説明

虚血性および腎毒性障害の軽減および改善用NGAL

患者臓器に対する処置としての好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)の使用および虚血障害、虚血再灌流障害、毒素誘導性障害より選択された障害を処置、軽減または改善する方法における使用を開示する。本発明は、虚血、虚血再灌流または毒による腎臓等の臓器への障害を処置、軽減または改善するのに有効な量のNGALを前記患者へ投与することを含む。シデロホアは前記NGALと共投与できる。本発明はまた、虚血または毒による患者臓器への障害に続くNGAL分泌への反応を促進するシデロホアの投与に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は臓器における虚血性および腎毒性障害を軽減または改善する方法に関する。本発明はさらに虚血性および毒素誘導性障害または発作に関連する各種疾病を患う患者の処置に関する。本発明はさらに急性または慢性腎臓障害を患う患者の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器への酸素流量が減少することを虚血というが、虚血が生じると、その影響を受ける細胞のうち実質上全ての細胞小器官および細胞内システムの構造と機能に、複雑な一連の現象を招くこととなる。虚血再灌流(血流の再開)障害は活性酸素種(ROS)および活性窒素種(RNS)の過剰産生を導き、その結果、細胞の機能または完全性の損失につながる、ミトコンドリアの酸化的リン酸化の変化、ATPの減少、細胞内カルシウムの上昇、およびプロテインキナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、およびヌクレアーゼの活性化等の一連の現象を招く酸化ストレスの原因となる。これまでに再灌流を伴う虚血によって誘導される炎症反応が大きな原因となって組織と臓器が損傷することが示されてきた。
【0003】
虚血再灌流障害は臓器移植において深刻な問題である。なぜならば用いる臓器は身体から取り出され、血液源から分離され、その結果かなりの時間酸素と栄養が除かれるからである。今日の腎臓移植技術における重要な課題は、術後の急性尿細管壊死(ATN)が原因となる比較的高い発症率の移植後機能障害(DGF)にある。詳しくは、移植を行っている多くの病院で腎臓移植の約20〜35%にDGFの影響が見られ、腎臓移植の手術直後における合併症としては最多である。DGFの発症率と定義は移植を行う病院によってさまざまであるが、発症した結果として最も多いのが、入院期間の延長、侵襲的医療行為の追加、患者および健康管理システムに対する費用の追加等である。DGFは個々の患者に影響するだけでなく、利用可能な臓器供給におこる枯渇の結果として、臓器調達および共有のためのインフラにも影響する。DGFはまた早期急性拒絶反応が発生する危険性を高め慢性拒絶反応による移植片の早期損失を増大させる。
【0004】
現行の保存方法によると臓器保存が原因となる低温虚血は、移植後にDGFを起こす主要な危険因子としてみなされてきた。腎臓の場合、24時間を超える低温虚血時間はDGFの危険性の増加と大いに関連する。1960年代半ばに、機械による灌流と低温沈降処理血漿に由来する溶液を用いることで腎臓の低温貯蔵が効果なものとなった。その後低温晶質液の使用を含む簡単な低温貯蔵法が導入された。初期の腎臓での成功以来、保存液は細胞膨張の抑制および代謝支援物の提供によって低音虚血障害を防ぐためにデザインされた完全合成の限定培地に発展した。初期の合成液であるウィスコンシン大学のラクトビオン酸をベースとした溶液(UW)が膵臓および肝臓用に使用されてきた。合成かつ血清無添加で調合された保存液の出現によって、臓器保存が可能となる質と期間が改善された。しかしこれにもかかわらず腎臓におけるDGFの臨床データおよび腎細胞の構造と形態を含む他の問題点は、そのような溶液が虚血障害または発作の予防において完全には成功していないことを明らかに示している。
【0005】
さらに、虚血性または腎毒性障害に次ぐ急性腎不全(ARF)も、対症療法における大きな進歩にもかかわらず依然高い死亡率で、臨床腎臓学においては周知の問題でありながら完治しない恐れが残されたままである。何十年にも渡り多くの研究が行われ、持続性血管収縮、尿細管閉塞、細胞の構造および代謝の変化、および炎症反応のARFの病因としての役割を解明してきた。ARFの処理および処置は、ARFに対する初期マーカーの欠如だけでなく、虚血に対する腎臓の多面的な反応によって妨げられてきた。虚血性および腎毒性の腎臓障害に関する細胞学および分子生物学における最近の進歩は、近位尿細管細胞が、細胞極性の損失、アポトーシスおよび壊死による細胞死、生細胞の脱分化および増殖、および上皮表現型の再構築を含む複雑で一時的な一連の事象を経験することを示してきた。
【0006】
虚血性または腎毒性による損傷の結果として、細胞は2つの異なった過程を経て死ぬことがある。アポトーシスすなわちプログラム細胞死(「細胞の自殺」)は、個々の細胞に影響する老化した細胞、損傷した細胞、または異常な細胞を取り除くための生理学的機構である。アポトーシスはエンドヌクレアーゼによって開始され、DNAが180〜200塩基対の倍数で断片化するという特徴がある。アポトーシス細胞はタンパク質分解酵素または毒性酸素種を放出せずにマクロファージまたは近隣の細胞によって消化されるが、この過程に炎症が伴うことはない。これとは対照的に、壊死(「細胞の殺人」)は細胞集団に影響する病理学的過程で、局所的な組織崩壊、炎症、およびしばしば重篤な全身性の結果を導く。アポトーシスによる細胞死は、虚血、虚血性灌流、腎毒性、多嚢胞腎臓疾患、閉塞、および糸球体疾患を含む増加している一連の腎臓疾患において重要な役割を果たすことが現在示されている。そのため、アポトーシスの下方制御はいくつかの急性および慢性腎臓障害を改善する無類かつ強力な処置法を提供する。
【0007】
血清クレアチニン値が次のいずれかであった場合、その患者は急性腎不全であるとみなされる。(1)血清クレアチニンのベースライン濃度が2.0mg/dL未満の場合で、少なくとも0.5mg/dLの増加がある、(2)血清クレアチニンのベースライン濃度が2.0mg/dL以上の場合で、少なくとも1.5mg/dLの増加がある、または(3)レントゲン撮影剤に曝された結果として、血清クレアチニンのベースライン濃度にかかわらず、少なくとも0.5mg/dLの増加がある。
【0008】
cDNAマイクロアレイ技術は、虚血性および腎毒性障害直後の腎臓で、転写を強く誘導する好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)の同定を可能にした。腎臓でのNGALの役割はまだ解明されていない。非特許文献1に示すとおり、NGALはタンパク質リポカリンファミリーの1つで、ヒト好中球の顆粒に見られる25kDaの分泌型糖タンパク質として特徴付けられる。リポカリン類は親油性の小物質を結合することが可能で、少なくとも2、3のリポカリンでは、例えば、ステロイド、ビリン、レチノイド、または他の脂質等の親油性リガンドを結合する機能を有した3次元のβバレル構造を共通に持つ。マウスおよびラット由来のマウス型(同族体)NGALは公知である。マウスでは、NGALはNGAL,24p3タンパク質、SIP24、P25、リポカリン2、およびウテロカリンとして示されている。ラットでのNGALは、NGALまたはα2ミクログロブリンとして公知である。ヒトNGALタンパク質をコードする全長cDNAがクローニングされ配列が決定されている。ヒトNGAL遺伝子は、7つのエクソンと6つのイントロンを含み、やはりクローニングされ配列も決定されており、各種組織での発現が分析されてきた。ヒトNGAL遺伝子は、19または20のアミノ酸シグナル配列を伴う197のアミノ酸でできたポリペプチドをコードし、成熟NGALポリペプチドには178のアミノ酸が含まれる。Gly−X−Trpモチーフ(成熟ヒトNGALでアミノ酸番号48〜50)およびThr−Asp/Asn−Tryモチーフ(成熟ヒトNGALでアミノ酸番号132〜134)が公知の全リポカリンに存在する。X線結晶解析を基に、これらのモチーフはリポカリン類に共通した第3βバレル構造において重要であることが示されてきた。ヒトNGAL配列番号におけるシステイン残基95と194は保存されており、分子内ジスルフィド結合を形成すると報告されている。ヒトNGALは、成熟アミノ酸配列番号65(NGALポリペプチド前駆体の番号で概ね84または85)に、唯一のNグリコシル化部位(アスパラギン残基)を含む。
【0009】
急性尿細管壊死(ATN)の根底にあるといえるメカニズムは鉄の誤った局在化である。非結合鉄はHのOHとOHへの変換を触媒する(ハーバー・ワイス反応)、または活性型フェリル種またはパーフェリル種を形成することが可能だ。これらのイオンは、脂質、核酸、およびDNA骨格を含む多種類の分子に変異を誘発する。遊離ヘモグロビンおよびミオグロビンから尿または血中に放出された触媒性の鉄と過酸化脂質は、化学療法、虚血再灌流、移植性虚血、およびタンパク尿媒介尿細管損傷を含む多種類の急性腎不全において実証されてきた。動物に鉄を事前投与すると疾病は悪化し、逆に鉄キレート剤または細菌性シデロホアによる鉄のキレートは損傷を緩和する。非特許文献2に示すとおり、鉄触媒による損傷は腎臓機能障害の最も初期の現象の1つと考えられ、心臓および肝臓を含む他の臓器においても恐らく無視できないだろう。
【0010】
細胞は鉄を担体タンパク質(トランスフェリン等)から細胞表面の鉄トランスポーター(二価金属トランスポーターI等)によって獲得する。細胞内の鉄は鉄反応性タンパク質(IRP1、IRP2等)、フェリチン複合体、およびヘムオキシゲナーゼIの作用によって制御される。IRP類は低酸素、酸化ストレス、およびリン酸化によって調整されるため、それらの活性の変化は、鉄が媒介する損傷から細胞を保護するフェリチン複合体の形成を制御することによって、虚血性疾患において重要な役割を果たしている可能性がある。フェリチンは鉄−リン−タンパク質の複合体で、約23%鉄を含み、腸の粘膜で形成される。フェリチンは肝臓、脾臓、および骨髄等の組織における貯蔵型の鉄である。血液および筋肉にそれぞれあるヘモグロビンおよびミオグロビン分子は、酸素の細胞への輸送を触媒するために鉄の結合を必要とする。しかし触媒性の鉄は病因論において一番重要であるにかかわらず、虚血細胞または他の種類の組織損傷における鉄の輸送経路、貯蔵または代謝に関する他の側面はほとんど知られていない。
【0011】
ATNを起こすには多くの経路があるにもかかわらず、多くの研究者が近位尿細管の細胞損傷全般に見られるメカニズムを発見してきた。これにはサイトカインの放出が含まれる。1つの案は、虚血性細胞と遊離のミオグロビンおよびヘモグロビン等の尿細管の毒がネフロンで局所的に高濃度の鉄を産生するということである。この鉄は触媒として活性があり酸素ラジカルを産生すると考えられている。鉄触媒による細胞損傷は病因となり、近位尿細管の機能不全につながることは、尿細管損傷が鉄キレート剤注入によって緩和されるという知見等によって証明される。鉄がメカニズムの中心となって虚血後の臓器機能障害を引き起こすという考えは、心臓虚血のインビトロモデルにおいて、鉄不含の細菌由来のシデロホアと呼ばれる鉄キレート剤を使用すると、虚血再灌流障害の影響が緩和されたという実験によっても裏付けされている。こうしたメカニズムはATNのさまざまな段階で見られる原則的な病因現象であると考えられる。鉄が触媒する損傷は腎臓の機能障害における最も初期の現象の1つであると考えられる。
【0012】
どのように近位尿細管がNGALを捕獲するのかは現在知られていない。実際、ほとんどのリポカリン類に対する受容体の明確な同定はなされていない。非特許文献3に示すとおり、おそらくレチノール結合タンパク質(RBP)の再利用に必要なメガリンもまたNGAL受容体である。非特許文献4に示すとおり、実際メガリンのノックアウトは尿中のNGALの出現につながるが、これらの動物ではまた意外なことに、より高濃度のNGALメッセージがあることが解っており、尿のNGALは濾過負荷量を捉えられなかったのではなく、むしろ局所的な合成に由来するに違いないことを示唆している。このような不明瞭さにかかわらず、非特許文献5に示すとおり、NGALはRBPおよびα−2uグロブリンリポカリン等の他のリポカリン類と同様に、メガリン経路によって細胞に侵入し、分解するためにリソソームに運ばれる。非特許文献6に示すとおり、これらのデータはメガリンを発現しない細胞系(胚性腎臓細胞等)およびタンパク質が分解されない場合におけるNGALの輸送経路と対照をなす。トランスフェリンは細胞系では通常リサイクルされるが、非特許文献7に示すとおり、これもまた同様に近位尿細管におけるメガリン−クブリンを基にした経路によってリソソームへ運ばれた後分解される。このため、濾過後にNGALはメガリンに捕獲され、近位尿細管によって分解され、リサイクルされないことを提示するのはもっともなことである。この仮説は、全長NGALが注入後しばらくしても血中に再び現れることがないという観察によって裏づけされる。
【非特許文献1】ジェルドセン(Kjeldsen)その他著、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー誌(J.Biol.Chem.)、1993年268巻、p.10425−10432
【非特許文献2】モリ(Mori)その他著、「リポカリン−シデロホア−鉄複合体の細胞内輸送による腎臓の虚血再灌流障害の回復」、ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション誌(J.Clin.Invest.)、2005年115巻、p.610−621
【非特許文献3】クリステンセン(Christensen)その他著、米国腎臓学会誌(J.Am.Soc.Nephrol.)、1999年10巻(4)、p.685−695
【非特許文献4】ヒルパート(Hilpert)その他著、キドニー・インターナショナル誌(Kidney Int.)、2002年62巻(5)、p.1672−1681
【非特許文献5】ボーゴフ(Borghoff)その他著、アニュアル・レビュー・オブ・ファルマコロジー・アンド・トキシコロジー誌(Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.)、1990年30巻、p.349−367
【非特許文献6】ヤン(Yang)その他著、モレキュラー・セル誌(Mol.Cell)、2002年10巻(5)、p.1045−1056
【非特許文献7】コジラキー(Kozyraki)その他著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、2001年98巻(22)、p.12491−12496
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
腎臓等の臓器における例えば低温虚血障害等の虚血障害を予防、軽減、または改善するのに適した組成物および方法が依然求められている。かかる組成物は移植に用いられる臓器ばかりでなく患者自身の臓器処置にも有用だろう。薬剤投与後の患者において、例えば腎毒性等の細胞への毒性損傷を検出するのに使用できる新しいバイオマーカーも必要である。臓器移植によって引き起こされる組織および臓器への虚血再灌流障害と、臓器細胞の構造および代謝の変化とを処置し軽減する新しく改良された方法は、患者と同様に一般開業医にとっても明らかに有用で重要なことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、および臓器における虚血、虚血再灌流、または毒素誘導性障害より一般的に選択した状態、障害または疾患を処置、軽減、改善、または予防する組成物および方法におけるNGALの使用に関する。本発明はまた、前記状態、障害、または疾患を処置、軽減、改善、または予防するのに有効な量でNGALを患者または被験者に投与する方法に関する。前記障害には、患者を虚血性腎臓障害、腎尿細管障害、または壊死またはアポトーシスにかかりやすくなる状態、処置、療法、または疾患に関連する腎臓障害が含まれ得る。前記障害には、急性(ショック、脳卒中、敗血症、外傷、感染症、炎症を含むがこれに限定されない)または慢性(高血圧、糖尿病、心疾患、狼瘡、感染症、炎症を含むがこれに限定されない)の腎臓の状態が含まれ得る。
【0015】
本発明はまた、腎臓機能の衰退を改善するのに有効な量でNGALを患者に投与することにより、患者の虚血性灌流障害によって誘導される腎臓のNGAL機能の衰退を改善する方法を提供する。本局面によると、NGAL投与は虚血再灌流障害後の血清または血漿の高濃度クレアチニンを減少させる。NGAL投与量は細胞死を予防または改善するのに有効である。
