対して微小管安定化剤の投与後に上昇または低下した(例えば、少なくとも1.5倍の差異)遺伝子発現であるとき下痢の発生の予測である。あるいは、遺伝子発現プロファイルはまた、上昇または低下した遺伝子発現が薬剤誘発下痢を発症した対象と有意に相関するおよび/または遺伝子発現の上昇または低下が無いことが薬剤誘発下痢を発症しない対象と有意に相関するとき、下痢の発生の予測である。
【0019】
本明細書で使用する遺伝子発現パターンは、遺伝子発現(例えば、処置対象由来のサンプルにおいて)が、基線サンプルと比較しての発現レベルの1.5倍の差異(すなわち、高い)を示すとき、“正常より高い”。遺伝子発現パターンは、遺伝子発現(例えば、処置対象由来のサンプルにおいて)が、基線サンプルと比較しての発現レベルの1.5倍の差異(すなわち、低い)を示すとき、“正常より低い”。
【0020】
さらに、下痢を経験しなかった臨床薬理遺伝学的対象は、下痢を経験した臨床薬理遺伝学的対象と比較して、基線およびエポチロンB処置後の両方でヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルが有意に低かった。故に、これらの遺伝子およびマーカーは、基線および薬剤処置の血の両方において、血液における遺伝子発現の追跡による、下痢の予測のための血液におけるバイオマーカーとして有用である。
【0021】
これらの結果は、微小管安定化剤のエポチロンに対する構造類似性または腸における作用形態に基づいて、すべての下痢誘発性微小管安定化剤またはその誘導体の投与後の患者の下痢の余録に合理的に延長できる。Su et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 36(19):2093-2096(1997)およびChou et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:9642-9647(August 1998)参照。微小管安定化剤はパクリタキセル、エポチロン、ディスコデルモライドまたは類似体、またはラウリマリドまたは類似体であり得る。米国特許出願20030114450。エポチロンおよびエポチロン誘導体の中で、米国特許5,969,145、6,583,290および6,605,726;米国特許出願20020028839および20030114450;PCT特許公報WO99/54330、WO99/54319、WO99/54318、WO99/43653、WO99/43320、WO99/42602、WO99/40047、WO99/27890、WO99/07692、WO99/02514、WO99/01124、WO98/25929、WO98/22461、WO98/08849、およびWO97/19086;およびドイツ特許DE4138042に記載のものがある。本発明の好ましい態様において、微小管安定化剤は、ポチロンBまたはその類似体、例えばBMS−247550である。
【0022】
さらに、この結果を、固形腫瘍以外の疾患の処置を受けている患者の下痢の予測に当て嵌められる。本発明の方法は、脊椎動物対象、特に哺乳類対象、より特にヒト対象に適用できる。
【0023】
本発明に記載の遺伝子の遺伝子発現を検出するための方法は、ノーザンブロット、RT−PCT、リアルタイムPCR、プライマー伸長法、RNase保護、RNA発現プロファイリングおよび関連法を含むが、これらに限定されない。本発明に記載の遺伝子によりコードされるタンパク質産物の検出により遺伝子発現を検出する方法は、タンパク質産物を認識する抗体、ウェスタンブロット、免疫蛍光、免疫沈降、ELISAおよび関連法を含むが、これらに限定されない。これらの方法は当業者に既知である。Sambrook J et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Third Edition(Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, 2000)。一つの態様において、遺伝子発現を検出する方法は、遺伝子チップの使用を含む。遺伝子チップの構築および使用は、当分野で既知である。米国特許5,202,231;5,445,934;5,525,464;5,695,940;5,744,305;5,795,716および5,800,992参照。Johnston, M. Curr Biol 8: R171-174(1998); Iyer VR et al., Science 283: 83-87(1999)およびElias P, “New human genome ‘chip’ is revolution in the offing” Los Angeles Daily News(October 3, 2003)もまた参照のこと。
【0024】
エポチロンおよびエポチロン誘導体の合成および使用は、米国特許5,969,145、6,583,290および6,605,726;PCT特許公報WO99/54330、WO99/54319、WO99/54318、WO99/43653、WO99/43320、WO99/42602、WO99/40047、WO99/27890、WO99/07692、WO99/02514、WO99/01124、WO98/25929、WO98/22461、WO98/08849、およびWO97/19086;ドイツ特許DE4138042;およびそれらで引用の科学文献に記載されている。
【0025】
本明細書で使用する対象または患者への薬物または薬剤の投与は、自己投与または他者による投与を含む。
【0026】
エポチロン投与の下痢および他の副作用の診断は、医学の分野の当業者は容易に達成し得る。Rothermel J et al., Semin. Oncol. 30(3 Suppl 6): 51-5(June 2003)。下痢は、オピオイド(例えばコデイン、ジフェノキシレート、ジフェノキシン、およびロぺラミド、次サリチル酸ビスマスおよびオクトレオチドのような抗下痢剤で処置し得る。悪心および嘔吐は、デキサメタゾン、メトクロプラミド、ジフェニルヒドラミン、ロラゼパム、オンダンセトロン、プロクロルペラジン、チエチルペラジンおよびドロナビノールのような制吐剤で処理し得る。
【0027】
化合物の最大耐容量(MTD)は、医学および薬理学分野で既知の方法および材料を使用して、例えば用量漸増試験を介して決定する。1名またはそれ以上の患者を、最初は低用量、典型的にインビトロ細胞培養の実験結果に基づいて治療的であると推測される用量の10%の化合物で処置する。該患者を毒性の発生の決定のために一定期間観察する。毒性は、典型的に下記の症状の1個またはそれ以上の観察として証明される:嘔吐、下痢、末梢神経障害、失調、好中球減少または肝臓酵素の上昇。毒性が観察されなければ、用量を2倍に増加し、該患者を再び毒性の証明について観察する。このサイクルを、用量が毒性の証拠を産生するまで続ける。許容されない毒性の発生の直前の用量をMTDとして取る。エポチロンBのMTDの決定は上記に提供する。
【0028】
定義。本明細書で使用する“医学的状態”は、処置が望まれる1個またはそれ以上の肉体的および/または心理的症状として顕在するすべての状態または疾患を含むが、これらに限定されず、かつ以前にそして新規に同定された疾患および他の障害を含む。
【0029】
本明細書で使用する“臨床応答”は下記のいずれかまたはすべてを意味する:応答、応答なし、および有害な応答(すなわち、副作用)の量的測定。
【0030】
処置に対する臨床応答と遺伝子発現パターンの間の相関を導き出すために、処置を受けている個体の集団(以後“臨床集団”と呼ぶ)により示される臨床応答に対するデータを得る。この臨床データは、既に行われている臨床試験の結果の解析により得てよくおよび/または臨床データは1種またはそれ以上の新規臨床試験の設計および実施により得てよい。
【0031】
