説明

融解分離装置

【課題】 脱水籠内における原氷の偏在を防止することにより、安定した運転を継続することのできる新規な融解分離装置の開発を技術課題とした。
【解決手段】 被処理液を凍結させて得られた原氷Cを融解させ、融解初期に生成される高濃度の融解液Lを回収することにより被処理液の濃縮処理を行う際に用いられる分離装置において、この装置は、前記原氷Cから融解液Lを遠心脱水するための脱水籠13を、回転軸が鉛直になるように具えて成るものであり、この脱水籠13内には分散盤15が具えられ、この分散盤15上に供給された原氷Cを脱水籠13の周壁13bに向けて分散させるように構成されていることを特徴として成り、分散盤15によって原氷Cに遠心力を作用させることができ、原氷Cを脱水籠13内全域に均等に分散させて、脱水籠13の回転を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結させた原材料液を融解させたときに初期の融解液と後期の融解液とで濃度が異なることを利用した融解濃縮を行う際に用いられる分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果汁、調味料等の液体食品を濃縮するための凍結濃縮方法の一つに、融解濃縮による手法がある。この手法は、原材料液を凍結させた原氷を融解させたときには、初期の融解液と後期の融解液とで融解液の濃度が異なることを利用したものであり、融解温度の低い初期の高濃度な融解液を回収することにより濃縮液を得る手法である(例えば特許文献1参照。)。
具体的には図7に示すような装置を用い、脱水籠13′内に原氷Cを投入するとともに温風により融解させながら遠心脱水を行うことにより、高濃度の融解液Lを回収するというものである。
【0003】
しかしながらこのような脱水籠13′を用いて原氷Cの遠心脱水を行うにあたっては、以下に示すような改善の余地があった。
すなわち脱水籠13′内において、原氷Cが著しく偏在してしまったときにはバランスがくずれ、洗濯機の脱水時に見られる現象と同様に脱水籠13′が暴れてしまい、脱水効率の低下や甚だしい場合には機器の損傷を招いてしまう恐れもある。
特に原氷Cは融解しながら遠心脱水が行われるため、一部が融解した原氷Cが脱水籠13′の周壁13b′の表面で再凍結して固着することもあり、いったん偏在して再凍結した原氷Cは、融解させて除去しなければ安定した運転を継続することが困難になってしまう。
また融解液Lを得た後に脱水籠13′に固着して残る氷(残留氷)を除去しなければならないが、この除去には長い時間を必要としていた。
【0004】
【特許文献1】特開2006−136811公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような背景を認識してなされたものであって、脱水籠内における原氷の偏在を防止することにより、安定した運転を継続することができ、残留氷を短時間に除去することのできる新規な融解分離装置の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の融解分離装置は、被処理液を凍結させて得られた原氷を融解させ、融解初期に生成される高濃度の融解液を回収することにより被処理液の濃縮処理を行う際に用いられる分離装置において、この装置は、前記原氷から融解液を遠心脱水するための脱水籠を、回転軸が鉛直になるように具えて成るものであり、この脱水籠内には分散盤が具えられ、この分散盤上に供給された原氷を脱水籠の周壁に向けて分散させるように構成されていることを特徴として成るものである。
この発明によれば、分散盤によって原氷に遠心力を作用させることができ、原氷を脱水籠内全域に均等に分散させて、脱水籠の回転を安定させることができる。
【0007】
また請求項2記載の融解分離装置は、前記要件に加え、前記分散盤は、縦断面視において中心部から外周部にかけて迫り上がる形状を有するものであることを特徴として成るものである。
この発明によれば、分散盤上における原氷の移動距離をより長く確保することにより、より大きな遠心力を原氷に作用させることができる。
また分散盤上で原氷が弾んだ場合にも、原氷を分離盤の中央に寄せることができ、分散盤による遠心力を原氷に確実に作用させることができる。
【0008】
また請求項3記載の融解分離装置は、前記要件に加え、前記脱水籠の内側には分散棒が配されていることを特徴として成るものである。
この発明によれば、脱水籠の周壁に付着する原氷を、全周に分布させるとともに均等な厚さとすることができる。
【0009】
また請求項4記載の融解分離装置は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記前記脱水籠の内側には、回転可能な分散棒に具えられた分散板が配されていることを特徴として成るものである。
