説明

蛍光構造体、超微粒子構造体およびコンポジット、並びに発光装置、発光装置集合体

【課題】高出力で長時間使用する発光装置に使用可能な蛍光体、特に平均粒子径20nm以下の蛍光体を樹脂に混合して、蛍光体を凝集させることなく均一に分散することが可能な状態に表面を処理した蛍光構造体、さらに、この蛍光構造体を用いた発光効率に優れたコンポジット、発光装置、発光装置集合体を提供することである。
【解決手段】特定の官能基を有し珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物5が、蛍光体表面または半導体超微粒子3の表面を被覆し配位結合している。このような蛍光構造物または超微粒子構造体を、樹脂マトリックス中に分散させたコンポジットである。発光装置は、基板上に設けられ励起光を発する発光素子と、この発光素子の前面に位置し前記励起光の波長を変換して前記励起光と異なる波長の出力光を発する上記コンポジットとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子ディスプレイ用のバックライト電源、蛍光ランプ等の発光装置に好適に用いられる蛍光構造体、超微粒子構造体およびコンポジットに関し、より詳しくは、発光素子から発せられる光を波長変換して外部に取り出すために用いられる蛍光構造体、超微粒子構造体、およびそれを樹脂中に分散させたコンポジット、発光装置、発光装置集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(以後、LEDチップと言うこともある)は、小型で電力効率が良く鮮やかな色の発光を生ずる。LEDチップは、製品寿命が長い、オン・オフ点灯の繰り返しに強い、消費電力が低い、という優れた特徴を有するため、液晶などのバックライト光源や蛍光ランプ等の照明用光源への応用が期待されている。
【0003】
近年では、紫外発光素子(発光波長400nm以下)上に3種類の蛍光体を含有する波長変換部を形成することにより幅広い範囲で発光波長をカバーし、演色性を向上した白色の発光装置を得る試みがなされている。ところが、この方式では蛍光体の蛍光量子収率が低く、特に600〜750nm領域の赤色の蛍光量子収率が低いため、演色性はもとより発光強度が十分なものが得られないという問題があった。
【0004】
そこで、各波長で高い蛍光量子収率を得るための蛍光体として、平均粒子径が10nm以下の半導体超微粒子が蛍光体として検討されている(例えば、非特許文献1参照)。この方法によると、蛍光体組成物の平均粒子径を10nm程度の適切な値に設定すれば、半導体超微粒子が光の吸収、発光を素早く繰り返すため、高い蛍光収率を得ることができるばかりか、エネルギー準位が離散的となり、半導体ナノ粒子のバンドギャップエネルギーが蛍光体の粒子径に合わせて変化するため粒子径を変えることで、赤(長波長)から青(短波長)まで様々な発光を示す。例えば発光波長700から800nmの蛍光を発するセレン化カドミウムは平均粒子径を2nmから10nmの範囲で変化させることにより蛍光収率の高い赤(長波長)から青(短波長)の光を発する。従ってこの手法を用いると演色性が高く、効率のよい発光装置を作ることができると期待されている。
【0005】
しかし、半導体粒子が小さくなると、次のような二つの問題がある。一つ目の問題としては、半導体粒子の粒子径を20nm程度まで小さくすると、その体積に対する表面積の比率が高いため、粒子表面が水と反応して蛍光特性の劣化が起こる。このため、長期に安定した発光装置を得るためには蛍光体粒子を水分に触れさせない工夫が必要である。この課題を解決する手法として、蛍光体を水分透過性の低い透明な樹脂に封して、蛍光体を樹脂マトリックス中に分散させたコンポジットとして発光装置に搭載する方法がある。しかし、蛍光体を樹脂に混合し、硬化させるまでの工程で蛍光体が水分と反応して蛍光体の特性が劣化するという問題がある。
【0006】
このような半導体超微粒子を製造する方法としては、例えば、ホットソープ法(特許文献1参照)や、マイクロリアクター法(特許文献2参照)が報告されている。これらの方法を用いると、粒子径20nm以下の半導体超微粒子を得ることができる。
【0007】
二つ目の問題としては、凝集の問題がある。一般に半導体粒子は、その粒子径が小さくなると凝集がひどくなるため、樹脂マトリクス中に単独粒子の状態で分散させることが難しくなる。半導体超微粒子の直径が20nmを超える場合には、半導体超微粒子が凝集体を形成しても、その凝集体が発生する光の色は単独粒子が発生する光の色と同じであるため、さほど凝集を気にする必要はない。しかし半導体超微粒子が凝集した場合、その凝集体は粒子単独で存在する場合よりも長い波長の蛍光を発するため、凝集体の数が多い場合、安定して一定波長の光を発生する発光装置を製造することができない。したがって、樹脂内部に粒子径20nm以下の半導体超微粒子を含有するコンポジットを波長変換部として備えた発光装置を製造する場合、樹脂中に半導体超微粒子を単独粒子で分散させる技術が求められている。
【0008】
二つ目の問題を解決する手法として、ポリメタクリレート・マトリックス中に半導体超微粒子を単独粒子として分散させて固定する方法が報告されている(非特許文献2参照)。また、半導体超微粒子をエタノールに分散させ、アルコールを溶剤とするポリエチレンオキシド塗料に混合して塗布することで半導体超微粒子が分散した膜を得る方法が報告されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、従来のミクロンサイズの蛍光体を用いる場合には、樹脂に蛍光体を均一に分散させるために、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールエステル、エチレングリコールジアセタート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエチレングリコール化合物、あるいは、カルボン酸塩系、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、りん酸エステル塩系、第一級〜第三級アミン塩、第四級アミン塩などのイオン性分散剤が使用されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−160336号公報
【特許文献2】特開2003−225900号公報
【特許文献3】特開2002−121548号公報
【非特許文献1】R.N.Bhargava,Phys.Rev.Lett.,72,416(1994)
【非特許文献2】Jinwook Lee et al,Adv.Mater.,12,No.15,1102(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ポリメタクリレートやポリエチレンオキシドなどの樹脂は光や熱に対する安定性が低く、発光装置を長時間使用した場合、または高出力の発光装置に使用した場合、樹脂が変色を起こすため、長時間使用あるいは高出力での使用を目的とする発光装置に使用すると、次第に発光装置の効率が低下するという問題がある。
また、樹脂に半導体超微粒子を分散させた波長変換部の樹脂に求められる他の特性として透明性がある。したがって、光に対する安定性、耐熱性、透明性の3つの特性を全て満足する樹脂に半導体超微粒子を安定して単独粒子として分散させることが、長時間、高出力で使用可能な演色性の高い白色を呈する発光装置を製造する上で重要な課題である。
このような課題に対して有効で、光に対する安定性、耐熱性、透明性の高い樹脂としてはシリコーン樹脂が挙げられる。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で得られるトリオクチルフォスフィンオキシドあるいはアルキルアミン等のアルキル基を主体とする化合物を表面に配位結合した半導体超微粒子は、このままシリコーン樹脂に混合しても表面に配位結合している化合物とシリコーン樹脂の間で生じる疎外作用により粒子が樹脂中に単独で存在できないため凝集体を形成する。そのため、このまま発光装置に使用しても目的とする発光を得ることはできない。
【0013】
すなわち、平均粒子径20nm以下の半導体超微粒子を用いた場合には、有効に水分による蛍光特性の劣化を抑えること、及びシリコーン樹脂に凝集のない単独粒子の状態で分散させる手法はまだ知られていない。
【0014】
また、このような半導体超微粒子に限らず、従来のミクロンサイズの蛍光体を用いた場合であっても、従来の分散剤を用いた場合、次のような問題がある。波長変換部は発光素子が発する紫外線などの光あるいは熱にさらされるため、分散剤として分子量の高いものを使用すると、これらが分解して波長変換部が茶褐色に変色するため、これらの分散剤は使用することができない。従って、波長変換部に使用される蛍光体の分散剤としては分子量の低いものが使われることとなる。しかし、分子量の低い分散剤の場合、長期間使用すると分散剤が発光素子の発する熱により気化して波長変換部内に気泡を生じて白濁したり、分散剤が樹脂内を浸透して表面に染み出したりするなどの問題がある。従って、波長変換層が強い紫外線などの光および熱にさらされる高出力の発光装置に長期に使用できる分散剤が無いのが実情であった。
