説明

血中酸素飽和度測定装置

【課題】動脈の脈波成分を用いて算出される血中酸素飽和度だけでは判別が難しい睡眠時の中枢性無呼吸状態を検知することができる。
【解決手段】少なくとも2つの異なる波長の光を被測定者の生体組織500に照射する発光部10と、前記発光部10から照射されて前記生体組織500を透過又は反射したそれぞれの波長の光を受光し、それぞれの光の受光強度に応じた電気信号に変換する受光部20と、呼吸に基づく前記生体組織500における静脈の血液容積の変動に応じた前記受光強度の変化に対応する成分をそれぞれの前記電気信号から抽出する抽出部30と、それぞれの前記電気信号から抽出される前記周波数成分の振幅に基づいて減光度比を算出する減光度比算出部40と、前記減光度比に基づいて前記静脈における血中酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出部とを備えることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定者の静脈血の酸素飽和度を測定する血中酸素飽和度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群の症状を検知するために様々な装置あるいは方法が提案されているが、中でも、被測定者の動脈血中の酸素飽和度を求めることにより当該被測定者の呼吸運動、すなわち胸腔内圧の変動を推定する酸素飽和度測定装置が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
酸素飽和度測定装置は、酸素化ヘモグロビン等の対象物質に対する吸光性が異なる複数の波長の光を生体組織に透過又は反射させ、その透過光又は反射光の光量を連続的に測定することにより得られる脈波データ信号から動脈血中の酸素飽和度(SpO2)を求めるようにしたパルスオキシメータが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−216114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の酸素飽和度測定装置は、動脈血中の酸素飽和度を測定することにより被測定者の呼吸状態をモニタするものであるので、当該被測定者が閉塞性の無呼吸状態となってから、動脈血中の酸素飽和度が有意に低下するまでの時間的なずれが生じる。また、被測定者が睡眠中に中枢性の無呼吸状態となった場合、動脈血中の酸素飽和度の低下は非常に緩やかであるので、当該酸素飽和度の測定値だけでは、正常に呼吸運動が行われている状態なのか、中枢性の無呼吸状態なのかを判別しにくいという課題があった。
【0006】
また、サーミスタやカニューレセンサを備えた呼吸検出器を鼻と上唇の間に装着して鼻気流による温度や圧力の変化を計測するとともに、胸と腹にバンド状の歪ゲージを巻き付けて胸と腹の動きの位相差や運動の大きさを計測することにより、中枢性の無呼吸状態を検知する方法が提案されている。しかしながら、この方法では装着する電極等が多くなることから、例えば、新生児の呼吸管理においては、体動等の誤差要因により安定した呼吸管理が難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によれば、少なくとも2つの異なる波長の光を被測定者の生体組織に照射する発光部と、前記発光部から照射されて前記生体組織を透過又は反射したそれぞれの波長の光を受光し、それぞれの光の受光強度に応じた電気信号に変換する受光部と、呼吸に基づく前記生体組織における静脈の血液容積の変動に応じた前記受光強度の変化に対応する成分をそれぞれの前記電気信号から抽出する抽出部と、それぞれの前記電気信号から抽出される前記周波数成分の振幅に基づいて減光度比を算出する減光度比算出部と、前記減光度比に基づいて前記静脈における血中酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出部と、を備えることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置を提供する。
【0008】
また、上記血中酸素飽和度測定装置は、前記静脈における血中酸素飽和度が、所定時間以上の間、減少傾向を示していることを条件として、前記被測定者が閉塞性無呼吸状態であることを判定する判定部と、を更に備えることが好ましい。ここで、前記判定部は、更に、それぞれの波長の光について前記抽出部で抽出された成分の振幅が、所定時間以上の間、所定の値より小さくなっていることを条件として、前記被測定者が中枢性無呼吸状態であることを判定することがより好ましい。
