説明

薬物送達のための制御された放出薬剤および組織処置薬剤としての使用のためのマルチブロック生分解性ヒドロゲル

【課題】薬物送達および外科的適用のような他の生物医学的適用における使用のための改善されたポリマー系を提供すること、ならびに、生物学的に活性な薬剤を、予測可能でかつ制御された速度で放出し得る制御された薬物送達における使用のためのポリマー系を提供すること、さらに、活性な因子を、それが必要とされる特定の標的部位で局部的に放出する制御された薬物送達における使用のためのポリマーを提供すること、ならびに、pHまたはイオン濃度のような、温度または他のパラメーターにより可変である体積および薬物放出を含む特性を有する薬物送達における使用のためのポリマー系を提供することは。
【解決手段】 実施例に記載されるようなマクロマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、一般に、薬物送達および生物医学的適用における使用のための生分解性のポリマーの領域にある。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリマーは、種々の外科的および薬物送達の適用における使用のために開発されてきた。ポリ(乳酸)の合成および生分解性は、Kulkarniら、Arch. Surg.,93:839(1966)により報告された。不安定な骨格結合を有する生分解性のポリアンヒドライドおよびポリオルトエステルが開発されてきた。Dombら、Macromolecules,22:3200(1989);およびHellerら、「薬物送達系としての生分解性ポリマー」、Chasin, M.およびLanger, R.,編、Dekker,New York, 121-161(1990)、これらの開示は本明細書中で参考として援用される。天然に存在する物質へと分解するポリマー(例えば、ポリアミノ酸)もまた開発されてきた。乳酸またはグリコール酸のようなα-ヒドロキシ酸のポリエステルは、閉鎖器具(closuredevice)(縫合糸、ステープルを含む)から薬物送達系に至る範囲の適用のために生分解性物質として広く使用されている。Hollandら、ControlledRelease, 4:155-180,(1986); Smithら、の米国特許第4,741,337号;およびSpilizewskiら、J. Control.Rel., 2:197-203(1985)、これらの開示は本明細書中で参考として援用される。
【0003】
水に可溶性のポリマーエレメントを含む分解性ポリマーが記載されている。分解性ポリマーは、ラクチド、グリコリド、およびε-カプロラクトンのポリエーテル、ポリエチレングリコール(「PEG」)との共重合により形成されて、親水性および分解速度を増大させる。Sawhneyら、J.Biomed. Mater. Res. 24:1397-1411(1990)。Caseyらの米国特許第4,716,203号は、PGA(ポリ(グリコール酸))とPEGのブロックコポリマーの合成を記載する。Caseyらの米国特許第4,716,203号は、PGA-PEGジブロックコポリマーの合成を記載する。
【0004】
架橋可能なモノマーまたはプレポリマーから形成されるポリマーは、先行技術において開発されている。架橋されたヒアルロン酸は、生物医学的適用のための分解性膨潤ポリマーとして使用されてきた。Della Valleらの米国特許第4,987,744号および同第4,957,744号;およびDella Valleら、Polym.Mater. Sci. Eng., 62:731-735(1991)。
【0005】
Hubbellらの米国特許第5,410,016号(この開示は本明細書中で参考として援用される)は、生物学的に活性な薬剤の送達のためのバリアコーティングおよびマトリクスを形成するための、生分解性の、水に可溶性のマクロモノマー(「マクロマー」)のインサイチュ架橋を開示する。薬物送達または他の生物医学的適用のための他のポリマーは、Dunnの米国特許第4,938,763号、DeLucaの米国特許第5,160,745号および同第4,818,542号、Zalipskyの米国特許第5,219,564号、Cohnの米国特許第4,826,945号、ならびにNairの米国特許第5,078,994号および同第5,429,826号に記載されており、これらの開示は本明細書中で参考として援用される。ポリマー物質の送達方法には、シリンジ(Dunnら、米国特許第4,938,763号)、スプレー適用(Roweら、によるWO94/21324)およびカテーテル送達系(Slepianの米国特許第5,328,471号;および同第5,213,580号)が含まれる。各末端におけるオリゴマーのヒドロキシ酸、およびヒドロキシ酸オリゴマーの末端におけるアクリル酸エステルを用いるマクロマー(ポリエチレングリコールの中心鎖を含む)の合成もまた報告されている。SawhneyA. S.ら、Macromolecules, 26: 581(1993);およびHubbell J. Aら、によるPCT WO 93/17669、これらの開示は本明細書中で参考として援用される。
【0006】
ポリマーゲル(例えば、ポリアクリル酸のエステルおよびアミド)の熱容量変化が記載されている。例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ベースのヒドロゲル(これは、水性系で感熱性である)は、制御された薬物送達および他の適用のために用いられてきた。Tanakaらの米国特許第5,403,893号;およびHoffmanA. S.ら、J. Controlled Release, 6:297(1987)、この開示は本明細書中で参考として援用される。しかし、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は、非分解性であり、そして生分解性ポリマーが必要とされる場合、適用には適切でない。薬物送達のための非生分解性ポリマー系は、不利である。なぜなら、これらは、薬物ポリマーデバイスが移植された後に、それらを除去することを必要とするからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薬物送達および外科的適用のような他の生物医学的適用における使用のための改善されたポリマー系を提供することは、本発明の1つの目的である。生物学的に活性な薬剤を、予測可能でかつ制御された速度で放出し得る制御された薬物送達における使用のためのポリマー系を提供することは、本発明のさらなる目的である。活性な因子を、それが必要とされる特定の標的部位で局部的に放出する制御された薬物送達における使用のためのポリマーを提供することは、本発明のさらなる目的である。pHまたはイオン濃度のような、温度または他のパラメーターにより可変である体積および薬物放出を含む特性を有する薬物送達における使用のためのポリマー系を提供することは、本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって以下が提供される:
(項目1) ゲルを形成し得るマクロマーであって、上述のマクロマーは、少なくとも4つの共有結合したポリマーのブロックを含み、ここで、
a)少なくとも1つのブロックが親水性であり;
b)親水性ブロックの各々が、個々に、少なくとも1グラム/リットルの水溶性を有し;そして
c)少なくとも2つのブロックが、凝集して水性連続相においてミセル形成をするのに十分に疎水性であり;
ここで、上述のマクロマーが、少なくとも1つの架橋可能基をさらに含む、
マクロマー。
(項目2) 項目1に記載のマクロマーであって、前記架橋可能基が、生理条件下で分解し得る少なくとも1つの分解可能結合によって分離されている、マクロマー。
(項目3) 項目1に記載のマクロマーであって、少なくとも1つの疎水性ブロックが、少なくとも1つの親水性ブロックによって任意の架橋可能基から分離されている、マクロマー。
(項目4) 総じて5つのブロックを含む、項目1に記載のいずれかのマクロマー。
(項目5) 少なくとも2つの化学的に別個の疎水性ブロックを含む、項目1に記載のマクロマー。
(項目6) 項目1に記載のマクロマーの溶液であって、生物学的に活性な物質を含む、溶液。
(項目7) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、上述のマクロマーは、少なくとも1つの熱応答性領域を含み、ここで、上述のマクロマーの溶液は、ゲル化または架橋して熱依存性な体積を伴うヒドロゲルを生じ得る、マクロマー。
(項目8) 項目7に記載のマクロマーであって、ここで、前記ヒドロゲルに取り込まれた薬物の放出速度が、上述のヒドロゲルの体積に依存する、マクロマー。
(項目9) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記マクロマーが、上述のマクロマーの水溶液中で少なくとも2重量%の濃度において熱可逆的ゲル化し得、そしてここで上述のゲル化の温度が約0℃と約65℃との間である、マクロマー。
(項目10) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記マクロマーが、約0℃と約65℃との間の温度で、水溶液中の上述のマクロマーの最大溶解度以下の濃度で光学的異方性相を有する、項目1に記載のマクロマー。
(項目11) 項目1に記載のマクロマーであって、上述のマクロマーに共有結合した少なくとも1つのイオン荷電部分をさらに含む、マクロマー。
(項目12) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記マクロマーは、0〜100℃の範囲にある相転移温度を有し、ここで、上述の転移温度は、前記マクロマーの水溶液の前記イオン組成および上述の水溶液のマクロマーの濃度からなる群より選択される特性によって影響を受ける、マクロマー。
(項目13) 項目1に記載のマクロマーおよび上述のマクロマーと非共有結合する疎水性物質を含む混合物。
(項目14) 項目13に記載の混合物であって、ここで、前記疎水性物質は、炭化水素、脂質、脂肪酸およびステロールからなる群より選択される、混合物。
(項目15) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記架橋可能基は、エチレ性不飽和基、エポキシド、イソシアネート、イソチオシアネート、アルデヒド、アミン、スルホン酸、およびカルボン酸からなる群より選択される、マクロマー。
(項目16) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記疎水性ブロックは、同一であるかまたは異なっており、上述のブロックは、ポリエチレンオキシド、ポリブチレンオキシド、疎水性混合ポリ(アルキレンオキシド)、およびヒドロキシ酸のオリゴマー、ラクトン、アミノ酸、無水物、オルトエステル、ホスファゼン、およびホスフェートからなる群より選択される、マクロマー。
(項目17) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記親水性ブロックは、同一であるかまたは異なっており、そして、上述のブロックは、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、多糖、およびアミノ酸ポリマーからなる群から選択される、マクロマー。
