蛍光アッセイ法
本発明は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含む第1のグループであって、該ランタニドイオンキャリアキレートが、ランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンとを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用いる検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法であって、該ランタニドイオンキャリアキレートが、該ランタニドに強く結合し、すなわちlogKLnL1は少なくとも18であって、KLIIUは、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味し;または該ランタニドイオンキャリアキレートが該ランタニドに中程度に結合し、すなわちlogKLnL2は少なくとも12であって、KLnL2は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味し;そして該ランタニドイオンを錯化する薬剤とランタニドイオンとの溶液中での安定度定数logKLnL3(値は少なくとも8)を有する該錯化剤が付加的に少なくとも1pmol/lの濃度で用いられるバイオアッセイ法に関する。アンテナ配位子は、ランタニドイオンに弱く結合し、すなわちアンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである。該第1のグループの該第1認識エレメントによる、および該第2のグループの該第2認識エレメントによる検体の認識は、キレート相補、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートの該アンテナ配位子との相補による混合ランタニドキレート錯体の形成、そしてそれによる蛍光の増加、またはキレート脱相補、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、そしてそれによる蛍光の減少のいずれかを生じる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を説明するために本明細書中において使用される刊行物およびその他の文献、およびとりわけ実施に関する追加的な詳細を提供するケースは、参考文献として組み込まれる。
【0003】
バイオアフィニティー結合反応または酵素的触媒反応に基づく多数のアッセイが、種々の生物学的試料または環境試験、産業処理および化合物ライブラリーにおける試料から生物学的に重要な化合物、またはそれらの活性またはそれらの生物学的作用、または種々の生物学的試料により誘導される活性や作用のモジュレーションを分析するために開発されている。これらのアッセイのいくつかは、特異的バイオアフィニティー認識反応にもとづいており、たとえば、天然の生物学的結合成分、人工的に生産された結合化合物または成型プラスチックインプリント(分子インプリンティング)が特異的結合アッセイを形成するための認識エレメントとして使用される。他のアッセイは、試料中に存在するかまたは反応中に添加される化合物(たとえば、生物学的に活性な酵素、生体分子に対する活性を有する化学的化合物、酵素基質、酵素活性化剤、酵素阻害剤、酵素モジュレーティング化合物)の活性またはその活性のモジュレーションなどに依存している。このようなアッセイは、一般に、たとえば認識および結合反応の後に形成される複合体を定量するためといった、シグナルを生み出す1つの標識または複数の標識の組み合わせに依存するものである。ヘテロジニアスアッセイにおいては、一般に、たとえば遊離の標識シグナルまたは結合した標識シグナルの画分が測定される前に、分離工程(沈殿および遠心のような分離、濾過、たとえば被覆アッセイチューブ、スライドもしくは微粒子などのプラスチック表面へのアフィニティー回収、溶媒抽出、ゲル濾過、または他のクロマトグラフィーシステムなど)が必要とされる。ホモジニアスアッセイにおいては、標識または複数の標識のシグナルが結合反応または酵素活性、または他の測定される作用によりモジュレートされるかまたは形成され、標識シグナルの測定前に分離工程は必要とされない。ヘテロジニアスおよびホモジニアスアッセイの両方において、遊離または結合した標識の画分からの標識シグナルの測定は、一般に試料中の検体または活性の直接的な計算または一般に未知の試料が比較される標準の使用を介した間接的計算を可能にする。種々の結合アッセイ法は、Principles and Practice of Immunoassay, 2nd ed., C. P. Price and D. J. Newman, eds., Palgrave Macmillan, Hampshire, UK, 2001;およびThe Immunoassay Handbook, 2nd ed. David Wild, ed., Nature Publishing Group, New York, NY, 2001に概説されている。
【0004】
単純で感度が高くかつ定量的であり、好ましくはホモジニアスで多重な核酸ハイブリダイゼーションアッセイの開発が、蛍光標識および検出技術の発展において重要な目標である。ホモジニアスな方法は、結合された標識と遊離の標識との煩わしい分離工程の必要がなく、また自動的にアッセイを行うために必要とされる機器の構造もかなり単純化されるため、より注目されている。さらに、ホモジニアスな方法は、たとえば核酸増幅反応のリアルタイムモニタリングに関係する技術にも必要である[Higuchi, R., et al. (1992) Biotechnology 10: 413-417; Higuchi R., et al. (1993) Biotechnology 11:1026-1030]。核酸ハイブリダイゼーションのホモジニアスで非分離モニタリングに好適な現在利用可能な標識テクノロジーは、なお試料マトリックスの干渉を受け、そのテクノロジーは、普遍的に用いられることができない。たとえば5’ヌクレアーゼアッセイ[米国特許第5,210,015号]には適しておらず、またそれらは必要とされる迅速な読み出しを用いて行われるのに充分な感度で単純には検出できず、また検出に必要とされる機器が複雑または高価過ぎて都合よく構築または小型化できない。
【0005】
フォトルミネッセンスに基づくホモジニアスな検出技術は、幾つかの種類の物理的および化学的相互作用が特定の生体分子複合体の形成による光輝性標識の発光を調節するために採用できるので、さらに注目を集めている。よく用いられる方法は、放出光の偏光、または2つの光輝性化合物(ドナーおよびアクセプター)間または光輝性化合物と非−光輝性化合物(ドナーおよび消光剤)との間の非放射性エネルギー移動(共鳴エネルギー移動)に基づく[Hemmilae I, Clin Chem 1985;31:359-370]。
【0006】
共鳴エネルギー移動
フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)は、近接して存在する2つの適当に選ばれた蛍光分子の間の強く距離に依存した(6乗に反比例する)非放射性エネルギー移動機構である[Foerster, T (1948) Ann Physik 2:55-75]。共鳴エネルギー移動(RET)は、ドナーとアクセプター蛍光団がFoerster半径(典型的な値は4〜7nm)内にあり、ドナーの発光スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルが重なるときに実用的効率となる。RETは、通常、ドナーとアクセプターの近接から生じるドナー発光強度の減少またはアクセプター発光強度の増加(感作アクセプター発光として知られる)[Selvin, PR (1995) Biochem Spectroscopy 246: 300-334]のいずれかを測定することにより観測される。非蛍光アクセプター(消光剤として知られる)の場合、ドナー発光強度の変化が観測される。
【0007】
FRETは、広く用いられており、多くの応用の基幹的な技術であるが、性能に重大な制限があり[Hemmilae, I (1985) Clin Chem 31: 359-370]、実際、RETプローブは真の近接プローブとしての厳しい要件を満たすことはできない。近接プロービングは、2つの近接プローブの近接度(nearness)の検出を可能とする技術であり、そして種々の生体分子の特異的で繊細で迅速な検出に用いられる。近接プローブは通常、結合部分(認識エレメント)または他の認識部位(標的分子、すなわち検体に対する特異的親和性をもって)および標的分子で構成され、2つの類似したまたは異なる近接プローブを隣接位置に結合させることができる。プローブ間の近接とは、したがって2つのプローブが、たとえば標的分子上のそれら別々の結合部位に結合する場合に提供される。真の近接プローブの特徴は、プローブ対が標的分子によってすぐ近くに向けられない場合、それらはいかなる有意なシグナルも生み出さない(すなわち検出できない)が、標的分子の存在下における特異的認識事象によりプローブ対が検出可能な状態に切り換えられるということである。一価の近接プローブを用い、洗浄工程なしで溶液中にて行われる近接プロービングは、国際公開第01/61037号、Schallmeiner et al. (2006) Nature Methods 4:135-137および国際公開第2003/044231号に記載されている。
【0008】
従来のFRETに基づくアッセイは、i)アクセプターの直接励起(アクセプターは、ドナーが励起されるのと同じ波長で弱く励起される)、ii)ドナー発光のクロストーク(ドナーはアクセプター発光が測定されるのと同じ波長でいくらか発光する)、iii)かならずしも近接を必要としないアクセプター蛍光団によるドナー発光(光子)の吸収を介した放射性エネルギー移動(ほとんど距離に依存しない;2乗に反比例する)、およびiv)バックグラウンドシグナルを生じる散乱励起光および自己蛍光(試料、他のアッセイ成分、プラスチックおよび検出機器自体から)の影響を受ける。したがって、従来の蛍光団およびRETプローブは、近接プローブ結合原理に必要とされるシグナル発生における特異性を提供するものではない。さらに、個々のドナー−アクセプター対の広範なスペクトル範囲により、多様な(multiparametric)FRETに基づくアッセイにおいて2つよりも多いパラメータを同時に測定することは難しい。
【0009】
時間分解蛍光測定法
従来の蛍光に基づく技術の検出感度は、生物学的試料マトリクスの自己蛍光、散乱励起光および吸収により制限され、アクセプターに基づく共鳴エネルギー移動に基づくアッセイにおいては、アクセプター特異的発光波長でのドナー発光のクロストークやドナー特異的励起波長でのアクセプターの直接励起によっても制限される。生物学的液体または血清に存在する多くの化合物やタンパク質は、もともと蛍光を発し、従来の蛍光団(fluorophore)の使用によりその感度が甚だしく制限される[Soini E and Hemmilae I (1979) Clin Chem 25: 353-361; Wu P and Brand L (1994) Anal Biochem 218:1-13]。強度測定に基づくホモジニアスな蛍光技術を使用した場合の別の主な問題は、内部フィルター効果および試料の光学特性のばらつきである。この欠点を是正するために試料希釈が使用されているが、常に分析感度が犠牲となる。分析応用における蛍光共鳴エネルギー移動の実行可能性は、長寿命発光と大きいストークシフトを有する蛍光ランタニドクリプタートおよびキレートが1990年代にドナーとして用いられると、著しく改善した[Mathis G (1993) Clin Chem 39:1953-1959; Wu P and Brand L (1994) Anal Biochem 218, 1-13; Selvin PR et al. (1994) Proc Natl Acad Sci U S A 91:10024-10028; Stenroos K et al. (1998) Cytokine 10:495-499;国際公開第98/15830号;米国特許第5,998,146号;国際公開第87/07955号; Blomberg, K et al. (1999) Clin Chem 45:855-61]。
【0010】
ランタニドキレートおよびクリプタートは、伝統的な有機蛍光団と比較して検出能が増強されているため、最近は多様な生体分子の分析において広く使用されている。ランタニド(希土類元素、たとえば三価のユーロピウム、テルビウム、サマリウムおよびジスプロシウム)の発光キレートは、光輝性化合物の特別なグループである[Buenzli, JCG and Piguet, C (2005) Chem Soc Rev 34: 1048-1077]。ランタニドイオンは、それら自身は非常に低い吸収を示し、加えてランタニドの励起状態は、配位された水分子により効率よく消光される。したがって、それらの励起に対するただ1つの現実的な解決法は、本来発光性のランタニド(III)キレートにおいて有機アンテナ発光団などの集光性部分を含む配位子を使用することである。実際、効率的なアンテナ配位子にキレートしたランタニドイオンのフォトルミネッセンス効率(吸収係数と量子収率の積)は、全ての配位水分子を置換した場合、裸イオンと比較して100,000倍まで容易に増強することができる。さらに、ランタニドイオンに対する明確な発光バンド特性が4つまでの異なるランタニドを最小スペクトルクロストークで同時測定することを可能にする。ランタニドの発光特性は、生物学的材料由来のバックグラウンドノイズの効率的な分離をも可能にし、したがってアッセイの感度が上昇する[J. Yuan, G. Wang (2005) J Fluoresc. 15, 559]。
【0011】
有機集光性アンテナ部分または発光団を含む適切なキレート(たとえば、アミノポリカルボン酸)と錯体形成したランタニドイオンは、従来の蛍光団と比較して独特の蛍光特性を有する:大きなストークシフト(150〜300nm)、ランタニドイオンに対する狭くて明確な発光バンド特性、および長い発光寿命(2000マイクロ秒まで)。その並外れた蛍光寿命により、バックグラウンド蛍光(短命)が消えて崩壊し、ランタニド発光がまだ充分な強度である場合のみ検出が行なわれる、そういった時間的なゲート(典型的には数100マイクロ秒)の選択による効率的なバックグラウンド分離を可能とする。さらに、大きなストークシフトおよび狭い発光バンドは、スペクトル的にランタニド発光を選択するための効率的な波長フィルタリングを可能とし、結果として高い感度のレポーター技術(酵素増幅化学発光と同レベルの性能)と多重パラメータ測定の可能性を生じる。その技術は、(マイクロ秒)時間分解蛍光測定法として知られる専用の検出法を利用する[Soini E and Kojola H (1983) Clin Chem 29: 65-68]。発光ランタニドキレートの長寿命蛍光は、典型的には紫外線または青色可視光で励起され[Yang C, et al. (2004) Angew Chem Intl Ed 43:5010-5013]、そして発光は緑色および赤色可視波長で検出される。エルビウム、ネオジムおよびイッテルビウムの場合、可視波長で励起することができ、可視または赤外波長で発光できる[Werts, M.H.V., et al. (1997). Chem Phys Lett 276: 196-201]。また、白金(III)およびパラジウム(III)も、ポルフィリンに錯化した場合、同様のスペクトル特性および時間特性を有することに注目すべきである[de Haas, R.R., et al. (1999) J Histochem Cytochem 47:183-196]。
【0012】
有機集光性アンテナがエネルギー移動を介して放出性ランタニド(III)イオンを励起させるために使用されるようなランタニド(III)キレートの励起機構は、蛍光レポーターの中でも例外的なものである[Hemmilae, I. and Laitala, V. (2005) J Fluoresc 15: 529-542]。発光ランタニド(III)キレートは、反応性官能基、集光性アンテナおよびキレート基(groups)を含み、キレート基がランタニド(III)イオンを配位結合によりキレートする。有機集光性発光団は、最初に、光吸収により基底一重項状態(S0)から第一一重項状態(S1)に励起され、そして発光団は項間交差(ISC)により三重項状態(T1)への遷移を受ける。アンテナ発光団の三重項状態は、励起エネルギーをランタニド(III)イオンの適切な4fエネルギーレベルに移動できる。その後、ランタニドイオンは、明確な発光バンドと禁制遷移の故に長い発光寿命とを有する特有のf−f遷移発光を生み出す。
【0013】
効率的な集光性アンテナを含有する安定なランタニドキレート構造の開発は、本来難しいものであった。この問題は、ヘテロジニアスアッセイにおいては、生体分子結合剤をイオンキャリアキレートで標識し、そのキャリアキレートからイオンを解離し、新しい強い蛍光を発するランタニド錯体を形成するために別のキレート溶液(低pH)を用いることにより回避された。標識化に使用されたイオンキャリアキレートは、ランタニドイオンおよびキャリアキレートに加えて共有結合(coupling)のための反応性官能基を含有する。
【0014】
金属のキレート錯体(配位化合物)は、配位子(またはキレート分子)の金属イオンへの配位官能基を介した結合により形成される。配位子の中心金属への接合点(points of attachment)の総数が配位数と呼ばれる。配位子は、接合点により特徴付けることができ、単座、二座などとして挙げられ、歯(くぼみ)の概念が、キレートにおける金属中心に結合された原子の数を反映している。キレート(またはキレート錯体)は、少なくとも1つの単一の配位子であって少なくとも2つの歯(二座と呼ばれる)を有する配位子、およびその配位子によって結合される少なくとも1つの金属イオンを含む化合物である。溶液中のキレート錯体の安定性は、金属(カチオン)の配位子(中性またはアニオン性)への会合(association)に対する安定度(または形成)定数の大きさにより説明される。安定度(または生成)定数が大きくなるほど、配位子の存在下で錯体化される金属の占める割合が高くなる。多重配位子の結合に関しては、段階的な安定度定数を定義することができ、安定度定数は、その結果段階的な安定度定数の積となる。安定度定数は数10変動するので、値は通常対数(log 10)として表される。多座配位子は単座配位子より強い金属イオン錯体を形成する。典型的には、安定度定数は配位子の配位座の数と共に増加するが、加えて配位子の構造も重要である。結合する配位子の立体配座の自由度を減じる輪状または環状構造もまた、しばしば高い安定度定数を結果として生じる。ユーロピウム(III)錯体に対する安定度定数の決定は、たとえばWu, SL and Horrocks, WD(1997) Journal of the Chemical Society-Dalton Transactions 1497-1502などに記載されている。典型的には、周期表の隣のランタニド(たとえば、Eu(III)とGd(III))は、同じ配位子で非常に似通った安定度定数を有する。
【0015】
安定度(または生成)定数は、配位子は完全に脱プロトン化され、プロトンは金属イオンへの結合と有意には競争しないアルカリ条件でのランタニドキレートの最大安定度を表す。pHおよび配位子のプロトン化を考慮する、条件安定度定数(有効生成定数としても知られる)は、生理的pHや典型的なバイオアッセイにおける(prevailing)条件などでの錯体の実際の安定性を説明するためにより適切である。用語「ユーロピウム(III)錯体に対する条件安定度定数の決定」の説明は、Siaugue, J.M. et al. (2003) J Photochem Photobiol A: Chem 156:23-29により記載されている。
【0016】
安定度定数および生理的pHでの条件付安定度定数の両方の例、ならびに動力学的安定性データは、Thomsen, H.S.およびWebb, J.A.W, Springer, Berlinによる第2改訂版2009のMedical Radiology, pp.155-160のMorcos, S.K. (2007) “Chelates and stability”に記載されている。安定度定数の多数のコレクションは、アカデミック ソフトウェア(Academic Software)、ヨーク、英国から市販されているIUPAC安定度定数データベースに蓄積されている。
【0017】
イオンキャリアキレートおよび別のキレート溶液に基づく技術は、分解増強ランタニド蛍光免疫測定(dissociation enhanced lanthanide fluoroimmunoassay)アッセイとしても知られていた[米国特許第4,565,790号;Hemmilae, I et al. (1984) Anal Biochem 137: 335-343; Soini, E and Loevgren, T (1987) CRC Crit Rev Anal Chem 18: 105-154; and Siitari, H et al. (1983) Nature 301: 258-260]。その技術は、ヘテロジニアス生体分子結合アッセイにおいて広く適用されており、後に、より低いpHでランタニド錯体を形成することができるアンテナ配位子を利用することにより分解の速度を上げるために改良されている[国際公開第2003/076939号、米国特許第7,211,440号、米国特許7,381,567号および欧州特許出願1 483 582号]。増強に基づくアッセイは、通常やや強いアミノポリカルボキシレートに基づくランタニド(III)イオンキャリアキレート(EDTAおよびDTPAの誘導体など、米国特許第4,822,594号および米国特許第6,190,923号に説明されている)を標識試薬として利用し、増強溶液中のβ−ジケトンに基づくアンテナ配位子を利用し発光を生み出す。また、イオンキャリアキレートおよびDOTAおよびTETAに基づく標識試薬も、示されている[Hemmilae, I. (1995) J. Alloys Comp 225: 480-485]。標識のための配位子を誘導体化するために、たとえばDOTAの1つのカルボン酸を生体分子に結合(attachment)するための官能基で置換することができる。しかしながら、分解増強のために使用されるランタニド(III)イオンキャリアキレートの安定性は中程度であり、分解速度は特に低pHでかなり速くなければならず、そうでなければイオンは蛍光増強のために充分なほど速くは放出されない。一方、ガドリニウム(III)イオンのための非常に安定なキャリアキレートの開発は、磁気共鳴映像のための造影剤の開発に集中している[Bruecher, E. (2002) Topics in Current Chemistry 221: 103-122; Thomsen, H.S.およびWebb, J.A.W, Springer, Berlinによる第2改訂版2009のMedical Radiology, pp.155-160のMorcos, S.K. (2007) “Chelates and stability”;およびWoods, M. et al. (2006) Journal of Supramolecular Chemistry, Vol. 2. 1-15]。
【0018】
数個の本来蛍光であるランタニドキレートが開発されている[Alpha, B et al. (1987) Angew Chem Int Ed Engl 26: 1266-1267; H. Takalo et al. Bioconjugate Chem. 1994, 5, 278; Takalo, H et al. (1997) Helv Chim Acta 80: 372-387; von Lode, P et al. (2003) Anal Chem 75: 3193-3201; Beeby, A. (2000) J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1281-1283; Hakala, H. et al. (2002) Inorg Chem Comm 5: 1059-1062; Li, M. and Selvin, P.R. (1995) JACS 117: 8132-8138;および国際公開第2005/021538号]。これらの安定で発光性のランタニド錯体は、いくつかのランタニド[ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、サマリウム(III)およびジスプロシウム(III)]に関するクリプタートおよび強い発光性のキレート(主にアミノポリカルボン酸に基づくキレート構造)の両方を含む。キレート配位子は、ランタニド(III)イオンと集光性部分のやや強いまたは強い結合を1つの同じ分子に兼ね備えるように設計され、そしてそれらはFRETに基づくアッセイにおけるドナーとして使用することができる。ほとんどのキレートでは、集光性(エネルギー吸収)かつ仲介部は、誘導化ピリジンまたはピリジン多様体(manifold)から成っている。いくつかのアンテナ構造は、ピラゾールなどの他のヘテロ原子共役環構造を含む。ランタニドイオン、集光性有機部分およびキャリア配位子に加えて、標識化のために使用される本来発光性であるランタニド錯体は共有コンジュゲーションのための反応性官能基を含有する。
【0019】
ランタニド発光収量は、同時発光に基づく増強により増強することができ、この同時発光に基づく増強は、追加的アンテナ配位子および非発光性ランタニドイオン[たとえば、イットリウム(III)またはガドリニウム(III)]を利用し、励起光を吸収し、三重項−三重項移動を介したエネルギーを、同じ自己組織化高分子ランタニド錯体にまたは同じミセル環境に存在する発光性ランタニドイオン[たとえば、ユーロピウム(III)]に配位したアンテナ配位子へ移動させる。分子間エネルギー移動は、発光ランタニドに対する有効な集光性アンテナの数を大いに増強し、ある発光ランタニドイオンの発光強度を100倍またはさらにそれ以上に増強する結果となる[Xu, YY et al. (1991) Analyst 116: 1155-1158; Latva, M et al. (1995) J Chem Soc Perkin Trans 2 995-999]。
【0020】
ランタニドに基づくRET
異なる光輝性ランタニドに基づくレポーターを利用する2つの新しい共鳴エネルギー移動に基づく方法[Mathis, G (1993) Clin Chem 39: 1953-1959; Blomberg, K et al. (1999) Clin Chem 45: 855-861]が、従来のFRETに基づくホモジニアスアッセイに関連した主要な問題を大幅に解決するために導入された。これらの方法は両方、従来の方法と比べて顕著な利点を提供するが、シグナル発生における特異性は、特に標識プローブが高濃度に存在する場合、放射性エネルギー移動(ドナー発光の吸収)によりなお制限される(たとえば、高ダイナミックレンジに達するか、または弱い相互作用の場合、結合を促進する)[H. Bazin, M. et al. (2001) Spectrochim. Acta, Part A, 57]。過剰な非結合アクセプターは、アクセプター特異的波長で放射性バックグラウンドシグナルのゆっくりとした減衰を生じるが、測定波長でのドナークロストークも、充分なスペクトル分解能が用いられない限り、バックグラウンドシグナルを増加できる。ランタニドキレートドナーと重複しないアクセプター(非重複FRET)の利用は[Hemmilae, I. and Laitala, V. (2005) Anal. Chem. 77:1483-1487; Laitala, V. and Hemmilae I. (2005) Analytica Chimica Acta 551: 73-78]、ドナー発光の再吸収を通じて可能性のあるバックグラウンドをさらに排除することができる。
【0021】
従来の短寿命蛍光アクセプターとの組合せでドナーとして長寿命蛍光ランタニドキレート(またはクリプタート)を使用した場合[Mathis, G (1993) Clin Chem 39: 1953-1959; Blomberg, K et al. (1999) Clin Chem 45: 855-861]、エネルギー移動励起アクセプター発光は、アクセプターの短寿命、直接励起蛍光およびバックグラウンド蛍光から時間的に分解することができる(時間分解蛍光測定法で)。ドナー発光のアクセプター発光波長へのクロストークも、ドナー発光の狭い「線様の」発光バンドのおかげでほぼ完全に回避される。同じ利点は、ドナーとしてアップコンバーティング(抗−ストーク光輝性)ランタニドドープ化合物[Heer, S et al. (2004) Adv Mater 16: 2102-2105; Kuningas, K et al. (2005) Anal Chem 77: 7348-7355]を、従来の蛍光アクセプターと組み合わせて使用し、ドナーの赤外線励起のもと、特に可視光波長でのエネルギー移動励起アクセプター発光を測定することにより得られる。赤外線照明は、従来の蛍光アクセプターを直接は励起せず、可視波長で自己蛍光はなにも生じず、狭いバンドのドナー発光が効率的に潜在的なクロストークを排除する。
【0022】
アップコンバーティングランタニドドープナノ結晶の抗−ストーク発光は、赤外線励起よりより短い波長(可視波長)で生じ、大きな抗−ストークシフト(300nm以上まで)および自己蛍光と散乱励起光(時間分解なしで)の可視波長での発光からの効率的なスペクトル分離を提供する[Soukka, T. et al. (2005) J Fluorescence 15: 513-528]。アップコンバージョンは、2光子同時吸収と比較して効率的に非常に増強された2つの赤外光子の連続的な同時ではない吸収を介して赤外線を可視光に変換できる特定のランタニドに基づく材料(いくつかの遷移金属を除いて)の固有の性質である。そのアップコンバージョンの機構は、1つの種類のランタニドイオンまたは2つの異なる近接したランタニドイオンのいずれかに基づいている。ランタニドドープイオンは、長寿命励起状態(発光状態に再度励起される基底状態から励起された準安定状態として作用する)、または別のランタニドイオンへの遷移エネルギーを有する。ランタニドに基づくアップコンバージョンは、観察されるフォトルミネッセンスバックグラウンドが、検出器の暗電流および感度によってのみ制限されるルミネッセンス計測において達成されるものと同程度なので、極端な検出能を提供することができる。
【0023】
アップコンバーティングキレートは、米国特許第5,891,656号、Xiao, X. et al. (2002) Opt Lett. 30: 1674-1676;およびFaris GW and Hryndza M, Proc SPIE- Int Soc Opt Eng 2002; 4626: 449-452に説明されている。アップコンバーティングランタニドキレートにおいて、単一の希土類イオン[たとえば、Er(III)、Tm(III)またはHo(III)]または異なるランタニドイオンの組合せが、単核または多核錯化配位子または多数配位子(multiple ligands)にキレートされる[国際公開第2004/086049号およびSoukka, T. et al. (2008) Annals of the New York Academy of Sciences 1130: 188-200]。配位子は、集光構造を含有しても含有しなくてもよい。個々のイオンと集光構造をもたないキレートされた配位子の光回収効率は乏しく、相対的に高い励起光強度を必要とする。したがって、アップコンバーティング希土類キレートは、集光性有機または無機構造を有する配位子を含むように考案することができ、たとえばYb(III)などの別のイオンを組み込むことができる。2つ以上の光子の集めたエネルギーは、分子内非放射性プロセスにより有機構造の一重項から三重項状態へ、つぎに三重項状態から希土類イオンの放出レベルに連続的に次々に移され、特徴的な発光である単一光子を放出する。
【0024】
ホモジニアスな蛍光に基づく核酸ハイブリダイゼーションアッセイは、典型的には、消光プローブ(切断可能なオリゴヌクレオチドプローブ中のドナーおよび消光剤)[米国特許第5,538,848号]または2つのエネルギー移動プローブ(隣接した位置で隣同士にハイブリダイズする別々のドナーおよびアクセプター標識プローブ)のいずれかに基づく。図1は、エネルギー移動プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイを説明するものであり、ドナーおよびアクセプター蛍光団(それぞれ4および5)で標識された2つのオリゴヌクレオチドプローブ(1および2)は、相補的な標的配列(3)上の隣接した位置にハイブリダイズする(6)。アクセプターは、1つの波長(λ1)で励起され、ハイブリダイゼーション(7)に依存する(エネルギー移動励起)増感アクセプター発光(8)が、別の波長(λ2)で検出される。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、極めて多彩な技術であり、特にエネルギー移動プローブに基づくアッセイは、エネルギー移動効率により(相対的に低いシグナル)およびドナー発光の再吸収によるバックグラウンド(制限されたダイナミックレンジ)により限定される。さらに、消光プローブに基づくアッセイは、2つの異なる色素による特異的な標識を必要とし、単一のハイブリダイゼーション事象のみの特異性に依存する。
【0025】
核酸増幅リアルタイムモニタリングにための種々の方法が、Koch, W.H (2004) NatureReviews Drug Discovery 3: 749-761に示されている。たとえば、プライマーに結合された1つの色素および隣接してハイブリダイズするプローブに結合されたもう1つの色素を用いるFRET対は、Lay, M. J. et al. (1997) Clinical Chemistry 43: 2262-2267に示され;2つの異なる標識された隣接してハイブリダイズするプローブを用いるFRET対は、Bernard, P.S., et al. (1998) American Journal of Pathology 153: 1055-1061に示され;そして相補的プローブで標識されたFRET対の競争ハイブリダイゼーションは、Kiviniemi, et al. (2005) Clinical Biochemistry 38: 1015-1022に示されている。
【0026】
蛍光消光に基づくアッセイにおけるランタニド標識技術の可能性は、説明されてきている[Karvinen J et al. (2002) J Biomol Screen 7:223-231; Karvinen, J et al. (2004) Anal Chem. 76:1429-36; Karvinen, J et al. (2004) Anal Biochem. 325:317-25]。
【0027】
蛍光ランタニド錯体のハイブリダイゼーションに依存した形成について2つのアプローチが示されている。1つ目のアプローチは、ハイブリダイゼーションに際して蛍光テルビウム(III)錯体を形成する1対のオリゴヌクレオチドに基づくものであり、一方のオリゴヌクレオチドがDTPA−テルビウム(III)(非蛍光テルビウムキレート)で標識され、他方がエネルギードナーサリチル酸塩(集光性配位子)で標識されている[Oser A and Valet G (1990) Angew Chem Int Ed Engl 29: 1167-1169]。2つ目のアプローチは、蛍光ユーロピウム(III)錯体の同様な形成に基づくものであるが、ただ1つのプローブのハイブリダイゼーションが必要とされるものであり、オリゴヌクレオチドプローブが、EDTA−テルビウム(III)(非蛍光ユーロピウムキレート)で標識され、エネルギー−ドナー化合物が二本鎖DNAに結合することができる挿入剤にカップリングした[Coates et al. (1994) J. Chem. Soc., Chem. Commun. 2311-2312; Mullins ST et al. (1996) J Chem Soc, Perkin Trans 1 1991:85-81; Coates J et al. J Chem Soc, Chem Commun 1995: 2311-2312;および国際公開第95/08642号]。1つ目のアプローチは、その後も使用されている[Wang et al. (2001) Analytical Biochemistry 299, 169-172; Yuan and Wang (2005) Journal of Fluorescence Vol. 15, No. 4, July, 559-568; Kitamura Y. et al. (2008) Journal of Inorganic Biochemistry Vol 102, No. 10, 1921-1931;およびKitamura, Y. et al. (2006) Nucleic Acids Symposium Series, No. 50, 105-106]。
【0028】
ランタニド錯体に基づくセンサープローブは、金属イオンの検出に関して説明されている[たとえば、Leonard, J. P. and Gunnlaugsson, T. (2005) Journal of Fluorescence, 15:585-595およびViquier and Hulme (2006) Biology, J. Am. Chem. Soc. 128: 11370-11371]。金属陽イオンに対して、これらのセンサーは競争的に、そしてアンテナ効果を利用して働き、ランタニドイオンへのそのアンテナ配位子の結合は溶液中に存在する他の金属イオンにより阻止される。
【0029】
定量的5’−ヌクレアーゼに基づくポリメラーゼ連鎖反応アッセイ(TaqMan;アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、フォスターシティー、CA)は、蛍光部分と消光部分とを両方含有する一本鎖自己消光オリゴヌクレオチドプローブが、核酸増幅のあいだのハイブリダイゼーションに際して核酸ポリメラーゼのヌクレアーゼ作用により切断される核酸配列検出法である[Lie YS, Petropoulos CJ. (1998) Curr Opin Biotechnol. 9:43-48;およびOrlando C et al. (1998) Clin Chem Lab Med. 36:255-269]。
【0030】
分子指標は、ステム・アンド・ループ構造を形成する一本鎖オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブである[Tan W et al. (2004) Curr Opin Chem Biol.; 8:547-553;およびTan W et al. (2000) Chemistry; 6: 1107-1111]。ループは、標的配列に相補的である核酸プローブ配列を含み、ステムは、プローブ配列の両側に位置する相補的アーム配列のアニーリングにより形成される。蛍光部分は、一方のアームの端に共有結合され、消光剤はもう一方のアームの端に共有結合される。蛍光部分と消光部分が近位であるため、分子指標は、それらが溶液中に遊離している場合、蛍光を発しない。しかしながら、それらが標的配列を含有する相補的核酸鎖にハイブリダイズした場合、それらは、蛍光部分と消光部分との間の距離が増加する立体配座の変化を受け、プローブが蛍光を発することができるようなる。相補的標的配列が存在しない場合は、指標プローブは閉じたままであり、分子内消光により蛍光は発しない。
【0031】
自己消光蛍光プローブおよび分子指標は両方とも、サーマルサイクラーにおける核酸増幅プロセスをモニターするためにも使用される。たとえば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応において、任意の所定のサイクル、またはサイクルの後での蛍光の量は、特定の産物の量に依存する。プローブは、増幅の各サイクルを受けて増幅した標的に結合し、ハイブリダイゼーションの際(Taqmanプローブの場合は切断の際)に得られるシグナルは、増幅されたオリゴヌクレオチド配列の量に比例する。蛍光は、分子指標がその相補的標的に結合される場合は各アニーリング工程のあいだに、またTaqmanプローブが切断される場合は伸長工程の後に測定される。その後、情報は定量的PCRまたは定量的RT−PCR(逆転写PCR)実験のあいだに、限界サイクル数(threshold cycle number)にもとづき増幅された標的核酸配列の初期コピー数を定量するために使用される。終点分析のために、分子指標を含むPCRまたはRT−PCR反応は、任意の96ウェル サーマル・サイクラー上で行なうことができ、その後蛍光リーダーで読み取られる。
【0032】
タンパク質の高感度かつ特異的近接プローブに基づく分析および医学診断における可能性は、Gustafsdottir, S.M. (2005) Anal Biochem 345: 2-9により、2つのオリゴヌクレオチドプローブの近位ライゲーションを利用することが説明されている。
【発明の概要】
【0033】
本発明の1つの目的は、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法を提供することである。
【0034】
本発明は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含み、該ランタニドイオンキャリアキレートがランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用いる、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法であって、
該方法においては、