このため、従来のミクロンサイズの蛍光体をシリコーン樹脂に凝集のない単独粒子の状態で分散させる手法は知られていない。
【0015】
従って、本発明は、高出力で長時間使用する発光装置に使用可能な蛍光体、特に平均粒子径20nm以下の蛍光体を樹脂に混合して、蛍光体を凝集させることなく均一に分散することが可能な蛍光構造体を得ることを課題としている。
さらに、本発明は、この蛍光構造体を用いた発光効率に優れたコンポジット、発光装置および発光装置集合体を提供することを課題とする。
【0016】
また、あわせて、本発明は、水に対して安定な状態に表面を処理した超微粒子構造体を得ること、また、半導体超微粒子をシリコーン樹脂中に凝集することなく分散させることが可能な超微粒子構造体を得ることを課題としている。そして、本発明は、この超微粒子構造体を用いた発光効率に優れたコンポジット、発光装置および発光装置集合体を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の蛍光構造体は以下の構成を有する。
(1)珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物が蛍光体表面を被覆していることを特徴とする蛍光構造体。
(2)前記蛍光体が半導体粒子であることを特徴とする(1)記載の蛍光構造体。
(3)前記化合物が、蛍光体表面に配位結合していることを特徴とする(1)または(2)に記載の蛍光構造体。
(4)前記化合物の珪素−酸素の繰り返し単位数が5〜500であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の蛍光構造体。
(5)前記蛍光体が、平均粒子径10μm以下であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の蛍光構造体。
(6)前記化合物が、アミノ基、メルカプト基、カルボシキル基、アミド基、エステル基、ケトン基、フォスフォキシド基、スルフォキシド基、フォスフォン基、イミン基、ビニル基、ヒドロキシ基およびエーテル基から選ばれた1つ以上の官能基を含有する側鎖を具備することを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の蛍光構造体。
(7)前記化合物が、前記官能基を含有する側鎖を2つ以上具備することを特徴とする(6)に記載の蛍光構造体。
(8)請求項6または7に記載の側鎖以外に、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、、炭素数が3〜8のシクロアルキル基、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルコキシ基および炭素数が3〜8のシクロアルキルオキシ基から選ばれる少なくとも1つの側鎖を具備することを特徴とする(6)又は(7)に記載の蛍光構造体。
(9)前記蛍光体が、光ルミネッセンス機能を有することを特徴とする(1)乃至(8)のいずれかに記載の蛍光構造体。
(10)前記蛍光体が、II−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からからなることを特徴とする(1)乃至(9)のいずれかに記載の蛍光構造体。
(11)前記蛍光体がコアシェル構造を有することを特徴とする(1)乃至(10)のいずれかに記載の蛍光構造体。
【0018】
本発明の超微粒子構造体は以下の構成を有する。
(12)珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物が、半導体超微粒子を被覆していることを特徴とする超微粒子構造体。
(13)前記化合物が半導体超微粒子表面に配位結合していることを特徴とする(12)に記載の超微粒子構造体。
(14)前記化合物の珪素−酸素の繰り返し単位数が5〜500であることを特徴とする(12)又は(13)に記載の超微粒子構造体。
(15)前記半導体超微粒子が、平均粒子径0.5〜20nmであることを特徴とする(12)乃至(14)のいずれかに記載の超微粒子構造体。
(16)前記化合物が、アミノ基、メルカプト基、カルボシキル基、アミド基、エステル基、ケトン基、フォスフォキシド基、スルフォキシド基、フォスフォン基、イミン基、ビニル基、ヒドロキシ基およびエーテル基から選ばれた1つ以上の官能基を含有する側鎖を具備することを特徴とする(12)乃至(15)のいずれかに記載の超微粒子構造体。
(17)前記化合物が、前記官能基を含有する側鎖を2つ以上具備することを特徴とする(16)に記載の超微粒子構造体。
(18)上記(16)あるいは(17)に記載の側鎖以外に、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、炭素数が3〜8のシクロアルキル基、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルコキシ基または炭素数が3〜8のシクロアルキルオキシ基から選ばれる少なくとも1つの側鎖を具備することを特徴とする(16)又は(17)に記載の超微粒子構造体。
(19)前記半導体超微粒子が、光ルミネッセンス機能を有することを特徴とする(12)乃至(18)のいずれかに記載の超微粒子構造体。
(20)前記半導体超微粒子が、II−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からからなることを特徴とする(12)乃至(19)のいずれかに記載の超微粒子構造体。
(21)前記半導体超微粒子が、コアシェル構造よりなることを特徴とする(12)乃至(20)のいずれかに記載の超微粒子構造体。
【0019】
本発明のコンポジットは以下の構成を有する。
(22)前記(1)乃至(11)のいずれかに記載の蛍光構造物または前記(12)乃至(21)のいずれかに記載の超微粒子構造体を、樹脂マトリックス中に分散させたことを特徴とするコンポジット。
(23)組成が異なる少なくとも2種類の蛍光構造物または半導体超微粒子を含有することを特徴とする(22)に記載のコンポジット。
(24)前記樹脂マトリックスが液状樹脂であることを特徴とする(22)又は(23)に記載のコンポジット。
(25)屈折率が1.7以上であることを特徴とする(22)乃至(24)のいずれかに記載のコンポジット。
(26)前記樹脂マトリックスが熱エネルギーにより液状樹脂を硬化するものであることを特徴とする(22)乃至(25)のいずれかに記載のコンポジット。
(27)前記樹脂マトリックスが光エネルギーにより液状樹脂を硬化するものであることを特徴とする(22)乃至(25)のいずれかに記載のコンポジット。
(28)前記樹脂マトリックスが、主鎖に珪素−酸素結合を含む高分子樹脂を含有することを特徴とする(22)乃至(27)のいずれかに記載のコンポジット。
(29)可視光の波長の範囲で少なくとも2つの強度ピークを持つ蛍光を発することを特徴とする(22)乃至(28)のいずれかに記載のコンポジット。
【0020】
本発明の発光装置は以下の構成を有する。
(30)基板上に設けられ励起光を発する発光素子と、この発光素子の前面に位置し前記励起光の波長を変換して前記励起光と異なる波長の出力光を発する請求項22乃至29のいずれかに記載のコンポジットとを備えたことを特徴とする発光装置。
(31)前記出力光が、発光波長400〜900nmのスペクトルを有することを特徴とする(30)に記載の発光装置。
(32)前記半導体超微粒子の少なくとも一部のバンドギャップエネルギーが、発光素子が発するエネルギーよりも小さいことを特徴とする(30)又は(31)に記載の発光装置。
【0021】
本発明の発光装置集合体は、前記(30)乃至(32)のいずれかに記載の発光装置を複数具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
前記(1)によれば、珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返し持つ化合物は、例えば、コンポジットの樹脂に対して蛍光体の分散剤のはたらきをする。従って、当該化合物で蛍光体の表面を被覆することにより、蛍光体が樹脂に均一に分散した波長変換部を構成することが可能となり、よって、光にムラのない発光装置を製造することができる。
また珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物は、この部分の結合が炭素−炭素の結合の約1.5倍と強いため、少なくともこの部分で紫外線などの光や熱による分解が起こりにくい。従って、その主構造が炭素−炭素の結合からなる有機化合物分散剤に比べて分解が起こりにくい。このため、この蛍光構造物を紫外線や熱で劣化の少ない樹脂と組み合わせて波長変換部を構成することで、高出力の発光装置に使用しても波長変換部が茶褐色に変色して発光装置の明るさが低下することが無い波長変換部を得ることができる。
また、珪素−酸素を繰り返し持つ化合物は、その化合物の持つ撥水性から蛍光体を水分による劣化から守るという点でも効果がある。
【0023】
