蛍光X線検出装置及び蛍光X線検出方法
【課題】X線レンズの集中スポットを小さくすることなく、蛍光X線分析の空間分解能をより向上させることができる蛍光X線検出装置及び蛍光X線検出方法を提供する。
【解決手段】蛍光X線検出装置は、X線管(X線源)11からの一次X線を集中スポット(第1空間)に集中させる第1X線レンズ12の焦点の位置と、取り込みスポット(第2空間)からの蛍光X線を集光してX線検出器(検出手段)21に検出させる第2X線レンズ22の焦点の位置とを、集中スポット及び取り込みスポットが重なる範囲内で離隔してある。集中スポットと取り込みスポットとが重なった検出領域からの蛍光X線のみが検出され、検出領域の大きさが空間分解能となる。集中スポットの大きさが空間分解能となる従来の蛍光X線検出装置に比べて、蛍光X線分析の空間分解能を向上させることが可能となる。
【解決手段】蛍光X線検出装置は、X線管(X線源)11からの一次X線を集中スポット(第1空間)に集中させる第1X線レンズ12の焦点の位置と、取り込みスポット(第2空間)からの蛍光X線を集光してX線検出器(検出手段)21に検出させる第2X線レンズ22の焦点の位置とを、集中スポット及び取り込みスポットが重なる範囲内で離隔してある。集中スポットと取り込みスポットとが重なった検出領域からの蛍光X線のみが検出され、検出領域の大きさが空間分解能となる。集中スポットの大きさが空間分解能となる従来の蛍光X線検出装置に比べて、蛍光X線分析の空間分解能を向上させることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次X線を集中して照射し、発生する蛍光X線を集光して検出する蛍光X線検出装置及び蛍光X線検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、一次X線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料に含有される元素の定性分析又は定量分析を行う分析手法である。一次X線を試料上の微小部分に集中し、一次X線が集中した部分から発生する蛍光X線を検出し、更に集中した一次X線で試料を走査することにより、試料に含まれる元素の空間的な分布を調べることができる。試料に一次X線を集中して照射する方法としては、X線レンズを用いる方法がある。X線レンズは、入射されたX線を内部で全反射させながら集光する光学素子である。X線レンズを用いることにより、一次X線を試料上の微小部分に集中して照射することができる。
【0003】
更に、試料上の微小部分の分析をより高感度で行うために、共焦点蛍光X線分析の手法が開発されている。特許文献1には、共焦点蛍光X線分析の例が開示されている。共焦点蛍光X線分析では、2個のX線レンズを、両方の焦点が試料上で一致するように配置しておく。一方のX線レンズは、一次X線を試料上の焦点に集中し、焦点から発生した蛍光X線は、他方のX線レンズで取り込まれて集光される。他方のX線レンズで取り込んだ蛍光X線を検出することにより、試料上の微小空間の蛍光X線分析を高感度で行うことができる。更に試料上での焦点の位置を移動させながら蛍光X線分析を行うことにより、試料に含まれる元素の空間的な分布を高感度で分析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−33207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X線レンズの焦点に集中されるX線は、実際には一点に集中するのではなく、焦点を中心としたある程度の空間的広がりを有する集中スポットに集中する。共焦点蛍光X線分析の空間分解能は、集中スポットの大きさによって定まり、空間分解能を向上させるためには集中スポットをより小さくする必要がある。しかしながら、X線レンズの集中スポットを小さくするには技術的に限界があり、共焦点蛍光X線分析の空間分解能はある程度以上向上させることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、X線レンズの集中スポットを小さくすることなく、蛍光X線分析の空間分解能をより向上させることができる蛍光X線検出装置及び蛍光X線検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズとを備え、前記第1空間と前記第2空間とを重ねておき、前記第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する蛍光X線検出装置において、前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔してあることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、前記第1X線レンズの焦点の位置、及び/又は前記第2X線レンズの焦点の位置を移動させることにより、前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の大きさを制御する手段を更に備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、試料を保持する試料保持部と、前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の前記試料保持部に対する相対位置を変更する手段を更に備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、試料を支持するための平面上に前記第1X線レンズの光軸を投影した線と、前記平面上に前記第2X線レンズの光軸を投影した線とが交差するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、試料を支持するための平面に対して、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズの内の一方の光軸が直交し、他方の光軸が斜交するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る蛍光X線検出方法は、X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズと、該第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する検出手段とを備える蛍光X線検出装置により、前記第1空間と前記第2空間とが重なる状態で蛍光X線を検出する方法において、前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔しておき、前記第1空間と前記第2空間との重なりの部分が試料内に含まれる状態で、前記X線源から試料へX線を照射し、X線の照射により試料から発生した蛍光X線を前記検出手段で検出することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、X線源からの一次X線を第1空間に集中させる第1X線レンズの焦点の位置と、第2空間からの蛍光X線を集光して検出手段に検出させる第2X線レンズの焦点の位置とを、第1空間及び第2空間が重なる範囲内で離隔してある。試料中で第1空間及び第2空間が重なる部分からの蛍光X線が検出される。
【0014】
また本発明においては、第1空間及び第2空間が重なる部分の大きさを制御することにより、蛍光X線を検出できる領域の大きさを調整する。
【0015】
また本発明においては、第1空間及び第2空間が重なる部分と試料を保持する試料保持部との相対位置を変更することにより、蛍光X線分析を行う試料内の位置を変更する。
【0016】
また本発明においては、第1X線レンズ及び第2X線レンズを、試料を支持するための平面に対して光軸を投影した線が互いに交差するように配置する。試料上で長円状の第1空間及び第2空間が重なる部分は、平面に対して光軸を投影した線が平行になる場合に比べて、より等方的になる。
【0017】
また本発明においては、試料を支持するための平面に対して、第1X線レンズ及び第2X線レンズの内の一方の光軸が直交し、他方の光軸が斜交するように配置する。試料上で第1空間及び第2空間の一方は長円状となって他方は真円状となり、第1空間及び第2空間が重なる部分は、平面に対して光軸を投影した線が平行になる場合に比べて、より等方的になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にあっては、試料中で第1空間と第2空間とが重なる部分からの蛍光X線のみが検出されるので、蛍光X線分析の空間分解能の大きさは、第1空間と第2空間とが重なる部分の大きさとなる。第1X線レンズが一次X線を集中させる範囲である第1空間の大きさが空間分解能となる従来の蛍光X線検出装置に比べて、第1空間を小さくすることなく、蛍光X線分析の空間分解能を向上させることが可能となる。
【0019】
また本発明にあっては、蛍光X線を検出できる領域の大きさを調整することにより、蛍光X線分析の空間分解能を制御することが可能となる。
【0020】
