説明

蛍光性錯体及び照明装置

【課題】 高光度及び長寿命を有する蛍光性錯体及び照明装置を提供すること。
【解決手段】 発光素子と、この発光素子の発光面側に配置され、βジケトンを配位子として有する蛍光性錯体を含む蛍光層とを備え、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、光学中心を有する置換基で置換されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光度及び長寿命を有する蛍光性錯体及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光素子、例えばLED素子の光度向上、寿命向上は著しく、照明用途を中心に幅広い市場展開が進行中である。
【0003】
現在主流である、無機蛍光体を用いるLED素子は、その発光効率が飛躍的に向上しつつあり、特に白色LEDは、将来、蛍光灯の発光効率を凌駕すると言われる状況にある。しかしながら、LEDを照明装置に用いる場合、発光効率のみならず、演色性にも優れていることを必要とする用途も多く、無機蛍光体のみを用いるLEDでは、これらの特性をすべて満たすことができないのが現状である。
【0004】
LEDに有機蛍光体を用いることは、すでに公知である(例えば特許文献1参照)。しかし、発光体として有機蛍光体を用いるLEDは、以下の問題から、未だ照明用途として実用化されていない。
【0005】
1)特に、現在主流となりつつある近紫外LEDを光源とし、R,G,Bの発光体を用いるLEDに有機蛍光体を用いる場合、有機化合物は一般に紫外線に弱いため、紫外線による有機化合物の劣化が顕著である。特に、近紫外領域にn-π*遷移に基づく吸収がある場合、劣化が早い。
【0006】
2)有機蛍光体は、濃度によってその蛍光スペクトルが変化することがあり、スペクトルの制御が困難である。また、蛍光強度にも濃度依存性があり、高濃度領域では濃度消光が生じてしまう。
【0007】
3)有機蛍光体を分散させるポリマーマトリクスの種類によって、蛍光スペクトルが変化してしまう。
【0008】
一方、希土類錯体からなる蛍光体は、通常の有機蛍光体と比較して、以下の利点を有している。
【0009】
1)発光波長は希土類特有のものであり、色素濃度、分散するポリマーマトリクスの種類の影響を受けず、蛍光スペクトルが安定している。
【0010】
2)希土類錯体の配位子は有機化合物であるが、配位子が光を吸収して励起状態になると、中心元素に対するエネルギー移動によって基底状態に戻るため、励起状態から不可逆的な化学変化を起す機会が減少する。よって紫外線に対する耐久性を期待することが出来る。
【0011】
しかしながら、希土類蛍光性錯体は、一般照明用途に使用するためには、更に長寿命化及び高光度が要求される。
【0012】
希土類蛍光性錯体の耐久性に大きく影響する特性として、配位子自身の光化学反応に対する安定性を挙げることが出来る。LEDにより光が照射される蛍光体は、高熱及び強力な光にさらされるため、ラジカル的な(酸化)劣化が進行し易い。配位子が化学変化を起こすと、配位能が低下して配位子がはずれることにより、蛍光強度が劣化したり、変化した配位子が失活の原因となる場合がある。
【0013】
また、希土類蛍光性錯体の高光度を実現するためには、希土類蛍光性錯体のポリマーマトリクスに対する溶解性が大きいことが要求される。溶解性が小さく、蛍光体がポリマーマトリクス中に粒子状で存在する場合、光散乱のため十分な光度を得ることはできない。
【特許文献1】特開2004−262909公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情の下になされ、高光度及び長寿命を有する蛍光性錯体及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に対し、鋭意検討した結果、光学中心を有する置換基を含む特定の配位子を導入した蛍光性錯体を用いた場合に、高光度と高耐久性が実現されることを見出し、本発明を成すに至った。
【0016】
即ち、本発明の一態様は、βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、少なくとも一つの水素原子を含み光学中心を有する置換基で置換されていることを特徴とする蛍光性錯体を提供する。
【0017】
また、本発明の一態様は、発光素子と、この発光素子の発光面側に配置され上記蛍光性錯体を含む蛍光層と、を具備することを特徴とする照明装置を提供する。ここで、発光素子とは、本発明の蛍光性錯体を励起して発光させる波長(紫外線から青色可視光にかけての波長)の光を発光するものであり、例えば、発光ダイオードやレーザーダイオード等の半導体発光素子等が一例として挙げられる。
【0018】
このような蛍光性錯体として、ユーロピウム錯体、テルビウム錯体、イリジウム錯体、及びエルビウム錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが出来る。
【0019】
この場合、蛍光性錯体の配位子は、βジケトンとホスフィンオキシドの組み合わせとすることが出来る。
【0020】
βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、光学中心を有する置換基で置換されている蛍光性錯体としては、下記式(1)により表わされる構造を有するものを用いることが出来る。
【化10】

