説明

薬品類カセット

【課題】箱物など転がり難い薬品類8でも排出部材22の軸回転にて逐次排出する。
【解決手段】傾斜した整列収納空間から薬品類8を逐次排出する薬品類カセット10の排出機構20が、薬品類整列方向と直交する水平な支軸21と、軸回転に伴って間欠的に長径部22bを整列収納空間の中へ下から突き上げる偏心部材22と、先頭薬品類8の偏心部材22上方素通りは阻止するが偏心部材22で押し上げられた薬品類8の乗り越えは許容する排出規制ローラ23とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、病院薬局等における調剤業務を支援するための薬品類カセットに関し、詳しくは、薬品類を整列収納しておき端から順に排出する薬品類カセットに関する。
なお、薬品類は、医薬品の他、補助薬品等も、整列収納可能ならば、該当する。
【背景技術】
【0002】
整列収納薬品類を薬品類排出口に向けて付勢して逐次排出するようになった薬品類カセットや,緩傾斜の滑落面上に薬品類を整列収納して逐次排出するようになった薬品類カセットが、幾種類か開発されて実用に供されている(例えば特許文献1〜5参照)。
具体的には(例えば特許文献1参照)、注射薬アンプルなど軸回転可能な容器に入った薬品類を整列収納する薬品類カセットでは、薬品類を嵌挿しうる切落部の形成された可動蓋を軸回転させて先頭の薬品類を逐次排出するようになっている。
【0003】
また(例えば特許文献2参照)、輸液ボトルのような薬品類の逐次排出に好適な薬品類カセットでは、平板部と曲板部とを連ねた排出部材が、平板部を前記滑落面の延長上に揺動中心を置く状態で、滑落面の落下端近傍に設けられていて、揺動する度に一つずつ薬品類を排出するようになっている。
さらに(例えば特許文献3参照)、駆動源等が滑落面の裏側下方に収まるよう、排出機構を斜板部とカム機構とリンクとで構成し、薬品類排出時には従節を交互に上下動させるようになった薬品類カセットがある。
【0004】
また(例えば特許文献4参照)、整列収納薬品類の前進を安定させる等のために、排出機構を取着部とローラ列設部と停止具と昇降機構とで構成し、作動時には昇降機構でローラ列設部を停止具の上まで上昇させるようになった薬品類カセットがある。
また(例えば特許文献5参照)、滑落面の傾斜増加を許容して滑落面の形成部材を簡素化するとともに簡素かつ小形でも確実に排出動作するよう、排出機構をリンク仕掛けの複数従節で構成して、薬品類排出時には従節を交互に上下動させることにより、排出機構を強化した薬品類カセットもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−125013号公報
【特許文献2】特開2006−288573号公報
【特許文献3】特開2007−007099号公報
【特許文献4】特開2007−020897号公報
【特許文献5】特開2008−119069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の薬品類カセットでは、可動蓋を軸回転させて嵌挿中の先頭薬品類を逐次排出する方式は排出機構が簡素であるが収納排出対象の薬品類がアンプル等の所謂丸物に限られていた。これに対し、箱物など転がり難い薬品類の逐次排出には、揺動式や上下動式の排出機構が採用されていた。
しかしながら、揺動式や上下動式の排出機構には、部品点数が多くてコストダウンが難しいことや、円滑な排出動作を確実に行わせる調整に手間が掛かることなど、十分には解決されていない不満もある。
そこで、排出機構を更に工夫することにより、箱物など転がり難い薬品類でも排出部材の軸回転にて逐次排出しうる薬品類カセットを実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の薬品類カセットは(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、排出側を低くして傾斜している整列収納空間に薬品類を整列収納して逐次排出する薬品類カセットにおいて、前記整列収納空間の排出側に配置された排出機構が、前記整列収納空間の薬品類整列方向と軸方向が直交している水平な支軸と、短径部と長径部とが形成されており且つ前記支軸によって軸回転可能に支持されていて軸回転に伴って間欠的に前記長径部を前記整列収納空間の下から前記整列収納空間の中へ突き上げる偏心部材と、この偏心部材より更に排出側に設けられていて前記整列収納空間の薬品類に対して前記偏心部材の上方を素通りするのは阻止するが前記偏心部材の長径部に押し上げられた薬品類の乗り越えは許容する排出規制部材とを具備していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の薬品類カセットは(解決手段2)、上記解決手段1の薬品類カセットであって、前記排出規制部材が又は前記排出規制部材の上端部が回転自在なローラになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このような本発明の薬品類カセットにあっては(解決手段1)、薬品類の排出を待って排出機構が動作を停止している待機状態・非排出状態では、偏心部材が短径部を上にし長径部を下にして静止しているので、整列収納空間を滑落して来た薬品類のうち先頭の物が、偏心部材の上を素通りしようとするが、排出規制部材に阻止されて、そこにとどまる。