【0016】
本発明はさらに、腎臓の再上皮形成の促進または尿細管細胞の増殖に影響するのに有効な量で患者にNGALを投与することで、急性または慢性の腎疾患における虚血、虚血性灌流、または毒素誘導性障害の後の腎臓の再上皮形成または尿細管細胞の増殖を促進する方法を提供する。
【0017】
本発明の一実施形態は、急性腎不全(ARF)を処置、軽減、予防、または改善する方法におけるNGALの使用を含む。NGALは尿細管細胞の増殖を促進し、尿細管細胞のアポトーシスを軽減または改善することが証明されてきた。ここに開示する方法は、虚血再灌流または毒素誘導性障害によって誘導された患者の腎臓機能の衰退を改善し、さらにその患者における虚血障害に次ぐ急性腎疾患を処置、軽減、改善、または予防するために使用できる。
【0018】
本発明はさらに、患者における移植臓器の移植後機能障害(DGF)を軽減および/または処置する方法におけるNGALの使用を提供する。いくつかの局面において、DFGは急性尿細管壊死(ATN)によって引き起こされる。
【0019】
本発明はまた、患者へ臓器を移植するための方法におけるNGALの使用を提供する。前記方法を用いると、臓器移植の損失または急性拒絶反応を軽減または改善するのに有効な量でNGALを1以上の(i)臓器または(ii)提供者に投与することによって、臓器移植の損失または急性拒絶反応を軽減または改善できる。さまざまな局面において、前記臓器は腎臓、肝臓、心臓、脳、肺、胃、腸、結腸、膵臓、血管、膀胱、頚部、皮膚、またはこれらの一部もしくは切片より選択される。特定の局面において、前記臓器は死体または生体臓器提供者に属する。かかる状況において、NGALは前記臓器が患者に移植される前、最中、および/または後に患者に投与できる。前記臓器は死体臓器でもよく、かかる例において前記臓器は死体提供者から得られ、移植後の障害、発作、または臓器の損失を防ぐためにNGALは死体または取り出した臓器に投与できる。前記臓器は生体臓器提供であってよく、かかる例において移植後の障害、発作、または臓器の損失を防ぐためにNGALは取り出した臓器に投与できる。前記臓器は腎臓、肝臓、心臓、脳、肺、胃、膵臓、血管、膀胱、頚部、皮膚、またはこれらの一部もしくは切片であってよく、本発明の特定の局面において、前記臓器は腎臓である。
【0020】
本発明はまた、オキシダント媒介アポトーシスが尿細管の細胞死の重要な原因である場合における、死体および生体の提供者の腎臓移植に関連したNGALの使用を提供する。通常の合併症である急性腎不全(ARF)に加えて、移植された腎臓における虚血再灌流障害は移植後機能障害(DGF)を導くことが知られており、これは移植片の損失および急性拒絶反応の危険性を有意に増加させる。本明細書において述べるように、NGALは臓器移植に関連した虚血性の有害効果を軽減または改善する方法において採用される。一実施形態において、NGALは移植臓器の低温貯蔵中での使用等、死体腎臓移植の特徴であるDGFを改善するために臓器保存液に添加できる。かかる方法によると、NGALは虚血性発作後に投与された場合にも少なくとも部分的に有効である。前記方法は患者の暗澹たる予後に通常関連する臨床的に関連のある既存の有害現象であるARF等の確定した虚血状態に必要とされている新規治療的処置法を有利に提供する。臓器または移植片の移植における患者の虚血障害に関連するDGFを阻止または改善する方法には、(i)移植された臓器または移植片、(ii)移植された臓器の提供者、または(iii)(i)および(ii)の両方に対し、DGFまたは移植された臓器の損失もしくは急性拒絶反応を阻止または改善するのに有効な量でNGALを注入、またはNGALと接触することが含まれる。非制限に例示すると、移植用の前記臓器または移植片は、腎臓、心臓、脳、肺、胃、腸、結腸、膵臓、血管、膀胱、頚部、皮膚、またはそれらの一部もしくは切片より選択される。特定の局面では、前記臓器は腎臓である。さらに具体的には、移植された腎臓は死体または生体の提供者からの腎臓である。さらに、NGALは臓器保存液の一成分であり、例えば、NGAL含有臓器保存液は臓器移植の低温貯蔵中に使用される。
【0021】
本発明はさらに、患者を虚血性腎臓障害にかかりやすくする可能性がある状態、処置、療法、または疾患に関連する腎臓障害を軽減、改善、予防、または保護する方法を提供する。前記方法には、患者の状態、処置、療法、または疾患に関連する腎臓障害を軽減、改善、予防、または保護するのに有効な量のNGALを患者に投与することが含まれる。状態、処置、または療法を例示すると、造影剤処置、抗体処置、抗生剤処置、臓器移植、腎臓移植、死体腎臓移植、心臓処置、手術後の心臓処置、または中枢神経系処置を含むがこれに限定されない。本局面における疾患を例示すると、感染症、細菌感染症、急性腎疾患、慢性腎疾患、虚血再灌流障害、ショック、外傷、敗血症、脳卒中、心再灌流障害、心肺バイバス、開心術、および腹部手術を含むがこれらに限定されない。
【0022】
本発明はまた、患者における腎尿細管の障害または壊死もしくはアポトーシスを処置、軽減、または改善する方法を提供し、治療上有効量のNGALを患者へ投与することを含む。本局面によると、前記患者は例えば、急性腎疾患、慢性腎疾患、虚血再灌流障害、臓器移植、毒素誘導性障害、虚血、腎臓移植、ショック、外傷、敗血症、脳卒中、心再灌流障害、心肺バイパス後の腎尿細管障害、開心術後の腎尿細管障害、腹部手術後の腎尿細管障害、感染症、抗生剤処置、抗体処置、または造影剤処置等に影響される可能性がある。本方法では、NGALはまた腎臓の近位尿細管細胞を直接標的にしているため、腎尿細管細胞の増殖を促進するように機能し、その結果として腎尿細管障害または壊死もしくはアポトーシスを軽減または改善できる。
【0023】
本発明はまた、毒による臓器への障害を処置、軽減、または改善するのに有効な量でNGALを患者に投与することによって、患者の臓器への腎毒性障害を含む毒素誘導性障害を処置、軽減、または改善する方法を提供する。別の局面において、毒素誘導性障害を軽減または改善する方法には、NGALおよび患者に有害な治療用化合物の両方を共投与することを含み、前記NGALは、前記臓器への処置の有害効果を軽減または改善するのに有効な量で投与する。
【0024】
本発明はまた、他の急性(ショック、脳卒中、敗血症、外傷、感染症、炎症を含むがこれに限定されない)および慢性(高血圧、糖尿病、心疾患、狼瘡、感染症、炎症を含むがこれに限定されない)腎臓障害を処置、軽減、または改善する方法を提供する。
【0025】
本明細書において開示される本発明の各種方法において、NGALは、1種類以上の治療薬、例えば血管拡張剤または酸素供給剤と共に投与できる。さらに、NGALは、静脈注射または非経口投与を非制限に含む各種投与法によって担体、希釈剤、または添加剤からなる生理的に受容できる組成物において投与できる。さらに、NGALは、本明細書に記載するとおり虚血または腎毒性、臓器移植、または腎尿細管の発作、損傷、もしくは障害の前後および最中に投与できる。
【0026】
本発明はまた、試験物質が腎臓障害を引き起こす可能性があるという示唆に従い、(a)マウス等の哺乳類モデルに腎毒性障害を引き起こす試験物質の投与、および(b)その試験物質投与後に、前記哺乳類モデルの尿または血漿サンプル中の好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)の有無を決定することによって、腎毒性を誘導する可能性に関して、治療法を評価する方法を提供する。本方法の特定の局面において、NGALは前記試験物質の投与後約3時間以内に尿または血漿中に検出される。
【0027】
本発明はまた、哺乳類の臓器への障害を処置、軽減、改善、予防するのに使用するための組成物に関係し、治療上有効量のNGALまたはその誘導体またはアナログを含む。さらに、前記組成物は一般的に1:1のモル比でのシデロホアを含み、例えば、NGALとシデロホアの複合体である。前記組成物は本明細書に開示する任意の方法において使用が可能である。
【0028】
本発明はまた、臓器での虚血、虚血再灌流、または毒素誘導性障害を含む虚血性または毒による状態および疾患を処置、軽減、改善、または予防する組成物と方法においてNGALに関連したシデロホアの使用に関する。
【0029】
本発明の一実施の形態において、NGALおよびシデロホアは、臓器での虚血、虚血再灌流、または毒素誘導性障害の処置、軽減、改善、または予防を促進するのに有効は量で、医薬組成物として投与される。
【0030】
本発明はまた、内因性NGALによる臓器障害の処置、予防、改善、および軽減の促進のために、患者への投与において使用するためのシデロホアを含む医薬組成物に関する。別の一実施の形態において、一般的にNGALとシデロホアの複合体化合物として共投与するための方法が提供される。別の一実施の形態において、内因性NGALの分泌によって開始される腎臓の再上皮形成の促進または尿細管細胞の増殖に正の影響があるように有効な量で、シデロホアが患者に投与される。
【0031】
特に、本発明は、内因性NGALによる患者の移植後機能障害(DGF)および臓器または移植片の移植拒絶反応の軽減または改善を促進する方法を提供し、DGFまたは移植された臓器の損失もしくは急性拒絶反応の軽減または改善を促進するのに有効な量で、(i)移植された臓器または移植片、(ii)移植臓器の提供者、または(iii)(i)および(ii)の両方にシデロホアを投与するステップを含む。本方法は前記臓器への障害を処置、軽減、改善、または予防するのに有効な量でシデロホアを投与することを含む。
【0032】
本発明の一実施の形態において、NGAL:シデロホア複合体は臓器保存液への添加が可能で、死体腎臓移植の特徴であるDGFを改善するための移植臓器の低温貯蔵中に使用される。さらに別の一実施の形態において、緩衝液中に溶かしたシドロホア単独での臓器保存液への添加が可能で、死体腎臓移植の特徴であるDGFを改善するための移植臓器の低温貯蔵中に使用される。
【0033】
本発明はさらに、NGALまたはその誘導体もしくはアナログの投与によって、虚血または毒による損傷を受けた臓器における細胞内外の鉄を操作するための方法を提供する。本方法はまた、虚血または毒による臓器の損傷を処置、軽減、改善、またはさらに予防するのに有効な量で、鉄結合化合物、鉄結合化合物に対する補因子、またはシデロホアを投与することを含んでもよい。一般的に、前記虚血または毒によって損傷した臓器は腎臓である。
【0034】
別の一実施の形態において」、本発明は治療上有効量のNGALを含むための第一容器からなる治療キットを提供する。前記第一容器には少なくとも1本のバイアルと、少なくとも1本の試験管と、少なくとも1個のフラスコと、少なくとも1本の瓶とを含んでもよい。本キットはまた、少なくとも1組成物が入れられる第2容器と、および市販用にこれらの容器を共に固定する手段とを含んでもよい。本キットはまた、滅菌済みで薬剤として受容できる緩衝液または他の希釈液を含むための第3容器を含んでもよい。前記第一容器はシリンジであってもよい。前記容器を固定する手段は、前記容器が保持される射出または吹込み成形によるプラスチック枠であってもよい。または、前記バイアルは静脈内薬剤輸送システムに前記組成物を直接導入できるような方法で用意されてもよい。
【0035】
さらに、本発明の局面、特徴、および利点は、添付図面と合わせて本発明の詳細な説明を一読し検討することで、深く理解されるだろう。
【0036】
図面の簡単な説明
図1は、(図示のとおり)決められた量の組換え精製NGALのクーマシーブルー(CB)と高感度化学発光(ポリクローナルNGAL抗体によるECL)分析を示す。
【0037】
図2は、ポリクローナルNGAL抗体を用いた、注入1時間後の非虚血対照動物からの腎臓、または1時間もしくは3時間後の虚血性腎臓の免疫蛍光染色を示す。
【0038】
図3は、NGAL投与1時間以内の非虚血(NI)および虚血(I)動物からの尿サンプル中NGALを検出するためのウェスタンブロットを示す。
【0039】
図4は、非虚血対照マウス、生理食塩水前処理虚血マウス、または虚血の1時間前、最中、または1時間後にNGALで処理した虚血マウスからの腎臓をヘマトキシリンエオシンで染色した切片を示す。
【0040】
図5A、5B、および5Cは、生理食塩水で前処理した、または虚血の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスからの腎臓の組織切片のスコアを示す。本切片は、任意の0から4のスケールを用いて尿細管拡張(図5A)、尿細管円柱(図5B)、および尿細管細胞壊死(図5C)について分析しスコアを付けた。
【0041】
図6は、非虚血対照マウス、または生理食塩水で前処理した虚血マウスにおいて測定された血清クレアチニン(Pre Sal)、または虚血障害の1時間前(Pre NGAL)、最中(Dur NGAL)、1時間後(PostNGAL)にNGAL処理した虚血マウスの虚血24時間後において測定された血清クレアチニンを示す。
【0042】
図7は、非虚血対照マウスの代表的な切片、または生理食塩水で前処理した虚血マウス、もしくは虚血障害の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスの虚血24時間後の代表的な切片をTUNEL染色した結果を示す。矢印は、増殖細胞核抗原(PCNA)染色と比べた、低倍率および高倍率でのアポトーシスの特徴である密で断片化した濃い核の染色を指している。
【0043】
図8は、非虚血対照マウスの腎臓、または生理食塩水で前処理した虚血マウス、もしくは虚血障害の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスの虚血24時間後の腎臓におけるアポトーシスの定量(上)および増殖(中)を示す。
【0044】
図9は、非虚血対照マウスの、または生理食塩水で前処理した虚血マウス、もしくは虚血障害の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスの虚血24時間後の腎臓において算出された増殖:アポトーシスの比を示す。
【0045】
図10は、尿のみ、尿およびNGAL混合(尿+Ngal)、尿およびNGAL:シデロホア混合(尿+Ngal:Sid)、血漿のみ、緩衝液のみ、緩衝液およびNGAL混合(緩衝液+Ngal)、緩衝液およびNGAL:シデロホア混合(緩衝液+Ngal:Sid(1))、第二緩衝液およびNGAL:シデロホア混合(緩衝液+Ngal:Sid(2))、シデロホアが鉄で飽和された第三緩衝液およびNGAL:シデロホア混合(緩衝液+Ngal:Sid:Fe)において検出される55Feの結合を示す。
【0046】
図11Aは、健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者、または腎臓疾患がないと診断された肝硬変、血色素沈着症、または膵癌を患う被験者(その他)からのヒト尿サンプルにおけるNGALタンパク質の免疫ブロットを示す。モノクローナル抗ヒトNGAL(Mo)およびポリクローナル抗マウスNGAL(Po)抗体は、組換えおよびヒト固有のNGALおよびNGAL標準物質を認識する。
【0047】
図11Bは、NGAL標準物質と比較した、健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者、または腎臓疾患がないと診断された肝硬変、血色素沈着症、または膵癌を患う被験者(その他)からのヒト血清サンプルにおけるNGALタンパク質の免疫ブロットを示す。
【0048】
図11Cは、健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者からの尿中のNGALタンパク質濃度の量的比較を示す。ATNはさらに非敗血症と敗血症の群に分類した。
【0049】
図11Dは、健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者からの血清中のNGALタンパク質濃度の量的比較を示す。ATNはさらに非敗血症と敗血症の群に分類した。
【0050】
図11Eは、50、5、および1ngの標準NGALタンパク質と、ATN障害マウスおよび偽処理対照マウスの尿NGALの免疫ブロットを示す。
【0051】
図12Aは、健康なヒト腎臓(正常)におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【0052】
図12Bは、健康なヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【0053】
図12Cは、健康なヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【0054】
図12Dは、敗血症による虚血性ATN(虚血性ATN)のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【0055】