【0021】
(式中、R〜Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれるものであり、Xは水素原子又は重水素原子、Arは置換体を含むアロマティック部位、Mは中心金属イオンを表す。)
この場合、式(1)において、Rが脂肪族アルキル基であるものとすることが出来る。なお、式(1)において、ホスフィンオキシドは、非対称であること、即ち、R〜Rの組合せとR〜Rの組合せが同一ではないことが望ましい。また、βジケトンは非対称であること、即ち、RとRが同一ではないことが望ましい。
【0022】
また、蛍光性錯体として、下記式(2)により表わされる構造を有するものを用いることが出来る。
【化11】

【0023】
(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Xは水素原子又は重水素原子、Arは置換体を含むアロマティック(芳香族)部位、Mは中心金属イオンを表し、mは1若しくは2、nは1以上の整数である。)ここで、nは2以上の整数であることが好ましく、配位子の自由度を増加させ配位能を向上させることが可能である。
【0024】
この場合、式(2)において、Rが脂肪族アルキル基であるものとすることが出来る。なお、式(2)において、ホスフィンオキシドは、非対称であること、即ち、R及びRの組合せとR及びRの組合せが同一ではないことが望ましい。また、βジケトンは非対称であること、即ち、RとRが同一ではないことが望ましい。
【0025】
更に、蛍光性錯体として、下記式(3)により表わされる構造を有するものを用いることが出来る。
【化12】

【0026】
(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R10は少なくとも1つの水素原子を含む枝分かれ構造を有する炭素数が20以下のアルキル基、Xは水素原子又は重水素原子、Mは中心金属イオンを表す。)
この場合、式(3)において、ホスフィンオキシド骨格は、非対称であること、即ち、R〜Rの組合せとR〜Rの組合せが同一ではないことが望ましい。また、βジケトンは非対称であること、即ち、RとRが同一ではないことが望ましい。
【0027】
更にまた、蛍光性錯体として、下記式(4)により表わされる構造を有するものを用いることが出来る。
【化13】

【0028】
(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Rは少なくとも1つの水素原子を含む枝分かれ構造を有する炭素数が20以下のアルキル基、Xは水素原子又は重水素原子、Mは中心金属イオンを表し、mは1若しくは2、nは1以上の整数である。)ここで、nは2以上の整数であることが好ましく、配位子の自由度を増加させ配位能を向上させることが可能である。
【0029】
この場合、式(4)において、ホスフィンオキシド骨格は、非対称であること、即ち、R及びRの組合せとR及びRの組合せが同一ではないことが望ましい。また、βジケトンは非対称であること、即ち、RとRが同一ではないことが望ましい。
【0030】
以下、上記式(1)〜(4)により表わされる構造の希土類錯体が、光度及び寿命において優れている理由について説明する。
【0031】
上述したように、蛍光性錯体の劣化要因は、光(熱)酸化劣化であり、この劣化はラジカル的に進行するものと考えられる。本発明者らは、下記式(10)〜(13)によりあらわされる構造を有する従来の希土類錯体における、βジケトンの構造と寿命の関係調べた結果、下記の順序であることを見出した。
【0032】
式(10)>>式(11)>式(12)>>式(13)
【化14】

