説明

藍藻類の精製成分および使用方法

L-セレクチンリガンドなどのセレクチンリガンドが富化されているアファニゾメノンフロス・アクア(Aphanizomenonflos aquae)などの藍藻類の抽出物を、本明細書において開示する。藍藻類細胞から単離したセレクチンリガンドを本明細書において開示する。これらのセレクチンリガンドの単離方法を記載する。これらの精製セレクチンリガンドは、被験者における幹細胞動員の誘導に有用である。従って、セレクチンリガンドが富化されている抽出物または単離セレクチンリガンドの治療有効量の投与を含む、幹細胞単離の誘導方法を、本明細書において開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本出願は、藍藻類(blue-green algae)からの水性抽出物、例えば、セレクチンリガンドを含む藻類の水性抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年6月24日出願の米国特許仮出願第60/693,808号および2005年7月19日出願の米国特許仮出願第60/700,882号の恩典を主張する。仮出願の両方が、参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
背景
幹細胞は、さらに特定化された細胞に分化することができる体細胞組織由来の多能性細胞である。例えば、造血幹細胞は、赤色血液細胞、血小板および白血球を含む多くの異なるタイプの血液細胞に分化することができる。
【0004】
造血幹細胞は、血液細胞の継続的な終生にわたる生理的補充に関して一定の役割を果す。幹細胞は、造血系統細胞と非造血性、組織特異的細胞の両方に発達する。最近、幹細胞は、様々な組織特異的細胞型、例えば筋細胞、肝細胞、骨細胞、グリア細胞およびニューロンに分化することが判明した。例えば、幹細胞は、血液脳関門を横断すること(Willams and Hickey, Curr. Top. Microbiol. Immunol. 202:221- 245, 1995)(非特許文献1)およびニューロンに分化すること(Mezey, Science 290:1779-82, 2000)(非特許文献2)が証明された。従って、幹細胞を使用して、パーキンソン病(Polli, Haematologica 85:1009-10, 2000)(非特許文献3)、アルツハイマー病(Mattson, Exp. Gerontol. 35:489-502, 2000)(非特許文献4)および外傷性脳損傷(Magavi, Nature 405: 892-3, 895, 2000)(非特許文献5)を治療することができる可能性がある。幹細胞は、線維芽細胞または線維芽細胞様細胞に分化することおよびコラーゲンを発現することも証明された(Periera et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 95:1142-7, 1998)(非特許文献6)。従って、幹細胞を使用して、骨形成不全症および骨折を治療することができる可能性がある。Petersonら(Science 284: 1168-70, 1999)(非特許文献7)により、肝臓細胞が幹細胞から発生し得ることも証明された。従って、幹細胞は、硬変を含む(しかし、これに限定されるわけではない)肝臓の様々な病状の治療に有用であり得る。加えて、骨髄由来幹細胞は、心筋梗塞の部位に遊走し、心筋を形成することが実証された(Orlic, Nature 410:701-5, 2000)(非特許文献8)。従って、幹細胞は、心筋梗塞の治療の際に使用することができる。
【0005】
幹細胞は、多種多様な細胞型に分化することができるので、様々な組織および器官の治癒および再生プロセスにおいて重要な役割を果す(Koc et al., Bone Marrow Transplant, 27(3):235-39, 2001(非特許文献9)参照)。セレクチンリガンドは、骨髄からの幹細胞の放出を刺激する(Frenette et al., Blood 96:2460-68, 2000)(非特許文献10)。
【0006】
多くの研究が、標的組織における骨髄幹細胞の動員、遊走および分化が、人体における治癒の自然現象を構成していることを示唆している(Spencer et al., Thorax 60(l):60-2, 2005; Ishikawa et al., FASEB J. 18(15): 1958-60, 2004; Mattsson et al., Transplantation 15;78(1): 154-7, 2004; Thiele Jet al., Transplantation 77(12): 1902-5, 2004; Cogle et al., The Lancet 363(9419): 1432-7, 2004; Deb et al., Circulation 107(9): 1247-9, 2003; Korbling et al., N Engl J Med 346(10):738-46, 2002; Adams et al., Blood 102(10):3845-7, 2002; Krause et al., Cell 105(3):369-77, 2001(非特許文献11〜19))。動員された幹細胞は、損傷組織により放出されるサイトカインの濃度勾配を追従し、そのような勾配に従って組織に独力で遊走する。実際、サイトカイン注入によって誘導された骨髄幹細胞の動員は、急性心筋梗塞後の心臓組織の治癒を加速することが証明された。従って、効果的で安全な消費物での骨髄幹細胞の動員の単純な誘発により、この自然生理プロセスを増強することができ、様々な病状に対する潜在的治療法を提供することができる。従って、幹細胞動員および輸送を増加させる組成物が必要とされている。
【0007】
【非特許文献1】Willams and Hickey, Curr. Top. Microbiol. Immunol. 202:221- 245, 1995
【非特許文献2】Mezey, Science 290:1779-82, 2000
【非特許文献3】Polli, Haematologica 85:1009-10, 2000
【非特許文献4】Mattson, Exp. Gerontol. 35:489-502, 2000
【非特許文献5】Magavi, Nature 405: 892-3, 895, 2000
【非特許文献6】Periera et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 95:1142-7, 1998
【非特許文献7】Petersonら,Science 284: 1168-70, 1999
【非特許文献8】Orlic, Nature 410:701-5, 2000
【非特許文献9】Koc et al., Bone Marrow Transplant, 27(3):235-39, 2001
【非特許文献10】Frenette et al., Blood 96:2460-68, 2000
【非特許文献11】Spencer et al., Thorax 60(l):60-2, 2005
【非特許文献12】Ishikawa et al., FASEB J. 18(15): 1958-60, 2004
【非特許文献13】Mattsson et al., Transplantation 15;78(1): 154-7, 2004
【非特許文献14】Thiele Jet al., Transplantation 77(12): 1902-5, 2004
【非特許文献15】Cogle et al., The Lancet 363(9419): 1432-7, 2004
【非特許文献16】Deb et al., Circulation 107(9): 1247-9, 2003
【非特許文献17】Korbling et al., N Engl J Med 346(10):738-46, 2002
【非特許文献18】Adams et al., Blood 102(10):3845-7, 2002
【非特許文献19】Krause et al., Cell 105(3):369-77, 2001
【発明の開示】
【0008】
概要
セレクチンリガンドを含有する藍藻類の水性抽出物を得るための例示的な手順を開示する。この手順では、セレクチン、例えばL-セレクチン、P-セレクチンおよび/またはE-セレクチンに共有結合している固体支持体を使用してセレクチンリガンドを藍藻類から単離する。セレクチンリガンドは、L-セレクチン、P-セレクチンおよび/またはE-セレクチンに特異的に結合することができる。
【0009】
藍藻類から単離される精製セレクチンリガンドを開示する。これらのリガンドは、還元条件下で約55kDaの分子量のタンパク質または糖タンパクである藍藻類から単離される。幾つかの例では、セレクチンリガンドは、還元条件下で約54kDaまたは約57kDaの分子量を有する。追加の例では、セレクチンリガンドは、非還元条件下で約54kDa、約57kDa、約162kDa、約171kDa、約233kDaまたは約111kDaの分子量を有する。
【0010】
L-セレクチンリガンドを含有するアファニゾメノン・フロス・アクア(Aphanizomenon flos aquae(AFA))の抽出物を本明細書において開示する。この抽出物は、被験者に投与するために調合することができる。抽出物のみを含む、またはアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)の他の抽出物を含む組成物を、幹細胞動員および/または循環幹細胞数増加の必要がある被験者に投与することができる。一例では、L-セレクチンリガンドを含有する抽出物が、多糖類を含有するアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)の抽出物と共に投与される。アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)のL-セレクチンリガンドを含む、またはアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)のL-セレクチンリガンドからなる組成物は、幹細胞動員および循環幹細胞数増加のために有用である。
【0011】
藍藻類の特定の抽出物の治療有効量を被験者に投与することによる幹細胞動員の誘発方法を、本明細書において開示する。幹細胞動員の誘導に有用な抽出物としては、セレクチンリガンド、例えばL-セレクチン、P-セレクチンおよび/またはE-セレクチンリガンドを含有する藍藻類の抽出物が挙げられる。一例では、藍藻類は、アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)である。抽出物は、単独で投与することができ、またはアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)の他の抽出物と共に投与することができる。一例では、多糖類含有抽出物も投与される。
【0012】
セレクチンリガンド含有抽出物などの藍藻類の抽出物の治療有効量の投与は、被験者の循環系における一部の幹細胞、例えばCD34+幹細胞および/またはCD133+幹細胞の集団の一時的増加を誘導する。
【0013】
上述および他の特徴および利点は、添付の図面に関連しながら進める以下の幾つかの態様の詳細な説明から、さらに明らかに理解できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
詳細な説明
I.略語
AFA:アファニゾメノン・フロス・アクア
Ctrl:対照
LSL:L-セレクチンリガンド
mg:ミリグラム
ml:ミリリットル
MGT:migratose
SE:LSLおよびMGTを含むstem enhance配合剤
g:グラム
kg:キログラム
【0015】
II.用語
別様に述べていなければ、専門用語は、従来の語法に従って用いられる。分子生物学における一般用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes V, published by Oxford University Press, 1994 (ISBN 0-19-854287-9); Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994 (ISBN 0-632-02182-9);および Robert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8) において見出すことができる。
【0016】
本開示の様々な態様の再考を助長するために、特殊用語についての以下の説明を提供する。
【0017】
被験者への投与。被験者への藍藻類の提供は、全藍藻類細胞および/または藍藻類細胞の抽出物(画分)の投与を含む。投与経路としては、経口および非経口経路、例えば静脈内(IV)、腹腔内(IP)、直腸内、局所、経眼、経鼻および経皮経路が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。経口投与は、全藍藻類と藍藻類の抽出物の両方を含む。1つより多くの抽出物を投与することができる。経口投与する場合、全細胞または抽出物は、固体、半固体または液体剤形、例えば錠剤、ピル、粉末、溶液または懸濁液での単位用量の形態で提供または投与することができる。しかし、藍藻類の抽出物は、静脈内注射用の任意の従来の媒質、例えば食塩水媒質で、または血漿媒質で静脈内投与することもできる。媒質は、従来の薬学的補助材料、例えば、浸透圧を調整するための薬学的に許容される塩、液体担体(例えば、シクロデキストリン)、タンパク質(例えば、血清アルブミン)、親水性薬剤(例えば、メチルセルロース)、界面活性剤、緩衝液、保存薬なども含有することができる。許容される薬学的担体のさらに完全な説明は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th Edition, 1995) の chapter 95において見出すことができる。
【0018】
造血に影響を及ぼす薬剤。白色血液細胞などの血液細胞の形成を改変する化合物、抗体、核酸分子、タンパク質、糖タンパクまたは細胞。分子薬剤は、天然分子であり得、または合成分子であり得る。一部の態様において、薬剤は、動員、成長、増殖、突然変異、または造血細胞の分化もしくは放出に影響を及ぼす。1つの形態において、薬剤は、藍藻類細胞から抽出されたセレクチンリガンドである。
【0019】
幹細胞循環に影響を及ぼす薬剤。循環系への幹細胞の放出、および循環系から組織へのホーミングに影響を及ぼす、化合物、抗体、核酸分子、タンパク質、糖タンパクまたは細胞(神経ペプチドおよび他のシグナリング分子を含む)。分子薬剤は、天然分子であってもよいし、または合成分子であってもよい。1つの特定の実施例において、薬剤は、藍藻類から抽出されたセレクチンリガンドである。