この発明によれば、分散板が常時原氷の表面に接している状態を維持することが可能になり、運転初期段階から脱水籠の回転を安定させることができる。
【0010】
また請求項5記載の融解分離装置は、前記請求項3または4記載の要件に加え、前記分散棒または分散板は、スクレーパ機能、気液吹込ノズル機能を含んだ一または二以上の支援機能を兼用的に発揮するものであることを特徴として成るものである。
この発明によれば、部品点数を減らして装置の製造コストを削減することができ、またスクレーパ機能あるいは気液吹込ノズルからの圧縮エアー、温風、温水の噴射により、短時間で脱水籠から残留氷を除去することができる。
【0011】
また請求項6記載の融解分離装置は、前記要件に加え、前記脱水籠におけるスクリーン内壁にリブを具えたことを特徴として成るものである。
この発明によれば、スクリーンに対して貼り付く原氷は円筒状とはならず、円筒が分割された状態のものとなるため圧縮エアー等により容易にスクリーンから剥離することができる。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脱水籠内における原氷の偏在を防止し、脱水籠に対して同心円状に原氷を形成することにより、原氷には遠心力が均等的に作用し易く、氷の厚さに差異がある場合に生じる融解液の濃度ムラが発生しにくいので、高濃度で均一性の高い融解液が短時間で回収容易となり、安定した運転を継続することが可能となり、脱水籠から残留氷が容易に除去できるので、濃縮液の生産性を高めることができる。また脱水籠の回転系に対するストレスを軽減して装置寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の融解分離装置について、図示の実施例に基づいて説明するものであるが、この実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例】
【0014】
図中、符号1で示すものが本発明の融解分離装置であり、この装置は、果汁、調味料等の被処理液を凍結させて得られた原氷Cを融解させ、融解初期に生成される高濃度の融解液Lを回収することにより被処理液の濃縮処理を行う際に用いられる分離装置である。
【0015】
初めに融解分離装置1の大まかな構成について説明すると、この装置は機枠Fに固定された軸受10にシャフト11が軸支され、このシャフト11の一端にモータMの出力軸が連結されるとともに他端に台座12が固定され、更にこの台座12に対して脱水籠13が設置されることにより遠心分離機構が形成されて成るものである。
また前記脱水籠13を囲繞するように筐体16が配され、この筐体16の上部は天板16aによって塞がれている。
【0016】
次いでこれら融解分離装置1の構成要素について詳しく説明すると、先ず前記脱水籠13は図1、2に示すように、円形状の底板13aの外縁部に周壁13bが立ち上げられ、この周壁13bの内側面に適宜スペーサ13cが配置され、また周壁13bの最上部にフランジ13dが取り付けられるとともに、これらスペーサ13c及びフランジ13dに網目状のスクリーン13eが張設されて成るものである。
また前記底板13aには排出口13fが形成されている。
【0017】
なおこの実施例では前記周壁13bを、上方に行く程、外側に迫り出すような形態とするものであり、このため原氷Cから分離された融解液Lは図3(a)に示すように、遠心力の作用によって周壁13bに沿って上昇し、やがて周壁13b上端部に形成された液抜孔13gから流出することとなる。そして融解液Lは、フランジ13dの全周に沿って円形状に形成されるとともに筐体16内に固定された集液樋16cに導かれて外部に排出されることとなる。
【0018】
また前記脱水籠13内における底板13a上には、回転中心(シャフト11の延長線上)に対して分散盤15が具えられるものであり、この分散盤15は図2(a)に示す平板状のもの、あるいは図2(b)(c)に示すような縦断面視において中心部から外周部にかけて迫り上がる形状のものが用途に応じて選択されるものであり、この点については後程説明を行う。
【0019】
更に図3(a)に示すように、前記脱水籠13の内側には分散棒17が配置されるものであり、前記天板16aに対して略鉛直状態に取り付けられる。
なお詳しくは後程説明するが、前記分散棒17を、スクレーパ機能、気液吹込ノズル機能を含んだ一または二以上の支援機能を兼用的に発揮するものにしてもよい。
そしてスクレーパ機能を持たせる場合には、スクレーパをスクリーン13eに接触させることができるように分散棒17をスクリーン13eに対して接近離反させる機構が設けられる。
