説明

蛍光体およびその利用、並びにその製造方法

【課題】Euで付活される緑色乃至青色蛍光体において、少なくとも色純度や輝度の向上を図り、さらには、低電圧の電子線や紫外線によっても励起することを可能とする。
【解決手段】本発明に係る蛍光体は、以下の組成式(1)
aSrO・bBaO・zEuO・mMgO・nSiO ・・・(1)
で表されるEu付活蛍光体であって、a、b、z、mおよびnは0より大きく、(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であって、z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体およびその代表的な利用、並びに製造方法に関するものであり、特に、色純度がよく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、緑色乃至青色の蛍光を発するための発光元素としては、Eu2+やCe3+が知られており、これらのイオンを、ケイ酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩等を母体材料として付活させた様々な蛍光体が開発されている。
【0003】
発光元素としてEu2+を用い、ケイ酸塩を母体材料とする蛍光体は、紫外線に対して耐劣化性能を有することから紫外線を励起光源とする蛍光体として盛んに検討されている(例えば、特許文献1乃至7等参照。)。これらの特許文献では、蛍光ランプやプラズマディスプレイパネル(PDP)などの表示デバイスを用途とし、紫外線領域の励起源を用い種々の領域に発光スペクトルを有する蛍光体としてEuで付活されるアルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体が報告されている。
【0004】
ところで、近年の表示装置の分野では、従来の陰極線管(CRT)ディスプレイ(いわゆるブラウン管)に代わり、フラットパネルディスプレイ(FPD)が主流となりつつある。FPDには、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ(PDP)、有機エレクトロルミネセンスディスプレイ等、様々な種類が存在しているが、中でも電解放出型ディスプレイ(FED)は、基本的な表示原理がCRTディスプレイと同じであるため、CRTディスプレイに代わるフラットパネルディスプレイとして注目されている。
【0005】
FEDは、CRTと同原理かつ同等の性能を有することに加え、視野角が広い、応答速度が速い、消費電力が小さいという特長を有しているが、蛍光体についてはCRT用のものを用いることができない。すなわち、FEDは低電圧で蛍光体を発光させて表示を行うので、高電圧で発光させる従来のCRT用の蛍光体や、従来の紫外線を励起源とする蛍光体をFEDに用いても、同様の発色、色純度、輝度等を得ることはできない。そのため、FED用の蛍光体としては、低電圧で発光させることができるカソードルミネセンス用の蛍光体が求められる。現在FED用の蛍光体としては、次の組成式(3)で表される、青色発光型の蛍光体がよく知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
SiO:Ce ・・・(3)
【特許文献1】特開2004−161981(平成16年6月10日公開)
【特許文献2】特開2003−142004(平成15年5月16日公開)
【特許文献3】特開2005−68269(平成17年3月17日公開)
【特許文献4】特開2005−330312(平成17年12月2日公開)
【特許文献5】特開2005−60670(平成17年3月10日公開)
【特許文献6】特開2003−306674(平成15年10月31日公開)
【特許文献7】特開2006−8746(平成18年1月12日公開)
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society, 148(6)H61-H66 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の緑色乃至青色蛍光体では、色純度および輝度が十分ではないという問題がある。
【0008】
具体的には、まず、Ce3+を付活した青色発光を示す蛍光体は、ピークがブロードになるという欠点がある。また、上記特許文献1乃至7に記載されている、Eu2+を付活した蛍光体は、発光ピークはシャープになるが、結晶場の影響を受けやすく、組成により、蛍光が紫外から黄色まで変化しやすく、緑色蛍光や青色蛍光に最適な組成を見出すことは容易ではない。
【0009】
さらに、FED用の蛍光体として例示した上記組成式(3)の青色蛍光体は、Ce3+を発光元素としていることから、その発光波長はブロードであり、色純度が悪く効率的ではないという問題がある。
【0010】
加えて、Eu2+を付活した蛍光体では、製造過程上での問題が色純度に影響を与える場合がある。すなわち、Eu2+は通常Eu3+(赤色蛍光)の還元により作製する。それゆえ、完全に還元が行われなければEu3+(赤色蛍光)の影響が発光に影響しやすくなるため、蛍光が紫外から黄色まで変化しやすいという問題がある。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、Euで付活される緑色乃至青色蛍光体において、少なくとも色純度や輝度の向上を図り、さらには、低電圧の電子線や紫外線によっても励起することを可能とし、Eu3+(赤色蛍光)の影響も有効に回避可能とする蛍光体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る蛍光体は、上記課題を解決するために、以下の組成式(1)
aSrO・bBaO・zEuO・mMgO・nSiO ・・・(1)
で表されるEu付活蛍光体であって、
a、b、z、mおよびnは0より大きく、
(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であって、
z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下であることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、色純度および輝度にすぐれた緑色乃至青色蛍光体を実現することができる。