(項目18) 項目2に記載のマクロマーであって、ここで、前記分解性結合基は、同一であるかまたは異なっており、そして、上述の分解性結合基は、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスホエステル)、およびポリラクトンからなる群より選択される、マクロマー。
(項目19) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、少なくとも2つの疎水性ブロックは、親水ブロックによって分離される、マクロマー。
(項目20) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、疎水性ブロックの各々は、親水性ブロックによって他の疎水性ブロックのいずれとも分離されている、マクロマー。
(項目21) 項目1に記載のマクロマーであって、ここで、前記乾燥マクロマーが、水の重量にして少なくとも約10%を吸収する、マクロマー。
(項目22) 前記マクロマーの分子量が、少なくとも1000ダルトンである、項目1に記載のマクロマー。
(項目23) 前記マクロマーの分子量が、少なくとも2000ダルトンである、項目1に記載のマクロマー。
(項目24) 前記マクロマーの分子量が、少なくとも4000ダルトンである、項目1に記載のマクロマー。
(項目25) 項目1に記載のマクロマーまたはその混合物の水溶液から形成されるゲルであって、ここで、前記架橋可能基が、共有結合的に架橋されている、ゲル。
(項目26) 生物学的に活性な物質をさらに含む、項目25に記載のゲル。
(項目27) 項目26に記載のゲルであって、ここで、前記生物学的に活性な物質が、粒子、ミクロ粒子、プロドラック結合体、またはリポソームからなる群より選択される形態で提供される、ゲル。
(項目28) 項目25に記載のゲルであって、ここで、上述のゲルは、温度、pH,イオン強度およびイオン組成からなる群より選択される1以上の効果に応答して透過性が変化する、ゲル。
(項目29) 項目25に記載のゲルであって、上述のゲルが、生物学的組織の表面の上に形成される、ゲル。
(項目30) 項目25に記載のゲルであって、上述のゲルが、医学デバイスの表面の上に形成される、ゲル。
(項目31) 項目25に記載のゲルであって、上述のゲルが、対抗する表面の間で形成されて、それによって、上述の表面に接着する傾向がある、ゲル。
(項目32) 医学状態を処置する方法における項目1に記載のマクロマーの使用であって、上述の方法は、前記ゲル形成マクロマーの水溶液をインビボで組織に塗布する工程を包含する、使用。
(項目33) 項目32に記載の使用であって、ここで、前記水溶液が、生物学的活性な物質の溶液または懸濁液を含む、使用。
(項目34) 項目33に記載の使用であって、ここで、前記医学的状態が、皮膚の熱傷または擦過傷である、使用。
(項目35) 項目33に記載の使用であって、ここで、前記医学的状態が、外科的介入により乱された組織である、使用。
(項目36) 項目35に記載の使用であって、ここで、前記手術が、血管形成法である、使用。
(項目37) 項目35に記載の使用であって、ここで、前記手術が、トロカールのカニューレを介して実施される、使用。
(項目38) 生物学的に活性な物質の送達速度を制御するための方法であって、上述の方法は、上述の活性な物質をゲル形成マクロマーの溶液と接触させる工程および上述のマクロマーを共有結合的に架橋させてゲルを形成する工程を包含し、ここで、上述のマクロマーが、少なくとも4つのブロックおよび少なくとも1つの共有結合的架橋可能基を含み、ここで、少なくとも2つの上述のブロックは、疎水性であり、そして、上述のブロックのうちの少なくとも2つが、親水性である、方法。
(項目39) 項目38に記載の方法であって、前記架橋したゲルが、温度の変化、イオン強度の変化およびpHの変化からなる群より選択される1以上の効果に応答して透過性が変化する、方法。
(項目40) 項目38に記載の方法であって、ここで、少なくとも1つの疎水性ブロックが、水溶液中で凝集して、疎水性ドメインを形成する、方法。
(項目41) 項目40に記載の方法であって、ここで、前記ドメインの疎水性は、前記ブロックの疎水性を選択することによって制御される、方法。
(項目42) 項目40に記載の方法であって、ここで、前記ドメインの疎水性は、前記ゲル形成マクロマー溶液に疎水性物質を添加することによって制御される、方法。
(項目43) 項目38に記載の方法であって、ここで、前記活性物質が、ミクロ粒子の形態である、方法。
(項目44) 前記ゲルは、架橋の後にミクロ粒子を形成する、項目38に記載の方法。
(項目45) 項目1に記載のマクロマーであって、少なくとも2つの親水性ブロックをさらに含む、マクロマー。
(項目46) 薬学的に受容可能なキャリア中に提供される、項目1に記載のマクロマー。
(項目47) 項目46に記載のマクロマーであって、上述のマクロマーは、非経口投与に適したキャリア中に提供される、マクロマー。
(項目48) 項目32に記載の使用であって、ここで、前記マクロマーが、少なくとも2つの親水性ブロックを含む、使用。
(項目49) 項目32に記載の使用であって、ここで、前記マクロマーが、薬学的受容可能なキャリア中の組織に適用される、使用。
(項目50) 項目49に記載の使用であって、前記マクロマーが、非経口投与のための薬学的に受容可能なキャリア中に提供される、使用。
【0009】
(発明の要旨)
水溶液中でゲル化し得るマクロマーが提供される。1つの実施態様において、マクロマーは、少なくとも4つのポリマーのブロックを含み、そのうちの少なくとも1つが親水性であり、そしてそのうちの少なくとも2つが疎水性であり、そして架橋可能な基を含む。このポリマーブロックは、異なる選択された特性を有するマクロマーを提供するように選択され得る。マクロマーは共有的に架橋されて、インビボで組織表面上でゲルを形成し得る。マクロマーから形成されたゲルは、感熱性、親油性を含む特性の組合せを有し、そして薬物送達および組織被覆を含む種々の医学的適用において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
架橋可能で、制御薬物送達のマトリックスとして有用なヒドロゲルを形成できるマクロマーが提供される。好ましい実施態様において、生分解性マクロマーは、薬学的に受容可能なキャリア中に提供され、そして共有結合的もしくは非共有結合的に架橋可能であり、熱応答性のヒドロゲルを形成し得る。生物学的に活性な試剤は、マクロマー溶液中に、または架橋後に得られるヒドロゲル中に取り込まれ得る。ヒドロゲルは、温度に依存する特性(例えば容積および薬物放出速度)を有する。ヒドロゲルは、インサイチュ(例えば、組織部位)で形成され得、そして生活性物質の制御された送達のために、そして組織コーティングとして使用され得る。ヒドロゲルを形成するために使用されるマクロマーは、疎水性、親水性、感熱性もしくは生分解性、およびそれらの組み合わせから選択される特定の性質を有するドメインを含むように製造され得る。
【0011】
マクロマー
イオン的または共有結合的に架橋可能で、ヒドロゲルを形成するマクロモノマー(「マクロマー」)は、好ましくはブロックコポリマーからなる。マクロマーは水溶液から素早く重合され得る。マクロマーは、有利に熱可逆性ゼラチン挙動をし得、そして好ましくは、溶液状態またはゲル状態で重合され得る。マクロマーは、水を吸収し得る親水性ブロック、およびこの親水性ブロックから異なる少なくとも1つのブロックを含むものとして定義される。これは、生理学的に適合可能な範囲もしくはその範囲付近の温度(例えば、0〜65℃)で、好ましくは塩、緩衝剤、薬物もしくは重合試薬を含む水からなる水溶液から沈殿するほど十分に疎水性であり、またはそうでなければその間で相が変化する。親水性ブロックは、必要に応じて、両親媒性ブロックであり得る。マクロマーは、1つより多くの、同一もしくは異なる親水性領域または疎水性領域を含み得る。好ましくは、マクロマーは、少なくとも3つのブロックを含み、より好ましくは4つのブロックを含む。
【0012】
ブロックコポリマーは、直線状(AB、ABA、ABABA、またはABCBAタイプ)、星型(AnBまたはBAnC、ここでBは、少なくともn-価であり、そしてnは3〜6である)、あるいは枝分かれ状(1つのBに依存する複数のA)である。これらの式において、AまたはBのいずれか一方は、親水性ブロックであり得、そして他方は、両親媒性または親水性ブロックであり得、そして付加的なブロックCは、いずれであっても良い。
【0013】
別の実施態様において、マクロマーは、少なくとも4つの共有結合的に結合したポリマーブロックを含み、ここで:少なくとも1つ(あるいは別の実施態様においては少なくとも2つ)のブロックが親水性であり、そして親水性ブロックはそれぞれ、少なくとも1グラム/リットルの水溶性を有し;少なくとも2つのブロックは、水性連続相において凝集してミセルを形成するほど十分に疎水性であり;そしてマクロマーはさらに、少なくとも1つの架橋可能な基を含む。架橋可能な基は、生理学的条件下で分解し得る少なくとも1つの分解可能な結合により必要に応じて分離され得る。1つの実施態様において、少なくとも1つの疎水性ブロックは、少なくとも1つの親水性ブロックにより、任意の反応性基から分離され得る。
【0014】
マクロマーは、さらに、同一もしくは異なる特性(例えば、感熱性、親水性または疎水性)を有する、合計5つのブロックを含み得る。各ブロックはまた、特性の組み合わせを有し得る。例えば、ブロックは、親水性かつまた感熱性であり得る。さらに、マルチブロックマクロマーは、化学的に異なるブロックを含み得、または1つより多くの同じ同一の(the same identical)ブロックを取り込み得る。マクロマーは、様々な用途に適切な構造および特性を有するように製造される。例えば、マクロマーは、約30個の炭素原子の炭化水素主鎖および感熱性ポロキサマー(例えば、PluronicL1050)とエステル化される2つの末端カルボキシ基を含む、2量体脂肪酸の中心ブロックを含み得る。この中心分子は、各ヒドロキシ末端において、さらにポリラクテート化され、そしてアクリロイルクロライドにより末端キャップ化される。別の実施態様は、各末端で重合されたポリヒドロキシ基を含むポロキサマーであり、そしてここで、分子は、反応性基(例えば、アクリレートまたは2級イソシアネート)により各末端において末端キャップ化される。
【0015】
マクロマーのコンフィギュレーションは、マクロマーの用途に依存して、予め選択(preselect)され得る。マクロマーは、親水性ブロックで分割される、少なくとも2つの疎水性ブロックを含み得る。マクロマーはまた、分解可能な基で他の任意の架橋可能な基から分割される架橋可能な基を有するように製造され得る。1つの好ましい実施態様では、乾燥マクロマーは、少なくとも水重量の約10%を吸収する。マクロマーの分子量は、好ましくは、少なくとも1000ダルトンであり、または必要に応じて、少なくとも2000ダルトンであり、または別の実施態様においては、少なくとも4000ダルトンである。
【0016】