図12Eは、嘔吐および下痢が原因の血液量減少による虚血性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【0056】
図12Fは、心疾患による虚血性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【0057】
図12Gは、ビスホスフォネートが原因の腎毒性による毒性ATN(毒性ATN)のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【0058】
図12Hは、セファロスポリンの毒性が原因の腎毒性による毒性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【0059】
図12Iは、ヘモグロビン尿症が原因の腎毒性による毒性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【0060】
図12Jは、NGALが半月体に弱く発現する、糸球体疾患のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【0061】
図12Kは、NGALがネフローゼの近位尿細管で弱く発現する、糸球体疾患のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【0062】
図13Aは、偽処理(正常)、虚血(ATN)、およびNGAL処理ATN障害(ATN+Ngal)の腎臓の組織切片を示す。尿細管の核の損失がATNでは見られるが、皮質(中)および髄質(下)の尿細管内円柱と共に、対照またはATN+Ngal切片(上)、では見られない。NGAL前処理は結果的に皮質尿細管を保護するが、残りの皮質髄質円柱には影響しなかった。
【0063】
図13Bは、管腔円柱およびNGALでの前処理による皮質尿細管の回復をPAS染色で強調した、虚血(ATN)、およびNGAL処理ATN障害(ATN+Ngal)腎臓の組織切片を示す。
【0064】
図13Cは、NGALによる虚血性皮質の回復を示す、偽処理(偽)、虚血(ATN)、およびNGAL処理ATN障害(ATN+Ngal)腎臓のジャブロンスキースコアを示す。
【0065】
図14Aは、腎臓切片のNカドヘリン染色を示す。虚血再灌流(ATN)ではほとんど見られないが、NGALが投与された場合(ATN+Ngal)は回復し検出される。
【0066】
図14Bは、虚血再灌流動物および偽処理動物におけるNカドヘリン断片(矢印)、およびNGAL処理動物での断片抑制によって示される、虚血(ATN)と比較した、NGAL処理(ATN+Ngal)による全長Nカドヘリンタンパク質濃度の回復を示す。GAPDHは負荷対照である。
【0067】
図14Cは、NGAL前処理によって軽減された虚血再灌流マウス(I/R)におけるTUNEL陽性アポトーシス細胞(蛍光)の尿細管を示す。トップロールは核対比染色である。
【0068】
図14Dは、偽処理対照群(偽)、虚血再灌流(I/R)、およびNGAL処理虚血再灌流(+Ngal)マウスにおけるアポトーシス様核を含む尿細管の比率の定量分析を示す。
【0069】
図14Eは、偽処理(偽)、虚血再灌流(ATN)、またはNGAL処理の虚血再灌流(ATN+Ngal)の腎臓におけるヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)発現の免疫ブロットを示す。組換えHO−1(HO−1)およびラット皮質は比較用である。GAPDHは負荷対照である。
【0070】
図15は、NGAL100μgをマウスに腹腔内注射した後の血液および尿中NGALタンパク質のクリアランスの免疫ブロットを示す。
【0071】
図16Aは、近位尿細管(下)で見られるが、糸球体または髄質(上)では見られない、大きな小胞に局在する蛍光標識(Alexa568)NGALを示す。非結合蛍光色素は腎臓を標識しなかった。
【0072】
図16Bは、近位尿細管のS1およびS2部位でのFITCデキストランと共に局在するAlexa568−NGALを示す。
【0073】
図16Cは、注入後1時間および5時間の腎臓に見られるNGALの全長および14kDa断片を示す125I−NGALのSDS−PAGEによる分離。
【0074】
図16Dは、55Fe負荷シデロホア−NGALの腹腔内注射1時間後の腎臓のオートラジオグラフを示す。放射活性減衰は皮質で検出され、近位尿細管細胞の腔内付近に関連している。
【0075】
図16Eは、髄質で放射活性が検出されなかった、55Fe負荷シデロホア−NGALの腹腔内注射1時間後の腎臓のオートラジオグラフを示す。
【0076】
図17Aは、30分間虚血させたマウスでの血漿クレアチニンを示す。最初のグラフは、虚血15分前または虚血後1時間以内に用いた場合にXL−1細菌(シデロホアを含有)由来のホロNGAL(≧1μg)が腎機能を回復させることを示す。しかし投与が遅れた場合、NGALは無効である。第二グラフは、BL21細菌(シデロホア不含)由来のアポNGALが最小限の活性しか持たないが、エンテロチェリンを添加すると保護的に働く。鉄不含(アポNGAL:Sid)および鉄含有シデロホア(アポNGAL:Sid:Fe)は共に保護効果を持つ。対照的に、ガリウム含有複合体(アポNGAL:Sid:Ga)は、DFOの単独投与またはシデロホア不含(Sid)と同様に無効であった。近位尿細管によって濾過され再吸収されるリポカリンであるレチノール結合タンパク質(RBP)は無効であった。
【0077】
図17Bは、NGALの免疫沈降製剤を示す。NGAL:Sidはエンテロチェリンを含むが鉄は含まない。NGAL:Sid:Feはシデロホアと鉄を含む。
【0078】
図18Aは、尿中に鉄結合補因子が存在することを示す。緩衝液は55Fe(タンパク質不含)、アポNGAL、アポNGAL+シデロホア、またはアポNGAL+シデロホア+非標識鉄と混合する。一連の洗浄の後、55FeはアポNGAL+シデロホアによって保持されるが、アポNGALまたは鉄飽和シデロホアと結合したアポNGALによっては保持されない。このことは不飽和シデロホアがNGALによる55Feの保持に必要なことが示している。
【0079】
図18Bは、示すように、尿(<3,000Da)が55FeまたはアポNGALと混合され、その後10KDa膜上で3回洗浄すると、アポNAGL+尿が55Feを保持することを示す。55Fe保持は過剰なクエン酸鉄(Fe)の添加により遮断される。活性は鉄飽和エンテロチェリン(Sid:Fe)によっても遮断される。
【0080】
図19は、生体(図0と1)または死体(図2と3)腎臓移植後1時間以内に得た腎臓生検を示す。切片はNGAL抗体で染色した。NGAL発現は長期の虚血期間を経た死体群で有意に増加した。
【0081】
図20は、生体(LRD、n=4)または死体(CAD,n=4)腎臓移植の移植後2時間以内に得た尿サンプルのNGAL抗体プローブに用いたウェスタンブロットを示す。尿中のNGAL発現は手術前にはなかった。NGAL発現はLRD群よりもCAD群の方が有意に増加した。
【0082】
図21は、LRDとCADを比較した尿NGALのウェスタンブロットによる定量分析を示し、CADが有意な発現増加を示している。
【0083】
図22は、低温虚血の時間に関する、CAD移植の2時間後に得られた尿NGALの相関を示す。尿NGALの発現度合いは虚血時間と相関する。
【0084】
図23は、手術後2〜4日に測定した最大血清クレアチニンに関する、CAD移植の2時間後に得られた尿NGALの相関を示す。尿NGALの発現度合いは最大血清クレアチニンと相関する。
【0085】
図24は、独立した10本の標準曲線から得られた直線関係に関するNGALのELISAの標準曲線を示す。
【0086】
図25は、心肺バイパス(CPB)後ARFを術中に発症した患者の経時的血清NGAL測定値を示す(n=10)。
【0087】
図26は、ARF(四角、n=10)を発症したCPB患者と、手術後何もない患者(菱形、n=30)を比べた経時的血清NGAL濃度の平均値±SDを示す。
【0088】
図27は、CPB後にARFを発症したCPB患者の経時的尿NGAL測定値を示す(n=11)。
【0089】
図28は、ARF(菱形、n=11)を発症したCPB患者と、術後何もない患者(四角、n=30)を比べた経時的尿NGAL濃度の平均値±SDを示す。
【0090】
図29は、CPB2時間後の尿NGAL濃度とCPB時間との相関を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0091】
定義
本明細書で使用されるとおり「臓器」という用語は、ヒトを含む哺乳類等の生物におけるある特定の機能または機能群を働かせる細胞および組織から成る生物学的に分化した構造を意味する。代表的な臓器には、腎臓、肝臓、心臓、骨、軟骨、皮膚、肺、血管、膀胱、頚部、胃、腸、膵臓、小腸、結腸、脳、およびそれらの一部または切片を含むがこれに限定されない。
【0092】
本明細書で使用されるとおり「腎臓障害」または「腎疾患」という用語は、急性(虚血、虚血再灌流、腎毒性、ショック、脳卒中、敗血症、外傷、感染症、炎症を含むがこれに限定されない)または慢性(高血圧、糖尿病、心疾患、狼瘡、感染症、炎症が含むがこれに限定されない)の腎臓の障害または状態を含むものとする。
【0093】
「薬剤として受容できる」、「薬理学的に受容できる」および「生理学的に受容できる」という文言は、例えばヒト等の動物に投与した場合に、有害現象、アレルギー反応、または他の不適当な反応を起こさない分子要素および組成物を示す。
【0094】
本明細書で使用されるとおり「薬剤として受容できる担体」という文言は、その生物学的な効果に影響せずに、1つの臓器または体の一部から、別の臓器または体の一部へ、本発明の組成物を輸送または運搬することに関係する、液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、添加剤、溶剤、またはカプセル等の物質、組成物または賦形剤を意味する。各担体は、かかる組成物の他の成分と適合し、被験者に対して無害であるという意味で「受容できる」ようにすべきである。薬剤として受容できる担体としての役目を果たすことのできる物質には、例えば、当業者が通常知っていると思われもので、あらゆる全ての溶剤、分散媒、被覆剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗細菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、薬剤、薬剤安定化剤、ゲル、結合剤、賦形剤、壊変剤、滑剤、甘味料、香料、色素、それらの類似物質や組み合わせが含まれるがこれに限定されない。NGAL、シデロホア、またはそれらの複合体もしくは他の選択できる活性剤または有効成分と不適合な場合を除いて、従来のいかなる担体も治療または医薬組成物において、その使用が考えられる。
【0095】
「治療上有効量」という文言は、動物または患者等の受容者において、本明細書に記載される処置に特に関係して、有益な結果を出すのに有効な、NGAL、シデロホア、またはそれらの複合体もしくは他の選択できる活性剤または有効成分の量を示す。かかる量は公開されている文献を調べたり、インビトロ試験または健康な動物での代謝実験を行ったりすることで、最初に決定できる。臨床で使用する前に、一般的に広く受容されている処置すべき特定疾患の動物モデルでの確認実験を行うことが有効である。ある特定の実施の形態で用いる一般的な動物モデルはげっ歯類すなわちネズミ科である。かかるモデルは使用するのに経済的であり、特に、得られる結果は臨床での予測値として広く受け入れられる。
【0096】
NGALに関係する「誘導体(類)」という用語は、虚血、腎尿細管壊死、腎毒性、虚血再灌流障害等の特性への望ましい効果をさらに保持する化学的に修飾されたNGAL化合物、物質、阻害剤、または刺激剤を示す。かかる誘導体には親分子の1以上の化学的部分の添加、除去、または置換が含まれてもよい。かかる化学的部分には、水素等の元素、ハロゲン化合物、またはメチル基等の分子群が含まれるがこれに限定されない。かかる誘導体は当業者が知るいかなる方法によっても調製できる。かかる誘導体の特性は当業者が知るいかなる方法または記載されたいかなる方法によっても望ましい特性であるかを試験できる。
【0097】
「アナログ」という用語は、当業者が理解するとおり構造的に等価または類似の物質を含む。
【0098】
「患者」、「受容者」、または「被験者」は、温血動物等の動物または生物を示す。動物の例には、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ネコ、イヌ、げっ歯類、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、および雌ウシ等の哺乳類が含まれるがこれに限定されない。本発明は特にヒトの患者および被験者に適している。
【0099】
「阻害剤」とは、細胞内または細胞からのタンパク質もしくは生物化合物の活性、機能、産生、もしくは分泌、またはmRNAの翻訳における測定可能ないかなる減少をも作り出す化合物、物質または薬剤を意味する。
【0100】
移植された臓器に関して本明細書で使用されるとおり、虚血障害または虚血再灌流障害の「軽減」とは、(i)例えば保存液中もしくは死体にある臓器、または(ii)患者に移植された臓器の損傷の測定可能ないかなる減少、縮小、または反転をも示す。同様に、「軽減する」とは、保存される臓器、または患者に移植される臓器の損傷、障害、または発作の測定可能ないかなる減少、縮小、または完全な阻害をも示す。
【0101】
本明細書で使用されるとおり「a」および「an」は「1またはそれ以上」を示す。さらに具体的には、組み合わせまたは対象物を採用する方法を請求する請求項における「含む」「有す」または他の非制限語句の使用は、「1またはそれ以上の対象物」が、請求された方法または組み合わせにおいて採用できることを示す。
【0102】
本発明は、腎臓等の臓器の虚血障害、虚血性灌流障害、および毒素誘導性障害を処置、軽減、または改善する方法において使用する好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンすなわちNGALを提供する。本発明はまた、急性腎臓障害(ショック、外傷、脳卒中、敗血症、感染症、炎症、結石、または手術を含むがこれに限定されない)および慢性腎臓障害(高血圧、糖尿病、心疾患、、狼瘡、炎症、糸球体腎炎、および間質性腎炎を含むがこれに限定されない)を処置、軽減、または改善する方法でのNGALの使用を含む。理論的拘束力は望まないものの本発明によると、NGAL投与は、尿細管細胞死すなわちアポトーシスを制限し、再上皮形成すなわち虚血再灌流障害後の生細胞の脱分化および増殖ならびに上皮表現型の再樹立を含む腎臓の虚血後の生細胞の回復を促進するよう、尿細管の細胞死に影響することが解っていた。NGAL投与はまた、虚血障害後の血清および血漿のクレアチニン濃度の上昇を減少させることも証明されている。
【0103】
ヒトNGALは25kDaのタンパク質で、ヒト好中球由来のゼラチナーゼと共有結合し、腎臓、気管、肺、胃、および結腸を含む数種のヒト組織において非常に低いレベルで発現する。NGAL発現は刺激を受けた上皮によって分泌され強く誘導される。例えば、NGAL濃度は、急性細菌感染患者の血清、喘息または慢性閉塞性肺疾患患者の喀痰、および気腫肺からの気管支液中で上昇する。NGALはまた、虚血障害直後の腎臓において最大に誘導される遺伝子の1つである。かかるデータは遺伝子チップによるmRNAの解析に由来し、損傷を受けた腎臓がNGALを合成していることを示す。他の研究では、炎症疾患を持つ患者の血清において濃度の上昇が検出されている。そのため、我々は慢性状態の腎臓疾患と比較したヒトのATNにおけるNGALの発現率を評価した。NGALは臨床的にATNと定義された場合に発現が多くなり、ヒト腎臓生検の近位尿細管に出現する。NGALはまた、量は少ないが慢性腎疾患のいくつかの状態においても腎臓で発現する。ATNを起こす虚血または虚血再灌流のモデルマウスもまたNGALを高レベルに発現する。NGALをマイクログラムの量で注入すると、血漿クレアチニンおよび腎臓の組織分析によって測定されるATNに対して劇的な保護を示した。腎臓の保護は細菌のシデロホアを含むNGALタンパク質が近位尿細管に到達するためである。
【0104】
NGALを含む薬剤の組成物または成分の調製は、レミントン薬剤科学(Remington’s Pharmaceutical Science)第18版、マック印刷社(Mack Printing Company)1990年刊に例示されるとおり本発明の観点から当業者に公知である。さらに、動物(例えばヒト)への投与については、調製法が、米国食品医薬局の生物学基準で要求される無菌性、発熱原性、一般的な安全性と純度の基準に適合しなければならないことが理解されるだろう。
