説明

蛍光体層を有する積層体、発光装置及び青色発光蛍光体

【課題】青色発光蛍光体を含む蛍光体層を有する積層体において、蛍光体層形成時の加熱によるSMS青色発光蛍光体の発光強度の低下を抑えることにより、積層体の発光強度を向上させる。
【解決手段】青色発光蛍光体が、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.02〜0.20の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光蛍光体を含む蛍光体層を有する積層体に関する。本発明はまた、上記積層体と、該積層体の蛍光体層中の蛍光体を励起させるための励起光を発する励起光源とを備えた発光装置にも関する。本発明はさらに、上記蛍光体層の原料として有利に用いることができる青色発光蛍光体にも関する。
【背景技術】
【0002】
真空紫外光や紫外光などの光を蛍光体に照射して、蛍光体を励起させて可視光を発光させる発光装置としては、交流型プラズマディスプレイパネル(AC型PDP)、冷陰極蛍光ランプ(CCFL)及び白色発光ダイオード(白色LED)が知られている。これら発光装置の青色発光源として、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相(メルウィナイト結晶相)を主成分とする青色発光蛍光体(以下、SMS青色発光蛍光体とも言う)が知られている。
【0003】
AC型PDPやCCFLにおいて、蛍光体は基体の上に層状に形成された蛍光体層の状態で利用される。この蛍光体層は、一般に、基体の上に蛍光体が分散された蛍光体分散液を基体の上に塗布し、得られた塗布層を乾燥した後、加熱することにより形成される。通常は、蛍光体分散液には有機バインダーが添加されていて、有機バインダーを揮発もしくは分解除去するために、塗布層の加熱は大気雰囲気下にて行なわれる。このようにして形成される蛍光体層では、蛍光体層形成時の加熱によって蛍光体の発光強度が低下しないように、蛍光体には優れた耐熱性が要求される。
【0004】
特許文献1には、結晶格子歪みが0.055%以下のSMS青色発光蛍光体が記載されている。この特許文献1によれば、結晶格子歪みが0.055%以下と小さいSMS青色発光蛍光体は、高い発光強度と耐熱性とを有することから、水銀放電灯やプラズマディスプレイパネルなどの各種蛍光発光装置の青色発光源として有利に利用することができるとされている。
【0005】
一方、白色LEDでは、蛍光体は、ガラスなどの透明マトリクス中に分散させた状態で利用される。
【0006】
特許文献2には、LEDランプに用いられる、透明マトリクス中に赤色発光蛍光体、青色発光蛍光体及び緑色発光蛍光体を分散した波長変換器において、青色発光蛍光体に、主結晶としてEuを含むM13MgSi28型結晶(M1はSr、またはSrとBa、あるいはSrとCa)を、第2結晶としてM12MgSi27型結晶を含有し、前記主結晶の2θ=31.5°〜33°で検出されるピークのX線回折強度をAとし、前記第2結晶の2θ=28°〜30.5°で検出されるピークのX線回折強度をBとしたとき、0.002≦B/(A+B)≦0.052を満足する蛍光体を用いることが記載されている。この特許文献2によれば、B/(A+B)が上記の範囲にある青色発光蛍光体は、高い発光強度を示すとされている。なお、この特許文献2には、青色発光蛍光体の耐熱性に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−209206号公報
【特許文献2】特開2010−6850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、発光強度が高い、SMS青色発光蛍光体を含む蛍光体層を有する積層体、及び該積層体を備えた発光装置を提供することにある。すなわち、本発明の目的は、積層体の蛍光体層形成時の加熱によるSMS青色発光蛍光体の発光強度の低下を抑えることにより、積層体の発光強度を向上させることにある。本発明の目的はまた、優れた耐熱性を有する、すなわち大気雰囲気下での加熱による発光強度の低下が起こりにくいSMS青色発光蛍光体を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、SMS青色発光蛍光体にSr2MgSi27結晶相(オケルマナイト結晶相)を、CuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.02〜0.20の範囲、特に0.06〜0.20の範囲となるように少量含有させることにより、SMS青色発光蛍光体の耐熱性が向上することを見出した。そして、このSr2MgSi27結晶相を少量含有するSMS青色発光蛍光体が分散されている分散液の塗布層を基体の上に形成して乾燥した後、加熱することによって、SMS青色発光蛍光体を含む蛍光体層を有する積層体を製造できることを確認して、本発明を完成させた。