また気液吹込ノズル機能を持たせる場合には、分散棒17は管状のものが採用され、その周壁にノズル等が具えられる。
また前記天板16aに対しては、略中心に形成された開口部に投入筒16bが挿通され、更に温風ノズル18、圧縮エアーノズル19等が具えられる。
【0020】
本発明の融解分離装置1は一例として上述したように構成されるものであり、以下この装置の作動態様について説明する。
まず、適宜の冷凍機によって果汁、調味料等の被処理液を凍結させて得られた氷塊を、解砕機を用いて1cm角程に解砕して原氷Cとする。
そしてモータMを起動して300rpm程で脱水籠13(内径φ390mm)を回転させるとともに、温風ノズル18から20℃程の温風を脱水籠13内に供給し、この状態で投入筒16bに1バッチ分の原氷Cを投入する。
【0021】
すると原氷Cは回転中の分散盤15上に供給されるため、遠心力を受けて分散盤15上を外周方向に移動し、やがて分散盤15上から外側に放たれて、脱水籠13の周壁13bに向けて分散させられることとなる。
因みに原氷Cが微細な粉状であったり、スラリー状であった場合には、図2(a)に示すように分散盤15を平板状のものとすることができるが、原氷Cが粒状、フレーク状、ブロック状である場合には、分散盤15で弾んだ原氷Cが遠心力を受けることなく分散盤15上から落ちてしまうことがある。
このため粒状、フレーク状、ブロック状の原氷Cを扱う場合には、図2(b)に示すように縦断面視において中心部から外周部にかけて迫り上がる形状を有する分散盤15が採用される。この場合には図2(c)に示すように、分散盤15の表面で弾んだ原氷Cは斜面を降りて中央に寄せられた後、ここから外周に向けて移動することとなるため、分散盤15によって確実に遠心力が作用されることとなる。
またこの形状の分散盤15の場合、平板状のものと比べて原氷Cとの接触時間を長く(分散盤15上での原氷Cの移動距離を長く)確保することができるため、原氷Cに対してより大きな遠心力を作用させることが可能となる。
【0022】
そして原氷Cは遠心力の作用によりスクリーン13eに貼り付いた状態となるものであり、このとき分散棒17によって厚さが規制されるため、図3(a)に示すようにスクリーン13eの全周に亘って均等の厚さで分布することとなる。このため脱水籠13の回転を安定させることができる。
因みに分散棒17が無い場合には図3(b)に示すように、原氷Cはスクリーン13eの周方向に偏在し、更に厚さが不均一となり、振動が発生して運転不能となることもある。
【0023】
次いで脱水籠13の回転数を1000〜1800rpm(229〜724G)程に上げて脱水操作に移行するものであり、図3(a)に示すようにスクリーン13eに対して貼り付いた状態となっている原氷Cの一部は温風によって融解し、融解液Lとなって周壁13bを上昇し、やがて周壁13b上端部に形成された液抜孔13gから集液樋16cに至り、外部に排出されることとなる。
このような過程において、融解温度の低い初期の融解液Lを回収することにより濃縮液を得ることができるものである。なお、より遠心力を加えられる脱水籠(φ350mm、3000rpm、1762G)を用いた場合、より効率良く短時間で高濃度な濃縮液を得ることができた。
【0024】
そして所望の濃度の融解液Lが得られなくなった時点で原氷C(残留氷)を除去するものであり、温風ノズル18及び圧縮エアーノズル19から供給される温風及び圧縮エアーによってスクリーン13eに貼り付いた原氷C(残留氷)を融解して吹き飛ばし、排出口13fから外部に排出する。
なお、融解液Lの濃度を濃度計あるいは質量分析計などで測定し、融解液Lの濃度が所定の濃度より低下した時点で自動的に原氷C(残留氷)を除去する動作に移行するように自動運転を行わせることもできる。更には、原氷Cの投入、融解液Lの回収、原氷C(残留氷)の除去などの動作を、タイマーを用いて一定時間が経過したら次の動作に移行するように自動化することもできる。
また前記脱水籠13におけるスクリーン13eの内面に対し、断熱性素材等を用いてリブ13hを適宜の高さで形成するようにしてもよく、一例として図4(a)、(b)に示すように平面視でスクリーン13eを四分割するような個所に、高さ方向に伸びるようにリブ13hを設けた場合には、スクリーン13eに対して貼り付く原氷Cは円筒状とはならず、図4(c)に示すように円筒が四分割された状態のものとなる。このため圧縮エアー等により容易にスクリーン13eから剥離することができるものである。
【0025】
〔他の実施例〕
本発明は上述した実施例を基本となる実施例とするものであるが、本発明の技術的思想に基づいて以下に示すような実施例を採ることもできる。