【0033】
【化15】

【0034】
【化16】

【0035】
【化17】

【0036】
ただし、上記順序は、図1に示す構造の照明装置におけるものであり、発光素子の発光中心波長は402nmであり、20mA、3.7V駆動の場合の結果である。
【0037】
上記式(10)、(11)、(12)、及び(13)の光度半減寿命の比較から、寿命とβジケトンの構造の相関が明らかになった。即ち、光化学的劣化反応において、βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれたメチレン部位がラジカル開裂し、そこに酸素が反応して酸化劣化する。ラジカル開裂の起こり易さは、開裂後のラジカル種の安定性に大きく依存する。βジケトンのラジカルの安定性は、二つの置換基に大きく依存する。共役の観点からは、アロマティック置換基が多いほど安定であり、ヘテロ環でさらに安定化される。
【0038】
従って、発生するラジカル種の安定性は、下記の順序である。
【0039】
脂肪族置換基>ベンゼン環>>ヘテロ環(チオフェン環)
以上の希土類錯体の寿命の順序及びラジカル種の安定性の順序は、上記のβジケトンのラジカル反応を強く示唆する結果である。
【0040】
従って希土類錯体の寿命を向上させる手法は、下記の通りである。
【0041】
A)βジケトンのラジカル種を不安定化するために、置換基を脂肪族のみで構成する。
【0042】
B)βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位を他のアルキル基で置換する。
【0043】
しかしながら、A)の手法のみでは、一般照明用途に使用可能な程度のLED素子のような発光素子を用いた照明装置の寿命を実現することは困難であり、B)の手法を用いると、蛍光性錯体のマトリクスに対する溶解性が低下してしまう。溶解性が低下すると、ポリマーマトリクス中で蛍光性錯体の結晶化が起こり、光散乱により光度が低下する。
【0044】
上記の結果から、照明装置の高光度、長寿命を両立するためには、B)のアルキル基置換を行い、かつ樹脂に対する溶解性を保持することが重要であることが分かる。
【0045】
本発明者らは、これらの知見に基づき、鋭意検討を進めた結果、下記式(14)に示すような置換基を導入することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【化18】

【0046】
(式中、R〜Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Xは水素原子又は重水素原子、Arはアロマティック部位、破線は配位結合である。)
上記式(14)の配位子は、βジケトンの活性メチレン部位が置換されていることから、光化学的劣化が進行し難い。また、メチレン部位の水素原子を置換する置換基は光学中心を有する構造であり、非対称性であるので、錯体の結晶化は大きく阻害される。更に、β―ジケトンの両側の置換基が異なる構造の場合、βジケトンは光学中心を少なくとも二つ有することにより、ジアステレオ異性体の混合物となり、錯体の結晶化はさらに大きく阻害される。
【0047】
なお、上記式(14)におけるR及びRは、脂肪族アルキル基など、アロマティック基でないものがより望ましい。また、効果は多少小さくなるが、上記式(14)中のArの代わりに、少なくとも1つの水素を含む枝分かれ構造を有する炭素数が20以下のアルキル基を用いることも可能である。
【0048】
一方、βジケトンには、シス体とトランス体がある。シス体は2つのケトンが同じ向きのため、ユーロピウムイオン等の希土類金属イオンによく配位するが、トランス体は2つのケトンが異なる向きとなるため、ユーロピウムイオン等の希土類金属イオンには配位し難くなる。シス体とトランス体の安定性は、βジケトンに対する置換基の種類と組み合わせに大きく依存する。
【0049】
本発明者は、シス体となってユーロピウムイオン等の希土類金属イオンに安定して配位するβジケトンを調べた。その結果、以下の式(7)、(8)、(9)により表される構造を有する配位子を用いる場合に、βジケトンのシス体の安定性が増し希土類イオンに対する配位能が大きくなり、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることができることがわかった。
【化19】

【0050】
(式中、R11及びR12は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R13及びR14は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体、並びにハロゲン原子、水素原子からなる群から選ばれる。R14は同一又は異なる最大5種類の置換基であり、Xは水素原子又は重水素原子である。また、mは5以下の整数である。)
【化20】

【0051】
(式中、R21及びR22は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R23−R28は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体、並びにハロゲン原子、水素原子からなる群から選ばれる。R28は、同一又は異なる最大4種類の置換基である。また、mは4以下の整数である。)
【化21】

