説明

蛍光体ペースト及びそれを用いたプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【課題】塗布性が良好で、不灯のない、表示特性の良好なプラズマディスプレイを得ることができる蛍光体ペーストを提供する。
【解決手段】分子量160000以上の樹脂の比率が10.00重量%以上、分子量500000以上の樹脂の比率が0.50重量%以上、重量平均分子量が50000〜80000であるバインダー樹脂、蛍光体粉末および有機溶媒を含む蛍光体ペースト及びそれを用いるプラズマディスプレイパネルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテレビやディスプレイに用いられる蛍光体ペーストおよびそれを用いたプラズマディスプレイパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下PDPと称する)は、液晶パネルに比べて高速の表示が可能であり、また大型化が容易であることからOA機器および広報表示装置などの分野に浸透している。さらに、高品位テレビジョンの分野などでの進展が非常に期待されている。このような用途拡大に伴って、微細で多数の表示セルを有するカラーPDPが注目されている。
【0003】
PDPは前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内で電極間にプラズマ放電を生じさせ、上記放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線により放電空間内の蛍光体層を発光させることにより表示を行うものである。
【0004】
この蛍光体層の形成方法としては、蛍光体粉末、バインダー樹脂及び有機溶媒から構成される蛍光体ペーストを用いたスクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法、感光性有機成分を含む感光性蛍光体ペーストを用いたフォトフィルム法やフォトペースト法などが知られている。その中でも、ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法はペーストの吐出圧力、塗布速度、ディスペンサーの孔径を変えることで、セルに充填する蛍光体ペーストの量を精度良く制御でき、高精細パターンにも対応できる為好ましい。また、スクリーン印刷法のように版に付着する事によるペーストロスも無く、コストパフォーマンスも良い為好ましい。
【0005】
これまで、ディスペンサーによる塗布抜けや塗布ムラ等の塗布不良を解決する方法として、例えば特許文献1記載の蛍光体ペースト中の蛍光体粉末、バインダー樹脂、有機溶媒及び分散剤の配合比を適正化することにより塗布性を改善する方法が知られていた。
【0006】
しかし、特許文献1記載の技術では、当時対象として考えていた精細セルでは十分であったが、更なる高精細化に伴い隔壁のピッチが狭くなると、それに伴いディスペンサーの孔径を小さくする必要性が生じた。しかしながら、ディスペンサーの孔径を小さくすると、ディスペンサーから吐出する際に生じる蛍光体ペーストのバラス効果が大きくなるため、ディスペンサーから吐出する際に蛍光体ペーストが膨張し、隔壁間のスペースに収まらずに隔壁頂部にも塗布されてしまい、前面板に張り合わせる際に隔壁にクラックを生じ、飛散した蛍光体粉末が前面板に付着する事によって不灯セルが発生するという問題を起こす。また、バラス効果を抑える為にディスペンサーでの塗布圧力を下げると、ディスペンサーが吐出する際の蛍光体ペーストの形状(柱状)が安定せず、井桁型セル内の補助隔壁に蛍光体ペーストが衝突する際に液切れを起こし、所望のペースト量が入らないセルが発生するという問題を生じるようになった。
【0007】
バラス効果とは、高分子溶液や、高分子融液を細い孔から押し出す時に分子鎖が完全に緩和せず、弾性変形として剪断エネルギーが一部蓄えられ、孔から出た途端に緩和されることによって、液体が膨張する現象の事である。
【特許文献1】特開2003−96443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、塗布性が良好で、不灯のない、表示特性の良好なプラズマディスプレイを得ることができる蛍光体ペーストを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の目的はかかる蛍光体ペーストを用いた、高品質なプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明はバインダー樹脂、蛍光体粉末及び有機溶媒を含む蛍光体ペーストにおいて、該バインダー樹脂のゲル浸透クロマトグラフ分析によって得られる重量基準の分子量分布曲線から求められる特性値が下記(A)〜(C)の全てを満たすことを特徴とする蛍光体ペーストである。
(A)分子量160000以上の樹脂の比率が10.00重量%以上
(B)分子量500000以上の樹脂の比率が0.50重量%以上
(C)重量平均分子量が50000〜90000
前記バインダー樹脂はセルロース系樹脂である事が好ましい。
【0011】