まず図5(a)に示すように、分散棒17を回転自在とするとともに、分散棒17に分散板17aを具えることにより、分散板17aがスクリーン13eの内周面に対して接近離反が可能であるような構成を採ることもできるものである。この場合、スクリーン13eに付着している原氷Cの厚さに応じて分散棒17を回転させ、分散板17aが常時原氷Cの表面に接している状態を維持することが可能になる。このため原氷Cは図5(b)に示すように運転初期段階においてスクリーン13eに付着し始めた直後から分散板17aによって厚さが規制されるため、スクリーン13eの全周に亘って均等の厚さで分布することとなり、運転初期段階から脱水籠13の回転を安定させることができる。図5(c)は、分散棒17を回転させることにより、原氷Cがスクリーン13eに厚く付着した状態を示すものである。
なお原氷C(残留氷)を除去する際には、分散棒17を回転させて分散板17aを原氷C(残留氷)に押し付けることによりスクレーパとして機能させることができる。また分散板17aに圧縮エアーノズル19を具えることにより、より効果的に原氷C(残留氷)を融解して吹き飛ばすことができる。
【0026】
また図6に示すように、シャフト11を脱水籠13の底板13aの上部面に対して接続し、脱水籠13を吊り持ち状態とすることも可能である。この場合、分散盤15の中心の上方に投入筒16bを配置することができないため、位置をずらして設置された投入筒16bの排出部を分散盤15の中心に指向させるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の融解分離装置を一部破断して示す斜視図である。
【図2】脱水籠を示す縦断側面図及び分散盤を示す斜視図である。
【図3】分散棒を設けた場合と設けていない場合のスクリーンへの原氷の貼り付き状態を示す平面図及び縦断側面図である。
【図4】スクリーンにリブを具えた実施例を示す平面図及び縦断側面図並びにこのスクリーンに付着した原氷を示す斜視図斜視図である。
【図5】分散棒の他の実施例を示す斜視図、平面図及び縦断側面図である。
【図6】融解分離装置の他の実施例を示す骨格図である。
【図7】特許文献に開示された融解分離装置を示す骨格図である。
【符号の説明】
【0028】
1 融解分離装置
10 軸受
11 シャフト
12 台座
13 脱水籠
13a 底板
13b 周壁
13c スペーサ
13d フランジ
13e スクリーン
13f 排出口
13g 液抜孔
13h リブ
15 分散盤
16 筐体
16a 天板
16b 投入筒
16c 集液樋
17 分散棒
17a 分散板
18 温風ノズル
19 圧縮エアーノズル
C 原氷
F 機枠
L 融解液
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液を凍結させて得られた原氷を融解させ、融解初期に生成される高濃度の融解液を回収することにより被処理液の濃縮処理を行う際に用いられる分離装置において、この装置は、前記原氷から融解液を遠心脱水するための脱水籠を、回転軸が鉛直になるように具えて成るものであり、この脱水籠内には分散盤が具えられ、この分散盤上に供給された原氷を脱水籠の周壁に向けて分散させるように構成されていることを特徴とする融解分離装置。
【請求項2】
前記分散盤は、縦断面視において中心部から外周部にかけて迫り上がる形状を有するものであることを特徴とする請求項1記載の融解分離装置。
【請求項3】
前記脱水籠の内側には分散棒が配されていることを特徴とする請求項1または2記載の融解分離装置。
【請求項4】
前記脱水籠の内側には、回転可能な分散棒に具えられた分散板が配されていることを特徴とする請求項1または2記載の融解分離装置。
【請求項5】
前記分散棒または分散板は、スクレーパ機能、気液吹込ノズル機能を含んだ一または二以上の支援機能を兼用的に発揮するものであることを特徴とする請求項3または4記載の融解分離装置。
【請求項6】
前記脱水籠におけるスクリーン内壁にリブを具えたことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の融解分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−22954(P2010−22954A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188331(P2008−188331)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000149310)株式会社大川原製作所 (64)
【出願人】(390018474)新日本空調株式会社 (88)
【Fターム(参考)】