好ましい実施態様において、マクロマーは、少なくとも1つの感熱性領域を含み、そしてマクロマーの水溶液は、イオン的にゲル化し得、そして/または共有結合的架橋によりゲル化し得、温度依存性容積を有するヒドロゲルを生産する。このことは、ヒドロゲル中に取り込まれる薬物の放出速度を、ヒドロゲルの容積に応じて変化させることを可能にする。有用なマクロマーは、例えば、少なくとも2重量%の濃度でマクロマーの水溶液が熱可逆的にゲル化し得るものであり、そしてここで、ゲル化温度は、約0℃と約65℃との間である。マクロマーはまた、0℃〜100℃の範囲で相転移温度を有し得、そしてここで、転移温度は、マクロマー水溶液のイオン組成または水溶液中のマクロマー濃度に影響される。
【0017】
マクロマーは、先行技術に記載の物質および方法の改変により形成され得る。各末端にオリゴマー性ヒドロキシ酸およびヒドロキシ酸オリゴマーの末端にアクリル酸エステルを有する、ポリエチレングリコールの主鎖(central chain)を有するマクロマーは、Sawhney A.S.ら、Macromolecules、26:581(1993);およびHubbellJ.A.らのPCT WO93/17669に記載されている。これらの開示は、本明細書中で参考として援用される。Hubbellらの米国特許第5,410,016号(この開示は、本明細書中で参考として援用される)は、生分解性の水溶性マクロマーがインサイチュで架橋し、生物学的に活性な薬剤(例えば、治療剤)の送達のためにバリアコーティングおよび蓄積所またはマトリクスを形成し得ることを開示している。米国特許第5,410,016号に記載の物質および方法に加えて、Dunn(米国特許第4,938,763号)、DeLuca(米国特許第5,160,745号および第4,818,542号)、Zalipsky(米国特許第5,219,564号)、Cohn(米国特許第4,826,945号)、Nair(米国特許第5,078,994号および第5,429,826号)(これらの開示は、本明細書中で参考として援用される)により記載される物質および方法は、本明細書に記載のマクロマーを形成するのに有用である。
【0018】
例えば、マクロマーは、疎水性物質で伸長されたポロキサマーバックボーン(例えば、オリゴラクテート部分)を含み得る。これは、分子の生分解性セグメントとして働き、ここで、PEO-PPO-PEO-ラクテートコポリマーはアクリレート部分により停止される。物質は、結合され、次いで送達され、そしてインサイチュで標的器官上で光重合され、特定の形状に適合され得る。
【0019】
そこから形成されたマクロマーおよびヒドロゲルは、好ましくは生体適合性であり、好ましくは哺乳動物にインプラントまたはさもなければ投与される場合、生物学的反応を引き起こしもせず促進もしない。マクロマー、ならびにヒドロゲルまたはマクロマーの任意の分解(breakdown)生成物は、好ましくは生存細胞または有機体に対して顕著に毒性でない。ヒドロゲルはまた、例えば、高濃度で液晶特性を有し得、これは薬剤送達速度を制御するのに有用である。イオン性特性は、マクロマーのバックボーンに提供され得、マクロマーまたはゲルのイオン性環境(pHを含む)の制御により、送達および/または物理状態のさらなる制御特性を与える。1つの実施態様において、重要なイオン組成は、水素イオン濃度である。例えば、ポロキサミン(例えば、Tetronic界面活性剤)がマクロマーのコアとして使用される場合、次いで得られるマクロマーはコアにイオン性基(アミン)を有し、そして温度変化の際のマクロマーのゲル化能力は、溶液のpHにより影響を受ける。
【0020】
感熱性領域
マクロマーには、熱応答性である特性を有する1つ以上の領域が提供され得る。本明細書中で使用されるように、熱応答性は、ヒドロゲルの特性(例えば、体積、液体からゲルへの転移、および生物学的に活性な薬剤に対する浸透性)を含むように定義される。これらの特性は、ヒドロゲルの温度に依存する。1つの実施態様において、マクロマーは、可逆的にゲル化し得、このゲル化は温度により制御される。可逆性ゲルは、さらに必要に応じて、インサイチュで不可逆的かつ共有結合的に架橋したゲルに架橋され得る。これにより、ゲル化または架橋前に体液により流出することも、洗い流されることもなく、外科適用において特定の組織領域にマクロマーを確実に適用することが可能となる。
【0021】
1つの好適な実施態様において、マクロマーは、例えば、ポロキサマー領域の容量により熱可逆的にゲル化し得る。ゲル化は熱可逆的であるので、ゲルは冷却すると散逸する。マクロマーは、架橋可能な基をさらに含み得、これにより、ゲルが、例えば、光重合によりさらに共有結合的に架橋され得る。架橋後、ゲルは不可逆的に架橋される。しかし、それらは他の重要な熱応答特性(例えば、体積変化および浸透性の変化)を保持する。
【0022】
マクロマー組成を適切に選択することにより、温度に依存する感熱特性(体積変化および薬剤放出を含む)を有するヒドロゲルはインサイチュで作製され得、これはヒドロゲルからの薬剤送達を制御するために使用され得る。薬剤送達の制御は、特性(例えば、ゲル中の両親媒性領域または他の領域の疎水性)の調整によりさらに制御され得る。ヒドロゲルの体積変化は、温度のエクスカーションの間に巨視的な抑制されていないサンプルの試験により容易に測定され得る。100%を超える体積変化は、約30%のPPO(ポリプロピレンオキシド)容量のアクリレートキャップ(acrylate-capped)ポリグリコリド誘導体化ポロキサマーのようなマクロマーから形成されたヒドロゲルを用いて得られ得る。膨張は、約0℃から体温(37℃)までの温度変化につれて徐々に起こる。任意の直線寸法の5%より大きい変化は、高分子薬剤の放出速度の変化に効果的であり得る。
【0023】
マクロマーは、好ましくは熱ゲル化(thermogelling)マクロマー(すなわち、「ポロキサマー」、すなわち、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)(「PEO-PPO-PEO」)ブロックコポリマー)を含む。ポロキサマーのポリマー性水溶液は、上方臨界溶液温度で微相(microphase)転移を行い、特徴的なゲル形成が生じる。この転移は、ブロックコポリマーの濃度および組成に依存する。Alexandridisら、Macromolecules、27:2414(1994)。分子のセグメントのポリエーテル部分は、水溶性および感熱性を与える。物質はまた、生体適合性であることが有利に示されている。
【0024】
例えば、マクロマーは、疎水性物質で伸長されたポロキサマーバックボーン(例えば、オリゴラクテート部分)を含み得る。これは、分子の生分解性セグメントとして働き、ここで、PEO-PPO-PEO-ラクテートコポリマーはアクリレート部分により停止される。物質は、生物活性薬剤と結合され、次いで送達され、インサイチュで光重合され得る。ポロキサマーコアに加えて、メロキサポール(例えば、「逆の(reversed)Pluronics」(PPO-PEO-PPOコポリマー))およびポロキサミン(例えば、TetronicTM界面活性剤)が使用され得る。
【0025】
モノマーに提供され得、温度依存的に体積変化し得る他のポリマーブロックとしては、水溶性ブロック(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニル−ピロリドン、ポリアクリル酸、エステルおよびアミド)、可溶性セルロース、ペプチドおよびタンパク質、デキストランおよび他のポリサッカリドが挙げられる。さらに、上方臨界点を有するポリマーブロック(例えば、他のポリアルキレンオキシド、混合ポリアルキレンオキシドおよびエステル、誘導体化セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびコンニャクグルコマンナンのような天然ゴム)が使用され得る。
【0026】
別の実施態様において、マクロマーは、約0℃と65℃との間の温度にて、水溶液中へのマクロマーの最大溶解度以下での濃度で光学的異方相を有すると定義される。
【0027】
架橋可能な基
マクロマーは、好ましくは、他の化合物と共有結合を形成し得るが、マクロマーの熱依存性ゲル化の後またはマクロマーの熱依存性ゲル化とは別に、水溶液中でマクロマーが架橋してゲルを形成することを可能にする架橋可能な基を有する。当該分野で公知の化学的またはイオン的に架橋可能な基がマクロマーに提供され得る。1つの好ましい実施態様における架橋可能な基は、フリーラジカル生成による光開始により重合可能であり、最も好ましくは、可視または長波長紫外線照射において重合可能である。好ましい架橋可能な基は、ビニル基、アリル基、シンナメート、アクリレート、ジアクリレート、オリゴアクリレート、メタクリレート、ジメタクリレート、オリゴメタクリレート、または他の生物学的に受容可能な光重合可能な基を含む不飽和基である。
【0028】
用いられ得る他の重合化学には、例えばアミンまたはアルコールとイソシアネートまたはイソチオシアネートとの反応、あるいはアミンまたはチオールとアルデヒド、エポキシド、オキシラン、または環状イミンとの反応が挙げられる;ここで、アミンまたはチオール、または他の反応物、あるいは両方は、マクロマーに共有結合し得る。共有重合系(covalent polymerization system)の混合物もまた包含され得る。スルホン酸基またはカルボン酸基が用いられ得る。
【0029】
好ましくは、マクロマーの少なくとも一部は、1つより多い架橋可能な反応性基を有し、マクロマーの架橋の後のコヒーレントな(coherent)ヒドロゲルの形成を可能にする。100%までのマクロマーは、1つより多い反応性基を有し得る。代表的には、合成において、百分率は50〜90%(例えば、75〜80%)のオーダーである。この百分率は、ただ1つの活性基を含むコモノマーを少量添加することにより、低減され得る。架橋剤濃度の下限は、特定のマクロマーの特性および全マクロマー濃度に依存するが、反応性基の全モル濃度は、少なくとも約3%である。より好ましくは、架橋剤濃度は少なくとも10%であり、50%〜90%のようなより高い濃度は、多くの薬物を最大に遅延させるのに最適である。必要に応じて、架橋性官能基の少なくとも一部分は、低分子量架橋剤により提供され得る。送達されるべき薬物が高分子である場合、多価マクロマーのより高い範囲(すなわち、1つより多い反応性基を有する)が好ましい。ゲルが生分解性である場合(これは多くの適用において好ましい)、架橋性反応性基は、生分解性結合により互いに分離されるはずである。インビボ条件下で生分解性であることが知られている任意の結合(例えば、分解性ポリマーブロック)が適切であり得る。化学的活性および/または光活性である開始剤を用いたフリーラジカル重合により架橋されたエチレン性不飽和基の使用は、架橋可能な基として好ましい。
【0030】
マクロマーはまた、マクロマーに共有結合したイオン的に帯電した部分を含み得、これは必要に応じて、マクロマーのゲル化または架橋を可能にする。
【0031】
疎水性領域
マクロマーはさらに、疎水性ドメインを含み得る。ゲルの疎水性は改変されて、薬物送達またはゲルの3次元構造を改変し得る。両親媒性領域がマクロマー中に供給され得、これは水溶液中で、これらのドメイン(「コア」)の内部で配向した疎水性領域とともに、凝集してミセルドメインを形成する傾向があり、一方、親水性ドメインは、外部(「コロナ」)上で配向する。微視的な「コア」は、疎水性薬物をエントラップ(entrap)し得、これにより維持された薬物放出のためのミクロレザバー(microreservoir)を提供する。Kataoka K.ら、JControlled Release, 24:119 (1993)。水溶液中の両親媒性ポリマーのこのような分子の集合における主要なパラメータは、臨界ミセル濃度(CMC)であり、これは溶解した高分子が自己集合(self-assemble)し始める最も低い濃度であると定義され得る。親水性および他のドメインの選択により、薬物送達が制御および増強され得る。