また本発明は少なくとも電極及び隔壁が形成された基板上に、ディスペンサーを用いて上記蛍光体ペーストを塗布して乾燥後焼成する工程を含むプラズマディスプレイパネルの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、蛍光体ペーストのディスペンサーによる塗布性が良好となり、混色のない、均一な表示が可能な高品質のプラズマディスプレイパネルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の蛍光体ペーストに含まれるバインダー樹脂の具体的な例としては、アクリル樹脂などの有機溶媒に可溶な樹脂であってもよいが、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース等のセルロース化合物を主成分として含むことが好ましい。セルロース化合物は、焼成後のバインダー残りが少ない蛍光体層を形成できるため、好ましく用いることができる。
【0014】
本発明におけるバインダー樹脂は、重量平均分子量が50000〜90000である事が必要である。重量平均分子量が90000より大きくなると、それを用いた蛍光体ペーストのチキソ性が大きくなり、孔径の小さなディスペンサーを用いて塗布を行う際に、蛍光体ペーストのバラス効果が大きくなり、吐出後の蛍光体ペーストが膨張し、隔壁頂部に乗り、封着時のパネル割れや隔壁にクラックを生じパネルの不灯を起こす原因となる問題が生じる。
【0015】
また、重量平均分子量が50000より小さいと、蛍光体ペーストの粘度が低くなってしまい、ディスペンサーを用いて塗布を行った場合に液切れが発生しやすくなるという問題を生じる。
【0016】
また、従来の、一般的な分子量分布を有するバインダー樹脂では、重量平均分子量が50000〜90000の場合、分子量160000以上の樹脂の比率は10.00重量%未満、分子量500000以上の樹脂の比率は0.50重量%未満である。重量平均分子量が50000〜90000であっても、分子量160000以上の樹脂の比率が10.00重量%以上かつ分子量500000以上の樹脂の比率が0.50%以上でないと、蛍光体ペーストの粘度が低くなってしまうため、ディスペンサーを用いて塗布を行うと液切れを起こし、所望のペースト量が入らないセルが発生するようになる。このような液切れは、井桁形状のセルを有するプラズマディスプレイにおいて、各セル間の横隔壁に蛍光体ペーストが衝突する際に特に発生しやすい。
【0017】
本発明において、重量基準の分子量分布曲線とは、ゲル浸透クロマトグラフ測定により、単分散ポリスチレン標準物質を用いて作成した検量線を基に推定した分子量分布曲線である。上述の(A)〜(C)の全てを満たすバインダー樹脂を得る方法としては大きく2つの方法があり、それを以下に示すがそれに限定されるものではない。第1の方法としては、単独で上記分子量分布を持つバインダーを用いる方法である。また、第2の方法として、異なる分子量分布を持つ2つのバインダーを組み合わせる方法である。第2の方法としては、重量平均分子量30000〜70000、分散度2.5〜4.0のバインダーと重量平均分子量80000〜200000、分散度2.5〜4.0のバインダーを9:1〜5:5の重量比で組み合わせることが好ましく、重量平均分子量40000〜58000、分散度2.5〜3.5のバインダーと重量平均分子量62000〜100000、分散度2.5〜3.5のバインダーを9:1〜5:5の重量比で組み合わせることが更に好ましい。なお、本発明において分散度とは、ゲル浸透クロマトグラフ分析法により、ポリスチレン標準物質を用いて作成した検量線を基に推定した重量平均分子量(Mw)から数平均分子量(Mn)を割った値(Mw/Mn)である。バインダー樹脂の好ましい含有率は、蛍光体ペースト中に5〜30重量%、更に好ましくは、5〜15重量%である。
【0018】
本発明の蛍光体ペーストに用いられる蛍光体粉末としては、例えば、赤色では、Y:Eu、YVO:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、YS:Eu、などがあげられる。緑色では、ZnGeO:M、BaAl1219:Mn、ZnSiO:Mn、ZnSiO:Mn,As、YAl12:Ce、GdS:Tb、などがあげられる。青色では、BaMgAl1423:Eu、BaMgAl1627:Eu、BaMgAl1424:Eu、YSiO:Ceなどがあげられる。中でも、組成式Y1−aEuTaO(式中、aは、0.005〜0.1である)で表されるユーロピウム付活タンタル酸イットリウム蛍光体である。赤色蛍光体には、ユーロピウム付活ホウ酸イットリウムガドリニウムが好ましく用いられ、緑色蛍光体には、組成式Y1−bTbTaO(式中、bは、0.001〜0.2である)で表されるテルビウム付活タンタル酸イットリウムが好ましく用いられる。また、青色蛍光体には、Y1−cTmTaO(式中、cは、0.001〜0.2である)で表されるツリウム付活タンタル酸イットリウムが好ましく用いられる。
【0019】
