説明

虚血疾患の治療方法

本発明はアンギオポエチン−1(Ang1)またはAng1をコードするベクターを投与する工程を含む、虚血疾患の治療方法を提供する。また本発明は、Ang1を含む虚血疾患治療キットを提供する。Ang1を発現するベクターを作製し、ラット心筋梗塞急性期にベクターを心筋内に単独投与してAng1を心筋局所で発現させた。その結果、梗塞後死亡率の低下、心筋での血管数の増加、心筋梗塞巣の縮小、および心機能の改善などの顕著な効果が得られることが判明した。Ang1の血管形成作用に必要なVEGFを投与する必要はなかった。さらに、動脈結紮により誘導した重症虚血肢モデル動物にAng1発現ウイルスベクターを単独投与したところ、顕著な救肢効果が得られることが判明した。Ang1遺伝子治療は、虚血性心疾患および四肢虚血などの虚血疾患に対する安全かつ効果的な治療法として優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はアンギオポエチン−1(Angiopoietin−1;Ang1)またはAng1をコードするベクターを用いる虚血疾患の治療方法に関する。また本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを含む虚血疾患治療キットに関する。
【背景技術】
急性の損傷または動脈閉塞による虚血は、ときに四肢脱落、機能障害、または死をもたらす重篤な疾患となる。特に急性心筋梗塞・重症狭心症などの虚血性心疾患は社会環境変化、老齢化社会の到来により急速に増加し、成人病のなかでも多くの比重を占めている。急性心筋梗塞に対する治療はPTCA(経皮冠動脈形成術)・CABG(冠動脈バイパス術)など外科的な血行再建術が主体である。これらの既存の治療法に加え血管再生を促進する遺伝子工学的手法を合わせることにより心機能の積極的な改善、病床期間の短期化が可能となり得る。
これまで米国を中心に、その強い血管内皮増殖刺激作用から、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)遺伝子・蛋白質を用いた冠動脈虚血(Losordo,D.W.,et al.(1998)Circulation.98:2800−2804;Rosengart,T.K.,et al.(1999)Circulation.100:468−474;Lathi,K.G.,et al.(2001)Anesth Analg.92:19−25;Symes,J.F.,et al.(1999)Ann Thorac Surg.68:830−836;discussion 836−837)および重症虚血肢(Baumgartner,I.,et al.(1998)Circulation.97:1114−1123;Isner,J.M.,et al.(1998)J Vasc Surg.28:964−973;discussion 973−965;Baumgartner,I.,et al.(2000)Ann Intern Med.132:880−884)に対する血管新生療法臨床試験が進行中である。また現在のところ、VEGF遺伝子治療の虚血性心疾患に対する適応は重症狭心症に限られ、急性心筋梗塞はその対象とはなっていない。心筋梗塞などの急性虚血では梗塞後、短時間で心筋局所・末梢血白血球・単核球、マクロファージでのVEGF産生が亢進し、循環VEGFが極めて高い状態であることが明らかとなっている(Xu,X.,et al.(2001)J Thorac Cardiovasc Surg.121:735−742;Li,J.,et al.(1996)Am J Physiol.270:H1803−1811;Ladoux,A.and C.Frelin.(1993)Biochem Biophys Res Commun.195:1005−1010;Seko Y,et al.Clin Sci 92,453−454,1997;Banai S,et al.Cardiovasc Res.28,1176−1179,1994;Berse B,et al.Mol Biol Cell,3,211−220,1992;Taichman NS,J leukoc Biol,62,397−400,1997)。このVEGF産生亢進の生理的意義については不明な点も多いが、虚血部における血管保護・修復に働き虚血からの敏速な回復に寄与していると推測されている(Banai S,et al.Cardiovasc Res.28,1176−1179,1994)。その一方で過剰なVEGF投与は脆弱血管および未成熟血管を増加させ(Thurston,G.,et al.(1999)Science.286:2511−2514)、投与部位で血管腫形成を誘発する(Schwarz,E.R.,et al.(2000)J Am Coll Cardiol.35:1323−1330)。さらに心筋梗塞での高VEGF状態が肺水腫などを増悪させ、急性心筋梗塞での死亡率を増加させる可能性があることが最近Matsunoらに(Matsuno H et al.Blood 100,2487,2002)より報告されている。
【発明の開示】
本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを用いる虚血疾患の治療方法を提供する。また本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを含む虚血疾患治療キットを提供する。
強力な血管誘導作用を有することが知られるVEGF165を心筋梗塞急性期にアデノウイルスベクターにより心筋局所で発現させたところ、生存ラットの梗塞心で血管誘導作用は確認されたものの、梗塞後4〜5日後の急性期死亡率増加が確認された。この死亡ラットを剖検したところ著明な4〜5mlの胸水貯留が認められた(データ省略)。VEGFが毛細血管透過性を亢進させることから、VEGF165投与による心筋梗塞後の肺血管透過性を検討したところ著明に増加していた(データ省略)。Matsunoらはα1−antiplasminノックアウトマウスで心筋梗塞後高VEGF状態が誘導され肺水腫による死亡が増加することを報告している。本発明者らが行なった上記の実験においても、心筋梗塞後の高VEGF状態に加え、over−expressionしたVEGF165が肺血管の透過性を亢進し肺水腫を誘発し死亡率を増大させたことが推定される。本発明者らは、より安全で有効な心筋梗塞遺伝子治療法を開発するため、アンギオポエチン−1(Angiopoietin−1;Ang1)に着目した。
Tie−2受容体リガンドであるAng1はVEGFと協調的に作用し血管新生・血管成熟・血管安定化に関わる重要な血管新生因子である(Davis,S.,et al.(1996)Cell.87:1161−1169;Sato,T.N.,et al.(1995)Nature.376:70−74)。Ang1とVEGFとを同時に投与することによって、虚血動物モデルにおいて血管再生が促進されることが報告されている(Jones,M.K.,et al.(2001)Gastroenterology.121:1040−1047;Chae,J.K.,et al.(2000)Arterioscler Thromb Vasc Biol.20:2573−2578)。また本発明者らは閉塞性動脈硬化症モデルにおいてAng1遺伝子およびVEGF遺伝子を併用した遺伝子治療がVEGFの血管透過性亢進による浮腫などの副作用を軽減しつつVEGFの血管新生作用を増強することを報告してきた(Ito.,Y.,et al.,Molecular Therapy,5(5),S162,2002;WO02/100441)。今回本発明者らは、虚血心にAng1を単独で投与して、その治療効果を検証した。Ang1は単独では血管内皮増殖刺激活性はないと言われており、実際に、Ang1トランスジェニックマウスでは血管内径の増大が認めらるが血管密度は増加しない(Thurston,G.,J.Anat.200:575−580(2002))。しかし心筋梗塞などの急性虚血では内因性のVEGFが極めて高い状態であることから、本発明者らは、Ang1の単独投与でも血管新生効果が得られると考えた。すなわち、Ang1を心筋梗塞急性期に使用することにより、生体内で産生が亢進するVEGFと協調的に血管新生を促進し、VEGF産生亢進に伴うtoxicityを軽減しつつ血管再生を促すストラテジーが可能となると考えた。Ang1は心筋梗塞の増悪にかかわるVEGF、IL−1、およびTNFなど炎症性サイトカインにより誘導される血管透過性亢進・血液凝固亢進状態などを拮抗的に抑制する(Thurston,G.(2002)J Anat.200:575−580;Thurston,G.,et al.(2000)Nat Med.6:460−463;Thurston,G.,et al.(1999)Science.286:2511−2514)。本発明者らは、Ang1投与により、心筋梗塞急性期に産生の亢進する炎症性サイトカインによる血管透過性亢進・血液凝固亢進をも予防できると予想した。
そこで本発明者らは、Ang1遺伝子を発現するアデノウイルスベクターを作製し、ラット心筋梗塞モデルを用いてAng1発現ベクターを心筋内投与し、その血管新生効果、梗塞巣縮小効果、心機能の改善、および死亡率の低下を検討した。
動脈結紮により誘導した心筋梗塞により、梗塞部およびその周辺領域の血管密度は著明に減少した。さらに遺伝子投与部位より離れた中隔心筋でも心筋梗塞後に血管密度の減少が認められた。この理由は不明であるが心筋梗塞後の心不全状態を反映していると推測される。このモデルラット心臓の梗塞予定領域の周辺部にアデノウイルスベクターを心筋内投与した。手術の5日後に導入遺伝子の発現を調べたところ、梗塞心においても正常心に投与した場合とほぼ同レベル(約80%)の発現を示し、梗塞周辺領域にベクターを注入することで導入遺伝子の十分な発現量が得られることが実証された。興味深いことにAng1遺伝子投与群において梗塞部とその周辺領域の血管密度が増加していたのみならず中隔領域での血管密度も明らかに増加していた。このことはAng1が投与局所での血管新生を促しているのみではなく流血中に分泌され遠隔心筋での血管新生を誘導することを示唆している。またAng1遺伝子投与群では直径10μm以上の血管の増加が明らかであり、さらにより機能的な血管であることを示す周囲細胞を伴った血管も明らかに増加していた。これはAng1により誘導された血管がより機能的であることを支持している。
さらに本発明者らは、マイナス鎖RNAウイルスベクターが、虚血疾患に対するAng1遺伝子治療のために非常に優れた治療効果を奏することを見出した。心筋細胞を用いた遺伝子導入試験では、マイナス鎖RNAウイルスベクターは心筋細胞に対してアデノウイルスベクターよりも有意に優れた遺伝子導入能を示すことが証明された。そしてAng1遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターは、心筋梗塞および虚血肢に対して優れた治療効果を示した。これまで心血管系、特に心疾患治療ベクターとしては、心筋細胞を含む非分裂細胞に対する遺伝子導入効率の高さ、高遺伝子発現からアデノウイルスベクターが最も汎用されている。しかし高い免疫原性による炎症の誘発、極めて高い肝親和性による副作用発現の可能性が指摘され、アデノウイルスベクターに代わる安全で効率的な遺伝子導入手法が求められている。これまでアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、レンチウイルスウイルスベクターなどが試みられ心臓での長期間の遺伝子発現が示されている。これらのレトロウイルスベクターやDNAウイルスベクターは核内にて宿主細胞染色体と相互作用し、宿主染色体への組み込みが懸念される。これに対してマイナス鎖RNAウイルスベクターは、宿主細胞の染色体に組み込まれることなく、細胞質において搭載遺伝子を高発現する能力を有することから、染色体損傷のリスクがない。マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いたAng1遺伝子治療により、より効果的で安全性に優れた虚血疾患の遺伝子治療が可能になるものと考えられる。
Ang1が梗塞心において血管密度を増大させることが明らかとなったが、この血管密度の増大がはたして梗塞巣の減少、心機能の改善に寄与しているか否かが臨床応用において最も重要である。心筋梗塞後4週目に梗塞巣を計測したところ、Ang1遺伝子投与群において梗塞巣の縮小と梗塞壁厚の増大が認められた。心機能的には特に左室短径短縮率(FS,fractional shortening)、収縮期左室面積(LVAs,left ventricular area at systole)、および左室駆出率(EF,ejection fraction)の改善を認めた。これまで肝細胞増殖因子(HGF)、低酸素誘導因子−1α(HIF−1α)、およびVEGFがラット左前下行枝結紮による心筋梗塞モデルにおいて血管新生を誘導し、梗塞巣を縮小することが報告されている。しかしながら、血管新生因子単独で重篤な心筋梗塞での心機能を改善した報告はほとんどなく、心機能の改善は胎児心筋、ES細胞、筋芽細胞など心筋の絶対量を補う細胞療法を併用した場合にのみに効果が認められている(Yau,T.M.,Circulation 104:I218−I222(2001);Suzuki,K.,Circulation 104:I207−212(2001);Orlic,D.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:10344−10349(2001))。本発明においてAng1の単独投与が、梗塞心の心機能を改善できることが初めて示された。心筋梗塞急性期におけるAng1投与により、梗塞後死亡率の低下、心筋での血管数の増加、心筋梗塞巣の縮小、および心機能の改善などの顕著な効果がもたらされる。Ang1遺伝子治療は、急性心筋梗塞に対するあらたな治療法として有効である。
また本発明者らは、Ang1を高発現するアデノウイルススベクターおよびマイナス鎖RNAウイルスベクターを用いて、重症虚血肢モデル動物に対してAng1遺伝子の単独投与による遺伝子治療を実施した。心筋においてnaked DNAが極めて効率的な発現を示すのとは対照的に、骨格筋においてはnaked DNAベクターによる導入遺伝子の発現レベルは低く(実施例8)、Ang1プラスミドの直接投与では虚血肢において十分は救肢効果は期待できなかった(WO02/100441)。しかし骨格筋においてnaked DNAよりも発現効率の高いウイルスベクターを用いることによって、Ang1遺伝子の単独投与が、顕著な救肢効果を発揮することが明らかとなった(実施例7、13、および14)。特筆すべきことに、Ang1遺伝子投与による救肢効果は、artetiogenesisによる血液の組織還流が開始するよりも前においても観察された。従ってAng1遺伝子治療は、血管形成の誘導による治療効果だけでなく、抗アポトーシス作用などによる効果により、血管形成が誘導されるよりも早い段階から虚血組織を保護するという予想外の効果を発揮したと考えられる。このように、Ang1をコードするウイルスベクターを用いたAng1遺伝子の単独投与は、虚血心疾患のみならず、四肢虚血、血流不全を伴う損傷、および切断などの外傷および骨折などを含む虚血疾患一般においても、プラスミドベクターでは困難であった治療効果を得ることが期待できる。VEGFを併用するこれまでの治療では、過剰なVEGFが血管の透過性亢進をもたらし肺水腫などを増悪させる懸念があるが、Ang1をコードするウイルスベクターの単独投与により、このような副作用を回避しつつ効果的な虚血治療を実施することが可能である。
すなわち本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを用いる虚血疾患の治療方法、およびAng1またはAng1をコードするベクターを含む虚血疾患治療キットに関し、より具体的には、請求項の各項に記載の発明に関する。なお本発明は、請求項の各項に記載の発明の1つまたは複数(または全部)の所望の組み合わせからなる発明、特に、同一の独立項(他の項に記載の発明に包含されない発明に関する項)を引用する項(従属項)に記載の発明の1つまたは複数(または全部)の所望の組み合わせからなる発明にも関する。各独立項に記載の発明には、その従属項の任意の組み合わせからなる発明も意図されている。すなわち本発明は、
〔1〕虚血性心疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターを投与する工程を含む方法、
〔2〕〔1〕に記載の虚血性心疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターを投与する工程を含み、血管内皮増殖因子を投与しない方法、
〔3〕アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターが、アンギオポエチン−1をコードするウイルスベクターである、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、〔3〕に記載の方法、
〔5〕ウイルスベクターがマイナス鎖RNAウイルスベクターである、〔3〕に記載の方法、
〔6〕アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターがnaked DNA(裸のDNA)である、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔7〕アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターが、CAプロモーターあるいはCAプロモーターと同等またはそれ以上の転写活性を有するプロモーターによりアンギオポエチン−1の発現を駆動するベクターである、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の方法、
〔8〕アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターの投与が心筋への注入である、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔9〕虚血疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1をコードするウイルスベクターを投与する工程を含む方法、
〔10〕〔9〕に記載の虚血疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1をコードするウイルスベクターを投与する工程を含み、血管内皮増殖因子を投与しない方法、
〔11〕ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、〔9〕または〔10〕に記載の方法、
〔12〕ウイルスベクターがマイナス鎖RNAウイルスベクターである、〔9〕または〔10〕に記載の方法、
〔13〕ベクターの投与が虚血部位への注入である、〔9〕から〔12〕のいずれかに記載の方法、
〔14〕アンギオポエチン−1をコードする外来遺伝子を有する、遺伝子改変された間葉系細胞、
〔15〕アンギオポエチン−1をコードするアデノウイルスベクターが導入されている、〔14〕に記載の間葉系細胞、
〔16〕アンギオポエチン−1をコードするマイナス鎖RNAウイルスベクターが導入されている、〔14〕に記載の間葉系細胞、
〔17〕〔14〕から〔16〕のいずれかに記載の間葉系細胞および薬学的に許容される担体を含む虚血治療組成物、
〔18〕遺伝子改変された間葉系細胞の製造方法であって、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを間葉系細胞に接触させる工程を含む方法、
〔19〕遺伝子がアンギオポエチン−1をコードする、〔18〕に記載の方法、を提供する。