a)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに充分強く結合し、結果として、該バイオアッセイ法の条件において、遊離のランタニドイオンが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドイオンが存在する、または
b)該ランタニドイオンキャリアキレートは、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに強く結合し、結果として、遊離のランタニドが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドが存在し、かつ該ランタニドイオンを錯化する薬剤が少なくとも1pmol/Lの濃度でさらに用いられる、そして
該アンテナ配位子は、該ランタニドイオンに弱く結合する、すなわち該アンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである;ならびに
該第1のグループの第1認識エレメントおよび該第2のグループの第2認識エレメントによる該検体の認識が、
i)キレート相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートと該アンテナ配位子との相補性による混合ランタニドキレート錯体の形成、およびそれによる蛍光の増加;または
ii)キレート脱相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、それによる蛍光の減少
のいずれかを生じる
バイオアッセイ法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】エネルギー移動プローブ対に基づくハイブリダイゼーションアッセイおよび、ハイブリダイゼーション後のドナーおよびアクセプター間のエネルギー移動の測定を説明する。プローブ対は互いに隣接する標的配列にハイブリダイズする。
【図2】標識部分が蛍光錯体を形成することを可能にする、標的配列において互いに隣接してハイブリダイズする2つの別々のプローブを用いる(近接プローブアプローチ)オリゴヌクレオチド依存性(oligonucleotide-directed)ランタニドキレート相補性アッセイを説明する。
【図3】標識部分が蛍光錯体を形成することを可能にする、標的配列において互いに隣接してハイブリダイズする末端を有する二重標識プローブ(南京錠型プローブ)を用いるオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補性アッセイを説明する。
【図4】標識部分が蛍光錯体を形成することを可能にする、互いにハイブリダイズする相補配列を有する末端を有する二重標識プローブ(分子指標型プローブ)を用いるオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補性アッセイを説明する。中央の配列は、標的配列にハイブリダイズし、結果として蛍光錯体を分析するプローブのコンフォメーションの変化を生じさせ、そして蛍光の減少という結果をもたらす。
【図5i】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図5ii】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図5iii】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図5iv】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図6】図5i-図5ivに示される集光性アンテナの代替部分L(a−h)およびZ(j−l)に対する概略構造の例を示す。
【図7i】ランタニドキレート相補性に適用可能なランタニド(III)キャリアキレートの概略化学構造の例を示す。
【図7ii】ランタニドキレート相補性に適用可能なランタニド(III)キャリアキレートの概略化学構造の例を示す。
【図7iii】ランタニドキレート相補性に適用可能なランタニド(III)キャリアキレートの概略化学構造の例を示す。
【図8a】実施例1、2、3、4および5において使用されたユーロピウム(III)キャリアキレートN1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)(Eu3+−N1;イオンキャリアキレート)の概略構造を示す。
【図8b】実施例1、2、3、4および5において使用された集光性アンテナ配位子4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−二カルボン酸(3d−アンテナ)の概略構造を示す。
【図8c】実施例2において用いられた本来蛍光であるユーロピウム(III)キレート{2,2’,2’’,2’’’−{[4−[(4−イソチオシアネートフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]−ビス(メチレンニトリロ)}テトラキス(アセテート)}ユーロピウム(III)(Eu3+−7d;蛍光ランタニドキレート)の概略構造を示す。
【図8d】実施例8において用いられたユーロピウム(III)キャリアキレート、2,2’,2’’−(10−(3−イソチオシアネートベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)−三酢酸のユーロピウム(III)キレートの概略構造を示す。
【図9】実施例1に記載されたホモジニアスハイブリダイゼーションアッセイの結果を示す。標的オリゴヌクレオチドの濃度の増加に伴う、標識されたプローブ対(10nM:四角;50nM:円)のハイブリダイゼーション後の時間分解蛍光。Ctsは、カウントを意味する。エラーバーは、平均の標準偏差を示す。
【図10a】プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナと0nM(破線)および10nM(太い実線)の標的オリゴヌクレオチドとから形成されるオリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光発光スペクトルを説明する。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナと10nMの標的オリゴヌクレオチドから形成される錯体の近似発光減衰スペクトルが挿入図に示されている。A.u.は、任意単位を意味する。
【図10b】実施例2において得られたプローブC−Eu3+−7dの蛍光発光スペクトルを説明する。プローブC−Eu3+−7dの減衰スペクトルが挿入図に示されている。A.u.は、任意単位を意味する。
【図11a】実施例4に記載されたヘテロジニアス近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイの結果を表す。ビオチン化された標的オリゴヌクレオチドの濃度増加に伴うプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−アンテナのインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図11b】実施例4に記載されたヘテロジニアス近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイの結果を表す。ビオチン化された標的オリゴヌクレオチドの濃度増加に伴うプローブA−Eu3+−7dのインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図12a】実施例5におけるストレプトアビジンに対する近接プローブに基づくアッセイにおいて用いられたビオチンコンジュゲートを説明する。(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン−3d−アンテナ。
【図12b】実施例5におけるアビジンに対する近接プローブに基づくアッセイにおいて用いられたビオチンコンジュゲートを説明する。(+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン−Eu3+−N1。
【図13a】実施例5に記載されたストレプトアビジンアッセイの結果を示す。ストレプトアビジンの濃度増加を伴う(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン−アンテナのインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図13b】実施例5に記載されたアビジンアッセイの結果を示す。アビジンの濃度増加を伴う(+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン−Eu3+−N1のインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図14a】実施例6および実施例7に用いられたテルビウム(III)キャリアキレートN1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)テルビウム(III)(Tb3+−N1;キャリアキレート)の概略構造を示す。
【図14b】実施例6および実施例7に用いられたb)集光性アンテナ配位子4−(3−(4−イソチオシアネートフェネチル)−2,4,6−トリメトキシフェニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸(TMP−アンテナ)の概略構造を示す。
【図15】実施例6に記載されたホモジニアスハイブリダイゼーションアッセイの結果を示す。標的オリゴヌクレオチドの濃度増加を伴う標識プローブ対(10nM:四角;50nM:円)のハイブリダイゼーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図16】実施例7にて得られたプローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナと0nM(破線)および10nM(太い実線)の標的オリゴヌクレオチドとから形成されるオリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光発光スペクトルを示す。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナと10nMの標的オリゴヌクレオチドから形成される錯体の近似発光減衰スペクトルが挿入図に示されている。
【図17】実施例8に記載されたオリゴヌクレオチド指向キレート相補アッセイ(OCCA)の結果を示す。100000(◇)、10000(+)、1000(△)、100(□)および0(×)鋳型分子の増幅と検出。グラフは、10サイクル目から開始して隔PCRサイクルに測定された蛍光シグナルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
近代の生物学的分析アッセイにおいて、検体の測定は生体分子認識および検出可能なレポーター部分;たとえば迅速な読み出しを可能とする蛍光標識などの使用に基づく。レポーターおよび検出技術の進歩の結果、レポーター自体は、もはや感度を制限するものではないが、しかし、標識された試薬の非特異的相互作用によりシグナルが生じた。これらの相互作用は、制御しにくい因子に依存ており、現実的には完全に回避することは不可能である。
【0037】
「単コピー」検体検出が、シグナル生成における特異性の改善を可能とする最近の画期的な技術により証明された。シグナルの生成が2つのオリゴヌクレオチドプローブのライゲーションに依存する、近位ライゲーションアッセイなどのこれらの方法は、実用化にはまだ複雑過ぎる。2つの認識事象により誘導される全体的に暗い状態から明るい状態へのレポーターシグナルを正確にモジュレーションするという絶対的な要求は、なお単純レポーター技術により解決されていない課題である。分子接触に基づく完全な状態切り換え機構のみが、シグナル生成の充分な特異性を可能とするものであり、最良のフェルスター共鳴エネルギー移動に基づく近位検出法でさえ、この条件を満たしていない。
【0038】
本発明者らは、ランタニド類が、ランタニドイオンキャリアと集光性アンテナ配位子とを異なるレポーター部分に分離することにより並外れたモジュレーションを伴うレポーター技術を現実のものとするための独自のアプローチを提供することを見出した。本発明者らは、先行技術における課題であった、レポーターの暗状態が蛍光を生成しない、切り換え可能な近接プローブに基づくレポーターシステムを構築するやり方を解き明かしている。提案されたアプローチは、FRETの限界を上回り、高い特異的活性の真の蛍光に基づく近位依存レポーター技術を可能とする。シグナル生成は、他の分子認識事象に誘導されるキレートの自己組織化および相補性(2つのレポーター部分のあいだの分子接触)に厳密に依存する。相補的であるランタニドに基づくレポーターシステムは、したがって、2つのレポーター部分、非発光イオンキャリアキレートおよび別のアンテナ配位子、ならびにそれらの部分を一緒に誘導する2つの同時認識事象を経た完全な長寿命発光キレート(正しい方向での分子接触)の自己組織化を利用することにより構築することができる。この長寿命ランタニド蛍光に基づくアプローチは、最先端以上の有意な利益をもたらし、さらにランタニドに基づくアップコンバージョンおよび抗ストークフォトルミネッセンスにまで拡大することができる。
【0039】
本発明の1つの実施態様によれば、2つの別々の認識エレメントによる検体の認識が、ランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子を近接近させ、キレート相補、すなわち混合ランタニド錯体の形成を許し、結果として水溶液中のランタニド発光の強度を増加させる。
【0040】
本発明の特徴は、暗状態(非発光状態)から明状態(発光状態)への(または逆も)ランタニド発光の完全な切換えを可能とするということであり、観察されるバックグラウンド蛍光のためにランタニド発光のモジュレーションが非常に制限される従来技術の方法とは対照的に、有意でない蛍光バックグラウンドは暗状態に存在する。
【0041】
オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションにより方向付けられるランタニドキレート相補性の原理は、図2に説明される。1つのオリゴヌクレオチオドプローブ(1)はランタニドイオンキャリアキレート(4)により標識され、もう1つのプローブ(2)は集光性アンテナ配位子(5)により標識される。その2つの標識プローブに隣接した相補的な配列を有する標的ヌクレオチド配列(3)が添加されると(6)、二本鎖核酸ハイブリッド(7)が混合キレートの自己組織化と強い蛍光錯体(8)の形成とを方向付けして形成される。プローブ配列(リンカーに対するコンジュゲーション部位を含む)およびリンカー(長さと組成、配向および剛直性を含む)は、レポーターの2つの部分、すなわちイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子が混合キレートの自己組織化を可能とする正しい方向で近接に提供されるように選択される。錯体が形成されると、蛍光がある波長(λ1)で励起され、発光が別の波長(λ2)で同時に、または時間分解蛍光分析法においては励起後の短い遅延後に測定される。本発明は、別々のオリゴヌクレオチドにカップリングされるランタニドキレートと配位子構造の組合せ、および改良されたオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補アッセイにおけるそれらの使用を含む。本発明者らは、オリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補は、探求すべき非常に大きな可能性を提供する。以前に用いられたキレート、配位子および条件は、最高の知識を持って選択されているが、弱い性能しか提供していない(3倍シグナルモジュレーションより少ない)[Oser, A and Valet, G (1990) Angew Chem Int Ed Engl 29: 1167-1169; Wang, GL et al. (2001) Anal Biochem 299: 169-172;および米国特許第6,242,268号]。全ての以前の例において得られたモジュレーションの程度は、非常にささやかなもの(3倍より少ない)であり、つまりは、有意にそして容易に観察されるバックグラウンド蛍光により、ランタニド蛍光の切換えはレポーター系の暗状態から不完全であり、そしてその改良はここ数年のあいだ発表されていない。本発明者らは、今回、この蛍光モジュレーションが、集光性アンテナ配位子、イオンキャリアキレートおよび任意には付加的なイオンキレート化化合物の適切な組合せの選択により1000倍以上増強できることを見出した。これは、従来のFRET型ハイブリダイゼーションアッセイで得られる典型的な最高のモジュレーションが20倍程度であり、これまで混合ランタニドキレート錯体の形成にもとづいて得られているのはたった3倍なので、非常に大きな改良である。ランタニドキレート相補アッセイにおいては、シグナル生成のためのキレート相補に極めて厳しい要件が利用されることにより高い程度のモジュレーションが達成される。その改良により、遊離のランタニドイオンは、複数のアンテナ配位子を有する蛍光錯体を形成するために利用可能な溶液中には本質的に存在しないことになる。本発明者らは、これらの改良が、高度なモジュレーションでのキレート相補アッセイを高い温度で、たとえばポリメラーゼ連鎖反応において用いられる条件で使用することができるようにするためにも必須であるということを見出した。
【0042】
ランタニド励起の複雑な機構は、新規な相補ランタニドに基づくレポーターシステム:非蛍光ランタニド(III)キレート(イオンキャリアキレート)がキレート錯体を付加的な集光性アンテナ配位子と相補させることにより強い蛍光型に切り替えられる本発明のたたき台と見なすことができる。近接プローブ原理に基づくアッセイに対して、キャリアキレート(イオンを含む)およびアンテナ配位子は、溶液中において通常生物学的分析アッセイに使用される(マイクロモル以下)濃度で相互作用せず、したがって励起の際に蛍光は観察されない(レポーターは暗状態)2つの異なる生体分子結合プローブ(たとえば、オリゴヌクレオチド)に結合される。しかしながら、2つのプローブが、標的分子(たとえば、相補的核酸配列)の同時認識の結果として近接した位置にある場合、アンテナ配位子は、キャリアキレート(混合キレートを形成する)におけるランタニドイオンに配位され、ランタニドイオンは、励起に際し強い蛍光を生み出す(レポーターは蛍光状態に切り替えられる)。キャリアキレートのアンテナ配位子との相補性には、アンテナ配位子と中心ランタニドイオンとの間に正しい方向での分子接触が必要とされる。このプロセスは、高い局地的有効濃度が、弱い配位相互作用であってもキャリアキレートおよびアンテナ配位子が共に近接して固定される場合に結合を支持するように、正確には自己組織化である。
【0043】
本発明によれば、イオンキャリアキレートは、ランタニドイオンを強く結合するように、すなわち高い安定度定数を有する熱力学的にも動力学的にも安定な錯体を形成するように設計されるべきであり、好ましい配位度(配位数)は、ランタニドイオンの全9配位部位の5以上であり、好ましくはそれ以上6または7などであり、したがって、少なくとも1つ、好ましくは2つまたは3つ配位部位がアンテナ配位子の結合のために残される。配位子の安定性は、たとえば、順にEDTA、DTPA、DO3A、DOTA(最も安定)と増加する。アンテナ配位子の非存在下では、ランタニドイオンの遊離の配位部位は、水分子によって占められ、残りのランタニド蛍光を効率的に消光する。しかしながら、アンテナ配位子は、弱い結合強度のみを有さなければならず、適切な配位度は、2つまたは3つ(二座または3座を意味する)のようであり、適切な構造は、たとえば、アザクラウンベース三重アンテナキレートの構築物に対して、最近の特許出願[国際公開第2005/021538号]に記載されている個々の集光性配位子である。有機集光性配位子(三重項エネルギーレベル)の好ましい構造は、ランタニドに依存し、したがって、たとえばテルビウム(III)およびユーロピウム(III)イオンに対しては異なるアンテナ配位子が好ましい。
【0044】
本発明によれば、シグナルはイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子の近さに厳密に依存し、キレート相補性の高い特異性を達成するために、遊離のランタニドイオンの濃度は、イオンキャリアキレートを適切に選択することにより、またはイオンキャリアキレートを含まない蛍光錯体が形成されるのを防ぐために、錯化剤を添加して遊離のランタニドイオンをキレートすることにより最小に保たれる。好ましくは、錯化剤は、ランタニドイオンに選択的であるように選択される。本発明者らは、集光性アンテナ配位子のイオンキャリアキレートへの結合(および錯化剤によりキレート化されたイオンへの結合も)は、遊離のイオンへの結合よりも困難であり、したがって、シグナルの発生を、厳密に特異的で、生体分子結合により制御されたキレート相補およびイオンキャリアキレートとアンテナ配位子との近さにのみ依存するようにするため、遊離のランタニドイオンの濃度を最小に保つことが必要不可欠である。
【0045】
イオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子の組み合せは、イオンキャリア配位子が、少なくとも1つ(しかし好ましくは4以下)の非占有配位部位を残してランタニドイオンとの間に安定な(または非常に安定な)錯体を形成する多座配位子であるように選択され、したがって、アンテナ配位子の結合および錯体の形成を可能とし、好ましくは、ランタニドのすべての配位部位がいずれかの配位子により占有される、つまり配位された水分子が置き換えられる。その組み合わせは、アンテナ配位子の完全な結合が、任意にはキャリア配位子の単座または二座の置換であって、しかし好ましくはイオンキャリアキレートからのランタニドイオンの解離という結果にはならない置換を必要とし得るように選択することができる。
【0046】
イオンキャリアキレートがあまり安定でない場合、ランタニドイオンのいくつかの解離がアッセイの条件において起こり得、本発明によれば、そのような場合、錯化剤が遊離のランタニドイオンを錯化するため溶液中に存在し、遊離のランタニドイオンおよびアンテナ配位子との間の蛍光錯体の形成を防止する。本発明者らは、これにより先行技術に対するアッセイ性能の大きな改善がもたらされるということを発見した。これは、たとえば、単一の遊離ランタニドイオンが3つまたは4つまでのアンテナ配位子に結合でき、ランタニドイオンキャリアキレートとアンテナ配位子とのキレート相補により形成される単一混合キレート錯体よりも有意に強い蛍光を発する錯体を産生する、アンテナ配位子とランタニドイオンとの間の強い蛍光を発する多重配位錯体の形成により説明することができる。本発明者らは、今回キレート相補によるランタニド蛍光の完全な切り替えの提供の仕方を発見し、先行技術の方法に存在するバックグラウンド蛍光というこの問題を本質的に解決する。
【0047】
本発明の好ましい実施態様によれば、ランタニドイオンキャリアキレートは、不活性錯体となるように選択され、すなわちランタニドイオンの錯体からの解離がアッセイの条件においてゆっくりであるべきである。水溶液中の他のイオンおよび錯化剤の存在ならびに温度の上昇は、典型的には配位錯体の解離の増加をもたらし、したがって、ある応用、たとえばポリメラーゼ連鎖反応のリアルタイムモニタリングなどに対しては、上昇した温度でさえゆっくりとした解離速度を提供する非常に安定なイオンキャリアキレートを選択することが必要不可欠である。典型的には、ランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子は、マイクロモル濃度以下で用いられ、さらに安定性、とりわけ錯体のゆっくりとした解離速度の重要性が増加する。1,4,7−トリス(カルボキシメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(DO3A)の誘導体などのイオン性大環状キレート構造を含むランタニドイオンキャリアキレート[Mishra, A. et al. (2005) Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 13: 2592]は、いくつかのバイオアッセイへの適用の間の支配する過激な条件でゆっくりとした解離速度[Morcos, S.K. (2007) The British Journal of Radiology 80: 73-76]を提供するために不活性なランタニドイオンキャリアキレートに対してはイオン性線状開鎖構造よりも好ましい。1つの実施態様によれば、ランタニドイオンキャリアキレートは、アッセイの条件において2時間以上、好ましくは10時間以上そして最も好ましくは24時間以上の解離半減期を有する動力学的安定性を提供するために選択され;たとえば、生理的条件下でのある大環状キレートの推定解離半減期は、数年であることができる[Schmitt-Willich, H. (2007) British Journal of Radiology 80: 581-582]。典型的なバイオアッセイ条件は、中性値に近いpH、たとえば6.0〜9.0の間を有し、0.01Mと1Mとの間のイオン強度を有する。典型的なバイオアッセイを支配する温度は、20〜40℃であるが、ある適用では、100℃までの温度を要求する。大環状および開鎖ガドリニウム(III)キレートの熱力学的および動力学的安定性は、Prot M. et al. (2008) Biometals 21: 469-490に記載されている。DO3AおよびDOTAなどの大環状化合物は、DTPAなどの開鎖キレートよりも有意にゆっくりとしたイオンの解離を示した。さらに、イオン性キレート(負の正味電荷)は、非イオン性のキレート(中性の正味電荷)よりもよい安定性を有する。
【0048】
本発明のさらなる実施態様によれば、追加の、弱い結合消光配位子を、イオンキャリアキレートに存在するランタニドイオンから配位された水を置き換え、キレート相補性に関与していないランタニドイオンキャリアキレートの潜在的な残りの蛍光を消すためにバイオアッセイ溶液に添加することができる。消光配位子は、単座、二座または三座であり、迅速に生体分子結合事象によりすぐ近くにもたらされるアンテナ配位子により置き換えられるように選択される。
【0049】
本発明のまた別の実施態様によれば、2つ以上の異なるアンテナ配位子が、同じランタニドをなお含む1つまたは複数のイオンキャリアキレートと組み合わせて用いられ、付加的なパラメータの測定を可能にするそれらの特徴的な蛍光寿命を生み出す種々の混合キレート対を生じる。
【0050】
本発明のいくつかの好ましい実施態様によれば、ランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンとにより形成される錯体とアンテナ配位子とランタニドイオンとにより形成される錯体の条件安定度定数の比は、検体測定の条件下で少なくとも104、好ましくは少なくとも105、そしてより好ましくは少なくとも106であり、すなわちランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンとにより形成される錯体は有意により安定である。
【0051】
定義
用語「蛍光」および「発光」は、マイクロ秒またはミリ秒蛍光寿命を有する遅延した蛍光、イオン性フォトルミネッセンス、アップコンバージョンに基づく抗−ストークフォトルミネッセンスおよびりん光などのフォトルミネッセンス、すなわち光により励起される発光、蛍光におよぶとして理解されるものとする。さらに、この用語は、電気発光および電気化学発光も対象とするものとする。
【0052】
用語「ランタニド」および「ランタニドイオン」は、本明細書において、「希土類金属イオン」に相当し、単一の三価のランタニドイオンおよび、以下:ネオジム、プラセオジム、サマリウム、ユーロピウム、プロメチウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムおよびイットリウム、特にエルビウム、プラセオジム、ツリウムおよびイッテルビウムからのいくつかの異なるランタニド元素の任意の組合せを含むと理解されるものとする。
【0053】
本明細書において、用語「発光ランタニド錯体」、「発光ランタニドキレート」および「相補ランタニドキレート」は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび相補的な集光性アンテナ配位子により形成される発光錯体を含むと理解されるものとする。そこではランタニドイオンは集光または他の励起可能な配位子構造を通して励起されるか、または非発光ランタニドイオンまたは増感ランタニドイオンである。相補ランタニドキレートは、イオンキャリアキレートおよび集光性アンテナ配位子を含む混合キレートの例である。
【0054】
用語「ランタニドイオンキャリアキレート」、「イオンキャリアキレート」および「キャリアキレート」は、非発光ランタニドキレート錯体そのものおよびそれらの誘導体であって、キレート配位子、すなわちイオンキャリア配位子、および発光ランタニドイオンまたは活性化ランタニドイオンを含むが、ランタニド発光にとって絶対に必要な効果的な集光または他の励起可能な構造または増感ランタニドイオンを含まないもの、を含むと理解されるものとする。このキレートにおけるランタニドイオンは、1つの単一のランタニドイオンであっても、いくつかの同一のもしくは異なるランタニドイオンの組合せであってもよい。ランタニドイオンキャリアキレートの例は、好ましくは6配位と同じまたはより大きい、最適には7または8配位数を有するEu(III)、Sm(III)、Tb(III)およびDy(III)の環状または非環状アミノポリカルボン酸キレートであって、効果的な集光または他の励起可能な構造または増感ランタニドイオンを含まないものに代表される。
【0055】
用語「増感剤」および「増感ランタニドイオン」は、光吸収に関与するランタニドイオン、およびエネルギーアクセプターとして作用する活性化ランタニドイオンへのエネルギードナーとして作用するランタニドイオンを意味すると理解されるものとする。増感剤の例は、三価のイッテルビウムおよびセリウムである。
【0056】
用語「活性化剤」および「活性化ランタニドイオン」は、ルミネッセンス発光に関与し、かつエネルギードナーとして作用する増感ランタニドイオンからエネルギーを受け取るエネルギーアクセプターとして作用するイオンを意味すると理解されるものとする。活性化剤の例は、三価のエルビウム、ツリウム、ホルミウム、およびテルビウムである。
【0057】
イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体(またはアンテナ配位子とランタニドイオンとの錯体;または錯化剤とランタニドイオンとの錯体)の水溶液中での「安定度定数」および「生成定数」は、配位子と金属イオンとのあいだの錯化反応についての平衡定数を意味すると理解されるものとする。この用語の詳細な説明は、定量化学分析(Quantitative Chemical Analysis)、D.C. Hrris, 1991, 3rd Edition, Freeman and Co., New Yorkの279〜304頁に見ることができる。その値は、logKとして表され、Kは錯体の濃度を遊離配位子(典型的には完全脱プロトン化体)の濃度および遊離金属イオンの濃度の積で割ることにより計算することができ、すべて特定の温度およびイオン強度での平衡状態で有効である(all prevailing)。安定度定数が大きくなるにつれて、金属は配位子とより強く錯化する。これは、大きな安定度定数を有するランタニドイオンキャリアキレートは、小さな安定度定数を有するものよりもより安定であるということを意味する。典型的には、安定度定数は、室温(20〜25℃)で0.1Mのイオン強度で測定される。ランタニド(III)イオン錯体に関するlogK値の例は、Martell, A.E. and Smith, R.M., Critical stability constants, Vol 1, pp. 204-211, Plenum Press, New York, 1974; and Wu, SL and Horrocks, WD (1997) Journal of the Chemical Society-Dalton Transactions 1497-1502から見ることができる。
【0058】
イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体(またはアンテナ配位子とランタニドイオンとの錯体)の水溶液中での「条件安定度定数」および「条件生成定数」および「有効生成定数」は、pH、イオン強度、温度および補助的な錯化種の濃度などの特定の決まった条件のセットの下での錯体の形成に対する平衡定数を意味すると理解されるものとする。この用語の詳細な説明は、定量化学分析(Quantitative Chemical Analysis)、D.C. Hrris, 1991, 3rd Edition, Freeman and Co., New Yorkの279〜304頁に見ることができる。
【0059】
用語「相補配位子」、「集光性アンテナ」または「アンテナ配位子」は、ランタニドイオンを持たない集光または他の励起可能な配位子構造、または非発光ランタニドイオンもしくは増感ランタニドイオンのキレート錯体を含み、かつ光輝ランタニド錯体を形成するためにランタニドイオンキャリアキレートを相補することができる、それ自体非発光性のキレート配位子およびランタニドキレートおよびそれらの誘導体などを含むと理解されるものとする。任意にアンテナ配位子に含まれるランタニドイオンは、1つの単一のランタニドイオンであっても、いくつかの同一のもしくは異なるランタニドイオンの組合せであってもよい。共蛍光現象またはランタニドに基づくアップコンバージョンにおける光吸収または放出の強度を増強するために使用されるそのようなランタニドイオンの例は、たとえば、Gd(III)、Y(III)およびYb(III)である。アンテナ配位子[Latva, M. (1997) J. Lumin 75: 149-169]の例は、好ましくは4座以下、最適には3〜2座でランタニドイオンに配位することができる有機集光性構造であり、Eu(III)、Sm(III)、Tb(III)およびDy(III)などの配位されたランタニドイオンに典型的には三重項状態を通してそれらの励起エネルギーを移動することができる。Yb(III)、Er(III)およびNd(III)などの近赤外発光ランタニドに好適なアンテナ配位子構造の例は、[Hofstraat, J.W. et al. (1998) J Fluorescence 8: 301-307]にも記載されている。
【0060】
用語「非発光」および「非蛍光」は、励起され、そしてその励起状態から緩和する場合に、たとえば任意のまたは有意な量の長寿命発光などの望ましい型の発光を生成しないための光吸収化合物の性質として理解されるものとする。発光化合物とは対照的に、非発光化合物の励起状態エネルギーは、大部分は非放射性経路を経て緩和され、典型的には光の変わりに熱を、またはゆっくり減衰する発光の変わりに迅速な発光を生み出すか、または励起効率が弱い。非発光化合物のモル消光係数(extinction coefficient)またはモル吸収係数(absorptivity)は非常に低く、典型的には10Lmol-1cm-1であり、または非発光化合物の蛍光量子収率は非常に低く、典型的には5パーセントより低く、また長寿命発光の寿命は1マイクロ秒より短く、典型的には100ナノ秒より少ない。非発光化合物の例は、それらの効率的な励起のための集光性アンテナ構造を持たないランタニドキレートである。
【0061】
用語「ランタニド発光」および「発光」は、ランタニドイオンの電子遷移の放出性緩和から得られる発光(すなわち光放出)を意味すると理解されるものとする。ランタニド発光は、直接的なまたは間接的な光吸収による、または電気化学励起によるランタニドイオンの励起により生み出すことができる。
【0062】
用語「キレート」は、1つの中心イオンが、少なくとも1つの配位子に少なくとも1つの配位結合(各々)で配位されている(または複数の中心イオンが配位されている)配位錯体として定義される。これらの錯体は、様々な原則により名付けられており、キレート、超分子化合物、錯体およびコンプレクソンなどの名前が使用されている。キレートの具体的な種類は、たとえば、ポリアミノカルボン酸、大環状錯体、クラウンエーテル、クリプタート、カリックスアレーンおよびポルフィリンなどを含む。用語「混合キレート」は、それぞれ少なくとも1つの配位結合で配位される少なくとも2つの異なる配位子を含むキレートとして理解されるものとする。
【0063】
用語「時間分解ランタニド蛍光」、「時間分解蛍光」、「長寿命ランタニド蛍光」および「長寿命蛍光」は、本明細書において、発光化合物の発光寿命が1マイクロ秒と同じか長いランタニド発光として理解されるものとする(寿命は、発光放出強度が1/e相対値、すなわち元の発光放出強度の約37%に減衰する時間として計算される)。長寿命蛍光の可能な化合物の例としては、適切な集光性アンテナを含有するEu(III)、Sm(III)、Tb(III)およびDy(III)の本来蛍光であるキレート錯体が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0064】
用語「光」、「励起光」および「放出光」は、200nm〜1600nmの波長での電磁放射線を含めると理解されるものとする。これらの波長は、400nmより下の紫外線、300〜450nmの近紫外線、400〜750nmの可視光、700〜1000nmの近赤外線および700nmより上の赤外線と呼ばれる。
【0065】
用語「短寿命蛍光」および「短寿命蛍光化合物」は、1マイクロ秒より短い、好ましくは100ナノ秒よりも短い蛍光寿命を有する蛍光および蛍光化合物を含めると理解されるものとする。
【0066】
用語「ランタニドアップコンバージョン」、「アップコンバージョン」および「抗−ストークフォトルミネッセンス」は、本明細書において、発光ランタニド化合物からのフォトルミネッセンス放出が励起光の波長よりも短い波長で得られるランタニド発光として理解されるものとする。したがって、発光ランタニド化合物のアップコンバージョンは、より低いエネルギー入射光をより高いエネルギー放射光へ変換することができる。それは抗−ストーク蛍光または抗−ストークフォトルミネッセンスとも呼ばれる。そのような化合物の例は、赤外励起下で緑または赤放出を生成する活性化剤としてEr(III)および増感剤としてYb(III)を含む完全に無機またはハイブリッド材料である。
【0067】
用語「電子発光」および「電気化学発光」は、本明細書において、電極を用い、かつその電極に電流または電圧をかけることによる電気化学励起により生成されるランタニド発光として理解されるものとする。発光を生成する電気化学反応が生じる電極に応じて、電気化学発光は陰極電気化学発光または陽極電気化学発光と呼ばれる。電気発光化合物は、陽極電気発光または陰極電気発光の可能な化合物である。そのような化合物の例は、緑の発光を生成する熱電子励起2,6−ビス[N,N−ビス(カルボキシメチル)−アミノメチル]−4−ベンゾイルフェノールでキレートされたTb(III)[Kulmala, S. and Haapakka, K. (1995) J Alloys Comp 225: 502-506]であるが、他の電気発光の可能なランタニド錯体も存在する[Kulmala, S. et al. (1998) Anal Chim Acta 359: 71-86; and Jiang, Q. et al. (2006) Anal Chim Acta 558: 302-309]。ランタニド錯体の電気発光は、検出限界を改善するために時間分解能を用いて測定することもできる。
【0068】
本開示において、用語「バイオアッセイ」は、ランタニド発光にもとづきかつ反応性エレメントを利用する検体の検出および/または定量を意味すると理解されるものとする。検体は、典型的には試料または試料のアリコートから検出および/または測定される。その試料は、たとえば生物学的または環境試料または核酸増幅反応物である。
【0069】
用語「ホモジニアスバイオアッセイ」は、分離工程を必要としないバイオアッセイを含めると理解されるものとする。単一または複数の各工程;試薬の添加、インキュベーションおよび測定は、必要とされる工程のみである。用語「分離工程」は、たとえばマイクロ粒子またはマイクロタイターウェルなどの固相上に結合した標識バイオアッセイ試薬が、非結合標識バイオアッセイ試薬から分離され、物理的に単離される工程、たとえばマイクロタイターウェルが洗浄され(液体が取り除かれ、分離が改善するために、追加の液体が添加され、そしてウェルが空の状態になる)、結果として固相上に結合されていない標識バイオアッセイ試薬からの固相結合標識バイオアッセイ試薬の分離となる工程であると理解されるものとする。
【0070】
用語「検体」は、そのものまたはその効果がバイオアッセイにより測定されるべき目的の物質として理解されるものとする。検体は、たとえばタンパク質、細胞、細胞膜抗原、受容体、核酸、ハプテン、ホルモン、ペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸増幅産物、分子の特定のコンフォメーション型、または構造の変化、プロテアーゼまたはヌクレアーゼ活性による切断、または構造的サブユニットの多量体化、分子結合相互作用を通した2つの生体分子の結合またはそれらの解離であってもよい。
【0071】
用語「ハプテン」は、タンパク質などの大分子に接着(attached)された場合にのみ免疫応答を生じることができる小分子を意味すると理解されるものとする。ハプテンの例は、ステロイドホルモン、ビタミン、ペプチド、糖、医薬および乱用薬物である。
【0072】