【0052】
(式中、R31及びR32は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R33は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体、並びにハロゲン原子、水素原子からなる群から選ばれる。Adはアダマンチル基又はその置換体である。)
式(7)におけるR14及び式(8)におけるR28は、ベンゼン環に対して、光学中心となる炭素原子が当該ベンゼン環と結合する位置に対してパラの位置に結合することが好ましく、この場合に配位能が特に大きくなり、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることが可能である。
【発明の効果】
【0053】
本発明によると、蛍光性錯体の蛍光強度、寿命の両立が可能となり、光度、寿命に優れた照明装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0055】
本発明の一実施形態に係る照明装置は、図1に示すように、プラスチック製のセル内1に収容された発光素子2上に発光層3を配置した構造を有する。発光層3は、ポリマーマトリクス4中に蛍光体粒子5を分散させたものである。発光素子2としては、例えば紫外線から青色可視光にかけての波長の光を発光するLEDチップを用いることができる。このLEDチップ2は、例えばGaN系半導体材料から構成されるものであり、図示しない一対の電極が設けられている。発光素子2はLEDチップに限られず、例えば同様の波長の光を発光するレーザーダイオード等の発光装置を用いることができる。
【0056】
蛍光体粒子5は、βジケトンを配位子として有する蛍光性錯体である。
【0057】
本実施形態において、βジケトンからなる配位子は、下記式(15)により表わされる反応式に従って合成することが可能である。
【化22】

【0058】
即ち、テトラヒドロフラン、エーテル、などの溶媒中において、βジケトンAに有機リチウム試薬であるRLi(Rはアルキル基、アロマティック基)を作用させる。溶媒は脱水したものを用いる。例えば、n-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム等が望ましい。副反応を防止し、第一段階のプロトン引き抜き反応を効率良く進行させるため、反応温度は−78℃程度の低温が望ましい。反応の状況を窒素ガスパージ下におけるNMR(核磁気共鳴)測定,TLC等で確認し、−78℃にて反応速度が小さい場合、少しずつ反応温度を上昇させることが望ましい。さらにH引き抜き反応の割合を増加させ、収率を向上させるには、LDA(リチウムジイソプロピルアミド)、TMEDA(N, N, N, N-テトラメチルエチレンジアミン)等の添加剤を加えることがより望ましい。
【0059】
その後、ヨウ化物RI(Rは光学中心を有するアルキル基)を加えると、置換基Rが加わったβジケトンBが得られる。化合物の精製方法は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、PTLC(分取用薄膜クロマトグラフィー)、再結晶法等が望ましく、化合物の構造決定はNMRで行なうことができる。
【0060】
また、J. Am.Chem. Soc., 126, 6884 (2004) に開示されるような、反応溶媒をジクロロメタンとして、塩化金と銀塩(AgOTf(Tfはトリフルオロメタンスルホニル))より調整されるカチオン性金触媒により、β―ジケトンの活性メチレン部位のスチレン誘導体への付加反応を用い、β―ジケトンの活性メチレン部位へ光学中心を有する置換基を導入する方法がある。この反応経路にて高収率にて合成するためには、上述した式(14)において、Rはアリファティック(脂肪族)であることがより望ましい。また、この場合、一般にシス体が優勢となり、ユーロピウムイオン等の希土類金属イオンに対する配位能が大きくなる。
【0061】
なお、R,Rが無置換のフェニル基の場合、トランス体の割合が増加するため、配位能は弱い方向に動く。
【0062】
をパーフルオロアルキル基とする方法も考えられる。これはC−H結合による振動失活を抑制し、より大きい蛍光強度を得ることを目的としたものである。しかしながら、パーフルオロアルキル基を導入したものは、置換基自身の運動性が乏しく、また化合物の疎水性が大幅に大きくなるため、樹脂や溶媒に対する溶解性を低下せしめる結果となる。分岐構造を導入しても溶解度の向上には至らない。
【0063】
本実施形態では、Rはアロマティック部位を有する置換基であるか、又は少なくとも1つの水素原子を含有する枝分かれ構造を有するアルキル基である。これらは運動性に優れた置換基であるため、アロマティック部位又は枝分かれ構造の構築による光学中心の導入により、溶解性、分散性が向上する。
【0064】
ここで、本実施形態におけるユーロピウム錯体の配位子であるβジケトンの安定性について説明する。
【0065】
ユーロピウム錯体の安定性は、配位子の構造に大きく左右される。βジケトンはケトン間のメチレン部位がケトンの影響で活性となり、酸性度が大きくなるのが一般的である。βジケトンが活性になると、光化学的反応によりラジカルが発生し、それに続く酸化反応によって配位子の構造が変化する。その結果、βジケトンはユーロピウムイオンから遊離し、結果として蛍光強度は弱いものとなる。
【0066】
上記メチレン部位の活性度は、βジケトンの置換基の構造に大きく依存する。メチレン部位でHがラジカル開裂した場合に生成するβジケトンから発生するラジカル種の安定性が大きい場合、平衡はラジカル生成側にシフトするため、βジケトンから発生するラジカル種の割合が大きくなり、劣化が促進される。
【0067】
これに対し、βジケトンから発生するラジカル種の安定性が小さい場合、平衡はラジカルの非生成系にシフトするため、βジケトンから発生するラジカル種の割合が小さくなり、劣化反応は抑制される。
【0068】
βジケトンから発生するラジカル種の安定性は、βジケトンの置換基に大きく依存する。置換基がアロマティックである場合、ラジカルの共役範囲が拡大するため、ラジカルは安定化され、アリファティックの場合は逆に不安定となる。
【0069】
これらの知見から、本発明者らは、βジケトンの置換基とユーロピウム錯体の寿命について、下記式(16)に示す相関があることを見出した。
【化23】