本発明は、虚血性心疾患の治療方法であって、Ang1またはAng1をコードするベクターを投与する工程を含む方法に関する。Ang1は単独では血管内皮増殖刺激活性はなく、Ang1遺伝子単独投与により虚血性心疾患に対する治療効果が得られるか否かについては不明であった。しかし本発明において、心筋梗塞におけるAng1の単独投与が顕著な治療効果をもたらすことが実証された。急性心筋梗塞患者においては、梗塞後2〜3日後に血清中VEGFが増加すること、心筋梗塞モデルでも心局所でのVEGF発現が心筋梗塞1〜3日後より増加し、1週間以上持続することが知られている。また、本発明者らが作製したラット心筋梗塞モデルでも局所および血清VEGFの増加が確認できた(データ省略)。従って、Ang1単独投与による治療効果は、内因性のVEGFとの併用効果である可能性がある。過剰なVEGFは肺血管の透過性を亢進し肺水腫を誘発し死亡率を増大させるが、VEGFを投与せずAng1のみを単独で投与することにより、内因性のVEGFと遺伝子導入により発現するAng1が協調的に作用し、強力な血管新生作用を発揮し、同時にVEGF投与により起こり得る副作用を回避することができる。特に本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを投与する工程を含み、血管内皮増殖因子(VEGF)またはその遺伝子を投与しない、虚血性心疾患の治療方法を提供する。Ang1単独投与で梗塞部およびその周辺部に明らかな血管密度の増大が認められ、この血管密度の増大効果は同量のVEGF165遺伝子単独をアデノウイルスベクターにより導入した場合とほぼ同程度であった。本発明に従って、VEGFを投与することなくAng−1またはその遺伝子を投与することによって、虚血組織をより安全で効果的の保護することが可能となる。本発明の虚血性疾患および虚血性心疾患の治療方法は、虚血組織の保護のための方法として、また、拒絶組織の再生方法として、さらには拒絶組織における血管の再生方法としても有用である。
本発明においてアンギオポエチン−1(Ang1)とは、Tie−2受容体に結合し、この受容体を介するシグナル伝達を活性化させ血管新生を促進するリガンドを言う。Tie−2はチロシンキナーゼ受容体であり内皮細胞系列で発現される(Ac.No.NM_000459,protein ID.Q02763,NP_000450)(Ziegler,S.F.et al.,Oncogene 8(3),663−670(1993);Boon,L.M.et al.,Hum.Mol.Genet.3(9),1583−1587(1994);Dumont,D.J.et al.,Genomics 23(2),512−513(1994);Gallione CJ et al.,J.Med.Genet.32(3),197−199(1995);Vikkula M et al.,Cell 87(7),1181−1190(1996);Witzenbichler,B.et al.,J.Biol.Chem.273(29),18514−18521(1998);Asahara,T.et al.,Circ.Res.83(3),233−240(1998);Calvert,J.T.et al.,Hum.Mol.Genet.8(7),1279−1289(1999))。Tie−2はヒト以外にも、ウシ、マウスを含む哺乳動物で単離されている(Sato,T.N.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90(20),9355−9358(1993);Iwama,A.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.195(1),301−309(1993))。野生型ヒトTie−2をコードするDNAの塩基配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:1および2に例示した。配列番号:2に示したヒトTie−2および上記の哺乳動物ホモログに対するリガンドであって、血管新生を促進するものは本発明において好適に用いることができる。また本発明においてAng1は、天然の蛋白質のみならず、その改変体または部分ペプチドなどであって、天然のAng1と同様にTie−2リガンドとして機能するものが含まれる。また、Tie−2の細胞外ドメインに結合する抗Tie−2抗体の断片または非ペプチド性化合物であってTie−2リガンドとして機能するものであってもよい。
哺乳動物Ang1蛋白質は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシなどを含む様々な哺乳動物から単離されている(Davis,S.et al.,Cell 87(7),1161−1169(1996);Valenzuela,D.M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96(5),1904−1909(1999);Suri,C.et al.,Cell 87(7),1171−1180(1996);Valenzuela,D.M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96(5),1904−1909(1999);Kim,I.,et al.,Cardiovasc.Res.49(4),872−881(2001);Mandriota,S.J.and Pepper,M.S.,Circ.Res.83(8),852−859(1998);Goede,V.et al.,Lab.Invest.78(11),1385−1394(1998))(GenBank Ac.No:U83508,UNM_009640,AF233227,NM_053546;protein_ID:AAB50557,NP_033770,008538,AAK14992,NP_445998,018920)。野生型ヒトAng1をコードするDNAの塩基配列とアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:3および4に例示した。配列番号:4に示したヒトAng1および上記の哺乳動物ホモログを好適に用いることができる。
また、ヒトまたはその他の哺乳動物Ang1のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列を含む蛋白質、ヒトまたはその他の哺乳動物Ang1のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ配列を含む蛋白質、ならびにヒトまたはその他の哺乳動物Ang1遺伝子のコード領域の一部または全部を含む核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸がコードする蛋白質であって、哺乳動物Tie−2受容体に結合し、この受容体を介するシグナル伝達を活性化させ血管新生を促進する蛋白質は本発明においてAng1に含まれる。これらの蛋白質には、Ang1の多型およびスプライシングバリアントなどが含まれ得る。
アミノ酸の置換、欠失、および/または付加においては、改変されるアミノ酸数は、通常15以内、好ましくは11以内、より好ましくは9以内、より好ましくは7以内、より好ましくは5以内である。特にアミノ酸を保存的に置換した蛋白質は活性が維持されやすい。保存的置換は、例えば塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族アミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などの各グループ内のアミノ酸間の置換などが挙げられる。アミノ酸配列の同一性は、例えばBLASTPプログラム(Altschul,S.F.et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410)を用いて決定することができる。具体的にはblastpプログラムを用いることができる。例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいてLow complexityを含むフィルターは全てOFFにして、デフォルトのパラメータを用いて検索を行う(Altschul,S.F.et al.(1993)Nature Genet.3:266−272;Madden,T.L.et al.(1996)Meth.Enzymol.266:131−141;Altschul,S.F.et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−3402;Zhang,J.& Madden,T.L.(1997)Genome Res.7:649−656)。例えば2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al.(1999)FEMS Microbiol Lett.174:247−250)により、2配列のアライメントを作成し、配列の同一性を決定することができる。ギャップはミスマッチと同様に扱い、例えば哺乳動物野生型Ang1蛋白質のアミノ酸配列全体に対する同一性の値を計算する。また、ハイブリダイゼーションにおいては、ヒトなどのAng1遺伝子の蛋白質コード配列を含む核酸、またはハイブリダイズの対象とする核酸のどちらかからプローブを調製し、それが他方の核酸にハイブリダイズするかを検出することにより同定することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、例えば5×SSC、7%(W/V)SDS、100μg/ml変性サケ精子DNA、5×デンハルト液(1×デンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、および0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、48℃、好ましくは50℃、より好ましくは52℃でハイブリダイゼーションを行い、その後ハイブリダイゼーションと同じ温度、より好ましくは60℃、さらにこの好ましくは65℃、最も好ましくは68℃で2×SSC中、好ましくは1×SSC中、より好ましくは0.5×SSC中、より好ましくは0.1×SSC中で、振蘯しながら2時間洗浄する条件である。
Ang1をコードするベクターとは、Ang1蛋白質をコードする核酸を含むベクターである。蛋白質をコードするとは、核酸が該蛋白質を適当な条件下で発現できるように、該蛋白質のアミノ酸配列をコードするORFをセンスまたはアンチセンス(ある種のウイルスベクター等においては)に含むことを言う。核酸は一本鎖または二本鎖であってよい。また核酸はDNAであってもRNAであってもよい。ベクターとしては、例えばプラスミドベクター、その他のnaked DNA、ウイルスベクターが挙げられる。
Naked DNAとは、DNAが、ウイルスエンベロープ、リポソーム、またはカチオニック脂質などの核酸を細胞に導入する試薬と結合していないDNAを言う(Wolff et al.,1990,Science 247,1465−1468)。この場合、DNAは生理的に許容可能な溶液、例えば滅菌水、生理食塩水、または緩衝液中に溶解して使用することができる。プラスミドなどのnaked DNAの注入は最も安全で簡便な遺伝子送達法であり、これまでに承認されている臨床心血管遺伝子治療プロトコルの多くを占めるが(Lee,Y.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.2000;272:230−235)、導入遺伝子の発現が比較的低いことと心筋細胞への導入効率が悪いことが、このアプローチの治療的な利益を損なっていた(Lin,H.et al.,Circulation 1990;82:2217−2221;Kass−eisler,A.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 1993;90:11498−11502)。例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターは入手可能な最も強力な転写制御配列の1つであり、CMVプロモーターを含むベクターは臨床の遺伝子治療にも広く用いられている(Foecking,M.K,and Hofstetter H.Gene 1986;45:101−105)。しかしながら、骨格筋にプラスミドを注入した幾つかの報告により、強力なCMVプロモーターを利用したとしても、導入遺伝子の発現量または発現期間はしばしば不十分であることが指摘されていた。
ところが驚くべきことに、本発明者らが、nakedプラスミドを心筋に直接注入により投与したところ、骨格筋に比べ心筋では約一桁の高い発現レベルが得られることが判明した。特に転写活性の強いCAプロモーターを持つプラスミドベクターを20μg用いた時の心臓における導入遺伝子の発現レベルは、6.0×10optical units(OPU)のアデノウイルスベクターによるものに匹敵した。従って、CAプロモーターあるいはこれと同等以上の転写活性を持つプロモーターを持つプラスミドを用いて、本発明の虚血疾患の遺伝子治療を実施することができる。CAプロモーターとは、CMV immediately earlyエンハンサーおよびニワトリβアクチンプロモーターを含むキメラプロモーターである(Niwa,H.et al.(1991)Gene.108:193−199)。CAプロモーターまたはこれを同等以上の転写活性を有するプロモーターを用いれば、naked DNAを用いてより安全に遺伝子治療を実施することができる。
CMV immediately earlyエンハンサーとしては、所望のCMV株のimmediately early遺伝子エンハンサーを用いることができるが、例えば配列番号:5の1〜367番目までの塩基配列を例示することができる。また、ニワトリβアクチンプロモーターとしては、ニワトリβアクチンゲノムDNAの転写開始部位を含むDNA断片であって、プロモーター活性を持つ断片を使用することができる。ニワトリβアクチン遺伝子の第1イントロンには転写を促進する活性があるため、このイントロンの少なくとも一部までを含むゲノムDNA断片を用いることが好ましい。このようなニワトリβアクチンプロモーターとしては、具体的には、例えば配列番号:5の368〜1615番目までの塩基配列を例示することができる。イントロンのアクセプター配列は、適宜他の遺伝子の配列を使うことができ、例えばウサギβグロビンのイントロンアクセプター配列を用いてよい。本発明においてCAプロモーターとしては、CMV immediately earlyエンハンサー配列の下流に、イントロンの一部までを含むニワトリβアクチンプロモーターを連結し、その下流に所望のイントロンアクセプター配列を付加したDNAが好適である。一例を配列番号:5に示した。この配列の最後のATGを開始コドンとして、Ang1蛋白質のコード配列を付加すればよい。但し、CMVエンハンサーおよびニワトリβアクチン遺伝子は、単離株または単離個体によって配列に多様性があり得る。また、CMV immediately earlyエンハンサーおよびニワトリβアクチンプロモーターとして配列番号:5に示したのと全く同一の領域を使う必要はなく、当業者であれば様々なバリアントを構築することができる。配列番号:5に示したプロモーターと同等またはそれ以上の転写活性を有するバリアントは全て、本発明において好適に用いることができる。
ベクター中にSV40oriが含まれる場合は、SV40ori配列を欠失させることが好ましい。SV40 large T antigenは幾つかのヒト癌に関連しており、SV40に関連した癌を持つ患者ではSV40oriを含むベクターの増幅が懸念される(Martini,F.et al.,Cancer 2002;94:1037−1048;Malkin,D.Lancet 2002;359:812−813)。本発明者らの検証によれば、ベクターからSV40oriを欠失させても、導入遺伝子の発現は骨格筋でも心臓でも影響されなかった(実施例8)。この結果は、CAプロモーターの制御下にAng1を発現する、SV40oriを持たないベクターが、心筋遺伝子治療への臨床適用に最も安全かつ有用なベクターの1つであることを示唆する。特にSV40oriを欠失させたpCA1ベクターは、心筋遺伝子治療に適していると考えられる。
また、DNAは適宜トランスフェクション試薬と組み合わせて投与することもできる。例えば、リポソームまたは所望のカチオニック脂質と結合させてトランスフェクション効率を上昇させることができる。
本発明の虚血疾患治療に用いられるもう1つの好ましいベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターを用いることによって、心筋のみならず骨格筋など他の組織においても十分な量のAng1を発現させることができる。ウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどが挙げられるがこれらに制限されない。好ましいウイルスベクターの1つはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、心筋細胞に高い効率で遺伝子を導入し、導入遺伝子を高発現させることができる。実施例に示すように、Ang1を発現するアデノウイルスベクターは、虚血心および虚血肢に対して有意な治療効果を発揮する。このように、本発明においてはアデノウイルスベクターを好適に用いることができる。本発明において、アデノウイルスベクターは適宜公知のベクターを用いることができ、それらは例えば外来遺伝子発現の向上のため、または抗原性の減弱などのために野生型ウイルスの遺伝子が改変されていてよい。アデノウイルスベクターの作製は、例えば斎藤らにより開発されたCOS−TPC法(Miyake,S.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:1320−1324(1996))を用いることができる。
ベクターにAng1を組み込む場合は、Ang1遺伝子の発現効率を高めるため、Ang1の開始コドン周辺の配列はKozakのコンセンサス配列[例えばCC(G/A)CCATG]とすることが好ましい(Kozak,M.,Nucleic Acids Res 9(20),5233(1981);Kozak,M.,Cell 44,283(1986);Kozak,M.Nucleic Acids Res.15:8125(1987);Kozak,M.,J.Mol.Biol.196,947(1987);Kozak,M.,J.Cell Biol.108,229(1989);Kozak,M.,Nucl.Acids Res.18,2828(1990))。
本発明において好適に用いることができるウイルスベクターの他の1つは、マイナス鎖RNAウイルスベクターである。実施例に示すように、マイナス鎖RNAウイルスベクターは、アデノウイルスよりも低い力価でより高い導入遺伝子を発現をもたらすことが示された。本発明において、Ang1をコードするマイナス鎖RNAウイルスベクターは、最も好適に用いられるベクターの1つである。マイナス鎖RNAウイルスとは、マイナス鎖(ウイルス蛋白質をコードするセンス鎖に対するアンチセンス鎖)のRNAをゲノムとして含むウイルスである。マイナス鎖RNAはネガティブ鎖RNAとも呼ばれる。本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスとしては、特に一本鎖マイナス鎖RNAウイルス(非分節型(non−segmented)マイナス鎖RNAウイルスとも言う)が挙げられる。「一本鎖ネガティブ鎖RNAウイルス」とは、一本鎖ネガティブ鎖[すなわちマイナス鎖]RNAをゲノムに有するウイルスを言う。このようなウイルスとしては、パラミクソウイルス(Paramyxoviridae;Paramyxovirus,Morbillivirus,Rubulavirus,およびPneumovirus属等を含む)、ラブドウイルス(Rhabdoviridae;Vesiculovirus,Lyssavirus,およびEphemerovirus属等を含む)、フィロウイルス(Filoviridae)、オルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae;Infuluenza virus A,B,C,およびThogoto−like viruses等を含む)、ブニヤウイルス(Bunyaviridae;Bunyavirus,Hantavirus,Nairovirus,およびPhlebovirus属等を含む)、アレナウイルス(Arenaviridae)などの科に属するウイルスが含まれる。本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターは、伝播能を有していてもよく、伝播能を有さない欠損型ベクターであってもよい。「伝播能を有する」とは、ウイルスベクターが宿主細胞に感染した場合、該細胞においてウイルスが複製され、感染性ウイルス粒子が産生されることを指す。