用語「試料」および「生物学的試料」は、血清、血液、血漿、唾液、尿、糞便、精漿、汗、リカー、羊水、組織ホモジネート、腹水、環境試験からの試料(水および土壌試料)、産業処理からの試料(処理溶液)および化合物ライブラリー(有機化合物、無機化合物、天然物、抽出物または生物学的タンパク質、ペプチドまたは核酸などの生物学的起源の産物を含むかもしれないスクリーニングライブラリー)からの試料などの検体が検出される種々の液体または固体の生物学的試料を含めると理解されるものとする。試料は、プロテアーゼまたはヌクレアーゼ反応などの酵素反応、または他の変換反応、ポリメラーゼ連鎖反応または他の核酸増幅反応であってもよい。
【0073】
用語「認識エレメント」は、引用される状況に関連する任意の化合物に特異的であると見なすことができる任意の反応体を意味し、抗体、抗体断片、タンパク質スキャフォールド(たとえば、DARPins、アフィボディー、モノボディー)、ぺプチド、アプタマー、天然のホルモン結合タンパク質、糖、レクチン、酵素、受容体、ストレプトアビジン、ビオチン、天然の核酸または人工の核酸(ロックド核酸またはペプチド核酸など)およびペプチド誘導体、そして、遺伝的または化学的に改変した抗体、または前記いずれかのキメラ組成物などの生物特異的結合反応体であって、検出すべき生体分子を非共有結合または共有結合できかつ認識できるものを含めると理解されるものとする。認識エレメントは、典型的にはイムノアッセイ、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、リガンド−レクチンアッセイおよびリガンド−受容体アッセイにおける生物特異的結合反応体として用いられる。
【0074】
用語「錯化剤」、「錯化する薬剤」および「キレート剤」は、この文脈において、単一金属イオンとのいくつかの配位結合を形成することができる分子、すなわち多価配位子として理解されるものとする。最も一般的で最も汎用されている錯化剤は、酸素または窒素ドナー原子により、または両方により金属イオンに配位するものである。錯化剤の例は、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコール−O,O’−ビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、1,4,7−トリアザシクロノナン−N,N’,N’’−三酢酸(NOTA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)、シクロへキシル1,2−ジアミン四酢酸(CDTA)、N1N’−ビス(ヒドロキシベンジル)−エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HBED)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(TETA)、ヒドロキシエチルジアミン三酢酸(HEDTA)およびこれらのキレーターのいずれかの誘導体が挙げられる。
【0075】
この文脈における用語「アップコンバーティングランタニド錯体」は、単一ランタニドイオンまたは種々の希土類イオンの組合せを含む混合キレートを意味する。アンテナ配位子は、増感ランタニドイオンおよび/または集光構造を含んでも含まなくても良い。
【0076】
本発明の好ましい態様
本発明により検体を検出するため、および/または検体の濃度を定量するための典型的なバイオアッセイ法は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含み、該ランタニドイオンキャリアキレートがランタニドイオンキャリア配位子およびランタニドイオンを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用い、
a)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において、該ランタニドに、遊離のランタニドイオンが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドイオンが存在するという結果となるのに充分強く結合する;または
b)該ランタニドイオンキャリアキレートは、該バイオアッセイ法の条件において、遊離のランタニドが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドが存在するという結果となるのに充分に強く該ランタニドに結合し、該ランタニドイオンを錯化する薬剤が少なくとも1pmol/Lの濃度でさらに用いられる;そして
該アンテナ配位子は、該ランタニドイオンに弱く結合する、すなわち該アンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである;ならびに
該第1のグループの該第1認識エレメントおよび該第2のグループの第2認識エレメントによる該検体の認識が、
i)キレート相補、すなわち該ランタニドを担持するランタニドイオンキャリアキレートの該アンテナ配位子との相補性による混合ランタニドキレート錯体の形成、およびそれによる蛍光の増加;または
ii)キレート脱相補、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、それによる蛍光の減少
のいずれかの結果となる。
【0077】
バイオアッセイの好ましい実施態様では、
a)logKLnL1は少なくとも12、好ましくは18以上であって、KLnL1は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;または
b)該ランタニドイオンを錯化する薬剤をさらに用いる場合、
i)logKLnL2は少なくとも12であって、KLnL2は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;および
ii)logKLnL3は少なくとも8であって、KLnL3は、該ランタニドイオンを錯化する該錯化剤とランタニドイオンとの溶液中での安定度定数を意味する。
【0078】
本発明の典型的な実施態様において、イオンキャリアキレートは、五座、六座、七座または八座であり、好ましくは六座、七座または八座である。
【0079】
イオンキャリアキレートのランタニドイオンは、好ましくはプラセオジム(III)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)、ツリウム(III)およびイッテルビウム(III)からなる群より選択される。
【0080】
第1および第2認識エレメントは、好ましくは互いに独立して、オリゴヌクレオチド、アプタマー、ペプチド、タンパク質、ハプテン、オリゴ糖からなる群より選択される。
【0081】
アンテナ配位子は、典型的には、四座、三座、二座または単座であり、好ましくは三座または二座である。
【0082】
logKLnL1は典型的には少なくとも20、好ましくは22以上である。
【0083】
錯化剤は、好ましくはCDTA、EDTA、DOTA、DTPA、EGTA、HBED、HEDTA、NOTA、NTA、TETAおよびTTHAからなる群より選択される。
【0084】
ランタニドイオンを錯化する薬剤が用いられる場合、該錯化剤は、典型的には、アンテナ配位子よりもより強い該ランタニドイオンの結合剤、すなわちlogKLnL3>logKLnL4であって、KLnL4は、該アンテナ配位子と該ランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味し;好ましくは、イオンキャリアキレートよりもより弱いランタニドイオンの結合剤、すなわちlogKLnL3<logKLnL2である。
【0085】
ランタニドイオンキャリア配位子は、典型的には、EDTA、DTPA、NOTAまたはDOTAから誘導されるか、または図7i、図7iiおよび図7iiiに示される構造a)からp)より選択される。
【0086】
アンテナ配位子は、典型的には図5i、図5ii、図5iiiおよび図5ivに説明される構造a)からz)よりなる群から選択される集光構造を含む。
【0087】
検体の認識は、結果として蛍光の増加または減少を生じ、その蛍光は、典型的には400と1600nmとのあいだの波長で測定される。
【0088】
検出および/または定量される検体は、典型的には、ストレプトアビジン、タンパク質、ハプテン、核酸配列、細胞、ウイルスおよび核酸増幅反応の産物(たとえばポリメラーゼ連鎖反応の産物)からなる群より選択される。
【0089】
検体の認識は、結果として蛍光の増加または減少を生じ、典型的にはその蛍光は、長い蛍光寿命、すなわち1μsよりも長い寿命を有する。
【0090】
検体の認識は、結果として蛍光の増加または減少を生じ、好ましくは、その蛍光はアップコンバージョン蛍光(すなわち、発光が励起よりも短い波長で検出される抗−ストークフォトルミネッセンス)である。
【0091】
多くの好ましい実施態様では、条件は少なくとも40℃またはそれ以上の温度を含む。
【0092】
本発明の1つの実施態様によれば、ランタニドに基づくレポーター技術は、ハイブリダイゼーションアッセイおよび核酸増幅のリアルタイム「閉管」モニタリング;たとえばポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応またはいくつかの等温核酸増幅手法に適用される[Gill, P. and Ghaemi, A. (2008) Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids 27: 224-243]。生体分子結合剤は、たとえばオリゴヌクレオチドまたはペプチド核酸(PNA)またはロックド核酸(LNA)などのオリゴヌクレオチド類似体である。
【0093】
ホモジニアス核酸ハイブリダイゼーションアッセイのためのオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補アッセイの原理は、図2に記載されており、この原理により、FRETを利用しないで行なわれる2つのプローブ(互いに隣接してハイブリダイズされる)に基づくアッセイが可能となる。そのプローブの1つは、非蛍光ランタニドキレート(4)で標識され、他方は好適な有機集光構造に結合された(coupled)相補アンテナ配位子(5)で標識され;そのキレートとその配位子を合わせて蛍光ランタニド錯体を形成することができる。本発明の他の実施態様によれば、方法は、図3および図4にそれぞれ示すような南京錠または分子指標型プローブにさらに拡張することができる。
【0094】
図3において、南京錠型プローブは、リンカー(9)(たとえばオリゴヌクレオチド配列)に接続された2つの末端オリゴヌクレオチド配列からなり、一方の末端配列(1)はランタニドイオンキャリアキレート(4)で標識され、他方の末端配列(2)は集光性アンテナ配位子(5)で標識される。その2つの標識末端に隣接して相補的な配列を有する標的ヌクレオチド配列(3)が添加される(6)と、二本鎖核酸ハイブリッド(10)が、混合キレートの自己組織化に向かって形成され、強い蛍光の錯体(8)が形成される。錯体の形成により、結果として、励起波長(λ1)で励起された発光波長(λ2)での蛍光の増加となる。
【0095】
図4は、分子指標型プローブを利用したハイブリダイゼーションアッセイを説明するものであり、標識されたプローブは、検体特異的配列(11bおよび12b)に加えて2つの相補的配列(11aおよび12a)を有し、検体配列(3)が存在しない場合に、キレートの2つの部分、すなわちその相補配列の隣に結合させた(coupled)アンテナ配位子(5)およびイオンキャリアキレート(4)が近接するようにして、キレート相補および蛍光錯体(8)の形成を可能とする。検体配列(3)が溶液(14)に供されると、検体特異的配列が、部分二本鎖デュプレックス(13)を形成するそれらの相補配列を認識し、それにより混合キレートが分解し、結果として励起波長(λ1)で励起された発光波長(λ2)での蛍光の減少を生じる。
【0096】
本発明の別の実施態様によれば、レポーター技術は、タンパク質検出およびタンパク質−タンパク質相互作用の測定に応用される。これらの応用では、2つのプローブ間の方向および距離の制御は、天然のリガンド、短い結合ペプチド、またはデノボ設計されたおよび/または部位特異的カップリングケミストリーにより分子結合ライブラリーから濃縮された人工の結合剤を利用することができる。本発明は、特に多量体タンパク質および多量化タンパク質複合体、たとえばウイルスキャプシドタンパク質および分子ハサミに関して説明されるようなC−反応性タンパク質などの検出に良く適している[Heyduk E, et al. (2008) Anal Chem. 80: 5152-5159]。
【0097】
本発明の1つの実施態様によれば、方法は、イオン濃度の変化、または検体または抗生物質またはステロイドなどの小分子リガンドの存在により誘導されるタンパク質二量化(または多量化)の検出に適用できる。そのような事象の例は、カルシウムイオン依存タンパク質二量化である[Appelblom H, et al. (2007) J Biomol Screen 12: 842-8]。二量化は、ヘテロダイマーまたはホモダイマーの形成のいずれであってもよい。もう1つの例は、抗体可変ドメインの抗原依存性再会合を利用することが説明されている[Ueda, H. (2003) J Immunol Methods 279: 209-218]。
【0098】
本発明によれば、キャリアキレートおよびアンテナ配位子は両方とも、たとえばヨードアセトアミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、マレイミドまたはイソチオシアネート活性剤などを使用する生体分子結合剤に共有結合で結合される。生体分子プローブの構築のために、レポーター部分は、たとえば、単一アミノ修飾塩基または末端アミノ修飾を含むオリゴヌクレオチド結合剤にコンジュゲートされる。いくつかのアミノ基(リジン残基)を含む組み換えタンパク質結合剤の場合、チオール基(付加的なシステイン)により、または「クリック−ケミストリー」アプローチにより、部位特異的コンジュゲートが得られる[Beatty, KE et al. (2005) J Am Chem Soc 127: 14150-14151; Hahn, ME and Muir, TW (2005) Trends Biochem Sci 30: 26-34]。キャリアキレートとアンテナ配位子との共有コンジュゲーションは、固層核酸またはペプチド合成において専用に設計された構成要素を利用することにより行うこともできる[Jaakkola et al. (2007) Solid-phase oligonucleotide labeling with DOTA. Current protocols in nucleic acid chemistry, Beaucage, S.L. et al編;Chapter 14: Unit 4.31; John Wiley & Sonsオンライン発行]。
【0099】
本発明の好ましい態様によれば、イオンキャリアキレートまたはアンテナ配位子の生体分子結合剤コンジュゲートは、コンジュゲートされていない部分、特に反応性イオンキャリアキレート試薬に存在する可能性のある遊離のイオンの中から注意深く精製される。精製の有効な方法の例としては、逆相、アフィニティーおよびサイズ排除(またはゲルろ過)クロマトグラフィーおよび透析などを含む。遊離イオンの抽出は、精製前または精製と同時にプローブ溶液へ錯化剤を添加することにより改善することができる。オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションアッセイにおいて、オリゴヌクレオチドプローブの相互距離、より詳細には、実際に標識された塩基の位置の相互距離、およびレポーター部分のコンジュゲーションのために使用されるカップリングリンカーの構造が、2つのプローブがハイブリダイズした後どのようにキャリアキレートおよびアンテナ配位子が空間的に位置するかを定義する。仮に二重らせん構造が堅く、2つのレポーター部分の塩基位置が離れすぎているか、または例えばカップリングリンカーの長さが短すぎると、相補性は妨げられ得る。カップリングリンカーの長さや構造および塩基位置に加えて、付加的な非ハイブリダイズ一本鎖配列を隣接したプローブ位置の間の鋳型オリゴヌクレオチドに導入することができる。これによりさらに混合キレートの動きの自由度と自己組織化との間のバランスをとることが可能となる。
【0100】
本発明のなお他の実施態様によれば、レポーター技術は、レポーターの非特異的結合がアッセイ性能を決めるヘテロジニアスな固相近接プローブ原理に基づくアッセイにおいて用いられる。シグナル産生を検体結合プローブに存在するそれらのレポーターのみに限定することにより、また非特異的に固相に結合したレポーター(または実際にはプローブ)を無視することにより、現在の性能限界は解消される。固相アッセイは、たとえばホモジニアスアッセイにおいてと同じオリゴヌクレオチド配列と同じ標識化プローブとを含み、さらに、たとえばビオチン化鋳型核酸(検体)およびストレプトアビジン固相(好ましくはマイクロタイターウェル)などを結合した錯体を捕捉するために利用することができる。溶液からの蛍光を測定する代わりに、読み出しは、現在、洗浄工程(非結合プローブの分離)後の固相からである。アッセイは、固相近位ライゲーションアッセイを反映し[Fredriksson, S et al. (2002) Nat. Biotechnol. 20: 473-477;およびGullberg, M et al. (2003) Curr Opin Biotechnol 14:82-86]、ホモジニアスモデルアッセイよりも鋳型オリゴヌクレオチドのさらにより感度の高い検出の可能性を提供することができる。
【0101】
タンパク質検出は、利用可能な結合剤自体が容易に予測可能な結合位置および方向を提供せず、したがって、相補されたキレートの自己組織化を制御することをより難しくしているので、より要求の厳しいアプローチである。本発明の1つの実施態様は、組換え抗体断片、タンパク質スキャフィールド(たとえばDARPins、アフィボディー、モノボディー)、アプタマー、ペプチド結合剤、リガンドまたはハプテンを、ランタニドキレート相補性を利用するタンパク質の近接プローブに基づく分析を可能にする部位特異的標識化と組み合わせられる結合剤として利用する。タンパク質の高感度および特異的近接プローブに基づく分析や医学診断における将来性は、2つのオリゴヌクレオチドプローブの近接ライゲーションを利用する(Gustafsdottir, S.M. (2005) Anal Biochem 345: 2-9により説明されている)。
【0102】
本発明のさらに別の実施態様は、相補するランタニドに基づく蛍光レポーターのオリゴヌクレオチド支援自己組織化と組合せられたタンパク質、またはたとえばアプタマー指向生体分子認識を利用する。後者は、近位ライゲーションに基づく検出に利用されるアプローチと似ており、タンパク質またはアプタマー結合剤に付着されるオリゴヌクレオチド尾部が短い相補的オリゴヌクレオチドの存在下で連結される。結合剤タンパク質は、オリゴヌクレオチド尾部で誘導体化でき、より好ましくは、弱い相互作用のロイシンジッパー[Ohiro, Y et al. (2002) Anal Chem 74: 5786-5792]または分子ハサミに類似する他の相互作用結合対[Heyduk E, et al. (2008) Anal Chem. 80: 5152-5159]を有する組換え抗体フラグメントとして生産され、相補ランタニド−キレートに基づくレポーターシステムを有する。抗体上のランダムな化学的コンジュゲーションは、潜在的な問題であり、組換え抗体断片および「クリック−ケミストリー」アプローチは、部位特異的コンジュゲーションを可能にするために使用される。
【0103】
本発明のなお別の実施態様は、相補ランタニドに基づくレポーターの全体のタンパク質指向自己組織化であり、分子モデリングに基づく設計を要求するが、改良された性能を提供する。1つのアプローチは、検体駆動制御タンパク質会合および相補的ランタニドに基づくレポーターによる部位特異的標識化である。制御されたタンパク質会合は、元々抗体Fv断片重鎖および軽鎖ドメインとの酵素相補のために利用されてきた[Ueda, H et al. (2003) J Immunol Methods 279: 209-218]。重鎖および軽鎖とのあいだの相互作用は、その会合が抗原の存在に依存するように人工的に弱められる。部位特異的標識化は、FvドメインのC−末端に導入された追加的なシステイン残基に向けることができる。このアプローチは、しかしながら、抗体構造に限定されるものではなく、なぜならリガンド誘導多量体化が、特にそれらの天然のリガンドに対する特異的なセンサーとして利用できる制御タンパク質で観察される一般的な事象であるからである。もう1つは、より興味深いアプローチでさえあるが、結合剤としてレポーターから誘導体化した相対的に短い合成ペプチドを利用することであり、それはたとえば多量体タンパク質検体上の隣接位置を認識する[Appelblom, H et al. (2007) J Biomol Screen 12: 842-848]。
【0104】
本発明のまた別の実施態様によれば、1つ以上の異なるランタニドイオンが、1つまたは複数の集光性アンテナ配位子と組み合わされた別々のイオンキャリアキレートに採用され、多重パラメータのアッセイデザインを可能とする。
【0105】
さらに別の実施態様によれば、ランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子は、アップコンバーティングランタニド錯体を形成することができる。2つまたはそれ以上の光子に集められたエネルギーは、分子内非放射性プロセスによりアンテナ配位子からキャリアキレート中のランタニドイオンに連続的に移動され、その後特徴的発光の単一光子を放出する。
【0106】
本発明の別の実施態様によれば、相補的ランタニドに基づくレポーターの蛍光強度は、潜在的に共発光現象を利用することにより増強することができる[Xu, YY et al. (1992) Analyst 117: 1061-1069; and Latva, M et al. (1995) J Chem Soc Perkin Trans 2 995-999]。
【0107】
集光構造を含む好ましい相補集光性アンテナ配位子の例は、図5i−図5iv、a)−z)に説明されている。これらの構造はさらに、弱い金属キレート配位子とイオンキャリアキレートと同様に分子結合剤へのコンジュゲートを可能とする任意のリンカー/スペーサーを有する反応基とを含む。略語Xは、ランタニド(III)イオンキャリアキレートの分子結合剤へのコンジュゲーションを可能にする記載された化学構造を意味し、略語−A−は、化学的リンカーまたはスペーサー配列を意味し、略語Lは、図6、a)−h)に説明されている概略構造から独立して選択される化学的部分を意味し、そして略語−Zは、図6、i)−l)から独立して選択される化学的部分を意味するかまたは−Zは存在しない(すなわち水素に置換えられる)。図5ii、i)およびj)ならびに図6、l)の構造に含まれるメトキシ(−OMe)基は、エトキシ(−OEt)基で置換えることができる。図5v、w)−z)において、略語−Gは、−CF3、−CF2CF3または−CF2CF2CF3のいずれかを意味する。典型的には、リンカーは1つまたは複数の短い脂肪族炭素鎖、エーテル、カルボニル、アミド、アミン、エステル、チオエーテルおよび/またはフェニレンから構成され、反応基は、化学的に官能性であり、限定されるものではないが、アルコール、チオール、カルボン酸、一級または二級アミン、ビニルスルホニル、アルデヒド、エポキシド、ヒドラジド、スクシンイミジルエステル、マレイミド、アルファ−ハロカルボニル部分(ヨードアセチルなど)、イソシアネート、イソチオシアネート、およびアジリジンであってよい。好ましくは、化学的官能性基は、N−ヒドロキシスクシンイミド、イソチオシアネート、マレイミド、ヨードアセチルおよびジクロロトリアジンから選択される。イソチオシアネート活性化は、たとえばリジンアミノ酸、ペプチドの末端アミノ、またはオリゴヌクレオチドにおけるアミノ修飾などの一級アミノ基との不可逆性チオカルバミド結合を形成することができる。
【0108】
典型的には、アンテナ配位子は、単座、二座、三座または四座配位子であり、最も好ましくは二座または三座配位子である。有機集光構造は、芳香環またはヘテロ環を含み、集光構造は、イオンキャリアキレートに存在する三価のランタニドイオンに適した三重項状態エネルギーレベルを有する。適切な三重項状態エネルギーおよびランタニドイオンのための集光構造の例は、文献に示されている[Latva, M. et al. (1997) J Luminescence 75: 149-169]。本発明の1つの実施態様によれば、集光有機構造は、7−アミノ−4−メチル−2(1H)−キノリン(cs124)、キノリン様構造またはクマリン様構造に基づく[Li, M., and Selvin, P.R. (1997) Bioconj Chem 8. 127-132;および米国特許第5,622,821号]。
【0109】
相補アッセイに好適な非−蛍光ランタニド(III)イオンキャリアキレートにとって好ましい概略構造の例は、図7i−図7iii、a)−p)に説明されている。これらの構造は、金属、キレート配位子および、ペプチド、タンパク質または核酸などの分子結合剤に、たとえば一級アミノまたはチオール基を介するコンジュゲーションを可能とする任意のリンカー/スペーサーを有する反応基を含む。部位特異的クリック−ケミストリーコンジュゲーション法などの他のコンジュゲーション化学種も可能である。概略構造における略語Ln3+は、三価のランタニドイオンを意味し、−Xは、そのランタニド(III)イオンキャリアキレートの分子結合剤へのコンジュゲーションを可能とする反応基を意味する。図7i−図7iii、a)−p)において、略語−A−は、1〜12の炭素原子を含むアルキル鎖などのリンカーまたはスペーサーを意味し、−Xは、アミノ基、アミノオキシ基、ハロアセトアミド基(ハロゲン化物は臭化物またはヨウ化物である)、イソチオシアネート、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリアジニルアミノ、マレイミド、チオエステルまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミドなどのカルボン酸の活性エステルなどの反応基を意味する。図7ii、f)−g)において、nの値は1または2のいずれかである。オリゴヌクレオチドの標識化のためのイオンキャリアキレートの付加的な構造は、たとえば米国特許第6,949,639号に説明されている。
【0110】
本発明の1つの実施態様によれば、イオンキャリアキレートは、図7i−図7iii、a)−r)に説明されているように1つまたは複数のカルボン酸基を含む。また別の実施態様によれば、イオンキャリアキレートにおける1つまたは複数のカルボン酸基は、CONH2、CONHR1または−CONHR1R2(式中R1およびR2は、国際公開第2007/082996号に記載されている同一または異なる化学構造である)などの中性のキレート基により置換えられる。
【0111】
好ましいイオンキャリア配位子構造は、たとえば、米国特許第5,428,154号、Carrera, C. et al. (2007) Dalton Trans. 4980-4987、Morcos, S.K. (2007) The British Journal of Radiology 80: 73-76、米国特許第5,622,688号および欧州特許出願第0 416 033号にも記載されているような、ランタニド(III)イオンと熱力学的にそして動力学的に安定な、または好ましくは非常に安定な錯体を形成することが可能な六座、七座または八座配位子である。好ましくは、イオンキャリア配位子におけるキレート原子は、酸素および窒素であり、本発明の1つの実施態様によれば、キレート配位子は、複数のカルボン酸基を含有する。リンカーや反応基をコンジュゲートするためのDOTA、EDTAおよびDTPAなどのキレート配位子の誘導体化方法は、Bruecher, E. (2002) Topics in Current Chemistry 221: 103-122; Michra, A. et al. (2005) Proc Intl Soc Mag Reson Med 13: 2592;および米国特許第6,190,923号に記載されている。たとえば、活性基(またはそれらの反応性非活性型)を有する好適な大環状ランタニドイオンキャリア配位子は、マクロサイクリクス社(Macrocyclics, Inc.)(ダラス、TX)から市販されており、たとえば、3,6,9,15−テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ−1(15),11,13−トリエン−4−S−(4−イソチオシアネートベンジル)−3,6,9−三酢酸;1−オキサ−4,7,10−テトラアザシクロドデカン−5−S−(4−イソチオシアネートベンジル)−4,7,10−三酢酸;[(R)−2−アミノ−3−(4−イソチオシアネートフェニル)プロピル]−トランス−(S,S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン−五酢酸;および1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸モノ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルなどの構造がある。錯化剤を用いる場合、ランタニドイオンキャリアキレートは、バイオアッセイの条件において少なくともEDTA錯体と同じかまたはEDTA錯体より大きな条件生成定数を有するように選択することができる。錯化剤を使用しないことが好ましい場合、イオンキャリアキレートは、バイオアッセイの条件において少なくともDTPAと同じかまたはDTPAより大きな条件生成定数を有するように選択される。錯化剤が用いられない場合、イオンキャリアキレートは、バイオアッセイの条件において好ましくはEDTA錯体の解離よりもゆっくりとした解離、より好ましくは、DTPA錯体の解離よりもゆっくりとした解離を有するように選択される。
【0112】
好ましくは、イオンキャリアキレートは、図7i−図7iiiに説明されている概略構造から選択され、ランタニド(III)イオン(Ln3+)は、任意の三価のランタニドイオンであるが、時間分解蛍光分析法を利用する長寿命蛍光に基づくアッセイにはSm3+、Eu3+、Tb3+およびDy3+が好ましく、アップコンバージョン蛍光に基づくアッセイにはEr3+およびTm3+が好ましい。好ましくは、イオンキャリアキレートは、時間分解蛍光分析法の場合、ランタニドイオンに配位し、300nm以上の波長範囲、好ましくは280nm以上の波長で吸収する集光構造は含まないように選択される。
【0113】
好ましくは、イオンキャリアキレートおよび集光性アンテナ配位子は共に水に可溶であり、かつそれらのバイオコンジュゲートが水に可溶である。
【0114】
本発明の1つの実施態様によれば、集光性配位子の可溶性は、可溶性促進置換基を構造に付加することにより、カルボン酸(−COOH、−CH2COOH)、スルホン酸、ホスホン酸または糖残基(たとえばα−ガラクトピラノキシ)を添加することにより改善される(欧州特許出願第1 447 666号および国際公開第2008/020113号)。好ましくは、アンテナ配位子におけるキレート原子は、酸素および窒素であり、本発明の1つの実施態様によれば、アンテナ配位子は、1つまたは2つのカルボン酸基を含有する。
【0115】
好ましくは、ランタニド(III)イオンキャリアキレートとアンテナ配位子の、共に蛍光ランタニド錯体を形成することができる最適な組合わせは、配位子配位部位(座数)の合計が9または10のいずれかとなるように選択される。
【0116】
好ましくは、Eu3+およびSm3+に対して、アンテナ配位子は、図5i−図5ii、a)−j)に説明されている概略図から選択され、Tb3+およびDy3+については、図5i−図5ii、e)−j)から選択される。
【0117】
相補ランタニドに基づく蛍光レポーター技術は、核酸およびタンパク質の定量的測定に適用可能である。シグナルが、一方はランタニドイオンキャリアキレートで標識され、他方は光吸収アンテナで標識された2つのプローブが標的分子に隣接して正確に結合された場合、そして標識成分が非常にしっかりと接触した場合のみに得られるので、シグナルの発生が非常に特異的である。ランタニド錯体の長発光寿命は、自己蛍光および非特異的結合に由来するバックグラウンドを取り除く時間分解測定を可能にする。このアプローチは、ランタニドキレートがそのような独自のスペクトル特性および時間特性を有するため、他のランタニドイオンキレートおよび好適な集光性配位子を用いることにより、同時にいくつかの検体をモニターする(複数検体アプローチ)ために使用することもできる。
【0118】
本発明の方法は、等温核酸増幅反応[Van Ness, J., et al. (2003) Proc Natl Acad Sci USA 100:4504-4509]および熱サイクル核酸増幅反応[Saiki et al. (1988) Science 239: 487-491]の両方をモニターするために適している。ポリメラーゼ連鎖反応のモニターのためには、熱力学的および動力学的に非常に安定なイオンキャリアキレートを用いることが好ましい。
【0119】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、種々の鎖の標的DNAに相補的な短いオリゴヌクレオチド(プライマー)により特定される二本鎖DNAの特異的配列(単位複製配列)のコピー数を増加させるための方法である。PCRは、DNAポリメラーゼ活性による単位複製配列コピー数の連続的、指数関数的増加に基づく。サイクル反応は、典型的には3つの主要な工程を含み、典型的には30から45サイクル繰り返される。これは、非常に短時間で反応混合物を加熱および冷却できる自動化サイクラーにおいてなされる。一般的な反応工程は次のとおりである。
【0120】
1.典型的には90℃または94℃などそれより高く100℃より低い高温での変性。変性の間、二本鎖DNAは融解し、一本鎖DNAに開き、そしてすべての酵素反応が停止する(たとえば、前回のサイクルの伸張反応)。
【0121】
2.典型的には50℃より高いが75℃より低い、たとえば54℃の温かい温度でのアニーリング。アニーリングの間、プライマーは相補的一本鎖標的DNAまたは単位複製配列に結合する。
【0122】
3.典型的には60℃より高いが75℃より低い、たとえば72℃のある程度高い温度での伸張。塩基(鋳型に相補的な)は、3’側でプライマーに結合(coupled)(ポリメラーゼが、5’から3’にdNTP’sを加え、3’から5’側に鋳型を読みながら、塩基が鋳型に相補的に加えられる)される。
【0123】
工程2および3は、工程2に類似するが両工程の機能を組み合わせた条件で単一工程に組み合わせることができる。
【0124】
典型的には、各工程は、数秒から数分かかり、一般的には数十秒から1または2分である。したがって、PCR稼動の長さおよび温かく高い温度へ反応内容物を暴露する長さは、数分から数時間で変化する。典型的には、PCRの長さは、15分と1時間30分のあいだである。
【0125】
リアル−タイム定量PCRまたはホモジニアス エンド−ポイントPCRにおいて、コピー数または単位複製配列の存在の増加が、本発明の方法を用いて検出することができる。
【0126】
本発明の方法がPCR内で用いられる場合、そこでの条件、すなわち50℃から98℃まで、より一般的には60℃から98℃まで変化する温度が、イオンキャリアキレートの条件安定化にかなりな要求を課す。ランタニドイオンのイオンキャリアキレートからの解離は、全PCR期間、すなわち少なくとも数分、典型的には15分よりも長く2時間までの期間これらの条件において無視できるべきである。
【0127】
本発明の実施態様は、本発明の方法を用いて増幅されたPCR産物のリアル−タイムおよびエンド−ポイント検出の両方を可能とする安定性を提供する。配位子の金属キレートの条件安定度定数は、温度などの条件に依存する。典型的には、金属キレートの条件安定度定数は、温度の増加と共に減少する。これは、より高い温度で解離が増加することによる。したがって、そこでの条件、すなわち高い温度でも充分に大きい条件生成定数を有し、かつ動力学的に不活性である、すなわち高い温度でゆっくりとした解離を有する、そのようなイオンキャリアキレートのみがPCRに適している。イオンキャリアキレートの充分に大きい条件定数は、イオンがPCRのあいだキャリアキレートから解離しないという結果を生じる。
【0128】
近接プローブに基づく認識により形成された相補混合ランタニドキレートは、さらに発光(アクセプター)または非発光(消光剤)蛍光化合物との共鳴エネルギー移動におけるドナーとして利用することができる。アクセプターは、ドナー発光と重なるスペクトルをもたないように選択することもできる。
【実施例】
【0129】
実施例1
ホモジニアスな近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイ
合成標的DNAオリゴヌクレオチド(5’−GATGCAGTAGCAGGAAGAGGATCGTAGCAATG−3’;配列番号1)、アミノ修飾プローブAオリゴヌクレオチド(5’−CATTGCTACGATCC(C6dT)C−3’;配列番号2)およびアミノ修飾プローブBオリゴヌクレオチド(5’−T(C2dT)CCTGCTACTGCATC−3’;配列番号3)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI)から購入した。プローブAは、3’−端付近に位置する第一級アミノ基修飾で、Eu3+イオンキャリアキレート、(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[Mukkala, V.-M. et al., (1989) Anal. Biochem., 176: 319]、Eu3+−N1)により標識し、そしてプローブBは、5’−端付近で、集光性アンテナ配位子(4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、3d−アンテナ)により標識した。プローブA(25nmol)を、50mM炭酸塩緩衝液中、pH9.8、+37℃で20倍モル過剰のEu3+−N1と一晩インキュベートした。標識化反応の全量は50μLであった。プローブBの3d−アンテナによる標識化については、3d−アンテナをN,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ社)中に溶解し、水に溶解したオリゴヌクレオチドと混合し、そしてその後、炭酸塩緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで添加した。標識化反応において、3d−アンテナのモル過剰は全量110μLで50倍であった。反応物をゆっくりと回転させながら+50℃で一晩インキュベートした。
【0130】
標識されたプローブの精製はHPLC(サーモ エレクトロン社の機器、ウォルサム、MA、USA)で行い、3d−アンテナ標識プローブBの精製にはサーモ サイエンティフィック社(ウォルサム、MA、USA)のODS C18 Hypersilカラムを用い、Eu3+−N1−標識プローブAの精製にはフェノメネクス(Phenomenex)社(トランス、CA、USA)のLuna C18(2)カラムを用いた。両カラムとも長さ150mm、内径(i.d.)4.6mmであった。精製は、21分で86%Aおよび14%Bから70%Aおよび30%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分で行った[A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ社、ブックス、スイス);B、50mMTEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA)]。回収した画分から液体を真空中で蒸発させ(Hetovac VR−1、Heto−Holten A/S、アレレズ(Allerod)、デンマーク)、ついで再度10mMのTris−HCl(pH7.5)、50mMのNaClに溶解した。標識プローブは、260および330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴づけされ、総Eu3+濃度はDELFIA技術を用いて測定された(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック、ツルク、フィンランド)。
【0131】
アッセイは、50mM トリス−HCl(pH7.75)、600mM NaCl、0.1%のTween20、0.05%のNaN3、および30μMジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含有するアッセイ緩衝液において、Nunc(ロスキレ、デンマーク)から購入した低蛍光96ウェルMaxisorpマイクロタイタープレートを用いることにより行なわれた。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナ(10または50nM)および標的オリゴヌクレオチド(0〜50nM)を混合して全量60μLとし、ウェルに加えた。プレートを、まず短時間ゆっくりと攪拌し、ついで攪拌しないで室温で15分および60分インキュベートした。時間分解蛍光測定は、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用い、1000測定サイクル計測することにより、1420Victor Multilabel Counter(パーキン−エルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ツルク、フィンランド)で行なった。
【0132】