【0009】
また、上記血中酸素飽和度測定装置において、前記抽出部は、前記生体組織における動脈の脈動に応じた前記受光強度の変化に対応する成分をそれぞれの前記電気信号から抽出し、前記減光度比算出部は、それぞれの前記電気信号から抽出される前記脈動成分の振幅に基づいて減光度比を算出し、前記酸素飽和度算出部は、前記減光度比に基づいて前記動脈における血中酸素飽和度を算出し、前記判定部は、前記周波数成分の振幅が所定時間以上の間、所定の値より小さくなっており、かつ、前記動脈における血中酸素飽和度が減少傾向を示していないことを条件として、前記被測定者が中枢性無呼吸状態になっていると判定することが好ましい。
【0010】
また、上記血中酸素飽和度測定装置は、前記被測定者の体動の変位を検出する体動検出部を更に備え、前記酸素飽和度算出部は、前記体動検出部が検出した前記体動の変位の程度に基づいて、算出した前記血中酸素飽和度を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の血中酸素飽和度測定装置によれば、被測定者が閉塞性無呼吸状態となったことをより早いタイミングで検知することができる。また、静脈の血液容積の変動成分を抽出してその振幅をモニタするので、動脈の脈波成分を用いて算出される血中酸素飽和度だけでは判別が難しい睡眠時の中枢性無呼吸状態を検知することができる。また、被測定者の指先や耳朶等に発光部および受光部を配置するだけで測定が可能であるので、被測定者の負担が少なく、また、体動等の影響を受けにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置100の機能ブロック図である。
【図2】フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれに入力される信号波形の一例を示すグラフである。
【図3】静脈の血中酸素飽和度の経時変化の一例を示す。
【図4】図3に示した静脈の血中酸素飽和度の算出に用いたRおよびIRに対応する電気信号の波形を示す。
【図5】本発明の実施形態の他の例に係る血中酸素飽和度測定装置200の機能ブロック図である。
【図6】図3に示した静脈の血中酸素飽和度の経時変化に対応する時間帯での動脈の血中酸素飽和度の経時変化を示す。
【図7】本発明の実施形態の更に他の例に係る血中酸素飽和度測定装置300の機能ブロック図である。
【図8】フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれに入力される信号波形、および、当該信号波形に基づいて酸素飽和度算出部50において算出される静脈の血中酸素飽和度の波形の一例を上段に示し、被測定者の体動に基づく電気信号の大きさの変動の一例を下段に示す。
【図9】フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれに入力される信号波形、および、当該信号波形に基づいて酸素飽和度算出部50において算出される静脈の血中酸素飽和度の波形の一例を上段に示し、被測定者の体動に基づく電気信号の大きさの変動の一例を下段に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る血中酸素飽和度測定装置100の機能ブロック図である。図1に示すように、血中酸素飽和度測定装置100は、被測定者の静脈血中の酸素飽和度を測定する装置であり、発光部10と、受光部20と、抽出部30と、減光度比算出部40と、酸素飽和度算出部50と、判定部60と、表示部70とを備える。
【0015】
発光部10は、発光素子11、発光素子12、および駆動回路13を有する。発光素子11および発光素子12は、2つの異なる波長の光を交互に発光するように駆動回路13によって駆動される。本例において、発光素子11は、波長がおよそ940nmの赤外光(IR)を発光する発光ダイオードであり、また、発光素子12は、波長がおよそ660nmの赤色光(R)を発光する発光ダイオードである。
【0016】
なお、発光素子11および発光素子12が発光する光の波長は上記の波長に限られない。発光素子11が発光する光の波長は、例えば、血中の酸素化ヘモグロビンと無酸素化ヘモグロビンとの吸光係数差が所定値よりも大きい領域、具体的には800nmよりも短波長側の帯域内の値であって可及的に高い値に設定されることが好ましい。また、発光素子12が発光する光の波長は、例えば、血中の酸素化ヘモグロビンと無酸素化ヘモグロビンとの吸光係数差が所定値よりも小さい領域、具体的には800nmよりも長波長側の領域内の値であって可及的に低い値に設定されることが好ましい。