本発明において得に好適に用いられるマイナス鎖RNAウイルスを具体的に挙げれば、例えばパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)ウイルスのセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のインフルエンザウイルス(Influenza virus)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)等が例示できる。
本発明において用いることができるウイルスをさらに例示すれば、例えばSendai virus(SeV)、human parainfluenza virus−1(HPIV−1)、human parainfluenza virus−3(HPIV−3)、phocine distemper virus(PDV)、canine distemper virus(CDV)、dolphin molbillivirus(DMV)、peste−des−petits−ruminants virus(PDPR)、measles virus(MV)、rinderpest virus(RPV)、Hendra virus(Hendra)、Nipah virus(Nipah)、human parainfluenza virus−2(HPIV−2)、simian parainfluenza virus 5(SV5)、human parainfluenza virus−4a(HPIV−4a)、human parainfluenza virus−4b(HPIV−4b)、mumps virus(Mumps)、およびNewcastle disease virus(NDV)などが含まれる。より好ましくは、Sendai virus(SeV)、human parainfluenza virus−1(HPIV−1)、human parainfluenza virus−3(HPIV−3)、phocine distemper virus(PDV)、canine distemper virus(CDV)、dolphin molbillivirus(DMV)、peste−des−petits−ruminants virus(PDPR)、measles virus(MV)、rinderpest virus(RPV)、Hendra virus(Hendra)、およびNipah virus(Nipah)からなる群より選択されるウイルスが挙げられる。
より好ましくは、パラミクソウイルス亜科(レスピロウイルス属、ルブラウイルス属、およびモルビリウイルス属を含む)に属するウイルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウィルス属(genus Respirovirus)(パラミクソウィルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウィルスまたはその誘導体である。誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。本発明を適用可能なレスピロウィルス属ウィルスとしては、例えばヒトパラインフルエンザウィルス1型(HPIV−1)、ヒトパラインフルエンザウィルス3型(HPIV−3)、ウシパラインフルエンザウィルス3型(BPIV−3)、センダイウィルス(Sendai virus;マウスパラインフルエンザウィルス1型とも呼ばれる)、およびサルパラインフルエンザウィルス10型(SPIV−10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウィルスは、最も好ましくはセンダイウィルスである。これらのウィルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などに由来してもよい。
組み換えマイナス鎖RNAウイルスベクターの再構成は公知の方法を利用して行うことができる(WO97/16539;WO97/16538;WO00/70055;WO00/70070;WO03/025570;Durbin,A.P.et al.,1997,Virology 235:323−332;Whelan,S.P.et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:8388−8392;Schnell.M.J.et al.,1994,EMBO J.13:4195−4203;Radecke,F.et al.,1995,EMBO J.14:5773−5784;Lawson,N.D.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:4477−4481;Garcin,D.et al.,1995,EMBO J.14:6087−6094;Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569−579;Baron,M.D.and Barrett,T.,1997,J.Virol.71:1265−1271;Bridgen,A.and Elliott,R.M.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:15400−15404;Hasan,M.K.et al.,J.Gen.Virol.78:2813−2820,1997;Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578−587;Yu,D.et al.,1997,Genes Cells 2:457−466)。これらの方法により、パラインフルエンザ、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、リンダーペストウイルス、センダイウイルスなどを含むマイナス鎖RNAウイルスをDNAから再構成させることができる。これらの方法に準じて、本発明のウイルスを再構成させることができる。ウイルスゲノムをコードするDNAにおいて、F遺伝子、HN遺伝子、および/またはM遺伝子等のエンベロープを構成する蛋白質をコードする遺伝子をウイルスゲノムから欠失させた場合には、そのままでは感染性のウイルス粒子を形成しないが、宿主細胞に、これら欠失させた遺伝子および/または他のウイルスのエンベロープ蛋白質(例えば水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus;VSV)のG蛋白質(VSV−G)(J.Virology 39:519−528(1981)))をコードする遺伝子などを別途、細胞に導入し発現させることにより、感染性のウイルス粒子を形成させることが可能である(Hirata,T.et al.,2002,J.Virol.Methods,104:125−133;Inoue,M.et al.,2003,J.Virol.77:6419−6429)。
マイナス鎖RNAウイルスは宿主細胞の細胞質でのみ転写・複製を行い、DNAフェーズを持たないため染色体への組み込み(integration)は起こらない(Lamb,R.A.and Kolakofsky,D.,Paramyxoviridae:The viruses and their replication.In:Fields BN,Knipe DM,Howley PM,(eds).Fields Virology,3rd Edition,Vol.2.Lippincott−Raven Publishers:Philadelphia,1996,pp.1177−1204)。このため染色体異常による癌化および不死化などの安全面における問題が生じない。マイナス鎖RNAウイルスのこの特徴は、ベクター化した時の安全性に大きく寄与している。異種遺伝子発現の結果では、例えばセンダイウイルス(SeV)を連続多代継代しても殆ど塩基の変異が認められず、ゲノムの安定性が高く、挿入異種遺伝子を長期間に渡って安定に発現する事が示されている(Yu,D.et al.,Genes Cells 2,457−466(1997))。また、カプシド構造蛋白質を持たないことによる導入遺伝子のサイズまたはパッケージングの柔軟性(flexibility)など性質上のメリットがある。またセンダイウイルスは、齧歯類にとっては病原性で肺炎を生じることが知られているが、ヒトに対しては病原性がない。これはまた、野生型センダイウイルスの経鼻的投与によって非ヒト霊長類において重篤な有害作用を示さないというこれまでの報告によっても支持されている(Hurwitz,J.L.et al.,Vaccine 15:533−540,1997;Bitzer,M.et al.,J.Gene Med,.5:543−553,2003)。このように、マイナス鎖RNAウイルスベクターは、ヒトの虚血疾患に対する遺伝子治療のための治療用ベクターとして極めて有用である。
回収したウイルスベクターは実質的に純粋になるよう精製することができる。精製方法はフィルトレーション(濾過)、遠心分離、吸着、およびカラム精製等を含む公知の精製・分離方法またはその任意の組み合わせにより行うことができる。「実質的に純粋」とは、ウイルスベクターを含む溶液中で該ウイルスの成分が主要な割合を占めることを言う。例えば実質的に純粋なウイルスベクター組成物は、溶液中に含まれる全蛋白質(但しキャリアーや安定剤として加えた蛋白質は除く)のうち、ウイルスベクターの成分として含まれる蛋白質の割合が10%(重量/重量)以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上を占めることにより確認することができる。例えばパラミクソウイルスベクターであれば、具体的な精製方法としては、セルロース硫酸エステルまたは架橋ポリサッカライド硫酸エステルを用いる方法(特公昭62−30752号公報、特公昭62−33879号公報、および特公昭62−30753号公報)、およびフコース硫酸含有多糖および/またはその分解物に吸着させる方法(WO97/32010)等を例示することができるが、これらに制限されない。
本発明において虚血疾患とは、組織への血液供給の減少または途絶による機能異常あるいは組織変性または壊死を言い、具体的には心筋梗塞および狭心症などの虚血性心疾患、並びに四肢虚血、血流不全を伴う損傷、および切断などの外傷および骨折などが含まれる。すなわち本発明において虚血疾患には、虚血性の疾病のみならず、損傷・傷害による虚血状態も含まれる。Ang1またはAng1をコードするベクターを投与することにより、血管形成誘導、および抗アポトーシス作用および抗炎症作用などの他の作用により、虚血組織周辺の壊死が抑えられ、機能が改善される。本発明のAng1の投与において、好ましくはVEGFは投与しない。VEGFを投与しなくても、Ang1の単独投与で有意な治療効果が期待できる。VEGFを投与しないとは、具体的には、Ang1またはAng1をコードするベクターの投与の前後、少なくとも12時間以内、好ましくは24時間以内、より好ましくは14日以内に、VEGFまたはVEGFをコードするベクターを投与しないことを言う。なお、微量または痕跡量のVEGFまたはVEGFをコードするベクターを投与したとしても、そのVEGFの作用が有意に検出できない程度であればそれは投与しないと考える。VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)は血管内皮細胞に特異的な増殖因子でありVPF(Vascular Permeability Factor;血管透過性亢進因子)として1989年に報告され現在VEGF A,B,C,D,Eに分類されている(渋谷正史,VEGF受容体とシグナル伝達,最新医学56:1728−1734,2001)。VEGF Aはさらに6種類のサブタイプに分けられそのうち可溶性のVEGF121,165が特に強い血管増殖能を持つとされ現在臨床応用されている。本発明においてVEGFとしては特にVEGF165およびVEGF121が挙げられ、好ましくはVEGF165およびVEGF121を含むVEGFの各種メンバーが含まれる。特に、内因性VEGFレベルが亢進する症状を伴う虚血疾患に対して本発明の治療方法は有効性が高い。内因性VEGFレベルが亢進するとは、血中または組織局所における内因性VEGFレベルが健常者のそれよりも高いことを言う。上記に挙げた心筋梗塞、狭心症、急性四肢虚血、血流不全を伴う損傷、切断、骨折等においては、内因性VEGFレベルが上昇する。
本発明において虚血性心疾患とは、心筋への血液供給の減少または途絶による心機能異常あるいは心筋の変性または壊死を言い、具体的には狭心症、心筋梗塞、および一部の心筋症が含まれる。Ang1またはAng1をコードするベクターを虚血心に投与することにより、血管形成が促進され心機能が改善される。本発明の方法は、特に内因性VEGFレベルが亢進する症状を伴う虚血性心疾患に対して高い効果を発揮し、例えば狭心症、心筋梗塞、および虚血性心筋症などが治療の対象として適している(Xu,X.,et al.(2001)J Thorac Cardiovasc Surg.121:735−742;Banai,S.,et al.(1994)Cardiovasc Res.28:1176−1179;Sellke,F.W.,et al.(1996)Am J Physiol.271:H713−720)。本発明の方法が最も有効な虚血性心疾患は心筋梗塞である。
狭心症とは、心筋が一過性に虚血、つまり酸素欠乏に陥ったために生ずる胸部不快感を主症状とする臨床的症候群を意味する(小川久雄,狭心症に対する薬物療法,別冊医学のあゆみ;循環器疾患:352−355,1996,矢崎義雄他編,医歯薬出版株式会社)。急性心筋梗塞は冠動脈の血流障害により心筋壊死を伴う虚血性心疾患である(阿武正弘,高野照夫,急性心筋梗塞,循環器疾患最新の治療2002−2003II冠動脈疾患:37−42,2002,篠山重威、矢崎義雄編、南江堂)。
本発明の虚血疾患の治療においては、VEGFのみならず、他の血管新生因子または血管新生因子をコードするベクターも投与しないことが好ましい。血管新生因子とは、血管構成に関与する細胞の発生、遊走、増殖、成熟に直接、あるいは間接的に関わる因子を言う。具体的には、血管内皮増殖因子(VEGFs)、線維芽細胞増殖因子(FGFs)、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、胎盤由来増殖因子(PDGF)、単球走化性蛋白質−1(MCP−1)、thymidine phosphorylase(TP)、アンギオポエチン(Angiopoietin)、エフリン(ephrin/Eph)、マトリクスメタロプロテナーゼ(MMP),tissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP)などが含まれる(Kuwano,M.et al.,Angiogenesis Int.Med.40:565−572(2001);Freedman,S.B.et al.,Ann.Intern.Med.136:54−71(2002))。投与しないとは、投与個体においてこれらの血管新生因子の作用を有意に検出するほどの量またはそれ以上を投与しないという意味である。
虚血組織への投与においては、Ang1またはAng1をコードするベクターを、全身投与または虚血組織に局所投与する。Ang1は大量投与によっても顕著な副作用を示さないことから、全身投与による虚血治療が可能である。投与においては、Ang1またはAng1をコードするベクターの直接投与、あるいは担体を用いた投与が挙げられる。担体は、生理的に許容できるもので、バイオポリマーなどの有機物、ハイドロキシアパタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコポリマー、ポリエチレングリコールポリマーまたはコポリマーおよびその化学的誘導体などがあげられる。更に担体はこれらの生理的に許容される材料の混合組成物でも良い。用いるベクターは生理的に許容されるベクターならば特に制限はなく、上に例示したウイルスベクター、あるいは非ウイルスベクターも含めて、所望のベクターが利用できる。またベクターはベクターにより処理された患者自身の細胞の形態で投与してもよい。例えばベクターまたはベクターを導入した細胞の筋肉(心筋または骨格筋)内注射や静脈内注射(in vivo投与およびex vivo投与)が考えられる。全身投与(筋注、ないし静注)された細胞は、病変局所へ移行することにより虚血組織の生存を促進し得る。例えば、間葉系幹細胞(MSC)は、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などへ分化するとともに、骨格筋、心筋、神経系細胞への分化能の保持することが近年示され、再生医療の細胞源として多くの研究がなされている。本発明に従ってMSCにAng−1遺伝子を導入し、これを虚血治療に用いることによって、優れた効果を発揮することが期待できる。MSCは例えばTsuda,H.et al.(2003)Mol Ther 7(3):354−65に記載の方法に従って調製することができる。心臓への局所投与のためには、注射によりAng1またはAng1をコードするベクターを心筋に注入(injection)すればよい。あるいは、Ang1をコードするベクターを導入した細胞を、心筋に移植することもできる(ex vivo投与)。注入手段は通常の医療用注射器または、体外および体内に留置される持続注入器などの工業製品があげられる。
投与量は、例えばウイルスであれば虚血部位周辺の生存筋(骨格筋または心筋など)に1箇所または複数箇所(例えば2から10箇所)に投与してよい。投与量は、アデノウイルスであれば、例えば1010〜1013pfu/body、より好ましくは1011〜10pfu/bodyが望ましい。マイナス鎖RNAウイルスであれば、例えば2×10CIU〜5×1011CIUが望ましい。Naked DNAであれば、虚血部位周辺の生存筋に1箇所または複数箇所(例えば2から10箇所)に投与してよい。投与部位1箇所あたりの投与量は、例えば10μg〜10mg、より好ましくは100μg〜1mgが望ましい。Ex vivo投与において、ベクターを導入した細胞を投与する場合は、例えばMOI 1〜500の間で体外(例えば試験管またはシャーレ内)で標的細胞にベクターを導入する。本発明においてマイナス鎖RNAウイルスベクターは、間葉系細胞に対して極めて高い効率で外来遺伝子を導入することが判明した。従って、ex vivo投与において間葉系細胞を用いる場合は、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いて間葉系細胞に遺伝子導入を行うことが好ましい。Ang−1遺伝子導入細胞は、例えば10〜10細胞、好ましくは10〜10細胞を虚血組織に移植することができる。蛋白製剤であれば虚血部位周辺の生存筋に1箇所または複数箇所(例えば2から10箇所)に投与してよい。投与量は、例えば1μg/kg〜10mg/kgが望ましい。より好ましくは10μg/kg〜1mg/kgが望ましい。また、ベクターまたは蛋白質製剤は、例えば虚血組織に至る動脈内(例えば虚血心であれば心臓の冠動脈内)に複数回(1〜10回)動脈投与してよい。この場合投与部位1箇所あたりの投与量は、蛋白質製剤であれば例えば1μg/kg〜10mg/kgが望ましい。より好ましくは10μg/kg〜1mg/kgが望ましい。またベクターまたは蛋白質製剤は、経静脈的に複数回(1〜10回)または持続投与してよい。この場合総投与量は、蛋白製剤であれば例えば1μg/kg〜10mg/kgが望ましい。より好ましくは10μg/kg〜1mg/kgが望ましい。ベクターであれば、上記の筋注と同様の量を投与することができる。投与量については、文献Freedman SB et al Ann Intern Med 136:54−71(2002)を参照することができる。