キレート相補アッセイ法の原理は、図1に示す。2つの16−merプローブ、すなわち3’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、ユーロピウム(III)イオンキャリアキレート(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[Mukkala et al. (1989)]Eu3+−N1、図8aの概略構造)により標識されたプローブA、および5’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、集光性アンテナ(4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、3d−アンテナ、図8bの概略構造)により標識されたプローブBは、32−mer標的オリゴヌクレオチドに相補的であった。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナのお互いへの親和性は最小であるため、相補的標的オリゴヌクレオチドの非存在下では蛍光を検出することはできない。標的オリゴヌクレオチドの存在下で、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナは、標的オリゴヌクレオチド上の隣接した位置にハイブリダイズし、Eu3+−N1および3d−アンテナは、大きなストークシフト、鋭い発光ピークおよび長い蛍光寿命を伴い特定の波長で蛍光を発する混合キレート錯体を形成する。
【0133】
実験の結果は、図9に説明され、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナの標的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション後にE3+−特異的蛍光が現れる。四角が10nM濃度のプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナでの反応の測定結果を表し、円が50nM濃度の同じプローブでの反応の結果を表す。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナの量は、標的オリゴヌクレオチドの量が増加するあいだ一定であった。検出限界は、バックグラウンドシグナルの三倍標準偏差に相当する濃度として規定され、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナの量が50nMの場合13pM(0.78fmol/アッセイ)である。本発明者らのアッセイにおける検出限界は、以前に報告されているもの[A. Oser, G. Valet (1990) Angew. Chem. 102, 1197; Angew. (1990) Chem. Int. Ed. Engl. 29, 1167]よりも良く、特に、シグナル対バックグラウンド比が1000以上(1400:1まで)であり、本発明者らのアッセイにおけるシグナルレベルは従来技術[Wang, G., Yuan, J., Matsumoto, K., and Hu, Z. (2001) Anal. Biochem. 299: 169](3より低い比(3:1より低い)が示されている)と比較して飛び抜けていた。これは、適切に選択されたイオンキャリアキレート、アンテナ配位子、リンカー配列、オリゴヌクレオチド修飾を用いることにより、とりわけ溶液中に存在する任意の遊離ユーロピウム(III)イオンを実質的に錯体化するために錯化剤を添加することにより達成される。本発明者らのアッセイにおけるダイナミックレンジは4桁におよび、蛍光シグナルは、少なくとも1時間安定であった。
【0134】
DTPA濃度の驚くべき効果を表1に説明する。実施例において最適なDTPA濃度は、30μMまたはそれ以上であった。DTPAの非存在下では、10nMプローブ濃度でのシグナル−対−バックグラウンド比は、2よりも小さく、一方30および100μM DTPA濃度では、70より大きい比が得られた。これは、バックグラウンドが明らかに観測可能であった従来技術に対して本発明により得られる有意な改善を説明している。結果は、そこでの条件で遊離のランタニドイオンの濃度は、錯化剤の非存在下で元々ナノモル濃度であるが、一方錯化剤の添加により、遊離イオンの濃度を少なくとも100倍、潜在的には1000倍より大きく、ピコモル濃度に、または1ピコモル濃度より低い濃度に減少させることができる。これは、アッセイバックグラウンドの劇的な減少および得られるシグナルのバックグラウンドに対する比率の有意な増加という結果を生じる。
【0135】
【表1】
【0136】
実施例2
シグナル発生における特異性
非相補的標的ヌクレオチド(5’−CTGCTCTATCCACGGCGCCCGCGGCTCCTCTC−3’;配列番号:4)は、Biomers.net社(ウルム、ドイツ)から購入した。実施例1に記載した実験を、標的オリゴヌクレオチドを非相補的標的オリゴヌクレオチドに代えて繰り返した。相補的標的オリゴヌクレオチドを可変濃度の非相補的32−merオリゴヌクレオチドに置換したことにより、相補的標的オリゴヌクレオチドの非存在下におけるのと同じ蛍光シグナルを生じ;可変濃度の非相補的標的オリゴヌクレオチドの存在下ではゼロ濃度の標的オリゴヌクレオチド;すなわちブランク対照と比較して、検出可能なシグナル差は観察されなかった。これは、本発明のシグナル発生機序は、高度に特異的であり、かつ2つの同時に起こる生体分子認識事象に依存するということを示す。
【0137】
実施例3
発光スペクトルおよび蛍光寿命
追加的プローブ、アミノ修飾プローブCオリゴヌクレオチド(5’−CATTGCTACGATCC(C2dT)C−3’;配列番号:5)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI)から購入し、本来蛍光である2,2’,2’’,2’’’−[[4−[(4−イソチオシアネートフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]ビス(メチレンニトリロ)]テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)(Eu3+−7d;図8cに概略構造)により標識した。プローブC(5nmol)を、20倍モル過剰のEu3+−7dと50mM炭酸塩緩衝液(pH9.8)中、+37℃で一晩インキュベートし、実施例1にA−Eu3+−N1について記載したように精製した。
【0138】
本来蛍光であるEu3+−キレート標識プローブC−Eu3+−7d、ならびに別にプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナとの標的オリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光スペクトルおよび発光寿命をVarian Cary Eclipse蛍光分光光度計(バリアン サイエンティフィック インスツルメント社、マルグレーブ、オーストラリア)により測定した。標的オリゴヌクレオチド(0または10nM)をプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナ(50nM)とアッセイ緩衝液中で混合し、測定前にRTで30分間インキュベートした。0nM(細線)および10nM(太線)の標的オリゴヌクレオチドによる蛍光スペクトルを図10aに説明する。錯体の蛍光特性を、本来蛍光であるEu3+−キレートの蛍光特性と比較するために、プローブC−Eu3+−7dをアッセイ緩衝液中、50nMの濃度に希釈し、スペクトルを測定した。プローブC−Eu3+−7dの蛍光スペクトルは、図10bに示す。標的オリゴヌクレオチドの存在下でプローブA−Eu3+−N1とプローブB−3d−アンテナとから形成された錯体は、615nmの主要発光ピークを有する本来蛍光であるプローブC−Eu3+−7dと同様の蛍光スペクトルを生じた。標的オリゴヌクレオチドの非存在下では、プローブA−Eu3+−N1とプローブB−3d−アンテナによる長寿命の蛍光発光は検出されず、結果として平らなスペクトルとなった。10nM標的オリゴヌクレオチドの存在下でプローブA−Eu3+−N1とプローブB−3d−アンテナとから形成された錯体の蛍光減衰時間は、618μs(減衰スペクトルは図10aに挿入)であり、プローブC−Eu3+−7dの蛍光減衰時間は、380μs(図10bに挿入)であった。これは、混合キレート錯体が、プローブC−Eu3+−7dの本来蛍光である七座(dentate)キレートにおけるイオンよりも水分子からより良く保護されることを示す。
【0139】
実施例4
ヘテロジニアスな近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイ
アミノ修飾プローブオリゴヌクレオチド(プローブA、5’−CATTGCTACGATCC(C6dT)C−3’;配列番号2、およびプローブB、5’−T(C2dT)CCTGCTACTGCATC−3’;配列番号3)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI)から購入した。プローブAは、N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1、N2、N3、N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[V.-M. Mukkala et al. (1989) Anal. Biochem., 176: 319](Eu3+−N1;図8aに概略構造)および本来蛍光である2,2’,2’’,2’’’−[[4−[(4−イソチオシアネートフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]ビス(メチレンニトリロ)]テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[H. Takalo et al. (1994) Bioconjugate Chem, 5, 278](Eu3+−7d;図8cに概略構造)で標識し、プローブBは、4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸(アンテナ;図8bに概略構造)で標識した。プローブAの25nmolおよび5nmolを、それぞれ20倍モル過剰のEu3+−N1およびEu3+−7dと50mMの炭酸塩緩衝液(pH9.8)中、+37℃で一晩インキュベートした。標識化反応の全量は50μlであった。プローブBのアンテナによる標識化については、アンテナをN,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ社)に溶解し、水に溶解したオリゴヌクレオチドと混合し、その後、炭酸塩緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで加えた。標識化反応において、アンテナのモル過剰は全量110μlで50倍であった。反応物は+50℃でゆっくりと回転させながら一晩インキュベートした。
【0140】
標識されたプローブの精製はHPLC(サーモ エレクトロン社からの機器、ウォルサム、MA、USA)で行い、アンテナ標識プローブBの精製にはサーモ サイエンティフィック社(ウォルサム、MA、USA)のODS C18 Hypersilカラムを用い、Eu3+−N1およびEu3+−7d標識プローブAの精製にはフェノメネクス社(トランス、CA、USA)のLuna C18(2)カラムを用いた。精製は、21分で86%Aおよび14%Bから70%Aおよび30%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分で行った[A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ社、ブックス、スイス);B、50mM TEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA)]。回収した画分から液体を真空下で蒸発させ(Hetovac VR−1、Heto−Holten A/S、アレレズ、デンマーク)、ついで再度10mMのTris−HCl(pH7.5)、50mMのNaClに溶解した。標識されたプローブは、260および330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴付けされ、全Eu3+濃度はDELFIAシステムを用いて測定した(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック、ツルク、フィンランド)。
【0141】
ビオチン化標的オリゴヌクレオチド(5’−ビオチン−TTGATGCAGTAGCAGGAAGAGGATCGTAGCAATG−3’;配列番号6)は、Biomers.net社(ウルム、ドイツ)から購入した。アッセイは、N−スクシンイミジル S−アセチルチオアセテート(SATA、ピアス バイオテクノロジー社、ロックフォード、IL)−活性化[J. Ylikotila et al. (2008) Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, doi:10. 1016/j. colsurfb. 2008. 12. 042]ストレプトアビジン(BioSpa、ミラン、イタリア)でスポットコートされた[L. Vaelimaa et al. (2008) Anal. Bioanal. Chem. 391, 2135]C8 White Maxisorpプレート(Nunc、ロスキレ、デンマーク)において行なった。すべての希釈は、50mM Tris−HCl(pH7.75)、600mM NaCl、0.1%(v/v)Tween20、0.05%(w/v)NaN3、1μM ジエチレントリアミン五酢酸を含むアッセイ緩衝液でなされた。ウェルは、NaClを最終濃度が600mMとなるまで補足したDELFIA洗浄溶液(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック)で1回事前洗浄した。ビオチン化標的オリゴヌクレオチド(0〜200nM)を30μl添加し、プレートを、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−アンテナまたはプローブA−Eu3+−7dを30μlに200nM添加する前に、ゆっくりと振とうしながら室温で30分間インキュベートした。振とう30分後、プレートを前述のように3回洗浄し、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用いることによる、1420Victor Multilabel Counter(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ツルク、フィンランド)による時間分解蛍光測定の前に室温で乾燥するまで静置した。
【0142】
プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−アンテナを用い、ビオチン化された標的オリゴヌクレオチドの濃度を増加させながら得られた結果は、図11aに説明され、プローブA−Eu3+−7dを用いて得られた結果は、図11bに示す。本発明に記載されている相補キレートアプローチによる近接プローブに基づくアッセイは、同じ蛍光シグナルでより低い蛍光バックグラウンドを可能とし、検出限界の改善という結果をもたらした。これは、本発明がヘテロジニアスアッセイに適用可能であり、アッセイ性能を改善するということを示している。シグナルの発生は、それらの形成に2つの隣接した生体分子認識事象を必要とする混合キレート錯体にのみ制限される。
【0143】
実施例5
ストレプトアビジンおよびアビジンのためのホモジニアスな近接プローブに基づくアッセイ
N−(6−アミノヘキシル)−5−(2−オキソヘキサヒドロ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−4−イル)ペンタンアミド((+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン)を、4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸(アンテナ)にカップリングした。カップリング反応の生成物の概略構造は、図12aに説明されている。カップリングのために、(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミンおよびアンテナをN,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ社、セントルイス、MO)に溶解し、混合し、その後、炭酸緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで添加した。カップリング反応において、(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミンのモル過剰は、全量270μlで3倍であった。反応物を+50℃でゆっくり回転させながら一晩インキュベートした。
【0144】
カップリング反応の精製は、サーモ サイエンティック社(ウォルサム、MA、USA)のODS C18 Hypersil columnおよびHPLCカラムオーブン2155(ファルマシア LKB社、ウプサラ、スウェーデン)を用いてHPLC(機器はサーモ エレクトロン社、ウォルサム、MA、USA)で行なった。精製は、30分で80%Aおよび20%Bから0%Aおよび100%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分、+50℃で行なった[A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ社、ブックス、スイス);B、50mM TEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA)]。回収した画分から液体を真空下(Hetovac VR-1, Heto-Holten A/S, アレレズ、デンマーク)で蒸発させ、ついで10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、0.05% w/v NaN3に再溶解した。溶解した画分を330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴付けた。
【0145】
N−(2−(2−(2−アミノエトキシ)エトキシ)エチル)−5−(2−オキソヘキサヒドロ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−4−イル)ペンタンアミド(ピアス社、ロックフォード、IL、USA)((+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン)を、パーキン エルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社(ワラックオユ、ツルク、フィンランド)から購入したN1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[Mukkala V.-M., et al. (1989) Anal. Biochem. 176, 319](Eu3+1−N1)にコンジュゲートさせた。カップリング反応の生成物の概略構造は図12bに説明されている。コンジュゲーション反応およびHPLCによる精製は、以前に記述されているように行なった[Kuningas, T. et al. (2005) Anal. Chem. 77, 2826]。
【0146】
アッセイは、50mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、10μMジエチレントリアミン五酢酸を含むアッセイ緩衝液において、Nunc社(ロスキレ、デンマーク)から購入したC8 White Maxisorpマイクロタイタープレートで行なわれた。ウェルは、ストレプトアビジンまたはアビジンのウェル表面への非特異的結合を防ぐため、事前にウシ血清アルブミンでブロックした。BioSpa社(ミラン、イタリア)のストレプトアビジンまたはシグマのアビジン(0〜100nM)および(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン−アンテナ(コンジュゲートの概略構造は図12a)および(+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン−Eu3+−N1(コンジュゲートの概略構造は図12b)(20nM)を混合して全量60μlとし、ウェルに添加した。プレートをまず短時間ゆっくりと振とうし、ついで振とうしないで室温で15分および60分インキュベートした。時間分解蛍光測定は、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用いることにより、1420Victor Multilabel Counter(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル ライフ サイエンス社、ツルク、フィンランド)で行なった。
【0147】
ストレプトアビジンの濃度を増加させながら得られた結果は、図13aに示され、アビジンによる結果は図13bに示されている。結果は、本発明が多量体タンパク質(ストレプトアビジンおよびアビジンは四量体タンパク質)の検出にも適用できるということを示している。標識部分、すなわちランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子は、適切な距離でタンパク質分子上の別々の結合部位を有するそのような生体分子認識エレメントにカップリングされる。実施例において、ビオチン結合部位は同一であり、ストレプトアビジンの各モノマーにそれらの1つが存在する。
【0148】
実施例6
テルビウム(III)イオンを用いるホモジニアスなハイブリダイゼーションアッセイ
合成標的DNAオリゴヌクレオチド(5’−GATGCAGTAGCAGGAAGAGGATCGTAGCAATG−3’;配列番号1)およびアミノ修飾プローブAオリゴヌクレオチド(5’−CATTGCTACGATCC(C2dT)C−3’;配列番号2)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI、USA)から購入し、アミノ修飾プローブBオリゴヌクレオチド(5’−T(C2dT)CCTGCTACTGCATC−3’;配列番号3)はサーモ サイエンティフィック社(ウォルサム、MA、USA)から購入した。プローブAは、3’端付近に位置する第一級アミノ基修飾で、Tb3+イオンキャリアキレート、(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)テルビウム(III)、Tb3+−N1)により標識し、そしてプローブBは、5’端付近で、集光性アンテナ配位子(4−(3−(4−イソチオシアネートフェネチル)−2,4,6−トリメトキシフェニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、TMP−アンテナ)により標識した。プローブA(10nmol)を20倍モル過剰のTb3+−N1と、50mM炭酸塩緩衝液(pH9.8)中、+37℃で一晩インキュベートした。標識化反応の全量は50μLであった。プローブBのTMP−アンテナによる標識化については、TMP−アンテナを75%N,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ)中に溶解し、オリゴヌクレオチドと混合し、そしてその後、炭酸塩緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで添加した。標識化反応において、TMP−アンテナのモル過剰は全量70μLにおいて50倍であった。反応物はゆっくりと回転させながら+50℃で一晩インキュベートした。
【0149】
コンジュゲーション反応からの標識されたプローブの精製は、まずNAP−5セファデックスカラム(GEヘルスガレ社、バッキンガムシャー、英国)を用いてゲルろ過により行い、その後、HPLC(サーモ エレクトロン社からの機器、ウォルサム、MA、USA)で行い、TMP−アンテナ標識プローブBの精製にはサーモ サイエンティフィック社のODS C18 Hypersilカラムを用い、Tb3+−N1−標識プローブAの精製にはフェノメネクス社(トランス、CA、USA)のLuna C18(2)カラムを用いた。ゲルろ過からの溶出液は、真空下(Hetovac VR-1, Heto-Holten A/S, アレレズ、デンマーク)で蒸発させ、10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaClに溶解し、HPLC精製に使用した。HPLC精製は、21分で86%Aおよび14%Bから70%Aおよび30%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分で行った(A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ、ブックス、スイス);B、50mM TEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA))。回収した画分から液体を真空下で蒸発させ、ついで再度10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaClに溶解した。標識されたプローブは、260および330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴付けされ、全Tb3+濃度はDELFIA技術を用いて測定した(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック、ツルク、フィンランド)。カップリング反応の精製は、精製効率を改善するために、2つの異なる方法を含めた。
【0150】
アッセイは、50mM Tris−HCl(pH7.75)、600mM NaCl、0.1% Tween20、0.05% NaN3、および30μMジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含有するアッセイ緩衝液において、Nunc社(ロスキレ、デンマーク)から購入した低蛍光96ウェルMaxisorpマイクロタイタープレートを用いることにより行なった。プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナ(10または50nM)および標的オリゴヌクレオチド(0〜50nM)を混合して全量60μLとし、ウェルに加えた。プレートを、まず短時間ゆっくりと振とうし、ついで振とうしないで室温で45分間インキュベートした。時間分解蛍光測定は、340nm励起フィルター、545nm発光フィルター、400μs遅延時間および1200μs測定時間を用い、2000測定サイクル計測することにより、1420Victor Multilabel Counter(パーキン−エルマー ライフ アンド アナリティカル ライフ サイエンス社、ツルク、フィンランド)で行なった。
【0151】
テルビウムキレート相補アッセイについて、32−mer標的オリゴヌクレオチドに相補的な2つの16−merプローブを使用した:3’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、テルビウムイオンキャリアキレート(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)テルビウム(III)、Tb3+−N1、図14a)により標識されたプローブA、および5’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、反応性集光性アンテナ(4−(3−(4−イソチオシアネートフェネチル)−2、4、6−トリメトキシフェニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、TMP−アンテナ図14b)により標識されたプローブB。プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナのお互いへの親和性は最小であるため、相補的標的オリゴヌクレオチドの非存在下では蛍光を検出することはできない。標的オリゴヌクレオチドの存在下で、プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナは、標的にハイブリダイズし、Tb3+−N1およびTMP−アンテナは、大きなストークシフト、鋭い発光ピークおよび長い蛍光寿命を伴い特定の波長で蛍光を発する錯体を形成する。
【0152】
プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナと標的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション後のTb3+−特異的蛍光は、図15に表す。プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナの量は、標的オリゴヌクレオチドの量が変化するあいだ一定(10nM、四角で示される結果、または50nM、円で示される結果のいずれも)であった。545nmでの主要発光ピークで時間分解発光が測定された。検出限界は、標的オリゴヌクレオチドの100pmol/l濃度よりも低く、本発明者らのアッセイにおけるダイナミックレンジは4桁までにおよんだ。DTPAは、30μM濃度で存在した。この結果により、本発明は適切な集光性アンテナ配位子を選択することにより他の蛍光ランタニドイオンに容易に移転できるということを示している。
【0153】
実施例7
テルビウム(III)イオンによる発光スペクトルおよび発光寿命
プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナの標的オリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光スペクトルおよび発光寿命をVarian Cary Eclipse 蛍光分光光度計(バリアン サイエンティフィック インスツルメント社、マルグレーブ、オーストラリア)を用いて測定した。標的オリゴヌクレオチド(0または10nM)をプローブA−Tb3+−N1(50nM)およびプローブB−TMP−アンテナ(50nM)とアッセイ緩衝液中で混合し、測定前にRTで60分間インキュベートした。
【0154】
標的オリゴヌクレオチドの存在下(図16;太い線)でプローブA−Tb3+−N1とプローブB−TMP−アンテナとから形成された錯体は、545nmの主要発光ピークを有する蛍光スペクトルを生じた。標的オリゴヌクレオチドの非存在下(細い線)では、プローブA−Tb3+−N1とプローブB−TMP−アンテナによる蛍光発光は検出されなかった。10nM標的オリゴヌクレオチドの存在下でプローブA−Tb3+−N1とプローブB−TMP−アンテナとから形成された錯体の蛍光減衰時間を測定した。発光寿命(減衰スペクトルは図16に挿入)は、二重指数関数的(double exponential)であり、より短い成分が105μsの寿命を有し、より長い成分は400μsを有した。これにより、カップリングリンカー(標識部分の距離と方向に影響を与える)は、たとえば、それらの構造次元が変化するので、生体分子認識事象により方向付けられるキレート相補性の効率に影響を与える種々のアンテナ配位子に対して、最適化されなければならない。
【0155】
実施例8
オリゴヌクレオチド指向キレート相補アッセイ(OCCA)
検出技術の性能は、閉管リアルタイムPCRにおいて、合成鋳型(5’CTTCAGCGCTACACACGCTCAAATCATCGAGGAAAACCGTATGAGAAACGGATCTAAGCTTGTCATTTGATAAAGCATCATGCAACATTAACCCGAGATACGATTTGTCCATATCTTTGATACGACGCCGCAAAAGCTCTTCCCAAGCCGAGTCTACAG3’;配列番号7;サーモ サイエンティフィック社、USA)の0〜105分子を増幅することにより調べた。リアルタイムPCRは、光学キャップ(MicroAmp(登録商標)、光学8−キャップストリップ、アプライド バイオシステムズ社、USA)を閉めた96ウェルPCRプレート(Thermo-Fast(登録商標)96 Robotic PCR Plate、サーモ サイエンティフィック社)を用いて行った。各40μlPCR反応は、500nMプライマー(5’プライマー 5’CTGTAGACTCGGCTTGGGAAGAGC3’;配列番号8および3’プライマー 5’AAGCCTTCCCTTTATACGCTCAAGC3’;配列番号9;サーモ サイエンティフィック社)、(2,2’,2’’−(10−(3−イソチオシアネートベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)三酢酸;図8d)の非蛍光Eu3+イオンキャリアキレートで標識されたプローブA(5’AATCGTATCTCGGGTTAATG[AmC7];配列番号10;サーモ サイエンティフィック社)50nM、集光性アンテナ配位子(4−((4−イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸)[U. Karhunen et al., Anal Chem, 82 (2010) 751]で標識されたプローブB(5’T(AmC2dT)GCATGATGCTTTATCAAA3’3’リン酸塩;配列番号11;サーモ サイエンティフィック社)50nM、30μM DTPA、400μM dNTPs、0.6μl PhireホットスタートDNAポリメラーゼ(Finnzymes社、フィンランド)Phire反応緩衝液(Finnzymes社)および各種量の合成一本鎖オリゴヌクレオチド鋳型を含む。熱サイクルは、98℃で2分の初期変性およびポリメラーゼ活性化ステップ、その後、98℃で15秒、60℃で20秒および72度で15秒を8サイクル;98℃で15秒、60℃で20秒、72℃で15秒、98℃で15秒、60℃で20秒、72℃で15秒、94℃で15秒および30℃で30秒を17サイクルから構成された。その熱サイクルは、PTC−200サーマルサイクラー(MJ リサーチ、USA)を用いて行われ、時間分解蛍光はサイクル9で開始して、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用い、1000測定サイクル計測することにより、Victor1420Multilabel Counter(パーキンエルマー ライフ サイエンス社、フィンランド)で30℃で測定した。各蛍光測定のために、PCRプレートは、PTC−200サーマルサイクラーからVictor1420Multilabel Counterへ一時的に移された。
【0156】
各種量のオリゴヌクレオチド鋳型が増幅され、リアルタイムPCTにおいて測定された。プローブAおよびプローブBと標的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション後のEu3+特異的蛍光は、図17に示す。増幅プロットは、PCRサイクル数の関数として各蛍光測定値をプロットすることにより作成した。
【0157】
他の好ましい態様
当然のことながら、本発明の方法は、多種多様な態様の形態で組み込まれることができ、本明細書に開示されているのはそのうちの数例のみである。他の実施態様が存在し、本発明の精神から逸脱しないことは当業者には明らかである。したがって、記載された実施態様は、説明のためのものであり、制限的なものとして解釈されるべきものではない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を説明するために本明細書中において使用される刊行物およびその他の文献、およびとりわけ実施に関する追加的な詳細を提供するケースは、参考文献として組み込まれる。
【0003】
バイオアフィニティー結合反応または酵素的触媒反応に基づく多数のアッセイが、種々の生物学的試料または環境試験、産業処理および化合物ライブラリーにおける試料から生物学的に重要な化合物、またはそれらの活性またはそれらの生物学的作用、または種々の生物学的試料により誘導される活性や作用のモジュレーションを分析するために開発されている。これらのアッセイのいくつかは、特異的バイオアフィニティー認識反応にもとづいており、たとえば、天然の生物学的結合成分、人工的に生産された結合化合物または成型プラスチックインプリント(分子インプリンティング)が特異的結合アッセイを形成するための認識エレメントとして使用される。他のアッセイは、試料中に存在するかまたは反応中に添加される化合物(たとえば、生物学的に活性な酵素、生体分子に対する活性を有する化学的化合物、酵素基質、酵素活性化剤、酵素阻害剤、酵素モジュレーティング化合物)の活性またはその活性のモジュレーションなどに依存している。このようなアッセイは、一般に、たとえば認識および結合反応の後に形成される複合体を定量するためといった、シグナルを生み出す1つの標識または複数の標識の組み合わせに依存するものである。ヘテロジニアスアッセイにおいては、一般に、たとえば遊離の標識シグナルまたは結合した標識シグナルの画分が測定される前に、分離工程(沈殿および遠心のような分離、濾過、たとえば被覆アッセイチューブ、スライドもしくは微粒子などのプラスチック表面へのアフィニティー回収、溶媒抽出、ゲル濾過、または他のクロマトグラフィーシステムなど)が必要とされる。ホモジニアスアッセイにおいては、標識または複数の標識のシグナルが結合反応または酵素活性、または他の測定される作用によりモジュレートされるかまたは形成され、標識シグナルの測定前に分離工程は必要とされない。ヘテロジニアスおよびホモジニアスアッセイの両方において、遊離または結合した標識の画分からの標識シグナルの測定は、一般に試料中の検体または活性の直接的な計算または一般に未知の試料が比較される標準の使用を介した間接的計算を可能にする。種々の結合アッセイ法は、Principles and Practice of Immunoassay, 2nd ed., C. P. Price and D. J. Newman, eds., Palgrave Macmillan, Hampshire, UK, 2001;およびThe Immunoassay Handbook, 2nd ed. David Wild, ed., Nature Publishing Group, New York, NY, 2001に概説されている。
【0004】
単純で感度が高くかつ定量的であり、好ましくはホモジニアスで多重な核酸ハイブリダイゼーションアッセイの開発が、蛍光標識および検出技術の発展において重要な目標である。ホモジニアスな方法は、結合された標識と遊離の標識との煩わしい分離工程の必要がなく、また自動的にアッセイを行うために必要とされる機器の構造もかなり単純化されるため、より注目されている。さらに、ホモジニアスな方法は、たとえば核酸増幅反応のリアルタイムモニタリングに関係する技術にも必要である[Higuchi, R., et al. (1992) Biotechnology 10: 413-417; Higuchi R., et al. (1993) Biotechnology 11:1026-1030]。核酸ハイブリダイゼーションのホモジニアスで非分離モニタリングに好適な現在利用可能な標識テクノロジーは、なお試料マトリックスの干渉を受け、そのテクノロジーは、普遍的に用いられることができない。たとえば5’ヌクレアーゼアッセイ[米国特許第5,210,015号]には適しておらず、またそれらは必要とされる迅速な読み出しを用いて行われるのに充分な感度で単純には検出できず、また検出に必要とされる機器が複雑または高価過ぎて都合よく構築または小型化できない。
【0005】
フォトルミネッセンスに基づくホモジニアスな検出技術は、幾つかの種類の物理的および化学的相互作用が特定の生体分子複合体の形成による光輝性標識の発光を調節するために採用できるので、さらに注目を集めている。よく用いられる方法は、放出光の偏光、または2つの光輝性化合物(ドナーおよびアクセプター)間または光輝性化合物と非−光輝性化合物(ドナーおよび消光剤)との間の非放射性エネルギー移動(共鳴エネルギー移動)に基づく[Hemmilae I, Clin Chem 1985;31:359-370]。
【0006】
共鳴エネルギー移動
フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)は、近接して存在する2つの適当に選ばれた蛍光分子の間の強く距離に依存した(6乗に反比例する)非放射性エネルギー移動機構である[Foerster, T (1948) Ann Physik 2:55-75]。共鳴エネルギー移動(RET)は、ドナーとアクセプター蛍光団がFoerster半径(典型的な値は4〜7nm)内にあり、ドナーの発光スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルが重なるときに実用的効率となる。RETは、通常、ドナーとアクセプターの近接から生じるドナー発光強度の減少またはアクセプター発光強度の増加(感作アクセプター発光として知られる)[Selvin, PR (1995) Biochem Spectroscopy 246: 300-334]のいずれかを測定することにより観測される。非蛍光アクセプター(消光剤として知られる)の場合、ドナー発光強度の変化が観測される。
【0007】