【0014】
本発明に係る蛍光体は、上記組成式(1)において、さらに、
0.5≦a/m≦1.5、
0.5≦b/m≦1.5、および
(a/b)>0.9を満たすことが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、さらに輝度にすぐれた緑色乃至青色蛍光体を実現することができる。
【0016】
また、本発明に係る蛍光体は、上記組成式(1)において、さらに、
0.8≦a/m≦1.2、
0.8≦b/m≦1.2、
(a/b)>0.9、および、
1.1≦n/m≦1.5を満たす蛍光体であってもよい。
【0017】
上記の構成によれば、さらに輝度にすぐれた緑色乃至青色蛍光体を実現することができる。
【0018】
また、本発明に係る蛍光体は、焼成体であるとともに、
焼成前の蛍光体の前駆体は、上記組成式(1)中のIIA族元素の少なくとも一つをシュウ酸塩として含有していることが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、Eu3+(赤色蛍光)の影響を有効に回避することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る蛍光体は、さらに、上記前駆体が、SiおよびEuの少なくとも一方を酸化物として含有していることが好ましい。
【0021】
本発明に係る蛍光体では、上記焼成体としての蛍光体は、大気中または還元雰囲気中で前駆体を焼成することにより得られるものであることが好ましい。
【0022】
本発明に係る蛍光体は、紫外線励起蛍光体または電子線励起蛍光体であることが好ましい。上記の構成によれば、紫外線や電子線を用いる表示装置に好適に用いることができる。
【0023】
本発明に係る自発光型の表示装置は本発明にかかる蛍光体を用いていることを特徴としている。
【0024】
上記の構成によれば、本発明にかかる蛍光体は、色純度および輝度にすぐれた緑色乃至青色蛍光体であるので、画質のよい表示装置を提供することができるという効果を奏する。
【0025】
上記表示装置は電子線励起型の表示装置であることが好ましい。上記の構成によれば、本発明にかかる蛍光体は、電子線励起による場合、特に色純度がよく、高輝度の発光を示すので、さらに画質のよい表示装置を提供することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、上記課題を解決するために、発光元素を還元により作製する蛍光体を製造する方法であって、当該蛍光体を構成する元素を含有する複数の原料化合物を混合してから焼成するとともに、上記原料化合物のうち、少なくとも一つの化合物として、シュウ酸塩を用いることを特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、還元前の酸化数のより大きい発光元素による発光色の影響を有効に回避することができる。それゆえ、色純度の高い蛍光体を製造することができるという効果を奏する。
【0028】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、上記蛍光体は、ケイ酸塩、リン酸塩、または、アルミン酸塩を母体材料とする蛍光体でありうる。本発明に係る蛍光体の製造方法では、上記上記発光元素は、Eu、Ce、Sm、La、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Ti、Sn、および、Biからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0029】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、aMO・bLO・cMO・dM・・(2)
(式中、MはSr、Ba、およびCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、MはMgおよびZnから選択される少なくとも1種の元素であり、LはEu、Ce、Sm、La、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Ti、Sn、および、Biからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、MはSi、Al、Ti、GeおよびGaから選択される少なくとも1種の元素であり、aは1以上5以下であり、bは0.001以上1以下であり、cは1以上3以下であり、dは1以上5以下である。)
により表される蛍光体の製造方法であって、
上記組成式(2)中の元素を含有する複数の原料化合物を、上記組成式に対応する相対比となるように混合してから焼成するとともに、
上記原料化合物のうち、MおよびMの少なくとも一方を含有する化合物として、シュウ酸塩を用いる方法であってもよい。
【0030】
本発明に係る蛍光体の製造方法においては、上記焼成を大気中または還元雰囲気中で行いうる。
【0031】
本発明に係る蛍光体の製造方法においては、上記原料化合物のうち、MおよびLの少なくとも1種類の元素を含有する化合物として、酸化物を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る蛍光体は、以下の組成式(1)
aSrO・bBaO・zEuO・mMgO・nSiO ・・・(1)
で表されるEu付活蛍光体であって、
a、b、z、mおよびnは0より大きく、
(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であって、
z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下であるので、色純度および輝度にすぐれた緑色乃至青色蛍光体を実現することができるという効果を奏する。
【0033】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、発光元素を還元により作製する蛍光体を製造する方法であって、当該蛍光体を構成する元素を含有する複数の原料化合物を混合してから焼成するとともに、上記原料化合物のうち、少なくとも一つの化合物として、シュウ酸塩を用いるので、上記の構成によれば、還元前の酸化数のより大きい発光元素による発光色の影響を有効に回避することができる。それゆえ、色純度の高い蛍光体を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明にかかる蛍光体、その利用、およびその製造方法について説明すると以下の通りである。