前記(2)によれば、前記珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物によって被覆された蛍光体が半導体粒子であることにより、高効率の波長変換部を構成することが可能となる。
前記(3)によれば、蛍光体の表面に前記化合物が配位結合していることにより、当該化合物が蛍光体に強固に結合するため、化合物が蛍光体から離れて樹脂中を移動し、樹脂から染み出すといった不具合を防ぐことが可能となる。また、前記化合物が蛍光体に強固に結合することにより、当該化合物の撥水性を利用して蛍光体の安定性をより向上させることができる。さらに、この蛍光構造体は表面に結合した前記化合物のシリコーン樹脂との構造の類似性を利用して、耐光性、耐熱性、透明性に優れるシリコーン樹脂(珪素−酸素の結合を主体とする高分子樹脂)に均一分散させることができる。
【0024】
前記(4)によれば、珪素−酸素の繰り返し単位数が5未満であると、この化合物が発光素子の熱により気化し、波長変換部内に気泡が発生して波長変換部が白濁することが無いため、高出力の発光装置とすることができる。また、珪素−酸素の繰り返し単位数が5以上であると、蛍光体を覆う化合物の量が十分な量になるため、蛍光体を水分から保護することができる。従って、超微粒子構造体の蛍光特性の劣化が少ない。また、珪素−酸素の繰り返し単位数が500を超えると、この化合物が不必要に大きくなることを抑制するため、効率的に化合物を蛍光体に配位結合させることができる。
【0025】
前記(5)によれば、蛍光体の平均粒子径が10μm以下であるので、蛍光体の表面積比率が高く、このため蛍光体が効率よく光を吸収して光変換することが出来る。
【0026】
前記(6)によれば、前記化合物が、特定の官能基を具備することにより、前記蛍光体と強固に配位結合するため安定した蛍光構造体を得ることができる。
【0027】
前記(7)によれば、前記化合物が、前記官能基を持つ側鎖を2つ以上具備することが好ましい。これにより、化合物5は蛍光体と各々の官能基2箇所で結合するため、官能基が一つの場合に比べて強く結合するため安定した蛍光構造体を作ることができる。
【0028】
前記(8)によれば、前記化合物において前記官能基が付く(6)または(7)の側鎖以外の側鎖が、特定の基のいずれか、またはこの組み合わせを主体とすることにより、可視光線および紫外線を吸収しないため、耐光性の高い蛍光構造体を得ることができる。
【0029】
前記(9)によれば、蛍光体が光ルミネッセンス機能を有することにより、蛍光構造体と、電力を光に変換するLEDチップとを組み合わせることにより小型発光装置を作ることができる。
前記(10)によれば、蛍光体がII−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からなることにより、蛍光特性に優れた蛍光構造体を得ることができる。
前記(11)によれば、蛍光体がコアシェル構造よりなることにより、結晶表面の結晶格子欠陥等の理由による量子効率の低下を防止でき、発光効率の高い蛍光構造体を得ることができる。
【0030】
前記(12)の超微粒子構造体によれば、半導体超微粒子の表面を被覆する、珪素−酸素の結合を二つ以上繰り返し持つ化合物が、コンポジットの樹脂に対して半導体超微粒子の分散剤のはたらきをするため、半導体超微粒子が樹脂に均一に分散させることが可能となる。従って、光にムラのない発光装置を製造することができる。また、半導体超微粒子の表面を珪素−酸素の結合を二つ以上繰り返し持つ化合物で被覆することにより、半導体超微粒子を水分から遮断することができ、半導体超微粒子の特性劣化を防止することができる他、シリコーン樹脂との構造の類似性を利用して耐光性、耐熱性、透明性に優れるシリコーン樹脂(珪素−酸素の結合を主体とする高分子樹脂)に単独粒子として分散させることができる。
【0031】
前記(13)によれば、半導体超微粒子の表面に前記化合物が配位結合していることにより、当該化合物が半導体超微粒子に強固に結合するため、化合物が半導体超微粒子から離れて樹脂中を移動し、樹脂から染み出すといった不具合を防ぐことが可能となる。また、前記化合物が半導体超微粒子に強固に結合することにより、当該化合物の撥水性を利用して半導体超微粒子の安定性をより向上させることができる。さらに、この超微粒子構造体は表面に結合した前記化合物のシリコーン樹脂との構造の類似性を利用して、耐光性、耐熱性、透明性に優れるシリコーン樹脂(珪素−酸素の結合を主体とする高分子樹脂)に均一分散させることができる。
【0032】
前記(14)によれば、前記化合物の珪素−酸素の繰り返し単位数が5以上であるので、この化合物が発光素子の熱により気化し、波長変換部内に気泡が発生して波長変換部が白濁することが無いため、高出力の発光装置を得ることができる。また、珪素−酸素の繰り返し単位数が5以上であると、半導体超微粒子を覆う化合物の量が十分な量になるため、半導体超微粒子を水分から保護する効果を十分に得ることができる。従って、超微粒子構造体の蛍光特性の劣化が少ない。また、この場合、半導体超微粒子に配位結合する化合物の半導体超微粒子に対する相対量が十分であるため、超微粒子組成物がシリコーン樹脂中で長期にわたり安定した分散状態を維持できる。また、珪素−酸素の繰り返し単位数が500以下であると、化合物が不必要に大きくなることを抑制するため、効率的に化合物を半導体超微粒子に配位結合させることができる。
【0033】
前記(15)によれば、半導体超微粒子の平均粒子径が0.5〜20nmであるので、半導体超微粒子が安定し、半導体粒子が溶解して粒子径が小さくなるなどの問題を回避できる。また、平均粒子径が20nm以下であると、半導体超微粒子が光の吸収、発光を素早く繰り返すことによる蛍光収率向上の効果が十分に得られるため蛍光収率の高い超微粒子構造体を作ることができる。
前記(16)によれば、前記化合物が特定の官能基を具備することにより、前記半導体超微粒子と強固に配位結合するため安定した超微粒子構造体を得ることができる。
【0034】
前記(17)によれば、前記化合物が特定の官能基を持つ側鎖を2つ以上具備することにより、化合物は半導体微粒子と各々の官能基2箇所で結合するため、官能基が一つの場合に比べて強く結合するため安定した超微粒子構造体を作ることができる。
前記(18)によれば、前記化合物の前記官能基が付く(16)または(17)に記載の側鎖以外の側鎖が、特定の基のいずれか、またはこの組み合わせを主体とすることにより、可視光線および紫外線を吸収しないため、耐光性の高い蛍光構造体を得ることができる。
【0035】
前記(19)によれば、前記半導体超微粒子が光ルミネッセンス機能を有することにより、この超微粒子構造体と電力を光に変換するLEDと組み合わせることにより小型発光装置を作ることができる。
前記(20)によれば、前記半導体超微粒子がII−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からからなることにより、蛍光特性の良い超微粒子構造体を得ることができる。
前記(21)によれば、前記半導体超微粒子がコアシェル構造を有することにより、結晶表面の結晶格子欠陥等の理由による蛍光量子効率の低下を防止できる。このため発光効率の高い超微粒子構造体を得ることができる。
【0036】
前記(22)のコンポジットによれば、蛍光収率の高い蛍光材である前記超微粒子構造体を樹脂マトリックス中に分散させているため、蛍光収率の高いコンポジットを得ることができる。
前記(23)によれば、少なくとも2種類の半導体超微粒子を具備することにより、演色性の高い発光装置とすることができる。
【0037】
前記(24)によれば、凹凸のある構造体にコンポジットを設置する場合でも、液状樹脂を凹凸のある構造体に充填した後、これを硬化させることでコンポジットを凹凸に完全に追従させることができる。
前記(25)によれば、前記コンポジットの屈折率が1.7以上であることにより、波長が変換されたコンポジット内の光は樹脂と大気の界面で反射される光の割合を減らすことができ、効率よくコンポジット外へ放出される。
前記(26)によれば、乾燥機などの安価な設備で液状樹脂を硬化させることができる。前記(27)によれば、光により硬化させることにより、発光素子に熱による悪影響を与えることなく発光装置を作ることができる。
前記(28)によれば、樹脂マトリックスは耐熱性、耐光性が高い珪素−酸素結合を主体とする高分子樹脂を含有するので、コンポジットの耐光性、耐熱性、透明性を高めることができる。
前記(29)によれば、可視光の波長の範囲で少なくとも2つ以上の強度ピークを持つ蛍光を発するので、高い演色性のコンポジットを容易に得ることができる。
【0038】
前記(30)の発光装置によれば、発光素子が発する光の波長を前記コンポジットにより変換して、発光素子が発する光と異なる光を出力することにより、演色性が高く、蛍光量子収率の高い発光装置を作ることができる。
前記(31)によれば、出力光が発光波長400〜900nmのスペクトルを発するので、効率が高く、演色性の良い発光装置とすることができる。
前記(32)によれば、前記半導体超微粒子の少なくとも一部のバンドギャップエネルギーを発光素子が発するエネルギーよりも小さくすることにより、発光素子が発するエネルギーは効率よく半導体超微粒子に吸収されるため、発光効率の良い発光装置を作ることができる。