FRETは、広く用いられており、多くの応用の基幹的な技術であるが、性能に重大な制限があり[Hemmilae, I (1985) Clin Chem 31: 359-370]、実際、RETプローブは真の近接プローブとしての厳しい要件を満たすことはできない。近接プロービングは、2つの近接プローブの近接度(nearness)の検出を可能とする技術であり、そして種々の生体分子の特異的で繊細で迅速な検出に用いられる。近接プローブは通常、結合部分(認識エレメント)または他の認識部位(標的分子、すなわち検体に対する特異的親和性をもって)および標的分子で構成され、2つの類似したまたは異なる近接プローブを隣接位置に結合させることができる。プローブ間の近接とは、したがって2つのプローブが、たとえば標的分子上のそれら別々の結合部位に結合する場合に提供される。真の近接プローブの特徴は、プローブ対が標的分子によってすぐ近くに向けられない場合、それらはいかなる有意なシグナルも生み出さない(すなわち検出できない)が、標的分子の存在下における特異的認識事象によりプローブ対が検出可能な状態に切り換えられるということである。一価の近接プローブを用い、洗浄工程なしで溶液中にて行われる近接プロービングは、国際公開第01/61037号、Schallmeiner et al. (2006) Nature Methods 4:135-137および国際公開第2003/044231号に記載されている。
【0008】
従来のFRETに基づくアッセイは、i)アクセプターの直接励起(アクセプターは、ドナーが励起されるのと同じ波長で弱く励起される)、ii)ドナー発光のクロストーク(ドナーはアクセプター発光が測定されるのと同じ波長でいくらか発光する)、iii)かならずしも近接を必要としないアクセプター蛍光団によるドナー発光(光子)の吸収を介した放射性エネルギー移動(ほとんど距離に依存しない;2乗に反比例する)、およびiv)バックグラウンドシグナルを生じる散乱励起光および自己蛍光(試料、他のアッセイ成分、プラスチックおよび検出機器自体から)の影響を受ける。したがって、従来の蛍光団およびRETプローブは、近接プローブ結合原理に必要とされるシグナル発生における特異性を提供するものではない。さらに、個々のドナー−アクセプター対の広範なスペクトル範囲により、多様な(multiparametric)FRETに基づくアッセイにおいて2つよりも多いパラメータを同時に測定することは難しい。
【0009】
時間分解蛍光測定法
従来の蛍光に基づく技術の検出感度は、生物学的試料マトリクスの自己蛍光、散乱励起光および吸収により制限され、アクセプターに基づく共鳴エネルギー移動に基づくアッセイにおいては、アクセプター特異的発光波長でのドナー発光のクロストークやドナー特異的励起波長でのアクセプターの直接励起によっても制限される。生物学的液体または血清に存在する多くの化合物やタンパク質は、もともと蛍光を発し、従来の蛍光団(fluorophore)の使用によりその感度が甚だしく制限される[Soini E and Hemmilae I (1979) Clin Chem 25: 353-361; Wu P and Brand L (1994) Anal Biochem 218:1-13]。強度測定に基づくホモジニアスな蛍光技術を使用した場合の別の主な問題は、内部フィルター効果および試料の光学特性のばらつきである。この欠点を是正するために試料希釈が使用されているが、常に分析感度が犠牲となる。分析応用における蛍光共鳴エネルギー移動の実行可能性は、長寿命発光と大きいストークシフトを有する蛍光ランタニドクリプタートおよびキレートが1990年代にドナーとして用いられると、著しく改善した[Mathis G (1993) Clin Chem 39:1953-1959; Wu P and Brand L (1994) Anal Biochem 218, 1-13; Selvin PR et al. (1994) Proc Natl Acad Sci U S A 91:10024-10028; Stenroos K et al. (1998) Cytokine 10:495-499;国際公開第98/15830号;米国特許第5,998,146号;国際公開第87/07955号; Blomberg, K et al. (1999) Clin Chem 45:855-61]。
【0010】
ランタニドキレートおよびクリプタートは、伝統的な有機蛍光団と比較して検出能が増強されているため、最近は多様な生体分子の分析において広く使用されている。ランタニド(希土類元素、たとえば三価のユーロピウム、テルビウム、サマリウムおよびジスプロシウム)の発光キレートは、光輝性化合物の特別なグループである[Buenzli, JCG and Piguet, C (2005) Chem Soc Rev 34: 1048-1077]。ランタニドイオンは、それら自身は非常に低い吸収を示し、加えてランタニドの励起状態は、配位された水分子により効率よく消光される。したがって、それらの励起に対するただ1つの現実的な解決法は、本来発光性のランタニド(III)キレートにおいて有機アンテナ発光団などの集光性部分を含む配位子を使用することである。実際、効率的なアンテナ配位子にキレートしたランタニドイオンのフォトルミネッセンス効率(吸収係数と量子収率の積)は、全ての配位水分子を置換した場合、裸イオンと比較して100,000倍まで容易に増強することができる。さらに、ランタニドイオンに対する明確な発光バンド特性が4つまでの異なるランタニドを最小スペクトルクロストークで同時測定することを可能にする。ランタニドの発光特性は、生物学的材料由来のバックグラウンドノイズの効率的な分離をも可能にし、したがってアッセイの感度が上昇する[J. Yuan, G. Wang (2005) J Fluoresc. 15, 559]。
【0011】
有機集光性アンテナ部分または発光団を含む適切なキレート(たとえば、アミノポリカルボン酸)と錯体形成したランタニドイオンは、従来の蛍光団と比較して独特の蛍光特性を有する:大きなストークシフト(150〜300nm)、ランタニドイオンに対する狭くて明確な発光バンド特性、および長い発光寿命(2000マイクロ秒まで)。その並外れた蛍光寿命により、バックグラウンド蛍光(短命)が消えて崩壊し、ランタニド発光がまだ充分な強度である場合のみ検出が行なわれる、そういった時間的なゲート(典型的には数100マイクロ秒)の選択による効率的なバックグラウンド分離を可能とする。さらに、大きなストークシフトおよび狭い発光バンドは、スペクトル的にランタニド発光を選択するための効率的な波長フィルタリングを可能とし、結果として高い感度のレポーター技術(酵素増幅化学発光と同レベルの性能)と多重パラメータ測定の可能性を生じる。その技術は、(マイクロ秒)時間分解蛍光測定法として知られる専用の検出法を利用する[Soini E and Kojola H (1983) Clin Chem 29: 65-68]。発光ランタニドキレートの長寿命蛍光は、典型的には紫外線または青色可視光で励起され[Yang C, et al. (2004) Angew Chem Intl Ed 43:5010-5013]、そして発光は緑色および赤色可視波長で検出される。エルビウム、ネオジムおよびイッテルビウムの場合、可視波長で励起することができ、可視または赤外波長で発光できる[Werts, M.H.V., et al. (1997). Chem Phys Lett 276: 196-201]。また、白金(III)およびパラジウム(III)も、ポルフィリンに錯化した場合、同様のスペクトル特性および時間特性を有することに注目すべきである[de Haas, R.R., et al. (1999) J Histochem Cytochem 47:183-196]。
【0012】
有機集光性アンテナがエネルギー移動を介して放出性ランタニド(III)イオンを励起させるために使用されるようなランタニド(III)キレートの励起機構は、蛍光レポーターの中でも例外的なものである[Hemmilae, I. and Laitala, V. (2005) J Fluoresc 15: 529-542]。発光ランタニド(III)キレートは、反応性官能基、集光性アンテナおよびキレート基(groups)を含み、キレート基がランタニド(III)イオンを配位結合によりキレートする。有機集光性発光団は、最初に、光吸収により基底一重項状態(S0)から第一一重項状態(S1)に励起され、そして発光団は項間交差(ISC)により三重項状態(T1)への遷移を受ける。アンテナ発光団の三重項状態は、励起エネルギーをランタニド(III)イオンの適切な4fエネルギーレベルに移動できる。その後、ランタニドイオンは、明確な発光バンドと禁制遷移の故に長い発光寿命とを有する特有のf−f遷移発光を生み出す。
【0013】
効率的な集光性アンテナを含有する安定なランタニドキレート構造の開発は、本来難しいものであった。この問題は、ヘテロジニアスアッセイにおいては、生体分子結合剤をイオンキャリアキレートで標識し、そのキャリアキレートからイオンを解離し、新しい強い蛍光を発するランタニド錯体を形成するために別のキレート溶液(低pH)を用いることにより回避された。標識化に使用されたイオンキャリアキレートは、ランタニドイオンおよびキャリアキレートに加えて共有結合(coupling)のための反応性官能基を含有する。
【0014】
金属のキレート錯体(配位化合物)は、配位子(またはキレート分子)の金属イオンへの配位官能基を介した結合により形成される。配位子の中心金属への接合点(points of attachment)の総数が配位数と呼ばれる。配位子は、接合点により特徴付けることができ、単座、二座などとして挙げられ、歯(くぼみ)の概念が、キレートにおける金属中心に結合された原子の数を反映している。キレート(またはキレート錯体)は、少なくとも1つの単一の配位子であって少なくとも2つの歯(二座と呼ばれる)を有する配位子、およびその配位子によって結合される少なくとも1つの金属イオンを含む化合物である。溶液中のキレート錯体の安定性は、金属(カチオン)の配位子(中性またはアニオン性)への会合(association)に対する安定度(または形成)定数の大きさにより説明される。安定度(または生成)定数が大きくなるほど、配位子の存在下で錯体化される金属の占める割合が高くなる。多重配位子の結合に関しては、段階的な安定度定数を定義することができ、安定度定数は、その結果段階的な安定度定数の積となる。安定度定数は数10変動するので、値は通常対数(log 10)として表される。多座配位子は単座配位子より強い金属イオン錯体を形成する。典型的には、安定度定数は配位子の配位座の数と共に増加するが、加えて配位子の構造も重要である。結合する配位子の立体配座の自由度を減じる輪状または環状構造もまた、しばしば高い安定度定数を結果として生じる。ユーロピウム(III)錯体に対する安定度定数の決定は、たとえばWu, SL and Horrocks, WD(1997) Journal of the Chemical Society-Dalton Transactions 1497-1502などに記載されている。典型的には、周期表の隣のランタニド(たとえば、Eu(III)とGd(III))は、同じ配位子で非常に似通った安定度定数を有する。
【0015】
安定度(または生成)定数は、配位子は完全に脱プロトン化され、プロトンは金属イオンへの結合と有意には競争しないアルカリ条件でのランタニドキレートの最大安定度を表す。pHおよび配位子のプロトン化を考慮する、条件安定度定数(有効生成定数としても知られる)は、生理的pHや典型的なバイオアッセイにおける(prevailing)条件などでの錯体の実際の安定性を説明するためにより適切である。用語「ユーロピウム(III)錯体に対する条件安定度定数の決定」の説明は、Siaugue, J.M. et al. (2003) J Photochem Photobiol A: Chem 156:23-29により記載されている。
【0016】
安定度定数および生理的pHでの条件付安定度定数の両方の例、ならびに動力学的安定性データは、Thomsen, H.S.およびWebb, J.A.W, Springer, Berlinによる第2改訂版2009のMedical Radiology, pp.155-160のMorcos, S.K. (2007) “Chelates and stability”に記載されている。安定度定数の多数のコレクションは、アカデミック ソフトウェア(Academic Software)、ヨーク、英国から市販されているIUPAC安定度定数データベースに蓄積されている。
【0017】
イオンキャリアキレートおよび別のキレート溶液に基づく技術は、分解増強ランタニド蛍光免疫測定(dissociation enhanced lanthanide fluoroimmunoassay)アッセイとしても知られていた[米国特許第4,565,790号;Hemmilae, I et al. (1984) Anal Biochem 137: 335-343; Soini, E and Loevgren, T (1987) CRC Crit Rev Anal Chem 18: 105-154; and Siitari, H et al. (1983) Nature 301: 258-260]。その技術は、ヘテロジニアス生体分子結合アッセイにおいて広く適用されており、後に、より低いpHでランタニド錯体を形成することができるアンテナ配位子を利用することにより分解の速度を上げるために改良されている[国際公開第2003/076939号、米国特許第7,211,440号、米国特許7,381,567号および欧州特許出願1 483 582号]。増強に基づくアッセイは、通常やや強いアミノポリカルボキシレートに基づくランタニド(III)イオンキャリアキレート(EDTAおよびDTPAの誘導体など、米国特許第4,822,594号および米国特許第6,190,923号に説明されている)を標識試薬として利用し、増強溶液中のβ−ジケトンに基づくアンテナ配位子を利用し発光を生み出す。また、イオンキャリアキレートおよびDOTAおよびTETAに基づく標識試薬も、示されている[Hemmilae, I. (1995) J. Alloys Comp 225: 480-485]。標識のための配位子を誘導体化するために、たとえばDOTAの1つのカルボン酸を生体分子に結合(attachment)するための官能基で置換することができる。しかしながら、分解増強のために使用されるランタニド(III)イオンキャリアキレートの安定性は中程度であり、分解速度は特に低pHでかなり速くなければならず、そうでなければイオンは蛍光増強のために充分なほど速くは放出されない。一方、ガドリニウム(III)イオンのための非常に安定なキャリアキレートの開発は、磁気共鳴映像のための造影剤の開発に集中している[Bruecher, E. (2002) Topics in Current Chemistry 221: 103-122; Thomsen, H.S.およびWebb, J.A.W, Springer, Berlinによる第2改訂版2009のMedical Radiology, pp.155-160のMorcos, S.K. (2007) “Chelates and stability”;およびWoods, M. et al. (2006) Journal of Supramolecular Chemistry, Vol. 2. 1-15]。
【0018】
数個の本来蛍光であるランタニドキレートが開発されている[Alpha, B et al. (1987) Angew Chem Int Ed Engl 26: 1266-1267; H. Takalo et al. Bioconjugate Chem. 1994, 5, 278; Takalo, H et al. (1997) Helv Chim Acta 80: 372-387; von Lode, P et al. (2003) Anal Chem 75: 3193-3201; Beeby, A. (2000) J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1281-1283; Hakala, H. et al. (2002) Inorg Chem Comm 5: 1059-1062; Li, M. and Selvin, P.R. (1995) JACS 117: 8132-8138;および国際公開第2005/021538号]。これらの安定で発光性のランタニド錯体は、いくつかのランタニド[ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、サマリウム(III)およびジスプロシウム(III)]に関するクリプタートおよび強い発光性のキレート(主にアミノポリカルボン酸に基づくキレート構造)の両方を含む。キレート配位子は、ランタニド(III)イオンと集光性部分のやや強いまたは強い結合を1つの同じ分子に兼ね備えるように設計され、そしてそれらはFRETに基づくアッセイにおけるドナーとして使用することができる。ほとんどのキレートでは、集光性(エネルギー吸収)かつ仲介部は、誘導化ピリジンまたはピリジン多様体(manifold)から成っている。いくつかのアンテナ構造は、ピラゾールなどの他のヘテロ原子共役環構造を含む。ランタニドイオン、集光性有機部分およびキャリア配位子に加えて、標識化のために使用される本来発光性であるランタニド錯体は共有コンジュゲーションのための反応性官能基を含有する。
【0019】
ランタニド発光収量は、同時発光に基づく増強により増強することができ、この同時発光に基づく増強は、追加的アンテナ配位子および非発光性ランタニドイオン[たとえば、イットリウム(III)またはガドリニウム(III)]を利用し、励起光を吸収し、三重項−三重項移動を介したエネルギーを、同じ自己組織化高分子ランタニド錯体にまたは同じミセル環境に存在する発光性ランタニドイオン[たとえば、ユーロピウム(III)]に配位したアンテナ配位子へ移動させる。分子間エネルギー移動は、発光ランタニドに対する有効な集光性アンテナの数を大いに増強し、ある発光ランタニドイオンの発光強度を100倍またはさらにそれ以上に増強する結果となる[Xu, YY et al. (1991) Analyst 116: 1155-1158; Latva, M et al. (1995) J Chem Soc Perkin Trans 2 995-999]。
【0020】
ランタニドに基づくRET
異なる光輝性ランタニドに基づくレポーターを利用する2つの新しい共鳴エネルギー移動に基づく方法[Mathis, G (1993) Clin Chem 39: 1953-1959; Blomberg, K et al. (1999) Clin Chem 45: 855-861]が、従来のFRETに基づくホモジニアスアッセイに関連した主要な問題を大幅に解決するために導入された。これらの方法は両方、従来の方法と比べて顕著な利点を提供するが、シグナル発生における特異性は、特に標識プローブが高濃度に存在する場合、放射性エネルギー移動(ドナー発光の吸収)によりなお制限される(たとえば、高ダイナミックレンジに達するか、または弱い相互作用の場合、結合を促進する)[H. Bazin, M. et al. (2001) Spectrochim. Acta, Part A, 57]。過剰な非結合アクセプターは、アクセプター特異的波長で放射性バックグラウンドシグナルのゆっくりとした減衰を生じるが、測定波長でのドナークロストークも、充分なスペクトル分解能が用いられない限り、バックグラウンドシグナルを増加できる。ランタニドキレートドナーと重複しないアクセプター(非重複FRET)の利用は[Hemmilae, I. and Laitala, V. (2005) Anal. Chem. 77:1483-1487; Laitala, V. and Hemmilae I. (2005) Analytica Chimica Acta 551: 73-78]、ドナー発光の再吸収を通じて可能性のあるバックグラウンドをさらに排除することができる。
【0021】
従来の短寿命蛍光アクセプターとの組合せでドナーとして長寿命蛍光ランタニドキレート(またはクリプタート)を使用した場合[Mathis, G (1993) Clin Chem 39: 1953-1959; Blomberg, K et al. (1999) Clin Chem 45: 855-861]、エネルギー移動励起アクセプター発光は、アクセプターの短寿命、直接励起蛍光およびバックグラウンド蛍光から時間的に分解することができる(時間分解蛍光測定法で)。ドナー発光のアクセプター発光波長へのクロストークも、ドナー発光の狭い「線様の」発光バンドのおかげでほぼ完全に回避される。同じ利点は、ドナーとしてアップコンバーティング(抗−ストーク光輝性)ランタニドドープ化合物[Heer, S et al. (2004) Adv Mater 16: 2102-2105; Kuningas, K et al. (2005) Anal Chem 77: 7348-7355]を、従来の蛍光アクセプターと組み合わせて使用し、ドナーの赤外線励起のもと、特に可視光波長でのエネルギー移動励起アクセプター発光を測定することにより得られる。赤外線照明は、従来の蛍光アクセプターを直接は励起せず、可視波長で自己蛍光はなにも生じず、狭いバンドのドナー発光が効率的に潜在的なクロストークを排除する。
【0022】
アップコンバーティングランタニドドープナノ結晶の抗−ストーク発光は、赤外線励起よりより短い波長(可視波長)で生じ、大きな抗−ストークシフト(300nm以上まで)および自己蛍光と散乱励起光(時間分解なしで)の可視波長での発光からの効率的なスペクトル分離を提供する[Soukka, T. et al. (2005) J Fluorescence 15: 513-528]。アップコンバージョンは、2光子同時吸収と比較して効率的に非常に増強された2つの赤外光子の連続的な同時ではない吸収を介して赤外線を可視光に変換できる特定のランタニドに基づく材料(いくつかの遷移金属を除いて)の固有の性質である。そのアップコンバージョンの機構は、1つの種類のランタニドイオンまたは2つの異なる近接したランタニドイオンのいずれかに基づいている。ランタニドドープイオンは、長寿命励起状態(発光状態に再度励起される基底状態から励起された準安定状態として作用する)、または別のランタニドイオンへの遷移エネルギーを有する。ランタニドに基づくアップコンバージョンは、観察されるフォトルミネッセンスバックグラウンドが、検出器の暗電流および感度によってのみ制限されるルミネッセンス計測において達成されるものと同程度なので、極端な検出能を提供することができる。
【0023】
アップコンバーティングキレートは、米国特許第5,891,656号、Xiao, X. et al. (2002) Opt Lett. 30: 1674-1676;およびFaris GW and Hryndza M, Proc SPIE- Int Soc Opt Eng 2002; 4626: 449-452に説明されている。アップコンバーティングランタニドキレートにおいて、単一の希土類イオン[たとえば、Er(III)、Tm(III)またはHo(III)]または異なるランタニドイオンの組合せが、単核または多核錯化配位子または多数配位子(multiple ligands)にキレートされる[国際公開第2004/086049号およびSoukka, T. et al. (2008) Annals of the New York Academy of Sciences 1130: 188-200]。配位子は、集光構造を含有しても含有しなくてもよい。個々のイオンと集光構造をもたないキレートされた配位子の光回収効率は乏しく、相対的に高い励起光強度を必要とする。したがって、アップコンバーティング希土類キレートは、集光性有機または無機構造を有する配位子を含むように考案することができ、たとえばYb(III)などの別のイオンを組み込むことができる。2つ以上の光子の集めたエネルギーは、分子内非放射性プロセスにより有機構造の一重項から三重項状態へ、つぎに三重項状態から希土類イオンの放出レベルに連続的に次々に移され、特徴的な発光である単一光子を放出する。
【0024】
ホモジニアスな蛍光に基づく核酸ハイブリダイゼーションアッセイは、典型的には、消光プローブ(切断可能なオリゴヌクレオチドプローブ中のドナーおよび消光剤)[米国特許第5,538,848号]または2つのエネルギー移動プローブ(隣接した位置で隣同士にハイブリダイズする別々のドナーおよびアクセプター標識プローブ)のいずれかに基づく。図1は、エネルギー移動プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイを説明するものであり、ドナーおよびアクセプター蛍光団(それぞれ4および5)で標識された2つのオリゴヌクレオチドプローブ(1および2)は、相補的な標的配列(3)上の隣接した位置にハイブリダイズする(6)。アクセプターは、1つの波長(λ1)で励起され、ハイブリダイゼーション(7)に依存する(エネルギー移動励起)増感アクセプター発光(8)が、別の波長(λ2)で検出される。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、極めて多彩な技術であり、特にエネルギー移動プローブに基づくアッセイは、エネルギー移動効率により(相対的に低いシグナル)およびドナー発光の再吸収によるバックグラウンド(制限されたダイナミックレンジ)により限定される。さらに、消光プローブに基づくアッセイは、2つの異なる色素による特異的な標識を必要とし、単一のハイブリダイゼーション事象のみの特異性に依存する。
【0025】
核酸増幅リアルタイムモニタリングにための種々の方法が、Koch, W.H (2004) NatureReviews Drug Discovery 3: 749-761に示されている。たとえば、プライマーに結合された1つの色素および隣接してハイブリダイズするプローブに結合されたもう1つの色素を用いるFRET対は、Lay, M. J. et al. (1997) Clinical Chemistry 43: 2262-2267に示され;2つの異なる標識された隣接してハイブリダイズするプローブを用いるFRET対は、Bernard, P.S., et al. (1998) American Journal of Pathology 153: 1055-1061に示され;そして相補的プローブで標識されたFRET対の競争ハイブリダイゼーションは、Kiviniemi, et al. (2005) Clinical Biochemistry 38: 1015-1022に示されている。
【0026】
蛍光消光に基づくアッセイにおけるランタニド標識技術の可能性は、説明されてきている[Karvinen J et al. (2002) J Biomol Screen 7:223-231; Karvinen, J et al. (2004) Anal Chem. 76:1429-36; Karvinen, J et al. (2004) Anal Biochem. 325:317-25]。
【0027】
蛍光ランタニド錯体のハイブリダイゼーションに依存した形成について2つのアプローチが示されている。1つ目のアプローチは、ハイブリダイゼーションに際して蛍光テルビウム(III)錯体を形成する1対のオリゴヌクレオチドに基づくものであり、一方のオリゴヌクレオチドがDTPA−テルビウム(III)(非蛍光テルビウムキレート)で標識され、他方がエネルギードナーサリチル酸塩(集光性配位子)で標識されている[Oser A and Valet G (1990) Angew Chem Int Ed Engl 29: 1167-1169]。2つ目のアプローチは、蛍光ユーロピウム(III)錯体の同様な形成に基づくものであるが、ただ1つのプローブのハイブリダイゼーションが必要とされるものであり、オリゴヌクレオチドプローブが、EDTA−テルビウム(III)(非蛍光ユーロピウムキレート)で標識され、エネルギー−ドナー化合物が二本鎖DNAに結合することができる挿入剤にカップリングした[Coates et al. (1994) J. Chem. Soc., Chem. Commun. 2311-2312; Mullins ST et al. (1996) J Chem Soc, Perkin Trans 1 1991:85-81; Coates J et al. J Chem Soc, Chem Commun 1995: 2311-2312;および国際公開第95/08642号]。1つ目のアプローチは、その後も使用されている[Wang et al. (2001) Analytical Biochemistry 299, 169-172; Yuan and Wang (2005) Journal of Fluorescence Vol. 15, No. 4, July, 559-568; Kitamura Y. et al. (2008) Journal of Inorganic Biochemistry Vol 102, No. 10, 1921-1931;およびKitamura, Y. et al. (2006) Nucleic Acids Symposium Series, No. 50, 105-106]。
【0028】
ランタニド錯体に基づくセンサープローブは、金属イオンの検出に関して説明されている[たとえば、Leonard, J. P. and Gunnlaugsson, T. (2005) Journal of Fluorescence, 15:585-595およびViquier and Hulme (2006) Biology, J. Am. Chem. Soc. 128: 11370-11371]。金属陽イオンに対して、これらのセンサーは競争的に、そしてアンテナ効果を利用して働き、ランタニドイオンへのそのアンテナ配位子の結合は溶液中に存在する他の金属イオンにより阻止される。
【0029】
定量的5’−ヌクレアーゼに基づくポリメラーゼ連鎖反応アッセイ(TaqMan;アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、フォスターシティー、CA)は、蛍光部分と消光部分とを両方含有する一本鎖自己消光オリゴヌクレオチドプローブが、核酸増幅のあいだのハイブリダイゼーションに際して核酸ポリメラーゼのヌクレアーゼ作用により切断される核酸配列検出法である[Lie YS, Petropoulos CJ. (1998) Curr Opin Biotechnol. 9:43-48;およびOrlando C et al. (1998) Clin Chem Lab Med. 36:255-269]。
【0030】
分子指標は、ステム・アンド・ループ構造を形成する一本鎖オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブである[Tan W et al. (2004) Curr Opin Chem Biol.; 8:547-553;およびTan W et al. (2000) Chemistry; 6: 1107-1111]。ループは、標的配列に相補的である核酸プローブ配列を含み、ステムは、プローブ配列の両側に位置する相補的アーム配列のアニーリングにより形成される。蛍光部分は、一方のアームの端に共有結合され、消光剤はもう一方のアームの端に共有結合される。蛍光部分と消光部分が近位であるため、分子指標は、それらが溶液中に遊離している場合、蛍光を発しない。しかしながら、それらが標的配列を含有する相補的核酸鎖にハイブリダイズした場合、それらは、蛍光部分と消光部分との間の距離が増加する立体配座の変化を受け、プローブが蛍光を発することができるようなる。相補的標的配列が存在しない場合は、指標プローブは閉じたままであり、分子内消光により蛍光は発しない。
【0031】
自己消光蛍光プローブおよび分子指標は両方とも、サーマルサイクラーにおける核酸増幅プロセスをモニターするためにも使用される。たとえば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応において、任意の所定のサイクル、またはサイクルの後での蛍光の量は、特定の産物の量に依存する。プローブは、増幅の各サイクルを受けて増幅した標的に結合し、ハイブリダイゼーションの際(Taqmanプローブの場合は切断の際)に得られるシグナルは、増幅されたオリゴヌクレオチド配列の量に比例する。蛍光は、分子指標がその相補的標的に結合される場合は各アニーリング工程のあいだに、またTaqmanプローブが切断される場合は伸長工程の後に測定される。その後、情報は定量的PCRまたは定量的RT−PCR(逆転写PCR)実験のあいだに、限界サイクル数(threshold cycle number)にもとづき増幅された標的核酸配列の初期コピー数を定量するために使用される。終点分析のために、分子指標を含むPCRまたはRT−PCR反応は、任意の96ウェル サーマル・サイクラー上で行なうことができ、その後蛍光リーダーで読み取られる。
【0032】
タンパク質の高感度かつ特異的近接プローブに基づく分析および医学診断における可能性は、Gustafsdottir, S.M. (2005) Anal Biochem 345: 2-9により、2つのオリゴヌクレオチドプローブの近位ライゲーションを利用することが説明されている。
【発明の概要】
【0033】
本発明の1つの目的は、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法を提供することである。
【0034】
本発明は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含み、該ランタニドイオンキャリアキレートがランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用いる、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法であって、
該方法においては、
a)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに充分強く結合し、結果として、該バイオアッセイ法の条件において、遊離のランタニドイオンが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドイオンが存在する、または
b)該ランタニドイオンキャリアキレートは、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに強く結合し、結果として、遊離のランタニドが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドが存在し、かつ該ランタニドイオンを錯化する薬剤が少なくとも1pmol/Lの濃度でさらに用いられる、そして
該アンテナ配位子は、該ランタニドイオンに弱く結合する、すなわち該アンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである;ならびに
該第1のグループの第1認識エレメントおよび該第2のグループの第2認識エレメントによる該検体の認識が、
i)キレート相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートと該アンテナ配位子との相補性による混合ランタニドキレート錯体の形成、およびそれによる蛍光の増加;または
ii)キレート脱相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、それによる蛍光の減少
のいずれかを生じる
バイオアッセイ法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】エネルギー移動プローブ対に基づくハイブリダイゼーションアッセイおよび、ハイブリダイゼーション後のドナーおよびアクセプター間のエネルギー移動の測定を説明する。プローブ対は互いに隣接する標的配列にハイブリダイズする。
【図2】標識部分が蛍光錯体を形成することを可能にする、標的配列において互いに隣接してハイブリダイズする2つの別々のプローブを用いる(近接プローブアプローチ)オリゴヌクレオチド依存性(oligonucleotide-directed)ランタニドキレート相補性アッセイを説明する。
【図3】標識部分が蛍光錯体を形成することを可能にする、標的配列において互いに隣接してハイブリダイズする末端を有する二重標識プローブ(南京錠型プローブ)を用いるオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補性アッセイを説明する。
【図4】標識部分が蛍光錯体を形成することを可能にする、互いにハイブリダイズする相補配列を有する末端を有する二重標識プローブ(分子指標型プローブ)を用いるオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補性アッセイを説明する。中央の配列は、標的配列にハイブリダイズし、結果として蛍光錯体を分析するプローブのコンフォメーションの変化を生じさせ、そして蛍光の減少という結果をもたらす。
【図5i】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図5ii】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図5iii】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図5iv】ランタニドキレート相補性に適用可能な集光性アンテナ配位子の概略化学構造の例を示す。略号LおよびZは、化学構造の代替部分を表すために使用される。
【図6】図5i-図5ivに示される集光性アンテナの代替部分L(a−h)およびZ(j−l)に対する概略構造の例を示す。
【図7i】ランタニドキレート相補性に適用可能なランタニド(III)キャリアキレートの概略化学構造の例を示す。
【図7ii】ランタニドキレート相補性に適用可能なランタニド(III)キャリアキレートの概略化学構造の例を示す。
【図7iii】ランタニドキレート相補性に適用可能なランタニド(III)キャリアキレートの概略化学構造の例を示す。
【図8a】実施例1、2、3、4および5において使用されたユーロピウム(III)キャリアキレートN1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)(Eu3+−N1;イオンキャリアキレート)の概略構造を示す。
【図8b】実施例1、2、3、4および5において使用された集光性アンテナ配位子4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−二カルボン酸(3d−アンテナ)の概略構造を示す。
【図8c】実施例2において用いられた本来蛍光であるユーロピウム(III)キレート{2,2’,2’’,2’’’−{[4−[(4−イソチオシアネートフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]−ビス(メチレンニトリロ)}テトラキス(アセテート)}ユーロピウム(III)(Eu3+−7d;蛍光ランタニドキレート)の概略構造を示す。
【図8d】実施例8において用いられたユーロピウム(III)キャリアキレート、2,2’,2’’−(10−(3−イソチオシアネートベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)−三酢酸のユーロピウム(III)キレートの概略構造を示す。
【図9】実施例1に記載されたホモジニアスハイブリダイゼーションアッセイの結果を示す。標的オリゴヌクレオチドの濃度の増加に伴う、標識されたプローブ対(10nM:四角;50nM:円)のハイブリダイゼーション後の時間分解蛍光。Ctsは、カウントを意味する。エラーバーは、平均の標準偏差を示す。
【図10a】プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナと0nM(破線)および10nM(太い実線)の標的オリゴヌクレオチドとから形成されるオリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光発光スペクトルを説明する。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナと10nMの標的オリゴヌクレオチドから形成される錯体の近似発光減衰スペクトルが挿入図に示されている。A.u.は、任意単位を意味する。
【図10b】実施例2において得られたプローブC−Eu3+−7dの蛍光発光スペクトルを説明する。プローブC−Eu3+−7dの減衰スペクトルが挿入図に示されている。A.u.は、任意単位を意味する。
【図11a】実施例4に記載されたヘテロジニアス近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイの結果を表す。ビオチン化された標的オリゴヌクレオチドの濃度増加に伴うプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−アンテナのインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図11b】実施例4に記載されたヘテロジニアス近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイの結果を表す。ビオチン化された標的オリゴヌクレオチドの濃度増加に伴うプローブA−Eu3+−7dのインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図12a】実施例5におけるストレプトアビジンに対する近接プローブに基づくアッセイにおいて用いられたビオチンコンジュゲートを説明する。(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン−3d−アンテナ。
【図12b】実施例5におけるアビジンに対する近接プローブに基づくアッセイにおいて用いられたビオチンコンジュゲートを説明する。(+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン−Eu3+−N1。