【0010】
従って、本発明は、青色発光蛍光体を含む蛍光体層形成材料もしくは青色発光蛍光体と青色以外の発光を示す蛍光体とを含む蛍光体層形成材料が分散されている分散液の塗布層を基体の上に形成し、次いで該塗布層を乾燥した後、300〜600℃の温度で加熱することによって製造された、基体と該基体の上に積層された蛍光体層とからなる積層体であって、該青色発光蛍光体が、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.02〜0.20の範囲にある積層体にある。
【0011】
本発明はまた、青色発光蛍光体を含む蛍光体層形成材料もしくは青色発光蛍光体と青色以外の発光を示す蛍光体とを含む蛍光体層形成材料が分散されている分散液の塗布層を基体の上に形成し、次いで該塗布層を乾燥した後、300〜600℃の温度で加熱することによって製造された、基体と該基体の上に積層された蛍光体層とからなる積層体、そして該蛍光体層に含まれる蛍光体を励起させるための励起光を発する励起光源とを備えた発光装置であって、上記青色発光蛍光体が、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.02〜0.20の範囲にある発光装置にもある。
【0012】
本発明はさらに、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.06〜0.20の範囲にある青色発光蛍光体にもある。
【発明の効果】
【0013】
Sr2MgSi27結晶相を本発明の範囲で含有するSMS青色発光蛍光体は、後述の実施例のデータから明らかなように優れた耐熱性を有する。従って、そのSMS青色発光蛍光体が分散された分散液の塗布層を加熱することにより形成された蛍光体層を有する積層体及び該積層体を備える発光装置は高い発光強度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う、交流型プラズマディスプレイパネルの一例の斜視図である。
【図2】本発明に従う、冷陰極蛍光ランプの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いるSMS青色発光蛍光体は、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、少量のSr2MgSi27結晶相を副成分として含む。
【0016】
SMS青色発光蛍光体は、CuKα線を用いたX線回折により得られる、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が、0.02〜0.20の範囲、好ましくは0.06〜0.20の範囲、特に好ましくは0.06〜0.15の範囲にある。このB/(A+B)の値は、SMS青色発光蛍光体に含まれるSr2MgSi27結晶相の量を指標する。なお、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相の回折強度A及びSr2MgSi27結晶相の回折強度Bの定義は、前記特許文献2(特開2010−6850号公報)と同じである。すなわち、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相の回折強度Aは、CuKα線を用いたX線回折により得られる2θで約32.7°付近で検出されるピークの回折強度であり、Sr2MgSi27結晶相の回折強度Bは、2θで約30.3°付近で検出されるピークの回折強度である。
【0017】
SMS青色発光蛍光体のEu含有量は、蛍光体のMg含有量を1モルとしたときに、0.001〜0.20モルの範囲となる量であることが好ましい。
【0018】
SMS青色発光蛍光体の結晶格子歪みについては特に制限はないが、一般には0.06〜0.10%の範囲である。なお、結晶格子歪みは、Le Bail法により測定した値である。Le Bail法により、SMS青色発光蛍光体の結晶格子歪みを測定する方法は、前記特許文献1(特開2010−209206号公報)に記載がある。
【0019】
SMS青色発光蛍光体は、例えば、Sr源粉末、Mg源粉末、Si源粉末及びEu源粉末を、SMS青色発光蛍光体を生成する割合にて混合し、得られた原料粉末混合物を還元雰囲気下にて焼成することによって製造することができる。Sr源粉末、Mg源粉末、Si源粉末及びEu源粉末の混合割合は、一般に、粉末混合物中のSrとEuとの合計量を3モルとしたときにMgが0.9〜1.1モルの範囲、Siが1.9〜2.1モルの範囲となる割合である。
【0020】