そして、排出時に偏心部材が軸回転すると、偏心部材の短径部が下に行きその代わりに上に来た偏心部材の長径部によって先頭の薬品類が押し上げられる。
【0010】
これにより、排出規制部材の押さえが外れて、先頭の薬品類が偏心部材と排出規制部材の上を通過して、薬品類カセットから排出されることとなる。しかも、その際、次の薬品類は前端部が偏心部材の長径部に追い付かない場合には排出規制部材に当接して止まり長径部に追い付いた場合には長径部に突き当たって止まるか乗り上げて滑落速度が下がるので、偏心部材の軸回転が速くてもゆっくりでも、薬品類は一つずつ排出される。
したがって、この発明によれば、箱物など転がり難い薬品類でも排出部材の軸回転にて逐次排出しうる薬品類カセットを実現することができる。
【0011】
また、本発明の薬品類カセットにあっては(解決手段2)、排出中の薬品類が排出規制部材を乗り越えるときに、ローラが回転することで、薬品類の移動の阻害要因・抑制要因となる摩擦力が軽減されるので、薬品類の排出が円滑になされることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1について、薬品類カセットの構造を示し、(a)が薬品類を整列収納した薬品類カセットの斜視図、(b)が薬品類カセットだけの斜視図、(c)が排出機構とその周辺部に係る一部断面の側面図、(d)が偏心部材の斜視図である。
【図2】排出動作を時系列で示し、(a)〜(c)いずれも排出機構とその周辺部に係る一部断面の側面図である。
【図3】本発明の実施例2について、薬品類カセットの構造を示し、底板先端部と偏心部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
このような本発明の薬品類カセットについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜2により説明する。
図1〜2に示した実施例1は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を総て具現化したものであり、図3に示した実施例2は、その変形例である。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、ボルト等の締結具や,ヒンジ等の連結具,モータドライバ等の電気回路,コントローラ等の電子回路などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【実施例1】
【0014】
本発明の薬品類カセットの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が薬品類8を整列収納した薬品類カセット10の斜視図、(b)が薬品類カセット10だけの斜視図、(c)が排出機構20とその周辺部に係る一部断面の側面図、(d)が排出機構20の偏心部材22の斜視図である。
【0015】
この薬品類カセット10は、薬品類8を一列に並べて整列収納するための整列収納空間を画成する部材として、底板11と左右の側板12,12とを備えている。底板11は傾斜していて上面が滑らかで薬品類8の滑落面になっており、その上の整列収納空間は排出側を低くして傾斜したものとなっている。側板12は、薬品類8が左右に揺れ動いたり多少上下動しても乗り越えることがないよう、適度な高さに形成されている。排出方向の最先端に位置する前板13には必須ではないが薬品類8の排出を検出する排出センサ14が装備され、前板13の直ぐ後方である整列収納空間の排出側には、薬品類8を逐次排出するための排出機構20と回転基準位置決定用の原点センサ16が配置され、その後方で底板11より下の所には、排出機構20の回転駆動を行うモータ15が配置されている。
【0016】
排出機構20は、回転駆動モータ15や減速ギヤ等の適宜な伝動部材によって軸回転させられる支軸21と、この支軸21によって軸回転可能に支持された偏心部材22と、前板13の直ぐ上に設けられられた排出規制ローラ23(排出規制部材)とを具備したものである。支軸21も、偏心部材22も、排出規制ローラ23も、軸方向が水平で左右に延びており、整列収納空間の薬品類整列方向と軸方向が直交している。支軸21も、排出規制ローラ23も、図示したものでは両端を側板12によって軸支されているが、側板12以外の部材たとえば専用の支柱などで支持するようにしても良い。