【0070】
上記式(16)に示す序列は、以上の議論にほぼ適合する結果である。
【0071】
従って、ユーロピウム錯体を長寿命化するには、活性メチレン部位を持たない配位子を用いるか、反応してもユーロピウムイオンに対する配位能を喪失しない配位子を用いることである。その方法として有効と考えられるのは、メチレン部位のHを置換基で置き換えることである。
【0072】
しかし、本発明者らは、メチレン部位のHを置換基で置き換えた場合に、ユーロピウム錯体のポリマーマトリクスに対する溶解性及び分散性が低下することを見出した。本発明者らは、このような溶解性及び分散性の低下を回避するには、当該置換基に光学中心を導入することにより、分子構造の非対称化を実現することが有効であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0073】
以下、本発明の実施例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0074】
実施例1
下記式(17)により表わされる構造を有する錯体の分子設計を行なった。この錯体のβジケトン配位子は、上述した式(15)の合成方法により合成可能である。また、下記式(18)の方法によることが望ましい。反応溶媒をジクロロメタンとし、触媒は塩化金5 mol %, 銀塩((AgOTf(Tfはトリフルオロメタンスルホニル)))15 mol% から調整したカチオン性金触媒を用いる。βジケトン溶液に対し、オレフィン(スチレン等)を数時間かけてゆっくりと滴下する。βジケトンとオレフィンのmol比率は1:1.5が望ましい。反応温度は室温とし、急ぐ場合はリフラックス(環流)する。
【化24】

【0075】
【化25】

【0076】
上記のようにして得たβ―ジケトンをユーロピウムイオンに配位させ、続いてトリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシドと共存させることにより、式(17)のユーロピウム錯体が得られる。このユーロピウム錯体をフッ素系ポリマー(セフラル:商品名、セントラル硝子社製)に分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0077】
下記式(17)により表わされる構造を有する錯体は、その強いアモルファス性により、フッ素系ポリマーに対する溶解性に優れ、かつ上述したように、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることができる。
【0078】
なお、式(17)のようにベンゼン環にハロゲン原子(例えば塩素原子等)を導入してもよく、これによりβジケトンのシス体の安定性が増し、その配位能を向上させることができる。特に、光学中心となる炭素原子がベンゼン環と結合する位置に対してパラの位置に結合することが好ましく、この場合に配位能が特に大きくなり、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることが可能である。
【0079】
実施例2
下記式(19)により表わされる構造を有する化合物の分子設計を行なった。この化合物のβジケトン配位子は、実施例1と同様の合成方法により合成可能である。
【0080】
上記のようにして得たβ―ジケトンをユーロピウムイオンに配位させ、続いてトリフェニルホスフィンオキシドと共存させることにより、式(19)のユーロピウム錯体が得られる。このユーロピウム錯体を実施例1のフッ素系ポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0081】
下記式(19)により表わされる構造を有する化合物は、その強いアモルファス性により、フッ素系ポリマーに対する溶解性に優れ、かつ上述したように、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることができる。
【0082】
しかし、同一構造のホスフィンオキシド化合物が配位するため、実施例1と比較すると、やや光度は低下する可能性がある。
【化26】