本明細書で使用する“臨床試験”なる用語は、特定の処置に対する応答の臨床データを集めるために設計されたすべての研究試験を意味し、第I相、第II相および第III相臨床試験を含むが、これらに限定されない。標準法を使用して患者集団を定義し、対象を登録する。
【0032】
臨床集団に含まれる個体が、目的の医学的状態の存在について等級付けされていることが好ましい。この可能性のある患者の等級分けは、標準的身体検査または1種もしくはそれ以上の臨床検査を用いてよい。あるいは、患者の等級分けは、遺伝子発現パターンと疾患感受性または重症度の間に強い相関があるときの状態について遺伝子発現パターンを使用してよい。
【0033】
目的の治療的処置を、治験集団の各個体に投与し、各個体のその処置に対する応答を、1個またはそれ以上の予め決めた基準を使用して測定する。多くの場合に、治験集団が一定範囲の応答を示し、治験医が種々の応答により構成される応答者のグループ(例えば、低い、中程度、高い)の数を選択するであろうことが意図される。
【0034】
臨床および多型データの両方を得た後、応答と遺伝子型または遺伝子発現パターンの間の相関を作る。相関は、数種の方法で作成できる。
【0035】
これらの結果を、次いで解析して、多型群間の臨床応答における観察される何らかの変動が統計学的有意であるかを決定する。使用し得る統計学的解析法は、L.D. Fisher & G. vanBelle, Biostatistics: A Methodology for the Health Sciences(Wiley-lnterscience, New York, 1993)に記載されている。この解析はまた、遺伝子におけるどの多型部位が表現型の差異に最も著しく関与するかの回帰計算も含み得る。
【0036】
遺伝子発現パターンと臨床応答の間の相関を発見する第二の方法は、誤差最小化最適化アルゴリズム(error-minimizing optimization algorithm)に基づく予測的モデルを使用する。多くの可能性のある最適化アルゴリズムの一つは、遺伝的アルゴリズム(R. Judson, “Genetic Algorithms and Their Uses in Chemistry” in Reviews in Computational Chemistry, Vol. 10, pp. 1-73, K.B. Lipkowitz & D.B. Boyd, eds. (VCH Publishers, New York, 1997)である。疑似アニーリング(Press et al., “Numerical Recipes in C: The Art of Scientific Computing”, Cambridge University Press(Cambridge)1992, Ch. 10)、神経回路網(E. Rich and K. Knight, “Artificial Intelligence”, 2nd Edition(McGraw-Hill, New York, 1991, Ch. 18)、標準勾配下降法(Press et al., supra Ch. 10)、または他の全体的もしくは局所的最適化アプローチ(Judson, supraにおける考察も参照)も使用してよい。
【0037】
相関はまた、臨床データにおける変動のどの程度が、遺伝子における多型部位の異なるサブセットにより説明できるかを決定するために、分散分析(ANOVA)法を使用して解析し得る。ANOVAは、応答の変動が1種またはそれ以上の測定できる特色または変数が原因であるかもしくは相関しているかに関する仮説を試験する(Fisher & vanBelle, supra, Ch. 10)。
【0038】
上記の解析から、遺伝子発現パターンの関数として臨床応答を予測する数学的モデルを当業者は容易に構築し得るであろう。
【0039】
臨床応答と遺伝子の遺伝子型またはハプロタイプ(またはハプロタイプ対)の間の相関の同定は、処置に応答するか応答しない個体、または別法として、低レベルで応答し、故により処置が必要である、すなわち、より高投与量の薬剤を必要とする個体を決定するための診断的方法の設計の基礎となり得る。診断法は下記の数種の形態の一つを取り得る:例えば、直接DNA試験(すなわち、遺伝子発現パターンの)、血清学的試験、または身体測定。唯一の要件は、診断試験結果と、臨床応答に続いて相関する根底の遺伝子型またはハプロタイプの間の良好な相関があることである。好ましい態様において、この診断法は、上記の予測的ハプロタイピング法を使用する。
【0040】
コンピュータは、本発明の方法の実施に関与する統計学的および数学的操作のいずれかまたはすべての道具であり得る。加えて、コンピュータは、ディスプレイ装置上に表示される画像(またはスクリーン)を作るプログラムを実施でき、それにより使用者が、染色体位置、遺伝子構造、および遺伝子ファミリー、遺伝子発現データ、多型データ、遺伝的配列データ、および臨床データ集団データ(例えば、1個またはそれ以上の集団の民族地理学起源、臨床応答、遺伝子発現パターンのデータ)を含む、遺伝子およびそのゲノム変異に関連する大量の情報を見て、解析できる。本明細書に記載の多型データは、関連データベース(例えば、Oracleデータベースの事例または一連のASCIIフラットファイル)の一部として貯蔵し得る。これらの多型データを、コンピュータのハードディスクにまたは、例えばCD−ROMまたはコンピュータにより利用可能な他の1種またはそれ以上の貯蔵デバイスに貯蔵できる。例えば、データをネットワークを介してコンピュータと接続する1種またはそれ以上のデータベース上に貯蔵できる。
【0041】
他の態様において、本発明は、個体における遺伝子発現パターンを決定するための方法、組成物およびキットを提供する。本明細書に記載の個体における遺伝子発現パターンを確立するための方法および組成物は、タンパク質の発現および機能により影響される病因論における多型の研究、薬剤ターゲッティングの効果の研究、タンパク質の発現および機能により影響される疾患に対する個体の感受性の予測、および遺伝子産物をターゲッティングする薬剤に対する個体の応答の予測に有用である。
【0042】
さらに別の態様において、本発明は、遺伝子発現パターンと特色の間の関係を同定する方法を提供する。好ましい態様において、該特色は疾患への感受性、疾患の重症度、疾患の状態または薬剤に対する応答である。このような方法は、遺伝子型と、効果測定、PK測定および副作用測定を含む処置結果の間の関連の可能性が存在する、すべての薬理遺伝学適応のための、診断試験および治療的処置の開発に適用性を有する。
【0043】
本発明はまた、遺伝子について決定した多型データを貯蔵し、表示するためのコンピューターシステムも提供する。該コンピューターシステムは、コンピュータープロセッシング・ユニット;ディスプレイ;および遺伝子発現パターンデータを含むデータベースを含む。該遺伝子発現パターンデータは、基準集団における遺伝子発現パターンを含み得る。好ましい態様において、コンピューターシステムは、その進化論的関係に従って組織化した遺伝子発現パターンを示す画面を作ることができる。
【0044】
本明細書で使用する“相補的”なる用語は、ワトソン・クリックの用語の観点から、オリゴヌクレオチドの全長にわたる完全な相補性を意味する。
【0045】
本明細書で使用する“発現”は下記の1種以上を含むが、これらに限定されない:遺伝子の前駆体mRNAへの転写;成熟mRNAを産生するための前駆体mRNAのスプライシングおよび他の処理;mRNA安定性;成熟mRNAのタンパク質への翻訳(コドン使用およびtRNA利用能を含む);および適当な発現および機能に必要であるとき、翻訳産物のグリコシル化および/または他の修飾。
【0046】