本発明の蛍光体ペーストに含まれる有機溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、テルピネオール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ−ブチルラクトン、ブロモ安息香酸などやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。有機溶媒は、用いるバインダー樹脂に対して良溶媒であることが好ましい。有機溶媒の選定は、有機溶媒の揮発性と使用するバインダー樹脂の溶解性を主に考慮して選定される。有機溶媒に対するバインダー樹脂の溶解性が低いと固形分比が同一でも蛍光体ペーストの粘度が高くなりすぎてしまい、塗布特性が悪化する傾向がある。有機溶媒の含有率は、多すぎると粘度が低くなり、蛍光体粉末の沈降が速くなり、蛍光体ペーストの組成を安定化することが困難となり、且つ、乾燥に多大なエネルギーと時間を要する等の問題を生じる傾向がある。反対に少なすぎると、蛍光体ペーストの粘度が高くなりすぎ蛍光体ペースト中の気泡を抜くことが困難となり塗布不良を生じたり、レベリング不良により塗布面の平滑性が不良となる傾向があるため、有機溶媒の好ましい含有率は、蛍光体ペースト中に20〜60重量%、更に好ましくは、30〜50重量%である。
【0020】
本発明の蛍光体ペーストは分散剤を含むことが好ましい。分散剤としては、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸、脂肪酸アルキロールアミド、ポリオキシレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどを例として挙げることができる。また、脂肪酸ナトリウム石けんなどの脂肪酸石けん、アルキルサフェート、ジオクチルスルコハク酸ナトリウム、エトキシフォスフェートなどは輝度が低下する可能性があるため、使用する際は添加量が0.01〜10重量%、更に好ましくは0.01〜1.00重量%であることが好ましい。
【0021】
蛍光体ペーストとしては、上記の蛍光体粉末とバインダー樹脂および有機溶媒からなり、好ましくは、赤、緑、青いずれか一色に発光する蛍光体粉末20〜60重量%、バインダー樹脂5〜30重量%および有機溶媒20〜60重量%からなることが好ましい。この組成にすることによって、隔壁側面と放電空間底部に均一な厚みの蛍光体層を形成できる。
【0022】
上記の蛍光体粉末とバインダー樹脂および有機溶媒を所望の比率で混合、分散、混練して蛍光体ペーストを作製する。
【0023】
作製した蛍光体ペーストは、チキソトロピー指数(TI値)が1.00〜1.10の範囲であり、かつ、ずり速度1.2[s−1]での粘度が30000〜150000[mPa・s/25℃]の範囲であることが好ましい。本発明において、チキソトロピー指数(TI値)とは、(ずり速度1.2[s−1]での粘度)/(ずり速度4[s−1]での粘度)で求められる値を指す。
【0024】
TI値が1.10を超えると、ディスペンサーを用いる場合、ディスペンサーから吐出された後の塗液が安定しない傾向がある。また、TI値が1.00より小さいと、ペーストの製造が困難になる傾向がある。
【0025】
ずり速度1.2[s−1]での粘度が30000未満になるとディスペンサーによる塗布前に蛍光体ペーストがディスペンサーから染みだし塗布困難になる場合があり、また、粘度が150000より大きいと蛍光体ペーストの取り扱いが困難になる、またはディスペンサーから塗布する際の塗布圧力を上げる必要性が生じ、バラス効果が大きくなってしまう場合がある。
【0026】
本発明において、粘度とは、ブルックフィールド社製のB型粘度計を用いて測定した粘度であり、測定温度は25℃である。
【0027】
本発明の蛍光体ペーストは、基板上に形成された隔壁の開口幅が60〜170μm、高さが80〜130μm、ピッチが80〜200μmである場合に特に有効に用いることができる。
【0028】
蛍光体ペーストを塗布する方法は、例えば、スクリーン印刷法、ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法、感光性ペースト法などが挙げられる。この中で、本発明においてはディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法が好ましい。
【0029】
ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法はペーストの吐出圧力、塗布速度、ディスペンサーの口径を変えることで、セルに充填する蛍光体ペーストの量を精度良く制御でき、高精細パターンにも対応できる為好ましい。また、スクリーン印刷法のように版に付着する事によるペーストロスも無く、コストパフォーマンスも良い為好ましい。
【0030】
本発明の蛍光体ペーストは、ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法において、孔径の小さなディスペンサーを用いる場合もバラス効果により吐出された蛍光体ペーストの柱径が大きくなることを防ぐことができるため、特にディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法に好ましく用いることができる。
【0031】