【0017】
受光部20は、受光素子21および増幅器22を有する。受光素子21は、発光部10から被測定者の生体組織500に向けて上記の異なる2波長の光が交互に照射されると、当該生体組織500を透過又は反射したそれぞれの波長の光を受光し、それぞれの光の受光強度に応じた電気信号に変換する。増幅器22は、受光素子21からの電気信号を所定に増幅する。本例において、受光素子21は、フォトダイオードである。また、生体組織500は、例えば被測定者の指先や耳朶でよい。
【0018】
抽出部30は、マルチプレクサ31、フィルタ32、フィルタ33、およびA/D変換器34を有する。マルチプレクサ31は、増幅器22において増幅された上記電気信号をそれぞれの光波長(R又はIR)に対応した電気信号毎に分離する。フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれには、マルチプレクサ31において分離された電気信号の一方が入力される。
【0019】
図2は、フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれに入力される信号波形の一例を示すグラフである。図2に示すように、フィルタ32およびフィルタ33には、呼吸周期に応じて変動する成分を含むRおよびIRのそれぞれに対応した電気信号が入力される。
【0020】
フィルタ32およびフィルタ33は、入力される電気信号における特定の周波数成分を抽出し、当該周波数成分以外の成分をフィルタリングする。A/D変換器34は、フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれにおいてフィルタリングされた電気信号をデジタル化する。なお、フィルタ32およびフィルタ33において抽出される上記周波数成分は、入力される電気信号の変動成分のうち、生体組織500における静脈の血液容積の変動周期に対応する成分である。
【0021】
ここで、静脈における血液容積の変動は、被測定者の呼吸に応じて胸腔内圧が変動することにより心臓が圧迫されて静脈血の心臓への還流量が周期的に変動することにより生じる。したがって、フィルタ32およびフィルタ33において抽出される周波数成分は、発光部10から生体組織500に向けて照射された上記2波長の光のうち、被測定者の呼吸周期に応じて受光部20における受光強度が周期的に変動する成分と略一致する。
【0022】
また、被測定者の呼吸周期が未知の場合は、フィルタ32およびフィルタ33の各フィルタの前段に入力される電気信号を高速フーリエ変換することができる周波数解析部を設けることによりRおよびIRのそれぞれに対応した電気信号の周波数解析を行い、被測定者の呼吸周期に対応する周波数成分を特定してもよい。また、この場合、フィルタ32およびフィルタ33は、それぞれの前段の周波数解析部により測定された呼吸周期の変動に追従して抽出する周波数成分を変更可能な可変バンドパスフィルタであることが好ましい。
【0023】
減光度比算出部40は、上記2波長のそれぞれの光に対応する電気信号について抽出部30で抽出された上記周波数成分の振幅に基づいて減光度比を算出する。具体的には、減光度比算出部40では、まず、RおよびIRに対応する電気信号がそれぞれAC成分とDC成分とに分離され、それぞれについてAC/DCが算出される。そして、Rについて算出されたAC/DCをIRについて算出されたACIR/DCIRで除してそれらの比(減光度比)R(R/IR)〔(AC/DC)/(ACIR/DCIR)〕を算出する。
【0024】
酸素飽和度算出部50は、減光度比算出部40で算出された上記減光度比R(R/IR)に基づいて、生体組織500中における静脈の血中酸素飽和度を算出する。ここで、血中酸素飽和度の算出方法については、公知の種々の方法の何れを用いてもよい。
【0025】
判定部60は、酸素飽和度算出部50で算出された血中酸素飽和度をモニタリングし、当該血中酸素飽和度の現在の値およびその経時的な変化等を表示部70に表示する。そして、判定部60は、例えば、血中酸素飽和度の減少傾向が所定時間以上続いた場合、被測定者が閉塞性無呼吸状態になっていると判定し、当該判定結果を表示部70に表示する。
【0026】
図3は、静脈の血中酸素飽和度の経時変化の一例を示す。本例において、被測定者は、例えば、図3のグラフ上部に「A」を付して示した時間帯において閉塞性無呼吸状態になっていると疑われる。そして、判定部60は、当該時間帯において血中酸素飽和度が減少傾向を示すと、上記所定時間の設定に応じて被測定者が閉塞性無呼吸状態になっていると判定する。
【0027】