また本発明にあっては、蛍光X線分析を行う試料内の位置を変更することにより、従来よりも細かい分解能で試料内の元素分布を調べることが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1に係る蛍光X線検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における蛍光X線の検出範囲を示す模式図である。
【図3】実施の形態1における焦点の位置関係を上から見た模式図である。
【図4】検出ユニットを移動させたときに検出できる蛍光X線の相対強度の変化例を示す特定図である。
【図5】実施の形態1における水平面内の分解能の例を示す特性図である。
【図6】実施の形態1における深さ方向の分解能の例を示す特性図である。
【図7】実施の形態2に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。
【図8】実施の形態2における検出領域を示す模式図である。
【図9】実施の形態3に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。
【図10】実施の形態3における検出領域を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る蛍光X線検出装置の構成例を示すブロック図である。図中には、X線の軌道を矢印で示している。蛍光X線検出装置は、X線を放射するX線管(X線源)11、第1X線レンズ12、第2X線レンズ22、蛍光X線を検出するX線検出器(検出手段)21、試料Sが載置される試料台(試料保持部)3を備えている。図中には、X線を矢印で示している。試料台3は、水平面上に試料Sを載置することが可能であり、試料Sを載置した状態で水平面内及び鉛直方向に移動することが可能なXYZステージである。
【0023】
X線レンズは、入射されたX線を内部で全反射させながら集光する光学素子である。X線レンズは、例えば、入射されたX線を内部で全反射させながら導光する微細なキャピラリを多数束ねてなるポリキャピラリX線レンズである。ポリキャピラリX線レンズは、多数のキャピラリの入射端が面状に並んだ入射端面に入射されたX線を通過させ、各キャピラリの向きに沿ってX線を集光し、出射端面からX線を出射する構成となっている。なお、X線レンズは、ミラーを用いてなるX線レンズ等、ポリキャピラリX線レンズ以外の形態であってもよい。X線レンズは、外部に焦点を有し、出射したX線を焦点に向けて集中させる。またX線レンズは、焦点からX線が入射される場合は、X線を取り込んで集光する一方で、焦点を外れた点からX線が入射される場合は、X線を集光しない。
【0024】
X線管11が放射した一次X線は、第1X線レンズ12へ入射され、第1X線レンズ12によって集中される。第1X線レンズ12の焦点が試料S上にある場合は、一次X線は試料S上の焦点に集中するように照射される。試料Sへの一次X線の照射によって発生した蛍光X線の内、第2X線レンズ22の焦点から発生した蛍光X線は、第2X線レンズ22によって取り込まれ、集光される。第2X線レンズ22が集光した蛍光X線は、X線検出器21が検出する。また焦点から外れた部分から発生した蛍光X線は、第2X線レンズ22は集光できず、X線検出器21は検出しない。
【0025】
X線検出器21は、検出素子としてSi素子等の半導体検出素子を用いた構成となっており、検出した蛍光X線のエネルギーに比例した電流を出力する。X線検出器21には、出力した電流を分析する分析処理部41が接続されている。分析処理部41は、X線検出器21が出力した電流を受け付け、各電流値の電流をカウントし、X線検出器21が検出した蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち蛍光X線のスペクトルを取得する処理を行う。なお、X線検出器21は、比例計数管等、半導体検出素子以外の検出素子を用いた形態であってもよい。また分析処理部41は、取得した蛍光X線のスペクトルに基づいて、蛍光X線を発生した元素の定性・定量分析を行う形態であってもよい。
【0026】
X線検出器21及び第2X線レンズ22は、一体となって検出ユニット2を構成しており、検出ユニット2は水平方向に移動可能な構成となっている。検出ユニット2には、検出ユニット2を移動させるステッピングモータ等の検出ユニット駆動部42が連結されている。また試料台3には、試料台3を移動させるステッピングモータ等の試料台駆動部43が連結されている。試料台駆動部43は、試料台3を水平面内及び鉛直方向に移動させる。検出ユニット駆動部42及び試料台駆動部43は、検出ユニット駆動部42及び試料台駆動部43の動作を制御する制御部44が接続されている。制御部44は、演算を実行する演算部、演算に伴う一時的なデータを記憶するRAM、及び本発明の濃度計測方法の処理を実行するためのプログラムを記憶するROM等から構成される。制御部44は、検出ユニット駆動部42及び試料台駆動部43の動作を制御することによって、検出ユニット2及び試料台3を移動させる処理を実行する。
【0027】
図2は、実施の形態1における蛍光X線の検出範囲を示す模式図である。第1X線レンズ12が焦点13に集中させる一次X線は、実際には一点に集中するのではなく、特定の大きさを有する集中スポット(第1空間)14に集中する。集中スポット14は、第1X線レンズ12の焦点13を内部に含み、焦点13を中心とする球形の空間である。図2中には、集中スポット14に集中する一次X線の外縁を破線で示す。集中スポット14内の各部位では、各部位における一次X線の照射強度と焦点13における一次X線の照射強度との比が所定範囲内に収まっている。例えば、集中スポット14は、焦点13に比べた照射一次X線の相対強度が0.9以上となっている空間である。集中スポット14の大きさは、第1X線レンズ12の構造及び一次X線の波長によって定まる。概ね、集中スポット14の直径は100μm以下である。集中スポット14が試料S内に存在する場合、集中スポット14内に含まれる試料Sの部分では、十分な一次X線が照射され、検出可能な蛍光X線が発生する。集中スポット14から外れた試料Sの部分では、十分な一次X線が照射されず、検出可能な蛍光X線は発生しない。
【0028】
また、第2X線レンズ22は、一次X線の照射によって発生した蛍光X線の内、焦点23から発生した蛍光X線を取り込むだけでなく、実際には特定の大きさを有する取り込みスポット(第2空間)24から発生した蛍光X線を取り込む。取り込みスポット24は、第2X線レンズ22の焦点23を内部に含み、焦点23を中心とする球形の空間である。図2中には、取り込みスポット24から発生した仮想的な蛍光X線の外縁を二点鎖線で示す。取り込みスポット24内の各部位では、各部位から発生した蛍光X線が第2X線レンズ22で取り込まれる割合と焦点23から発生した蛍光X線が第2X線レンズ22で取り込まれる割合との比が所定範囲内に収まっている。例えば、取り込みスポット24内の各部位から発生した蛍光X線の焦点23から発生した蛍光X線に比べた取り込み割合の比は0.9以上である。取り込みスポット24の大きさは、第2X線レンズ22の構造及び蛍光X線の波長によって定まる。概ね、取り込みスポット24の直径は100μm以下である。取り込みスポット24が試料S内に存在する場合、取り込みスポット24内に含まれる試料Sの部分から発生する蛍光X線は、第2X線レンズ22で取り込まれ、X線検出器21で検出される。取り込みスポット24から外れた試料Sの部分から発生した蛍光X線は、第2X線レンズ22で取り込まれず、X線検出器21では検出されない。
【0029】
図3は、実施の形態1における焦点の位置関係を上から見た模式図である。図3中には、第1X線レンズ12から照射される一次X線の外縁を実線で示し、第2X線レンズ22が取り込む仮想的な蛍光X線の外縁を二点鎖線で示す。また図3中には、集中スポット14及び取り込みスポット24を破線で示す。図3に示すように、本発明の蛍光X線検出装置は、集中スポット14及び取り込みスポット24の少なくとも一部が重なる範囲内で、第1X線レンズ12の焦点13の位置と第2X線レンズ22の焦点23の位置とを離隔してある。具体的には、検出ユニット駆動部42で検出ユニット2を移動させることによって、第2X線レンズ22の焦点23が移動し、第1X線レンズ12の焦点13の位置と第2X線レンズ22の焦点23の位置とが離隔する。図2及び図3中の検出領域5は、集中スポット14と取り込みスポット24との重なりの部分である。試料S中の各部分の内、集中スポット14に含まれる部分に一次X線が照射され、取り込みスポット24に含まれる部分から発生した蛍光X線が検出される。従って、集中スポット14及び取り込みスポット24が重なった検出領域5から発生した蛍光X線のみが第2X線レンズ22で取り込まれ、集光され、X線検出器21で検出される。検出した蛍光X線を分析処理部41で分析することにより、試料Sの内、検出領域5に含まれる部分の蛍光X線分析を行うことができる。検出領域5から発生した蛍光X線のみが検出されるので、検出領域5の大きさが蛍光X線分析の空間分解能となる。検出領域5の大きさは、集中スポット14の大きさ以下であるので、検出できる蛍光X線の強度は低下するものの、蛍光X線分析の空間分解能は、集中スポット14よりも小さくなる。従来の蛍光X線検出装置では、蛍光X線分析の分解能は、集中スポット14の大きさと同等であったのに対し、本発明では、空間分解能をより小さくすることができる。
【0030】