Sr源粉末には、炭酸ストロンチウム粉末と塩化ストロンチウム粉末とを混合して用いることが好ましい。炭酸ストロンチウム粉末と塩化ストロンチウム粉末の配合量はモル比(SrCO3:SrCl2)で、1:0.020〜1:0.13の範囲が好ましく、1:0.030〜1:0.13の範囲が特に好ましい。塩化ストロンチウム粉末の配合量が上記の範囲よりも少ないと、SMS青色発光蛍光体中のSr2MgSi27結晶相の含有量が少なくなり過ぎる傾向があり、塩化ストロンチウム粉末の配合量が上記の範囲よりも多いと、Sr2MgSi27結晶相の含有量が多くなり過ぎる傾向がある。但し、Sr2MgSi27結晶相の含有量は、原料粉末混合物を還元雰囲気下にて焼成する際の容器のサイズや焼成温度などの条件によっても変動する。
【0021】
Mg源粉末には、酸化マグネシウム粉末を用いることが好ましい。Si源粉末及びEu源粉末は酸化物粉末であってもよいし、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩(塩基性炭酸塩を含む)、硝酸塩、シュウ酸塩などの加熱により酸化物を生成する化合物の粉末であってもよい。原料粉末はそれぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。各原料粉末は、純度が99質量%以上であることが好ましい。
【0022】
原料粉末の混合は、湿式混合法により行なうことが好ましい。湿式混合法で原料粉末を混合する際に用いる混合装置の例としては、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ペイントシェーカー、ロッキングミル、ロッキングミキサー、ビーズミル及び撹拌機を挙げることができる。湿式混合法で用いる溶媒の例としては、水や、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの低級アルコールを挙げることができる。
【0023】
湿式混合法により混合した原料粉末混合物は噴霧乾燥により粒状に成形した後、焼成することが好ましい。原料粉末混合物の還元雰囲気下の焼成は、0.5〜5.0体積%の水素と99.5〜95.0体積%の不活性気体とを含む還元性気体の雰囲気下にて行なうことが好ましい。不活性気体の例としては、アルゴン及び窒素を挙げることができる。焼成温度は、一般に900〜1300℃の範囲である。焼成時間は、一般に0.5〜100時間の範囲である。還元性雰囲気下にて焼成する前に、粉末混合物を大気雰囲気下にて600〜850℃の温度で0.5〜100時間仮焼してもよい。
【0024】
以上のようにして得られたSMS青色発光蛍光体は、必要に応じて分級処理、塩酸や硝酸などの鉱酸による酸洗浄処理、ベーキング処理を行なってもよい。
【0025】
本発明の蛍光体層を有する積層体は、青色発光蛍光体を含む蛍光体層形成材料もしくは青色発光蛍光体と青色以外の発光を示す蛍光体とを含む蛍光体層形成材料が分散されている分散液の塗布層を基体の上に形成し、次いで該塗布層を乾燥した後、300〜600℃の温度で加熱することによって製造される。このようにして製造された積層体では、蛍光体層は通常、蛍光体(粉末)同士が局所的な領域にて結合した状態にある。
【0026】
積層体の例としては、AC型PDPの背面板及びCCFLのガラス管を挙げることができる。AC型PDPの背面板の場合、蛍光体層は青色発光蛍光体を含む蛍光体層形成材料から製造される。CCFLのガラス管の場合、蛍光体層は青色発光蛍光体と青色以外の発光を示す蛍光体とを含む蛍光体層形成材料から製造される。青色以外の発光を示す蛍光体としては、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体を用いることができる。
【0027】
蛍光体分散液の溶媒は、有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒には特に制限なく、アルコール、テルペン、ケトン、エーテル及びエステルを用いることができる。アルコールの例としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの二価アルコール及びグリセリンを挙げることができる。テルペンの例としては、テルピネオールを挙げることができる。ケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン及びN−メチル−2−ピロリドンを挙げることができる。エーテルの例としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル及びトリエチレングリコールモノアルキルエーテルを挙げることができる。エステルの例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート及びプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテートを挙げることができる。