【0105】
以前はNGALの役割は不明だったが、今では腎形成中の鉄輸送タンパク質であると同定されている。シデロホアおよび鉄に対する高い親和性にかかわらず、NGALは細胞質に鉄を運搬できる。NGALから鉄が輸送されるためのメカニズムとして考えられるのは細胞の飲食作用である。蛍光NGALタンパク質は飲食作用を受けるが、この作用は4℃で遮断される。鉄がNGALから放出されるにはこれらの小胞の酸性化が必要であるが、これは酸性化を阻害する薬剤が鉄の取り込みを遮断することから解る。さらに、細胞質で蛍光の鉄リポーターを発現する細胞へNGALを添加すると、鉄の活性化によるリポーター発現の変化を刺激するが、このことはNGALが鉄の提供者であることを明らかに示している。NGALの飲食作用の経路は培養細胞におけるホロトランスフェリンによる取り込み経路とは明らかに異なる。定常状態ではホロトランスフェリンはrab−5またはrab−7のリサイクル小胞(rab5およびrab7はそれぞれ初期および後期の核内体マーカー)へ送られるが、NGALは後期の核内体と少量がリソソームに送られる。かかるデータはNGALがシデロホアを含む場合に鉄輸送経路において機能できることを示す。
【0106】
インビボでのNGALの作用はその薬理学的な効果とは異なるかもしれない。なぜならインビトロで重要なシデロホアは細菌産生物だからである。多くの解析が内因性の低分子の鉄輸送補因子である可能性を示している。これらにはクエン酸および関連化合物だけでなく、分子量約1000Daの鉄輸送活性因子も含まれる。かかる腎臓における補因子の有無を決定するために、我々はBL21細菌由来のアポNGALと尿サンプルを混合した。尿それ自体および塩液で希釈したアポNGALは55Feを取り込めなかったが、尿中に希釈したNGALは55Feを取り込めた。かかる知見は、尿中にNGALと鉄の相互作用を可能にする補因子が存在することを示している。
【0107】
本発明の一実施の形態において、外因性NGALの投与によって、虚血再灌流障害により引き起こされた構造的損傷を改善できる。アポトーシスおよび壊死の両方を有意に遅らせることができる。理論的拘束力は望まないが、虚血状態でのNGALのアポトーシスの抑制メカニズムには、ヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)に類似した抗アポトーシス効果が含まれ、これが鉄の細胞外への輸送の促進することで、細胞内区画での鉄による酸化ストレスを制限する(CDフェリス(C.D.Ferris)その他、1990年ネイチャー・セル・バイオロジー(Nat.Cell.Biol.)3巻P.152−157)。さまざまなシデロホア類の担体として、NGALはまた過剰な細胞内の鉄の除去を促進し、それにより、虚血再灌流障害後の酸化物が媒介する腎尿細管のアポトーシス細胞死を制限する。壊死に関しては、虚血再灌流障害後の腎臓に2段階の過程により反応が起こり得る。つまりアポトーシスの開始と続く壊死細胞死である。鉄媒介の酸化ストレスの制限に加えて、NGALによるアポトーシスの阻害はかかる過程の二段階目にあたる壊死局面を防ぐのに有効になりうる。アポトーシスの抑制過程によって、NGALは、アポトーシスの増加との関連が周知であるさまざまな腎臓疾患において有効になり得る。かかる腎臓疾患は、虚血、虚血再灌流、腎毒性、多嚢胞性腎臓疾患、閉塞、炎症、および糸球体疾患を含むがこれに限定されない。
【0108】
NGALタンパク質はβバレルまたはカリックスを形成する8つのβ鎖からなる。カリックスは、尿中で検出および/または細菌によって産生されるシデロホアを含む低分子化合物と結合し輸送する。NGALのリガンド結合特性の最適な証拠は結晶学研究から得られ、細菌のシデロホア(エンテロチェリン(enterochelin))がβバレルであることが証明された。NGALはかかるシデロホアと高い親和性(0.4nM)で結合し、シデロホアが鉄を高い親和性(10−49M)で取り込む。結合実験とX線結晶解析によって証明されたタンパク質:シデロホア:鉄の化学量は1:1:1である。シデロホアに鉄が取り込まれた場合、NGAL複合体はインビトロでの胚性間葉および細胞系に鉄を与え、シデロホアに鉄がない場合は、NGAL複合体は鉄をキレートする。NGALは多くの細胞種で飲食作用によって取り込まれ、トランスフェリン区画とは異なる後期の核内体区画へ送られる。鉄の放出は核内体区画で起こる。NGALは細菌シデロホアと結合する最初の哺乳類タンパク質として発見されたため、シデロカリンとも呼ばれている。
【0109】
シデロホアは環境中の鉄を取り込む小分子タンパク質で、分子量約500から1000の低分子である。シデロホアは第二鉄をキレートできる。鉄触媒による損傷は、虚血、虚血再灌流、または毒素誘導性障害後の腎臓の機能不全における最初の現象の1つと考えられ、心臓および肝臓を含む他の臓器への初期段階の損傷において重要らしい。シデロホアによってキレートされた鉄はかかる臓器への損傷を遅らせることができる。
【0110】
シデロホアは合成または細菌培養から天然物として回収可能で市販されている。シデロホアは、一般に用いられる10mMトリスまたはリン酸緩衝塩類溶液を含むさまざまな緩衝液の生理学的条件においてNGALと混合すると、NGALに急速に取り込まれる。一般的に、シデロホアは既知量のNGALタンパク質に過剰に加えることができる。NGAL分子はシデロホア分子と、各複合体に各分子が1つずつ含まれるように結合するだろう。かかる1:1のNGAL:シデロホアの複合体は過剰な非結合シデロホア分子を除くため洗浄した後、本発明の実践で使用するためにさらに処理されてもよい。または、等モルのシデロホアとNGAL分子を組み合わせてインキュベートして結合させることも可能である。本発明で使用するために考案した外因性シデロホアには、クエン酸および合成アナログおよび部分およびその他の有機化学によって産生できる化合物をはじめ、エンテロチェリン、カルボキシミコバクチン、アミノチェリン、デスフェリオキサミン、エアロバクチン、アースロバクチン、シゾキネン、フォロキシミシン、シュードバクチン、ネオエナクチン、フォトバクチン、フェリクロム、ヘミン、アクロモバクチン、リゾバクチン、および他の細菌産生物が含まれるがこれに限定されない。内因性シデロホアもまたNGALとインビボで複合体を形成するが、かかることは使用方法の実施例において説明する。
【0111】
本発明に関する方法は患者にある特定の利点を提供する。虚血障害に次ぐ急性腎臓疾患は普遍的問題のままであり、限られた充分ではない治療選択しかない。尿細管の細胞死(壊死またはアポトーシス)の抑制、軽減、もしくは反転する因子、および/または回復段階(腎尿細管の生細胞の脱分化および増殖もしくは上皮表現型の再樹立を含む)を促進する因子の同定は、新しい治療選択となる可能性がある。本発明によると、NGALは、単独またはシデロホアと共に用いて、上記の望ましい細胞保護特性を有利に示す。外因性のNGALの投与は、尿細管のアポトーシス細胞死を制限し再上皮形成を促進することでマウスモデルでの虚血再灌流障害の形態的機能的な原因を制限することが証明されてきた。
【0112】
毒素誘導性障害を処置、軽減、または改善するための本発明の一実施の形態において、毒および/または毒性がある処置には、抗生剤、抗炎症剤、抗真菌剤、放射性造影剤、薬剤、化学療法剤、試験薬、薬剤、または天然、市販および工業製化合物もしくは無機物を含んでもよい。特定の毒および腎毒には、シスプラチン、マイトマイシン、シクロホスファミド、イソスファミド、およびメソトレキセート等の抗癌剤、ゲンタマイシン、バンコマイシン、およびトブラマイシンを含む抗生剤、アンホテリシン等の抗真菌剤、NSAID等の抗炎症剤、シクロスポリンおよびタクロリムス等の免疫抑制剤、ハイドロカーボン類、クロロカーボン類、およびフルオロカーボン類等の市販されている工業製化合物である薬剤、ヒ素、水銀、ビスマス、および鉛等の無機物が含まれるがこれに限定されない。他に腎毒性化合物には、アミノグリコシド、フォスカーネット、ペンタミジン、ネオマイシン、亜酸化窒素、イソフルラン、カナマイシン、およびシクロホスファミドが含まれてもよい。
【0113】
本発明の実施の形態によると、NGALは、本明細書に記載するとおり、虚血、虚血再灌流障害、臓器移植、ATN、毒物投与等の前後および最中(同時)に投与が可能である。さらに具体的に、NGALは臓器が移植される約30分から90分前に患者に投与できる。30分から90分の範囲外の時間での投与もまた考えられる。
【0114】
本発明はまた、体重1kgあたり約1から200mg、より一般的には約1から100mgのNGALを患者に投与する方法を含む。患者に投与するNGALの量はさまざまで、上記の範囲外であってもよい。本明細書で論じるとおり、患者へのNGAL投与量はさまざまであってよい。
【0115】
薬剤または医薬組成等の本発明に関する組成物は、一般的に100μLの組成物中少なくとも約10μgのNGALおよび/またはシデロホア濃度からなり、より一般的には少なくとも100μgである。
【0116】
本発明に関する組成物には、固体、液体または霧状での投与法、および注射による投与経路のための滅菌の必要性に依存した薬剤として受容できるさまざまな種類の担体を含んでもよい。本発明は、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管内、鼻腔内、ガラス体内、膣腔内、直腸内、腫瘍内、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍帯内、眼球内、経口、部分的、局所的、吸入(例えば噴霧吸入)、注射、点滴、連続点滴、標的細胞を直接液に浸ける局所的灌流、カテーテル経由、洗浄経由、クリーム剤中、脂質成分中(例えばリポソーム)、または当業者なら知っているような他の方法または上記の組み合わせによって投与できる。
【0117】
本発明に関する組成物を動物の患者に実際に投与する量は、体重、処置時の重篤度、処置対象となっている疾患の種類、処置前および最中の介在物、かかる患者の突発性疾患、および投与経路などの物理的生理的要因によって決定できる。投与担当医師はどのような場合においても、各被験者に対して適切な組成物および投与量において、NGAL、シデロホア、およびこれらの混合物、および他の選択した活性剤の濃度を決定するものである。
【0118】
ある特定の実施の形態において、医薬組成物には例えば少なくとも約0.1%の選択した他の活性剤または有効成分が含まれてもよい。他の実施の形態においては、かかる活性剤または有効成分は重さで約2%から75%含んでもよく、より一般的には、約25%から60%で、この範囲であればいかなる範囲であってもよい。他の非制限的な例では、活性剤または有効成分の投与量は体重1kgあたり約1μgから500mgまでを含んでよく、より一般的には、約5mgから100mgである。
【0119】
いくつかの実施例において、本組成物は、1以上の成分の酸化を遅らせるさまざまな抗酸化剤を含んでもよい。さらに、微生物作用の予防がさまざまな抗細菌剤および抗真菌剤等の保存剤によって行える。かかる保存剤には、パラベン類(例えばメチルパラベン類、プロピルパラベン類)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはこれらの組み合わせが含まれるがこれに限定されない。
【0120】
本組成物は、遊離塩基、中性または塩の形に調製できる。医薬として受容できる塩には、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基で形成されたもの、または、例えば塩化水素もしくはリン酸等の無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸によって形成された酸添加塩が含まれる。遊離カルボキシル基で形成された塩はまた、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄類等の無機塩基、またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンまたはプロカイン等の有機塩基に由来させることもできる。
【0121】
本組成物の形状が液体である実施の形態において、担体は溶媒または分散媒が可能であり、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレン、グリコール、液体ポリエチレングリコール等)、脂質類(例えば、トリグリセリド類、植物油、リポソーム類)、およびこれらの組み合わせを含むがこれに限定されない。適切な流動度は、例えばレシチン等の被覆剤を使用することにより、例えば液体ポリオールまたは脂質等の担体に分散させることで必要な粒子径を維持することにより、例えばヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤を使用することにより、またはかかる方法の組み合わせにより維持できる。たいていの場合、例えば糖、塩化ナトリウムまたはこれらの組み合わせ等の等張剤を含むのが一般的である。
【0122】
本発明の他の実施の形態において、点眼剤、点鼻剤または噴霧剤、エアロゾルまたは吸入剤として使用可能である。かかる組成物は一般に標的組織の種類に合わせてデザインされる。一非制限的な実施例において、点鼻剤は通常水溶液で、滴下または噴霧により鼻腔内に投与するようデザインされている。点鼻剤は鼻の分泌物と多くの点で似るように、正常な繊毛動作が維持できるように調製される。そのため、一般的な実施の形態においては、水溶性点鼻剤は通常等張であるかわずかに緩衝され、pHが約5.5から6.5に維持される。さらに、眼科用製剤に使用されているのと同様な抗微生物保存剤、薬剤、または適当な薬物安定剤を適宜本製剤に含むことができる。例えば、さまざまな市販の点鼻剤は抗生剤または抗ヒスタミン剤等の薬剤を含むことが公知である。
【0123】
ある特定の実施の形態において、本組成物は経口摂取等の経路によって投与するため調製される。かかる実施の形態においては、固形の組成物は、例えば、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル錠(例えば硬いまたは柔らかいゼラチンで覆ったカプセル)、徐放性製剤、舌下錠、口内錠、万能薬、シロップ剤、オブラート、またはこれらの組み合わせを含む。経口組成物は食事療法の食物と共に直接摂取できる。経口投与の一般的な担体には、不活性希釈剤、食物として吸収できる担体、またはこれらの組み合わせが含まれる。本発明の他の局面においては、経口組成物はシロップまたは万能薬として調製可能で、例えば、少なくとも1つの選択された活性剤または有効成分、甘味料、保存剤、香料、色素、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。他の実施の形態においては、経口組成物は1以上の結合剤、添加剤、壊変剤、滑剤、香料、またはこれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0124】
ある特定の実施の形態において、1組成には次の中から1つ以上を含んでよい。例えば、トラガントゴム、アカシア、コーンスターチ、ゼラチン、またはこれらの組み合わせ等の結合剤、例えば、リン酸ニカルシウム、マンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、またはこれらの組み合わせ等の添加剤、例えば、コーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸、またはこれらの組み合わせ等の壊変剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム等の滑剤、例えばショ糖、乳糖、サッカリンまたはこれらの組み合わせ等の甘味料、例えば、ペパーミント、冬緑油、サクランボ香料、オレンジ香料等の香料、またはこれら全ての組み合わせ。投与が一カプセル単位であるなら、上記の種類の他に液体等の担体を含んでもよい。さまざまな他の物質が被覆剤として使用可能で、一投与単位の物理的形状を異なった形に修飾できる。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル錠は、セラック、糖、またはその両方で覆うことができる。
【0125】