【0035】
(I)蛍光体
本発明者らは、上記課題に鑑み、色純度がよく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体を実現するために、発光元素としてEu2+を選定し、Eu2+と同じ価数である様々な金属のケイ酸塩を母体材料として検討を行った結果、Sr、Ba、及びMgを必須に含む蛍光体が一定の組成範囲で、非常に色純度がよく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体となることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明にかかる蛍光体は、以下の組成式(1)で表される蛍光体である。
aSrO・bBaO・zEuO・mMgO・nSiO・・・(1)
ここで、組成式(1)中、a、b、z、mおよびnは0より大きく、(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であり、z/(a+b+m+z)は0.001より大きく0.2以下である。
【0036】
本発明にかかる蛍光体は、a、b、z、mおよびnが上記関係を満たす範囲内で、色純度が非常によく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体となる。換言すれば、上記本発明の蛍光体は、励起源により励起されて、緑色乃至青色の光を発し、その発光強度が大きく、発光のピークの半値幅が狭い。例えば、電子線で励起する場合、現在FED用の蛍光体としてよく知られているYSiO:Ceと比較して色純度が非常によい。蛍光体の発光色は、一般的にx−yの色度座標を用いて表される。例えば、青色の蛍光体は、x=0.15〜0.2で、yが小さいほど純粋な青色に近く、色再現性がよい。本発明にかかる蛍光体は、x=0.15〜0.2である。また、本発明にかかる蛍光体は、上記従来品より、多くの場合色度座標値yが約0.04以上、最大で、0.1近く小さくなり、良好な発光色を示した。さらに、電子線による励起で、発光強度も上記従来品と同等であるか、あるいは、上記従来品より、最大で、約2.3倍と顕著に向上している。また、紫外線による励起でも、従来品と同等の良好な特性を維持している。
【0037】
本発明にかかる蛍光体は、組成式(1)中、a、b、z、mおよびnが上記関係を満たすことに加えて、さらに、以下の関係(i)または(ii)を満たすものであることがより好ましい。
(i):
0.5≦a/m≦1.5、
0.5≦b/m≦1.5、および
(a/b)>0.9
本発明にかかる蛍光体は、さらに上記(i)の関係を満たすことにより、より発光強度が大きくなる。
(ii):
0.8≦a/m≦1.2、
0.8≦b/m≦1.2、
(a/b)>0.9、および、
1.1≦n/m≦1.5
また、本発明にかかる蛍光体は、さらに上記(ii)の関係を満たすことにより、より発光強度が大きくなる。
【0038】
また、上記組成式(1)中、(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であればよいが、(a+b+z+m)/nは2.0以上2.65以下であることがより好ましい。これにより、色純度がさらに向上し、電子線による励起で、殆どの場合、色度座標値yが、0.12以下となる。また、(a+b+z+m)/nは、2.0以上2.5以下であることがさらに好ましい。かかる場合は殆ど、色度座標値yが、0.1以下となる。
【0039】
また、上記組成式(1)中、z/(a+b+m+z)は0.001より大きく0.2以下であればよいが、z/(a+b+m+z)は、0.005以上0.15以下であることがより好ましく、0.01以上0.1以下であることがさらに好ましい。これにより、発光強度がさらに向上し、また、色純度も向上する。
【0040】
本発明に係る蛍光体は、励起源により励起され、緑色乃至青色の光を発する。特に、励起源として真空紫外線を用いる場合には青色の光を発する。また、電子線を用いる場合も青色の光を発する。用いる電子線の電圧は特に限定されるものではないが、特に、0より大きく、10kV以下の低電圧の電子線で励起する場合には、青色の光を発し、色純度および輝度を著しく向上させることができる。
【0041】
本発明の蛍光体の形態は、特に限定されるものではなく、混晶であってもよいし、共晶であってもよいし、多結晶混合物であってもよい。
【0042】
本発明にかかる蛍光体は、上記組成式(1)中の各元素の原料となる化合物を、各元素が上記関係を満たすような相対比で含む混合物(前駆体)を焼成することによって得られる焼成体である。
【0043】
上記組成式(1)中のIIA族元素、すなわち、Sr、Ba、および、Mgの原料となる化合物としては、特に限定されるものではなく、シュウ酸塩、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、ハロゲン化物、酸化物、またはこれらの水和物等を挙げることできる。
【0044】
また、上記組成式(1)中のSiの原料となる化合物としては、二酸化珪素、ケイ酸塩化合物、金属ケイ素等を挙げることができ、Euの原料となる化合物としては、酸化ユーロピウム、シュウ酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム等を挙げることができる。
【0045】
本発明にかかる蛍光体は、上記化合物を、各元素が上記関係を満たすような相対比で含む混合物である前駆体を、大気中または還元雰囲気中で焼成することにより得られるものであればよい。
【0046】
また、本発明に係る蛍光体は、さらに、融剤を含んでいてもよい。かかる融剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、Li、Na、K、Pb、Cs、F、Cl、Br、I等を挙げることができる。これらは、例えば、KI、BaF、NHCl等の化合物の形で、または、単体として添加されうる。
【0047】
(II)本発明にかかる蛍光体の利用