但し、ベクターの投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与組成物の形態、投与方法等により異なってよく、当業者であれば適宜調整することが可能である。投与回数は、1回または臨床上容認可能な副作用の範囲で複数回可能であり、投与部位についても一箇所または複数箇所投与してよい。ヒト以外の動物についても、kg当たりヒトと同様の投与量とするか、あるいは例えば目的の動物とヒトとの虚血器官(心臓など)の容積比(例えば平均値)等で上記の投与量を換算した量を投与することができる。本発明の治療の対象動物としては、ヒトおよびその他の所望の哺乳動物が挙げられ、具体的にはヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ウシ、イヌなどが含まれる。
本発明の治療方法は、単独ないし、他のスタンダードないし先進的な治療法との組み合わせで実施することができる。例えば、本発明の虚血性心疾患の治療方法をPTCA(経皮冠動脈形成術)および/またはCABG(冠動脈バイパス術)などの外科的な血行再建術と組み合わせることも好適である。本発明の治療法を合わせて用いることにより、心機能の積極的な改善、病床期間の短期化が可能となる。また、本発明のAng1を用いた治療は、梗塞心筋の再生などの梗塞巣に対するリモデリングの促進などの治療を組み合わせることにより、より高い効果が期待される。Ang1による遺伝子治療は梗塞巣厚の増加をもたらすが、細胞療法の併用など心筋絶対量の不足を改善した際に認められるLVAd,Eddなど拡張期パラメーターの改善については比較的効果が弱い。Ang1による収縮期容積、駆出率などの改善は、梗塞周囲筋など残存心筋の血管密度が増加することにより梗塞周囲筋での機能低下を予防し、さらに残存心筋の代償性肥大を促進し、心筋機能を改善しているものと推測される。そこで、例えば、胎児心筋、ES細胞、筋芽細胞、または間葉系細胞などの移植、または梗塞部位への移動を誘導することにより心筋の絶対量を補う細胞療法を併用することは好ましいと考えられる。これらの細胞にAng−1遺伝子をex vivoで導入し、虚血組織の治療効果をより高めることも有用である。
また本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを含む虚血性心疾患治療剤を提供する。また本発明は、虚血性心疾患の治療における、虚血心へ投与するためのAng1またはAng1をコードするベクターの使用を提供する。さらに本発明は、該Ang1またはAng1をコードするベクターを虚血心へ投与するための虚血性心疾患の治療薬製造における、Ang1またはAng1をコードするベクターの使用を提供する。特に本発明は、Ang1またはAng1をコードするベクターを含む虚血性心疾患治療剤であって、VEGFまたはVEGFベクターを投与せずに該Ang1またはAng1をコードするベクターを虚血心へ投与するための治療剤を提供する。また本発明は、虚血性心疾患の治療におけるAng1またはAng1をコードするベクターの使用であって、VEGFまたはVEGFベクターを投与せずに該Ang1またはAng1をコードするベクターを虚血心へ投与するための使用を提供する。さらに本発明は、VEGFまたはVEGFベクターを投与せずに該Ang1またはAng1をコードするベクターを虚血心へ投与するための虚血性心疾患の治療薬製造における、Ang1またはAng1をコードするベクターの使用を提供する。上記の治療剤および使用においては、VEGFのみならず、他の血管新生因子またはその血管新生因子をコードするベクターも投与しないものであることがより好ましい。またAng1またはAng1をコードするベクターは、虚血心への局所投与のために製剤化されることが好ましい。例えば、心筋への注入により投与されるものが好ましい。Ang1をコードするベクターは、好ましくはAng1をコードするウイルスベクターまたはnaked DNAである。ウイルスベクターとしては特に制限はないが、特にアデノウイルスベクターおよびマイナス鎖RNAウイルスベクターが好ましい。naked DNAとしてはプラスミドが挙げられる。プラスミドは環状でも直鎖化されていてもよい。またプラスミドにはSV40oriが含まれないことが好ましい。ベクターにおいてAng1転写を駆動するプロモーターは強力な転写活性を持つものが好ましく、例えばCAプロモーターを好適に用いることができる。
また本発明は、(a)Ang1またはAng1をコードする、ベクター、および(b)Ang1またはAng1をコードするベクターの投与において、VEGFまたはVEGFベクターを投与しないことの指示の記載または該記載へのリンクを含む記録媒体、を含む虚血性心疾患治療キットに関する。本キットは、心筋梗塞または狭心症を含む虚血性心疾患の少なくとも1つに対する治療キットである。好ましくは、本発明のキットは、狭心症および/または急性心筋梗塞に対する治療キットである。このキットには、上記で説明したAng1またはAng1をコードするベクターが含まれる。Ang1をコードするベクターは、好ましくはAng1をコードするnaked DNAまたはウイルスベクターであり、ウイルスベクターとしては特に制限はないが、特にアデノウイルスベクターおよびマイナス鎖RNAウイルスベクターが好ましい。キット中に含まれるAng1またはAng1をコードするベクターは、Ang1以外に、薬学的に許容できる所望の担体および/または添加物等を含む組成物であってよい。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、界面活性剤、懸濁剤、等張化剤、または保存剤などを含んでよい。局所投与のために、バイオポリマーなどの有機物、ハイドロキシアパタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコポリマー、ポリエチレングリコールポリマーまたはコポリマーおよびその化学的誘導体などと組み合わせることも好ましい。好ましい態様においては、Ang1またはAng1をコードするベクターは注射に適当な剤型に調製される。このためには、Ang1またはAng1をコードするベクターは薬学的に許容される水溶液中に溶解されているか、または溶解できるように例えば凍結乾燥製剤であることが好ましい。本発明のキットには、Ang1またはAng1をコードするベクターを溶解または希釈するために用いることができる、薬学的に許容できる所望の担体をさらに含んでもよい。このような担体としては、例えば蒸留水、生理食塩水などが挙げられる。
また本発明は、Ang1をコードするウイルスベクターを含む虚血疾患治療剤を提供する。また本発明は、虚血疾患の治療における、Ang1をコードするウイルスベクターの使用を提供する。さらに本発明は、Ang1をコードするウイルスベクターを含む虚血疾患の治療薬製造における、該Ang1ウイルスベクターの使用を提供する。特に本発明は、Ang1をコードするウイルスベクターを含む虚血疾患治療剤であって、VEGFまたはVEGFベクターを投与せずに該Ang1ウイルスベクターを虚血個体へ投与するための治療剤を提供する。また本発明は、虚血疾患の治療におけるAng1をコードするウイルスベクターの使用であって、VEGFまたはVEGFベクターを投与せずに該Ang1ウイルスベクターを虚血個体へ投与するための使用を提供する。さらに本発明は、VEGFまたはVEGFベクターを投与せずにAng1をコードするウイルスベクターを虚血個体へ投与するための虚血疾患の治療薬製造における、該Ang1ウイルスベクターの使用を提供する。上記の治療剤および使用においては、VEGFのみならず、他の血管新生因子またはその血管新生因子をコードするベクターも投与しないものであることがより好ましい。またAng1をコードするウイルスベクターは、虚血組織への局所投与のために製剤化されることが好ましい。ウイルスベクターとしては、好ましくはアデノウイルスベクターおよびマイナス鎖RNAウイルスベクターが用いられる。
また本発明は、(a)Ang1をコードするウイルスベクター、および(b)Ang1をコードするウイルスベクターの投与において、VEGFまたはVEGFベクターを投与しないことの指示の記載または該記載へのリンクを含む記録媒体、を含む虚血疾患治療キットに関する。本キットは、心筋梗塞および狭心症などの虚血性心疾患、並びに四肢虚血、血流不全を伴う損傷、および切断などの外傷および骨折などを含む虚血疾患の少なくとも1つに対する治療キットである。このキットには、上記で説明したAng1をコードするウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターとしては特に制限はないが、特にアデノウイルスベクターおよびマイナス鎖RNAウイルスベクターが好ましい。キット中に含まれるAng1をコードするウイルスベクターは、ベクター以外に、薬学的に許容できる所望の担体および/または添加物等を含む組成物であってよい。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、界面活性剤、懸濁剤、等張化剤、または保存剤などを含んでよい。局所投与のために、バイオポリマーなどの有機物、ハイドロキシアパタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコポリマー、ポリエチレングリコールポリマーまたはコポリマーおよびその化学的誘導体などと組み合わせることも好ましい。好ましい態様においては、Ang1をコードするウイルスベクターは注射に適当な剤型に調製される。このためには、Ang1をコードするウイルスベクターは薬学的に許容される水溶液中に溶解されているか、または溶解できるように例えば凍結乾燥製剤であることが好ましい。本発明のキットには、Ang1をコードするウイルスベクターを溶解または希釈するために用いることができる、薬学的に許容できる所望の担体をさらに含んでもよい。このような担体としては、例えば蒸留水、生理食塩水などが挙げられる。
本発明のキットには、Ang1またはAng1をコードするベクターの投与において、VEGFまたはVEGFベクターを投与しないことの指示の記載または該記載へのリンクを含む記録媒体が含まれている。VEGFまたはVEGFベクターを投与しないことの指示とは、例えばVEGFまたはVEGFベクターの投与を禁忌または避けるように指示または推奨する内容の記載である。具体的には、Ang1またはAng1をコードするベクターの投与の前後、少なくとも12時間以内に、VEGFまたはVEGFをコードするベクターを投与しないことを指示する内容が記載されている。好ましくは、Ang1またはAng1ベクターの投与の前後の24時間以内、より好ましくは14日以内に、VEGFまたはVEGFベクターを投与しないことが指示されている。VEGFとしては特にVEGF165およびVEGF121が挙げられ、好ましくはVEGF165およびVEGF121を含むVEGFの各種メンバーが含まれる。本キットには、Ang1またはAng1をコードするベクターの治療的有効量を罹患個体に投与することの記載または該記載へのリンクを含むことが好ましい。記録媒体としては、紙およびプラスチックなどの印刷媒体、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、デジタルビデオディスク(DVD)、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体など所望の記録媒体が挙げられる。典型的には、キットに添付される指示書などが挙げられる。リンクとは、Ang1またはAng1をコードするベクターの投与において、VEGF121を投与しないことの指示に関する記載が、キット中に直接には記載されていないが、キットに含まれる印などによって該記載と関連付けられていることを言い、その印を通して該記載にたどり着ける場合である。例えば指示書には別紙またはURLなどを参照するように指示または示唆する記載があり、別紙またはURLに該記載がある場合などが含まれる。
以下に、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いた間葉系細胞への遺伝子導入について記載する。本発明による間葉系細胞とは、好ましくは骨髄細胞(骨髄細胞の単核球分画成分)、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞、間葉系幹細胞、またはこれらの細胞に由来する細胞などを指す。また、本発明の間葉系細胞には、たとえば、間葉系に関連する細胞、中胚葉幹細胞などが含まれる。尚、本発明において「間葉系細胞」として記述された細胞が、将来的に間葉系細胞以外の細胞として分類される場合であっても、本発明においては当該細胞を好適に利用することができる。
骨髄中には、幹細胞として、造血幹細胞と、「間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal stem cell)」とがある。ここで「幹細胞」とは、一般に、生体を構成する細胞の生理的な増殖・分化などの過程において、自己増殖能と、特定の機能を持つ細胞に分化する能力とを併せ有する未分化細胞のことである。造血幹細胞は、赤血球、白血球、あるいは血小板に分化する幹細胞である。間葉系幹細胞は、神経に分化する場合、心血管系に分化する場合、内臓に分化する場合、または、骨、軟骨、脂肪、あるいは筋肉に分化する場合があることが知られている。
本発明では、主として間葉系幹細胞を利用するが、造血幹細胞や、体内の他の幹細胞(前駆細胞)を利用できる可能性があることにも言及しておく。間葉系幹細胞は、骨髄から採取された骨髄細胞から分離して得られる。なお、間葉系幹細胞を分離していない骨髄細胞も、有効性は若干劣るものの、間葉系幹細胞と同じように治療に用いることができる。
また、間葉系幹細胞のような細胞が、末梢血中から調製できる可能性も考えられる。従って、末梢血中の細胞を培養することにより、間葉系幹細胞と同等の機能を有する細胞を調製し、本発明に利用することも可能である。
本発明において、中胚葉性幹細胞とは、発生学的に中胚葉と分類される組織を構成している細胞を指し、血液細胞も含まれる。また、中胚葉幹細胞とは、自己と同じ能力を持った細胞をコピー(分裂、増殖)することができ、中胚葉の組織を構成している全ての細胞へ分化し得る能力を持った細胞を指す。中胚葉幹細胞は、たとえば、SH2(+)、SH3(+)、SH4(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)、CD45(−)の特徴を有する細胞であるが、これらマーカーに特に制限されない。また、いわゆる、間葉系に関連する幹細胞も、本発明の中胚葉幹細胞に含まれる。
上記の間葉系に関連する細胞とは、間葉系幹細胞、間葉系細胞、間葉系細胞の前駆細胞、間葉系細胞から由来する細胞のことを意味する。
間葉系幹細胞とは、例えば、骨髄、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、血液、臍帯血、さらには、種々の組織の初期培養物から得ることができる幹細胞のことである。また、末梢血中の細胞を培養して得ることができる間葉系幹細胞と同等の機能を有する細胞も本発明の間葉系幹細胞に含まれる。
本発明において好ましい間葉系細胞としては、骨髄細胞、骨髄幹細胞(mesenchymal stem cells)を好適に示すことができる。その他、本発明の細胞の好ましい例として、臍帯血細胞、末梢血細胞、胎児肝細胞などをあげることができる。
本発明における骨髄細胞、臍帯血細胞、末梢血細胞、胎児肝細胞の好ましい態様としては、骨髄、臍帯血、末梢血、または、胎児肝より分離して得た細胞の1分画であって、心血管系細胞あるいは心筋細胞などへ分化し得る細胞を含む細胞分画を挙げることができる。
他の一つの態様において、該細胞分画は、SH2(+)、SH3(+)、SH4(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)、CD45(−)の特徴を有する中胚葉肝細胞を含む細胞分画である。
本発明において、上記以外の細胞分画の例としては、Lin(−)、Sca−1(+)、CD10(+)、CD11D(+)、CD44(+)、CD45(+)、CD71(+)、CD90(+)、CD105(+)、CDw123(+)、CD127(+)、CD164(+)、フィブロネクチン(+)、ALPH(+)、コラーゲナーゼ−1(+)の特徴を有する間質細胞を含む細胞分画、あるいはAC133(+)の特徴を有する細胞を含む細胞分画を挙げることができる。
本発明における骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞(細胞分画)は、一般的には、脊椎動物に由来する。好ましくは哺乳動物(たとえば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ヒトなど)由来であるが、特に制限されない。
本発明において、Ang1遺伝子を導入した間葉系細胞は、遺伝子改変されていない間葉系細胞に比べ高い虚血治療効果を発揮することが示された。従って、間葉系細胞にAng1遺伝子を外来的に導入することによって、虚血治療に有用な細胞を調製することができる。この細胞を虚血組織に投与することによって、虚血組織における血管形成および再生を促進することができる。間葉系細胞へのAng1遺伝子導入は、上述のプラスミドベクター、その他のnaked DNA、およびウイルスベクターを用いて実施することが可能である。ベクターのプロモーターは、投与した組織でAng1を高発現できるように効率の高いものを用いることが好ましい。好ましくは上記のCAプロモーターが用いられる。より好ましい態様では、ウイルスベクターを用いてAng1遺伝子を間葉系細胞に導入する。特に好ましいウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクターおよびマイナス鎖RNAウイルスベクターが挙げられる。最も好ましくは、マイナス鎖RNAウイルスベクターが用いられる。マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いることで、Ang1遺伝子を間葉系細胞において極めて高いレベルで発現させることが可能である。
ウイルスベクターを用いて間葉系細胞に遺伝子を導入するには、導入したい遺伝子を持つウイルスベクターを間葉系細胞に接触させる。ベクターと間葉系細胞との接触は、in vivoまたはin vitroで行うことができ、例えば培養液、生理食塩水、血液、血漿、血清、体液など所望の生理的水溶液中で実施すればよい。In vitroで導入する場合は、MOI(多重感染度;細胞1つあたりの感染ウイルス数)は1〜500の間にすることが好ましく、より好ましくは1〜300、さらに好ましくは1〜200、さらに好ましくは1〜100、さらに好ましくは1〜70である。例えば、間葉系細胞を含む細胞分画とウイルスベクターとを混合することによって感染を実施することができる。マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いる場合は、ベクターと間葉系細胞との接触は短い時間でも十分であり、例えば1分以上、好ましくは3分以上、5分以上、10分以上、または20分以上接触させればよく、例えば1〜60分程度、より特定すれば5分〜30分程度であってよい。もちろん、それ以上の時間接触させてもよく、例えば24時間、数日間またはそれ以上接触させてもよい。接触は体内でも体外でも実施し得る。例えば、体内から取り出した間葉系細胞を体外でウイルスベクターと接触させ、ベクターを導入後に体内に戻すex vivo遺伝子導入において、ベクターとの接触時間が短くて済むマイナス鎖RNAウイルスベクターによる遺伝子導入方法は好適に用いられる。本方法により血管新生遺伝子を導入した間葉系細胞は、心虚血および四肢虚血等の遺伝子治療において有用である。
間葉系細胞の調製は例えばTsuda,H.et al.(2003)Mol Ther 7(3):354−65に記載の方法に従って調製することができる。またヒト間葉系細胞の培養などに関しては、Kobune M,et al.,Hamada H,Telomerized human multipotent mesen chymal cells can differentiate into hematopoietic and cobblestone area−supporting cells Exp.Hematol Exp Hematol.31(8):715−22,2003の記載を参照することができる。調製した細胞は、すぐに治療に用いてもよく、また、10から40PD(Population Doubling)程度まで、in vitroで培養増殖させて用いることもできる。