【0039】
前記(33)の発光装置集合体は、前記発光装置を複数具備しているため、発光装置単体で使用する場合よりも、光出力を高いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
図1(a)、(b)に示すように、本発明にかかる超微粒子構造体1は、ナノサイズの半導体超微粒子3の表面を、珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す構造を持つ化合物5が被覆した構造を有しており、特に、図1(b)に示すように、化合物5が、ナノサイズの半導体超微粒子3に配位結合してなることが望ましい。
【0041】
このように、ナノサイズの半導体超微粒子3の表面を、珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す構造を持ち疎水性に富む化合物5により覆うことにより、水によるナノサイズの半導体超微粒子3の特性劣化を防止することができる。また、この化合物5は、シリコーン樹脂との親和性が非常に高いため、超微粒子構造体1をシリコーン樹脂中に容易に分散させることができ、しかも、超微粒子構造体1とシリコーン樹脂との結合力も高めることができる。
【0042】
この珪素−酸素の結合数(すなわち珪素−酸素の繰り返し単位数、以下同じ)は、化合物5中に5つ以上、特に7つ以上形成されることが、化合物5の疎水性を向上させるという観点から望ましい。一方、珪素−酸素の結合数を500以下とすることで、化合物5が不必要に大きくなることを抑制することができ、化合物5を効率よく、ナノサイズの半導体超微粒子3の表面に配位させることができる。特に、ナノサイズの半導体超微粒子3の表面に、より多くの化合物5を配位させるという観点からは、珪素−酸素の結合の数は300以下、特に100以下とすることが望ましい。
また、図2に示すように、化合物5は、珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す主鎖5aと、この主鎖5aに結合した側鎖5b、5cとからなる。側鎖5bは官能基がなく、側鎖5cは官能基を有する。
【0043】
側鎖5cには、半導体超微粒子3と化合物5との結合を容易にし、両者の結合力を向上させるため、下記式(a)に示すように、アミノ基、メルカプト基、カルボシキル基、アミド基(カルバモイル基)、エステル基(カルボニルオキシ基)、ケトン基(カルボニル基)、フォスフォキシド基、スルフォキシド基、フォスフォン基、イミノ基、ビニル基、ヒドロキシ基およびエーテル基(オキシ基)から選ばれる官能基Xを具備することが望ましい。
【化1】

【0044】
これらの官能基は、非共有電子対あるいはπ電子を持つため求核剤として働き、半導体超微粒子3と強く配位結合するか、分極による電荷の電気的な作用により半導体超微粒子3と強く配位結合する。従って、これらの官能基を具備する化合物5が半導体超微粒子3と配位結合した超微粒子構造体1は、配位結合を長期間、安定して維持することができる。特に、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基は、半導体超微粒子3との配位結合力が強いため、より長期にわたって安定した超微粒子構造物1をつくることができる。また、ヒドロキシ基は酸化物半導体に対して強い配位結合を持つ。これは酸化物半導体表面の酸素原子とヒドロキシ基の水素が引き合うためである。
また、これらの官能基は、主鎖5aの珪素原子に直接結合していてもよく、あるいはメチレン基やエチレン基などの側鎖を介して珪素原子と結合していてもよい。
【0045】
下記式(b)に示すように、化合物5の側鎖のうち、官能基を有しない側鎖5b(式中、Yで示される)は、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、炭素数が3〜8のシクロアルキル基、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルコキシ基または炭素数が3〜8のシクロアルキルオキシ基から選ばれる少なくとも1つであるのがよい。これらの各基の炭素数は1〜6であるのがより好ましい。
また、官能基を有する側鎖5cは、官能基そのものであってもよく、あるいは側鎖5bと同じ基の一部が官能基と置換したものであっても構わず、またメチル基、エチル基、プロピル基などの一部が官能基と置換したものであっても構わない。
【化2】

【0046】
前記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、nーオクチル基などが挙げられる。前記シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。前記アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、iso−ヘキシルオキシ基などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、例えばシクロヘキシルオキシ基などが挙げられる。これにより、超微粒子構造体1の耐光性、耐熱性を向上できる。
【0047】
これは、側鎖5bに、フェニル基やビニル基等の紫外光を吸収する官能基がある場合にはこの部分が光エネルギーを吸収するため、効率が低下するばかりか、このエネルギーにより、この化合物がダメージを受けるためである。また、側鎖5bが炭化水素基からなり、この炭化水素基が長鎖(炭素数9以上)の場合には短鎖の場合に比べて化合物5の耐熱性が低下する。
【0048】
また、化合物5が官能基を持つ側鎖5cを2つ以上具備することが好ましい。こうすることで化合物5は半導体超微粒子3に複数の結合点で強固に配位結合することが可能となる。なお、式(a),(b)において、mは2以上の整数、mは5〜500の整数である。また、nは2以上の整数であることが好ましく(請求項7)、m:nは5:2〜2:500であるのが好ましい。また、より好ましくはm:nは50:1〜10:1である。
【0049】
以上説明したように、化合物5の構造を制御することにより、半導体超微粒子3に対して、化合物5を強固に結合させることができるとともに、耐水性、耐熱性、耐光性に優れた超微粒子構造体1が得られる。
なお、超微粒子構造体1に用いられる半導体超微粒子3の平均粒子径は、蛍光の波長を粒子径により調整することができる点で0.5〜20nmであることが好ましい。これにより半導体超微粒子の粒子径を調整することで演色性の高い発光装置を作ることができる。
【0050】
さらに、半導体超微粒子1の平均粒子径は、1nm以上、特に2nm以上とすることが、凝集を防止する観点から望ましい。また、10nm以下、特に5nm以下とすることが、高い蛍光収率を得られるという観点から望ましい。
この平均粒子径0.5〜20nmの半導体超微粒子3を得る方法としては、例えば、トリオクチルフォスフィンオキシドで逆ミセルを形成し、このミセル中で金属元素とカルコゲン元素を300℃程度の温度で反応させて作る方法が挙げられる。
粒子径の測定は、後述の実施例においてセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径を測定した方法を用いて測定することができる。
【0051】
また、小型で演色性の高い発光装置を作ることが可能となる点で半導体超微粒子3は光ルミネッセンス機能を有することが好ましい。
蛍光特性が優れているという点で、半導体超微粒子3はII−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からからなることが好ましい。特にZnS、ZnSe、CdS、CdSe、CdTeは蛍光量子効率が高いことから蛍光量子効率の高い超微粒子構造体1を作ることができる。
【0052】
蛍光量子効率の高い超微粒子構造体1が得られるという点で、半導体超微粒子3はコアシェル構造よりなることが好ましい。コアシェル構造にすることで蛍光量子効率が高くなる理由としてはシェルの半導体の組成として、禁制帯幅(バンドギャップ)がコアよりも大きなものを起用することでエネルギー的な障壁を形成し、外界の影響や結晶表面での結晶格子欠陥等の理由による望ましくない表面準位等の影響を抑制する機構によるものと推測される。シェルに好適に用いられる組成としては、例えばBN、BAs、GaNやGaP等のIII−V族化合物半導体、ZnO、ZnS等のII−VI族化合物半導体、MgSやMgSe等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物等が好適に用いられる。
【0053】
以上説明した超微粒子構造体1を、図3に示すように、樹脂マトリックス7に分散させて、コンポジット9とすることで、水分から超微粒子構造体1を遮断する効果がさらに高まるため、さらに、効果的に半導体超微粒子3の水分による特性劣化を防止することができる。しかも、粉末の状態から、液体又は固体の状態で超微粒子構造体1を取り扱うことができるため、取り扱い性、保存性が格段に向上する。