【0020】
幹細胞循環に影響を及ぼす薬剤は、静止性プールにおける幹細胞の活性プールにおける幹細胞に対する比に影響を及ぼし得る。一部の態様において、薬剤は、分化しない幹細胞とCD34陰性(CD34-)およびCD34陽性(CD34+)細胞、ならびに/またはCD133陰性(CD133-)およびCD133陽性(CD133+)細胞に分化する幹細胞とのバランスに影響を及ぼす。他の形態において、薬剤は、組織位置からの幹細胞の放出、例えば、骨髄環境からのCD34+細胞および/もしくはCD133+細胞ならびに/またはアルデヒドデヒドロゲナーゼの酵素作用に基づく方法により検出される細胞の放出に影響を及ぼす。
【0021】
動物。例えば、哺乳動物、魚類、爬虫類および鳥類を含む、生きている、多細胞、脊椎生物。
【0022】
藍藻類。単細胞、コロニーまたは糸状の形態で存在し得る藍色植物門(Division Cyanophyta)に属する、グラム陰性光合成細菌の一般名。代表的な藍藻類としては、スピルリナ(Spirulina)種およびアファニゾメノン(Aphanizomenon)種が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)は、藍藻類の1つの特定の非限定的なタイプである。
【0023】
用語「藻類」は、微小藻類種の細胞である「藻」の複数形である。例えば(限定されることなく)、「藍藻類」は、単一のアファニゾメノン種の多数の細胞、単一のスピルリナ種の多数の細胞、または多数のアファニゾメノンおよび/もしくはスピルリナ種からの細胞の混合物を指す。
【0024】
循環系。動物において、循環系は、脈管系およびリンパ系を含む血液および血液成分を体全体にわたって移動させる構造からなる。循環系の構成要素としては、心臓、血管(動脈、静脈および毛細血管)ならびにリンパ管が挙げられる。
【0025】
循環幹細胞。循環系に存在する幹細胞。
【0026】
藍藻類の成分。藍藻類細胞からの任意の画分、抽出物または単離もしくは精製分子。1つの態様において、成分は、タンパク質または糖タンパクまたは核酸である。もう1つの態様において、成分は、植物化学物質である。もう1つの態様において、成分は、セレクチンリガンドを含む藍藻類の水性抽出物である。例えば、藍藻類を粉砕し、無機または有機溶媒を添加し、抽出物を回収する。特定の非限定的な例は、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、アフィニティーカラム、磁気ビーズまたは蒸留を用いて単離された抽出物である。1つの態様において、分画は、藍藻類の成分の分子量または疎水性に基づく。
【0027】
分化。細胞が、生体機能を行うためにさらに特定化されてくるプロセス。分化は、悪性トランスフォーメーションを受けた細胞が、多くの場合、完全にまたは部分的に失う特性である。
【0028】
有効量。幹細胞動員を誘発または増強することができる藍藻類のセレクチン含有抽出物の量などの、生物科学において用いられている様々な方法によって決定することができる量。これらの方法としては、実験用量応答曲線の作成が挙げられるが、これに限定されるわけではない。1つの態様において、「治療有効量」は、組織を補給する、修復するまたは若返らせる幹細胞の動員を増強するために有効な量である。もう1つの態様において、「治療有効量」は、幹細胞の輸送を増強するために有効な量である。さらにもう1つの態様において、「治療有効量」は、循環系から様々な組織または器官への幹細胞のホーミングを増強するために有効な量である。
【0029】
治療有効量は、状態または疾病を治療するために十分な量、例えば、神経系の疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症)、外傷性脳もしくは脊髄損傷、肝疾患、または骨もしくは軟骨の疾患に関連した症状を緩和するために十分な量である場合もある。治療有効量は、急性心筋梗塞からの回復を加速および増強するために十分な量である場合もある。
【0030】
1つの特定の非限定的な例において、藍藻類のセレクチン含有抽出物などの抽出物の治療有効量は、体重1kg当たり約0.01から約1.0g、例えば、体重1kg当たり約0.05から約0.5グラム、または体重1kg当たり約0.1から約0.5グラムである。もう1つの特定の非限定的な例において、藍藻類のセレクチン含有抽出物の有効量の例は、約0.25グラムから約5グラム、約0.5グラムから約5グラム、または約1グラムから約2グラムである。1つの特定の非限定的な例において、藍藻類のセレクチン含有抽出物の有効量は、1グラムである。この有効量は、所与の頻度、例えば、週に約1回、週に約2回、週に約3回、1日1回、1日に約2回、1日に約3回以上投与することができる。
【0031】
藍藻類のセレクチン含有水性抽出物などの藍藻類の抽出物の治療有効量および投与の頻度は、様々な因子、例えば、利用される藻類の属または種、治療される被験者の全身の健康状態、および治療される被験者の生理学的特徴(例えば、身長、体重、体脂肪率、代謝など)に依存し得る。
【0032】
藍藻類の水性抽出物、例えばセレクチンリガンド含有抽出物の治療有効量を決定するための特定のアッセイを本明細書において提供する。1つの特定の非限定的な例では、AFAなどの藍藻類のセレクチンリガンド含有抽出物の種々の量をヒト被験者に消費させ、その循環系における幹細胞(このような細胞のサブタイプを包含し得る)の存在および/または存在量を検出および/または分析する。もう1つの態様では、動物(例えば、マウス)モデルを利用し、新たに組み込まれた幹細胞集団を様々な組織においてモニターする(下の実施例参照)。開示する方法は、医学的および獣医学的設定で等しく適用することができる。従って、一般用語「治療される被験者」としては、すべての脊椎動物(例えば、ヒト、類人猿、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタおよびウシ(しかし、これらに限定されるわけではない))が挙げられる。
【0033】
増強(増強すること)。細胞または生物の特定のパラメータの増加。1つの態様において、増強は、パラメータの25%、50%、100%または100%より大きな増加を指す。1つの特定の非限定的な例において、幹細胞循環の増強は、特定の細胞集団の増加、例えば、特定の細胞集団または細胞集団の応答の25%、50%、100%、200%、400%、500%またはそれ以上の増加を指す。1つの態様において、パラメータは、幹細胞の動員である。もう1つの態様において、パラメータは、幹細胞の分化である。さらにもう1つの態様において、パラメータは、幹細胞のホーミングである。
【0034】
赤血球。身体の組織に酸素を運ぶ赤色血液細胞。
【0035】
抽出物。組成物の活性要素を適する溶媒で除去し、その溶媒のすべてまたはほぼすべてを蒸発させ、残留物質または粉末を予め決められた標準量に調整することによって得られる、藍藻類などの組成物の濃縮製剤。抽出物は、対象となる成分の活性または量が、抽出される元の組成物の他の抽出物または同じ量と比較して、その抽出物において実質的に増加されている場合、セレクチンリガンドなどの生成物について「富化されている」。
【0036】
糖タンパク。タンパク質部分またはグリカンもしくは多糖類部分で作られた複合分子。
【0037】
造血。血液細胞の形成および発生。造血は、造血幹細胞の増殖および最終分化を必要とする。成体哺乳動物において、造血は、骨髄において発生することが公知である。造血は、B細胞、T細胞、単球マクロファージ系統の細胞および赤色血液細胞を含む造血細胞の産物である。
【0038】
ホーミング。循環系から組織または器官への細胞遊走のプロセスである。場合によっては、ホーミングは、組織特異的付着分子および付着プロセスにより遂行される。
【0039】
免疫正常(な)。「免疫正常(な)」は、その個体が属する種に典型的な免疫系特性を表示する被験者を意味する。これらの典型的特性としては、数ある中でも、B細胞およびT細胞ならびに構造細胞成分(細胞表面抗原と呼ばれており、これらは、特定の生物の免疫学的サインとして役割を果す)の機能化が挙げられる。
【0040】
このような免疫正常レシピエント個体の使用は、免疫正常レシピエント個体の免疫系が、そのB(ホルモン応答)およびT(細胞応答)細胞により、異種細胞または生着組織の細胞表面抗原を異物として識別することを意味する。この認識は、最終的には細胞または組織に対する免疫応答につながり、それが、細胞の破壊または移植片に対する拒絶反応を生じさせる。同種異系組織に対する免疫応答は、宿主対移植片拒絶反応として公知である。
【0041】
免疫低下(した)。「免疫低下」被験者は、遺伝子型または表現型免疫不全を有する。遺伝子型免疫不全被験者は、ホルモンまたは細胞媒介応答いずれかの生成不能を生じさせる遺伝子異常を有する。遺伝子型免疫不全被験者の特定の非限定的な例は、遺伝子型免疫不全マウス、例えばSCIDマウスもしくはbg/nu/xidマウス(Andriole et al., J. Immunol. 135:2911, 1985; McCune et al., Science 241:1632, 1988)、またはXSCIDヒトである。「表現型免疫不全被験者」は、一般には免疫応答を生じさせることができるが、応答が見られないように表現型的に改変された被験者である。1つの特定の非限定的な例において、表現型免疫不全受容個体は、放射線照射を受ける。もう1つの特定の非限定的な例において、表現型免疫不全被験者は、化学療法での治療を受けた者である。さらにもう1つの特定の非限定的な例において、表現型免疫不全被験者は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはシミアン免疫不全ウイルス(SIV)などの細菌またはウイルス感染症に罹患した者である。
【0042】
増加。対象となる成分の特定の活性の有意な増加。1つの態様において、阻害は、活性または濃度の少なくとも約25%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%増加を指す。
【0043】
阻害。細胞または生物の特定のパラメータの減少。1つの態様において、阻害は、パラメータの25%、50%または100%減少を指す。
【0044】
単離(された)。「単離」生体成分(例えば、核酸分子、ポリペプチド、多糖類、セレクチン、セレクチンリガンド、または他の生体分子)は、その成分が天然の細胞の他の生体成分から実質的に分離または精製されている。「単離」細胞は、異なる種の他の細胞(微生物の場合)またはその生物の細胞(多細胞生物の場合)から実質的に分離または精製されている。核酸およびタンパク質は、標準的な精製法、宿主細胞における組換発現によって単離することができ、または化学合成することができる。細胞は、標準的な培養法によって単離することもできる。1つの態様において、藍藻類は、天然源(例えば、Klamath Lake)から収穫され、乾燥によって調製される(下記参照)。
【0045】
白血球。白色血液細胞。免疫応答を含む宿主防御に関与する球形で無色の有核小体。白血球の具体的なタイプとしては、好塩基球、体腔細胞、好酸球、血球、リンパ球、好中球、および単球、循環樹状細胞および循環造血幹細胞が挙げられる。
【0046】
L-セレクチン。CD62Lとしても公知の、セレクチンファミリー・カルシウム依存性レクチンの一メンバー。骨髄環境に付着するために幹細胞によって用いられる付着分子。L-セレクチン、最小の脈管セレクチンは、顆粒球、単球、および非常に多数の循環リンパ球上の微小ひだ(microfolds)の先端で構成的に発現される74〜100kDa の分子である。L-セレクチンは、LECAM-1、LAM-1、Mel-14抗原、gp90melおよびLeu8/TQ-1抗原としても公知である。L-セレクチンは、内皮への食細胞の結合、炎症した内皮への白血球の結合を含む、様々な生理状態における内皮への白血球の結合、ならびに末梢リンパ節の後毛細管細静脈の高内皮細胞へのリンパ球ホーミングおよび付着に重要であることも公知である。さらに、この付着分子は、付着カスケードの初期の間の循環白血球の捕捉に大いに寄与する。多くのL-セレクチンのアミノ酸配列が公知である。
【0047】
「L-セレクチンリガンド」は、L-セレクチンに特異的に結合する。一部の態様において、リガンドは、他のリガンドにより、例えば、リガンド結合領域に空間的に干渉することにより活性化を遮断することができる。リガンドは、L-セレクチンへのライゲーションにより、例えば、カルシウムフラックス、細胞骨格再配列または他のシグナリング事象を誘発することによって、細胞を活性化することもできる。加えて、リガンドは、シグナル伝達経路を改変することができ、そのため、いずれかの別のL-セレクチンリガンドとのその後の結合またはL-セレクチン依存性刺激は、改変された生理応答を生じさせる。一部の例では、ヒトリンパ球が一部のL-セレクチンリガンドによって活性化されるとき、L-セレクチンが、CXCR4、間質由来因子1(SDF1)の受容体、骨髄への幹細胞の定住に関与するサイトカインの発現を誘発する。1つの形態において、藍藻類のL-セレクチン含有抽出物は、フコイダン(Fucoidan)でのL-セレクチンの活性化によって誘発されるCXCR4の発現を阻害した。例示的なL-セレクチンリガンドのアミノ酸配列は、公知である。例えば、ハツカネズミ(Mus musculus)GlyCam-1は、GENBANKアクセッション番号NM_008134に示されており、GlyCam-1のヒトmRNA分離株は、GENBANKアクセッション番号AJ_489 590、AJ 489 591、AJ 489 592、AJ 489 593およびAJ 489 589(すべて2005年6月24日に利用可能)に示されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。これらのアミノ酸配列は、限定する意味はなく、例として提供するものである。組換および修飾形は、本開示に包含される。
【0048】
リンパ球。身体の免疫防御に関与する白色血液細胞の一タイプ。リンパ球には次の2つの主要タイプがある。B細胞およびT細胞。
【0049】
リンパ増殖。リンパ球の生産および/または分裂の増加。
【0050】
哺乳動物。この用語は、ヒトと非ヒト哺乳動物の両方を包含する。同様に、用語「被験者」は、ヒト被験者と動物被験体の両方を包含する。
【0051】
単球。微生物または他の細胞および異種粒子を取り込む血液中の大きな白色血液細胞。単球は、血流から出て行き、組織に入ると、マクロファージに発達する。
【0052】
筋細胞。横紋筋、心筋または平滑筋組織の細胞。横紋(骨格)筋の場合の筋細胞は、胚筋芽細胞の融合により形成されるシンシチウムからなる。平滑筋の場合の筋細胞は、大量のアクチンおよびミオシンを特徴とする単個細胞であり、その全長の小部分に収縮することができる。心筋の場合の筋細胞は、介在板と呼ばれる特殊接合部により隣接細胞に連結されている。
【0053】
