説明

薬物担体としてpH依存的調節放出を伴うアニオン性ヒドロゲルマトリックス

pH-依存的調節放出を示す組成物が記載され、該組成物は1以上の活性成分を含むヒドロゲルマトリックスからなり、ここで該マトリックスは体の所与の部位において持続的に該活性成分を放出させるのに好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その中に含まれている1以上の活性成分を含有するヒドロゲルマトリックスからなるpH依存的調節放出を伴う組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明によるマトリックスは、持続性かつpH依存的に該活性成分を体の所与の部位において放出させるのに好適である。
【0003】
医薬技術分野において多数の薬物が、該薬物を体の特定の部位において放出させるように調節された製剤に挿入されることが知られている。
【0004】
この手順によると、以下が可能である:
(a)薬物を有用な位置にて長期に作用させること;
(b)局所レベル、例えば、胃レベルにて副作用を伴う薬物が迅速に放出する状況を避けること;
(c)体のその他の部位のレベルでの望ましくない毒性および副作用の原因である薬物の最高血中濃度が高くなることを避けること。
【0005】
活性成分の送達に有用なマトリックスは医薬分野において既に知られている。
【0006】
例えば、Drug Dev. Ind. Pharm. 13(6)、1001-1022、(1987)には、活性成分を担持するコロイド状ケイ酸塩マトリックスの生産および使用方法が記載されている。
【0007】
米国特許第4608248号には、メチルセルロース-およびヒドロキシ-メチルセルロースに基づく不活性マトリックスが記載されている。
【0008】
EP 0453001には、腸の下部における活性成分の制御放出のためのpH依存的多粒子状マトリックスが記載されている。
【0009】
さらに別の制御放出または調節放出マトリックスも知られている。実際、調節放出または制御放出マトリックスの調製は、様々な公知技術、例えば、不活性マトリックスの使用による手段を用いて行うことが出来、該不活性マトリックスにおいては、マトリックスの構造の主要成分が水性液体に対する親和性が弱いことにより(親油性(lipophilia))、溶媒の浸透に対する抵抗性を発揮する;あるいは、生分解性(bioerodable)マトリックスの使用による手段を用いても行うことが出来、該生分解性マトリックスは所与の生物学的区画において酵素によって分解される。
【0010】
上記マトリックスには欠点がある;実際、不活性マトリックスは一般に、体内に入って体液と接触すると指数関数型の非制御放出をもたらす。
【0011】
かかる生分解性マトリックスは、いわゆる「制御放出部位」の点に関しては理想的であり得るが、適当な酵素または分解試薬の必要性という欠点を示し、それに加えて、かかるマトリックスは毒物学的観点からは完全には不活性であるとはいえない代謝生成物を体内で放出してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
医薬分野において、生体適合性であって「制御放出部位」型の新しい調節放出または遅効放出マトリックスの必要性が未だに強く認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このたび、新規なクラスのpH依存的制御放出部位ヒドロゲルマトリックスが、胃の酸性環境から遠くにある回腸および結腸に活性成分を送達するため、および該活性成分を持続的に放出するために好適であることが見いだされた。
【0014】
本発明によるヒドロゲルマトリックスは、酸性コモノマーの存在下において、光細網化可能基を含むコポリマーの照射による化学的な細網化(reticulation)によって様々な形態およびサイズにおいて得られる。
【0015】
具体的には、本発明によるアニオン性ヒドロゲルは、誘導体化ポリアスパルタミド(PHGおよびPHM)から出発して得られる。
【0016】
コポリマーPHGは、α,βポリ(N-2-ヒドロキシエチル)D,Lアスパルタミド(PHEA)をメタクリル酸グリシジル(GMA)により好適に誘導体化することによって得られる。