【0032】
1つの実施態様では、マクロマーに少なくとも1つの疎水性ゾーンが供給され、そして疎水性材料が結合する傾向にありそれにより形成したゲルから薬物が逃げることを低減する傾向がある領域を含むミセルを形成し得る。疎水性区域は、ポリマーを含む材料(例えば、脂肪酸、炭化水素、脂質、またはステロール)の添加により増強され得、この材料は、ゲルネットワークの形成には寄与しないが、このようなゾーンを分離してそれらの特性を増強する。
【0033】
ミセル疎水性中心を形成するための1つの実施態様におけるマクロモノマーの性能は、疎水性の生活性化合物の制御された溶解を可能にするだけでなく、ヒドロゲルが転移温度付近の周辺で選択的に「拡張」および「収縮(contract)」することも可能にする。このことは、感熱性の薬物送達を可能にする「オン-オフ」熱制御スイッチを提供する。
【0034】
細胞膜は、内部領域が疎水性である二重層からなる。この二重層は、流体および動的な構造(すなわち、疎水性分子がこの構造の周囲で動き得る)を有すると考えられている。マクロマーに組み入れられた疎水性の尾は、この脂質二重層内へ拡散し得、そしてマクロモノマー(従って、ヒドロゲル)の残りが組織表面に良好に接着することをもたらす(図11を参照のこと)。疎水性の尾として用いられるべき分子基の選択は、二重層の脂肪酸組成によりガイドされ、二重層構造の混乱を最少にすることを確実にする。適切な基の例は、脂肪酸、ジアシルグリセロール、ホスファチジルセリンなどの膜由来の分子、および多環式炭化水素および誘導体(例えば、コレステロール、コリン酸、ステロイドなど)である。この目的のために好ましい疎水性基は、人体の一般的な成分である。これらの分子は、膜中の天然分子と比較して低い濃度で用いられる。
【0035】
1つより多い疎水性基を有するマクロマーの使用は、脂質二重層中でヒドロゲルのセグメントを係留(anchoring)することにより、ヒドロゲルの生物学的材料への接着性を改善し得る。この係留は、下にある組織に対して引き起こす混乱が最少である。なぜなら、脂質膜へのマクロマーの脂肪酸末端の挿入は、純粋に物理的相互作用を含むからである。マクロマーは、これらの分子を用いる表面のプレウォッシュを用いることによって、実際には、これらの脂質貫通分子の混合物と架橋可能なマクロマーとのカップリングおよび/またはインサイチュ光重合のための表面を「調製」することによって適用され得る。
【0036】
疎水性領域には、ヒドロキシ酸(乳酸またはグリコール酸など)のオリゴマー、あるいはカプロラクトン、アミノ酸、無水物、オルトエステル、ホスファジン、ホスフェート、ポリヒドロキシ酸のオリゴマーあるいはこれらのサブユニットのコポリマーが挙げられ得る。さらに、疎水性領域は、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ブチレンオキシド)、または疎水性非ブロック混合ポリ(アルキレンオキシド)、あるいはそれらのコポリマーから形成され得る。生分解性疎水性ポリ無水物は、例えば、米国特許第4,757,128号、同第4,857,311号、同第4,888,176号、および同第4,789,724号に開示され、それらの開示は、本明細書中で参考として援用される。例えば、ポリL-ラクチド、またはポリD,L-ラクチドが用いられ得る。別の実施態様において、疎水性領域は、ポリエステルであり得、これは、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)のコポリマーである。
【0037】
マクロマーはまた、非共有結合的にマクロマーと会合した疎水性材料を含む混合物として提供され得、ここで、疎水性材料は、例えば、炭化水素、脂質、脂肪酸、またはステロールである。
【0038】
親水性領域
当該分野で有用な水溶性親水性オリゴマーは、生分解性マクロマーに組み入れられ得る。親水性領域は、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)のポリマーブロック、あるいは多糖、あるいはヒアルロン酸、デキストラン、ヘパランスルフェート、コンドロイチンスルフェート、ヘパリン、またはアルギン酸のような炭水化物、あるいはゼラチン、コラーゲン、アルブミン、オボアルブミン、またはポリアミノ酸などのタンパク質であり得る。
【0039】
生分解性領域
当該分野で有用な生分解性分子またはそのポリマーは、マクロマーに組み入れられ得る。生分解性領域は、好ましくはインビボ条件で加水分解可能である。いくつかの実施態様では、異なる特性(例えば、生分解性と疎水性または親水性)が、マクロマーの同一の領域に存在し得る。
【0040】
有用な加水分解可能基には、グリコリド、ラクチド、ε-カプロラクトン、他のヒドロキシ酸のポリマーおよびオリゴマー、ならびに体内で無毒性であるかまたは一般的な代謝物として存在する材料を産生する他の生分解性ポリマーが挙げられる。好ましいポリ(α-ヒドロキシ酸)は、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL-乳酸)、およびポリ(L-乳酸)である。他の有用な材料には、ポリ(アミノ酸)、ポリカーボネート、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファジン)、およびポリ(ホスホエステル)が挙げられる。例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(σ-カプロラクトン)、ポリ(σ-バレロラクトン)およびポリ(γ-ブチロラクトン)のようなポリラクトンもまた有用である。生分解性領域は、1から実質的に水溶性ではない生成物を生成する値までの重合度を有し得る。従って、モノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、およびポリマー領域が用いられ得る。
【0041】
生分解性領域は、生分解に感受性である結合(例えば、エステル結合、ペプチド結合、無水物、オルトエステル結合、ホスファジン結合、およびホスホエステル結合)を用いたポリマーまたはモノマーから構成され得る。ポリマーが分解するのに必要とされる時間は、適切なモノマーを選択することにより調節され得る。結晶性の差異はまた、分解速度を変化させる。比較的疎水性であるポリマーについては、実際の重量損失は、オリゴマーフラグメントが水溶性になるために十分小さい場合のみに開始する。従って、最初のポリマーの分子量は、分解速度に影響を及ぼす。
【0042】
治療的適用
生分解性で熱応答性であるヒドロゲルは、インサイチュで形成され得、そして外科手術的適用を含む種々の治療的適用において用いられ得る。1つの実施態様では、ゲルは皮膚に局所的に塗布されて、すり傷、角化症、炎症性皮膚炎、外科手術的手順により生じた外傷、および障害をうけた(disturbed)角化症のような種々の症状を処置し得る。ヒドロゲルは、異なる皮膚の症状の局所的処置のために、抗生物質または抗真菌剤のような治療薬を含み得る。
【0043】
室温で液状であり、かつ体温でゲル状であるマクロマー(例えば、PluronicTMポロキサマーを含むマクロマー)は、火傷および他の外傷の処置に使用され得る。ヒドロゲルは火傷への適用に有用である。なぜなら、皮膚上で形成されたヒドロゲル層は、火傷部分に薬物の局所的または経皮的な送達を供給し;重篤に火傷を負った部分上で高い湿度レベルを維持して脱水を低減し;損傷を受けた組織に強力に接着して(これは弾性を有する)ヒドロゲルで手当てした部分(dressing)の剥離および「ピーリング」を最少化し;そして傷からの滲出液を吸収するからである。ヒドロゲルは、吸収可能でかつ無毒性である組成物に溶解するように、治癒を促進するように、かつ必要に応じたさらなる架橋の前に火傷の部分上で自発的かつ迅速にゲル化(gel)するように選択され得る。
【0044】
マクロマーはまた、組織または器官の処置のための種々の外科手術的適用において、生物学的組織または医学的デバイスの表面上に塗布されて、ヒドロゲルを形成し得る。ゲルはまた、組織表面のような2つの表面の間に塗布されて、表面を接着し得る。ヒドロゲルは、例えば動脈の再狭窄または血管形成手順における処置のために、血管組織などの組織に塗布され得る。生物学的に活性な物質は、必要に応じて粒子、微粒子、プロドラッグ結合体、またはリポソームの形態でゲル中に供給され得る。マクロマーは、架橋したゲルが温度変化、イオン濃度、またはpH変化に応じて透過性を変化させ、それによってヒドロゲルからの薬物放出速度を変化させるように設計され得る。
薬物送達
マクロマーは可逆的または不可逆的に架橋し、制御された薬物送達用途のゲルを形成し得る。マクロマーの組成および特性は、所望の薬物送達特性を有するヒドロゲルを生産するために選択されそして作製され得る。薬物は、マクロマー組成に依存して、投与の前または後に、そしてゲル形成の前または後のいずれかにマクロマー溶液中に提供され得る。
【0045】
例えば、ゲルは、1次または0次の薬物放出速度のような薬物放出の選択的速度を有するように設計され得る。特定の薬物(例えば、ペプチド)については、ゲルの組成は、最大の薬物効率を得、かつ副作用および耐性の発生を最小にするために、拍動性または混合波動放出(mixed wave release)特性を生じるように設計され得る。Baeら、Pharmaceutical Research,8:531(1991)。
【0046】
薬物放出プロフィールは、超音波、温度、pHまたは電流のような特定の外的刺激に応答してそれらから形成されるマクロマーおよびゲルを使用して選択され得る。例えば、これらのヒドロゲルの膨潤の程度およびサイズは調節され得る。膨潤時に引き起こされる変化は、組み込まれた薬物の放出速度に直接関係する。それにもかかわらず、特定の放出プロフィールが得られ得る。投与またはインプラント後の除去を必要としないように、好ましくは、ヒドロゲルは生分解性である。
【0047】
このゲルは、薬物送達および生物学的な活性剤の放出を、処置されるべき組織が局在化する場合に、必要とされる標的部位にて局所的に、予測可能かつ制御された様式で制御し得る。他の実施態様においては、ゲルはまた、全身送達に使用され得る。
【0048】
種々の治療薬は、このヒドロゲルを用いて送達され得る。その例としては、治療活性、予防活性または診断活性を有する、合成無機および有機化合物、タンパク質およびペプチド、多糖類および他の糖類、脂質、ガングリオシド、ならびに核酸配列が挙げられる。核酸配列としては、遺伝子、相補的DNAに結合して転写を阻害するアンチセンス分子、およびリボザイムが挙げられる。組み込まれるべき薬物は、種々の生物学的活性(例えば、血管作用剤、神経作用剤、ホルモン、抗凝固剤、免疫調節剤、細胞傷害剤(cytotoxicagent)、抗生物質、抗ウイルス剤、アンチセンス、抗原、および抗体)を有し得る。タンパク質(抗体または抗原を含む)もまた送達され得る。タンパク質は100以上のアミノ酸残基から構成されるものとして定義され;ペプチドは100未満のアミノ酸残基である。他に言及しない限り、タンパク質という用語は、タンパク質およびペプチドの両方をいう。例として、インシュリンおよび他のホルモンが挙げられる。