判定部60は、更に、RおよびIRのそれぞれに対応する電気信号から抽出部30で抽出された上記周波数成分の振幅をモニタリングする。ここで、判定部60は、上記振幅の経時的な変動を表示部70に表示してもよい。そして、判定部60は、例えば、上記振幅が所定時間以上の間、所定の値より小さくなっていた場合、被測定者が低換気性呼吸不全等の中枢性無呼吸状態になっていると判定し、当該判定結果を表示部70に表示する。
【0028】
図4は、図3に示した静脈の血中酸素飽和度の算出に用いたRおよびIRに対応する電気信号の波形を示す。本例において、被測定者は、例えば、図4のグラフ上部に「B」を付して示した時間帯において中枢性無呼吸状態になっていると疑われる。そして、判定部60は、上記時間帯において上記振幅が上記の条件を満たすことにより被測定者が閉塞性無呼吸状態になっていると判定する。
【0029】
なお、判定部60は、上記の各判定結果を外部の記憶装置あるいは通信回線(いずれも不図示)に出力してもよく、また、アラーム等により被測定者等に通知してもよい。また、上記所定時間等の設定は、被測定者に対して想定される症状等に応じて設定されてよい。
【0030】
以上のように、本実施形態の血中酸素飽和度測定装置100は、受光部20で受光される上記2波長の光に対応する電気信号から静脈の血液容積の変動成分を抽出して血中酸素飽和度を算出する。また、算出される血中酸素飽和度は、動脈の脈波成分を用いて算出される血中酸素飽和度と比べて、被測定者が閉塞性無呼吸状態となったときに血中酸素飽和度の低下傾向がより早期に現れる。したがって、本実施形態の血中酸素飽和度測定装置100によれば、被測定者が閉塞性無呼吸状態となったことをより早いタイミングで検知することができる。
【0031】
また、本実施形態の血中酸素飽和度測定装置100は、静脈の血液容積の変動成分を抽出してその振幅をモニタするので、動脈の脈波成分を用いて算出される血中酸素飽和度だけでは判別が難しい睡眠時の中枢性無呼吸状態を検知することができる。また、血中酸素飽和度測定装置100は、被測定者の指先や耳朶等に発光部10および受光部20を配置するだけで測定が可能であるので、被測定者の負担が少なく、また、体動等の影響を受けにくい。
【0032】
図5は、本発明の実施形態の他の例に係る血中酸素飽和度測定装置200の機能ブロック図である。本例において、図1を参照して示した血中酸素飽和度測定装置100と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0033】
図5に示すように、血中酸素飽和度測定装置200は、血中酸素飽和度測定装置100における抽出部30に替えて抽出部230を備える。抽出部230は、抽出部30が有する構成に加えて、フィルタ35、フィルタ36、およびA/D変換器37を更に有する。
【0034】
フィルタ35およびフィルタ36のそれぞれには、マルチプレクサ31において分離された電気信号の一方が入力される。本例において、フィルタ35には、フィルタ32に入力される電気信号と同じ電気信号が入力され、フィルタ36には、フィルタ33に入力される電気信号と同じ電気信号が入力される。
【0035】
フィルタ35およびフィルタ36は、入力される電気信号における特定の周波数成分を抽出し、当該周波数成分以外の成分をフィルタリングする。A/D変換器37は、フィルタ35およびフィルタ36のそれぞれにおいてフィルタリングされた電気信号をデジタル化する。なお、フィルタ35およびフィルタ36において抽出される上記周波数成分は、入力される電気信号の変動成分のうち、生体組織500における動脈の脈動周期に対応する成分である。
【0036】
減光度比算出部40は、フィルタ32およびフィルタ33において抽出されてA/D変換器34でデジタル化された電気信号に基づいて減光度比R(R/IR)を算出するとともに、更に、フィルタ35およびフィルタ36において抽出されてA/D変換器37でデジタル化された電気信号に基づいて減光度比R(R/IR)’を算出する。
【0037】
酸素飽和度算出部50は、上記減光度比R(R/IR)に基づいて静脈の血中酸素飽和度を算出するとともに、更に、上記減光度比R(R/IR)’に基づいて動脈の血中酸素飽和度を算出する。ここで、動脈の血中酸素飽和度の算出方法については、公知の種々の方法の何れを用いてもよい。
【0038】
判定部60は、酸素飽和度算出部50で算出された静脈の血中酸素飽和度および動脈の血中酸素飽和度をモニタリングし、それぞれの血中酸素飽和度の現在の値およびその経時的な変化等を表示部70に表示する。そして、判定部60は、血中酸素飽和度測定装置100の判定部60同様に閉塞性無呼吸状態の判定を行うとともに、被測定者の呼吸周期に対応する周波数成分の振幅が所定時間以上の間、所定の値より小さくなっており、かつ、動脈の血中酸素飽和度が減少傾向を示していないことを条件として、被測定者が中枢性無呼吸状態になっていると判定する。