薬学的に許容される担体。有用な薬学的に許容される担体は、従来のものである。Remington 's Pharmaceutical Sciences, by E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th Edition (1975) には、本明細書において記載する藍藻類および抽出物の薬学的送達に適する組成物および調合物が記載されている。
【0054】
一般に、担体の性質は、利用される特定の投与方式に依存する。例えば、非経口調合物は、薬学的におよび薬理学的に許容される流体、例えば、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどをビヒクルとして含む、注射用流体を通常含む。固体組成物(例えば、粉末、ピル、錠剤またはカプセル形)のための従来の非毒性固体担体としては、例えば、薬学グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与することができる薬学的組成物は、少量の非毒性補助物質、例えば湿潤または乳化剤、保存薬およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはモノラウリン酸ソルビタンを含有することができる。
【0055】
可塑性。組織および系統への分化指定の柔軟性および可逆性に言及するために、多くの場合用いられる被成形能力。
【0056】
血小板。巨核細胞由来の血液中の小細胞フラグメント。血小板は、創傷治癒、血液凝固、損傷した血管の修復および病的炎症プロセスに関与する。
【0057】
前駆細胞。定義された細胞系統の後代を生じさせる細胞。「造血前駆細胞」は、造血系統の細胞を生じさせる細胞である。
【0058】
P-セレクチン。CD62Pとしても公知の、セレクチンファミリー・カルシウム依存性レクチンの一メンバー。P-セレクチンは、内皮細胞、血小板(活性化に伴って増量)、および巨核細胞の表面で発現される。P-セレクチンは、活性化した血小板の白血球への結合を媒介することができ、さらに、これらの白血球の内皮へのその後の結合に寄与することができる。骨髄内皮上でのP-セレクチン発現は、骨髄保持、動員およびホーミングを含むインビボでの幹細胞定位に一定の役割を果す(Frenette and Weiss, Blood 96(7): 2460, 2000)。
【0059】
幹細胞の補充。循環系の幹細胞が組織または器官に遊走するプロセス。補充は、化学誘引シグナルまたは細胞受容体などの化合物または分子によって助長され得る。例えば、CXCR4とSDF-1の両方が、幹細胞ホーミングに関する同一と見なされる役割を有する。Hidalgo et. al., Exp. Hematol. 29(3):345-55, 2001; Kollet et al., Blood 97(10)3283-91, 2001。
【0060】
衛星細胞。多くの場合、筋肉組織の周辺に位置し、組織修復および再構成を助けるために筋肉に遊走することができる筋肉特異的幹細胞。
【0061】
セレクチン。CD62としても公知の、カルシウム依存性レクチンの一ファミリー。このファミリーの3メンバーとして、L-セレクチン(CD62L)、P-セレクチン(CD62P)およびE-セレクチン(CD62E)が挙げられる。これらの付着分子は、細静脈を通過中の循環白血球の遅速に関与し、ならびに血小板白血球相互作用、骨髄を含む一定の組織内での細胞停留、および炎症した内皮への白血球の付着を含む(しかし、これらに限定されるわけではない)多数の他の接着性相互作用にも関与する。
【0062】
幹細胞。全造血および骨髄間質細胞系統を含む(しかし、これらに限定されるわけではない)、多くの組織型の後代を生じさせる多能性細胞。典型的な幹細胞は、付着性間質細胞型として、または細胞表面上でCD34を発現するか、もしくはその細胞が細胞表面CD34に対して陰性である様式でCD34を発現するかにより分化された細胞として、骨髄に定住する。幹細胞は、CD133も発現することができる。従って、幹細胞は、CD34+細胞、CD133+細胞である場合があり、またはCD34とCD133の両方の発現を示す場合がある(He et al., Stem Cells and Development 14(2):188- 198, 2005参照)。あるいは、幹細胞は、蛍光標識アミノアセトアルデヒドによって測定することができる細胞であり得、この蛍光標識アミノアセトアルデヒドは、幹細胞細胞質中の酵素が、非蛍光物質をその幹細胞内に停留する蛍光化合物に転化させると形成され、酵素機能に基づいてそれを検出することができる。
【0063】
骨髄におけるCD34細胞のサブセット、原始表現型特性を有する白血球搬出産物および臍帯血は、CD133、未知の機能の5-膜貫通型分子を発現する。CD133に特異的な抗体は、幹細胞の供給源に依存してCD34集団の35〜75%を染色する(De Wynter et al., Stem Cells 16:387- 396, 1998)。単離CD133CD34非付着性幹細胞画分の免疫不全NOD/SCIDマウスへの移植は、高い骨髄系およびリンパ系多系統生着を誘導した。これは、これらの細胞がSCID再配置(repopulating)細胞において非常に富化されることを示唆している(Kuci et al. Blood 101:869-876, 2003)。
【0064】
「全能性」幹細胞、例えば、造血幹細胞またはニューロン幹細胞は、一般に、限られた数の組織型の後代を生じさせる。造血幹細胞、筋肉幹細胞およびニューロン前駆細胞は、全能細胞の幾つかの例である。
【0065】
被験者。脊椎動物、例えば、ヒトおよび他の動物被験体、例えば、霊長類、イヌ科の動物、ネコ科の動物、ウシ属の動物および齧歯動物(しかし、これらに限定されるわけではない)を含む、循環系を有する動物。
【0066】
輸送。起始組織からの細胞の移動および循環系内での巡行のプロセス。1つの態様において、輸送は、起始組織からの細胞の移動、付着による内皮へのホーミング、移行、および標的器官内での最終的な遊走を含む。1つの態様において、輸送は、免疫系の細胞の移動プロセスである。もう1つの態様において、輸送は、幹細胞動員を含む。輸送の1つの特定の非限定的な例は、標的器官への幹細胞の移動である。輸送のもう1つの特定の非限定的な例は、骨髄を離れて標的器官に移動するB細胞またはプレB細胞の移動である。
【0067】
分化転換。ある分化状態から別の分化状態への細胞もしくは組織の変化、または例えばニューロンに分化する骨髄幹細胞のような組織特異的幹細胞の別のタイプの細胞への分化。
【0068】
移植。ある体または体の一部からの別の体または体の一部への細胞集団、組織もしくは器官、またはそれらの一部の移入。「同種異系間移植」または「異種移植」は、ある個体から別の個体への移植であり、この場合、これらの個体は、それら2つの個体における配列内の同一でない一つまたは複数の座に遺伝子を有する。同種異系間移植は、遺伝学的に異なる同じ種の2つの個体間、または2つの異なる種の個体間で行うことができる。「自家移植」は、同じ個体におけるある位置から別の位置への組織またはその一部分の移植、またはある個体から別の個体への組織またはその一部分の移植(この場合、2つの個体は、遺伝学的に同一である)である。
【0069】
別様に説明していなければ、本明細書において用いるすべての専門および科学用語は、本開示が属する当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。単数形の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈に明瞭に別様な指示がない限り、複数形の指示対象を包含する。同様に、用語「または」は、その文脈に明瞭に別様の指示がない限り、「および」を包含することを意図する。さらに、核酸またはポリペプチドについて与えるすべての塩基サイズまたはアミノ酸サイズおよびすべての分子量または分子質量値が近似値であり、説明のために提供するものであることは理解されるはずである。本明細書において記載するものと同様または同等の方法および材料を本開示の実施または検査法において使用することができるが、適する方法および材料を下で説明する。用語「含む(comprise)」は、「包含する(include)」を意味する。本明細書において言及するすべての刊行物、特許出願、特許および他の参照文献は、それら全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合、用語の説明を包含する本明細書が、優先される。加えて、材料、方法および実施例は、単に実例となるものであり、限定するためのものではない。
【0070】
藍藻類細胞から単離されるセレクチンリガンド
L-セレクチンリガンドなどのセレクチンリガンドが富化されているアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)などの藍藻類の水性抽出物を、本明細書において開示する。1つの態様において、抽出物は、L-セレクチンリガンドなどのセレクチンリガンドが富化されている「Extract A」(水または食塩水に迅速に溶解する極性化合物を含む水性抽出物)である。もう1つの態様において、この抽出物は、公知の工程を用いて乾燥させ、水溶液に再び懸濁させる。
【0071】
アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)またはスピルリナなどの藍藻類は、分画することができる。藍藻類細胞を成長させる、収穫するおよび濃縮するための工程は、記載されている。AFAまたはスピルリナなどの藍藻類は、任意の供給源から単離することができる。供給源は、藍藻類の天然供給源、例えば湖(例えば、Klamath Lake)であり得る。供給源は、藍藻類の人造供給源、例えば、人工湖または水源であり得る。供給源は、藍藻類を商業的に成長させ、収穫するために作られた環境であり得る。
【0072】
藍藻類は、直接使用することができ、または液体、冷凍液として保存すること、凍結乾燥させること、または以下で説明する方法を用いて乾燥させることができる。1つの形態では、藍藻類を収穫し、REFRACTANCE WINDOW(商標)Technologyを用いて乾燥させる。用語「REFRACTANCE WINDOW(商標)Technology」は、乾燥機がまさに水の特性を利用して製品から水を追い出すシステムを指す。簡単に言うと、水を熱源の上に配置すると、対流により水中で熱が分散される。熱を吸収すると、水は、赤外線エネルギーを次の3つの方法で外部に伝達する。蒸発、伝導および放射。水面の表面をプラスチックなどの透明媒体によって覆うと、蒸発およびそれに付随する熱損失は遮断され、伝導のみが発生する。そのプラスチック膜は、赤外線エネルギーを反射する鏡のように作用する。湿った材料、例えば湿潤した藍藻類をそのプラスチック表面に配置すると、その材料内の水が「ウインドウ」を作り、それが赤外線エネルギーの通過を可能にする。このシステムでは、材料中の水が放射、伝導および蒸発すべてを発生させて、例外として有効な熱伝達を実現すると考えられている。しかし、数分後、材料が乾燥すると、赤外「ウインドウ」は閉じ、熱伝達の唯一の手段の伝導が残る。プラスチックは、劣った熱伝導体であるので、熱はほとんど失われず、製品にほとんど伝達されない。従って、REFRACTANCE WINDOW(商標)Technologyで乾燥させると、藻類は、短時間しか熱に暴露されない。
【0073】
この乾燥システムにおいて、液体藻類(溶液中に懸濁させた細胞)をその乾燥機のコンベヤーベルトの表面に配置する。このベルトは、熱水の表面の上に取り付けられた食品グレードのマイラー(透明ポリエステルフィルム)である。この循環水からの熱が、ベルトに伝導され、その後、乾燥させるべき製品中に存在する水に伝導されて、天然栄養素を保護しながら自然な蒸発プロセスを穏やかに促進する。製品が乾燥し、水が蒸発すると、製品に伝達される熱は無くなる。理論に拘束されないが、これがポリペプチド、核酸、栄養素および色素の分解を防ぐ。従って、この乾燥工程は、そのコンベヤーベルトの真下の循環水の温度よりはるかに低く藻類の温度を維持する。
【0074】
他の乾燥システムを用いて、乾燥藻類を製造してもよい。一般に、次の2つの因子が、藻類の分解において一定の役割を果す。熱の程度および熱への暴露時間。短期間の高い熱量は、結果として、藍藻類の成分の分解をより少なくする。一例では、熱、例えば、約65℃から約80℃の温度、例えば、約70℃から約75℃、または約72℃の温度をかける。この熱は、その藻類を乾燥させるために十分な量の時間、例えば、約1から約15分間、または約2から約10分間、または約3から約7分間かけることができる。一例では、熱を72℃で3から5分間しか藻類にかけない。この工程は、当業者には公知であり、the Rossha Enterprises Websiteに詳細に記載されており、ならびにAbonyi et al., 「Evaluation of Energy Efficiency and Quality Retention for the REFRACTANCE WINDOW(TM) Drying System: Research Report,」 Washington State University, Pullman, WA, December 30, 1999) に記載されている。しかし、凍結乾燥細胞も利用することができる。
【0075】
本明細書において開示するように、水性抽出物は、新鮮な、脱水した、または保存用の藍藻類細胞、例えばアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)から調製することができる。藻類は、水または適する緩衝塩類溶液で抽出することができる。例えば、中性pH(約pH7.0から約pH7.8、例えば、約pH7.2から約pH7.6、または約pH7.4)の一般的な水溶液または緩衝溶液が利用される。適する緩衝塩類溶液は、当技術分野において周知であり、それらとしては、リン酸緩衝食塩水(例えば、約0.1M リン酸緩衝食塩水)および市販の培養基が挙げられる。水性抽出は、一般に、室温(一般に25℃)より低い温度、例えば、約3℃から約15℃の温度で、例えば約4℃から約10℃でまたは約4℃で行われるが、室温(約25℃)で抽出を行うこともできる。
【0076】
一例では、1グラムの乾燥藻類材料、例えば乾燥アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)を約10mlから約50ml、例えば約40mlのリン酸緩衝食塩水(例えば、0.1M リン酸緩衝食塩水、pH7.4)に懸濁させ、4℃でインキュベートする。このインキュベーションは、5分間、半時間、数時間または一晩続くことがある。幾つかの例では、約半時間から約2時間、約半時間から約3時間、または約半時間から約12時間、藻類を水溶液中でインキュベートする。その緩衝塩類溶液に懸濁させた藻類を、光から保護して分解を低減することができる。水溶液中でのインキュベーション後、固体材料を水性抽出物から分離する。塩類溶液などの水溶液中の藻類の混合物を、バイアルを繰り返し反転させることにより混合し、遠心分離して固体材料を除去することができる。例えば、その懸濁液を400gで10分間遠心分離してもよい。