【0017】
コポリマーPHMは、α,βポリ(N-2- ヒドロキシエチル)D,Lアスパルタミド(PHEA)を無水メタクリル酸(MA)により好適に誘導体化することによって得られる。
【0018】
PHEAはポリスクシンイミド(PSI)とエタノールアミンとを反応させることにより得られる、タンパク質様構造を有するポリマーである。このポリマーは、該ポリマーが生物医学および医薬の用途のための優れた候補となるような生物学的および物理化学的特性を有する(Pitarresi etal.、J. Bioact. Compat. Polym. 11; 1996,328-340 ; Giammona etal.、J. Pharm. Pharmacol. 49; 1997,1051-1056)。
【0019】
本発明によるマトリックスは完全に生体適合性基体(substrates)に由来するため、毒性を示さない。
【0020】
該マトリックスは、例えば、メタクリル酸グリシジルまたは無水メタクリル酸により誘導体化されたポリアスパルタミドを、メタクリル酸の存在下で照射することによる化学的細網化により得られる。細網化によりヒドロゲルと定義される水に不溶の親水性三次元構造の形成が導かれる。正確にはその吸水性のために、これらシステムは水を吸収し、水性媒体中で膨潤し、そして網状構造の中の酸性基の存在により、pH-感受性の挙動を備えている。
【0021】
このようにして得られるマトリックスは、医学および獣医学分野において有用である活性成分の送達およびpH依存的制御放出に有用である。
【0022】
本発明によるマトリックスは様々な形態およびサイズであり得、例えば、ナノ粒子、マイクロ粒子、ゲル、フィルム、シリンダーまたはスポンジなどであり得る。好ましい形態はマイクロ粒子である。
【0023】
薬物を照射段階の前または後にマトリックスに組込み、次いで乾燥する。
【0024】
本発明の目的はそれゆえ、酸性コモノマーの存在下で光細網化可能基により好適に誘導体化されたポリマーの照射による化学的細網化によって得られるアニオン性ヒドロゲルマトリックスである;
ここで、該ポリマーは、以下からなる群から選択される: ポリアミノ酸ポリマー、ポリアスパルタミドポリマー、アクリル酸またはメタクリル酸ポリマー、アルキルビニルポリマー、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、多糖類、デキストリン、ペクチン、アミドおよび誘導体、合成または天然ゴムあるいはアルギン酸;好ましいポリマーは、α,βポリ(N-2-ヒドロキシエチル)D,Lアスパルタミド (PHEA)である;
ここで該光細網化可能基は、PHEAの側鎖におけるメタクリル酸グリシジル(GMA)または無水メタクリル酸(MA)の挿入に由来する;
ここで該酸性コモノマーは、メタクリル酸またはアクリル酸から選択される;
ここで該照射媒体は、ガンマ線、ベータ線および紫外線からなる群から選択される。
【0025】
本発明のさらなる目的は、メタクリル酸またはアクリル酸の存在下でメタクリル酸グリシジルおよび無水メタクリル酸により誘導体化されたポリアスパルタミドの照射による化学的細網化によって得られるアニオン性ヒドロゲルマトリックスであり、ここで該ポリアスパルタミドは、α,βポリ(N-2-ヒドロキシエチル)D,Lアスパルタミドである。
【0026】
本発明のさらなる目的は、以下からなる群から選択される1以上の活性成分を、腸の終端部分、回腸および結腸において持続的にpH-制御放出させるための医薬組成物である:
- 鎮痛薬、例えば、アセトアミノフェン、フェナセチンおよびサリチル酸ナトリウム;
- 鎮咳薬、例えば、デキストロメトルファンおよびリン酸コデイン;
- 気管支拡張薬、例えば、アルブテロールおよびプロカテロール;
- 抗精神病薬、例えば、ハロペリドールおよびクロルプロマジン;
- 降圧薬および冠動脈拡張薬、例えば、モノおよびジ硝酸イソソルビドおよびカプトプリル;
- 選択的6-2拮抗薬、例えば、サルブタモール、テルブタリン、エフェドリン、および硫酸オルシプレナリン;
- カルシウム拮抗薬、例えば、ニフェジピン、ニカルジピン、ジルチアゼムおよびベラパミル;