図4は、検出ユニット2を移動させたときに検出できる蛍光X線の相対強度の変化例を示す特定図である。図中の横軸は、検出ユニット駆動部42を用いて検出ユニット2を移動させた移動距離を示し、移動距離0の位置は第2X線レンズ22の焦点23が第1X線レンズ12の焦点13に一致した位置にある状態を示す。また移動距離のプラスとマイナスとは検出ユニット2を移動させる向きが互いに逆になっていることを示す。図中の縦軸は、X線検出器21で検出した蛍光X線の相対強度を示す。蛍光X線の相対強度は、移動距離0での蛍光X線の強度を1とした相対強度となっている。図4に示した例は、一次X線としてニッケルのKα線を用いた実験例である。検出ユニット2の移動距離が大きくなるほど、焦点間の距離が大きくなり、検出領域5の面積が小さくなるので、蛍光X線の相対強度は小さくなる。また移動距離がプラスの場合とマイナスの場合とで、蛍光X線の強度の減衰は同等となっている。これにより、集中スポット14及び取り込みスポット24の形状が点対称であることが推測される。
【0031】
図5は、実施の形態1における水平面内の分解能の例を示す特性図である。図中の横軸は検出ユニット2を移動させた移動距離を示し、図中の縦軸は、水平面内の分解能を示す。図5に示した例は、一次X線としてニッケルのKα線を用いた実験例である。分解能は標準試料の蛍光X線分析により測定した。第2X線レンズ22の焦点23が第1X線レンズ12の焦点13に一致した位置にある移動距離0の位置で分解能は最大となり、検出ユニット2の移動距離が大きくなるほど、分解能の大きさは小さくなる。即ち、第2X線レンズ22の焦点23を第1X線レンズ12の焦点13から離隔するほど、水平面内での蛍光X線分析の分解能を小さくすることができる。
【0032】
図6は、実施の形態1における深さ方向の分解能の例を示す特性図である。図中の横軸は検出ユニット2を移動させた移動距離を示し、図中の縦軸は、深さ方向の分解能を示す。図6に示した例は、一次X線としてニッケルのKα線を用いた実験例である。分解能は標準試料の蛍光X線分析により測定した。水平方向の分解能と同様に、第2X線レンズ22の焦点23が第1X線レンズ12の焦点13に一致した位置にある移動距離0の位置で分解能は最大となり、検出ユニット42の移動距離が大きくなるほど、分解能の大きさは小さくなる。即ち、第2X線レンズ22の焦点23を第1X線レンズ12の焦点13から離隔するほど、深さ方向の蛍光X線分析の分解能を小さくすることができる。
【0033】
本発明の蛍光X線検出装置は、標準試料を用いてX線検出器21で検出できる蛍光X線の強度を測定しながら、検出ユニット駆動部42で検出ユニット2を移動させることにより、第2X線レンズ22の焦点23の位置を調整する。このような第2X線レンズ22の焦点23の位置の調整を蛍光X線測定の前に行うことにより、蛍光X線検出装置は、所望の分解能が得られるように検出領域5の位置及び大きさを予め調整しておく。制御部44は、試料台駆動部43に試料台3を移動させることにより、試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更する。試料Sを載置した試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更することにより、試料S内に検出領域5が存在する位置を変更することができる。
【0034】
蛍光X線検出装置は、試料Sを載置した試料台3を試料台駆動部43で鉛直方向に移動させ、検出領域5が試料S内に含まれる位置で試料台3の移動を停止し、X線管11に一次X線を発生させる。一次X線は第1X線レンズ12により試料S内の集中スポット14に集中して照射され、試料S内の検出領域5から発生した蛍光X線が第2X線レンズ22で集光されてX線検出器21で検出される。分析処理部41は、X線検出器21が検出した蛍光X線のスペクトルを取得する。制御部44は、試料台駆動部43に試料台3を水平方向に移動させることにより、試料Sを水平方向へ移動させる。試料Sが水平方向へ移動した後、蛍光X線検出装置は、蛍光X線の検出を再度行う。試料Sの水平方向への移動と蛍光X線の検出とを繰り返すことにより、試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得することができる。取得したスペクトルを分析することにより、試料Sの水平面内の元素分布を得ることができる。蛍光X線分析の空間分解能が従来より小さいので、従来よりも細かい分解能で試料Sの水平面内の元素分布を調べることが可能となる。
【0035】
また本発明の蛍光X線検出装置は、三次元の蛍光X線分析を行うこともできる。試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得した後、制御部44は、検出領域5が試料S内に含まれる範囲で、試料台3を試料台駆動部43で鉛直方向に移動させることにより、試料Sを鉛直方向へ移動させる。蛍光X線検出装置は、試料Sを鉛直方向へ移動させた後、試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得する。試料Sの鉛直方向への移動と試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルの取得とを繰り返すことにより、試料S内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得することができる。取得したスペクトルを分析することにより、試料S内での元素の三次元分布を得ることができる。鉛直方向の空間分解能も従来より小さいので、従来よりも細かい分解能で試料Sの元素の三次元分布を調べることが可能となる。
【0036】
更に、本発明の蛍光X線検出装置は、検出領域5の位置及び大きさを変更することにより、蛍光X線分析の分解能を変更することができる。制御部44は、予め行ってある第2X線レンズ22の焦点23の位置の調整結果に基づいて、検出ユニット駆動部42で移動させる検出ユニット2の位置と、空間分解能の大きさとの関係を求め、求めた関係を示す情報を記憶しておく。蛍光X線検出装置は、図示しない入力部を用いて使用者から空間分解能を指定する指示を受け付け、制御部44は、予め記憶している情報に基づき、所望の空間分解能が得られるように検出ユニット駆動部42で検出ユニット2の位置を制御する処理を行う。検出ユニット2の位置を変更することにより、検出領域5の位置及び大きさが変更され、蛍光X線分析の空間分解能が変更される。これにより、試料Sに応じた適切な空間分解能で蛍光X線分析を行うことが可能となる。例えば、細かい不純物が試料S内に含まれる場合は、空間分解能を小さくすることにより、不純物の試料S内での分布を調べることができる。また空間分解能を細かくする必要のない場合は、空間分解能を大きくすることにより、蛍光X線の強度が大きくなり、高感度で試料Sの蛍光X線分析を行うことができる。
【0037】
なお、本実施の形態においては、検出ユニット2を水平移動させることにより第2X線レンズ22の焦点23の位置を変更する形態を示したが、本発明の蛍光X線検出装置は、その他の方法で焦点23の位置を変更する形態であってもよい。例えば、蛍光X線検出装置は、検出ユニット2を上下移動させる形態であってもよく、検出ユニット2の傾きを変更する形態であってよい。また蛍光X線検出装置は、検出領域5の大きさ及び位置を変更するために、検出ユニット2に加えて第1X線レンズ12をも移動させる形態であってもよい。また蛍光X線検出装置は、第2X線レンズ22及びX線検出器21が一体となった検出ユニット2を移動させるのではなく、X線検出器21を固定し、第2X線レンズ22を移動させる形態であってもよい。
【0038】
また本実施の形態においては、一次X線のX線源としてX線管11を用いた形態を示したが、本発明の蛍光X線検出装置は、この形態に限るものではなく、加速器等のその他のX線源を用いた形態であってもよい。また本実施の形態においては、試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更するために試料台3を移動させる形態を示したが、本発明の蛍光X線検出装置は、この形態に限るものではなく、試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更するために第1X線レンズ及び検出ユニット2を移動させる形態であってもよい。また本実施の形態においては、本発明における試料保持部は、試料Sを載置する試料台3であるとしたが、これに限るものではなく、試料Sを固定する固定具を有する形態、又は試料Sを貼設する形態等、試料台3以外の形態であってもよい。
【0039】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。試料台3は、試料Sが載置される載置面31を有している。載置面31は、試料Sを支持するための平面である。本実施の形態においては、第1X線レンズ12及び第2X線レンズ22は、第1X線レンズ12の光軸を載置面31上に投影した線と第2X線レンズ22の光軸を載置面31上に投影した線とが交差するような位置に配置されている。図7中には、第1X線レンズ12の光軸及び第2X線レンズ22の光軸を矢印付きの実線で示しており、各光軸を載置面31上に投影した線を破線で示している。通常、試料Sは平板状に形成されているので、載置面31上と同様に、試料Sの表面においても、第1X線レンズ12の光軸を載置面31上に投影した線と第2X線レンズ22の光軸を載置面31上に投影した線とは交差するようになっている。蛍光X線検出装置のその他の部分の構成は、実施の形態1と同様である。