【0077】
固体材料の分離後、一般には青色に見えるその上清を単離する。この抽出物を「Extract A」と名づける。この上清は、濾過などにより任意で滅菌してもよい。一例では、遠心分離後、鮮やかな青色の上清をデカントし、0.22mm フィルターを使用して滅菌濾過する。この濾液は、例えば約4℃で暗所に保管することができる。
【0078】
L-セレクチンリガンドなどのセレクチンリガンドを含有する抽出物、例えば、Extract Aは、上で説明したとおり乾燥させることができる。一例では、熱、例えば、約65℃から約80℃の温度、例えば約70℃から約75℃、または約72℃の温度をその水性抽出物にかける。その抽出物を乾燥させるために十分な量の時間、例えば、約1から15分間または約2から約10分間または約3から7分間、熱をかけることができる。一例では、熱は、抽出物に72℃で3から5分間しかかけない。この工程は、藻類を乾燥させるための工程に類似している(Abonyi et al., 「Evaluation of Energy Efficiency and Quality Retention for the REFRACTANCE WINDOW(商標) Drying System: Research Report,」 Washington State University, Pullman, WA, December 30, 1999参照)。当業者は、公知の方法論を用いて水性抽出物から乾燥製品を容易に製造することができる。
【0079】
幾つかの特定の非限定的な例において、L-セレクチンリガンドが富化されている水性抽出物などの藍藻類のセレクチン含有抽出物の有効量は、extract Aなどの乾燥水性抽出物の約0.25グラムから約5グラム、または約0.5グラムから約5グラム、または約1グラムから約2グラムである。1つの特定の非限定的な例において、藍藻類のセレクチン含有抽出物の有効量は、extract Aなどの乾燥水性抽出物の約1グラムである。
【0080】
セレクチンリガンドは、水性extract Aからさらに精製することができる。例えば、セレクチンリガンドは、親和精製を用いて単離することができる。一例では、Extract Aを、L-セレクチン、P-セレクチンまたはE-セレクチンを含む固体支持体と接触させる。ヒトL-セレクチンなどのセレクチンに共有結合している磁気ビーズを利用することができる。ヒトL-セレクチンのある例示的なアミノ酸配列は、GENBANKアクセッション番号NP_000646として示されており、マウスL-セレクチンのある例示的なアミノ酸配列は、CAB55488として示されており、およびマウスL-セレクチンのある例示的なアミノ酸配列は、GENBANKアクセッション番号AAH52681として示されている。これらすべての配列は、2005年6月24日にインターネットで入手可能となっており、参照により本明細書に組み入れられる。L-、P-およびE-セレクチンの追加の例示的な配列は、GENBANKデータベースにおいて見つけることができる。
【0081】
セレクチンは、ヒトL-セレクチン、ヒトP-セレクチン、マウスL-セレクチンまたはマウスP-セレクチンなどの天然分子である場合がある。セレクチンは、L-セレクチンの安定な形態である組換分子、および/またはセレクチンのフラグメント、例えばヒトL-セレクチン分子の細胞外部分を含む分子などの遺伝子操作された形態である場合もある。一例では、セレクチンは、ヒトL-セレクチンの細胞外部分および免疫グロブリンのFc部分に関する融合タンパク質である。このような組換融合タンパク質は、例えば、R&D Systemsから市販されており、インターネットを通して注文することができる。L-セレクチン(しかし、これに限定されるわけではない)などのセレクチンに共有結合している固体支持体を上清「Extract A」(藍藻類の水溶性抽出物)と共にインキュベートする。
【0082】
その後、セレクチンに特異的に結合する藻類からの材料を単離する。例えば、酸処理を用いてそのセレクチンリガンドを組換セレクチン分子から切断することができる。アルカリ処理を用いて、および/または熱処理を用いてそのセレクチンリガンドを組換セレクチン分子から切断することもできる。
【0083】
本明細書において開示するように、単離セレクチンリガンドは、還元条件下で約50kDaから約60kDa、例えば55kDaの分子量を有する。一例では、単離セレクチンリガンドは、還元条件下で約54kDaまたは約57kDaの分子量を有する。1つの形態において、セレクチンリガンドは、複合体を形成しない。例えば、セレクチンリガンドは、それ自体とまたは別のセレクチンリガンドと複合体を形成することができない。
【0084】
幾つかの例において、非還元条件下ではセレクチンリガンドが会合して複合体になることができる。従って、3つの54kDaサブユニットの複合体が非還元条件下で形成される場合、その分子量は、約162kDaであり、3つの57kDaサブユニットの複合体が形成される場合、非還元条件下でのその見掛けの分子量は、約171kDaである。3つの54kDaサブユニットと3つの57kDaサブユニットの複合体が非還元条件下で形成される場合、その複合体の分子量は、約233kDaである。従って、精製セレクチンリガンドは、非還元条件下で約200kDaの分子量を有することができる。各リガンドのうちの1つの複合体が形成される場合には、その複合体の見掛けの分子量は、約111kDaである。あるいは2つのサブユニットは、複合体であることができず、非還元条件下でのその見掛けの分子量が、還元条件下と同じとなる。セレクチンリガンドは、タンパク質である場合もあり、または糖タンパクである場合もある。
【0085】
本明細書において開示する抽出物および組成物は、錠剤もしくは粉末などの固体として、または液体製剤として含む任意の形態で投与することができる。一例では、組成物は、腸管投与のために調合される。有用な調合物の一例は、薬学的製剤(例えば、錠剤、腸内液、非経口液、カプセル、鼻腔内液または他の形態)である。特定の開示例において、組成物は、薬学的製剤、特に、錠剤またはカプセルである。当技術分野において公知のように、経口投与に適する組成物は、各々がその組成物の治療有効量を粉末もしくは顆粒として、または水性液中の溶液もしくは懸濁液として含有する個別単位、例えば、カプセル、カシェ剤または錠剤として提供することができる。従って、剤形としては、錠剤、カプセル、分散液、懸濁液、溶液、カプセルなどが挙げられる。投与の容易さのため、錠剤およびカプセルが従来の経口投薬単位形の代表であり、この場合、上で説明したような固体薬学的担体が利用される。しかし、これらの化合物は、制御放出手段により投与することもでき、または鼻腔内もしくは経皮送達(しかし、これらに限定されるわけではない)などの他の送達手段用に調合することができる。
【0086】
本組成物は、不活性成分、例えば、結合剤(例えば、α化トウモロコシデンプン(pregelatinized maize starch)、ポリビニルピロリドンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);結合剤もしくは充填剤(例えば、ラクトース、ペントサン、微結晶性セルロースもしくはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクもしくはシリカ);崩壊剤(例えば、馬鈴薯デンプンもしくはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を含むことがある。
【0087】
一例では、本明細書において開示する組成物、例えば、L-セレクチンリガンドが富化されている抽出物もしくはそれらの固体形、または精製セレクチンリガンド(しかし、これらに限定されるわけではない)を含有する錠剤は、もう1つの補助成分を任意で用いて、圧縮または成形により調製することができる。圧縮錠剤は、結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、界面活性剤または分散剤と任意で混合された乾燥抽出物および/またはセレクチンリガンドの粉末または顆粒などの易流動形を適する機械で圧縮することによって調製することができる。錠剤などの組成物は、薬学的に許容される成分、例えば、ラクトース、グルコース、スクロース、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、セルロースエステル、例えば酢酸セルロース、エチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、沈降シリカ、タルク、脂肪酸、例えばステアリン酸、微結晶性セルロース、カルナウバ蝋などを含むことがある。これらの錠剤またはカプセルは、当技術分野において周知の方法によりコーティングすることができる。
【0088】
経口投与のための液体製剤は、例えば、溶液、シロップもしくは懸濁液の形態で摂取することができ、または使用前の水もしくは他の適するビヒクルで構成するための乾燥製品として提供することができる(実施例セクション参照)。このような液体製剤は、不活性薬剤である薬学的に許容される添加剤、例えば、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化可食脂肪)、乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア)、および保存薬(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル、またはソルビン酸)を用いて従来の手段により調製することができる。これらの組成物を快い味にすることもでき、従って、緩衝塩類、着香剤、着色剤および甘味剤を適宜含有することができる。
【0089】
用いられる組成物の形態に依存して、希釈剤および他の不活性成分、例えば、一つまたは複数の薬学的に許容される結合剤、充填剤、支持体、増粘剤、味覚変革物質、着色剤、保存薬、安定剤、調節剤、乳化剤、流動剤、吸収剤などまたはこれらの混合物が使用されることができる。本組成物は、所望される場合には、甘味料、例えば、天然甘味料(例えば、糖もしくは蜂蜜)または人工甘味料(例えば、サッカリン)を含むこともできる。一般に、担体、糖、希釈剤、安定剤、緩衝剤、着香およびテクスチャリング用処方成分は、本質的におよび自発的に治療効果を付与しないので、不活性成分であると見なされる。
【0090】
幾つかの態様において、本組成物は、幹細胞の遊走を誘導するアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)の一つまたは複数の追加の抽出物を含むことがある。この抽出物は、エタノールまたはメタノール(しかし、これらに限定されるわけではない)などのアルコールにアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)を抽出することによって得ることができる。一例では、追加の抽出物は、約10%から20%エタノールにアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)を抽出することによって製造される。一例では、組成物は、約10%エタノールに液体アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)を抽出することによって調製された抽出物を含む。一例では、追加の抽出物は、液体AFAを約10%エタノール中で、約65℃から約85℃の温度(例えば、約70℃から905℃、または約85℃の温度をその水性抽出物にかける)でインキュベートすることによって製造される。その後、その溶液を遠心分離し、上清を乾燥させる(上記参照)。1つの形態では、約50mgから約500mg、例えば、約100mgから約250mg、例えば約150mgの乾燥製品が被験者に投与される。
【0091】
一例では、有用な組成物は、約0.25グラムから約5グラム、約0.5グラムから約5グラム、または約1グラムから約2グラムの乾燥セレクチン含有抽出物、例えば、L-セレクチンリガンドが富化されている水性抽出物、例えばextract Aの固体形を含む。1つの特定の非限定的な例において、組成物は、藍藻類(例えば、AFA)の乾燥セレクチン含有抽出物、例えば、extract AなどのL-セレクチンリガンドが富化されている水性抽出物の固体形を約1グラム含む。組成物は、AFAの第二の乾燥抽出物約150mgも含み、第二の乾燥抽出物は、約10%から約20%エタノール中、約70℃から約90℃で、約1から3時間、AFAをインキュベートすることによって、例えば、約10%エタノール中、約850℃で、約1から3時間、AFAをインキュベートすることによって製造される。
【0092】
幹細胞動員の増強
L-セレクチンなどのセレクチンリガンドが富化されているアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)などの藍藻類の水性抽出物の治療有効量、および/または精製セレクチンリガンドの治療有効量を被験者に投与することにより幹細胞動員を増強する方法を本明細書において記載する。セレクチンリガンドは、L-セレクチン、P-セレクチンおよび/またはE-セレクチンリガンドであり得る。セレクチンリガンドは、幹細胞放出を刺激する(Frenette and Weiss, Blood 196(7): 2460, 2000)。被験者は、任意の被験者、例えば、ヒト被験者または動物被験体であり得る。
【0093】
L-セレクチンなどのセレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物、または藍藻類からの精製セレクチンリガンドは、単独でまたは他の薬剤と併用で投与することができる。幾つかの形態では、精製セレクチンリガンドおよび/またはセレクチンリガンドが富化されている水性抽出物(もしくはその固体形)を薬学的に許容される担体と共に薬学的組成物に含める。治療有効量の追加の成分、例えば、追加の抽出物の固体形を被験者に投与することもできる。1つの形態では、セレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物の固体形の治療有効量を被験者に投与する。従って、L-セレクチンなどのセレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物の治療有効量を投与し、それによって被験者における幹細胞の動員を増加させることを含む、被験者における幹細胞動員の増加方法を本明細書において提供する。
【0094】