本発明の実施に際して、分子生物学、微生物学および組み換えDNAの多くの慣用法を使用する。これらの方法は既知であり、例えば、“Current Protocols in Molecular Biology”, Vols. I-III, Ausubel, Ed. (1997); Sambrook et al., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY(1989); “DNA Cloning: A Practical Approach”, Vols. I and II, Glover, Ed. (1985); “Oligonucleotide Synthesis”, Gait, Ed. (1984); “Nucleic Acid Hybridization”, Hames & Higgins, Eds. (1985); “Transcription and Translation”, Hames & Higgins, Eds. (1984); “Animal Cell Culture”, Freshney, Ed. (1986); “Immobilized Cells and Enzymes”, IRL Press(1986); Perbal, “A Practical Guide to Molecular Cloning”; the series, Methods in Enzymol., Academic Press, Inc. (1984); “Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”, Miller and Calos, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory, NY(1987); およびMethods in Enzymology, Vols. 154 and 155, Wu & Grossman, and Wu, Eds.に各々説明されている。
【0047】
このような異なる対照群で決定した遺伝子発現産物の標準対照レベルを、次いで、ある患者の測定した遺伝子発現産物と比較するであろう。この遺伝子発現産物は、特定の遺伝子型群またはその遺伝子型群のポリペプチド遺伝子発現産物と関連する特徴的mRNAであろう。該患者を、次いで該患者を次いで、測定したレベルがどの程度ある群の対照レベルと比較して似ているかに基づいて、特定の遺伝子型群に分類してよい。
【0048】
当業者には理解される通り、この決定をなす際に一定の不確実さが存在するであろう。従って、対照群レベルの標準偏差を使用して、確率的な決定をなし、本発明の方法は遺伝子型群決定に基づく広範囲の確率にわたり適応される。故に、例示であって限定するものではないが、一つの態様において、遺伝子発現産物の測定したレベルが対照群レベルのいずれかの2.5標準偏差に入るとき、それらの個体をその遺伝子型群に割り振り得る。他の態様において、遺伝子発現産物の測定したレベルが対照群レベルのいずれかの2.0標準偏差以内に入るとき、その個体をその遺伝子型群に割り振り得る。さらにまた別の態様において、遺伝子発現産物の測定したレベルが対照群レベルのいずれかの1.5標準偏差以内に入るとき、その個体をその遺伝子型群に割り振り得る。さらに別の態様において、遺伝子発現産物の測定したレベルが対照群レベルのいずれかの1.0またはそれ未満の標準偏差に入るとき、その個体をその遺伝子型群に割り振り得る。
【0049】
故に本方法は、種々の程度の確率で、特定の患者がどの群に入るべきかの決定を可能にし、そしてこのような遺伝子型群への割り振りが次いで個体が置かれるべき危険性範疇の決定をするであろう。
【0050】
mRNAレベルおよびポリペプチド遺伝子発現産物のレベルを測定する方法は当分野で既知であり、質量分析計および/または抗体検出および定量法を含む、ヌクレオチドマイクロアレイおよびポリペプチド検出法の使用を含む。またHuman Molecular Genetics, 2nd Edition. Tom Strachan & Andrew, Read(John Wiley and Sons, Inc. Publication, NY, 1999)を参照のこと。
【0051】
本明細書で使用する、“医学的状態”は、処置が望まれる1個またはそれ以上の肉体的および/または心理的症状として顕在するすべての状態または疾患を含むが、これらに限定されず、かつ以前にそして新規に同定された疾患および他の障害を含む。
【0052】
本明細書で使用する“臨床応答”は下記のいずれかまたはすべてを意味する:応答、応答なし、および有害な応答(すなわち、副作用)の量的測定。
【0053】
本明細書で使用する“対立遺伝子”なる用語は、特異的染色体位置(座位)での遺伝子またはDNA配列の特定の形態である。
【0054】
本明細書で使用する、“遺伝子型”なる用語は、個体における相同染色体の対上の座位における1箇所またはそれ以上の多型部位で見られる位相化されていない(unphased)ヌクレオチド対の5'から3'配列であるべきである。本明細書で使用する、遺伝子型は完全遺伝子型(full-genotype)および/またはサブ遺伝子型(sub-genotype)を含む。
【0055】
本明細書で使用する“ポリヌクレオチド”なる用語は、非修飾または修飾RNAまたはDNAであり得る、すべてのRNAまたはDNAを意味すべきである。ポリヌクレオチドは、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖と二本差領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、および一本鎖と二本差領域の混合物であるRNA、一本鎖または、より典型的に、二本鎖または一本鎖および二本鎖領域の混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を含むが、これらに限定されない。加えて、ポリヌクレオチドは、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域を言及する。ポリヌクレオチドはまた1個またはそれ以上の修飾塩基を含むDNAまたはRNAならびに安定性もしくは他の理由のために修飾された主鎖を有するDNAまたはRNAも含む。
【0056】
本明細書で使用する“一ヌクレオチド多型(SNP)”なる用語は、集団内のゲノムにおける一ヌクレオチド一でのヌクレオチド変化を意味すべきである。SNPは遺伝子内またはゲノムの遺伝子間領域内で起こり得る。
【0057】
本明細書で使用する“遺伝子”なる用語は、プロモーター、エクソン、イントロン、および発現を制御する他の制御領域を含む、RNA産物の生合成の制御のための情報をすべて含むDNAのセグメントを意味するべきである。
【0058】
本明細書で使用する“ポリペプチド”なる用語は、互いにペプチド結合または修飾ペプチド結合ポリペプチド、すなわち、ペプチドアイソスターで連結された2個またはそれ以上のアミノ酸を含むすべてのペプチドを意味すべきである。ポリペプチドは、一般にペプチド、グリコペプチドまたはオリゴマーと呼ばれる短鎖および一般にタンパク質と呼ばれる長鎖の両方を言及する。ポリペプチドは、20種の遺伝子がコードするアミノ酸以外のアミノ酸を含み得る。ポリペプチドは、翻訳後処理のような自然の工程により、または当分野で既知の化学修飾法により修飾されたアミノ酸配列を含む。このような修飾は基本的テキスト、より詳細なモノグラフならびに多数の研究文献に十分記載されている。
【0059】
本明細書で使用する“多型部位”なる用語は、少なくとも2種の別の配列が集団内で発見される座位中の位置を有し、その最も頻繁なものは99%を超えない頻度を有する。
【0060】
本明細書で使用する“ヌクレオチド対”なる用語は、個体由来の染色体の2コピー上の多型部位に見られるヌクレオチドを意味すべきである。
【0061】