- 抗パーキンソン病薬、例えば、ペルゴリド、カルピドパ(carpidopa)およびレボドパ;
- ホルモン;
- 非ステロイド性およびステロイド性抗炎症薬、例えば、ケトプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサル、ピロキシカム、ナプロキセン、ケトロラック、ニメスリド、ブデソニド、チアプロフェン酸、メサラジン(5-アミノサリチル酸)、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾンおよびプレドニゾン;
- 抗ヒスタミン薬、例えば、テルフェナジンおよびロラタジン;
-止痢薬および腸抗炎症薬、例えば、ロペラミド、5-アミノサリチル酸、オルサラジン、スルファサラジンおよびブデノシド(budenoside);
- 鎮痙薬、例えば、 臭化オクチルオニウム(octylonium bromide);
- 抗不安薬、例えば、 クロルジアゼポキシド、オキサゼパム、メダゼパム、アルプラゾラム、ドナゼパム(donazepam)およびロラゼパム;
- 経口抗糖尿病薬、例えば、グリピジド、メトホルミン、フェノフォルミン(phenphormin)、グリクラジドおよびグリベンクラミド;
- 瀉下薬、例えば、ビサコジルおよびピコ硫酸ナトリウム(sodium picosulphate);
- 抗てんかん薬、例えば、バルプロエート、カルバマゼピン、フェニトインおよびガバペンチン;
- 抗癌薬;
- 口腔殺菌薬または抗菌薬、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムまたはヨウ化チベゾニウム、および多数のアミノ誘導体、例えば、ベンジダミンおよびクロルヘキシジンならびにそれらの塩および誘導体;
- フッ化ナトリウム;
- 心臓作用薬;
- L-カルニチンおよび/または1以上のアルカノイルL-カルニチン、ここで直鎖状または分枝状アルカノイルは2-6の炭素原子を有するものであり、例えば、アセチル、プロピオニル、バレリル、イソバレリル、ブチリルL-カルニチン、またはそれらの医薬上許容される塩の1つである;
そして該医薬組成物は1以上の常套の賦形剤、例えば、生体接着剤(bioadhesive)、キトサン、ポリアクリルアミド、天然または合成ゴム、およびアクリル酸ポリマーを含んでいてもよい。
【0027】
L-カルニチンまたはアルカノイルL-カルニチンの医薬上許容される塩とは、毒性または副作用を引き起こさないあらゆるその塩を意味する。
【0028】
これらの酸は薬理学者および医薬専門家に周知である:これらの塩の非限定的な例には以下が挙げられる:塩化物、臭化物、オロチン酸塩、アスパラギン酸塩、酸アスパラギン酸塩、酸クエン酸塩、マグネシウムクエン酸塩、リン酸塩、酸リン酸塩、フマル酸塩および酸フマル酸塩、マグネシウムフマル酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩および酸マレイン酸塩、シュウ酸塩、酸シュウ酸塩、パモ酸塩、酸パモ酸塩、硫酸塩、酸硫酸塩、グルコースリン酸塩、酒石酸塩および酸酒石酸塩、グリセロリン酸塩、ムケート(mucate)、マグネシウム酒石酸塩、2-アミノ-エタンスルホン酸塩、マグネシウム2-アミノ-エタンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、コリン酒石酸塩、トリクロロ酢酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩。
【0029】
L-カルニチンの医薬上許容される塩の意味するものには、さらにFDAに認可されたあらゆる塩が含まれ刊行物、Int. J of Pharm. 33 (1986)、201-217において報告されており、これを引用により本明細書に含める。
【0030】
慢性腸炎症性疾患の治療に有用な薬物が好ましく、特に好ましいのはプロピオニルL-カルニチンである。
【0031】
本発明のさらなる目的は、1以上の活性成分を持続的にpH依存的に送達および放出するマトリックスの、心血管疾患、腫瘍、中枢および末梢神経系疾患、および腸疾患の治療用医薬の調製のための使用である。特に好ましいのは、慢性炎症性腸疾患、例えば、慢性潰瘍性大腸炎およびクローン病である。