1つの特定の非限定的な例では、水性抽出物を、固体形を生じさせるように乾燥させ、その固体形の治療有効量を対象となる被験者に投与する。セレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物などの抽出物の治療有効量は、体重1kg当たり約0.01から約1.0g、例えば、体重1kg当たり約0.05から約0.5グラム、または体重1kg当たり約0.1から約0.5グラムである。もう1つの特定の非限定的な例において、セレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物の固体形の有効量は、約0.25グラムから約5グラム、約0.5グラムから約5グラム、または約1グラムから約2グラムである。1つの特定の非限定的な例において、セレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物の固体形の有効量は、約1グラムである。
【0095】
本明細書において開示する組成物の活性薬剤は、担体と混合することができる。一般に、その担体の性質は、用いられる特定の投与方式に依存する。例えば、非経口調合物は、薬学的におよび生理学的に許容される流体、例えば水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどをビヒクルとして含む、注射用流体を通常含む。固体組成物(例えば、粉末、ピル、錠剤またはカプセル形)のための従来の非毒性固体担体としては、例えば、薬学グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与することができる薬学的組成物は、少量の非毒性補助物質、例えば、湿潤または乳化剤、保存薬およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはモノラウリン酸ソルビタンを含有することができる。
【0096】
この有効量は、所与の頻度、例えば、週に約1回、週に約2回、週に約3回、1日1回、1日に約2回、1日に約3回以上投与することができる。当業者は、精製セレクチンリガンド、またはセレクチンリガンドが富化されている水性抽出物の治療有効量を容易に決定することができる。1つの特定の、非限定的例では、循環幹細胞の量、例えば、CD34を発現する細胞の量を評定する。
【0097】
セレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物の治療有効量およびこれらの組成物の投与頻度は、様々な因子、例えば、利用される藻類の属または種、治療される被験者の全身の健康状態、および治療される被験者の生理学的特徴(例えば、身長、体重、体脂肪率、代謝など)に依存し得る。水性抽出物は、物理学的パラメータを改変することなく直接投与することができ、または別の物理形態で投与することができる。従って、1つの態様では、抽出物を乾燥させ、固体として投与する。もう1つの態様では、水性抽出物を乾燥させ、その後、特定量を担体に溶解し、その後、被験者に投与する。
【0098】
セレクチンが富化されている水性リガンドなどの水性抽出物の治療有効量を決定するための特定のアッセイを本明細書において提供する。1つの特定の、非限定的例では、AFAなどの藍藻類のセレクチンリガンド含有抽出物の種々の量をヒト被験者が消費し、その循環系における幹細胞(このような細胞のサブタイプを包含し得る)の存在および/または存在量を検出および/または分析する。もう1つの態様では、動物(例えば、マウス、ラットまたは他の獣医学的動物)モデルを用い、新たに組み込まれた幹細胞の集団を様々な組織においてモニターする(下の実施例参照)。開示する方法は、医学的および獣医学的設定で等しく使用することができることに留意しなければならない。
【0099】
どのように供給または投与するかにかかわらず、本藍藻類抽出物および/または精製セレクチンリガンドは、循環幹細胞、例えばCD34+幹細胞および/またはCD133+細胞の集団の一時的な増加を誘導する。本藍藻類抽出物は、蛍光標識アミノアセトアルデヒドにより測定することができる幹細胞の一時的増加も含むことができる。この手順は、幹細胞ウェブサイト上で説明されている(http://www.stemcell.com/technical/aldefluor.asp参照、http://www.stemcell.com/technical /12_aldefluor.pdfも参照)。簡単に言うと、蛍光標識アミノアセトアルデヒドは、細胞内に自由に拡散することができる。細胞内酵素ALDH(アルデヒドデヒドロゲナーゼ)は、これを、細胞から外に拡散することができない蛍光標識アミノアセテートに転化させる。従って、酵素ALDHを有する細胞(例えば、幹細胞)が蛍光性になる。他の細胞(例えば、分化した細胞を含む幹細胞でない細胞)は、洗浄後、非蛍光性に見える。
【0100】
幹細胞動員の増強は、特定用量の藍藻類抽出物に対する幹細胞の応答をアッセイすることによって測定することができる。1つの態様において、藍藻類からの精製セレクチンリガンドの被験者への提供は、投与後、一定期間以内、例えば、約5時間未満、約4時間未満、約2時間未満、約1時間未満、約30分未満、または約10分未満、その被験者の幹細胞の動員を増強する。
【0101】
1つの態様において、セレクチンリガンドが富化されている藍藻類の水性抽出物、および/または精製セレクチンリガンドの投与は、投与後、約10から約30分、幹細胞の循環への動員を生じさせる。動員された幹細胞は循環系に入り、従って、被験者の体内の循環幹細胞数を増加させる。標準ベースラインと比較した循環幹細胞数の増加率は、対照と比較して約25%、約50%、約100%または100%より大きく増加することがある。1つの態様において、対照は、同じ被験者からのベースライン値である。もう1つの態様において、対照は、未治療被験者における、またはプラシーボもしくは薬理学的担体で治療された被験者における循環幹細胞数である。
【0102】
一部の形態において、被験者は、健常である。他の形態において、被験者は、一定の疾病または生理状態、例えば、免疫抑制、慢性疾患、外傷性損傷または変性疾患に罹患している。一定の形態において、被験者は、皮膚、消化器系、神経系、リンパ系、心血管系または内分泌系の疾病または状態に罹患している。特定の実施形態において、被験者は、骨粗しょう症、アルツハイマー病、心筋梗塞、パーキンソン病、外傷性脳損傷、多発性硬化症、肝硬変、または下の実施例において説明する疾病および状態のうちのいずれかに罹患している。
【0103】
実施例
以下の実施例は、記載する様々な態様の特定の特徴を例証するために提供する。例示する特徴に本発明の範囲を限定すべきでない。
【0104】
実施例1
AFAの製造および抽出
藍藻類、アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)をKlamath Lakeから単離した。REFRACTANCE WINDOW(商標)Technologyを用いてその藍藻類を乾燥させた。
【0105】
1グラムの乾燥藻類材料を10mlのリン酸緩衝食塩水または水に懸濁させ、1時間、4℃でインキュベートし、光から保護した。このスラッシュを、バイアルを繰り返し反転させることにより混合し、400gで10分間、遠心分離した。その鮮明な青色の上清をデカントし、0.22mm フィルターを使用して滅菌濾過した。この濾液を冷暗保管し、調製したその日のうちに使用した。この抽出物をExtract Aと呼んだ。
【0106】
実施例2
AFA-Wから抽出したセレクチンリガンド:材料および方法
緩衝液および培地:細胞培養のために、10%ウシ胎仔血清、1%ペニシリンおよびストレプトマイシンならびにL-グルタミンを有するPRMI-1640に細胞を再び懸濁させ、培養した。免疫染色するために、細胞を洗浄し、0.02%アジ化物および1%ウシ胎仔血清またはウシ血清アルブミンを含有するリン酸緩衝食塩水に再び懸濁させ、染色した。増殖アッセイのために、およびホスホチロシンブロッティングアッセイのための刺激のために、フェノールレッド、10%ウシ胎仔血清(ニューヨーク州、Grand IslandのGibco)、1%グルタミン、1%ペニシリンおよび1%ストレプトマイシンを有するRPMI 1640中の細胞を用意した。
【0107】
藍細菌の(Cyanobacterial)抽出物:淡水藍藻類・アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)の乾燥粉末は、米国、オレゴン州のUpper Klamath Lakeから入手した。初期実験には、凍結乾燥粉末を使用した。後の実験のための粉末は、オレゴン州KenoのDesert Lake Technologiesから入手した。これは、REFRACTANCE WINDOW(商標)乾燥技術を用いて乾燥させたものであった。スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)は、カリフォルニア州、EscondidoのHealthforce Nutritionalsから入手した。1グラムの燥藻類材料を10mlのリン酸緩衝食塩水に再び懸濁させ、一晩、4℃でインキュベートし、光から保護した。そのスラッシュを、バイアルを繰り返し反転させることにより混合し、400gで10分間遠心分離した。その鮮明な青色の上清をデカントし、0.22mm フィルターを使用して滅菌濾過した。この濾液を冷暗保管し、調製したその日のうちに使用した。
【0108】
モノクローナル抗体:フィコエリトリン(PE)に連結されたCD62Lモノクローナル抗体TQ1(L-セレクチン分子のリガンド結合領域に特異的)は、Coulter(フロリダ州、Hialeah)から購入した。CD45-PerCP、CD11b-PE、CD14-PEおよびアイソタイプ対照抗体は、Becton-Dickinsonから入手した。
【0109】
Dynabeadsおよびキメラタンパク質を使用するリガンドの捕捉:セレクチン結合化合物の分子量を特定するために、プロテインGでコーティングされたDynabeads(ニューヨーク州、Lake SuccessのDynal Biotech Inc.)をセレクチンキメラタンパク質(ミネソタ州、MinneapolisのR & D Systems Inc.)と共にインキュベートする無細胞法を用いた。このキメラタンパク質は、ヒトL-セレクチン、P-セレクチンまたはE-セレクチンの細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンGのFc部分との融合体である。そのキメラタンパク質を、プロテインGでコーティングされたDynabeads上に、その製造業者が推奨するプロトコルを用いて共有結合させた(この場合、0.2M トリエタノールアミン緩衝液 pH8.0(Sigma Aldrich)中のピメルイミド酸ジメチル×2HCl(Sigma Aldrich)の新たに作った5.4mg/mlの溶液中で1時間ビーズをインキュベートした)。その架橋溶液からそれらのビーズを除去することにより架橋を停止させ、50mM TRIS緩衝液 pH7.5(Sigma Aldrich)に15分間再び懸濁させた。クエン酸塩/クエン酸緩衝液 pH2.8中での2回の洗浄により未結合キメラをそれらのビーズから溶出させた。その後、それらのビーズをPBS pH7.4中で数回洗浄し、新たに作ったAFA水抽出物に添加した。結合した材料を次の3つの方法のうちの1つでそのAFA水抽出物から溶出させた。1)β-メルカプトエタノールを含有するLaemmli緩衝液中で沸騰させる方法、2)pH12.5で溶出させる方法、および3)公知のセレクチンリガンドを使用してセレクチンリガンド結合部位について競合させる方法。見掛け同一分子量の化合物が、L-セレクチンとP-セレクチンの両方により親和精製されることが判明した。
【0110】
平行実験では、組換ヒトL-セレクチン/IgG1融合タンパク質でコーティングされたビーズを使用して、他の藍藻類、スピルリナ・プラテンシスからの同様の水抽出物が同様のセレクチン結合化合物を含有するかどうか見た。
【0111】
電気泳動:Dynabead親和法からの溶出物のサンプルを、メルカプトエタノールを有するLaemmliサンプル緩衝液(Biorad cat# 161-0737)中、1:1 v/vで混合することによりゲル電気泳動用に調製した。1時間、120Vで、TRIS/グリシン/SDS緩衝液(Biorad cat# 161-0732)中4〜15%のゲル(BioRad)を用いてSDSゲル電気泳動を行った。
【0112】
天然タンパク質についての電気泳動は、装填用にNative Sample Buffer(Biorad cat# 161-0738)、および電気泳動用にTRIS/グリシン緩衝液(Biorad cat# 161-0734)を使用して、SDS負含試薬で行った。
【0113】
ヒト被験者:健常ヒトボランティアは、20歳〜45歳の間の年齢の研究所スタッフおよび学生からインフォームドコンセントに基づき採用した。無菌条件下での静脈穿刺により血液サンプルを得、直ちに処理した。
【0114】
末梢血単核細胞(PBMC)の単離:末梢静脈血をFicoll-Hypaque(Amersham)上に重層させ、25分間、400gで遠心分離した。PBMCが豊富な界面を回収し、それらの細胞をRPMI中で2回洗浄した。
【0115】
多形有核細胞(PMN)の単離:末梢静脈血を、室温で、1%デキストランの最終濃度まで0.9%食塩水中のデキストラン70と混合した。1時間、沈降させた。白血球が豊富な上清を回収し、遠心分離により白血球をペレットにした。それらのペレットを2mlのリン酸緩衝食塩水に再び懸濁させ、その後、それを3ml Ficoll-Hypaqueの上面に重層させ、勾配遠心分離を行って、好中球から単核細胞(リンパ球および単球)を分離した。好中球を含有するペレットを食塩水に再び懸濁させた。細胞を洗浄し、栄養分が豊富な培地(RPMI 1640)に再び懸濁させ、使用するまで氷上で保存した。
【0116】
L-セレクチンの免疫染色:新たなホルマリン固定末梢血白血球を、V底96ウエルマイクロタイタープレートのウエルに、1ウエル当たり細胞数105の近似濃度で分配した。藍藻類AFAの新規調製水性抽出物を生理食塩水中で調製し、系列希釈を行った。細胞をPBS、PBS-AFA-W、PBS-AFA-W-アジ化物、またはPBS-PCのいずれかに様々な希釈度で再び懸濁させた。細胞を室温、暗所で20分間、インキュベートした。未固定の画分は、AFA抽出物での処理中アジ化ナトリウムと接触していなかったが、後の免疫染色のためにアジ化ナトリウム含有緩衝液に再び懸濁させた。これは、自由な細胞骨格の動きおよびL-セレクチンの遊離への対処であった。0.02%アジ化ナトリウム中に保持された画分は、全手順(AFA抽出物での処理とその後の免疫染色の両方)の間、アジ化ナトリウムと接触していた。これは、細胞骨格の動きを遮断し、L-セレクチン遊離を低減または遮断する。AFA-WとのまたはAFA-Wを伴わないインキュベーションの後、緩衝液を添加し、細胞を遠心分離した。上清を廃棄し、1%ウシ胎仔血清および0.05%アジ化物を含有する容量の50μl リン酸緩衝食塩水に細胞を再び懸濁させた。事前に滴定により決定したとおりのモノクローナル抗体の最適量を添加した。プレートを室温で10分間インキュベートし、緩衝液を添加し、プレートを遠心分離した。上清を廃棄し、細胞を50μl 緩衝液に再び懸濁させ、1%ホルマリン中で固定した。フローサイトメトリーによる獲得までサンプルを冷暗保存した。獲得は、固定から24時間以内に行った。