【0039】
図6は、図3に示した静脈の血中酸素飽和度の経時変化に対応する時間帯での動脈の血中酸素飽和度の経時変化を示す。図6に示すように、動脈の血中酸素飽和度は、被測定者が睡眠時に中枢性無呼吸状態になっていると疑われる時間帯(図6のグラフ上部に「B」を付して示した時間帯)においては、中枢性無呼吸状態となる直前の呼吸により上昇した後は経時変動が極めて小さくなる。
【0040】
したがって、血中酸素飽和度測定装置200は、被測定者の呼吸周期に対応する周波数成分の振幅に対するモニタリングに加えて、動脈の血中酸素飽和度をモニタリングすることにより、被測定者が中枢性無呼吸状態になっていることをより正確に判定することができる。
【0041】
図7は、本発明の実施形態の更に他の例に係る血中酸素飽和度測定装置300の機能ブロック図である。本例において、図1を参照して示した血中酸素飽和度測定装置100、または図5を参照して示した血中酸素飽和度測定装置200と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0042】
図7に示すように、血中酸素飽和度測定装置300は、血中酸素飽和度測定装置200の構成に加えて、更に体動検出部80を備える。体動検出部80は、体動検出器81、フィルタ82、およびA/D変換器83を有する。
【0043】
体動検出器81は、被測定者の体位の変化(体動)を検出する。具体的には、体動検出器81は、例えば被測定者の体の表面に固定される加速度センサおよびジャイロセンサを含み、被測定者の現在の体位に応じた大きさの電気信号を連続的にまたは断続的にフィルタ82へと出力する。また、被測定者が体位を変化させた場合、体動検出器81は、当該体位の変化に応じて、変化前の体位から変化後の体位へと大きさを漸次変化させた電気信号を出力する。
【0044】
フィルタ82は、体動検出器81からの電気信号における被測定者の体動の変位に基づく変動成分を抽出してA/D変換器83へと出力し、当該変動成分以外の成分をフィルタリングする。A/D変換器83は、フィルタ82から入力される電気信号をデジタル化して酸素飽和度算出部50へと出力する。これにより、酸素飽和度算出部50は、被測定者の体動の変位を反映した大きさの電気信号が体動検出部80から入力される。本例において、体動検出部80が出力する電気信号は、例えば、被測定者が一定の体位で静止している状態では一定の大きさであり、被測定者が体位を変化させた場合に単位時間あたりの体動の変位量に略比例してその大きさが変動する信号である。
【0045】
酸素飽和度算出部50は、上記減光度比R(R/IR)に基づいて算出した静脈の血中酸素飽和度を、体動検出部80からの上記電気信号に基づいて補正する。具体的には、酸素飽和度算出部50は、例えば、体動検出部80からの上記電気信号の大きさが時間的に変動している期間内において、算出した静脈の血中酸素飽和度に生じた時間的な変動成分を除去する。
【0046】
図8および図9は、フィルタ32およびフィルタ33のそれぞれに入力される信号波形、および、当該信号波形に基づいて酸素飽和度算出部50において算出される静脈の血中酸素飽和度の波形の一例を上段に示し、被測定者の体動に基づく電気信号の大きさの変動の一例を下段に示す。なお、図8の上段に示す静脈の血中酸素飽和度の波形は、酸素飽和度算出部50において体動検出部80からの電気信号による上記補正を行っていない場合の波形であり、図9の上段に示す静脈の血中酸素飽和度の波形は、酸素飽和度算出部50による当該補正を行った場合の波形である。
【0047】
図8に示すように、被測定者が横臥位または側臥位の各体位で静止している場合は、被測定者の体動に基づく電気信号は、一定の値を示す。一方、被測定者が横臥位から側臥位へと体位を変化させると、上記電気信号の大きさは当該体位の変化に応じて変動する。そして、酸素飽和度算出部50は、かかる変動が生じている期間内(図8および図9の下段に「X」を付して示した時間帯)において、静脈の血中酸素飽和度に生じた時間的な変動成分を除去することにより、当該静脈の血中酸素飽和度の経時的な変化のうち、被測定者の体動の影響による変化を補正する(図9)。なお、図8および図9には示さないが、酸素飽和度算出部50は、動脈の血中酸素飽和度を算出する場合には、上記静脈の血中酸素飽和度と同様に、当該動脈の血中酸素飽和度を補正してもよい。
【0048】