【0032】
シリンダーまたはスポンジの形態における本発明によるマトリックスは、非経口または経膣経路を介する薬物の投与、例えば、獣医分野における分娩を同調することが出来るホルモンの投与に用いられる。
【0033】
本発明によるアニオン性ヒドロゲルの調製手順は、生産コストおよび調製時間の両方の観点から経済的な方法を用いて行った。
【0034】
これに関して、例えば、ガンマ線、ベータ線および紫外線の形態における照射の使用を決定することにより、細網化剤およびラジカル開始剤の使用を伴う他の細網化方法と比較して非常に有利となることが判明した。
【0035】
実際、本発明によるヒドロゲルは、酸性コモノマー(アクリル酸またはメタクリル酸)の存在下で紫外線を使用してポリアミノ酸誘導体PHGおよびPHMの水溶液から出発して得られ、他の試薬の添加の必要はないのに対し、類似のマトリックスは、酸性コモノマー(アクリル酸またはメタクリル酸)の存在下でPHGの細網化が反応開始剤および制御剤、例えば、過硫酸アンモニウムおよびTEMEDの添加により起こる、逆相懸濁液重合方法により調製される[Muzzalupo R. etal.、Colloid Polym. Sci (2001) 279: 688-695]。
【0036】
当業者には、照射の使用は生成物の無菌性および後での精製の観点から非常に有用であることが明らかであり、それにはいかなる特別な手順も必要とされない。
【0037】
以下の実施例により本発明を説明する。
【0038】
アニオン性ヒドロゲルの合成は、α,βポリ(N-2-ヒドロキシエチル)D,Lアスパルタミド (PHEA)のメタクリル酸グリシジルによる誘導体化によって得られるコポリマーPHGから(Giammona etal.、Polymer 38 (1997) 3315-3323)、および、α,βポリ (N-2-ヒドロキシエチル) D,Lアスパルタミド (PHEA)の無水メタクリル酸による誘導体化によって得られるコポリマーPHM から出発してなされる[Mandracchia etal.、Biomacromolecules 5 (2004)]。
【0039】
ここで、PHEAは、DMF溶液中のエタノールアミンを用いるD,Lアスパラギン酸の熱重縮合により調製されるポリスクシンイミド (PSI) の反応に由来する[Neri et.al、J. Med. Chem. 16 (1973)893 ; Giammona et al. 、J. Polym. Sci. Polym. Chem. 25 (1987) 2813]。
【0040】
本発明によるアニオン性ヒドロゲルの合成のために、SEC測定により判定して加重平均分子量1,000-100,000であるPHEAを用いた[Mendichi R. et.al.、Polymer (2000) 41:8649-8657]。
【0041】
PHGを得るために、PHEAを4-DMAP (4-ジメチルアミノピリジン)を触媒として用いる無水 DMA (ジメチルアセタミド)の溶液中のメタクリル酸グリシジルとの反応によって誘導体化した。反応は、様々な程度に誘導体化された光細網化可能コポリマーを得るために、様々な濃度の触媒およびGMA (メタクリル酸グリシジル)を用いて行った。具体的には、以下の条件を採用した:
a)誘導体化剤 (GMA)のPHEA (反復単位)に対するモル比の範囲としては、0.01 : 1〜10 : 1を用いた; 好ましいモル比の範囲は0.1 :1〜3: 1であり;特に好ましいモル比は1: 1である;
b)触媒(DMAP)の誘導体化剤 (GMA)に対するモル比の範囲は、0.01 : 1〜10: 1であり;好ましい比の範囲は0.1 : 1〜3:1であり、特に好ましい比は1.5 :1である;
c) 温度:反応は一定温度値の範囲0〜60℃で行った;好ましい温度は10〜30℃;特に好ましくは25℃である;
d) 反応時間:反応は1時間〜10日間の範囲の期間行った;好ましい期間は4時間〜5日間であり、特に好ましくは48時間である。
【0042】