コンポジット9を構成する樹脂マトリックス7は、例えば、光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂を含有させた樹脂マトリックスと超微粒子構造体1とを液体の状態で混合することで得られ、必要に応じて、熱や光により任意の形状に硬化させることが、取り扱いの点で望ましい。
【0054】
なお、樹脂マトリックス7が熱エネルギーにより硬化するものを用いた場合には、たとえば、乾燥機、ヒーターブロックなどの安価な設備でコンポジット9を硬化することができることは言うまでもない。
また、コンポジット9と発光素子との密着性の高い発光装置を得ることができる点で、樹脂マトリックス7は光エネルギーにより硬化することが好ましい。樹脂マトリックス7に光エネルギーにより硬化するタイプのものを用いると、液状の未硬化のコンポジット9を発光素子上に配置した後、液状の未硬化のコンポジット9を光で硬化させることができる。この手法によれば熱硬化タイプのコンポジット9を使用した場合と異なり、硬化のための熱による発光素子の破壊を起こすことなくコンポジット9を硬化させることができる。従って、発光素子と液状の未硬化のコンポジット9を直接接触させることができるため、コンポジット9と発光素子との密着性の高い発光装置11を得ることができる。
樹脂マトリックス7として、シリコーン樹脂を用いた場合には、透光性に優れ、また、耐熱性、耐光性、特に耐水性に優れたコンポジット9となる。
【0055】
このシリコーン樹脂を詳細に説明すると、シリコーン樹脂はその主な部分が珪素−酸素を繰り返す形態を有する主鎖と、その珪素原子に結合する側鎖とからなり、これが複数架橋したものがシリコーン樹脂である。側鎖がフェニル基やビニル基等の紫外光を吸収する基である場合、シリコーン樹脂で光の吸収が起こる。このためコンポジット9に使用するシリコーン樹脂は側鎖が直鎖または環状飽和炭化水素基であることが好ましい。しかし、この直鎖または環状飽和炭化水素基が炭素数で7を超える場合にはその耐熱性が低下するため、側鎖は炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、炭素数が3〜8のシクロアルキル基の少なくとも1つであるのが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、シクロヘキシル基のいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせよりなることが好ましい。これと同様の理由で、化合物5の側鎖5bは炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、炭素数が3〜8のシクロアルキル基、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルコキシ基または炭素数が3〜8のシクロアルキルオキシ基から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0056】
組成が異なる少なくとも2種類の半導体超微粒子を用いることで、複数の異なる波長の蛍光を組み合わせることが容易となり、演色性の高い発光装置を得ることができる。例えばセレン化カドミウムと硫化亜鉛を組み合わせることにより、同じ粒子径で赤色と青色の光をコンポジット内で同時に発光させることが可能である。このため、製造装置上作りやすい粒子径で製造した数種類の組成の超微粒子構造体1を準備することで高い演色性のコンポジット9を得ることができる。
【0057】
コンポジット9内部で波長を変換した光が効率よく大気へ放出できるという点で、コンポジット9の屈折率は1.7以上であることが好ましい。発光素子で発光した光は超微粒子構造体1及びシリコーン樹脂13を混合したコンポジット9に導かれ、ここで光の波長を変換した後、大気中へ放出される。この時、コンポジット9の屈折率が1.7よりも小さい場合にはコンポジット9と大気の界面で光が反射されて大気中へ放出されにくくなるためである。屈折率の測定はコンポジットを厚み1mmのフィルムに成型してイプロス製の屈折率測定機2010プリズムカプラで行なった。
【0058】
演色性の高い白色の発光装置が得られるという点で、コンポジット9は可視光の波長の範囲で少なくとも2つ以上の強度ピークを持つ蛍光を発することが好ましく、特に、可視光の波長の範囲で3つ以上の強度ピークを持つ蛍光を発することが好ましい。こうすることにより演色性の高い白色光を得ることができる。
また、図4に示すように、本発明の発光装置11は光源としての発光素子13が発する光をコンポジット9により光の波長を変換して、発光素子が発する光と異なる光を出力することが重要である。
【0059】
本発明の発光装置11は、例えば、発光素子13に外部より電力を供給するための電極15を備えた配線基板17と、配線基板17に搭載された発光素子13と、配線基板17の発光素子13側に設けられた枠体19と、発光素子13を覆うように形成されたコンポジット9とから構成されている。
配線基板17上には、例えば、波長395nmの紫外線を発する発光素子13が金属ろう材を介して電極9に接続されている。電極9に電力を供給すると、発光素子13は紫外線を発光し、この光はコンポジット9内部に供給される。紫外線はコンポジット9内部の超微粒子構造体1により、可視の波長を持つ光に変換され、変換された光はコンポジット9より発光装置11外へ放出される。
【0060】
また、演色性を高くする点で、発光装置11は出力光が400〜900nmの幅広いスペクトルを有する光を発するように構成することが好ましい。この手法としては複数の平均粒子径の超微粒子構造体をコンポジット9に含有させる他に、粒子径分布の広い超微粒子構造体1をコンポジット9に含有させる方法がある。
また、発光効率の良い発光装置11を作る点で、半導体超微粒子3の少なくとも一部のバンドギャップエネルギーを発光素子13が発するエネルギーよりも小さくしておくことが好ましい。半導体超微粒子3の全てのバンドギャップエネルギーが発光素子13が発するエネルギーよりも高い場合には半導体超微粒子3は発光素子が発する光エネルギーを吸収することができず、発光装置の効率が著しく低下する。
【0061】
本発明の発光装置集合体11は、以上説明した発光装置11を複数具備してなるであり、電力効率が高く、長寿命の演色性が高い白色発光装置集合体を作ることができる。
【0062】
以下に、本発明の超微粒子構造体の製造方法について、詳細に説明する。図1に示す超微粒子構造体1は、半導体超微粒子3と配位結合が可能な珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物5とを混合し、加熱しながら攪拌することで製造することができる。半導体超微粒子3はアルキル基を主体とし官能基を具備する化合物を溶媒としてホットソープ法あるいはマイクロリアクター法で作製することが可能である。このアルキル基を主体とする化合物には例えばトリオクチルフォスフィンオキシドあるいはドデシルアミン等を使用することができる。配位結合が可能な珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物は前述のようなものを使用することができる。半導体超微粒子3と化合物5を混合し、加熱しながら攪拌することで半導体超微粒子3の表面に配位結合していたトリオクチルフォスフィンオキシドやドデシルアミンを化合物5と交換し、半導体超微粒子3の表面に化合物5を配位結合させて超微粒子構造体1を得ることができる。このとき、加熱は必要に応じて行なえばよく、室温で化合物5を半導体超微粒子3の表面に配位結合させることが可能であれば加熱は行なわなくても良い。
【0063】
液状で未硬化のコンポジット9は未硬化の樹脂もしくは溶剤で可塑性を持たせた樹脂に超微粒子構造体1を混合することにより製造することができる。未硬化の樹脂としては例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂が使用できる。これらの樹脂は2液を混合して硬化させるタイプのものであっても1液で硬化するタイプのものであっても良く、2液を混合して硬化させるタイプの場合、両液にそれぞれ超微粒子構造体1を混練しても、どちらか片方の液に超微粒子構造物1を混練してもかまわない。また、溶剤で可塑性を持たせた樹脂としては、例えばアクリル樹脂を使用することができる。
【0064】
硬化したコンポジット9は未硬化のコンポジット9をフィルム状に成形したり、所定の型に流し込んで固めることで得られる。樹脂を硬化させる方法としては熱エネルギーや光エネルギーを使う方法がある他、溶剤を揮発させる方法がある。
【0065】
本発明の発光装置11はコンポジット9を配線基板17に搭載した発光素子13上に設置することにより得られる。コンポジット9を発光素子13上に設置する方法としては硬化したコンポジット9を発光素子13上に設置することが可能であるほか、液状の未硬化のコンポジット9を発光素子13上に設置した後、硬化させて設置することも可能である。
【0066】
本発明の発光装置集合体は、発光装置11を基板上に複数個ならべて配置することにより得られる。この場合、基板には予め電極を形成しておき、発光装置11を金属ろう材で接続して得ることができる。基板としては例えばプリント基板が、また、金属ろう剤としては、例えば半田を使用することができる。