【0049】
特定の材料として以下が挙げられる:抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤(ステロイド系および非ステロイド系)、抗腫瘍剤、抗痙攣剤(チャネルブロッカーを含む)、細胞−細胞外マトリックス相互作用の調節剤(細胞成長インヒビターおよび抗接着分子を含む)、酵素および酵素インヒビター、抗凝固剤および/または抗血栓剤、成長因子、DNA、RNA、DNA合成、RNA合成またはタンパク質合成のインヒビター、細胞移動、細胞増殖およびまたは細胞成長を調節する化合物、血管拡張剤、ならびに組織に対する傷害の治療に通常用いられる他の薬物。これらの化合物の特定の例として、以下の化合物が挙げられる:アンジオテンシン変換酵素インヒビター、プロスタサイクリン、ヘパリン、サリチレート、ナイトレート、カルシウムチャネルブロッキング剤、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)およびアニソイル化(anisoylated)プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、およびアニソイル化プラスミノーゲン−ストレプトキナーゼアクチベーター複合体(APSAC)、コルヒチンおよびアルキル化剤、ならびにアプトマー(aptomer)。細胞相互作用の調節剤の特定の例としては、インターロイキン、血小板由来成長因子、酸性および塩基性繊維芽細胞成長因子(FGF)、形質転換成長因子β(TGFβ)、表皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子、およびそれらの抗体が挙げられる。核酸の特定の例としては、タンパク質をコードする遺伝子およびcDNA、発現ベクター、アンチセンス、ならびに他のオリゴヌクレオチド(例えば、遺伝子発現を調節または阻害するために用いられ得るリボザイム)が挙げられる。他の生物活性剤の特定の例としては、改変細胞外マトリックス成分またはそのレセプターならびに脂質およびコレステロールの金属イオン封鎖剤が挙げられる。
【0050】
タンパク質の例として、さらに、インターフェロンおよびインターロイキンのようなサイトカイン、ポエチン(poetin)、ならびにコロニー刺激因子が挙げられる。炭水化物として、セレクチンに対するレセプターに結合して炎症を阻害することが示されているSialylLewisxが挙げられる。細胞または組織の成長因子である「送達可能な成長因子等価物」(DGFEと略称される)が用いられ得る。これらは広く、次のものを含むと解釈される。つまり、成長因子、サイトカイン、インターフェロン、インターロイキン、タンパク質、コロニー刺激因子、ジベレリン、オーキシン、およびビタミンを含み、さらに、上記ペプチドフラグメントまたは他の活性フラグメントなどを含み;そしてさらに、ベクター(すなわち、標的細胞中で形質転換または一過性発現によりそのような因子を合成し得る核酸構築物)を含み;そしてさらに、組織中でこのような因子の合成を刺激または抑制するエフェクター(天然のシグナル分子、アンチセンスおよび3重鎖の核酸などを含む)などを含むと解釈される。DGFEの例は、血管内皮成長因子(VEGF)、内皮細胞成長因子(ECGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、骨形態形成タンパク質(bonemorphogenetic protein)、および血小板由来成長因子(PDGF)、ならびにこれらをコードするDNAである。血塊溶解剤の例には、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、およびヘパリンがある。
【0051】
抗酸化活性を有する(すなわち、活性酸素を破壊するかまたはその形成を防止する)薬物は、ヒドロゲル中にて提供され得、これらの薬物は、例えば、接着の予防に有用である。例として、スーパーオキシドジムスターゼ、または他のタンパク質薬物(カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、および一般的なオキシダーゼまたはチトクローム P450のような酸化酵素、グルタチオンペルオキシダーゼ、ならびに他の天然または変性ヘムタンパク質を含む)が挙げられる。
【0052】
哺乳動物ストレス応答タンパク質もしくは熱ショックタンパク質(例えば、熱ショックタンパク質70(hsp 70)およびhsp 90)、またはストレス応答タンパク質または熱ショックタンパク質の発現を阻害もしくは減じるように作用する刺激(例えば、プラボノイド)は、ヒドロゲル中にて提供され得る。
【0053】
マクロマーは、当該分野で公知の薬学的に受容可能なキャリア(例えば、生理食塩水またはリン酸緩衝化生理食塩水)中にて提供される。例えば、非経口投与に適切なキャリアが使用され得る。
マクロマーの投与
侵襲性が最小の外科用デバイスを用いて種々の器官へのアクセスを提供する現代の外科手順を使用して、マクロマーを付与し得る。腹腔鏡検査法/内視鏡検査法のような技術を用いて、マクロマー溶液を局部に配置し、次いで体内で重合させることが可能である。この「オンサイト(on-site)」重合法は、特定の器官との適合および下にある組織への接着などのユニークな利点を提供する。Hill-West J. L.ら、Obstetrics& Gynecology, 83:59(1994)。当該分野で利用可能なカテーテル送達系もまた、例えば、米国特許第5,328,471号および同5,213,580号(Slepian)に記載されるように用いられ得る。マクロマーはまた、外套針のカニューレにより行われる外科手術の間にも付与され得る。
マイクロスフェアの形成
1つの実施態様では、生分解可能なマクロマーは、可逆的または不可逆的に架橋されて、マイクロスフェアを形成する。本明細書中に使用される用語「マイクロスフェア」は、一般的にナノメートルの値域から約5mmまでの直径を有する単一の球状形態または不規則な形状を有する粒子およびマイクロカプセル(これはコアとポリマーの外層とを有する)を含む。好適な実施態様では、マイクロスフェアは、生体適合性、生分解性のヒドロゲルマトリックス中に分散する。マイクロスフェアは、放出の制御および体内における薬物送達の標的化に有用である。
【0054】
1つの実施態様において、マイクロスフェアは、親水性のような電荷特性に関して類似であるマクロマー部分の凝集、そしてそれに続く重合により形成される。これにより、自然発生的に集合した「ノード(node)」から構成されるマトリックスとなり、これは、共有結合的に架橋し得、そしてマクロマーの親水的なブリッジに共有結合的にさらに連結して、ヒドロゲルを形成し得る。
【0055】
マクロマーが両親媒性であり、そして疎水的ドメインおよび親水的ドメインを含む場合、特定の濃度またはそれ以上の濃度では、水性環境において、複数の分子自身が臨界ミセル濃度(CMC)でミセルと呼ばれる組織的構造に変化する。これらのミセルは、異なる形状およびサイズであり得るが、一般的には球形または楕円形である。溶液が水である場合、疎水的部分がミセルの中心に存在し、一方で、親水性のテールが水に向かって配向する。代表的な界面活性剤の内部コアは10〜30オングストロームのサイズを有する。生分解性マクロマーをベースとするPluronicTMポロキサマー(poloxamer)は、実施例1に記載されるように、水性環境において、0%〜5%(w/v)の範囲のCMC値でミセル化する。光重合およびゲル化の後、ミセル構造は架橋ゲル中に保持される。微視的なレベルでは、ゲルは、ミセル(共有結合によって組み込まれてゲルを形成する)を含む。これらのミセルドメインまたはマイクロスフェアは、薬物の放出を制御するかまたは持続させるのに用いられ得る。このような物質を模式的に図12に示す。小さい化合物(例えば、クロロヘキシジン)の制御された擬0次の放出が、このようなヒドロゲルから可能である。
【0056】
従って、1つの実施態様では、ヒドロゲルは次のように形成される:水溶液(薬物を含むまたは含まない)中でマクロマー溶液を提供すること;化学反応による化学的架橋により、マクロマーのミセル構造を「凍結」させること;薬物がまだ添加されていなければ、この架橋マクロマーに薬物を添加すること;そして得られた分散複合体(これは、薬物を引き寄せるミセルコアからなるマイクロスフェアを含む)を薬物送達に用いること。
【0057】
光重合の他に、架橋が、例えば、イソシアネート−アミン化学またはヒドロキシ−もしくはアルデヒド−アミン化学によって行われてミセル構造を凍結し得る。例えば、末端がイソシアネート化されたポロキサマーラクテートジオールが水中で反応して架橋ポリウレタンベースの網目を形成し得る。これは、局所的送達または全身送達のための薬物送達デバイスを形成するのに有利な方法である。なぜなら、送達制御マイクロスフェアおよびマイクロスフェアを閉じ込めたゲルの形成が同時に達成され、そしてそれは光重合により数秒で送達部位にて達成され得るためである。
【0058】
1つの実施態様では、マクロマーは、PEOセグメントと、反応性基を有する疎水性の「端部」とを含み、そしてミセルドメインは疎水的であり、そしてPEGセグメントによって内部連結されてヒドロゲルを形成する。可逆的にゲル化するマイクロスフェア形成マクロマーはまた、PluronicsTM(PEG-PPO-PEG)から作製され、ラクチル化され、そしてアクリレートキャップされ得、そしてこれは、非水相中でゲル化され、そして反応し得る。次いで、親水性の薬物が添加され得(疎水性溶媒中で)、これは親水性コアに分配される。ミセルは疎水性環境中で架橋されているので、これらが親水性環境において通常想定されるコンフォメーションに戻ることは不可能である。次いで、トラップされた親水性薬物分子は、比較的疎水的な領域を通って拡散して、ナノ粒子から逃避することが必要である。これは、マイクロスフェアの形成の際のフレキシビリティーを可能にする。これらは、その中でこれらが重合される溶媒およびマクロマー組成に依存して、親水性であっても疎水性であってもよい。
【0059】
他の実施態様では、ヒドロゲル(または、有機ゲル)を形成する物理的または化学的な架橋は、マトリックスの主要な徐放放出特性を担う領域以外の領域で起こる。例えば、「単一末端の(single-ended)」物質は、非ミセル末端に別の反応部位を有し得、これは次いで反応し、ゲルを形成し得る。マトリックス制御薬物送達は、ミセルからの拡散およびマトリックス分解の両方の機能であるので、マクロマー骨格の操作もまたマトリックス分解の制御を調節し得る。これは、化学的および物理的環境による加水分解基の安定化により生じ得る(例えば、水溶液中では、逆PluronicTMゲルをベースとするマクロマーは通常のPluronicTMゲルよりも安定である)。ラクチドエステル結合環境である増強された疎水性により(隣接するブロックがPEOではなくPPOであるので)結合の加水分解が阻害される可能性がある。
【0060】