本明細書で使用する“位相”なる用語は、座位中の2個またはそれ以上の多型部位についてヌクレオチド対の配列を適用したとき、該座位の1コピー上のこのような多型部位に存在するヌクレオチドの組み合わせが既知であることを意味する。
【0062】
本明細書で使用する“臨床試験”なる用語は、特定の処置に対する応答の臨床データを集めるために設計されたすべての研究試験を意味し、第I相、第II相および第III相臨床試験を含むが、これらに限定されない。標準法を使用して患者集団を定義し、対象を登録する。
【0063】
本明細書で使用する“座位”なる用語は、遺伝子または身体的もしくは表現型特性に対応する染色体またはDNA分子の位置を意味する。
【0064】
目的の治療的処置を、治験集団の各個体に投与し、各個体のその処置に対する応答を、1個またはそれ以上の予め決めた基準を使用して測定する。多くの場合に、治験集団が一定範囲の応答を示し、治験医が種々の応答により構成される応答者のグループ(例えば、低い、中程度、高い)の数を選択するであろうことが意図される。加えて、治験集団の各個体の遺伝子を遺伝子型分類および/またはハプロタイプ分類し、これを処置の投与前または後に行い得る。
【0065】
キット。本発明のキットは、書面を容器の上または容器中に含み得る。該書面は、患者が薬剤処置中に下痢を経験するか否かを決定するために、キットに含まれる試薬をどのように使用するかを記載する。数種の態様において、試薬の試薬は本発明の方法に従い得る。一つの態様において、該試薬は、関連遺伝子の遺伝子発現を決定するための遺伝子チップである。他の態様において、該試薬はDiego血液型を決定するための試薬である。さらに別の態様において、該試薬はヘマトクリットまたはヘモグロビンアッセイ、または両方の血液学アッセイに有用である。
【0066】
好ましい態様において、このようなキットはさらにDNAサンプル回収手段を含み得る。
【0067】
本明細書に記載の本発明の方法は、一般に、さらに本発明のキットの使用を含み得ることは理解されよう。一般に、本発明の方法は、エキソビボで行うことができ、このようなエキソビボ法は、本発明により特に考慮される。また、本発明がヒトまたは動物身体上で行ってよい工程を含み得るとき、ヒトまたは動物身体上で実施するものではない工程も含む方法のみが特に本発明で意図される。
【0068】
実施例
心証試験において実施した対象における下痢のmRNA発現プロファイル解析
臨床試験設計。この臨床試験は、最大耐容量を確率するための、コホートあたり3名−6名の患者の参加する標準第I相設計(3+3設計)を使用した、オープンラベル、用量漸増試験であった。末梢全血を、臨床薬理遺伝学的解析に同意した患者から採取した。2種の臨床薬理遺伝学的血液サンプルを計画した:基線および1週目の2日目の24時間目。核となる処置期間は、血液学的および他の毒性により態様されるエポチロンBの投与の1週間の静脈内投与の2回の9週間サイクルから成った。本治験で使用したエポチロンBの用量は、0.3、0.5、0.75、1.1、1.85、2.5、3.0および3.6mg/mであった。
【0069】
サンプル。臨床試験に参加した91名の対象のうち43名が臨床薬理遺伝学的解析に同意した。各対象において、2種の臨床薬理遺伝学的血液サンプルを計画した:基線および1週目の2日目の24時間目。白血球細胞(WBC)ペレットを、治験医が全血液からフィコール−ハイパーク分離し、−80℃に凍結した。mRNAを抽出し、Affymetrix U95A GeneChip(登録商標)プラットホーム上でプロファイルした。
【0070】
mRNA発現プロファイリング解析。Affymetrix MAS5アルゴリズムにより示されたコールされた遺伝子の20%を超えて存在するすべてのアレイを、本明細書で記載の解析の候補とした。Affymetrix、“New statistical algorithms for monitoring gene expression on GeneChip(登録商標)probe arrays.”Affymetrix Technical Notes. (2001)。比較解析の調査基準は下記の通りであった:(1)“基線”範疇に分類されたアレイに対するシグナル値を共に標準化した、(2)調査に使用したすべてのアレイについて“不存在”のAffymetrixコールを有する者のすべてのプローブセットを解析から除外した、および(3)プローブセットが、“基線”シグナル値と比較して、“解析”群で使用した各アレイで1.5倍シグナル変化を有する者の遺伝子を同定した。可能性のある86アレイのうち42が解析に必要な品質規格に適合した。
【0071】
統計学的解析。フィッシャーの直接確率検定を使用して、全治験参加者に対する臨床薬理遺伝学的参加者の人口統計の比較を行った。分散分析(ANOVA)を使用して、mRNA遺伝子発現パターンが処置状態(基線対処置)と関係するか、下痢の経験(下痢なし対下痢)と関係するか、または、特異的血液細胞型レベルが下痢の経験と関係するか否かを決定した。全統計学的解析をSigmaStat 2.03およびSAS 8.02プログラムで行った。
【0072】
臨床薬理遺伝学的試験参加者の人口統計。臨床薬理遺伝学的試験集団は、年齢、人種および性別の点で、臨床試験群の代表であった。臨床薬理遺伝学的試験集団と全治験集団の間の処置群あたりの同意率の差異はわずかに統計学的に有意(p=.0591)であったが、処置群(2.5、3.0および3.6mg/m)のみの比較は統計学的差異を示さず、臨床薬理遺伝学的試験集団が処置の観点で偏っていないことを示した。
【表1】

p=0.6418(パラメトリックANOVA)
p=0.9548(パラメトリックANOVA)
p=0.7387(フィッシャーの直接確率)
p=0.4925(フィッシャーの直接確率)
p=1.0(フィッシャーの直接確率)
p=1.0(フィッシャーの直接確率)
p=0.0591(フィッシャーの直接確率)。1週間目の対象の投与量に基づく、CPG採血に対応。
p=0.4263(フィッシャーの直接確率)。2.5、3.0および3.6mg/m処置群のみの比較。
【0073】
解析に使用した臨床薬理遺伝学的対象。エポチロンBを、対象に5分間にわたる1回静脈相輸液として、20mlの最大用量で、6週間まで毎週でその後3週間のウォッシュアウト期間、または、3週間まで毎週でその後1週間処置なしのいずれかで投与した。2.5mg/m処置を最大耐容量(MTD)と見なした。故に、2.5、3.0および3.6mg/m処置群であり、アレイが品質標準に適合した20名の臨床薬理遺伝学参加者を使用した。この決定の根拠は、発現が2.5mg/m処置により影響を受けている者の遺伝子は3.0および3.6mg/m処置群でさらに顕著であるとの仮定に基づいた。
【0074】
処置群に対する基線対処置mRNAプロファイルの解析。白血球細胞における遺伝子発現が、処置24時間後にエポチロンBにより変わるか否かの決定のために、基線および処置発現プロファイルを行った。すべての処置サンプルを一群に合わせ、基線サンプルのすべてと比較して、統計学的有意差を有する遺伝子は同定されなかった。
【0075】
同様の解析を処置群でも行った。2.5および3.0mg/m処置で統計学的有意差を有する遺伝子は同定されなかった。
【0076】
11個の遺伝子が3.6mg/m処置で同定された。これらの11個の遺伝子の腸での発現を調査した。下記表2および表14参照。これらの遺伝子をジェノタイピングの良い候補として決定した。
【表2】

変化倍率は[処置/基線]として計算した。負の変化倍率は<1.0の指数を反映し、3.6mg/mエポチロンB処置集団での減少を示す。
パラメトリックANOVA
【0077】
3.6mg/m処置を受けた臨床薬理遺伝学的対象についての、基線プロファイルと比較したmRNAプロファイルの解析は、発現において統計学的有意差を有した11遺伝子を確認した。この投与量は最大耐容量よりかなり高く、現在使用されている進行中の第2層試験では使用されていないが、同定されたいくつかの遺伝子はエポチロンBの作用機構と関連する。