【0067】
なお、以上の説明では、ナノサイズの半導体超微粒子3を用いた超微粒子構造体、コンポジット9、発光素子13について説明したが、ナノサイズの半導体超微粒子3に代えて、ミクロンサイズの蛍光体(例えば、平均粒径0.1μm以上の蛍光体)を用いる場合にも同様にして適用可能である。ミクロンサイズの蛍光体は、粒径を除いて、半導体超微粒子3と同様であるが、それぞれに次のような特徴がある。ナノサイズの半導体超微粒子3の場合には粒径の異なるものを数種類使用することにより演色性の高い発光装置を製造することが可能である。また、ミクロンサイズの蛍光体の場合には、蛍光体の粒径により発光波長が変化せず、粒径の管理を細かく行う必要が無いため容易に発光装置を製造することができる。
また、ナノサイズの半導体超微粒子3とミクロンサイズの蛍光体とを併用することも可能である。
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
まず、青、赤、緑の蛍光を発する3種類の蛍光体を準備した。これらの蛍光体表面に珪素−酸素を繰り返し持ち、アミノ基を官能基に持ち、官能基の付かない側鎖がメチル基の化合物5(珪素―酸素の繰り返し数:70、分子量:約5000、官能基の数:1個/分子)を結合する処理を行った。使用した蛍光体は粒子径5.5μmの(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu(青色)、粒子径6.3μmのLa22S:Eu(赤色)、粒子径5.8μmのBaMgAl1017:Eu,Mn(緑色)である。処理の方法は化合物5の1gにトルエンを99g加えてよく攪拌し、これに10gの蛍光体(配合割合は重量比で青:赤:緑=2:1:1である)を浸漬して60℃で2時間攪拌し、ろ紙でろ過した後、真空乾燥してトルエンを除いた。
これを2液熱硬化タイプのシリコーン樹脂(縮合硬化型、硬化条件室温24時間、粘度5.2Pa・s)の主剤100gと攪拌脱泡機で混合した後、このシリコーン樹脂の硬化剤0.1gを加え、さらに攪拌脱法機で混合して未硬化のコンポジットとした。これをガラス板上に厚み2mmになるように流し込み、真空引きして脱泡した後、80℃で2時間かけて加熱硬化させてガラス板から剥がした。この様にして青、赤、緑色の3種類の蛍光体が入った硬化済みのシリコーン樹脂コンポジットを得た。これを直径2mmの円形に切り取り、サイズ0.35mm×0.35mm、ピーク発光波長395nmの光を発するInGaN発光素子(通電電流20mAにおいて6.5mW)上に載せて時間を500時間まで変えてその発光強度を測定した。
【0070】
[比較例1]
化合物5に代えて、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた他は実施例1と同様にして、シリコーン樹脂コンポジットを得た。すなわち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1gこれをエタノール99gに加えてよく攪拌し、これに前記3種類の青、赤、緑色の蛍光体を浸漬して、60℃で2時間攪拌した後、これをろ過、真空乾燥してエタノールを取り除いた。これを2液熱硬化タイプのシリコーン樹脂の主剤と攪拌脱泡機で混合した後、シリコーン樹脂の硬化剤を加えてさらに攪拌脱法機で混合して未硬化のコンポジットとした。これをガラス板上に厚み2mmになるように流し込み、真空引きして脱泡した後、80℃で2時間かけて加熱硬化させてガラス板から剥がして青、赤、緑色の3種類の蛍光体が入った硬化済みのシリコーン樹脂コンポジットを得た。このコンポジットの発光強度を実施例1と同様にして測定した。
【0071】
[比較例2]
化合物5に代えて、エチレングリコールイソプロピルエーテルを用いた他は実施例1と同様にして、シリコーン樹脂コンポジットを得た。すなわち、エチレングリコールイソプロピルエーテル1gをエタノール99gに加えてよく攪拌し、これに前記3種類の青、赤、緑色の蛍光体を浸漬して、60℃で2時間攪拌した後、これをろ過、真空乾燥してエタノールを取り除いた。これを2液熱硬化タイプのシリコーン樹脂の主剤と攪拌脱泡機で混合した後、シリコーン樹脂の硬化剤を加えてさらに攪拌脱法機で混合して未硬化のコンポジットとした。これをガラス板上に厚み2mmになるように流し込み、真空引きして脱泡した後、80℃で2時間かけて加熱硬化させてガラス板から剥がして青、赤、緑色の3種類の蛍光体が入った硬化済みのシリコーン樹脂コンポジットを得た。このコンポジットの発光強度を実施例1と同様にして測定した。
蛍光強度の測定結果を表1に示す。試料番号1は化合物5を蛍光体表面に結合させた試料である。この試料では発光強度が0時間で発光効率は20Lm/Wであったものが500時間でも20Lm/Wと高い蛍光強度を維持した。これに対して比較例の試料番号3では蛍光強度が0時間では試料番号1の場合と変わらない値20Lm/Wであったのに対して、500時間後には5Lm/Wにまで低下した。この時のコンポジットを確認したところ、コンポジット内部の発光素子に近い部分が黄色に変色していた。また、比較例の試料番号2では蛍光強度が0時間では試料番号1の場合と変わらない値20Lm/Wであったのに対して、500時間後には15にまで低下した。この時のコンポジットを確認したところ、コンポジットが白濁しており、内部を監察すると発光素子に近い部分に気泡が発生していた。
【表1】

【実施例2】
【0072】
まず、半導体超微粒子であるCdSeの超微粒子を製造する方法について説明する。関東化学社製のSe粉末7.9g(0.1M)をトリオクチルフォスフィン(TOP)250gに溶解させ、これを溶液1とする。次に、関東化学社製の7.6g(0.1M)の硫化ナトリウムをトリオクチルフォスフィン(TOP)250gに溶解させ、これを溶液2とする。
次に、関東化学社製の酢酸カドミウム5.3g(0.02M)及びステアリン酸100gを混合し、130℃にて溶解させた。この溶液にトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)を400g加え300℃に加熱し、溶解させた。
この溶液に、先程の溶液1を添加して300℃の条件で反応させる。反応終了後、室温に冷却した。冷却した溶液に、さらに、トルエンを200g加えて均一に混合した後、さらにエタノールを加えて遠心分離機で10分間1500Gの加速度をかけて、セレン化カドミウム粒子を沈殿させた。次に、このセレン化カドミウム粒子に酢酸亜鉛3.7g(0.02M)及びステアリン酸100gを混合し、130℃にて溶解させた。この溶液にトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)を400g加え、300℃に加熱し、溶液2を添加した後、室温に冷却した。これに、トルエンを200g加えて均一に混合した後、さらにエタノールを加えて遠心分離機で10分間1500Gの加速度をかけて硫化亜鉛で表面を被覆したコアシェル構造のセレン化カドミウム粒子を沈殿させた。
沈殿物を回収して得られたセレン化カドミウム半導体超微粒子3は平均粒子径3nmであることをTEMにより確認した。また、このセレン化カドミウム半導体超微粒子3に紫外線を当てたときの蛍光色は黄色であった。また、蛍光ピークの中心発光波長は580nmであった。
次に、前記のようにして得られたセレン化カドミウム半導体超微粒子3を2mgずつ3つに分けて量り取り、これに前記一般式(a)に示すアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、エステル基(図示せず)、エーテル基(図示せず)を官能基に持つ珪素−酸素を繰り返し持ち、官能基の付かない側鎖がメチル基の化合物5をそれぞれ各2gずつ加えた。これを窒素雰囲気中で90℃に加熱した状態で20時間攪拌した。攪拌が終了すると、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基の溶液はいずれもオレンジ色の液体状態となった。また、アミド基、ビニル基のものの溶液はオレンジ色になったものの、一部のセレン化カドミウムは沈殿物として化合物5が配位結合せずに残っていた。
【0073】
次に、このように処理したセレン化カドミウム半導体超微粒子3からセレン化カドミウム半導体超微粒子3と配位結合していない余分な珪素−酸素を繰り返し持つ化合物5の除去を行なった。すなわち、先のオレンジ色の液体にクロロホルムを2g加えて攪拌した後、メタノールを10g加えて攪拌した。この溶液が白濁したのを確認してから遠心分離機で30分間1500Gの加速度をかけて半導体超微粒子を沈殿させた。その後、上澄み液のクロロホルム及びメタノール溶液をスポイドで除去した。この操作を3回繰り返して珪素−酸素を繰り返し持つ化合物を除去して超微粒子構造体1を得た。
【0074】