【0040】
図8は、実施の形態2における検出領域5を示す模式図である。図8には、試料Sの表面上の集中スポット14、取り込みスポット24及び検出領域5を上から見た図を示している。第1X線レンズ12の光軸及び第2X線レンズ22の光軸は、載置面31の法線に対して傾いているので、試料Sの表面上の集中スポット14及び取り込みスポット24の形状は、実際には真円にはならずに長円となる。図3に示す例のように第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置され、光軸を載置面31上に投影した線が平行になった状態では、長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24の長軸がほぼ平行になる。この状態では、長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24が重なった検出領域5の形状は、細長い形状になる。このため、検出領域5の長尺方向と短尺方向とで蛍光X線分析の空間分解能に差があり、長尺方向の空間分解能が悪い。本実施の形態では、光軸を載置面31上に投影した線が互いに交差しているので、集中スポット14及び取り込みスポット24の長軸は交差する。このため、図8に示すように、長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24が重なった検出領域5には、他の方向よりも極端に長くなる方向は存在せず、検出領域5の形状はより等方的になる。従って、本実施の形態では、蛍光X線分析の空間分解能には方向に応じた差は発生せず、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、空間分解能が向上する。光軸を載置面31上に投影した線が互いになす角度が直角に近いほど、検出領域5の形状はより等方的になるので、光軸を載置面31上に投影した線は直交していることが望ましい。
【0041】
一次X線を試料Sに照射したとき、試料Sで蛍光X線が発生すると同時に、一次X線が散乱した散乱X線も発生している。散乱X線は蛍光X線を利用した蛍光X線分析を阻害するので、X線検出器21で検出される散乱X線の強度は小さい方が良い。散乱X線の内では、一次X線が試料Sの表面で反射した反射X線の強度が最も大きい。このため、図3に示す例のように第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された状態では、反射X線が第2X線レンズ22へ入射され、X線検出器21で検出される散乱X線の強度は大きい。本実施の形態では、光軸を載置面31上に投影した線が互いに交差するような位置に第2X線レンズ22が配置されているので、反射X線は第2X線レンズ22へ入射し難く、X線検出器21で検出される散乱X線の強度はより小さくなる。蛍光X線の強度は、等方的であるので、本実施の形態でX線検出器21が検出する蛍光X線の強度が低下することは無い。従って、本実施の形態では、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線の強度が低下し、蛍光X線分析の精度が向上する。
【0042】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。本実施の形態においては、第2X線レンズ22は、光軸が載置面31に直交するような位置に配置されており、第1X線レンズ12は、光軸が載置面31に斜交するような位置に配置されている。図9中には、第1X線レンズ12の光軸及び第2X線レンズ22の光軸を矢印付きの実線で示している。通常、試料Sは平板状に形成されているので、第2X線レンズ22の光軸は試料Sの表面に直交する。試料Sで発生した蛍光X線の内、表面にほぼ直交する方向に出射した蛍光X線が第2X線レンズ22へ入射し、X線検出器21で検出されることとなる。蛍光X線検出装置のその他の部分の構成は、実施の形態1と同様である。
【0043】
図10は、実施の形態3における検出領域5を示す模式図である。図10には、試料Sの表面上の集中スポット14、取り込みスポット24及び検出領域5を上から見た図を示している。第2X線レンズ22の光軸は、載置面31に対して直交しているので、取り込みスポット24の形状はほぼ真円となる。長軸がほぼ平行な長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24が重なる場合に比べて、長円状の集中スポット14と真円状の取り込みスポット24とが重なった検出領域5の形状はより等方的になる。従って、本実施の形態においても、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、空間分解能が向上する。
【0044】
また、載置面31に対して傾いた方向から入射される一次X線が試料Sで反射した反射X線は、第2X線レンズ22へ入射し難い。このため、本実施の形態においても、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された状態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線の強度はより小さくなる。従って、本実施の形態でも、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線の強度が低下し、蛍光X線分析の精度が向上する。
【0045】
なお、本発明の蛍光X線検出装置は、第1X線レンズ12の光軸が載置面31に直交し、第2X線レンズ22の光軸が載置面に遮交するように第1X線レンズ12及び第2X線レンズ22が配置された形態であってもよい。この形態では、第2X線レンズ22の光軸が載置面31に直交した形態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線が増加するものの、空間分解能は同様に向上する。
【符号の説明】
【0046】
11 X線管(X線源)
12 第1X線レンズ
13 焦点
14 集中スポット(第1空間)
2 検出ユニット
21 X線検出器(検出手段)
22 第2X線レンズ
23 焦点
24 取り込みスポット(第2空間)
3 試料台(試料保持部)
31 載置面
41 分析処理部
42 検出ユニット駆動部
43 試料台駆動部
44 制御部
5 検出領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次X線を集中して照射し、発生する蛍光X線を集光して検出する蛍光X線検出装置及び蛍光X線検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、一次X線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料に含有される元素の定性分析又は定量分析を行う分析手法である。一次X線を試料上の微小部分に集中し、一次X線が集中した部分から発生する蛍光X線を検出し、更に集中した一次X線で試料を走査することにより、試料に含まれる元素の空間的な分布を調べることができる。試料に一次X線を集中して照射する方法としては、X線レンズを用いる方法がある。X線レンズは、入射されたX線を内部で全反射させながら集光する光学素子である。X線レンズを用いることにより、一次X線を試料上の微小部分に集中して照射することができる。
【0003】
更に、試料上の微小部分の分析をより高感度で行うために、共焦点蛍光X線分析の手法が開発されている。特許文献1には、共焦点蛍光X線分析の例が開示されている。共焦点蛍光X線分析では、2個のX線レンズを、両方の焦点が試料上で一致するように配置しておく。一方のX線レンズは、一次X線を試料上の焦点に集中し、焦点から発生した蛍光X線は、他方のX線レンズで取り込まれて集光される。他方のX線レンズで取り込んだ蛍光X線を検出することにより、試料上の微小空間の蛍光X線分析を高感度で行うことができる。更に試料上での焦点の位置を移動させながら蛍光X線分析を行うことにより、試料に含まれる元素の空間的な分布を高感度で分析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−33207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X線レンズの焦点に集中されるX線は、実際には一点に集中するのではなく、焦点を中心としたある程度の空間的広がりを有する集中スポットに集中する。共焦点蛍光X線分析の空間分解能は、集中スポットの大きさによって定まり、空間分解能を向上させるためには集中スポットをより小さくする必要がある。