ペーストの吐出圧力は100〜2000kPaの範囲であることが好ましい。100kPaを下回るとディスペンサーから吐出されたペーストが安定せず、塗布不良を起こしてしまうという問題がある。逆に、2000kPaを超えてしまうとディスペンサーにペーストを供給する供給系などに負荷がかかってしまい、汎用性が低い装置となってしまうという問題が生じやすくなる。塗布速度は吐出圧力とペーストのセルへの充填量から適切に決められる。ディスペンサーの孔径(D)は40μmより大きく、隔壁の開口部よりも小さい範囲であることが好ましい。40μmより小さい場合、加工精度の問題から孔面積にばらつきが生じ、セル毎の充填量のばらつきが生じる可能性がある。逆に、隔壁の開口部を超える場合は、ディスペンサーから吐出されたペーストが隔壁頂部に乗ってしまうという問題を生じる。更に好ましくは40〜120μmである。
孔長(L)は次式を満たしている事が好ましい。
L/D=0.1〜600
L/Dが0.1より小さい場合、吐出孔部分の強度が不十分な事による孔の変形が生じやすく、また、蛍光体ペーストの吐出状態が不安定となったり、100000mPa・s以下の粘度の蛍光体ペーストを用いると吐出孔から自然にペーストが垂れるなどの問題を生じ、制御が困難になる。L/Dが600よりも大きい場合、吐出孔の内径に対して長さが大きくなる事により吐出部の圧力損失が大きくなり、蛍光体ペーストの吐出には圧力を大きくする必要が生じやすくなる。L/Dが600よりも大きい場合は、更にメンテナンス性が悪く、実用性に問題が生じやすい。L/Dの更に好ましい範囲は1〜250である。ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法では、使用するペーストのロスが少ないことと、吐出圧力を変更することによって容易にセルに充填する蛍光体ペーストの量を制御できる、つまりは蛍光体層厚みを制御できるため、本発明においては好ましく用いることができる。
【0032】
ディスペンサーから蛍光体ペーストを吐出する方法により蛍光体ペーストを塗布後、乾燥(例えば180℃で15分)、焼成(例えば500℃で30分)して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成する。
【0033】
このようにして得られた背面板を、前面板と貼り合わせ封着した後、放電用ガスを封入し、駆動回路を接合してプラズマディスプレイを作製する。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例より具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
本発明の実施例および比較例に使用した材料を以下に示す。
赤色蛍光体粉末:(Y,Gd)BO:Eu
緑色蛍光体粉末:ZnSiO:Mn
青色蛍光体粉末:BaMgAl1017:Eu
バインダー樹脂:エチルセルロース
有機溶媒 :テルピネオールとジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの混合溶液
分散剤 :ポリオキシアルキレンアルキルエーテル
まずエチルセルロース10重量%、赤色、緑色、青色のうちいずれかの蛍光体粉末を50重量%、混合有機溶媒を39重量%、及び分散剤を1重量%の比率で混合し、更にセラミックス製の3本ローラーで混練し、蛍光体ペーストを得た。
【0036】
次に、340×260×2.8mmサイズのガラス基板(PD−200;旭硝子(株)製)を使用してAC(交流)型プラズマディスプレイパネルの背面板を形成した。
【0037】
ガラス基板上に、アドレス電極として、感光性銀ペーストを用いてフォトリソグラフィー法により、ピッチ160μm、線幅65μm、焼成後厚み3μmのストライプ状電極を形成した。この部材上に誘電体ペーストをスクリーン印刷法により塗布した後、550℃で焼成して、厚み10μmの誘電体層を形成した。
【0038】
さらに、誘電体上に、段違い井桁構造の隔壁を形成する為に1層目の感光性ペーストを塗布した。感光性ペーストはガラス粉末と感光性成分を含む有機成分から構成され、ガラス粉末としては、酸化リチウム10重量%、酸化珪素25重量%、酸化硼素30重量%、酸化亜鉛15重量%、酸化アルミニウム5重量%、酸化カルシウム15重量%からなる組成のガラスを粉砕した平均粒子径2μmのガラス粉末を用いた。感光性成分を含む有機成分としては、カルボキシル基を含有するアクリルポリマー30重量%、トリメチロールプロパントリアクリレート30重量%、光重合開始剤である“イルガキュア369”(チバガイギー社製)10重量%、γ−ブチロラクトン30重量%からなるものを用いた。
【0039】
感光性ペーストは、これらのガラス粉末と感光性成分を含む有機成分をそれぞれ70:30の重量比率で混合した後に、ロールミルで混練して作製した。次にこの感光性ペーストをダイコーターで乾燥後厚み90μmになるように塗布した。乾燥は、クリーンオーブン(ヤマト科学社製)で行った。乾燥後、ピッチ480μm、線幅30μmのストライプパターンを有するフォトマスクを用いて、アドレス電極と垂直方向に露光した。
【0040】
露光後、上記感光性ペーストをさらに塗布、乾燥し、90μmの塗布膜を得た。
【0041】
次に、ピッチ160μm、線幅30μmのストライプパターンを有するフォトマスクを用いて、アドレス電極と平行方向に露光した。