超微粒子構造体1のセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定した。使用した透過型電子顕微鏡はJEOL製JEM2010Fであり、以下の手順で加速電圧200kVの観察を行った。上記のようにして沈殿させたセレン化カドミウム半導体超微粒子3をサンプル瓶にとり、粒子濃度が0.002〜0.02モル/リットルの範囲となる量のIPAやトルエンを加えて分散させた。これをTEM観察用マイクログリッドですくい取り、乾燥後、透過型電子顕微鏡にセットした。粒子径の測定は格子像より粒子を確認して行った。まず、粒子がメッシュに付着している部分を低倍率で探した。この時、セレン化カドミウム半導体超微粒子3が多く付着している部分は粒子が電子線の方向に重なっているため粒子径の測定には適さない。また、マイクログリッドのCuメッシュの部分に付着しているセレン化カドミウム半導体超微粒子3も格子像が観察できないため粒子径の観察には適さない。従って、粒子径を測定するセレン化カドミウム半導体超微粒子3はマイクログリッドの樹脂の部分にある極力重なりの少ない部分を選んで行なった。次に、この部分を1,000,000倍程度に拡大して格子像の確認を行なう。
このとき、セレン化カドミウム半導体超微粒子3の周囲に合成時に使用した有機成分が多く残っている場合には格子像がぼやけてしまうため、粒子径を正しく測定することができない。このような場合には場所を変えて観察を行なうか、場合によっては合成時の有機成分の除去を繰り返し行なったサンプルを準備しなおして観察を行なった。
合成時の有機成分の除去は、沈殿させたセレン化カドミウム半導体超微粒子3にクロロホルム、トルエンもしくはヘキサンを加えて超音波で分散させた後、ここにアルコール(例えばエタノール)を加えて、遠心分離機にかけることで行なうことができる。合成時の有機成分は上澄みのエタノールに溶解し、セレン化カドミウム半導体超微粒子3は沈殿する。必要に応じてこの操作を繰り返した。このようにして合成時に使用した有機成分の付着の少ないセレン化カドミウム半導体超微粒子3を探し出した後、この部分を倍率4,000,000倍として格子像の写真撮影を行なった。このとき電子線を長く当て続けるとセレン化カドミウム半導体超微粒子3は移動してしまうため、速やかに撮影を行なった。
セレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径は撮影した格子像200個の直径を元に以下の方法で処理することにより求めた。
測定した格子像の直径を、ヒストグラムを書いて統計的に計算することで、長さ平均直径を算出した。長さ平均直径の算出方法は、直径区に属する個数をカウントし、直径区の中心値と個数のそれぞれの積の和を、測定した格子像の個数の総数で割るという方法を用いた(平均粒子径の形状とその計算式、「セラミックの製造プロセス」p.11〜12、窯業協会編集委員会講座小委員会編)。このようにして計算した長さ平均直径をセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径とみなした。
なお、格子像がぼやけている粒子は除いて測長を行なった。各々の格子像の直径は径の長い部分または短い部分に偏って測長することが無い様に、全ての格子像を写真紙に対して同一の方向に測長した。また、透過型電子顕微鏡による観察を行なう前にSEM(500〜100,000倍)による観察を行い、μmオーダーの大きな粒子が存在しないことを確認している。
【0075】
得られた超微粒子構造体1を真空乾燥した後、実施例1と同じ2液熱硬化タイプのシリコーン樹脂と混合して液状の未硬化のコンポジットとした。これを厚み10mmの蛍光測定用セルに流し込み、80℃で2時間加熱硬化させて硬化済みのコンポジットを得た。これらのコンポジットは前記いずれの珪素−酸素を繰り返し持つ化合物においても、紫外線を当てたときの蛍光色は黄色を放った。
【0076】
これらのコンポジットの蛍光強度を実施例1と同様にして測定した。その測定結果を表2に示す。試料No.4の官能基がアミノ基(−NH2)、試料No.5のメルカプト基(−SH)、試料No.6のカルボキシル基(−COOH)の場合は蛍光強度がいずれも0.9と高い値を示した。このとき、試料No.4の官能基がアミノ基(−NH2)のものには信越化学工業製の変性シリコーンオイルKF-865を使用し、試料No.5のメルカプト基(−SH)のものには信越化学工業製の変性シリコーンオイルX−22−167Bを使用し、試料No.6のカルボキシル基(−COOH)のものには信越化学工業製の変性シリコーンオイルX−22−162Cを使用した。
また、試料No.7のエステル基(−COO−)は蛍光強度が0.5、試料No.8のエーテル基(−COC−)は蛍光強度が0.4となった。このとき、試料No.7の官能基がエステル基(−COO−)のものには信越化学工業製の変性シリコーンオイルKF−910を使用した。試料No.8の官能基がエーテル基(−COC−)の変性シリコーンオイルは表2記載の構造を有する。
また、比較例として、官能基がアルキル基である変性シリコーンオイル(信越化学工業製KF−414)で処理した場合にはほぼ完全に半導体超微粒子が沈殿してしまったため、シリコーン樹脂と混合するまでにいたらなかった。
【表2】

【0077】
他の比較例として、実施例において前述の化合物5で処理する前のセレン化カドミウム粒子0.01gを量り取り、これにトルエン20gを加えた。このセレン化カドミウム粒子の表面には半導体超微粒子を作製する工程で溶媒として使用したTOPOが配位結合している。
また、珪素−酸素の結合が1つのみの、下記式に示す化合物を、エタノールと水の混合溶液に半導体微粒子を分散させた混合溶液に添加し、乾燥して、半導体微粒子の表面に比較例の化合物を結合させて、比較例の半導体超微粒子を作製した。この比較例の半導体超微粒子0.01gを量り取り、これにトルエン20gを加えた。
【化3】


また、前述のアミノ基を官能基とする超微粒子構造体1を0.01g量り取り、これにトルエン20gを加えた。これらのトルエン溶液の蛍光強度をトルエン溶液調整直後とトルエン溶液調整から14日後に測定し、大気中の水分による蛍光強度の低下を調べた。蛍光の波長及び強度の測定はSHIMAZU製PF−5300PCで行った。
結果を表3に示す。表3に示されるように、本発明の比較例である試料No.9、10では、トルエン溶液調整直後の蛍光強度が0.9であったものが、試料No.9では14日後に0.7となり、また、試料No.10では14日後に0.7となり、蛍光強度の低下が見られた。また、試料No.11は、試料No.4と同様にして作製した超微粒子構造体1を0.01g量り取りこれにトルエン20gを加えたものである。この試料ではトルエン溶液調整直後およびトルエン溶液調整から14日後の蛍光強度はいずれも0.9であり、蛍光強度の低下は見られなかった。
【表3】

【0078】
次に、前記一般式(b)に示すように、官能基Xがアミノ基で且つ官能基の付かない側鎖Yがそれぞれエチル基およびn−プロピル基である化合物5を用いて、前記と同じ操作を行なった。
このときセレン化カドミウムと化合物5を混合し、90℃に加熱した状態で20時間攪拌した後、溶液はオレンジ色となった。これを前記と同じ方法でシリコーン樹脂と混合し、セル中で硬化させた。これらのコンポジットの蛍光強度を測定すると表4のようになった。試料No.12は表1の試料No.1と同一の試料である。また、官能基の付かない側鎖がエチル基の試料No.13と、官能基の付かない側鎖がn−プロピル基の試料No.14はいずれも蛍光強度が0.9であった。
【表4】


次に、アルミナ基板上に中心発光波長395nmの発光素子をフリップチップ実装法にて実装した。これに、官能基がアミノ基で官能基の付かない側鎖がメチル基である化合物をセレン化カドミウム半導体超微粒子3に配位結合させた超微粒子構造体1とシリコーン樹脂を混合して厚み1mmのコンポジットを作製した。この時、コンポジット内部のセレン化カドミウム半導体超微粒子3の分散状態および粒子径はTEMにより確認した。まず、分散状態はコンポジットを割り、その破断面をSEMにより500〜100,000倍で観察した。このとき、セレン化カドミウム半導体超微粒子3が均一に分散している場合は倍率が低いため樹脂中に粒子を見つけることが出来ない。続いて、このコンポジットをミクロトームで厚み30〜200nmを目安として薄切片加工した。切片の厚みはセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径により使い分けることが望ましく、粒子径の5〜10倍を目安とするとセレン化カドミウム半導体超微粒子3をきれいに観察することが出来た。この時コンポジットがやわらかい場合には、薄い切片を得ることが出来ず、液体窒素で冷却して厚み50nmを狙って切片加工を行なった。この切片のナノ蛍光体粒子の部分を透過型電子顕微鏡で観察し、格子像を倍率4,000,000倍で写真撮影した。透過型電子顕微鏡はJEOL製JEM2010Fを使用し、加速電圧200kVの条件で観察を行った。セレン化カドミウム半導体超微粒子3の凝集の有無を再度500,000倍で確認した後、倍率を4,000,000倍としてセレン化カドミウム半導体超微粒子3の格子像の観察を行なった。このときセレン化カドミウム半導体超微粒子3は樹脂で完全に固定化されているためか、合成後のセレン化カドミウム半導体超微粒子3を観察した時に比べて電子線を長く当て続けても粒子が移動するようなことは無かった。