しかしながら、X線レンズの集中スポットを小さくするには技術的に限界があり、共焦点蛍光X線分析の空間分解能はある程度以上向上させることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、X線レンズの集中スポットを小さくすることなく、蛍光X線分析の空間分解能をより向上させることができる蛍光X線検出装置及び蛍光X線検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズとを備え、前記第1空間と前記第2空間とを重ねておき、前記第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する蛍光X線検出装置において、前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔してあることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、前記第1X線レンズの焦点の位置、及び/又は前記第2X線レンズの焦点の位置を移動させることにより、前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の大きさを制御する手段を更に備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、試料を保持する試料保持部と、前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の前記試料保持部に対する相対位置を変更する手段を更に備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、試料を支持するための平面上に前記第1X線レンズの光軸を投影した線と、前記平面上に前記第2X線レンズの光軸を投影した線とが交差するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る蛍光X線検出装置は、試料を支持するための平面に対して、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズの内の一方の光軸が直交し、他方の光軸が斜交するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る蛍光X線検出方法は、X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズと、該第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する検出手段とを備える蛍光X線検出装置により、前記第1空間と前記第2空間とが重なる状態で蛍光X線を検出する方法において、前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔しておき、前記第1空間と前記第2空間との重なりの部分が試料内に含まれる状態で、前記X線源から試料へX線を照射し、X線の照射により試料から発生した蛍光X線を前記検出手段で検出することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、X線源からの一次X線を第1空間に集中させる第1X線レンズの焦点の位置と、第2空間からの蛍光X線を集光して検出手段に検出させる第2X線レンズの焦点の位置とを、第1空間及び第2空間が重なる範囲内で離隔してある。試料中で第1空間及び第2空間が重なる部分からの蛍光X線が検出される。
【0014】
また本発明においては、第1空間及び第2空間が重なる部分の大きさを制御することにより、蛍光X線を検出できる領域の大きさを調整する。
【0015】
また本発明においては、第1空間及び第2空間が重なる部分と試料を保持する試料保持部との相対位置を変更することにより、蛍光X線分析を行う試料内の位置を変更する。
【0016】
また本発明においては、第1X線レンズ及び第2X線レンズを、試料を支持するための平面に対して光軸を投影した線が互いに交差するように配置する。試料上で長円状の第1空間及び第2空間が重なる部分は、平面に対して光軸を投影した線が平行になる場合に比べて、より等方的になる。
【0017】
また本発明においては、試料を支持するための平面に対して、第1X線レンズ及び第2X線レンズの内の一方の光軸が直交し、他方の光軸が斜交するように配置する。試料上で第1空間及び第2空間の一方は長円状となって他方は真円状となり、第1空間及び第2空間が重なる部分は、平面に対して光軸を投影した線が平行になる場合に比べて、より等方的になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にあっては、試料中で第1空間と第2空間とが重なる部分からの蛍光X線のみが検出されるので、蛍光X線分析の空間分解能の大きさは、第1空間と第2空間とが重なる部分の大きさとなる。第1X線レンズが一次X線を集中させる範囲である第1空間の大きさが空間分解能となる従来の蛍光X線検出装置に比べて、第1空間を小さくすることなく、蛍光X線分析の空間分解能を向上させることが可能となる。
【0019】
また本発明にあっては、蛍光X線を検出できる領域の大きさを調整することにより、蛍光X線分析の空間分解能を制御することが可能となる。
【0020】
また本発明にあっては、蛍光X線分析を行う試料内の位置を変更することにより、従来よりも細かい分解能で試料内の元素分布を調べることが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1に係る蛍光X線検出装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における蛍光X線の検出範囲を示す模式図である。
【図3】実施の形態1における焦点の位置関係を上から見た模式図である。
【図4】検出ユニットを移動させたときに検出できる蛍光X線の相対強度の変化例を示す特定図である。
【図5】実施の形態1における水平面内の分解能の例を示す特性図である。
【図6】実施の形態1における深さ方向の分解能の例を示す特性図である。
【図7】実施の形態2に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。
【図8】実施の形態2における検出領域を示す模式図である。
【図9】実施の形態3に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。
【図10】実施の形態3における検出領域を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る蛍光X線検出装置の構成例を示すブロック図である。図中には、X線の軌道を矢印で示している。蛍光X線検出装置は、X線を放射するX線管(X線源)11、第1X線レンズ12、第2X線レンズ22、蛍光X線を検出するX線検出器(検出手段)21、試料Sが載置される試料台(試料保持部)3を備えている。図中には、X線を矢印で示している。試料台3は、水平面上に試料Sを載置することが可能であり、試料Sを載置した状態で水平面内及び鉛直方向に移動することが可能なXYZステージである。
【0023】
X線レンズは、入射されたX線を内部で全反射させながら集光する光学素子である。X線レンズは、例えば、入射されたX線を内部で全反射させながら導光する微細なキャピラリを多数束ねてなるポリキャピラリX線レンズである。ポリキャピラリX線レンズは、多数のキャピラリの入射端が面状に並んだ入射端面に入射されたX線を通過させ、各キャピラリの向きに沿ってX線を集光し、出射端面からX線を出射する構成となっている。なお、X線レンズは、ミラーを用いてなるX線レンズ等、ポリキャピラリX線レンズ以外の形態であってもよい。X線レンズは、外部に焦点を有し、出射したX線を焦点に向けて集中させる。またX線レンズは、焦点からX線が入射される場合は、X線を取り込んで集光する一方で、焦点を外れた点からX線が入射される場合は、X線を集光しない。
【0024】
X線管11が放射した一次X線は、第1X線レンズ12へ入射され、第1X線レンズ12によって集中される。第1X線レンズ12の焦点が試料S上にある場合は、一次X線は試料S上の焦点に集中するように照射される。試料Sへの一次X線の照射によって発生した蛍光X線の内、第2X線レンズ22の焦点から発生した蛍光X線は、第2X線レンズ22によって取り込まれ、集光される。第2X線レンズ22が集光した蛍光X線は、X線検出器21が検出する。また焦点から外れた部分から発生した蛍光X線は、第2X線レンズ22は集光できず、X線検出器21は検出しない。
【0025】
X線検出器21は、検出素子としてSi素子等の半導体検出素子を用いた構成となっており、検出した蛍光X線のエネルギーに比例した電流を出力する。X線検出器21には、出力した電流を分析する分析処理部41が接続されている。分析処理部41は、X線検出器21が出力した電流を受け付け、各電流値の電流をカウントし、X線検出器21が検出した蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち蛍光X線のスペクトルを取得する処理を行う。なお、X線検出器21は、比例計数管等、半導体検出素子以外の検出素子を用いた形態であってもよい。また分析処理部41は、取得した蛍光X線のスペクトルに基づいて、蛍光X線を発生した元素の定性・定量分析を行う形態であってもよい。
【0026】