より具体的に記載すると、間葉系細胞を含む細胞分画は、例えば、脊椎動物から採取した骨髄細胞、臍帯血細胞を、2000回転で比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、好ましくは1.07g/mlから1.08g/mlの範囲(例えば、1.077g/ml)である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。また、脊椎動物から採取した臍帯血細胞を上記と同様に調製し、細胞分画として利用することもできる。
具体例を示せば、まず、脊椎動物より採取した骨髄液(5−10μl)を溶液(L−15を2ml+Ficolを3ml)に混合し、遠心(2000回転で15分間)し、単核細胞分画(約1ml)を抽出する。この単核細胞分画を細胞の洗浄のために培養溶液(DMEM 2ml)に混合して、再度、遠心(2000回転で15分間)する。次いで、上澄みを除去した後、沈降した細胞を回収する。本発明の細胞分画の採取源としては、大腿骨以外にも、胸骨や、骨盤を形成している腸骨から採取することもできる。これらの骨以外でも大きい骨であれば採取可能である。また、骨髄バンクに保存してある骨髄液や臍帯血から採取することも可能である。臍帯血細胞を利用する場合には、骨髄バンクに保存してある臍帯血から採取することも可能である。
本発明の細胞分画の他の態様は、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞より単離・精製して得た単核細胞分画であって、心血管系細胞へ分化しうる中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を含む細胞分画である。中胚葉幹細胞を含む細胞分画は、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記SH2等の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
また、心血管系細胞へ分化しうる中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を含む細胞分画は、脊椎動物から採取した骨髄細胞、臍帯血細胞を、900gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、細胞の由来する動物の種類(例えば、ヒト、ラット、マウス)により変動しうる。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるが、これらに制限されない。
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した骨髄液(25ml)または臍帯血を同量のPBS溶液に混合し、遠心(900gで10分間)し、沈降細胞をPBSに混合して回収(細胞密度は4×10細胞/ml程度)することにより、血液成分を除去する。その後、そのうち5mlをPercol液(1.073g/ml)と混合し、遠心(900gで30分間)し、単核細胞分画を抽出する。細胞の洗浄のために、抽出した単核細胞分画を培養溶液(DMEM,10% FBS,1% anti−biotic−antimycotic solution)に混合し、遠心(2000回転で15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去し、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5%CO in air)。
本発明の細胞分画の他の態様は、骨髄細胞、臍帯血細胞より分離して得た単核細胞分画であって、心血管系細胞へ分化しうる間質細胞を含む細胞分画である。間質細胞は、例えば、Lin(−)、Sca−1(+)、CD10(+)、CD11D(+)、CD44(+)、CD45(+)、CD71(+)、CD90(+)、CD105(+)、CDW123(+)、CD127(+)、CD164(+)、フィブロネクチン(+)、ALPH(+)、コラーゲナーゼ−1(+)の特徴を有する細胞である。間質細胞を含む細胞分画は、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記Lin等の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
また、脊椎動物から採取した骨髄細胞、臍帯血細胞を、800gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、好ましくは1.07g/mlから1.08g/mlの範囲(例えば、1.077g/ml)である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血を同量の溶液(PBS+2%BSA+0.6%クエン酸ナトリウム+1%ペニシリン−ストレプトマイシン)溶液に混合し、そのうちの5mlをFicol+Paque液(1.077g/ml)と混合し、遠心(800gで20分間)し、単核細胞分画を抽出する。この単核細胞分画を細胞の洗浄のために培養溶液(Alfa MEM,12.5% FBS,12.5%ウマ血清,0.2% i−イノシトール,20mM葉酸,0.1mM 2−メルカプトエタノール,2mM L−グルタミン,1μMヒドロコルチゾン,1% anti−biotic−antimycotic solution)に混合し、遠心(2000回転、15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去した後、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5%CO in air)。
本発明の細胞分画の他の態様は、骨髄細胞、臍帯血細胞、末梢血細胞、または胎児肝細胞より分離して得た単核細胞分画であって、心血管系細胞へ分化しうるAC133(+)の特徴を有する細胞を含む細胞分画である。この細胞分画は、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記AC133(+)の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
また、その他の態様として、脊椎動物から採取した胎児肝細胞を、2000回転で比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる細胞分画を回収し、この細胞分画から、AC133(+)の特徴を有する細胞を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した肝臓組織をL−15溶液内で洗浄し、酵素処理(L−15+0.01%DNaseI,0.25%トリプシン,0.1%コラーゲナーゼを含む溶液中で、37℃で30分間)し、ピペッティングにより単一細胞にする。この単一細胞となった胎児肝細胞から、大腿骨から単核細胞分画を調製する場合と同様に、遠心分離を行なう。これにより得られた細胞を洗浄し、洗浄後の細胞からAC133抗体を利用してAC133(+)細胞を回収する。これにより胎児肝細胞から心血管系細胞へ分化しうる細胞を調製することができる。抗体を利用したAC133(+)細胞の回収は、マグネットビーズを利用して、または、セルソーター(FACSなど)を利用して行なうことができる。
また、上記細胞分画に含まれる心血管系細胞に分化し得る細胞として、例えば、上記細胞分画に含まれる中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)、および間質細胞、AC133陽性細胞が含まれるが、心血管系細胞に分化し得る限り、これらに制限されない。
また本発明は、マイナス鎖RNAウイルスベクターを口腔扁平上皮細胞に接触させる工程を含む、遺伝子改変された口腔扁平上皮細胞の製造方法に関する。また本発明は、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターをマクロファージに接触させる工程を含む、遺伝子改変されたマクロファージの製造方法に関する。さらに本発明は、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを樹状細胞に接触させる工程を含む、遺伝子改変された樹状細胞の製造方法に関する。一般に導入遺伝子の高発現が期待されるアデノウイルスベクターと比べても、マイナス鎖RNAウイルスベクターは、口腔扁平上皮細胞、マクロファージ、および樹状細胞に対して、はるかに高い効率で遺伝子を導入できることが判明した。従って、マイナス鎖RNAウイルスベクターは、口腔扁平上皮細胞(口腔扁平上皮癌細胞を含む)、マクロファージ、および樹状細胞への遺伝子導入に極めて有用である。すなわち本発明は、(i)遺伝子改変された口腔扁平上皮細胞の製造方法であって、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを口腔扁平上皮細胞に接触させる工程を含む方法、(ii)遺伝子改変されたマクロファージの製造方法であって、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを樹状細胞に接触させる工程を含む方法、および(iii)遺伝子改変されたマクロファージの製造方法であって、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを樹状細胞に接触させる工程を含む方法に関する。さらに本発明は、これらの方法により製造された遺伝子改変細胞にも関する。これらの細胞の遺伝子改変は、口腔扁平上皮癌の遺伝子治療、癌および免疫疾患の遺伝子治療における免疫系の制御などにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
図1は、正常または梗塞ラット心へのアデノウイルス遺伝子導入によるLacZ発現を示す図である。E.coli β−ガラクトシダーゼ遺伝子を持つアデノウイルスベクター(1×10〜1×1010opu)を、正常または梗塞後のラット心前壁(anterior cardiac wall)に注入した。遺伝子投与の5日後にラットを屠殺し、摘出した心臓を組織溶解液中でホモジェナイズした。心ホモジェネートのβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。白いバーは偽手術(正常)心、灰色のバーは梗塞心を示す。
図2は、ラットの偽手術心または梗塞心のLacZ陽性域の分布を示す写真である。(A)X−gal染色した心臓の全体図。上段パネル,AxCAZ3(1x1010opu)を心筋内注入した正常(偽手術)心。中段パネル,生理食塩水を注入した梗塞心。下段パネル,AxCAZ3(1x1010opu)を心筋内注入した梗塞心。左パネル,右室側より観察、中央のパネル,腹側(正面)より観察、右パネル,左室側より観察。実線の矢印(黄色)は左冠状動脈(LAD)の結紮部位を示し、破線の矢印(白)は注入部位を示す。矢尻(赤)で囲んだ領域は梗塞域心筋を表す。(B)X−gal染色した心筋梗塞心の横断面。梗塞心を結紮部位と心尖部との中間および下1/4部位で水平に切断した。薄い灰色の領域,梗塞域、濃い灰色の領域,X−gal陽性心筋。LV,左心室、RV,右心室。
図3は、偽手術心および梗塞心のアデノウイルスによるAng1の発現を示す写真である。遺伝子導入の5日後の正常心および梗塞心において、ヒトAng1特異的mRNAの発現をPCRにより調べた。(A)ヒトAng1特異的発現。レーン1:長さのマーカーとしての100塩基対DNAラダー、レーン2:陽性対照(AxCAhAng1を感染させたHeLa細胞)、レーン3:正常心、レーン4:AxCAZ3を注入した心臓、レーン5:AxCAhAng1を注入した正常心、レーン6:AxCAhAng1を注入した梗塞心。(B)内部対照としての対応する細胞・組織のラットGAPDHの発現。長さのマーカーの最も明るいバンドは500塩基対の長さである。
図4は、梗塞心の様々な領域の毛細血管密度を示す図および写真である。CD34陽性の毛細管密度を各領域で測定した(A,梗塞壁、B,中隔壁、C,梗塞域と隣接する境界領域)。抗CD34モノクローナル抗体で染色された毛細管数をブラインドで計数し、毛細管密度を数/mmで表した。*:p<0.01を示す。
図5は、偽手術心および梗塞心の組織学的所見を示す写真である。心筋梗塞の4週間後、心臓を摘出しMasson’s trichrome染色(A〜D)、抗CD34モノクローナル抗体による免疫染色(E〜H)、および抗α−SMAモノクローナル抗体による免疫染色(I〜L)を行なった。偽手術心(A,E,I)、生理食塩水の対照(B,F,J)、アデノウイルスの対照(C,G,K)、Ang1処置心(D,H,L)。バーは50μmを表す。
図6は、エコーカルヂオグラフィーによる収縮末期(end−systole)および拡張末期(end−diastole)の長軸図を示す写真である。心筋梗塞の4週間後、エコーカルヂオグラフィーにより心機能を評価した。2次元エコーカルヂオグラフによる長軸断面が示されている。上パネル,収縮末期の図;下パネル,拡張期の図。矢尻の間の領域は梗塞した前壁を示す。破線で囲んだ領域は左室腔を示す。
図7は、マウス急性下肢虚血モデルにおけるAng1発現アデノウイルスベクターの単独投与による壊死抑制効果を示す写真である。
図8は、ラット骨格筋(A)および心臓(B)におけるnaked DNAの注入によるLacZ発現を示す図である。図示した量のプラスミド(20μg)を下肢大腿筋または心臓心尖に注入した(n=4)。プラスミド注入の4日後にGalacto−light plus kitを用いてβ−gal活性を測定し、筋または心当たりのng活性LacZとして表した。バーは標準誤差を表す。
図9は、ラット心へのnaked DNA注入とアデノウイルスベクター注入におけるLacZ発現の比較を示す図である。20μgのpCAZ2または様々な量のAxCAZ3を心筋に注入した。バーは標準誤差を表す(n=4)。
図10は、アデノウイルス(Ad)ベクターおよびセンダイウイルス(SeV)ベクターの心筋細胞への遺伝子導入効果を示す図である。LacZをコードするアデノウイルスベクター(AxCAZ3)およびSeVベクター(SeVAng1)を、moiおよび感染時間を変えてラット心筋細胞に導入し、β−galacosidaseの発現を測定した。
図11は、in vivo投与における心筋へのアデノウイルスベクターおよびセンダイウイルスベクターの遺伝子導入を示す図である。LacZ発現AdVまたはSeVを心筋内投与して3日後のレポーター遺伝子発現を示す。
図12は、AdベクターおよびSeVベクター静脈または心筋内投与による遺伝子発現の臓器分布を示す図である。1×10CIUのSeVLacZまたは1x1010opuのAxCAZ3を正常ラット陰茎静脈より投与し、72時間後に摘出した臓器におけるLacZ発現を測定した。また、SeVベクターの心筋内投与後の各臓器のLacZ発現を測定した。
図13は、SeVベクターを用いたラット梗塞心へのAng1遺伝子導入による心筋梗塞治療効果を示す図である。5×10CIUのSeVAng1をLAD還流域周囲の左室前壁に2カ所に分け注射し、4週間後に測定した梗塞サイズおよび梗塞厚を示す。
図14は、ラット梗塞心へのSeVベクターを用いたAng1遺伝子導入による心筋梗塞治療効果を示す図である。5×10CIUのSeVAng1をLAD還流域周囲の左室前壁に2カ所に分け注射し、4週間後に測定した心筋内血管密度を示す。
図15は、ラット下肢虚血モデルに対するSeVを用いたAng1遺伝子導入による治療効果を示す図である。大腿動脈結紮ラットの大腿直筋2ヶ所に5×10CIUのSeVAng1を投与し、虚血後2週間にわたりレーザードップラー血流イメージ解析により血流測定を行った。正常側の下肢血流に対する虚血側の下肢血流の比(組織血流比:虚血側血流/正常側血流)を示す。
図16は、アデノウイルス(Ad)ベクターおよびセンダイウイルス(SeV)ベクターの間葉系細胞(MSC)の遺伝子導入を示す図である。LacZをコードするアデノウイルスベクター(AxCAZ3)およびSeVベクター(SeVAng1)を、moiを変えてラットMSCに導入し、β−galacosidaseの発現を測定した。
図17は、アデノウイルス(Ad)ベクターおよびセンダイウイルス(SeV)ベクターによりLacZ遺伝子を導入したMSCのX−gal染色を示す写真である。
図18は、Ang1導入MSCを用いた虚血肢治療の治療効果を示す図である。
図19は、培養細胞株へのSeVベクターによる遺伝子導入を、アデノウイルスベクターと比較した結果を示す図および写真である。
図20は、アデノウイルス抵抗性ヒト口腔扁平上皮癌細胞株に対するSeVベクターの遺伝子導入を示す図である。
図21は、ヒトマクロファージおよびヒト樹状細胞に対するSeVベクターの遺伝子導入を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、本明細書の一部として組み込まれる。
[実施例1] VEGFおよびAng1発現アデノウイルスベクター
ヒトVEGF遺伝子はヒトグリオーマ細胞株U251由来のcDNAからPCR法にてクローニングし得られたVEGF遺伝子の塩基配列はBig−dye terminater法(Perkin−Elmer社)によりシークエンスを確認した。同様にヒトAng1遺伝子はヒト骨髄細胞cDNAよりPCR法によりクローニングし、塩基配列を確認した。得られたAng1遺伝子の塩基配列をジーンバンクU83508と比較したところ933番目の塩基がAからGへ置換されていたことを除き同一であった。本塩基置換によるAng1蛋白質のアミノ酸配列はジーンバンクU83508と同一であった。これらのクローニングされたVEGF/Ang1 cDNAをpCAGGS(Niwa,H.et al.(1991)Gene.108:193−199)由来のpCAccベクター(WO02/100441;Ito.,Y.,et al.(2002)Mol Ther.5:S162)のEcoRI−BglII制限酵素サイト間に挿入し、VEGF/Ang1発現ベクターであるpCAhVEGFおよびpCAhAng1を作製した。VEGF/Ang1発現アデノウイルスは斎藤らにより開発されたCOS−TPC法(Miyake,S.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:1320−1324(1996))を用い作製した。pCAhVEGFおよびpCAhAng1をClaI制限酵素により切断し得られるVEGF/Ang1 cDNA、CAプロモーターを含む遺伝子発現ユニットをアデノウイルス5型遺伝子の一部を含むコスミドpAxcw(Nakamura,T.et al.(2002)Hum Gene Ther.13:613−626)のClaI制限酵素部位に挿入しpAxCAhVEGF/Ang1を作製した。pAxCAhVEGF/Ang1と5型アデノウイルス全長を含むDNA−terminal protein complex(TPC)のEcoT22I制限酵素切断産物をリン酸カルシウム共沈法により293細胞に遺伝子導入し、改変アデノウイルスを含むプラークを回収した(Graham,F.L.and A.J.van der Eb.(1973)Virology.52:456−467)。個々のプラークのアデノウイルスを制限酵素切断パターンで確認しさらにPCRを用い野生ウイルスの混入がないことを確認し、VEGFおよびAng1発現アデノウイルスベクターであるAxCAhVEGF、AxCAhAng1を得た。ラット心筋梗塞モデルにはCsCl不連続密度勾配を用いた超遠心法により精製した後、10% glycerol添加PBSにて透析をした精製アデノウイルスを用いた(Kanegae,Y.,et al.(1995)Nucleic Acids Res.23:3816−3821)。精製アデノウイルスベクターの濃度(opu/ml,optical density units/ml)は0.1%SDS存在下でのA260により測定し以下の式を用い決定した(Nyberg−Hoffman,C.et al.(1997)Nat Med.3:808−811)。
opu=A260x(1.1 x 1012