本発明にかかる蛍光体は、上述したように、励起源により励起されて、緑色乃至青色の光を発し、特に、真空紫外線を含む紫外線、または電子線により励起されて、青色発光を示し、色純度と輝度とが向上した、優れた発光特性を示す。それゆえ、これを緑色または青色の着色成分として用いることにより、画質のよい自発光型の表示装置を作製することができる。それゆえ、本発明には、上記本発明に係る蛍光体を用いた自発光型の表示装置も含まれる。
【0048】
かかる自発光型の表示装置としては、例えば、プラズマディスプレイ(PDP)等の紫外線励起による発光を行う表示装置、電解放出型ディスプレイ(FED)等の電子線励起型の表示装置を挙げることができる。
【0049】
本発明にかかる自発光型の表示装置の一例としてFEDを挙げて説明する。FEDは、カソード基板上に形成された多数の電界放出エミッタと、蛍光面を形成したアノード基板とを対向させて、電子線励起発光を行う構成となっていればよく、その電極構造は特に限定されるものではない。蛍光面に塗布する青色蛍光体として、本発明の蛍光体を用いることによって、青色の発色に良い表示装置を製造することができる。
【0050】
なお、電子線励起型の表示装置としては、上記FEDに限定されるものではなく、電界放出電子ではない電子線を用いた表示装置ももちろん本発明の表示装置に含まれる。
【0051】
(III)蛍光体の製造方法
本発明にかかる蛍光体は、上記組成式(1)中の各元素の化合物を、各元素が上記関係を満たすような相対比で含む混合物(前駆体)を焼成することによって製造することができる。
【0052】
上記化合物としては、(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。上記化合物を混合する方法は特に限定されるものではなく、例えば、ボールミル、V型混合機、攪拌機等、従来公知の方法を用いて混合すればよい。なお、混合は、湿式で行ってもよいし、乾式で行ってもよいが、乾式で行うことがより好ましい。また、上記前駆体には、上述した融剤を添加してもよい。
【0053】
得られた混合物(前駆体)を焼成する温度は、例えば、700℃以上1500℃以下であればよいが、850℃以上1300℃以下であることがより好ましい。
【0054】
また、上記混合物(前駆体)を焼成する焼成時間は、前駆体の量等によって適宜選択すればよいが、例えば0.5時間以上であることがより好ましい。
【0055】
上記混合物(前駆体)を焼成する焼成雰囲気としては、特に限定されるものではなく、大気中で焼成してもよいし、水素を1〜10体積%含む、窒素やアルゴン等の不活性ガス等の還元雰囲気下で焼成してもよい。また、これらを組み合わせて大気中で焼成後さらに還元雰囲気下で焼成する方法を用いてもよい。この場合、大気中で焼成後、還元雰囲気下で焼成する前に、ボールミル等を用いて蛍光体を粉砕してもよい。
【0056】
焼成して得られた蛍光体は必要に応じて粉砕してもよい。あるいは、必要に応じて洗浄、乾燥してもよい。
【0057】
本発明者らは、上記化合物として様々な化合物を検討する中で、上記組成式(1)中のIIA族元素(Sr、Ba、および、Mg)の原料としてシュウ酸塩を用いたところ、大気中の焼成でも、Eu3+のEu2+への還元が進みやすくなることを見出した。
【0058】
すなわち、Eu2+を発光元素とする蛍光体の製造方法においては、Eu3+をEu2+に還元するために、通常、上記前駆体の焼成を還元雰囲気下で行う必要がある。しかし、本発明者らが、上記組成式(1)中のIIA族元素(Sr、Ba、および、Mg)の原料としてシュウ酸塩を用いたところ、驚くべきことに、大気中での焼成のみで、色純度がよく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体を得ることができた。
【0059】
上述したように、緑色乃至青色の蛍光を発するための発光元素としてEu2+を付活した蛍光体では、Eu2+は通常Eu3+(赤色蛍光)の還元により作製する。それゆえ、完全に還元が行われなければEu3+(赤色蛍光)の影響が発光に影響しやすく、蛍光が紫外から黄色まで変化しやすいという問題がある。しかし、上記組成式(1)中のIIA族元素の原料として、シュウ酸塩を用いれば、Eu3+のEu2+への還元が進みやすくなるため、かかる問題を解決し、より安定に緑色乃至青色の光を発する蛍光体を得ることができる。
【0060】
上記組成式(1)中のIIA族元素の原料としてシュウ酸塩を用いた場合に、大気中の焼成でも、Eu3+のEu2+への還元が進みやすくなる理由は明らかではないが、シュウ酸塩を用いると、焼成の際に、COなどの還元性ガスが発生するため、大気中で焼成した場合にも還元雰囲気が実現されるためであると考えられる。
【0061】
したがって、本発明には、以下の組成式(1)
aSrO・bBaO・zEuO・mMgO・nSiO ・・・(1)
で表されるEu付活蛍光体であって、a、b、z、mおよびnは0より大きく、(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であって、z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下である蛍光体の製造方法であって、上記組成式(1)中の元素を含有する複数の原料化合物を、上記組成式に対応する相対比となるように混合してから焼成するとともに、上記原料化合物のうち、上記組成式(1)中のIIA族元素の少なくとも一つを含有する化合物として、シュウ酸塩を用いる蛍光体の製造方法も含まれる。
【0062】
上記製造方法では、上記組成式(1)中のIIA族元素の少なくとも一つを含有する化合物として、シュウ酸塩を用いればよいが、二以上の上記IIA族元素においてシュウ酸塩を用いることがより好ましく、すべての上記IIA族元素においてシュウ酸塩を用いることがさらに好ましい。これにより、Eu3+のEu2+への還元がより進みやすくなる。なおここでシュウ酸塩には、水和物が含まれていてもよい。また、シュウ酸塩を用いない場合は、上記原料化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、(I)で説明した化合物から適宜選択して用いればよい。
【0063】