X線検出器21及び第2X線レンズ22は、一体となって検出ユニット2を構成しており、検出ユニット2は水平方向に移動可能な構成となっている。検出ユニット2には、検出ユニット2を移動させるステッピングモータ等の検出ユニット駆動部42が連結されている。また試料台3には、試料台3を移動させるステッピングモータ等の試料台駆動部43が連結されている。試料台駆動部43は、試料台3を水平面内及び鉛直方向に移動させる。検出ユニット駆動部42及び試料台駆動部43は、検出ユニット駆動部42及び試料台駆動部43の動作を制御する制御部44が接続されている。制御部44は、演算を実行する演算部、演算に伴う一時的なデータを記憶するRAM、及び本発明の濃度計測方法の処理を実行するためのプログラムを記憶するROM等から構成される。制御部44は、検出ユニット駆動部42及び試料台駆動部43の動作を制御することによって、検出ユニット2及び試料台3を移動させる処理を実行する。
【0027】
図2は、実施の形態1における蛍光X線の検出範囲を示す模式図である。第1X線レンズ12が焦点13に集中させる一次X線は、実際には一点に集中するのではなく、特定の大きさを有する集中スポット(第1空間)14に集中する。集中スポット14は、第1X線レンズ12の焦点13を内部に含み、焦点13を中心とする球形の空間である。図2中には、集中スポット14に集中する一次X線の外縁を破線で示す。集中スポット14内の各部位では、各部位における一次X線の照射強度と焦点13における一次X線の照射強度との比が所定範囲内に収まっている。例えば、集中スポット14は、焦点13に比べた照射一次X線の相対強度が0.9以上となっている空間である。集中スポット14の大きさは、第1X線レンズ12の構造及び一次X線の波長によって定まる。概ね、集中スポット14の直径は100μm以下である。集中スポット14が試料S内に存在する場合、集中スポット14内に含まれる試料Sの部分では、十分な一次X線が照射され、検出可能な蛍光X線が発生する。集中スポット14から外れた試料Sの部分では、十分な一次X線が照射されず、検出可能な蛍光X線は発生しない。
【0028】
また、第2X線レンズ22は、一次X線の照射によって発生した蛍光X線の内、焦点23から発生した蛍光X線を取り込むだけでなく、実際には特定の大きさを有する取り込みスポット(第2空間)24から発生した蛍光X線を取り込む。取り込みスポット24は、第2X線レンズ22の焦点23を内部に含み、焦点23を中心とする球形の空間である。図2中には、取り込みスポット24から発生した仮想的な蛍光X線の外縁を二点鎖線で示す。取り込みスポット24内の各部位では、各部位から発生した蛍光X線が第2X線レンズ22で取り込まれる割合と焦点23から発生した蛍光X線が第2X線レンズ22で取り込まれる割合との比が所定範囲内に収まっている。例えば、取り込みスポット24内の各部位から発生した蛍光X線の焦点23から発生した蛍光X線に比べた取り込み割合の比は0.9以上である。取り込みスポット24の大きさは、第2X線レンズ22の構造及び蛍光X線の波長によって定まる。概ね、取り込みスポット24の直径は100μm以下である。取り込みスポット24が試料S内に存在する場合、取り込みスポット24内に含まれる試料Sの部分から発生する蛍光X線は、第2X線レンズ22で取り込まれ、X線検出器21で検出される。取り込みスポット24から外れた試料Sの部分から発生した蛍光X線は、第2X線レンズ22で取り込まれず、X線検出器21では検出されない。
【0029】
図3は、実施の形態1における焦点の位置関係を上から見た模式図である。図3中には、第1X線レンズ12から照射される一次X線の外縁を実線で示し、第2X線レンズ22が取り込む仮想的な蛍光X線の外縁を二点鎖線で示す。また図3中には、集中スポット14及び取り込みスポット24を破線で示す。図3に示すように、本発明の蛍光X線検出装置は、集中スポット14及び取り込みスポット24の少なくとも一部が重なる範囲内で、第1X線レンズ12の焦点13の位置と第2X線レンズ22の焦点23の位置とを離隔してある。具体的には、検出ユニット駆動部42で検出ユニット2を移動させることによって、第2X線レンズ22の焦点23が移動し、第1X線レンズ12の焦点13の位置と第2X線レンズ22の焦点23の位置とが離隔する。図2及び図3中の検出領域5は、集中スポット14と取り込みスポット24との重なりの部分である。試料S中の各部分の内、集中スポット14に含まれる部分に一次X線が照射され、取り込みスポット24に含まれる部分から発生した蛍光X線が検出される。従って、集中スポット14及び取り込みスポット24が重なった検出領域5から発生した蛍光X線のみが第2X線レンズ22で取り込まれ、集光され、X線検出器21で検出される。検出した蛍光X線を分析処理部41で分析することにより、試料Sの内、検出領域5に含まれる部分の蛍光X線分析を行うことができる。検出領域5から発生した蛍光X線のみが検出されるので、検出領域5の大きさが蛍光X線分析の空間分解能となる。検出領域5の大きさは、集中スポット14の大きさ以下であるので、検出できる蛍光X線の強度は低下するものの、蛍光X線分析の空間分解能は、集中スポット14よりも小さくなる。従来の蛍光X線検出装置では、蛍光X線分析の分解能は、集中スポット14の大きさと同等であったのに対し、本発明では、空間分解能をより小さくすることができる。
【0030】
図4は、検出ユニット2を移動させたときに検出できる蛍光X線の相対強度の変化例を示す特定図である。図中の横軸は、検出ユニット駆動部42を用いて検出ユニット2を移動させた移動距離を示し、移動距離0の位置は第2X線レンズ22の焦点23が第1X線レンズ12の焦点13に一致した位置にある状態を示す。また移動距離のプラスとマイナスとは検出ユニット2を移動させる向きが互いに逆になっていることを示す。図中の縦軸は、X線検出器21で検出した蛍光X線の相対強度を示す。蛍光X線の相対強度は、移動距離0での蛍光X線の強度を1とした相対強度となっている。図4に示した例は、一次X線としてニッケルのKα線を用いた実験例である。検出ユニット2の移動距離が大きくなるほど、焦点間の距離が大きくなり、検出領域5の面積が小さくなるので、蛍光X線の相対強度は小さくなる。また移動距離がプラスの場合とマイナスの場合とで、蛍光X線の強度の減衰は同等となっている。これにより、集中スポット14及び取り込みスポット24の形状が点対称であることが推測される。
【0031】
図5は、実施の形態1における水平面内の分解能の例を示す特性図である。図中の横軸は検出ユニット2を移動させた移動距離を示し、図中の縦軸は、水平面内の分解能を示す。図5に示した例は、一次X線としてニッケルのKα線を用いた実験例である。分解能は標準試料の蛍光X線分析により測定した。第2X線レンズ22の焦点23が第1X線レンズ12の焦点13に一致した位置にある移動距離0の位置で分解能は最大となり、検出ユニット2の移動距離が大きくなるほど、分解能の大きさは小さくなる。即ち、第2X線レンズ22の焦点23を第1X線レンズ12の焦点13から離隔するほど、水平面内での蛍光X線分析の分解能を小さくすることができる。
【0032】
図6は、実施の形態1における深さ方向の分解能の例を示す特性図である。図中の横軸は検出ユニット2を移動させた移動距離を示し、図中の縦軸は、深さ方向の分解能を示す。図6に示した例は、一次X線としてニッケルのKα線を用いた実験例である。分解能は標準試料の蛍光X線分析により測定した。水平方向の分解能と同様に、第2X線レンズ22の焦点23が第1X線レンズ12の焦点13に一致した位置にある移動距離0の位置で分解能は最大となり、検出ユニット42の移動距離が大きくなるほど、分解能の大きさは小さくなる。即ち、第2X線レンズ22の焦点23を第1X線レンズ12の焦点13から離隔するほど、深さ方向の蛍光X線分析の分解能を小さくすることができる。
【0033】
本発明の蛍光X線検出装置は、標準試料を用いてX線検出器21で検出できる蛍光X線の強度を測定しながら、検出ユニット駆動部42で検出ユニット2を移動させることにより、第2X線レンズ22の焦点23の位置を調整する。このような第2X線レンズ22の焦点23の位置の調整を蛍光X線測定の前に行うことにより、蛍光X線検出装置は、所望の分解能が得られるように検出領域5の位置及び大きさを予め調整しておく。制御部44は、試料台駆動部43に試料台3を移動させることにより、試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更する。試料Sを載置した試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更することにより、試料S内に検出領域5が存在する位置を変更することができる。
【0034】
蛍光X線検出装置は、試料Sを載置した試料台3を試料台駆動部43で鉛直方向に移動させ、検出領域5が試料S内に含まれる位置で試料台3の移動を停止し、X線管11に一次X線を発生させる。一次X線は第1X線レンズ12により試料S内の集中スポット14に集中して照射され、試料S内の検出領域5から発生した蛍光X線が第2X線レンズ22で集光されてX線検出器21で検出される。分析処理部41は、X線検出器21が検出した蛍光X線のスペクトルを取得する。制御部44は、試料台駆動部43に試料台3を水平方向に移動させることにより、試料Sを水平方向へ移動させる。試料Sが水平方向へ移動した後、蛍光X線検出装置は、蛍光X線の検出を再度行う。試料Sの水平方向への移動と蛍光X線の検出とを繰り返すことにより、試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得することができる。取得したスペクトルを分析することにより、試料Sの水平面内の元素分布を得ることができる。蛍光X線分析の空間分解能が従来より小さいので、従来よりも細かい分解能で試料Sの水平面内の元素分布を調べることが可能となる。