【0028】
蛍光体分散液は、蛍光体同士の密着性や蛍光体の基体との密着性を高くするために、有機バインダーを含有することが好ましい。有機バインダーは、塗布層の加熱時に揮発もしくは分解するものであることが好ましい。バインダーには、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂及びフェノール樹脂などの有機バインダーを用いることができる。セルロース系樹脂の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース及びヒドロキシエチルプロピルセルロースを挙げることができる。
【0029】
基体の上に塗布層を形成する方法としては、ディップ法、スクリーン印刷法、インクジェット法、スプレー法、スピンコータ法、メニスカス法などの方法を利用することができる。塗布層の乾燥及び加熱は、大気雰囲気下にて行なうことが好ましい。
【0030】
本発明の発光装置は、上記のSMS青色発光蛍光体を含む蛍光体層を有する積層体と、蛍光体層中の蛍光体を励起させるための励起光を発する励起光源とを備える。発光装置の例としてはAC型PDP及びCCFLを挙げることができる。
【0031】
図1は、本発明に従うAC型PDPの一例の斜視図である。図1において、プラズマディスプレイパネルは、Xeガスを含む放電ガスが充填された放電空間10を介して、対向配置された前面板20と背面板30とからなる。放電空間10に充填される放電ガスには、通常はXeガスとNeガスとの混合ガスが用いられる。混合ガス中のXeガスの濃度は、Xeガスの放電により分子線発光が生じる濃度であり、一般には10〜30体積%の範囲、好ましくは15〜25体積%の範囲にある。
【0032】
前面板20は、透明ガラス基板21、透明ガラス基板21の背面板側の表面に形成された二つの列電極24a、24bからなる放電電極25、放電電極を被覆する誘電体層26、そして誘電体層の表面に形成された誘電体保護層27からなる。放電電極25を構成する二つの列電極24a、24bは、それぞれ透明電極22とバス電極23とからなる。透明電極22は、一般にITO(インジウムスズ酸化物)膜や酸化スズ膜などの導電性金属酸化物膜からなる。誘電体層26は低融点ガラスからなる。誘電体保護層27は、酸化マグネシウム膜からなる。
【0033】
背面板30は、透明ガラス基板31、透明ガラス基板31の前面板側の表面に形成されたアドレス電極32、アドレス電極32を被覆する誘電体層33、誘電体層33の表面に間隔を開けてストライプ状に形成された隔壁34、隔壁34の間に充填された青色発光蛍光体層35B、緑色発光蛍光体層35G及び赤色発光蛍光体層35Rからなる。アドレス電極32は、一般にアルミニウム、銅及び銀などの単相金属膜、もしくはクロム/銅/クロムなどの積層金属膜からなる。誘電体層33及び隔壁34は低融点ガラスからなる。青色発光蛍光体層35Bは、上記SMS青色発光蛍光体から形成されている。
【0034】
図1のAC型PDPにおいて、前面板20の放電電極25に電圧を印加すると、放電空間10内のXeガスが放電して波長146nmと波長172nmの真空紫外光が生成する。この真空紫外光を励起光として、背面板30に備えられている青色発光蛍光体層35B、緑色発光蛍光体層35G及び赤色発光蛍光体層35Rに照射することにより、それらの蛍光体層中の蛍光体が励起されて、青色、緑色、赤色の三原色の可視光が発光し、これらの発光光の組み合わせにより画像を形成する。
【0035】
図2は、本発明に従う、CCFLの一例の断面図である。CCFLは、励起光源が放電下にあるHgガスであり、波長254nmの発光を含む紫外光を励起光とする発光装置である。図2において、CCFLはガラス部材であるガラス管41、ガラス管41の内部空間42に充填された放電ガス、ガラス管41の内壁面に形成された蛍光体層43、ガラス管41の長手方向の両側端部にそれぞれ設けられた一対の電極44a、44b、そして電極44a、44bと外部電源(図示せず)とを電気的に接続するための導電線45a、45bからなる。放電ガスは、一般にHgガスと希ガス(例えば、Arガス)との混合ガスが用いられる。蛍光体層43は、上記SMS青色発光蛍光体以外に、緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体とを含む。
【0036】