【0117】
L-セレクチンリガンドにより誘導されるCXCR4発現の免疫染色:L-セレクチンへのフコイダンの結合は、細胞表面へのプレメイドCXCR4の表出化、続いて内向化を生じさせ、やがて、白血球遊走因子に対する応答のためのウインドウを作る。このシステムを用いて、AFA-Wが、白血球細胞表面上のL-セレクチンへの結合についてフコイダンと競合するかどうかを検査し、それが、別のL-セレクチンリガンドからのこの機能効果を遮断するかどうか評価した。そうするために、新たに精製したヒトPBMCをRPMIに再び懸濁させ、一連の丸底マイクロウエルに分配した。一列のウエルにフコイダンを添加し、AFA-Wを別の列に添加し、フコイダンとAFA-Wの混合物をウエルの第三の列に添加した。異なる時点(1、10、20、30、40、60分)で、PBS含有アジ化ナトリウムをウエルに添加して、細胞骨格の動きを停止させ、それによってCXCR4のリサイクリングを停止させて、各時点において細胞表面で発現されたCXCR4についての染色を可能にした。アジ化物を含有するリン酸緩衝食塩水中で細胞を洗浄し、上で説明した染色プロトコルを用いてCXCR4-PEで染色し、ホルマリン中で固定し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0118】
AFAからのセレクチンリガンドの変性成分に対する天然成分の分子量の推定:分子量がわかっているマーカーについてゲル上の距離を測定した。AFA誘導セレクチンリガンド(二重バンド)の位置をそのグラフ上にプロットした。
【0119】
実施例3
幹細胞はAFAからの水性抽出物により動員される
下で説明するこの実験は、AFAの水性抽出物(Extract A、「AFA-W」とも名づける)が、セレクチンリガンドが富化されていることおよびCD34+幹細胞の動員を増強するために使用することができることを実証するものである。
【0120】
健常ヒトボランティアを特定し、藍藻類のセレクチン含有抽出物の消費前ならびに消費の10分、30分、60分および120分後に各人の末梢血中のCD34+細胞(循環CD34+細胞)の比率を査定した。ボランティアには、AFA抽出物の消費前および後の一定時間の間、身体的および精神的活動を制限するように指示した。
【0121】
1つの態様では、5グラムの乾燥AFAを40mlの水に抽出し、参加者がその水を飲んだ。もう1つの態様では、参加者は、AFAの乾燥L-セレクチンリガンド含有抽出物を750mg消費した。各ボランティアから得た全血サンプル中の赤色血液細胞を、FACS溶解溶液(カリフォルニア州、San JoseのBeckton-Dickinson)を使用して溶解した。残存細胞を洗浄し、フルオロセインイソチオシアネートとコンジュゲートしているモノクローナル抗体HPCA-2で染色した。サンプルを1%ホルマリン中で固定し、FacsCaliburフローサイトメーター(カリフォルニア州、San JoseのBeckton-Dickinson)およびCellQuestソフトウェア(カリフォルニア州、San JoseのBeckton-Dickinson)を使用してフローサイトメトリーにより分析した。
【0122】
図1は、循環幹細胞の一時的増加を誘発するAFAのセレクチンリガンド含有抽出物の消費を図示するものである。具体的に言うと、X軸は、対照レベルのパーセンテージとして表示された、AFAのL-セレクチンリガンド含有抽出物の摂取後0、10、30および60分の時点での代表的実験の時間経過を示す。摂取の時点で、循環CD34+細胞の比率は、対照と同じである。循環CD34+細胞のピーク増加は、消費後約10〜30分の時点で観察された。この時点で、循環CD34+細胞の数は、対照値より2倍増加された(その200%より大きかった)。AFAのセレクチンリガンド含有抽出物の摂取後1時間までに、循環CD34+細胞は、ベースライン値に戻ってしまった。従って、AFAの水性抽出物は、骨髄および他の解剖学的部位から循環への内在性幹細胞(例えば、CD34+細胞)の放出を増強することができる。AFAのセレクチンリガンド含有抽出物の消費は、CD34+幹細胞を動員させる。
【0123】
実施例4
AFAの水性抽出物はセレクチンリガンドを含有する
下で説明する実験は、AFAが、ヒトリンパ球、単球および好中球上のL-セレクチンのTQ1免疫染色を特異的に減少させる水溶性化合物を含有することを詳細に記録する。
【0124】
末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll-Hypaque(Amersham)上に末梢静脈血を重層することによって単離し、25分間、400gで遠心分離した。PBMCが豊富な界面を回収し、細胞をRPMI中で2回洗浄した。末梢静脈血を、室温で、1%デキストランの最終濃度まで0.9%食塩水中のデキストラン70と混合することにより、多形核細胞(PMN)を単離した。1時間、沈降させた。白血球が豊富な上清を回収し、遠心分離により白血球をペレットにした。それらのペレットを2mlのリン酸緩衝食塩水に再び懸濁させ、その後、それを3mlのFicoll-Hypaqueの上面に重層させ、勾配遠心分離を行って、好中球から単核細胞(リンパ球および単球)を分離した。好中球を含有するペレットを食塩水に再び懸濁させた。細胞を洗浄し、栄養分が豊富な培地(RPMI 1640)に再び懸濁させ、使用するまで氷上で保存した。
【0125】
新鮮なホルマリン固定末梢血白血球を、V底96ウエルマイクロタイタープレートのウエルに、1ウエル当たり細胞数105の近似濃度で分配した。藍藻類AFAの新規調製水性抽出物を生理食塩水中で調製し、系列希釈を行った。細胞をPBS、PBS-AFA-W、PBS-AFA-W-アジ化物、またはPBS-PCのいずれかに様々な希釈度で再び懸濁させた。細胞を室温、暗所で20分間インキュベートした。未固定の画分は、AFA抽出物での処理中アジ化ナトリウムと接触していなかったが、後の免疫染色のためにアジ化ナトリウム含有緩衝液に再び懸濁させた。これは、自由な細胞骨格の動きおよびL-セレクチンの遊離への対処であった。0.02%アジ化ナトリウム中に保持された画分は、全手順(AFA抽出物での処理とその後の免疫染色の両方)の間、アジ化ナトリウムと接触していた。アジ化ナトリウムは、細胞骨格の動きを遮断し、L-セレクチン遊離を低減または遮断する。従って、モノクローナル抗体でのL-セレクチンの染色のあらゆる減少は、AFA抽出物中の化合物との直接競合に起因する。
【0126】
Extract A(AFA-W)とのまたはExtract A(AFA-W)を伴わないインキュベーションの後、緩衝液を添加し、細胞を遠心分離した。上清を廃棄し、1%ウシ胎仔血清および0.05%アジ化物を含有する容量の50μl リン酸緩衝食塩水に細胞を再び懸濁させた。事前に滴定により決定したとおりのモノクローナル抗体の最適量を添加した。プレートを室温で10分間インキュベートし、緩衝液を添加し、プレートを遠心分離した。上清を廃棄し、細胞を50μl 緩衝液に再び懸濁させ、1%ホルマリン中で固定した。フローサイトメトリーによる獲得までサンプルを冷暗保存した。獲得は、固定から24時間以内に行った。フィコエリトリン(PE)に連結されたCD62Lモノクローナル抗体TQ1(L-セレクチン分子のリガンド結合領域に特異的)は、Coulter(フロリダ州、Hialeah)から購入した。
【0127】
PBMCおよびPMNとAFAからの水性抽出物(AFA-W)とのインキュベーションは、L-セレクチンのリガンド結合領域に特異的であることが公知であるTQ1抗ヒトL-セレクチンモノクローナル抗体(Spertini et al., J Immunol.147(3):942-9, 1991)での免疫染色を減少させた。TQ1染色のAFA-W媒介減少は、リンパ球およびPMNで最強であったが、単球においても観察された(図2A)。リンパ球およびPMNでは、細胞をAFA-Wと共にプレインキュベートしたとき、単球についての15倍の減少に対比して、TQ1染色の約40〜70倍の減少が見られた。
【0128】
CD11bの発現は、わずかにアップレギュレートされたが、他の付着マーカー(CD11a、CD18、CD29、CD49d、CD49eおよびCD44)についての有意な変化は観察されなかった。ホルマリン固定末梢血リンパ球をAFA-Wの系列希釈物の存在下または不在下でインキュベートした。TQ1抗体でのリンパ球の染色は、Extract Aの濃度を増加させるにつれてL-セレクチンへのTQ1の結合の用量依存的減少を示した。この効果はホルマリン固定リンパ球でも見られたので、染色減少は、L-セレクチンの遊離に起因するはずはない(図2)。
【0129】
実施例5
AFAセレクチンリガンドは、KG-1a CD34bright細胞系においてフコイダンにより誘発されるケモカイン受容体の発現を遮断する
原始細胞系KG-1aは、TQ1モノクローナル抗体での染色により評価すると、CD34およびL-セレクチンに明白に陽性である。KG-1aは、L-セレクチンリガンドにより表出化されるCXCR4ケモカイン受容体の細胞内レザバーも含有する。フコイダン、L-セレクチン作動薬、とのKG-1aのインキュベーションは、ケモカイン受容体CXCR4の発現を誘発する。AFA Extract Aは、CXCR4発現に対するこのフコイダン媒介作用を遮断した(図3)。
【0130】
実施例6
AFAからのL-セレクチンリガンドの精製
セレクチンリガンドは、ヒト組換L-セレクチンまたはP-セレクチンの細胞外部分が免疫グロブリンのFc部分にカップリングされている遺伝子操作された融合タンパク質に共有結合している磁気ビーズを使用して、AFAから単離した。ビーズをAFAの水溶性画分と共にインキュベートし、セレクチンリガンドを単離する(図4A:L-セレクチン、図4B:P-セレクチン参照)。磁気を用いてそれらのビーズを回収し、何度も洗浄した。その後、それらのビーズを酸処理に付すか、煮沸するか、アルカリ処理して、リガンドと組換セレクチンとの結合を破壊した。また、アフィニティーカラムを使用してセレクチンリガンドを単離した。
【0131】
このセレクチンリガンドを還元条件下で回収すると、それは、約54kDaおよび57kDaの2つのサブユニットで構成されたダイマーである(図4B)。これらのサブユニットに基づく複合分子は、約108、111または114kDaの分子量、およびより高いそれらの多重度を有し得る。サイズ排除技術を用いて、extract A画分を100kDa フィルターに通過させたとき、リガンドが、約100kDaより上の分画により高い濃度で見出された。従って、このリガンドは、少なくとも100kDaのダイマーとして単離することができる。
【0132】
実施例7
AFAから抽出されたセレクチンリガンドはExtract Bでは見出されない
Extract Bは、先ず、化合物をエタノールに抽出し、その後、極性緩衝液(水、食塩水)に戻すことによる幾つかの段階で製造した。この第一段階は、最初に3時間の間、50℃で、20%エタノールを含有する水溶液を用いて乾燥AFAから黄色/褐色粉末を生成させる段階であった。上清をデカントし、最終的に80%濃度までエタノールを添加することにより固体を沈殿させた。REFRACTANCE WINDOW(商標)乾燥技術を用いて、その沈殿物を乾燥させた。この黄色の粉末を水溶液(水または食塩水)に戻すと、橙色の抽出物が生成された。固体を遠心分離により除去し、上清を滅菌濾過した。この液体が、Extract Bである。上で説明したコーティングされた磁気ビーズと共に、この抽出物をインキュベートした。Extract Bは、セレクチンリガンドを含有しなかった(図5)。
【0133】
実施例8
藍藻類からのセレクチンリガンドは、CXCR4発現を修飾する
幹細胞は、少なくとも一部は、セレクチン付着分子により骨髄環境内で維持される。セレクチンが、適切なリガンドにより束縛されると、それが、サイトカイン受容体CXCR4の発現を誘発する。CXCR4は、間質由来因子1(SDF-1)の特異的受容体であり、SDF-1のCXCR4への結合は、骨髄に結合した幹細胞の維持を助長する。セレクチンリガンド結合の阻害は、CXCR4の発現を減少させ、これは、骨髄からの幹細胞の解離および血流へのそれらの放出をもたらす。
【0134】
AFAからのセレクチンリガンドの生理作用を実証するために、1つの態様では、セレクチンリガンドをフコイダン(CXCR4発現を刺激する公知L-セレクチンリガンド)によって誘発されるCXCR4発現に関してテストした。フコイダンへの暴露後のCXCR4受容体の発現を、リンパ球に関して、フローサイトメトリーを用いて評価した。AFAセレクチンリガンドとのインキュベーションは、ヒトリンパ球(図6)およびヒトCD34+前駆細胞系統KG-1a(図7)上でのCXCR4の発現を有意に阻害した。このことは、これが、AFAセレクチンリガンドが幹細胞動員を誘発できるメカニズムであることを示している。
【0135】
実施例9
骨髄からの幹細胞は、多数の遠隔組織に定住する
マウスモデルを用いて、藍藻類の消費により動員された幹細胞が身体の遠隔組織に定住する能力を評価することができる。雄マウスを骨髄ドナー動物として選択し、一方ですべてのレシピエントマウスは雌である。雌レシピエントには、それらの尾静脈への雄骨髄細胞の注射前に、致死量以下の放射線を照射した。マウスの2つの群を評価した。動物数20の第一群には、致死量以下の放射線を照射し、骨髄を注射し、標準飼料を食べさせた。動物数20の第二群にも致死量以下の放射線を照射し、骨髄を投与し、そして標準飼料と共に0.5から15重量%w/vのセレクチンリガンド含有AFA画分を食べさせた。
【0136】
成体骨髄の約6×106の有核細胞を週齢8〜10週の雄マウスから採取し、同じく週齢8〜10週の、致死量以下の放射線を照射した同質遺伝子型成体雌レシピエントの尾静脈に注射する。各群からのマウスを次の各時点で屠殺する。時点0、1週間、2週間、3週間、4週間および8週間。2および3週間の時点で、6匹のマウスを各群から屠殺する。他のすべての時点では、2匹のマウスを各群から屠殺する。
【0137】
注射後最初の2週間の間、15マイクロリットルの全血を耳、尾または足から採取し、直ちに200マクロリットルの緩衝液(リン酸緩衝食塩水、pH=7.2、2%血清、0.02%アジ化物)で希釈して凝固因子を希釈し、凝固を防止する。それらの血液サンプルをアッセイして、血液中の血小板、赤色血液細胞および白血球の再配置をモニターする。血液サンプルの一部は、細胞数を得るために、および白色血液細胞に対する赤色血液細胞の示差評価のために用いる。サンプルは、フローサイトメトリーを用いてアッセイし、好中球、リンパ球および単球の集団は、前方および側方散乱を用いて評価する。血液白血球は、フローサイトメトリーを用いて雄起源について検査する。