他の投与方式に適した別の調整法には座薬が含まれる。通常処方される座薬は、直腸、膣、または尿道に挿入するため、さまざまな重量および形態の固体様式である。挿入後、座薬は腔内の体液で軟化、融解、または分解する。一般に従来からある座薬用の担体は、例えばポリアルキレングリコール類、トリグリセリド類、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。ある特定の実施の形態において、座薬は、例えば、約0.5%から10%の範囲、および一般には約1%から2%の範囲で、活性剤または有効成分を含む混合物より形成できる。
【0126】
無菌の注射可能な液体は、フィルター滅菌の後、適宜、先に列記したその他成分の内のいくつかの成分と共に必要な量の活性化合物を適切な溶媒に取り込むことで調製される。一般に分散は、さまざまな滅菌された活性化合物を、基本的な分散媒および/または他の成分を含む無菌の賦形剤に取り込むことで調製される。無菌の注射可能な液体、懸濁液、または乳剤を調製するための無菌の粉の場合、一般的な調製方法は、フィルター滅菌済み溶媒から活性化合物およびいかなる他の望ましい成分をも生じさせる真空乾燥または凍結乾燥技術である。かかる溶媒は、適宜、適切に緩衝され、その希釈剤は注射前に充分な塩またはブドウ糖によってまずは等張にする。溶媒として使用したDMSOによって結果的に極端に速い浸透性が予想される場合、直接注射用の高濃度の組成物を調製することが考えられ、かかることにより狭い範囲に高濃度の活性化合物を到達させる。
【0127】
本組成物は製造および貯蔵状態で安定しており、細菌および真菌等の微生物による汚染に対して保護されなければならない。外毒素による汚染が、例えばタンパク質1mgあたり0.5ng未満といった安全基準で最小限に抑えられなければならないことが理解されるだろう。
【0128】
実験プロトコル
本発明は、その使用および効能を証明する実施例を通して深く理解されるだろう。以下に示す実験方法は、続く実施例において参照されるものである。
【0129】
1.組換えヒトおよびマウスNGALの発現、精製、および放射性標識
全長マウスNGALcDNAは、pGEX発現ベクターでクローニングし、細菌中でグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)と融合したタンパク質として発現させ、グルタチオン−セファロースカラム(アマシャム社)を用いて精製し、バンドガード(Bundgaard J.)その他著、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ誌(Biochem.Biophys.Res.Commun.、1994年202巻、p.1468−1475)およびヤン(Yang J.)その他著、モレキュラー・セル誌(Mol.Cell、2002年10巻、p.1045−1056)およびデル・リオ(Del Rio M.)その他著、米国腎臓学会誌(J.Am.Soc.Nephrol.、2004年15巻、p.41−51)に記載された方法でトロンビン切断を行った。精製NGALはデトックスゲル内毒素除去カラム(ピアース社)を用いて製造者が推奨する方法で内毒素をなくした。タンパク質は、SDS−PAGEの後、クーマシーブルー染色によって、またはミシュラ(Mishra)その他著、米国腎臓学会誌(J.Am.Soc.Nephrol.、2003年14巻、p.2534−2543)に記載されているとおり、NGALに対するポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロティングによって分析した。タンパク質濃度はブラッドフォード法を用いて決定した。図1に示すとおり予想されたサイズの単一できれいなポリペプチドが検出された。
【0130】
2.組換えヒトおよびマウスNGALの発現と精製
組換えヒトおよびマウスGST−NGALは、硫酸第二鉄(50μM:シグマ・アルドリッチ社)を添加して大腸菌(E.Coli)BL21株またはXL1−Blue株で発現させた。NGALはグルタチオン−セファロース4Bビーズ(アマシャム・バイオサイエンス社)で単離し、トロンビン切断(シグマ・アルドリッチ社:ミズリー州セントルイス)によって溶出し、その後ゲル濾過(Superdex75、SMARTシステム、アマシャム・バイオサイエンス社)によってさらに精製し、クーマシーゲル(バイオラッド社)によって検証した。BL21由来のNGALは、鉄がないまたは5倍過剰なモル濃度を用いて鉄飽和させたエンテロチェリンであるシデロホア(EMCマイクロコレクション社)を結合した。非結合シデロホア(0.7kDa)はPBSで洗浄(MicroconYM−10)し除去した。55Feまたはガリウム(Ga)負荷NGALを作製するために、鉄無しエンテロチェリンNGAL複合体を、NaCl(150mM)Hepes(20mM、pH7.4)中の等モル濃度の55Fe(18mCi)またはGaとインキュベートした後、この複合体を3回洗浄した(10Kフィルター)。ヨードビーズ(Iodobeads:ピアース社)を用いてNGALを125Iで標識し、非吸収125Iをゲル濾過(PD−10カラム)で除去した後、PBSに対して徹底的に透析した(7kDa限外濾過膜:ピアース社)。Alexa―568およびフルオレセインイソチオシアネート(モレキュラープローブス社)を製造者の指示に従いNGALと結合させ、その後徹底的に透析した。タンパク質濃度は、標準牛血清アルブミンと比較してクーマシーゲルによって決定した。
【0131】
3.NGALの注射
精製された内毒素のないNGALはマウスの尾の静脈内、皮内、または腹腔内に注射して投与した。予備実験では、NGALは3種類の濃度(250μg/100μL溶液を50、100、または250μg)で動物に投与し、1時間後に腎動脈の両側を30分間クランプし、再流の24時間後に検証した。等量(100μL)の生理食塩水で前処理した動物と比較した場合、250μgのNGALを投与した群のみが尿細管損傷および窒素過剰血症の有意な保護を示した。本明細書で報告する以下の全ての実験は250μgのNGAL投与量を用いて行った。5種類のさまざまな動物実験群を使い比較した。非虚血対照群(n=8)、生理食塩水でのみ前処理した虚血対照群(n=8)、腎動脈クランプの1時間前にNGALで前処理した群(n=6)、腎動脈クランプの最中にNGAL処理した群(n=6)、腎動脈クランプの1時間後にNGAL処理した群(n=6)である。
【0132】
4.ヒトによる研究
健康な志願者、および急性または慢性の腎不全と診断された患者の尿および血清中のNGALタンパク質濃度が分析された。急性腎不全(ARF)は5日未満の血清クレアチニンの倍化によって診断された。ARFの推定病因には、次の基準のうち少なくとも2つが当てはまった敗血症が含まれる。陽性血液培養、または肺、皮膚もしくは尿管での局所的感染の証拠、および発熱または白血球数の上昇である。これらの患者の中には、血圧の補助が必要なものもいた。他のARFの病因には、出血または心疾患が原因の低血圧、腎毒性、または移植後虚血が含まれた。慢性腎不全(CRF)の定義は、2mg/dLを超える血清クレアチニンが少なくとも2ヶ月間変化していないことである。CRFの推定病因には、閉塞性尿路疾患、慢性間質性腎炎、および糖尿病が含まれた。コロンビア大学医療センターおよび京都大学医学部付属病院において、両組織の審査委員会の承認を得て、評価される患者の血液および尿サンプルが回収され、盲検法を用いて分析された。
【0133】
5.NGALの測定
抗マウスNGALポリクローナル抗体をウサギで作製した後、組換えマウスNGAL(下記参照)と結合させたセファロース4ファストフロービーズカラム(アマシャム・バイオサイエンス社)で精製し、pH2.5で溶出させた。ヒトNGALモノクローナル抗体(アンチボディショップ社)もNGALの検出に用いた。ヒトNGALはこのモノクローナル抗体でより良く認識されたが、マウスNGALはアフィニティ精製したポリクローナルによってのみ認識された。
【0134】
ヒト血液サンプルは最初にクエン酸、EDTA、またはヘパリン中に回収されたが、これらの調整は全て同様なNGAL免疫反応性を示したので、ヒト血清およびマウス血漿は以下に記載する実施例において回収される。これらのサンプルは100kDa限外濾過膜(YM−100:アミコン社)を用いて遠心分離し、濾液サンプルを免疫ブロット用に用いた。血液透析を受けている患者では、サンプルは透析直前に回収した。新鮮な尿サンプルは低速で遠心分離した後、それ以上濃縮しないで用いた。
【0135】
6.病理学標本
病理学標本には、虚血ATN(10例)、毒性ATN(11例:抗生剤5例、ゾレドロネート2例、カルボプラチン1例、非ステロイド抗炎症剤2例、およびヘモグロビン尿症1例)、および糸球体症(10例:糖尿病、抗GBM、免疫染色陰性半月体形成糸球体症、IgA腎障害、最小変化、単状分節状糸球体硬化症を含む)、また、正常な腎臓(3例)をも含んだ。ホルマリン固定しパラフィン包埋した組織を切片化し(5μm)、30分間クエン酸緩衝液(pH6.0)中でマイクロ波を用いて抗原回収した。外因性のペルオキシダーゼは30分間5%のHで遮断し、その後10%のヤギ血清/1%のBSAでブロッキングした。アフィニティ精製した抗マウスNGAL(0.4μg/mL)を4℃で一晩添加し、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG(1:100:ベクター社)およびアビジンHRPをそれぞれ30分間添加した。スライドは2.5分間DAB/0.3%Hで現像し、ヘマトキシリンで対比染色した。非免疫ウサギIgG(0.4μg/mL:ベクター社)を対照として用いた。
【0136】
7.NGAL輸送
腎臓へ輸送されるNGALを検出するため、rNGAL(10または100μg)、Alexa―568NGAL(100μg)、125I−NGAL(10μg、2×10cpm)、または55Fe負荷エンテロチェリン−NGAL(10μg、1×10cpm)を腹膜内に注射し、血液、尿、腎臓、および肝臓サンプルを得た。NGALは免疫ブロットにより検出された。Alexa―568NGALは共焦点顕微鏡(LSMメタ検出器)で検出され、NGAL媒介鉄輸送がシンチレーション計測器およびEpon包埋腎臓の光学顕微鏡オートラジオグラフィーによって検出された。スライドは1週間感光乳剤(ポリサイエンス社)に曝した後、マイクロドールで現像し、トルイジンブルーで対比染色した。近位尿細管のリソソームを検出するために、マウスにはAlexa568NGAL注射の24時間前にフルオレセインデキストラン(46kDa、0.5mg:シグマ社)を注射した。LAMP1(サンタクルズ社)が4%パラホルムアルデヒド固定腎臓のクリオスタット切片で検出された。
【0137】
8.ATNまたは虚血/再灌流障害のマウスモデル
C57BL/6雄マウス(20〜25g:チャールズリバー社)は腹膜内ペントバルビタール(50mg/kg)で麻酔し、体芯温度が37℃に保たれるように暖灯下の温熱パッド上に静置した。腎臓を腹部切開によって露出させ、右の腎臓を取り出すかまたはその血管茎および尿管を結紮した。左腎臓または両腎臓の血管茎は微細動脈瘤用クリップ(ケントサイエンティフィック社)で右腎摘出後30分間クランプした。この間の虚血によって死亡率が最小限に抑えられた再現性のある腎臓疾患を形成させた。この間、腹膜を湿らすためにPBS(0.5mL)を用い、腹部は5−0ナイロンで縫合した。生理食塩水、NGAL、レチノール負荷レチノール結合タンパク質(RBP)、エンテロチェリン、またはデスフェロキサミンメシレート(DFO)を、虚血15分前または再灌流1から2時間後に腹膜内または皮下に注射した。
【0138】
再灌流の6または24時間後に、ヘパリン添加血漿、尿、および腎臓サンプルを回収し、免疫ブロットを用いて、NGAL(ポリクローナル1:500)、ヘムオキシゲナーゼ1(ストレスゲン社、1:2000)、Eカドヘリン(BDトランスダクションラボ社、1:2000)、Nカドヘリン(BDトランスダクションラボ社、1:3000)、およびGAPDH(ケミコンインターナショナル社、1:3000)を測定した。血漿はまたクレアチニンおよび血液尿素窒素比色分析にも用いた。腎臓の矢状断面は4%ホルマリンで固定するか、またはmRNAおよびタンパク質分析用に瞬間凍結させた。パラフィン包埋切片(5μm)は、ヘマトキシリン−エオシン、またはアポトーシス核用のインサイチュキット(フルオレセインTUNEL法、ロシュ社)または全ての核用(トップロール法、モレキュラープローブ社)で染色した。細胞増殖分析用には、BrdUを解剖1時間前に腹膜内に注射し、クリオスタット切片を製造者の指示に従い抗BrdU(ロシュ社)で染色した。
【0139】
いくつかの実験では、前期マウスは暖かいケージで回復させ、時間ごとに尿を回収した。さまざまな再灌流時間の後に、マウスは再び麻酔後開腹され、比色定量分析によって血清クレアチニンを測定するために、下大静脈の穿刺によって血液を得た。マウスは殺され、腎臓は4%パラホルムアルデヒド/PBSの灌流でインサイチュ固定され、両腎臓が摘出された。各腎臓の半分が液体窒素で瞬間凍結され、次の処理まで−70℃で保存された。その後サンプルをホルマリンで固定し、パラフィン包埋没後切片にした(4μm)。パラフィン切片はヘマトキシリン−エオシン染色し組織学的に検査した。もう半分の腎臓はOCT化合物(ティッシュ−テック社)で包埋し、免疫組織学的検査用に凍結切片(4μm)を作製した。
【0140】
9.リアルタイムPCR
全RNAが、RNeasyミニキット(キアゲン社)を用い、製造者の指示に従ってカラム上でDNase消化し、マウス腎臓から抽出された。cDNA鋳型はオムニスクリプト(Omniscript)逆転写酵素とオリゴdTプライマー(キアゲン社)を用いて合成した。PCR反応はiQ SYBRグリーンスーパーミックスおよびMyiQ単色リアルタイムPCR検出システム(バイオラッド社)を用いて、95℃で2分インキュベート後、95℃30秒および60℃30秒を40回インキュベートして行った。増殖の特異性は融解曲線の分析とアガロースゲル電気泳動によって検証した。マウスNGALmRNA用のプライマー配列(Genbank NM 008491)は、CTCAGAACTTGATCCCTGCC(フォワードプライマー、配列番号93−112)およびTCCTTGAGGCCCAGAGACTT(リバース、576−557)である。マウスβアクチンmRNA用の配列(Genbank X03672)は、CTAAGGCCAACCGTGAAAAG(フォワード、415−434)およびTCTCAGCTGTGGTGGTGAAG(リバース、696−677)である。各プレートには連続希釈した標準サンプルが含まれ、mRNA量の決定に用いられた。NGALmRNA含有量はβアクチンmRNAによって補正した。
【0141】
10.鉄結合補因子
補因子依存性のNGALへの鉄結合は、アポNGAL(10μM)、55Fe(1μM)、およびマウス尿の低分子分画(<3kDa)を用いて、150mMNaCl−20mMHepes(pH7.4)中で70分間室温でインキュベートして測定した。尿分画は、新鮮な尿を10kDaおよび3kDaの膜(YM−10およびYM−3、アミコン社)に順次濾過させて得た。次に混合液は10kDa膜(YM−10、アミコン社)上で3回洗浄した。鉄がないエンテロチェリン結合NGAL(シデロホア無しのNGALよりもむしろ)を鉄獲得の陽性対照として用いた。クエン酸第二鉄(1mM)または鉄負荷エンテロチェリン(Sid:Fe、50μM)が55Fe結合の競合物質として用いられた。
【0142】
11.NGAL免疫組織学分析
NGAL検出用に、凍結腎臓切片に0.2%TritonX−100/PBSを10分間浸透させ、1時間ヤギ血清でブロッキングした後、1時間NGALに対する第1抗体(希釈比1:500)を加えてインキュベートした。その後スライドを暗黒下で30分間Cy5(アマシャム社、イリノイ州アーリントンハイツ)が結合した第二抗体に曝露し、ローダミンフィルターを搭載した蛍光顕微鏡(ツァイスアキシオフォト)で視覚化した。
【0143】
12.組織病理学分析スコア
4μmの腎臓切片はヘマトキシリン−エオシン染色し、ヨコタ(Yokota N.)その他著、米国生理学会誌腎臓生理学(Am.J.Physiol.Renal Physiol.2003年285巻F319−F325)およびジェルドセン(Kjeldsen L.)その他著、バイオキム・バイオフィズ・アクタ(Biochim Biophys Acta2000年1482巻p.272−283)に記載されている方法で、尿細管への組織病理学的な損傷を盲検法によってスコア化した。各指標は、内側の皮質および外側の髄質領域(尿細管損傷が最も明らか)を強拡大(40倍)で検査し、各切片の平均値を決定した。指標には、尿細管拡張、尿細管円柱形成、および尿細管細胞壊死が含まれた。各指標は0から4のスケールでスコアにした。異常無し(0)、軽度(1)、中度(2)、重度(3)、非常に重度または広範(4)である。
【0144】
13.アポトーシス検査