図2のCCFLにおいて、電極44a、44bとの間に高電圧を印加すると、内部空間42に充填されたHgガスの放電により波長254nmの紫外光が生成する。この紫外光を励起光として、ガラス管41に備えられた蛍光体層43に照射することにより、蛍光体層43中の各色蛍光体が励起されて、青色、緑色及び赤色の可視光が発光し、これらの発光光の混色により白色光が生成する。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末(純度:99.7質量%、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径:0.9μm)を3150g、塩化ストロンチウム六水和物(SrCl2・6H2O)粉末(純度:99質量%)を250g、酸化ユウロピウム(Eu23)粉末(純度:99.9質量%、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径:2.7μm)を39.6g、酸化マグネシウム(MgO)粉末(気相法により製造したもの、純度:99.98質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.2μm)を302g、二酸化ケイ素(SiO2)粉末(純度:99.9質量%、BET比表面積から換算した粒子径:0.01μm)901gを、それぞれ秤量した。SrCO3:SrCl2・6H2O:Eu23:MgO:SiO2のモル比は2.845:0.125:0.015:1:2.000である。秤量した各粉末を、水中にてボールミルを用いて15時間湿式混合して、粉末混合物のスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して、平均粒子径が40μmの粉末混合物を得た。得られた乾燥粉末をアルミナ坩堝(容量:950cm3)に入れて、大気雰囲気下にて800℃の温度で3時間焼成し、次いで、室温まで放冷した後、2体積%水素−98体積%アルゴンの混合ガス雰囲気下にて1200℃の温度で3時間焼成して、SMS青色発光蛍光体を製造した。
【0038】
得られたSMS青色発光蛍光体について、下記の方法により、Sr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)、大気雰囲気下での加熱処理前と加熱処理後の発光強度、結晶格子歪みを測定した。表1に、その測定結果を示す。
【0039】
[B/(A+B)の測定方法]
下記の条件にてSMS青色発光蛍光体のX線回折パターンを測定し、2θで32.5〜33.0°の範囲(約32.7°付近)にて検出される回折ピークの回折強度をSr3MgSi28結晶相の回折強度Aとし、2θで30.0〜31.0°(約30.3°付近)の範囲にて検出される回折ピークの回折強度をSr2MgSi27結晶相の回折強度Bとして、B/(A+B)を算出した。
【0040】
[X線回折パターンの測定条件]
測定:連続測定
X線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:40mA
発散スリット幅:1/2deg
散乱スリット幅:1/2deg
受光スリット幅:0.30mm
スキャンモード:2deg/分
スキャンステップ:0.02deg
【0041】
[大気雰囲気下での加熱処理前と加熱処理後の発光強度の測定方法]
発光強度は、SMS青色発光蛍光体に波長254nmの紫外光を照射して、発光スペクトルを測定し、得られた発光スペクトルの400〜500nmの波長範囲の中で最大ピーク強度を求め、これを発光強度とした。なお、発光強度は、後述の比較例1で製造したSMS青色発光蛍光体の加熱処理前の発光強度を100とした相対値で示した。
加熱処理は、SMS青色発光蛍光体を大気雰囲気下で540℃の温度で30分間加熱した後、室温まで放冷することによって行なった。
【0042】
[結晶格子歪みの測定方法]
Le Bail法により測定した。
【0043】
[実施例2]
炭酸ストロンチウム粉末の量を3067g、塩化ストロンチウム六水和物の量を400gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、SMS青色発光蛍光体を製造した。SrCO3:SrCl2・6H2O:Eu23:MgO:SiO2のモル比は2.770:0.200:0.015:1:2.000である。表1に、得られたSMS青色発光蛍光体のB/(A+B)、大気雰囲気下での加熱処理前と加熱処理後の発光強度、結晶格子歪みの測定結果を示す。
【0044】
[比較例1]
炭酸ストロンチウム粉末の量を3233g、塩化ストロンチウム六水和物の量を100gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、SMS青色発光蛍光体を製造した。SrCO3:SrCl2・6H2O:Eu23:MgO:SiO2のモル比は2.920:0.050:0.015:1:2.000である。表1に、得られたSMS青色発光蛍光体のB/(A+B)、大気雰囲気下での加熱処理前と加熱処理後の発光強度、結晶格子歪みの測定結果を示す。
【0045】
表1