反応の最後に、得られた生成物を1-ブタノール中での沈降により回収し、遠心分離した。アセトンによって洗浄を何度も行い、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0043】
PHG収率は出発PHEAに対して100% w/wに近かった。
【0044】
記載された方法を用いて得られた各生成物を、分光光度的技術によって特徴付けした。
【0045】
こうして得られたコポリマーPHGの溶液(二回蒸留水中0.02-25 mLの体積中1-1000 mg/mL)をパイレックス(登録商標)試験管に入れた。これら溶液にPHGに対する重量比1〜80%の範囲、好ましい比は10〜60%、そして特に好ましくは40%にてメタクリル酸またはアクリル酸(MAAcまたはAAc)を添加した。
【0046】
用いた試験管にはおよそ 2-mm 厚さの溶液が照射されるように小さいパイレックス(登録商標)製の内部ピストンが備えられていた。
【0047】
溶液を、脱気とアルゴンの送気の後、0.1〜24 時間の範囲のUV 照射 (波長254〜366 nm)に供した。
【0048】
こうして得られたゲルを蒸留水により何度も洗浄し、各洗浄の後遠心分離を行うことによって精製した。
【0049】
PHMを得るために、TEA (トリエチルアミン)を触媒として用いて、PHEAを無水 DMA (ジメチルアセタミド) 溶液中の無水メタクリル酸 (MA)との反応により誘導体化した。反応は様々な程度に誘導体化された光細網化可能コポリマーを得るために様々な濃度の触媒および無水メタクリル酸を用いて行った。具体的には以下の条件を採用した。
【0050】
e)誘導体化剤 (MA)のPHEA (反復単位)に対するモル比範囲として0.01 : 1〜10: 1を用いた;好ましい比範囲は0.1 : 〜1 :1 ; 特に好ましい比は0.5 :1である;
f)触媒 (TEA)の誘導体化剤 (MA)に対するモル比は0.01 : 1〜10: 1の範囲; 好ましい比は0.1 : 1〜1: 1の範囲、特に好ましいのは比0.5 : 1である;
g) 温度:反応は0〜80℃の範囲の一定温度値で行った; 好ましい温度は10〜60℃;特に好ましいのは40℃である;
h) 反応時間:反応は1時間〜10日間の範囲の期間行った;好ましい期間は4時間〜5日間であり、特に好ましくは48時間である。
【0051】
反応の最後に、得られた生成物を2-プロパノール中での沈降により回収し、遠心分離した。洗浄を何度も2-プロパノールおよびアセトンで行い、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0052】
PHM 収率は出発PHEAに対して100% w/w に近かった。
【0053】
記載の方法を用いて得られた各生成物を分光光度的技術によって特徴づけた。
【0054】
こうして得られたコポリマーPHMの溶液(二回蒸留水中0.02-25 mLの体積中1-1000 mg/mL)をパイレックス(登録商標)試験管に入れた。これら溶液にPHMに対する重量比1〜80%の範囲、好ましくは10〜60%の範囲、特に好ましくは20%にてメタクリル酸またはアクリル酸(MAAcまたはAAc)を添加した。
【0055】
用いた試験管はおよそ 2-mmの厚さの溶液が照射されるように、小さなパイレックス(登録商標)製の内部ピストンを備えていた。
【0056】
溶液を、脱気およびアルゴンの送気の後に、0.1〜24 時間の範囲の期間、UV 照射 (波長254〜366 nm)に供した。
【0057】
こうして得られたゲルを蒸留水により何度も洗浄し、各洗浄の後遠心分離することによって精製した。
【0058】
これらのpH-感受性マトリックスへの活性成分の充填は2つの主な方法により行った。1つの方法は、ヒドロゲルの調製中、そして照射段階中の、薬物の組込みである;一方、もう1つの方法は、あらかじめ調製したマトリックスに植え込むことにより薬物を充填するものである。
【0059】
得られたヒドロゲルを分光光度的技術および蒸留水および多数の体液(胃液、腸液、温度範囲0〜60℃)を模倣する媒体における膨潤実験によって特徴づけた。示された膨潤値は水性媒体に対する本発明により調製されたヒドロゲルの強い親和性を示し、その程度は生成物の細網化の程度および膨潤媒体のpHおよび組成(pH範囲分析値: 1〜9)に依存することが判明した。