【0083】
実施例3
下記式(20)により表わされる構造を有する化合物の分子設計を行なった。この化合物は、上述した合成方法により合成可能である。また、この化合物のβジケトン配位子は、実施例1と同様の合成方法により合成可能である。
【0084】
上記のようにして得たβ―ジケトンをユーロピウムイオンに配位させ、続いてジホスフィンジオキシドと共存させることにより、式(20)のユーロピウム錯体が得られる。ジホスフィンジオキシドは、例えば特願平2003−179811に開示する方法にて合成することができる。このユーロピウム錯体を実施例1のフッ素系ポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0085】
下記式(20)により表わされる構造を有する化合物は、ジホスフィンジオキシド配位子を有しており、このホスフィンオキシド配位子にキレート効果が加わるため、この錯体を蛍光体として用いた照明装置は、実施例1に勝る光度と寿命を得ることが可能である。
【化27】

【0086】
実施例4
下記式(21)により表わされる構造を有する化合物の分子設計を行なった。この化合物は、実施例3の合成方法により合成可能である。作製したユーロピウム錯体を実施例1のフッ素系ポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0087】
下記式(21)により表わされる構造を有する化合物は、ジホスフィンジオキシド配位子を有しており、このホスフィンオキシド配位子にキレート効果が加わるため、この錯体を蛍光体として用いた照明装置は、実施例1の錯体を蛍光体として用いた照明装置に勝る光度と寿命を得ることが可能である。
【化28】

【0088】
実施例5
下記式(22)により表わされる構造を有する化合物の分子設計を行なった。この化合物は、実施例3と同様の合成方法により合成可能である。作製したユーロピウム錯体を実施例1のフッ素系ポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0089】
下記式(22)により表わされる構造を有する化合物は、ジホスフィンジオキシド配位子を有しており、このホスフィンオキシド配位子にキレート効果が加わるため、この錯体を蛍光体として用いた照明装置は、実施例1の錯体を蛍光体として用いた照明装置に勝る光度と寿命を得ることが可能である。
【化29】

【0090】
実施例6
下記式(23)により表わされる構造を有する化合物の分子設計を行なった。この化合物のβジケトン配位子は、実施例1と同様の合成方法により合成可能である。実施例1と同様にして作製したユーロピウム錯体を実施例1のフッ素系ポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0091】
下記式(23)により表わされる構造を有する化合物は、その強いアモルファス性により、フッ素系ポリマーに対する溶解性に優れ、また、βジケトンの希土類イオンに対する配位能が大きくなり、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることができる。
【化30】

【0092】
実施例7
下記式(24)により表わされる構造を有する化合物の分子設計を行なった。この化合物のβジケトン配位子は、実施例1と同様の合成方法により合成可能である。実施例1と同様にして作製したユーロピウム錯体を実施例1のフッ素系ポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、発光素子を製造する。
【0093】
下記式(24)により表わされる構造を有する化合物は、その強いアモルファス性により、フッ素系ポリマーに対する溶解性に優れ、また、βジケトンの希土類イオンに対する配位能が大きくなり、光、熱に対する耐久性も優れたものとすることができる。
【化31】