【0035】
また本発明の蛍光X線検出装置は、三次元の蛍光X線分析を行うこともできる。試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得した後、制御部44は、検出領域5が試料S内に含まれる範囲で、試料台3を試料台駆動部43で鉛直方向に移動させることにより、試料Sを鉛直方向へ移動させる。蛍光X線検出装置は、試料Sを鉛直方向へ移動させた後、試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得する。試料Sの鉛直方向への移動と試料Sの水平面内の各部分における蛍光X線のスペクトルの取得とを繰り返すことにより、試料S内の各部分における蛍光X線のスペクトルを取得することができる。取得したスペクトルを分析することにより、試料S内での元素の三次元分布を得ることができる。鉛直方向の空間分解能も従来より小さいので、従来よりも細かい分解能で試料Sの元素の三次元分布を調べることが可能となる。
【0036】
更に、本発明の蛍光X線検出装置は、検出領域5の位置及び大きさを変更することにより、蛍光X線分析の分解能を変更することができる。制御部44は、予め行ってある第2X線レンズ22の焦点23の位置の調整結果に基づいて、検出ユニット駆動部42で移動させる検出ユニット2の位置と、空間分解能の大きさとの関係を求め、求めた関係を示す情報を記憶しておく。蛍光X線検出装置は、図示しない入力部を用いて使用者から空間分解能を指定する指示を受け付け、制御部44は、予め記憶している情報に基づき、所望の空間分解能が得られるように検出ユニット駆動部42で検出ユニット2の位置を制御する処理を行う。検出ユニット2の位置を変更することにより、検出領域5の位置及び大きさが変更され、蛍光X線分析の空間分解能が変更される。これにより、試料Sに応じた適切な空間分解能で蛍光X線分析を行うことが可能となる。例えば、細かい不純物が試料S内に含まれる場合は、空間分解能を小さくすることにより、不純物の試料S内での分布を調べることができる。また空間分解能を細かくする必要のない場合は、空間分解能を大きくすることにより、蛍光X線の強度が大きくなり、高感度で試料Sの蛍光X線分析を行うことができる。
【0037】
なお、本実施の形態においては、検出ユニット2を水平移動させることにより第2X線レンズ22の焦点23の位置を変更する形態を示したが、本発明の蛍光X線検出装置は、その他の方法で焦点23の位置を変更する形態であってもよい。例えば、蛍光X線検出装置は、検出ユニット2を上下移動させる形態であってもよく、検出ユニット2の傾きを変更する形態であってよい。また蛍光X線検出装置は、検出領域5の大きさ及び位置を変更するために、検出ユニット2に加えて第1X線レンズ12をも移動させる形態であってもよい。また蛍光X線検出装置は、第2X線レンズ22及びX線検出器21が一体となった検出ユニット2を移動させるのではなく、X線検出器21を固定し、第2X線レンズ22を移動させる形態であってもよい。
【0038】
また本実施の形態においては、一次X線のX線源としてX線管11を用いた形態を示したが、本発明の蛍光X線検出装置は、この形態に限るものではなく、加速器等のその他のX線源を用いた形態であってもよい。また本実施の形態においては、試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更するために試料台3を移動させる形態を示したが、本発明の蛍光X線検出装置は、この形態に限るものではなく、試料台3に対する検出領域5の相対位置を変更するために第1X線レンズ及び検出ユニット2を移動させる形態であってもよい。また本実施の形態においては、本発明における試料保持部は、試料Sを載置する試料台3であるとしたが、これに限るものではなく、試料Sを固定する固定具を有する形態、又は試料Sを貼設する形態等、試料台3以外の形態であってもよい。
【0039】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。試料台3は、試料Sが載置される載置面31を有している。載置面31は、試料Sを支持するための平面である。本実施の形態においては、第1X線レンズ12及び第2X線レンズ22は、第1X線レンズ12の光軸を載置面31上に投影した線と第2X線レンズ22の光軸を載置面31上に投影した線とが交差するような位置に配置されている。図7中には、第1X線レンズ12の光軸及び第2X線レンズ22の光軸を矢印付きの実線で示しており、各光軸を載置面31上に投影した線を破線で示している。通常、試料Sは平板状に形成されているので、載置面31上と同様に、試料Sの表面においても、第1X線レンズ12の光軸を載置面31上に投影した線と第2X線レンズ22の光軸を載置面31上に投影した線とは交差するようになっている。蛍光X線検出装置のその他の部分の構成は、実施の形態1と同様である。
【0040】
図8は、実施の形態2における検出領域5を示す模式図である。図8には、試料Sの表面上の集中スポット14、取り込みスポット24及び検出領域5を上から見た図を示している。第1X線レンズ12の光軸及び第2X線レンズ22の光軸は、載置面31の法線に対して傾いているので、試料Sの表面上の集中スポット14及び取り込みスポット24の形状は、実際には真円にはならずに長円となる。図3に示す例のように第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置され、光軸を載置面31上に投影した線が平行になった状態では、長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24の長軸がほぼ平行になる。この状態では、長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24が重なった検出領域5の形状は、細長い形状になる。このため、検出領域5の長尺方向と短尺方向とで蛍光X線分析の空間分解能に差があり、長尺方向の空間分解能が悪い。本実施の形態では、光軸を載置面31上に投影した線が互いに交差しているので、集中スポット14及び取り込みスポット24の長軸は交差する。このため、図8に示すように、長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24が重なった検出領域5には、他の方向よりも極端に長くなる方向は存在せず、検出領域5の形状はより等方的になる。従って、本実施の形態では、蛍光X線分析の空間分解能には方向に応じた差は発生せず、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、空間分解能が向上する。光軸を載置面31上に投影した線が互いになす角度が直角に近いほど、検出領域5の形状はより等方的になるので、光軸を載置面31上に投影した線は直交していることが望ましい。
【0041】
一次X線を試料Sに照射したとき、試料Sで蛍光X線が発生すると同時に、一次X線が散乱した散乱X線も発生している。散乱X線は蛍光X線を利用した蛍光X線分析を阻害するので、X線検出器21で検出される散乱X線の強度は小さい方が良い。散乱X線の内では、一次X線が試料Sの表面で反射した反射X線の強度が最も大きい。このため、図3に示す例のように第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された状態では、反射X線が第2X線レンズ22へ入射され、X線検出器21で検出される散乱X線の強度は大きい。本実施の形態では、光軸を載置面31上に投影した線が互いに交差するような位置に第2X線レンズ22が配置されているので、反射X線は第2X線レンズ22へ入射し難く、X線検出器21で検出される散乱X線の強度はより小さくなる。蛍光X線の強度は、等方的であるので、本実施の形態でX線検出器21が検出する蛍光X線の強度が低下することは無い。従って、本実施の形態では、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線の強度が低下し、蛍光X線分析の精度が向上する。
【0042】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3に係る蛍光X線検出装置の一部分の構成を示す模式的斜視図である。本実施の形態においては、第2X線レンズ22は、光軸が載置面31に直交するような位置に配置されており、第1X線レンズ12は、光軸が載置面31に斜交するような位置に配置されている。図9中には、第1X線レンズ12の光軸及び第2X線レンズ22の光軸を矢印付きの実線で示している。通常、試料Sは平板状に形成されているので、第2X線レンズ22の光軸は試料Sの表面に直交する。試料Sで発生した蛍光X線の内、表面にほぼ直交する方向に出射した蛍光X線が第2X線レンズ22へ入射し、X線検出器21で検出されることとなる。蛍光X線検出装置のその他の部分の構成は、実施の形態1と同様である。