あるいは、特にゲル形成組成物においては、架橋反応性基または生分解可能な基は、マクロマーの親水性部分内に存在し得る。従って、疎水性領域において、疎水性ドメインは局所的に架橋されないが、ミセルはその物質の架橋によりさらに安定化され、そして、マクロマーの特定の疎水性部分は、1つまたはわずか数個の異なるミセルに立体的に制限される。これらの場合のいずれかにおいては、疎水性領域は強固には架橋されずに親水性ブロックを介して架橋物に連結し、これは非常にフレキシブルであり得る。従って、疎水的ブロックは臨界温度を越えるかまたは下回ると会合し得、そして温度が変化すると解離し得る。これは、例えば、感熱性ゲル化および薬物拡散速度における感熱性変化の両方を可能にする。
【0061】
ヒドロゲルは、ラクチド、グリコリドまたは他の自己分解性の連結基のような基を組込むことにより、生分解性であるように設計され得る。あるいは、これは、非ゲル化ナノスフェアが形成される場合には必要でない。なぜなら、非ゲル化ナノスフェアは、十分小さいためにファゴサイトーシスにより除去されるからである。小分子および大分子の両方の送達速度の制御は、両親媒性ヒドロゲルの、会合する疎水性ドメインの疎水性の制御によって得られ得る。
【0062】
生物学的活性剤を含有する架橋マイクロスフェアは、ゲル形態または分散形態のいずれでも、1工程で作製され得る。薬物送達用途の他に、この方法は、非医療的使用(除草剤および殺虫剤のような農業用材料の送達を含む)および水での処理おいて適切である。
【0063】
本発明は以下の非限定的な実施例を参照することによりさらに理解される。
実施例1:F127-(ラクテート)6-アクリレートの合成および熱応答性
a)合成。
【0064】
F127-(ラクテート)O-アクリレート(非乳酸化コントロール)(=F127A2?)を、60℃にて10分間、アルゴン雰囲気下で、トリエチルアミンおよびアクリロイルクロリドを用いて、無水トルエン中で、100gのアクリル化(acrylating)PluronicTM F127(ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマー、BASF、分子量12000)(「F127」)により合成した。高温の、濁った反応混合物を濾過し、そして濾過物を大過剰のヘキサンに加えた。モノマーを真空濾過により回収し、そして一定の重量まで真空中で乾燥した。
【0065】
F127-(ラクテート)6-アクリレートを以下のように合成した。F127を、100℃にて4時間、真空中で溶融乾燥した。D,L-ラクチド(BoehringerIngelheim)を窒素流下で溶融物に加え、その後開環触媒としてスズオクトエート(stannous octoate)を加えた。4時間の反応時間の後、溶融物をトルエン中に溶解し、そして大過剰のヘキサンで沈殿させた。F127-(ラクテート)6のアクリル化を、F127-(ラクテート)0-アクリレートのアクリル化についての上述のように行った。すべてのマクロモノマーをNMRおよびHPLCによりキャラクタリゼーションした。
【0066】
マクロマー、熱可逆性(物理的)ゲル、および不可逆性(架橋した)ゲルの間の関係を図1に示す。
【0067】
b)濃度および温度の関数としてのゾル-ゲル転移の測定。
【0068】
所定の転移温度におけるマクロモノマーの水溶液の熱可逆性ゲル形成を実証した。この転移温度を、温度および濃度の関数として記録した。結果は、ゾル-ゲル転移が疎水性のラクチル(lactyl)ユニットの組込みを通して制御され得ることを実証した。
【0069】
濃度の関数としての転移温度を、ストック溶液としてのF127-(ラクテート)0-アクリレートおよびF127-(ラクテート)6-アクリレートの20%w/v水溶液の調製により決定した。ストック溶液の希釈により、スクリューキャップバイアル中に、15%(w/v)、12.5%(w/v)、10%(w/v)および5%(w/v)マクロモノマー水?溶液を調製した。この溶液を25℃で平衡化させた。バイアルを逆さにし、そして流体の流れ(fluidflow)を観察した。流体の流れが観察されない場合の濃度を記録した(表1を参照)。
【0070】
温度の関数としての転移温度を、F127-(ラクテート)6-アクリレートおよびF127-(ラクテート)0-アクリレートの10%w/v水溶液の調製および室温でのそれらの平衡化により決定した(溶液の濃度は他に述べない限り水溶液におけるwt/vol%である)。サンプルバイアルを温度制御された浴中に浸漬し、そして流体の流れを異なる温度で観察した。流体の流れが観察されない場合の温度を記録した(表1を参照)。
【0071】
【表1】

【0072】
c)重合およびヒドロゲルの大きさの測定。
【0073】
PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)中のF127-(ラクテート)6-アクリレートの10%溶液を長波UV光を用いて重合した。重合は、円筒形のプラスチックの鋳型中で行った。DarocurTM2959(Ciba Geigy)を光開始剤として用いた。ヒドロゲルを、室温で24時間、PBS中に浸漬することにより平衡膨潤に到達させた。0〜50℃の範囲の温度におけるヒドロゲルの大きさの変化を、ノギスを用いて測定し、そしてこれを図2に示す。低温では、ヒドロゲルの疎水性PPO(ポリプロピレンオキシド)セグメントは溶解および膨潤し得、そしてゲルの大きさを増大する。高温では、PPOセグメントは疎水性になり得、そしてマイクロミセル疎水性ドメインへと崩壊する。これは、水を排除して、膨潤の減少およびより小さい大きさを結果として生じる。
【0074】
d)分解実験。
【0075】
ヒドロゲルを、上記のように、10%マクロモノマー溶液を用いて調製し、そしてヒドロゲルの分解を種々の時間間隔において重量測定的にモニターした。実験をPBS中で37℃にて行った。ラクテートベースの光重合したヒドロゲルは、22日(PBS中、37℃)で完全に分解した。
【0076】
従って、マクロマーは光重合して、生理学的条件下で分解する熱応答性ヒドロゲルを形成し得る。
【0077】
マクロマーおよび関連する先行技術の材料を、本明細書中でXXXLLAA型という。ここで、XXXは先駆体ポリマー(例えば、PluronicTM L81 ポロキサマーに対するL81)の商標名の一部またはベースポリマー(例えば、名目上(nominal)8,000ダルトンのPEOに対する8K)の別の特性をいうかのいずれかである。LLは末端ブロック、代表的には分解可能なヒドロキシ酸(例えば、L5は、ポリマーのアームあたり5のラクテート残基の平均を示す)を示す。ここで、L、G、CおよびTMCまたはTは、それぞれ、ラクテート、グリコレート、ε-カプロレート、およびトリメチレンカーボネートを表す。AAは末端基を表す;例えば、Aはアクリレートであり、そのためA2は全体としてマクロマーの2アクリレート末端を表す。
【0078】
実施例2:F127A2によるデキストラン放出
分解可能でない物質である、F127A2を、PluronicTMポリマー骨格にヒドロキシ酸を加えることなく、実施例1に記載のように作製した。分子量71,000ダルトンのデキストラン(フルオレセインで標識された)を、1%の最終濃度でF127A2マクロマー(最終濃度10%wt/vol、水中)と混合し、そして実施例1に記載のように重合した。デキストランの放出を、可視吸収により決定した。放出動力学は、図3に示されるように温度によって有意に変化した。
【0079】
実施例3.生分解可能な結合基を用いるマクロマーの合成
4つのモノマー型を実施例1に記載の一般的な手順により作製した。各々はL(ラクテート)、C(カプロラクトン)、G(グリコシド)、およびTMC(トリメチレンカーボネート)により設計される、各々の4つの異なる生分解性リンカーのおよそ4ユニットを含有する。感熱性マクロモノマーの合成のパラメーターを表2に列挙する。キャラクタリゼーションされたモノマーの特性を表3に列挙する。表3は、生分解性セグメントおよびHPLCおよびNMRによる末端基取り込み、ならびにGPCおよびNMRにより決定されたMnを含む。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
モノマーは、それらの重合速度および分解の速度において異なる。長UV光重合プロフィールを図4に示す。架橋したヒドロゲルのインビトロ分解プロフィールを図5に示す。
【0083】
マクロマーは、図6に示すようなHFF細胞接着試験により測定されたように、類似の生体適合性プロフィールを有する。図7では、37℃および0℃における蛍光デキストランの放出速度が、先行技術の物質(F127A2)に対しておよびラクチド(F127L4A2)、グリコリド(F127G4A2)およびカプロラクトン(F127C4A2)で形成される分解性疎水性ブロックを有するマクロマーについて示される。最初の崩壊後の準0次(quasi-zeroorder)送達のより長い期間、およびより低い温度とより高い温度との間の流出の速度における明確な差は、先行技術の物質と比較して、分解性ブロックを含むマクロマーについて得られる。図8では、転移温度(容量変化およびデキストラン放出速度の変化)は、上記の物質についてゲル中でのマクロマーの濃度の関数として示され、そしてトリメチレンカーボネートベースの物質(F127TMC4A2)、ラクチド(25R8L4A2)を有する「逆」マーオキサポル(meroxapol)物質、および同等の疎水性の「正常」物質(F68L4A2)についてもまた示される。
【0084】
HFF試験を以下のように行った:
a)ゲルの調製
0.5グラムの試験物質を4.5mlの標準再構築溶液(Irgacure 1200 ppm, 3%Pluronic F127)中で溶解した。溶液を0.2ミクロンのフィルターを用いて濾過滅菌した。滅菌フード中で、カバースリップガラス(18mm sq)を70%エタノールを用いて滅菌し、そして35 mm組織培養ディッシュの6つのウェル中に置いた。200μLの滅菌マクロモノマー溶液を滅菌カバースリップガラス上に広げた。次いで、溶液を長波長UV光に曝露して(BlackRay, 20mW/cm2, 1分)ゲルを形成した。
【0085】
c)細胞懸濁液の調製
ヒト包皮線維芽細胞(HFF)細胞を、ATCCより購入した。細胞を22〜23継代で使用した。HFF細胞を、5%CO2含有湿潤雰囲気中で標準的な組織培養製品中で培養した。細胞を、3mlのトリプシン/EDTA溶液(0.05%/0.53mm)を用いて培養フラスコから分離し、そして遠心分離した(2500 rpm、3分)。細胞ペレット(pilot)を、250000個細胞/mlの濃度で細胞培養培地(DMEM+10%FCS)中に再懸濁した。
【0086】
d)細胞接着アッセイ
ゲルを3mlのDMEM(Dulbecco'sModified Eagles' Medium)溶液で洗浄し、そして次いで、25000個細胞/cm2の細胞密度で播種した。18時間後、ゲル表面および組織培養ポリスチレン表面を顕微鏡下でおよび写真を撮って観察した。ゲルをカバースリップから分離し、そして新しいペトリ皿に移した。ゲルに接着した細胞を、3mlのトリプシン/EDTA(0.05%/0.53mm)溶液を用いて分離した。Coulterカウンターを用いて細胞密度を決定した。
【0087】
実施例4:結合基疎水性の小分子送達への効果