【0078】
エポチロンBは細胞周期進行を阻害する。表2に列記した遺伝子のいくつかは、細胞周期依存性機構と関連を有する。例えば、RAP1A(KREV1としても既知;配列番号12)およびJAK1(配列番号14)は、細胞周期進行の刺激を助ける重要なシグナル伝達分子である。Kitayama H et al., Cell 56(1): 77-84(1989); Schindler C & Darnell JE, Jr., Annu. Rev. Biochem. 64: 621-51(1995)。興味深いことに、JAK1はまた造血に関与する。Kirken RA et al., Prog. Growth Factor Res. 5(2): 195-211(1994)。表2に列記の他の遺伝子は、DR1(配列番号13)およびTCFL4(MLXとしても既知;配列番号18)のような転写の下方制御に直接の影響を有する。DR1はTATA結合性タンパク質(TBP)と相誤作用し、これは基底および活性化転写の重要なレギュレーターである。DR1とTBPの相互作用は、TBPが転写機構と関与することを阻害し、それにより転写の基底および活性化レベルの両方を抑制する。Inostroza JA et al., Cell 70(3): 477-89(1992)。他方、TCFL4はMadおよびmSin3−ヒストンデアセチラーゼ複合体との相互作用を介して転写を抑制すると考えられている。Billin AN et al., J. Biol. Chem. 274(51): 36344-50(1999)。故に、この解析で観察された前記遺伝子の変化は、エポチロンB作用の機構に対して生物学的意義を有する。重要なことに、これらの遺伝子のすべてが小腸および結腸で発現される。
【0079】
エポチロンBはアポトーシス機構により細胞死を誘発すると考えられている。重要なことには、この解析で同定された遺伝子の一つがアポトーシスの誘導に直接の影響を有することが示されている。細胞死関連タンパク質キナーゼ(DAPK1)mRNAは、3.6mg/m エポチロンB処置24時間の血液で、その基線レベルと比較して高いレベルの発現であることが示された。DAPK1はインテグリン介在細胞接着およびシグナル伝達を抑制することが示されている。Wang WJ et al., J. Cell Biol. 159(1): 169-79(2002)。重要なことに、細胞外マトリックスへの細胞接着は、主にインテグリンが介在する。Wangおよび同僚は、DAPK1による接着阻害効果が、細胞においてアポトーシスが誘発される主要な機構であることを証明した(Wang, et al 2002)。DAPK1(配列番号11)は正常小腸および正常結腸で発現されるが、低レベルである。故に、これらの細胞におけるDAPK1の上方制御の可能性が、エポチロンBが下痢を誘発する一つの機構であり得る。数種の多型がDAPK1遺伝子で同定されている。故に、DAPK1はジェノタイピングの強い候補である。
【0080】
TM9SF1(配列番号10)は、9個の肝心な膜貫通ドメインを有するG−タンパク質様受容体をコードすると考えられている。Chluba-de Tapia J et al., Gene 197(1-2): 195-204(1997)。重要なことに、TM9SF1遺伝子内の多型が同定されている。故に、TM9SF1はジェノタイピングの候補である。
【0081】
下痢を経験しなかったおよびいずれかのグレードの下痢を経験した臨床薬理遺伝学的対象の間のmRNAプロファイルの解析。下痢を経験しなかった対象と比較して、エポチロンB処置後に下痢を経験した者であるが下痢発生の観察の前に、血液中に遺伝子が異なって発現された。これらの遺伝子を同定するために、臨床薬理遺伝学的対象を下痢状態に基づいて2群に分けた:(1)用量に関係なく、エポチロンB処置に下痢を経験しなかった5名の対象、および(2)用量に関係なく、エポチロンB処置に下痢を経験した15名の対象。グレード3の下痢を経験した対象が3名のみであったため、いずれかのグレードの下痢を経験した全15名の対象を、一緒のグループに分類し、この解析の統計学的力を強めた。
【0082】
臨床薬理遺伝学的対象の下痢の平均発生は、計画された採血の後37±18日であった。故に、本明細書に記載の遺伝子発現の差異は、下痢の発生の十分に前である。
【0083】
白血球細胞のmRNA発現プロファイルは、エポチロンB投与24時間の対象2群の間で統計学的有意差を有する8個の遺伝子を同定した。表3参照。
【表3】

倍率は[下痢/下痢なし]として計算した。負の変化倍率は<1.0の指数を反映し、“下痢なし”集団での減少した発現を示す。
パラメトリックANOVA
ノンパラメトリックANOVA
【0084】
いずれかのグレードの下痢を経験した臨床薬理遺伝学的対象と経験していないものの間のmRNAプロファイルの解析は、統計学的有意差の発現レベルの8個の遺伝子を確認した。臨床薬理遺伝学的対象にとってエポチロンB投与後の最初の下痢発生を経験するまでの平均期間は37日であった;最短6日(グレード1の下痢)および最長304日(グレード1下痢)。故に、この解析で同定された遺伝子発現サインは下痢発生の十分前であり、エポチロンB誘発下痢の後にある機構に幾分光を当て得る。
【0085】
この解析により同定された遺伝子に明らかな統一的テーマはなかった。IRF5(配列番号1に示すmRNA)は、インターフェロンアルファ、RANTES、マクロファージ炎症性タンパク質1−ベータ、単球走化性タンパク質1およびインターロイキン−8のような炎症性遺伝子の転写活性化に関与する転写因子である。Barnes BJ et al., Mol. Cell Biol. 22(16): 5721-40((2002))。ALAS2遺伝子の突然変異(配列番号6に示すmRNA)は、X染色体連鎖鉄芽球性貧血と関連している。Hurford MT et al., Clin. Chim. Acta 321(1-2): 49-53(2002)。セレンは、抗腫瘍形成特性を示すことが示されている。Ip C, Cancer Res. 41(7): 2683-6(1981); Ip C & Sinha D, Carcinogenesis 2(5): 435-8(1981)。
【0086】
驚くべきことに、エポチロンBの標的であるベータ−チューブリンのアイソタイプに対するプローブセット(Hall JL et al., Mol. Cell Biol. 3(5): 854-62(1983))がこの解析で同定された。また驚くべきことには、下痢を経験した対象におけるBNIP3L(配列番号3)が低レベルとの同定であった。BNIP3Lは、プロアポトーシスタンパク質のBCL−2ファミリーのBNIP3ファミリーのメンバーであり、アポトーシスを促進するためにBCL−2およびBCL−xのような抗アポトーシスタンパク質と相互作用する。Yasuda M et al., Cancer Res. 59(3): 533-7(1999)。
【0087】
故に、これらの遺伝子は、基線またはエポチロンB処置後のいずれかに将来の下痢の発生についてのバイオマーカーとして使用できる、血液中の下痢の“遺伝子サイン”を作る。
【0088】
次に、各血液細胞型のレベルを、2群の対象間で比較した。これらの値を採血時に測定しなかったため、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血の値(通常採血24時間後)をこの比較に使用した。表4に示す通り、白血球細胞、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球および血小板の観察された総数に統計学的有意差はなかった。興味深いことに、ヘマトクリット(HCT)およびヘモグロビン(HGB)レベルにおける統計学的有意差が同定された。表4および図1−2参照。