また、上記製造方法では、上記原料化合物のうち、SiおよびEuの原料化合物としても、特に限定されるものではないが、(I)で説明した化合物から適宜選択して用いればよい。中でも、SiおよびEuの少なくとも1種類の元素を含有する化合物として、酸化物を用いることがより好ましく、SiおよびEuを含有する化合物として二酸化ケイ素およびEuを用いることがさらに好ましい。二酸化ケイ素は、コストが低いことに加えて、粒径、形状、結晶性等の選択の幅が広いため、好ましい。
【0064】
また、上記シュウ酸塩を用いる製造方法においては、焼成を大気中のみで行った場合も、色純度がよく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体を得ることができるが、もちろん、焼成を還元雰囲気中で行ってもよい。また、大気中で焼成後さらに還元雰囲気下で焼成してもよい。これにより、Eu3+のEu2+への還元をより完全に行うことができる。かかる場合大気中での焼成は900℃以上1500℃以下、0.5時間以上で行い、続く還元雰囲気下での焼成は700℃以上1200℃以下、0.5時間以上で行うことが好ましい。
【0065】
また、本発明の蛍光体には、焼成体であるとともに、焼成前の蛍光体の前駆体は、上記組成式(1)中のIIA族元素の少なくとも一つをシュウ酸塩として含有している蛍光体も含まれる。
【0066】
これにより、Eu3+(赤色蛍光)の影響を有効に回避することが可能となる。それゆえ安定した、緑色乃至青色蛍光体を実現することができる。
【0067】
さらに、上記前駆体は、SiおよびEuの少なくとも一方を酸化物として含有していることが好ましい。
【0068】
また、上述した、シュウ酸塩を原料化合物として用いる蛍光体の製造方法は、上記組成式(1)で表される蛍光体に限らず、発光元素を還元により作製する全ての蛍光体において有用であると考えられる。したがって、本発明には、発光元素を還元により作製する蛍光体を製造する方法であって、当該蛍光体を構成する元素を含有する複数の原料化合物を、混合してから焼成するとともに、上記原料化合物のうち、少なくとも一つの化合物として、シュウ酸塩を用いる蛍光体の製造方法も含まれる。
【0069】
上記蛍光体は、発光元素を還元により作製する蛍光体であれば、どのような蛍光体であってもよい。かかる場合に、シュウ酸塩を原料化合物として用いることで、焼成雰囲気を還元雰囲気とすることができるため、発光元素の還元が進みやすくなるという効果が有効に働く。
【0070】
ここで、発光元素を還元により作製する蛍光体とは、例えば、発光元素として、Eu、Ce、Sm、La、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Ti、Sn、および、Biまたはこれらの2種類以上の元素を含む蛍光体を挙げることができる。これらの元素は、還元された形で賦活されるので、シュウ酸塩を原料化合物として用いる蛍光体の製造方法を用いることによって、還元をより完全に行うことが可能となる。
【0071】
また、上記蛍光体は、発光元素を還元により作製する蛍光体であれば、母体材料はどのようなものであってもよいが、例えば、ケイ酸塩、リン酸塩、または、アルミン酸塩を母体材料とする蛍光体を挙げることができる。
【0072】
また、上記蛍光体としては、具体的には、例えば、以下の組成式(2)
aMO・bLO・cMO・dM ・・・(2)
(式中、MはSr、Ba、およびCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、MはMgおよびZnから選択される少なくとも1種の元素であり、LはEu、Ce、Sm、La、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Ti、Sn、および、Biからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、MはSi、Al、Ti、GeおよびGaから選択される少なくとも1種の元素であり、aは1以上5以下であり、bは0.001以上1以下であり、cは1以上3以下であり、dは1以上5以下である。)
により表される蛍光体を挙げることができる。上記蛍光体は、上記組成式(2)中の元素を含有する複数の原料化合物を、上記組成式に対応する相対比となるように混合してから焼成するとともに、上記原料化合物のうち、MおよびMの少なくとも一方を含有する化合物として、シュウ酸塩を用いればよい。
【0073】
上記製造方法では、上記組成式(2)中のMおよびMの少なくとも一方を含有する化合物として、シュウ酸塩を用いればよいが、(2)中のMおよびMのより多くの元素においてシュウ酸塩を用いることがより好ましい。これにより、発光元素(L)の還元がより進みやすくなる。なおここでシュウ酸塩には、水和物が含まれていてもよい。また、シュウ酸塩を用いない場合は、上記原料化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、ハロゲン化物、酸化物、またはこれらの水和物等から適宜選択して用いればよい。
【0074】
また、上記製造方法では、上記原料化合物のうち、MおよびLの原料化合物としても、特に限定されるものではないが、Mの原料化合物としては、酸化物、単体等を、Lの原料化合物としては、酸化物、シュウ酸塩、硝酸塩等を用いることができる。
【0075】
また、上記製造方法においても、焼成を大気中のみで行うことで、色純度がよく、高輝度な緑色乃至青色蛍光体を得ることができるが、もちろん、焼成を還元雰囲気中で行ってもよい。また、大気中で焼成後さらに還元雰囲気下で焼成してもよい。これにより、これにより、発光元素の還元をより完全に行うことができる。かかる場合大気中での焼成は900℃以上1500℃以下、0.5時間以上で行い、続く還元雰囲気下での焼成は700℃以上1200℃以下、0.5時間以上で行うことが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例における蛍光体の評価は以下の方法による。
【0077】
〔蛍光体の評価方法〕
<低電圧の電子線で励起した場合の発光特性の評価>
蛍光体を粉砕し、粉砕した蛍光体と、EC−ビヒクル(日新化成(株)製)と、α−テルピネオールとを、重量比で1:1:1で分散させた。得られた分散物を、陽極基板上に形成した陽極導体上に、所定のパターンにスクリーン印刷し、100℃で10分間乾燥後、500℃で10分間ベーキングを行って評価用サンプルとした。
【0078】