【0043】
図10は、実施の形態3における検出領域5を示す模式図である。図10には、試料Sの表面上の集中スポット14、取り込みスポット24及び検出領域5を上から見た図を示している。第2X線レンズ22の光軸は、載置面31に対して直交しているので、取り込みスポット24の形状はほぼ真円となる。長軸がほぼ平行な長円状の集中スポット14及び取り込みスポット24が重なる場合に比べて、長円状の集中スポット14と真円状の取り込みスポット24とが重なった検出領域5の形状はより等方的になる。従って、本実施の形態においても、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、空間分解能が向上する。
【0044】
また、載置面31に対して傾いた方向から入射される一次X線が試料Sで反射した反射X線は、第2X線レンズ22へ入射し難い。このため、本実施の形態においても、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された状態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線の強度はより小さくなる。従って、本実施の形態でも、第1X線レンズ12と第2X線レンズ22とがほぼ向かい合わせに配置された形態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線の強度が低下し、蛍光X線分析の精度が向上する。
【0045】
なお、本発明の蛍光X線検出装置は、第1X線レンズ12の光軸が載置面31に直交し、第2X線レンズ22の光軸が載置面に遮交するように第1X線レンズ12及び第2X線レンズ22が配置された形態であってもよい。この形態では、第2X線レンズ22の光軸が載置面31に直交した形態に比べて、X線検出器21で検出される散乱X線が増加するものの、空間分解能は同様に向上する。
【符号の説明】
【0046】
11 X線管(X線源)
12 第1X線レンズ
13 焦点
14 集中スポット(第1空間)
2 検出ユニット
21 X線検出器(検出手段)
22 第2X線レンズ
23 焦点
24 取り込みスポット(第2空間)
3 試料台(試料保持部)
31 載置面
41 分析処理部
42 検出ユニット駆動部
43 試料台駆動部
44 制御部
5 検出領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズとを備え、前記第1空間と前記第2空間とを重ねておき、前記第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する蛍光X線検出装置において、
前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔してあること
を特徴とする蛍光X線検出装置。
【請求項2】
前記第1X線レンズの焦点の位置、及び/又は前記第2X線レンズの焦点の位置を移動させることにより、前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の大きさを制御する手段を更に備えること
を特徴とする蛍光X線検出装置。
【請求項3】
試料を保持する試料保持部と、
前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の前記試料保持部に対する相対位置を変更する手段を更に備えること
を特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線検出装置。
【請求項4】
試料を支持するための平面上に前記第1X線レンズの光軸を投影した線と、前記平面上に前記第2X線レンズの光軸を投影した線とが交差するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあること
を特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の蛍光X線検出装置。
【請求項5】
試料を支持するための平面に対して、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズの内の一方の光軸が直交し、他方の光軸が斜交するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあること
を特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の蛍光X線検出装置。
【請求項6】
X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズと、該第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する検出手段とを備える蛍光X線検出装置により、前記第1空間と前記第2空間とが重なる状態で蛍光X線を検出する方法において、
前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔しておき、
前記第1空間と前記第2空間との重なりの部分が試料内に含まれる状態で、前記X線源から試料へX線を照射し、
X線の照射により試料から発生した蛍光X線を前記検出手段で検出すること
を特徴とする蛍光X線検出方法。
【請求項1】
X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズとを備え、前記第1空間と前記第2空間とを重ねておき、前記第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する蛍光X線検出装置において、
前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔してあること
を特徴とする蛍光X線検出装置。
【請求項2】
前記第1X線レンズの焦点の位置、及び/又は前記第2X線レンズの焦点の位置を移動させることにより、前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の大きさを制御する手段を更に備えること
を特徴とする蛍光X線検出装置。
【請求項3】
試料を保持する試料保持部と、
前記第1空間及び前記第2空間が重なった部分の前記試料保持部に対する相対位置を変更する手段を更に備えること
を特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線検出装置。
【請求項4】
試料を支持するための平面上に前記第1X線レンズの光軸を投影した線と、前記平面上に前記第2X線レンズの光軸を投影した線とが交差するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあること
を特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の蛍光X線検出装置。
【請求項5】
試料を支持するための平面に対して、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズの内の一方の光軸が直交し、他方の光軸が斜交するように、前記第1X線レンズ及び前記第2X線レンズを配置してあること
を特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の蛍光X線検出装置。
【請求項6】
X線源と、該X線源からのX線を、焦点を含む特定の大きさの第1空間に集中させる第1X線レンズと、試料へのX線の照射によって発生する蛍光X線の内、焦点を含む特定の大きさの第2空間からの蛍光X線を集光する第2X線レンズと、該第2X線レンズが集光した蛍光X線を検出する検出手段とを備える蛍光X線検出装置により、前記第1空間と前記第2空間とが重なる状態で蛍光X線を検出する方法において、
前記第1X線レンズの焦点の位置と、前記第2X線レンズの焦点の位置とを、前記第1空間及び前記第2空間の少なくとも一部が重なる範囲内で離隔しておき、
前記第1空間と前記第2空間との重なりの部分が試料内に含まれる状態で、前記X線源から試料へX線を照射し、
X線の照射により試料から発生した蛍光X線を前記検出手段で検出すること
を特徴とする蛍光X線検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−247882(P2011−247882A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97579(P2011−97579)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月5日に、社団法人日本分析化学会 X線分析研究懇談会発行の第45回X線分析討論会にて発表
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月5日に、社団法人日本分析化学会 X線分析研究懇談会発行の第45回X線分析討論会にて発表
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
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