アポトーシス核を検出するTUNEL法のために、アポアラートDNA断片化アッセイキット(クローンテック社)を使用した。パラフィン切片はキシレンおよび低級エタノールで脱パラフィン化し、4%ホルムアルデヒド/PBSを使い30分間4℃に固定し、プロテイナーゼKを室温で15分、および0.2%TritonX100/PBSを4℃で15分間浸透させ、ヌクレオチドおよびTdT酵素の混合液を加え37℃で60分間インキュベートした。反応を2×SSCで停止させ、切片をPBSで洗浄した後、クリスタル/マウント(バイオメダ社、カリフォルニア州フォスターシティ)でマウントした。TUNEL陽性のアポトーシス核は蛍光顕微鏡で視覚化することで検出した。核の断片化、核の凝縮、およびTUNEL法による密な蛍光核を含んだアポトーシスの特徴的な形態を示した細胞だけをアポトーシスとして計測した。形態的基準を満たさないTUNEL陽性だけ示した細胞はアポトーシスとはみなさなかった。スライドは盲検法で検査し、各切片とも平均5ヶ所を強拡大(40倍)して計測した100細胞あたりのTUNEL陽性核の数を計測することによってアポトーシスを定量した。
【0145】
14.増殖検査
増殖細胞を検出するため、増殖細胞核抗原(PCNA、希釈比1:500、アップステイトバイオテクノロジー社)に対するモノクローナル抗体で切片をインキュベートし、免疫ペルオシキダーゼ染色法(イムノクルズ染色システム、サンタクルズバイオテクノロジー社)を製造者が推奨するとおりに用いて検出した。スライドは盲検法で検査し、各切片とも平均5ヶ所を強拡大(40倍)して計測した100細胞あたりのPCNA陽性細胞の数を計測することによって増殖を定量した。
【0146】
15.統計解析
SPSSソフトウェア(Ver.8/0)を採用し、平均、標準偏差、分布、範囲、および歪度を含む各連続変量に対して一変量統計値を求めた。データは正常値と分布の均一性について検証した。一方向ANOVAを採用し、異なった処理群間の連続変量の平均値±SDを比較した。ランク付けクラスカル・ウォリスANOVAを非正規分布データに用いた。群または他と異なる群の同定には、多重比較法(正規分布に応じてチューキー検定またはダン検定)を用いた。0.05未満のp値が統計的に有意であるとみなされた。ヒトのNGAL濃度は統計解析用に対数値に変換した。群間の平均値を比較するためにデータをボンフェロニーの事後検定を伴った一方向ANOVAによって解析した。腎臓障害のジャブロンスキースコアはダンの事後検定を伴ったクラスカル・ウォリス検定によって解析した。
【0147】
実施例
さまざまな実施の形態における本発明の実践をより完全に記述するため、以下の実施例を提供する。上記の実験プロトコルは実施例に示すとおりに使用する。
【実施例1】
【0148】
静脈内に注射したNGALはインビボの近位尿細管細胞によって急速に吸収される。精製NGALは推定作用部位、つまり近位尿細管に到達した。図2で示すとおり、NGAL(250μg/100μL生理食塩水)または等量の生理食塩水のみを静脈注射されたマウスに虚血再灌流障害を起こし、腎臓および尿を時間を変えて検証した。非虚血生理食塩水対照群にはNGALがない(上段左)が、非虚血NGAL処理マウスにはNGALがある(下段左)。1時間経った時点で生理食塩水注入マウスの腎臓にはNGALがない(上段中)。虚血再灌流障害3時間後の生理食塩水処理マウスには内因性NGALが検出された(上段右)。これとは対照的に、NGAL注射後1時間以内に、細胞質点状分布が主に近位尿細管で容易に検出され(下段中)、3時間経っても依然検出された(下段右)。これらの切片における近位尿細管の同定は場所と形態を基になされた。NGALは生理食塩水を注射したマウスでは1時間の再流時には検出されなかったため、上記検出は虚血障害後の注射したNGALの吸収を示す。さらにNGALは、図3に示すとおり、注射後1時間以内に尿中で検出された。
【実施例2】
【0149】
静脈内に注射されたNGALは投与および虚血再灌流障害後すぐに尿中に現れる。実施例1記載のマウスから採取した尿を時間を変えて検証した。図3(左)に示すとおり、1時間の再流時に生理食塩水を注射されたマウスの腎臓または尿中にはNGALはなく、3時間の再流時に検出されるようになった。この3時間に及ぶデータは虚血障害に対する腎臓の尿細管細胞の内在的な反応を示している。これとは対照的に、図3(右)に示すとおり、NGALを注射し、同時に虚血再灌流障害を起こさせたマウスでは、NGALは1時間の再流時に腎臓および尿で容易に検出された。
【実施例3】
【0150】
NGALは虚血再灌流障害によって引き起こされた尿細管への組織病理学的損傷を改善する。虚血の1時間前、最中、または1時間後にNGALを投与すると、結果的に尿細管への組織病理学的損傷は有意に減少した。24時間の再流時に得たヘマトキシリン−エオシン染色した代表的な腎臓切片を図4に示す。非虚血の対照群(非虚血)が正常な組織を示す一方、生理食塩水(100μL希釈液量)のみで前処理したマウス(生食前処理)は尿細管拡張、尿細管円柱形成、および壊死細胞を含む急性尿細管壊死の広範な特徴を示した。これとは対照的に、NGAL処理した腎臓は組織病理学的反応が弱まっていることを示した。このことは、NGALで前処理したマウス(NGAL前処理)で最も顕著だが、NGALを虚血障害の最中(NGAL虚血中)または1時間後(NGAL虚血後)に投与した場合でも顕著であった。こうした反応を定量するため、腎臓切片における尿細管への組織病理学的損傷を盲検法でスコア化した。結果を図5A〜5Cに示す。調べた全3つの指標、拡張(図5A)、円柱(図5B)、および細胞壊死(図5C)において、全3種のNGAL処理法(虚血の前、最中、または後)が結果的に対照群と比べて有意にスコアを改善した。この有意差はNGALを前処理したマウスで最も大きく、続いて虚血中にNGAL処理したマウス、虚血後に処理したマウスとなった。しかし構造的な保護は完全ではなく、NGALで前処理したマウスでさえ、非虚血対照群では全く見られない組織病理学的損傷をいくぶん示した。
【実施例4】
【0151】
NGALは虚血再灌流障害によって引き起こされる腎臓機能の低下を改善する。図6に示すとおり、虚血の1時間前、最中、または1時間後にNGALを投与すると、結果的に24時間の再流時に測定した血清クレアチニンは有意に減少した。非虚血対照群(非虚血)は血清クレアチニン(0.65±0.13mg/dL)を示すが、生理食塩水(100μL希釈液量)のみで前処理したマウス(生食前処理)では、血清クレアチニンの有意な上昇が示された(2.6±0.28mg/dL)。これとは対照的に、NGAL処理腎臓は機能的反応を弱めたことを示した。このことは、GNAL前処理マウス(1.25±0.3mg/dL)で最も顕著だが、NGALを虚血障害の最中(NGAL虚血中)(1.5±0,2mg/dL)、または1時間後(NGAL虚血後)(1.95±0.2mg/dL)に投与した場合でさえ顕著であった。しかし機能の保護は完全ではなく、NGALで前処理したマウスでさえ、非虚血対照群と比較して血清クレアチニンの有意な上昇を示した。
【実施例5】
【0152】
NGALは虚血再灌流障害によって引き起こされる尿細管のアポトーシス細胞死を改善する。外因性のNGALの投与によって観察される構造的かつ機能的保護は、アポトーシスの減少の結果である。24時間の再流時に得た代表的な腎臓切片にTUNEL法を施した。図7はそれを低倍率(左)および高倍率(中央)で見たものである。図8(左)に定量的に示すように、非虚血対照群は最小限のアポトーシス率(調べた100細胞あたり2.2±0.5個)を示すが、生理食塩水(100μL希釈液量)のみで処理したマウスは尿細管上皮細胞のアポトーシスが有意に増加している(12.6%±2.2)。これとは対照的に、NGAL処理腎臓はアポトーシス反応を弱めていることが示された。このことは、NGALで前処理したマウス(6.7%±1.6)で最も顕著だが、NGALを虚血障害の最中(7.6%±0.8)または1時間後(8.5%±0.8)に投与した場合でさえ顕著であった。しかしアポトーシス細胞死の保護は完全ではなく、NGALで前処理したマウスでさえ、非虚血対照群と比較してアポトーシス障害の有意な上昇を示した。
【実施例6】
【0153】
NGALは虚血障害後の尿細管の細胞増殖を促進する。24時間の再流時に得てPCNAに対する抗体で染色した代表的腎臓切片を図7(右)に示す。図8(右)に定量的に示すとおり、非虚血対照群は最小の増殖細胞率(調べた100細胞あたり1.9%±0.4個)を示すが、生理食塩水(100μL希釈液量)のみで処理したマウスは少ないながらも有意なPCNA陽性尿細管上皮細胞数の増加を示した(4.4%±1.2)。これとは対照的に、NGAL処理腎臓では増殖細胞の際立った増加が見られた。このことはNGALで前処理したマウス(19.1%±2.1)で最も顕著だが、NGALを虚血障害の最中(14.9%±1.2)または1時間後(14.5%±1.2)に投与した場合でさえ明らかだった。
【実施例7】
【0154】
NGALは虚血障害後における尿細管細胞の生死バランスを生存に向け変化させる。虚血障害後の尿細管細胞全体の生死を一方向ANOVAを用いて推定し、24時間の再流時における増殖とアポトーシスの平均値±SDをさまざまな処理群を対象に比較した。図9に示すとおり、静止状態の成熟腎臓で予想されるような生細胞と死細胞が等しい割合を示す均一比であることが仮定できる。非虚血対照腎臓は増殖:アポトーシスの比が0.86±0.1で、均一に近い値を示した。生理食塩水(100μL希釈液量)のみで処理したマウスは増殖:アポトーシスの比(0.34%±0.05)で有意な減少を示し、24時間の再流時では細胞死が顕著な特徴であることを示した。これとは対照的に、NGAL処理腎臓では尿細管細胞の増殖:アポトーシスの比が大きく増加した。このことはNGALで前処理したマウス(2.9%±0.5)で最も顕著だが、NGALを虚血障害の最中(2.0%±0.1)または1時間後(1.7%±0,1)に投与した場合でさえ顕著であった。この分析は、NGALが虚血障害後に、尿細管細胞の死亡対生存の全体的なバランスを生存に向け変化させることを示している。
【実施例8】
【0155】
NGAL発現はヒトの急性腎不全(ARF)において増加する。図11に示すとおり、ヒトの急性腎不全は、血清および尿のNGALタンパク質の濃度が対数オーダで上昇することを特徴とした。尿のNGALタンパク質は正常な被験者では22ng/mL(n=10)だが、急性腎不全およびさまざまな重複罹患の被験者では557ng/mL(25倍の上昇、p<0.001)である。尿のNGAL免疫ブロットを図11Aに、および定量グラフを図11Cに示す。正常な被験者の血清NGAL21ng/mL(幾何学平均、n=5)と比較して、急性腎不全およびさまざまな重複罹患の被験者の血清NGALは146ng/mLで7.3倍上昇した(p<0.05)。図11Bには免疫ブロットデータを、図11Dには定量グラフを示す。細菌感染と関連のある急性腎不全の患者は、血清(331ng/mL)および尿(2786ng/mL)のNGALが最も高い傾向を示すが、感染のない急性腎不全と統計的には差がなかった。NGAL発現と急性不全の程度との相関関係を決定するため、NGAL濃度を対数変換した後、単回帰分析を行った。尿のクレアチニンで補正した尿NGAL(r=0.67、n=36)ばかりでなく、血清(r=0.64、n=32)および尿(r=0.68、n=38)のNGAL濃度でも、血清クレアチニン濃度と高い相関が見られた(p<0.0001)。これとは対照的に、慢性腎不全の患者の場合、血清NGAL(49ng/mL、n=10)および尿NGAL(119ng/mL、n=9)の上昇は比較的小さく、これらの値は血清クレアチンとの相関関係を明らかにすることができなかった。これらのデータはNGAL発現と急性腎不全とを相関させ、腎臓が血清および尿のNGALの主な供給源であることを示している。実際、重篤な腎臓疾患の症例の中には、NGAL分解物の排出(NGALクリアランス値、クレアチニンクリアランス値で補正)が100%を超えることがあり、このことは尿NGALが単に血液からの濾過に由来するというよりむしろ、局所的な合成に由来することを証明している。比較すると、図11Bに示すとおり、マウス尿でもATN障害の誘導の後にNGAL濃度が大きく上昇した。
【0156】
急性腎不全におけるNGALの発現部位を視覚化するため、ヒトの腎臓組織切片をNGALに対するアフィニティ精製ポリクローナル抗体で染色した(図12)。図12Aに低倍率、12Bおよび12Cに高倍率で示すとおり、正常な腎臓では、遠位尿細管上皮(皮質領域の平均10%)および髄質の集合管で非常に弱い染色を示した。まれに糸球体嚢外壁上皮細胞に濃い染色があるが、他の糸球体細胞には見られない。しかし近位尿細管は完全に陰性である。これとは対照的に、腎毒性または虚血に曝した腎臓または以下の診断を受けた被験者の腎臓の切片では、50%近くの尿細管皮質でNGALが染色された。診断名は、敗血症による虚血性ATN(図12D)、血液量減少症(急性の血液量損失:図12E)、心疾患(図12F)、ビスホスフォネートによる腎毒性(図12G)、セフォスポリンによる腎毒性(図12H)、およびヘモグロビン尿症(図12I)である。図12Jおよび12Kを見ると、NGALはまた増殖性糸球体症の患者の近位尿細管において広く発現したが、虚血障害で見られるものよりは弱い(皮質実質がNGAL陽性であるのは最小変化のみの疾患で20%、糖尿病性腎障害で40%、ANCAで50%、および抗糸球体基底膜疾患で65%)。顕著な核小体を持ち単純化拡大化した修復核を含む、細胞損傷の特徴を示す尿細管細胞が最も濃く染まった。損傷があまりない尿細管細胞はほとんど染まらなかった。これらのデータは、さまざまな腎疾患の皮質尿細管における新規および広範なNGALの反応性と、NGAL発現がヒト腎臓の損傷上皮に対する共通の反応であることを示している。
【実施例9】
【0157】
外因性のNGALはATNのマウスの近位尿細管を回復させる。虚血腎臓におけるNGAL発現の機能的な重要性を調べるため、マウスにATN障害を誘導した。腎動脈を30分間クランプし、対側性の腎臓を取り出した。再灌流の24時間後、血漿クレアチニンは0.41±0.1mg/dL(n=4)から3.61±0.17mg/dL(n=8、p<0.001)に上昇し、NGALmRNAとタンパク質の発現が増加した。NGALmRNAのレベルは約1000倍増加し、リアルタイムPCRの検出閾値が、偽処理群で17.7±0.87回から虚血性腎臓で7.52±0.44回(p<0.0001、各n=4)に減少した(βアクチンmRNAレベルで補正)。NGALタンパク質は尿で1000倍(図11Eに示すとおり、偽処理および正常マウスが40ng/mLであるのに対し、ATNの場合40μg/mL)、血液で300倍(偽処理マウスが100ng/mLであるのに対し、ATNの場合30μg/mL)上昇し、腎臓抽出物中では100倍近く上昇した(偽処理腎臓の場合、湿重量1gあたり1μg未満であるのに対し、ATNの場合、平均73μg、n=3、p<0.05)。腎臓のNGALタンパク質量はクランプ継続時間とよく相関した。
【0158】
ATNの虚血モデルにおいてNGALが保護的に機能するかどうかを決定するため、動脈クランプの前または外してから1時間以内に、NGALを全身に投与した。クランプの15分前にNGALを100μg注射すると、再灌流の24時間後に測定した血漿クレアチニンの上昇が抑制された(1.18±0.18mg/dL、n=7、未処理群では3.16±0.17mg/dL)。同様の結果が、10〜300μgの範囲でNGALを投与した場合に得られたが、1μgのNGALでは保護できなかった(クレアチニン濃度3.09±0.11mg/dL、n=3)。また再灌流1時間後にNGALを投与した場合も窒素過剰血を抑制した(クレアチニン濃度1.60±0.28、n=3、p<0.001)が、NGALによる前処理よりは弱かった。これらのデータは血液尿素窒素の測定によって確認された(データ図示せず)。
【0159】
図13Aを見ると、ATN腎臓に比べ、対照群およびNGAL処理腎臓(ATN+NGAL)において、尿細管の壊死および管腔壊死細胞片よりむしろ、近位尿細管S1およびS2部位の上皮細胞が正常形態のまま保護されているという組織学的知見によっても、NGAL活性は証明された。図13Bを見ると、髄質外層の外帯にあるS3部位はNGAL注射ではほとんど保護されないが、尿細管円柱もあまり顕著ではなかった。こうした観察は、図13Cに見られる切片のジャブロンスキースコアによって支持された。これとは対照的に、虚血2時間後に処理した場合、保護効果はなかった(クレアチニン濃度3.12±0.35mg/dL、n=3)。
【実施例10】
【0160】