評価用サンプルを真空チャンバーにセットし、真空度5×10−7Torr以下で、加速電圧1.0kVの電子線で励起し、発光特性を浜松ホトニクス社製PHOTONIC MULTI-CHANNEL ANALYZER C7473 を用いて測定解析した。
【0079】
<真空紫外領域紫外線で励起した場合の発光特性の評価>
蛍光体を粉砕し、専用のサンプルホルダーに均一な面となるように塗布した。真空チャンバーにセットし、1×10−2Torr以下で、重水素ランプにより、真空紫外光(160nm)をサンプルに照射し、発光特性は、浜松ホトニクス社製PHOTONIC MULTI-CHANNEL ANALYZER C7473 を用いて測定解析した。
【0080】
〔実施例1:0.98SrO・0.98BaO・0.06EuO・0.98MgO・1.17SiOの製造と発光特性の評価〕
蛍光体の原料化合物として、シュウ酸マグネシウムMgC(高純度化学製)1.7889g、シュウ酸ストロンチウム一水和物SrC・HO(高純度化学製)3.0840g、シュウ酸バリウムBaC(高純度化学製)3.5889g、酸化ユーロピウムEu(和光純薬製)0.3438g、シリカSiO(高純度化学製)1.1423gを秤量し、これらの原料をよく混合した。混合した原料化合物をアルミナ坩堝に充填し、大気中で、3時間で昇温後、1200℃で4時間焼成した。得られた蛍光体の発光特性を上記方法により測定した。
【0081】
下表1に、本実施例で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、nを示す。また、表2に、(a+b+z+m)/n(表2中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表2中Bと表示)、およびn/m、ならびに、得られた蛍光体の電子線励起および真空紫外線励起による発光特性を示す。なお、本実施例で得られた蛍光体においては、a/m=b/m=a/b=1であった。なお、以下の表は、数値を基準にして実施例を並べ変えている。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表2に示すように、本実施例で得られた蛍光体では、低電圧の電子線で励起した場合(表2中、CLと表示)、λmax=431.5nmにおいて、発光強度16046、x=0.172、y=0.103の青色発光が得られた。また、得られた蛍光体を低電圧の電子線で励起した場合の発光スペクトルを図1に示す。表2および図1中に並べて示すように、後述する比較例1で製造・評価を行った従来の標準品では、λmax=426.3nmにおいて、発光強度6944で、x=0.175、y=0.148の青色発光が得られた。本実施例で得られた蛍光体は、このように、従来の標準品と比較して、発光強度および色純度が顕著に向上していることが示された。本実施例で得られた蛍光体では、発光強度が標準品に対して、231%であった。
【0085】
また、本実施例で得られた蛍光体は、大気中での焼成のみで、上述したような、発光強度および色純度の良いものが得られた。なお、大気中での焼成後、さらに、得られた焼成物を粉砕してアルミナ坩堝に充填し、水素を5体積%含む窒素ガスの還元雰囲気下、2時間で昇温後、900℃で30分焼成して得られた蛍光体についても、発光特性の評価を行った。その結果、得られた蛍光体の特性は、大気中のみで焼成したものと同等であった。また、以下の実施例、比較例についても、同様に、大気中のみで焼成した場合と、大気中と還元雰囲気中との2段階で焼成した場合とで、発光特性に大きな差は見られなかった。
【0086】
また、表2に示すように、得られた蛍光体は、真空紫外線による励起でも青色に発光した。
【0087】
〔比較例1:YSiO:Ceの製造と発光特性の評価〕
蛍光体YSiO:Ceを、上記非特許文献1に記載の方法により製造した。得られた蛍光体の発光特性を上記方法により測定した。測定の結果を図1および表2に示す。
【0088】
〔実施例2〜5、21〜26:Si量を変量した蛍光体の製造と発光特性の評価〕
Sr、Ba、Eu、および、Mgの量は実施例1と略同じとしたまま、表1に示す組成となるように、Si量を変量した以外は、実施例1と同様にして蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0089】
表1に、実施例2〜5、21〜26、および後述する比較例2〜7で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、nを示す。また、表2に、(a+b+z+m)/n(表2中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表2中Bと表示)、およびn/m、ならびに得られた蛍光体の電子線励起および真空紫外線励起による発光特性を示す。なお、本実施例2〜5、21〜26、および後述する比較例2〜7で得られた蛍光体においては、a/m=b/m=a/b=1であった。
【0090】
また、本実施例2〜5、実施例1、および後述する比較例2、5で得られた蛍光体を低電圧の電子線で励起した場合の発光スペクトルを図2に示す。表2および図2に示す結果から、Si量に対するSr、Ba、Eu、および、Mgの合計量が所定範囲であると、すなわち、(a+b+z+m)/nが2以上3未満であると、色純度、発光強度が優れた青色蛍光体が得られることが示された。また、(a+b+z+m)/nが2.65以下では、色度座標値xが0.15〜0.2の範囲内、yが0.1以下であり、非常に純度の高い青色の光を発することが判る。また、得られた蛍光体は、真空紫外線による励起でも青色に発光した。
【0091】
〔比較例2〜7:Si量を変量した蛍光体の製造と輝度特性の評価〕
Sr、Ba、Eu、および、Mgの量は実施例1と略同じとしたまま、表1に示す組成となるように、Si量を変量した以外は、実施例1と同様にして蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0092】
〔実施例6〜12:Eu量を変量した蛍光体の製造と発光特性の評価〕
Sr、Ba、Mg、および、Siの量は実施例1と略同じとしたまま、下表3に示す組成となるように、Eu量を変量した以外は、実施例1と同様にして蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0093】