ウイルス力価(pfu:plaque forming units)は293細胞を用いた限界希釈法により決定した(Miyake,S.,et al.(1996)Proc Natl Acad Sci U S A.93:1320−1324)。コントロールアデノウイルスとしてE.coli β−galactosidase遺伝子を発現するAxCAZ3(Nakamura,T.et al.(2002)Hum Gene Ther.13:613−626)を用いた。このベクターは、挿入したcDNA以外はAxCAhAng1と同一である。今回用いたウイルスベクターのAxCAhAng1、AxCAhVEGFおよびAxCAZ3のopu/pfu比はそれぞれ13.3,28.0,80.0であった。
[実施例2] アデノウイルスベクターによる梗塞心での遺伝子発現
これまで梗塞心では、正常心と比べ外来遺伝子発現が極めて低いことが報告(Leor,J.et al.(1996)J Mol Cell Cardiol.28:2057−2067)されていたことから、治療実験を行う前にラット心筋梗塞モデルにおいてアデノウイルスで遺伝子導入した際に十分な遺伝子発現がされるか否かを検討した。
ラット心筋梗塞モデルの作製
ラット心筋梗塞モデルはPfefferらの方法(Pfeffer,M.A.et al.Cir.Res.44:503−512,1979)にしたがい作製した。Lewisラット(8週齢、雄、体重約300g)をジエチルエーテル吸入およびケタミン70mg/kg,キシラジン6〜7mg/kgを腹腔内投与にて麻酔後,挿管した。その後、分時換気量200〜250ml、1回換気量3ml、呼吸回数60〜80回/min、O11/min、ハロセン0.5〜2.0%の条件で吸入麻酔を行い、左側胸部より開胸した。左前下行枝(LAD)を確認し6−0の非吸収糸(ナイロン糸)を用い,左前下行枝を左心耳の高さで結紮した。結紮後、呼気終末陽圧式人工呼吸(positive end−expiratory pressure)で肺を拡張させた。肺を傷つけないように肋間を閉じた後,筋層,皮膚と連続縫合にて閉創した。対照の偽手術では、冠動脈を結紮しない以外は同様に手術を行なった。アデノウイルスベクターの心筋内投与は、左前下行枝の結紮後、左前下行枝還流域と推定される領域周辺部左右二ヶ所に30G針を用い5×10opu/50μl(総量1×1010opuの場合)ずつアデノウイルスベクターを心筋内投与した。
心筋内LacZ遺伝子発現の検討
アデノウイルスベクター投与によるラット心筋でのE.coli β−galacosidase遺伝子発現をX−gal染色(Nakamura,Y.,et al.(1994)Cancer Res.54:5757−5760)により確認した。AxCAZ3 1×1010OPU/100μlを心筋内投与5日後、深麻酔下に2% paraformaldehideを全身に還流し臓器を固定した。摘出した固定後の心臓をX−gal(Sigma Chemical Co.St.Louis,MO)溶液(PBS pH7.2,2mM MgCl,4mM potassium ferricyanide,1mg/ml Xgal)に30℃で16時間浸し染色した。また心臓でのβ−galacosidase遺伝子発現をGalacto−Light puls kit(Tropix Inc.Bedford,MA)とβ−galacosidase標準標本(Roche)を用い、β−galacosidase酵素活性を定量的にて検討した(Shaper NL et al.J.Biol.Chem.269(40),25165−25171,1994)。AxCAZ3 1 x 10〜1 x 1010opuを心筋内投与5日後にラットを屠殺、摘出心をLysis Buffer(100mM potassium phosphate,pH7.8,0.2% Triton X−100,1mM dithiothreitol,0.2mM phenylmethylsulfonyl fluoride,5μg/ml leupeptin)存在下でhomogenizeした。12,500xg,10min遠心後、上清中の内因性β−galacosidase活性を失活するため48℃、1時間インキュベートした(Young DC,Anal.Biochemi.215,24−30,1993)。
上清中の酵素活性はGalacto−Light pulsを用い室温で1時間反応後、化学発光をMini−Lumat LB9506(Berthold Technologies GmbH & Co.KG,Wildbad,Germany)を用い測定した。得られた結果(Relative light units)は組み換えβ−galacosidase標準標本(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を用いた標準曲線により、β−galacosidase活性(pg/ml)に変換した。
アデノウイルスベクターの心筋内投与は以下のごとく施行した。左前下行枝の結紮後、左前下行枝還流域と推定される領域周辺部左右二ヶ所に30G針を用い5×10opu/50μl(総量1×1010opuの場合)ずつアデノウイルスベクターを心筋内投与した。正常心および梗塞心の2ヶ所に分け心筋内投与し、5日後にその発現を測定した。図1に示すごとく5x10opu以上のアデノウイルスベクター投与により正常心、梗塞心で明らかな遺伝子発現を認め、梗塞心でも正常心とほぼ同等の発現であった。導入遺伝子の発現は用量依存的であり、アデノウイルスの用量の増加に従って発現も増加した。また梗塞心での遺伝子発現の分布は図2(A)に示すように遺伝子導入部である前側壁を中心に広範囲に認められたが、横断面でのX−gal染色像(図2(B))で明らかなように梗塞部心筋および中隔部、右室心筋での遺伝子発現は認めなかった。
[実施例3] VEGFおよびAng1遺伝子導入による心筋梗塞後生存率
アデノウイルス1x1010opuにより梗塞心筋で明らかな遺伝子発現を認めたことから血管新生因子遺伝子によるラット心筋梗塞モデルの治療を行った。また慢性心筋虚血に対しすでに効果が示されているVEGF遺伝子による心筋梗塞治療効果を同時に検討した。心筋梗塞後未治療群、コントロールアデノウイルス投与群、AxCAhVEGF投与群、AxCAhAng1投与群の心筋梗塞4週後のラット生存率を算出した。モデル作製24時間以内の死亡ラットは本算出より除外した。
また、ベクターを投与した心臓におけるAng1の発現をRT−PCRにより調べた(図3)。アデノウイルスベクターによる遺伝子導入(1×1010opu/心)の5日後に心臓を摘出し、全RNAをRNeasy kit(Qiagen K.K,Tokyo,Japan)により左心室心筋から抽出した。心筋全RNA中のDNAのコンタミネーションを避けるため、RNase−free DNase Set(Qiagen)を用いて説明書に従ってDNaseI消化を行った。第一鎖cDNA合成はランダムプライマーミクスチャー(Invitrogen,Carlsbad,CA)およびSeperscriptTMII(Invitrogen)を用いて全RNAのランダムプライマー法により行なった。アデノウイルスベクターから転写されたヒトAng1特異的mRNAは、ヒトAng1特異的フォワードプライマーと、Ang1発現単位のターミネーター部位にあるウサギβグロブリンに対するリバースプライマーを用いて検出した。また内部対照としてラットglyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase(GAPDH)をRT−PCRにより検出した。ヒトAng1フォワードプライマー、ウサギβグロブリンリバースプライマー、およびGAPDHプライマーを以下に示した。
ヒトAng1プライマー

ウサギβグロブプライマー

ウサギGAPDHプライマー

30サイクルのPCRを行い、ヒトAng1 mRNAおよびGAPDH mRNAを検出した。PCR産物は2%アガロースゲルで分離した。ヒトAng1 mRNAの陽性対照として、100opu/cellでAxCAhAng1を感染させたHeLa細胞から抽出した全RNAを用いた。
ラットGAPDH遺伝子由来の産物(内部対照)は全ての心筋RNA試料で407bpの位置に等しく検出された(図3)。ヒトAng1に特異的な453bpのPCRバンドを、AxCAhAng1投与したラット心サンプル、AxCAhAng1を用い遺伝子導入したHeLa細胞サンプルに認めた。また正常心、AxCAZ3投与心ではヒトAng1に特異的なバンドは認められなかった。
心筋梗塞モデルにおけるモデル作製24時間以内の死亡を抜いた死亡率は約25%であり、コントロールアデノウイルスAxCAZ3を投与した群では死亡率20%とアデノウイルス投与による死亡率への影響は軽微であった。まず慢性心筋虚血に対し既に効果が示されているVEGF遺伝子による心筋梗塞治療効果を検討したところ、VEGF遺伝子投与群では心筋梗塞4週後死亡率が約40%とむしろ増加することが明らかとなった。一方、1x1010opuのAxCAhAng1を投与群では8%と死亡率の低下が認められた(表1)。
このことから急性心筋梗塞ではVEGFよりAng1がより有効であることが明らかとなった。

[実施例4] Ang1遺伝子、VEGF遺伝子による心筋梗塞後血管誘導
VEGF遺伝子は強力な新生血管誘導作用があることが知られている。またAng1はVEGFとの協同作用にて新生血管誘導を増強することが知られている。そこでAng1遺伝子導入効果を直接証明するために、遺伝子投与した梗塞心での血管密度を測定した。心筋梗塞作製4週後の心筋内血管密度を、CD34モノクロナール抗体を用いた血管内皮細胞の免疫組織染色により評価した。心臓をホルマリンで固定後パラフィン包埋し、10μmの切片を作製した。1次抗体としてAnti−CD34モノクローナル抗体(MoAb)(NU−4A1,Nichirei,Tokyo Japan)使用し、ビオチン化anti−Mouse IgG2次抗体とアビジン化 Horseradish peroxidase(DAB paraffin IHC staining module,Ventana Medical System Inc,Tuson,AZ)を用い染色した。サブタイプが同一のマウスIgGを用いて一次抗体の特異性を確認した。心室中隔、梗塞部周辺領域、心筋梗塞巣内残存心筋での切片内の血管数を200倍拡大し顕微鏡下でブラインドにて測定した。心臓当たり40の切片のそれぞれに対して、ランダムに選んだ5つの視野について計数した。染色された血管を、梗塞領域、境界領域、および中隔壁について計数した。結果は血管数/mmの平均値として表記した。また、成熟血管を確認するため、抗α−SMA MoAb(clone 1A4,Dako Japan,Tokyo,Japan)を用いて、抗CD34 MoAbと同様に染色を行なった。α−SMA陽性の血管は、上記の毛細管密度の計数と同様に行なった。
梗塞心では正常心に比べ梗塞部、梗塞周囲部心筋で血管密度の低下が認められた(図4)。VEGFあるいはAng1をアデノウイルスにより投与したところ、その梗塞部、梗塞周囲心筋で有意な血管密度の増加が認められ、特に遺伝子投与部近傍である梗塞周囲部では正常心筋よりさらに増加していた(梗塞周囲心筋の血管密度は、Ang1処理群では644±96/mm、生理食塩水処理群では350±79/mm(p<0.01 vs Ang1処理群)、AxCAZ3処理群では332±127/mm(p<0.01 vs Ang1処理群)、偽手術群では402±121/mm)。Ang1処理群では、血管腫は肉眼でも顕微鏡でも観察されなかった。興味深いことに、生食投与群およびAxCAZ3投与群では、遺伝子投与部位から離れた心室中隔部でも心筋梗塞後4週目で血管数の減少を認め(それぞれ341±60/mmおよび367±113/mm)、Ang1遺伝子(461±100/mm)またはVEGF遺伝子の投与によりこの中隔部での血管数の減少は抑制された(偽手術群では483±46/mm)。図5にanti−CD34 MoAbによる血管内皮の免疫染色像を示すがAng1遺伝子投与群では10μm以下のmicro vesselの増加とともに10μm以上のvesselの増加も観察された(Ang1処置した梗塞心の左心室領域では、全ての試料で多数のα−SMA陽性血管が観察された;中隔領域で38.9±7.35/mm、梗塞境界域で38.9±4.81/mm、梗塞域で112±26.1/mm)。Ang1処理群を除くいずれの群でも、10μmを超えるα−SMA陽性の血管密度は有意に変化しなかった(19−22/mm)。またAng1単独の遺伝子投与でもVEGF遺伝子投与と同程度の血管密度の増加が観察された(図4)。
[実施例5] Ang1遺伝子による心筋梗塞巣の縮小
心筋梗塞モデルでのAng1遺伝子による梗塞巣への影響を確認した。以下のように、心筋梗塞域の測定を行なった。心筋梗塞4週後の梗塞域のサイズをEdelbergら(Edelberg JM et al.Circulation 105,608−613,2001)の方法およびRobertsらの方法(Roberts CS et al,Am.J.Cardiol.51,872−876,1983)に従い測定した。モデル作製後、4週後にラットを屠殺し梗塞心を摘出、冷生理食塩水に浸して心室から余分な血液を除去した後、4%formaldehideで48時間固定、parrafin包埋し、10μmの切片を作製した。左前下行枝結紮部と心尖部の中間部位にて短軸方向に切片を作製、Hematoxyline−Eosin染色、Masson’s trichrome染色にて梗塞部を染色した。切片をデジタルカメラにて取り込みNIH imageにて以下のパラメーターをブラインドにて測定した。
総左心室(LV)域(Total left ventricle(LV)area)(mm),梗塞域(infarction area)(mm),中隔壁厚(septal wall thickness)(mm),梗塞壁厚(infarction wall thickness)(mm),LVの心外膜側周および心内膜側周(epicardial and endocardial circumference of LV)(mm),心外膜側および心外膜側の梗塞長(epicardial and endocardial infarction length)(mm)。
これらの結果から以下の式を用い評価を行った。
%梗塞サイズ(% infarction size)=梗塞域/総LV域 x 100
%前/中隔壁厚(% Ant/septal wall thickness)=前壁(梗塞)厚/中隔壁厚 x 100
生存LV域(vaiable LV area)=(総LV心筋域)−(梗塞心筋域);
%心内膜側梗塞長(% endocardial infract length)=梗塞の心内膜側長/LVの心内膜側周 x 100;
%心外膜側梗塞長(% epicardial infract length)=梗塞の心外膜側長/LVの心外膜側周 x 100;
図5に示すように梗塞心筋では梗塞巣さらには左室残存心筋全体にわたる心筋壁のひ薄化、左室内腔の拡大傾向を認め心不全兆候が明らかである。表2に示すようにAng1遺伝子投与群でコントロールと比べ有意な梗塞域の縮小(%梗塞サイズ(%infarction size))、さらに残存心筋量の有意な増加(%生存LV域(% viable LV area))を認め、Ang1の心筋梗塞巣の縮小効果とともに残存心筋に対する効果も明らかであった。また梗塞壁厚を反映する%梗塞厚(%infarct thickness)でも有意な増加をAng1投与群で認めた。


(表の説明)値は平均±SDで示した。LVは左心室を示す。心筋梗塞の4週間後にラットを屠殺した。全てのパラメーターは、心臓の冠動脈結紮部位と心尖部の中間部横断面で測定した。統計解析はBonferroni/Dunnの検定によANOVAを用いて行なった。
[実施例6] Ang1遺伝子による心筋梗塞後心機能の改善
Ang1による梗塞心での血管新生作用、心筋梗塞巣縮小効果が明らかとなったが、はたしてこれらの効果が心機能の改善に結びついているか否かを検討した。心機能の計測は心エコーを用いM−mode法、B−mode長軸断を用いたArea−length法により評価した。
具体的には、LAD結紮の4週間後にエコーカルヂオグラム(LOGIQ500,GE Yokokawa Medical System,Tokyo,Japan)を用いて心機能測定を行った。測定中は、塩酸ケタミン(50mg/kg)およびキシラジン(2.5mg/kg)を筋注により麻酔を行なった。10−MHzプローブを用いlong axis viewによりMモードの計測部位を決定した。Mモード法により左室拡張終末期径Edd(end diastolic diameter),左室収縮終末期径Esd(end systolic diameter)を計測し左室短径短縮率(FS,fractional shortening)を算出した。
FS(%)=(Edd−Eds)/Edd x 100
またBモードにて心の左室長軸断を描出し、拡張期左室面積(LVAd,left ventricular area at diastole)、収縮期左室面積(LVAs,left ventricular area at systole)、拡張期左室長軸径(LVLd left ventricular long−axis length at diastole)、収縮期左室長軸径(LVLs,left ventricular long−axis length at systole)を測定し以下の式により左室駆出率(EF,ejection fraction)を算出した(Area−length法)(Sjaastad,I.et al.(2000)J.Appl.Physiol.89:1445−1454)。
EF(%)=[(0.85xLVAd/LVLd)−(0.85xLVAs/LVLs)]/(0.85xLVAd/LVLd) x 100
ラット心筋梗塞モデルでの心エコー長軸断層像を図6に示すが、梗塞心では梗塞部である左室前壁のひ薄化とエコー輝度の増加、左室内腔の拡大を明瞭に認め、組織像と同様に心不全所見を呈していた。
心エコーにて測定した各種のパラメーターを表3に示す。心筋梗塞後、生食コントロール群、アデノウイルスコントロール(AxCAZ3)群いずれもEdd,Esd,LVAd,LVAsの著明な増加を認め、FS,EFも正常心の40−50%と低下しており心筋梗塞後4週目には心エコーパラメーターでも心不全状態を呈していることが確認できた。一方、Ang1遺伝子投与群ではEdd,Esd,LVAdの有意な改善は認められなかったもののFS,LVAsはコントロールにくらべ増加し、EFも55%と改善していた。

(表の説明)梗塞の4週間後、1×1010opuのAxCAZ3またはAxCAhAng1で処理した心臓の心機能を心エコーカルヂオグラフィーによるMモードおよびArea−length法を用いて測定した。値は平均±SDで示した。Eddは左室拡張終末期径(end diastolic diameter)、Esdは左室収縮終末期径(end systolic diameter)、FSは左室短径短縮率(fractional shortening)、LVAdは拡張期左室面積(left ventricular area at diastole)、LVAsは収縮期左室面積(left ventricular area at systole)、FACは左室内腔面積変化率(fractional area change)、EFは左室駆出率(ejection fraction)を表す。統計解析はBonferroni/Dunnの検定によるANOVAを用いて行なった。
[実施例7] マウス急性下肢虚血モデルに対するAng1遺伝子単独投与による壊死抑制効果
下肢急性虚血は、心筋虚血と同様に組織VEGF産生が亢進する。そこでマウス急性下肢虚血モデルを作製し、Ang1発現アデノウイルスベクターの単独投与により虚血治療を試みた。C3H/HeNマウス(male,20−25g)を用いてCouffinhalらの方法(Couffinhal T et al.(1998)Am J Pathol 152(6):1667−79)に準じ下肢虚血モデルを作製した。全身麻酔下はケタラール(50mg/kg)、キシラジン(20mg/kg)を筋注した。両下肢の悌毛後、左鼠径部を切開、左大腿動脈とその全分枝を露出した。大腿動脈起始部7−0ナイロン縫合糸を用いて結紮、さらに膝窩動脈と伏在動脈の分岐部直前で同様に結紮した。また他の全分枝を結紮後、左大腿動脈を切除・除去した。切開創を縫合閉鎖し手術を終了した。