【表4】

平均および標準誤差を示す。全データは正規分布であった。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。絶対的好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球および単球を、それらがすべての対象において測定しなかったため、この解析に使用しなかった。
【0089】
加えて、下痢を経験しなかった臨床薬理遺伝学的対象は、正常の下限より有意に低いヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルを有した(ANOVA;各々P=0.0002および0.001)。女性が男性に比べて一般的にヘマトクリットおよびヘモグロビンが低いため、同様の解析を性別で行った。表5および図1−2に示す通り、ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルにおける同様の傾向が、各性別で同定された。これらの関係が全治験対象集団で存在するか否かを決定するために、サイクル1における基線後の2回目の採血において全患者でヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルを調査した。
【表5】

平均および標準誤差を示す。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。
パラメトリックANOVA
ノンパラメトリックANOVA
サンプルサイズが小さいため、ANOVAは行えなかった。
【0090】
表6および図3−4に示す通り、下痢を経験しなかった対象は、下痢を経験した対象と比較して、有意に低いヘマトクリットおよびヘモグロビンを有した(ANOVA;各々P=0.045および0.046)。
【表6】

平均および標準誤差を示す。全データは正規分布であった。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。
【0091】
しかしながら、対象を性別で比較したとき、男性のみがヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルで統計学的有意差を示した。表7参照。
【表7】

平均および標準誤差を示す。全データは正規分布であった。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。
【0092】
表3に示す遺伝子発現における差異が、エポチロンB処置前の基線で検出されるか否かを決定するために、8個の遺伝子の発現レベルを、同様に基線採血を使用して比較した。表8に示す通り、対象の2群で比較したとき、基線で発現レベルの同様な変化が観察された。しかしながら、“下痢なし”群の1個の基線アレイのみが、観察された品質管理基準のためにこの解析で利用可能であった。
【表8】

1個だけの使用可能なアレイがこの集団で利用可能であった。アレイのシグナル値を示す。
示すシグナル値は、この群の全アレイの平均である。
示すシグナル値は、この群の全アレイの平均である。
示すシグナル値は、これらの全アレイの平均である。
倍率変化は[下痢/下痢なし]として計算した。負の変化倍率は<1.0の指数を反映し、“下痢なし”集団での減少した発現を示す。
【0093】
表9−10および図5−6に示す通り、ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルは基線で同様の差異を示した。注目に値することには、臨床薬理遺伝学的下痢を経験しなかった対象が、正常の下限よりも有意に低いヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルを有した(ANOVA;各々P=0.0014および0.0025)。
【表9】

平均および標準誤差を示す。全データは正規分布であった。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。
【表10】

平均および標準誤差を示す。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。
パラメトリックANOVA
サンプルサイズが小さいため、ANOVAは行えなかった。
【0094】
これらの関係が全治験対象集団について存在するか否かを決定するために、全基線ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルを調査した。下痢を経験しなかった対象といずれかのグレードの下痢を経験した対象の間で、ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルの同様な傾向が見られたが、差は統計学的有意ではなかった。表11参照。さらに、性別でこの比較を行ったとき、統計学的有意差はなかった。表12参照。
【表11】

平均および標準誤差を示す。全データは正規分布であった。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。
【表12】

平均および標準誤差を示す。この表のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。
パラメトリックANOVA
ノンパラメトリックANOVA
【0095】
故に、下痢を経験しなかった臨床薬理遺伝学的対象は、いずれかのグレードの下痢を経験した対象と比較して、基線およびエポチロンB処置後の両方で、ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルが有意に低かった。加えて、下痢を経験しなかった臨床薬理遺伝学的対象は、正常の下限よりも有意に低いヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルを有した。興味深いことに、エポチロンB処置後に、ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルの同様な差異が、全治験対象集団についても観察された。この有意性は、治験に参加した男性対象が牽引しているようである。
【0096】
遺伝子発現レベルを、下痢を経験していない臨床薬理遺伝学的対象およびグレード3の下痢を経験した臨床薬理遺伝学的対象で比較した。表13に示す通り、遺伝子発現の同様な差異が、グレード3を経験した対象で試験したとき観察された。表8および表13と比較のこと。
【表13】

1個だけの使用可能なアレイがこの集団で利用可能であった。アレイのシグナル値を示す。
示すシグナル値は、この群の全アレイの平均である。
示すシグナル値は、この群の全アレイの平均である。
示すシグナル値は、この群の全アレイの平均である。
倍率変化は[下痢/下痢なし]として計算した。負の変化倍率は<1.0の指数を反映し、“下痢なし”集団での減少した発現を示す。
P値<0.05;パラメトリックANOVA
【0097】
しかしながら、グレード3の下痢と全グレードの下痢を比較したとき全体的な変化倍率は類似であったが、3個の遺伝子のみがグレード3の下痢の比較において統計学的有意差を有した:IRF5(477_at)、BPGM(33759_at)およびSELENBP1(37405_at)。これらの結果は、IRF5(配列番号1)、BPGM(配列番号5)およびSELENBP1(配列番号7)が、グレード3の下痢の予測のバイオマーカーの可能性があり得ることを示唆する。
【0098】
腸における表3に列記の遺伝子の発現を調べた。表14に示す通り、CDC34(1274_s_at)、BNIP3L(39439_at)、ベータ・チューブリン(297_g_at)およびSELENBP1(37405_at)は小腸および結腸で発現された。故に、これらの遺伝子のいくつかは、ジェノタイピングの良好な候補であろう。