【0017】
偏心部材22は、硬質の柱状体に軟質筒状体を被せた棒状のものを図示したが、回転プーリ等の伝導部は別として軸方向に直交する断面の形状が軸方向のどこでも同じになっており、しかも、その断面において回転中心の支軸21から見た外径が短い短径部22aと長い長径部22bとが形成された異径のものとなっている。また、支軸21の中心位置と底板11の上面の排出側への延長線との高度差が短径部22aの径rより大きく且つ長径部22bの径Rより小さくなるところに支軸21が設置されているので、偏心部材22は、支軸21を中心にして軸回転すると、その回転に伴って間欠的に長径部22bを整列収納空間の下から整列収納空間の中へ突き上げるものとなっている。
【0018】
排出規制ローラ23は、前板13の上方に設けられて、偏心部材22より更に排出側に位置するとともに、底板11の排出側への延長線と干渉するか少し上に位置しているので、傾斜している底板11の上面を滑落して来た薬品類8が偏心部材22と干渉しなければ突き当たるものとなっている。しかも、排出規制ローラ23は、軸回転が自在な状態で水平に保持されているうえ、薬品類8の下部には干渉するが上部や中間部とは干渉しない程度に高さが抑えられているので、整列収納空間の薬品類8に対して偏心部材22の短径部22aの上方を素通りするのは阻止するが偏心部材22の長径部22bに押し上げられた薬品類8の乗り越えは許容する排出規制部材となっている。
【0019】
この実施例1の薬品類カセットについて、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図2(a)〜(c)は、何れも、排出機構20とその周辺部に係る一部断面の側面図であり、先頭の薬品類8を排出する排出機構20の動作を時系列で示している。
【0020】
この薬品類カセット10は、単体で使用されるものであり、底板11と側板12とで三方から囲まれ上方の解放されている整列収納空間に薬品類8が一列に並べて収納される。そして、図示しない操作部材の操作や外部からの排出指令などに応じて回転駆動モータ15が作動し、それによって支軸21及び偏心部材22が360゜の軸回転を行うと、排出機構20によって先頭の薬品類8が前方へ排出される。薬品類8は箱体などの角形でもボトル等の丸物でも良いが、以下、図2を参照しながら順を追って角箱状の薬品類8を例にしてその排出動作を説明する。
【0021】
先ず(図2(a)参照)、薬品類8の排出を待って排出機構20が動作を停止している待機状態・非排出状態では、偏心部材22が短径部22aを上にし長径部22bを下にして静止していて、偏心部材22の全体が底板11の延長線より低くなっているので、整列収納空間に収納された薬品類8が底板11の上面を傾斜によって滑り落ち、そのうち先頭の薬品類8は、排出側・前側の部分が偏心部材22の上を素通りして排出規制ローラ23に当接することから、それ以上排出側へ移動することができないで停止するので、非排出側・後側の部分を底板11の上に載せたまま、偏心部材22の上方にとどまる。二番目以降の薬品類8も、玉突き状態で順に止められて、底板11の上にとどまる。
【0022】
そして(図2(b)参照)、排出時には支軸21を回転中心にして偏心部材22が軸回転するが、その回転の向きは先頭の薬品類8の排出に貢献する向き(図では時計回り)になっている。具体的には、長径部22bが下側から底板11の方へ向かいつつ底板11寄りのところで上昇し、それから、長径部22bが底板11の延長線から上へ出て整列収納空間の中へ突き出るので、薬品類8の排出側・前側の部分が長径部22bによって押し上げられる。さらに、長径部22bが排出側へ前進しながら上昇するので、それに押されて先頭の薬品類8の先端が排出規制ローラ23から外れてそのローラより高くなる。
【0023】
それから更に(図2(c)参照)、偏心部材22が軸回転を続けて、長径部22bが排出側へ前進するので、先頭の薬品類8も少し前進して、その薬品類8の排出側・前側の部分が排出規制ローラ23の上に移動する。それから、長径部22bが下降に転じて先頭の薬品類8から離れるので、先頭薬品類8の排出側・前側の部分が排出規制ローラ23の上に乗る。この状態でも、先頭薬品類8は、排出側を低くして傾斜しているので、底板11と排出規制ローラ23の上を滑り落ちて、薬品類カセット10から排出される。しかも、そのとき、長径部22bの前進運動が先頭薬品類8を排出側へ付勢するうえ、排出規制ローラ23が軸回転自在になっているので、先頭薬品類8は円滑に排出される。
【0024】