【0060】
実施例1
紫外線照射によって細網化されたコポリマーPHGに基づくアニオン性ヒドロゲルの合成
無水DMA中のPHEAの溶液(500 mg/10 mL)に、579 mgの4-ジメチルアミノピリジン (4-DMAP)を触媒として添加した。この溶液に420μlのメタクリル酸グリシジル(GMA)を添加して、ビニル基を含むコポリマーPHGを得た。
【0061】
上記の量は以下の比と一致する:
誘導体化剤 (GMA)のPHEA(反復単位)とのモル比= 1 :1。
触媒 (DMAP)の誘導体化剤 (GMA) とのモル比= 1.5 : 1。
【0062】
反応は一定温度値25℃で48時間行った。
【0063】
反応時間が完了すると、生成物を1-ブタノール中への沈降および12000 rpmで10分間4℃での遠心分離によって回収した。
【0064】
洗浄を何度もアセトンにて行い、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0065】
PHG収率は出発PHEAに対して98±1% w/wであった。
【0066】
こうして得られたコポリマーPHGの水溶液(60 mg/mL)に、出発 PHGに対して40% w/wの量のメタクリル酸(MAAc)を添加した。この溶液は、溶存酸素を除いた後、波長313 nmの紫外線照射に3.5 時間供した。
【0067】
ヒドロゲルを回収し、蒸留水で何回も洗浄することにより精製し、凍結乾燥により乾燥させた。得られた生成物の重量を量り(収率: 97% w/w)、分光光度的技術によって特徴づけた。
【0068】
様々なpH値での膨潤実験において、生成物は水性媒体に対する強い親和性およびpH-感受性の挙動パターンを示した。
【0069】
実施例2
紫外線照射によって細網化されたコポリマーPHMに基づくアニオン性ヒドロゲルの合成
無水DMA中のPHEAの溶液(500 mg/10 mL)に、 79.44 mgのトリエチルアミン (TEA)を触媒として添加した。242 mgの無水メタクリル酸 (MA)をこの溶液に添加してビニル基を含むコポリマーPHMを得た。
【0070】
上記の量は以下の比に一致する:
誘導体化剤 (MA)とPHEA (反復単位)とのモル比= 0.5 : 1
触媒 (TEA)と誘導体化剤 (MA)とのモル比= 0. 5:1。
【0071】
反応は一定温度値40℃で48 時間行った。
【0072】
反応時間が完了すると、生成物を2-プロパノール中への沈降および12000 rpm、10分間4℃での遠心分離によって回収した。
【0073】
2-プロパノールおよびアセトンにより洗浄を何度も行い、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0074】
PHM収率は出発PHEAに対して98±1% w/wであった。
【0075】
こうして得られたコポリマーPHMの水溶液(60 mg/mL)に、出発PHMに対して20% w/wの量のメタクリル酸(MAAc)を添加した。この溶液を、溶存酸素を除いた後、波長313 nmでの3.5 時間の紫外線照射に供した。
【0076】
ヒドロゲルを回収し、蒸留水で何度も洗浄することにより精製し、凍結乾燥によって乾燥させた。得られた生成物の重量を計り(収率: 97%w/w)、分光光度的技術によって特徴づけた。
【0077】
様々なpH値での膨潤実験において、生成物は水性媒体に対する強い親和性およびpH-感受性の挙動パターンを示した。
【0078】
実施例3
PHG-MAAc マトリックス中へのプロピオニルL-カルニチン塩酸塩の組込み
プロピオニル L-カルニチン塩酸塩 (PLC)を細網化段階の間にゲルに組み込んだ。
【0079】
具体的には、PLCを含むヒドロゲルを二回蒸留水中のコポリマーPHG (60 mg/mL)、MAAc (PHGに対して40重量%)およびPLC (50 mg/mL)の溶液のUV照射により調製した。
【0080】
紫外線照射は313 nmでアルゴン下で3.5 時間行った。
【0081】
照射後、サンプルを回収し、凍結乾燥した。
【0082】