【表14】

正常ヒト小腸由来のNPGNデータベースにおけるアレイ番号p2368e。
Affymetrix MAS5アルゴリズムに基づく不存在(A)または存在(P)コール。
正常ヒト結腸由来のNPGNデータベースにおけるアレイ番号p2378e。
【0099】
CDC34(配列番号2、BNIP3L(配列番号3)およびSELENBP1(配列番号7)は小腸および結腸で発現され、それらはジェノタイピングの候補となる。
【0100】
我々の興味深い発見は、下痢を経験した対象におけるSLC4A1(配列番号8)の有意に低いレベルであった。SLC4A1は赤血球膜の主要なグリコプロテインをコードし、リン脂質2層を通るクロライドとビカーボネートの交換を介在する。Palumbo AP et al., Am. J. Hum. Genet. 39(3): 307-16(1986)。SLC4A1はまた赤血球バンド3に位置する遺伝子の発現も制御する。Zelinski T, Transfus. Med. Rev. 12(1): 36-45(1998)。多くのSLC4A1突然変異が遺伝的球状赤血球症に至る赤血球膜の脱安定化、および腎臓管アシドーシスに至る不完全腎臓酸分泌と関連している。疾患形態をもたらさないSLC4A1における他の既知の突然変異は、Diego血液グループシステムである。16−メンバーDiego血液グループシステムを構成する2つの主要な抗原は、DiおよびDiである。Diは、通常モンゴロイド血統(中国人、日本人およびアメリカインディアン)の個体において検出されるが、Diは全集団で検出される。Zelinski T, Transfus. Med. Rev. 12(1): 36-45(1998)。重要なことに、臨床薬理遺伝学的下痢を経験した対象は、SLC4A1 mRNAの発現がわずかであるか、なかった。故に、Diego血液グループの発現を欠く対象は、下痢を経験する素因であり得る。Diego血液グループのジェノタイピングのPCRベースのシステムが開発されている。Wu GGet al., Transfusion 42(12): 1553-6(2002)。故に、Diego血液グループマーカーは、薬剤誘発下痢のために基線で可能性のあるバイオマーカーとして使用し得る。
【0101】
要約すると、この解析は、ジェノタイピングに使用し得る一連の遺伝子を同定した。加えて、この試験はまた下痢の予測として可能性のあるバイオマーカーを同定した下痢:(1)表3に示した遺伝子の基線または投与後遺伝子mRNAレベルのスクリーニング、および(2)Diego血液グループに関する対象のスクリーニング。
【0102】
本明細書に引用したすべての文献は、それらの全体をおよびすべての目的で、各々の刊行物または特許もしくは特許出願が具体的にかつ個々にその全体をすべての目的のために引用して包含すると示されたのと同じ程度に、本明細書に引用して包含する。加えて、本明細書に引用したGenBank accession number、Unigene Gluster numberおよびタンパク質受託番号は、それらの全体を、そしてすべての目的で、個々のこのような番号が具体的にかつ個々にその全体をすべての目的のために引用して包含すると示したのと同程度に、本明細書に引用してその全体を包含する。
【0103】
本発明は本発明の個々の局面の一つの説明のみとして意図される、本明細書に記載の特定の態様の範囲に限定すべきではない。当業者には明らかな通り、本発明の多くの修飾および変形が、その精神および範囲から逸脱することなく成し得る。本発明の範囲内の機能的に同等な方法および装置は、ここに名を挙げたものに加えて、前記の記載および添付の図面から、当業者には明らかであろう。このような修飾および変形は、添付の特許請求の範囲の範囲内にある。本発明は、このような特許請求の範囲により与えられるものと同等な完全な範囲と共に、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、1回用量のエポチロンB後に対象が下痢を経験したか否かに基づく、臨床薬理遺伝学(CPG)同意対象についてのヘマトクリット(HCT)およびレベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全CPG対象、P=0.0013;(B)女性CPG対象、P=0.012;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【図2】図2は、1回用量のエポチロンB後に対象が下痢を経験したか否かに基づく、CPG同意対象についてのヘモグロビン(HGB)およびレベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全CPG対象、P=0.0015;(B)女性CPG対象、P=0.023;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【図3】図3は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、エポチロンB処置後の全対象のヘマトクリット(HCT)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全対象、P=0.045;(B)女性対象、P=0.322;(C)男性対象、P=0.040。
【図4】図4は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、エポチロンB処置後の全対象のヘモグロビン(HGB)を示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、最初のエポチロンB処置後の最初の採血に対応する、サイクル1における基線後の2回目の採血であった。(A)全対象、P=0.046;(B)女性対象、P=0.292;(C)男性対象、P=0.042。
【図5】図5は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、CPG同意対象の基線のヘマトクリット(HCT)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全CPG対象、P=0.0002;(B)女性CPG対象、P=0.003;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【図6】図6は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、CPG同意対象の基線のヘモグロビン(HGB)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全CPG対象、P<0.0001;(B)女性CPG対象、P=0.0004;(C)男性CPG対象、サンプルサイズのために、ANOVA解析は行うことができなかった。
【図7】図7は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、全対象の基線のヘマトクリット(HCT)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全対象、P=0.079;(B)女性対象、P=0.317;(C)男性対象、P=0.118。
【図8】図8は、対象が下痢を経験したか否かに基づく、全対象の基線のヘモグロビン(HGB)レベルを示すチャートである。この図のためのデータを作成するために使用した時点は、基線値であった。(A)全対象、P=0.072;(B)女性対象、P=0.254;(C)男性対象、P=0.092。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択した患者集団における薬剤誘発下痢の発生を減少させた、固形腫瘍の処置用薬剤の製造におけるエポチロンBの使用であって、ここで、該患者集団は患者の遺伝子発現プロファイルに基づいて選択され、ここで、該遺伝子発現プロファイルは、エポチロンB投与後の患者において下痢の発生を予測するものである1種またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含むものである、使用。