排出後も更に軸回転して偏心部材22が合計で360゜回転すると、短径部22aが上になり長径部22bが下になって待機状態・非排出状態に戻るので、排出機構20が動作を停止して次の薬品類8の排出を待つ。そして、この状態では、二番目以降の薬品類8が底板11の上面を滑落し、二番目だった薬品類8が、偏心部材22の上方を素通りしようとして排出規制ローラ23によって止められて、排出待ちの先頭薬品類8になる。
こうして、部品点数の少ない簡素な排出機構20を装備した薬品類カセット10でも、不都合な連続排出を起こすことなく、薬品類8が一つずつ前方へ排出される。
【実施例2】
【0025】
本発明の薬品類カセットの実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図3は、底板11の先端部および偏心部材22の全体の斜視図である。
この薬品類カセットが上述した実施例1のものと相違するのは、底板11の排出側の端部が櫛歯状になった点と、偏心部材22の長径部22bも櫛歯状になった点と、両部材11,22の櫛歯状部分が交互に遊嵌し合っている点である。
この場合、底板11の排出側の端部が偏心部材22の短径部22aの近くまで延長されて、底板11と排出規制ローラ23との間隙が狭まるので、短めの薬品類8でも短径部22aに当接しないで円滑に排出されることとなる。
【0026】
[その他]
上記実施例では、偏心部材22に形成されている短径部22a及び長径部22bが一つずつであったが、短径部22aも長径部22bも交互に形成されていれば複数形成されていても良く、その場合、一回の排出動作における偏心部材22の回転量は360゜より小さくて済むこととなる。
また、上記実施例では、両側板12にて軸回転可能に支持されたローラ23だけで排出規制部材が構成されていたが、排出規制部材は、例えば前板13を高くした固定部材で構成しても良く、さらには、そのような固定部材とその上端部のローラ23との組み合わせで構成しても良い。
さらに、支軸21は、上述したような偏心部材22を貫通しているものに限られる訳でなく、偏心部材22の両端に分かれていても良く、偏心部材22と一体物で形成されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の薬品類カセットは、上述したように単体で使用できる他、薬剤払出装置に組み込んでも良い。典型的な組み込み使用では、薬品払出装置の薬品庫の棚に多数列設されるが、その場合、薬品類カセット単体では底板が予め傾斜していなくても、棚板を前傾させておけば、整列収納空間に必要な傾斜を付けることができる。
また、本発明の薬品類カセットは、箱物セット薬剤のような転がり難い薬品類を対象とした自動排出・自動払出に好適なものであるが、本明細書における薬品類は、転がり難いものに限定される訳でなく、転がり易いものでも良く、箱状の薬剤の他、アンプル・バイアル・造影剤等の容器入り注射薬や、ボトル等に収容された錠剤・散剤・軟膏・目薬等の医薬品、その他の補助薬品等も、整列収納可能ならば、該当する。
【符号の説明】
【0028】
8…薬品類、
10…薬品類カセット、
11…底板、12…側板、13…前板、
14…排出センサ、15…回転駆動モータ、16…原点センサ、
20…排出機構、21…支軸、22…偏心部材、
22a…短径部、22b…長径部、23…排出規制ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出側を低くして傾斜している整列収納空間に薬品類を整列収納して逐次排出する薬品類カセットにおいて、前記整列収納空間の排出側に配置された排出機構が、前記整列収納空間の薬品類整列方向と軸方向が直交している水平な支軸と、短径部と長径部とが形成されており且つ前記支軸によって軸回転可能に支持されていて軸回転に伴って間欠的に前記長径部を前記整列収納空間の下から前記整列収納空間の中へ突き上げる偏心部材と、この偏心部材より更に排出側に設けられていて前記整列収納空間の薬品類に対して前記偏心部材の上方を素通りするのは阻止するが前記偏心部材の長径部に押し上げられた薬品類の乗り越えは許容する排出規制部材とを具備していることを特徴とする薬品類カセット。
【請求項2】
前記排出規制部材が又は前記排出規制部材の上端部が回転自在なローラになっていることを特徴とする請求項1記載の薬品類カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−161086(P2011−161086A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28770(P2010−28770)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000151472)株式会社トーショー (156)
【Fターム(参考)】