pH-関連制御放出試験により、PLCのアリコット(およそ30%)はpH 1にておよそ2時間以内に溶液に放出されることが示された(放出されたPLC成分はマトリックス表面上またはその表層中に位置していたものである)。同溶液のpHを調整すると、およそ40%のPLC(全放出: 70%)のさらに4時間以内での放出がみられた。
【0083】
インビボ条件においては、PLCの残りの30%は、マトリックスが消化管に残っている時間中の大腸の終端部分におけるマトリックスの完全な分解の際に放出されるであろう。
【0084】
実施例4
PHM-MAAc マトリックス中へのプロピオニルL-カルニチン塩酸塩の組込み
プロピオニルL-カルニチン塩酸塩(PLC)を細網化段階の際にゲルに組み込んだ。
【0085】
具体的には、PLCを含むヒドロゲルを二回蒸留水中のコポリマーPHM (60 mg/mL)、MAAc (PHMに対して20重量%) およびPLC (50 mg/mL)の溶液のUV 照射により調製した。
【0086】
紫外線による照射は313 nmでアルゴン下にて3.5 時間行った。
【0087】
照射後、サンプルを回収し、凍結乾燥した。pH-関連制御放出試験はPLCのアリコット(およそ60%)がpH 1にておよそ2 時間以内に溶液に放出されることを示した(放出されたPLC成分はマトリックス表面上またはその表層中に位置していたものである)。同溶液のpHを調整すると、およそ20%のPLC (全放出: 80%)のさらに4時間以内での放出がみられた。
【0088】
インビボ条件においては、PLCの残りの20%は、マトリックスが消化管に残っている時間中の大腸の終端部分におけるマトリックスの完全な分解の際に放出されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光細網化可能基により好適に誘導体化されたポリマーの酸性コモノマーの存在下での照射による化学的細網化により得られるアニオン性ヒドロゲルマトリックス。
【請求項2】
該ポリマーが、ポリアミノ酸ポリマー、ポリアスパルタミドポリマー、アクリル酸またはメタクリル酸ポリマー、アルキルビニルポリマー、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、多糖類、デキストリン、ペクチン、アミドおよび誘導体、合成または天然ゴムまたはアルギン酸からなる群から選択される請求項1のマトリックス。
【請求項3】
該ポリマーがα,βポリ(N-2-ヒドロキシエチル)D,Lアスパルタミド (PHEA)である請求項2のマトリックス。
【請求項4】
光細網化可能基がメタクリル酸グリシジル (GMA)および無水メタクリル酸 (MA) の、PHEAの側鎖への挿入に由来する請求項1-3のいずれかのマトリックス。
【請求項5】
酸性コモノマーがメタクリル酸またはアクリル酸から選択される請求項1のマトリックス。
【請求項6】
照射媒体が、ガンマ線、ベータ線および紫外線照射からなる群から選択される請求項1のマトリックス。
【請求項7】
ナノ粒子、マイクロ粒子、ゲル ; フィルム、シリンダーまたはスポンジの形態であり、好ましい形態がマイクロ粒子である請求項1のマトリックス。
【請求項8】
請求項1-7のいずれかのマトリックス、および1以上の活性成分からなる医薬組成物。
【請求項9】
1以上の医薬上許容される賦形剤をさらに含む請求項8の組成物。
【請求項10】
賦形剤が、生体接着剤、キトサン、ポリアクリルアミド、天然または合成ゴムおよびアクリル酸ポリマーからなる群から選択される請求項9の組成物。
【請求項11】
該活性成分が以下からなる群から選択される請求項8の組成物:
- 鎮痛薬、例えば、アセトアミノフェン、フェナセチンおよびサリチル酸ナトリウム;
-鎮咳薬、例えば、デキストロメトルファンおよびリン酸コデイン;
- 気管支拡張薬、例えば、アルブテロールおよびプロカテロール;
- 抗精神病薬、例えば、ハロペリドールおよびクロルプロマジン;
- 降圧薬および冠動脈拡張薬、例えば、モノおよびジ硝酸イソソルビドおよびカプトプリル;
-選択的 6-2 拮抗薬、例えば、サルブタモール、テルブタリン、エフェドリンおよび硫酸オルシプレナリン ;