【図13a】実施例5に記載されたストレプトアビジンアッセイの結果を示す。ストレプトアビジンの濃度増加を伴う(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン−アンテナのインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図13b】実施例5に記載されたアビジンアッセイの結果を示す。アビジンの濃度増加を伴う(+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン−Eu3+−N1のインキュベーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図14a】実施例6および実施例7に用いられたテルビウム(III)キャリアキレートN1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)テルビウム(III)(Tb3+−N1;キャリアキレート)の概略構造を示す。
【図14b】実施例6および実施例7に用いられたb)集光性アンテナ配位子4−(3−(4−イソチオシアネートフェネチル)−2,4,6−トリメトキシフェニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸(TMP−アンテナ)の概略構造を示す。
【図15】実施例6に記載されたホモジニアスハイブリダイゼーションアッセイの結果を示す。標的オリゴヌクレオチドの濃度増加を伴う標識プローブ対(10nM:四角;50nM:円)のハイブリダイゼーション後の時間分解蛍光。Ctsはカウントを意味する。
【図16】実施例7にて得られたプローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナと0nM(破線)および10nM(太い実線)の標的オリゴヌクレオチドとから形成されるオリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光発光スペクトルを示す。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナと10nMの標的オリゴヌクレオチドから形成される錯体の近似発光減衰スペクトルが挿入図に示されている。
【図17】実施例8に記載されたオリゴヌクレオチド指向キレート相補アッセイ(OCCA)の結果を示す。100000(◇)、10000(+)、1000(△)、100(□)および0(×)鋳型分子の増幅と検出。グラフは、10サイクル目から開始して隔PCRサイクルに測定された蛍光シグナルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
近代の生物学的分析アッセイにおいて、検体の測定は生体分子認識および検出可能なレポーター部分;たとえば迅速な読み出しを可能とする蛍光標識などの使用に基づく。レポーターおよび検出技術の進歩の結果、レポーター自体は、もはや感度を制限するものではないが、しかし、標識された試薬の非特異的相互作用によりシグナルが生じた。これらの相互作用は、制御しにくい因子に依存ており、現実的には完全に回避することは不可能である。
【0037】
「単コピー」検体検出が、シグナル生成における特異性の改善を可能とする最近の画期的な技術により証明された。シグナルの生成が2つのオリゴヌクレオチドプローブのライゲーションに依存する、近位ライゲーションアッセイなどのこれらの方法は、実用化にはまだ複雑過ぎる。2つの認識事象により誘導される全体的に暗い状態から明るい状態へのレポーターシグナルを正確にモジュレーションするという絶対的な要求は、なお単純レポーター技術により解決されていない課題である。分子接触に基づく完全な状態切り換え機構のみが、シグナル生成の充分な特異性を可能とするものであり、最良のフェルスター共鳴エネルギー移動に基づく近位検出法でさえ、この条件を満たしていない。
【0038】
本発明者らは、ランタニド類が、ランタニドイオンキャリアと集光性アンテナ配位子とを異なるレポーター部分に分離することにより並外れたモジュレーションを伴うレポーター技術を現実のものとするための独自のアプローチを提供することを見出した。本発明者らは、先行技術における課題であった、レポーターの暗状態が蛍光を生成しない、切り換え可能な近接プローブに基づくレポーターシステムを構築するやり方を解き明かしている。提案されたアプローチは、FRETの限界を上回り、高い特異的活性の真の蛍光に基づく近位依存レポーター技術を可能とする。シグナル生成は、他の分子認識事象に誘導されるキレートの自己組織化および相補性(2つのレポーター部分のあいだの分子接触)に厳密に依存する。相補的であるランタニドに基づくレポーターシステムは、したがって、2つのレポーター部分、非発光イオンキャリアキレートおよび別のアンテナ配位子、ならびにそれらの部分を一緒に誘導する2つの同時認識事象を経た完全な長寿命発光キレート(正しい方向での分子接触)の自己組織化を利用することにより構築することができる。この長寿命ランタニド蛍光に基づくアプローチは、最先端以上の有意な利益をもたらし、さらにランタニドに基づくアップコンバージョンおよび抗ストークフォトルミネッセンスにまで拡大することができる。
【0039】
本発明の1つの実施態様によれば、2つの別々の認識エレメントによる検体の認識が、ランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子を近接近させ、キレート相補、すなわち混合ランタニド錯体の形成を許し、結果として水溶液中のランタニド発光の強度を増加させる。
【0040】
本発明の特徴は、暗状態(非発光状態)から明状態(発光状態)への(または逆も)ランタニド発光の完全な切換えを可能とするということであり、観察されるバックグラウンド蛍光のためにランタニド発光のモジュレーションが非常に制限される従来技術の方法とは対照的に、有意でない蛍光バックグラウンドは暗状態に存在する。
【0041】
オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションにより方向付けられるランタニドキレート相補性の原理は、図2に説明される。1つのオリゴヌクレオチオドプローブ(1)はランタニドイオンキャリアキレート(4)により標識され、もう1つのプローブ(2)は集光性アンテナ配位子(5)により標識される。その2つの標識プローブに隣接した相補的な配列を有する標的ヌクレオチド配列(3)が添加されると(6)、二本鎖核酸ハイブリッド(7)が混合キレートの自己組織化と強い蛍光錯体(8)の形成とを方向付けして形成される。プローブ配列(リンカーに対するコンジュゲーション部位を含む)およびリンカー(長さと組成、配向および剛直性を含む)は、レポーターの2つの部分、すなわちイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子が混合キレートの自己組織化を可能とする正しい方向で近接に提供されるように選択される。錯体が形成されると、蛍光がある波長(λ1)で励起され、発光が別の波長(λ2)で同時に、または時間分解蛍光分析法においては励起後の短い遅延後に測定される。本発明は、別々のオリゴヌクレオチドにカップリングされるランタニドキレートと配位子構造の組合せ、および改良されたオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補アッセイにおけるそれらの使用を含む。本発明者らは、オリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補は、探求すべき非常に大きな可能性を提供する。以前に用いられたキレート、配位子および条件は、最高の知識を持って選択されているが、弱い性能しか提供していない(3倍シグナルモジュレーションより少ない)[Oser, A and Valet, G (1990) Angew Chem Int Ed Engl 29: 1167-1169; Wang, GL et al. (2001) Anal Biochem 299: 169-172;および米国特許第6,242,268号]。全ての以前の例において得られたモジュレーションの程度は、非常にささやかなもの(3倍より少ない)であり、つまりは、有意にそして容易に観察されるバックグラウンド蛍光により、ランタニド蛍光の切換えはレポーター系の暗状態から不完全であり、そしてその改良はここ数年のあいだ発表されていない。本発明者らは、今回、この蛍光モジュレーションが、集光性アンテナ配位子、イオンキャリアキレートおよび任意には付加的なイオンキレート化化合物の適切な組合せの選択により1000倍以上増強できることを見出した。これは、従来のFRET型ハイブリダイゼーションアッセイで得られる典型的な最高のモジュレーションが20倍程度であり、これまで混合ランタニドキレート錯体の形成にもとづいて得られているのはたった3倍なので、非常に大きな改良である。ランタニドキレート相補アッセイにおいては、シグナル生成のためのキレート相補に極めて厳しい要件が利用されることにより高い程度のモジュレーションが達成される。その改良により、遊離のランタニドイオンは、複数のアンテナ配位子を有する蛍光錯体を形成するために利用可能な溶液中には本質的に存在しないことになる。本発明者らは、これらの改良が、高度なモジュレーションでのキレート相補アッセイを高い温度で、たとえばポリメラーゼ連鎖反応において用いられる条件で使用することができるようにするためにも必須であるということを見出した。
【0042】
ランタニド励起の複雑な機構は、新規な相補ランタニドに基づくレポーターシステム:非蛍光ランタニド(III)キレート(イオンキャリアキレート)がキレート錯体を付加的な集光性アンテナ配位子と相補させることにより強い蛍光型に切り替えられる本発明のたたき台と見なすことができる。近接プローブ原理に基づくアッセイに対して、キャリアキレート(イオンを含む)およびアンテナ配位子は、溶液中において通常生物学的分析アッセイに使用される(マイクロモル以下)濃度で相互作用せず、したがって励起の際に蛍光は観察されない(レポーターは暗状態)2つの異なる生体分子結合プローブ(たとえば、オリゴヌクレオチド)に結合される。しかしながら、2つのプローブが、標的分子(たとえば、相補的核酸配列)の同時認識の結果として近接した位置にある場合、アンテナ配位子は、キャリアキレート(混合キレートを形成する)におけるランタニドイオンに配位され、ランタニドイオンは、励起に際し強い蛍光を生み出す(レポーターは蛍光状態に切り替えられる)。キャリアキレートのアンテナ配位子との相補性には、アンテナ配位子と中心ランタニドイオンとの間に正しい方向での分子接触が必要とされる。このプロセスは、高い局地的有効濃度が、弱い配位相互作用であってもキャリアキレートおよびアンテナ配位子が共に近接して固定される場合に結合を支持するように、正確には自己組織化である。
【0043】
本発明によれば、イオンキャリアキレートは、ランタニドイオンを強く結合するように、すなわち高い安定度定数を有する熱力学的にも動力学的にも安定な錯体を形成するように設計されるべきであり、好ましい配位度(配位数)は、ランタニドイオンの全9配位部位の5以上であり、好ましくはそれ以上6または7などであり、したがって、少なくとも1つ、好ましくは2つまたは3つ配位部位がアンテナ配位子の結合のために残される。配位子の安定性は、たとえば、順にEDTA、DTPA、DO3A、DOTA(最も安定)と増加する。アンテナ配位子の非存在下では、ランタニドイオンの遊離の配位部位は、水分子によって占められ、残りのランタニド蛍光を効率的に消光する。しかしながら、アンテナ配位子は、弱い結合強度のみを有さなければならず、適切な配位度は、2つまたは3つ(二座または3座を意味する)のようであり、適切な構造は、たとえば、アザクラウンベース三重アンテナキレートの構築物に対して、最近の特許出願[国際公開第2005/021538号]に記載されている個々の集光性配位子である。有機集光性配位子(三重項エネルギーレベル)の好ましい構造は、ランタニドに依存し、したがって、たとえばテルビウム(III)およびユーロピウム(III)イオンに対しては異なるアンテナ配位子が好ましい。
【0044】
本発明によれば、シグナルはイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子の近さに厳密に依存し、キレート相補性の高い特異性を達成するために、遊離のランタニドイオンの濃度は、イオンキャリアキレートを適切に選択することにより、またはイオンキャリアキレートを含まない蛍光錯体が形成されるのを防ぐために、錯化剤を添加して遊離のランタニドイオンをキレートすることにより最小に保たれる。好ましくは、錯化剤は、ランタニドイオンに選択的であるように選択される。本発明者らは、集光性アンテナ配位子のイオンキャリアキレートへの結合(および錯化剤によりキレート化されたイオンへの結合も)は、遊離のイオンへの結合よりも困難であり、したがって、シグナルの発生を、厳密に特異的で、生体分子結合により制御されたキレート相補およびイオンキャリアキレートとアンテナ配位子との近さにのみ依存するようにするため、遊離のランタニドイオンの濃度を最小に保つことが必要不可欠である。
【0045】
イオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子の組み合せは、イオンキャリア配位子が、少なくとも1つ(しかし好ましくは4以下)の非占有配位部位を残してランタニドイオンとの間に安定な(または非常に安定な)錯体を形成する多座配位子であるように選択され、したがって、アンテナ配位子の結合および錯体の形成を可能とし、好ましくは、ランタニドのすべての配位部位がいずれかの配位子により占有される、つまり配位された水分子が置き換えられる。その組み合わせは、アンテナ配位子の完全な結合が、任意にはキャリア配位子の単座または二座の置換であって、しかし好ましくはイオンキャリアキレートからのランタニドイオンの解離という結果にはならない置換を必要とし得るように選択することができる。
【0046】
イオンキャリアキレートがあまり安定でない場合、ランタニドイオンのいくつかの解離がアッセイの条件において起こり得、本発明によれば、そのような場合、錯化剤が遊離のランタニドイオンを錯化するため溶液中に存在し、遊離のランタニドイオンおよびアンテナ配位子との間の蛍光錯体の形成を防止する。本発明者らは、これにより先行技術に対するアッセイ性能の大きな改善がもたらされるということを発見した。これは、たとえば、単一の遊離ランタニドイオンが3つまたは4つまでのアンテナ配位子に結合でき、ランタニドイオンキャリアキレートとアンテナ配位子とのキレート相補により形成される単一混合キレート錯体よりも有意に強い蛍光を発する錯体を産生する、アンテナ配位子とランタニドイオンとの間の強い蛍光を発する多重配位錯体の形成により説明することができる。本発明者らは、今回キレート相補によるランタニド蛍光の完全な切り替えの提供の仕方を発見し、先行技術の方法に存在するバックグラウンド蛍光というこの問題を本質的に解決する。
【0047】
本発明の好ましい実施態様によれば、ランタニドイオンキャリアキレートは、不活性錯体となるように選択され、すなわちランタニドイオンの錯体からの解離がアッセイの条件においてゆっくりであるべきである。水溶液中の他のイオンおよび錯化剤の存在ならびに温度の上昇は、典型的には配位錯体の解離の増加をもたらし、したがって、ある応用、たとえばポリメラーゼ連鎖反応のリアルタイムモニタリングなどに対しては、上昇した温度でさえゆっくりとした解離速度を提供する非常に安定なイオンキャリアキレートを選択することが必要不可欠である。典型的には、ランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子は、マイクロモル濃度以下で用いられ、さらに安定性、とりわけ錯体のゆっくりとした解離速度の重要性が増加する。1,4,7−トリス(カルボキシメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(DO3A)の誘導体などのイオン性大環状キレート構造を含むランタニドイオンキャリアキレート[Mishra, A. et al. (2005) Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 13: 2592]は、いくつかのバイオアッセイへの適用の間の支配する過激な条件でゆっくりとした解離速度[Morcos, S.K. (2007) The British Journal of Radiology 80: 73-76]を提供するために不活性なランタニドイオンキャリアキレートに対してはイオン性線状開鎖構造よりも好ましい。1つの実施態様によれば、ランタニドイオンキャリアキレートは、アッセイの条件において2時間以上、好ましくは10時間以上そして最も好ましくは24時間以上の解離半減期を有する動力学的安定性を提供するために選択され;たとえば、生理的条件下でのある大環状キレートの推定解離半減期は、数年であることができる[Schmitt-Willich, H. (2007) British Journal of Radiology 80: 581-582]。典型的なバイオアッセイ条件は、中性値に近いpH、たとえば6.0〜9.0の間を有し、0.01Mと1Mとの間のイオン強度を有する。典型的なバイオアッセイを支配する温度は、20〜40℃であるが、ある適用では、100℃までの温度を要求する。大環状および開鎖ガドリニウム(III)キレートの熱力学的および動力学的安定性は、Prot M. et al. (2008) Biometals 21: 469-490に記載されている。DO3AおよびDOTAなどの大環状化合物は、DTPAなどの開鎖キレートよりも有意にゆっくりとしたイオンの解離を示した。さらに、イオン性キレート(負の正味電荷)は、非イオン性のキレート(中性の正味電荷)よりもよい安定性を有する。
【0048】
本発明のさらなる実施態様によれば、追加の、弱い結合消光配位子を、イオンキャリアキレートに存在するランタニドイオンから配位された水を置き換え、キレート相補性に関与していないランタニドイオンキャリアキレートの潜在的な残りの蛍光を消すためにバイオアッセイ溶液に添加することができる。消光配位子は、単座、二座または三座であり、迅速に生体分子結合事象によりすぐ近くにもたらされるアンテナ配位子により置き換えられるように選択される。
【0049】
本発明のまた別の実施態様によれば、2つ以上の異なるアンテナ配位子が、同じランタニドをなお含む1つまたは複数のイオンキャリアキレートと組み合わせて用いられ、付加的なパラメータの測定を可能にするそれらの特徴的な蛍光寿命を生み出す種々の混合キレート対を生じる。
【0050】
本発明のいくつかの好ましい実施態様によれば、ランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンとにより形成される錯体とアンテナ配位子とランタニドイオンとにより形成される錯体の条件安定度定数の比は、検体測定の条件下で少なくとも104、好ましくは少なくとも105、そしてより好ましくは少なくとも106であり、すなわちランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンとにより形成される錯体は有意により安定である。
【0051】
定義
用語「蛍光」および「発光」は、マイクロ秒またはミリ秒蛍光寿命を有する遅延した蛍光、イオン性フォトルミネッセンス、アップコンバージョンに基づく抗−ストークフォトルミネッセンスおよびりん光などのフォトルミネッセンス、すなわち光により励起される発光、蛍光におよぶとして理解されるものとする。さらに、この用語は、電気発光および電気化学発光も対象とするものとする。
【0052】
用語「ランタニド」および「ランタニドイオン」は、本明細書において、「希土類金属イオン」に相当し、単一の三価のランタニドイオンおよび、以下:ネオジム、プラセオジム、サマリウム、ユーロピウム、プロメチウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムおよびイットリウム、特にエルビウム、プラセオジム、ツリウムおよびイッテルビウムからのいくつかの異なるランタニド元素の任意の組合せを含むと理解されるものとする。
【0053】
本明細書において、用語「発光ランタニド錯体」、「発光ランタニドキレート」および「相補ランタニドキレート」は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび相補的な集光性アンテナ配位子により形成される発光錯体を含むと理解されるものとする。そこではランタニドイオンは集光または他の励起可能な配位子構造を通して励起されるか、または非発光ランタニドイオンまたは増感ランタニドイオンである。相補ランタニドキレートは、イオンキャリアキレートおよび集光性アンテナ配位子を含む混合キレートの例である。
【0054】
用語「ランタニドイオンキャリアキレート」、「イオンキャリアキレート」および「キャリアキレート」は、非発光ランタニドキレート錯体そのものおよびそれらの誘導体であって、キレート配位子、すなわちイオンキャリア配位子、および発光ランタニドイオンまたは活性化ランタニドイオンを含むが、ランタニド発光にとって絶対に必要な効果的な集光または他の励起可能な構造または増感ランタニドイオンを含まないもの、を含むと理解されるものとする。このキレートにおけるランタニドイオンは、1つの単一のランタニドイオンであっても、いくつかの同一のもしくは異なるランタニドイオンの組合せであってもよい。ランタニドイオンキャリアキレートの例は、好ましくは6配位と同じまたはより大きい、最適には7または8配位数を有するEu(III)、Sm(III)、Tb(III)およびDy(III)の環状または非環状アミノポリカルボン酸キレートであって、効果的な集光または他の励起可能な構造または増感ランタニドイオンを含まないものに代表される。
【0055】
用語「増感剤」および「増感ランタニドイオン」は、光吸収に関与するランタニドイオン、およびエネルギーアクセプターとして作用する活性化ランタニドイオンへのエネルギードナーとして作用するランタニドイオンを意味すると理解されるものとする。増感剤の例は、三価のイッテルビウムおよびセリウムである。
【0056】
用語「活性化剤」および「活性化ランタニドイオン」は、ルミネッセンス発光に関与し、かつエネルギードナーとして作用する増感ランタニドイオンからエネルギーを受け取るエネルギーアクセプターとして作用するイオンを意味すると理解されるものとする。活性化剤の例は、三価のエルビウム、ツリウム、ホルミウム、およびテルビウムである。
【0057】
イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体(またはアンテナ配位子とランタニドイオンとの錯体;または錯化剤とランタニドイオンとの錯体)の水溶液中での「安定度定数」および「生成定数」は、配位子と金属イオンとのあいだの錯化反応についての平衡定数を意味すると理解されるものとする。この用語の詳細な説明は、定量化学分析(Quantitative Chemical Analysis)、D.C. Hrris, 1991, 3rd Edition, Freeman and Co., New Yorkの279〜304頁に見ることができる。その値は、logKとして表され、Kは錯体の濃度を遊離配位子(典型的には完全脱プロトン化体)の濃度および遊離金属イオンの濃度の積で割ることにより計算することができ、すべて特定の温度およびイオン強度での平衡状態で有効である(all prevailing)。安定度定数が大きくなるにつれて、金属は配位子とより強く錯化する。これは、大きな安定度定数を有するランタニドイオンキャリアキレートは、小さな安定度定数を有するものよりもより安定であるということを意味する。典型的には、安定度定数は、室温(20〜25℃)で0.1Mのイオン強度で測定される。ランタニド(III)イオン錯体に関するlogK値の例は、Martell, A.E. and Smith, R.M., Critical stability constants, Vol 1, pp. 204-211, Plenum Press, New York, 1974; and Wu, SL and Horrocks, WD (1997) Journal of the Chemical Society-Dalton Transactions 1497-1502から見ることができる。
【0058】
イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体(またはアンテナ配位子とランタニドイオンとの錯体)の水溶液中での「条件安定度定数」および「条件生成定数」および「有効生成定数」は、pH、イオン強度、温度および補助的な錯化種の濃度などの特定の決まった条件のセットの下での錯体の形成に対する平衡定数を意味すると理解されるものとする。この用語の詳細な説明は、定量化学分析(Quantitative Chemical Analysis)、D.C. Hrris, 1991, 3rd Edition, Freeman and Co., New Yorkの279〜304頁に見ることができる。
【0059】
用語「相補配位子」、「集光性アンテナ」または「アンテナ配位子」は、ランタニドイオンを持たない集光または他の励起可能な配位子構造、または非発光ランタニドイオンもしくは増感ランタニドイオンのキレート錯体を含み、かつ光輝ランタニド錯体を形成するためにランタニドイオンキャリアキレートを相補することができる、それ自体非発光性のキレート配位子およびランタニドキレートおよびそれらの誘導体などを含むと理解されるものとする。任意にアンテナ配位子に含まれるランタニドイオンは、1つの単一のランタニドイオンであっても、いくつかの同一のもしくは異なるランタニドイオンの組合せであってもよい。共蛍光現象またはランタニドに基づくアップコンバージョンにおける光吸収または放出の強度を増強するために使用されるそのようなランタニドイオンの例は、たとえば、Gd(III)、Y(III)およびYb(III)である。アンテナ配位子[Latva, M. (1997) J. Lumin 75: 149-169]の例は、好ましくは4座以下、最適には3〜2座でランタニドイオンに配位することができる有機集光性構造であり、Eu(III)、Sm(III)、Tb(III)およびDy(III)などの配位されたランタニドイオンに典型的には三重項状態を通してそれらの励起エネルギーを移動することができる。Yb(III)、Er(III)およびNd(III)などの近赤外発光ランタニドに好適なアンテナ配位子構造の例は、[Hofstraat, J.W. et al. (1998) J Fluorescence 8: 301-307]にも記載されている。
【0060】
用語「非発光」および「非蛍光」は、励起され、そしてその励起状態から緩和する場合に、たとえば任意のまたは有意な量の長寿命発光などの望ましい型の発光を生成しないための光吸収化合物の性質として理解されるものとする。発光化合物とは対照的に、非発光化合物の励起状態エネルギーは、大部分は非放射性経路を経て緩和され、典型的には光の変わりに熱を、またはゆっくり減衰する発光の変わりに迅速な発光を生み出すか、または励起効率が弱い。非発光化合物のモル消光係数(extinction coefficient)またはモル吸収係数(absorptivity)は非常に低く、典型的には10Lmol-1cm-1であり、または非発光化合物の蛍光量子収率は非常に低く、典型的には5パーセントより低く、また長寿命発光の寿命は1マイクロ秒より短く、典型的には100ナノ秒より少ない。非発光化合物の例は、それらの効率的な励起のための集光性アンテナ構造を持たないランタニドキレートである。
【0061】
用語「ランタニド発光」および「発光」は、ランタニドイオンの電子遷移の放出性緩和から得られる発光(すなわち光放出)を意味すると理解されるものとする。ランタニド発光は、直接的なまたは間接的な光吸収による、または電気化学励起によるランタニドイオンの励起により生み出すことができる。
【0062】
用語「キレート」は、1つの中心イオンが、少なくとも1つの配位子に少なくとも1つの配位結合(各々)で配位されている(または複数の中心イオンが配位されている)配位錯体として定義される。これらの錯体は、様々な原則により名付けられており、キレート、超分子化合物、錯体およびコンプレクソンなどの名前が使用されている。キレートの具体的な種類は、たとえば、ポリアミノカルボン酸、大環状錯体、クラウンエーテル、クリプタート、カリックスアレーンおよびポルフィリンなどを含む。用語「混合キレート」は、それぞれ少なくとも1つの配位結合で配位される少なくとも2つの異なる配位子を含むキレートとして理解されるものとする。
【0063】
用語「時間分解ランタニド蛍光」、「時間分解蛍光」、「長寿命ランタニド蛍光」および「長寿命蛍光」は、本明細書において、発光化合物の発光寿命が1マイクロ秒と同じか長いランタニド発光として理解されるものとする(寿命は、発光放出強度が1/e相対値、すなわち元の発光放出強度の約37%に減衰する時間として計算される)。長寿命蛍光の可能な化合物の例としては、適切な集光性アンテナを含有するEu(III)、Sm(III)、Tb(III)およびDy(III)の本来蛍光であるキレート錯体が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0064】
用語「光」、「励起光」および「放出光」は、200nm〜1600nmの波長での電磁放射線を含めると理解されるものとする。これらの波長は、400nmより下の紫外線、300〜450nmの近紫外線、400〜750nmの可視光、700〜1000nmの近赤外線および700nmより上の赤外線と呼ばれる。
【0065】
用語「短寿命蛍光」および「短寿命蛍光化合物」は、1マイクロ秒より短い、好ましくは100ナノ秒よりも短い蛍光寿命を有する蛍光および蛍光化合物を含めると理解されるものとする。
【0066】
用語「ランタニドアップコンバージョン」、「アップコンバージョン」および「抗−ストークフォトルミネッセンス」は、本明細書において、発光ランタニド化合物からのフォトルミネッセンス放出が励起光の波長よりも短い波長で得られるランタニド発光として理解されるものとする。したがって、発光ランタニド化合物のアップコンバージョンは、より低いエネルギー入射光をより高いエネルギー放射光へ変換することができる。それは抗−ストーク蛍光または抗−ストークフォトルミネッセンスとも呼ばれる。そのような化合物の例は、赤外励起下で緑または赤放出を生成する活性化剤としてEr(III)および増感剤としてYb(III)を含む完全に無機またはハイブリッド材料である。
【0067】
用語「電子発光」および「電気化学発光」は、本明細書において、電極を用い、かつその電極に電流または電圧をかけることによる電気化学励起により生成されるランタニド発光として理解されるものとする。発光を生成する電気化学反応が生じる電極に応じて、電気化学発光は陰極電気化学発光または陽極電気化学発光と呼ばれる。電気発光化合物は、陽極電気発光または陰極電気発光の可能な化合物である。そのような化合物の例は、緑の発光を生成する熱電子励起2,6−ビス[N,N−ビス(カルボキシメチル)−アミノメチル]−4−ベンゾイルフェノールでキレートされたTb(III)[Kulmala, S. and Haapakka, K. (1995) J Alloys Comp 225: 502-506]であるが、他の電気発光の可能なランタニド錯体も存在する[Kulmala, S. et al. (1998) Anal Chim Acta 359: 71-86; and Jiang, Q. et al. (2006) Anal Chim Acta 558: 302-309]。ランタニド錯体の電気発光は、検出限界を改善するために時間分解能を用いて測定することもできる。
【0068】
本開示において、用語「バイオアッセイ」は、ランタニド発光にもとづきかつ反応性エレメントを利用する検体の検出および/または定量を意味すると理解されるものとする。検体は、典型的には試料または試料のアリコートから検出および/または測定される。その試料は、たとえば生物学的または環境試料または核酸増幅反応物である。
【0069】
用語「ホモジニアスバイオアッセイ」は、分離工程を必要としないバイオアッセイを含めると理解されるものとする。単一または複数の各工程;試薬の添加、インキュベーションおよび測定は、必要とされる工程のみである。用語「分離工程」は、たとえばマイクロ粒子またはマイクロタイターウェルなどの固相上に結合した標識バイオアッセイ試薬が、非結合標識バイオアッセイ試薬から分離され、物理的に単離される工程、たとえばマイクロタイターウェルが洗浄され(液体が取り除かれ、分離が改善するために、追加の液体が添加され、そしてウェルが空の状態になる)、結果として固相上に結合されていない標識バイオアッセイ試薬からの固相結合標識バイオアッセイ試薬の分離となる工程であると理解されるものとする。
【0070】
用語「検体」は、そのものまたはその効果がバイオアッセイにより測定されるべき目的の物質として理解されるものとする。検体は、たとえばタンパク質、細胞、細胞膜抗原、受容体、核酸、ハプテン、ホルモン、ペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸増幅産物、分子の特定のコンフォメーション型、または構造の変化、プロテアーゼまたはヌクレアーゼ活性による切断、または構造的サブユニットの多量体化、分子結合相互作用を通した2つの生体分子の結合またはそれらの解離であってもよい。
【0071】
用語「ハプテン」は、タンパク質などの大分子に接着(attached)された場合にのみ免疫応答を生じることができる小分子を意味すると理解されるものとする。ハプテンの例は、ステロイドホルモン、ビタミン、ペプチド、糖、医薬および乱用薬物である。
【0072】
用語「試料」および「生物学的試料」は、血清、血液、血漿、唾液、尿、糞便、精漿、汗、リカー、羊水、組織ホモジネート、腹水、環境試験からの試料(水および土壌試料)、産業処理からの試料(処理溶液)および化合物ライブラリー(有機化合物、無機化合物、天然物、抽出物または生物学的タンパク質、ペプチドまたは核酸などの生物学的起源の産物を含むかもしれないスクリーニングライブラリー)からの試料などの検体が検出される種々の液体または固体の生物学的試料を含めると理解されるものとする。試料は、プロテアーゼまたはヌクレアーゼ反応などの酵素反応、または他の変換反応、ポリメラーゼ連鎖反応または他の核酸増幅反応であってもよい。
【0073】
用語「認識エレメント」は、引用される状況に関連する任意の化合物に特異的であると見なすことができる任意の反応体を意味し、抗体、抗体断片、タンパク質スキャフォールド(たとえば、DARPins、アフィボディー、モノボディー)、ぺプチド、アプタマー、天然のホルモン結合タンパク質、糖、レクチン、酵素、受容体、ストレプトアビジン、ビオチン、天然の核酸または人工の核酸(ロックド核酸またはペプチド核酸など)およびペプチド誘導体、そして、遺伝的または化学的に改変した抗体、または前記いずれかのキメラ組成物などの生物特異的結合反応体であって、検出すべき生体分子を非共有結合または共有結合できかつ認識できるものを含めると理解されるものとする。認識エレメントは、典型的にはイムノアッセイ、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ、リガンド−レクチンアッセイおよびリガンド−受容体アッセイにおける生物特異的結合反応体として用いられる。
【0074】
用語「錯化剤」、「錯化する薬剤」および「キレート剤」は、この文脈において、単一金属イオンとのいくつかの配位結合を形成することができる分子、すなわち多価配位子として理解されるものとする。最も一般的で最も汎用されている錯化剤は、酸素または窒素ドナー原子により、または両方により金属イオンに配位するものである。錯化剤の例は、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコール−O,O’−ビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、1,4,7−トリアザシクロノナン−N,N’,N’’−三酢酸(NOTA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)、シクロへキシル1,2−ジアミン四酢酸(CDTA)、N1N’−ビス(ヒドロキシベンジル)−エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HBED)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(TETA)、ヒドロキシエチルジアミン三酢酸(HEDTA)およびこれらのキレーターのいずれかの誘導体が挙げられる。
【0075】
この文脈における用語「アップコンバーティングランタニド錯体」は、単一ランタニドイオンまたは種々の希土類イオンの組合せを含む混合キレートを意味する。アンテナ配位子は、増感ランタニドイオンおよび/または集光構造を含んでも含まなくても良い。
【0076】
本発明の好ましい態様
本発明により検体を検出するため、および/または検体の濃度を定量するための典型的なバイオアッセイ法は、ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含み、該ランタニドイオンキャリアキレートがランタニドイオンキャリア配位子およびランタニドイオンを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用い、
a)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において、該ランタニドに、遊離のランタニドイオンが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドイオンが存在するという結果となるのに充分強く結合する;または
b)該ランタニドイオンキャリアキレートは、該バイオアッセイ法の条件において、遊離のランタニドが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドが存在するという結果となるのに充分に強く該ランタニドに結合し、該ランタニドイオンを錯化する薬剤が少なくとも1pmol/Lの濃度でさらに用いられる;そして
該アンテナ配位子は、該ランタニドイオンに弱く結合する、すなわち該アンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである;ならびに
該第1のグループの該第1認識エレメントおよび該第2のグループの第2認識エレメントによる該検体の認識が、
i)キレート相補、すなわち該ランタニドを担持するランタニドイオンキャリアキレートの該アンテナ配位子との相補性による混合ランタニドキレート錯体の形成、およびそれによる蛍光の増加;または
ii)キレート脱相補、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、それによる蛍光の減少
のいずれかの結果となる。
【0077】
バイオアッセイの好ましい実施態様では、
a)logKLnL1は少なくとも12、好ましくは18以上であって、KLnL1は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;または
b)該ランタニドイオンを錯化する薬剤をさらに用いる場合、
i)logKLnL2は少なくとも12であって、KLnL2は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;および
ii)logKLnL3は少なくとも8であって、KLnL3は、該ランタニドイオンを錯化する該錯化剤とランタニドイオンとの溶液中での安定度定数を意味する。
【0078】
本発明の典型的な実施態様において、イオンキャリアキレートは、五座、六座、七座または八座であり、好ましくは六座、七座または八座である。
【0079】
イオンキャリアキレートのランタニドイオンは、好ましくはプラセオジム(III)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)、ツリウム(III)およびイッテルビウム(III)からなる群より選択される。
【0080】
第1および第2認識エレメントは、好ましくは互いに独立して、オリゴヌクレオチド、アプタマー、ペプチド、タンパク質、ハプテン、オリゴ糖からなる群より選択される。
【0081】
アンテナ配位子は、典型的には、四座、三座、二座または単座であり、好ましくは三座または二座である。
【0082】
logKLnL1は典型的には少なくとも20、好ましくは22以上である。
【0083】
錯化剤は、好ましくはCDTA、EDTA、DOTA、DTPA、EGTA、HBED、HEDTA、NOTA、NTA、TETAおよびTTHAからなる群より選択される。
【0084】
ランタニドイオンを錯化する薬剤が用いられる場合、該錯化剤は、典型的には、アンテナ配位子よりもより強い該ランタニドイオンの結合剤、すなわちlogKLnL3>logKLnL4であって、KLnL4は、該アンテナ配位子と該ランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味し;好ましくは、イオンキャリアキレートよりもより弱いランタニドイオンの結合剤、すなわちlogKLnL3<logKLnL2である。
【0085】
ランタニドイオンキャリア配位子は、典型的には、EDTA、DTPA、NOTAまたはDOTAから誘導されるか、または図7i、図7iiおよび図7iiiに示される構造a)からp)より選択される。
【0086】
アンテナ配位子は、典型的には図5i、図5ii、図5iiiおよび図5ivに説明される構造a)からz)よりなる群から選択される集光構造を含む。
【0087】
検体の認識は、結果として蛍光の増加または減少を生じ、その蛍光は、典型的には400と1600nmとのあいだの波長で測定される。
【0088】
検出および/または定量される検体は、典型的には、ストレプトアビジン、タンパク質、ハプテン、核酸配列、細胞、ウイルスおよび核酸増幅反応の産物(たとえばポリメラーゼ連鎖反応の産物)からなる群より選択される。
【0089】
検体の認識は、結果として蛍光の増加または減少を生じ、典型的にはその蛍光は、長い蛍光寿命、すなわち1μsよりも長い寿命を有する。