【0042】
露光後、0.5重量%のエタノールアミン水溶液中で現像し、さらに、560℃で15分間焼成することにより、ピッチ160μm、線幅30μm、高さ130μmの隔壁とピッチ480μm、線幅30μm、高さ65μmの補助隔壁からなる段違い井桁構造の隔壁を形成した。
【0043】
このようにして形成された隔壁にピッチ480μm、孔径80μm、孔長300μmのディスペンサーを用いて蛍光体ペーストを塗布、180℃で15分乾燥させた後、焼成(500℃、30分)して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成し、蛍光体層の隔壁頂部への乗り上げの有無及びセル内の蛍光体層の塗布抜けの有無を確認した。蛍光体層が隔壁頂部に乗り上げている部分があると、前面板と張り合わせてPDPを製造する際に隔壁にクラックを生じ、飛散した蛍光体粉末が前面板に付着する事によって不灯セルが発生するという問題を起こす。また、セル内の蛍光体層の塗布抜けが存在すると、そのセルは不灯セルとなり表示欠点となる。
(分子量分布曲線および特性値の測定方法)
重量基準の分子量分布曲線は、ゲル浸透クロマトグラフ測定により、単分散ポリスチレン標準物質を用いて作成した検量線を基に推定した分子量分布曲線を用いた。検出器として示差屈折率検出器RI(8020型,感度32)(東ソー製)、カラムとしてTSKgel GMHXL(2本),G2500HXL(1本)(S/N D0002、K0089,K0044,φ7.8mm×30cm,理論段数20000/3本,東ソー製)、溶媒としてテトラハイドロフランを用いた。条件は流速1.0mL/min、温度23℃±2℃、注入量0.200mLで行った。また、このようにして得られた分子量分布曲線の面積から、分子量160000以上の樹脂の比率および分子量500000以上の樹脂の比率を求めた。
(粘度の測定方法)
ブルックフィールド社製のB型粘度計(DV−II+Pro)を用いて測定した。スピンドルにはSC4−14を用いた。測定温度は25℃である。
(実施例1)重量平均分子量66900、分散度2.79のエチルセルロースと、重量平均分子量190000、分散度3.47のエチルセルロースを9:1の比率で混合したものをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上の樹脂の比率は13.00重量%、分子量500000以上の樹脂の比率が0.75重量%であった。重量平均分子量は79000であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は83000[mPa・s/25℃]、TI値は1.04であった。
【0044】
このペーストを用いてディスペンサー塗布を行い乾燥、焼成を行った結果、隔壁頂部付着、セル内の抜けもなく塗布性は良好で、蛍光体層の隔壁頂部への乗り上げも無く、蛍光体層の塗布抜けも生じていなかった。
(実施例2)重量平均分子量46300、分散度3.07のエチルセルロースと、重量平均分子量が90000、分散度2.87のエチルセルロースを5:5の比率で混合したものをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上の樹脂比率は10.30重量%、分子量500000以上が0.51重量%であった。重量平均分子量は63000であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は71000[mPa・s/25℃]、TI値は1.07であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行い乾燥、焼成を行った結果、蛍光体層の隔壁頂部への乗り上げも無く、蛍光体層の塗布抜けも生じていなかった。
(実施例3)重量平均分子量56000、分散度3.20のエチルセルロースと、重量平均分子量95000、分散度2.85のエチルセルロースを8:2の比率で混合したものをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上が11.05重量%、分子量500000以上が0.63重量%、重量平均分子量が68300であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。そのペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は73000[mPa・s/25℃]、TI値は1.04であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行い乾燥、焼成を行った結果、蛍光体層の隔壁頂部への乗り上げも無く、蛍光体層の塗布抜けも生じていなかった。