また、格子像の確認できたナノ蛍光体粒子200個を選び、各々のナノ蛍光体粒子の格子像の直径を測長した。測定した格子像の直径を、前記と同様にしてヒストグラムを書いて統計的に計算することで、長さ平均直径を算出し、これをセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径とみなした。
このとき、格子像の直径は径の長い部分または短い部分に偏って測長することが無い様に、全ての格子像を写真紙に対して同一の方向に測長した。このようにして求めたコンポジット中のセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径は合成時のセレン化カドミウム半導体超微粒子3の粒子径と変わることはなかった。
次に、このコンポジットで発光素子を覆うようにかぶせて接着し、発光装置を得た。この発光装置の発光効率は30Lm/Wであった。これに対して、上記化合物5を用いずにセレン化カドミウム半導体超微粒子3をシリコーン樹脂に混合したものを厚み1mmのコンポジットに形成した場合、得られた発光装置の発光効率は10Lm/Wであった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(a)は本発明の超微粒子構造物の一例を示す模式図、(b)はその部分拡大図である。
【図2】本発明の超微粒子構造物に用いる化合物の一例を示す分子構造である。
【図3】本発明のコンポジットを示す模式図である。
【図4】本発明の発光装置の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1・・・超微粒子構造体
3・・・半導体超微粒子
5・・・化合物
5a・・・主鎖
5b・・・側鎖
5c・・・官能基を有する側鎖
7・・・樹脂マテリアル
9・・・コンポジット
13・・・発光素子
11・・・発光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物が蛍光体表面を被覆していることを特徴とする蛍光構造体。
【請求項2】
前記蛍光体が半導体粒子であることを特徴とする請求項1記載の蛍光構造体。
【請求項3】
前記化合物が、蛍光体表面に配位結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光構造体。
【請求項4】
前記化合物の珪素−酸素の繰り返し単位数が5〜500であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光構造体。
【請求項5】
前記蛍光体が、平均粒子径10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光構造体。
【請求項6】
前記化合物が、アミノ基、メルカプト基、カルボシキル基、アミド基、エステル基、ケトン基、フォスフォキシド基、スルフォキシド基、フォスフォン基、イミン基、ビニル基、ヒドロキシ基およびエーテル基から選ばれた1つ以上の官能基を含有する側鎖を具備することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の蛍光構造体。
【請求項7】
前記化合物が、前記官能基を含有する側鎖を2つ以上具備することを特徴とする請求項6に記載の蛍光構造体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の側鎖以外に、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、炭素数が3〜8のシクロアルキル基、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルコキシ基および炭素数が3〜8のシクロアルキルオキシ基から選ばれる少なくとも1つの側鎖を具備することを特徴とする請求項6または7に記載の蛍光構造体。
【請求項9】
前記蛍光体が、光ルミネッセンス機能を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の蛍光構造体。
【請求項10】
前記蛍光体が、II−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からからなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の蛍光構造体。
【請求項11】
前記蛍光体がコアシェル構造を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の蛍光構造体。
【請求項12】
珪素−酸素の結合を2つ以上繰り返す化合物が、半導体超微粒子を被覆していることを特徴とする超微粒子構造体。
【請求項13】
前記化合物が半導体超微粒子表面に配位結合していることを特徴とする請求項12に記載の超微粒子構造体。
【請求項14】
前記化合物の珪素−酸素の繰り返し単位数が5〜500であることを特徴とする請求項12又は13に記載の超微粒子構造体。
【請求項15】
前記半導体超微粒子が、平均粒子径0.5〜20nmであることを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の超微粒子構造体。
【請求項16】
前記化合物が、アミノ基、メルカプト基、カルボシキル基、アミド基、エステル基、ケトン基、フォスフォキシド基、スルフォキシド基、フォスフォン基、イミン基、ビニル基、ヒドロキシ基およびエーテル基から選ばれた1つ以上の官能基を含有する側鎖を具備することを特徴とする請求項12乃至15のいずれかに記載の超微粒子構造体。
【請求項17】
前記化合物が、前記官能基を含有する側鎖を2つ以上具備することを特徴とする請求項16に記載の超微粒子構造体。
【請求項18】
請求項16または17に記載の側鎖以外に、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルキル基、炭素数が3〜8のシクロアルキル基、炭素数が1〜7の直鎖もしくは分枝したアルコキシ基または炭素数が3〜8のシクロアルキルオキシ基から選ばれる少なくとも1つの側鎖を具備することを特徴とする請求項16又は17に記載の超微粒子構造体。
【請求項19】
前記半導体超微粒子が、光ルミネッセンス機能を有することを特徴とする請求項12乃至18のいずれかに記載の超微粒子構造体。
【請求項20】
前記半導体超微粒子が、II−IV族化合物半導体またはIII−V族化合物半導体からからなることを特徴とする請求項12乃至19のいずれかに記載の超微粒子構造体。
【請求項21】
前記半導体超微粒子が、コアシェル構造よりなることを特徴とする請求項12乃至20のいずれかに記載の超微粒子構造体。
【請求項22】
請求項1乃至11のいずれかに記載の蛍光構造物または請求項12乃至21のいずれかに記載の超微粒子構造体を、樹脂マトリックス中に分散させたことを特徴とするコンポジット。
【請求項23】
組成が異なる少なくとも2種類の蛍光構造物または半導体超微粒子を含有することを特徴とする請求項22に記載のコンポジット。
【請求項24】
前記樹脂マトリックスが液状樹脂であることを特徴とする請求項22又は23に記載のコンポジット。
【請求項25】
屈折率が1.7以上であることを特徴とする請求項22乃至24のいずれかに記載のコンポジット。
【請求項26】
前記樹脂マトリックスが熱エネルギーにより硬化するものであることを特徴とする請求項22乃至25のいずれかに記載のコンポジット。
【請求項27】
前記樹脂マトリックスが光エネルギーにより硬化するものであることを特徴とする請求項22乃至25のいずれかに記載のコンポジット。
【請求項28】
前記樹脂マトリックスが、主鎖に珪素−酸素結合を含む高分子樹脂を含有することを特徴とする請求項22乃至27のいずれかに記載のコンポジット。
【請求項29】
可視光の波長の範囲で少なくとも2つの強度ピークを持つ蛍光を発することを特徴とする請求項22乃至28のいずれかに記載のコンポジット。
【請求項30】
基板上に設けられ励起光を発する発光素子と、この発光素子の前面に位置し前記励起光の波長を変換して前記励起光と異なる波長の出力光を発する請求項22乃至29のいずれかに記載のコンポジットとを備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項31】
前記出力光が、発光波長400〜900nmのスペクトルを有することを特徴とする請求項30記載の発光装置。
【請求項32】
前記半導体超微粒子の少なくとも一部のバンドギャップエネルギーが、発光素子が発するエネルギーよりも小さいことを特徴とする請求項30又は31に記載の発光装置。
【請求項33】
請求項30乃至32のいずれかに記載の発光装置を複数具備してなることを特徴とする発光装置集合体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−321966(P2006−321966A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280441(P2005−280441)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】