【0090】
検体の認識は、結果として蛍光の増加または減少を生じ、好ましくは、その蛍光はアップコンバージョン蛍光(すなわち、発光が励起よりも短い波長で検出される抗−ストークフォトルミネッセンス)である。
【0091】
多くの好ましい実施態様では、条件は少なくとも40℃またはそれ以上の温度を含む。
【0092】
本発明の1つの実施態様によれば、ランタニドに基づくレポーター技術は、ハイブリダイゼーションアッセイおよび核酸増幅のリアルタイム「閉管」モニタリング;たとえばポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応またはいくつかの等温核酸増幅手法に適用される[Gill, P. and Ghaemi, A. (2008) Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids 27: 224-243]。生体分子結合剤は、たとえばオリゴヌクレオチドまたはペプチド核酸(PNA)またはロックド核酸(LNA)などのオリゴヌクレオチド類似体である。
【0093】
ホモジニアス核酸ハイブリダイゼーションアッセイのためのオリゴヌクレオチド指向ランタニドキレート相補アッセイの原理は、図2に記載されており、この原理により、FRETを利用しないで行なわれる2つのプローブ(互いに隣接してハイブリダイズされる)に基づくアッセイが可能となる。そのプローブの1つは、非蛍光ランタニドキレート(4)で標識され、他方は好適な有機集光構造に結合された(coupled)相補アンテナ配位子(5)で標識され;そのキレートとその配位子を合わせて蛍光ランタニド錯体を形成することができる。本発明の他の実施態様によれば、方法は、図3および図4にそれぞれ示すような南京錠または分子指標型プローブにさらに拡張することができる。
【0094】
図3において、南京錠型プローブは、リンカー(9)(たとえばオリゴヌクレオチド配列)に接続された2つの末端オリゴヌクレオチド配列からなり、一方の末端配列(1)はランタニドイオンキャリアキレート(4)で標識され、他方の末端配列(2)は集光性アンテナ配位子(5)で標識される。その2つの標識末端に隣接して相補的な配列を有する標的ヌクレオチド配列(3)が添加される(6)と、二本鎖核酸ハイブリッド(10)が、混合キレートの自己組織化に向かって形成され、強い蛍光の錯体(8)が形成される。錯体の形成により、結果として、励起波長(λ1)で励起された発光波長(λ2)での蛍光の増加となる。
【0095】
図4は、分子指標型プローブを利用したハイブリダイゼーションアッセイを説明するものであり、標識されたプローブは、検体特異的配列(11bおよび12b)に加えて2つの相補的配列(11aおよび12a)を有し、検体配列(3)が存在しない場合に、キレートの2つの部分、すなわちその相補配列の隣に結合させた(coupled)アンテナ配位子(5)およびイオンキャリアキレート(4)が近接するようにして、キレート相補および蛍光錯体(8)の形成を可能とする。検体配列(3)が溶液(14)に供されると、検体特異的配列が、部分二本鎖デュプレックス(13)を形成するそれらの相補配列を認識し、それにより混合キレートが分解し、結果として励起波長(λ1)で励起された発光波長(λ2)での蛍光の減少を生じる。
【0096】
本発明の別の実施態様によれば、レポーター技術は、タンパク質検出およびタンパク質−タンパク質相互作用の測定に応用される。これらの応用では、2つのプローブ間の方向および距離の制御は、天然のリガンド、短い結合ペプチド、またはデノボ設計されたおよび/または部位特異的カップリングケミストリーにより分子結合ライブラリーから濃縮された人工の結合剤を利用することができる。本発明は、特に多量体タンパク質および多量化タンパク質複合体、たとえばウイルスキャプシドタンパク質および分子ハサミに関して説明されるようなC−反応性タンパク質などの検出に良く適している[Heyduk E, et al. (2008) Anal Chem. 80: 5152-5159]。
【0097】
本発明の1つの実施態様によれば、方法は、イオン濃度の変化、または検体または抗生物質またはステロイドなどの小分子リガンドの存在により誘導されるタンパク質二量化(または多量化)の検出に適用できる。そのような事象の例は、カルシウムイオン依存タンパク質二量化である[Appelblom H, et al. (2007) J Biomol Screen 12: 842-8]。二量化は、ヘテロダイマーまたはホモダイマーの形成のいずれであってもよい。もう1つの例は、抗体可変ドメインの抗原依存性再会合を利用することが説明されている[Ueda, H. (2003) J Immunol Methods 279: 209-218]。
【0098】
本発明によれば、キャリアキレートおよびアンテナ配位子は両方とも、たとえばヨードアセトアミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、マレイミドまたはイソチオシアネート活性剤などを使用する生体分子結合剤に共有結合で結合される。生体分子プローブの構築のために、レポーター部分は、たとえば、単一アミノ修飾塩基または末端アミノ修飾を含むオリゴヌクレオチド結合剤にコンジュゲートされる。いくつかのアミノ基(リジン残基)を含む組み換えタンパク質結合剤の場合、チオール基(付加的なシステイン)により、または「クリック−ケミストリー」アプローチにより、部位特異的コンジュゲートが得られる[Beatty, KE et al. (2005) J Am Chem Soc 127: 14150-14151; Hahn, ME and Muir, TW (2005) Trends Biochem Sci 30: 26-34]。キャリアキレートとアンテナ配位子との共有コンジュゲーションは、固層核酸またはペプチド合成において専用に設計された構成要素を利用することにより行うこともできる[Jaakkola et al. (2007) Solid-phase oligonucleotide labeling with DOTA. Current protocols in nucleic acid chemistry, Beaucage, S.L. et al編;Chapter 14: Unit 4.31; John Wiley & Sonsオンライン発行]。
【0099】
本発明の好ましい態様によれば、イオンキャリアキレートまたはアンテナ配位子の生体分子結合剤コンジュゲートは、コンジュゲートされていない部分、特に反応性イオンキャリアキレート試薬に存在する可能性のある遊離のイオンの中から注意深く精製される。精製の有効な方法の例としては、逆相、アフィニティーおよびサイズ排除(またはゲルろ過)クロマトグラフィーおよび透析などを含む。遊離イオンの抽出は、精製前または精製と同時にプローブ溶液へ錯化剤を添加することにより改善することができる。オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションアッセイにおいて、オリゴヌクレオチドプローブの相互距離、より詳細には、実際に標識された塩基の位置の相互距離、およびレポーター部分のコンジュゲーションのために使用されるカップリングリンカーの構造が、2つのプローブがハイブリダイズした後どのようにキャリアキレートおよびアンテナ配位子が空間的に位置するかを定義する。仮に二重らせん構造が堅く、2つのレポーター部分の塩基位置が離れすぎているか、または例えばカップリングリンカーの長さが短すぎると、相補性は妨げられ得る。カップリングリンカーの長さや構造および塩基位置に加えて、付加的な非ハイブリダイズ一本鎖配列を隣接したプローブ位置の間の鋳型オリゴヌクレオチドに導入することができる。これによりさらに混合キレートの動きの自由度と自己組織化との間のバランスをとることが可能となる。
【0100】
本発明のなお他の実施態様によれば、レポーター技術は、レポーターの非特異的結合がアッセイ性能を決めるヘテロジニアスな固相近接プローブ原理に基づくアッセイにおいて用いられる。シグナル産生を検体結合プローブに存在するそれらのレポーターのみに限定することにより、また非特異的に固相に結合したレポーター(または実際にはプローブ)を無視することにより、現在の性能限界は解消される。固相アッセイは、たとえばホモジニアスアッセイにおいてと同じオリゴヌクレオチド配列と同じ標識化プローブとを含み、さらに、たとえばビオチン化鋳型核酸(検体)およびストレプトアビジン固相(好ましくはマイクロタイターウェル)などを結合した錯体を捕捉するために利用することができる。溶液からの蛍光を測定する代わりに、読み出しは、現在、洗浄工程(非結合プローブの分離)後の固相からである。アッセイは、固相近位ライゲーションアッセイを反映し[Fredriksson, S et al. (2002) Nat. Biotechnol. 20: 473-477;およびGullberg, M et al. (2003) Curr Opin Biotechnol 14:82-86]、ホモジニアスモデルアッセイよりも鋳型オリゴヌクレオチドのさらにより感度の高い検出の可能性を提供することができる。
【0101】
タンパク質検出は、利用可能な結合剤自体が容易に予測可能な結合位置および方向を提供せず、したがって、相補されたキレートの自己組織化を制御することをより難しくしているので、より要求の厳しいアプローチである。本発明の1つの実施態様は、組換え抗体断片、タンパク質スキャフィールド(たとえばDARPins、アフィボディー、モノボディー)、アプタマー、ペプチド結合剤、リガンドまたはハプテンを、ランタニドキレート相補性を利用するタンパク質の近接プローブに基づく分析を可能にする部位特異的標識化と組み合わせられる結合剤として利用する。タンパク質の高感度および特異的近接プローブに基づく分析や医学診断における将来性は、2つのオリゴヌクレオチドプローブの近接ライゲーションを利用する(Gustafsdottir, S.M. (2005) Anal Biochem 345: 2-9により説明されている)。
【0102】
本発明のさらに別の実施態様は、相補するランタニドに基づく蛍光レポーターのオリゴヌクレオチド支援自己組織化と組合せられたタンパク質、またはたとえばアプタマー指向生体分子認識を利用する。後者は、近位ライゲーションに基づく検出に利用されるアプローチと似ており、タンパク質またはアプタマー結合剤に付着されるオリゴヌクレオチド尾部が短い相補的オリゴヌクレオチドの存在下で連結される。結合剤タンパク質は、オリゴヌクレオチド尾部で誘導体化でき、より好ましくは、弱い相互作用のロイシンジッパー[Ohiro, Y et al. (2002) Anal Chem 74: 5786-5792]または分子ハサミに類似する他の相互作用結合対[Heyduk E, et al. (2008) Anal Chem. 80: 5152-5159]を有する組換え抗体フラグメントとして生産され、相補ランタニド−キレートに基づくレポーターシステムを有する。抗体上のランダムな化学的コンジュゲーションは、潜在的な問題であり、組換え抗体断片および「クリック−ケミストリー」アプローチは、部位特異的コンジュゲーションを可能にするために使用される。
【0103】
本発明のなお別の実施態様は、相補ランタニドに基づくレポーターの全体のタンパク質指向自己組織化であり、分子モデリングに基づく設計を要求するが、改良された性能を提供する。1つのアプローチは、検体駆動制御タンパク質会合および相補的ランタニドに基づくレポーターによる部位特異的標識化である。制御されたタンパク質会合は、元々抗体Fv断片重鎖および軽鎖ドメインとの酵素相補のために利用されてきた[Ueda, H et al. (2003) J Immunol Methods 279: 209-218]。重鎖および軽鎖とのあいだの相互作用は、その会合が抗原の存在に依存するように人工的に弱められる。部位特異的標識化は、FvドメインのC−末端に導入された追加的なシステイン残基に向けることができる。このアプローチは、しかしながら、抗体構造に限定されるものではなく、なぜならリガンド誘導多量体化が、特にそれらの天然のリガンドに対する特異的なセンサーとして利用できる制御タンパク質で観察される一般的な事象であるからである。もう1つは、より興味深いアプローチでさえあるが、結合剤としてレポーターから誘導体化した相対的に短い合成ペプチドを利用することであり、それはたとえば多量体タンパク質検体上の隣接位置を認識する[Appelblom, H et al. (2007) J Biomol Screen 12: 842-848]。
【0104】
本発明のまた別の実施態様によれば、1つ以上の異なるランタニドイオンが、1つまたは複数の集光性アンテナ配位子と組み合わされた別々のイオンキャリアキレートに採用され、多重パラメータのアッセイデザインを可能とする。
【0105】
さらに別の実施態様によれば、ランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子は、アップコンバーティングランタニド錯体を形成することができる。2つまたはそれ以上の光子に集められたエネルギーは、分子内非放射性プロセスによりアンテナ配位子からキャリアキレート中のランタニドイオンに連続的に移動され、その後特徴的発光の単一光子を放出する。
【0106】
本発明の別の実施態様によれば、相補的ランタニドに基づくレポーターの蛍光強度は、潜在的に共発光現象を利用することにより増強することができる[Xu, YY et al. (1992) Analyst 117: 1061-1069; and Latva, M et al. (1995) J Chem Soc Perkin Trans 2 995-999]。
【0107】
集光構造を含む好ましい相補集光性アンテナ配位子の例は、図5i−図5iv、a)−z)に説明されている。これらの構造はさらに、弱い金属キレート配位子とイオンキャリアキレートと同様に分子結合剤へのコンジュゲートを可能とする任意のリンカー/スペーサーを有する反応基とを含む。略語Xは、ランタニド(III)イオンキャリアキレートの分子結合剤へのコンジュゲーションを可能にする記載された化学構造を意味し、略語−A−は、化学的リンカーまたはスペーサー配列を意味し、略語Lは、図6、a)−h)に説明されている概略構造から独立して選択される化学的部分を意味し、そして略語−Zは、図6、i)−l)から独立して選択される化学的部分を意味するかまたは−Zは存在しない(すなわち水素に置換えられる)。図5ii、i)およびj)ならびに図6、l)の構造に含まれるメトキシ(−OMe)基は、エトキシ(−OEt)基で置換えることができる。図5v、w)−z)において、略語−Gは、−CF3、−CF2CF3または−CF2CF2CF3のいずれかを意味する。典型的には、リンカーは1つまたは複数の短い脂肪族炭素鎖、エーテル、カルボニル、アミド、アミン、エステル、チオエーテルおよび/またはフェニレンから構成され、反応基は、化学的に官能性であり、限定されるものではないが、アルコール、チオール、カルボン酸、一級または二級アミン、ビニルスルホニル、アルデヒド、エポキシド、ヒドラジド、スクシンイミジルエステル、マレイミド、アルファ−ハロカルボニル部分(ヨードアセチルなど)、イソシアネート、イソチオシアネート、およびアジリジンであってよい。好ましくは、化学的官能性基は、N−ヒドロキシスクシンイミド、イソチオシアネート、マレイミド、ヨードアセチルおよびジクロロトリアジンから選択される。イソチオシアネート活性化は、たとえばリジンアミノ酸、ペプチドの末端アミノ、またはオリゴヌクレオチドにおけるアミノ修飾などの一級アミノ基との不可逆性チオカルバミド結合を形成することができる。
【0108】
典型的には、アンテナ配位子は、単座、二座、三座または四座配位子であり、最も好ましくは二座または三座配位子である。有機集光構造は、芳香環またはヘテロ環を含み、集光構造は、イオンキャリアキレートに存在する三価のランタニドイオンに適した三重項状態エネルギーレベルを有する。適切な三重項状態エネルギーおよびランタニドイオンのための集光構造の例は、文献に示されている[Latva, M. et al. (1997) J Luminescence 75: 149-169]。本発明の1つの実施態様によれば、集光有機構造は、7−アミノ−4−メチル−2(1H)−キノリン(cs124)、キノリン様構造またはクマリン様構造に基づく[Li, M., and Selvin, P.R. (1997) Bioconj Chem 8. 127-132;および米国特許第5,622,821号]。
【0109】
相補アッセイに好適な非−蛍光ランタニド(III)イオンキャリアキレートにとって好ましい概略構造の例は、図7i−図7iii、a)−p)に説明されている。これらの構造は、金属、キレート配位子および、ペプチド、タンパク質または核酸などの分子結合剤に、たとえば一級アミノまたはチオール基を介するコンジュゲーションを可能とする任意のリンカー/スペーサーを有する反応基を含む。部位特異的クリック−ケミストリーコンジュゲーション法などの他のコンジュゲーション化学種も可能である。概略構造における略語Ln3+は、三価のランタニドイオンを意味し、−Xは、そのランタニド(III)イオンキャリアキレートの分子結合剤へのコンジュゲーションを可能とする反応基を意味する。図7i−図7iii、a)−p)において、略語−A−は、1〜12の炭素原子を含むアルキル鎖などのリンカーまたはスペーサーを意味し、−Xは、アミノ基、アミノオキシ基、ハロアセトアミド基(ハロゲン化物は臭化物またはヨウ化物である)、イソチオシアネート、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリアジニルアミノ、マレイミド、チオエステルまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミドなどのカルボン酸の活性エステルなどの反応基を意味する。図7ii、f)−g)において、nの値は1または2のいずれかである。オリゴヌクレオチドの標識化のためのイオンキャリアキレートの付加的な構造は、たとえば米国特許第6,949,639号に説明されている。
【0110】
本発明の1つの実施態様によれば、イオンキャリアキレートは、図7i−図7iii、a)−r)に説明されているように1つまたは複数のカルボン酸基を含む。また別の実施態様によれば、イオンキャリアキレートにおける1つまたは複数のカルボン酸基は、CONH2、CONHR1または−CONHR1R2(式中R1およびR2は、国際公開第2007/082996号に記載されている同一または異なる化学構造である)などの中性のキレート基により置換えられる。
【0111】
好ましいイオンキャリア配位子構造は、たとえば、米国特許第5,428,154号、Carrera, C. et al. (2007) Dalton Trans. 4980-4987、Morcos, S.K. (2007) The British Journal of Radiology 80: 73-76、米国特許第5,622,688号および欧州特許出願第0 416 033号にも記載されているような、ランタニド(III)イオンと熱力学的にそして動力学的に安定な、または好ましくは非常に安定な錯体を形成することが可能な六座、七座または八座配位子である。好ましくは、イオンキャリア配位子におけるキレート原子は、酸素および窒素であり、本発明の1つの実施態様によれば、キレート配位子は、複数のカルボン酸基を含有する。リンカーや反応基をコンジュゲートするためのDOTA、EDTAおよびDTPAなどのキレート配位子の誘導体化方法は、Bruecher, E. (2002) Topics in Current Chemistry 221: 103-122; Michra, A. et al. (2005) Proc Intl Soc Mag Reson Med 13: 2592;および米国特許第6,190,923号に記載されている。たとえば、活性基(またはそれらの反応性非活性型)を有する好適な大環状ランタニドイオンキャリア配位子は、マクロサイクリクス社(Macrocyclics, Inc.)(ダラス、TX)から市販されており、たとえば、3,6,9,15−テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ−1(15),11,13−トリエン−4−S−(4−イソチオシアネートベンジル)−3,6,9−三酢酸;1−オキサ−4,7,10−テトラアザシクロドデカン−5−S−(4−イソチオシアネートベンジル)−4,7,10−三酢酸;[(R)−2−アミノ−3−(4−イソチオシアネートフェニル)プロピル]−トランス−(S,S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン−五酢酸;および1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸モノ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルなどの構造がある。錯化剤を用いる場合、ランタニドイオンキャリアキレートは、バイオアッセイの条件において少なくともEDTA錯体と同じかまたはEDTA錯体より大きな条件生成定数を有するように選択することができる。錯化剤を使用しないことが好ましい場合、イオンキャリアキレートは、バイオアッセイの条件において少なくともDTPAと同じかまたはDTPAより大きな条件生成定数を有するように選択される。錯化剤が用いられない場合、イオンキャリアキレートは、バイオアッセイの条件において好ましくはEDTA錯体の解離よりもゆっくりとした解離、より好ましくは、DTPA錯体の解離よりもゆっくりとした解離を有するように選択される。
【0112】
好ましくは、イオンキャリアキレートは、図7i−図7iiiに説明されている概略構造から選択され、ランタニド(III)イオン(Ln3+)は、任意の三価のランタニドイオンであるが、時間分解蛍光分析法を利用する長寿命蛍光に基づくアッセイにはSm3+、Eu3+、Tb3+およびDy3+が好ましく、アップコンバージョン蛍光に基づくアッセイにはEr3+およびTm3+が好ましい。好ましくは、イオンキャリアキレートは、時間分解蛍光分析法の場合、ランタニドイオンに配位し、300nm以上の波長範囲、好ましくは280nm以上の波長で吸収する集光構造は含まないように選択される。
【0113】
好ましくは、イオンキャリアキレートおよび集光性アンテナ配位子は共に水に可溶であり、かつそれらのバイオコンジュゲートが水に可溶である。
【0114】
本発明の1つの実施態様によれば、集光性配位子の可溶性は、可溶性促進置換基を構造に付加することにより、カルボン酸(−COOH、−CH2COOH)、スルホン酸、ホスホン酸または糖残基(たとえばα−ガラクトピラノキシ)を添加することにより改善される(欧州特許出願第1 447 666号および国際公開第2008/020113号)。好ましくは、アンテナ配位子におけるキレート原子は、酸素および窒素であり、本発明の1つの実施態様によれば、アンテナ配位子は、1つまたは2つのカルボン酸基を含有する。
【0115】
好ましくは、ランタニド(III)イオンキャリアキレートとアンテナ配位子の、共に蛍光ランタニド錯体を形成することができる最適な組合わせは、配位子配位部位(座数)の合計が9または10のいずれかとなるように選択される。
【0116】
好ましくは、Eu3+およびSm3+に対して、アンテナ配位子は、図5i−図5ii、a)−j)に説明されている概略図から選択され、Tb3+およびDy3+については、図5i−図5ii、e)−j)から選択される。
【0117】
相補ランタニドに基づく蛍光レポーター技術は、核酸およびタンパク質の定量的測定に適用可能である。シグナルが、一方はランタニドイオンキャリアキレートで標識され、他方は光吸収アンテナで標識された2つのプローブが標的分子に隣接して正確に結合された場合、そして標識成分が非常にしっかりと接触した場合のみに得られるので、シグナルの発生が非常に特異的である。ランタニド錯体の長発光寿命は、自己蛍光および非特異的結合に由来するバックグラウンドを取り除く時間分解測定を可能にする。このアプローチは、ランタニドキレートがそのような独自のスペクトル特性および時間特性を有するため、他のランタニドイオンキレートおよび好適な集光性配位子を用いることにより、同時にいくつかの検体をモニターする(複数検体アプローチ)ために使用することもできる。
【0118】
本発明の方法は、等温核酸増幅反応[Van Ness, J., et al. (2003) Proc Natl Acad Sci USA 100:4504-4509]および熱サイクル核酸増幅反応[Saiki et al. (1988) Science 239: 487-491]の両方をモニターするために適している。ポリメラーゼ連鎖反応のモニターのためには、熱力学的および動力学的に非常に安定なイオンキャリアキレートを用いることが好ましい。
【0119】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、種々の鎖の標的DNAに相補的な短いオリゴヌクレオチド(プライマー)により特定される二本鎖DNAの特異的配列(単位複製配列)のコピー数を増加させるための方法である。PCRは、DNAポリメラーゼ活性による単位複製配列コピー数の連続的、指数関数的増加に基づく。サイクル反応は、典型的には3つの主要な工程を含み、典型的には30から45サイクル繰り返される。これは、非常に短時間で反応混合物を加熱および冷却できる自動化サイクラーにおいてなされる。一般的な反応工程は次のとおりである。
【0120】
1.典型的には90℃または94℃などそれより高く100℃より低い高温での変性。変性の間、二本鎖DNAは融解し、一本鎖DNAに開き、そしてすべての酵素反応が停止する(たとえば、前回のサイクルの伸張反応)。
【0121】
2.典型的には50℃より高いが75℃より低い、たとえば54℃の温かい温度でのアニーリング。アニーリングの間、プライマーは相補的一本鎖標的DNAまたは単位複製配列に結合する。
【0122】
3.典型的には60℃より高いが75℃より低い、たとえば72℃のある程度高い温度での伸張。塩基(鋳型に相補的な)は、3’側でプライマーに結合(coupled)(ポリメラーゼが、5’から3’にdNTP’sを加え、3’から5’側に鋳型を読みながら、塩基が鋳型に相補的に加えられる)される。
【0123】
工程2および3は、工程2に類似するが両工程の機能を組み合わせた条件で単一工程に組み合わせることができる。
【0124】
典型的には、各工程は、数秒から数分かかり、一般的には数十秒から1または2分である。したがって、PCR稼動の長さおよび温かく高い温度へ反応内容物を暴露する長さは、数分から数時間で変化する。典型的には、PCRの長さは、15分と1時間30分のあいだである。
【0125】
リアル−タイム定量PCRまたはホモジニアス エンド−ポイントPCRにおいて、コピー数または単位複製配列の存在の増加が、本発明の方法を用いて検出することができる。
【0126】
本発明の方法がPCR内で用いられる場合、そこでの条件、すなわち50℃から98℃まで、より一般的には60℃から98℃まで変化する温度が、イオンキャリアキレートの条件安定化にかなりな要求を課す。ランタニドイオンのイオンキャリアキレートからの解離は、全PCR期間、すなわち少なくとも数分、典型的には15分よりも長く2時間までの期間これらの条件において無視できるべきである。
【0127】
本発明の実施態様は、本発明の方法を用いて増幅されたPCR産物のリアル−タイムおよびエンド−ポイント検出の両方を可能とする安定性を提供する。配位子の金属キレートの条件安定度定数は、温度などの条件に依存する。典型的には、金属キレートの条件安定度定数は、温度の増加と共に減少する。これは、より高い温度で解離が増加することによる。したがって、そこでの条件、すなわち高い温度でも充分に大きい条件生成定数を有し、かつ動力学的に不活性である、すなわち高い温度でゆっくりとした解離を有する、そのようなイオンキャリアキレートのみがPCRに適している。イオンキャリアキレートの充分に大きい条件定数は、イオンがPCRのあいだキャリアキレートから解離しないという結果を生じる。
【0128】
近接プローブに基づく認識により形成された相補混合ランタニドキレートは、さらに発光(アクセプター)または非発光(消光剤)蛍光化合物との共鳴エネルギー移動におけるドナーとして利用することができる。アクセプターは、ドナー発光と重なるスペクトルをもたないように選択することもできる。
【実施例】
【0129】
実施例1
ホモジニアスな近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイ
合成標的DNAオリゴヌクレオチド(5’−GATGCAGTAGCAGGAAGAGGATCGTAGCAATG−3’;配列番号1)、アミノ修飾プローブAオリゴヌクレオチド(5’−CATTGCTACGATCC(C6dT)C−3’;配列番号2)およびアミノ修飾プローブBオリゴヌクレオチド(5’−T(C2dT)CCTGCTACTGCATC−3’;配列番号3)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI)から購入した。プローブAは、3’−端付近に位置する第一級アミノ基修飾で、Eu3+イオンキャリアキレート、(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[Mukkala, V.-M. et al., (1989) Anal. Biochem., 176: 319]、Eu3+−N1)により標識し、そしてプローブBは、5’−端付近で、集光性アンテナ配位子(4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、3d−アンテナ)により標識した。プローブA(25nmol)を、50mM炭酸塩緩衝液中、pH9.8、+37℃で20倍モル過剰のEu3+−N1と一晩インキュベートした。標識化反応の全量は50μLであった。プローブBの3d−アンテナによる標識化については、3d−アンテナをN,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ社)中に溶解し、水に溶解したオリゴヌクレオチドと混合し、そしてその後、炭酸塩緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで添加した。標識化反応において、3d−アンテナのモル過剰は全量110μLで50倍であった。反応物をゆっくりと回転させながら+50℃で一晩インキュベートした。
【0130】
標識されたプローブの精製はHPLC(サーモ エレクトロン社の機器、ウォルサム、MA、USA)で行い、3d−アンテナ標識プローブBの精製にはサーモ サイエンティフィック社(ウォルサム、MA、USA)のODS C18 Hypersilカラムを用い、Eu3+−N1−標識プローブAの精製にはフェノメネクス(Phenomenex)社(トランス、CA、USA)のLuna C18(2)カラムを用いた。両カラムとも長さ150mm、内径(i.d.)4.6mmであった。精製は、21分で86%Aおよび14%Bから70%Aおよび30%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分で行った[A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ社、ブックス、スイス);B、50mMTEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA)]。回収した画分から液体を真空中で蒸発させ(Hetovac VR−1、Heto−Holten A/S、アレレズ(Allerod)、デンマーク)、ついで再度10mMのTris−HCl(pH7.5)、50mMのNaClに溶解した。標識プローブは、260および330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴づけされ、総Eu3+濃度はDELFIA技術を用いて測定された(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック、ツルク、フィンランド)。
【0131】
アッセイは、50mM トリス−HCl(pH7.75)、600mM NaCl、0.1%のTween20、0.05%のNaN3、および30μMジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含有するアッセイ緩衝液において、Nunc(ロスキレ、デンマーク)から購入した低蛍光96ウェルMaxisorpマイクロタイタープレートを用いることにより行なわれた。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナ(10または50nM)および標的オリゴヌクレオチド(0〜50nM)を混合して全量60μLとし、ウェルに加えた。プレートを、まず短時間ゆっくりと攪拌し、ついで攪拌しないで室温で15分および60分インキュベートした。時間分解蛍光測定は、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用い、1000測定サイクル計測することにより、1420Victor Multilabel Counter(パーキン−エルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ツルク、フィンランド)で行なった。
【0132】
キレート相補アッセイ法の原理は、図1に示す。2つの16−merプローブ、すなわち3’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、ユーロピウム(III)イオンキャリアキレート(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[Mukkala et al. (1989)]Eu3+−N1、図8aの概略構造)により標識されたプローブA、および5’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、集光性アンテナ(4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、3d−アンテナ、図8bの概略構造)により標識されたプローブBは、32−mer標的オリゴヌクレオチドに相補的であった。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナのお互いへの親和性は最小であるため、相補的標的オリゴヌクレオチドの非存在下では蛍光を検出することはできない。標的オリゴヌクレオチドの存在下で、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナは、標的オリゴヌクレオチド上の隣接した位置にハイブリダイズし、Eu3+−N1および3d−アンテナは、大きなストークシフト、鋭い発光ピークおよび長い蛍光寿命を伴い特定の波長で蛍光を発する混合キレート錯体を形成する。
【0133】
実験の結果は、図9に説明され、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナの標的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション後にE3+−特異的蛍光が現れる。四角が10nM濃度のプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナでの反応の測定結果を表し、円が50nM濃度の同じプローブでの反応の結果を表す。プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナの量は、標的オリゴヌクレオチドの量が増加するあいだ一定であった。検出限界は、バックグラウンドシグナルの三倍標準偏差に相当する濃度として規定され、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナの量が50nMの場合13pM(0.78fmol/アッセイ)である。本発明者らのアッセイにおける検出限界は、以前に報告されているもの[A. Oser, G. Valet (1990) Angew. Chem. 102, 1197; Angew. (1990) Chem. Int. Ed. Engl. 29, 1167]よりも良く、特に、シグナル対バックグラウンド比が1000以上(1400:1まで)であり、本発明者らのアッセイにおけるシグナルレベルは従来技術[Wang, G., Yuan, J., Matsumoto, K., and Hu, Z. (2001) Anal. Biochem. 299: 169](3より低い比(3:1より低い)が示されている)と比較して飛び抜けていた。これは、適切に選択されたイオンキャリアキレート、アンテナ配位子、リンカー配列、オリゴヌクレオチド修飾を用いることにより、とりわけ溶液中に存在する任意の遊離ユーロピウム(III)イオンを実質的に錯体化するために錯化剤を添加することにより達成される。本発明者らのアッセイにおけるダイナミックレンジは4桁におよび、蛍光シグナルは、少なくとも1時間安定であった。
【0134】
DTPA濃度の驚くべき効果を表1に説明する。実施例において最適なDTPA濃度は、30μMまたはそれ以上であった。DTPAの非存在下では、10nMプローブ濃度でのシグナル−対−バックグラウンド比は、2よりも小さく、一方30および100μM DTPA濃度では、70より大きい比が得られた。これは、バックグラウンドが明らかに観測可能であった従来技術に対して本発明により得られる有意な改善を説明している。結果は、そこでの条件で遊離のランタニドイオンの濃度は、錯化剤の非存在下で元々ナノモル濃度であるが、一方錯化剤の添加により、遊離イオンの濃度を少なくとも100倍、潜在的には1000倍より大きく、ピコモル濃度に、または1ピコモル濃度より低い濃度に減少させることができる。これは、アッセイバックグラウンドの劇的な減少および得られるシグナルのバックグラウンドに対する比率の有意な増加という結果を生じる。
【0135】
【表1】
【0136】
実施例2
シグナル発生における特異性
非相補的標的ヌクレオチド(5’−CTGCTCTATCCACGGCGCCCGCGGCTCCTCTC−3’;配列番号:4)は、Biomers.net社(ウルム、ドイツ)から購入した。実施例1に記載した実験を、標的オリゴヌクレオチドを非相補的標的オリゴヌクレオチドに代えて繰り返した。相補的標的オリゴヌクレオチドを可変濃度の非相補的32−merオリゴヌクレオチドに置換したことにより、相補的標的オリゴヌクレオチドの非存在下におけるのと同じ蛍光シグナルを生じ;可変濃度の非相補的標的オリゴヌクレオチドの存在下ではゼロ濃度の標的オリゴヌクレオチド;すなわちブランク対照と比較して、検出可能なシグナル差は観察されなかった。これは、本発明のシグナル発生機序は、高度に特異的であり、かつ2つの同時に起こる生体分子認識事象に依存するということを示す。
【0137】
実施例3
発光スペクトルおよび蛍光寿命
追加的プローブ、アミノ修飾プローブCオリゴヌクレオチド(5’−CATTGCTACGATCC(C2dT)C−3’;配列番号:5)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI)から購入し、本来蛍光である2,2’,2’’,2’’’−[[4−[(4−イソチオシアネートフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]ビス(メチレンニトリロ)]テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)(Eu3+−7d;図8cに概略構造)により標識した。プローブC(5nmol)を、20倍モル過剰のEu3+−7dと50mM炭酸塩緩衝液(pH9.8)中、+37℃で一晩インキュベートし、実施例1にA−Eu3+−N1について記載したように精製した。
【0138】
本来蛍光であるEu3+−キレート標識プローブC−Eu3+−7d、ならびに別にプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナとの標的オリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光スペクトルおよび発光寿命をVarian Cary Eclipse蛍光分光光度計(バリアン サイエンティフィック インスツルメント社、マルグレーブ、オーストラリア)により測定した。標的オリゴヌクレオチド(0または10nM)をプローブA−Eu3+−N1およびプローブB−3d−アンテナ(50nM)とアッセイ緩衝液中で混合し、測定前にRTで30分間インキュベートした。0nM(細線)および10nM(太線)の標的オリゴヌクレオチドによる蛍光スペクトルを図10aに説明する。錯体の蛍光特性を、本来蛍光であるEu3+−キレートの蛍光特性と比較するために、プローブC−Eu3+−7dをアッセイ緩衝液中、50nMの濃度に希釈し、スペクトルを測定した。プローブC−Eu3+−7dの蛍光スペクトルは、図10bに示す。標的オリゴヌクレオチドの存在下でプローブA−Eu3+−N1とプローブB−3d−アンテナとから形成された錯体は、615nmの主要発光ピークを有する本来蛍光であるプローブC−Eu3+−7dと同様の蛍光スペクトルを生じた。標的オリゴヌクレオチドの非存在下では、プローブA−Eu3+−N1とプローブB−3d−アンテナによる長寿命の蛍光発光は検出されず、結果として平らなスペクトルとなった。10nM標的オリゴヌクレオチドの存在下でプローブA−Eu3+−N1とプローブB−3d−アンテナとから形成された錯体の蛍光減衰時間は、618μs(減衰スペクトルは図10aに挿入)であり、プローブC−Eu3+−7dの蛍光減衰時間は、380μs(図10bに挿入)であった。これは、混合キレート錯体が、プローブC−Eu3+−7dの本来蛍光である七座(dentate)キレートにおけるイオンよりも水分子からより良く保護されることを示す。
【0139】
実施例4
ヘテロジニアスな近接プローブに基づくハイブリダイゼーションアッセイ