【0138】
屠殺する時点で、様々な細胞および組織型をHy抗原について検査し、これにより、その細胞または組織が雄マウス起源のものであることを実証する。脳を回収し、嗅球、海馬体、皮質野および小脳を含む全脳を検査する。骨髄、心筋、後肢筋肉、肝臓、膵臓、小腸切片および肺組織を、免疫蛍光法による表面Hy抗原の検出によって、またはY染色体についてのプローブを使用する蛍光インサイチューハイブリダイゼーションによって、Y染色体を有する細胞の存在について検査する。これらのデータにより、藍藻類を含有する食餌が注射した骨髄幹細胞のホーミング、内植および分化プロセスをどの程度促進するかが詳細に記録される。
【0139】
実施例10
骨髄からの幹細胞は多数の遠隔組織に定住する
緑色蛍光タンパク質(GFP)についての遺伝子を保有するトランスジェニック雄マウスおよびレシピエントとして同質遺伝子型雌マウスを使用して、上で説明したものと同様の試験を行う。上で説明したようにこれらの動物を治療し、食餌を与え、屠殺し、血液サンプルも同様に分析する。
【0140】
フローサイトメトリーを用いて、血液白血球をGFPの発現について検査し、屠殺する時点で、様々な細胞および組織型をGFP抗原について検査し、これにより、そのドナー起源を実証する。上で説明したとおり組織および器官を回収し、GFPを保有する細胞の存在をフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法によって検出する。
【0141】
実施例11
外傷組織の幹細胞集団増加
マウスモデルを用いて、骨髄由来幹細胞の外傷組織へのホーミングおよび組み込みを評価する。
【0142】
骨髄ドナーは、成体雄マウス(週齢8〜10週)であり、すべてのレシピエントマウスは、成体の雌(週齢8〜10週)である。マウスの2つの群を評価する。致死量以下の放射線を照射したレシピエントの一方の群に6×106の有核ドナー細胞を尾静脈での注射によって与え、2週間回復させる。その後、それらの動物を、後肢筋肉、心臓および脳への針挿入によって軽度に外傷を負わせる。この試験を通して、すべての動物に標準飼料を与える。第二群では、雌マウスを第一群と同じに治療するが、0.5から15重量%w/vのセレクチンリガンド含有AFA画分を含む食餌を食べさせる。
【0143】
外傷を負わせる前に2匹のマウスを屠殺して、雄由来の細胞のベースラインレベルを評価する。その後、マウスを次の時点で屠殺する。1週間、2週間、3週間および4週間。6匹のマウスを各群から屠殺する2週間の時点を除き、各時点で2匹のマウスを屠殺する。屠殺した動物から後肢筋肉、心臓および脳組織を単離する。外傷領域にわたって切片を切断し、Hy抗原の発現についての細胞表面マーカー分析を用いて、またはY染色体についてのプローブを使用する蛍光インサイチューハイブリダイゼーションによって、雄由来の細胞について染色する。あるいは、GFPを発現するトランスジェニックドナーマウスを用いる(実施例#4と同様)。
【0144】
得られるデータが、外傷後の幹細胞補充速度に対するAFAのセレクチンリガンド含有画分の消費の効果を実証する。
【0145】
実施例12
組織修復についての症例報告
被験者は、3年前に自動車事故に遭ったボディービルダーであった。運転者側に乗車していた彼女の車に1台の車が衝突し、股関節および大腿の幾つかの筋肉が断裂した。彼女は、その幾つかの筋肉を再び付着させるために一連の外科手術を受けた。手術の成功にもかかわらず、筋肉損傷は非常に重度であったため、彼女には恒常的な疼痛が残り、重量挙げのトレーニングを再開することができず、例えば、精神トレーニングセッションでさえ、数日間、歩行を妨げる膨張および疼痛が追従することとなった。
【0146】
彼女は、多くの抗炎症薬を試したが、18ヵ月後、彼女は、まだトレーニングすることができなかった。彼女は、セレクチンリガンドを含有する藍藻類画分を消費し始めた。2週間後、彼女は、ジムに戻ることができたことを報告し、消費2ヵ月後、彼女は、正規のトレーニングを再開した。これは、筋肉組織の広範な修復を示す。
【0147】
実施例13
組織修復についての症例報告
55歳の老人被験者は、第六股関節置換術、左側の四番目、のために通っていた。一般に、予後は非常に不良であり、極度の困難を伴っていた。
【0148】
整形外科医は、骨盤および寛骨臼を再建した。しかし、外科手術前、被験者は、その処置の長期成功に必要な新しい骨を体が生産するしかないことを医師から告げられた。被験者が骨を成長させられたとしても、治癒に必要なものより少ない可能性が高いと言われた。
【0149】
この被験者は、その外科手術のすぐ後に、L-セレクチンを含有する藍藻類画分を供給された。新たな強い骨の成長がすぐに現われ、回復は早かった。この被験者は、松葉杖はもはや必要なくなったと報告しており、この被験者の以前の外科手術での6ヶ月と比較して、6週間で全体重を支える状態になることができた。この被験者は、検診のたびに治癒の加速が確認されたと報告した。この被験者は、80年代初期に修正手術を行った右股関節の周囲の骨が、非常に強くなったことに気づいたという報告もした。これは、例外と考えられた。
【0150】
実施例14
症例報告
ある若い未婚女性は、3歳のとき、小児筋ジストロフィーと診断された。彼女は歩くことができなかった。彼女は、非常に虚弱であり、しばしば肺炎を経験し、各回、結果的に8〜10日間、床につくことになった。彼女は、6ヶ月間、筋ジストロフィーのための従来の治療を続けたが、結果的に何も変わらなかった。彼女は、スピルリナの消費を開始し、これは、ある程度、彼女の免疫機能を改善し、例えば、彼女が経験する肺炎の頻度および重症度が低くなった。その後、彼女は、セレクチンリガンドを含有する藍藻類画分(Extract A)の消費を開始した。2週間後、彼女は、第一歩を踏み出した。3ヶ月後、彼女は、歩いていた。彼女は、もはや肺炎ではなかった。
【0151】
この疾病は、遺伝性疾患であり、同じ、しかし、さらに変性した、疾病を有する幾人かの家族構成員も、藍藻類画分(Extract A)の消費を開始した。これらの人たちは、この画分の消費の恩恵を経験したことを報告した。
【0152】
実施例15
ヒト試験
循環幹細胞数に対する様々なAFA抽出物の効果に関して、ヒト被験者での三重盲検、無作為化、プラシーボ対照試験を行った。以下の方法をこれらの試験において用いた。
消費物:4つの消費物をテストした。2つは液体であり、2つはカプセル封入されていた。ボランティアも、この物質を投与する人も、データ分析を行うスタッフも、どの物質が所与の試験日に投与されるかを知らなかった。
【0153】
1.LSL:Extract A、L-セレクチンリガンドが富化されているAFA画分。L-セレクチンリガンド(LSL)が濃縮されている1グラムの画分を40mlの水に混入し、紙コップで試験被験者に出した。
【0154】
2.Migratose(MGT):免疫細胞および幹細胞の遊走の要因である生物活性化合物を含有することがわかっている画分を、50℃で1時間の10%エタノールでの液体AFAの抽出によって得た。この溶液を遠心分離し、RWを用いて上清を乾燥させた。この生成物を社内的にMigratose(MGT)と名づけた。Migratose(150mg)を250mgのプラシーボとブレンドし、植物性カプセルに入れて投与した。
【0155】
3.StemEnhance(SE):StemEnhanceは、LSLとMigratoseのブレンドである。1グラムのStemEnhanceを40mlの水に混入し、紙コップで試験被験者に出した。
【0156】
4.プラシーボ:プラシーボは、植物性カプセル内に封入された400mgの緑色に染めた微粉砕ポテトフレークからなるものであった。外観は、Migratoseが入っているカプセルの外観と全く同じであった。
【0157】
被験者:通常の供血健常ボランティアから合計19人を面接した。以下の除外基準を用いた。
・20歳未満または65歳を越える年齢
・妊娠
・毎日の投薬が必要な重度の喘息およびアレルギー
・なんらかの判っている慢性疾患または以前の/現在の性病
・頻繁な娯楽的薬物使用
・消化機能障害(以前の大きな胃腸手術を含む)。
【0158】
面接した人々のうち14人が、本試験の基準を満たし、参加に同意した。その14人のうち3人は、その後、ノンコンプライアンスのため、この試験の途中で除外した。残りの11人のボランティアのうち6人は、4試験日を各々終えたので、同じ人で4つすべての消費物についてのデータが得られた。残りの5人のボランティアは、3試験日に各々参加することができた。
【0159】
2ヶ月の期間の間の連続する4週の同じ曜日に到着するように被験者のスケジュールを組んだ。より大きな一貫性をデータにもたせるために、被験者のスケジュールを同じ曜日に組んだ。彼らには、各試験日の前夜は十分に睡眠をとるように、ならびに各試験日には同じタイプの刺激の少ない朝食を摂るように指示した。
【0160】
到着したら、ボランティアを互いに離れた静かな場所に座らせて、雑談させないようにし、静かな環境を作った(電話、ドアベル、研究所職員間の会話など妨げになるものは一切なかった)。ボランティアには、1時間、快適に椅子に座ってじっとしているように指示した。必要な場合、トイレへはゆっくりと歩いていくように動きを制限した。1時間後、ベースライン血液サンプルを採取した。ベースラインサンプル採取直後、消費物を供給した。ボランティアには、この治験の全所要時間の間、じっとしているように指示した。後程、消費物の摂取の30、60および120分後に血液サンプルを採取した。
【0161】
各日、研究所に到着したら、ボランティアは、彼らの全身の健康状態について日評を与える質問標に記入した。この質問標は、異例な環境のためデータポイントを削除しなければならない場合がある任意の事例を特定するためのものであった。データポイントの削除には以下の基準を用いた。
・睡眠不足
・到着の2時間以内の刺激物
・ストレス。
【0162】
循環幹細胞の評定:各時点で、5mlの血液をヘパリンに採取し、2mlの血液をEDTAに採取した。それらの血液バイアルは、使用するまでロッキングプレートに載せておいた。EDTAに採取した血液は、Coulterカウンター(Micro Diff II、Beckman Coulter)を用いて完全血球算定(CBC)を達成するために使用した。すべてのCBCは、そのサンプル採取から1時間以内に行った。すべてのCBCは、三重反復で行った。
【0163】
ヘパリン添加血は、勾配遠心分離による末梢血単核細胞画分の精製に使用し、免疫染色およびフローサイトメトリーのために処理した。幹細胞マーカー CD34-FITC(クローン8G12)およびCD133-PEを二色免疫蛍光検査に使用した。CD34-FITC/CD133-PEWでのすべてのサンプルの染色は、三重反復で行った。並行サンプルでは適切なアイソタイプ対照を使用した。各ドナーについての陽性対照は、CD45およびCD14を含んでいた。染色細胞を1%ホルマリン中で固定し、直ちにフローサイトメトリーにより獲得した。200,000事象のファイルを各サンプルで収集した。
【0164】
免疫染色に使用した細胞は、顆粒球集団を含まなかったので、その200,000事象の獲得は、全血を使用した場合より多い幹細胞を含んでいた。従って、末梢血単核細胞画分の使用は、より良好な統計学的重みを幹細胞数の実測差に与える、より多い幹細胞数を有するデータ収集を可能にする。
【0165】
CD14についての染色は、CD34およびCD133の分析に干渉しないように、平行サンプルで行った。フローサイトメトリー分析は、CellQuest Pro ソフトウェア(Becton Dickinson)を使用して行った。
【0166】
以下の結果を得た。
SEおよびLSLの消費は、循環CD34+細胞数の増加をもたらし(図9参照)、一方、MGTは、循環CD34+細胞数の減少をもたらす。プラシーボの消費後、統計学的に有意でない小さな変化があった。SEとLSLの両方に関して、多数のボランティアが、CD34+細胞数の初期の一時的減少の傾向を示した。この観察は、LSLについてのほうが大きかったが、有意には達しなかった。消費後60分の時点で、SE(p<0.003)およびLSL(p<0.02)は、CD34+細胞数の有意な増加を誘発した。しかし、MGTは、有意な減少を誘発した(p<0.03)。
【0167】
データ分析の後の部分では、AFA抽出物に対する各ボランティアの応答をプラシーボに対する同じ人の応答に正規化した。これは、その抽出物で得られたパーセンテージ変化からプラシーボで得られたパーセンテージ変化を減算することによって行った。これは、3つすべての消費物について行った。この手順は、それらの応答の大きさまたは有意性を増さなかった。得られたパターンは、図9に類似していた。
【0168】
データ分析のもう1つの部分は、プラシーボと比較した各消費物についての最大パーセント変化に焦点を合わせたものであった。この分析の根本的理由は、生物活性化合物の吸収、標的器官への送達、および定量可能な生理応答を生じさせる時間が、各ボランティアの総合的生理機能に依存して異なる場合があるということである。この分析法は、個々の応答時間の差を最小にし、ならびに最大変化が、30分で観察されるのか、60分で観察されるのかに関係なく、変化度を比較することができる。この方法に基づき、SEでの循環幹細胞数の24±5%増加およびMGTでの24±2%減少が認められた。SEおよびMGTについて、それぞれ、27%および77%のメジアン応答が認められた。
【0169】
最大応答に達する時間枠は、数週間以下の時間枠であるように見えた。データ中の潜在的混乱要素を避けるために、これらの試験の大部分は、規則正しくAFAを消費した被験者からのサンプルで行った。本試験において、1人の被験者だけは、AFAの規則正しい消費者でなかった。この1人の被験者は、CD34+細胞動員の顕著な増加を示さなかった。このボランティアは、分析から除いたことに留意しなければならない。これは、規則正しくAFAを消費しなかったただ1人の被験者だけだったので、その被験者から得たサンプルは、関連した統計学的分析に使用することができなかった。加えて、このタイプのプロトコルに関する1つの複雑化要因は、個々が、すべて、同様の時間枠に従って動員せず、従って、実際の動員ピークより過小評価される場合があることである。プラシーボに対する応答は、ばらつきを示したが、このような変動は、統計学的有意に達しなかった。それにもかかわらず、これらの変動は、真実に見え、また、循環CD34+の日々のサイクリングをより良好に理解することが、将来の試験設計に有用であり得ることを示唆している。
【0170】
この試験により、SEおよびLSL(これらの両方が、セレクチンリガンドが富化されている乾燥水性抽出物を含む)が、循環CD34+細胞数を増加させることによる骨髄幹細胞の動員に有効であることが確認された。この試験において収集したデータは、SEが、循環幹細胞数を35%以下増加させることを示している。
【0171】