表3に、実施例6〜12、上述した実施例1、5、および後述する比較例16〜18で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、nを示す。また、表4に、(a+b+z+m)/n(表4中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表4中Bと表示)、およびn/m、ならびに得られた蛍光体の発光特性を示す。なお、表3に示す蛍光体においては、a/m=b/m=a/b=1であった。
【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
表3、4に示す実施例6〜12、上述した実施例1、5の結果、および比較例16〜18から、Sr、Ba、Mg、およびEuの全モル数に対するEuのモル数の割合が所定範囲内であると、すなわち、z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下であると、優れた色純度、発光強度の青色蛍光体が得られることが示された。また、z/(a+b+m+z)が0.01以上0.10以下で、発光強度がさらに向上することが判る。
【0097】
〔実施例13〜20:Sr/Ba/Mg比を変量した蛍光体の製造と発光特性の評価〕
Eu量、Si量およびMg量は実施例1と略同じとしたまま、下表5に示す組成となるように、Sr量およびBa量を変量して、Sr/Ba/Mg比を変量した以外は、実施例1と同様にして蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0098】
表5に、実施例13〜20、および上述した実施例1で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、nを示す。また、表6に、(a+b+z+m)/n(表6中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表6中Bと表示)、a/m、b/m、a/b、および、n/m、並びに、得られた蛍光体の発光特性を示す。
【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
表5に示す実施例13〜20、および上述した実施例1の結果から、(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であって、z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下であれば、優れた色純度、発光強度の青色蛍光体が得られるが、0.5≦a/m≦1.5、0.5≦b/m≦1.5、および、(a/b)>0.9を満たす蛍光体(実施例1および16〜20)では、発光強度がさらに向上していることが判る。なお、実施例13〜15は発光強度は上述した比較例2の従来の標準品より低いが、色純度が優れている。また、最も高い発光強度は、0.8≦a/m≦1.2、0.8≦b/m≦1.2、(a/b)>0.9、および、1.1≦n/m≦1.5が満たされるとき(実施例1、16、および17)に得られていることが判った。
【0102】
〔比較例8、9:Sr/Ba/Mg比を変量した蛍光体の製造と発光特性の評価〕
Eu量、Si量およびMg量は実施例1と略同じとしたまま、表5に示す組成となるように、Sr量およびBa量を変量して、Sr/Ba/Mg比を変化させた以外は、実施例1と同様にして蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0103】
表5に、比較例8、9で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、nを示す。また、表6に、(a+b+z+m)/n(表6中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表6中Bと表示)、a/m、b/m、a/b、および、n/m、並びに、得られた蛍光体の発光特性を示す。
【0104】
本比較例では、Sr量およびBa量を変量した結果、(a+b+z+m)/nが3より大きくなり、蛍光体は発光しなかった。
【0105】
〔比較例10、11:Baを含まない蛍光体の製造と発光特性の評価〕
下表7に示す組成となるように、実施例1に準じてBaを含まないEu付活ケイ酸塩蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0106】
表7に、比較例10、11で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、n、(a+b+z+m)/n(表7中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表7中Bと表示)を示す。また、表8に、得られた蛍光体の発光特性の測定結果を示す。
【0107】
【表7】

【0108】
【表8】

【0109】
表8に示すように、Baを含まないと、低電圧の電子線で励起した場合の蛍光強度は低く、青色の蛍光体を得ることができないことが判った。
【0110】
〔比較例12、13:Mgを含まない蛍光体の製造と発光特性の評価〕
下表7に示す組成となるように、実施例1に準じてMgを含まないEu付活ケイ酸塩蛍光体を製造し、得られた蛍光体の発光特性を評価した。
【0111】
表7に、比較例12、13で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、m、z、n、(a+b+z+m)/n(表7中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表7中Bと表示)を示す。また、表8に得られた蛍光体の発光特性の測定結果を示す。
【0112】
表8に示すように、Mgを含まないと、低電圧の電子線で励起した場合の発光が殆どみられないことが判った。
【0113】
〔比較例14、15:Srを含まない蛍光体の製造と輝度特性の評価〕
下表7に示す組成となるように、実施例1に準じてSrを含まないEu付活ケイ酸塩蛍光体を製造し、得られた蛍光体の輝度特性を評価した。
【0114】