(実施例4)重量平均分子量46300、分散度3.07のエチルセルロースと、重量平均分子量190000、分散度3.47のエチルセルロースを7:3の比率で混合したものをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上が20.20重量%、分子量500000以上が2.63重量%、重量平均分子量が90000であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は100000[mPa・s/25℃]、TI値は1.06であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行い乾燥、焼成を行った結果、蛍光体層の隔壁頂部への乗り上げも無く、蛍光体層の塗布抜けも生じていなかった。
(実施例5)重量平均分子量66900、分散度2.79のエチルセルロースと、重量平均分子量95000、分散度2.84のエチルセルロースを8:2の比率で混合したものをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上が13.22重量%、分子量500000以上が1.13重量%、重量平均分子量が73000であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は86000[mPa・s/25℃]、TI値は1.06であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行い乾燥、焼成を行った結果、蛍光体層の隔壁頂部への乗り上げも無く、蛍光体層の塗布抜けも生じていなかった。
(比較例1)重量平均分子量140000、分散度2.85のエチルセルロースをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上の樹脂比率は18.01重量%、分子量500000以上が2.35重量%であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は85000[mPa・s/25℃]、TI値は1.13であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行った。しかし、このバインダー樹脂は分子量が大きく、低分子量領域の重量が少ない為、ポリマー分子量起因によりチキソ性が大きくなり、ディスペンサーから吐出する際にバラス効果によりペーストが膨張し、隔壁頂部に蛍光体層が乗り上げていた。
(比較例2)重量平均分子量56000、分散度2.78のエチルセルロースをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上の樹脂比率は8.00重量%、分子量500000以上が0.15重量%であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は53000[mPa・s/25℃]、TI値は1.11であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行った。しかし、このバインダー樹脂は重量平均分子量が所望の範囲だが高分子領域のポリマー重量が少ない為柱状が安定せず、その結果、隔壁頂部付着は無かったが、所望のペースト量が入らないセルを生じ、また、蛍光体層の塗布抜けも発生していた。
(比較例3)重量平均分子量38000、分散度4.40のエチルセルロースと、重量平均分子量800000、分散度3.70のエチルセルロースを9:1の比率で混合したものをバインダー樹脂として用いた。このバインダー樹脂についてゲル浸透クロマトグラフ分析を行ったところ分子量160000以上が10.21重量%、分子量500000以上が1.40重量%、重量平均分子量が115000であった。このバインダー樹脂を用いてペースト作製を行った。このペーストのずり速度1.2[s−1]での粘度は110000[mPa・s/25℃]、TI値は1.18であった。このペーストを用いてディスペンサー塗布を行った結果、ポリマー分子量が高くチキソ性が大きい為、ディスペンサーから吐出する際にバラス効果でペーストが膨張し隔壁頂部に蛍光体層が乗り上げていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、蛍光体粉末及び有機溶媒を含む蛍光体ペーストにおいて、該バインダー樹脂のゲル浸透クロマトグラフ分析によって得られる重量基準の分子量分布曲線から求められる特性値が下記(A)〜(C)の全てを満たすことを特徴とする蛍光体ペースト。
(A)分子量160000以上の樹脂の比率が10.00重量%以上
(B)分子量500000以上の樹脂の比率が0.50重量%以上
(C)重量平均分子量が50000〜90000
【請求項2】
前記バインダー樹脂がセルロース系樹脂である事を特徴とする請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項3】
少なくとも電極及び隔壁が形成された基板上に、ディスペンサーを用いて請求項1もしくは2のいずれかに記載の蛍光体ペーストを塗布、乾燥後焼成する工程を含むプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【公開番号】特開2009−167241(P2009−167241A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4054(P2008−4054)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】