アミノ修飾プローブオリゴヌクレオチド(プローブA、5’−CATTGCTACGATCC(C6dT)C−3’;配列番号2、およびプローブB、5’−T(C2dT)CCTGCTACTGCATC−3’;配列番号3)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI)から購入した。プローブAは、N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1、N2、N3、N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[V.-M. Mukkala et al. (1989) Anal. Biochem., 176: 319](Eu3+−N1;図8aに概略構造)および本来蛍光である2,2’,2’’,2’’’−[[4−[(4−イソチオシアネートフェニル)エチニル]ピリジン−2,6−ジイル]ビス(メチレンニトリロ)]テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[H. Takalo et al. (1994) Bioconjugate Chem, 5, 278](Eu3+−7d;図8cに概略構造)で標識し、プローブBは、4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸(アンテナ;図8bに概略構造)で標識した。プローブAの25nmolおよび5nmolを、それぞれ20倍モル過剰のEu3+−N1およびEu3+−7dと50mMの炭酸塩緩衝液(pH9.8)中、+37℃で一晩インキュベートした。標識化反応の全量は50μlであった。プローブBのアンテナによる標識化については、アンテナをN,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ社)に溶解し、水に溶解したオリゴヌクレオチドと混合し、その後、炭酸塩緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで加えた。標識化反応において、アンテナのモル過剰は全量110μlで50倍であった。反応物は+50℃でゆっくりと回転させながら一晩インキュベートした。
【0140】
標識されたプローブの精製はHPLC(サーモ エレクトロン社からの機器、ウォルサム、MA、USA)で行い、アンテナ標識プローブBの精製にはサーモ サイエンティフィック社(ウォルサム、MA、USA)のODS C18 Hypersilカラムを用い、Eu3+−N1およびEu3+−7d標識プローブAの精製にはフェノメネクス社(トランス、CA、USA)のLuna C18(2)カラムを用いた。精製は、21分で86%Aおよび14%Bから70%Aおよび30%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分で行った[A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ社、ブックス、スイス);B、50mM TEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA)]。回収した画分から液体を真空下で蒸発させ(Hetovac VR−1、Heto−Holten A/S、アレレズ、デンマーク)、ついで再度10mMのTris−HCl(pH7.5)、50mMのNaClに溶解した。標識されたプローブは、260および330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴付けされ、全Eu3+濃度はDELFIAシステムを用いて測定した(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック、ツルク、フィンランド)。
【0141】
ビオチン化標的オリゴヌクレオチド(5’−ビオチン−TTGATGCAGTAGCAGGAAGAGGATCGTAGCAATG−3’;配列番号6)は、Biomers.net社(ウルム、ドイツ)から購入した。アッセイは、N−スクシンイミジル S−アセチルチオアセテート(SATA、ピアス バイオテクノロジー社、ロックフォード、IL)−活性化[J. Ylikotila et al. (2008) Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, doi:10. 1016/j. colsurfb. 2008. 12. 042]ストレプトアビジン(BioSpa、ミラン、イタリア)でスポットコートされた[L. Vaelimaa et al. (2008) Anal. Bioanal. Chem. 391, 2135]C8 White Maxisorpプレート(Nunc、ロスキレ、デンマーク)において行なった。すべての希釈は、50mM Tris−HCl(pH7.75)、600mM NaCl、0.1%(v/v)Tween20、0.05%(w/v)NaN3、1μM ジエチレントリアミン五酢酸を含むアッセイ緩衝液でなされた。ウェルは、NaClを最終濃度が600mMとなるまで補足したDELFIA洗浄溶液(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック)で1回事前洗浄した。ビオチン化標的オリゴヌクレオチド(0〜200nM)を30μl添加し、プレートを、プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−アンテナまたはプローブA−Eu3+−7dを30μlに200nM添加する前に、ゆっくりと振とうしながら室温で30分間インキュベートした。振とう30分後、プレートを前述のように3回洗浄し、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用いることによる、1420Victor Multilabel Counter(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ツルク、フィンランド)による時間分解蛍光測定の前に室温で乾燥するまで静置した。
【0142】
プローブA−Eu3+−N1およびプローブB−アンテナを用い、ビオチン化された標的オリゴヌクレオチドの濃度を増加させながら得られた結果は、図11aに説明され、プローブA−Eu3+−7dを用いて得られた結果は、図11bに示す。本発明に記載されている相補キレートアプローチによる近接プローブに基づくアッセイは、同じ蛍光シグナルでより低い蛍光バックグラウンドを可能とし、検出限界の改善という結果をもたらした。これは、本発明がヘテロジニアスアッセイに適用可能であり、アッセイ性能を改善するということを示している。シグナルの発生は、それらの形成に2つの隣接した生体分子認識事象を必要とする混合キレート錯体にのみ制限される。
【0143】
実施例5
ストレプトアビジンおよびアビジンのためのホモジニアスな近接プローブに基づくアッセイ
N−(6−アミノヘキシル)−5−(2−オキソヘキサヒドロ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−4−イル)ペンタンアミド((+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン)を、4−((イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸(アンテナ)にカップリングした。カップリング反応の生成物の概略構造は、図12aに説明されている。カップリングのために、(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミンおよびアンテナをN,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ社、セントルイス、MO)に溶解し、混合し、その後、炭酸緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで添加した。カップリング反応において、(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミンのモル過剰は、全量270μlで3倍であった。反応物を+50℃でゆっくり回転させながら一晩インキュベートした。
【0144】
カップリング反応の精製は、サーモ サイエンティック社(ウォルサム、MA、USA)のODS C18 Hypersil columnおよびHPLCカラムオーブン2155(ファルマシア LKB社、ウプサラ、スウェーデン)を用いてHPLC(機器はサーモ エレクトロン社、ウォルサム、MA、USA)で行なった。精製は、30分で80%Aおよび20%Bから0%Aおよび100%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分、+50℃で行なった[A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ社、ブックス、スイス);B、50mM TEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA)]。回収した画分から液体を真空下(Hetovac VR-1, Heto-Holten A/S, アレレズ、デンマーク)で蒸発させ、ついで10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、0.05% w/v NaN3に再溶解した。溶解した画分を330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴付けた。
【0145】
N−(2−(2−(2−アミノエトキシ)エトキシ)エチル)−5−(2−オキソヘキサヒドロ−1H−チエノ[3,4−d]イミダゾール−4−イル)ペンタンアミド(ピアス社、ロックフォード、IL、USA)((+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン)を、パーキン エルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社(ワラックオユ、ツルク、フィンランド)から購入したN1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)ユーロピウム(III)[Mukkala V.-M., et al. (1989) Anal. Biochem. 176, 319](Eu3+1−N1)にコンジュゲートさせた。カップリング反応の生成物の概略構造は図12bに説明されている。コンジュゲーション反応およびHPLCによる精製は、以前に記述されているように行なった[Kuningas, T. et al. (2005) Anal. Chem. 77, 2826]。
【0146】
アッセイは、50mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、10μMジエチレントリアミン五酢酸を含むアッセイ緩衝液において、Nunc社(ロスキレ、デンマーク)から購入したC8 White Maxisorpマイクロタイタープレートで行なわれた。ウェルは、ストレプトアビジンまたはアビジンのウェル表面への非特異的結合を防ぐため、事前にウシ血清アルブミンでブロックした。BioSpa社(ミラン、イタリア)のストレプトアビジンまたはシグマのアビジン(0〜100nM)および(+)−ビオチニル−ヘキサンジアミン−アンテナ(コンジュゲートの概略構造は図12a)および(+)−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタンジアミン−Eu3+−N1(コンジュゲートの概略構造は図12b)(20nM)を混合して全量60μlとし、ウェルに添加した。プレートをまず短時間ゆっくりと振とうし、ついで振とうしないで室温で15分および60分インキュベートした。時間分解蛍光測定は、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用いることにより、1420Victor Multilabel Counter(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル ライフ サイエンス社、ツルク、フィンランド)で行なった。
【0147】
ストレプトアビジンの濃度を増加させながら得られた結果は、図13aに示され、アビジンによる結果は図13bに示されている。結果は、本発明が多量体タンパク質(ストレプトアビジンおよびアビジンは四量体タンパク質)の検出にも適用できるということを示している。標識部分、すなわちランタニドイオンキャリアキレートおよびアンテナ配位子は、適切な距離でタンパク質分子上の別々の結合部位を有するそのような生体分子認識エレメントにカップリングされる。実施例において、ビオチン結合部位は同一であり、ストレプトアビジンの各モノマーにそれらの1つが存在する。
【0148】
実施例6
テルビウム(III)イオンを用いるホモジニアスなハイブリダイゼーションアッセイ
合成標的DNAオリゴヌクレオチド(5’−GATGCAGTAGCAGGAAGAGGATCGTAGCAATG−3’;配列番号1)およびアミノ修飾プローブAオリゴヌクレオチド(5’−CATTGCTACGATCC(C2dT)C−3’;配列番号2)は、シグマ−アルドリッチ社(セントルイス、MI、USA)から購入し、アミノ修飾プローブBオリゴヌクレオチド(5’−T(C2dT)CCTGCTACTGCATC−3’;配列番号3)はサーモ サイエンティフィック社(ウォルサム、MA、USA)から購入した。プローブAは、3’端付近に位置する第一級アミノ基修飾で、Tb3+イオンキャリアキレート、(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)テルビウム(III)、Tb3+−N1)により標識し、そしてプローブBは、5’端付近で、集光性アンテナ配位子(4−(3−(4−イソチオシアネートフェネチル)−2,4,6−トリメトキシフェニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、TMP−アンテナ)により標識した。プローブA(10nmol)を20倍モル過剰のTb3+−N1と、50mM炭酸塩緩衝液(pH9.8)中、+37℃で一晩インキュベートした。標識化反応の全量は50μLであった。プローブBのTMP−アンテナによる標識化については、TMP−アンテナを75%N,N−ジメチルホルムアミド(シグマ−アルドリッチ)中に溶解し、オリゴヌクレオチドと混合し、そしてその後、炭酸塩緩衝液(pH9.8)を50mMの濃度まで添加した。標識化反応において、TMP−アンテナのモル過剰は全量70μLにおいて50倍であった。反応物はゆっくりと回転させながら+50℃で一晩インキュベートした。
【0149】
コンジュゲーション反応からの標識されたプローブの精製は、まずNAP−5セファデックスカラム(GEヘルスガレ社、バッキンガムシャー、英国)を用いてゲルろ過により行い、その後、HPLC(サーモ エレクトロン社からの機器、ウォルサム、MA、USA)で行い、TMP−アンテナ標識プローブBの精製にはサーモ サイエンティフィック社のODS C18 Hypersilカラムを用い、Tb3+−N1−標識プローブAの精製にはフェノメネクス社(トランス、CA、USA)のLuna C18(2)カラムを用いた。ゲルろ過からの溶出液は、真空下(Hetovac VR-1, Heto-Holten A/S, アレレズ、デンマーク)で蒸発させ、10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaClに溶解し、HPLC精製に使用した。HPLC精製は、21分で86%Aおよび14%Bから70%Aおよび30%Bまでの勾配を用いて、流速0.5mL/分で行った(A、50mMトリエチルアンモニウム酢酸水溶液(TEAA;フルカ バイオケミカ、ブックス、スイス);B、50mM TEAA/アセトニトリル(J.T.ベーカー、フィリップスバーグ、NJ、USA))。回収した画分から液体を真空下で蒸発させ、ついで再度10mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaClに溶解した。標識されたプローブは、260および330nmの吸光度測定値を測定することにより特徴付けされ、全Tb3+濃度はDELFIA技術を用いて測定した(パーキンエルマー ライフ アンド アナリティカル サイエンス社、ワラック、ツルク、フィンランド)。カップリング反応の精製は、精製効率を改善するために、2つの異なる方法を含めた。
【0150】
アッセイは、50mM Tris−HCl(pH7.75)、600mM NaCl、0.1% Tween20、0.05% NaN3、および30μMジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含有するアッセイ緩衝液において、Nunc社(ロスキレ、デンマーク)から購入した低蛍光96ウェルMaxisorpマイクロタイタープレートを用いることにより行なった。プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナ(10または50nM)および標的オリゴヌクレオチド(0〜50nM)を混合して全量60μLとし、ウェルに加えた。プレートを、まず短時間ゆっくりと振とうし、ついで振とうしないで室温で45分間インキュベートした。時間分解蛍光測定は、340nm励起フィルター、545nm発光フィルター、400μs遅延時間および1200μs測定時間を用い、2000測定サイクル計測することにより、1420Victor Multilabel Counter(パーキン−エルマー ライフ アンド アナリティカル ライフ サイエンス社、ツルク、フィンランド)で行なった。
【0151】
テルビウムキレート相補アッセイについて、32−mer標的オリゴヌクレオチドに相補的な2つの16−merプローブを使用した:3’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、テルビウムイオンキャリアキレート(N1−(4−イソチオシアネートベンジル)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3,N3−テトラキス(アセテート)テルビウム(III)、Tb3+−N1、図14a)により標識されたプローブA、および5’端の1ヌクレオチド内部に位置するアミノ修飾チミンで、反応性集光性アンテナ(4−(3−(4−イソチオシアネートフェネチル)−2、4、6−トリメトキシフェニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸、TMP−アンテナ図14b)により標識されたプローブB。プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナのお互いへの親和性は最小であるため、相補的標的オリゴヌクレオチドの非存在下では蛍光を検出することはできない。標的オリゴヌクレオチドの存在下で、プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナは、標的にハイブリダイズし、Tb3+−N1およびTMP−アンテナは、大きなストークシフト、鋭い発光ピークおよび長い蛍光寿命を伴い特定の波長で蛍光を発する錯体を形成する。
【0152】
プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナと標的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション後のTb3+−特異的蛍光は、図15に表す。プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナの量は、標的オリゴヌクレオチドの量が変化するあいだ一定(10nM、四角で示される結果、または50nM、円で示される結果のいずれも)であった。545nmでの主要発光ピークで時間分解発光が測定された。検出限界は、標的オリゴヌクレオチドの100pmol/l濃度よりも低く、本発明者らのアッセイにおけるダイナミックレンジは4桁までにおよんだ。DTPAは、30μM濃度で存在した。この結果により、本発明は適切な集光性アンテナ配位子を選択することにより他の蛍光ランタニドイオンに容易に移転できるということを示している。
【0153】
実施例7
テルビウム(III)イオンによる発光スペクトルおよび発光寿命
プローブA−Tb3+−N1およびプローブB−TMP−アンテナの標的オリゴヌクレオチド指向錯体の蛍光スペクトルおよび発光寿命をVarian Cary Eclipse 蛍光分光光度計(バリアン サイエンティフィック インスツルメント社、マルグレーブ、オーストラリア)を用いて測定した。標的オリゴヌクレオチド(0または10nM)をプローブA−Tb3+−N1(50nM)およびプローブB−TMP−アンテナ(50nM)とアッセイ緩衝液中で混合し、測定前にRTで60分間インキュベートした。
【0154】
標的オリゴヌクレオチドの存在下(図16;太い線)でプローブA−Tb3+−N1とプローブB−TMP−アンテナとから形成された錯体は、545nmの主要発光ピークを有する蛍光スペクトルを生じた。標的オリゴヌクレオチドの非存在下(細い線)では、プローブA−Tb3+−N1とプローブB−TMP−アンテナによる蛍光発光は検出されなかった。10nM標的オリゴヌクレオチドの存在下でプローブA−Tb3+−N1とプローブB−TMP−アンテナとから形成された錯体の蛍光減衰時間を測定した。発光寿命(減衰スペクトルは図16に挿入)は、二重指数関数的(double exponential)であり、より短い成分が105μsの寿命を有し、より長い成分は400μsを有した。これにより、カップリングリンカー(標識部分の距離と方向に影響を与える)は、たとえば、それらの構造次元が変化するので、生体分子認識事象により方向付けられるキレート相補性の効率に影響を与える種々のアンテナ配位子に対して、最適化されなければならない。
【0155】
実施例8
オリゴヌクレオチド指向キレート相補アッセイ(OCCA)
検出技術の性能は、閉管リアルタイムPCRにおいて、合成鋳型(5’CTTCAGCGCTACACACGCTCAAATCATCGAGGAAAACCGTATGAGAAACGGATCTAAGCTTGTCATTTGATAAAGCATCATGCAACATTAACCCGAGATACGATTTGTCCATATCTTTGATACGACGCCGCAAAAGCTCTTCCCAAGCCGAGTCTACAG3’;配列番号7;サーモ サイエンティフィック社、USA)の0〜105分子を増幅することにより調べた。リアルタイムPCRは、光学キャップ(MicroAmp(登録商標)、光学8−キャップストリップ、アプライド バイオシステムズ社、USA)を閉めた96ウェルPCRプレート(Thermo-Fast(登録商標)96 Robotic PCR Plate、サーモ サイエンティフィック社)を用いて行った。各40μlPCR反応は、500nMプライマー(5’プライマー 5’CTGTAGACTCGGCTTGGGAAGAGC3’;配列番号8および3’プライマー 5’AAGCCTTCCCTTTATACGCTCAAGC3’;配列番号9;サーモ サイエンティフィック社)、(2,2’,2’’−(10−(3−イソチオシアネートベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)三酢酸;図8d)の非蛍光Eu3+イオンキャリアキレートで標識されたプローブA(5’AATCGTATCTCGGGTTAATG[AmC7];配列番号10;サーモ サイエンティフィック社)50nM、集光性アンテナ配位子(4−((4−イソチオシアネートフェニル)エチニル)ピリジン−2,6−ジカルボン酸)[U. Karhunen et al., Anal Chem, 82 (2010) 751]で標識されたプローブB(5’T(AmC2dT)GCATGATGCTTTATCAAA3’3’リン酸塩;配列番号11;サーモ サイエンティフィック社)50nM、30μM DTPA、400μM dNTPs、0.6μl PhireホットスタートDNAポリメラーゼ(Finnzymes社、フィンランド)Phire反応緩衝液(Finnzymes社)および各種量の合成一本鎖オリゴヌクレオチド鋳型を含む。熱サイクルは、98℃で2分の初期変性およびポリメラーゼ活性化ステップ、その後、98℃で15秒、60℃で20秒および72度で15秒を8サイクル;98℃で15秒、60℃で20秒、72℃で15秒、98℃で15秒、60℃で20秒、72℃で15秒、94℃で15秒および30℃で30秒を17サイクルから構成された。その熱サイクルは、PTC−200サーマルサイクラー(MJ リサーチ、USA)を用いて行われ、時間分解蛍光はサイクル9で開始して、340nm励起フィルター、615nm発光フィルター、400μs遅延時間および400μs測定時間を用い、1000測定サイクル計測することにより、Victor1420Multilabel Counter(パーキンエルマー ライフ サイエンス社、フィンランド)で30℃で測定した。各蛍光測定のために、PCRプレートは、PTC−200サーマルサイクラーからVictor1420Multilabel Counterへ一時的に移された。
【0156】
各種量のオリゴヌクレオチド鋳型が増幅され、リアルタイムPCTにおいて測定された。プローブAおよびプローブBと標的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション後のEu3+特異的蛍光は、図17に示す。増幅プロットは、PCRサイクル数の関数として各蛍光測定値をプロットすることにより作成した。
【0157】
他の好ましい態様
当然のことながら、本発明の方法は、多種多様な態様の形態で組み込まれることができ、本明細書に開示されているのはそのうちの数例のみである。他の実施態様が存在し、本発明の精神から逸脱しないことは当業者には明らかである。したがって、記載された実施態様は、説明のためのものであり、制限的なものとして解釈されるべきものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含み、該ランタニドイオンキャリアキレートがランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用いる、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法であって、
該方法においては、
a)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに充分強く結合し、結果として、該バイオアッセイ法の条件において、遊離のランタニドイオンが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドイオンが存在する;または
b)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに充分強く結合し、結果として、遊離のランタニドが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドが存在し、かつ該ランタニドイオンを錯化する薬剤が少なくとも1pmol/Lの濃度でさらに用いられる;そして
該アンテナ配位子が該ランタニドイオンに弱く結合する、すなわち該アンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである;ならびに
該第1のグループの該第1認識エレメントおよび該第2のグループの該第2認識エレメントによる認識が、結果として、
i)キレート相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートと該アンテナ配位子との相補性による混合ランタニドキレート錯体の形成、およびそれによる蛍光の増加;または
ii)キレート脱相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、それによる蛍光の減少
のいずれかを生じる
バイオアッセイ法。
【請求項2】
a)logKLnL1は少なくとも12、好ましくは18以上であって、KLnL1は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;または
b)該ランタニドイオンを錯化する薬剤をさらに用いる場合、
i)logKLnL2は少なくとも12であって、KLnL2は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;および
ii)logKLnL3は少なくとも8であって、KLnL3は、該ランタニドイオンを錯化する該錯化剤とランタニドイオンとの溶液中での安定度定数を意味する
を特徴とする請求項1記載のバイオアッセイ法。
【請求項3】
前記イオンキャリアキレートが五座、六座、七座または八座であり、好ましくは六座、七座または八座であることを特徴とする請求項1または2記載のバイオアッセイ法。
【請求項4】
前記イオンキャリアキレートのランタニドイオンは、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)、ツリウム(III)およびイッテルビウム(III)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項5】
第1および第2認識エレメントが互いに独立してオリゴヌクレオチド、アプタマー、ペプチド、タンパク質、ハプテンおよびオリゴ糖からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項6】
アンテナ配位子が四座、三座、二座または単座、好ましくは三座または二座であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項7】
logKLnL1が少なくとも20、好ましくは22以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項8】
ランタニドイオンを錯化する薬剤が用いられる請求項1〜7のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該錯化剤がCDTA、EDTA、DOTA、DTPA、EGTA、HBED、HEDTA、NOTA、NTA、TETAおよびTTHAからなる群より選択されることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項9】
ランタニドイオンを錯化する薬剤が用いられる請求項1〜8のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該錯化剤が、アンテナ配位子よりも該ランタニドイオンの強力な結合剤、すなわちlogKLnL3>logKLnL4であって、KLnL4は溶液中での該アンテナ配位子と該ランタニドイオンとの錯体の安定度定数を意味し;そして好ましくはイオンキャリアキレートよりも弱いランタニドイオンの結合剤、すなわちlogKLnL3>logKLnL2であることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項10】
前記ランタニドイオンキャリア配位子がEDTA、DTPA、NOTAまたはDOTAから誘導されるか、または図7i、図7iiおよび図7iiiに示される構造a)〜p)から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項11】
前記アンテナ配位子が、図5i、図5ii、図5iiiおよび図5ivに示される構造a)〜z)からなる群より選択される集光構造を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項12】
検体の認識が結果として蛍光の増加または減少を生じる請求項1〜11のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該蛍光が400および1600nmの間の波長で測定されることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項13】
検出または定量される検体が、ストレプトアビジン、タンパク質、ハプテン、核酸配列、細胞、ウイルス、核酸増幅反応産物およびポリメラーゼ連鎖反応産物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項14】
検体の認識が結果として蛍光の増加または減少を生じる請求項1〜13のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該蛍光が長い蛍光寿命、すなわち寿命が>1μsであることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項15】
検体の認識が結果として蛍光の増加または減少を生じる請求項1〜14のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該蛍光がアップコンバージョン蛍光、すなわち発光が励起よりも短い波長で検出される抗−ストークフォトルミネッセンスであることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項1】
ランタニドイオンキャリアキレートおよび第1認識エレメントを含み、該ランタニドイオンキャリアキレートがランタニドイオンキャリア配位子とランタニドイオンを含む第1のグループ;アンテナ配位子および第2認識エレメントを含む第2のグループを用いる、検体を検出および/または定量するためのバイオアッセイ法であって、
該方法においては、
a)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに充分強く結合し、結果として、該バイオアッセイ法の条件において、遊離のランタニドイオンが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドイオンが存在する;または
b)該ランタニドイオンキャリアキレートが、該バイオアッセイ法の条件において該ランタニドに充分強く結合し、結果として、遊離のランタニドが本質的には存在しない、すなわち1nmol/Lより少ない、好ましくは10pmol/Lより少ない遊離のランタニドが存在し、かつ該ランタニドイオンを錯化する薬剤が少なくとも1pmol/Lの濃度でさらに用いられる;そして
該アンテナ配位子が該ランタニドイオンに弱く結合する、すなわち該アンテナ配位子は単座、二座、三座または四座のいずれかである;ならびに
該第1のグループの該第1認識エレメントおよび該第2のグループの該第2認識エレメントによる認識が、結果として、
i)キレート相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートと該アンテナ配位子との相補性による混合ランタニドキレート錯体の形成、およびそれによる蛍光の増加;または
ii)キレート脱相補性、すなわち該ランタニドを担持する該ランタニドイオンキャリアキレートが該アンテナ配位子から分離され、それによる蛍光の減少
のいずれかを生じる
バイオアッセイ法。
【請求項2】
a)logKLnL1は少なくとも12、好ましくは18以上であって、KLnL1は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;または
b)該ランタニドイオンを錯化する薬剤をさらに用いる場合、
i)logKLnL2は少なくとも12であって、KLnL2は、イオンキャリア配位子とランタニドイオンとの錯体の溶液中での安定度定数を意味する;および
ii)logKLnL3は少なくとも8であって、KLnL3は、該ランタニドイオンを錯化する該錯化剤とランタニドイオンとの溶液中での安定度定数を意味する
を特徴とする請求項1記載のバイオアッセイ法。
【請求項3】
前記イオンキャリアキレートが五座、六座、七座または八座であり、好ましくは六座、七座または八座であることを特徴とする請求項1または2記載のバイオアッセイ法。
【請求項4】
前記イオンキャリアキレートのランタニドイオンは、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、ユーロピウム(III)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、エルビウム(III)、ツリウム(III)およびイッテルビウム(III)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項5】
第1および第2認識エレメントが互いに独立してオリゴヌクレオチド、アプタマー、ペプチド、タンパク質、ハプテンおよびオリゴ糖からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項6】
アンテナ配位子が四座、三座、二座または単座、好ましくは三座または二座であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項7】
logKLnL1が少なくとも20、好ましくは22以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項8】
ランタニドイオンを錯化する薬剤が用いられる請求項1〜7のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該錯化剤がCDTA、EDTA、DOTA、DTPA、EGTA、HBED、HEDTA、NOTA、NTA、TETAおよびTTHAからなる群より選択されることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項9】
ランタニドイオンを錯化する薬剤が用いられる請求項1〜8のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該錯化剤が、アンテナ配位子よりも該ランタニドイオンの強力な結合剤、すなわちlogKLnL3>logKLnL4であって、KLnL4は溶液中での該アンテナ配位子と該ランタニドイオンとの錯体の安定度定数を意味し;そして好ましくはイオンキャリアキレートよりも弱いランタニドイオンの結合剤、すなわちlogKLnL3>logKLnL2であることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項10】
前記ランタニドイオンキャリア配位子がEDTA、DTPA、NOTAまたはDOTAから誘導されるか、または図7i、図7iiおよび図7iiiに示される構造a)〜p)から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項11】
前記アンテナ配位子が、図5i、図5ii、図5iiiおよび図5ivに示される構造a)〜z)からなる群より選択される集光構造を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項12】
検体の認識が結果として蛍光の増加または減少を生じる請求項1〜11のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該蛍光が400および1600nmの間の波長で測定されることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項13】
検出または定量される検体が、ストレプトアビジン、タンパク質、ハプテン、核酸配列、細胞、ウイルス、核酸増幅反応産物およびポリメラーゼ連鎖反応産物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法。
【請求項14】
検体の認識が結果として蛍光の増加または減少を生じる請求項1〜13のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該蛍光が長い蛍光寿命、すなわち寿命が>1μsであることを特徴とするバイオアッセイ法。
【請求項15】
検体の認識が結果として蛍光の増加または減少を生じる請求項1〜14のいずれか1項に記載のバイオアッセイ法であって、該蛍光がアップコンバージョン蛍光、すなわち発光が励起よりも短い波長で検出される抗−ストークフォトルミネッセンスであることを特徴とするバイオアッセイ法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−i】
【図5−ii】
【図5−iii】
【図5−iv】
【図6】
【図7−i】
【図7−ii】
【図7−iii】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−i】
【図5−ii】
【図5−iii】
【図5−iv】
【図6】
【図7−i】
【図7−ii】
【図7−iii】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2012−521208(P2012−521208A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501330(P2012−501330)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050222
【国際公開番号】WO2010/109065
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(500410617)オサケ ユキチュア アークティク パートナーズ アクチボラーグ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050222
【国際公開番号】WO2010/109065
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(500410617)オサケ ユキチュア アークティク パートナーズ アクチボラーグ (1)
【Fターム(参考)】
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