虚血性灌流障害との相関。カドヘリンの輸送と代謝は虚血の影響を直ちに受けるため、また、NGALはラットの胚性後腎間葉においてEカドヘリンの誘導体として機能するため、NGALは虚血腎臓においてカドヘリン発現を回復させる。この仮説を検証するため、免疫蛍光法によってマウスの近位尿細管においてEカドヘリンの検出が可能になった一方、図14Aを見ると近位尿細管の全部位でNカドヘリンが存在し、これが主要なカドヘリンらしいことをまず確認した。Nカドヘリンはカスペース類、βセクレターゼ、およびCREBシグナリングを調節する重要なシグナル分子の可能性がある細胞質で30〜40Kd断片を生成する基質メタロプロテイナーゼによって処理されることが知られている。Nカドヘリンは虚血再灌流後に30Kdの断片に分解されることが、図14Bの免疫ブロットで証明された。このことはこれらの経路の内1以上の経路が活性化されたことを示している。マウスによっては、Nカドヘリンの分解は再灌流後の6時間以内に検出され、24時間までに、Nカドヘリンの免疫蛍光および全長Nカドヘリンの両者がほとんどなくなった。これと対照的に、NGALで前処理すると、Nカドヘリンの免疫蛍光は保存され、全長Nカドヘリンの発現が促進し、再灌流の6時間後に(数個体で)測定した断片、または24時間後に測定した断片の出現が減少した。そのため、近位尿細管のマーカーであるNカドヘリンの保護はNGAL活性と相関し、NGAL活性の高感度なマーカーとなる。Eカドヘリンは遠位尿細管および集合管で高度に発現するのだが、虚血およびNGAL処理にほとんど影響されなかった。同様に、金属誘導による腎毒性ATNはNカドヘリンの分解を導くが、Eカドヘリンには影響しなかった。そこでNGALの一効果は、Nカドヘリン断片がシグナリングを阻害することにある。
【0161】
近位尿細管細胞の破壊は結果的にアポトーシス細胞死になるため、アポトーシス誘導のTUNEL検査を用いて細胞の生存率へのNGALが細胞の生存率に与える効果を決定した。再灌流の24時間後に、図14Cに見るTUNEL陽性尿細管細胞を少なくとも1個有する尿細管の割合を計測した。虚血性腎臓(I/R)は、11.5%±0.6(SEM、n=4個体)の皮質尿細管がTUNEL陽性細胞を含んでいることを示したが、NGAL処理後(I/R+Ngal)では陽性率は2.9%±0.9(SEM、n=7、p<0.001)に下がった。比較すると、図14Dの定量グラフに示すとおり、偽処理腎臓の陽性率は0.5%±0.3である。
【0162】
BrdU取り込みが細胞増殖の測定手段として決定された。このとき腎臓の組織切片において、少なくとも1個のBrdU陽性尿細管細胞がある皮質尿細管の割合を決定した(図示せず)。虚血性の皮質尿細管はほとんどBrdU陽性細胞を含んでいなかった(1.9%±0.3、n=3)が、NGALで前処理した虚血性腎臓の虚血24時間後では陽性細胞が少しではあるが有意に増加した(3.9%±0.5、n=4、p<0.05)。比較すと、偽処理腎臓のBrdU陽性細胞率は3.7%±0.7であった。そこでNGALによる回復は、皮質細胞のアポトーシスを減少させ、尿細管細胞の補償的な増殖を刺激するか、または損傷から細胞を回復させるかのどちらかであった。
【0163】
NGAL発現は虚血性損傷と相関するため、外因性NGALタンパク質で処理した後の内因性NGALの発現を測定した。虚血マウスを100mgのNGALで処理すると、リアルタイムPCRで測定したとおり再灌流の24時間後に内因性のNGALのRNAの増加は72%±16(p<0.01、n=5)まで減少した。100mgのNGALで処理すると、免疫ブロットで測定したとおり腎臓では内因性NGALタンパク質の産生が2.5倍(虚血73±7μg/g、NGAL処理虚血29±7μg/g、各n=3、p<0.01)まで減少し、尿細管細胞の増殖能が保護された。
【実施例11】
【0164】
NGALはATNにおいてヘムオキシゲナーゼ1を上方制御する。多くの研究で、ヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)が虚血腎臓の近位尿細管の重要な制御因子として同定されている。HO−1はATNの回復に必要であり、その発現レベルは組織損傷の回復と直接相関する。図14Eに示すとおり、虚血再灌流(ATNレーン)はHO−1の発現を促進するが、ATN損傷マウスに10〜100μgのNGALで処理した場合(ATN Ngalレーン)、再灌流後24時間以内にHO−1は5〜10倍さらに上方制御された。NGAL単独でHO−1を誘導するのかを決定するため、NGALの量を変えて健康なマウス(偽レーン)に投与し、HO−1タンパク質レベルを測定した。しかしNGAL注射後のHO−1の発現はNGAL処理ATN損傷腎臓に比べずっと少ないく、NGALは虚血再灌流の間に他の活性因子と協同してHO−1を上方制御し、鉄媒介の損傷から腎臓を保護することを示している。
【実施例12】
【0165】
ATNの回復機構。NGALは近位尿細管を標的にする。NGALが虚血障害から近位尿細管を保護するメカニズムを確証するため、NGALを腹膜内または皮下に注射した後の外因性NGALの分布を決定した。図15を見ると、100μgの外因性NGALを注射して10分以内にNGALは尿で検出された。このことはタンパク質が速やかに腎臓で処理されたことを示している。NGALを10μg投与した場合にも同じ時間経過が観察sらえた(図示せず)。しかし最初の1時間で尿中に検出されたのは、注射したNGALの内わずか0.1〜0.2%のみだった。輸送経路をより明確に追跡するため、蛍光結合のNGALを投与した。1時間が経過するまでに、図16Aに見るフルオレセインとAlexa標識NGALの両方が皮質近位尿細管の腔側に近い領域(ネフロンのS1およびS2部位)にある大きな小胞に局在したが、尿細管の他の部位には見られなかった。尚、近位尿細管によって取り込まれリソソームで分解される第二のリポカリンであるレチノイド負荷RBPは無効だったため、タンパク質の輸送経路それ自体が腎臓保護機構である可能性はほとんどない(図16A)。これらの細胞内小器官がリソソームであるかを確かめるため、Alexa―568NGAL投与の前日に、フルオレセイン−デキストラン(43kDa)で近位尿細管のリソソームを標識した。NGAL注射の1時間後、NGAL小胞の33%に図16Bに見るデキストランが含まれていた。さらに、これら小胞の多くはリソソームのマーカーであるLAMP1で共染色した(図示せず)。同様の結果が125I−NGALを注射した後でも観察され、図16Cを見ると、1時間が経過するまでに全長タンパク質が急速に血中から除去され、腎臓に集まることを示している。実際、腎臓は、1mgタンパク質あたり肝臓の13倍の125I−NGALを有していた。同様のデータを、ヒトNGALに関してすでに報告しており、ヒトNGALの場合、急速に循環血液中から回収され(t1/2=10分)、1mgタンパク質あたり肝臓の12倍の量が腎臓に集まっていた。腎臓に局在したタンパク質はTCAで沈降させると(70%)、全長NGALと特定の14kDa分解産物とからなっていた。これらの分子種は注射の5時間後まで残存し、その後ゆっくりと消失した。これとは対照的に、血漿および特に尿は、ほとんどが分子量の低いTCA可溶性の125I断片を含んでいた(TCA沈降は血漿35%、尿20%)。
【0166】
これらのデータによると、全長NGALは急速に近位尿細管で回収され、そこでリソソームに輸送され14kDaの断片に分解されることが分かった。循環血液から自由に濾過される事実にもかかわらず正常なマウスまたはヒトの尿では非常に低濃度のNGALしかないので(ヒトでは尿NGAL=22ng/mLであるが濾過負荷量=20ng/mL×GFR、マウスでは尿NGAL=40ng/mLであるが濾過負荷量=100ng/mL×GFR)、内因性タンパク質(低濃度の血清NGAL)は同様な経路で輸送されている可能性がある。
【実施例13】
【0167】
近位尿細管のATNからの回復にはFe:シデロホアが必要。NGALが鉄を近位尿細管に輸送できるかを確かめるため、鉄のないエンテロチェリン−NGAL(Sid:NGAL)と55Feとを1:1の化学量(55Fe:Sid:NGAL)でインキュベートして、放射性鉄55FeでNGALを飽和状態にした。この放射性標識55Fe:Sid:NGAL複合体を注射(腹腔内に10μg)した。その1時間後、55Feのほとんどが腎臓で回収(55%)されたが、血漿(4.3%)、尿(0.6%)、肝臓(2.4%)、および脾臓(0.2%)ではわずかしか検出されなかった。腎臓における55Feの場所を特定するため、組織切片のオートラジオグラフィーを行った。図16Eおよび表1(X=21.2、p=0.0017)に示すとおり、55Feは近位尿細管に局在し、具体的には刷子縁の下部の腔側表面に沿っていた。
【表1】

注:全銀粒子数=2601 全点数=999 粒子(%)/点数(%)
【0168】
対照的に、55Feは図16Dに示す髄質では見られなかった。これらのデータは、外因性55Fe:Sid:NGAL複合体を注射した場合、近位尿細管がNGALタンパク質とそのリガンドである鉄の両方を獲得できるようになることを証明している。尚、55Fe:Sid:NGALの分布はタンパク質非結合のクエン酸55Feの分布と全く異なり、後者では鉄のわずか1.5%のみが腎臓に回収された(図示せず)。
【実施例14】
【0169】
腎臓保護において鉄輸送が果たす役割を明らかにするため、2種類の大腸菌株(E.Coli)でクローニングしたNGALを比較した。XL−1Blue株でクローニングしたNGALはエンテロチェリンを含み、鉄が負荷されている。一方、BL21株でクローニングしたNGALはエンテロチェリンを含まない。図17Aを見ると、XL−1BlueクローンNGAL10μg(ホロNgal10μg:左)は、偽処理(偽)および未処理ATN損傷腎臓(ATN)に比べて腎臓を保護した。しかしエンテロチェリンがないBL21クローンNGAL10μg(アポNgal10μg:中)では保護が低かった。そのためBL21クローンNGALを、鉄無し(アポNgal:Sid)および鉄飽和エンテロチェリン(アポNgal:Sid:Fe)で再構成した。エンテロチェリンの負荷(鉄の有無にかかわらず)は腎臓の保護を促進し、血清クレアチンの上昇を弱めた。鉄飽和シデロホアは腎臓での鉄キレートの許容量を減少させるため、鉄があるとわずかに保護が低下した。鉄負荷と鉄無しNGAL:Sidのどちらも保護的であるため、鉄よりもむしろシデロホア自体が活性を示していた可能性がある。鉄の役割をさらに調べるため、ガリウム:Sid:NGAL:Sid:ガリウム(アポNgal:sid:Ga)複合体も検証した。ガリウムは、エンテロチェリンシデロホアを含む鉄結合部位を高い親和性で占有する(ガリウムは非標識鉄と同程度にエンテロチェリンへの55Feの結合を阻害する)。また鉄のように酸化還元反応を受けないため、ガリウムはシデロホアへ結合するため鉄と競合する。鉄複合体と比べて、虚血15分前にガリウム複合体で処理したマウスは保護されなかった(クレアチニン濃度3.17±0.1、n=4)。さらに、遊離シデロホアの単独投与、デスフェリオキサミンメシレート(DFO)、またはレチノール結合タンパク質(RBP)もまた対ATN保護に失敗した。これらのデータは、NGAL:シデロホア複合体がNGALの保護活性を提供し、シデロホアによる鉄の輸送がNGALに依存していることを証明している。鉄がある場合とない場合のNGAL:シデロホア複合体の免疫ブロットを図17Bに示す。
【実施例15】
【0170】
尿シデロホアの証明。外因性NGALに関連して重要なシデロホアは細菌の産物であるため、インビボでの内因性NGALの作用は外因性NGALの薬理学的効果とは異なるだろう。しかしさまざまな研究によって、鉄を輸送する内因性の低分子量因子の存在が示唆されてきた。これらの分子には、クエン酸、および関連化合物、また、分子量1Kd程度の鉄輸送活性が含まれてもよい。NGALの補因子の尿に存在するかを確認するため、BL21株由来のアポNGALを健康なマウスの尿サンプルと混合した。図18Aを示ると、尿の低分子量化合物(<3Kd)が、10Kd限外濾過膜上の55Feを取り込めず、またTrisまたはリン酸緩衝液に希釈したアポNGALが55Feを取り込めていなかった。ところがNGALと尿(<3Da)をインキュベートすると、55Feが取り込めるようになった。NGALによって取り込まれた鉄は、1000倍の非標識クエン酸鉄、およびより強力には50倍濃度の鉄飽和エンテロチェリンの存在によって阻害された。これを図18Bに示す。鉄の取り込みは飽和できる。また30μLのマウス尿を用いた場合、約20%のNGAL分子が鉄と結合する。これらの知見は、マウス尿がNGAL−鉄と相互作用する低分子量の補因子を含むことを示唆している。この内因性の因子は、NGALのカリックスと高い親和性(0.4nM)で結合する細菌のシデロホアと競合的なので、細菌と哺乳類因子の両方が同じリポカリンの結合ポケットを占有すると思われる。
【実施例16】
【0171】
腎臓移植を受けた患者におけるNGAL発現。腎臓移植を受けたヒトの回復期におけるNGAL発現を評価した。生体腎移植(LRD、n=10)または死体腎移植(CAD、n=12)を対象に腎臓移植後1時間以内に腎臓生検を得た。生検標本は切片化し、NGAL抗体で免疫組織学的に染色した。図19に示すとおり、NGAL発現はCAD群で有意に増加した。死体腎は、生体提供者からの腎臓よりも長時間体外で保持されているので、虚血の程度が概して大きく、NGAL発現と正の相関を示した。
【0172】
LRD(n=4)またはCAD(n=4)腎臓移植を対象に、移植前および移植2時間後に得た尿サンプルのウェスタンブロットを図20に示す。尿中のNGAL発現は手術前にはない。NGAL発現は、CAD群の方がLRD群よりも有意に増加した。図21を見ると、ウェスタンブロットで定量した尿NGALをLRDとCADとで比較した場合、CADの方が有意な発現増加を示した。ELISAによる定量でも同様の結果を示した(図示せず)。この知見はまたCAD腎臓移植に関連する虚血時間の長さに相関した。CAD移植の2時間後に得た尿と低温虚血時間との相関を図22に示す。
【0173】
血清クレアチニン濃度は、移植手術後2〜4日で最大になる。これもまた尿NGALと相関した。CAD移植の2時間後に得た尿と最大血清クレアチニンとの相関を図23に示す。
【実施例17】
【0174】
急性腎不全の診断ツールとしてのNGAL測定の利用。心肺バイパス開心術中に起きる不幸の1つに急性腎不全(ARF)の発症がある。血清NGAL測定はARFを発症する危険性がある患者を高率に予測できる。図24は、NGALのELISAによる標準曲線で、10の独立した標準曲線から得られた直線関係を示す。CPB後にARFを発症した患者(n=10)を対象に経時的にサンプルを採取し血清NGALを測定した。これを図25に示す。NGALの上昇は術後に回収したサンプルで著しく、上昇は少なくとも4日間継続した。これとは対照的に、ARFを発症しなかった患者では、術後4日間血清NGALの上昇はなかった。図26は、時間経過で見たARFを発症した患者(n=10)対術後何も起こらなかった患者(n=30)の血清NGALの平均値±SDを示す。図27に示すとおり、CPB後にARFを発症した患者(n=11)の経時的尿NGAL測定でも上昇が見られたが、血清NGALと比べるとばらつきが大きかった。しかし図28で示すとおり、ARFを発症した患者(n=11)と術後何も起こらなかった患者(n=30)を対象に経時的に尿NGALの平均値±SDの比較分析を行った結果、尿NGAL濃度によってARFの予測が可能になることが分かった。図29を見ると、手術2時間後の尿NGAL濃度は手術中のCPB時間の長さに相関した。
【0175】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明し、また、実施の形態および実施例を詳細に記述したが、付記する請求の範囲をかかる詳細事項に制限または限定することを意図しない。当業者であれば、本明細書に記載した以外のさらなる利点および変更が容易に理解されるだろう。そのため、より広い局面において本発明は、示され記述された前記特定の詳細事項、代表的な方法および構造、および例証した実施例に限定されない。よって、本発明の範囲または精神から離脱せずに、かかる詳細事項から離脱できるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】(図示のとおり)決められた量の組換え精製NGALのクーマシーブルー(CB)と高感度化学発光(ポリクローナルNGAL抗体によるECL)分析を示す。
【図2】ポリクローナルNGAL抗体を用いた、注入1時間後の非虚血対照動物からの腎臓、または1時間もしくは3時間後の虚血性腎臓の免疫蛍光染色を示す。
【図3】NGAL投与1時間以内の非虚血(NI)および虚血(I)動物からの尿サンプル中NGALを検出するためのウェスタンブロットを示す。
【図4】非虚血対照マウス、生理食塩水前処理虚血マウス、または虚血の1時間前、最中、または1時間後にNGALで処理した虚血マウスからの腎臓をヘマトキシリンエオシンで染色した切片を示す。