説明した方法または消費物の明確な詳細が、説明した本発明の精神を逸脱することなく変化させるまたは変更することができることは明らかである。本発明者らは、特許請求の範囲の範囲および精神の中に入るそのようなすべての変更および変化を主張する。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】AFAの消化に基づく健常なヒトの血液中の循環幹細胞数の増加についての時間経過を示す線グラフである。ヒトリンパ球および単球に関してフローサイトメトリーを行い、このフローサイトメトリーでは、ヒト幹細胞に対して特異性を有するモノクローナル抗体CD34を使用して、AFA extract Aが、血液循環内の幹細胞数を増加させることにより幹細胞を動員させる化合物を含有することを実証した。
【図2】ヒトL-セレクチンのリガンド結合領域に特異的なモノクローナル抗体TQ1を使用して、AFA extract Aが、L-セレクチンリガンド結合部位に対する結合について競合する化合物を含有することを実証した、ヒトリンパ球、単球およびリンパ有核細胞に関して行ったフローサイトメトリーを示す棒グラフである。TQ1抗体とAFA extract Aからの化合物との競合作用は、濃度依存的である。
【図3】AFA Extract Aからセレクチンリガンドを精製するために用いた方法の略図である。免疫グロブリンのFc部分に結合するプロテインGで磁気ビーズをコーティングした。これらのビーズを使用して、ヒト免疫グロブリンIgG1のFc部分と互いに連結しているヒトL-セレクチンの細胞外部分からなる化学的組換タンパク質を捕捉した。これらの磁気ビーズ上で化学反応を行って、そのキメラのFc部分とプロテインGとの共有結合を形成した。これらのビーズ(その時すでにそのキメラでコーティングされており、それらのビーズから伸びるヒトL-セレクチンの細胞外部分を有する)を使用して、AFA抽出物中のL-セレクチンについてのリガンドを捕捉した。
【図4】AおよびBは、図3において説明した親和法を利用した場合の、AFA extract Aから親和精製された化合物の近似的分子量を図解するゲル電気泳動を示すデジタル画像である。これらの図は、磁気ビーズがAFA Extract Aからのセレクチンリガンドを捕捉した後、それらのビーズから溶離した材料に関してゲル電気泳動を行った、ゲルのデジタル画像である。図4Aは、ヒト組換L-セレクチンでコーティングされたビーズから溶離した化合物を示すデジタル画像であり、図4Bは、ヒト組換P-セレクチンでコーティングされたビーズから溶離した化合物を示すデジタル画像である。これらのゲルは、還元条件下で走行させた。約54および57kDaに2つの明瞭なバンドが示されている。同一のバンドパターンが、L-セレクチンとP-セレクチンの両方について見られた。これは、このセレクチンリガンドが、L-セレクチンとP-セレクチンの両方についてのリガンドであることを示している。
【図5】磁気ビーズを利用して、AFA Extract A 対 Extract Bにおける潜在的セレクチンリガンドを捕捉した後、それらのビーズから溶離した材料に関してゲル電気泳動を行った、ゲルのデジタル画像である。AFAからのセレクチンリガンドが、Extract Aにおいて見出された。AFAからのセレクチンリガンドは、Extract Bでは検出できない。レーン1は、負の対照であり、レーン2は、Extract Aから精製したリガンドを示し(矢印)、およびレーン3は、Extract Bでは見られなかった対応するバンドを示す。
【図6】公知L-セレクチンリガンド、フコイダンによって誘導されるような、ケモカイン受容体CXCR4の発現のフローサイトメトリー分析からの結果を示す線図である。これらのデータは、公知L-セレクチンリガンド フコイダンが、ヒト末梢血リンパ球上のL-セレクチンへの結合について、AFAからの化合物と競合することを示している。
【図7】公知L-セレクチンリガンド、フコイダンによって誘導されるような、ケモカイン受容体CXCR4の発現のフローサイトメトリー分析からの結果を示す線図である。これらのデータは、公知L-セレクチンリガンド フコイダンが、ヒトCD34+細胞系 KG-1a上のL-セレクチンへの結合について、AFAからの化合物と競合することを示している。
【図8】表である。提示されている結果は、Extract A(AFA-W)が、ヒト白血球上のL-セレクチンへのTQ1 MoAbの結合を遮断することを示している。
【図9】L-セレクチンリガンド(LSL)、migratose(MGT)、stem enhanced配合剤(SE)またはプラシーボ(標識Ctrl)の消費後(矢印)のヒト末梢血におけるCD34+細胞の数の時間経過を示す線図である。L-セレクチンリガンド(LSL)は、L-セレクチンリガンドが富化されているアファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)の抽出物である。LSLで治療した被験者については、L-セレクチンリガンドが濃縮された抽出物(実施例セクション参照) 1グラムを40mlの水と混合し、それを被験者が消費した。Migratose(MGT)は、アファニゾメノン・フロス・アクア(AFA)を85℃で3時間、10%エタノールで抽出した抽出物である。その溶液を遠心分離し、RWを用いて上清を乾燥させた。投与のために、150mgの乾燥生成物を250mgの担体とブレンドし、植物性カプセル内に封入し、それを被験者が消費した。Stem enhance配合剤(SE)は、上で説明したとおりのLSLとMGTのブレンドである。1グラムのSEを40mlの水と混合し、それを被験者が消費した。対照は、植物性カプセルに封入された400mgの微粉砕ポテトフレークであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-セレクチンリガンドが富化されている、アファニゾメノン・フロス・アクア(Aphanizomenon flos aquae)の水性抽出物。
【請求項2】
水または塩類溶液に乾燥アファニゾメノン・フロス・アクアを懸濁させ、固形物を除去することによって製造される、請求項1記載の水性抽出物。
【請求項3】
乾燥形態の請求項1記載の水性抽出物を含む固体組成物。
【請求項4】
薬理学的に許容される担体中の請求項1記載の固体組成物の治療有効量を含む組成物。
【請求項5】
第二の固体組成物の治療有効量をさらに含む組成物であって、第二の固体組成物が、アファニゾメノン・フロス・アクアの第二の抽出物の乾燥形であり、および第二の抽出物が、アファニゾメノン・フロス・アクアのエタノール抽出物である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
エタノール抽出物が、約50℃から約60℃で約10から約20パーセントエタノールに乾燥アファニゾメノン・フロス・アクアを懸濁させることによって製造される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
L-セレクチンリガンドが富化されている、アファニゾメノン・フロス・アクアの乾燥水性抽出物1グラムから約2グラム、およびアファニゾメノン・フロス・アクアの乾燥エタノール抽出物約100mgから約500mgを含む、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
L-セレクチンリガンドが富化されている、アファニゾメノン・フロス・アクアの乾燥水性抽出物約1グラム、およびアファニゾメノン・フロス・アクアの乾燥エタノール抽出物約150mgを含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
0.1モルのリン酸緩衝食塩水または水中でアファニゾメノン・フロス・アクアの第一の量を約半時間から約12時間、接触させて、水性抽出物を製造する工程;
水性抽出物から固体材料を除去する工程;
水性抽出物を乾燥させて、L-セレクチンリガンドを含む固体組成物を製造する工程;
約50℃で約1時間、10%エタノール中でアファニゾメノン・フロス・アクアの第二の量をインキュベートして、エタノール抽出物を製造する工程;
エタノール抽出物から固体材料を除去する工程;
エタノール抽出物からの固体材料を乾燥させて、固体形のエタノール抽出物を製造する工程;および
L-セレクチンリガンドを含む前記固体組成物の治療有効量と前記固体形のエタノール抽出物の治療有効量とを混合する工程
によって製造される、請求項6記載の組成物。
【請求項10】
還元条件下で約55kDaの分子量のタンパク質または糖タンパクを含む藍藻類(blue-green algae)から単離される精製セレクチンリガンド。
【請求項11】
還元条件下で約54kDaまたは約57kDaの分子量を有する、請求項10記載の精製セレクチンリガンド。
【請求項12】
藍藻類が、アファニゾメノン・フロス・アクアである、請求項10記載の精製セレクチンリガンド。
【請求項13】
藍藻類が、スピルリナ(Spirulina)種である、請求項10記載の精製セレクチンリガンド。
【請求項14】
非還元条件下で約54kDa、約57kDa、約162kDa、約171kDa、約233kDaまたは約111kDaの分子量を有する、請求項10記載の精製セレクチンリガンド。
【請求項15】
薬学的に許容される担体中の請求項10記載の精製セレクチンリガンドの治療有効量を含む薬学的組成物。
【請求項16】
請求項10記載の精製セレクチンリガンドの治療有効量を被験者に投与し、それによって被験者における造血幹細胞を動員させることを含む、被験者における造血幹細胞の動員方法。
【請求項17】
造血幹細胞が、CD34(CD34+)、CD133(CD133+)または両方を発現する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
被験者がヒトである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
被験者においてCD34+幹細胞の数を測定することをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
被験者が健常である、請求項16記載の方法。
【請求項21】
被験者が、免疫抑制されているか、慢性疾患、外傷性損傷または変性疾患を有する、請求項16記載の方法。
【請求項22】
被験者が、消化器系、神経系、リンパ系、心血管系または内分泌系の疾患を有する、請求項16記載の方法。
【請求項23】
被験者が、骨粗しょう症、アルツハイマー病、心筋梗塞、パーキンソン病、外傷性脳損傷、多発性硬化症または肝硬変を有する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
幹細胞ホーミングが、対照と比較して約100%から約500%増加される、請求項16記載の方法。
【請求項25】
請求項1記載の組成物の治療有効量を被験者に投与し、それによって被験者における幹細胞を動員させることを含む、被験者における造血幹細胞の動員方法。
【請求項26】
造血幹細胞が、CD34(CD34+)、CD133(CD133+)または両方を発現する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
被験者がヒトである、請求項25記載の方法。
【請求項28】
被験者においてCD34+幹細胞の数を測定することをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項29】
被験者が健常である、請求項25記載の方法。
【請求項30】
被験者が、免疫抑制されているか、慢性疾患、外傷性損傷または変性疾患を有する、請求項25記載の方法。
【請求項31】
被験者が、消化器系、神経系、リンパ系、心血管系または内分泌系の疾患を有する、請求項25記載の方法。
【請求項32】
被験者が、骨粗しょう症、アルツハイマー病、心筋梗塞、パーキンソン病、外傷性脳損傷、多発性硬化症または肝硬変を有する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
幹細胞ホーミングが、対照と比較して約100%から約500%増加される、請求項25記載の方法。
【請求項34】
水溶液に藍藻類細胞を抽出する工程;
粒子状物質を分離し、得られた上清を単離する工程;
固体支持体に結合するセレクチンと上清を接触させる工程;および
セレクチンに特異的に結合したリガンドを放出させ、それによってセレクチンリガンドを単離する工程
を含む、セレクチンリガンドの単離方法。
【請求項35】
リガンドの放出が、酸、アルカリ、熱またはこれらの組み合わせでの処理を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
セレクチンが、免疫グロブリンFcドメインに融合しているヒトL-セレクチンの細胞外ドメイン、または免疫グロブリンFcドメインに融合しているヒトP-セレクチンの細胞外ドメインを含む、請求項34記載の方法。
【請求項37】
固体支持体が、磁気ビーズを含む、請求項34記載の方法。
【請求項38】
藍藻類が、アファニゾメノン・フロス・アクアである、請求項34記載の方法。
【請求項39】
藍藻類が、スピルリナである、請求項34記載の方法。
【請求項40】
請求項34記載の方法によって単離されたセレクチンリガンド。
【請求項41】
藍藻類細胞が、アファニゾメノン・フロス・アクアである、請求項34記載のセレクチンリガンド。
【請求項42】
藍藻類細胞が、スピルリナである、請求項34記載のセレクチンリガンド。
【請求項43】
L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチンまたはこれらの任意の組み合わせに結合する、請求項10記載の精製セレクチンリガンド。
【請求項44】
セレクチンが、L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチンまたはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項16記載の方法。
【請求項45】
被験者が、動物被験体である、請求項16記載の方法。
【請求項46】
被験者が、動物被験体である、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−546808(P2008−546808A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518494(P2008−518494)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/024769
【国際公開番号】WO2007/002570
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(507417824)デザート レイク テクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】