Ang1発現アデノウイルスAxCAhAng1(opu/pfu比は13.3)は上記と同様に作製した。AxCAhAng1(1×1010opu/匹)を、下肢虚血を作製直後に左大腿部・内転筋及び左腓腹筋に2.5×10opu/25μlを各2カ所ずつ、計4カ所に29G針付き1.0ml注射器により筋肉内投与した。対照群には虚血作製マウス5匹を使用した。モデル作製3日後、9または10日後に壊死部の確認、肢指脱落、下肢脱落、潰瘍形成を肉眼により確認し、虚血の評価を行った。
対照群ではモデル作製3日後に壊死部の確認(3/5)(すなわち5例中3例)、肢指脱落(2/5)、下肢脱落(0/5)、潰瘍形成(1/5)を認め、さらに9日後には壊死部の確認(3/5)、肢指脱落(3/5)、下肢脱落(0/5)、潰瘍形成(1/5)と虚血の進行を認めた。一方、Ang1群ではモデル作製3日後に壊死部の確認(0/5)、肢指脱落(0/5)、下肢脱落(0/5)、潰瘍形成(2/5)を認め、さらに9日後には壊死部の確認(3/5)、肢指脱落(1/5)、下肢脱落(0/5)、潰瘍形成(2/5)と虚血の進行が抑制されていた。結果を図7に示した。
Ang1発現アデノウイルスの単独投与により、肢指脱落、下肢脱落の明らかな抑制効果を認めた。虚血3日目の患肢の状況を検討したところAng1投与肢では対照に比べ明らかに虚血による変化は軽減されていた。血管新生には萌出、分岐など多くのステップがある。特に組織還流を促す機能的な血管の形成には動脈新生(arteriogenesis)が関与し、主に虚血10日以後と血管新生の後期に観察される。したがって今回観察されたAng1の早期の効果は血管新生によるものとは考え難く、血管新生以外の機序が推定される。Ang1はTie−2を介しPI3キナーゼを活性化し、抗アポトーシス作用有するAktを活性化することが知られている。またTie−2を介し血管内皮アポトーシス抑制効果を有するNO産生を亢進させる。これらのAng1の作用により血管内皮細胞のアポトーシスを抑制し、虚血の進展を抑制した可能性がある。
急性虚血によりもたらされるVEGFの産生亢進は組織浮腫を増悪させ、組織還流の更なる低下をもたらすと推定される。実際、本モデルでVEGFを高発現させると、下肢の壊死脱落を促進することが報告されている。本実施例においては、Ang1を虚血急性期に投与することにより還流低下につながる浮腫の進展を抑制したと推測される。Ang1投与群では9日目でも肢指脱落を伴う高度の壊死は1例に観察されるのみであった。
以上、急性下肢虚血モデルにAng1を投与することにより壊死の進展を抑制し、壊死後の肢脱落より救肢できることが確認された。
[実施例8] Nakedプラスミドによる骨格筋および心筋へのAng1遺伝子導入
Nakedプラスミドを直接組織に注入することは、最も安全で簡便な遺伝子送達方法であり、これまで承認された臨床の心血管遺伝子治療プロトコルの多くにおいて、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターをベースにしたプラスミドが採用されている。Nakedプラスミド注入に主要な限界の1つは導入遺伝子の発現レベルが低いことである。CAプロモーター(サイトメガロウイルスエンハンサーを持つニワトリβアクチンプロモーター)は、in vitroおよびin vivoにおける最も強力な転写制御モジュールの1つである。しかしながら、CAプロモーターにより駆動される遺伝子発現は細胞および器官の種類に依存する。実際、CAプロモーターベースのベクターを用いてnakedプラスミドの注入することによって、心組織で適切なレベルの導入遺伝子の発現が得られるかは不明である。そこで、CAプロモーターをベースにしたnakedプラスミドを作製し、心筋への直接注入による導入遺伝子に発現レベルを検討した。
pIND/lacZ(Invitrogen社)からEscherichia coli βガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子を切り出し、pcDNA3ベクター(Invitrogen社)、CAプロモーターを持つpCAGGSベクター(Niwa,M.et al.,Gene 1991;108:193−199)、およびpCAGGSからsimian virus複製origin(SV40ori)を欠失したpCA1に組み込み、それぞれpcDNA3LacZ、pCAZ2、およびpCA1LacZとした。なお、pCAZ2はYoshida et al.,Hum.Gene Ther.9:2503−2515,1998に記載されているプラスミドpCAZ2を用いた。また、pCA1は、pCAGGSをBamHIとHindIIIで切断してSV40oriを含む断片(522bp)を除いて作製した。その後、切断したプラスミドの5’端のT4 DNAポリメラーゼでfill inし、T4 DNAリガーゼでライゲーションして発現ベクターpCA1とした。全てのプラスミドはEndofree Maxi kit(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)を用いて精製した。
0.1mlの0.9%生理食塩水中の20μgのnakedプラスミドを、27ゲージの注射針を持つ1mlシリンジを用いて、Lewisラット(雄,8週齢,250〜300g重,Sankyo Labo Service(Tokyo,Japan))の骨格筋または心臓に注入した。0.1mlの0.9%生理食塩水中のAxCAZ3アデノウイルス粒子(1010,5×10,および10OPU)も同様に心臓に注入した。骨格筋への注入では、後肢の大腿筋への注入を容易にするため2cm切開した(Wolff,J.A.et al.,Science 1990;247:1465−1468)。心臓への注入では、左胸を開胸しnakedプラスミドまたはアデノウイルス粒子を心尖部に注入した(Lin,H.et al.,Circulation 1990;82:2217−2221)。注入後、切開部を絹縫合糸で縫合した。
骨格筋および心臓におけるβ−gal活性を以前のように解析した(Shaper,N.L.et al.,J Boil Chem 1994;269:25165−25171)。具体的には、4mlの組織溶解液(100mM リン酸カリウム,0.2% Triton X−100,2mM leupeptin,1mM phenylme thylsulfonyl fluoride,および0.5mM dithiothreitol,pH7.8)中で1分間組織(0.8〜1.0g)をホモジェナイズした。ホモジェナイズした組織は、続いて12,000xgで10分遠心した。上清を回収し、48℃で1時間加熱して内在性のβガラクトシダーゼ活性を不活化した。上清中のβ−gal活性はGalacto−LightTM Plus kit(Tropix,Bedford,MA)により、製造元のプロトコルに従って測定した。ケミルミネッセンスはMicroLumat LB96 ルミノメーター(Wallac,Gaitherburg,MD)を用いて検出した。Relative light units(RLUs)として得られたデータは、組み換えβガラクトシダーゼ標準(Roche Diagnostics,Manheim,Germany)を用いてLacZのng活性に変換した。LacZの組織化学的検出では、10μmの心組織凍結切片をまずX−gal溶液で37℃で24時間染色(Nabel,E.G.et al.,Science 1989;244:1342−1344)し、その後エオシンで対比染色した。値は平均±S.E.で表した。統計学的解析は、Scheffeの検定で行った。0.05未満のp値を有意とする。
ここで用いたnakedプラスミド量(20μg)は、虚血肢(Losordo,D.W.et al.,Circulation 1998;98:2800−2804)および心疾患(Baumgartner,I.et al.,Circulation 1998;97:1114−1123)の臨床遺伝子治療の試行において用いられた用量(g/kg)と相同である。前者は、計4mgのnaked DNAが用いられ、後者では200〜2,000μgのnaked DNAが用いられた。ここでは、CAプロモーターおよびCMVプロモーターベースのベクターからのレポーター遺伝子の発現を、ラット骨格筋および心臓において調べた。2つの組織は、臨床心血管遺伝子治療におけるnakedプラスミドの注入部位として共によく知られている。後肢の大腿筋(n=4)および心臓(n=4)にプラスミドを注入してから5日後に、CMVプロモーター(pcDNA3LacZ,pCMVβ)およびCAプロモーター(pCAZ2,pCA1LacZ)ベースのベクターに媒介されるLacZの発現は、骨格筋においてそれぞれ1.6±0.4、10.2±2.0、37.2±6.9、および27.2±6.8ngであった(図8A)。骨格筋において、CAプロモーターベースのベクターはCMVプロモーターベースのベクターよりもレポーター遺伝子の発現レベルが高かった。同様に、心臓では、CAプロモーターベースのベクターの導入遺伝子発現(pCAZ2,510.8±69.8ng;pCA1LacZ,509.9±66.7ng)は、CMVプロモーターベースのベクターの場合(pcDNA3LacZ,46.2±13.2ng;pCMVβ,108.8±37.8ng)と比較して優れていた。心臓における導入遺伝子の発現レベルは、全てのプラスミドにおいて骨格筋で観察されたものよりも約一桁高いことが判明した(図8B)。安全性を向上させるためSV40ori配列を取り除いたpCA1LacZベクターに関しても、導入遺伝子の発現を検討した。図8に示したように、骨格筋または心臓のどちらにおいても、pCA1LacZとpCAZ2との間でLacZの発現について有意な違いは見られなかった。
心臓における、CAプロモーターベースのプラスミドベクターとアデノウイルスベクターとの間のLacZ発現の比較を行なった。様々な量のアデノウイルスベクターAxCAZ3(1010、5×10、10OPU)を心臓の心尖部に注入した(n=4)。5日後に、AxCAZ3を注入した心臓におけるLacZの発現レベルを、20μgのpCAZ2を注入した心組織と比較した。その結果、20μgのpCAZ2に媒介される心臓における導入遺伝子発現の平均レベルは、6.0×10OPUのAxCAZ3によるものとほぼ同等であることが判明した(図9)。
pcDNA3LacZ(20μg)、pCAZ2(20μg)、または5×10OPUのAxCAZ3を注入し、その後X−galで染色した。LacZ陽性筋細胞が調べた全てのグループの試料において検出された。pcDNA3LacZを注入した心試料では、針を注入した部位周辺にほとんどLacZ陽性細胞は見られなかった。これに対して、pCAZ2の場合は、散発的ではあるが発現の強いLacZ陽性心筋細胞が注入領域周辺に観察された。5×10OPUのAxCAZ3を注入した心組織は、pCAZ2を注入したもので見られたのと類似した導入遺伝子発現のレベルおよびパターンを示した。以上のように、プラスミドの直接投与は心筋においては極めて効率的に導入遺伝子を発現することができ、特にCAプロモーターを用いることにより、アデノウイルスベクターとほぼ同等の高いレベルの発現が得られることが実証された。
[実施例9] ヒトAng1発現マイナス鎖RNAウイルスベクターによる心筋細胞への遺伝子導入効果
ヒトAng1 cDNAを挿入した伝播型センダイウイルスベクター(SeVAng1)は、公知の方法に基づいて製造した(Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569−579;Yu,D.et al.,1997,Genes Cells 2:457−466)。対照ベクターとして、外来遺伝子発現のないSeV(SeVNull)およびE.coli β−galacosidase遺伝子(LacZ)発現SeV(SeVLacZ)を用いた。また比較として、LacZをコードするアデノウイルスベクターAxCAZ3を用いた。SeVベクターは、10−day−oldの有胚鶏卵の尿膜腔に注入して増殖させ回収した。ニワトリ赤血球を用いたヘマグルチネーションアッセイによりタイターを決定し、使用するまで−80℃で保存した。LacZをコードするアデノウイルスベクター(AxCAZ3)はヒト胚腎由来293細胞で増殖させ、CsC1不連続密度勾配を用いた超遠心法により精製した後、10% glycerol添加PBSで透析後、使用するまで−70℃で保存した。使用前に、ウイルスストック中のアデノウイルスの濃度、タイター、および複製能を持つアデノウイルスのコンタミネーションを評価した。アデノウイルスのタイターは、293細胞を用いたLD50(pfu,plaque forming units)およびA260測定(opu,optical particle units)により決定した。
ラット新生児心筋細胞でのアデノウイルスベクターおよびセンダイウイルスベクターによるLacZ遺伝子発現を以下のように検討した。ラット新生児心筋細胞分離を、以下のように行った。Lewisラット新生児を深麻酔下に心を摘出し酸素飽和Tyrode’s液(143mM NaCl,5.4mM KCl,1.8mM CaCl,0.5mM MgCl,0.33mM NaHPO,5.5mM glucose,5.0mM HEPES)に浸し心室筋を分離した。得られた心室筋をcollagenase(5mg/ml,Wako Pure Chemical Industries)含Ca2+−free Tyrode’s液にて37℃1時間インキュベーションし心筋細胞を単離した。単離したラット新生児心筋細胞はKB液(50mM L−glutamic acid,40mM KCl 40,20mM taurine,20mM KHPO,3mM MgCl,10mM glucose,0.5mM EGTA,10mM HEPES)内で5分間ピペッティングし細胞懸濁液を作製し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM中、5×10/wellの濃度で24well plateに播種した。
ラット新生児心筋細胞への遺伝子導入は以下のごとく行った。上記のようにラット新生児心筋細胞を5×10/wellの細胞密度で24well plateに播種、翌日ウイルスベクター感染を行った。SeVLacZまたはAxCAZ3を2% Fetal bovine serum(FBS)添加Dulbeco’s modified Eagle Medium(DMEM)にて希釈した各種multiplicity of infection(moi,SeVベクターについてはCIU/cells、Adベクターについてはpfu/cells)のウイルス液にてラット新生児心筋細胞に37℃1時間感染した。その後、Phosphate Buffered Saline(PBS)を用い洗浄後、10%FBS添加DMEMにて24時間培養し、LacZ発現を検討した。LacZ活性はbeta−gal Reporter Gene Assay Kit(Rosche)とbeta−galacosidase標準標本(Rosche)を用い、beta−galacosidase酵素活性を定量的にて検討した。
結果を図10に示した。SeVLacZおよびAxCAZ3は両者とも、高moi(>30moi)ではラット心筋細胞において導入遺伝子の高発現をもたらすことが示された。SeVは10moi以下の低moiによる感染でも高いレポーター遺伝子の発現を示し、ウイルス濃度依存性にその発現は増加し30moi以上でほぼプラトーに達した。一方Adベクターのラット新生児心筋細胞での遺伝子導入はウイルス濃度依存性であり、100moiのウイルス濃度でも最大発現量に達していなかった。Adベクター10moiとSeVベクター1moiのラット新生児心筋細胞LacZ発現はほぼ同等であり、特に低moi(10moi以下)ではSeVベクターの遺伝子導入効率はAdVと比較し高かった。次にウイルス液曝露時間のラット新生児心筋細胞への遺伝子導入に与える影響を検討した。アデノウイルスベクターでは、心筋細胞へのin vitro遺伝子導入において導入遺伝子を最大に発現させるには長時間(120分以上)が必要であった。それに対し、SeVベクターでは、ウイルス液を同条件で短時間(30分以内)暴露させるだけでも導入遺伝子の最大発現を得るのに十分であった。
[実施例10] SeVベクター心筋内投与による遺伝子発現
ラット新生児心筋細胞でのSeVベクターによる効率的な遺伝子発現が確認されたが、in vivo心筋内投与による心臓での遺伝子発現は未だ報告がなく不明である。そこで正常ラット心に各種濃度のLacZ発現AdベクターまたはSeVベクターを心筋内投与し、3日後に屠殺し心臓でのレポーター遺伝子発現を検討した。ラット心におけるin vivoにおけるベクターからの遺伝子発現の評価は以下にように行った。Lewisラットをジエチルエーテル吸入および塩酸ケタミン50mg/kg,キシラジン2.5mg/kgを腹腔内投与にて麻酔後、挿管した。その後、左側胸部より開胸し、30G針をつけたシリンジで様々なタイターのSeVLacZまたはAxCAZ3を心尖部中に心筋内投与した。遺伝子導入の72時間後にラットを屠殺しLacZ発現を評価した。
結果を図11に示した。図から分かるように、心臓でのレポーター遺伝子発現はウイルスベクターの容量依存性に増加した。また3.3×10opuのAdベクターと1×10CIUのSeVベクターはほぼ同等のレポーター遺伝子発現を示した。
[実施例11] SeVベクター静脈・心筋内投与による遺伝子発現臓器分布
心筋内投与後、オーバーフローなどにより流血中にウイルスが混入した際の他臓器での発現は副作用を誘発する可能性もあり臨床的には極めて重要な問題である。しかしSeVベクター静脈投与後の遺伝子発現臓器分布の報告はない。そこで静脈投与後および心筋投与後の遺伝子発現臓器分布を検討した。
1×10CIUのSeVLacZを正常ラット陰茎静脈より投与し、72時間後に屠殺し心、右肺、肝、右腎、脾を摘出しLacZ発現を測定した。また同様に1×10CIUのSeVLacZまたは1x10〜1x1010opuのAxCAZ3を正常ラット心筋内投与し72時間後に屠殺し、心、右肺、肝、右腎、脾を摘出しLacZ発現を測定した。
LacZ発現の測定には、摘出臓器をLysis Buffer(100mM potassium phosphate,pH7.8,0.2% Triton X−100,1mM dithiothreitol,0.2mM phenylmethylsulfonyl fluoride,5μg leupeptin)存在下でホモジェナイズした。12,500xg,10min遠心後、上清中の内因性β−galacosidase活性を失活するため48℃、1時間インキュベートした(Young DC,Anal.Biochemi.215,24−30,1993)。上清中の酵素活性はβ−gal Reporter Gene Assay Kit用い室温で1時間反応後、化学発光をMini−Lumat LB9506(Bethold)を用い測定した(Shaper NL et al.J.Biol.Chemi.269(40),25165−25171,1994)。得られた結果(Relative light units)はβ−galacosidase標準標本を用いた標準曲線により、β−galacosidase活性(pg/ml)に変換した。
結果を図12に示した。静脈投与後のAdベクター導入外来遺伝子は良く知られているように大部分は肝臓で発現していた。一方SeVベクターでは肺・心・脾での遺伝子発現を認めたもののAdVと異なり肝でのレポーター遺伝子発現は殆んど認めなかった。図に示した結果は全臓器(肺は右肺、腎は右腎)抽出液による結果であり臓器重量を考慮すると肺>脾>心の順に高い遺伝子発現が認められた。心筋内投与後の遺伝子発現の臓器分布でも静脈投与とほぼ同様の遺伝子発現の臓器分布パターンを認め、ベクターオーバーフローによる他臓器遺伝子発現の標的臓器が肺および脾であることが明らかとなった。
[実施例12] SeVを用いたAng1遺伝子導入による心筋梗塞治療
SeVベクターによるヒトangiopoietin−1(Ang1)遺伝子を用いた心筋梗塞治療を以下のように実施した。上記のアデノウイルスベクターを用いたAng1遺伝子治療では1×1010opu(7.5×10pfu相当)のアデノウイルスベクターを用いたが、SeVベクターによる心筋細胞(in vitro)および心臓(in vivo)へのLacZ遺伝子導入においてAdベクターに比べ比較的高い遺伝子導入効率がえられたので、5×10CIUのSeVAng1心筋内投与によるラット心筋梗塞治療を試みた。Lewisラット左冠状動脈前下行枝結紮直後に5×10CIUのSeVAng1をLAD還流域周囲の左室前壁に2カ所に分け注射し、4週間後に心筋梗塞域・毛細血管数を組織学的に検討した。