- カルシウム拮抗薬、例えば、ニフェジピン、ニカルジピン、ジルチアゼムおよびベラパミル;
- 抗パーキンソン病薬、例えば、ペルゴリド、カルピドパおよびレボドパ;
- ホルモン;
-非ステロイド性およびステロイド性抗炎症薬、例えば、ケトプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサル、ピロキシカム、ナプロキセン、ケトロラック、ニメスリド、ブデソニド、チアプロフェン酸、メサラジン(5-アミノサリチル酸)、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾンおよびプレドニゾン;
- 抗ヒスタミン薬、例えば、テルフェナジンおよびロラタジン;
- 止痢薬および腸抗炎症薬、例えば、ロペラミド、5-アミノサリチル酸、オルサラジン、スルファサラジンおよびブデノシド;
- 鎮痙薬、例えば、臭化オクチルオニウム;
- 抗不安薬、例えば、クロルジアゼポキシド、オキサゼパム、メダゼパム、アルプラゾラム、ドナゼパムおよびロラゼパム;
- 経口抗糖尿病薬、例えば、グリピジド、メトホルミン、フェノフォルミン、グリクラジドおよびグリベンクラミド;
- 瀉下薬、例えば、ビサコジルおよびピコ硫酸ナトリウム;
- 抗てんかん薬、例えば、バルプロエート、カルバマゼピン、フェニトインおよびガバペンチン;
- 抗癌薬;
- 口腔殺菌薬または抗菌薬、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムまたはヨウ化チベゾニウム、および多数のアミノ誘導体、例えば、ベンジダミンおよびクロルヘキシジンならびにそれらの塩および誘導体;
- フッ化ナトリウム;
- 心臓作用薬;
- 抗ヒスタミン薬;
- L-カルニチンおよび/または1以上のアルカノイル L-カルニチンまたはそれらの医薬上許容される塩の1つ。
【請求項12】
直鎖状または分枝状アルカノイルが2-6炭素原子を有し、アセチル、プロピオニル、ブチリル、バレリルまたはイソバレリル L- カルニチンからなる群から選択される請求項11の組成物。
【請求項13】
L-カルニチンまたはアルカノイルL-カルニチンの該医薬上許容される塩が、塩化物、臭化物、オロチン酸塩、アスパラギン酸塩、酸アスパラギン酸塩、酸クエン酸塩、マグネシウムクエン酸塩、リン酸塩、酸リン酸塩、フマル酸塩および酸フマル酸塩、マグネシウムフマル酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩および酸マレイン酸塩、シュウ酸塩、酸シュウ酸塩、パモ酸塩、酸パモ酸塩、硫酸塩、酸硫酸塩、グルコースリン酸塩、酒石酸塩および酸酒石酸塩、グリセロリン酸塩、ムケート、マグネシウム酒石酸塩、2-アミノ-エタンスルホン酸塩、マグネシウム2-アミノ-エタンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、コリン酒石酸塩、トリクロロ酢酸塩およびトリフルオロ酢酸塩からなる群から選択される請求項11の組成物。
【請求項14】
経口使用のための請求項8-13のいずれかの組成物。
【請求項15】
医学および獣医学分野における請求項8の組成物の使用。
【請求項16】
心血管疾患、腫瘍、中枢および末梢神経系疾患、または腸疾患の治療用医薬の調製のための請求項8-14のいずれかの組成物の使用。
【請求項17】
腸疾患が慢性潰瘍性大腸炎またはクローン病である請求項16の使用。
【請求項18】
慢性腸疾患の治療に有用な薬物がプロピオニルL-カルニチンである請求項17の使用。
【請求項19】
該組成物が非経口または経膣経路により投与されうる請求項15の使用。

【公表番号】特表2007−530666(P2007−530666A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505744(P2007−505744)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/IT2005/000081
【国際公開番号】WO2005/094792
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】