ミセル形成生分解性マクロマーが合成され、そしてこれは非感熱性コアを含むと定性された。マクロマーは、小さい疎水性分子についての送達能力において疎水性の効果を示した。マクロマーは、PEG(分子量8000)とポリカプロラクトンおよびポリグリコレートとの異なる組み合わせのコポリマーを合成することにより形成され、次いでこれはアクリレート部分で末端キャップ化される。構造を図9に示す。ここで、pはグリコール酸基の数であり、そしてqはカプロラクトン基の数である。混合ヒドロキシ酸ブロックの疎水性は、AからDへ増える。これらのモノマーのモデル疎水性薬物溶解能は、CMCの研究により、分子プローブ1,6ジフェニル1,3,5-ヘキサトリエン(DPH)の徐々の溶解により実証された。
薬物のゲルへの取り込みに対する疎水性の効果
a)モノマーの合成
モノマーの分子構造を図9に示す。ポリエチレングリコール8000(Union Carbide)を100〜110℃、真空(10〜15mmHg)で4〜6時間溶融乾燥した。カプロラクトン(予備蒸留品、Aldrich)およびグリコリドを適切な比でSchlenk型反応容器に入れ、そして2エチルヘキサン酸第1スズ(Sigma)を開環触媒として添加した。反応は、180℃、不活性な雰囲気で4時間行った。次いで反応混合物を80℃に冷却し、トルエンに溶解し、ヘキサン中に沈殿させ、そして生成物を真空濾過により回収した。生成物をトルエンに再溶解し、そして共沸蒸留により乾燥した。
【0088】
65℃で1時間、窒素でフラッシュしながら、2モル過剰のアクリロイルクロライドおよびトリエチルアミンの滴下によりアクリル化を行った。副生塩を真空濾過により除去した。生成物を、大過剰のヘキサン中に沈殿させ、続いて真空濾過して単離した。モノマーは、Varian300MHz核磁気分光計のNMRにより定性された。
【0089】
b)臨界ミセル濃度の測定
疎水性染料1、6ジフェニル1,3,5-ヘキサトリエン(Aldrich)(DPH)をこの研究で使用した。これは、会合相互作用により、増強された吸収(356nm)をCMCで示す。Alexandridisら、Macromolecules、27:2414(1994)。DPHのストック溶液をメタノール中で調製した(0.4mM)。PBS中の溶解および所望の濃度への希釈によりモノマー水溶液を調製した。染料溶液の10μlを各バイアルに添加し、少なくとも1時間平衡化させた。ポリマー/染料/水の溶液の吸収スペクトルを250〜500nmの範囲で、HitachiUV-VIS分光計を用いて記録した。
【0090】
c)光重合
SawhneyA.S.ら、Macromolecules、26:581(1993);およびHubbell J.A.らによるPCT WO93/17669に記載のように、ポリマー溶液の光重合を、可視および紫外光システムの両方で行った。
【0091】
d)インビトロ分解
10%モノマー溶液の200μlをUV重合してゲルを形成した。ヒドロゲルの分解を、PBS中、37℃でモニターした。
【0092】
e)結果
合成において、分子中のカプロエートおよびグリコレート結合の様々な組み合わせを用いて、モノマーの疎水性セグメントを変化させた。臨界ミセル化点は、吸収対濃度曲線の最初の反曲点から得られた。曲線を図10に示す。モノマーの濃度が増大すると、染料の溶解性が増強されることが、この曲線から明らかである。様々なモノマーについての凝集および光重合の間のCMC値を表4に列挙する。
【0093】
【表4】

【0094】
CMC値は、モノマーのカプロエート含量の増加に伴って低下した。このことは、疎水性カプロエート部分のより強固な凝集による可能性がある。これらのモノマーのUVおよび可視光下での速いゲル化能は、表4に示される。ゲル化時間の範囲は4〜12秒である。光重合したヒドロゲルは水条件下で分解する。分解時間(すなわち実質的に完全に溶解する時間)は、10〜44日間と変化し、cap/gly比の増加に伴い増加する。これらのモノマーの速いゲル化時間、疎水性溶質を溶解するこれらの能力、およびこれらの制御された分解速度は、これらを局所薬物送達のための優れた候補にする。
実施例5:液晶相を形成するマクロマーの合成
a)マクロマーの合成
P105L4A2、P84L5A2およびT904L5A2マクロマーを、一般的には実施例1に記載のように、市販の塩基性ポリマー(P105PluronicTMポロキサマー;T904 Tetronic 4-アーム性イオン基含有ポラキサマー;P84 PluronicTM逆ポロキサマー、またはマーオキサポル(meroxapol))から標準的な手順により合成した。
【0095】
b)光学的効果および薬物放出特性のキャラクタリゼーション
水溶液を調製し、そして架橋することなしに変則的な光学効果(「Sclieren」)について観察した。薬物の放出速度、および実質的な水溶解性、ならびに疎水性領域を観察した。ここで、この薬物は約500Dの分子量を有した。
【0096】
すべての3つのマクロマーの水溶液が、室温にて、55%以上の濃度で、「Sclieren」型の液晶相を形成した。LC相の温度研究は、P84L4A2およびT904L4A2についてのLC相が、30〜35℃より高い温度では安定でないことを示した。これらの2つのポリマーについてのLC相は、T>35℃において2つの相へ「相分離」する。1つは光を透過しない等方性のポリマー相であり、もう一つは水から成ると考えられる相である。対照的に、P105L4A2(75%w/v)の濃縮溶液は、110℃までの温度に対してその安定性を維持する高度に非等方性のLC相を示す。
【0097】
P105L4A2の水溶液(高濃度)は、放出の速度低減のための良好な薬物捕捉を生じる、高度に非等方性の液晶相(LC相)を形成した。P84L5A2およびT904L5A2が、自己アセンブル特性(LC)において有意に異なることがまた観察された。p105L4A2/水系の安定で高度に配向したLC相において、薬物が捕捉されることが可能である。P84L4A2およびT904L4A2は水でLC相を形成するが、これらの相は30〜35℃より上では安定でない。より高い温度では、薬物ならびにいくらかの水はポリマードメインから排除される。
【0098】
実施例6.火傷の処置
F127-TMCアクリレートのような、プルロニックポロキサマーベースのマクロモノマーは、37℃より高い温度では「ペースト様」の粘稠度を有し、そして低温にて流体特性を有する。必要に応じて適切な薬物(抗生物質のような)を含有する「冷」処方された溶液を火傷部位に注ぎ、即時の救済を提供する。体温において、この処方物はペースト様の粘稠度にゲル化する。次いで、このゲルを、好ましくは、光開始剤に含まれる光の作用により架橋する。創傷治癒に影響する治療的物質のためのキャリアとしての光重合されたヒドロゲルのキャラクタリゼーションは、Sawhneyら、「生物材料学会第21回年会」、1995年3月18日〜22日、SanFrancisco、CA、要旨(この開示は本明細書中に参考として援用される)に記載される。
【0099】
皮膚上のヒドロゲル層は、火傷部位への薬物の経皮送達を提供し;重篤な火傷部位の高水分レベルを維持し、従って脱水を防ぎ;損傷組織へ強固に接着し、そしてこれは伸縮自在であり、従ってヒドロゲルの剥離および「ピーリング」を防ぎ;そして創傷からの滲出物を吸収する。適切な時間の後、置かれている基(本実施例中ではトリエチレンカーボネート、1週間にわたる持続時間を与える)の性質により制御され、ゲルは、吸収され得るまたは無害である成分中へ溶解される。関連したゲル処方物(物質8KL5A2(すなわち、アクリレート基で終結した各末端上に5ラクテート基を有する分子量8,000のPEO)のようなポリエチレングリコール骨格に基づく)は、ラット皮膚における十分に厚いバイオプシー創傷の治癒を遅延しないことが、他の実験で実証された。実施例3のペンタブロックポリマーF127-TMCアクリレートは、先行技術の8KL5A2ポリエチレングリコールベースのトリブロック処方物との比較において、それが火傷部位上で自然にゲル化し、そして従って光架橋され得る前にこの部位から流れるという傾向がない点で)改善されている。
【0100】
実施例7:組織接着を増大するための疎水性マクロマーの使用
1以上の疎水性基を有するマクロマーの使用は、生物学的物質へのヒドロゲルの接着を改善し得る。この特性を有するマクロマーを合成した。ベースポリマーは、エチレンジアミンに基づくTetronicTM4-アーム性ポリマーであった。この各アームはPEG-PPO-PEGトリブロックコポリマーである。ベースポリマーを先に実施例1に記載したようにラクチドで伸長し、そして次いで、アームの約半分をキャップするためにポリマー1モルあたり約2モルのパルミトイルクロリドでキャップした。残りのヒドロキシルを、実施例1に記載のようにアクロイル(acroyl)クロリドでキャップした。生じたマクロマーを水中に分散し、そして組織と接触させて重合して頑強に接着した。
【0101】
実施例8:ミクロスフェアの形成
PluronicTMベースの生分解性マクロマーを、約1%〜5%w/vの範囲のCMC値を有するミセルで形成された水溶液中で、実施例3の物質のように、上述のように作製した。光重合の後、ミセルの構造は実質的に保存される。
【0102】
実施例9:F127-二量体イソシアネート-F127ラクテートアクリレートの合成
マクロマージオール(Pluronic F127)の2つの分子は、ジイソシアネート(二量体イソシアネート)の1分子と結合してより多価のジおよびトリ官能性アルコールを生成し、高い弾力性、高い膨張性および高い組織接着性を有するマクロマーを提供する。
【0103】
以下の試薬を用いる:Pluronic F127(BASF lot番号WPMN 581B, Mn=12200);二量体イソシアネート(DDI-1410,Henkel Lot番号HL20037, %NCO=14.1%);およびジブチルスズジラウレート。
【0104】
F127-DDI-F127の合成:366gのPluronicF127を100℃で真空下で4時間加熱して溶融物を生成した。DDI-1410(8.94g)およびジブチルスズジラウレート(0.115g)を溶融物に添加し(溶融温度70℃)そして4時間よく撹拌した。冷却すると、混合物は容易に結晶化した。生成物は白い、蝋状の、結晶物質であった。理論上の分子量は24,996ダルトンであった。
【0105】
F127-DDI-F127Lactate5ジオールの合成:100gのF127-DDI-F127を、真空下で100℃にて4時間乾燥した。4.67gの(D,L)ラクチドをアルゴンフラッシュ下で反応容器に満たした。スズ2-エチルヘキサノエート(0.5モルパーセント)を反応物に添加した。溶融物を、150℃にてアルゴン下で4時間よく撹拌した。生成物をヘキサン中の沈殿、続く濾過により単離した。生成物は白色の、結晶状の薄片の物質であった。
【0106】
F127-DDI-F127Lactate5アクリレートの合成:100 gのF127-DDI-F127 Lactate5ジオールを、1000mlの三つ口反応容器中に満たした。800mlのトルエン(Aldrich,0.005%水含有)をフラスコに添加した。50〜75 mlのトルエンを共沸して除き、無水分反応物を確認した。2.427 mlの予備蒸留したトリエチルアミン、続いて2.165mlのアクリロイルクロリドを65℃で反応混合物に添加した。反応時間の1時間後、濁った反応混合物を濾過し、そして大過剰のヘキサン中での沈殿により白色の粉末に単離した。生成物を真空濾過により回収し、そして一定の重量まで乾燥した。
【0107】