ラット心筋梗塞モデルはPfefferら(Pfeffer,M.A.,et al.(1979).Myocardial infarct size and ventricular function in rats.Circ Res.44:503−512)の方法に従い作製した。Lewisラット(8週齢、雄、体重約300g)をジエチルエーテル吸入およびケタミン70mg/kg,キシラジン6〜7mg/kgを腹腔内投与にて麻酔後,挿管した。その後、分時換気量200〜250ml、1回換気量3ml、呼吸回数60〜80回/min、O11/min、ハロセン0.5〜2.0%の条件で吸入麻酔を行い、左側胸部より開胸した。左冠状動脈前下行枝(LAD)を確認し6−0の非吸収糸(ナイロン糸)を用い,左前下行枝を左心耳の高さで結紮した(LAD ligation)。肺を傷つけないように肋間を閉じた後,筋層,皮膚と連続縫合にて閉創した。
SeVベクターの心筋内投与は以下のごとく施行した。左前下行枝の結紮後、左前下行枝還流域と推定される領域周辺部左右2ヶ所に30G針を用い5×10CIUのSeVAng1を心筋内投与した。Null群としては、SeVAng1の代わりに5×10CIUのSeVNullを注入した。陰性対照群は0.9%生理食塩水を注入した。
心筋梗塞4週後の梗塞域のサイズをEdelbergら(Edelberg JM et al.Circulation 105,608−613,2001)の方法およびにRobertsらの方法(Roberts CS et al,Am.J.Cardiol.51,872−876,1983)に従い測定した。モデル作製後、4週後にラットを屠殺し梗塞心を摘出formaldehide固定、parrafin包埋した。左前下行枝結紮部と心尖部の中間部位にて短軸方向に切片を作製、Hematoxyline−eosin染色、Masson’s trichrome染色にて梗塞部を染色した。切片をDigital Cameraにて取り込みNIH imageにて以下のパラメーターをブラインドにて測定した。
総左心室(LV)域(Total left ventricle(LV)area)(mm),梗塞域(infarction area)(mm),中隔壁厚(septal wall thickness)(mm),梗塞壁厚(infarction wall thickness)(mm),LVの心外膜側周および心内膜側周(epicardial and endocardial circumference of LV)(mm),心外膜側および心外膜側の梗塞長(epicardial and endocardial infarction length)(mm)。
これらの結果から以下の式を用い評価を行った。
%梗塞サイズ(% infarction size)=梗塞域(infarction area)/総LV域(total LV area)x 100
%梗塞厚(% infarction thickness)=前壁(梗塞)厚(anterior wall(infarction)thickness)/中隔壁厚(septal wall thickness)x 100
Viable LV area,(total LV myocardial area)−(infarction myocardial area)
また、心筋梗塞作製4週後の心筋内血管密度の評価を、CD34モノクロナール抗体を用いた血管内皮細胞の免疫組織染色により行った。1次抗体としてAnti−CD34MoAb(NU−4A1,Nichirei,Tokyo Japan)使用し、ビオチン化anti−Mouse IgG2次抗体とアビジン化HRP(DAB paraffin IHC staining module,Ventana Medical System Inc,Tuson,AZ)を用い染色した。心室中隔、梗塞部周辺領域、心筋梗塞巣内残存心筋での切片内の血管数を200倍拡大し顕微鏡下でブラインドにて測定した。結果は血管数/mmで表記した。
SeVAng1による心筋梗塞治療後の梗塞サイズおよび梗塞厚を図13に示すが、コントロールベクターであるSeVNullの心筋投与では明らかな心筋梗塞サイズおよび梗塞厚に改善を認めなかったのに対し、SeVAng1投与群ではAng1発現アデノウイルスによる心筋梗塞治療と同様に有意な梗塞巣縮小および梗塞厚増加を認めた。また血管数評価でもSeVAng1治療群において梗塞周囲心筋および梗塞巣での有意な毛細血管増加が観察された(図14)。このように比較的少量のウイルス力価のSeVAng1でもラット心筋梗塞モデルに対しAdベクターと同様の治療効果が認められた。
[実施例13] ラット下肢虚血モデルに対するSeVAng1の治療効果
Lewisラット(8週齢、雄、体重約300g)をジエチルエーテル吸入およびケタミン40mg/kg,キシラジン4mg/kgを上肢への筋肉内投与にて麻酔した。両側下肢の悌毛後、腹部および左鼠径部を切開し右腸骨動脈と右大腿動脈その全分枝を露出した。右腸骨動脈と分枝を結紮後さらに左大腿動脈起始部、膝窩動脈と伏在動脈の分岐部直前で同様に結紮した。また左大腿動脈の他の全分枝を確認・結紮後、左大腿動脈を切除・除去した。手術時にSeVベクター5×10CIUを大腿直筋2ヶ所に30G針を用い5×10CIUを投与した。出血の無いことを確認後、切開創を縫合閉鎖し手術を終了とした。Null群としては、SeVAng1の代わりに5×10CIUのSeVNullを注入した。陰性対照群は0.9%生理食塩水を注入した。
レーザードップラー血流イメージ解析は次のようにして実施した。Laser Doppler system(Moor LDI,Moor Instruments,Devon,United Kingdom)を使用して下肢血流測定を連続的に虚血後2週間(虚血後1、3、7、148日)にわたり実施した。血流測定はエーテルによる吸入麻酔後、ケタミン(25mg/kg)及びキシラジン(2mg/kg)による麻酔にて鎮静し、37℃の環境下で10分間保温した後に測定した。連続血流測定は同一ラットの同一領域において実施され、得られた血流イメージより両肢の足部および腓腹部の平均血流量を解析後、測定条件による影響を少なくするため正常側(右下肢)の血流に対する虚血側(左下肢)の血流の比(組織血流比:虚血側血流/正常側血流)を算出した。
ラット下肢虚血モデル作製3日後の患肢血流は生食群で健肢の45%、コントロールSeVベクター群(SeVNull)で48%と重度の血流障害が認められた。一方、SeVAng1群の3日後の患肢血流は63%と有意に高かった。この生食群、SeVNull群とも虚血モデル作製7,14日後には患肢血流の自然回復を認めたがSeVAng1投与によりこの血流回復は促進され、14日後には健常肢の87%まで改善した(図15)。
[実施例14] Ang1遺伝子導入間葉系細胞を用いた虚血肢治療
間葉系幹細胞(MSC)は骨、脂肪など間葉組織のみならず心筋組織、筋組織などへの分化が示されている。また種々の血管新生因子を分泌し血管新生を誘導する可能性が示されている。本実施例では、MSC移植による組織血流改善効果を遺伝子治療と比較した。また虚血治療用の遺伝子修飾MSCを作製した。
ラット心間葉系幹細胞(MSC)を既報(Tsuda,H.,T.Wada,et al.(2003)Mol Ther 7(3):354−65)に準じLewisラット大腿骨より分離した。両端を裁断した大腿骨を注射器により10%FBS添加Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)をフラッシュし骨髄を回収した。骨髄浮遊液を18,20,22G注射針に順に通すことにより骨髄細胞浮遊液を作製した。得られた骨髄細胞を5×10有核細胞/10cm培養皿の濃度で播種し培地(10%FBS、100micro g/ml streptomycin,0.25micro g/ml amphotericine,2mM L−glutamine添加DMEM)にて4日間培養した。3〜4日ごとに培地を交換し、浮遊細胞を除去し、付着細胞を系代培養しラットMSCとして用いた。
ラット下肢虚血モデルを実施例13と同様に作製し5×10のラットMSCを虚血作製直後に大腿直筋内に投与した。遺伝子治療群としてangiopoietin−1(Ang1)遺伝子を発現するセンダイウイルスベクターを用いた。Laser Dopplerを用い、経時的に組織血流(患側/健側)を測定した。虚血3日後、対照(medium)群の血流比は48.2%と重度の虚血が確認され、7日目には60%に回復し、その後プラトーとなった。MSC投与群の3,7日目の血流は対照群と差を認めず、14日目に89%と有意な血流改善を認めた。一方、遺伝子治療群では3日目より63%と早期血流改善を認め14日目には87%に達した。
遺伝子・細胞治療両者の利点を合わせた遺伝子修飾MSCを作製した。MSCは物理・化学的遺伝子導入やレトロウイルス・アデノウイルスなどのウイルスベクターに比較的抵抗性であることが知られている。そこで多くの初代培養細胞に高い遺伝子導入効率を示すセンダイウイルスベクターによるラット間葉系幹細胞への遺伝子導入を試み、その効率をアデノウイルスベクターと比較検討した。
ラットMSCへの遺伝子導入は以下のごとく行った。ラットMSCを2.5×10/wellの細胞密度で24well plateに播種、翌日ウイルスベクター(SeVLacZまたはAxCAZ3)感染を行った。SeVLacZまたはAxCAZ3を2% Fetal bovine serum(FBS)添加Dulbeco’s modified Eagle Medium(DMEM)にて希釈した各種multiplicity of infection(moi,SeVベクターについてはCIU/cells、Adベクターについてはpfu/cells)のウイルス液にてラット新生児心筋細胞に37℃1時間感染した。その後、Phosphate Buffered Saline(PBS)を用い洗浄後、10%FBS添加DMEMにて24時間培養しLacZ発現を検討した。LacZ活性はβ−gal Reporter Gene Assay Kit(Rosche)を用い測定した。
結果を図16に示す。SeVは3moi以下の低moiによる感染でも高いレポーター遺伝子発現を示し、ウイルス濃度依存性にその発現は増加し30moi以上でほぼプラトーに達した。一方AdベクターのラットMSCでの遺伝子導入はウイルス濃度依存性ではあるが、今回比較したいずれのウイルス濃度でも遺伝子発現は悪く30moi以下ではSeVベクターによる遺伝子発現の1/100以下であった。100moiでのSeVベクター、AdベクターによるLacZ遺伝子導入MSCのX−gal染色の結果、Adベクターでは陽性細胞は比較的少なかったのに対し、SeVベクターではほぼ100%の細胞がLacZ陽性であった(図17)。
Ang1遺伝子を導入したMSCを用いてラット重症虚血肢モデルの虚血治療を行った。間葉系幹細胞(MSC)はLewisラット(8wo,M)より既報(Tsuda,H.,T.Wada,et al.(2003)Mol Ther 7(3):354−65)に従い分離、培養した。得られたMSCはmoi 2の条件で37℃、一時間のSeV/Ang1感染により遺伝子導入MSCを作製した。遺伝子導入から24時間後、5×10の遺伝子導入MSCをラット下肢虚血モデルに投与した(モデル作製は実施例13と同様)。遺伝子改変MSCの注入は虚血直後に行った。その後、レーザードップラー血流イメージ解析により肢の血流を調べた。データは%血流(虚血側血流/正常側血流 x 100)で表した。Ang1遺伝子導入MSCsの移植により虚血肢の血流は治療3日後より対照に比べ有意な血流改善を示した(図18)。7日後には、その改善度はSeV/Ang1の直接投与に比べても良好な血流改善が得られた(図18)。
[実施例15] マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いた遺伝子導入
以下の哺乳動物細胞を用いて、マイナス鎖RNAウイルスベクターの遺伝子導入効率を、アデノウイルスベクターと比較した。
(1)培養細胞株
LacZ遺伝子を発現するSeVベクター(SeV−LacZ)またはアデノウイルスベクター(AxCAZ3)を、様々な濃度でHeLa細胞に1時間感染させた。ベクター感染から24時間後に、β−ガラクトシダーゼレポーターアッセイキットまたはX−gal染色により、LacZ活性を測定した。SeVベクターは、MOI 10以下(特にMOI 0.3〜3)の低MOI条件において、導入遺伝子の発現量がアデノウイルスベクターに比べ極めて高いことが判明した(図19A)。遺伝子導入細胞をX−gal染色により確認したところ、SeVベクターを用いた場合、遺伝子導入された細胞の割合は、アデノウイルスベクターを用いた場合よりもはるかに高く、個々細胞における導入遺伝子の発現量も、アデノウイルスベクターによる場合よりも有意に高いことが判明した(図19B)。
(2)ヒト口腔扁平上皮癌
アデノウイルスベクター(AxCAZ3)による遺伝子導入に対して抵抗性を示すヒト口腔扁平上皮癌細胞株HSC3(JCRB Cell Bank:JCRB0623,Rikimaru,K.et al.,In Vitro Cell Dev.Biol.,26:849−856,1990)およびOSC19(JCRB Cell Bank:JCRB0198,Yokoi,T.et al.,Tumor Res.,23:43−57,1988;Yokoi,T.et al.,Tumor res.,24:57−77,1989;Kawahara,E.et al.,Jpn.J.Cancer Res.,84:409−418,1993;Kawahara,E.et al.,Jpn J.Cancer Res,84:409−418,1993;Kawashiri,S.et al.,Eur.J.Cancer B Oral Oncol.,31B:216−221,1995)に対する遺伝子導入効果を検討した。SeV−LacZまたはAxCAZ3を様々なMOIで1時間感染後、β−ガラクトシダーゼレポーターアッセイキットによりLacZ活性を定量した。OSC19およびHSC3とも、調べた全てのMOIにおいて、SeV−LacZによる遺伝子導入はAxCAZ3より良好であった(図20)。特に野生型アデノウイルスおよびインテグリン標的としたアデノウイルス(adenovirus with RGD−modified fiber)(Dehari H,Ito Y et al.Cancer Gene Therapy 10:75−85,2003)に対しても抵抗性を示し遺伝子導入が極めて困難であったHSC3に対しても良好な遺伝子導入が確認された。このようにSeVベクターは、口腔扁平上皮癌細胞への遺伝子導入に非常に適している。
(3)ヒトマクロファージおよび樹状細胞
ヒトマクロファージおよび樹状細胞へのSeVベクターによる遺伝子導入を、アデノウイルスベクターを比較した。LacZを発現するSeVベクターおよびアデノウイルスベクターをMOI 1で1時間感染させ、ベクターの感染から24時間後にβ−ガラクトシダーゼレポーターアッセイキットを用いてLacZ活性を測定した。SeVベクターは、アデノウイルスベクターの1000倍以上の発現量を示した(図21)。従ってSeVベクターは、マクロファージおよび樹状細胞への遺伝子導入に非常に適している。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、虚血疾患に対する新たな遺伝子治療剤および治療方法が提供された。本発明の方法は、副作用の少ない、安全で効果的な虚血治療法として優れている。現在、急性心筋梗塞に対する治療はPTCA(経皮冠動脈形成術)・CABG(冠動脈バイパス術)など外科的な血行再建術が主体であるが、本発明の方法を用いることにより遺伝子工学的な血管再生促進が可能となる。これにより、心機能の積極的な改善、病床期間の短期化が期待される。また、四肢虚血等の治療においても、本発明の方法は優れた治療効果を発揮する。
【配列表】






















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性心疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターを投与する工程を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の虚血性心疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターを投与する工程を含み、血管内皮増殖因子を投与しない方法。
【請求項3】
アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターが、アンギオポエチン−1をコードするウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ウイルスベクターがマイナス鎖RNAウイルスベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターがnaked DNA(裸のDNA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターが、CAプロモーターあるいはCAプロモーターと同等またはそれ以上の転写活性を有するプロモーターによりアンギオポエチン−1の発現を駆動するベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アンギオポエチン−1またはアンギオポエチン−1をコードするベクターの投与が心筋への注入である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
虚血疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1をコードするウイルスベクターを投与する工程を含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の虚血疾患の治療方法であって、アンギオポエチン−1をコードするウイルスベクターを投与する工程を含み、血管内皮増殖因子を投与しない方法。
【請求項11】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ウイルスベクターがマイナス鎖RNAウイルスベクターである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
ベクターの投与が虚血部位への注入である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
アンギオポエチン−1をコードする外来遺伝子を有する、遺伝子改変された間葉系細胞。
【請求項15】
アンギオポエチン−1をコードするアデノウイルスベクターが導入されている、請求項14に記載の間葉系細胞。
【請求項16】
アンギオポエチン−1をコードするマイナス鎖RNAウイルスベクターが導入されている、請求項14に記載の間葉系細胞。
【請求項17】
請求項14に記載の間葉系細胞および薬学的に許容される担体を含む虚血治療組成物。
【請求項18】
遺伝子改変された間葉系細胞の製造方法であって、遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを間葉系細胞に接触させる工程を含む方法。
【請求項19】
遺伝子がアンギオポエチン−1をコードする、請求項18に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/074494
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502672(P2005−502672)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000957
【国際出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【出願人】(595155107)株式会社ディナベック研究所 (22)
【Fターム(参考)】