────────────────────────────────────────
加熱処理前の 加熱処理後の 結晶格子歪み
B/(A+B) 発光強度 発光強度 (%)
────────────────────────────────────────
実施例1 0.079 87 77 0.075
実施例2 0.126 86 77 0.071
────────────────────────────────────────
比較例1 0.001以下 100 65 0.080
────────────────────────────────────────
【0046】
表1の結果から明らかなように、Sr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が本発明の範囲となるように、Sr2MgSi27相を含有するSMS青色発光蛍光体は加熱処理による発光強度の低下が少なく、Sr2MgSi27相を実質的に含まないSMS青色発光蛍光体と比較して、加熱処理前の発光強度は低い値を示すが、加熱処理後の発光強度は高い値を示す。
【0047】
[実施例3]
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート65.5gに、実施例1にて製造したSMS青色発光蛍光体30gと質量平均分子量が約20万のエチルセルロース4.5gとを加え、撹拌して蛍光体分散液を得た。この蛍光体分散液をガラス基板にディップ法により塗布し、塗布層を乾燥した後、540℃の温度で30分間加熱して、SMS青色発光蛍光体層を有する積層体を製造した。この積層体のSMS青色発光蛍光体層に波長254nmの紫外光を照射したことろ、青色光を発光した。
【符号の説明】
【0048】
10 放電空間
20 前面板
21 透明ガラス基板
22 透明電極
23 バス電極
24a、24b 列電極
25 放電電極
26 誘電体層
27 誘電体保護層
30 背面板
31 透明ガラス基板
32 アドレス電極
33 誘電体層
34 隔壁
35B 青色発光蛍光体層
35G 緑色発光蛍光体層
35R 赤色発光蛍光体層
41 ガラス管
42 内部空間
43 蛍光体層
44a、44b 電極
45a、45b 導電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色発光蛍光体を含む蛍光体層形成材料もしくは青色発光蛍光体と青色以外の発光を示す蛍光体とを含む蛍光体層形成材料が分散されている分散液の塗布層を基体の上に形成し、次いで該塗布層を乾燥した後、300〜600℃の温度で加熱することによって製造された、基体と該基体の上に積層された蛍光体層とからなる積層体であって、該青色発光蛍光体が、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.02〜0.20の範囲にある積層体。
【請求項2】
比B/(A+B)が0.06〜0.20の範囲にある請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
青色発光蛍光体を含む蛍光体層形成材料もしくは青色発光蛍光体と青色以外の発光を示す蛍光体とを含む蛍光体層形成材料が分散されている分散液の塗布層を基体の上に形成し、次いで該塗布層を乾燥した後、300〜600℃の温度で加熱することによって製造された、基体と該基体の上に積層された蛍光体層とからなる積層体、そして該蛍光体層に含まれる蛍光体を励起させるための励起光を発する励起光源とを備えた発光装置であって、上記青色発光蛍光体が、Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.02〜0.20の範囲にある発光装置。
【請求項4】
比B/(A+B)が0.06〜0.20の範囲にある請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
交流型プラズマディスプレイパネルもしくは冷陰極蛍光ランプである請求項3に記載の発光装置。
【請求項6】
Euで付活されたSr3MgSi28結晶相を主成分とし、かつSr2MgSi27結晶相を副成分として含み、そしてCuKα線を用いたX線回折により得られるSr3MgSi28結晶相の回折強度をAとし、Sr2MgSi27結晶相の回折強度をBとしたときの比B/(A+B)が0.06〜0.20の範囲にある青色発光蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−158692(P2012−158692A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19783(P2011−19783)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】