表7に、比較例14、15で得られた蛍光体の上記組成式(1)におけるa、b、z、m、n、(a+b+z+m)/n(表7中Aと表示)、z/(a+b+m+z)(表7中Bと表示)を示す。また、表8に得られた蛍光体の発光特性の測定結果を示す。
【0115】
表8に示すように、Srを含まないと、低電圧の電子線で励起した場合の蛍光強度は低く、青色の蛍光体を得ることができないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上のように、本発明の蛍光体は、Euで付活される緑色乃至青色蛍光体において、少なくとも色純度や輝度が向上し、さらには、低電圧の電子線や紫外線によっても励起し、、Eu3+(赤色蛍光)の影響も有効に回避可能とすることができる。それゆえ、本発明は、蛍光体を製造または加工する各種素材産業だけでなく、照明装置や表示装置を製造する電気・電子機器産業や、これら装置に用いられる各種部品を製造する電気・電子部品産業にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施例1および比較例1の蛍光体を低電圧の電子線で励起した場合の発光スペクトルを示す図である。
【図2】(a+b+z+m)/nを変化させた蛍光体を低電圧の電子線で励起した場合の発光スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成式(1)
aSrO・bBaO・zEuO・mMgO・nSiO ・・・(1)
で表されるEu付活蛍光体であって、
a、b、z、mおよびnは0より大きく、
(a+b+z+m)/nは2.0以上3未満であって、
z/(a+b+m+z)が0.001より大きく0.2以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
さらに、
0.5≦a/m≦1.5、
0.5≦b/m≦1.5、および
(a/b)>0.9を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
さらに、
0.8≦a/m≦1.2、
0.8≦b/m≦1.2、
(a/b)>0.9、および、
1.1≦n/m≦1.5を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
上記蛍光体が焼成体であるとともに、
焼成前の蛍光体の前駆体は、上記組成式(1)中のIIA族元素の少なくとも一つをシュウ酸塩として含有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項5】
さらに、上記前駆体は、SiおよびEuの少なくとも一方を酸化物として含有していることを特徴とする請求項4に記載の蛍光体。
【請求項6】
上記焼成体としての蛍光体は、大気中または還元雰囲気中で前駆体を焼成することにより得られるものであることを特徴とする請求項4または5に記載の蛍光体。
【請求項7】
紫外線励起蛍光体または電子線励起蛍光体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の蛍光体を用いた自発光型の表示装置。
【請求項9】
電子線励起型の表示装置であることを特徴とする請求項8に記載の表示装置。
【請求項10】
発光元素を還元により作製する蛍光体を製造する方法であって、
当該蛍光体を構成する元素を含有する複数の原料化合物を混合してから焼成するとともに、
上記原料化合物のうち、少なくとも一つの化合物として、シュウ酸塩を用いることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項11】
上記蛍光体は、ケイ酸塩、リン酸塩、または、アルミン酸塩を母体材料とする蛍光体であることを特徴とする請求項10に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
上記発光元素は、Eu、Ce、Sm、La、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Ti、Sn、および、Biからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項10または11に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項13】
以下の組成式(2)
aMO・bLO・cMO・dM ・・・(2)
(式中、MはSr、Ba、およびCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、MはMgおよびZnから選択される少なくとも1種の元素であり、LはEu、Ce、Sm、La、Pr、Nd、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Ti、Sn、および、Biからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、MはSi、Al、Ti、GeおよびGaから選択される少なくとも1種の元素であり、aは1以上5以下であり、bは0.001以上1以下であり、cは1以上3以下であり、dは1以上5以下である。)
により表される蛍光体の製造方法であって、
上記組成式(2)中の元素を含有する複数の原料化合物を、上記組成式に対応する相対比となるように混合してから焼成するとともに、
上記原料化合物のうち、MおよびMの少なくとも一方を含有する化合物として、シュウ酸塩を用いることを特徴とする請求項10に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項14】
上記焼成を大気中または還元雰囲気中で行うことを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項15】
さらに、上記原料化合物のうち、MおよびLの少なくとも1種類の元素を含有する化合物として、酸化物を用いることを特徴とする請求項13または14に記載の蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−321011(P2007−321011A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150576(P2006−150576)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】