分子構造決定をNMR,IRにより行った。生成物は水に溶解し、そして可視光および紫外光により架橋可能であることが見出された。十分に硬化した10%w/wヒドロゲルの水の取り込みパーセントは、22.1%であった。死ウシ組織における10%濃度での光重合により形成したヒドロゲルを、一般的に十分な接着性であると決定した。
【0108】
P105-DDI-P105ラクテートアクリレートおよびL81-DDI-L81ラクテートアクリレートを、各Pluronicポロキサマー出発物質(P105,L81)から、上述の手順により合成した。これらのマクロマーは水に溶解しなかった。これらを用いて継続した薬物放出を達成する疎水性マトリクス中に生物活性分子をカプセル化した。
【0109】
実施例10:F127-DDI-F127イソホロンイソシアネートの合成
フリーラジカル重合に関与することなく架橋するマクロマーの合成および重合を実証する。実施例9のように調製した、50gのF127-DDI-F127ジオールを三つ口反応フラスコ中の100 mlのトルエン中に溶解した。90 mlのトルエンを、アルゴン下で共沸的に蒸留除去した。フラスコを、真空下(12mm Hg)で12時間、100℃に維持した。反応フラスコを室温まで冷却し、そして200 mlの乾燥塩化メチレンを反応フラスコに添加した。0.445 gのイソホロンイソシアネート(Aldrich)を、約30℃で反応フラスコに添加した(ボーラスで)。0.15gのジブチルスズラウレートを反応混合物に添加した。反応混合物をアルゴン下で30℃にて12時間撹拌し、そして1000mlのヘキサン(EM Sciences)中で沈殿させた。白色の薄片を真空濾過により回収し、そして150 mlのヘキサンでリンスした。生成物を、一定の重量まで真空オーブンで乾燥した。NMR,IRによるキャラクタリゼーションは、予想された物質の合成を示した。
【0110】
F127-DDI-F127イソホロンイソシアネートの重合能力を評価した。部分的に乾燥した生成物(0.16g)を、1.44 gの脱イオン化水に添加した。生成物は最初に水と接触して泡を形成し、次いで約3日間にわたって溶解して粘性の溶液を形成した。塩化メチレン中の200mgのポリエチレンイミンのF127-DDI-F127イソホロンイソシアネート溶液の重合能力を試験した。溶液を2、3秒間よく撹拌した。ゼラチン状の生成物が観察された。ゲル化時間:5.9秒。ポリエチレンイミンは止血特性を有すると考えられている;従って、この処方物は、局所的な創傷手当に潜在的に適切である。さらに、これらの物質を形成する構造は、薬物貯蔵部として用いられ得る。
【0111】
実施例11:バルクデバイスの薬物放出動力学の疎水性の効果
マクロマーを、0〜90%のPPO含有量にわたる広範な疎水性の範囲を有するように合成した。すべてのマクロマーを、そのPPO含量が正味で使用される60%より多いことを除いて、15%のマクロマー濃度で試験した。図13は、これらのマクロマーのゲルからの小薬物の放出の速度を示す。10および15%マクロマーローディング(8KL10,先行技術;25R8L4A2, 「逆」Pluronicポリマーに基づく)ならびに60%疎水性分割(partitioning)未満のPPO含量は、500 Daのゆるやかな可溶性薬物放出を延長することの顕著な効果を示さなかった。正味のマクロマー(PPO含量>60%;P84L5A2およびL81L5A2、上述のような一般的な手順により合成した)により調製したデバイスは、これらの高度に疎水性の、濃厚なマクロマーの水透過性および薬物分解を遅延させる有意な能力を示した。極端な場合(L81L5A2;PPO含量=90%)では、放出動力学は、薬物の半分がデバイスから17日間にわたって放出され、残りがデバイスから計66日間にわたって溶出される一次放出を示した。
【0112】
実施例12:薬物拡散におけるポリマー疎水性の効果
一定の厚さの膜を、実施例11の正味のマクロマーから調製し、そして2つの区画の透析セルにおける拡散バリアとして用いた。図14および15は、経時的なセルのレセプター側における500Daの薬物の濃度の増大を示す。拡散係数の計算は以下の関係に基づいた:
D=J/(A*(ΔC/Δχ))
ここで、Dは拡散係数であり、Jは測定された流れであり、Aはフィルムの曝露領域であり、ΔCはフィルムを横切る濃度勾配であり、そしてΔχは平均のフィルムの厚みである。マクロマーの拡散係数は疎水性ドメインと比較して50%(P105L5A2)または90%(L81L5A2)を有し、そしてそれぞれ、1.6x10-9cm2/秒および5.63x10-10cm2/秒と計算された。従って、拡散は低水溶性の薬物について予想されたように、より疎水性の物質中でより速い。
【0113】
実施例13;テトラサイクリンおよびタキソールの放出
F127トリメチレンカーボネートアクリレートの30%w/wの溶液(実施例3に記載)を含むリン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)を調製した。3000 ppmのDarocur(登録商標)(Ciba Geigy)を、光開始剤として溶液中に組み込んだ。テトラサイクリン(遊離塩基、結晶、F.W.444.44)を、37℃にて12時間平衡化することによりマクロマー溶液中に取り込んだ。次いで、200マイクロリットルの溶液をUV光(10W/cm2、全硬化)により架橋した。短いリンスの後、200マイクロリットルの硬化したゲルからのテトラサイクリンのインビトロ放出を、37℃にて、5mlのPBS(pH7.4)中で行った。PBSを毎日交換して「沈む(sink)」状態を確実にした。放出プロフィールを図16に示す。最初の崩壊の後、テトラサイクリンはほぼ1週間絶え間なく放出された。
【0114】
タキソールを、TweenTM界面活性剤を用いてタキソール濃縮物を可溶化したこと以外は、同様の手順によりゲルに組み込んだ。テトラサイクリンで見られたものと同様の放出パターンが観察された。
【0115】
実施例14:ウレタン含有マクロマー
分子量1450のPEOを、上述の手順を用いて、末端あたり約1モルのラクチドと反応させて、1.4KL2を得た。1.4KL2を100mlのフラスコにて検量し(8.65 g)そして270 mlの乾燥トルエンを添加した。約50 mlのトルエンを共沸させて残りの水を取り除き、そして溶液を冷却した。次いで、0.858g(825マイクロリットル)の市販の1,6ヘキサン-ジイソシアネート、およびまた1滴のジブチルスズジラウレート(ca. 0.02g)を添加した。溶液を、添加において60度にし、そして約10分間にわたって70度に暖めた。熱を利用して溶液を約75度で約3.5時間維持した。NMRおよびIRスペクトルによりジイソシアネートの消費を確認し、そして従って、生じた溶液は、ウレタン結合により結合し、そしてヒドロキシルで末端化された交互のPEOおよびヘキサンブロックを含有することが予測された。この物質を、必要に応じてヒドロキシ酸でさらに伸長した後、反応性末端基でキャップして、反応性マクロマーを形成し得る。ウレタン結合およびヘキサンブロックは組織接着を促進することが示されている。
【0116】
本発明の改変および変更は、前述の詳細な説明から当業者に明らかである。このような改変および変更は、以下の請求の範囲の範囲内で生じることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は、ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーから形成される、熱応答性の生分解性のマクロマーの1つの実施態様の異なるゲルの状態および特性を示すスキームである。
【図2】図2は、生分解性領域を含むアクリル化されたポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーの光重合により形成されたゲルのゲル体積における温度依存性変化のグラフである。
【図3】図3は、アクリル化されたポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーの光重合により形成されたゲルからのデキストラン放出に対する温度の効果を示すグラフである。
【図4】図4は、異なる生分解性領域を組み込んだ、アクリル化されたポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーの光架橋の速度の変化を例示するグラフである。
【図5】図5は、異なる生分解性領域を組み込んだ、アクリル化されたポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーの光架橋により形成されたゲルの分解速度のインビボプロフィールを示すグラフである。
【図6】図6は、異なる生分解性領域を組み込んだ、アクリル化されたポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーの光架橋により形成されたゲルの生体適合性を例示するグラフである。
【図7】図7は、生分解性リンカーを組み込んだ、アクリル化されたポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドブロックコポリマーの光架橋により形成されたゲルからの蛍光性デキストランの放出を例示するグラフを示す。
【図8】図8は、生分解性リンカーを含むマクロマーから形成されたゲルの転移温度のグラフを示す。
【図9】図9は、生分解性リンカーを組み込んだ、アクリル化されたポリ(プロピレンオキシド)ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマーからなる生分解性の架橋可能なマクロマーの化学構造を図示する。
【図10】図10は、組み込まれた疎水性領域を有する生分解性マクロマーの溶液の疎水性染料(dye)対log(重量%)の吸光度のグラフである。
【図11】図11は、二重層中へ拡散している疎水性の尾を含むマクロマーを有する疎水性の二重層を含む細胞膜の模式図である。
【図12】図12は、親水性のマクロマーの凝集およびそれに続く重合により形成され得るナノスフェアまたはマイクロスフェアの模式図である。
【図13】図13は、疎水性のマクロマーから形成されたゲルからの小さい薬物の放出の速度を示すグラフである。
【図14】図14および図15は、疎水性のヒドロゲルを通して水にあまり可溶性でない薬物の拡散性(diffusivity)を示すグラフである。
【図15】図14および図15は、疎水性のヒドロゲルを通して水にあまり可溶性でない薬物の拡散性(diffusivity)を示すグラフである。
【図16】図16は、生分解性の領域を含むモノマーから形成されたヒドロゲルからのテトラサイクリンの放出を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載のマクロマー。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−97031(P2006−97031A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293028(P2005−293028)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【分割の表示】特願平9−507762の分割
【原出願日】平成8年7月26日(1996.7.26)
【出願人】(500579888)ジェンザイム・コーポレーション (34)
【Fターム(参考)】