このように、本実施形態の血中酸素飽和度測定装置300は、酸素飽和度算出部50により算出される静脈の血中酸素飽和度の経時的な変化における被測定者の体動の影響を補正することができるので、当該静脈の血中酸素飽和度の経時的な変化を、被測定者の呼吸に基づく変化により近づけることができる。
【0049】
以上において説明した血中酸素飽和度測定装置100、200、300は、肺高血圧症およびそれに伴う右心不全にも繋がる閉塞性無呼吸状態をより早いタイミングで検知することができる。また、閉塞性無呼吸状態だけでなく中枢性無呼吸状態をも検知することができるので、被測定者の呼吸不全の症状をより正確に把握することができる。
【0050】
また、心電図などのインピーダンス検出による呼吸検出方式のように、胸郭の変動によるダイナミックなインピーダンスの変化から呼吸を検出するのではなく、定量化された血中酸素飽和度から呼吸を測定するので、より安定した呼吸管理を行うことができる。また、インピーダンス検出による呼吸検出方式と比べて、複数の電極を装着する必要がないことから被測定者への負担も少ない。
【0051】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0052】
10 発光部
11、12 発光素子
13 駆動回路
20 受光部
21 受光素子
22 増幅器
30、230 抽出部
31 マルチプレクサ
32、33、35、36 フィルタ
34、37 A/D変換器
40 減光度比算出部
50 酸素飽和度算出部
60 判定部
70 表示部
80 体動検出部
81 体動検出器
82 フィルタ
83 A/D変換器
100、200、300 血中酸素飽和度測定装置
500 生体組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なる波長の光を被測定者の生体組織に照射する発光部と、
前記発光部から照射されて前記生体組織を透過又は反射したそれぞれの波長の光を受光し、それぞれの光の受光強度に応じた電気信号に変換する受光部と、
呼吸に基づく前記生体組織における静脈の血液容積の変動に応じた前記受光強度の変化に対応する周波数成分をそれぞれの前記電気信号から抽出する抽出部と、
それぞれの前記電気信号から抽出される前記周波数成分の振幅に基づいて減光度比を算出する減光度比算出部と、
前記減光度比に基づいて前記静脈における血中酸素飽和度を算出する酸素飽和度算出部と、
を備えることを特徴とする血中酸素飽和度測定装置。
【請求項2】
前記静脈における血中酸素飽和度が、所定時間以上の間、減少傾向を示していることを条件として、前記被測定者が閉塞性無呼吸状態であることを判定する判定部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の血中酸素飽和度測定装置。
【請求項3】
前記判定部は、それぞれの波長の光について前記抽出部で抽出された周波数成分の振幅が、所定時間以上の間、所定の値より小さくなっていることを条件として、前記被測定者が中枢性無呼吸状態であることを判定することを特徴とする請求項2に記載の血中酸素飽和度測定装置。
【請求項4】
前記抽出部は、前記生体組織における動脈の脈動に応じた前記受光強度の変化に対応する脈動成分をそれぞれの前記電気信号から抽出し、
前記減光度比算出部は、それぞれの前記電気信号から抽出される前記脈動成分の振幅に基づいて減光度比を算出し、
前記酸素飽和度算出部は、前記減光度比に基づいて前記動脈における血中酸素飽和度を算出し、
前記判定部は、前記周波数成分の振幅が所定時間以上の間、所定の値より小さくなっており、かつ、前記動脈における血中酸素飽和度が減少傾向を示していないことを条件として、前記被測定者が中枢性無呼吸状態になっていると判定することを特徴とする請求項1または2に記載の血中酸素飽和度測定装置。
【請求項5】
前記被測定者の体動の変位を検出する体動検出部を更に備え、
前記酸素飽和度算出部は、前記体動検出部が検出した前記体動の変位の程度に基づいて、算出した前記血中酸素飽和度を補正することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の血中酸素飽和度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−193949(P2010−193949A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39253(P2009−39253)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】