【0094】
実施例8
本実施例は白色照明装置の例であり、実施例1の式(17)で表される赤色の希土類錯体と、緑色(BaMgAl2717:Eu,Mn等, 例えば 520 nm)及び青色((Sr,Ca,Ba)10(POCl:Eu, 例えば450nm)の無機蛍光体を組み合わせて白色光を生じさせるものである。これらの希土類錯体と無機蛍光体を実施例1で用いたポリマーに分散して図1の発光層(蛍光体層)3を形成し、有機―無機ハイブリッドタイプの白色LED素子を製造する。
【0095】
この白色照明装置においても、希土類錯体の強いアモルファス性により、フッ素ポリマーに対する溶解性に優れ、かつ光、熱に対する耐久性も従来の素子より優れたものとすることができる。
【0096】
実施例9
本実施例も白色照明装置の例であり、希土類錯体を含む有機蛍光層と無機蛍光層を積層したものである。図2はその構成を示した断面図である。
【0097】
図2に示すように、発光素子としてLEDが用いられており、無機蛍光層13と有機蛍光層14との積層構造を備えたものとなっている。即ち、図2に示すように、LEDフレーム11の凹部内に発光素子12としてLEDチップが載置されている。このLEDチップ12は、例えばGaN系半導体材料から構成されるものであり、UV光源として例えば発光波長395nmを有するものである。発光素子12としては、LEDチップに限らず、例えばレーザーダイオード等の紫外線発光装置を用いることができる。なお、LEDチップ12には図示しない一対の電極が設けられている。
【0098】
LEDフレーム11の凹部内にはLEDチップ12上に無機蛍光層13と有機蛍光層14とが下から順に積層して設けられている。無機蛍光層13は、緑色((Sr,Ca,Ba)10(POCl:Eu例えば520nm)、青色(BaMgAl2717:Eu,Mn, 例えば450nm)の無機蛍光体13bをシリコーン樹脂13aに分散させたものであり、LEDフレーム11の凹部の一部を占めている。また、有機蛍光層14は、実施例1の式(17)で表される赤色のユーロピウム錯体14bを含有するフッ素系ポリマー14aからなるものであり、LEDフレーム11の凹部の残りの部分を占めている。フッ素系ポリマー14aとしては、例えばセフラル(セントラル硝子社製)を用いることが可能である。
【0099】
この白色照明装置においても、希土類錯体の強いアモルファス性により、フッ素ポリマーに対する溶解性に優れ、かつ光、熱に対する耐久性も従来の素子より優れたものとすることができる。また、無機蛍光層13と有機蛍光層14とを積層しているので、有機蛍光層14中の希土類錯体(ユーロピウム錯体)14bが無機蛍光層13中の無機蛍光体13bと接することを防止することができ、実施例8よりも希土類錯体14bの劣化を抑制することが可能である。
【0100】
実施例10
本実施例も白色照明装置の例であり、希土類錯体を含む有機蛍光層を備えた発光装置と無機蛍光層を備えた発光装置とを別領域に配置したものである。図3はその構成を示した平面図である。また、各領域に設けられた発光装置(R、G+B)の断面図は図1の通りである。
【0101】
各領域に設けられた発光装置(R、G+B)のうち赤色発光装置(R)1は、本実施例の上記式(17)により表わされる赤色の希土類錯体5(中心発光波長は例えば615nm)をフッ素系ポリマー(セフラル:商品名、セントラル硝子社製)4中に分散した有機蛍光層3とLEDチップ2とを含む。LEDチップ2の中心発光波長は395nm(InGaN)であるものを用いた。次に、蛍光体粒子5として緑色発光蛍光体(例えば520nm)及び青色発光蛍光体(例えば450nm)を上記ポリマー4に分散した無機蛍光層3と上記LEDチップとを含む発光装置(G+B)1を作成する。これらの発光素子1を図3に示すように配置し、白色照明装置としてフラッシュ装置を形成する。
【0102】
なお、緑色発光蛍光体としてはBaMgAl2717:Eu,Mnを、青色発光蛍光体としては(Sr,Ca,Ba)10(POCl:Euを用いる。
【0103】
このフラッシュ装置においても、希土類錯体の強いアモルファス性により、フッ素ポリマーに対する溶解性に優れ、かつ光、熱に対する耐久性も従来の素子より優れたものとすることができる。また、希土類錯体を含む有機蛍光層を備えた発光装置と無機蛍光層を備えた発光装置とを別領域に分離して配置しているので、有機蛍光層中の希土類錯体が無機蛍光層中の無機蛍光体と接することを防止することができ、実施例8よりも希土類錯体の劣化を抑制することが可能である。
【0104】
また、本実施例のフラッシュ装置によれば、光度や平均演色評価数を向上させることができ、暗所でのフラッシュ撮影を行った場合に人物も含めて鮮明な画像を得ることが可能
なお、以上説明した本発明の実施形態において、βジケトンを配位子として有する蛍光性錯体の光学中心の炭素に結合する脂肪族アルキル基としては、メチル基に限らず、エチル基のような他の低級脂肪族アルキル基を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施形態に係る照明装置の構造を説明する図。
【図2】本発明の一実施形態に係る照明装置の構造を説明する図。
【図3】本発明の一実施形態に係る照明装置の構造を説明する図。
【符号の説明】
【0106】
1…プラスチック製のセル、2…発光素子、3…蛍光層(発光層)、4…ポリマーマトリクス、5…蛍光体粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、少なくとも一つの水素原子を含み光学中心を有する置換基で置換されていることを特徴とする蛍光性錯体。
【請求項2】
ユーロピウム錯体、テルビウム錯体、イリジウム錯体、及びエルビウム錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする蛍光性錯体。
【請求項3】
前記配位子が、βジケトンとホスフィンオキシドの組み合わせであることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光性錯体。
【請求項4】
βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、光学中心を有する置換基で置換されており、下記式(1)により表わされる構造を有することを特徴とする蛍光性錯体。
【化1】