【請求項2】
微小管安定化剤を投与すべき対象における下痢の発生を予測する方法であって:
(a)対象の遺伝子発現プロファイルを得て、ここで、該遺伝子発現プロファイルは1種またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含み、該1種またはそれ以上の遺伝子の発現パターンは、微小管安定化剤投与後の患者において下痢の発生を予測するものである;
(b)対象が微小管安定化剤の投与に由来する下痢の危険性があるか否かを決定する
工程を含む、方法。
【請求項3】
予測を患者への薬剤の投与前に行う、請求項2記載の方法。
【請求項4】
予測を薬剤治療の進行中に行うものである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
遺伝子発現パターンがインターフェロン調節因子5(IRF5)に関する遺伝子の正常より高い発現である、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
遺伝子発現パターンが、細胞分裂周期34(CDC34);BCL2/アデノウイルスE1B 19kDa相互作用タンパク質3様(BNIP3L);チューブリン、ベータ;2,3−ビスホスホグリセラートムターゼ(BPGM);アミノレブリネート、デルタ−、シンターゼ2(ALAS2);セレン結合タンパク質1(SELENBP1);および溶質担体ファミリー4、アニオン・エクスチェンジャー、メンバー1(赤血球膜タンパク質バンド3、Diego血液グループ)(SLC4A1)から成る群から選択される1種またはそれ以上の遺伝子の正常より低い発現である、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
遺伝子発現パターンが、微小管安定化剤投与前の遺伝子の発現と比較した微小管安定化剤投与後の1種またはそれ以上の遺伝子の上昇した発現であって、該遺伝子がサーフェット2(SURF2);膜貫通型9スーパーファミリーメンバー1(TM9SF1);細胞死関連タンパク質キナーゼ1(DAPK1);RAP1A、RAS癌遺伝子ファミリーのメンバー(RAP1A);転写のダウンレギュレーター1(DR1);ヤヌスキナーゼ1(JAK1);チューブリン、アルファ(K−アルファ−1)および亜鉛フィンガータンパク質36、C3H型、ホモログ(ZFP36)から成る群から選択される、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
遺伝子発現パターンが、微小管安定化剤投与前の遺伝子の発現と比較した微小管安定化剤投与後の1種またはそれ以上の遺伝子の減少した発現であって、該遺伝子が、核転写因子Y、アルファ;転写因子様4(TCFL4)およびマイトージェン−活性化タンパク質キナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ2(MAP4K2)から成る群から選択される、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
微小管安定化剤を投与すべき対象における下痢を予測する方法であって:
(a)該対象がDiego血液型を発現するか否かを決定し;そして
(b)該対象が微小管安定化剤投与後の下痢の危険性があるか否かを決定する
工程を含む、方法。
【請求項10】
微小管安定化剤を投与すべき対象における下痢を予測する方法であって:
(a)該対象が、ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルから成る群から選択される血液学的アッセイで決定して、正常血液学的レベルより低いか否かを決定し;そして
(b)該対象が微小管安定化剤投与後の下痢の危険性があるか否かを決定する
工程を含む、方法。
【請求項11】
(c)(1)薬剤の用量を変える、(2)付加的なまたは別の併用投薬を提供する、または(3)その患者にその薬剤を処方しないように選択する、から成る群から該対象の適切な治療を決定する
工程をさらに含む、請求項2−10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
微小管安定化剤を投与すべき対象における下痢の予測に使用するためのキットであって:
(a)1種またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを検出するための試薬であって、該1種またはそれ以上の遺伝子が下記から成る群から選択される:
(1)インターフェロン調節因子5(IRF5);
(2)細胞分裂周期34(CDC34);BCL2/アデノウイルスE1B 19kDa相互作用タンパク質3様(BNIP3L);チューブリン、ベータ(GenBank Accession Number V00599);2,3−ビスホスホグリセラートムターゼ(BPGM);アミノレブリネート、デルタ−、シンターゼ2(ALAS2);セレン結合タンパク質1(SELENBP1);および溶質担体ファミリー4、アニオン・エクスチェンジャー、メンバー1(赤血球膜タンパク質バンド3、Diego血液グループ)(SLC4A1);
(3)サーフェット2(SURF2);膜貫通型9スーパーファミリーメンバー1(TM9SF1);細胞死関連タンパク質キナーゼ1(DAPK1);RAP1A、RAS癌遺伝子ファミリーのメンバー(RAP1A);転写1のダウンレギュレーター(DR1);ヤヌスキナーゼ1(JAK1);チューブリン、アルファ(K−アルファ−1)および亜鉛フィンガータンパク質36、C3H型、ホモログ(ZFP36);および
(4)核転写因子Y、アルファ(GenBank Accession Number AL031778);転写因子様4(TCFL4)およびマイトージェン−活性化タンパク質キナーゼキナーゼ2(MAP4K2);
(b)試薬のための容器;および
(c)容器上または容器中に対象における微小管安定化剤介在下痢の予測におけるバイオマーカーの使用を記載した書面
を含む、キット。
【請求項13】
試薬が遺伝子チップである、請求項12記載のキット。
【請求項14】
微小管安定化剤を投与すべき対象における下痢の予測に使用するためのキットであって:
(a)Diego血液型を検出するための試薬;
(b)試薬のための容器;および
(c)容器上または容器中に対象における微小管安定化剤介在下痢の予測におけるバイオマーカーとしてのDiego血液型の使用を記載した書面
を含む、キット。
【請求項15】
微小管安定化剤を投与すべき対象における下痢の予測に使用するためのキットであって:
(a)ヘマトクリットおよびヘモグロビンレベルから成る群から選択される血液学的アッセイ用の試薬;
(b)試薬のための容器;および
(c)容器上または容器中に対象における微小管安定化剤介在下痢の予測におけるバイオマーカーとしての血液学的アッセイの結果を記載した書面
を含む、キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−509604(P2007−509604A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530096(P2006−530096)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011122
【国際公開番号】WO2005/039573
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】