【図5】生理食塩水で前処理した、または虚血の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスからの腎臓の組織切片のスコアを示す。本切片は、任意の0から4のスケールを用いて尿細管拡張(図5A)、尿細管円柱(図5B)、および尿細管細胞壊死(図5C)について分析しスコアを付けた。
【図6】非虚血対照マウス、または生理食塩水で前処理した虚血マウスにおいて測定された血清クレアチニン(Pre Sal)、または虚血障害の1時間前(Pre NGAL)、最中(Dur NGAL)、1時間後(PostNGAL)にNGAL処理した虚血マウスの虚血24時間後において測定された血清クレアチニンを示す。
【図7】非虚血対照マウスの代表的な切片、または生理食塩水で前処理した虚血マウス、もしくは虚血障害の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスの虚血24時間後の代表的な切片をTUNEL染色した結果を示す。矢印は、増殖細胞核抗原(PCNA)染色と比べた、低倍率および高倍率でのアポトーシスの特徴である密で断片化した濃い核の染色を指している。
【図8】非虚血対照マウスの腎臓、または生理食塩水で前処理した虚血マウス、もしくは虚血障害の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスの虚血24時間後の腎臓におけるアポトーシスの定量(上)および増殖(中)を示す。
【0177】
【図9】非虚血対照マウスの、または生理食塩水で前処理した虚血マウス、もしくは虚血障害の1時間前、最中、1時間後にNGALで処理した虚血マウスの虚血24時間後の腎臓において算出された増殖:アポトーシスの比を示す。
【図10】尿のみ、尿およびNGAL混合(尿+Ngal)、尿およびNGAL:シデロホア混合(尿+Ngal:Sid)、血漿のみ、緩衝液のみ、緩衝液およびNGAL混合(緩衝液+Ngal)、緩衝液およびNGAL:シデロホア混合(緩衝液+Ngal:Sid(1))、第二緩衝液およびNGAL:シデロホア混合(緩衝液+Ngal:Sid(2))、シデロホアが鉄で飽和された第三緩衝液およびNGAL:シデロホア混合(緩衝液+Ngal:Sid:Fe)において検出される55Feの結合を示す。
【図11A】健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者、または腎臓疾患がないと診断された肝硬変、血色素沈着症、または膵癌を患う被験者(その他)からのヒト尿サンプルにおけるNGALタンパク質の免疫ブロットを示す。モノクローナル抗ヒトNGAL(Mo)およびポリクローナル抗マウスNGAL(Po)抗体は、組換えおよびヒト固有のNGALおよびNGAL標準物質を認識する。
【図11B】NGAL標準物質と比較した、健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者、または腎臓疾患がないと診断された肝硬変、血色素沈着症、または膵癌を患う被験者(その他)からのヒト血清サンプルにおけるNGALタンパク質の免疫ブロットを示す。
【図11C】健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者からの尿中のNGALタンパク質濃度の量的比較を示す。ATNはさらに非敗血症と敗血症の群に分類した。
【図11D】健康な被験者(正常)、または急性腎臓壊死(ATN)もしくは慢性腎不全(CFR)を患う被験者からの血清中のNGALタンパク質濃度の量的比較を示す。ATNはさらに非敗血症と敗血症の群に分類した。
【図11E】50、5、および1ngの標準NGALタンパク質と、ATN障害マウスおよび偽処理対照マウスの尿NGALの免疫ブロットを示す。
【0178】
【図12A】健康なヒト腎臓(正常)におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【図12B】健康なヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【図12C】健康なヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【図12D】敗血症による虚血性ATN(虚血性ATN)のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【図12E】嘔吐および下痢が原因の血液量減少による虚血性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【図12F】心疾患による虚血性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【図12G】ビスホスフォネートが原因の腎毒性による毒性ATN(毒性ATN)のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【図12H】セファロスポリンの毒性が原因の腎毒性による毒性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【図12I】ヘモグロビン尿症が原因の腎毒性による毒性ATNのヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色の増加を示す。
【図12J】NGALが半月体に弱く発現する、糸球体疾患のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【図12K】NGALがネフローゼの近位尿細管で弱く発現する、糸球体疾患のヒト腎臓におけるNGALの免疫組織学染色を示す。
【0179】
【図13A】偽処理(正常)、虚血(ATN)、およびNGAL処理ATN障害(ATN+Ngal)の腎臓の組織切片を示す。尿細管の核の損失がATNでは見られるが、皮質(中)および髄質(下)の尿細管内円柱と共に、対照またはATN+Ngal切片(上)、では見られない。NGAL前処理は結果的に皮質尿細管を保護するが、残りの皮質髄質円柱には影響しなかった。
【図13B】管腔円柱およびNGALでの前処理による皮質尿細管の回復をPAS染色で強調した、虚血(ATN)、およびNGAL処理ATN障害(ATN+Ngal)腎臓の組織切片を示す。
【図13C】NGALによる虚血性皮質の回復を示す、偽処理(偽)、虚血(ATN)、およびNGAL処理ATN障害(ATN+Ngal)腎臓のジャブロンスキースコアを示す。
【図14A】腎臓切片のNカドヘリン染色を示す。虚血再灌流(ATN)ではほとんど見られないが、NGALが投与された場合(ATN+Ngal)は回復し検出される。
【図14B】虚血再灌流動物および偽処理動物におけるNカドヘリン断片(矢印)、およびNGAL処理動物での断片抑制によって示される、虚血(ATN)と比較した、NGAL処理(ATN+Ngal)による全長Nカドヘリンタンパク質濃度の回復を示す。GAPDHは負荷対照である。
【図14C】NGAL前処理によって軽減された虚血再灌流マウス(I/R)におけるTUNEL陽性アポトーシス細胞(蛍光)の尿細管を示す。トップロールは核対比染色である。
【図14D】偽処理対照群(偽)、虚血再灌流(I/R)、およびNGAL処理虚血再灌流(+Ngal)マウスにおけるアポトーシス様核を含む尿細管の比率の定量分析を示す。
【図14E】偽処理(偽)、虚血再灌流(ATN)、またはNGAL処理の虚血再灌流(ATN+Ngal)の腎臓におけるヘムオキシゲナーゼ1(HO−1)発現の免疫ブロットを示す。組換えHO−1(HO−1)およびラット皮質は比較用である。GAPDHは負荷対照である。
【0180】
【図15】NGAL100μgをマウスに腹腔内注射した後の血液および尿中NGALタンパク質のクリアランスの免疫ブロットを示す。
【図16A】近位尿細管(下)で見られるが、糸球体または髄質(上)では見られない、大きな小胞に局在する蛍光標識(Alexa568)NGALを示す。非結合蛍光色素は腎臓を標識しなかった。
【図16B】近位尿細管のS1およびS2部位でのFITCデキストランと共に局在するAlexa568−NGALを示す。
【図16C】注入後1時間および5時間の腎臓に見られるNGALの全長および14kDa断片を示す125I−NGALのSDS−PAGEによる分離。
【図16D】55Fe負荷シデロホア−NGALの腹腔内注射1時間後の腎臓のオートラジオグラフを示す。放射活性減衰は皮質で検出され、近位尿細管細胞の腔内付近に関連している。
【図16E】髄質で放射活性が検出されなかった、55Fe負荷シデロホア−NGALの腹腔内注射1時間後の腎臓のオートラジオグラフを示す。
【図17A】は、30分間虚血させたマウスでの血漿クレアチニンを示す。最初のグラフは、虚血15分前または虚血後1時間以内に用いた場合にXL−1細菌(シデロホアを含有)由来のホロNGAL(≧1μg)が腎機能を回復させることを示す。しかし投与が遅れた場合、NGALは無効である。第二グラフは、BL21細菌(シデロホア不含)由来のアポNGALが最小限の活性しか持たないが、エンテロチェリンを添加すると保護的に働く。鉄不含(アポNGAL:Sid)および鉄含有シデロホア(アポNGAL:Sid:Fe)は共に保護効果を持つ。対照的に、ガリウム含有複合体(アポNGAL:Sid:Ga)は、DFOの単独投与またはシデロホア不含(Sid)と同様に無効であった。近位尿細管によって濾過され再吸収されるリポカリンであるレチノール結合タンパク質(RBP)は無効であった。
【図17B】NGALの免疫沈降製剤を示す。NGAL:Sidはエンテロチェリンを含むが鉄は含まない。NGAL:Sid:Feはシデロホアと鉄を含む。
【0181】
【図18A】尿中に鉄結合補因子が存在することを示す。緩衝液は55Fe(タンパク質不含)、アポNGAL、アポNGAL+シデロホア、またはアポNGAL+シデロホア+非標識鉄と混合する。一連の洗浄の後、55FeはアポNGAL+シデロホアによって保持されるが、アポNGALまたは鉄飽和シデロホアと結合したアポNGALによっては保持されない。このことは不飽和シデロホアがNGALによる55Feの保持に必要なことが示している。
【図18B】示すように、尿(<3,000Da)が55FeまたはアポNGALと混合され、その後10KDa膜上で3回洗浄すると、アポNAGL+尿が55Feを保持することを示す。55Fe保持は過剰なクエン酸鉄(Fe)の添加により遮断される。活性は鉄飽和エンテロチェリン(Sid:Fe)によっても遮断される。
【図19】生体(図0と1)または死体(図2と3)腎臓移植後1時間以内に得た腎臓生検を示す。切片はNGAL抗体で染色した。NGAL発現は長期の虚血期間を経た死体群で有意に増加した。
【図20】生体(LRD、n=4)または死体(CAD,n=4)腎臓移植の移植後2時間以内に得た尿サンプルのNGAL抗体プローブに用いたウェスタンブロットを示す。尿中のNGAL発現は手術前にはなかった。NGAL発現はLRD群よりもCAD群の方が有意に増加した。
【図21】LRDとCADを比較した尿NGALのウェスタンブロットによる定量分析を示し、CADが有意な発現増加を示している。
【図22】低温虚血の時間に関する、CAD移植の2時間後に得られた尿NGALの相関を示す。尿NGALの発現度合いは虚血時間と相関する。
【図23】手術後2〜4日に測定した最大血清クレアチニンに関する、CAD移植の2時間後に得られた尿NGALの相関を示す。尿NGALの発現度合いは最大血清クレアチニンと相関する。
【0182】
【図24】独立した10本の標準曲線から得られた直線関係に関するNGALのELISAの標準曲線を示す。
【図25】心肺バイパス(CPB)後ARFを術中に発症した患者の経時的血清NGAL測定値を示す(n=10)。
【図26】ARF(四角、n=10)を発症したCPB患者と、手術後何もない患者(菱形、n=30)を比べた経時的血清NGAL濃度の平均値±SDを示す。
【図27】CPB後にARFを発症したCPB患者の経時的尿NGAL測定値を示す(n=11)。
【図28】ARF(菱形、n=11)を発症したCPB患者と、術後何もない患者(四角、n=30)を比べた経時的尿NGAL濃度の平均値±SDを示す。
【図29】CPB2時間後の尿NGAL濃度とCPB時間との相関を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者臓器への虚血障害、虚血再灌流障害、および毒素誘導性障害より選択された障害を処置、軽減、改善、または予防するための薬剤の製造における好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)の使用。
【請求項2】
臓器が、腎臓、肝臓、心臓、脳、肺、胃、腸、結腸、膵臓、血管、膀胱、頚部、皮膚、およびそれらの一部からなる群より選択され、好ましくは、前記臓器が患者に移植され、患者への臓器移植の前にNGALが死体または生体の臓器提供者へ投与されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
障害が、患者を虚血性腎臓障害に導く状態、処置、療法、または疾患に関連する腎臓障害を含み、好ましくは、前記腎臓障害が、造影剤処置、抗体処置、抗生物質処置、臓器移植、腎臓移植、死体腎臓移植、心臓処置、手術後の心臓処置、および中枢神経系処置からなる群より選択された状態、処置、もしくは療法の結果である、または感染、細菌感染、腎疾患、虚血再灌流障害、心再灌流障害、心肺バイバス、開心術、および腹部手術からなる群より選択した疾患の結果であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
薬剤がさらにシデロホアを含み、好ましくはシデロホアを前記NGALとの複合化合物として含むことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
患者または臓器もしくは移植片の提供者における臓器または移植片の移植後機能障害(DGF)または拒絶反応を軽減または改善するための薬剤の製造における好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)の使用。
【請求項6】
臓器または移植片が、腎臓、肝臓、心臓、脳、肺、胃、腸、結腸、膵臓、血管、膀胱、頚部、皮膚、およびそれらの一部からなる群から選択され、好ましくは、前記臓器または移植片が死体または生体提供者の腎臓であることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
薬剤がさらにシデロホアを含み、好ましくはシデロホアをNGALとの複合化合物として含むことを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
哺乳類の臓器への障害の処置、軽減、改善、または予防に使用するための組成物であって、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、またはその誘導体もしくはアナログを含む組成物。
【請求項9】
組成物100μLあたり少なくとも10μgのNGALを含むことを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
シデロホアをさらに含み、好ましくはシデロホアを前記NGALとの複合化合物として含むことを特徴とする請求項8に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図12A−12I】
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【図12J−12K】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図16E】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2007−536260(P2007−536260A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511623(P2007−511623)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/015799
【国際公開番号】WO2005/107793
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(505361602)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (4)
【氏名又は名称原語表記】The Trustees of Columbia University in the City of New York
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【Fターム(参考)】