(式中、R〜Rは、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Xは水素原子又は重水素原子、Arは置換体を含むアロマティック部位、Mは中心金属イオンを表す。)
【請求項5】
前記式(1)において、Rが脂肪族アルキル基であることを特徴とする請求項4に記載の蛍光性錯体。
【請求項6】
βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、光学中心を有する置換基で置換されており、下記式(2)により表わされる構造を有することを特徴とする蛍光性錯体。
【化2】

(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Xは水素原子又は重水素原子、Arは置換体を含むアロマティック部位、Mは中心金属イオンを表し、mは1若しくは2、nは1以上の整数である。)
【請求項7】
前記式(2)において、Rが脂肪族アルキル基であることを特徴とする請求項6に記載の蛍光性錯体。
【請求項8】
βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、光学中心を有する置換基で置換されており、下記式(3)により表わされる構造を有することを特徴とする蛍光性錯体。
【化3】

(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R10は少なくとも1つの水素原子を含む枝分かれ構造を有する炭素数が20以下のアルキル基、Xは水素原子又は重水素原子、Mは中心金属イオンを表す。)
【請求項9】
βジケトンを配位子として有し、前記βジケトンの2つのカルボニル基に挟まれる位置のメチレン部位の水素原子が、光学中心を有する置換基で置換されており、下記式(4)により表わされる構造を有することを特徴とする蛍光性錯体。
【化4】

(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Rは少なくとも1つの水素原子を含む枝分かれ構造を有する炭素数が20以下のアルキル基、Xは水素原子又は重水素原子、Mは中心金属イオンを表し、mは1若しくは2、nは1以上の整数である。)
【請求項10】
中心金属イオンMは、ユーロピウム、テルビウム、イリジウム、及びエルビウムからなる群から選ばれる元素のイオンであることを特徴とする請求項4乃至9のいずれかに記載の蛍光性錯体。
【請求項11】
前記βジケトンは、下記式(5)により表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光性錯体。
【化5】

(式中、R〜Rは、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、Xは水素原子又は重水素原子、Arは置換体を含むアロマティック部位を表す。)
【請求項12】
前記βジケトンは、下記式(6)により表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光性錯体。
【化6】

(式中、R−Rは炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R10は少なくとも1つの水素原子を含む枝分かれ構造を有する炭素数が20以下のアルキル基、Xは水素原子又は重水素原子を表す。)
【請求項13】
前記βジケトンは、下記式(7)により表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光性錯体。
【化7】

(式中、R11及びR12は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R13及びR14は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体、並びにハロゲン原子、水素原子からなる群から選ばれる。R14は同一又は異なる最大5種類の置換基であり、Xは水素原子又は重水素原子である。また、mは5以下の整数である。)
【請求項14】
前記βジケトンは、下記式(8)により表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光性錯体。
【化8】

(式中、R21及びR22は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R23−R28は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体、並びにハロゲン原子、水素原子からなる群から選ばれる。R28は、同一又は異なる最大4種類の置換基である。また、mは4以下の整数である。)
【請求項15】
前記βジケトンは、下記式(9)により表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光性錯体。
【化9】

(式中、R31及びR32は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R33は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、若しくはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体、並びにハロゲン原子、水素原子からなる群から選ばれる。Adはアダマンチル基又はその置換体である。)
【請求項16】
発光素子と、この発光素子の発光面側に配置され請求項1乃至15のいずれかに記載の蛍光性錯体を含む蛍光層と、を具備することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213666(P2006−213666A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29401(P2005−29401)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】